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特許7053498トリプトファンまたはチロシンで安定化された液体神経毒素製剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】トリプトファンまたはチロシンで安定化された液体神経毒素製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/16 20060101AFI20220405BHJP
   A61K 8/64 20060101ALI20220405BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20220405BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20220405BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20220405BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20220405BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20220405BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220405BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20220405BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220405BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20220405BHJP
   A61P 5/00 20060101ALI20220405BHJP
   A61P 13/00 20060101ALI20220405BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20220405BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20220405BHJP
   C07K 14/33 20060101ALN20220405BHJP
【FI】
A61K38/16
A61K8/64
A61K9/08
A61K47/18
A61K47/34
A61K47/02
A61P21/00
A61P25/00
A61P27/02
A61P29/00
A61P19/02
A61P5/00
A61P13/00
A61P17/00
A61Q19/00
C07K14/33 ZNA
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2018562171
(86)(22)【出願日】2017-05-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-06-24
(86)【国際出願番号】 EP2017062785
(87)【国際公開番号】W WO2017203038
(87)【国際公開日】2017-11-30
【審査請求日】2020-04-17
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2016/062085
(32)【優先日】2016-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】517242544
【氏名又は名称】ガルデルマ・ホールディング・エスアー
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イェルスタード, アンデシュ
(72)【発明者】
【氏名】フリス, アンナ
(72)【発明者】
【氏名】スタール, ウルフ
(72)【発明者】
【氏名】グレル, アン
(72)【発明者】
【氏名】オーグレーン, バルブロ
(72)【発明者】
【氏名】エドストレーム, エミリア
(72)【発明者】
【氏名】ピケット, アンドリュー
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/166242(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/013370(WO,A1)
【文献】特表2010-532784(JP,A)
【文献】特表2003-522154(JP,A)
【文献】国際公開第01/064241(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/58
A61K 41/00-45/08
A61K 48/00
A61K 50/00-51/12
A61K 35/00-35/768
A61K 36/06-36/068
A61K 9/00-9/72
A61K 47/00-47/69
C07K 1/00-19/00
A61K 8/00-8/99
A61Q 1/00-90/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボツリヌス神経毒素と、非イオン性界面活性剤と、トリプトファンおよびチロシンから選択されるアミノ酸と、ナトリウムイオン、塩化物イオンおよびリン酸イオンを含む緩衝液とを含む液体組成物であって、
pH5.5~8であり、
動物由来タンパク質を含まず、かつ
2~8℃で2ヶ月間安定である液体組成物。
【請求項2】
上記非イオン性界面活性剤がポリソルベートである、請求項に記載の液体組成物。
【請求項3】
ポリソルベートがポリソルベート20、ポリソルベート60またはポリソルベート80である、請求項に記載の液体組成物。
【請求項4】
上記アミノ酸がトリプトファンである、請求項1~のいずれか一項に記載の液体組成物。
【請求項5】
トリプトファンがL-トリプトファンである、請求項に記載の液体組成物。
【請求項6】
上記緩衝液がカリウムイオンをさらに含む、請求項1~のいずれか一項に記載の液体組成物。
【請求項7】
pHが6.0~7.5である請求項1~のいずれか一項に記載の液体組成物。
【請求項8】
5℃で2、3、6、12、18、24または36ヶ月にわたって起こる細胞外タンパク質分解活性の損失が30%以下である、請求項1~のいずれか一項に記載の液体組成物。
【請求項9】
ボツリヌス神経毒素が、複合体の天然ボツリヌス神経毒素、高純度天然ボツリヌス神経毒素、および組換えボツリヌス神経毒素から選択される、請求項1~のいずれか一項に記載の液体組成物。
【請求項10】
上記ボツリヌス神経毒素が、ボツリヌス神経毒素A、B、C、D、E、FまたはG、修飾ボツリヌス神経毒素、およびキメラボツリヌス神経毒素から選択される組換えボツリヌス神経毒素である、請求項に記載の液体組成物。
【請求項11】
1mLあたり4~10000LD50単位のボツリヌス神経毒素、
0.001~15%v/vのポリソルベート、
0.1~5mg/mLのトリプトファン、
10~500mMのNaCl、
1~50mMのKCl、
1~100mMのリン酸ナトリウム
を含み、
pH5.5~8であり、かつ5℃で12ヶ月間安定である請求項1~10のいずれか一項に記載の液体組成物。
【請求項12】
1mLあたり10~2000LD50単位のボツリヌス神経毒素、
0.05~0.2%v/vのポリソルベート80、
0.1~5mg/mLのトリプトファン、
25~300mMのNaCl、
1~10mMのKCl、
2~50mMのリン酸ナトリウム
を含み、
pH6.0~7.5であり、かつ5℃で18ヶ月間安定である請求項11に記載の液体組成物。
【請求項13】
治療に使用するための請求項1~12のいずれか一項に記載の液体組成物。
【請求項14】
筋障害、神経筋障害、神経障害、眼科障害、疼痛障害、心理的障害、関節障害、炎症性障害、内分泌障害または泌尿器障害を治療または予防するのに使用するための請求項13に記載の液体組成物。
