(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】マルテンサイトステンレス鋼シートをスポット溶接する方法
(51)【国際特許分類】
B23K 11/11 20060101AFI20220405BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20220405BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20220405BHJP
B23K 11/16 20060101ALI20220405BHJP
B23K 11/24 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
B23K11/11 540
C22C38/00 302Z
C22C38/58
B23K11/16
B23K11/24 315
(21)【出願番号】P 2019572146
(86)(22)【出願日】2017-06-30
(86)【国際出願番号】 IB2017053975
(87)【国際公開番号】W WO2019002924
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2020-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】512072614
【氏名又は名称】アペラム
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ベルトラン・プチ
(72)【発明者】
【氏名】フレデリク・ブリドー
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/069268(WO,A1)
【文献】特開昭61-019734(JP,A)
【文献】特表2010-539325(JP,A)
【文献】特開2015-101789(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/00 - 11/36
B21D 22/20
B21D 22/26
B23D 15/06
C21D 8/00
C21D 9/00
C22C 38/00
C22C 38/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.10~6.0mmの厚さの、質量パーセントで以下の組成:
0.005%≦C≦0.3%;
0.2%≦Mn≦2.0%;
微量≦Si≦1.0%;
微量≦S≦0.01%;
微量≦P≦0.04%;
10.5%≦Cr≦17.0%;好ましくは10.5%≦Cr≦14.0%;
微量≦Ni≦4.0%;
微量≦Mo≦2.0%;
Mo+2×W≦2.0%;
微量≦Cu≦3%;好ましくは微量≦Cu≦0.5%;
微量≦Ti≦0.5%;
微量≦Al≦0.2%;
微量≦O≦0.04%;
0.05%≦Nb≦1.0%;
0.05%≦Nb+Ta≦1.0%;
0.25%≦(Nb+Ta)/(C+N)≦8;
微量≦V≦0.3%;
微量≦Co≦0.5%;
微量≦Cu+Ni+Co≦5.0%;
微量≦Sn≦0.05%;
微量≦B≦0.1%;
微量≦Zr≦0.5%;
Ti+V+Zr≦0.5%;
微量≦H≦5ppm、好ましくは微量≦H≦1ppm;
微量≦N≦0.2%;
(Mn+Ni)≧(Cr-10.3-80×[(C+N)
2]);
微量≦Ca≦0.002%;
微量≦希土類及び/又はY≦0.06%;
残部の鉄及び製鋼に由来する不純物
を有する2枚の鋼シートを溶接する方法であって、
シートのマルテンサイト変態の開始温度(Ms)は≧200℃であり;
シートのマルテンサイト変態の完了温度(Mf)は≧-50℃であり;
シートのミクロ組織は0.5%以下の体積分率の炭化物、及び20%以下の体積分率の残留フェライトを含有し、残部はマルテンサイトであり;
前記方法は、(e)を前記シートの各々の厚さ又はそれらのうち最も薄い厚さとして、以下の工程:
msで以下の時間(t)にわたる第1の溶接工程であって、
0.10~0.50mmの厚さ(e)に対して:
t=(40×e+36)±10%、
0.51~1.50mmの厚さ(e)に対して:
t=(124×e-13)±10%、
