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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】モータの冷却液通路構造
(51)【国際特許分類】
   H02K 5/20 20060101AFI20220405BHJP
【FI】
H02K5/20
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019192385
(22)【出願日】2019-10-23
(65)【公開番号】P2021069179
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2020-07-13
【審判番号】
【審判請求日】2021-01-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(72)【発明者】
【氏名】瀬谷 泰我
【合議体】
【審判長】窪田 治彦
【審判官】小川 恭司
【審判官】関口 哲生
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/087707(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/199516(WO,A1)
【文献】特開2019-75871(JP,A)
【文献】国際公開第2015/098328(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を回転駆動するモータ要素と、
前記モータ要素の外周側に設けられ、前記モータ要素を収容する筒状のハウジングと、
前記ハウジングの内部に設けられ、冷却液が通流する円環状又は螺旋状に形成された冷却液通路と、
を備えたモータの冷却液通路構造であって、
前記冷却液通路は、少なくとも前記ハウジングの鉛直方向上側の端部において、前記回転軸の軸方向に沿って貫通形成され、
前記回転軸の回転中心から前記冷却液通路の前記鉛直方向上側の壁面までの距離が、前記軸方向の一端側に向かって漸次拡大形成され、
前記冷却液通路内の冷却液は、前記冷却液通路の前記軸方向の他端側に前記円環又は前記螺旋に対する接線上に設けられた導入口から前記冷却液通路に導入され、前記冷却液通路の前記軸方向の一端側に設けられた排出口から排出されることを特徴とするモータの冷却液通路構造。
【請求項2】
請求項1に記載のモータの冷却液通路構造において、
前記冷却液通路の前記鉛直方向上側の壁面は、前記軸方向の一端側に向かって上り傾斜状に形成されていることを特徴とするモータの冷却液通路構造。
【請求項3】
請求項1に記載のモータの冷却液通路構造において、
前記冷却液通路は、前記回転軸の周りに環状に形成されていることを特徴とするモータの冷却液通路構造。
【請求項4】
請求項1に記載のモータの冷却液通路構造において、
前記排出口は、前記鉛直方向上側を除く方向へ開口形成されていることを特徴とするモータの冷却液通路構造。
【請求項5】
請求項1に記載のモータの冷却液通路構造において、
前記冷却液通路は、前記鉛直方向上側の端部において、一部の通路断面積が縮小されていることを特徴とするモータの冷却液通路構造。
【請求項6】
請求項5に記載のモータの冷却液通路構造において、
前記冷却液通路の途中に、前記回転軸の回転中心から前記鉛直方向上側の壁面に向かって前記回転軸の径方向に延びる壁部が設けられ、
前記冷却液通路は、前記壁部により、前記鉛直方向上側の端部における一部の通路断面積が縮小されていることを特徴とするモータの冷却液通路構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの冷却液通路構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば従来のモータの冷却液通路構造としては、以下の特許文献に記載されたものが知られている。
【0003】
