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特許7053711向上した四重極の堅牢性を有する質量分析計及び質量分析計を操作する方法
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  • 特許-向上した四重極の堅牢性を有する質量分析計及び質量分析計を操作する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】向上した四重極の堅牢性を有する質量分析計及び質量分析計を操作する方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/00 20060101AFI20220405BHJP
   H01J 49/42 20060101ALI20220405BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20220405BHJP
【FI】
H01J49/00 310
H01J49/42 150
H01J49/00 360
H01J49/00 400
G01N27/62 E
【請求項の数】 26
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020072802
(22)【出願日】2020-04-15
(65)【公開番号】P2020177912
(43)【公開日】2020-10-29
【審査請求日】2020-07-10
(31)【優先権主張番号】1905286.9
(32)【優先日】2019-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】508306565
【氏名又は名称】サーモ フィッシャー サイエンティフィック (ブレーメン) ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(72)【発明者】
【氏名】アメリア コリーヌ ペーターソン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン-ペーター ハウスシルト
(72)【発明者】
【氏名】オリヴァー ランゲ
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー マカロフ
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】実開昭59-144750(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2014/0224975(US,A1)
【文献】国際公開第2014/181396(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/00-49/48
G01N 27/60-27/70
G01N 27/92
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量分析計を操作する方法であって、
質量対電荷比の初期範囲を有する試料からイオンを生成するステップと、
前記初期範囲よりも狭い質量対電荷比の少なくとも1つの選択範囲内のイオンを四重極質量フィルタに透過させ、一方で選択範囲外のイオンは透過しないように、選択パラメータのセットを有する四重極質量フィルタを使用してイオンを質量フィルタリングするステップであって、前記四重極質量フィルタは、RFおよびDC電圧が印加される対向するペアとして配置された4つの平行な細長い電極を備え、イオンに引き付けられる誘引DC電圧が、対向電極の一方のペアに印加され、イオンに反発する反発DC電圧が、対向電極の他方のペアに印加されるステップと、
前記四重極質量フィルタを透過したイオンを質量分析または検出するステップと、
イオンの生成、質量フィルタリング、および質量分析または検出のステップを複数回繰り返すステップと、
前記ステップを繰り返す過程で、汚染の蓄積を除去するための四重極質量フィルタの連続清浄化操作の間の所定期間にわたり対向電極の各ペアへの汚染物質の蓄積が実質的に等しくなるように、前記誘引DC電圧および前記反発DC電圧が複数回印加される対向電極のペアの構成を切り替えるステップと、
それらの間で定量的精度を維持すべき質量フィルタリングステップを決定し、決定された質量フィルタリングステップに対して誘引DC電圧および反発DC電圧が印加される対向電極のペアの同じ構成を維持するステップと、を含む方法。
【請求項2】
汚染の蓄積を除去するための四重極質量フィルタの連続清浄化操作の間の所定期間にわたり、対向電極の各ペアが、前記誘引DC電圧が印加された時間の実質的に半分の時間、および前記反発DC電圧が印加された時間の実質的に半分の時間を費やす、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記構成が、前記四重極質量フィルタの前記選択パラメータおよび/または使用ベースのトリガに基づいて切り替えられる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