1.51~6.0mmの厚さ(e)に対して:
t=(12×e+47)±10%、
締付力(F)はdaNで、
0.10~1.50mmの厚さ(e)に対して:
F=(250×e+90)±10%、
1.51mm~6.0mmの厚さ(e)に対して:
F=(180×e+150)±10%
であり、この工程では溶融金属の排出に対応する最大許容強度の80から100%の間の強度を有する電流を溶接電極間に印加する、第1の溶接工程と;
電流強度がゼロから1kAの間に設定される第2の工程と;
電流の通電を3.5kA~4.5kAの強度で再開し、少なくとも755msの時間行って、溶接ゾーンに熱処理を施す第3の工程と
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
第2の工程で、溶接ゾーンにおける電流の通電が中断されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の工程、第2の工程及び第3の工程の時間の合計が、2s以下、好ましくは1.5s以下、更には1s以下であることを特徴とする、請求項1
または2に記載の方法。
【請求項4】
前記シートが熱間圧延されたシートであることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鋼業に関し、より詳細にはシートをスポット溶接する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱間加工されたマルテンサイトステンレス鋼シートは、高い機械的特性及び複雑な成形のための大きい能力を得ることを可能にした、組成、初期ミクロ組織及び熱処理パラメーターの調整が知られている。かかるシートは本出願人による国際出願PCT/IB2017/051636号に記載されており、主として自動車産業用が意図されている。
【0003】
それらの組成は、質量パーセントで以下の通り:
*0.005%≦C≦0.3%;
*0.2%≦Mn≦2.0%;
*微量≦Si≦1.0%;
*微量≦S≦0.01%;
*微量≦P≦0.04%;
*10.5%≦Cr≦17.0%;好ましくは10.5%≦Cr≦14.0%;
*微量≦Ni≦4.0%;
*微量≦Mo≦2.0%;
*Mo+2×W≦2.0%;
*微量≦Cu≦3%;好ましくは微量≦Cu≦0.5%;
*微量≦Ti≦0.5%;
*微量≦Al≦0.2%
*微量≦O≦0.04%;
*0.05%≦Nb≦1.0%
*0.05%≦Nb+Ta≦1.0%;
*0.25%≦(Nb+Ta)/(C+N)≦8;
*微量≦V≦0.3%;
*微量≦Co≦0.5%;
*微量≦Cu+Ni+Co≦5.0%;
*微量≦Sn≦0.05%;
*微量≦B≦0.1%;
*微量≦Zr≦0.5%;
*Ti+V+Zr≦0.5%;
*微量≦H≦5ppm、好ましくは微量≦H≦1ppm;
*微量≦N≦0.2%;
*(Mn+Ni)≧(Cr-10.3-80×[(C+N)2]);
*微量≦Ca≦0.002%;
*微量≦希土類及び/又はY≦0.06%;
*残部の鉄及び製鋼に由来する不純物
であり、
-シートのマルテンサイト変態の開始温度(Ms)は≧200℃であり;
-シートのマルテンサイト変態の完了温度(Mf)は≧-50℃である。
【0004】
場合によって熱間及び/又は冷間加工を含む、適当な手段を用いた後に得られる最初のシートのミクロ組織は、フェライト及び/又は焼き戻しマルテンサイト並びに0.5%~5体積%の炭化物から構成され、フェライトの結晶粒度は1~80μm、好ましくは5~40μmである。この最初のシートの厚さは0.1~10mm、より典型的には0.1mm~6mmである。
【0005】
通例適用される処理プロセスは、シートの脱炭及び表面酸化をできるだけ制限する条件下で、シートのオーステナイト化、すなわち出発ミクロ組織を構成していたフェライト及び炭化物の代わりにオーステナイトを形成する鋼のAc1温度を超える温度の上昇で始まる。通例、20%以下の残留フェライト及び0.5%以下の炭化物が存在する。
【0006】
