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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】不揮発性メモリ
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/8239 20060101AFI20220405BHJP
   H01L 27/105 20060101ALI20220405BHJP
   G11C 11/16 20060101ALI20220405BHJP
   H01L 27/10 20060101ALI20220405BHJP
   H01L 27/11502 20170101ALI20220405BHJP
   H01L 29/82 20060101ALI20220405BHJP
   H01L 41/12 20060101ALI20220405BHJP
   H01L 41/09 20060101ALI20220405BHJP
   H01L 41/187 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
H01L27/105 447
G11C11/16 100Z
H01L27/10 451
H01L27/11502
H01L29/82 Z
H01L41/12
H01L41/09
H01L41/187
【請求項の数】 28
(21)【出願番号】P 2019554030
(86)(22)【出願日】2017-12-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-05-28
(86)【国際出願番号】 GB2017053674
(87)【国際公開番号】W WO2018109441
(87)【国際公開日】2018-06-21
【審査請求日】2020-10-09
(31)【優先権主張番号】1621485.0
(32)【優先日】2016-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】519215902
【氏名又は名称】アイピーツーアイピーオー イノベーションズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】ゼーマン,ジャン
(72)【発明者】
【氏名】ミハイ,アンドレイ ポール
(72)【発明者】
【氏名】ズー,ビン
(72)【発明者】
【氏名】ボルドリン,デイビッド
(72)【発明者】
【氏名】ドンチェフ,エフゲニー
【審査官】小山 満
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-028466(JP,A)
【文献】米国特許第06387476(US,B1)
【文献】特開2010-145147(JP,A)
【文献】LUKASHEV Pavel et al.,Theory of the piezomagnetic effect in Mn-based antiperovskites,PHYSICAL REVIEW B,2008年11月,Vol.78,No.18,p.184414-1-184414-5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 27/105
H01L 21/8239
G11C 11/16
H01L 27/10
H01L 27/11502
H01L 29/82
H01L 41/12
H01L 41/09
H01L 41/187
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁化方向としてデータを記録可能な強磁性材料から構成される記憶層と、
当該圧電層の歪みに応じて、前記記憶層に対する第1タイプの効果と前記記憶層に対する第2タイプの効果とを選択的に有するアンチペロブスカイト圧電材料から構成される圧電層と、
前記圧電層に歪みを誘導し、それによって前記第1タイプの効果から前記第2タイプの効果に切り替えるための歪み誘起層と、
を備える不揮発性メモリセル。
【請求項2】
請求項1の不揮発性メモリセルにおいて、
前記第1タイプの効果は、前記圧電層の正味磁化が、前記記憶層の保磁力場を克服し、前記記憶層の磁化を双極子結合を介して前記圧電層の磁化に揃えるのに十分強くなるものであり、前記第2タイプの効果は、前記圧電層の磁化による前記記憶層の磁場が前記記憶層の前記保磁力場より弱くなるものである不揮発性メモリセル。
【請求項3】
請求項1または2の不揮発性メモリセルにおいて、
前記記憶層と前記圧電層との間にあり、前記記憶層と前記圧電層との間の交換バイアスを防ぐための非磁性層をさらに含む不揮発性メモリセル。
【請求項4】
請求項1、2、3のいずれか一つの不揮発性メモリセルにおいて、
前記アンチペロブスカイト圧電材料は、歪みが+/-30%、好ましくは+/-10%、最も好ましくは+/-1%でネール温度が350Kより大きい不揮発性メモリセル。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一つの不揮発性メモリセルにおいて、
アンチペロブスカイト圧電材料は、MnSnN、またはMnSnのようなMnSnN系であり、AおよびBはリストから選択される1つ以上の元素であり、前記リストは、Ag、Al、Au、Co、Cu、Fe、Ga、Ge、In、Ir、Ni、Pd、Pt、Rh、Sb、Si、Sn、Znを含む不揮発性メモリセル。
【請求項6】
請求項1の不揮発性メモリセルにおいて、
前記第1タイプの効果は、前記圧電層が常磁性状態にあり、前記記憶層と前記圧電層との間に交換バイアス相互作用がなく、前記圧電層が存在することにより、外部磁場によって前記記憶層の磁化の方向を変えることができるものであり、前記第2タイプの効果は、前記圧電が反強磁性状態にあり前記記憶層の磁化の方向が前記圧電層によって固定される交換バイアス相互作用である不揮発性メモリセル。
【請求項7】
請求項6の不揮発性メモリセルにおいて、
前記アンチペロブスカイト圧電材料は、歪みに応じて変化するネール温度を有し、前記歪みが+30%から-30%、好ましくは+10%から-10%、最も好ましくは+1%から-1%の場合、前記ネール温度は293Kを超える不揮発性メモリセル。
【請求項8】
請求項6または7の不揮発性メモリセルにおいて、
前記アンチペロブスカイト圧電材料は、MnGaNまたはMnNiN、またはMnGaNまたはMnNiN系であって、MnGaByNまたはMnNiByNのようなMnNiN系であり、AおよびBは、Ag、Al、Au、Co、Cu、Fe、Ga、Ge、In、Ir、Ni、Pd、Pt、Rh、Sb、Si、Sn、Znを含むリストから選択される1つまたは複数の元素である不揮発性メモリセル。
【請求項9】
請求項6、7または8のいずれか一つの不揮発性メモリセルにおいて、
前記記憶層の磁化の方向を変えるために、前記記憶層の隣に位置する磁場を加える少なくとも1つの追加の電極をさらに備える不揮発性メモリセル。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一つの不揮発性メモリセルにおいて、
前記歪み誘起層は、圧電層および/またはペロブスカイト材料である不揮発性メモリセル。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一つの不揮発性メモリセルにおいて、
前記記憶層と前記圧電層との間の格子不整合、および/または前記圧電層と前記歪み誘起層との間の格子不整合は、1%未満である不揮発性メモリセル
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一つの不揮発性メモリセルにおいて、
前記記憶層がペロブスカイトまたはアンチペロブスカイト構造を有する不揮発性メモリセル
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一つの不揮発性メモリセルにおいて、
