(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】スラグのエージング方法、土木材料の製造方法、およびスラグのエージング処理用水和促進剤
(51)【国際特許分類】
C04B 5/00 20060101AFI20220405BHJP
F27D 15/00 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
C04B5/00 C
F27D15/00 B
(21)【出願番号】P 2019025625
(22)【出願日】2019-02-15
【審査請求日】2021-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000200301
【氏名又は名称】JFEミネラル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083253
【氏名又は名称】苫米地 正敏
(72)【発明者】
【氏名】光藤 浩之
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】須藤 達也
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-006757(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103992054(CN,A)
【文献】国際公開第2017/163595(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/152099(WO,A1)
【文献】特開平10-316455(JP,A)
【文献】特開平03-159938(JP,A)
【文献】特開2002-179442(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 5/00-28/36
F27D 15/00-15/02
C21B 3/00-5/06
C21C 3/00
C21C 5/00-5/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊離CaO及び/又は遊離MgOを含有するスラグに対して、NaOH、KOH、NH
3の中から選ばれる1種以上からなる水和促進剤を接触させた状態で、前記遊離CaO及び/又は遊離MgOを水和させるエージング処理を行う工程(A)と、
該工程(A)を経たCaO及び/又はMgOの水和物を含有するスラグに対して、炭酸塩、炭酸水素塩の中から選ばれる1種以上からなる炭酸化促進剤を接触させた状態で、前記水和物を炭酸化させるエージング処理を行う工程(B)を
有し、
工程(B)のエージング処理がスラグを温水に浸漬する温水エージングであって、その温水に前記炭酸化促進剤が添加され、
工程(B)のエージング処理中又は/及びエージング処理終了後に、スラグを浸漬した温水中にCO
2
を吹き込むことにより炭酸化促進剤を再生させ、
複数ロットのスラグを順次エージング処理する際に、工程(B)において、1つのロットのスラグの温水エージングに用いた溶液を、次にエージング処理するロットのスラグの温水エージングに用いることを特徴とするスラグのエージング方法。
【請求項2】
工程(B)で用いる炭酸塩が炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウムの中から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項
1に記載のスラグのエージング方法。
【請求項3】
工程(B)で用いる炭酸水素塩が炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素カリウムの中から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項
1に記載のスラグのエージング方法。
【請求項4】
工程(A)のエージング処理が温水エージングであることを特徴とする請求項
1~3のいずれかに記載のスラグのエージング方法。
【請求項5】
複数ロットのスラグを順次エージング処理する際に、工程(A)において、1つのロットのスラグの温水エージングに用いた溶液を、次にエージング処理するロットのスラグの温水エージングに用いることを特徴とする請求項
4に記載のスラグのエージング方法。
【請求項6】
遊離CaO及び/又は遊離MgOを含有するスラグに対して、NaOH、KOH、NH
3の中から選ばれる1種以上からなる水和促進剤を接触させた状態で、前記遊離CaO及び/又は遊離MgOを水和させるエージング処理を行う工程(A)と、
該工程(A)の終了後に残存した水和促進剤をCO
2と接触させて炭酸化することにより、炭酸塩、炭酸水素塩の中から選ばれる1種以上を生成させ、工程(A)を経たCaO及び/又はMgOの水和物を含有するスラグに対して、該生成物を炭酸化促進剤として接触させた状態で、前記水和物を炭酸化させるエージング処理を行う工程(B)を
有し、
工程(A)と工程(B)のエージング処理がスラグを温水に浸漬する温水エージングであり、1つの処理槽に入れられたスラグに対して、工程(A)のエージング処理と工程(B)のエージング処理を、それぞれ温水エージングにより順次行い、
工程(B)のエージング処理においては、スラグが浸漬された温水中にCO
2
を吹き込み、
複数ロットのスラグを順次エージング処理する際に、1つのロットのスラグに対する工程(B)の温水エージングに用いた溶液を、次にエージング処理するロットのスラグに対する工程(A)の温水エージングに用いることを特徴とするスラグのエージング方法。
【請求項7】
工程(B)で生成する炭酸塩が炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウムの中から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項
6に記載のスラグのエージング方法。
【請求項8】
工程(B)で生成する炭酸水素塩が炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素カリウムの中から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項
6に記載のスラグのエージング方法。
【請求項9】
遊離CaO及び/又は遊離MgOを含有するスラグに対して、
スラグを温水に浸漬する温水エージングによりエージング処理を行う方法であって、
スラグにNaOH、KOH、NH
3の中から選ばれる1種以上からなる水和促進剤を接触させた状態で、
スラグが浸漬された温水中にCO
2を吹き込むことにより、当該スラグに対して下記(i),(ii)の反応を伴うエージング処理を
行い、
(i)遊離CaO及び/又は遊離MgOを水和させて水和物とする。
(ii)前記水和促進剤をCO
2と接触させて炭酸化することにより、炭酸塩、炭酸水素塩の中から選ばれる1種以上を生成させ、該生成物を炭酸化促進剤として前記水和物を炭酸化させる。
複数ロットのスラグを順次エージング処理する際に、1つのロットのスラグの温水エージングに用いた溶液を、次にエージング処理するロットのスラグの温水エージングに用いることを特徴とするスラグのエージング方法。
【請求項10】
生成する炭酸塩が炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウムの中から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項
9に記載のスラグのエージング方法。
【請求項11】
生成する炭酸水素塩が炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素カリウムの中から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項
9に記載のスラグのエージング方法。
【請求項12】
スラグが製鋼スラグであることを特徴とする請求項1~
11のいずれかに記載のスラグのエージング方法。
【請求項13】
スラグを請求項1~
12のいずれか
に記載のエージング方法でエージング処理することにより、土木材料を製造することを特徴とする土木材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、製鋼スラグなどのような遊離CaOや遊離MgOを含むスラグのエージング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鋼スラグは、路盤材や土工用材などの土木材料として広く用いられており、また、水和硬化体の骨材などとしても用いられている。鉄鋼製造プロセスで副生する製鋼スラグには、精錬工程で添加される石灰源やマグネシア源の一部が未溶融或いは他の成分と化合物を形成しないで遊離したまま残留している。このような製鋼スラグを土木材料として用いると、遊離CaOや遊離MgOの水酸化(水和)や炭酸化により膨張し、周囲の構造物を破壊するなどの問題を生じるおそれがある。また、遊離CaOや遊離MgOが水と接触するとアルカリ性を呈するため、製鋼スラグから溶出した高アルカリ水により周辺の環境のpHが高くなるなどの問題を生じるおそれもある。
【0003】
したがって、製鋼スラグを路盤材や土工用材などの土木材料として利用するには、使用前の段階でスラグに含まれる遊離CaOや遊離MgOの水酸化(水和)や炭酸化を促進して安定化させ、スラグ使用時の膨張や高アルカリ水溶出を抑制する必要がある。このため使用前の製鋼スラグには、膨張抑制を目的として、大気エージング、蒸気エージング、温水エージングなどのエージング処理が施されるのが一般的である(例えば、特許文献1、2)。また、膨張抑制と高アルカリ水の溶出抑制を目的として、製鋼スラグにCO2含有ガスを吹き込んで遊離CaO等を炭酸化させる方法もある(例えば、特許文献3)。
【0004】
路盤材として利用する製鋼スラグの条件について、例えば、「鉄鋼スラグ路盤設計施工指針」(平成27年3月)やJIS A5015(2018)「道路用鉄鋼スラグ」には、製鋼スラグを用いた路盤用鉄鋼スラグ(水硬性粒度調整鉄鋼スラグ、粒度調整鉄鋼スラグ、クラッシャラン鉄鋼スラグ)の水浸膨張比は1.0%以下でなければならないこと、路盤用鉄鋼スラグに用いる製鋼スラグは、蒸気エージング(配管方式、加圧方式など)又は6ヶ月以上大気エージングしたものでなければならないこと、などが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭61-101441号公報
【文献】特開平3-13517号公報