すなわち、従来のモータの冷却液通路構造では、モータ要素を収容するハウジングの内部に、冷却液が通流する冷却液通路が設けられている。この冷却液通路は、外径が一定となるように形成されていて、重力方向反対側となる鉛直方向上側の壁面が、モータの回転軸線に沿って水平状に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6106873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来のモータの冷却液通路構造では、前記冷却液通路の鉛直方向上側の壁面が水平状に形成されている。このため、冷却液にエア(気泡)が含まれた場合には、このエアは、前記冷却液通路の鉛直方向上側の壁面に沿って滞留する。これにより、前記冷却液通路の排出口が前記鉛直方向上側を除く方向に開口形成されていた場合には、当該排出口から前記エアを十分に排出することが困難であった。
【0006】
本発明は、かかる技術的課題に着目して案出されたものであって、冷却液に含まれたエアを効率よく排出することができるモータの冷却液通路構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、その一態様として、回転軸を回転駆動するモータ要素と、前記モータ要素の外周側に設けられ、前記モータ要素を収容する筒状のハウジングと、前記ハウジングの内部に設けられ、円環状又は螺旋状に形成された冷却液が通流する冷却液通路と、を備えたモータの冷却液通路構造であって、前記冷却液通路は、少なくとも前記ハウジングの鉛直方向上側の端部において、前記 回転軸の軸方向に沿って貫通形成され、前記回転軸の回転中心から前記冷却液通路の前記鉛直方向上側の壁面までの距離が、前記軸方向の一端側に向かって漸次拡大形成され、前記冷却液通路内の冷却液は、前記冷却液通路の前記軸方向の他端側に前記円環又は前記螺旋に対する接線上に設けられた導入口から前記冷却液通路に導入され、前記冷却液通路の前記軸方向の一端側に設けられた排出口から排出される。
【0008】
このように、本発明に係るモータの冷却液通路構造では、冷却液通路が鉛直方向上側の端部において軸方向に沿って貫通形成され、かつ回転軸の回転中心から冷却液通路の鉛直方向上側の壁面までの距離が軸方向の一端側に向かって漸次拡大するように形成されている。これにより、冷却液に含まれたエアを、冷却液通路の鉛直方向上側の壁面に沿って軸方向の一端側へ移動させることが可能となり、当該冷却液通路の軸方向の一端側に設けられた排出口から効率的に排出させることができる。
【0009】
また、前記モータの冷却液通路構造の別の態様として、前記冷却液通路の前記鉛直方向上側の壁面は、前記軸方向の一端側に向かって上り傾斜状に形成されていることが望ましい。
【0010】
このように、冷却液通路の鉛直方向上側の壁面が軸方向の一端側に向かって上り傾斜状に形成されていることにより、かかる上り傾斜状の壁面に沿って、冷却液に含まれたエアを軸方向一端側の排出口へとスムーズに運ぶことが可能となる。これにより、冷却液に含まれたエアの効率的な排出に供する。
【0011】
また、前記モータの冷却液通路構造のさらに別の態様として、前記冷却液通路は、前記回転軸の周りに環状に形成されていることが望ましい。
【0012】
このように、冷却液通路が回転軸の周りに環状に形成されていることにより、冷却液通路を、円筒状の中子を用いて鋳造により容易に形成することができる。さらに、冷却液通路が回転軸の周りに環状に形成されていることから、モータ全周の均一な冷却に供すると共に、冷却液通路の体積がより大きく確保され、モータの冷却性能を向上させることができる。
【0013】
また、前記モータの冷却液通路構造のさらに別の態様として、前記排出口は、前記鉛直方向上側を除く方向へ開口形成されていることが望ましい。
【0014】
従来のように、冷却液通路が軸方向に沿って水平状に形成されている場合、冷却液に含まれたエアは、冷却液通路の鉛直方向上側の壁面に沿って軸方向に滞留することになる。このため、排出口が鉛直方向上側を除く方向に開口している場合には、冷却液に含まれたエアを効率的に排出することは困難であった。
【0015】
一方、本発明では、前述のように、冷却液に含まれたエアが鉛直方向上側の壁面に沿って冷却液通路の軸方向の一端側に集められる。このため、排出口が鉛直方向上側を除く方向に開口している場合でも、冷却液の排出に伴ってエアを効率よく排出させることができる。