前記記憶層に対し前記圧電層とは反対側に接続された第1電極をさらに備える不揮発性メモリセル。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一つの不揮発性メモリセルにおいて、
前記歪み誘起層に対し前記圧電層とは反対側に接続された第2電極をさらに備える不揮発性メモリセル。
【請求項15】
請求項13または14の不揮発性メモリセルにおいて、
前記電極とその隣接層との間の格子不整合が1%以下である不揮発性メモリセル。
【請求項16】
請求項115のいずれかの不揮発性メモリセルを複数、二次元アレイに含むメモリセルの二次元アレイ。
【請求項17】
請求項115のいずれかの不揮発性メモリセルを複数、三次元アレイに含むメモリセルの三次元アレイ。
【請求項18】
記憶層およびアンチペロブスカイト圧電層を含む不揮発性メモリセルに対するデータの書き込みおよび読み出し方法であって、前記方法は、
前記記憶層に第1方向または第2方向に分極を誘導し、それによって前記メモリセルにデータを書き込み、前記第1方向の前記記憶層における分極は、前記アンチペロブスカイト圧電層の第1磁気状態を誘導し、前記第2方向の前記記憶層における分極は、前記アンチペロブスカイト圧電層の第2磁気状態を誘導し、
前記メモリセルの磁気容量を測定し、前記アンチペロブスカイト圧電層の前記磁気容量は、前記第1磁気状態と前記第2磁気状態とで異なり、それにより前記記憶層に記憶されたデータを読み取る
工程を備える方法。
【請求項19】
請求項18の方法において、
前記測定は、前記記憶層と前記アンチペロブスカイト圧電層の間に交流電圧を印加し、リアクタンスを決定し、それにより前記メモリセルの前記磁気容量を決定することを含む方法。
【請求項20】
請求項18の方法において、
前記測定は、前記メモリセルの共振周波数のシフトを決定することを含む方法。
【請求項21】
請求項18,19,20のいずれか一つの方法において、
前記記憶層は強磁性材料から構成され、前記分極は磁気分極である方法。
【請求項22】
請求項21の方法において、
前記誘導は、双極子結合により前記記憶層の前記磁気分極が前記アンチペロブスカイト圧電層の磁化と揃うのに十分な前記アンチペロブスカイト圧電層の磁化を誘導することにより、実行される方法。
【請求項23】
請求項22の方法において、
前記不揮発性メモリセルは、歪み誘起層をさらに備え、前記アンチペロブスカイト圧電層の磁化の誘導は、前記歪み誘起層を用いて前記アンチペロブスカイト圧電層の歪みを誘導することによって成される方法。
【請求項24】
請求項21の方法において、
前記記憶層に対する前記第1方向または前記第2方向の分極の前記誘導は、磁化電極を用いて前記記憶層に前記第1方向または前記第2方向に磁化を誘導することを含む方法。
【請求項25】
請求項24の方法において、
前記誘導は、前記アンチペロブスカイト圧電層に歪みを誘導し、それによって前記アンチペロブスカイト圧電層を常磁性にすることをさらに含む方法。
【請求項26】
請求項25の方法において、
前記不揮発性メモリセルは、歪み誘起層をさらに備え、歪みの前記誘導は、前記歪み誘起層を用いて成される方法。
【請求項27】
請求項18,19,20のいずれか一つの方法において、
前記記憶層は強誘電体材料から構成され、前記分極は電気分極である方法。
【請求項28】
請求項18,19,20、27のいずれか一つの方法において、
前記不揮発性メモリセルは、前記アンチペロブスカイト圧電層に対し前記記憶層とは反対側に接続された第1電極と、前記記憶層に対し前記アンチペロブスカイト圧電層とは反対側に接続された第2電極とを備え、前記誘導は、前記第1、第2電極間に電位差を加えることを含み、前記測定は、前記第1、第2電極間の前記磁気容量を測定することを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不揮発性メモリ(NVM)セル、および不揮発性メモリセルに対するデータの書き込みおよび読み出し方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、高性能で揮発性、かつ高価なコンピュータランダムアクセスメモリ(RAM)と、低性能で低コストなハードディスクドライブ(HDD)などの不揮発性データ記憶装置と、の間のギャップを埋めることを目的とする。このギャップを埋めようとする新しいNVMテクノロジは、ストレージクラスメモリ(SCM)と呼ばれる。
【0003】
データストレージのパフォーマンスの向上という点では、主な候補はNAND-Flashであり、NAND-Flashは、ソリッドステートドライブ(SSDs)の優勢なテクノロジであり、HDDにとって替わるには今のところ高すぎ、その低い耐久性、性能、およびエネルギー効率が、RAMとしてのその用途を妨げる。熱アシスト磁気記録(HAMR)のような改良されたHDD技術も、また、性能が低い。開発中の不揮発性メモリ技術の中で、主な競争相手は、スピン注入トルクRAM(STT-RAM、スケーラビリティが限られる問題があり、状態の切り替えに比較的高い電流密度を必要とする)、強誘電体RAM(FRAM、破壊読み出しを使用し、低耐久性の問題がある)、相変化メモリ(PCM、低耐久性、低エネルギー効率、高価で有毒な材料に依存する問題がある)、抵抗性RAM(RRAM、破壊読み出しを使用し、パッシブメモリアレイにスニークパス問題がある)、およびこれらの原則に基づくマルチセルデバイスである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
既存のNVMセルは、一つまたは複数の次の欠点がある。それらNVMセルはデータの読み出しおよび/または書き込みにトランジスタを必要とし、それらはデータの読み出しおよび書き込みに2つ以上の電極を必要とし、それらは積み重ねができず、従って三次元アレイに形成できず、それらは二次元において低記録密度である。
【0005】
本発明は、磁化方向としてデータを記録可能な強磁性材料から構成される記憶層と、当該圧電層の歪みに応じて、前記記憶層に対する第1タイプの効果と前記記憶層に対する第2タイプの効果とを選択的に有するアンチペロブスカイト圧電材料から構成される圧電層と、前記圧電層に歪みを誘導し、それによって前記第1タイプの効果から前記第2タイプの効果に切り替えるための歪み誘起層と、を備える不揮発性メモリセルを提供する。
【0006】
従って、本発明は、記憶層と圧電層との間の相互作用の強さを選択的に変えるために歪みが変わるアンチペロブスカイト圧電材料の特性の変化を利用する。2種類の効果により、メモリセルへの書き込みが可能になる。記憶層の磁化は、圧電層の磁気状態に作用する。圧電層の磁気状態は、その強い磁気弾性結合により、圧電層の弾性特性に作用する。圧電層は、平面コンデンサの上部プレートを形成し、その容量の測定は、2つの電極のみを使用して記憶層の磁気状態(磁気容量効果)を読み取るために使用される。
【0007】
一実施形態では、前記第1タイプの効果は、前記圧電層の正味磁化が、前記記憶層の保磁力場を克服し、前記記憶層の磁化を双極子結合を介して前記圧電層の磁化に揃えるのに十分強くなるものであり、前記第2タイプの効果は、前記圧電層の磁化による前記記憶層の磁場が前記記憶層の前記保磁力場より弱くなるものである。従って、第2タイプの効果では、記憶層の磁化は方向を変えない。
【0008】
従って、情報を書き込むために、圧電層に歪みを誘発してその磁化を変化させる電圧が、圧電層に印加される。圧電層の磁化の変化は、記憶層と圧電層の間の双極子結合により記憶層の磁化の方向を変えるのに効果的である。記憶層の磁化の方向が変更された後、圧電層と歪み誘起層の間の小さな格子不整合のために、または、歪み誘導層の強誘電分極のために、歪み誘起(圧電)層の歪みは小さな値(例えば非ゼロ値)に減少し、記憶層の磁場が記憶層の保磁力場よりも低くなるレベルまで圧電層の磁化が低下する。これにより、圧電層から歪みが除去されると(圧電層から電圧が除去されると)、記憶層の磁化の方向は変わらない。
