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特許7053692神経変性障害の治療又は予防のための細胞内Nix介在性マイトファジーを増大させる剤及び方法並びにキット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】神経変性障害の治療又は予防のための細胞内Nix介在性マイトファジーを増大させる剤及び方法並びにキット
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/222 20060101AFI20220405BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220405BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20220405BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20220405BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20220405BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20220405BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220405BHJP
   A61P 37/00 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
A61K31/222 ZNA
A61P25/00
A61P25/16
A61P25/28
A61P25/14
A61P21/00
A61P43/00 105
A61P37/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020018776
(22)【出願日】2020-02-06
(62)【分割の表示】P 2016562002の分割
【原出願日】2015-04-07
(65)【公開番号】P2020090525
(43)【公開日】2020-06-11
【審査請求日】2020-03-02
(31)【優先権主張番号】2014901398
(32)【優先日】2014-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】515173116
【氏名又は名称】ノーザン・シドニー・ローカル・ヘルス・ディストリクト
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】スー、 キャロリン エム.
(72)【発明者】
【氏名】コエントジョロ、 ブリアナダ
(72)【発明者】
【氏名】パク、 ジン-スン
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/110006(WO,A2)
【文献】The Journal of Biological Chemistry,Vol.281, No.3,2006年,pp.1442-1448
【文献】Movement Disorders,Vol.27(10),2012年,pp.1299-1303
【文献】EMBO reports,Vol.11, No.1,2010年,pp.45-51
【文献】Autophagy,Vol.7(10),2011年,pp.1098-1107
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00
A61K 45/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
parkin介在性マイトファジー障害を有する対象におけるミトコンドリア機能不全に関連する神経変性障害の予防又は治療ための、細胞におけるNix介在性マイトファジーを増大させる剤であって、活性成分としてホルボールミリスチン酸アセテート(PMA)を含む剤
【請求項2】
前記神経変性障害が、パーキンソン病、アルツハイマー病、レヴィー小体認知症、クロイツフェルト・ヤコブ病、ハンチントン病、多発性硬化症、又は筋萎縮性側索硬化症からなる群から選択される、請求項に記載の剤。
【請求項3】
前記神経変性障害がパーキンソン病である、請求項に記載の剤。
【請求項4】
前記神経変性障害が、parkin及び/又はPINK1における突然変異を伴う、請求項1~請求項のいずれか一項に記載の剤。
【請求項5】
治療有効量の、細胞におけるNix介在性マイトファジーを増大させる作用物質を含む医薬組成物と、
治療を必要とする対象を同定するための説明書と、
前記対象に前記医薬組成物を投与するための指示書と、
を含む、parkin介在性マイトファジー障害を有する対象におけるミトコンドリア機能不全に関連する神経変性障害治療用キットであって、
前記作用物質はホルボールミリスチン酸アセテート(PMA)である、
神経変性障害治療用キット
【請求項6】
parkin介在性マイトファジー障害を有する対象におけるミトコンドリア機能不全に関連する神経変性障害の予防又は治療用医薬の調製における、細胞におけるNix介在性マイトファジーを増大させる作用物質の使用であって、
前記作用物質が活性成分としてホルボールミリスチン酸アセテート(PMA)を含む
前記使用
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2014年4月16日に出願されたオーストラリア仮特許出願第2014901398号の利益及び優先権を主張するものであり、その開示全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、Nix介在性マイトファジーを活性化させる作用物質(agent)を投与することにより、神経変性障害を治療又は予防するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
神経変性疾患は、神経細胞サブタイプの損傷及び死滅を特徴とする、神経系の日常生活に支障をきたす障害の大きな群である。ミトコンドリア機能不全は、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病及びミトコンドリア病を含む様々な神経変性疾患における推定原因因子とみなされている。
【0004】
ミトコンドリアは、酸化的リン酸化を介して細胞エネルギーを提供し、カルシウムの恒常性及び細胞死を調節する重要な細胞小器官である。しかし、ミトコンドリアは、細胞の活性酸素種(ROS)の主要供給源でもある。正常レベルのROSは、細胞の抗酸化物質により耐容性となることができるのに対し、ミトコンドリアの呼吸欠陥の病的状態においては、ROSの産生増大が抗酸化保護の能力を超え、ミトコンドリアを含む種々の細胞成分への損傷を引き起こす。この損傷の蓄積は、ミトコンドリアを機能不全にすると考えられている。従って、オートファジーを介する機能不全の又は損傷したミトコンドリアの除去(マイトファジーと呼ばれるプロセス)は、適正な細胞機能を維持するために重要である。
【0005】
パーキンソン病(PD)は、中脳ドーパミンニューロンの特異的且つ進行性のニューロン損失によって引き起こされる。ドーパミンは、黒質と線条体との間でシグナルを伝達することを司る化学伝達物質である。ドーパミンの損失は、線条体の神経細胞を無制御方式で興奮(fire)させ、運動緩慢、安静時振戦、硬直及び姿勢の不安定という基本的な臨床兆候;重度で深刻な手足の不自由であり得る兆候をもたらす。
【0006】
家族型PDにおいて同定される数種の原因遺伝子の中でも、E3ユビキチンリガーゼをコードする遺伝子であるparkinにおける突然変異は、常染色体劣性の若年性PDの最も一般的な遺伝的原因を代表する。parkin突然変異を持つPD患者は、若年性、緩徐な進行、早期ジストニア及びL-ドパ反応性を伴う典型的なパーキンソニズムを呈する。更に、Parkin関連PDには幅広い疾患表現度及び浸透度が伴う。
【0007】
Parkinは、ミトコンドリアの品質管理にも関与するとされてきた。Parkinは、ミトコンドリアキナーゼであるPTEN誘導推定キナーゼ1(PINK1)と共に、損傷したミトコンドリアの選択的オートファジーによる除去を媒介する。従って、parkinにおけるPD関連突然変異は、マイトファジー障害に伴って起きる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
PDの治癒法はない。現在の療法は、ドーパミン前駆体レボドパ又はドーパミンアゴニスト等のドーパミン作動薬の経口用量を患者に与えることにより、ドーパミンを補充することに依存するところが大きい。このような療法により軽減することはできるが、重篤な副作用のリスク増大と共に継続的治療を伴う投薬量の増大を必要とする、治療的効能の低下が伴う。PDのための更なる療法が切実に必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、Nixによって介在されたマイトファジーの活性化により、神経変性疾患又は障害を予防及び治療することができることを発見した。一態様によれば、本発明は、細胞におけるNix介在性マイトファジーを増大させる作用物質を治療有効量、対象に投与することを含む、対象における神経変性障害の予防又は治療する方法を提供する。
【0010】
一実施形態において、作用物質は、細胞におけるNixポリペプチド若しくはそのフラグメント、及び/又はGABARAP-L1ポリペプチド若しくはそのフラグメントの発現を増大させる。
【0011】
一実施形態において、作用物質は、Nixポリペプチド若しくはそのフラグメント及び/又はGABARAP-L1ポリペプチド若しくはそのフラグメントを含む。
【0012】
別の実施形態において、作用物質は、Nixポリペプチド若しくはそのフラグメント及び/又はGABARAP-L1ポリペプチド若しくはそのフラグメントをコードする発現ベクターを含む。
【0013】
一実施形態において、細胞は、ニューロンである。
【0014】
一実施形態において、神経変性障害は、対象のニューロンにおけるマイトファジー欠損を含む。
【0015】
一実施形態において、神経変性障害は、パーキンソン病、アルツハイマー病、レヴィー小体認知症、クロイツフェルト・ヤコブ病、ハンチントン病、ミトコンドリア病、多発性硬化症又は筋萎縮性側索硬化症を含む群から選択される。
【0016】
一実施形態において、神経変性障害は、パーキンソン病である。別の実施形態において、パーキンソン病は、若年性パーキンソン病(EOPD:early onset Parkinson disease)である。
【0017】
一実施形態において、対象は、parkin及び/又はPINK1に突然変異を有する。
【0018】
別の態様によれば、本発明は、対象における神経変性障害の予防又は治療に有用な作用物質を同定する方法であって、(a)細胞を作用物質と接触させること、及び、上記作用物質と接触していない対照細胞と比較しての、上記細胞における(b)Nix介在性マイトファジーに関連するポリペプチドの生物活性又は発現の増大を検出すること、又は(c)Nix介在性マイトファジーに関連するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現の増大を検出することを含み、ここで、上記活性又は発現を増大させる作用物質は、神経変性障害の治療に有用であるとして同定される、方法を提供する。
【0019】
一実施形態において、対象における神経変性障害の予防又は治療に有用な化合物を同定する方法において使用される細胞は、Parkin関連マイトファジー障害を示す。
【0020】
一実施形態において、対象における神経変性障害の予防又は治療に有用な化合物を同定する方法において使用される細胞は、parkin及び/又はPINK1に突然変異を有する。
【0021】
一実施形態において、対象における神経変性障害の予防又は治療に有用な化合物を同定する方法において使用される細胞は、神経変性障害を有する対象又は神経変性障害を有するリスクがある対象から単離される。
【0022】
一実施形態において、対象における神経変性障害の予防又は治療に有用な化合物を同定する方法において使用される細胞は、幹細胞、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、前駆細胞、若しくはそれらに由来する任意の細胞、繊維芽細胞、嗅覚神経球、又はニューロンである。
【0023】
別の態様によれば、本発明は、神経変性障害を治療するためのキットを提供し、当該キットは、治療有効量の、細胞におけるNix介在性マイトファジーを増大させる作用物質を含む医薬組成物と、このような治療を必要とする対象を同定するための説明書と、対象に医薬組成物を投与するための指示書と、を含む。
【0024】
一実施形態において、医薬組成物は、細胞におけるNixポリペプチド若しくはそのフラグメント、及び/又はGABARAP-L1ポリペプチド若しくはそのフラグメントの発現を増大させる作用物質を含む。
【0025】
一実施形態において、医薬組成物は、Nixポリペプチド若しくはそのフラグメント、及び/又はGABARAP-L1ポリペプチド若しくはそのフラグメントを含む。
【0026】
一実施形態において、医薬組成物は、Nixポリペプチド若しくはそのフラグメント、及び/又はGABARAP-L1ポリペプチド若しくはそのフラグメントをコードする発現ベクターを含む。
【0027】
別の態様によれば、本発明は、神経変性障害の予防又は治療用医薬の調製における、細胞におけるNix介在性マイトファジーを増大させる作用物質の使用を提供する。
【0028】
別の態様によれば、本発明は、神経変性疾患の予防又は治療において使用するための、細胞におけるNix介在性マイトファジーを増大させる作用物質を提供する。
【0029】
従って、本発明は、下記の一連の番号付けされている実施形態の少なくとも一つに関する。
【0030】
実施形態1:細胞におけるNix介在性マイトファジーを増大させる作用物質を治療有効量、対象に投与することを含む、対象における神経変性障害を予防又は治療する方法。
【0031】
実施形態2:作用物質が、Nixポリペプチド若しくはそのフラグメント若しくはバリアント若しくはアナログ、及び/又はGABARAP-L1ポリペプチド若しくはそのフラグメント若しくはバリアント若しくはアナログ、の細胞における生物活性又は発現を増大させる、実施形態1に係る方法。
【0032】
実施形態3:作用物質が、Nixポリペプチド若しくはそのフラグメント若しくはバリアント、及び/又はGABARAP-L1ポリペプチド若しくはそのフラグメント若しくはバリアントを含む、実施形態1又は2に係る方法。
【0033】
実施形態4:作用物質が、Nixポリペプチド若しくはそのフラグメント若しくはバリアント及び/又はGABARAP-L1ポリペプチド若しくはそのフラグメント若しくはバリアントをコードする発現ベクターを含む、実施形態1~3のいずれか一つに係る方法。
【0034】
実施形態5:作用物質が、Nixポリペプチド又はそのフラグメント若しくはバリアントをコードする発現ベクターを含む、実施形態1~4のいずれか一つに係る方法。
【0035】
実施形態6:細胞が、ニューロン又はニューロン前駆体である、実施形態1~5のいずれか一つに係る方法。
【0036】
実施形態7:神経変性障害が、ミトコンドリア機能不全を伴う、実施形態1~6のいずれか一つに係る方法。
【0037】
実施形態8:神経変性障害が、マイトファジー障害を含む、実施形態1~7のいずれか一つに係る方法。
【0038】
実施形態9:神経変性障害が、パーキンソン病、アルツハイマー病、レヴィー小体認知症、クロイツフェルト・ヤコブ病、ハンチントン病、多発性硬化症又は筋萎縮性側索硬化症を含む群から選択される、実施形態1~8のいずれか一つに係る方法。
【0039】
実施形態10:神経変性障害がパーキンソン病である、実施形態1~9のいずれか一つに係る方法。
【0040】
実施形態11:前記対象が、parkin及び/又はPINK1に突然変異を有する、実施形態1~10のいずれか一つに係る方法。
【0041】
実施形態12:対象における神経変性障害の予防又は治療に有用な作用物質を同定する方法であって、
(a)細胞を作用物質と接触させること、及び
(b)上記作用物質と接触していない対照細胞と比較しての、上記細胞におけるNix介在性マイトファジーに関連する一つ又は複数のポリペプチドの生物活性又は発現の増大を検出すること、又は(c)上記作用物質と接触していない対照細胞と比較しての、上記細胞におけるNix介在性マイトファジーに関連するポリペプチドをコードする一つ又は複数のポリヌクレオチドの発現の増大を検出すること、を含み、
ここで、上記活性又は発現を増大させる作用物質は、上記神経変性障害の治療に有用であるとして同定される、方法。
【0042】