【請求項15】
美容医療用の、請求項1~12のいずれか一項に記載の液体組成物。
【請求項16】
皮膚のしわを治療または予防するための、請求項15に記載の美容医療用の液体組成物。
【請求項17】
皮膚のしわが、顔のしわを含む、請求項16に記載の美容医療用の液体組成物。
【請求項18】
顔のしわが、しかめ面ライン、目の輪郭のしわ、眉間しわ線、への字口、首のしわ、顎のしわ、額のしわ、「引っかき傷のある皮膚」のしわ、または鼻のリフト治療または睡眠線を含む、請求項17に記載の美容医療用の液体組成物。
【請求項19】
動物由来タンパク質を含まない液体組成物においてボツリヌス神経毒素を分解から保護するための、トリプトファンおよびチロシンから選択されるアミノ酸の使用であって、
前記液体組成物が2~8℃で2ヶ月間安定であり、非イオン性界面活性剤、ならびにナトリウムイオン、塩化物イオンおよびリン酸イオンを含む緩衝液を含み、pH5.5~8である、
使用。
【請求項20】
上記アミノ酸がトリプトファンである、請求項19に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物性タンパク質非含有液体神経毒素製剤に関する。特に、本発明は、非タンパク質性賦形剤で安定化された動物性タンパク質非含有液体ボツリヌス神経毒素製剤に関する。
【0002】
本明細書に記載の神経毒素製剤は、治療において使用するのに好適であり、特に所望の治療効果または美容効果を達成するために患者に投与するのに好適である。
【背景技術】
【0003】
クロストリジウム株によって天然に生産されるクロストリジウム神経毒素は、今日までに知られている最も有毒な生物由来物質であり、同時に、頸部ジストニア、痙縮、眼瞼痙攣、多汗症または流涎症を含む多くの神経筋および内分泌障害を治療するための強力な手段である。また、しわを滑らかにするという美容分野における用途も見出されている。
【0004】
医薬品としての使用に好適であるためには、神経毒素組成物は、神経毒素活性を著しく損失することなく保存できるようなものでなければならない。
【0005】
現在承認されているボツリヌス神経毒素製剤ではいずれも、動物性(ヒトを含む)タンパク質、通常はヒト血清アルブミン(HSA)が安定剤として使用されている。
【0006】
しかしながら、医薬組成物中にHSAなどの動物性タンパク質が存在する場合、プリオンなどの動物由来感染病原体を患者に不本意に感染させてしまう危険性がたとえ低いとしてもあるので、望ましくない。
【0007】
動物性タンパク質非含有ボツリヌス毒素製剤は当技術分野において既に開示されている。例えば、特許文献1には、ボツリヌス毒素を安定化するために2-ヒドロキシエチルデンプンなどの多糖が使用されている凍結乾燥組成物が記載されている。特許文献2には、ボツリヌス毒素を安定化するために界面活性物質と、GluおよびGlnまたはAspおよびAsnから選択される少なくとも2種のアミノ酸の混合物とが使用されている組成物が記載されている。
【0008】
しかしながら、大部分の先行技術製剤は液体形態では安定ではないため、凍結乾燥またはフリーズドライ形態で保存される。そのような製剤は、患者に投与する前に、医師が滅菌生理食塩水中で再構成する必要がある。この再構成工程は、医師の時間損失、希釈ミスの危険性、さらに再構成工程中の汚染の危険性も伴う。また、ボツリヌス毒素供給者は、確実に再構成工程が充分に行われるように医師を訓練しなければならない。
【0009】
したがって、液体製剤は、医師の時間損失、希釈ミスの危険性、汚染の危険性、および供給者が訓練を施す必要性がなくなるため、有利である。
【0010】
HSA非含有液体製剤は、例えば特許文献3に記載されており、該文献には、界面活性剤、塩化ナトリウムおよび二糖を含む液体ボツリヌス毒素製剤が開示されている。特許文献4には、ポリソルベート20およびメチオニンを含む液体ボツリヌス毒素製剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】国際公開第0158472号
【文献】国際公開第2005007185号
【文献】国際公開第2006005910号
【文献】国際公開第2009008595号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、保存および治療における使用に好適である有利な動物性タンパク質非含有液体ボツリヌス神経毒素製剤を提供することである。特に、安定化製剤は、製品の安定性を維持すること、動物性タンパク質を含まないこと、さらに、複合タンパク質を含まない神経毒素の安定化に好適であることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の態様は、タンパク質性神経毒素と、界面活性剤と、トリプトファンおよびチロシンから選択されるアミノ酸と、ナトリウムイオン、塩化物イオンおよびリン酸イオンを含む緩衝液とを含むか、または本質的にこれらからなる液体組成物であって、pH5.5~8であり、経時的に安定であり、かつ動物由来タンパク質を含まない液体組成物である。
【0014】
別の態様は、治療および/または美容における本発明に係る液体組成物の使用である。
【0015】
本発明のさらなる態様は、動物由来タンパク質を含まない液体組成物においてタンパク質性神経毒素を分解から保護するための、トリプトファンおよびチロシンから選択されるアミノ酸の使用である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の第1の態様は、タンパク質性神経毒素と、界面活性剤と、トリプトファンおよびチロシンから選択されるアミノ酸と、ナトリウムイオン、塩化物イオンおよびリン酸イオンを含む緩衝液とを含むか、または本質的にこれらからなる液体組成物であって、pH5.5~8であり、経時的に安定であり、かつ動物由来タンパク質を含まない液体組成物である。
【0017】
「動物性タンパク質非含有」とは、動物(ヒトを含む)由来のタンパク質を含まないと理解すべきである。
【0018】
神経毒素は、神経細胞を標的とし、神経機能に影響を与える物質である。タンパク質性神経毒素としては、ボツリヌス毒素(BoNT)および破傷風毒素(TeNT)が挙げられる。好ましくは、上記タンパク質性神経毒素はボツリヌス神経毒素である。
【0019】
ボツリヌス神経毒素は、それらの活性型においてジスルフィド架橋により連結された50kDaの軽鎖(L)および100kDaの重鎖(H)からなる150kDaのメタロプロテアーゼである。L鎖は、小胞媒介性神経伝達物質放出に関与するSNARE(可溶性NSF結合タンパク質受容体)タンパク質の1つを細胞内で切断することにより、神経伝達物質媒介機構を破壊する亜鉛プロテアーゼである。重鎖は、2つのドメイン、すなわち、N末端50kDa転移ドメイン(H)およびC末端50kDa受容体結合ドメイン(H)を包含する。ボツリヌス神経毒素のHドメインは、HCCドメインおよびHCNドメインと呼ばれる2つの異なる構造的特徴を含む。受容体結合に関与するアミノ酸残基は、主にHCCドメインに位置すると考えられている。
【0020】
ボツリヌス神経毒素は、7つの抗原的に異なる血清型(A~G)に分類されている。各血清型のアミノ酸配列の例を本明細書中で配列番号1~7として示す。
【0021】
各配列について、各種ドメインは例えば以下の通りである。
【0022】
【表A】
【0023】
当業者であれば、各ボツリヌス神経毒素ドメインに若干変動があり得ることが分かるであろう。
【0024】
BoNTは、例えば、アセチルコリンの放出を妨げ、それにより筋収縮を妨げることで、神経筋神経接合部に作用する。神経末端中毒は可逆的であり、その期間はBoNT血清型によって異なる。
【0025】