【0009】
この構成の利点は、記憶層への書き込みに使用されるのと同じ電極を、記憶層の読み出しに使用できることである。
【0010】
一実施形態では、前記不揮発性メモリセルは、前記記憶層と前記圧電層との間にあり、前記記憶層と前記圧電層との間の交換バイアスを防ぐための非磁性層を備える。記憶層と圧電層の間に交換バイアスが存在する場合、記憶層に書き込むために圧電層に加えられた歪みが除去されると、記憶層の磁化の方向も影響を受ける。それにより、記憶層と圧電層の間に非磁性層を含めることにより、記憶層に保存されたデータを失うことなく、NVMセルから電圧を除去できる。
【0011】
一実施形態では、前記アンチペロブスカイト材料は、歪みが+/-30%、好ましくは+/-10%、最も好ましくは+/-1%でネール温度(T)が350Kより大きい。これは、アンチペロブスカイト圧電材料が、不揮発性メモリセルの通常の動作温度で圧電特性を維持し、例えば、該材料がネール温度を超えないようにする特別な冷却装置を必要とせず、それにより常磁性となることを意味する。
【0012】
一実施形態では、アンチペロブスカイト圧電材料は、MnSnN系材料(例えばMn3-xSnl-yl-zであり、AおよびBはリストから選択される1つ以上の元素であり、前記リストは、Ag、Al、Au、Co、Cu、Fe、Ga、Ge、In、Ir、Ni、Pd、Pt、Rh、Sb、Si、SN、Znを含む)である。MnSnNは、約475Kのネール温度と、歪みの小さな変化のための誘導磁化の大きな変化とを有し、それにより高度な信頼性を提供できることがわかっている材料である。
【0013】
一実施形態では、前記第1タイプの効果は、前記圧電層が常磁性状態にあり、前記記憶層と前記圧電層との間に交換バイアス相互作用がなく、前記圧電層が存在することにより、外部磁場によって前記記憶層の磁化の方向を変えることができるものであり、前記第2タイプの効果は、前記圧電材料が反強磁性状態にあり前記記憶層の磁化の方向が前記圧電層によって固定される交換バイアス相互作用である。外部磁場は、アレイ全体にグローバルにまたは各ビットに局所的に加えられる切り替え可能な磁場であり、または歳差運動磁化スイッチングを駆動する一定の垂直磁場であり得る。この実施形態において、アンチペロブスカイト圧電材料の新たに発見された特性であって、それらが歪みとともにネール温度の変化を示すという特性は、不揮発性メモリセルに適用される。これにより、アンチペロブスカイト圧電材料は常磁性であるとき、記憶層の磁化の方向が変わる。その後、圧電材料に加えられた歪みが解放され、交換バイアス相互作用によって記憶層の磁化の方向を固定すると、アンチペロブスカイト圧電材料が反強磁性状態に戻る。それにより、メモリセルに電圧が印加されていない場合でも、記憶層の磁化の方向が維持される。従って、そのようなメモリセルは、不揮発性であり、熱変動または外部磁場に対して高い復帰力があり、電力を大量には消費しない。
【0014】
一実施形態では、前記アンチペロブスカイト圧電材料は、歪みに応じて変化するネール温度を有し、前記歪みが+30%から-30%、好ましくは+10%から-10%、最も好ましくは+1%から-1%の場合、前記ネール温度は293kを超える。これは、デバイスを通常の周囲温度で動作させることができ、NVMセルが正しく動作させるために加熱または冷却(HAMRのような)が必要ないことを意味する。
【0015】
一実施形態では、前記アンチペロブスカイト圧電材料は、MnGaNまたはMnNiN系、例えばMn3-xGal-yByNl-zまたはMn3-xNil-yl-zであり、AおよびBは、Ag、Al、Au、Co、Cu、Fe、Ga、Ge、In、Ir、Ni、Pd、Pt、Rh、Sb、Si、Sn、Znを含むリストから選択される1つまたは複数の元素である。これらの材料の多くは、歪みに応じて変化するネール温度の変化を示すことが分かっており、歪みが+1%から-1%の場合、ネール温度は293Kを超え、また、そのひずみ範囲でネール温度の大きな変化も示すことが分かっているため、それにより、記憶層への書き込みを簡単に制御できる。
【0016】
一実施形態では、前記不揮発性メモリセルは、前記記憶層の磁化の方向を変更するための大局的または局所的な時間依存磁場を誘導するために、前記記憶層の隣に位置する少なくとも1つの追加の電極をさらに備える。一実施形態では、前記追加層は、前記記憶層の磁化に直交する一定の磁化であって、歳差運動期間の半分の間ピン止めされなくなると、前記記憶層の磁化の歳差運動の切り替えを誘導する磁化を有する。このさらなる機構は、記憶層を固定解除するために、書き込み手順において圧電材料が常磁性にされる実施形態において有利である。加えられた磁場の単一ソースは、複数のメモリセルにデータを書き込むために利用できる。
【0017】
好ましい実施形態では、前記歪み誘起層は圧電層である。これは、さまざまな歪み速度と優れた耐久性との間をすばやく切り替えることを可能にする。
【0018】
一実施形態では、前記歪み誘起層はペロブスカイト材料である。これは、歪み誘起層と圧電層との間の格子不整合を低減することが可能であるため、有利である。格子不整合が小さいと、引張歪みと圧縮歪みの両方が歪み誘起層によって圧電層に誘導され、歪み誘起層が活性化されていないとき(すなわち、格子不整合により)圧電層に残っている歪みが減少する。これは、メモリセルの機械的安定性と耐久性を向上させるため、有利である。
【0019】
一実施形態では、前記記憶層と前記圧電層との間の格子不整合、および/または前記圧電層と前記歪み誘起層との間の格子不整合は、1%未満である。これにより、デバイスの耐久性が向上し、圧電層と誘起層の間の不整合が小さい場合、圧電層に引張歪みと圧縮歪みの両方を誘導でき、これにより実施形態の第1タイプの書き込み動作が可能となる。 不揮発性メモリセルがメモリセルの二次元または三次元アレイの一部である場合、小さな格子不整合は、そうでなければ許容できないレベルの歪みを持つ大きなアレイの構築を可能にする。
【0020】
一実施形態では、前記記憶層はペロブスカイト層である。これは、隣接するペロブスカイトおよびアンチペロブスカイト層の間の格子不整合により、前述した利点を伴って層間の小さい格子不整合が可能になるため、有利である。
【0021】
一実施形態では、前記不揮発性メモリセルは、前記記憶層に対し前記圧電層とは反対側に接続された第1電極と、前記歪み誘起層に対し前記圧電層とは反対側に接続された第2電極とをさらに備える。不揮発性メモリは、これらの2つの電極のみで、アレイの各セルにトランジスタを必要とせずに読み書きできる。従って、NVMセルは簡単にアドレス指定できる。二次元アレイでは、アレイの他のセルと共有される第1、第2電極で個々のメモリセルをアドレス指定できる。
【0022】
一実施形態では、本発明の複数の不揮発性メモリセルを備えるメモリセルの二次元または三次元アレイが提供される。本発明のメモリセルは、二次元または三次元アレイに組み込むのに理想的に適しており、なぜなら、特に、層間の格子不整合が小さく構築された場合、より多くのメモリセルが横および縦に互いに隣接して形成されるため、応力が蓄積されないからである。各メモリセルのサイズは小さく、読み出し機能と書き込み機能の両方を実行するためには2つの電極のみが必要なため、高密度メモリを実現できる。
【0023】
一実施形態では、記憶層およびアンチペロブスカイト圧電層を含む不揮発性メモリセルに対するデータの書き込みおよび読み出し方法が提供され、前記方法は、
前記記憶層に第1または第2方向に分極を誘導し、それによって前記メモリセルにデータを書き込み、前記第1方向の前記記憶層における分極は、前記アンチペロブスカイト圧電層の第1磁気状態を誘導し、前記第2方向の前記記憶層における分極は、前記アンチペロブスカイト圧電層の第2磁気状態を誘導し、
前記メモリセルの磁気容量を測定し、前記アンチペロブスカイト圧電層の前記磁気容量は、前記第1磁気状態と前記第2磁気状態とで異なり、それにより前記記憶層に記憶されたデータを読み取る
工程を備える。
【0024】