実施形態13:Nix介在性マイトファジーに関連する上記一つ又は複数のポリヌクレオチド又は上記一つ又は複数のポリペプチドが、Nix及び/又はGABARAP-L1を含む、実施形態12に係る方法。
【0043】
実施形態14:細胞が、Parkin関連マイトファジー障害を示す、実施形態12又は13に係る方法。
【0044】
実施形態15:細胞が、parkin及び/又はPINK1に突然変異を有する、実施形態12~14のいずれか一つに係る方法。
【0045】
実施形態16:細胞が、神経変性障害を有する対象又は神経変性障害を有するリスクがある対象から単離される、実施形態12~15のいずれか一つに係る方法。
【0046】
実施形態17:細胞が、繊維芽細胞、嗅覚神経球又はニューロンである、実施形態12~16のいずれか一つに係る方法。
【0047】
実施形態18:治療有効量の、細胞におけるNix介在性マイトファジーを増大させる作用物質を含む医薬組成物と、
治療を必要とする対象を同定するための説明書と、
上記対象に医薬組成物を投与するための指示書と、
を含む、神経変性障害を治療するためのキット。
【0048】
実施形態19:医薬組成物が、Nixポリペプチド若しくはそのフラグメント、及び/又はGABARAP-L1ポリペプチド若しくはそのフラグメントの細胞における発現を増大させる作用物質を含む、実施形態18に係るキット。
【0049】
実施形態20:医薬組成物が、Nixポリペプチド若しくはそのフラグメント及び/又はGABARAP-L1ポリペプチド若しくはそのフラグメントを含む、実施形態18又は19に係るキット。
【0050】
実施形態21:医薬組成物が、Nixポリペプチド若しくはそのフラグメント及び/又はGABARAP-L1ポリペプチド若しくはそのフラグメントをコードする発現ベクターを含む、実施形態18~20のいずれか一つに係るキット。
【0051】
実施形態22:神経変性障害の予防又は治療用医薬の調製における、細胞におけるNix介在性マイトファジーを増大させる作用物質の使用。
【0052】
実施形態23:神経変性疾患の予防又は治療において使用するための、細胞におけるNix介在性マイトファジーを増大させる作用物質。
【0053】
実施形態24:作用物質が、Nixポリペプチド若しくはそのフラグメント若しくはバリアント若しくはアナログ、及び/又はGABARAP-L1ポリペプチド若しくはそのフラグメント若しくはバリアント若しくはアナログ、の細胞における生物活性又は発現を増大させる、実施形態22に係る使用又は実施形態23に係る作用物質。
【0054】
実施形態25:作用物質が、Nixポリペプチド若しくはそのフラグメント若しくはバリアント、及び/又はGABARAP-L1ポリペプチド若しくはそのフラグメント若しくはバリアントを含む、実施形態22に係る使用又は実施形態23に係る作用物質。
【0055】
実施形態26:作用物質が、Nixポリペプチド又はそのフラグメント若しくはバリアントをコードする発現ベクターを含む、実施形態22に係る使用又は実施形態23に係る作用物質。
【0056】
実施形態27:神経変性障害が、ミトコンドリア機能不全と伴う、実施形態22若しくは実施形態24~26のいずれか一つに係る使用、又は実施形態23~26のいずれか一つに係る作用物質。
【0057】
実施形態28:神経変性障害が、マイトファジー障害を含む、実施形態22若しくは実施形態24~27のいずれか一つに係る使用、又は実施形態23~27のいずれか一つに係る作用物質。
【0058】
実施形態29:神経変性障害が、パーキンソン病、アルツハイマー病、レヴィー小体認知症、クロイツフェルト・ヤコブ病、ハンチントン病、多発性硬化症又は筋萎縮性側索硬化症を含む群から選択される、実施形態22若しくは実施形態24~28のいずれか一つに係る使用、又は実施形態23~28のいずれか一つに係る作用物質。
【0059】
実施形態30:神経変性障害がパーキンソン病である、実施形態29に係る使用又は実施形態29に係る作用物質。
【0060】
実施形態31:神経変性障害が、parkin及び/又はPINK1に突然変異に関連する、実施形態22若しくは実施形態24~30のいずれか一つに係る使用、又は実施形態23~30のいずれか一つに係る作用物質。
【図面の簡単な説明】
【0061】
図1図1は、parkinにホモ接合変異を担持するがPDを有さない個体から単離された細胞において、ミトコンドリア機能が保存されていることを示す図である(図1A)。また、PDに罹患している、parkinにヘテロ接合変異を担持する個体から単離された細胞が、ロテノン等のミトコンドリア毒素の影響をより受けやすいことも例証している(図1B及び図1C)。
図2図2は、parkinにホモ接合変異を担持するがPDを有さない個体(「キャリア」)から単離された細胞において、マイトファジーが正常であることを示す図である。
図3図3は、parkinにホモ接合変異を担持するがPDを有さない個体から単離された細胞における、マイトファジーにおけるParkin機能に対する補償の欠如及びオートファジーの異常な誘導を示す図である。
図4図4は、parkinにホモ接合変異を担持するがPDを有さない個体から単離された細胞において、Nix及びGABARAP-L1の発現が上昇することを示す図である。
図5図5は、parkinにホモ接合変異を担持するがPDを有さない個体から単離された細胞において、NixノックダウンがCCCP誘導マイトファジーを抑止したことを示す図である。
図6図6は、PDに罹患しており、parkinに複合ヘテロ接合変異を担持する個体から単離された細胞における、Nixの発現の特異的誘導を示す図である。
図7図7は、Nixの特異的誘導が、PDに罹患しており、parkinに複合ヘテロ接合変異を担持する個体から単離された細胞において、マイトファジーを修復することを示す図である。図7(B)も、PDに罹患しており、PINK1にホモ接合変異を担持する個体から単離された細胞における、マイトファジーの修復を示している。
図8図8は、PDに罹患しており、parkinに複合ヘテロ接合変異を担持する個体から単離された細胞、及びPDに罹患しており、PINK1にホモ接合変異を担持する個体から単離された細胞において、Nixノックダウンが、Nix発現を誘導する作用物質によるCCCP誘導マイトファジーの修復を抑止したことを示す図である。
図9図9は、PDに罹患しており、parkinに複合ヘテロ接合変異を担持する個体から単離された細胞において、Nixの発現増強がCCCP誘導マイトファジーを修復することを示す図である。
図10図10は、PDに罹患しており、parkinに複合ヘテロ接合変異を担持する個体から単離された細胞、及びPDに罹患しており、PINK1にホモ接合変異を担持する個体から単離された細胞において、Nixの過剰発現がミトコンドリア機能を救済することを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0062】
本明細書において参照される配列
配列番号1:Nixポリペプチドをコードするアミノ酸配列:
【化1】


【0063】
配列番号2:Nixポリペプチドをコードする核酸配列:
【化2】

【0064】
配列番号3:GABA(A)受容体関連タンパク質様1(GABARAP-L1)ポリペプチドをコードするアミノ酸配列:
【化3】

【0065】
配列番号4:GABA(A)受容体関連タンパク質様1(GABARAP-L1)ポリペプチドをコードする核酸配列:
【化4】

【0066】
配列番号5:aggacaagagaaataaggcc(ミトコンドリアDNAフォワードプライマー)
【0067】
配列番号6:taagaagaggaattgaacctctgactgtaa(ミトコンドリアDNAリバースプライマー)
【0068】
配列番号7:tttttgtgtgctctcccaggtct(核DNAフォワードプライマー)
【0069】
配列番号8:tggtcactggttggttggc(核DNAリバースプライマー)
【0070】
配列番号9:ttcacaaagcgccttcccccgtaaatga(ミトコンドリアDNAプローブ)
【0071】
配列番号10:ccctgaactgcagatcaccaatgtggtag(核DNAプローブ)
【0072】
配列番号11:ttggatgcacaacatgaatcagg(Nixフォワードプライマー)
【0073】
配列番号12:tcttctgactgagagctatggtc(Nixリバースプライマー)
【0074】
配列番号13:gacgccttattcttctttgtc(GABARAP-L1フォワードプライマー)
【0075】
配列番号14:catgattgtcctcatacagttc(GABARAP-L1リバースプライマー)
【0076】
配列番号15:gtttgtggataagacagtcc(GABARAP-L2 DNAフォワードプライマー)
【0077】
配列番号16:gaagccaaaagtgttctctc(GABARAP-L2リバースプライマー)
【0078】
配列番号17:ttccccttggccatcaaga(PINK1フォワードプライマー)
【0079】
配列番号18:accagctcctggctcattgt(PINK1リバースプライマー)
【0080】
配列番号19:gtcctctcccaagtccacac(β-アクチンフォワードプライマー)
【0081】
配列番号20:gggagaccaaaagcttcat(β-アクチンリバースプライマー)
【0082】
定義
本明細書において使用される場合、用語「治療」又は「治療すること」は、(1)対象の状態若しくは疾患を改善させる若しくは安定させること、又は(2)対象の状態若しくは疾患に関連する症状の発症若しくは悪化を予防する若しくは軽減すること、を意味する。
【0083】
本明細書において使用される場合、用語「予防する」、「予防すること」、「予防」等は、障害又は状態を有さないが、それを発症するリスクがある又はかかりやすい対象において、障害又は状態を発症する可能性を低減させることを指す。
【0084】
本明細書において使用される場合、用語「投与」又は「投与すること」は、本明細書において開示されている化合物の投与経路を意味する。投与経路の例としては、経口、静脈内、腹腔内、動脈内及び筋肉内が挙げられるが、これらに限定されない。好ましい投与経路は、種々の要因(例えば、本明細書において開示されている作用物質を含む医薬組成物の成分、潜在的な又は実際の疾患の部位及び疾患の重症度)に応じて変えることができる。
【0085】
本明細書において使用される場合、用語「有効な量」又は「有効量」は、疾患を治療するために対象に投与された場合に、疾患のこのような治療を達成するのに十分である本明細書において開示されている作用物質の量を意味する。患者におけるあらゆる改善が、治療を実現するために十分であるとみなされる。神経変性疾患の治療に使用される、本明細書に開示されている作用物質の有効量は、投与方式、患者の年齢、体重及び全体的健康に応じて変動し得る。最終的に、処方者又は研究者が適切な量及び投薬レジメンを決めることになる。
【0086】
本明細書において使用される場合、用語「神経変性障害」及び「神経変性疾患」は、この文書において交換可能に使用され、異常な細胞死を特徴とする神経系(例えば、中枢神経系又は末梢神経系)の疾患を意味する。神経変性状態の例は、アルツハイマー病、ダウン症、前頭側頭型認知症、進行性核上麻痺、ピック病、ニーマンピック病、パーキンソン病、ハンチントン病、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症、ケネディー病(球脊髄性筋萎縮症とも称される)、並びに脊髄小脳失調(例えば、1型、2型、3型(マチャド・ジョセフ病とも称される)、6型、7型及び17型))、脆弱性X(レット)症候群、脆弱性XE精神遅滞、フリートライヒ運動失調症、筋強直性ジストロフィー、脊髄小脳失調8型及び脊髄小脳失調12型、アレキサンダー病、アルパース病、筋萎縮性側索硬化症(又は運動ニューロン疾患)、遺伝性痙性対麻痺、ミトコンドリア病、毛細血管拡張性運動失調症、バッテン病(シュピールマイヤー・フォークト・シェーグレン・バッテン病とも称される)、カナバン病、コケーン症候群、大脳皮質基底核変性症、クロイツフェルト・ヤコブ病、虚血脳卒中、クラッベ病、レヴィー小体認知症、多発性硬化症、多系統萎縮症、ペリツェウス・メルツバッハー病、ピック病、原発性側索硬化症、レフサム病、サンドホフ病、シルダー病、脊髄損傷、脊髄性筋萎縮症、スティール・リチャードソン・オルゼウスキー病、並びに脊髄癆を含む。
【0087】
本明細書において使用される場合、用語「ミトコンドリア機能不全に関連する神経変性障害」は、ミトコンドリア機能不全を特徴とする又はそれが関与する神経変性状態を意味する。ミトコンドリア機能不全に関連する例示的な神経変性状態は、フリードリヒ(Friedrich’s)運動失調症、筋萎縮性側索硬化症、ミトコンドリア性筋障害、脳症、ラクトアシドーシス、脳卒中(MELAS)、赤色ぼろ線維を伴うミオクローヌスてんかん(MERRF)、カーン・セイヤー症候群(Kearn-Sayre Syndrome)、慢性進行性眼筋麻痺、アルパース病、リー病、てんかん、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病及びミトコンドリア病を含むがこれらに限定されない。
【0088】
本明細書において使用される場合、用語「対象」及び「患者」は、本明細書において交換可能に使用される。これらは、ある疾患又は障害を患い得る又はそれにかかりやすいが、該疾患又は障害を有しても有しなくてもよい、ヒト又はその他の哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマ又は霊長類)を指す。ある特定の実施形態において、対象は人間である。
【0089】
本明細書において使用される場合、用語「作用物質」は、任意の小分子化学物質、抗体、核酸分子又はそれらのポリペプチド若しくはフラグメントを意味する。
【0090】
本明細書において使用される場合、用語「マイトファジー」は、細胞からの機能不全の又は損傷したミトコンドリアの除去のプロセスを指す。例えば、マイトファジーは、オートファゴソームと呼ばれる二重膜ベシクルへの細胞小器官の組み込み、オートファゴリソソームを形成するためのオートファゴソームとリソソームとの融合、及びその後のオートファゴリソソームの分解を特徴とする、オートファジーのプロセスによって起こることがある。
【0091】
本明細書において使用される場合、「Nixポリペプチド」は、配列番号1で示されるアミノ酸配列と、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%又は100%のアミノ酸配列同一性を有し、Nix生物活性を有するタンパク質又はそのフラグメントを意味する。
【0092】
本明細書において使用される場合、「Nixポリヌクレオチド」は、Nixポリペプチドをコードする核酸分子(例えば、配列番号2)を意味する。
【0093】
本明細書において使用される場合、「Nix介在性マイトファジー」は、Nixが関与するミトコンドリアのオートファジーによるクリアランスを意味し、NixとLC3及びGABARAP-L1等のオートファゴソームの膜上のタンパク質を含む他のタンパク質との相互作用を含む。Nix介在性マイトファジーに、NixとParkinとの相互作用が関与することができ、Parkinとは独立に起こることもできる。
【0094】
本明細書において使用される場合、「GABARAP-L1ポリペプチド」は、配列番号3で示されるアミノ酸配列と、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%又は100%のアミノ酸配列同一性を有し、GABARAP-L1生物活性を有するタンパク質又はそのフラグメントを意味する。
【0095】
本明細書において使用される場合、「GABARAP-L1ポリヌクレオチド」は、GABARAP-L1ポリペプチドをコードする核酸分子(例えば、配列番号4)を意味する。
【0096】
本明細書において使用される場合、用語「フラグメント」は、ポリペプチド又は核酸分子の一部を意味する。この一部は、好ましくは、基準核酸分子又はポリペプチドの全長の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%又は90%を含有する。フラグメントは、10、20、30、40、50、60、70、80、90、又は100、200、300、400、500、600、700、800、900、又は1000、1500、2000、2500又は3000のヌクレオチド又はアミノ酸を含有していてよい。
【0097】
本明細書において使用される場合、用語「バリアント」は、ポリペプチドに関する場合、元のポリペプチドの生物活性の少なくともいくつかを保持する、又は元のポリペプチドと比較して増大した活性を有してよい、元のポリペプチドのアミノ酸配列のバリエーションを含有するポリペプチドを意味する。