天然のBoNTは、タンパク質分解から神経毒素を保護する多タンパク質複合体の一部として、ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)および他のクロストリジウム種(クロストリジウム・ブチリカム(C.butyricum)、クロストリジウム・バラティ(C.baratii)およびクロストリジウム・アルゲンチネンセ(C.argentinense)など)によって産生される。「複合体のボツリヌス神経毒素」とは、ボツリヌス神経毒素、および本質的にそのような多タンパク質複合体の一部である1種以上のタンパク質(神経毒素結合タンパク質または「NAP」)を意味する。NAPとしては、無毒性の非赤血球凝集素(NTNH)タンパク質および赤血球凝集素タンパク質(HA-17、HA-33およびHA-70)が挙げられる。「高純度ボツリヌス神経毒素」とは、本質的にNAPを含まないボツリヌス神経毒素を意味する。
【0026】
本発明の一実施形態によれば、上記ボツリヌス神経毒素は複合体のボツリヌス神経毒素である。別の実施形態によれば、上記ボツリヌス神経毒素は高純度ボツリヌス神経毒素である。
【0027】
天然クロストリジウム株の培養によりBoNTを生成し、複合体または高純度形態として精製する方法は、当技術分野において周知であり、例えばPickett,Andy.,“Botulinum toxin as a clinical product:manufacture and pharmacology.”,Clinical Applications of Botulinum Neurotoxin.,Springer New York,2014年,7~49頁に記載されている。
【0028】
高純度または本質的に純粋なボツリヌス神経毒素は、例えばMicrobiology and Immunology(1995年),195,151~154頁の「Current topics」に記載の方法に従って、ボツリヌス毒素を含むタンパク質複合体から得ることができる。
【0029】
あるいは、高純度ボツリヌス神経毒素は、大腸菌などの異種宿主におけるBoNT遺伝子の組換え発現によって生成し、精製することもできる。
【0030】
好ましくは、上記タンパク質性神経毒素はボツリヌス神経毒素である。本発明の一実施形態によれば、上記ボツリヌス神経毒素は複合体のボツリヌス神経毒素である。別の実施形態によれば、上記ボツリヌス神経毒素は高純度ボツリヌス神経毒素である。
【0031】
本発明の一実施形態によれば、上記ボツリヌス神経毒素は、その天然クロストリジウム株から精製したボツリヌス神経毒素である。別の実施形態によれば、上記ボツリヌス神経毒素は、大腸菌などの異種宿主において組換え的に生産されたボツリヌス神経毒素である。
【0032】
本発明によれば、上記ボツリヌス神経毒素は、血清型A、B、C、D、E、FまたはGのBoNTであってもよい。
【0033】
本発明によれば、ボツリヌス神経毒素は修飾ボツリヌス神経毒素であってもよい。本発明によれば、「修飾BoNT」は、配列番号1、2、3、4、5、6または7と少なくとも50%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するBoNTである。好ましくは、修飾BoNTは、配列番号1、2、3、4、5、6または7と少なくとも60%、70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する。好ましくは、修飾BoNTは、そのアミノ酸配列が、600、400、200、150、100、50または20個未満のアミノ酸置換、欠失または付加、例えば10、9、8、7、6、5、4、3、2または1個のアミノ酸置換、欠失または付加によって、配列番号1、2、3、4、5、6または7と異なるBoNTである。
【0034】
本発明によれば、組換えボツリヌス神経毒素はキメラボツリヌス神経毒素であってもよい。本発明によれば、「キメラBoNT」は、すべてが同じ血清型に属するわけではないL、H、HCN、およびHCCドメインによって構成される。例えば、キメラBoNTは、ある血清型由来のL鎖と、別の血清型由来の完全なH鎖(H、HCN、およびHCCドメイン)とからなっていてもよい。また、キメラBoNTは、ある血清型由来のL鎖およびHドメイン(「LH」)と、別の血清型由来のHドメイン(HCNおよびHCC)とからなっていてもよい。また、キメラBoNTは、ある血清型由来のL鎖ならびにHおよびHCNドメイン(「伸長LH」)と、別の血清型由来のHCCドメインとからなっていてもよい。
【0035】
本発明によれば、軽鎖ドメイン(L)は、以下のアミノ酸配列:
・配列番号1のアミノ酸1~448
・配列番号2のアミノ酸1~440
・配列番号3のアミノ酸1~441
・配列番号4のアミノ酸1~445
・配列番号5のアミノ酸1~422
・配列番号6のアミノ酸1~439
・配列番号7のアミノ酸1~441
のうち1つと少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、70%、80%、90%または95%の配列同一性を有し、小胞媒介性神経伝達物質放出に関与するSNAREタンパク質の1つを切断する能力を保持するアミノ酸配列を有していてもよい。
【0036】
本発明によれば、Hドメインは、以下のアミノ酸配列:
・配列番号1のアミノ酸449~871
・配列番号2のアミノ酸441~858
・配列番号3のアミノ酸442~866
・配列番号4のアミノ酸446~862
・配列番号5のアミノ酸423~845
・配列番号6のアミノ酸440~864
・配列番号7のアミノ酸442~863
のうち1つと少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、70%、80%、90%または95%の配列同一性を有し、転移能力を保持するアミノ酸配列を有していてもよい。
【0037】
本発明によれば、Hドメインは、以下のアミノ酸配列:
・配列番号1のアミノ酸872~1296
・配列番号2のアミノ酸859~1291
・配列番号3のアミノ酸867~1291
・配列番号4のアミノ酸863~1276
・配列番号5のアミノ酸846~1252
・配列番号6のアミノ酸865~1274
・配列番号7のアミノ酸864~1297
のうち1つと少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、70%、80%、90%または95%の配列同一性を有し、神経筋細胞に結合する能力を保持するアミノ酸配列を有していてもよい。
【0038】
本発明によれば、HCCドメインは、以下のアミノ酸配列:
・配列番号1のアミノ酸1111~1296
・配列番号2のアミノ酸1098~1291
・配列番号3のアミノ酸1112~1291
・配列番号4のアミノ酸1099~1276
・配列番号5のアミノ酸1086~1252
・配列番号6のアミノ酸1106~1274
・配列番号7のアミノ酸1106~1297
のうち1つと少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、70%、80%、90%または95%の配列同一性を有し、神経筋細胞に結合する能力を保持するアミノ酸配列を有していてもよい。
【0039】
亜血清型によってわずかな変動が生じ得るので、上記で特定した参照配列は目安として考慮されるべきである。
【0040】
2つ以上の核酸またはアミノ酸配列間の「配列同一性%」は、アライメントした配列によって共有される同一の位置の同一のヌクレオチド/アミノ酸の数の関数である。したがって、同一性%は、アライメントにおける各位置の同一のヌクレオチド/アミノ酸の数を、アライメントした配列中のヌクレオチド/アミノ酸の総数で割って、100を乗じたものとして計算できる。また、配列同一性%の計算は、ギャップ数や、2つ以上の配列のアライメントを最適化するために導入する必要がある各ギャップの長さを考慮してもよい。2つ以上の配列間の配列比較および同一性%の決定は、当業者によく知られているであろうBLASTなどの特定の数学的アルゴリズムを用いて実施できる。
【0041】