【0016】
また、前記モータの冷却液通路構造のさらに別の態様として、前記冷却液通路は、前記鉛直方向上側の端部において、一部の通路断面積が縮小されていることが望ましい。
【0017】
このように、冷却液通路の一部の通路断面積が縮小されていることにより、排出口へ向かう冷却液の流速を高めることが可能になる。これにより、冷却液に含まれたエアを、より効率的に排出させることができる。
【0018】
また、前記モータの冷却液通路構造のさらに別の態様として、前記冷却液通路の途中に、前記回転軸の回転中心から前記鉛直方向上側の壁面に向かって前記回転軸の径方向に延びる壁部が設けられ、前記冷却液通路は、前記壁部により、前記鉛直方向上側の端部における一部の通路断面積が縮小されていることが望ましい。
【0019】
このように、壁部によって冷却液通路の通路断面積を縮小させる場合、壁部の延出量を調整することにより、冷却液の流速を調整することが可能となる。すなわち、冷却液に含まれたエアの排出性を容易に調整でき、当該エアの効率的な排出に供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、冷却液に含まれたエアを、冷却液通路の鉛直方向上側の壁面に沿って軸方向の一端側へ移動させることができる。これにより、冷却液に含まれたエアを、軸方向の一端側に設けられた排出口から効率的に排出させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明に係るモータの冷却液通路構造の説明に供するモータの斜視図である。
図2図1のA方向から見たモータの平面図である。
図3】本発明の第1実施形態を示し、図2のB-B線断面に相当するモータの縦断面図である。
図4図3に示す冷却液通路の形成に供する中子を示し、(a)は斜視図、(b)は同図(a)のC-C線断面図である。
図5】本発明に係るモータの冷却液通路構造の作用の説明に供するモータの斜視図であって、(a)は冷却液に含まれたエアが冷却液通路内に滞留した状態を表した図、(b)は冷却液の排出に伴い冷却液通路からエアが排出された状態を表した図である。
図6】従来のモータの冷却液通路構造の説明に供するモータの斜視図であって、(a)は冷却液に含まれたエアが冷却液通路内に滞留した状態を表した図、(b)は冷却液が排出されてもエアが冷却液通路内に残留した状態を表した図である。
図7】本発明の第2施形態を示し、図3に相当するモータの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係るモータの冷却液通路構造の実施形態を、図面に基づき詳述する。なお、下記実施形態では、本発明に係るモータの冷却液通路構造を、従来と同様、水冷モータの冷却構造に適用したものを示している。
【0023】
〔第1実施形態〕
図1図4は、本実施形態に係るモータの冷却液通路構造の第1実施形態を示す。図1は、モータMを斜め上方から見たモータMの斜視図を示している。図2は、モータMを図1に示すA方向から見たモータMの平面図を示している。図3は、本発明の第1実施形態を示し、図2に示すB-B線に沿って切断したモータMの縦断面図を示している。図4は、図3に示す冷却液通路7の形成に供する中子8を示し、(a)は斜視図、(b)は図4(a)のC-C線に沿って切断した断面図を示している。なお、各図の説明においては、モータMの回転軸4の中心軸線Zに平行な方向を「軸方向」、中心軸線Zに直交する方向を「径方向」、中心軸線Z周りの方向を「周方向」として説明する。
【0024】
(モータの構成)
本実施形態に係るモータMは、図1図4に示すように、筒状に形成された金属製のハウジング1と、ハウジング1の内側に収容保持される固定子2と、固定子2の内側に微小のギャップGを隔てて回転可能に配置される回転子3と、回転子3の内側に圧入固定され、該回転子3と一体に回転する回転軸4と、を備える。固定子2と回転子3とで、本発明に係るモータ要素が構成されている。
【0025】