【0098】
本明細書において使用される場合、用語「アナログ」は、同一ではないが類似の機能的及び/又は構造的特色を有する分子を指す。
【0099】
用語「~を含む(comprise、comprises)」、「含まれる」又は「含んでいる」が本明細書(請求項を含む)において使用される場合、これらは、挙げられている特色、整数、工程又は成分の存在を規定するものとして解釈されるべきであり、一つ又は複数のその他の特色、整数、工程若しくは成分、又はそれらの群の存在を除外するものとして解釈されるべきではない。
【0100】
本明細書における先行技術として記されている特許文書又はその他の資料への言及は、その文書若しくは資料が公知であったこと、又はそれが含有する情報が、請求項のいずれかの優先日の時点で共通一般知識の一部であったことの承認として捉えられるべきではない。
【0101】
マイトファジー及び神経変性障害
本明細書で考察されている通り、ミトコンドリアは、細胞エネルギー代謝及び細胞死を調節する必須の細胞小器官である。従って、機能不全のミトコンドリア及びマイトファジーを介するそれらの除去における欠陥は、多くの病態生理学的障害及び疾患と関係があるとされてきた。例えば、β-アミロイドフラグメントは、ミトコンドリアを標的とし、アルツハイマー病においてミトコンドリア機能不全を引き起こすことが実証されており、ミトコンドリア機能及び生理機能の崩壊は、ハンチントン病の原因となる単一遺伝子への突然変異によってもたらされる。従って、マイトファジー障害は、パーキンソン病及びアルツハイマー病等の種々の神経変性疾患に関与するとされてきた。
【0102】
反対に、マイトファジーの保存又は修復は、神経防護作用に関連する。実際に、最近では、PINK1の過剰発現は、ハンチントン病の文脈において、parkin介在性マイトファジー及び神経防護作用の修復に関連することが実証されている(Cell Death and Disease(2015)6,e1617)。
【0103】
本発明は、細胞におけるNix介在性マイトファジーを増大させることを介して、対象における神経変性障害を予防する又は治療する方法を提供する。
【0104】
マイトファジー及びパーキンソン病
単一遺伝子パーキンソン病(PD)に関連する遺伝子の中でも、parkin及びPINK1における突然変異は、常染色体劣性の若年性PD(EOPD)の最も一般的な遺伝的原因として同定されている。ParkinはE3ユビキチンリガーゼをコードし、PINK1はミトコンドリアのセリン/トレオニンキナーゼをコードし、これらはいずれも、健全なミトコンドリア機能及び形態の維持に関与している。PDにおけるミトコンドリア機能不全の役割は、1-メチル-4-フェニル-1,2,5,6-テトラヒドロピリジン(MPTP)及びロテノン誘導パーキンソニズム等のミトコンドリア毒素への暴露を実証するデータから理解されてきた。最近の研究により、Parkinが、カルボニルシアニド3-クロロフェニルヒドラゾン(CCCP)によるミトコンドリア膜電位の散逸時に、PINK1依存的方式でミトコンドリアに動員され、それにより、ユビキチン・プロテアソーム系を介してミトコンドリア融合タンパク質マイトフュージン(Mfh)1及び2等のミトコンドリア外膜タンパク質のユビキチン化及び分解を促進することが実証された。このプロセスは、機能不全のミトコンドリアと健全なミトコンドリアのプールとの融合を防止し、本明細書においてはマイトファジーと称されるプロセス、すなわち、オートファジー・リソソーム系を介する機能不全のミトコンドリアのクリアランスを促進する。一貫して、parkin又はPINK1のいずれかにおける突然変異は、患者由来の細胞又はparkin若しくはPINK1における突然変異が導入された細胞のいずれかを使用したPDの細胞モデルにおいて、マイトファジーを損ない、機能不全のミトコンドリアの蓄積につながることが実証されてきた。ミトコンドリアの品質管理に対するその有害な影響により、マイトファジー障害は、PDにおける神経変性及び疾患進行に関与する。
【0105】
parkinにおける種々の突然変異を有する家族において観察されたパーキンソニズムの表現型可変性の分析(Koentjoro,et al,2012,Mov Disord 27(10),1299-303)を通して、本発明者らは、代替的なマイトファジーの活性化により、Parkin介在性マイトファジー障害を補償することができることを発見した。
【0106】
明確なPDの臨床的兆候を有さないホモ接合性parkin突然変異キャリアに由来する細胞モデル(「キャリア細胞」)において、正常なミトコンドリア機能及びクリアランスが観察された。対照的に、複合ヘテロ接合体であり、且つ機能的Parkinを欠いていたキャリアの娘(又は「発端者(proband)」)は若年性PDを提した。複合ヘテロ接合体に由来する細胞モデル(「患者細胞」)において、マイトファジーの機能障害が観察された。
【0107】
本発明者らは、驚くべきことに、Nip3様タンパク質X(Nix)(BNIP3Lとしても公知である)及びその結合パートナーγ-アミノ酪酸A型受容体関連タンパク質様1(GABARAP-L1)の発現が上昇しており、マイトファジー保存に関連していることを発見した。
【0108】
Nixは、ミトコンドリアのオートファジーによるクリアランスにおいて重要な役割を果たすことが実証されているミトコンドリア外膜タンパク質である。ミトコンドリアのオートファジー受容体としてのその提案されている機能と一致して、Nixは、LC3及びGABARAP-L1等のオートファゴソームの膜上のタンパク質と相互作用していること、並びにParkinのミトコンドリア転移及びオートファジーの誘導に関わっていることが示されている。
【0109】
本発明者らは、代替的なNix関連マイトファジーの活性化が、マイトファジー機能を保存可能であり、対象における神経変性障害の予防に関与することを実証した。
【0110】
従って、本発明は、対象における神経変性障害を予防又は治療する方法であって、対象に、治療有効量の、細胞におけるNix介在性マイトファジーを増大させる作用物質を投与する工程を含む、方法を提供する。一実施形態において、作用物質は、細胞におけるNixポリペプチド若しくはそのフラグメント、及び/又はGABARAP-L1ポリペプチド若しくはそのフラグメントの生物活性又は発現レベルを増大させる。
【0111】
別の実施形態において、作用物質は、Nixポリペプチド若しくはそのフラグメント及び/又はGABARAP-L1ポリペプチド若しくはそのフラグメントをコードする発現ベクターである。
【0112】
Nix及びGABARAP-L1ポリペプチド、バリアント及びアナログ
本発明は、Nix及び/又はGABARAP-L1ポリペプチド又はフラグメント又はバリアント又はアナログ、並びにNix及び/又はGABARAP-L1ポリペプチド又はフラグメント又はバリアント又はアナログをコードする発現ベクターの使用を提供する。一実施形態において、本発明は、配列における変異(alteration)を生成することによって、Nix及び/又はGABARAP-L1アミノ酸配列又は核酸配列を最適化する方法を提供する。このような変異は、ある特定の突然変異、欠失、挿入又は翻訳後修飾を含んでよい。他の実施形態において、本発明は、任意の自然発生Nix及び/又はGABARAP-L1ポリペプチドのバリアント又はアナログを更に含む。バリアントは、アミノ酸配列差異によって、翻訳後修飾によって、又はその両方によって、本発明の自然発生ポリペプチドと異なることができる。Nix及び/又はGABARAP-L1ポリペプチドのバリアントは、概して、本明細書において記述される自然発生アミノ酸配列の全て又は一部と、少なくとも85%、より好ましくは90%、最も好ましくは95%、又は更には99%の同一性を呈することになる。配列比較の長さは、少なくとも5、10、15又は20アミノ酸残基、好ましくは少なくとも25、50又は75アミノ酸残基、より好ましくは100超のアミノ酸残基である。
【0113】
バリアント又はアナログは、一次配列における変異によって、本明細書において記述される自然発生ポリペプチドと異なることができる。これらは、天然及び誘導(例えば、硫酸エタンメチルへの照射若しくは暴露によって、又はSambrook,Fritsch and Maniatis,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(2d ed.),CSH Press,1989、又はCurrent Protocols in Molecular Biology(Ausubel,1987)において記述されている通りの部位特異的突然変異生成によって、ランダム突然変異生成から生じたもの)両方の遺伝的バリアントを含む。L-アミノ酸以外の残基(例えば、D-アミノ酸)又は非自然発生若しくは合成アミノ酸(例えば、β若しくはγアミノ酸)を含有する環化ペプチド、分子及びアナログも含まれる。
【0114】
アミノ酸には、自然発生アミノ酸及び合成アミノ酸、並びに自然発生アミノ酸と同様に機能するアミノ酸アナログ及びアミノ酸模倣物質が含まれる。自然発生アミノ酸は、遺伝暗号によってコードされたもの、並びに、後に修飾されたアミノ酸、例えば、ヒドロキシプロリン、ガンマ-カルボキシグルタミン酸及びO-ホスホセリン、ホスホトレオニンが挙げられる。アミノ酸アナログは、自然発生アミノ酸と同じ基本化学構造、すなわち、水素、カルボキシル基、アミノ基、及びR基(例えば、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウム)と結合している炭素を有するが、自然発生アミノ酸には見られないいくらかの変異(例えば、修飾された側鎖)を含有する化合物である。用語「アミノ酸模倣物質」は、アミノ酸の一般的な化学構造とは異なる構造を有するが、自然発生アミノ酸と同様に機能する化学化合物を指す。アミノ酸アナログは、修飾されたR基(例えば、ノルロイシン)又は修飾されたペプチド骨格を有するが、自然発生アミノ酸と同じ基本化学構造を保持している。一実施形態において、アミノ酸アナログは、D-アミノ酸、β-アミノ酸、又はN-メチルアミノ酸である。
【0115】
アミノ酸及びアナログは、当技術分野において周知である。アミノ酸は、本明細書において、それらの一般に公知の三文字記号によって、又はIUPAC-IUB生化学命名法委員会により推奨される一文字記号によってのいずれかで言及されてよい。同様に、ヌクレオチドについても、それらの一般に認められている一文字コードによって言及されてよい。完全長ポリペプチドに加えて、本発明は、本発明のポリペプチドのいずれか一つのフラグメントも含む。Nix及び/又はGABARAP-L1機能的活性を模倣するように設計された化学構造を有する非タンパク質Nix及び/又はGABARAP-L1アナログを、本発明の方法に従って投与することができる。Nix及び/又はGABARAP-L1バリアント及びアナログは、元のポリペプチドの生理学的活性を超えてもよい。アナログ設計の方法は、当技術分野において周知であり、アナログの合成は、このような方法に従って、得られるアナログが基準Nix及び/又はGABARAP-L1ポリペプチドの活性を呈するように化学構造を修飾することにより、行うことができる。これらの化学修飾は、代替的なR基を置換すること及び基準ポリペプチドの特定の炭素原子で飽和度を変動させることを含むがこれらに限定されない。好ましくは、ポリペプチドアナログは、インビボ分解に対して比較的耐性があり、投与時により長期にわたる治療効果をもたらす。機能的活性を測定するためのアッセイは、以下の実施例において記述されているものを含むがこれらに限定されない。
【0116】
従って、Nix及び/又はGABARAP-L1タンパク質、そのバリアント又はフラグメントをコードするポリヌクレオチドを特色とするポリヌクレオチド療法は、神経変性障害を治療する又は予防するための一つの治療的アプローチである。損傷した又は機能不全のミトコンドリアを含む細胞におけるこのようなタンパク質の発現は、これらミトコンドリアの排除を促進することが予測される。このような核酸分子を、神経変性障害若しくは疾患を有する、又は神経変性障害若しくは疾患を発症するリスクがある対象の細胞に送達することが可能である。核酸分子は、治療有効レベルのNix及び/又はGABARAP-L1タンパク質又はそのフラグメントを生成できるように、取り込むことができる形態で、対象の細胞に送達されなくてはならない。
【0117】
Nix及び/又はGABARAP-L1をコードする発現ベクターは、全身的な発現のために投与されてもよいし、選択された組織の形質導入に使用されてもよい。形質導入ウイルス(例えば、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス及びレンチウイルス)ベクターは、とりわけ、それらの高効率の感染並びに安定な統合及び発現により、体細胞遺伝子療法に使用することができる(例えば、Cayouette et al,Human Gene Therapy 8:423-430,1997;Kido et al.,Current Eye Research 15:833-844,1996;Bloomer et al.,Journal of Virology 71:6641-6649,1997;Naldini et al,Science 272:263-267,1996;及びMiyoshi et al,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.94:10319,1997を参照)。例えば、Nix及び/若しくはGABARAP-L1タンパク質、そのバリアント又はフラグメントをコードするポリヌクレオチドを、レトロウイルスベクターにクローン化することができ、その内在性プロモーターから、レトロウイルスの長い末端反復から、又は所望の標的細胞型に特異的なプロモーターから発現を誘導することができる。使用することができるその他のウイルスベクターとしては、例えば、ワクシニアウイルス、ウシ乳頭腫ウイルス、又はエプスタイン・バールウイルス等のヘルペスウイルスが挙げられる(例えば、the vectors of Miller,Human Gene Therapy 15-14,1990;Friedman,Science 244:1275-1281,1989;Eglitis et al.,BioTechniques 6:608-614,1988;Tolstoshev et al.,Current Opinion in Biotechnology 1:55-61,1990;Sharp,The Lancet 337:1277-1278,1991;Cornetta et al,Nucleic Acid Research and Molecular Biology 36:311-322,1987;Anderson,Science 226:401-409,1984;Moen,Blood Cells 17:407-416,1991;Miller et al,Biotechnology 7:980-990,1989;Le Gal La Salle et al,Science 259:988-990,1993;及びJohnson,Chest 107:77S-83S,1995も参照)。レトロウイルスベクターは、特によく開発され、臨床状況において使用されてきた(Rosenberg et al,N.Engl.J.Med 323:370,1990;Anderson et al,米国特許第5,399,346号明細書)。好ましくは、ウイルスベクターは、Nix及び/又はGABARAP-L1ポリヌクレオチドを全身的に投与するために使用される。
【0118】
神経変性疾患の治療又は予防を必要とする患者の細胞への治療薬の導入に、非ウイルスアプローチを用いることもできる。例えば、リポフェクション(Feigner et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.84:7413,1987;Ono et al,Neuroscience Letters 17:259,1990;Brigham et al,Am.J.Med.Sci.298:278,1989;Staubinger et al,Methods in Enzymology 101:512,1983)、アシアロオロソムコイド・ポリリシン共役(Wu et al,Journal of Biological Chemistry 263:14621,1988;Wu et al,Journal of Biological Chemistry 264:16985,1989)の存在下で核酸を投与することにより、又は、手術条件下での微量注射(Wolff et al.Science 247:1465,1990)により、核酸分子を細胞に導入することができる。好ましくは、核酸は、リポソーム及びプロタミンと組み合わせて投与される。
【0119】