界面活性剤は、液体と固体の間または2種類の液体間の表面張力を低下させることができる化合物である。界面活性剤には、非イオン性、アニオン性、カチオン性または両性のものがある。本発明に係る組成物において、界面活性剤は非イオン性界面活性剤であることが好ましい。非イオン性界面活性剤としては、オクタエチレングリコールモノドデシルエーテルまたはペンタエチレングリコールモノドデシルエーテルなどのポリオキシエチレングリコールアルキルエーテル;ポリオキシプロピレングリコールアルキルエーテル;デシルグルコシド、ラウリルグルコシドまたはオクチルグルコシドなどのグルコシドアルキルエーテル;TritonX-100などのポリオキシエチレングリコールオクチルフェノールエーテル;ノノキシノール-9などのポリオキシエチレングリコールアルキルフェノールエーテル;グリセリルラウレートなどのグリセロールアルキルエステル;ポリソルベートなどのポリオキシエチレングリコールソルビタンアルキルエステル;スパンなどのソルビタンアルキルエステル;コカミドMEA、コカミドDEA;ドデシルジメチルアミンオキシド;ポロキサマーなどのポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコールのブロックコポリマー;ポリエトキシ化牛脂アミン(POEA)が挙げられる。
【0042】
好ましい実施形態によれば、本発明に係る液体組成物は、ポリソルベート、好ましくはポリソルベート20(PS20)、ポリソルベート60(PS60)またはポリソルベート80(PS80)である非イオン性界面活性剤を含む。最も好ましくは、上記非イオン性界面活性剤はPS80である。界面活性剤がポリソルベートである場合、その濃度は、好ましくは0.001%~15%v/v、より好ましくは0.005~2%v/v、さらに好ましくは0.01~1%v/v、例えば0.01、0.05、0.1、0.2、0.5または1%v/vである。一実施形態によれば、界面活性剤は、濃度が0.05~0.2%v/v、例えば約0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.10、0.11、0.12、0.13、0.14、0.15、0.16、0.17、0.18、0.19または0.20%v/vのPS80である。
【0043】
PS20は、密度が約1.1g/mLである。PS60は、密度が約1.044g/mLである。PS80は、密度が約1.06~1.09g/mLである。
【0044】
ポリソルベートは、ミセルを形成し、タンパク質の表面への吸着およびタンパク質の凝集を防ぐと考えられている。理論に拘束されることを望むものではないが、分解/酸化時に、ポリソルベートは、タンパク質安定性に影響を及ぼし得る過酸化物および酸を形成し得ると思われる。したがって、ポリソルベートの濃度は、製品の組成においてできるだけ低いことが好ましいと考えられる。したがって、ポリソルベートの濃度は、その臨界ミセル濃度(CMC)の200倍を超えないことが好ましいと考えられ、そのCMCの100、50、20、10または5倍を超えないことがより好ましい。
【0045】
PS20(Mw1227.5g/mol)の場合、CMCは21℃で約8×10-5M、すなわち約0.01%w/vである。
【0046】
PS60(Mw1309g/mol)の場合、CMCは21℃で約21×10-6M、すなわち約0.003%w/vである。
【0047】
PS80(Mw1310g/mol)の場合、CMCは21℃で約12×10-6M、すなわち約0.002%w/vである。
【0048】
好ましい実施形態によれば、ポリソルベート濃度は、所与の温度、例えば約21℃でそのCMCの1~200倍、好ましくは2~100倍、例えば約20または50倍である。
【0049】
本発明に係る液体組成物は、トリプトファンまたはチロシンであるアミノ酸を含む。理論に拘束されることを望むものではないが、トリプトファンまたはチロシンは、活性タンパク質が酸化して機能しなくなってしまうことを防ぐことができると仮定される。実際、神経毒素に対してモル過剰に添加されたアミノ酸がまず第一に酸化されることで、神経毒素を保護すると考えられている。また、トリプトファンまたはチロシンは、ポリソルベートなどの界面活性剤の反応性分解生成物を中和できるとも仮定される。
【0050】
好ましくは、上記アミノ酸はトリプトファンである。より好ましくは、上記アミノ酸はL-トリプトファンである。
【0051】
アミノ酸濃度は、好ましくは約0.1~5mg/mL、より好ましくは0.1~5mg/mL、0.25~3mg/mL、例えば約0.25、0.5、1、1.5、2または3mg/mLである。
【0052】
本発明に係る組成物は、ナトリウムイオン、塩化物イオンおよびリン酸イオンを含む緩衝液を含む。本発明者らは、実際、驚くべきことに、ナトリウムイオン、塩化物イオンおよびリン酸イオンを含まない緩衝液が毒素の安定性を低下させることを見出した。上記緩衝液はカリウムイオンも含むことが好ましい。
【0053】
上記緩衝液は、例えば、塩化ナトリウム塩、塩化カリウム塩およびリン酸ナトリウム塩を組み合わせて得ることができる。塩化ナトリウム濃度は、好ましくは10~500mM、好ましくは約25~300mM、例えば約25、50、75、100、140、150、200、250または300mMである。
【0054】
リン酸ナトリウム濃度は、好ましくは1~100mM、好ましくは2~50mM、例えば約2、5、10、20、30、40または50mMである。
【0055】
塩化カリウム濃度は、好ましくは1~50mM、好ましくは1~10mM、例えば約1、2、3、4、5または10mMである。
【0056】
本発明に係る組成物は、pHが5.5~8である。好ましい実施形態によれば、pHは、6.0~7.5、例えば約6.3、6.35、6.4、6.45、6.5、6.55、6.6、6.65、6.7、6.75、6.8、6.85、6.9、6.95、7.0、7.05、7.1、7.15、7.2、7.25、7.3、7.35、7.4、7.45または7.5である。好ましくは、pHは生理的pH(約7.4)から1単位以内である。
【0057】
本発明に係る組成物は液体である。該組成物は、好ましくは水性希釈剤、より好ましくは水、例えば滅菌水、注射用水、精製水、注射用滅菌水を含む。
【0058】
好ましくは、上記製剤は等張性であり、患者、特にヒト患者に注射するのに好適である。
【0059】
ボツリヌス神経毒素の量は、通常、マウスにおける腹腔内投与の半数致死量として定義されるマウスLD50(50%致死量)単位で表される。
【0060】
ボツリヌス毒素のマウスLD50(MLD50)単位は標準化された単位ではない。実際、市販の毒素の各製造業者が用いるアッセイは、特に希釈緩衝液の選択において異なる。例えば、Dysport(登録商標)に用いられた試験では、ゼラチンリン酸緩衝液を使用するのに対して、BOTOX(登録商標)に用いられたアッセイでは、希釈剤として食塩水を使用する。ゼラチン緩衝液は、LD50アッセイで使用される高希釈度の毒素を保護すると考えられる。対照的に、希釈剤として食塩水を使用すると、力価が若干損失すると考えられている。これにより、Dysport(登録商標)アッセイで試験した場合に、BOTOX(登録商標)1単位が約3単位のDysportに相当する理由を説明できるだろう(Straughan,D.W.,2006年,ATLA 34(3),305~313頁;HambletonおよびPickett,Hambleton,P.およびA.M.Pickett.,1994年,Journal of the Royal Society of Medicine 87.11:719頁)。
【0061】
マウスLD50の測定に使用される希釈緩衝液は、ゼラチンリン酸緩衝液であることが好ましい。例えば、マウスLD50は、Hambleton,P.ら,Production,purification and toxoiding of Clostridium botulinum type A toxin.,G.E.Jr LewisおよびP.S.Angel編,Academic Press,Inc.,New York,USA,1981年,248頁に記載されるように測定できる。要約すれば、ボツリヌス毒素サンプルをpH6.5の0.2%(w/v)ゼラチン0.07M Na2HPO4緩衝液で段階希釈する。体重約20gのマウス群(例えば、1群あたり4~8匹のマウス)に希釈毒素のサンプル(例えば、1動物あたり0.5ml)を腹腔内注射する。50%致死量に及ぶように希釈群、例えば5つの希釈群を選択する。マウスを最大96時間観察し、マウス致死量50(MLD50)を見積もる。