【文献】特開2005-200234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来行われているエージング処理の効果は、温度(蒸気、温水、大気の温度)とエージング期間のみに依存し、エージング処理により製鋼スラグの膨張抑制や高アルカリ水の溶出抑制を図るには長期間の処理が必要であり、生産性が低いという問題がある。例えば、蒸気エージングは1週間程度、大気エージングは6ヶ月以上の期間を要する。また、炭酸化処理は、大型の撹拌装置やガス密閉対策が必要であるため、設備的な負担が大きいという問題がある。
【0007】
したがって本発明の目的は、以上のような従来技術の課題を解決し、製鋼スラグなどのような遊離CaOや遊離MgOを含有するスラグをエージング処理する方法において、特別な設備的負担を要することなく、スラグ中の遊離CaOや遊離MgOの水酸化(水和)を効果的に促進させることで、スラグの膨張抑制(水浸膨張比の低減)のためのエージング処理を短期間で行うことができるスラグのエージング方法を提供すること、さらに、スラグ中の遊離CaOや遊離MgOの水酸化(水和)+炭酸化を効果的に促進させることで、スラグの膨張抑制(水浸膨張比の低減)とスラグからの高アルカリ水の溶出抑制(スラグ溶出水のpH低減)のためのエージング処理を短期間で行うことができるスラグのエージング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく遊離CaOや遊離MgOを含有するスラグのエージング処理について実験と検討を重ねた結果、スラグに特定の水和促進剤を接触させた状態で遊離CaOや遊離MgOを水和させるエージング処理(水和処理)を行うことにより、スラグ中の遊離CaOや遊離MgOの水酸化(水和)を効果的に促進させることができ、スラグの膨張抑制のためのエージング期間を短縮化できることを見出した。また、そのような水和処理を行った後若しくは水和処理と並行して、スラグに特定の炭酸化促進剤を接触させた状態で水和物を炭酸化させるエージング処理(炭酸化処理)を行うことにより、スラグ中の遊離CaOや遊離MgOの水酸化(水和)+炭酸化を効果的に促進させることができ、スラグの膨張抑制と高アルカリ水の溶出抑制のためのエージング期間を短縮化できることを見出した。
【0009】
本発明は、以上のような知見に基づきなされたもので、以下を要旨とするものである。
[1]遊離CaO及び/又は遊離MgOを含有するスラグに対して、NaOH、KOH、NH3の中から選ばれる1種以上からなる水和促進剤を接触させた状態で、前記遊離CaO及び/又は遊離MgOを水和させるエージング処理を行うことを特徴とするスラグのエージング方法。
[2]上記[1]のエージング方法において、エージング処理が温水エージングであることを特徴とするスラグのエージング方法。
[3]上記[2]のエージング方法において、複数ロットのスラグを順次エージング処理する際に、1つのロットのスラグの温水エージングに用いた溶液を、次にエージング処理するロットのスラグの温水エージングに用いることを特徴とするスラグのエージング方法。
【0010】
[4]遊離CaO及び/又は遊離MgOを含有するスラグに対して、NaOH、KOH、NH3の中から選ばれる1種以上からなる水和促進剤を接触させた状態で、前記遊離CaO及び/又は遊離MgOを水和させるエージング処理を行う工程(A)と、
該工程(A)を経たCaO及び/又はMgOの水和物を含有するスラグに対して、炭酸塩、炭酸水素塩の中から選ばれる1種以上からなる炭酸化促進剤を接触させた状態で、前記水和物を炭酸化させるエージング処理を行う工程(B)を有することを特徴とするスラグのエージング方法。
【0011】
[5]上記[4]のエージング方法において、工程(B)で用いる炭酸塩が炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウムの中から選ばれる1種以上であることを特徴とするスラグのエージング方法。
[6]上記[4]のエージング方法において、工程(B)で用いる炭酸水素塩が炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素カリウムの中から選ばれる1種以上であることを特徴とするスラグのエージング方法。
[7]上記[4]~[6]のいずれかのエージング方法において、工程(A)のエージング処理が温水エージングであることを特徴とするスラグのエージング方法。
【0012】
[8]上記[7]のエージング方法において、複数ロットのスラグを順次エージング処理する際に、工程(A)において、1つのロットのスラグの温水エージングに用いた溶液を、次にエージング処理するロットのスラグの温水エージングに用いることを特徴とするスラグのエージング方法。
[9]上記[4]~[8]のいずれかのエージング方法において、工程(B)のエージング処理が温水エージングであることを特徴とするスラグのエージング方法。
【0013】
[10]上記[4]~[9]のいずれかのエージング方法において、工程(B)のエージング処理中又は/及びエージング処理終了後に、スラグ中又はスラグを浸漬した温水中にCO2を吹き込むことにより炭酸化促進剤を再生させることを特徴とするスラグのエージング方法。
[11]上記[10]のエージング方法において、複数ロットのスラグを順次エージング処理する際に、工程(B)において、1つのロットのスラグの温水エージングに用いた溶液を、次にエージング処理するロットのスラグの温水エージングに用いることを特徴とするスラグのエージング方法。
【0014】
[12]遊離CaO及び/又は遊離MgOを含有するスラグに対して、NaOH、KOH、NH3の中から選ばれる1種以上からなる水和促進剤を接触させた状態で、前記遊離CaO及び/又は遊離MgOを水和させるエージング処理を行う工程(A)と、
該工程(A)の終了後に残存した水和促進剤をCO2と接触させて炭酸化することにより、炭酸塩、炭酸水素塩の中から選ばれる1種以上を生成させ、工程(A)を経たCaO及び/又はMgOの水和物を含有するスラグに対して、該生成物を炭酸化促進剤として接触させた状態で、前記水和物を炭酸化させるエージング処理を行う工程(B)を有することを特徴とするスラグのエージング方法。
【0015】
[13]上記[12]のエージング方法において、工程(B)で生成する炭酸塩が炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウムの中から選ばれる1種以上であることを特徴とするスラグのエージング方法。
[14]上記[12]のエージング方法において、工程(B)で生成する炭酸水素塩が炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素カリウムの中から選ばれる1種以上であることを特徴とするスラグのエージング方法。
[15]上記[12]~[14]のいずれかのエージング方法において、工程(A)と工程(B)のエージング処理が温水エージングであることを特徴とするスラグのエージング方法。
【0016】
[16]上記[15]のエージング方法において、1つの処理槽に入れられたスラグに対して、工程(A)のエージング処理と工程(B)のエージング処理を、それぞれ温水エージングにより順次行うことを特徴とするスラグのエージング方法。
[17]上記[16]のエージング方法において、複数ロットのスラグを順次エージング処理する際に、1つのロットのスラグに対する工程(B)の温水エージングに用いた溶液を、次にエージング処理するロットのスラグに対する工程(A)の温水エージングに用いることを特徴とするスラグのエージング方法。
[18]上記[12]~[17]のいずれかのエージング方法において、工程(B)のエージング処理において、スラグ中又はスラグが浸漬された温水中にCO2を吹き込むことを特徴とするスラグのエージング方法。
【0017】
[19]遊離CaO及び/又は遊離MgOを含有するスラグに対して、NaOH、KOH、NH3の中から選ばれる1種以上からなる水和促進剤を接触させた状態で、スラグ中又はスラグが浸漬された温水中にCO2を吹き込むことにより、当該スラグに対して下記(i),(ii)の反応を伴うエージング処理を行うことを特徴とするスラグのエージング方法。
(i)遊離CaO及び/又は遊離MgOを水和させて水和物とする。
(ii)前記水和促進剤をCO2と接触させて炭酸化することにより、炭酸塩、炭酸水素塩の中から選ばれる1種以上を生成させ、該生成物を炭酸化促進剤として前記水和物を炭酸化させる。
【0018】
[20]上記[19]のエージング方法において、生成する炭酸塩が炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウムの中から選ばれる1種以上であることを特徴とするスラグのエージング方法。
[21]上記[19]のエージング方法において、生成する炭酸水素塩が炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素カリウムの中から選ばれる1種以上であることを特徴とするスラグのエージング方法。
[22]上記[19]~[21]のいずれかのエージング方法において、エージング処理が温水エージングであることを特徴とするスラグのエージング方法。
【0019】
[23]上記[22]のエージング方法において、複数ロットのスラグを順次エージング処理する際に、1つのロットのスラグの温水エージングに用いた溶液を、次にエージング処理するロットのスラグの温水エージングに用いることを特徴とするスラグのエージング方法。
[24]上記[1]~[23]のいずれかのエージング方法において、スラグが製鋼スラグであることを特徴とするスラグのエージング方法。
[25]スラグを上記[1]~[24]いずれかのエージング方法でエージング処理することにより、土木材料を製造することを特徴とする土木材料の製造方法。
[26]遊離CaO及び/又は遊離MgOを含有するスラグのエージング処理用の水和促進剤であって、NaOH、KOH、NH3の中から選ばれる1種以上からなることを特徴とするスラグのエージング処理用水和促進剤。
【発明の効果】
【0020】
本発明のエージング方法によれば、遊離CaO及び/又は遊離MgOを含有するスラグをエージング処理する方法において、スラグ中の遊離CaOや遊離MgOの水酸化(水和)を効果的に促進させることで、スラグの膨張抑制(水浸膨張比の低減)のためのエージング処理を短期間で行うことができる。また、本発明の他のエージング方法によれば、スラグ中の遊離CaOや遊離MgOの水酸化(水和)+炭酸化を効果的に促進させることで、スラグの膨張抑制(水浸膨張比の低減)とスラグからの高アルカリ水の溶出抑制(スラグ溶出水のpH低減)のためのエージング処理を短期間で行うことができる。
また、本発明のエージング方法は、特別な大型設備を設けるなどの設備的負担を要することなく、比較的簡便な設備を用いて実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の第一のエージング方法の一実施形態について、その処理フローを模式的に示す説明図
【