遺伝子導入は、インビトロでのトランスフェクションを伴う非ウイルス手段を使用して実現することもできる。このような方法は、リン酸カルシウム、DEAEデキストラン、エレクトロポレーション及び原形質融合の使用を含む。細胞へのDNAの送達にはリポソームも潜在的に有益となることができる。患者の罹患組織への正常遺伝子の移植は、正常な核酸をエクスビボで培養可能な細胞型(例えば、自家若しくは異種初代細胞又はその後代)に移すことによって遂行することもでき、その後、細胞(又はその子孫)を標的組織に注射する。
【0120】
ポリヌクレオチド治療法において使用されるcDNA発現は、任意の好適な発現系(例えば、レンチウイルス発現系)から、任意の好適なプロモーター(例えば、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)、シミアンウイルス40(SV40)又はメタロチオネインプロモーター)を使用して指示することができ、任意の適切な哺乳類調節要素によって調節することができる。例えば、所望により、特定の細胞型における遺伝子発現を優先的に指示することが公知であるエンハンサーを使用して、核酸の発現を指示することができる。使用されるエンハンサーは、組織又は細胞特異的なエンハンサーとして特徴付けられるものを含むことができるが、これらに限定されない。代替として、ゲノムクローンが治療構築物として使用される場合、調節は、同種調節配列によって、又は、所望により、異種源に由来する調節配列によって、媒介することができる。
【0121】
本発明に含まれる別の治療的アプローチは、潜在的な若しくは実際の疾患罹患組織の部位に直接、又は全身的に(例えば、任意の従来の組み換えタンパク質投与技術によって)、組み換えNix及び/若しくはGABARAP-L1タンパク質、そのバリアント又はフラグメント等の組み換え治療薬の投与を伴う。投与されるタンパク質の投薬量は、個々の患者のサイズ及び健康を含む複数の要因によって決まる。任意の特定の対象のために、具体的な投薬計画は、個々の必要性並びに組成物を投与している又はその投与を管理する人物の専門的判断に従って、経時的に調整すべきである。
【0122】
Nix介在性マイトファジーを増大させる作用物質のスクリーニング
本明細書で考察されている通り、parkin又はPINK1への突然変異の結果としてのParkin関連マイトファジーの機能障害は、Nix介在性マイトファジーの増大によって補償され得る。ミトコンドリアの欠陥を有する対象が、健全なミトコンドリア及び欠陥があるミトコンドリアの混合集団を有することを考慮すると、欠陥があるミトコンドリアの数を選択的に低減させる作用物質は、神経変性障害の治療に有用である。所望の場合、Nix及び/又はGABARAP-L1の発現又は生物活性を増大させる作用物質を、細胞(例えば、mtDNAに遺伝的欠陥を含む細胞、parkin若しくはPINK1に遺伝子突然変異を含む細胞、黒質の細胞又はドーパミン作動性神経細胞)における、欠陥があるミトコンドリアの選択的排除を強化する効能について試験する。このような方法は、個別の薬剤適用のために、例えば、神経変性障害を有する対象に有益である可能性が高い作用物質を同定するのに、特に有用である。一例において、候補化合物は、ミトコンドリアの脱共役剤又はマイトファジーを誘導する他の作用物質の添加前に、添加と同時に、又は添加後に、細胞の培養培地(例えば、神経培養)に添加される。次いで、細胞におけるミトコンドリア機能及びマイトファジーの程度を、本明細書において記述されているものを含む当業者に公知の標準的な方法を使用して測定する。候補作用物質の存在下でのミトコンドリア機能及び/又はマイトファジーの程度を、候補作用物質を受けなかった対応する対照培養物において測定されたレベルと比較する。
【0123】
一実施形態において、欠陥があるミトコンドリアの選択的排除を促進する作用物質の能力を、parkin及び/又はPINK1における突然変異を含む細胞においてアッセイする。Nix及び/若しくはGABARAP-L1発現若しくは生物活性の増大、又は欠陥があるミトコンドリアの低減を促進する化合物は、本発明において有用であるとして同定され、そのような候補化合物は、ミトコンドリア機能不全を特徴とする神経変性障害を、例えば、予防する、遅延させる、和らげる、安定させる、又は治療するための治療薬として使用してよい。
【0124】
一実施形態において、本発明は、対象における神経変性障害の予防又は治療に有用な作用物質を同定する方法であって、(a)細胞を作用物質と接触させること、及び(b)作用物質と接触していない対照細胞と比較しての、上記細胞におけるNix介在性マイトファジーに関連するポリペプチドの生物活性若しくは発現の増大を検出すること、又は(c)作用物質と接触していない対照細胞と比較しての、上記細胞におけるNix介在性マイトファジーに関連するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現の増大を検出することを含み、ここで、上記活性又は発現を増大させる作用物質は、神経変性障害の治療に有用であるとして同定される、方法を提供する。
【0125】
別の実施形態において、本発明は、対象における神経変性障害の予防又は治療に有用な作用物質を同定する方法であって、(a)細胞を作用物質と接触させること、及び(b)作用物質と接触していない対照細胞と比較しての、上記細胞におけるNixポリペプチド及び/若しくはGABARAP-L1ポリペプチドの生物活性若しくは発現の増大を検出すること、又は(c)作用物質と接触していない対照細胞と比較しての、上記細胞におけるNixポリペプチド及び/若しくはGABARAP-L1ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現の増大を検出すること、を含み、ここで、上記活性又は発現を増大させる作用物質は、神経変性障害の治療に有用であるとして同定される、方法を提供する。
【0126】
この方法(又は任意の他の適切な方法)によって単離された作用物質は、所望により、(例えば、高速液体クロマトグラフィーによって)更に精製されてもよい。加えて、そのような候補作用物質を、神経細胞におけるマイトファジーを変調する能力について試験してもよい。他の実施形態において、作用物質の活性は、ミトコンドリア機能の増大、細胞死の低減、又は細胞生存の増大を同定することによって測定される。このアプローチによって単離された作用物質を、例えば、対象におけるミトコンドリア機能不全に関連する神経変性障害を治療するための治療薬として使用してよい。
【0127】
欠陥があるマイトファジーを含む細胞に対する候補化合物の効果は、典型的には、当業者が候補化合物の非存在下での対応する対照細胞と比較することで分かる。
【0128】
候補作用物質は、小分子、ペプチド、ペプチド模倣物質、ポリペプチド及び核酸分子を含む。本明細書に収載されている配列のそれぞれを、神経変性障害の治療のための治療化合物の発見及び開発において使用してもよい。コードされたタンパク質を、発現時に、薬物のスクリーニングのための標的として使用することができる。加えて、コードされたタンパク質のアミノ末端領域をコードするDNA配列、又はシャイン・ダルガノ若しくはそれぞれのmRNAの他の翻訳容易化配列を使用して、所望のコード配列の発現を促進する配列を構築することができる。そのような配列を、標準的な技術(Ausubel et al,上記)によって単離してよい。本発明の小分子は、好ましくは、2,000ダルトン未満、より好ましくは300~1,000ダルトンの間、最も好ましくは400~700ダルトンの間の分子量を有する。これらの小分子は、有機分子であるのが好ましい。
【0129】
本発明は、上記したスクリーニングアッセイによって同定される新規作用物質も含む。場合により、そのような作用物質は、神経変性障害の治療用化合物の効能を決定するための、一つ又は複数の適切な動物モデルにおいて特徴付けられる。望ましくは、動物モデルにおける特徴付けを使用して、毒性、副作用、又はこのような化合物による治療の作用機序を決定することもできる。更に、上記したスクリーニングアッセイのいずれかにおいて同定された新規作用物質を、対象における神経変性障害の治療に使用してもよい。このような作用物質は、単独でも、又は当技術分野において公知である他の従来の療法と組み合わせても有用である。
【0130】
スクリーニングにおいて使用される細胞
一実施形態において、本明細書において記述されているスクリーニングは、parkin又はPINK1に突然変異を有する細胞中で行われる。
【0131】
別の実施形態において、本明細書において記述されているスクリーニングは、ニューロンの特徴を有するドーパミン作動性細胞中で行われる。このような細胞は、当技術分野において公知であり、例えば、BE(2)-M17神経芽腫細胞(Martin et al,J Neurochem.2003 Nov;87(3):620-30)、Cath.a分化(CAD)細胞(Arboleda et al,J Mol Neurosci.2005;27(1):65-78)、CSM14.1(Haas et al,J Anat.2002 Jul;201(1):61-9)、MN9D(Chen et al.,Neurobiol Dis.2005 Aug;19(3):419-26)、N27細胞(Kaul et al.,J Biol Chem.2005 Aug 5;280(31):28721-30)、PC12(Gorman et al.,Biochem Biophys Res Commun.2005 Feb 18;327(3):801-10)、SN4741(Nair et al.,Biochem J.2003 Jul 1;373(Pt 1):25-32)、CHP-212、SH-SY5Y、及びSK-N-BEを含む。代替的な実施形態において、本明細書において記述されているスクリーニングは、幹細胞、iPS細胞、又は前駆細胞に由来するドーパミン作動性細胞中で行われてよい。
【0132】
別の実施形態において、本明細書において記述されているスクリーニングは、ニューロン、繊維芽細胞、嗅覚神経球若しくは神経前駆細胞、又は繊維芽細胞若しくは嗅覚神経球若しくは神経前駆細胞に由来するニューロン中で行われてよい。
【0133】
被験作用物質及び抽出物
概して、マイトファジーを変調することができる作用物質は、天然生成物若しくは合成(若しくは半合成)抽出物両方の大きなライブラリー若しくは化学ライブラリーから、又はポリペプチド若しくは核酸ライブラリーから、当技術分野において公知の方法に従って、同定される。創薬及び開発の分野の当業者であれば、被験抽出物又は作用物質の正確な供給源が、本発明のスクリーニング手順に決定的ではないことを理解するであろう。スクリーニングにおいて使用される作用物質は、公知の作用物質(例えば、他の疾患又は障害に使用される公知の治療薬)を含み得る。代替として、本明細書において記述されている方法を使用して、事実上いくつもの未知の化学抽出物又は作用物質をスクリーニングすることができる。このような抽出物又は作用物質の例としては、植物、菌、原核生物又は動物ベースの抽出物、発酵ブロス、及び合成作用物質、並びに現存する作用物質の修正品が挙げられるがこれらに限定されない。
【0134】
サッカリドベース、脂質ベース、ペプチドベース及び核酸ベースの作用物質を含むがこれらに限定されない、いくつもの化学作用物質のランダム又は指向性合成(例えば、半合成又は全合成)を生成するためにも、多数の方法が利用可能である。合成化合物ライブラリーは、ブランドンアソシエーツ(ニューハンプシャー州メリマック)及びアルドリッチケミカル(ウィスコンシン州ミルウォーキー)から市販されている。代替として、候補作用物質として使用される化学作用物質は、容易に入手可能な出発材料から、当業者に公知の標準的な合成技術及び方法論を使用して、合成することができる。本明細書において記述されている方法によって同定された作用物質を合成するのに有用な合成化学転換及び保護基方法論(保護及び脱保護)は、当技術分野において公知であり、例えば、R.Larock,Comprehensive Organic Transformations,VCH Publishers(1989);T.W.Greene and P.G.M.Wuts,Protective Groups in Organic Synthesis,2nd ed.,John Wiley and Sons(1991);L.Fieser and M.Fieser,Fieser and Fieser’s Reagents for Organic Synthesis,John Wiley and Sons(1994);及びL.Paquette,ed.,Encyclopedia of Reagents for Organic Synthesis,John Wiley and Sons(1995)、並びにその後の版において記述されているものを含む。
【0135】
代替として、細菌抽出物、真菌抽出物、植物抽出物及び動物抽出物の形態の天然作用物質のライブラリーは、バイオティックス(英国サセックス)、キセノバ(英国スラウ)、ハーバーブランチ海洋研究所(フロリダ州フォートピアス)及びファーママーU.S.A.(マサチューセッツ州ケンブリッジ)を含む複数の供給源から市販されている。加えて、天然及び合成的に生成されたライブラリーは、所望の場合、当技術分野において公知の方法に従って、例えば、標準的な抽出及び分画方法によって生成される。分子ライブラリーの合成のための方法の例は、当技術分野において、例えば、DeWitt et al,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.90:6909,1993;Erb et al,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.91:11422,1994;Zuckermann et al,J.Med.Chem.37:2678,1994;Cho et al,Science 261:1303,1993;Carrell et al,Angew.Chem.Int.Ed.Engl.33:2059,1994;Carell et al,Angew.Chem.Int.Ed.Engl.33:2061,1994;及びGallop et al,J.Med.Chem.37:1233,1994において見ることができる。更に、所望の場合、任意のライブラリー又は化合物は、標準的な化学的、物理的又は生化学的方法を使用して、容易に修飾される。
【0136】
作用物質のライブラリーは、溶液中(例えば、Houghten,Biotechniques 13:412-421.1992)、又はビーズ上(Lam,Nature 354:82-84,1991)、チップ(Fodor,Nature 364:555-556,1993)、細菌(Ladner、米国特許第5,223,409号明細書)、胞子(Ladner、米国特許第5,223,409号明細書)、プラスミド(Cull et al,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.89:1865-1869,1992)若しくはファージ上(Scott and Smith,Science 249:386-390,1990;Devlin,Science 249:404-406,1990;Cwirla et al,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.87:6378-6382,1990;Felici,J.Mol.Biol.222:301-310,1991;Ladner、上記)に存在してよい。
【0137】
加えて、創薬及び開発の分野の当業者は、それらの活性について既に公知である材料の複製又は反復のデレプリケーション(例えば、分類学的デレプリケーション、生物学的デレプリケーション及び化学的デレプリケーション、又はそれらの任意の組み合わせ)又は排除のための方法が、可能な場合にはいつでも用いられるべきであることを容易に理解する。
【0138】
所望の粗製抽出物が同定された場合、観察された効果の原因となる化学成分を単離するために、ポジティブリード(positive lead)抽出物の更なる分画が必要である。故に、抽出、分画及び精製プロセスの目的は、Nix介在性マイトファジーに関連するポリペプチドをコードする遺伝子の転写活性を改変する粗製抽出物内の化学的実体の慎重な特徴付け及び同定である。このような不均一抽出物の分画及び精製の方法は、当技術分野において公知である。所望により、神経変性障害の治療のための治療薬として有用であることが示された作用物質は、当技術分野において公知の方法に従って化学的に修飾される。
【0139】
治療医薬品