ハウジング1は、金属材料、例えばアルミニウム合金を鋳造することにより形成され、軸方向の一端側が開口し、他端側が閉塞された有底円筒状を呈し、円筒状の周壁11と、円板状の底壁12と、が一体に形成されている。ハウジング1の一端側の開口は、円板状のカバープレート5によって閉塞されている。すなわち、ハウジング1とカバープレート5により、内部に固定子2及び回転子3を収容するモータ収容部10が画定されている。
【0026】
また、ハウジング1の底壁12の中央部には、外部に臨む回転軸4の先端部4aが貫通する第1軸挿通孔12aが貫通形成されていて、第1軸挿通孔12aの内周側に、回転軸4の先端部4a側を回転可能に支持する第1軸受61が設けられている。同様に、カバープレート5の中央部には、回転軸4の基端部4bが貫通する第2軸挿通孔5aが貫通形成されていて、第2軸挿通孔5aの内周側に、回転軸4の基端部4bを回転可能に支持する第2軸受62が設けられている。
【0027】
また、ハウジング1の内部には、モータM(固定子2)の冷却に供する冷却液(例えば冷却水)が通流する冷却液通路7が形成されている。冷却液通路7は、ハウジング1の鋳造の際に、図4に示すような、外周側に円錐状のテーパ面80aを有する概ね円筒状に形成された、いわゆる崩壊性の中子8によって形成される。この中子8は、円筒状の中子本体80と、中子本体80の小径側の軸方向端部の外周側に概ね接線方向に沿って突設された導入口形成部81と、中子本体80の大径側の軸方向端面に軸方向に沿って突設された排出口形成部82と、を有する。また、中子本体80は、外周側に円錐状のテーパ面80aを有し、内周側に軸方向に沿った水平面80bを有する。そして、ハウジング1を鋳造する際、中子本体80により冷却液通路7を形成すると共に、導入口形成部81により導入口13を形成し、排出口形成部82により排出口14を形成する。
【0028】
すなわち、冷却液通路7は、上述した中子8をもって、周方向に沿って連続する環状に形成されると共に、軸方向のほぼ全域にわたって延設されていて、回転軸4の回転中心(中心軸線Z)から外周側の壁面(例えば鉛直方向上側の壁面7a)までの距離Rが軸方向の一端側(カバープレート5側)に向かって漸次拡大するように形成されている。より具体的には、冷却液通路7は、鉛直方向上側の壁面7aが軸方向の一端側(カバープレート5側)に向かって上り傾斜状となる円錐テーパ状に形成されると共に、内周側の壁面7bが軸方向に沿って水平状に形成されている。
【0029】
なお、本実施形態では、冷却液通路7の鉛直方向上側の壁面7aを概ね円錐テーパ状に構成した態様を例示しているが、本発明に係るモータの冷却液通路構造は、当該形態に限定されるものではない。すなわち、本発明に係るモータの冷却液通路構造は、鉛直方向上側の壁面7aまでの距離Rが軸方向一端側に向かって漸次拡大するように形成されていればよく、例えば鉛直方向上側の壁面7aが軸方向一端側に向かって縦断面が凸又は凹円弧状となる曲面状に形成されるなど、種々の態様が含まれる。
【0030】
また、ハウジング1における軸方向の他端側(底壁12側)の周壁11には、鉛直方向に沿って接線状に延出し、かつ鉛直方向において回転軸4の回転中心(中心軸線Z)と重なる位置で冷却液通路7に接続する円筒状の導入口13が、突出形成されている。すなわち、この導入口13を介して、ハウジング1の外部から冷却液通路7内へ冷却液が導入される。なお、本実施形態では、導入口13を、ハウジング1の周壁に対して接線方向に開口した態様を例示したが、当該導入口13の開口方向については、前記接線方向のほかに、例えば軸方向又は径方向など、冷却液通路7のレイアウト等に応じて自由に変更可能である。
【0031】
他方、カバープレート5には、鉛直方向において回転軸4の回転中心(中心軸線Z)と重なる位置で冷却液通路7に接続し、かつ軸方向に沿って延出する円筒状の排出口14が、突出形成されている。すなわち、この排出口14を介して、冷却液通路7内を通流する冷却液がハウジング1の外部へ排出される。なお、本実施形態では、排出口14を、ハウジング1の軸方向端部に相当するカバープレート5において軸方向に開口した態様を例示したが、本発明に係るモータの冷却液通路構造では、排出口14はとりわけ鉛直方向上側を除く方向に開口していればよく、当該排出口14の開口方向については、軸方向又は径方向など、冷却液通路7のレイアウト等に応じて自由に変更可能である。
【0032】