次いで、オーステナイト化の後に得られた低いフェライト及び炭化物含量の組織が全成形プロセスを通じて維持されるような時間及び温度の条件下でシートの幾つかの連続する熱間成形工程を(少なくとも二回)実施する。これらの熱間成形操作はマルテンサイト変態の開始温度Msより高い温度で行われる。必要であれば、各々の熱間成形操作の間又は操作中に加熱ツーリングによって再加熱するか又は温度を維持して、成形中及び成形操作間(シートの1つのツーリングから別のツーリングへの移動中、又はシートが同じツーリングに留まるのであればツーリングの構成の変更中)にシートの温度がMs未満に低下しないようにすることが可能である。
【0007】
用語「熱間成形工程」とは、例えば深絞り、熱間引抜、打抜き、切断、穿孔のような変形又は材料除去操作を含めて意味し、これらの工程は製造業者により選ばれる任意の順序で行うことができると理解される。
【0008】
熱間成形後、得られた部品は、冷却条件に関して特に制約されることなく冷却される。
【0009】
冷却時、ミクロ組織が少なくとも10%のオーステナイト及び20%以下のフェライトを含み、残部がマルテンサイトである条件下、MsからMf(マルテンサイト変態の完了温度)の間で切断工程又は最終の熱間成形工程を行うことができる。
【0010】
こうして得られるシートは、特に高いマルテンサイト含量のため室温で強い機械的性質を有する。通例、引張強さRmは少なくとも1000MPaであり、降伏強さReは少なくとも800MPaであり、ISO規格6892に従って測定される破断後伸び率Aは少なくとも8%であり、1.5mmの厚さに対する曲げ角度はVDA規格238-100に従って測定して少なくとも60°である。これは、最終的に得られるシートが優れた成形性を有しており、自動車産業、又は宇宙飛行における構造機能を有する部品の成形、又は建築若しくは鉄道産業に特定の用途を有する可能性があるということを示している。
【0011】
最後に、最後の成形操作の後室温に冷却した後、シートのミクロ組織は体積分率0.5%以下の炭化物及び体積分率20%以下の残留フェライトを含み、残部はマルテンサイトである。
【0012】
0.10~6.0mmの典型的な厚さを有するかかるシートは、車両製造業者により使用される最も一般的な条件下でスポット溶接法を用いて溶接を行ったとき、その溶接可能性が不充分と考えられるときがあり得るという短所を有している。溶接された領域において、所与の厚さのシートにとって充分なクロスヘッド引張強さ(すなわち、通例厚さ1.2mmのシートで少なくとも450daN)を得るのが容易でないことがある。すなわち、溶接部の材料が弱過ぎる。
【0013】
溶接パラメーターを変更する、すなわちマルテンサイト鋼で通常使用される標準的な溶接サイクルに後加熱パルスを加えることにより結果を改善することが可能であったが、今までのところ行われた最適化では5s未満続く溶接サイクルで満足のいく溶接品質が得られるには至っていない。この時間の長さは、車両の大量生産への応用の場合直面する生産性の制約に留意してこれらのシートを溶接することができなければならない車両製造業者にとってあまりにも長過ぎる。約1s以下の合計溶接サイクル時間が目標である。1.5s、更には2sの合計時間かかる溶接サイクルが許容できることも時にはあろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】国際出願PCT/IB2017/051636号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、本発明の目的は、熱間引抜のための以前に記載されたマルテンサイトステンレス鋼シートの使用に殊に適合したスポット溶接サイクルであって、この溶接を自動車部門に対する工業的に適した条件下で行うことを可能にするスポット溶接サイクルを提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この目的から、本発明の主題は、0.10~6.0mmの厚さを有し、質量パーセントで以下の組成:
*0.005%≦C≦0.3%;
*0.2%≦Mn≦2.0%;
*微量≦Si≦1.0%;
*微量≦S≦0.01%;
*微量≦P≦0.04%;
*10.5%≦Cr≦17.0%;好ましくは10.5%≦Cr≦14.0%;
*微量≦Ni≦4.0%;
*微量≦Mo≦2.0%;
*Mo+2×W≦2.0%;
*微量≦Cu≦3%;好ましくは微量≦Cu≦0.5%;
*微量≦Ti≦0.5%;
*微量≦Al≦0.2%;
*微量≦O≦0.04%;