従って、記憶層に保存された情報は、トランジスタを必要とせず、メモリに保存されたデータの上書きなしに2つの電極のみを使用して読み出すことができる。これは、アンチペロブスカイト圧電層なしでは達成できず、なぜなら、一般的な強誘電体コンデンサの容量は、その電気分極の方向に関して対称的であるからである。すなわち、メモリビットの磁気容量は、アンチペロブスカイト圧電層の完全に補償された反強磁性状態または常磁性状態で測定される場合、強誘電分極の方向に関係なく同じである。逆に、アンチペロブスカイト圧電層の傾斜反強磁性状態では、磁気容量は、圧電層の磁化のサイズに影響を与える強誘電分極の方向によって変化する。これは、いわゆる磁気弾性結合を支えるアンチペロブスカイト圧電材料のフラストレート磁気によるものである。
【0025】
一実施形態では、前記測定は、前記記憶層と前記アンチペロブスカイト層の間に交流電圧を印加し、リアクタンスを決定し、それにより前記メモリセルの前記磁気容量を決定することを含む。一実施形態では、前記測定は、前記メモリセルの共振周波数のシフトを決定することを含む。
【0026】
一実施形態では、前記記憶層は強磁性材料から構成され、前記分極は磁気分極、例えば磁化である。
【0027】
一実施形態では、前記誘導は、双極子結合により前記記憶層の前記磁気分極が前記アンチペロブスカイト圧電層の磁化と揃うのに十分な前記アンチペロブスカイト圧電層の磁化を誘導することにより、実行される。このように、アンチペロブスカイト圧電材料には2つの機能があり、メモリセルの読み出しを可能にするとともに、書き込み操作で使用されて記憶層に分極を誘導する。これは、読み出し機能と書き込み機能の両方を実行するために2つの電極のみが必要であり、電力を使用してスペースを消費するトランジスタを必要としないことを意味する。
【0028】
一実施形態では、前記不揮発性メモリセルは、歪み誘起層をさらに備え、前記アンチペロブスカイト圧電層の磁化の誘導は、前記歪み誘起層を用いて前記アンチペロブスカイト圧電層の歪みを誘導することによって成される。従って、歪み誘起層(圧電材料であり得る)に電位差を加えることにより、歪みをアンチペロブスカイト圧電層に誘導できる。アンチペロブスカイト圧電層の歪みにより、アンチペロブスカイト圧電層に磁気スピン分極が誘発される。アンチペロブスカイト圧電層の磁気スピン分極は、それにより、例えば双極子結合により、記憶層の磁化を誘導する。
【0029】
一実施形態では、前記誘導は、磁化電極を用いて前記記憶層に磁化を誘導することを含む。そのような磁化電極を使用して、複数の不揮発性メモリセルの記憶層に第1、第2方向に分極を誘導することができる。
【0030】
一実施形態では、前記誘導は、前記アンチペロブスカイト圧電層に歪みを誘導し、それによって前記アンチペロブスカイト圧電層を常磁性にする。この実施形態では、アンチペロブスカイト圧電層は、記憶層への書き込みを許可するか、または記憶層への書き込みを許可しないためのスイッチとして使用される。それにより、外部から加えられる磁場と組み合わせて、不揮発性メモリセルに対するデータの読み出しおよび書き込みシステムを達成できる。
【0031】
一実施形態では、前記不揮発性メモリセルは、歪み誘起層をさらに備え、歪みの前記誘導は、前記歪み誘起層を用いて成される。従って、歪み誘起層(圧電材料であり得る)に電位差を加えることにより、歪みをアンチペロブスカイト圧電層に誘導できる。これは、アンチペロブスカイト圧電層を反強磁性材料から常磁性材料に変えるのに用いることができる。このスイッチは、応答時間が短く、寿命が長いため、ストレージ層の分極の固定および非固定に使用できる。
【0032】
一実施形態では、前記記憶層は強誘電体材料から構成され、前記分極は電気分極である。一実施形態では、前記不揮発性メモリセルは、前記アンチペロブスカイト圧電層に対し前記記憶層とは反対側に接続された第1電極と、前記記憶層に対し前記アンチペロブスカイト圧電層とは反対側に接続された第2電極とを備え、前記誘導は、前記第1、第2電極間に電位差を加えることを含み、前記測定は、前記第1、第2電極間の前記磁気容量を測定することを含む。このようなデバイスは、非常にシンプルでコンパクトであり、トランジスタのないアレイ内で動作させることができる。
【0033】
本発明の実施形態を、以下の図面を参照し、以下の図面に示される単なる例として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】アンチペロブスカイト圧電材料の格子と磁気構造の概略図である。
図2】さまざまなアンチペロブスカイト圧電材料を選択した場合の、x軸に沿った歪みとy軸に沿った誘導正味磁化のグラフである。
図3】さまざまなアンチペロブスカイト圧電材料を選択した場合の、x軸に沿った歪みとy軸に沿ったケルビン(ネール温度-ゼロ歪みのネール温度)のグラフである。
図4】MnNiNの実験的に決定された結果のグラフであって、100KでのM-Hループから得られた飽和磁化を伴い、x軸上のc軸ひずみの関数としてのy軸上のネール温度と飽和磁化のグラフである。
図5】室温での(LaAlO0.3(SrTaA1O0.7基板上のMnGaN /Ba0.75Sr0.25TiO/SrRuOヘテロ構造の磁気容量効果のグラフである。
図6】第1実施形態による不揮発性磁気メモリセルの断面概略図である。
図7】第2実施形態による不揮発性磁気メモリセルの断面概略図である。
図8】第3実施形態による不揮発性電気メモリセルの断面概略図である。
図9】一実施形態による二次元磁気メモリアレイの斜視概略図である。
図10】第1実施形態の二次元メモリアレイへの書き込みの説明である(第3実施形態の二次元メモリアレイにも適用可能である)。
図11】第2実施形態の二次元アレイへの書き込みの説明である。
図12】3つすべての実施形態の二次元メモリアレイの読み出しの説明である。
図13】一実施形態による三次元磁気メモリアレイの斜視概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明は、Mn系アンチペロブスカイトの特性を利用する。これらの材料は圧電効果(piezomagnetic effect)を示すことが知られる。圧電効果は磁化の変化であり、磁化の変化は、Mn系アンチペロブスカイトの傾角反強磁性状態(canted anitiferromagnetic state)に現れる応力の印加による。
【0036】
図1aは、正味磁化(net magnetisation)がなく無歪み状態のMn系アンチペロブスカイトの構造を示す。図1bは、引張歪みが加えられ、[110]方向に反平行の誘導正味磁化がある場合を示し、図1cは、[110]方向と平行な正味磁化を誘導する圧縮歪みが加えられる場合を示す。図示されるように、引張歪みまたは圧縮歪みが加えられることにより、正味磁気スピン分極(例えば磁化)が引き起こされる。磁気スピン分極の方向は、引張および圧縮歪みと反対である。
【0037】
図2は、x軸が百分率双軸格子歪みでy軸が誘導磁化(induced magnetisation)のグラフである。図2では、4つの異なるタイプのMn系アンチペロブスカイト材料について、誘導磁化の変化がプロットされている。図から分かるように、歪みによる磁場の最大の変動は、MnSnNに生じ、次に最も感圧な材料はMnNiNで続いてMnInNで次いでMnGaNである。ネール温度もまた示され、ネール温度は、これらの材料のバルク形態について実験的に観察されたゼロパーセント歪みにおけるものである。ネール温度を超えると、材料は反強磁性ではなく常磁性になるため、誘起歪み(induced strain)による磁気スピン分極の変化の影響は観察されない。図2の結果は、MnNiNについて実験的に確認されたシミュレーションの結果である(図4参照、図4は、100KでのM-Hループから得る飽和磁化を用いて、x軸上のc軸歪みの関数としてのy軸上のネール温度および飽和磁化を示す)。
【0038】