【0062】
本発明に係る組成物は、好ましくは1mLあたり4~10000LD50単位、より好ましくは1mLあたり10~2000LD50単位、例えば1mLあたり20、30、40、50、75、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000または1500LD50単位のボツリヌス神経毒素を含む。
【0063】
ボツリヌス神経毒素の量は、ngで表すこともできる。本発明に係る組成物は、好ましくは1mLあたり約0.01~75ng、より好ましくは1mLあたり約0.03~20ng、さらに好ましくは1mLあたり約0.1~15ng、例えば1mLあたり約0.15、0.3、0.5、0.75、1、2、3、4、5、6、7、8、9または10ngのボツリヌス神経毒素を含む。
【0064】
本発明に係る製剤は、動物性タンパク質を含まない。特に、本発明に係る組成物はアルブミン、特にヒト血清アルブミンを含まない。好ましくは、本発明に係る組成物は動物性物質を含まず、これは、動物(ヒトを含む)由来の成分を含まないことを意味する。好ましくは、本発明に係る組成物は、タンパク質性神経毒素以外のタンパク質を含まない。別の実施形態によれば、本発明に係る組成物は、タンパク質性神経毒素以外のタンパク質を含まず、1種以上のNAP(神経毒素結合タンパク質)を含む。念のためだが、アミノ酸はタンパク質ではないことに注意されたい。
【0065】
本発明の一実施形態によれば、上記組成物は、糖を含まず、単糖、二糖、および多糖を含まない。
【0066】
本発明に係る液体組成物は経時的に安定である。例えば、2~8℃で2ヶ月間安定である。一実施形態によれば、2~8℃、例えば5℃で3ヶ月間安定である。好ましい実施形態によれば、2~8℃、例えば5℃で6ヶ月間安定である。一実施形態によれば、2~8℃、例えば5℃で12ヶ月間安定である。一実施形態によれば、2~8℃、例えば5℃で18ヶ月間安定である。一実施形態によれば、2~8℃、例えば5℃で24ヶ月間安定である。一実施形態によれば、2~8℃、例えば5℃で36ヶ月間安定である。一実施形態によれば、室温、例えば25℃で3ヶ月間安定である。一実施形態によれば、室温、例えば25℃で6ヶ月間安定である。一実施形態によれば、37℃で2ヶ月間安定である。
【0067】
本発明に係る液体組成物は、0℃~30℃の温度で保存することが好ましい。好ましい実施形態によれば、2~8℃、例えば5℃で保存する。別の実施形態では、室温で保存する。好ましくは、凍結されない。
【0068】
安定性は、ボツリヌス神経毒素の活性を経時的に比較することで評価できる。ボツリヌス神経毒素の活性とは、細胞上のその標的受容体に結合でき、軽鎖を細胞内に転移でき、および/またはその標的SNAREタンパク質を切断できるボツリヌス神経毒素の活性を指すものであってもよい。
【0069】
ボツリヌス神経毒素活性を測定する方法は当技術分野において周知である。ボツリヌス神経毒素活性は、例えば、上述したようなマウス致死アッセイ(LD50)、マウス横隔神経片側横隔膜アッセイなどの筋肉組織を用いたアッセイ(例えば、Bigalke,H.およびRummel A.,Toxins 7.12(2015年):4895~4905頁に記載されるもの)、細胞を用いたアッセイ(例えば、国際公開第201349508号または国際公開第2012166943号に記載されるもの)、またはBoTest(R)(BioSentinel Inc.製のボツリヌス神経毒素検出キット)などの細胞外タンパク質分解活性アッセイを用いて評価できる。
【0070】
好ましくは、本発明に係る組成物は、所与の温度で所与の期間にわたって活性損失が所与のパーセント以下である場合、安定であると考えられる。
【0071】
一実施形態によれば、本発明に係る組成物は、2~8℃で3、6、12、18、24または36ヶ月にわたって細胞外タンパク質分解活性の損失が30%以下である場合、例えば5℃で6ヶ月にわたって細胞外タンパク質分解活性の損失が30%以下である場合、安定であると考えられる。好ましくは、本発明に係る組成物は、5℃で3ヶ月にわたって、より好ましくは5℃で6、12、18、24または36ヶ月にわたって細胞外タンパク質分解活性の損失が20%以下である場合、安定であると考えられる。別の実施形態によれば、本発明に係る組成物は、室温、例えば25℃で3ヶ月にわたって細胞外タンパク質分解活性の損失が40%以下である場合、安定であると考えられる。好ましくは、本発明に係る組成物は、25℃で3ヶ月にわたって、より好ましくは25℃で6ヶ月にわたって細胞外タンパク質分解活性の損失が30%以下である場合、安定であると考えられる。別の実施形態によれば、本発明に係る組成物は、37℃で2ヶ月にわたって細胞外タンパク質分解活性の損失が50%以下である場合、安定であると考えられる。細胞外タンパク質分解活性は、BoTest(R)アッセイで測定できる。
【0072】
一実施形態によれば、本発明に係る組成物は、2~8℃で2、3、6、12、18、24または36ヶ月にわたってMLD50単位の損失が30%以下である場合、例えば5℃で6ヶ月にわたってMLD50単位の損失が30%以下である場合、安定であると考えられる。好ましくは、本発明に係る組成物は、5℃で2ヶ月にわたって、より好ましくは5℃で3、6、12、18、24または36ヶ月にわたってMLD50単位の損失が20%以下である場合、安定であると考えられる。別の実施形態によれば、本発明に係る組成物は、室温、例えば25℃で2または3ヶ月にわたってMLD50単位の損失が40%以下である場合、安定であると考えられる。好ましくは、本発明に係る組成物は、25℃で3ヶ月にわたって、より好ましくは25℃で6ヶ月にわたってMLD50単位の損失が30%以下である場合、安定であると考えられる。別の実施形態によれば、本発明に係る組成物は、37℃で2ヶ月にわたってMLD50単位の損失が50%以下である場合、安定であると考えられる。MLD50単位は、上述したように測定することができる。
【0073】
本発明に係る液体組成物は、密封したバイアルまたはシリンジ、例えばガラスバイアルまたはシリンジ、好ましくはタイプI(または「ボディニュートラル」)ガラスバイアルまたはシリンジ中に保存できる。バイアルまたはシリンジ中に酸素がないまたはごくわずかしかないことが好ましい。バイアルまたはシリンジは、例えば、100ppm未満、好ましくは50ppm未満の酸素量の雰囲気で充填することができ、バイアル中の保護雰囲気として窒素ガスを使用できる。ガラスバイアルを使用する場合、例えば、クロロブチルまたはブロモブチルゴム栓で蓋をすることができ、上記ゴム栓は、FluroTec(R)コーティングされていてもよい。好ましくは、本発明に係る液体組成物は、FluroTec(R)コーティングされた栓で蓋をしたガラスバイアル中に保存する。
【0074】
一実施形態によれば、本発明に係る液体組成物は、
・1mLあたり4~10000LD50単位のボツリヌス神経毒素、
・0.001~15%v/vのポリソルベート、
・0.1~5mg/mLのトリプトファン、
・10~500mMのNaCl、
・1~50mMのKCl、
・1~100mMのリン酸ナトリウム
を含むか、または本質的にそれらからなり、
pH5.5~8であり、5℃で6ヶ月間安定である。
【0075】
一実施形態によれば、本発明に係る液体組成物は、
・1mLあたり10~2000LD50単位のボツリヌス神経毒素、
・0.005~2%v/vのポリソルベート、
・0.1~5mg/mLのトリプトファン、
・25~300mMのNaCl、
・1~10mMのKCl、
・2~50mMのリン酸ナトリウム