*0.05%≦Nb≦1.0%;
*0.05%≦Nb+Ta≦1.0%;
*0.25%≦(Nb+Ta)/(C+N)≦8;
*微量≦V≦0.3%;
*微量≦Co≦0.5%;
*微量≦Cu+Ni+Co≦5.0%;
*微量≦Sn≦0.05%;
*微量≦B≦0.1%;
*微量≦Zr≦0.5%;
*Ti+V+Zr≦0.5%;
*微量≦H≦5ppm、好ましくは微量≦H≦1ppm
*微量≦N≦0.2%;
*(Mn+Ni)≧(Cr-10.3-80×[(C+N)2]);
*微量≦Ca≦0.002%;
*微量≦希土類及び/又はY≦0.06%;
*残部の鉄及び製鋼に由来する不純物
を有する2枚のステンレス鋼シートを溶接する方法であって、
-シートのマルテンサイト変態の開始温度(Ms)は≧200℃であり;
-シートのマルテンサイト変態の完了温度(Mf)は≧-50℃であり;
-シートのミクロ組織は0.5%以下の体積分率の炭化物、及び20%以下の体積分率の残留フェライトを含有し、残部はマルテンサイトであり;
前記方法は、(e)を前記シートの各々の厚さ又はそれらのうち最も薄い厚さとして、以下の工程:
-msで以下の時間(t)にわたる第1の工程であって、
*0.10~0.50mmの厚さ(e)に対して:
t=(40×e+36)±10%、
*0.51~1.50mmの厚さ(e)に対して:
t=(124×e-13)±10%、
*1.51~6.0mmの厚さ(e)に対して:
t=(12×e+47)±10%、
締付力(F)はdaNで以下:
*0.10~1.50mmの厚さ(e)に対して:
F=(250×e+90)±10%、
*1.51mm~6.0mmの厚さ(e)に対して:
F=(180×e+150)±10%、
であり、この工程では溶融金属の排出に対応する最大許容強度の80から100%の間の強度を有する電流を溶接電極間に印加する、第1の溶接工程と;
-電流の強度がゼロから1kAの間に設定される第2の工程と;
-電流の通電を3.5kA~4.5kAの強度で再開し、少なくとも755msの時間行って、溶接ゾーンに熱処理を施す第3の工程と
を含むことを特徴とする方法である。
【0017】
好ましくは、第2の工程で、溶接ゾーンにおける電流の通電が中断される。
【0018】
有利には、前記第1、第2及び第3の工程の時間の合計は2s以下、好ましくは1.5s以下、更には1s以下である。
【0019】
前記シートは熱間圧延されたシートであってもよい。
【0020】
理解されるように、本発明において、優先的に考慮され、上で特定した組成を有するシートは、パラメーターの選択が特別であり、操作の順序が特別であるスポット溶接のサイクルに付される。
【0021】
スポット溶接を行う条件は、
-溶接される部品上の溶接電極によりかけられる圧力、これは部品の化学組成及び表面粗さと共に接触抵抗に影響を与える;
-溶接されるゾーンを通る電流の強度、これは厳密に制御できない他のパラメーターの機能として、調節された電流供給に付される;
-溶接時間又は異なる工程の時間
によって充分に規定されることが思い起こされる。
【0022】
したがって、2枚のシート間の電位差は接触抵抗に従って、そしてその結果として溶接領域に注入されるエネルギーに従って変化する。この電位差及びこの電力は、それ自体が直接方法のパラメーターを表すものではないが、それにも関わらず締付力及び電流強度により表され制御可能かつ制御された操作条件を理由にかけられることになる。
【0023】
溶接は、既にある力の下で互いに接触させておかれている溶接しようとするシートに調節された強度の電流を通電する第1の工程で始まる。このかけられる力及び通電時間は通常、ユーザーが適用したい規格(例えばSEP1220、又はISO18278-2)により指示される。これら2つのパラメーターが選択され、適用されたら、ユーザーは溶接可能範囲内の最大強度値を表す溶融金属の排出まで溶接電流を変化させる。本発明の溶接電流強度はこの最大強度の80%~100%の範囲内にある。通例、本発明において、この溶接電流強度は、溶接しようとするシートが1.2mmの厚さを有するとき5.5kAである。一般に、溶融金属の排出に対応する最大の耐えられる溶接強度は標準的な方法で実験的に得られる。例えば、規格SEP 1220及びISO 18278-2を参照されたい。したがって、本発明を実施するために起こる個々の特定の場合の当業者による決定は、本発明の具体的な溶接プロセスを終了させるときにしなければならない。しかし、この決定は本発明に特有ではなく、同様に溶接電流強度を最適化する問題はあらゆるスポット溶接法を実施するときに直面する可能性があり、慣習的に記載されているように実施されている。