本発明は、神経変性障害の治療のためのNix及び/又はGABARAP-L1の発現又は活性を増大させる作用物質(上記スクリーニングにおいて同定される作用物質を含む)を提供する。一実施形態において、本発明は、Nix及び/又はGABARAP-L1ポリペプチドをコードする発現ベクターを含む医薬組成物を提供する。別の実施形態において、本明細書に記述されている方法を使用して薬理価値を有することが発見された化学的実体は、薬物として、又は、例えば合理的な薬物設計による、現存する作用物質の構造的修飾のための情報として有用である。治療的使用のために、本明細書に開示されている方法を使用して同定される組成物又は作用物質を、全身的に投与(例えば、薬学的に許容される担体中で製剤化)してよい。好ましい投与経路は、例えば、患者において連続的な持続レベルの薬物を提供する皮下、静脈内、腹腔内、筋肉内若しくは皮内注射、鼻腔内(例えば、鼻腔用スプレー)又は経皮(例えば、局所パッチ)投与を含む。ヒト患者又はその他の動物の治療は、生理学的に許容される担体中の、治療有効量の神経変性障害治療薬を使用して、行われることになる。好適な担体及びそれらの製剤化は、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences by E.W.Martinに記述されている。投与される治療剤の量は、投与方式、患者の年齢及び体重、並びに神経変性障害の臨床症状に応じて変動する。概して、量は、ミトコンドリア病の治療において使用される他の作用物質について使用されるものの範囲内となるが、ある特定の場合において、化合物の特異性増大により、必要となる量はより低くなる。化合物は、当業者に公知の診断方法によって、又は神経変性障害に関連する若しくはNix介在性マイトファジーに関連する(例えば、Nix)遺伝子の転写調節を測定する任意のアッセイを使用して決定される通り、神経変性障害の臨床症状又は生理的症状を制御する投薬量で投与される。
【0140】
医薬組成物の製剤
神経変性障害の治療のための本発明の作用物質又はそのアナログの投与は、その他の成分と組み合わせて、神経変性障害又はその症状を、和らげる、低減させる又は安定させるのに有効な治療薬の濃度をもたらす任意の好適な手段によるものであってよい。一実施形態において、作用物質の投与は、細胞における機能不全の若しくは欠陥があるミトコンドリアのパーセンテージを低減させ、且つ/又は健全なミトコンドリアのパーセンテージを増大させる。
【0141】
このような作用物質を投与する方法は、当技術分野において公知である。本発明は、当技術分野において公知の任意の手段による作用物質の治療的投与を提供する。化合物は、任意の好適な担体物質中に任意の適切な量で含有されていてよく、概して、組成物の総重量の1~95重量%の量で存在する。組成物は、非経口(例えば、皮下、静脈内、筋肉内、又は腹腔内)投与経路に好適な剤形で提供されてもよい。医薬組成物は、従来の医薬実務に従って製剤化されてよい(例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy(20th ed.),ed.A.R.Gennaro,Lippincott Williams&Wilkins,2000及びEncyclopedia of Pharmaceutical Technology,eds.J.Swarbrick and J.C.Boylan,1988-1999,Marcel Dekker,New Yorkを参照)。好適な製剤は、経口投与用の形態、デポー製剤、パッチによる送達用の製剤、局所的に、経鼻的に又は経皮的に送達される半固体剤形を含む。
【0142】
本発明に係る医薬組成物は、投与時に実質的に直ちに、又は投与後任意の所定時間若しくは期間で、活性化合物を放出するように製剤化されてよい。後者の種類の組成物は、概して、制御放出製剤として公知であり、これは、(i)長期にわたって体内で実質的に一定の濃度の薬物を作成する製剤;(ii)所定の遅延時間後に、長期にわたって体内で実質的に一定の濃度の薬物を作成する製剤;(iii)活性物質の血漿中レベルにおける増減(鋸歯状動力学的パターン)に関連する望ましくない副作用の同時最小化により、体内において、比較的一定の有効レベルを維持することにより、所定の期間中、作用を持続させる製剤;(iv)例えば、中枢神経系又は脳脊髄液に隣接する又はその中での制御放出組成物の空間配置によって、作用を限局化する製剤;(v)用量が、例えば一又は二週間に一回投与されるような便利な投薬を可能にする製剤;並びに(vi)神経変性障害において機能が無秩序な特定の細胞型(例えば、細胞死のリスクがある神経細胞)に治療剤を送達するための担体又は化学的誘導体を使用することにより、神経変性障害を標的とする製剤、を含む。いくつかの用途では、制御放出製剤が、血漿中レベルを治療レベルで持続させるための日中の頻回投薬の必要性をなくす。放出速度が問題の化合物の代謝速度を上回る制御放出を取得するために、複数の戦略のいずれかを追求することができる。一例において、制御放出は、例えば、種々の種類の制御放出組成物及びコーティングを含む、種々の製剤パラメータ及び原料の適切な選択によって取得される。故に、治療薬は、適切な添加剤とともに、投与時に治療薬を制御方式で放出する医薬組成物に製剤化される。この例としては、単回若しくは複数回単位錠剤又はカプセル組成物、油溶液、懸濁液、エマルション、マイクロカプセル、ミクロスフェア、分子複合体、ナノ粒子、パッチ、及びリポソームが挙げられる。
【0143】
非経口組成物
医薬組成物は、注射、注入又は移植(皮下、静脈内、筋肉内、腹腔内等)によって、剤形、製剤で、又は従来の非毒性の薬学的に許容される担体及びアジュバントを含有する好適な送達デバイス若しくは移植片を介して、非経口的に投与されてよい。このような組成物の製剤及び調製は、医薬製剤分野の当業者に周知である。
【0144】
非経口使用のための組成物は、単位剤形で(例えば、単回用量アンプルで)、又は、数回用量を含有し、好適な保存剤が添加されていてもよいバイアルで提供されてよい(以下を参照)。組成物は、溶液、懸濁液、エマルション、注入デバイス、若しくは移植用の送達デバイスの形態であってよく、又は、使用前に水若しくは別の好適なビヒクルで再構成される乾燥粉末として提示されてもよい。活性治療薬とは別に、組成物は、好適な非経口的に許容される担体及び/又は添加剤を含んでいてもよい。活性治療薬は、制御放出のために、ミクロスフェア、マイクロカプセル、ナノ粒子、リポソーム等に組み込まれてよい。更に、組成物は、懸濁化剤、可溶化剤、安定化剤、pH調整剤、等張性調整剤及び/又は分散剤を含んでいてもよい。
【0145】
上記の通り、本発明に係る医薬組成物は、滅菌注射に好適な形態であってよい。このような組成物を調製するために、好適な活性治療薬を、非経口的に許容される液体ビヒクルに溶解又は懸濁する。
【0146】
制御放出非経口組成物
制御放出非経口組成物は、懸濁液、ミクロスフェア、マイクロカプセル、磁性ミクロスフェア、油溶液、油懸濁液又はエマルションの形態であってよい。代替として、活性薬物は、生体適合性担体、リポソーム、ナノ粒子、移植片又は注入デバイスに組み込まれていてよい。ミクロスフェア及び/又はマイクロカプセルの調製において使用される材料は、例えば、ポリガラクティア(polygalactia)ポリ-(シアノアクリル酸イソブチル)、ポリ(2-ヒドロキシエチル-L-グルタム-ニン)及びポリ(乳酸)等の生分解性生体内分解性ポリマーである。制御放出非経口製剤を製剤化する場合に使用してよい生体適合性担体は、炭水化物(例えば、デキストラン)、タンパク質(例えば、アルブミン)、リポタンパク質又は抗体である。移植片において使用される材料は、非生分解性(例えば、ポリジメチルシロキサン)又は生分解性(例えば、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)若しくはポリ(オルトエステル)又はそれらの組み合わせ)であり得る。
【0147】
経口使用のための固体剤形
経口使用のための製剤は、活性成分を非毒性の薬学的に許容される添加剤との混合物として含有する錠剤を含む。このような製剤は、当業者に公知である。添加剤は、例えば、不活性賦形剤又は充填剤(例えば、スクロース、ソルビトール、砂糖、マンニトール、微結晶性セルロース、バレイショデンプン等のデンプン、炭酸カルシウム、塩化ナトリウム、ラクトース、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム又はリン酸ナトリウム);造粒及び崩壊剤(例えば、微結晶性セルロース等のセルロース誘導体、バレイショデンプン等のデンプン、クロスカルメロースナトリウム、アルギン酸塩又はアルギン酸);結合剤(例えば、スクロース、グルコース、ソルビトール、アカシア、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、デンプン、アルファ化デンプン、微結晶性セルロース、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン又はポリエチレングリコール);並びに平滑剤、流動促進剤及び付着防止剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸、シリカ、水素化植物油又はタルク)であってよい。その他の薬学的に許容される添加剤は、着色剤、香味剤、可塑剤、湿潤剤、緩衝剤等であり得る。
【0148】
錠剤は、コーティングされていなくてもよいし、場合により、消化管における崩壊及び吸収を遅延させ、それにより、より長期にわたって持続作用を提供するために、公知の技術によってコーティングされていてもよい。コーティングは、活性薬物を所定のパターンで放出するように適合されていてもよいし(例えば、制御放出製剤を実現するために)、又は胃の通過後まで活性薬物を放出しないように適合されていてもよい(腸溶性コーティング)。コーティングは、糖衣コーティング、フィルムコーティング(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アクリレートコポリマー、ポリエチレングリコール及び/又はポリビニルピロリドンに基づくもの)、又は腸溶性コーティング(例えば、メタクリル酸コポリマー、酢酸フタル酸セルロース、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、酢酸コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、酢酸フタル酸ポリビニル、セラック及び/又はエチルセルロースに基づくもの)であってよい。
【0149】
更に、例えば、モノステアリン酸グリセリル又はジステアリン酸グリセリル等の時間遅延材料を用いてもよい。
【0150】
固体錠剤組成物は、不要な化学変化(例えば、活性神経変性障害治療物質の放出前の化学分解)から組成物を保護するように適合されたコーティングを含んでよい。コーティングは、上記のEncyclopedia of Pharmaceutical Technologyにおいて記述されているのと同様の様式で、固体剤形に塗布されてよい。
【0151】
少なくとも二つの活性神経変性障害治療薬を錠剤中で混合してもよいし、分配してもよい。一例において、第一の活性治療薬は錠剤の内側に含有されており、第二の活性治療薬は外側にあり、そのため、第二の活性治療薬の大部分は、第一の活性治療薬の放出前に放出される。
【0152】
経口使用のための製剤は、チュアブル錠としてもよく、又は活性成分が不活性固体賦形剤(例えば、バレイショデンプン、ラクトース、微結晶性セルロース、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム又はカオリン)と混合されている硬ゼラチンカプセル剤としてもよく、又は活性成分が水若しくは油性媒質(例えば、ピーナッツ油、流動パラフィン若しくはオリーブ油)と混合されている軟ゼラチンカプセル剤としてもよい。散剤及び顆粒剤は、錠剤及びカプセル剤について上記で言及した原料を使用し、例えば、ミキサー、流動床装置又はスプレー乾燥機器を使用する従来の方式で調製してよい。
【0153】
制御放出経口剤形
経口使用のための制御放出組成物は、活性物質の溶解及び/又は拡散を制御することによって活性神経変性障害治療薬を放出するように構築されていてよい。溶解又は拡散制御放出は、作用物質の錠剤、カプセル剤、ペレット剤若しくは顆粒製剤の適切なコーティングによって、又は化合物を適切なマトリックスに組み込むことによって、実現することができる。制御放出コーティングは、上記で言及したコーティング物質の一つ又は複数(例えば、セラック、ビーズワックス、グリコワックス、キャスターワックス、カルナウバワックス、ステアリルアルコール、モノステアリン酸グリセリル、ジステアリン酸グリセリル、パルミトステアリン酸グリセロール、エチルセルロース、アクリル樹脂、dl-ポリ乳酸、酢酸酪酸セルロース、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ビニルピロリドン、ポリエチレン、ポリメタクリレート、メタクリル酸メチル、2-ヒドロキシメタクリレート、メタクリレートヒドロゲル、1,3ブチレングリコール、メタクリル酸エチレングリコール及び/又はポリエチレングリコール)を含んでよい。制御放出マトリックス製剤において、マトリックス材料は、例えば、水和メチルセルロース、カルナウバワックス及びステアリルアルコール、Carbopol 934、シリコーン、トリステアリン酸グリセリル、アクリル酸メチル-メタクリル酸メチル、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン並びに/又はハロゲン化フルオロカーボンを含んでもよい。
【0154】
一つ又は複数の治療剤を含有する制御放出組成物は、浮揚性錠剤又はカプセル剤(すなわち、経口投与時に、ある一定の期間にわたって胃内容物の最上部に浮かぶ錠剤又はカプセル剤)の形態であってもよい。化合物の浮揚性錠剤製剤は、化合物(1種又は複数種)と、添加剤と、20~75%w/wの親水コロイド(例えばヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース又はヒドロキシプロピルメチルセルロース等)との混合物を顆粒化することによって調製することができる。次いで、得られた顆粒を圧縮して、錠剤とすることができる。胃液に接触すると、錠剤はその表面周辺に、実質的に防水性のゲル障壁を形成する。このゲル障壁は、密度を1未満に維持するのに関わっており、それにより、胃液中で錠剤を浮揚性のままにしている。
【0155】
局所投与形態
本発明の作用物質の半固体局所投与のための剤形としては、軟膏剤、ペースト剤、クリーム剤、ローション剤及びゲル剤が挙げられる。剤形は、皮膚への塗布領域における活性成分の持続放出のために、粘膜付着性ポリマーと共に製剤化されてよい。活性化合物を、滅菌条件下で薬学的に許容される担体と、必要とされ得る任意の保存剤、緩衝剤又は噴射剤と、混合してよい。このような局所用調製物は、所望の化合物を、局所用液体、クリーム及びゲル製剤において一般に使用される従来の医薬賦形剤及び担体と組み合わせることによって調製することができる。
【0156】
軟膏剤及びクリーム剤は、例えば、好適な増粘剤及び/又はゲル化剤を添加した水性又は油性基剤と共に製剤化されてよい。このような基剤は、水及び/又は油(例えば、流動パラフィン、ピーナッツ油又はヒマシ油等の植物油)を含んでよい。基剤の性質に応じて使用してよい増粘剤としては、軟パラフィン、ステアリン酸アルミニウム、セトステアリルアルコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、羊毛脂、水添ラノリン、ビーズワックス等が挙げられる。
【0157】
ローション剤は、水性又は油性基剤と共に製剤化されてよく、概して、下記の一つ又は複数も含む:安定化剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、増粘剤、着色剤、香料等。軟膏剤、ペースト剤、クリーム剤及びゲル剤は、動物性及び植物性脂肪、油、ワックス、パラフィン、デンプン、トラガカント、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、シリコーン、ベントナイト、ケイ酸、タルク並びに酸化亜鉛、又はそれらの混合物を含むがこれらに限定されない添加剤を含有していてもよい。
【0158】
好適な添加剤は、作用物質に応じて、ワセリン、ラノリン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、アルギン酸ナトリウム、カルボマー、グリセリン、グリコール、油、グリセロール、ベンゾエート、パラベン及び界面活性剤を含む。或る化合物の溶解度により、どのようにして化合物が製剤化されるかが決定されることが当業者には部分的に明らかであろう。水性ゲル製剤は、水溶性剤に好適である。化合物が、活性のために必要とされる濃度では水に不溶性である場合、クリーム又は軟膏調製物が典型的には好ましいであろう。この場合、製剤を調製するために、油相、水性/有機相及び界面活性剤が必要とされてよい。故に、溶解度及び添加剤-活性物相互作用情報に基づき、プロトタイプ調製物を製剤化するように、剤形を設計することができ、添加剤を選択することができる。