図2】本発明の第二のエージング方法の一実施形態について、その処理フローを模式的に示す説明図
【
図3】本発明の第三のエージング方法の一実施形態について、その処理フローを模式的に示す説明図
【
図4】本発明の第四のエージング方法の一実施形態について、その処理フローを模式的に示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のエージング方法において、エージング処理の対象となる遊離CaO及び/又は遊離MgOを含有するスラグの種類に特別な制限はないが、鉄鋼製造プロセスの製鋼工程で発生する製鋼スラグは、遊離CaOや遊離MgOを比較的多く含有しているので、本発明法は製鋼スラグのエージングに特に有用であると言える。製鋼スラグとしては、予備処理、転炉、鋳造などの工程で発生する脱炭スラグ、脱燐スラグ、脱硫スラグ、脱珪スラグ、鋳造スラグなどの製鋼系スラグ、鉱石還元スラグ、電気炉スラグなどを挙げることができるが、これらに限定されるものではなく、また、2種以上のスラグを混合したものを対象とすることもできる。
エージング処理の対象となるスラグの粒度は特に制限はないが、一般にはJIS A5015で規定する路盤材粒度で53mm以下が対象となる。また、スラグの微粒部分に膨張や高アルカリ水溶出の原因となる遊離CaOや遊離MgOが偏在する傾向があることから、例えば、粒度4.75mm以下のスラグを対象としてもよい。
【0023】
まず、本発明の第一のエージング方法について説明する。
このエージング方法は、遊離CaO及び/又は遊離MgOを含有するスラグに対して、特定の水和促進剤を接触させた状態で、前記遊離CaO及び/又は遊離MgOを水和させるエージング処理を行うものである。以下、説明の便宜上、遊離CaOを「CaO」、遊離MgOを「MgO」という。
水和促進剤としては、NaOH、KOH、NH3の中から選ばれる1種以上を用いる。この水和促進剤は、スラグ中のCaO、MgO(CaO及び/又はMgO)と反応し、CaO、MgOの水和を促進させるが、水和反応に消費されることはなく、水和反応に対して触媒的な働きをする。
【0024】
ここで、水和促進剤がNaOHの場合、NaOHは下記(1a)、(1b)式のとおりスラグ中のCaO、MgOと反応し、CaO、MgOの水和を促進させる。また、この反応で生成したNa2Oは下記(2)式のとおりH2Oと反応してNaOHとなるので、総括反応は下記(3a)、(3b)式のとおりとなる。すなわち、水和促進剤として添加したNaOHは水和反応には消費されず、触媒的な働きでCaO、MgOの水和を促進させる。
CaO+2NaOH → Ca(OH)2+Na2O …(1a)
MgO+2NaOH → Mg(OH)2+Na2O …(1b)
Na2O+H2O → 2NaOH …(2)
CaO+H2O → Ca(OH)2 …(3a)
MgO+H2O → Mg(OH)2 …(3b)
【0025】
また、水和促進剤がKOHの場合、KOHは下記(4a)、(4b)式のとおりスラグ中のCaO、MgOと反応し、CaO、MgOの水和を促進させる。また、この反応で生成したK2Oは下記(5)式のとおりH2Oと反応してKOHとなるので、総括反応は下記(6a)、(6b)式のとおりとなる。すなわち、水和促進剤として添加したKOHは水和反応には消費されず、触媒的な働きでCaO、MgOの水和を促進させる。
CaO+2KOH → Ca(OH)2+K2O …(4a)
MgO+2KOH → Mg(OH)2+K2O …(4b)
K2O+H2O → 2KOH …(5)
CaO+H2O → Ca(OH)2 …(6a)
MgO+H2O → Mg(OH)2 …(6b)
【0026】
また、水和促進剤がNH3の場合、NH3は下記(7a)、(7b)式のとおりスラグ中のCaO、MgOの水和を促進させる。すなわち、水和促進剤として添加したNH3は水和反応には消費されず、触媒的な働きでCaO、MgOの水和を促進させる。
CaO+H2O+2NH3 → Ca(OH)2+2NH3 …(7a)
MgO+H2O+2NH3 → Mg(OH)2+2NH3 …(7b)
【0027】
エージング処理は、温水エージング、蒸気エージング、大気エージングなどのいずれでもよい。
エージング処理において、水和促進剤をスラグに接触させる方法は任意であるが、温水エージングの場合には、温水に水和促進剤を添加し、この水和促進剤を含む温水によりスラグをエージング処理すればよい。また、蒸気エージングや大気エージングの場合には、(i)水和促進剤を含む溶液(水溶液など)をスラグに散布する、(ii)スラグに水和促進剤を混合する、(iii)水和促進剤を含む溶液(水溶液など)にスラグを一時的に浸漬する、などのような方法を採ればよい。
【0028】
このエージング方法では、上述したように水和促進剤は触媒的な働きをし、CaO、MgOの水和反応には消費されないので、繰り返し再利用することが可能である。したがって、温水エージングの場合には、水和促進剤を含む温水を繰り返し再利用することができるため、エージング処理は温水エージングが特に好ましい。すなわち、複数ロットのスラグを順次エージング処理する際に、エージング処理を温水エージングで行なえば、1つのロットのスラグの温水エージングに用いた溶液を、次にエージング処理するロットのスラグの温水エージングに用いること、つまりロット間での溶液の使い回しが可能となり、経済的なエージング処理を行うことができる。
【0029】
なお、エージング処理を蒸気エージングや大気エージングで行う場合において、水和促進剤を再利用するには、処理を終えたスラグに付着した水和促進剤を水などで洗い流し、水和促進剤を回収すればよい。一方、水和促進剤を回収・再利用しない場合には、水和促進剤成分がスラグに付着したままになるが、この水和促進剤成分は大気中のCO2で自然に炭酸化されるので問題はない。また、スラグを早期に出荷する場合には、CO2を吹き込むなどして水和促進剤成分を強制的にCO2で炭酸化(中和処理)させてもよい。
水和促進剤の添加量に特別な制限はない。添加量が少ないと処理効率が低くなり、一方、添加量が多くなるとスラグに付着する水和促進剤成分の後処理(中和処理など)のための負荷が増大するので、水和促進剤の添加量はこれらの点を考慮して決めればよい。また、水の添加量も、エージングの種類に応じて適宜決めればよい。
【0030】
エージング処理の処理温度(水和反応温度)に特別な制限はないが、20~100℃程度が好ましく、50~100℃程度がより好ましい。したがって、この処理温度の点からは、温水エージング、蒸気エージングがより好ましい。
エージング処理の処理時間(エージング期間)に特別な制限はないが、通常、スラグ中のCaO、MgOの水和が十分に進み、スラグの膨張抑制(水浸膨張比の低減)を達成できるように設定される。例えば、水浸膨張比(測定方法は実施例参照)1.0%以下を達成できるように処理時間が設定される。本発明のエージング方法によれば、従来法(単純な温水エージングや蒸気エージング)に較べてエージング期間を大幅に短縮できる利点がある。
また、エージング処理を実施する設備に特別な制限はなく、温水エージング、蒸気エージングなどを行う公知の設備を使用できる。
【0031】
図1は、このエージング方法の一実施形態の処理フローを模式的に示したものであり、この実施形態では、エージング処理を水和処理槽1を用いた温水エージングで行うものである。以下、処理対象がCaOを含有するスラグであり、水和促進剤としてNaOHを用いる場合を例に説明する。
水和処理槽1では、温水中に水和促進剤としてNaOHが添加される。この水和処理槽1にCaOを含有するスラグが投入され、エージング処理(温水エージング)が行われる。この工程(A)では、上述した(1a)、(2)、(3a)式の反応によりCaOが水和してCa(OH)
2が生じるが、水和促進剤として添加したNaOHは触媒的な働きをし、反応に消費されることはない。したがって、この水和促進剤を含む温水は、次のロットのスラグの温水エージングにそのまま使用することができる。この場合、新規な水和促進剤の投入は、不可避的に系外に持ち出される分を補充する程度でよい。
エージング処理(温水エージング)を終えたスラグは水和処理槽1から取り出され、脱水槽5で脱水処理された後、中和処理槽6で付着水のアルカリ分(NaOH)の中和処理がなされ、製品スラグとなる。中和処理槽6にはCO
2含有ガスが供給され、アルカリ分(NaOH)の中和処理がなされる。
【0032】
次に、本発明の第二のエージング方法について説明する。
このエージング方法は、遊離CaO及び/又は遊離MgOを含有するスラグに対して、特定の水和促進剤を接触させた状態で、前記遊離CaO及び/又は遊離MgOを水和させるエージング処理を行う工程(A)と、この工程(A)を経たCaO及び/又はMgOの水和物を含有するスラグに対して、特定の炭酸化促進剤を接触させた状態で、前記水和物を炭酸化させるエージング処理を行う工程(B)を有するものである。以下、説明の便宜上、遊離CaOを「CaO」、遊離MgOを「MgO」という。
【0033】
工程(A)で行うエージング処理は、上述した本発明の第一のエージング方法と基本的に同じである。すなわち、水和促進剤としてNaOH、KOH、NH3の中から選ばれる1種以上を用い、この水和促進剤は、さきに挙げた(1a)~(7b)式のとおりスラグ中のCaO、MgO(CaO及び/又はMgO)の水和を促進させる。また、エージング処理の種類、エージング処理において水和促進剤をスラグに接触させる方法、水和促進剤の添加量、水和促進剤を繰り返し再利用する方法、エージング処理の処理温度及びエージング期間なども、上述した本発明の第一のエージング方法と同様である。
【0034】
工程(A)では、本発明の第一のエージング方法と同様、水和促進剤はCaO、MgOの水和反応には消費されないので、繰り返し再利用することが可能である。したがって、温水エージングの場合には、水和促進剤を含む温水を繰り返し使用することができるため、本発明の工程(A)で実施されるエージング処理は温水エージングが特に好ましい。すなわち、複数ロットのスラグを順次エージング処理する際に、エージング処理を温水エージングで行なえば、1つのロットのスラグの温水エージングに用いた溶液を、次にエージング処理するロットのスラグの温水エージングに用いること、つまりロット間での溶液の使い回しが可能となり、経済的なエージング処理を行うことができる。
【0035】
工程(B)では、炭酸化促進剤として炭酸塩、炭酸水素塩の中から選ばれる1種以上を用い、この炭酸化促進剤は、工程(A)を経たスラグ中のCaO、MgOの水和物、すなわちCa(OH)2、Mg(OH)2(Ca(OH)2及び/又はMg(OH)2)と反応し、当該水和物の炭酸化を促進させる。
炭酸塩、炭酸水素塩の種類は特に制限はないが、例えば、炭酸塩としては炭酸ナトリウム(Na2CO3)、炭酸アンモニウム((NH4)2CO3)、炭酸カリウム(K2CO3)などが挙げられ、また、炭酸水素塩としては炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)、炭酸水素アンモニウム(NH4HCO3)、炭酸水素カリウム(KHCO3)などが挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。