(本実施形態の作用効果)
図5は、本実施形態に係るモータMの冷却液通路構造の作用の説明に供するモータMの斜視図であって、(a)は冷却液に含まれたエアが冷却液通路内に滞留した状態を表した図、(b)は冷却液の排出に伴い冷却液通路からエアが排出された状態を表した図を示している。図6は、前記従来のモータの冷却液通路構造の説明に供するモータの斜視図であって、(a)は冷却液に含まれたエアが冷却液通路内に滞留した状態を表した図、(b)は冷却液が排出されてもエアが冷却液通路内に残留した状態を表した図を示している。なお、説明の便宜上、各図では、冷却液通路7、導入口13及び排出口14を実線で示し、ハウジング1、回転軸4及びカバープレート5を二点鎖線の仮想線で示している。また、各図の説明では、モータMの回転軸4の中心軸線Zに平行な方向を「軸方向」、中心軸線Zに直交する方向を「径方向」、中心軸線Z周りの方向を「周方向」として説明する。
【0033】
図6に示すように、前記従来のモータの冷却液通路構造では、冷却液通路7の鉛直方向上側の壁面7aが、軸方向に沿って水平状に形成されている。このため、冷却液に含まれたエアAは、図6(a)に示すように、冷却液通路7の鉛直方向上側の壁面7aに沿って、軸方向に延びるように滞留することになる。この場合、排出口14から冷却液が排出される際、図6(b)に示すように、矢印Nで示す排出口14に近い側の冷却液は流速が速く、矢印Fで示す排出口14から遠い側の冷却液は流速が遅くなる結果、エアAは矢印Xに沿って冷却水の流速が遅い軸方向の他端側(底壁12側)に集まり、排出口14から排出されずに冷却液中に残存してしまう問題があった。そうすると、このエアAが残存した部分については、モータMの冷却に寄与し得ず、モータMの冷却効率が低下してしまうおそれがあった。
【0034】
これに対して、本実施形態に係るモータの冷却液通路構造では、図5に示すように、冷却液通路7が鉛直方向上側の端部において軸方向に沿って貫通形成され、かつ回転軸4の回転中心(中心軸線Z)から冷却液通路7の鉛直方向上側の壁面7aまでの距離Rが軸方向の一端側に向かって漸次拡大されている。このため、冷却液に含まれたエアAを、冷却液通路7の鉛直方向上側の壁面7aに沿って軸方向の一端側へ移動させ、冷却液通路7のうち排出口14に近い軸方向の一端部に集めることが可能となる。こうして、冷却液に含まれたエアAが冷却水の流速が速い軸方向の一端部に集約されることで、この速い流速をもって、冷却水の排出に伴い、矢印Eに沿って冷却液に含まれたエアAを排出口14から効率的に排出させることができる。これにより、冷却液通路7内の冷却液中におけるエアAの滞留が抑制され、モータMの冷却効率を向上させることができる。
【0035】
また、本実施形態では、冷却液通路7の鉛直方向上側の壁面7aが軸方向の一端側に向かって上り傾斜状に形成されている。
【0036】
これにより、当該上り傾斜状に形成された鉛直方向上側の壁面7aに沿って、冷却液に含まれたエアAを軸方向一端側の排出口14へとスムーズに運ぶことが可能となり、当該冷却液に含まれたエアAの効率的な排出に供する。
【0037】
また、本実施形態では、冷却液通路7が回転軸4の周りに環状に形成されている。
【0038】
これにより、冷却液通路7を、円筒状の中子8を用いて鋳造により容易に形成できるメリットがある。さらに、冷却液通路7が回転軸4の周りに環状に形成されていることにより、モータMの全周の均一な冷却が図れると共に、冷却液通路7の体積がより大きく確保され、モータMの冷却性能を向上させることができる。
【0039】
また、本実施形態では、排出口14が、鉛直方向上側を除く方向へ開口形成されている。具体的には、排出口14が、カバープレート5に軸方向に沿って開口形成されている。
【0040】
従来のように、冷却液通路7が軸方向に沿って水平状に形成されている場合、冷却液に含まれたエアAは、冷却液通路7の鉛直方向上側の壁面7aに沿って軸方向に滞留することになる。このため、排出口14が鉛直方向上側を除く方向に開口している場合には、冷却液に含まれたエアAを効率的に排出することは困難であった。
【0041】