【0159】
局所医薬組成物は、一つ又は複数の保存剤又は静菌剤(例えば、ヒドロキシ安息香酸メチル、ヒドロキシ安息香酸プロピル、クロロクレゾール、塩化ベンザルコニウム等)も含むことができる。局所医薬組成物は、抗菌剤、特に抗生物質、麻酔薬、鎮痛薬及び抗掻痒剤を含むが、これらに限定されないその他の活性成分も含有することができる。
【0160】
投薬量
当業者は、動物モデルと比較してヒトの投薬量を修正することが当技術分野において日常的であると認識しているため、ヒト投薬量は、マウスにおいて使用した化合物の量を外挿することによって最初に決定することができる。或る実施形態において、投薬量は、体重1Kg当たり化合物約1mg~約5000mg(約1mg/Kg~約5000mg);又は体重1Kg当たり化合物約5mg~約4000mg(約5mg/Kg~約4000mg/Kg)又は約10mg~約3000mg(約10mg/Kg~約3000mg/Kg);又は体重1Kg当たり化合物約50mg~約2000mg(約50mg/Kg~約2000mg/Kg);又は体重1Kg当たり化合物約100mg~約1000mg(約100mg/Kg~約1000mg/Kg);又は体重1Kg当たり化合物約150mg~約500mg(約150mg/Kg~約500mg/Kg)の間で変えてよいことが想定される。他の実施形態において、この用量は、約1、5、10、25、50、75、100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、1000、1050、1100、1150、1200、1250、1300、1350、1400、1450、1500、1600、1700、1800、1900、2000、2500、3000、3500、4000、4500、5000mg/Kg体重であってよい。他の実施形態において、より高い用量を使用してよく、そのような用量は、体重1Kg当たり約5mg~約20mg(約5mg/Kg~約20mg/Kg)の範囲内であってよいことが予想される。他の実施形態において、用量は、約8、10、12、14、16又は18mg/Kg(体重)であってよい。当然ながら、この投薬量は、治療プロトコールにおいて日常的に為されるように、初期臨床試験の結果及び特定の患者の必要性に応じて、上方又は下方に調整されてよい。
【0161】
治療法
本発明は、Nix介在性マイトファジーを介して機能不全の又は欠陥があるミトコンドリアの排除を変調することにより、神経変性障害又はその症状を治療する方法を提供する。この方法は、細胞からの機能不全の又は欠陥があるミトコンドリアのクリアランスを変調する作用物質を治療有効量含む医薬組成物を、本明細書において記述されている方法を使用して、対象(例えば、ヒト等の哺乳動物)に投与することを含む。故に、一実施形態は、神経変性障害に罹患している対象又はかかりやすい対象を治療する方法である。この方法は、該障害を治療するのに十分な治療有効量の、本明細書において記述されている作用物質を、該障害が治療されるような条件下で対象に投与する工程を含む。
【0162】
本明細書における方法は、対象(このような治療を必要とするとされる対象を含む)に、有効量の本明細書において記述されている作用物質、又はこのような効果を生成するための本明細書において記述されている組成物を投与することを含む。このような治療を必要とする対象を同定することは、対象又は医療専門家の判断内であることができ、自覚的(例えば、私見)又は他覚的(例えば、試験又は診断法によって測定可能)であることができる。
【0163】
予防的治療を含む本発明の治療法は、概して、治療有効量の本明細書における作用物質を、治療を必要とする哺乳動物(特にヒト)を含む対象(例えば、動物、ヒト)に投与することを含む。このような治療は、神経変性障害に罹患している対象、神経変性障害を有する対象、神経変性障害にかかりやすい対象、又は神経変性障害を発症するリスクがある対象(特にヒト)に好適に投与されるであろう。
【0164】
「リスクがある」対象の決定は、診断試験、又は対象若しくは医療提供者の私見による任意の他覚的又は自覚的な決定(例えば、遺伝子試験、酵素又はタンパク質マーカー、家族歴等)によって行うことができる。
【0165】
一実施形態において、本発明は、治療進行をモニターする方法を提供する。この方法は、神経変性障害に罹患している対象又は神経変性障害を発症するリスクがある対象において、Nix及び/又はGABARAP-L1発現又はその他の診断測定(例えば、スクリーニング、アッセイ)のレベルを決定する工程を含み、ここで、対象には、該障害又はその症状を治療するのに十分な治療量の、本明細書において記述されている通りの作用物質が投与されている。この方法において決定された発現レベルを、健全な正常対照又は他の罹患者のいずれかにおける公知の発現レベルと比較することにより、対象の疾患状況を規定することができる。好ましい実施形態においては、対象における第二の発現レベルを、第一レベルの決定よりも遅い時点で決定し、二つのレベルを比較して、疾患の経過又は療法の効能をモニターする。或る好ましい実施形態においては、対象における前治療発現レベルを本発明に従って治療を始める前に決定し、次いで、この前治療マーカーレベルを、治療開始後の対象におけるマーカーレベルと比較することにより、治療の効能を決定することができる。下記の例は、本発明を例証するために提供されるものであり、限定するためのものではない。当業者は、以下で提供する具体的な構築物が、作用物質又はその組み合わせの重大な特性を保持しながら、上記した発明と一致する多数の手法で変更されてよいことを理解するであろう。
【0166】
キット
本発明は、神経変性障害の治療又は予防用キットを提供する。一実施形態において、キットは、有効量の本発明の作用物質を含有する治療組成物又は予防組成物(例えば、Nixの発現及び/又は活性を増大させる作用物質等の、細胞におけるNix介在性マイトファジーを増大させる作用物質;Nixポリペプチド又はそのフラグメント若しくはバリアント、及び/又は、GABARAP-L1ポリペプチド又はそのフラグメント若しくはバリアント、又は、これらをコードする発現ベクター)を単位剤形で含む。いくつかの実施形態において、キットは、治療化合物又は予防化合物を含有する無菌容器を含み、このような容器は、ボックス、アンプル、ボトル、バイアル、チューブ、バッグ、ポーチ、ブリスターパック、又は当技術分野において公知である他の好適な容器であり得る。このような容器は、プラスチック、ガラス、ラミネート紙、金属箔、又は医薬を保持するのに好適な他の材料製であり得る。
【0167】
所望の場合、本発明の作用物質は、神経変性障害を有する対象又は神経変性障害を発症するリスクがある対象に、作用物質を投与するための説明書と共に提供される。説明書は、概して、神経変性障害の治療又は予防用組成物の使用についての情報を含むことになる。他の実施形態において、説明書は、下記の少なくとも一つを含む:化合物の説明;神経変性障害又はその症状の治療又は予防のための投薬スケジュール及び投与;注意事項;警告;適応症;カウンターインディケーション(counter-indications);過量投薬情報;有害反応;動物薬理学;臨床研究;並びに/又は参考文献。説明書は、容器(存在する場合)に直接、又は容器に貼り付けられたラベルとして印刷されていてよく、又は、容器内に若しくはそれとともに供給される別個のシート、パンフレット、カード若しくは折り畳み印刷物であってよい。
【0168】
併用療法
場合により、治療効能又は予防効能を有する作用物質を、神経変性障害を治療するための任意のその他の標準的な療法と組み合わせて投与してよい。所望の場合、本発明の作用物質は、単独で投与してもよく、又は神経変性障害の治療に有用な従来の治療薬と組み合わせて投与してもよい。例えば、パーキンソン病の治療に有用な治療薬は、デプレニール、アマンタジン又は抗コリン薬、レボドパ、カルビドパ、エンタカポン、プラミペキソール、ラサギリン、抗ヒスタミン薬、抗鬱薬、ドーパミンアゴニスト、モノアミン酸化酵素阻害剤(MAOI)等を含むが、これらに限定されない。
【0169】
本発明を実践する際には、特段の指示がない限り、十分に当業者の範囲内である分子生物学(組み換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学及び免疫学の従来の技術を使用する。このような技術は、文献において十分に説明されている(“Molecular Cloning:A Laboratory Manual”,second edition(Sambrook,1989);“Oligonucleotide Synthesis”(Gait,1984);“Animal Cell Culture”(Freshney,1987);“Methods in Enzymology”“Handbook of Experimental Immunology”(Weir,1996);“Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells”(Miller and Calos,1987);“Current Protocols in Molecular Biology”(Ausubel,1987);“PCR:The Polymerase Chain Reaction”,(Mullis,1994);“Current Protocols in Immunology”(Coligan,1991)等)。これらの技術は、本発明のポリヌクレオチド及びポリペプチドの産生に適用でき、そのため、本発明を作製し実践する際に考慮されてよい。
【0170】
下記の例は、本発明のアッセイ、スクリーニング及び治療法をどのように作製し使用するかについて完全な開示及び説明を当業者に提供するように提案されるものであり、本発明者らが自らの発明であるとみなすものの範囲を限定することは意図されていない。
【実施例
【0171】
実施例1.ミトコンドリア機能はParkin欠損キャリア細胞において正常である
本発明者らは、機能的Parkinタンパク質を有さない健全なホモ接合性parkin突然変異キャリアを同定した。ミトコンドリアは、ATPの形態でエネルギーを生成する主要な細胞器官であり、parkinにおける突然変異の影響を受ける主要標的であるため、Parkin欠損突然変異キャリア(以後「キャリア」)及び患者(機能的Parkinを欠いている複合ヘテロ接合体;以後「患者」)からの繊維芽細胞におけるミトコンドリアATP合成速度を決定した。
【0172】
方法
細胞培養
ヒト繊維芽細胞及びヒト嗅覚神経球細胞株の確立及び培養のためのプロトコールは、既に記述されている(Koentjoro,et al,2012,Mov Disord 27(10),1299-303;Park,et al,2011;Hum Mutat 32(8),956-64)。細胞は、全ての実験について最高で第15継代まで継代培養した。
【0173】
ATP合成速度の評価
ATP合成速度は、既述の通りに決定した(Shepherd,et al.,2006)。簡潔に述べると、トリプシン処理後、製造業者の説明書に従い、BCAタンパク質アッセイキット(サーモサイエンティフィック、米国イリノイ州ロックフォード)を使用して総タンパク質濃度を決定することにより、繊維芽細胞を採取した。細胞を、細胞懸濁緩衝液(150mMのKCl、25mMのトリス-HCl pH7.6、2mMのEDTA pH7.4、10mMのKPO pH7.4、0.1mMのMgCl及び0.1%(w/v)BSA(シグマ))中、1mg/mL総タンパク質で希釈した。ATP合成は、250μLの細胞懸濁液を、750μLの基質緩衝液(10mMのリンゴ酸塩、10mMのピルビン酸塩、1mMのADP、40μg/mLのジギトニン及び0.15mMのアデノシン五リン酸(シグマ))と共に37℃で10分間インキュベーションすることによって誘導した。このインキュベーション後、50μLに分取した反応混合物に450μLの沸騰しているクエンチ緩衝液(100mMのトリス-HCl、4mMのEDTA pH7.75(シグマ))を添加し、100℃で2分間インキュベートすることにより、反応を停止させた。得られた反応混合物を更に1:10でクエンチ緩衝液に希釈し、ATP量を、FB10照度計(ベルトールド・ディテクション・システムズ、ドイツ、プフォルツハイム)内、ATP生体発光アッセイキット(ロシュ・ダイアグノスティックス、スイス、バーゼル)を用い、製造業者の説明書に従って測定した。
【0174】
細胞毒性試験
細胞死は、サイトトックス96非放射性細胞毒性アッセイキット(プロメガ、米国ウィスコンシン州マディソン)を使用して、製造業者のプロトコールに従って決定した。簡略に述べると、ヒト嗅覚神経球細胞を、24ウェル培養プレートに1ウェル当たり50,000細胞で播種し、48時間にわたって培養した。次いで、細胞を、漸増用量のロテノン(シグマ;1.5μΜ、2.5μΜ及び12.5μΜ)に72時間にわたって暴露した。50μLに分取した培養培地を、基質混合物と共に30分間にわたってインキュベートした。ベンチマーク・マイクロプレート・リーダー(バイオ・ラッド、米国カリフォルニア州ハーキュリーズ)を使用して、490nmで分光光度法により乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)活性を測定した。
【0175】
結果
対照(37.4±1.2)と比較した場合、ATP合成速度は、患者細胞では有意に低減した(31.4±3.0、p<0.05)が、キャリア細胞では低減していなかった(36.4±3.5)(図1A)。次いで、細胞をロテノンで処理して、キャリア細胞におけるそれらの効果を調査した。ロテノンは、ミトコンドリア複合体I阻害剤であり、Parkin関連PD細胞モデル等のミトコンドリア機能不全を有する細胞において毒性を増大させることが示されている。ロテノンに暴露すると、患者細胞は毒性の増大を提示したのに対し、対照とキャリア細胞とでは同様に反応した(図1B及び図1C)。
【0176】
図1Aは、対照と比較した場合、アデノシン三リン酸(ATP)合成速度が、キャリアに由来する繊維芽細胞においては正常であったが、患者繊維芽細胞においては有意に低減したことを示している。図1Bでは、ヒト嗅覚神経球細胞を、培地に放出された乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)活性を利用して、ロテノン感受性について試験した。対照(白色バー)と比較した場合、ロテノン用量が増える(0μΜ、1.5μΜ、2.5μΜ及び12.5μΜ)に従って、患者細胞(黒色バー)の培地におけるLDH活性は用量反応的に有意に上昇したのに対し、キャリア(灰色バー)は、対照細胞と同様の細胞毒性度を示した。図1Cは、ヒト嗅覚神経球細胞におけるロテノン誘導細胞死を示す。上述した細胞毒性アッセイを使用して、細胞のロテノン感受性について試験した。ロテノン用量が増える(0μΜ、1.5μΜ、2.5μΜ及び12.5μΜ)に従って、対照(白色バー)及びキャリア細胞(灰色バー)と比較した場合、患者細胞(黒色バー)における細胞生存は用量反応的に有意に低減した。一元ANOVAに続くポストホックテューキーのHSD多重比較検定おいて、;p<0.05、**;p<0.01及び***;p<0.001。
【0177】
これらの結果は、同じParkin欠損症の状態にもかかわらず、患者においてはミトコンドリア機能不全を示すが、キャリア細胞においてはミトコンドリア機能が保存されていることを示す。
【0178】
実施例2.CCCP誘導マイトファジーはキャリア細胞において正常である
キャリア細胞において観察された正常なミトコンドリア機能は、Parkinの損失を補償するミトコンドリアの品質管理の正常機能を示唆するものであった。CCCPを使用してキャリア細胞中でマイトファジーを誘導し、以下の三つの異なる方法の組み合わせを使用して調査した:クエン酸シンターゼ活性(ミトコンドリアのマトリックス酵素)によるミトコンドリアの質量の測定;定量的リアルタイムPCRによるmtDNA含有量の測定;並びに共焦点顕微鏡法によるミトコンドリア及びオートファゴソームの共局在化。共焦点顕微鏡法を使用してマイトファジーを視覚的にモニターするために、オートファゴソームマーカーについてはGFP-LC3を、ミトコンドリアマーカーについてはRFP-Mitoを発現している繊維芽細胞を生成した。
【0179】
方法
レンチウイルス産生及び細胞株の確立
緑色蛍光タンパク質(GFP)タグ付きLC3ベクターは、Ernst Wolvetang博士から寄贈されたものであった。GFP-LC3の発現のためのレンチウイルスは、レンチ-XレンチウイルスHTXパッケージングシステム(クロンテック、米国カリフォルニア州マウンテンビュー)及びリポフェクタミン2000(インビトロジェン、米国カリフォルニア州カールスバッド)を使用し、製造業者の説明書に従って生成した。レンチウイルスを含有する培地を、トランスフェクション後48時間及び72時間で収集し、続いて、レンチ-X濃縮器(クロンテック)を使用して濃縮した後、ウイルスの力価を測定した。