【0024】
0.1mm~1.50mmの厚さに対する力F(daN)は式:
F=250×e+90
で、1.51mm~6mmの厚さでは式:
F=180×e+150
で表され、ここでeは2枚の溶接シートの厚さ、又は異なる厚さであればこれらのうち最も薄い厚さである。
【0025】
力Fのこれらの表された値から±10%の変動は許容される。
【0026】
また、溶接時間t(ms)は、0.10~0.50mmの厚さに対して式:
t=40×e+36
で、0.51~1.50mmの厚さに対して:
t=124×e-13
で、1.51~6.0mmの厚さに対して
t=12×e+47
で表される。
【0027】
これらの表された値から±10%の変動は許容される。
【0028】
第2の工程では、電極の圧力を維持し、通電を停止するか又は大幅に低下させ、1kA以下、理想的には0kAの強度をmsで次式により表される最小の時間tf印加する。
tf≧34×e+2
【0029】
これにより、シートの溶接ゾーンがAc1とAc5の間の温度に突然冷却され、この温度範囲はその部分の再オーステナイト化を生じる。
【0030】
第3の工程では、電流を3.5~4.5kAの強度値で再開して、Ac1~Ac5の温度を維持し、溶接ゾーンに熱処理を施し、これによりその構造特性を変更し、所望の機械的性質を付与する。この第3の工程は効能を確保するために少なくとも755msの時間続けなければならないが、最大の時間は特定されない。長ければ長いほど、熱処理がより効率的になり、高いクロスヘッド引張強さが確実になる。しかし、工業生産の要件と適合しない長さまで溶接サイクルを延ばすことのないようにこの第3の工程を過度に長くすることは回避するのが有利である。有利には、上で述べたように、3つの溶接サイクル工程の合計時間は2sを超えないのが好ましく、1.5sを超えないのが好ましく、1sを超えないのが最適である。
【0031】
この処理を記載されている条件下で行えば、検討中のシート厚さに対して適切な値に達し、更にはこれらの値を超えるクロスヘッド引張強さを、およそ1s、更にはそれより短い、したがって自動車部門における車両の大量生産に対する現在の工業的要件と適合する溶接サイクル時間で得ることができる。したがって、良好な経済条件下で、スポット溶接されたシートが、高い機械的特性を有し明確に定義された組成の熱間成形されたマルテンサイトのステンレス鋼で複雑な形状の部品を容易に得ることに関する国際出願PCT/IB2017/051636号に記載されている方法の恩恵を受けることが可能である。
【0032】
添付の図面を参照した以下の説明を読むと本発明がより良好に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】
図1は、2枚のシートを本発明によらない方法で溶接したときの溶接ゾーンの顕微鏡写真である。
【
図3】
図3は、本発明の方法の第2の工程後、したがって第3の溶接工程に先立つ中間の状態の溶接ゾーンの顕微鏡写真であり、この段階での残留フェライトの消失を示している。
【
図4】
図4は、本発明に従う方法の完全実施後の溶接ゾーンの顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
質量パーセントで次の組成:Cr=11.02%;Nb=0.11%;Mn=0.50%;C=0.059%;N=0.0107%;残部の鉄及び製鋼に由来する不純物、を有するオーステナイト化された状態の厚さ1.2mmの2枚のシートの溶接に関して本発明者により実施されプレスクエンチした、したがって国際出願PCT/IB2016/052302号に記載されている発明に従った実験により、以下の結果を得た。
【0035】
第1のシリーズの実験では、560msの合計時間続く従来の溶接サイクルを施し、その際4000Nの圧力下の電極間に5.5kAの強度で280ms電流を通し、続いて280msのゼロ強度期の間圧力を維持した(ISO規格18278-2に定められており、通常車両製造業者により使用されるパラメーター)。結果は、溶接ゾーンの顕微鏡写真を示す