を含むか、または本質的にそれらからなり、
pH6.0~7.5であり、5℃で12ヶ月間安定である。
【0076】
一実施形態によれば、本発明に係る液体組成物は、
・1mLあたり10~2000LD50単位のボツリヌス神経毒素、
・0.05~0.2%v/vのポリソルベート80、
・0.1~5mg/mLのトリプトファン、
・25~300mMのNaCl、
・1~10mMのKCl、
・2~50mMのリン酸ナトリウム
を含むか、または本質的にそれらからなり、
pH6.0~7.5であり、5℃で12ヶ月間安定である。
【0077】
一実施形態によれば、本発明に係る液体組成物は、
・ボツリヌス神経毒素A、
・0.2%v/vのポリソルベート80、
・1mg/mLのトリプトファン、
・140mMのNaCl、
・3mMのKCl、
・10mMのリン酸ナトリウム
を含むか、または本質的にそれらからなり、
pHが約6.6である。
【0078】
別の実施形態によれば、本発明に係る液体組成物は、
・ボツリヌス神経毒素A、
・0.04%v/vのポリソルベート80、
・1mg/mLのトリプトファン、
・140mMのNaCl、
・3mMのKCl、
・10mMのリン酸ナトリウム
を含むか、または本質的にそれらからなり、
pHが約6.9である。
【0079】
別の実施形態によれば、本発明に係る液体組成物は、
・ボツリヌス神経毒素B、
・0.25%v/vのポリソルベート20、
・4mg/mLのトリプトファン、
・140mMのNaCl、
・3mMのKCl、
・10mMのリン酸ナトリウム
を含むか、または本質的にそれらからなり、
pHが約7.4である。
【0080】
別の実施形態によれば、本発明に係る液体組成物は、
・ボツリヌス神経毒素A、
・0.01%v/vのポリソルベート80、
・0.25mg/mLのトリプトファン、
・255mMのNaCl、
・2mMのリン酸ナトリウム
を含むか、または本質的にそれらからなり、
pHが約7.2である。
【0081】
別の実施形態によれば、本発明に係る液体組成物は、
・ボツリヌス神経毒素A、
・0.01%v/vのポリソルベート80、
・0.25mg/mLのトリプトファン、
・255mMのNaCl、
・10mMのKCl、
・50mMのリン酸ナトリウム
を含むか、または本質的にそれらからなり、
pHが約6.3である。
【0082】
別の実施形態によれば、本発明に係る液体組成物は、
・ボツリヌス神経毒素A、
・1%v/vのポリソルベート80、
・0.25mg/mLのトリプトファン、
・255mMのNaCl、
・50mMのリン酸ナトリウム
を含むか、または本質的にそれらからなり、
pHが約6.3である。
【0083】
別の実施形態によれば、本発明に係る液体組成物は、
・ボツリヌス神経毒素A、
・1%v/vのポリソルベート80、
・3mg/mLのトリプトファン、
・255mMのNaCl、
・10mMのKCl、
・50mMのリン酸ナトリウム
を含むか、または本質的にそれらからなり、
pHが約7.2である。
【0084】
別の実施形態によれば、本発明に係る液体組成物は、
・ボツリヌス神経毒素A、
・0.1%v/vのポリソルベート80、
・1.625mg/mLのトリプトファン、
・140mMのNaCl、
・3mMのKCl、
・10mMのリン酸ナトリウム
を含むか、または本質的にそれらからなり、
pHが約6.75である。
【0085】
別の実施形態によれば、本発明に係る液体組成物は、
・ボツリヌス神経毒素A、
・0.01%v/vのポリソルベート80、
・1mg/mLのトリプトファン、
・140mMのNaCl、
・3mMのKCl、
・10mMのリン酸ナトリウム
を含むか、または本質的にそれらからなり、
pHが約6.75である。
【0086】
別の実施形態によれば、本発明に係る液体組成物は、
・ボツリヌス神経毒素A、
・0.1%v/vのポリソルベート80、
・1mg/mLのトリプトファン、
・140mMのNaCl、
・3mMのKCl、
・10mMのリン酸ナトリウム
を含むか、または本質的にそれらからなり、
pHが約6.75である。
【0087】
別の実施形態によれば、本発明に係る液体組成物は、
・ボツリヌス神経毒素A、
・1%v/vのポリソルベート80、
・1mg/mLのトリプトファン、
・140mMのNaCl、
・3mMのKCl、
・10mMのリン酸ナトリウム
を含むか、または本質的にそれらからなり、
pHが約6.75である。
【0088】
別の実施形態によれば、本発明に係る液体組成物は、
・ボツリヌス神経毒素B、
・15%v/vのポリソルベート20、
・1mg/mLのトリプトファン、
・140mMのNaCl、
・3mMのKCl、
・10mMのリン酸ナトリウム
を含むか、または本質的にそれらからなり、
pHが約7.4である。
【0089】
別の実施形態によれば、本発明に係る液体組成物は、
・ボツリヌス神経毒素B、
・15%v/vのポリソルベート20、
・4mg/mLのトリプトファン、
・140mMのNaCl、
・3mMのKCl、
・10mMのリン酸ナトリウム
を含むか、または本質的にそれらからなり、
pHが約7.4である。
【0090】
別の実施形態によれば、本発明に係る液体組成物は、
・ボツリヌス神経毒素B、
・0.25%v/vのポリソルベート20、
・4mg/mLのトリプトファン、
・140mMのNaCl、
・3mMのKCl、
・10mMのリン酸ナトリウム
を含むか、または本質的にそれらからなり、
pHが約7.4である。
【0091】
別の態様は、治療における本発明に係る液体組成物の使用である。
【0092】
本発明に係る液体組成物は、筋障害、神経筋障害、神経障害、眼科障害、疼痛障害、心理的障害、関節障害、炎症性障害、内分泌障害または泌尿器障害を治療または予防するための治療に使用できる。
【0093】
例えば、本発明に係る液体組成物は、以下から選択される疾患、異常または症候群を治療または予防するために使用できる:
・眼瞼痙攣、斜視(拘束型または筋性斜視を含む)、弱視、動揺視、保護性眼瞼下垂、角膜保護のための治療的眼瞼下垂、眼振、内斜視、複視、眼瞼内反、眼瞼後退、眼窩ミオパチー、眼球斜位、共同性眼位異常、非共同性眼位異常、原発性または二次性内斜視または外斜視、核間性眼筋麻痺、斜偏位、デュアン症候群および上眼瞼後退からなる群から選択される眼科障害、
・片側顔面痙攣、斜頸、小児または成人の痙縮(脳性麻痺、脳卒中後、多発性硬化症、外傷性脳損傷または脊髄損傷患者など)、特発性限局性ジストニア、筋硬直、書痙、手のジストニア、第VI神経麻痺、顎口腔ジストニア、頭部振戦、遅発性ジスキネジア、遅発性ジストニア、職業性痙攣(音楽家の痙攣を含む)、顔面神経麻痺、閉口痙攣、顔面痙攣、病的共同運動、振戦、原発性書字振戦、ミオクローヌス、全身強直性症候群、足のジストニア、顔面麻痺、painful-arm-and-moving-fingers症候群、チック障害、ジストニア性チック、トゥレット症候群、神経性筋強直症、顎の震え、外直筋麻痺、ジストニア性内反足、下顎ジストニア、ラビット症候群、小脳性振戦、第III神経麻痺、軟口蓋ミオクローヌス、アカシジア(akasthesia)、筋痙攣、第IV神経麻痺、すくみ足歩行、伸筋躯幹ジストニア、顔面神経麻痺後の病的共同運動、二次性ジストニア、パーキンソン病、ハンチントン舞踏病、てんかん、オフピリオドジストニア、頭部破傷風、ミオキミアおよび筋痙攣線維束性収縮症候群を含む運動障害、
・痙攣性発声障害、耳の障害、聴覚障害、イヤークリック、耳鳴り、めまい、メニエール病、蝸牛神経機能障害、吃音、輪状咽頭嚥下障害、歯ぎしり、慢性誤嚥の喉頭閉鎖、声帯肉芽腫、喉頭室ジストニア(ventricular dystonia)、仮声帯発声、変声障害、開口障害、いびき、声の震え、誤嚥、舌突出ジストニア、口蓋の震え、唇の過蓋咬合および喉頭ジストニア、ファーストバイト症候群を含む耳鼻咽喉科障害、
・アカラシア、裂肛、便秘、顎関節機能障害、オディ括約筋機能障害、オディ括約筋の持続性緊張亢進、腸管筋障害、恥骨直腸筋症候群、アニスムス、幽門痙攣、胆嚢機能不全、胃腸または食道の運動機能障害、びまん性食道痙攣および胃不全麻痺を含む胃腸障害、