【0180】
GFP-LC3を発現している安定な細胞株を生成するために、繊維芽細胞を、4μg/mLのポリブレン(シグマ、米国ミズーリ州セントルイス)の存在下、感染多重度(MOI)1のレンチウイルスを24時間にわたって形質導入し、その後、選択のために2μg/mLのブラストサイジン(インビトロジェン)を含有する培養培地中で培養した。
【0181】
ミトコンドリアクリアランスの評価
繊維芽細胞を、6ウェル培養プレートに1ウェル当たり200,000細胞で播種し、10μΜのDMSO又はCCCP(シグマ)のいずれかで24時間にわたって処理して、ミトコンドリア膜電位を低減させることによってマイトファジーを誘導した。
【0182】
ミトコンドリア質量を測定するために、クエン酸シンターゼアッセイキット(シグマ)を使用し、製造業者の説明書に従って、クエン酸シンターゼの活性(ミトコンドリアのマトリックス酵素)を決定した。簡潔に述べると、繊維芽細胞を細胞スクレーパーで採取し、細胞溶解緩衝液(プロテアーゼ阻害剤のカクテルを補充したセルリティックM細胞溶解試薬(シグマ))に再懸濁した後、短時間の超音波処理をした。BCAタンパク質アッセイキット(サーモサイエンティフィック)を使用し、製造業者の説明書に従ってタンパク質濃度を決定した後、10μgの総タンパク質を、基質緩衝液(1×アッセイ緩衝液、300μΜのアセチルCoA、100μΜの5,5’-ジチオビス-(2-ニトロ安息香酸))と混合し、続いて、100μΜのオキサロ酢酸溶液を添加して、反応を開始した。412nmにおける反応混合物の吸光度(OD412)を、オキサロ酢酸溶液の添加前及び後に1.5分間にわたって10秒毎に取った。クエン酸シンターゼ活性は、オキサロ酢酸の添加後の1分当たりのOD412から、オキサロ酢酸の添加前の1分当たりのOD412(定常活性)を減算することによって決定した。
【0183】
ミトコンドリアDNAの定量化は、リアルタイムポリメラーゼ定量的連鎖反応(qPCR)を使用し、先に報告されている通りに行った(Parfait,et al,1998)。簡略に述べると、繊維芽細胞を細胞スクレーパーで採取した。次いで、キアアンプDNAミニキット(キアゲン、ドイツ、ヒルデン)を使用し、製造業者の説明書に従って、総DNA(すなわち、核DNA[nDNA]及びミトコンドリアDNA[mtDNA])を抽出した。マルチプレックスqPCR分析は、ロータージーン6000(キアゲン)で、タックマン遺伝子発現マスターミックス(インビトロジェン)を使用し、製造業者の説明書に従って実施した。反応において使用したプライマー及びタックマンプローブを、以下の表1に収載する。mtDNAの量は、ロータージーン6000シリーズソフトウェアv.1.7を使用し、mDNAに対して算出した。
【0184】
【表1】

【0185】
ミトコンドリア及びオートファゴソームの共局在化研究は、共焦点顕微鏡法を使用して実施した。簡潔に述べると、GFP-LC3を発現している30,000個の繊維芽細胞を、35mmのマイクロディッシュ(μ-dish)(イビディ、ドイツ、マルティンスリート)に播種し、48時間にわたって培養した後、製造業者の説明書に従ってCellLightミトコンドリア-RFP BacMan 2.0(インビトロジェン)を形質導入して、ミトコンドリアを標識化した。24時間のインキュベーション後、細胞を20μΜのCCCPで4時間にわたって処理して(シグマ)、マイトファジーを誘導し、Leica TCS SP5 II共焦点顕微鏡(ライカマイクロシステムズ、ドイツ、ヴェッツラー)を使用する生細胞イメージングに供した。少なくとも二つの独立した実験から50個の細胞各々の画像を取り出し分析した。共局在化度は、LAS-AFソフトウェアv.2.6.0(ライカマイクロシステムズ)を使用し、下記の条件及び計算を用いて決定した:共局在化度[%]=共局在化面積÷フォアグラウンド面積に閾値及び30%に設定したバックグラウンド減算を加えたもの;フォアグラウンド面積=画像面積-バックグラウンド面積。
【0186】
結果
CCCPへの暴露により、対照(ビヒクル対照と比較して平均51.8%低減、p<0.001)及びキャリア細胞(ビヒクル対照と比較して38.7%低減、p<0.001)ではミトコンドリア質量が有意に低減したが、患者細胞(p=0.16)においては低減しなかった。同様に、mtDNA含有量についても、対照(35.4%、p<0.01)及びキャリア細胞(27.6%、p<0.01)ではCCCP処理によって有意に減少したが、患者細胞(p=0.84)では減少しなかった。共焦点顕微鏡法において、GFP-LC3とRFP-Mitoとの間の最小の共局在化は、CCCP処理前に観察された(データは示されていない)。CCCPによるマイトファジーの誘導時に、GFP-LC3とRFP-Mitoとの間の共局在化が著しく増大することが対照及びキャリア細胞において観察され、マイトファジーの上昇を示唆したのに対し、患者細胞においてはこのような変化は観察されなかった。共局在の定量化は、患者細胞(8.6±9.5%、p<0.01)において、対照(100±28.3%)と比較して有意に低い共局在化度を示し、欠陥があるマイトファジーを示唆したのに対し、キャリア細胞において観察された共局在化(101.9±36.5%)は、対照細胞と同等であった。
【0187】
図2Aは、ビヒクル処理対応物と比較した場合、クエン酸シンターゼ活性が、対照及びキャリア細胞においては有意に低減したが、患者細胞においては低減しなかったことを示す。図2Bでは、ビヒクル処理細胞(黒色バー)、又は10μΜのCCCP(白色バー)で24時間にわたって処理した細胞からDNAを単離した後、定量的リアルタイムPCRを使用してミトコンドリアDNA定量化を行った。核DNA(nDNA)に対するミトコンドリアDNA(mtDNA)の相対量は、対照及びキャリア細胞においてはCCCP処理後に有意に減少したが、患者細胞においては減少しなかった。スチューデントの両側t検定において、N.S:有意ではない、**:p<0.01、***:p0.001。図2Cでは、GFP-LC3(オートファゴソームマーカー;左パネルにおける緑色蛍光)及びRFP-Mito(ミトコンドリアマーカー;中央パネルにおける赤色蛍光)を発現している繊維芽細胞を、20μΜのCCCPで4時間にわたって処理した。GFP-LC3とRFP-mitoとの間の高い程度の共局在化(右パネルにおける黄色点)が対照及びキャリア細胞において観察され、マイトファジーの上昇を示したが、患者細胞においては観察されなかった。尺度:10μm。図2Dでは、共局在化度を、50個の個々の細胞から算出した。対象と比較した場合、患者細胞は有意に低い程度の共局在化を示したのに対し、キャリア細胞は同様の程度を示した。一元ANOVAに続くポストホックテューキーのHSD多重比較検定において、**:p<0.01。
【0188】
実施例3.マイトファジーのプロセスにおけるParkin機能に対する補償の欠如及びキャリア細胞におけるオートファジーの異常活性化
キャリア細胞のマイトファジーにおけるParkinの機能に対する補償の欠如を確認するために、CCCP処理時の、Parkinのミトコンドリアの動員及びマイトフュージン2(Mfn2)のユビキチン化を評価した。
【0189】
方法
ミトコンドリア単離
標準的なダウンス型ホモジナイザー及びマンニトール-スクロース-EDTA(MSE)緩衝液(25mMのマンニトール、75mMのスクロース、100mMのEDTA(シグマ))を用いるプロトコールを使用して、繊維芽細胞からミトコンドリアを単離した。簡潔に述べると、細胞をトリプシン処理によって収集し、3mLの冷MSE緩衝液に再懸濁した。電動式ダウンス型ホモジナイザー(キカラボテクニック(Kika Labortechnik)、ドイツ、シュタウフェン)を使用して、細胞を溶解させた。追加で3mlのMSE緩衝液をホモジネートに添加し、続いて、600×gで4℃にて10分間にわたって遠心分離した。次いで、ミトコンドリアを含有する上清を、12,000×gで4℃にて15分間にわたって遠心分離して、ミトコンドリアを収集した。遠心分離後、上清(「細胞画分」)を保存し、9kDa分子量カットオフの遠心式タンパク質濃縮器(サーモサイエンティフィック)を介し、製造業者の説明書に従って濃縮した。一方で、ミトコンドリアを含有するペレット(「ミトコンドリア画分」)を1mlのMSE緩衝液で二回洗浄し、最後に60μLの細胞溶解緩衝液(プロテアーゼ阻害剤カクテルを補充したセルリティックM細胞溶解試薬(シグマ))に再懸濁した。
【0190】
ウエスタンブロッティング分析
タンパク質発現は、エクセルシュアロックミニセル電気泳動システム及びエクセルIIブロットモジュール(インビトロジェン)を使用するウエスタンブロッティングによって決定した。簡潔に述べると、20~30μgの全細胞溶解物又はミトコンドリア/細胞画分のいずれかを、NuPAGEノベックス4%~12%ビス-トリスSDS/ポリアクリルアミドゲル(インビトロジェン)を使用して分割し、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜(サーモサイエンティフィック)に移した。次いで、膜にブロットされたタンパク質を、タンパク質特異的一次抗体及び西洋ワサビペルオキシダーゼ抱合二次抗体の順次適用でプローブした。アッセイにおいて使用した抗体を以下の表2において詳述する。スーパーシグナル・ウエスト・ピコ又はフェムト化学発光基質(サーモサイエンティフィック)を使用して化学発光を発生させ、LAS4000(富士フィルム株式会社、日本、東京)を使用して検出した。
【0191】
【表2】


【0192】
RNA抽出及び定量的リアルタイムRT-PCR分析
繊維芽細胞からの全RNAをRNイージーミニキット(キアゲン)を使用し、製造業者の説明書に従って調製し、次いで、スーパースクリプトIIIファーストストランド合成システム(インビトロジェン)を用い、製造業者の説明書に準拠して、cDNAに逆転写した。得られたcDNAを使用して、Rotor Gene 6000(キアゲン)でクオンティテクトSYBRグリーンPCRキット(キアゲン)を使用する定量的リアルタイムRT-PCR(qRT-PCR)において、製造業者の説明書に従って遺伝子発現を決定した。反応において使用したプライマーを、以下の表3に収載する。
【0193】
【表3】

【0194】
結果
CCCPへの暴露時に、Parkinは対照細胞のミトコンドリア画分において高度に蓄積していたのに対し、細胞画分におけるタンパク質は減少しており、Parkinのミトコンドリアの動員を示していた。加えて、対照細胞は、CCCP後、ユビキチン化Mfn2の増大と共に非ユビキチン化形態の量の減少を示し、Parkin介在性ユビキチン化及びMfn2の分解を示していた。しかしながら、これらのParkin関連事象は、CCCP処理時にキャリア細胞においては観察されず、マイトファジーのプロセスにおけるParkin機能の欠如を裏付けた。加えて、PINK1転写の発現レベルは、対照と比較して、キャリアにおけるCCCP処理前後には上昇せず、キャリア細胞のParkin/PINK1介在性マイトファジーにおける代償性活性化の欠如を裏付けた。加えて、高活性オートファジーがミトコンドリアの非特異的分解を媒介している可能性がある。そこで、この可能性について、オートファジー機能のインジケーターとして、CCCP処理時のLC3-IからLC3-IIへの変換をモニターすることによって試験した。更に、CCCPは、HeLa細胞、HCT116細胞及びMEFにおけるオートファジーを、ラパマイシンと同等の活性化の大きさで誘導することが他の場所で実証された。調査した全ての細胞株において、CCCP処理前後にLC3-II/β-アクチン比の同様の増大が検出され、基本及び/又はマイトファジー誘導条件下でオートファジー機構の正常機能を示した。まとめると、これらの結果は、キャリア細胞において観察されたCCCP誘導マイトファジーが、PINK1/Parkin経路によって又はオートファジーの異常活性化によってのいずれでも媒介されていないことを示し、Parkin非依存性マイトファジー経路の関与を示唆している。
【0195】
図3Aに示すように、ミトコンドリア画分及び細胞画分を、ビヒクル又は10μΜのCCCPのいずれかで6時間にわたって処理した繊維芽細胞から単離し、Parkin及びMfh2の細胞内局在化をウエスタンブロッティングによって決定した。分画の品質は、ミトコンドリア画分についてはVDAC、細胞画分についてはβ-アクチンに対する抗体を使用して確認した。対照細胞では、野生型50kDa Parkinは、基本条件下で主に細胞画分において見られた。CCCPへの暴露時、Parkinのレベルはミトコンドリア画分において増大し、細胞画分において減少し、ミトコンドリアへのParkinの転移を示していた。ミトコンドリアへのParkinの転移は、キャリア細胞においては存在しなかった。Mfh2の非ユビキチン化形態の発現の低減及びユビキチン化形態(Ub-Mfn2)の存在は、対照において観察されたが、CCCPへの暴露後のキャリア細胞においては観察されなかった。Mito:ミトコンドリア画分;Cyto:細胞画分;Mfn2:マイトフュージン2;VDAC、電位依存性アニオンチャネル。図3B図3Dでは、繊維芽細胞を、基本条件下で培養するか、又は10μΜのCCCPで6時間にわたって処理した後、タンパク質を収集した。図3Bでは、対照、キャリア及び患者細胞におけるLC3-I及びLC3-IIの発現を、ウエスタンブロッティングによって決定し、密度測定を使用してバンドを定量化した。β-アクチン(42kDa)を負荷対照として使用した。図3Cでは、LC3-II/β-アクチン比のレベルは、CCCP処理時に、未処理群と比較して有意に増大したが、細胞株間に差異はなかった。CCCPは、LC3-IのLC3-IIへの変換を誘導した。スチューデントの両側t検定において、;p<0.05及び**;p<0.01。図3Dでは、PINK1の発現は、対照と比較した場合、CCCP処理の前後でキャリア及び患者細胞の両方において減少した。一元ANOVAに続くポストホックテューキーのHSD多重比較検定おいて、;p<0.05及び**;p<0.01。
【0196】
実施例4.Nix及びGABARAP-L1の発現レベルはキャリア細胞において上昇する
キャリア細胞においてCCCPによって誘導されるマイトファジーの増大をNix介在性マイトファジーが司るか否かを評価するために、基本条件及びCCCP処理条件下での、Nix、GABARAP-L1及びGABARAP-L2の発現レベルを、qRT-PCRを使用して評価した。
【0197】
方法
繊維芽細胞を、基本条件下で培養するか、又は10μΜのCCCPで6時間にわたって処理した後、全RNA及びcDNA合成を抽出した。Nix、GABARAP-L1及びGABARAP-L2の発現を、qRT-PCRによって決定した。
【0198】
結果
Nixの発現は、基本条件下での対照とキャリア細胞との間では同等であったが、CCCPによるマイトファジーの導入時には、キャリア細胞において有意に増大(p<0.01)した。キャリア細胞は、両方の条件下の対照と比較した場合、GABARAP-L1のレベル上昇を示したが、GABARAP-L2の発現低減を示した。その一方で、これらの遺伝子の発現は、CCCP処理後であっても、対照細胞と比較した場合、患者細胞において有意に低いままであることが分かった。まとめると、これらの結果は、キャリア細胞におけるCCCP処理及び高発現レベルのその結合パートナーGABARAP-L1によるNixの誘導を示し、代替的なマイトファジーにおけるそれらの関与を示唆している。
【0199】
図4Aは、基本条件下で、Nixの発現が、対照とキャリア細胞との間では同様であったが、患者細胞においては有意に減少したことを示す。対照及び患者細胞と比較した場合、GABARAP-L1のレベル上昇がキャリア細胞において観察された。GABARAP-L2の発現は、対照と比較した場合、キャリア及び患者細胞の両方において有意に減少した。図4Bでは、CCCP処理条件において、キャリア細胞は、対照と比較した場合、Nix及びGABARAP-L1の有意に高い発現を示したが、GABARAP-L2は示さなかった。Nix、GABARAP-L1及びGABARAP-L2の発現は、対照及びキャリア細胞と比較した場合、患者細胞において依然として有意に低減した。一元ANOVAに続くポストホックテューキーのHSD多重比較検定おいて、;p<0.05及び**;p<0.01。
【0200】
実施例5.Nixのノックダウンはキャリア細胞におけるCCCP誘導マイトファジーを損なう
CCCP誘導マイトファジーにおけるその関与を裏付けるために、本発明者らは、siRNAを使用してNixを発現抑制し、CCCP誘導マイトファジーにおける変化を評価した。
【0201】
方法
siRNA介在性Nixノックダウン