【0036】
工程(B)では、炭酸化促進剤として上記の炭酸塩や炭酸水素塩を用いた場合、スラグ中のCa(OH)2、Mg(OH)2と炭酸化促進剤との反応により、工程(A)で用いた水和促進剤に相当する成分(例えばNaOH、KOHなど)が生成する。本発明の第一のエージング方法において述べたように、この成分はスラグに付着したままでも特に問題はないが、工程(B)のエージング処理中又は/及びエージング処理終了後に、スラグ中又はスラグを浸漬した温水中にCO2を吹き込み、上記成分(例えばNaOH、KOHなど)とCO2を反応させることにより炭酸化促進剤を再生させることができる。このCO2の吹込みは、工程(B)用の処理槽で行ってもよいし、別に用意された炭酸化促進剤再生槽で行ってもよい。このように炭酸化促進剤を再生して使用できるため、炭酸化促進剤の添加量が比較的少量であっても所望の効果が得られ、また、炭酸化促進剤を繰り返し再利用することができる利点がある。その具体的な手法については、後に詳述する。
【0037】
ここで、炭酸化促進剤がNa2CO3の場合、このNa2CO3は下記(8a)、(8b)式のとおりスラグ中のCa(OH)2、Mg(OH)2と反応し、Ca(OH)2、Mg(OH)2の炭酸化が促進される。なお、工程(A)を経た後にも未反応のCaOやMgOが残存する場合があり、その場合には下記(8c)、(8d)式の反応により炭酸化が促進される。
Ca(OH)2+Na2CO3 → CaCO3+2NaOH …(8a)
Mg(OH)2+Na2CO3 → MgCO3+2NaOH …(8b)
CaO+H2O+Na2CO3 → CaCO3+2NaOH …(8c)
MgO+H2O+Na2CO3 → MgCO3+2NaOH …(8d)
【0038】
また、上記(8a)~(8d)式の反応によりNaOHが生成するが、この工程(B)のエージング処理中又は/及びエージング処理終了後に、スラグ中又はスラグを浸漬した温水中にCO2を吹き込むことにより、下記(9)式に示すとおり炭酸化促進剤(Na2CO3)を再生させることができ、このCO2吹き込みを行う場合のエージング処理の総括反応は、下記(10a)、(10b)式のとおりとなる。
2NaOH+CO2 → Na2CO3+H2O …(9)
Ca(OH)2+CO2 → CaCO3+H2O …(10a)
Mg(OH)2+CO2 → MgCO3+H2O …(10b)
【0039】
また、炭酸化促進剤がK2CO3の場合、このK2CO3は下記(11a)、(11b)式のとおりスラグ中のCa(OH)2、Mg(OH)2と反応し、Ca(OH)2、Mg(OH)2の炭酸化が促進される。また、工程(A)を経た後にも未反応のCaOやMgOが残存する場合には、下記(11c)、(11d)式の反応により炭酸化が促進される。
Ca(OH)2+K2CO3 → CaCO3+2KOH …(11a)
Mg(OH)2+K2CO3 → MgCO3+2KOH …(11b)
CaO+H2O+K2CO3 → CaCO3+2KOH …(11c)
MgO+H2O+K2CO3 → MgCO3+2KOH …(11d)
【0040】
また、上記(11a)~(11d)式の反応によりKOHが生成するが、この工程(B)のエージング処理中又は/及びエージング処理終了後に、スラグ中又はスラグを浸漬した温水中にCO2を吹き込むことにより、下記(12)式に示すとおり炭酸化促進剤(K2CO3)を再生させることができ、このCO2吹き込みを行う場合のエージング処理の総括反応は、下記(13a)、(13b)式のとおりとなる。
2KOH+CO2 → K2CO3+H2O …(12)
Ca(OH)2+CO2 → CaCO3+H2O …(13a)
Mg(OH)2+CO2 → MgCO3+H2O …(13b)
【0041】
また、炭酸化促進剤が(NH4)2CO3の場合、この(NH4)2CO3は下記(14a)、(14b)式のとおりスラグ中のCa(OH)2、Mg(OH)2と反応し、Ca(OH)2、Mg(OH)2の炭酸化が促進される。また、工程(A)を経た後にも未反応のCaOやMgOが残存する場合には、下記(14c)、(14d)式の反応により炭酸化が促進される。
Ca(OH)2+(NH4)2CO3 → CaCO3+2NH3+2H2O …(14a)
Mg(OH)2+(NH4)2CO3 → MgCO3+2NH3+2H2O …(14b)
CaO+H2O+(NH4)2CO3 → CaCO3+2NH3+2H2O …(14c)
MgO+H2O+(NH4)2CO3 → MgCO3+2NH3+2H2O …(14d)
【0042】
また、上記(14a)~(14d)式の反応によりNH3が生成するが、この工程(B)のエージング処理中又は/及びエージング処理終了後に、スラグ中又はスラグを浸漬した温水中にCO2を吹き込むことにより、下記(15)式に示すとおり炭酸化促進剤((NH4)2CO3)を再生させることができ、このCO2吹き込みを行う場合のエージング処理の総括反応は、下記(16a)、(16b)式のとおりとなる。
2NH3+H2O+CO2 → (NH4)2CO3 …(15)
Ca(OH)2+CO2 → CaCO3+H2O …(16a)
Mg(OH)2+CO2 → MgCO3+H2O …(16b)
【0043】
また、炭酸化促進剤がNaHCO3の場合、このNaHCO3は下記(17a)、(17b)式のとおりスラグ中のCa(OH)2、Mg(OH)2と反応し、Ca(OH)2、Mg(OH)2の炭酸化が促進される。また、工程(A)を経た後にも未反応のCaOやMgOが残存する場合には、下記(17c)、(17d)式の反応により炭酸化が促進される。
Ca(OH)2+NaHCO3 → CaCO3+NaOH+H2O …(17a)
Mg(OH)2+NaHCO3 → MgCO3+NaOH+H2O …(17b)
CaO+H2O+NaHCO3 → CaCO3+NaOH+H2O …(17c)
MgO+H2O+NaHCO3 → MgCO3+NaOH+H2O …(17d)
【0044】
また、上記(17a)~(17d)式の反応によりNaOHが生成するが、この工程(B)のエージング処理中又は/及びエージング処理終了後に、スラグ中又はスラグを浸漬した温水中にCO2を吹き込むことにより、下記(18-1)、(18-2)式に示すとおり炭酸化促進剤(NaHCO3)を再生させることができ、このCO2吹き込みを行う場合のエージング処理の総括反応は、下記(19a)、(19b)式のとおりとなる。
2NaOH+CO2 → Na2CO3+H2O …(18-1)
Na2CO3+CO2+H2O → 2NaHCO3 …(18-2)
Ca(OH)2+CO2 → CaCO3+H2O …(19a)
Mg(OH)2+CO2 → MgCO3+H2O …(19b)
【0045】
また、炭酸化促進剤がKHCO3の場合、このKHCO3は下記(20a)、(20b)式のとおりスラグ中のCa(OH)2、Mg(OH)2と反応し、Ca(OH)2、Mg(OH)2の炭酸化が促進される。また、工程(A)を経た後にも未反応のCaOやMgOが残存する場合には、下記(20c)、(20d)式の反応により炭酸化が促進される。
Ca(OH)2+KHCO3 → CaCO3+KOH+H2O …(20a)
Mg(OH)2+KHCO3 → MgCO3+KOH+H2O …(20b)
CaO+H2O+KHCO3 → CaCO3+KOH+H2O …(20c)
MgO+H2O+KHCO3 → MgCO3+KOH+H2O …(20d)
【0046】
また、上記(20a)~(20d)式の反応によりKOHが生成するが、この工程(B)のエージング処理中又は/及びエージング処理終了後に、スラグ中又はスラグを浸漬した温水中にCO2を吹き込むことにより、下記(21-1)、(21-2)式に示すとおり炭酸化促進剤(KHCO3)を再生させることができ、このCO2吹き込みを行う場合のエージング処理の総括反応は、下記(22a)、(22b)式のとおりとなる。
2KOH+CO2 → K2CO3+H2O …(21-1)
K2CO3+CO2+H2O → 2KHCO3 …(21-2)
Ca(OH)2+CO2 → CaCO3+H2O …(22a)
Mg(OH)2+CO2 → MgCO3+H2O …(22b)
【0047】
また、炭酸化促進剤がNH4HCO3の場合、このNH4HCO3は下記(23a)、(23b)式のとおりスラグ中のCa(OH)2、Mg(OH)2と反応し、Ca(OH)2、Mg(OH)2の炭酸化が促進される。また、工程(A)を経た後にも未反応のCaOやMgOが残存する場合には、下記(23c)、(23d)式の反応により炭酸化が促進される。
Ca(OH)2+NH4HCO3 → CaCO3+NH3+2H2O …(23a)
Mg(OH)2+NH4HCO3 → MgCO3+NH3+2H2O …(23b)
CaO+H2O+NH4HCO3 → CaCO3+NH3+2H2O …(23c)
MgO+H2O+NH4HCO3 → MgCO3+NH3+2H2O …(23d)
【0048】
また、上記(23a)~(23d)式の反応によりNH3が生成するが、この工程(B)のエージング処理中又は/及びエージング処理終了後に、スラグ中又はスラグを浸漬した温水中にCO2を吹き込むことにより、下記(24-1)、(24-2)式に示すとおり炭酸化促進剤(NH4HCO3)を再生させることができ、このCO2吹き込みを行う場合のエージング処理の総括反応は、下記(25a)、(25b)式のとおりとなる。
2NH3+H2O+CO2 → (NH4)2CO3 …(24-1)
(NH4)2CO3+H2O+CO2 → 2NH4HCO3 …(24-2)
Ca(OH)2+CO2 → CaCO3+H2O …(25a)
Mg(OH)2+CO2 → MgCO3+H2O …(25b)
【0049】
工程(B)のエージング処理は、温水エージング、蒸気エージング、大気エージングなどのいずれでもよい。
工程(B)のエージング処理において、炭酸化促進剤をスラグに接触させる方法は任意であるが、温水エージングの場合には、温水に炭酸化促進剤を添加し、この炭酸化促進剤を含む温水によりスラグをエージング処理すればよい。また、蒸気エージングや大気エージングの場合には、(i)炭酸化促進剤を含む溶液(水溶液など)をスラグに散布する、(ii)スラグに炭酸化促進剤を混合する、(iii)炭酸化促進剤を含む溶液(水溶液など)にスラグを一時的に浸漬する、などのような方法を採ればよい。
【0050】