本発明者は、Mn系アンチペロブスカイトのネール温度が誘導歪みと共に強く変化することを発見した。誘導歪みに対するネール温度の感度は図3に示され、図3において、3つの異なるMn系アンチペロブスカイトについて、歪みはx軸に沿ってプロットされ、歪みゼロ時のケルビン温度におけるネール温度から偏差はy軸に沿ってプロットされている。図3に示される結果は、(KKR-DLM平均場近似(ウォーリック大学のJ.B.スタウントン教授により主に開発された量子力学コード)を用いて)ネール温度を過大評価することが知られている理論計算に基づいている。ケルビン温度の前記値は実験的に観察されるものを代表するものではないが、ネール温度の変動は実験的に観察されるものの指標である。図から分かるように、MnNiNおよびMnGaNはどちらも周囲温度付近でネール温度を示す(ゼロパーセント歪みでは、ネール温度は、実験的に決定され、それぞれ240K(図4に見られる)および300Kである)。Mn系アンチペロブスカイトの歪みの変化は、Mn系アンチペロブスカイトの特性を圧電性(ネール温度以下)から常磁性(ネール温度以上)に変えるために使用することができる。MnNiの歪みに対するネール温度と誘導磁化の依存性の結果は実験的に確認される(図4)。
【0039】
図5は、(LaAlO0.3(SrTaAlO0.7基板上のヘテロ構造MnGaN/Ba0.75Sr0.25TiO/SrRuOの磁気容量効果であって室温で測定された磁気容量効果を示す。7Tの磁場下で1400%を超える磁気容量効果は、下部電極(SrRuO)とAuの上部電極との間に1.5VのDCバイアスを印加することによって得られた。Ba0.75Sr0.25TiOの静電容量の変化は、磁場下でのMnGaN層の(逆)圧電効果によって誘起される界面歪みから生じる。磁気容量効果は、1.5VのDCバイアスでの磁気容量効果と比較して、0VのDCバイアスでははるかに少ないことに留意されたい。大きな磁気容量は、読み出しメカニズムを支えている。
【0040】
本発明者らは、Mn系アンチペロブスカイトの特性の図1-5に示された理解に基づいて、NVMセルを開発した。
【0041】
第1、第2実施形態では、不揮発性メモリセルは、図2図5に示すMn系アンチペロブスカイト圧電材料の特性を利用する。図6及び図7は、第1、第2実施形態における不揮発性磁気メモリセルの断面模式図である。NVMセルは、データを記録可能な記憶層10を含む。記憶層10は強磁性材料から構成されてもよい。このようにして、データは磁化の方向として記録可能である。
【0042】
圧電層20(piezomagnetic layer)も設けられる。圧電層20は、アンチペロブスカイト圧電材料、好ましくはMn系アンチペロブスカイト圧電材料から構成される。圧電層20の歪みに基づき、圧電層20は、記憶層10に対して第1タイプの効果(例えば、圧縮または引っ張りひずみがある場合)と、記憶層10に対する第2タイプの効果(例えば、引張または圧縮歪みが小さいまたは無い場合)と、を選択的に有する。
【0043】
歪み誘起層30は、圧電層20に歪みを誘導し、それによって第1タイプの効果から第2タイプの効果に切り替えるために設けられる。
【0044】
第1電極50は、記憶層10の圧電層20とは反対側に設けられている。第2電極60は、歪み誘起層30の圧電層20とは反対側に設けられている。層20、30、60は(以下に説明するように)平面コンデンサを形成し、平面コンデンサは磁気容量効果を示し、磁気容量効果は、電気的手段によってのみ非破壊的に記憶情報を読み出すために使用される。
【0045】
第1、第2電極50、60間に電圧を印加することによって、歪み誘起層30に歪みを誘導できる。第1、第2電極50、60間の電位差によって歪み誘起層30に誘起された歪みは、圧電層20に伝達される。図2-5に示すように、圧電層20における歪みの誘起は、その磁化および/またはそのネール温度の点で圧電層20の特性を変化させる。圧電層20の特性の変化は、記憶層10に対して効果(例えば第1タイプの効果)を有し、該効果は、圧電層20内の歪みに依存する効果(例えば第2タイプの効果)とは異なる効果である
【0046】
一実施形態では、圧電層20は、歪み誘起層30および記憶層10の平面に垂直な(001)方向に成長する。これにより、良好なエピタキシャル成長、図1に示される磁気構造の形成、良好な機械的安定性、強誘電体層30との小さな格子不整合、および所定の面内歪みに対する特性(磁化、第1実施形態またはネール温度、第2実施形態)の最大変化が保証される。
【0047】
歪み誘起層30は、圧電材料、例えば強磁性材料であってもよい。一実施形態では、歪み誘起層30は、ペロブスカイト構造またはアンチペロブスカイト構造を有する。例えば、歪み誘起層は、(Ba/Sr)TiO材料であってもよい。ペロブスカイト構造を有することは有利であり、なぜなら、歪み誘起層30と圧電層20との間の明確な界面および強固な弾性結合が得られるためである。きれいな結晶界面は、不揮発性メモリセルの長寿命、および歪み誘起層30に誘導され圧電層20に伝達される歪みの大きな伝達をもたらす。特に第1実施形態の場合、歪み誘起層30と圧電層20との格子不整合が小さいことが望ましい。これは、第1、第2電極50、60の間に電位差が無い場合、圧電層20に歪みが殆ど無いか全く無いことが望ましいからである。電位差が無い場合、圧電層20のゼロ磁化(または隣接する強誘電性歪み誘起層の自発分極によって誘導される小さな磁化、または歪み誘起層30と圧電層20との間の格子不整合から生じる残留歪みによって誘導される小さな磁化)があり、第1、第2電極50、60の間に電位差が無い場合、第1実施形態では、圧電層20の磁化ができるだけ低いことが望ましい。歪み誘起層30と圧電層20との間にある不整合は、第1、第2電極50、60の間に電位差が無い場合、圧電層20に歪みを生じさせる可能性がある。ゼロ電位差における圧電層20の磁化が第1、第2電極50、60の間にある限り、記憶層10の保持力場よりも低い磁場が記憶層10内に生じることは許容される。
【0048】
歪み誘起層30および圧電層20(および他の層間)の格子定数は、(後述するように)成長条件および組成を変えることによって調整できる。このようにして、様々な層間の格子不整合を調整できる。望ましくは、記憶層10と圧電層20との間、および/または圧電層20と歪み誘起層30との間、および/または第1または第2電極50/60とその隣の層との間の格子不整合は、1%未満、より望ましくは0.5%未満である。これは、他に記載されているような長持ちするデバイスおよび他の望ましい特性をもたらすだけでなく、横方向および垂直方向に延在し、高度な堅牢性を有する二次元または三次元のメモリセルアレイを開発することが可能であることを意味する。
【0049】
本発明の第1実施形態の動作について、図6を参照して詳細に説明する。図6の実施形態は、図2に示す原理を使用する。すなわち、記憶層10にデータを書き込むため、歪み誘起層30を収縮または拡張させるためにある方向における第1、第2電極50、60の間に電位差を与え、それによって圧電層20に圧縮歪みまたは引張歪みを加える。圧電層20に歪みが誘起されると、歪みが引っ張りか圧縮かに応じた方向に圧電層20において磁化が生じる。第1タイプの効果では、圧電層20と記憶層10との間の双極子結合によって、記憶層10の自発磁化が圧電層20の磁化の方向に従って切り替わる。このように、記憶層10内の磁化の方向は、第1、第2電極50、60の間に正または負の電位差を与えることで変えることができる。
【0050】
第1、第2電極50、60の間の電位差が除去されると、歪み誘起層30はその元の形状に戻り、圧電層20内の歪みもまたその元のレベルに戻る(圧電層20と歪み誘起層30との間の格子不整合が特に低い場合、ゼロに近くなる)。結果として、第1、第2電極50、60の間の電位差が除去されると、圧電層に磁化は残らない。
【0051】
圧電層20内の磁化が無視できるほどであり、圧電層20と記憶層10との間に交換バイアス効果がないと仮定すると、記憶層10の磁化は、強磁性記憶層(外部磁場がないと仮定して)の磁気異方性(保磁力場)によって固定されたままであり、これが第2タイプの効果である。