・排尿筋括約筋協調不全、排尿筋反射亢進、(パーキンソン病、脊髄損傷、脳卒中または多発性硬化症患者などにおける)神経性膀胱機能障害、過活動膀胱、神経性排尿筋過活動、膀胱痙攣、尿失禁、尿閉、膀胱頚部肥大、排尿障害、間質性膀胱炎、膣痙、子宮内膜症、骨盤痛、前立腺肥大(良性前立腺肥大症)、前立腺痛、前立腺癌および持続勃起症を含む泌尿生殖器障害、
・皮膚細胞増殖性障害、皮膚創傷、乾癬、酒さ、にきび;フォックス・フォアダイス症候群またはヘイリー・ヘイリー病などの希少な遺伝性皮膚疾患;ケロイドおよび肥厚性瘢痕の減少;ポアサイズの減少;皮膚の炎症症状;皮膚の疼痛性炎症症状を含む皮膚科障害、
・背部痛(上部背痛、下部背痛)、筋筋膜痛、緊張型頭痛、線維筋痛症、有痛性症候群、筋肉痛、片頭痛、むち打ち症、関節痛、術後疼痛、筋けいれんに関連しない疼痛、および平滑筋障害に関連した疼痛を含む疼痛障害、
・膵炎、神経性炎症性障害(痛風、腱炎、滑液包炎、皮膚筋炎および強直性脊椎炎を含む)を含む炎症性障害、
・過度の腺分泌、多汗症(腋窩多汗症、手掌多汗症およびフレイ症候群を含む)、唾液分泌過多、流涎症、臭汗症、粘液分泌過多、流涙過多、ホロクリン腺機能不全、皮脂分泌過剰などの分泌障害、
・鼻炎(アレルギー性鼻炎を含む)、COPD、喘息および結核を含む呼吸器障害、
・筋肉肥大、咬筋肥大、末端肥大症、および筋肉痛を伴う神経性前脛骨筋肥大を含む肥大性障害、
・テニスひじ(またはひじの上顆炎)、関節の炎症、股関節炎、変形性関節症、肩の回転筋帽(rotator muscle cap)の病理、関節リウマチおよび手根管症候群を含む関節障害、
・2型糖尿病、高グルカゴン血症、高インスリン血症、低インスリン血症、高カルシウム血症、低カルシウム血症、甲状腺障害(グレーブス病、甲状腺炎、橋本甲状腺炎、甲状腺機能亢進症および甲状腺機能低下症を含む)、副甲状腺障害(副甲状腺機能亢進症および副甲状腺機能低下症を含む)、グッシング症候群および肥満などの内分泌障害、
・全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患、
・傍神経節腫、前立腺癌および骨腫瘍などの増殖性疾患、
・スポーツ傷害、筋肉傷害、腱創傷および骨折を含む外傷性傷害、ならびに
・獣医学的用途(例えば、哺乳動物の不動化、ウマ疝痛、動物のアカラシア、または動物の筋痙攣)。
【0094】
また、本発明に係る液体組成物は、美容医療において(すなわち、美容的外観を改善するために)、特に皮膚のしわ、特にしかめ面ラインなどの顔のしわ、目の輪郭のしわ、眉間しわ線、への字口、首のしわ(プラティスマバンド)、顎のしわ(オトガイ筋、橙皮状皮膚、割れ顎)、額のしわ、「引っかき傷のある皮膚」のしわ、鼻のリフト治療または睡眠線を治療または予防するために使用できる。本発明のこの態様によれば、美容的外観を改善するために治療または予防する対象は、上述した障害、異常または症候群のいずれにも罹患していないことが好ましい。より好ましくは、上記対象は健常対象である(すなわち、いかなる疾患、異常または症候群にも罹患していない)。
【0095】
本発明に係る液体組成物は、別の治療用化合物と併用できる。一実施形態では、本発明に係る液体組成物は、疼痛を治療するための鎮痛化合物と組み合わせて、特に国際公開第2007/144493号(その内容が参照により本明細書に組み込まれる)に記載されているモルヒネなどのオピオイド誘導体と組み合わせて投与する。別の実施形態では、本発明に係る液体組成物は、例えば国際公開第2015/0444416号(その内容が参照により本明細書に組み込まれる)に記載されているように前立腺癌を治療するために、ヒアルロン酸と組み合わせて投与する。
【0096】
本発明のさらなる態様は、動物由来タンパク質を含まない液体組成物においてタンパク質性神経毒素を分解から保護するための、トリプトファンおよびチロシンから選択されるアミノ酸の使用である。
【0097】
好ましい実施形態によれば、上記アミノ酸はトリプトファン、より好ましくはL-トリプトファンである。
【0098】
好ましくは、上記タンパク質性神経毒素はボツリヌス神経毒素である。本発明の一実施形態によれば、上記ボツリヌス神経毒素は複合体のボツリヌス神経毒素である。別の実施形態によれば、上記ボツリヌス神経毒素は高純度ボツリヌス神経毒素である。本発明の一実施形態によれば、上記ボツリヌス神経毒素は、その天然クロストリジウム株から精製したボツリヌス神経毒素である。別の実施形態によれば、上記ボツリヌス神経毒素は、大腸菌などの異種宿主において組換え的に生産されたボツリヌス神経毒素である。本発明によれば、上記ボツリヌス神経毒素は、血清型A、B、C、D、E、FまたはGのBoNTであってもよい。本発明によれば、ボツリヌス神経毒素は、上述したような修飾ボツリヌス神経毒素であってもよい。本発明によれば、組換えボツリヌス神経毒素は、上述したようなキメラボツリヌス神経毒素であってもよい。
【0099】
好ましい実施形態によれば、上記アミノ酸は、界面活性剤、ならびにナトリウムイオン、塩化物イオンおよびリン酸イオンを含む緩衝液と併用され、かつ上記液体組成物のpHが5.5~8である。好ましくは、上記界面活性剤は非イオン性界面活性剤、より好ましくはポリソルベート、例えばPS20、PS60またはPS80である。最も好ましくは、上記非イオン性界面活性剤はPS80である。上記緩衝液はカリウムイオンも含むことが好ましい。上記緩衝液は、例えば、塩化ナトリウム塩、塩化カリウム塩およびリン酸ナトリウム塩を組み合わせて得ることができる。好ましい実施形態によれば、上記pHは、6.0~7.5、例えば6.3、6.35、6.4、6.45、6.5、6.55、6.6、6.65、6.7、6.75、6.8、6.85、6.9、6.95、7.0、7.05、7.1、7.15、7.2、7.25、7.3、7.35、7.4、7.45または7.5である。好ましくは、上記pHは生理的pH(約7.4)から1単位以内である。
【0100】
本発明に係る使用の好ましい実施形態によれば、上記液体組成物は2ヶ月間安定である。例えば、2~8℃で2ヶ月間安定である。一実施形態によれば、2~8℃、例えば5℃で3ヶ月間安定である。好ましい実施形態によれば、2~8℃、例えば5℃で6ヶ月間安定である。一実施形態によれば、2~8℃、例えば5℃で12ヶ月間安定である。一実施形態によれば、2~8℃、例えば5℃で18ヶ月間安定である。一実施形態によれば、2~8℃、例えば5℃で24ヶ月間安定である。一実施形態によれば、2~8℃、例えば5℃で36ヶ月間安定である。一実施形態によれば、室温、例えば25℃で3ヶ月間安定である。一実施形態によれば、室温、例えば25℃で6ヶ月間安定である。
【実施例
【0101】
1.安定した液体ボツリヌス毒素A製剤の調製
15ng/mLの高純度BoNT/Aと、15%v/vのポリソルベート20と、チロシン(Tyr)、トリプトファン(Trp)およびシステイン(Cys)から選択したアミノ酸、またはメチオニン(Met)、チロシン(Tyr)、トリプトファン(Trp)およびシステイン(Cys)の混合物(Sigma Aldrich)と、リン酸緩衝生理食塩水(Calbiochem製PBS)(140mM NaCl、10mMリン酸ナトリウムおよび3mM KCl、25℃でpH7.4)とを含む液体ボツリヌス毒素調製物を調製し、0.22μmPVDF(ポリフッ化ビニリデン)フィルターを使用して濾過し、2mLシリコーン処理ガラスシリンジに40℃で6日間保管し、その後、各調製物について力価試験を実施した。
【0102】
力価試験では、いずれもタンパク質吸着性が低い容器であるPTFE処理したゴムセプタム(Chromacol)を含む蓋が付いた2mLガラスバイアル(Chromacol、Gold)または1.7mLプラスチックマイクロ遠心管(Axygen、Maximum Recovery)中に、調製物が入った注射器の中身を取り出した。続いて、3%ヒト血清アルブミン(HSA)を含む0.9%NaCl溶液を用いて調製物を希釈した。各調製物について、50μLのサンプルを、希釈を行ったのと同じ日にマウスの腓腹筋に注射した。マウスを3日間監視し、麻痺度を記録した。