上述したように、工程(B)におけるスラグ中のCa(OH)2、Mg(OH)2と炭酸化促進剤(特定の炭酸塩、炭酸水素塩)との反応により、工程(A)で用いた水和促進剤に相当する成分(例えばNaOH、KOHなど)が生成するが、工程(B)のエージング処理中(エージング期間の少なくとも一部)又は/及びエージング処理終了後に、スラグ中又はスラグを浸漬した温水中にCO2を吹き込み、上記成分(例えばNaOH、KOHなど)とCO2を反応させることにより、当該炭酸化促進剤を再生させることができる。このようにスラグ又は温水中にCO2の吹き込みを行うことにより、炭酸化促進剤を再生させつつ処理を行うことができるので、炭酸化促進剤を比較的少量の添加量とすることができ、また、炭酸化促進剤を繰り返し再利用することができる。
【0051】
したがって、工程(B)のエージング処理を温水エージングで行う場合には、エージング処理中又は/及びエージング処理終了後に温水中にCO2を吹き込むだけで炭酸化促進剤を再生させることができ、この炭酸化促進剤を含む温水を繰り返し再利用することができるため特に有利である。この観点からは、エージング処理は温水エージングが特に好ましい。すなわち、複数ロットのスラグを順次エージング処理する際に、エージング処理を温水エージングで行なえば、1つのロットのスラグの温水エージングに用いた溶液(エージング処理中又は/及びエージング処理終了後にCO2を吹き込んだ溶液)を、次にエージング処理するロットのスラグの温水エージングに用いること、つまりロット間での溶液の使い回しが可能となり、経済的なエージング処理を行うことができる。
【0052】
一方、工程(B)のエージング処理を蒸気エージングや大気エージングで行う場合において、炭酸化促進剤を再生させ、これを再利用するには、工程(B)のエージング処理中又は/及びエージング処理終了後に、スラグ中にCO2を吹き込むことで炭酸化促進剤を再生させた後、処理を終えたスラグに付着した炭酸化促進剤を水などで洗い流し、炭酸化促進剤を回収すればよい。
工程(B)においてスラグ中又は温水中にCO2(ガス)を吹き込むには、CO2含有ガス(例えば、冶金炉排ガス、燃焼排ガス、石灰焼成炉排ガスなど)を用いてもよい。CO2含有ガスのCO2濃度は特に制限はないが、処理効率上、CO2濃度が10vol%以上のCO2含有ガスを用いることが好ましい。
また、スラグ中にCO2(CO2含有ガスの場合を含む)を吹き込むには、例えば、吹き込みノズルを備えた蒸気配管が敷設された着生床の上にスラグを積み付け、蒸気配管の吹き込みノズルからスラグ層にCO2を吹き込むなどの方法を採ることができる。
【0053】
炭酸化促進剤の添加量に特別な制限はないが、炭酸化促進剤はスラグ中に含まれる遊離CaOや遊離MgO以外の可溶性CaOや可溶性MgOとも反応するので、その点を考慮しつつ、処理効率の面から適宜決めればよい。
スラグ中の可溶性CaO、可溶性MgO(水和し得るCaO、MgO)の含有量は、例えば、以下のような測定方法で求めることができる。
粒径0.075mm以下に粉砕したスラグ2gに蒸留水5gを加え、180℃のオートクレーブで24時間養生する。この処理により水和し得るCaO、MgOを全てCa(OH)2、Mg(OH)2に変換させる。この水和処理したスラグについて、以下のような熱重量分析を行う。この熱重量分析の条件は、温度範囲は常温~600℃、昇温速度は10℃/分、アルゴン雰囲気で流量は200mL/分とする。300-400℃での質量減少をMg(OH)2の脱水反応、400-500℃での質量減少をCa(OH)2の脱水反応によるものと考え、下記のように水和可能CaO量(可溶性CaO量)、水和可能MgO量(可溶性MgO量)を算出する。
水和可能MgO(mass%)=W300-400*40.3/18.0
水和可能CaO(mass%)=W400-500*56.1/18.0
ここで W300-400:300-400℃での脱水量(mass%)
W400-500:400-500℃での脱水量(mass%)
【0054】
工程(B)のエージング処理の処理温度(炭酸化反応温度)に特別な制限はないが、20~80℃程度が好ましく、40~60℃程度がより好ましい。したがって、この処理温度の点からも、エージング処理は温水エージングが好ましい。
工程(B)のエージング処理の処理時間に特別な制限はないが、通常、スラグ中のCa(OH)2、Mg(OH)2の炭酸化が十分に進み、スラグの膨張抑制(水浸膨張比の低減)及びスラグからの高アルカリ水の溶出抑制(スラグ溶出水のpH低減)を達成できるように設定される。例えば、水浸膨張比(測定方法は実施例参照)1.0%以下、タンクリーチング試験で測定されるpH(測定方法は実施例参照)10.0以下を達成できるように処理時間が設定される。本発明のエージング方法によれば、従来法(単純な温水エージングや蒸気エージング)に較べてエージング期間を大幅に短縮できる利点がある。
【0055】
工程(A)、(B)のエージング処理を実施する設備に特別な制限はなく、温水エージング、蒸気エージングなどを行う公知の設備を使用できるが、さきに述べたように、(i)工程(A)では、水和促進剤はCaO、MgOの水和反応には消費されないので、温水エージングの場合には、水和促進剤を含む温水を繰り返し再利用することができる、(ii)工程(B)では、温水エージングの場合には、エージング処理中又は/及びエージング処理終了後に温水中にCO2を吹き込むだけで炭酸化促進剤を再生させることができ、この炭酸化促進剤を含む温水を繰り返し再利用することができる、という点からして、工程(A)のエージング処理と工程(B)のエージング処理は、それぞれ専用の処理槽を用いた温水エージングで行うことが特に好ましい。これにより、複数ロットのスラグを順次エージング処理する際に、工程(A)、(B)のそれぞれの温水エージングにおいて、1つのロットのスラグの温水エージングに用いた溶液を、次にエージング処理するロットのスラグの温水エージングに用いること、すなわちロット間での溶液の使い回しが可能となり、経済的なエージング処理を行うことができる。
【0056】
図2は、このエージング方法の一実施形態の処理フローを模式的に示したものであり、この実施形態では、工程(A)のエージング処理と工程(B)のエージング処理を、それぞれ専用の処理槽を用いた温水エージングで行うものである。以下、処理対象がCaOを含有するスラグであり、工程(A)において水和促進剤としてNaOHを用い、工程(B)において炭酸化促進剤としてNa
2CO
3を用いる場合を例に説明する。
水和処理槽1では、温水中に水和促進剤としてNaOHが添加される。この水和処理層1にCaOを含有するスラグが投入され、工程(A)のエージング処理(温水エージング)が行われる。この工程(A)では、上述した(1a)、(2)、(3a)式の反応によりCaOが水和してCa(OH)
2が生じるが、水和促進剤として添加したNaOHは触媒的な働きをし、反応に消費されることはない。したがって、この水和促進剤を含む温水は、次のロットのスラグの温水エージングにそのまま使用することができる。この場合、新規な水和促進剤の投入は、不可避的に系外に持ち出される分を補充する程度でよい。
【0057】
工程(A)を終えたCa(OH)2を含有するスラグは炭酸化処理槽2に移され、ここで工程(B)のエージング処理(温水エージング)が行われる。炭酸化処理槽2では、温水中に炭酸化促進剤としてNa2CO3が添加され、スラグ中のCa(OH)2が炭酸化してCaCO3が生じる。また、この工程(B)では、Ca(OH)2の炭酸化のために消費された炭酸化促進剤(Na2CO3)を再生させるために、エージング処理中及び/又はエージング処理終了後に温水中にCO2を吹き込む。
【0058】
この工程(B)では、上述した(8a)、(9)、(10a)式(場合により、さらに(8c)式)の反応が生じる。炭酸化促進剤の作用によってスラグ中のCa(OH)2の炭酸化が促進されるとともに、その炭酸化反応で生成したNaOHが、温水中に吹き込まれたCO2と反応して炭酸化促進剤(Na2CO3)が再生される。このため炭酸化促進剤の添加量は比較的少量でよく、また、炭酸化促進剤(Na2CO3)が再生された温水は、次のロットのスラグの温水エージングにそのまま使用することができる。この場合、新規な炭酸化促進剤の投入は、不可避的に系外に持ち出される分を補充する程度でよい。
【0059】
炭酸化促進剤(Na
2CO
3)を再生させるためのCO
2の吹込みは、炭酸化処理槽2内でガス吹込み手段を用いて行ってもよいが(この場合のガス吹込み手段7を図中に仮想線で示す)、本実施形態では、専用の炭酸化促進剤再生槽3でCO
2の吹込みを行っている。すなわち、炭酸化処理槽2内の液(温水)を抜き出して炭酸化促進剤再生槽3に供給し(経路16a)、この炭酸化促進剤再生槽3にCO
2含有ガスを供給することで炭酸化促進剤を再生させる。そして、この炭酸化促進剤の再生処理をした液(炭酸化促進剤溶液)を貯留槽4に貯留し、必要に応じて新たな炭酸化促進剤を加えて濃度調整した後、炭酸化処理槽2に供給する(経路16b)。
なお、
図2の実施形態とは異なり、温水中にCO
2を吹き込まない場合には、処理中に炭酸化促進剤(Na
2CO
3)が再生されないので、炭酸化促進剤は相応の添加量が必要となる。
工程(B)を終えたスラグは炭酸化処理槽2から取り出され、脱水槽5で脱水処理された後、中和処理槽6で付着水のアルカリ分(NaOH)の中和処理がなされ、製品スラグとなる。中和処理槽6には、炭酸化促進剤再生槽3を出たCO
2含有ガスが供給され、アルカリ分(NaOH)の中和処理がなされる。
【0060】
次に、本発明の第三のエージング方法について説明する。
このエージング方法は、遊離CaO及び/又は遊離MgOを含有するスラグに対して、特定の水和促進剤を接触させた状態で、前記遊離CaO及び/又は遊離MgOを水和させるエージング処理を行う工程(A)と、この工程(A)の終了後に残存した水和促進剤をCO2と接触させて炭酸化することにより、炭酸塩、炭酸水素塩の中から選ばれる1種以上を生成させ、工程(A)を経たCaO及び/又はMgOの水和物を含有するスラグに対して、当該生成物を炭酸化促進剤として接触させた状態で、前記水和物を炭酸化させるエージング処理を行う工程(B)を有するものである。以下、説明の便宜上、遊離CaOを「CaO」、遊離MgOを「MgO」という。
【0061】
工程(A)で行うエージング処理は、上述した本発明の第一及び第二のエージング方法と基本的に同じである。すなわち、水和促進剤としてNaOH、KOH、NH3の中から選ばれる1種以上を用い、この水和促進剤は、さきに挙げた(1a)~(7b)式のとおりスラグ中のCaO、MgO(CaO及び/又はMgO)の水和を促進させる。また、エージング処理の種類、エージング処理において水和促進剤をスラグに接触させる方法、水和促進剤の添加量、エージング処理の処理温度及びエージング期間なども、上述した本発明の第一及び第二のエージング方法と同様である。
【0062】