【0052】
一実施形態では、圧電層20と記憶層10との間の交換バイアスを回避するために、(金属)非磁性層15は、記憶層10と圧電層20との間に設けられてもよい。非磁性層15は比較的薄くてもよい(ナノメートルのオーダー)。このような薄い層の場合、材料の格子定数は、隣接する層(圧電層20および記憶層10)の格子定数と一致するので、非磁性層15の存在によって歪みが引き起こされることはない。非磁性層15は、記憶層10と圧電層20との間の交換バイアスを防止する。これら2つの層の間の交換バイアスを防止することは、圧電層20内の磁化が除去されても、記憶層10内の磁化が影響を受けないことを意味する。
【0053】
第1、第2電極50、60との間の電位差の除去後にわずかな磁化が圧電層20に残っていても、層20の磁化から生じ記憶層10に作用する磁場が記憶層10の保磁力場よりも低い限り、記憶層10の磁化に変化は生じない。そこで、第1実施形態では、記憶層10の強磁性材料の磁気異方性(結晶磁気異方性と形状異方性の組み合わせ)を利用している。各メモリビットの横方向寸法は典型的な磁区サイズよりも小さいので、記憶層10は、保磁力場が磁気異方性によって決定される単一磁区状態にあると仮定される。
【0054】
記憶層10に記憶されたデータ(磁化の方向)を変えるために、前に与えられた方向と反対の方向の電位差が第1、第2電極50、60の間に与えられる。これは、歪み誘起層30内、ひいては圧電層20内に引張歪みまたは圧縮歪みの反対のものを誘起し、従って方向が反対の磁化が生じる。それによって、双極子結合を介して、記憶層10内の磁化の方向が変えられる。
【0055】
第1実施形態では、好ましいアンチペロブスカイト圧電材料は、MnSnNまたはM-nSnN系であり、なぜなら図2によれば、この材料は歪みと共に大きな変化誘導磁場を示すからである。前記材料は、その化学組成を変えることによって望ましい格子定数および圧電特性を有するように最適化でき、例えば、Mn3-xAxSnl-yByNl-zであり、AおよびBはリストから選択される1つ以上の元素であり、リストは、Ag、Al、Au、Co、Cu、Fe、Ga、Ge、In、Ir、Ni、Pd、Pt、Rh、Sb、Si、Sn、Znを含む。それはまた、MnSnN以外の他のアンチペロブスカイトに由来され得る。一般に、それは室温で圧電性を有し、他の層との良好な格子整合性を有する任意の材料であり得る。
【0056】
一実施形態では、圧電層20は、歪み誘起層30の表面と接触している。一実施形態では、非磁性層15は、圧電層20と接触している。一実施形態では、記憶層10は非磁性層15と接触している。一実施形態では、第1電極50は記憶層10と接触している。一実施形態では、第2電極60は歪み誘起層30と接触している。
【0057】
一実施形態では、記憶層10は、ペロブスカイトまたはアンチペロブスカイト材料、例えばCoFeNである。歪み誘起層30は電極上に形成されてもよく、電極はそれ自体が基板上に形成され、基板は例えばMgO、SrTiO、Nb:SrTiOまたはSiであってもよい。一実施形態では、基板は、電極および歪み誘起層30の格子定数と一致する格子定数を有する。一実施形態では、その上に層が成長する基板(例えば、Nb:SrTiOまたはドープされたSi)を電極として使用でき、別個の電極は不要である。
【0058】
第1電極50は、Nb:SrTiOまたはSrRuOのような金属または導電性ペロブスカイトで製作できる。第2電極60は、Nb:SrTiOまたはSrRuOで製作できる。
【0059】
記憶層10に記憶されたデータを読み出すために、磁気容量効果が利用される。アンチペロブスカイト圧電材料のさらなる特性は、磁気弾性結合のためにそれらの中に存在する磁場の結果としてそれらの剛性が変化することである。記憶層10内に磁化が存在すると、歪みがゼロであっても圧電層20内に磁場が生じる。圧電層20内の磁場は、圧電層20内に磁場が存在しない場合に比べ、圧電層20の弾性に変化をもたらす。圧電層20の弾性の変化は、層20、30、60によって形成されるコンデンサの磁気容量の変化として測定できる。磁気容量の変化は非対称的であり、これは、測定された容量が、記憶層10内の磁化の2つの反対の配向に対して異なることを意味する。従って、層20、30、60によって形成されるコンデンサの磁気容量を測定することによって、記憶層10内の磁化の方向を決定することが可能である。それによって、第1、第2電極50、60間の磁気容量を測定することによって、記憶層10内の磁化の方向を決定することができる。
【0060】
第1、第2電極50、60の間の磁気容量を測定する1つの方法は、第1、第2電極50、60の間に交流電圧を印加し、応答(リアクタンス)を測定することを含む。これは、図10を参照して以下でさらに説明される。
【0061】
それにより、2つの電極のみを用いて、トランジスタを必要とせずに、そして3つ以上の電極を必要とせずに、記憶層10への書き込みと記憶層10からの読み出しの両方が可能である。これは望ましく、なぜなら、特にコンパクトで設計が単純な本発明の複数の不揮発性メモリセルを含む二次元または三次元メモリの設計が可能であるからである。
【0062】
次に、図7を参照して、第2実施形態について説明する。以下に説明する点を除いて、第2実施形態は第1実施形態と同じである。
【0063】
第2実施形態は、図3図5に示すように、圧電層20の挙動に依存する。すなわち、圧電層20の特性は、それに歪みを誘起することによって反強磁性的挙動(第2タイプの効果)から常磁性的な挙動(第1タイプの効果)に切り替えられる(そしてそれによってネール温度を圧電層20によって経験される温度以下に変える)。第2実施形態では、第1実施形態の非磁性層15が省略される。その結果、圧電層が反強磁性である場合(例えば、電位差が第1、第2電極50、60の間に加えられていない場合)、交換バイアスが記憶層10と圧電層20との間に存在する。
【0064】
電位差が第1、第2電極50、60の間に加えられると、歪み誘起層30によって圧電層20内に誘導される歪みは、アンチペロブスカイト圧電層20が常磁性になるように圧電層20のネール温度を下げるのに有効である。圧電層20が常磁性の場合、交換バイアスは圧電層20と記憶層10との間に存在しない。しかしながら、圧電20が反強磁性であるとき(例えば、電位差がオフにされた後)、交換バイアスが圧電層20と記憶層10との間に存在する。交換バイアスが圧電層20と記憶層10との間に存在すると、たとえ保磁力場よりも強い磁場が存在していても、記憶層10の磁化の方向は固定される。層20は、層20が反強磁性に変わるときに存在する層10の磁気状態に応じて少なくとも2つの異なる方向に層10の磁化を固定することができる。
【0065】
第2実施形態は、これにより、電位差を第1、第2層50、60の間に加えて圧電層20に歪みを誘導し(歪み誘起層30を介して)、傾斜反強磁性と常磁性との間で圧電層20の特性を変化させる。圧電層20が常磁性になると、記憶層10内の磁化の方向を変えることが可能である。これは、例えば外部磁場を用いて達成できる。この目的のために、例えば、磁場を誘導する少なくとも1つの追加の電極70または垂直磁化層70を設けることができる。個々の追加の電極70は、2つ以上のメモリセルにわたって全体的に、または単一のメモリセルに対して局所的に作用できる。あるいは、記憶層10の磁化に対して垂直な一定の磁化を有する追加の層が含まれ、それが歳差運動期間の半分の間ピン止めされなくなったときに記憶層10の磁化の歳差運動の切り替えを引き起こす。このさらなる機構は、実施形態において有利であり、実施形態では、圧電材料20は、記憶層10を固定解除するために、書き込み処理にて常磁性とされる。電極70を用いて記憶層10内に磁場を誘導することによって、記憶層10の磁化の方向を変えることができる。記憶層10にデータを書き込むために記憶層10内の磁化の方向が変更された後、第1、第2電極50、60の間に加えられた電位差が除去される。それによって、圧電層20のネール温度は周囲温度よりも高くなり、圧電層20は反強磁性として作用する。圧電層20が反強磁性体として作用するとき、記憶層10の磁化(この場合、磁気スピン分極)の方向は、圧電層20と記憶層10との間の交換バイアス相互作用のために固定される。それによって、たとえ磁化電極70が、隣接する不揮発性メモリセルに情報を書き込むために使用され、磁場が注目するメモリセルの記憶層10内に広がっても、注目するメモリセルの記憶層10の磁化の方向は変わらない。