これに対して、本実施形態では、前述のように、冷却液に含まれたエアAが鉛直方向上側の壁面7aに沿って冷却液通路7の軸方向の一端側に集められる。このため、排出口14が鉛直方向上側を除く方向に開口している場合、例えば本実施形態のようにカバープレート5に軸方向に沿って形成された場合でも、冷却液の排出に伴い、エアAを効率よく排出させることができる。
【0042】
〔第2実施形態〕
図7は本発明に係るモータの冷却液通路構造の第2実施形態を示し、本実施形態は、前記第1実施形態における冷却液通路7の構成を変更したものである。なお、かかる変更点以外の基本的な構成については、前記第1実施形態と同様である。そのため、第1実施形態と同一の構成については、同一の符号を付すことにより、その説明を省略する。また、図7の説明においては、モータMの回転軸4の中心軸線Zに平行な方向を「軸方向」、中心軸線Zに直交する方向を「径方向」、中心軸線Z周りの方向を「周方向」として説明する。
【0043】
図7に示すように、本実施形態に係るモータの冷却液通路構造では、ハウジング1における冷却液通路7の内周側の壁面7bに、径方向に沿って延びる複数(本実施形態では3つ)の壁部7cが、軸方向においてほぼ等間隔に一体に形成されている。すなわち、本実施形態では、冷却液通路7の鉛直方向上側の端部において、鉛直方向上側の壁面7aと壁部7cの間が狭くなる分、壁部7cが設けられた軸方向位置の通路断面積S2が、壁部7cが設けられていない他の軸方向位置の通路断面積S1よりも小さくなるように構成されている。
【0044】
なお、本実施形態では、冷却液通路7の内周側の壁面7bに壁部7cが一体に形成されることで、冷却液通路7の鉛直方向上側の端部における一部の通路断面積S2が縮小されているが、本発明に係る冷却液通路7の鉛直方向上側の端部における一部の通路断面積S2を縮小する手段としては、当該壁部7cを設ける態様に限定されるものではなく、モータMの仕様等に応じて自由に変更可能である。
【0045】
以上のように、本実施形態によれば、冷却液通路7の鉛直方向上側の端部において、冷却液通路7の一部の通路断面積S2が縮小されている。
【0046】
このように、冷却液通路7の鉛直方向上側の端部において途中の一部の通路断面積S2が縮小形成されていることで、排出口14へ向かう冷却液の流速を高めることが可能になる。これにより、当該高められた冷却液の流速をもって、冷却液に含まれたエアAを、より効率的に排出させることができる。
【0047】
また、とりわけ、本実施形態では、冷却液通路7の途中に、回転軸4の回転中心(中心軸線Z)から鉛直方向上側の壁面7aに向かって径方向に延びる壁部7cが設けられ、冷却液通路7が、壁部7cにより、鉛直方向上側の端部における一部の通路断面積S2が縮小されている。
【0048】
このように、壁部7cによって冷却液通路7の通路断面積S2を縮小させる場合には、壁部7cの延出量を調整することにより、冷却液の流速を調整することが可能となる。これにより、冷却液に含まれたエアAの排出性を容易に調整することができ、当該エアAのより効率的な排出に供する。
【0049】
本発明は、前記実施形態において例示した構成に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で適用対象の仕様等に応じて自由に変更することができる。
【0050】
特に、前記実施形態で開示した冷却液通路7の形態は、本発明に係るモータの冷却液通路構造の一例に過ぎない。換言すれば、本発明に係るモータの冷却液通路構造では、冷却液通路7が鉛直方向上側の端部において軸方向に沿って貫通形成され、かつ回転軸4の回転中心(中心軸線Z)から冷却液通路7の鉛直方向上側の壁面7aまでの距離Rが軸方向の一端側に向かって漸次拡大されていればよく、周方向においては、前記環状のほか、螺旋状や、横断面が円弧状となる半環状など、モータMの仕様や冷却液通路7のレイアウト等に応じて種々の形態を採用することができる。
【符号の説明】
【0051】
1…ハウジング
2…固定子(モータ要素)
3…回転子(モータ要素)
4…回転軸
5…カバープレート(ハウジング)
7…冷却液通路
7a…鉛直方向上側の壁面
M…モータ
Z…中心軸線(回転中心)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7