工程(A)では、本発明の第二のエージング方法と同様、水和促進剤はCaO、MgOの水和反応には消費されずに残存するが、続いて行われる工程(B)では、この残存した水和促進剤から炭酸化促進剤が生成されるとともに、この炭酸化促進剤が工程(A)を経たスラグ中のCa(OH)2、Mg(OH)2(Ca(OH)2及び/又はMg(OH)2)と反応する結果、再び水和促進剤が生成し、これを繰り返し再利用することが可能である。したがって、温水エージングの場合には、その水和促進剤を含む温水を繰り返し再利用することができるため、工程(A)、(B)で実施されるエージング処理は、温水エージングが特に好ましい。すなわち、複数ロットのスラグを順次エージング処理する際に、工程(A)、(B)のエージング処理を温水エージングで順次行なえば、1つのロットのスラグに対する工程(B)の温水エージングに用いた溶液を、次にエージング処理するロットのスラグに対する工程(A)の温水エージングに用いること、つまりロット間での溶液の使い回しが可能となり、経済的なエージング処理を行うことができる。
【0063】
上述したように、工程(A)では水和促進剤はCaO、MgOの水和反応には消費されず、同工程終了後もそのまま残存する。工程(B)では、工程(A)の終了後に残存した水和促進剤(例えばNaOH、KOHなど)をCO2と接触(反応)させて炭酸化することにより、炭酸塩、炭酸水素塩の中から選ばれる1種以上を生成させる。そして、この生成物は炭酸化促進剤として、工程(A)を経たスラグ中のCaO、MgOの水和物、すなわちCa(OH)2、Mg(OH)2(Ca(OH)2及び/又はMg(OH)2)と反応し、当該水和物の炭酸化を促進させる。
【0064】
工程(A)で使用される水和促進剤は、NaOH、KOH、NH3の1種以上であるので、これとCO2を反応(炭酸化反応)させて生成する炭酸塩又は炭酸水素塩(炭酸化促進剤)は、炭酸ナトリウム(Na2CO3)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)、炭酸カリウム(K2CO3)、炭酸水素カリウム(KHCO3)、炭酸アンモニウム((NH4)2CO3)、炭酸水素アンモニウム(NH4HCO3)の1種以上である。なお、水和促進剤の炭酸化は炭酸塩、炭酸水素塩の順で進行する。
工程(A)の終了後に残存した水和促進剤をCO2と接触させて炭酸化するために、通常、スラグ中又はスラグを浸漬した温水中にCO2(ガス)を吹き込む。このCO2の吹込みは当該エージング処理槽で行ってもよいし、別に用意された炭酸化促進剤生成槽で行ってもよい。
スラグ中又は温水中にCO2(ガス)を吹き込むには、CO2含有ガス(例えば、冶金炉排ガス、燃焼排ガス、石灰焼成炉排ガスなど)を用いてもよい。CO2含有ガスのCO2濃度は特に制限はないが、処理効率上、CO2濃度が10vol%以上のCO2含有ガスを用いることが好ましい。
スラグ中又はスラグを浸漬した温水中にCO2を吹き込む方法は、上述した本発明の第二のエージング方法と同様である。
【0065】
ここで、工程(A)で使用される水和促進剤がNaOHの場合、工程(B)でスラグ中又はスラグを浸漬した温水中にCO2を吹き込むことにより、下記(26)、(27)式に示すとおり炭酸化促進剤となるNa2CO3及び/又はNaHCO3が生成する。なお、下記(26)、(27)式に示すとおり、NaOHの炭酸化は炭酸塩、炭酸水素塩の順で進行し、その炭酸化の進行の程度はCO2供給量と時間で決まるため、炭酸塩が生成しても炭酸水素塩は生成しないこともある。
2NaOH+CO2 → Na2CO3+H2O …(26)
Na2CO3+CO2+H2O → 2NaHCO3 …(27)
【0066】
このように生成したNa2CO3及び/又はNaHCO3は、下記(28a)、(28b)、(29a)、(29b)式のとおりスラグ中のCa(OH)2、Mg(OH)2と反応し、Ca(OH)2、Mg(OH)2の炭酸化が促進される。なお、工程(A)を経た後にも未反応のCaOやMgOが残存する場合があり、その場合には下記(28c)、(28d)、(29c)、(29d)式の反応により炭酸化が促進される。
Ca(OH)2+Na2CO3 → CaCO3+2NaOH …(28a)
Mg(OH)2+Na2CO3 → MgCO3+2NaOH …(28b)
CaO+H2O+Na2CO3 → CaCO3+2NaOH …(28c)
MgO+H2O+Na2CO3 → MgCO3+2NaOH …(28d)
Ca(OH)2+NaHCO3 → CaCO3+NaOH+H2O …(29a)
Mg(OH)2+NaHCO3 → MgCO3+NaOH+H2O …(29b)
CaO+H2O+NaHCO3 → CaCO3+NaOH+H2O …(29c)
MgO+H2O+NaHCO3 → MgCO3+NaOH+H2O …(29d)
よって、工程(B)でのエージング処理の総括反応は、下記(30a)、(30b)式のとおりとなる。
Ca(OH)2+CO2 → CaCO3+H2O …(30a)
Mg(OH)2+CO2 → MgCO3+H2O …(30b)
【0067】
また、工程(A)で使用される水和促進剤がKOHの場合、工程(B)でスラグ中又はスラグを浸漬した温水中にCO2を吹き込むことにより、下記(31)、(32)式に示すとおり炭酸化促進剤となるK2CO3及び/又はKHCO3が生成する。なお、下記(31)、(32)式に示すとおり、KOHの炭酸化は炭酸塩、炭酸水素塩の順で進行し、その炭酸化の進行の程度はCO2供給量と時間で決まるため、炭酸塩が生成しても炭酸水素塩は生成しないこともある。
2KOH+CO2 → K2CO3+H2O …(31)
K2CO3+CO2+H2O→ 2KHCO3 …(32)
【0068】
このように生成したK2CO3及び/又はKHCO3は、下記(33a)、(33b)、(34a)、(34b)式のとおりスラグ中のCa(OH)2、Mg(OH)2と反応し、Ca(OH)2、Mg(OH)2の炭酸化が促進される。また、工程(A)を経た後にも未反応のCaOやMgOが残存する場合には、下記(33c)、(33d)、(34c)、(34d)式の反応により炭酸化が促進される。
Ca(OH)2+K2CO3 → CaCO3+2KOH …(33a)
Mg(OH)2+K2CO3 → MgCO3+2KOH …(33b)
CaO+H2O+K2CO3 → CaCO3+2KOH …(33c)
MgO+H2O+K2CO3 → MgCO3+2KOH …(33d)
Ca(OH)2+KHCO3 → CaCO3+KOH+H2O …(34a)
Mg(OH)2+KHCO3 → MgCO3+KOH+H2O …(34b)
CaO+H2O+KHCO3 → CaCO3+KOH+H2O …(34c)
MgO+H2O+KHCO3 → MgCO3+KOH+H2O …(34d)
よって、工程(B)でのエージング処理の総括反応は、下記(35a)、(35b)式のとおりとなる。
Ca(OH)2+CO2 → CaCO3+H2O …(35a)
Mg(OH)2+CO2 → MgCO3+H2O …(35b)
【0069】
また、工程(A)で使用される水和促進剤がNH3の場合、工程(B)でスラグ中又はスラグを浸漬した温水中にCO2を吹き込むことにより、下記(36)、(37)式に示すとおり炭酸化促進剤となる(NH4)2CO3及び/又はNH4HCO3が生成する。なお、下記(36)、(37)式に示すとおり、NH3の炭酸化は炭酸塩、炭酸水素塩の順で進行し、その炭酸化の進行の程度はCO2供給量と時間で決まるため、炭酸塩が生成しても炭酸水素塩は生成しないこともある。
2NH3+H2O+CO2 → (NH4)2CO3 …(36)
(NH4)2CO3+H2O+CO2 → 2NH4HCO3 …(37)
【0070】
このように生成した(NH4)2CO3及び/又はNH4HCO3は、下記(38a)、(38b)、(39a)、(39b)式のとおりスラグ中のCa(OH)2、Mg(OH)2と反応し、Ca(OH)2、Mg(OH)2の炭酸化が促進される。また、工程(A)を経た後にも未反応のCaOやMgOが残存する場合には、下記(38c)、(38d)、(39c)、(39d)式の反応により炭酸化が促進される。
Ca(OH)2+(NH4)2CO3 → CaCO3+2NH3+2H2O …(38a)
Mg(OH)2+(NH4)2CO3 → MgCO3+2NH3+2H2O …(38b)
CaO+H2O+(NH4)2CO3 → CaCO3+2NH3+2H2O …(38c)
MgO+H2O+(NH4)2CO3 → MgCO3+2NH3+2H2O …(38d)
Ca(OH)2+NH4HCO3 → CaCO3+NH3+2H2O …(39a)
Mg(OH)2+NH4HCO3 → MgCO3+NH3+2H2O …(39b)
CaO+H2O+NH4HCO3 → CaCO3+NH3+2H2O …(39c)
MgO+H2O+NH4HCO3 → MgCO3+NH3+2H2O …(39d)
よって、工程(B)でのエージング処理の総括反応は、下記(40a)、(40b)式のとおりとなる。
Ca(OH)2+CO2 → CaCO3+H2O …(40a)
Mg(OH)2+CO2 → MgCO3+H2O …(40b)
【0071】
工程(A)、(B)のエージング処理は、温水エージング、蒸気エージング、大気エージングなどのいずれでもよいが、上述したように温水エージングが特に好ましい。すなわち、工程(B)では、生成した炭酸化促進剤がスラグ中のCa(OH)2、Mg(OH)2と反応して再び水和促進剤が生成し、これを繰り返し再利用することが可能であり、温水エージングの場合には、その水和促進剤を含む温水を繰り返し再利用することができるからである。
工程(A)、(B)のエージング処理において、水和促進剤(及びこの水和促進剤から生成する炭酸化促進剤)をスラグに接触させる方法は任意であるが、温水エージングの場合には、水和促進剤(及びこの水和促進剤から生成する炭酸化促進剤)を含む温水によりスラグをエージング処理すればよい。また、蒸気エージングや大気エージングの場合には、工程(A)を行うにあたり、(i)水和促進剤を含む溶液(水溶液など)をスラグに散布する、(ii)スラグに水和促進剤を混合する、(iii)水和促進剤を含む溶液(水溶液など)にスラグを一時的に浸漬する、などのような方法を採ればよい。
【0072】
また、エージング処理を蒸気エージングや大気エージング行う場合において、水和促進剤を再利用するには、工程(B)のエージング処理を終えたスラグに付着した水和促進剤を水などで洗い流し、水和促進剤を回収すればよい。一方、水和促進剤を回収・再利用しない場合には、水和促進剤成分がスラグに付着したままになるが、この水和促進剤成分は大気中のCO2で自然に炭酸化されるので問題はない。また、スラグを早期に出荷する場合には、CO2を吹き込むなどして水和促進剤成分を強制的にCO2で炭酸化(中和処理)させてもよい。
【0073】
工程(B)のエージング処理の処理温度(炭酸化反応温度)に特別な制限はないが、20~80℃程度が好ましく、40~60℃程度がより好ましい。したがって、この処理温度の点からも、温水エージングが好ましい。