【0066】
第2実施形態では、第1実施形態と同様に、磁気容量効果を利用して不揮発性メモリセルからデータを読み出す。しかしながら、この場合、記憶層の磁化の方向は、層20にTN未満の歪みを加えることによって反転され、そして記憶層10が反転された後、速い歪みパルスを印加して圧電層20を常磁性にし、それによって、記憶層10の新しい磁化方向を変えることなくピン止め方向をリセットする。
【0067】
第2の実施形態では、最も好ましいアンチペロブスカイト圧電材料は、MnGaNまたはMnNiN、またはMnGaNまたはMnNiN系材料であって、例えば Mn3-xGal-yByNl-zまたはMn3-xNil-yl-zのようなMnNiN系材料であってもよく、ここで、AおよびBは、Ag、Al、Au、Co、Cu、Fe、Ga、Ge、In、Ir、Ni、Pd、Pt、Rh、Sb、Si、Sn、Znを含むリストから選択される1つまたは複数の元素であり、これらの材料は、周囲温度およびメモリが動作する温度にほぼ等しいゼロ歪みのネール温度を有する。好ましくは、圧電材料は、歪みに応じて変化するネール温度を有し、歪みが+30%から-30%、好ましくは+10%から-10%、最も好ましくは+1%から-1%の場合、ネール温度は293kを超える。そのような材料が使用される場合、周囲温度でネール温度の変化をもたらすことができるため、不揮発性メモリセルを加熱または冷却する必要はない。
【0068】
第3実施形態について、図8を参照して説明する。第3実施形態は、以下に説明することを除いて、第1、第2実施形態と同じである。第3実施形態では、不揮発性メモリセルは、不要な層10、70を除いて第2実施形態のセルと全く同じ層を含む。代わりに、情報は強誘電体層30に保存される。
【0069】
第3実施形態では、記憶層は強誘電体層30であり(第1、第2実施形態と同様であるが、追加の圧電特性は今は必要ではない)、そこではデータは電気分極の方向として記録可能である。第1、第2電極50、60の間に電位差を加えることにより、不揮発性電気メモリセルにデータを書き込むことができる。これにより、加えられた電位差の極性に基づいて強誘電体層30の電気分極を切り替えることができる。第1、第2電極50、60の間の電位差が除去されても、強誘電体材料の電気ヒステリシスにより、電気分極は維持される。
【0070】
強誘電体層30の電気分極は、圧電層20に磁気モーメントを誘導する。この磁気モーメントは、層20、30、60によって形成されるコンデンサの磁気容量に変化をもたらし、これは、第1、第2実施形態と同じ方法で測定することができる。第1、第2実施形態と同様に、決定された磁気容量は、分極の方向(第3実施形態の場合は電気的)に関係し得る。これにより、記憶層30に記憶されたデータを読み出すことができる。
【0071】
クロスバージオメトリ(cross-bar geometry)を備えたN行N列のメモリビットの読み出しと書き込みは、図9-12を参照して以下に説明する第1、第2実施形態の場合と同じステップに従って、非破壊的にかつ各ビットのトランジスタなしに実行できる。
【0072】
全ての実施形態は構造的疲労に強く、これに関して典型的なフラッシュメモリより数桁優れている。第1、第2実施形態は、第3実施形態よりもさらに構造的疲労に対する耐性が高い。
【0073】
第3実施形態において、強誘電体層30は、圧電体20と接していてもよい。一実施形態では、強誘電体層30は、ペロブスカイト強誘電体材料(例えば、PbTiO、SrTiO、BaTiO、BaSrl-xTiO、Ba(ZrTil-x)TiO)で形成される。圧電層20は、上述のように、MnSnN、MnGaN、またはMnNiN、またはMnSnN、MnGaN、またはMnNiN系の材料などの任意のMn系アンチペロブスカイト材料で形成することができる。
【0074】
本発明の不揮発性メモリセルは、二次元または三次元アレイに容易に組み込まれるという利点を有する。
【0075】
図9は、一実施形態による磁気メモリセルの二次元アレイの模式的な斜視図である。図から分かるように、第1、第2実施形態による複数の不揮発性メモリセルは、二次元アレイに配置されている。第1、第2電極50、60は帯状(form of strips)である。複数の第1、第2電極は直交方向に延び、各電極は、電極50、60の長さに沿って延びる複数のメモリセルに接続されている。各メモリセルは、それによって個別にアドレス指定(addressable)でき、該指定は、各実施形態(図10、11は、それぞれ第1、第3実施形態および第2実施形態でそれぞれ加えられる電位差を示す)で上述したように、第1方向に延びる電極50と直交方向に延びる第2電極60との間に電位差を加えることによって行われる。このようにして、密に詰まった二次元不揮発性メモリを組み立てることができ、該メモリでは、個々のメモリセルは個別にアドレス指定でき、個々のメモリセルにデータを読み書きするためのトランジスタは不要である。
【0076】
上記で説明したように、第1実施形態では、記憶層10の磁化は、平行な(状態1)または反平行(状態0)な保磁場によって圧電層20の小さな磁化にロックされたままである。各配向状態は、圧電層20の異なる磁気状態をもたらし、それによって、磁気容量測定によって検出可能な異なる弾性特性をもたらす。この書き込みメカニズムにより、各ビットがN個のトップリードの1つとN個のボトムリードの1つに接続されるN行N列のアレイに集積される個々のビットのアドレス指定が可能になる。上部と下部のリード線セットは、図9に示すように、互いに直交する(クロスバージオメトリ)。図10は、第1実施形態に従ってメモリセルのメモリビットの状態を書き込む方法を示す(同じ原理が第3実施形態に適用されるが、異なる層構造を有する)。DC電位VtopおよびVは、それぞれ、対象のメモリセルに接触する上部および下部リードに加えられる。より小さなDC電位(例えばVtop/3)は、残りのトップリードに加えられ、例えば2*Vtop/3は、残りの下部リードに加えられる。これにより、対象のメモリビットに大きな電圧(Vtop、V=0がグランド)が発生し、圧電層20に歪みを誘導し、記憶層10の保磁場を克服するのに十分な大きさの磁化を誘導し、その磁化を切り替える。アレイの他のすべての個々のメモリセルには、スイッチング電圧(Vtop)の3分の1(2*Vtop/3-Vtop/3=Vtop/3)の電圧がかかっているため、それらの状態は影響を受けない(保磁力場により設定される閾値より低い電圧)。
【0077】
情報を読み取るために、図12に示すように、小さなAC電圧がコンデンサ(圧電層20および下部接触層60)のプレートに印加されるが、これは記憶層10の磁気の状態を変えることが可能な歪みを誘導するほど大きくないが、リアクタンスの測定を可能にし、それによりメモリビットの容量の測定を可能にする。容量は、絶縁歪み誘起層30の比誘電率と寸法に依存し、さらに圧電層20の弾性特性に依存し、記憶層10(またはシナリオ3の30)の磁化の配列に依存する。この読み出しメカニズムにより、上記のN行N列のアレイに集積された個々のビットのアドレス指定が可能となる。メモリビットを読み出すには、関連するメモリビットに接触する上部および下部リードにAC電圧を印加し、逆位相のAC電圧を、関連するメモリビットに接触しないすべてのリードに印加する。それにより、任意の時点で、関連するメモリビットと同じリードに接続されているビットの電圧はゼロであり、他のビットの電圧は、対象のメモリビットの電圧と同じ大きさだが極性が反対である。従って、目的のメモリビットの容量を読み取ることができ、それは、同じリードに接続された他のビットからの信号の影響を受けることなく、また、どのビットのメモリ状態に影響を与えることなく行うことができる(非破壊読み出し)。