【0103】
結果を表1に示す。
【0104】
【表B】
【0105】
チロシンおよびトリプトファンは、BoNT/A分解に対して保護効果を示すことが分かった。トリプトファンは最も強力な保護効果を示すことが分かった。システイン、および4つのアミノ酸すべてを含む混合物は保護効果を示さなかった。
【0106】
2.安定した液体ボツリヌス毒素B製剤の調製
350ng/mLの高純度BoNT/Bと、15%v/vのポリソルベート20と、チロシン(Tyr)、トリプトファン(Trp)およびシステイン(Cys)から選択したアミノ酸、またはメチオニン(Met)、チロシン(Tyr)、トリプトファン(Trp)およびシステイン(Cys)の混合物と、pH7.4のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)とを含む液体ボツリヌス毒素調製物を調製し、0.22μmフィルターを使用して濾過し、2mLシリコーン処理ガラスシリンジに40℃で2週間保管し、その後、上述したように各調製物について力価試験を実施した。
【0107】
結果を表2に示す。
【0108】
【表C】
【0109】
チロシンおよびトリプトファンは、BoNT/B分解に対して保護効果を示すことが分かった。システイン、および4つのアミノ酸すべてを含む混合物も保護効果を示したが、その程度はより弱いものであった。
【0110】
3.各種濃度のトリプトファンおよびポリソルベート20の評価
高純度BoNT/AまたはBoNT/Bと、様々な濃度のポリソルベート20(PS20)およびトリプトファンと、pH7.4のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)とを含む液体ボツリヌス毒素調製物を調製し、0.22μmフィルターを使用して濾過し、2mLシリコーン処理ガラスシリンジに保管した。後肢麻痺力価試験を上述したように各調製物について実施した。
【0111】
結果を表3に示す。
【0112】
【表D】
麻痺度(PA):1.つま先に影響有り;2.後肢にわずかな痺れ;3.両後肢が麻痺;4.後肢が麻痺
精製による溶出緩衝液(5):0.2%(v:v)ポリソルベート20を含む50mM酢酸ナトリウム(pH4.5)、および400mM塩化ナトリウム。
*25℃の8mg/mL Trp0.25%ポリソルベート20の2種類のBoNT/A希釈液の混同がおそらく生じた。
【0113】
4.BoNT/B調製物中の各種塩濃度の評価
100ng/mLの高純度BoNT/Bと、ポリソルベート20と、様々なアミノ酸供給業者から入手したトリプトファンと、pH7.4のPBS(Calbiochem)、pH7の12nMリン酸緩衝液(Apoteket)、およびpH5.5の20mM酢酸ナトリウム(NaAc)(Fluka製NaAcおよびMerck製酢酸)から選択した緩衝液とを含む液体ボツリヌス毒素調製物を調製し、0.22μmフィルターを使用して濾過し、2mLシリコーン処理ガラスシリンジに保管した。後肢麻痺力価試験を上述したように各調製物について実施した。
【0114】
結果を表4に示す。
【0115】
【表E】
【0116】
結果から、(ナトリウムイオン、塩化物イオン、リン酸イオンおよびカリウムイオンを含む)PBS緩衝液を含む調製物が、ボツリヌス毒素の安定性に影響を及ぼすように思われた。
【0117】
5.各種安定剤の評価
15ng/mLの高純度BoNT/Aと、ポリソルベート20(PS20)またはポリソルベート80(PS80)またはHSAと、トリプトファンと、PBSとを含む液体ボツリヌス毒素調製物を調製し、0.22μmフィルターを使用して濾過し、2mLシリコーン処理ガラスシリンジに保管した。後肢麻痺力価試験を上述したように各調製物について実施した。
【0118】
結果を表5に示す。
【0119】
【表F】
【0120】
6.各種製剤の評価
10ng/mLの高純度BoNT/Aと、0.25%のPS80と、1mg/mLのトリプトファンと、PBSとを含む液体ボツリヌス毒素調製物を上述したように調製した。HClを添加してpHを6.6および7.0に調整した。各調製物を40℃で5週間保管した。
【0121】
次いで各調製物を10倍希釈し、後肢麻痺力価試験を上記のように実施した(注射1回につき0.05ng)。いずれの場合も、後肢麻痺を3日目に観察した。麻痺はpH6.6の調製物でより強かった。
【0122】
7.各種製剤の評価
0.3ng/mLの高純度BoNT/Aと、PS20およびPS80から選択したポリソルベートと、1mg/mLのトリプトファンと、12mMのPBS(pH7.4)とを含む液体ボツリヌス毒素調製物を上述したように調製した。1.2M HClを添加して各調製物のpHをpH6.6または6.9に調整した。
【0123】
ポリソルベート20は、1つの濃度、すなわち、そのCMC(臨界ミセル濃度、21℃で約0.01%w/v)の約20倍に相当する0.2%w/vで試験した。ポリソルベート80は、そのCMC(21℃で約0.002%w/v)の約20倍および100倍にそれぞれ相当する0.04%および0.2%w/vで試験した。
【0124】
【表G】
【0125】
各調製物について、0.5mLを1mLロングガラスシリンジ(BD)に充填し、フルオロカーボンコーティングプランジャで密封した。
【0126】
力価は、上述したようにマウスの後肢麻痺試験により測定した。
【0127】
5℃で6ヶ月保存後および25℃保存後、いずれの製剤においても力価の低下は観察されなかった。
【0128】
8.各種製剤の評価
様々な濃度のポリソルベート80、トリプトファン、リン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウムおよび様々なpHを用いて、高純度A型ボツリヌス神経毒素を含む各種製剤を19種類調製した。各製剤は、500U/mLの目標名目力価を有していた。各製剤を脱気し、0.2μmフィルターで濾過し、バイアルに充填した。バイアル内の保護雰囲気として窒素ガスを使用した。充填は嫌気性チャンバ内で行った。2mLガラスバイアルに窒素雰囲気中で各製剤を1mLアリコートとして充填し、FluroTec(R)栓で蓋をし、アルミニウムフリップオフシールで密封し、直立で保管した。
【0129】
19種類の製剤の安定性は、BoTest(R)を用いて力価を測定して5℃、25℃および37℃で評価した。
【0130】
【表H】
【0131】
【表I】
【0132】
すべての製剤について溶液は清澄なままであり、大部分は無色であった。
【0133】
この試験で試験した賦形剤濃度では、試験した時間間隔中に製剤のpHに影響が及ぼされないように思われる。力価結果を表9に示す。
【0134】
【表J】
【0135】
いくつかの組成物については、5℃で6ヶ月にわたり30%以下の力価の損失、および/または25℃で3ヶ月にわたり約40%以下の力価の損失、および/または37℃で2ヶ月にわたり約50%以下の力価の損失があった。
【0136】
9.PS60の評価
0.1%(v/v)PS60、1mg/mLのL-トリプトファン、10mMのリン酸ナトリウム、140mMの塩化ナトリウム、3mMの塩化カリウム、および注射用水を用いて、高純度A型ボツリヌス神経毒素を含む製剤を調製した。HClでpHを6.75に調整した。製剤は、100U/mLの目標名目力価を有していた。製剤を脱気し、0.2μmフィルターで濾過し、窒素雰囲気の嫌気性チャンバ中の2mLバイアルに1mLの充填量で無菌充填した。バイアル内の保護雰囲気として窒素ガスを使用した。バイアルは、FluroTec(R)栓で蓋をしてアルミニウムフリップオフシールで密封した。
【0137】
【表K】
【0138】
本明細書に記載のMLD50試験によって、37℃および25℃での経時的力価を測定した。
【0139】
37℃では、9週間後の残存力価は初期力価の約50~55%であった。
【0140】
25℃では、3ヶ月後の残存力価は初期力価の約80%であった。
【配列表】
0007053498000001.app