工程(B)のエージング処理の処理時間に特別な制限はないが、通常、スラグ中のCa(OH)2、Mg(OH)2の炭酸化が十分に進み、スラグの膨張抑制(水浸膨張比の低減)及びスラグからの高アルカリ水の溶出抑制(スラグ溶出水のpH低減)を達成できるように設定される。例えば、水浸膨張比(測定方法は実施例参照)1.0%以下、タンクリーチング試験で測定されるpH(測定方法は実施例参照)10.0以下を達成できるように処理時間が設定される。本発明のエージング方法によれば、従来法(単純な温水エージングや蒸気エージング)に較べてエージング期間を大幅に短縮できる利点がある。
工程(A)、(B)のエージング処理を実施する設備に特別な制限はなく、温水エージング、蒸気エージングなどを行う公知の設備を使用できるが、さきに述べたように、工程(A)、(B)を温水エージングで行うことが好ましいことから、1つの処理槽に入れられたスラグに対して、工程(A)のエージング処理と工程(B)のエージング処理を、それぞれ温水エージングにより順次行うようにすることが好ましい。
【0074】
図3は、このエージング方法の一実施形態の処理フローを模式的に示したものであり、この実施形態では、1つの処理槽8において、工程(A)のエージング処理と工程(B)のエージング処理を温水エージングで順次行うものである。以下、処理対象がCaOを含有するスラグであり、工程(A)において水和促進剤としてNaOHを用いる場合を例に説明する。
処理槽8では、温水中に水和促進剤としてNaOHが添加される。この処理層8にCaOを含有するスラグが投入され、工程(A)のエージング処理(温水エージング)が行われる。この工程(A)では、上述した(1a)、(2)、(3a)式の反応によりCaOが水和してCa(OH)
2が生じるが、水和促進剤として添加したNaOHは触媒的な働きをし、反応に消費されることはない。
【0075】
次いで、工程(B)では、温水中にCO2を吹き込み、NaOHを炭酸化させてNa2CO3を生成させる。そして、このNa2CO3を炭酸化促進剤としてエージング処理(温水エージング)が行われ、スラグ中のCa(OH)2が炭酸化してCaCO3が生じる。この工程(B)では、上述した(26)、(28a)、(30a)式(場合により、さらに(28c)式)の反応が生じる。この工程(B)の温水エージングでは、水和促進剤となるNaOHが再生成するので、この水和促進剤を含む温水は、次のロットのスラグの温水エージングにそのまま使用することができる。この場合、新規な水和促進剤の投入は、不可避的に系外に持ち出される分を補充する程度でよい。
【0076】
NaOHを炭酸化させてNa2CO3を生成させるためのCO2の吹込みは、処理槽8内でガス吹込み手段を用いて行ってもよいが(この場合のガス吹込み手段11を図中に仮想線で示す)、本実施形態では、専用の炭酸化促進剤生成槽9でCO2の吹込みを行っている。すなわち、処理槽8内の液(温水)を抜き出して炭酸化促進剤生成槽9に供給し(経路17a)、この炭酸化促進剤生成槽9にCO2含有ガスを供給することで炭酸化促進剤を生成させる。そして、この炭酸化促進剤の生成処理をした液(炭酸化促進剤溶液)を貯留槽10に貯留し、必要に応じて、別に用意された炭酸化促進剤を加えて濃度調整した後、処理槽8に供給する(経路17b)。
工程(B)を終えたスラグは処理槽8から取り出され、脱水槽5で脱水処理された後、中和処理槽6で付着水のアルカリ分(NaOH)の中和処理がなされ、製品スラグとなる。中和処理槽6には、炭酸化促進剤生成槽9を出たCO2含有ガスが供給され、アルカリ分(NaOH)の中和処理がなされる。
【0077】
次に、本発明の第四のエージング方法について説明する。
このエージング方法は、上述した本発明の第三のエージング方法における工程(A)の反応と工程(B)の反応が同時並行して生じるようにしたものである。すなわち、遊離CaO及び/又は遊離MgOを含有するスラグに対して、特定の水和促進剤を接触させた状態で、スラグ中又はスラグが浸漬された温水中にCO2を吹き込むことにより、当該スラグに対して下記(i),(ii)の反応を伴うエージング処理を行うものである。
(i)遊離CaO及び/又は遊離MgOを水和させて水和物とする。
(ii)前記水和促進剤をCO2と接触させて炭酸化することにより、炭酸塩、炭酸水素塩の中から選ばれる1種以上を生成させ、該生成物を炭酸化促進剤として前記水和物を炭酸化させる。
以下、説明の便宜上、遊離CaOを「CaO」、遊離MgOを「MgO」という。
【0078】
このエージング方法において、上記(i)の反応によりCaO、MgO(CaO及び/又はMgO)の水和を促進させる点は、上述した本発明の第三のエージング方法の工程(A)(本発明の第一のエージング方法、第二のエージング方法の工程(A)も同様)と基本的に同じである。すなわち、水和促進剤としてNaOH、KOH、NH3の中から選ばれる1種以上を用い、この水和促進剤は、さきに挙げた(1a)~(7b)式のとおりスラグ中のCaO、MgOの水和を促進させる。また、エージング処理の種類、エージング処理において水和促進剤をスラグに接触させる方法、水和促進剤の添加量、エージング処理の処理温度及びエージング期間なども、上述した本発明の第三のエージング方法(及び第一、第二のエージング方法)と同様である。
【0079】
また、上記(ii)の反応により、上記CaO、MgOの水和物、すなわちCa(OH)2、Mg(OH)2(Ca(OH)2及び/又はMg(OH)2)の炭酸化を促進させる点は、上述した本発明の第三のエージング方法の工程(B)と基本的に同じである。すなわち、水和促進剤(例えばNaOH、KOHなど)をCO2と接触(反応)させて炭酸化することにより、炭酸塩、炭酸水素塩の中から選ばれる1種以上が生成し、この生成物は炭酸化促進剤として、上記(i)の反応で生成したCa(OH)2、Mg(OH)2と反応し、当該水和物の炭酸化を促進させる。
【0080】
さきに述べた本発明の第三のエージング方法の工程(A)では、水和促進剤はCaO、MgOの水和反応には消費されずに残存し、続いて行われる工程(B)では、この残存した水和促進剤から炭酸化促進剤が生成されるとともに、この炭酸化促進剤がCa(OH)2、Mg(OH)2と反応する(すなわちCa(OH)2、Mg(OH)2を炭酸化する)結果、再び水和促進剤が生成する。これに対して本エージング方法(本発明の第四のエージング方法)では、以上の反応が1つの処理工程において同時並行して進行する。このため、温水エージングの場合には、水和促進剤を含む温水を繰り返し再利用することができるため、エージング処理は温水エージングが特に好ましい。すなわち、複数ロットのスラグを順次エージング処理する際に、1つのロットのスラグに対する温水エージングに用いた溶液を、次にエージング処理するロットのスラグに対する温水エージングに用いること、つまりロット間での溶液の使い回しが可能となり、経済的なエージング処理を行うことができる。
【0081】
このエージング方法で使用される水和促進剤は、NaOH、KOH、NH3の1種以上であるので、これとCO2を反応(炭酸化反応)させて生成する炭酸塩又は炭酸水素塩(炭酸化促進剤)は、炭酸ナトリウム(Na2CO3)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)、炭酸カリウム(K2CO3)、炭酸水素カリウム(KHCO3)、炭酸アンモニウム((NH4)2CO3)、炭酸水素アンモニウム(NH4HCO3)の1種以上である。なお、水和促進剤の炭酸化は炭酸塩、炭酸水素塩の順で進行し、その炭酸化の進行の程度はCO2供給量と時間で決まるため、炭酸塩が生成しても炭酸水素塩は生成しないこともある。
【0082】
このエージング方法において、スラグ中又はスラグを浸漬した温水中へのCO2の吹込みは、当該エージング処理槽で行ってもよいし、別に用意された炭酸化促進剤生成槽で行ってもよい。
スラグ中又はスラグを浸漬した温水中にCO2(ガス)を吹き込むには、CO2含有ガス(例えば、冶金炉排ガス、燃焼排ガス、石灰焼成炉排ガスなど)を用いてもよい。CO2含有ガスのCO2濃度は特に制限はないが、処理効率上、CO2濃度が10vol%以上のCO2含有ガスを用いることが好ましい。
スラグ中又はスラグを浸漬した温水中にCO2を吹き込む方法は、上述した本発明の第二のエージング方法と同様である。
【0083】
以下、このエージング方法における上記(i)、(ii)の反応について、さきに挙げた化学反応式に基づき説明すると、このエージング方法で使用される水和促進剤がNaOHの場合、(1a)、(1b)、(2)、(3a)、(3b)式のとおりスラグ中のCaO、MgOの水和反応が生じ、CaO、MgOの水和が促進される。さらに、スラグ中又はスラグを浸漬した温水中にCO2を吹き込むことにより、(26)、(27)式に示すとおりNaOHと反応して炭酸化促進剤となるNa2CO3及び/又はNaHCO3が生成する(なお、(26)、(27)式に示すとおり、NaOHの炭酸化は炭酸塩、炭酸水素塩の順で進行し、その炭酸化の進行の程度はCO2供給量と時間で決まるため、炭酸塩が生成しても炭酸水素塩は生成しないこともある。)。このようにして生成したNa2CO3及び/又はNaHCO3は、(28a)、(28b)、(29a)、(29b)式のとおりスラグ中のCa(OH)2、Mg(OH)2と反応し、Ca(OH)2、Mg(OH)2の炭酸化が促進される。また、生成したNa2CO3及び/又はNaHCO3は、(28c)、(28d)、(29c)、(29d)式のとおり水和していない未反応のCaOやMgOとも反応し、それらの炭酸化が促進される。よって、上記(ii)における総括反応は、(30a)、(30b)式のとおりとなる。
【0084】
また、水和促進剤がKOHの場合、(4a)、(4b)、(5)、(6a)、(6b)式のとおりスラグ中のCaO、MgOの水和反応が生じ、CaO、MgOの水和が促進される。さらに、スラグ中又はスラグを浸漬した温水中にCO2を吹き込むことにより、(31)、(32)式に示すとおりKOHと反応して炭酸化促進剤となるK2CO3及び/又はKHCO3が生成する(なお、(31)、(32)式に示すとおり、KOHの炭酸化は炭酸塩、炭酸水素塩の順で進行し、その炭酸化の進行の程度はCO2供給量と時間で決まるため、炭酸塩が生成しても炭酸水素塩は生成しないこともある。)。このようにして生成したK2CO3及び/又はKHCO3は、(33a)、(33b)、(34a)、(34b)式のとおりスラグ中のCa(OH)2、Mg(OH)2と反応し、Ca(OH)2、Mg(OH)2の炭酸化が促進される。また、生成したK2CO3及び/又はKHCO3は、(33c)、(33d)、(34c)、(34d)式のとおり水和していない未反応のCaOやMgOとも反応し、それらの炭酸化が促進される。よって、上記(ii)における総括反応は、(35a)、(35b)式のとおりとなる。
【0085】