質量対電荷比の前記1つ以上の選択範囲が、10Th以下の幅を有する、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記四重極質量フィルタの選択パラメータの異なるセットを使用して、イオンを生成するステップおよび前記イオンを質量フィルタリングするステップが複数回繰り返される、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記誘引DC電圧が印加される前記対向電極のペアおよび前記反発DC電圧が印加される前記対向電極のペアの前記構成が、前記四重極質量フィルタの実質的に同じ選択パラメータを使用してイオンを選択するたびに、および/または前記イオンの生成に使用される試料が分析時間もしくは組成の類似性によって関連付けられている場合に同じである、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
選択パラメータの各セットについて一意のコードを計算するステップと、少なくとも1つのルールに基づき、前記一意のコードを使用して前記誘引DC電圧が印加される前記対向電極のペアおよび前記反発DC電圧が印加される前記対向電極のペアを決定するステップとをさらに含む、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記一意のコードが、ハッシュ関数を使用して計算されたコードである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記一意のコードが、質量対電荷比の前記選択範囲の中心質量ならびに/または最初の質量および最後の質量に基づいて計算される、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも1つのルールが、前記一意のコードが偶数値である場合、対向電極の第1のペアに前記誘引DC電圧を印加し、対向電極の第2のペアに前記反発DC電圧を印加するステップと、前記一意のコードが奇数値である場合、対向電極の前記第2のペアに前記誘引DC電圧を印加し、対向電極の前記第1のペアに前記反発DC電圧を印加するステップとを含む、請求項7~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記誘引DC電圧および反発電圧が印加される対向電極の前記ペアを切り替える質量対電荷比ドメインにおける周波数を増加または減少させるために、前記一意のコードが係数で乗算または除算される、請求項7~10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記係数は、質量対電荷比の前記選択範囲が対向電極の前記ペアの切り替えの間の質量対電荷比ドメインにおける平均間隔より十分に狭いような係数であり、したがって、質量対電荷比の範囲、x-0.5w~x+0.5w(式中、xは中心質量であり、wは前記選択範囲の幅である)は、前記誘引DC電圧および反発電圧が後続の質量フィルタリングステップで選択される場合に適用される対向電極の同じペアを使用して選択される可能性が最も高い、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記誘引DC電圧が印加される対向電極の前記ペアと、前記反発DC電圧が印加される対向電極の前記ペアとが、1つ以上の使用依存トリガに基づいて切り替えられる、請求項1~12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記1つ以上の使用依存トリガが、1つ以上の時間依存またはイベント依存トリガを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記1つ以上の時間依存またはイベント依存トリガが、質量較正手順を実行すること、または対向電極の前記ペアが最後に切り替えられてからの所定の期間の経過を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記誘引DC電圧および前記反発DC電圧の各々印加される場合、対向電極の各ペアの使用を表す使用データを収集および保存するステップと、前記使用データに基づいて、平均して、対向電極の各ペアが、前記誘引DC電圧が印加された時間の実質的に半分の時間、および前記反発DC電圧が印加された時間の実質的に半分の時間を費やすように、前記誘引DC電圧が印加される対向電極の前記ペアと、前記反発DC電圧が印加される対向電極の前記ペアとを切り替えるステップとをさらに含む、請求項1~15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
対向電極の各ペアの汚染の量を表すデータを取得するステップと、前記データに基づいて、対向電極の各ペア間で汚染の量を均等に平衡化するように、前記誘引DC電圧が印加される対向電極の前記ペアと、前記反発DC電圧が印加される対向電極の前記ペアとを切り替えるステップとをさらに含む、請求項1~16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記四重極質量フィルタのイオン透過が前記電極上の汚染の蓄積により低下する場合、前記四重極質量フィルタに入射するときに前記イオンのエネルギーを増加させるステップをさらに含む、請求項1~17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
質量分析計であって、
質量対電荷比の初期範囲を有する試料からイオンを生成するためのイオン源と,