図1及び
図2に掲げる。
図1の中心部には、実際の溶接ゾーンに対応する溶融ゾーン1及びその周りの熱影響部(HAZ)の存在が見られる。溶融ゾーン1は大きい結晶粒度のHAZ 3内に伝播する亀裂2により縁取られており、HAZ 3内にはフェライト4が白く見られる(
図1で明瞭に目に見える)。亀裂2の伝播、したがって乏しいクロスヘッド引張強さの原因はこの脆弱なフェライト4である。HAZ 3内のフェライトの割合は領域に応じて20~80%であり、これは平衡状態図から読み取れる期待値より明らかに高い。測定されたクロスヘッド引張強さは290daNであり、したがって例えば車両製造業者のニーズには大いに不充分である。
【0036】
電流印加時間の低減(280msから140ms)は、大きい結晶粒度のHAZ 3の程度の低減、及び溶融ゾーン1を大きく変更することのない残留フェライトのパーセントの低下が可能になったという点で有益であった。しかし、HAZ 3はまだある量の脆弱なフェライトを含有しており、クロスヘッド引張強さは充分に改善されていない。
【0037】
本発明に従う第2のシリーズの実験では、先の実験と同じ第1の工程の後、通電を46ms中断する一方で、電極の圧力を維持した。また、先の実験に第3の工程を追加し、通電を4kAの強度で再開し、814msの時間行って、溶接ゾーンに熱処理を施した。
【0038】
全体で、本発明の実施例でのサイクルは140+46+814=1000ms続いた。
【0039】
目的は、弱い集合点を示さない2つの部品の溶接を得ることであり、言い換えると、溶接ゾーンでのクロスヘッド引張強さがこの目的を満たすのに充分でなければならず、また工業条件下での満足のいくプラントの生産性を確実にする合計サイクル時間内でこの溶接を得ることである。通例、記載された実施例のように、およそ1sの溶接サイクル時間が自動車産業における溶接されたシートの大量生産に対する前記満足のいく結果である。
【0040】
図3は、本発明で、46ms続いただけの本発明の方法の第2の工程の後得ることができる溶接ゾーンの外観を示す。
図4及び
図5は、本発明の方法全体を実施した後の溶接ゾーンを示す。
図4のHAZ 3内の大きい粒子が消失しているだけでなく、HAZ 3及び溶融ゾーン1の靭性は、その痕跡を
図5に見ることができる亀裂2が基材金属5中に逸れるようなものである
【0041】
このようにして、溶接されるシートの厚さを考慮して、記載した実施例で設定されていた目的である450daNより高いクロスヘッド引張強さが溶接ビードで得られる。
【0042】
本発明者は、より伝統的なスポット溶接法と比較した本発明の方法の利点は、予期しなかった顕著な相乗効果を有すると思われる、以下の要因の総和の結果であると考える。
【0043】
第1の迅速な溶接サイクルを実施すると、Ac5超の滞留時間が低減し、HAZ 3内の大きい粒子のフェライトの形成に至るガンマジェニック及びアルファジェニックエレメント(gammagenic and alphagenic element)の分割が最小限になる。したがって、
図1で白色のフェライト4が、
図3のHAZ 3から完全に消失していることがわかる。
【0044】
第2の工程で電流の循環を中断する(又は少なくとも電流強度を極端に低減させる)と、溶接ゾーンが、900℃程度の再オーステナイト化温度に冷却される。
【0045】
電流を第1の工程よりは低いが比較的高い強度で回復させる第3の工程では、被覆部分の周りのHAZ内の残留する大きい粒子のフェライトの存在が決定的に壊滅し、十分な機械的性質が得られる(
図4及び
図5)。また、
図4の亀裂2はもはや
図1のようにHAZに続くことはないが、
図4では基材金属5中に逸れ、2枚のシートの一方に大きい直径の斑点を残すこともわかる。
【0046】
本発明を実施するのに使用されるシートは、熱間又は冷間圧延されていてもよい。重要なのは、第1にその組成及びミクロ組織が以上のことに従わなければならず、第2にその厚さはスポット溶接を可能にする範囲内であり、したがって通例0.10~6.0mmであることである。
【符号の説明】
【0047】
1 溶融ゾーン
2 亀裂
3 HAZ
4 フェライト
5 基材金属