また、水和促進剤がNH3の場合、(7a)、(7b)式のとおりスラグ中のCaO、MgOの水和反応が生じ、CaO、MgOの水和が促進される。さらに、スラグ中又はスラグを浸漬した温水中にCO2を吹き込むことにより、(36)、(37)式に示すとおりNH3と反応して炭酸化促進剤となる(NH4)2CO3及び/又はNH4HCO3が生成する(なお、(36)、(37)式に示すとおり、NH3の炭酸化は炭酸塩、炭酸水素塩の順で進行し、その炭酸化の進行の程度はCO2供給量と時間で決まるため、炭酸塩が生成しても炭酸水素塩は生成しないこともある。)。このようにして生成した(NH4)2CO3及び/又はNH4HCO3は、(38a)、(38b)、(39a)、(39b)式のとおりスラグ中のCa(OH)2、Mg(OH)2と反応し、Ca(OH)2、Mg(OH)2の炭酸化が促進される。また、生成した(NH4)2CO3及び/又はNH4HCO3は、(38c)、(38d)、(39c)、(39d)式のとおり水和していない未反応のCaOやMgOとも反応し、それらの炭酸化が促進される。よって、上記(ii)における総括反応は、(40a)、(40b)式のとおりとなる。
【0086】
エージング処理は、温水エージング、蒸気エージング、大気エージングなどのいずれでもよいが、上述したように水和促進剤を含む温水を繰り返し再利用することができるため、温水エージングが特に好ましい。
このエージング処理において、水和促進剤(及びこの水和促進剤から生成する炭酸化促進剤)をスラグに接触させる方法は任意であるが、温水エージングの場合には、温水に水和促進剤を添加し、この水和促進剤(及びこの水和促進剤から生成する炭酸化促進剤)を含む温水によりスラグをエージング処理すればよい。また、蒸気エージングや大気エージングの場合には、工程(A)を行うにあたり、(i)水和促進剤を含む溶液(水溶液など)をスラグに散布する、(ii)スラグに水和促進剤を混合する、(iii)水和促進剤を含む溶液(水溶液など)にスラグを一時的に浸漬する、などのような方法を採ればよい。
【0087】
また、エージング処理を蒸気エージングや大気エージング行う場合において、水和促進剤を再利用するには、エージング処理を終えたスラグに付着した水和促進剤を水などで洗い流し、水和促進剤を回収すればよい。一方、水和促進剤を回収・再利用しない場合には、水和促進剤成分がスラグに付着したままになるが、この水和促進剤成分は大気中のCO2で自然に炭酸化されるので問題はない。また、スラグを早期に出荷する場合には、CO2を吹き込むなどして水和促進剤成分を強制的にCO2で炭酸化(中和処理)させてもよい。
【0088】
エージング処理の処理温度(水和反応温度、炭酸化反応温度)に特別な制限はないが、20~100℃程度が好ましく、20~80℃程度がより好ましく、40~60℃程度が特に好ましい。したがって、この処理温度の点からも、温水エージングが好ましい。
エージング処理の処理時間(エージング期間)に特別な制限はないが、通常、スラグ中のCa(OH)2、Mg(OH)2の炭酸化が十分に進み、スラグの膨張抑制(水浸膨張比の低減)及びスラグからの高アルカリ水の溶出抑制(スラグ溶出水のpH低減)を達成できるように設定される。例えば、水浸膨張比(測定方法は実施例参照)1.0%以下、タンクリーチング試験で測定されるpH(測定方法は実施例参照)10.0以下を達成できるように処理時間が設定される。本発明のエージング方法によれば、従来法(単純な温水エージングや蒸気エージング)に較べてエージング期間を大幅に短縮できる利点がある。
エージング処理を実施する設備に特別な制限はなく、温水エージング、蒸気エージングなどを行う公知の設備を使用でき、温水エージングの場合には1つの処理槽に入れられたスラグに対して処理を行えばよい。
【0089】
図4は、このエージング方法の一実施形態の処理フローを模式的に示したものであり、この実施形態では、1つの処理槽12においてエージング処理を温水エージングで行うものである。以下、処理対象がCaOを含有するスラグであり、水和促進剤としてNaOHを用いる場合を例に説明する。
処理槽12には、CaOを含有するスラグが投入され、その温水中に水和促進剤としてNaOHが添加されるとともに、CO
2が吹き込まれる。このエージング方法では、まず、上述した(1a)、(2)、(3a)式の反応によりCaOが水和してCa(OH)
2が生じる(上述した(i)の反応)。水和促進剤として添加したNaOHは、触媒的な働きをするため水和反応に消費されることはないが、温水中に吹き込まれたCO
2と反応し、NaOHが炭酸化してNa
2CO
3が生成する。そして、このNa
2CO
3を炭酸化促進剤としてスラグ中のCa(OH)
2の炭酸化が促進されてCaCO
3が生じる(上述した(ii)の反応)。ここでは、上述した(26)、(28a)、(30a)式(場合により、さらに(28c)式)の反応が生じる。この反応では、水和促進剤となるNaOHが再生成するので、この水和促進剤を含む温水は、次のロットのスラグの温水エージングにそのまま使用することができる。この場合、新規な水和促進剤の投入は、不可避的に系外に持ち出される分を補充する程度でよい。
【0090】
NaOHを炭酸化させてNa2CO3を生成させるためのCO2の吹込みは、処理槽12内でガス吹込み手段を用いて行ってもよいが(この場合のガス吹込み手段15を図中に仮想線で示す)、本実施形態では、専用の炭酸化促進剤生成槽13でCO2の吹込みを行っている。すなわち、処理槽12内の液(温水)を抜き出して炭酸化促進剤生成槽13に供給し(経路18a)、この炭酸化促進剤生成槽13にCO2含有ガスを供給することで炭酸化促進剤を生成させる。そして、この炭酸化促進剤の生成処理をした液(炭酸化促進剤溶液)を貯留槽14に貯留し、必要に応じて、別に用意された炭酸化促進剤を加えて濃度調整した後、処理槽12に供給する(経路18b)。
エージング処理を終えたスラグは処理槽12から取り出され、脱水槽5で脱水処理された後、中和処理槽6で付着水のアルカリ分(NaOH)の中和処理がなされ、製品スラグとなる。中和処理槽6には、炭酸化促進剤生成槽13を出たCO2含有ガスが供給され、アルカリ分(NaOH)の中和処理がなされる。
【0091】
以上述べた本発明のエージング方法により製鋼スラグなどの遊離CaO及び/又は遊離MgOを含有するスラグをエージング処理することで、膨張や高アルカリ水の溶出が適切に抑えられる路盤材、土工材などの土木材料を製造することができる。この土木材料は、単独で使用(施工)してもよいし、他の路盤材料(例えば、他のスラグ路盤材や砕石など)と混合して使用(施工)してもよい。
また、以上述べたエージング方法に使用される本発明のエージング処理用水和促進剤は、遊離CaO及び/又は遊離MgOを含有するスラグのエージング処理用の水和促進剤であって、NaOH、KOH、NH3の中から選ばれる1種以上からなるものである。
【実施例】
【0092】
可溶性CaOを15質量%、遊離CaOを5質量%含有し、粒径37.5mm以下に調整された製鋼スラグ100kg(dry)(但し、比較例5は100t)について、以下に示すような実施条件でエージング処理を行った。発明例及び比較例1では、水/スラグ=2(質量比)の条件で温水エージングを行い、比較例2~6では、水/スラグ=0.1(質量比)でエージング処理を行った。また、比較例6は未エージングのスラグである。
各実施例でエージング処理されたスラグ及び未エージングのスラグについて、以下に示すような測定法により水浸膨張比と溶出水pHを測定した。その結果を、各実施例のエージング条件とともに表1に示す。
【0093】
(1)実施条件
・発明例1
本発明の第一のエージング方法(
図1の処理フロー参照)の実施例であり、水和促進剤としてNaOH(10.7kg)を用い、水和処理槽において温水エージング(50℃)を3日間行った。処理後のスラグは、脱水・中和槽において付着水をCO
2で中和しながら脱水した。
・発明例2
本発明の第二のエージング方法(
図2の処理フロー参照)の実施例であり、水和処理槽において発明例1と同じ条件で温水エージングした後、スラグを炭酸化処理槽に移し、炭酸化促進剤としてNa
2CO
3(28.3kg)を用いて温水エージング(50℃)を3日間行った。処理後のスラグは、脱水・中和槽において付着水をCO
2で中和しながら脱水した。
【0094】
・発明例3
本発明の第三のエージング方法(
図3の処理フロー参照)の実施例であり、処理槽において発明例1と同じ条件で温水エージングした後、同じ処理槽においてCO
2含有ガス(CO
2濃度17vol%)を継続的に吹込み(平均CO
2供給量0.17Nm
3/h)、NaOH(水和促進剤)をCO
2含有ガスと接触させてNa
2CO
3を生成させ、このNa
2CO
3を炭酸化促進剤としてさらに温水エージング(50℃)を3日間行った。処理後のスラグは、脱水・中和槽において付着水をCO
2で中和しながら脱水した。
・発明例4
本発明の第四のエージング方法(
図4の処理フロー参照)の実施例であり、水和促進剤としてNaOH(10.7kg)を用い、処理槽においてCO
2含有ガス(CO
2濃度17vol%)を継続的に吹込み(平均CO
2供給量0.08Nm
3/h)、温水エージング(50℃)を6日間行った。処理後のスラグは、脱水・中和槽において付着水をCO
2で中和しながら脱水した。
【0095】
・比較例1
水和促進剤、炭酸化促進剤を用いることなく、水和処理槽において温水エージング(50℃)を7日間行った。処理後のスラグは脱水槽において脱水した。
・比較例2
水和促進剤、炭酸化促進剤を用いることなく、反応容器(内径0.6m、内容積0.2m3)において蒸気エージング(100℃)を3日間行った。
・比較例3
水和促進剤を用いることなく、反応容器(内径0.6m、内容積0.2m3)において蒸気エージング(100℃)を3日間行った後、炭酸化促進剤を用いることなく、回転ドラムタイプの反応容器(内径0.6m、内容積0.2m3)において回転(10rpm)を付与しながらCO2含有ガス(CO2濃度17vol%、湿度100%)の吹込みによるガス炭酸化エージング(25℃)を3日間行った。
【0096】
・比較例4
水和促進剤、炭酸化促進剤を用いることなく、回転ドラムタイプの反応容器(内径0.6m、内容積0.2m3)において回転(10rpm)を付与しながらCO2含有ガス(CO2濃度17vol%、湿度100%)の吹込みによるガス炭酸化エージング(25℃)を3日間行った。
・比較例5
水和促進剤、炭酸化促進剤を用いることなく、大気エージング(25℃)を189日間行った。
【0097】
(2)測定方法
・水浸膨張比:JIS A5015「道路用鉄鋼スラグ」の付属書Bの試験方法に基づき、スラグの水浸膨張比を求めた。
・溶出水のpH測定:JIS K0058-1「タンクリーチング試験方法」の利用有姿の溶出試験の検液を用い、スラグ溶出水のpH測定を行った。
【0098】
【符号の説明】
【0099】
1 水和処理槽
2 炭酸化処理槽
3 炭酸化促進剤再生槽
4 貯留槽
5 脱水槽
6 中和処理槽
7 ガス吹込み手段
8 処理槽
9 炭酸化促進剤生成槽
10 貯留槽
11 ガス吹込み手段
12 処理槽
13 炭酸化促進剤生成槽
14 貯留槽
15 ガス吹込み手段
16a,16b 経路
17a,17b 経路
18a,18b 経路