ダーマコンON-TARGETプラスSMARTプールヒトBNIP3L(Nix siRNAと称する;サーモサイエンティフィック、L-011815-00-0005番)及びダーマFECT1 siRNAトランスフェクション試薬(サーモサイエンティフィック、T-2001-01番)を使用し、製造業者の説明書に準拠して、繊維芽細胞におけるNixをノックダウンした。ON-TARGETプラス非標的化siRNA1番(スクランブルsiRNAと称する;サーモサイエンティフィック、D-001810-01-05番)を陰性対照として使用した。
【0202】
遺伝子ノックダウンは、mRNA及びタンパク質レベルにおいて、トランスフェクション48時間後に、qRT-PCR及びウエスタンブロッティングをそれぞれ使用して確認した。標的mRNAレベルにおいて95%より大きく低減した場合を、ノックダウン成功とみなした。
【0203】
結果
siRNAのトランスフェクション48時間後のNixの発現レベルは、mRNAレベル(>95%)及びタンパク質レベルにおいて劇的に低減し、ノックダウン成功を示した。CCCPへの暴露後、スクランブルsiRNAをトランスフェクトした細胞は、クエン酸シンターゼ活性によって測定されたミトコンドリア質量の有意な低減を示し(それぞれのビヒクル対照と比較して、対照細胞において63.0%低減、p<0.001及びキャリア細胞において30.1%、p<0.05)、正常なマイトファジーを示した。しかし、Nix siRNAのトランスフェクションは、キャリアにおいてミトコンドリア質量の低減を抑止したが、対照細胞においてはしなかった(対照細胞において47.6%低減、p<0.01及びキャリア細胞において8.5%、p=0.15)。スクランブルsiRNA(対照細胞において20.7%低減、p<0.001及びキャリアにおいて33.0%、p<0.05)及びNix siRNA(対照細胞において36.0%低減、p<0.01及びキャリア細胞において8.1%、p=0.39)をトランスフェクトした細胞におけるmtDNA含有量の評価からも、同様の結果が得られた。加えて、Nix siRNAをトランスフェクトしたキャリア細胞は、CCCPによるマイトファジーの誘導時に、スクランブルsiRNAをトランスフェクトした細胞と比較して、GFP-LC3及びRFP-mitoの共局在化の著しい低減を示したのに対し、スクランブル及びNix siRNAをトランスフェクトしたキャリア細胞の間では、同様の低い程度の共局在化しか基本条件下では観察されなかった(データは示されていない)。共局在化の定量化は、それぞれのスクランブルsiRNA細胞と比較した場合、Nix siRNAトランスフェクトキャリア細胞における有意な低減(63.0%低減、p<0.001)を示し、CCCP誘導マイトファジーの機能障害を実証した。まとめると、これらの結果は、Nixが、キャリア細胞におけるCCCP誘導マイトファジーを、Parkin機能喪失によって容易にすることを示す。
【0204】
図5は、Nixのノックダウン成功が、mRNAレベル(図5A)及びタンパク質レベル(図5B)において確認されたことを示す。図5C及び図5Dでは、細胞溶解物及びDNAは、ビヒクル処理細胞から、又は10μΜのCCCPでNixノックダウン後に24時間にわたって処理した細胞から調製した。図5Cでは、ミトコンドリアの質量は、クエン酸シンターゼアッセイを使用して測定した。CCCP処理時、クエン酸シンターゼ活性は、スクランブルsiRNAで処理した細胞において及びNix siRNA処理対照細胞においては有意に低減したが、Nix siRNAで処理したキャリア細胞においては低減しなかった。図5Dでは、ミトコンドリアDNA定量化は、nDNAに対するmtDNAの相対量が、スクランブルsiRNA処理細胞において及びNix siRNA処理対照細胞においてはCCCP処理後に有意に減少したが、Nix siRNAで処理したキャリア細胞においては減少しなかったことを示した。スチューデントの両側t検定において、NS;有意ではない、;p<0.05、**;p<0.01、***;p<0.001。図5Eでは、GFP-LC3(オートファゴソームマーカー、左パネルにおける緑色蛍光)及びRFP-Mito(ミトコンドリアマーカー、中央パネルにおける赤色蛍光)を発現している繊維芽細胞を、25nMのスクランブル又はNix siRNAいずれかで処理した。siRNAトランスフェクション後72時間で、細胞を20μΜのCCCPと共に4時間にわたってインキュベートして、マイトファジーを誘導した。CCCP処理下、GFP-LC3とRFP-Mitoとの間の高い程度の共局在化(右パネルにおける黄色点)が、スクランブルsiRNAで処理したキャリア細胞において観察され、マイトファジーの上昇を示したのに対し、キャリア細胞においてはNix siRNAマイトファジー障害を示した。尺度:10μm。図5Fでは、共局在化度を、50個の個々の細胞画像から算出した。CCCP処理下、Nix siRNA処理キャリア細胞は、スクランブルsiRNA処理対応物と比較した場合、有意に低い程度の共局在化を示した。スチューデントの両側t検定において、***;p<0.001。
【0205】
実施例6.患者細胞におけるNix発現の特異的誘導はマイトファジーを修復する
Nix発現とCCCP誘導マイトファジーとの関係を確認するために、本発明者らは、Nix発現欠損を有する細胞におけるNix発現を、対照及びキャリア細胞に対して増大させ、CCCP誘導マイトファジーにおける変化を評価した。
【0206】
方法
Nixの発現増大
Nix発現に対するホルボールミリスチン酸アセテート(PMA)の効果を評価するために、対照細胞及び患者細胞(「発端者(proband)」)をPMA(10nM又は20nM)に24時間にわたって暴露した。細胞を24時間後に採取し、Nix及びGABARAP-L1タンパク質の発現を、上記で概説した通りのウエスタンブロッティングによって決定した。
【0207】
マイトファジーに対するNix発現の誘導の機能的効果を、上記で概説した方法を使用して評価した。患者細胞を、CCCP及びPMAで24時間にわたって共処理し、クエン酸シンターゼ活性によるミトコンドリア質量及び定量的リアルタイムPCRによるmtDNA含有量の測定を介して、マイトファジーを調査した。このアッセイにおいて使用した細胞は、以上に記述されている通りの「患者」細胞及びc.1309T>G(p.W437G)におけるホモ接合性PINK1突然変異「PINK1 mut」で同定されたPDを持つ個体から単離された細胞を含む。
【0208】
結果
図6は、対照及び患者細胞におけるNix(図6A図6B)及びGABARAP-L1(図6C図6D)の発現がウエスタンブロッティングによって決定され、バンドが密度測定を使用して定量化されたことを示す。β-アクチン(42kDa)を負荷対照として使用した。Νix/β-アクチン比のレベルは、PMA処理時に、ビヒクル対照(図6A図6B)と比較して増大した。PMA(図6C図6D)への暴露時に、GABARAP-L1発現の増大はなかった。
【0209】
PMAへの暴露による患者細胞におけるNix発現の特異的誘導に合致して、CCCPの存在下で10nMのPMAを投与した細胞は、ミトコンドリア質量及びミトコンドリアDNAの有意な低減を示した。クエン酸シンターゼアッセイを介するミトコンドリア質量の評価は、対照細胞へのPMAの投与がCCCP誘導マイトファジーに影響を及ぼさないことを示した。しかし、機能的Parkinを欠いており、CCCP処理に反応してマイトファジー障害を有する細胞において、PMAは、ミトコンドリア質量を有意に低減させた(CCCP+PMA対CCCPについて79.82%±4%対103.7%±2%、100%としてビヒクル対照、p<0.01)。同様に、ミトコンドリアDNAは、細胞にPMAを投与した場合、対照細胞において観察されたレベル(72.79±6%)と同様に有意に低減した(CCCP+PMA対CCCPについて77.06±4%対93.97±5%、100%としてビヒクル対照、p<0.05)。
【0210】
図7は、PMAによるNixの誘導が、患者細胞におけるマイトファジーを修復することを示す。図7Aでは、ビヒクル処理細胞(黒色バー)、CCCP処理細胞(白色バー)、PMA処理細胞(灰色)並びに10nMのPMA及び10μΜのCCCP(市松模様)で24時間にわたって処理した細胞から細胞溶解物を調製した後、クエン酸シンターゼ活性の測定をした。PMA及びCCCPの共処理は、CCCP処理単独時には観察されなかった患者細胞及び「PINK1 mut(PINK1突然変異)」におけるクエン酸シンターゼ活性を有意に低減させた。図7Bでは、ビヒクル処理細胞(黒色バー)、CCCP処理細胞(白色バー)、PMA処理細胞(灰色)並びに10nMのPMA及び10μΜのCCCP(市松模様)で24時間にわたって処理した細胞からDNAを単離した後、定量的リアルタイムPCRを使用してミトコンドリアDNA定量化を行った。核DNA(nDNA)に対するミトコンドリアDNA(mtDNA)の相対量は、患者及びPINK1 mut細胞において、PMA及びCCCP共処理後に有意に減少した。一元ANOVAに続くポストホックテューキーのHSD多重比較検定おいて、NS;有意ではない;p<0.05及び**;p<0.01。
【0211】
これらの結果は、Nixの発現を増大させる作用物質の投与により、Parkin機能喪失に伴うマイトファジー障害を救済できることを示す。
【0212】
実施例7.患者細胞及びPINK1に突然変異を有する細胞におけるNixのノックダウンは、Nixの特異的誘導によって達成されたCCCP誘導マイトファジーの修復を抑止する
Nixの発現を誘導する作用物質で処理した患者細胞におけるマイトファジーの観察された修復の特異性を評価するために、parkinに複合ヘテロ接合変異を有する個体から単離された細胞及びPINK1にホモ接合変異を有する個体から単離された細胞において、マイトファジーを評価した。
【0213】
方法
NixのsiRNA介在性ノックダウン
マイトファジーのホルボールミリスチン酸アセテート(PMA)誘導修復の特異性を評価するために、対照細胞、parkinに複合ヘテロ接合変異を有する個体から単離された細胞(「患者」)、及びPINK1にホモ接合変異を有する個体から単離された細胞(「PINK1」)を、上記の実施例5で概説した通りのNixのsiRNA介在性ノックダウンに供した。簡潔に述べると、細胞を、非標的化siRNA(スクランブルsiRNA)又はsiRNA標的化Nix(Nix siRNA)のいずれか、続いてCCCP及びPMAによる24時間にわたる共処理に供した。
【0214】
24時間後に細胞を採取し、マイトファジーに対するNixのノックダウンの影響を、上記で概説した通りの定量的リアルタイムPCRによるmtDNA含有量の測定を介して評価した。
【0215】
結果
図8Aは、スクランブルsiRNA又はsiRNA標的化Nixによる細胞の処理後のNixの発現を示す。Nixのノックダウンが成功した。図8Bは、各Nix siRNA-ビヒクル処理細胞と比較した場合、Nix siRNAで処理した患者及びPINK1細胞が、PMA及びCCCP共処理後に、mtDNAの有意な減少を示さなかったことも示す。一元ANOVAに続くポストホックテューキーのHSD多重比較検定おいて、NS;有意ではない及び;p<0.05。
【0216】
PMA及びCCCPの順次処理による、Nix発現抑制細胞におけるnDNAに対するmtDNAの量の減少の非存在は、機能的parkin又はPINK1を欠いている細胞におけるマイトファジーのPMA関連修復がNix特異的であることを示している。
【0217】
これらの結果は、PINK1/Parkinマイトファジー経路を欠いている細胞におけるPMAによるマイトファジーの修復が、実際にNixによって媒介されていることを裏付けるものである。
【0218】
実施例8.Nixの過剰発現は患者細胞におけるCCCP誘導マイトファジーを修復する
Nix発現とCCCP誘導マイトファジーとの関係を確認するために、本発明者らは、機能的parkinを欠いている(且つ対照及び「キャリア」細胞に対してNix発現欠損を有する)患者細胞においてNixを過剰発現させ、CCCP誘導マイトファジーにおける変化を評価した。
【0219】
方法
Nixの過剰発現
pCMV6-Nix(Origene;RC203315番)中の野生型Nix cDNA(NM_004331)を、FLAGタグを含有するpER4レンチウイルスベクター中にサブクローン化した。Nix-FLAGの発現のためのレンチウイルスは、レンチ-X HTXレンチウイルスパッケージングシステム(クロンテック、米国カリフォルニア州マウンテンビュー)及びリポフェクタミン2000(インビトロジェン、米国カリフォルニア州カールスバッド)を使用し、製造業者の説明書に従って生成した。レンチウイルスを含有する培地をトランスフェクション後、48時間及び72時間で収集し、続いて、レンチ-X濃縮器(クロンテック)を使用する濃縮ステップの後、ウイルスの力価を測定した。繊維芽細胞に、レンチウイルス空ベクター(pEmpty)又はレンチウイルスNix-FLAGベクター(pNix-FLAG)のいずれかを、4μg/mLのポリブレンの存在下、一細胞当たり10感染単位のレンチウイルスの比率で24時間にわたって形質導入し、その後の実験に使用した。
【0220】
マイトファジーに対するNix過剰発現の機能的効果は、上記で概説した方法を使用して評価した。簡潔に述べると、レンチウイルスを形質導入した細胞を、CCCP又はビヒクルで24時間にわたって処理し、実施例2で概説した通りの定量的リアルタイムPGRによるmtDNA含有量並びにオートファゴソーム及びミトコンドリアの共局在化度の測定を介して、マイトファジーを調査した。
【0221】
結果
図9は、Nixの過剰発現が、機能的parkinを欠いている細胞(患者細胞を含む;「Parkin mut.」)及びPINK1にホモ接合変異を有する個体から単離された細胞(「PINK1 mut.」)におけるCCCP誘導マイトファジーを修復することを示す。繊維芽細胞に、空ベクター(pEmpty)又はNix-FLAGベクター(pNix-FLAG)を含有するレンチウイルスのいずれかを形質導入した。DNAをビヒクル処理細胞及びCCCP処理細胞から単離した後、定量的リアルタイムPCRを使用してミトコンドリアDNA定量化を行った。図9Aでは、Nix-FLAGを発現しているParkin及びPINK1突然変異体において、核DNA(nDNA)に対するミトコンドリアDNA(mtDNA)の相対量は、ビヒクル処理細胞と比較した場合、CCCP処理後に有意に減少した。一元ANOVAに続くポストホックテューキーのHSD多重比較検定おいて、NS;有意ではない**;p<0.01。図9Bでは、レンチウイルスを形質導入したGFP-LC3(緑色)及びRFP-Mito(赤色)を発現している患者細胞を、20μΜのCCCPで4時間にわたって処理した。オートファゴソーム及びミトコンドリアの共局在化(右パネルにおける黄色点)が、Nix-FLAGを発現している患者細胞において観察され、マイトファジーの活性化を示したが、空ベクターを発現している患者細胞においては観察されなかった。尺度:10μm。共局在化速度を、50個の個々の細胞画像から、ライカアプリケーションスイートアドバンスト蛍光(LAS AF)ソフトウェアを使用して算出した(図9C)。CCCP処理後、Nix-FLAGを発現している患者細胞は、空ベクター形質導入細胞と比較した場合、有意に高い共局在化速度を提示した。スチューデントの両側t検定において、***p<0.001。
【0222】
図10は、Nixの過剰発現が、Parkin及びΡIΝΚ1突然変異体繊維芽細胞におけるミトコンドリア機能を改善させることを示す。Parkin及びPINK1突然変異体細胞に、レンチウイルス空ベクター(pEmpty)又はNix-FLAGベクター(pNix-FLAG)のいずれかを形質導入し、72時間にわたって培養した。ミトコンドリアのATP合成速度を、ジギトニン透過性細胞においてリンゴ酸塩及びピルビン酸塩の存在下、分光光度法により測定した。Nixを過剰発現している細胞は、空ベクター形質導入細胞と比較した場合、ATP合成速度の有意な増大を示した。一元ANOVAに続くポストホックテューキーのHSD多重比較検定おいて、NS:有意ではない、**:グラフにおいて示されている通りp<0.01、及び##:pEmptyを発現している突然変異体細胞対pEmpty細胞を発現している対照細胞においてp<0.01。
【0223】
これらの結果は、機能的parkin又はPINK1を欠いており、マイトファジー障害及びミトコンドリア機能を提示する細胞への、Nixの発現を増強する作用物質の投与が、マイトファジー及びミトコンドリア機能を修復することを示している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
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