前記初期範囲よりも狭い質量対電荷比の少なくとも1つの選択範囲内のイオンを四重極質量フィルタに透過させ、一方で前記選択範囲外のイオンは透過しないように前記イオンを質量フィルタリングするための選択パラメータのセットを有する前記四重極質量フィルタであって、前記四重極質量フィルタは、RFおよびDC電圧が印加される対向するペアとして配置された4つの平行な細長い電極を備え、前記イオンに引き付けられる誘引DC電圧が、対向電極の一方のペアに印加され、前記イオンに反発する反発DC電圧が、対向電極の他方のペアに印加される、四重極質量フィルタと、
前記四重極質量フィルタを透過したイオンを分析または検出する質量分析器または検出器と、
前記四重極質量フィルタを制御し、イオンの生成および前記イオンの質量フィルタリングのステップを繰り返す過程で、汚染の蓄積を除去するための四重極質量フィルタの連続清浄化操作の間の所定期間にわたり対向電極の各ペアへの汚染の蓄積が実質的に等しくなるように、前記誘引DC電圧および前記反発DC電圧が複数回印加される対向電極の前記ペアの構成を切り替えるように構成されたコントローラであって、定量的精度を維持すべき質量フィルタリングステップを決定し、決定された質量フィルタリングステップに対して前記誘引DC電圧および前記反発DC電圧が印加される対向電極の前記ペアの同じ構成を維持するようにさらに構成されたコントローラと、を備える質量分析計。
【請求項20】
前記四重極質量フィルタの上流に位置する、前記四重極質量フィルタの前に前記イオンをフィルタリグするための1つ以上の質量プレフィルタをさらに備え、前記1つ以上の質量プレフィルタは、前記四重極質量フィルタにより選択された質量対電荷比の前記選択範囲を含むが、それよりも広い質量対電荷比の事前選択範囲内のイオンを前記四重極質量フィルタに透過させるように制御される、請求項19に記載の質量分析計。
【請求項21】
前記事前選択範囲が、10Thより大きい、または50Thより大きい、または100Thより大きい幅を有する、請求項20に記載の質量分析計。
【請求項22】
前記1つ以上の質量プレフィルタが、1つ以上の四重極質量プレフィルタを含み、誘引DC電圧が印加される前記1つ以上の四重極質量プレフィルタの対向電極のペア、および反発DC電圧が印加される対向電極のペアが、前記四重極質量フィルタの前記構成の切り替えと同時に切り替えられる、請求項20または21に記載の質量分析計。
【請求項23】
前記コントローラは、前記四重極質量フィルタの前記イオンの透過が、前記電極上の汚染物の蓄積により低下する場合、前記四重極質量フィルタに入射するときに前記イオンのエネルギーを増加させるようにさらに構成されている、請求項19~22のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項24】
質量分析計を操作する方法であって、
質量対電荷比の初期範囲を有する試料からイオンを生成するステップと、
前記初期範囲よりも狭い質量対電荷比の少なくとも1つの選択範囲内のイオンを四重極質量フィルタに透過させ、一方で前記選択範囲外のイオンは透過しないように、選択パラメータのセットを有する四重極質量フィルタを使用してイオンを質量フィルタリングするステップであって、前記四重極質量フィルタは、RFおよびDC電圧が印加される対向するペアとして配置された4つの平行な細長い電極を備え、前記イオンに引き付けられる誘引DC電圧が、対向電極の一方のペアに印加され、前記イオンに反発する反発DC電圧が、対向電極の他方のペアに印加され、透過しない前記選択範囲外の前記イオンの一部分は電極と衝突し、前記電極上に汚染の蓄積をもたらすステップと、
イオンの生成および質量フィルタリングのステップを複数回繰り返すステップと、
ステップを繰り返す過程で、汚染の蓄積を除去するための四重極質量フィルタの連続清浄化操作の間の所定期間にわたり対向電極の各ペアへの汚染物質の蓄積が実質的に等しくなるように、前記誘引DC電圧および前記反発DC電圧が複数回印加される対向電極の前記ペアの構成を切り替えるステップと、
を含み、それにより、前記四重極質量フィルタを透過したイオンの最も狭い選択範囲に対して、前記電極上の汚染の蓄積に起因して、前記四重極質量フィルタのイオン透過効率が50%以上低下すると、最大値の半分のイオン透過率の範囲の幅が10%以下変化する方法。
【請求項25】
前記電極上の汚染の蓄積に起因して前記四重極質量フィルタの前記イオン透過効率が50%以上低下するが、前記四重極質量フィルタを透過したイオンの最も狭い選択範囲に対して、最大値の半分の前記イオン透過率の範囲の幅が10%以下変化するまで、イオンの生成および質量フィルタリングのステップを複数回繰り返すことにより、前記四重極質量フィルタの清浄化の間で質量分析計を操作するステップを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
質量分析計であって、
質量対電荷比の初期範囲を有する試料からイオンを生成するためのイオン源と、
前記初期範囲よりも狭い質量対電荷比の少なくとも1つの選択範囲内のイオンを四重極質量フィルタに透過させ、一方で前記選択範囲外のイオンは透過しないように前記イオンを質量フィルタリングするための選択パラメータのセットを有する前記四重極質量フィルタであって、前記四重極質量フィルタは、RFおよびDC電圧が印加される対向するペアとして配置された4つの平行な細長い電極を備え、前記イオンに引き付けられる誘引DC電圧が、対向電極の一方のペアに印加され、前記イオンに反発する反発DC電圧が、対向電極の他方のペアに印加され、透過されない前記選択範囲外の前記イオンの一部分は電極と衝突し、前記電極上に汚染の蓄積をもたらす四重極質量フィルタと、