【0078】
あるいは、圧電層の2つの磁気状態間の磁気容量の差は、単一のメモリセルがキャパシタでありインダクタがメモリアレイの外部の制御ユニットにある回路の共振周波数のずれとして決定できる。
【0079】
第2実施形態のメモリビットの状態を上記のクロスバージオメトリのN行N列のアレイに書き込むには、DC電位VtopおよびVを、図11に示されるように、それぞれ特定のメモリビットに接触する上部および下部リードに印加する。反対の電圧が、特定のメモリビットに接触しないすべてのリードに印加される(Vtopがボトムリードに、Vがトップリードに)。これは特定のメモリビットに大きな電圧(Vtop-Vg)をもたらし、それは圧電層20に歪みを誘導し、それはその層を常磁性に変えるので、特定のメモリビットは外部磁場(図11には示さず)によって書き込み可能である。アレイの他のすべてのメモリビットは、ゼロ電圧または反対極性の同じ電圧(V-Vtop)が印可されるので、それらのネール温度は周囲温度よりもさらに高く、それらの記憶層の磁化は固定される。
【0080】
第2実施形態のN×Nアレイでの読み出しは、図12を参照して説明した第1、第3実施形態の場合と同じである。
【0081】
第3実施形態では、第1実施形態と同様にDC電圧を印加して書き込みを行う。ただし、今回は、強誘電体層30の選択されたビットの強誘電分極を第1、第2方向の間で切り替えてそれによってメモリセルにデータを書き込むのに十分な大きさでなければならず、強誘電体層30の第1方向の強誘電分極は、アンチペロブスカイト圧電層20に第1磁気状態を誘導し、強誘電体層30の第2方向の強誘電分極は、アンチペロブスカイト圧電層20に第2磁気状態を誘導する。残りのビットに印加される電圧は、電気分極を切り替えるのに十分ではない。強誘電分極に影響を与えない電圧は、除去される。読み出し方法は、以下のステップを含む:AC電圧は、選択されるメモリセルの磁気容量を測定するために図12に示される実施形態の第1タイプのように2Dメモリアレイに印加され、同じリードに接続される残りのセルへ任意の時点で印加される電圧はゼロである。選択されるメモリビットの磁気容量は、第1磁気状態と圧電層の第2磁気状態とで異なり、それによって記憶層に記憶されるデータを読み出すことができる。
【0082】
すべての実施形態について、個々の層間の格子不整合が低いため、メモリセルの層間の電極を使用してその電極の両側のメモリセルをアドレス指定するのと同様の原理を使用して、三次元メモリアレイを構築することが可能である。x-y方向に通過する電極に到達できるようにするため、x方向とy方向の層の幅は高さとともに減少する。このようなメモリは図13に模式的に示される。
【0083】
二次元および三次元アレイの他の配置も可能であり、それらは当業者の範囲内である。
【0084】
このデバイスの多層は、要求される層に最適化された薄膜堆積法を使用して製造できる。例えば、パルスレーザー堆積法(PLD)を使用できる。各薄膜の成長条件の例を以下に示す。
【0085】
ステップ1:基板の選択と洗浄。
任意の適切な酸化物基板(例えば、MgO、SrTiO、Nb:SrTiO、(LaA1OO.3(SrTaAlO0.7)またはSiを基板として使用できる。成長の前に、基板を標準的な溶剤洗浄手順で洗浄する。標準的な溶媒洗浄手順は、アセトン、次いでイソプロパノールそして最後に蒸留水を用いて超音波浴中で3分間洗浄することができ、各溶媒工程の後にNブロー乾燥させる。一実施形態では、基板は下部電極60になり得る。
【0086】
ステップ2:多層成長(PLDおよびマグネトロンスパッタリング)。
薄膜をKrFエキシマレーザー(λ=248nm)を使用してPLDによって堆積する。SrRuO、Nb:SrTiO、BaTiO、BaSrl-xTiO、BaZrTil-x、MnSnN、MnGaNの化学量論的単相ターゲットを、それぞれ0.8J/cm、10Hzのレーザーでアブレーションする。
【0087】
層1-第2電極60-100nmのSrRuO薄膜を、50-300mTorrのO分圧下で700-780℃で成長させる。堆積後、成長膜を、続いて600TorrのO分圧下で成長温度で20分間その場でポストアニールする。そして、サンプルを600TorrのO分圧下で10℃/minで室温になるまで冷却する。
【0088】
または、100nmのNb:SrTiO薄膜を、0-60mTorrのO分圧下で700℃で成長させる。成長後、600TorrのO分圧でサンプルを10℃/minで室温まで冷却する。
【0089】
層2-歪み誘起層30の圧電材料-100nmBaTiO(BaSrl-xTi03またはBaZrTil-x)薄膜を、150-300mTorrのO分圧下で750℃-800℃で成長させる。成長後、600Torrの0分圧下でサンプルを10℃/minで室温まで冷却する。
【0090】
層3-MnXNの圧電層20、Xは任意の適切な元素-例えば、100nmのMnSnN薄膜を0-12mTorrのN分圧下で300℃-550℃で成長させる。成長後、0-12mTorrのN分圧下でサンプルを10℃/minで室温まで冷却する。
【0091】
または、100nmのMnGaNを0-12mTorrのN分圧下で300℃-550℃で成長させる。成長後、サンプルを0-12mTorrのN分圧下で10℃/minで室温まで冷却する。
【0092】
スペーサ層(実施形態1のみ)-非磁性層15のペロブスカイト常磁性体-1~2nmのプラチナ(Pt)薄膜をDCマグネトロンスパッタリングによってサンプル(基板、層60、30、20から構成される)上に成長させる。サンプルを超高真空で800℃に加熱し、1時間アニールする。Pt薄膜を100WDC電力で堆積させる。成長後、サンプルを真空下で10℃/minで室温まで冷却する。
【0093】
層4-記憶層10の強磁性材料-20-50nmのCoFeN薄膜を、5-20mTorrでNガスの体積濃度が5-15%の範囲であるAr+Nガス混合雰囲気で、CoFeターゲットからRFマグネトロンスパッタリングにより300℃から500℃で成長させる。成長後、サンプルを10℃/minで室温まで冷却する。
【0094】
層5-金属(例えばPt、Au)または導電性ペロブスカイト薄膜(例えばSrRuO、Nb:SrTiOs)の第1電極50-100nm。
【0095】
100nmのPt薄膜をDCマグネトロンスパッタリングによって成長させる。サンプルを超高真空で800℃に加熱し、1時間アニールする。Pt薄膜を100WDC電力で堆積する。成長後、サンプルを真空下で10℃/minで室温まで冷却する。
【0096】
または、100nmのSrRu0薄膜を、50-300mTorrのO分圧で700-780℃で成長させる。堆積後、成長膜を、続いてその場で600TorrのO分圧下で成長温度で20分間ポストアニールする。そして、サンプルを600TorrのO分圧で10℃/minで室温まで冷却する。
【0097】
または、100nmNb:SrTi0薄膜を、0-60mTorrのO分圧下で700℃で成長させる。成長後、600TorrのO分圧下でサンプルを10℃/minで室温まで冷却させる。
【0098】
ステップ3:フォトリソグラフィ。
アレイパターンを適用するために、標準のフォトリソグラフィープロセスが実装される。2Dデバイスの場合、すべての層を堆積してからパターン化できる。3Dスタッキングデバイスでは、各メモリセル層を、次の層を堆積する前にパターン化する必要がある。
【0099】
ステップ4:エッチング。
材料を除去し、フォトリソグラフィからサンプルにパターンを転写するための標準的なアルゴンイオンミリングプロセス、またはその他の適切な化学的または物理的エッチング技術が実装される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13