前記四重極質量フィルタを透過したイオンを分析または検出する質量分析器または検出器と、
前記四重極質量フィルタを制御し、イオンの生成および前記イオンの質量フィルタリングのステップを繰り返す過程で、汚染の蓄積を除去するための四重極質量フィルタの連続清浄化操作の間の所定期間にわたり対向電極の各ペアへの前記汚染の蓄積が実質的に等しくなるように、前記誘引DC電圧および前記反発DC電圧が複数回印加される対向電極の前記ペアの構成を切り替えるように構成されたコントローラと、を備え、それにより、前記四重極質量フィルタを透過したイオンの最も狭い選択範囲に対して、前記電極上の前記汚染の蓄積に起因して、前記四重極質量フィルタのイオン透過効率が50%以上低下すると、最大値の半分のイオン透過率の範囲の幅が10%以下変化する質量分析計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析の分野、質量分析計、質量分析計を操作する方法、および質量分析の方法に関する。本発明は、具体的には、四重極質量フィルタを含む質量分析計に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの種類の質量分析計において、イオンはしばしば大気圧等の比較的高圧のイオン源で生成され、典型的にはイオンを集束および誘導するイオン光学系を介して高真空チャンバ(例えば10-5ミリバール以下の圧力)内に位置する質量分析器に透過される。四重極質量フィルタは、下流の質量分析の前に、選択された範囲の質量対電荷比(m/z)を有する対象イオンを選択するためにイオンをフィルタリングするのによく使用される。
【0003】
四重極質量フィルタは、正方形配置で離間した、ロッド等の4つの平行な細長い電極を備える。対向電極は、互いに電気接続され、ロッドの一方のペアと他方と間に電圧が印加され、これはDCオフセット電圧と共にラジオ周波数(RF)電圧を含む。イオンは電極間の四重極を通って移動する。RFおよびDC電圧の所与の値に対して、ある特定の質量対電荷比(m/z)のイオンが四重極を透過し、他のイオンは不安定な軌道を有し、電極と衝突する。誘引DC電圧(例えば負)が対向ロッドの一方のペアに印加され、等しい大きさの反発DC電圧(例えば正)が対向ロッドの他方のペアに印加される。誘引および反発DC電圧は、四重極フィルタを通過できるイオンm/z比の範囲への質量カットオフを与える。典型的には、選択されたm/z比よりも高いm/z比のイオンは誘引ロッドと衝突し、より低いm/z比のイオンは反発ロッドと衝突する。RFおよびDC電圧の適切な較正により、四重極質量フィルタは、幅広いm/z比および可変質量選択ウィンドウ幅でイオンをフィルタリングできる。
【0004】
典型的には、四重極製造技術、機械的公差および/または電子機器の制限により、機器の動作中の誘引および反発DC電圧は常に同じ対向ロッドのペアに印加される。これは、イオンがデバイスによってフィルタリングされると、分離されるm/zよりも大きい質量対電荷比を有する不安定な軌道のイオンが、誘引DCを有する対向ロッドのペアに優先的に堆積し、より小さい質量対電荷比を有するイオンは、反発DCを有するペアに優先的に堆積することを意味する。時間の経過と共に、特に高イオン負荷および困難な試料条件下では、材料の堆積およびこの材料のその後の帯電により、四重極場に外乱が生じ、したがって、例えば透過損失および機器のドリフトに起因する較正の陳腐化の形で質量フィルタの性能が低下する。これは、それぞれの電極に衝突する際の質量対電荷比が低い場合と高い場合のエネルギーの大きな差によって大きく促進され、エネルギーの違いにより、誘引および反発ロッド上に異なる構造および導電率の膜が形成される。すると、四重極質量フィルタは、失われた性能を回復するために機械清浄化を必要とする。
【0005】
清浄化間の時間を延長するために、分析性能が低い追加の四重極質量フィルタを分析四重極質量フィルタの上流に使用することができる。このいわゆる質量プレフィルタを使用して、分析質量フィルタにより除去されなければならない不要なイオンの量を減らすことができる。質量プレフィルタフィルタは、分析質量フィルタによって分離されるm/z比付近の広いウィンドウでイオンの粗い分離を実行する(US7,211,788)。さらに、材料の堆積をより大きな表面積に広げ、性能を変化させる四重極場外乱の発生を遅らせるために、質量フィルタを通過するイオンのエネルギーを増加させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第7211788号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、この手法には、イオンエネルギーの増加がいわゆるイオンノーディングおよび四重極の分離プロファイルの低下、ならびに透過率の低下をもたらし、これがデバイスの定量的精度を低下させるため、パフォーマンス上の欠点がある。
この背景に対して、本発明がなされた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の態様によれば、請求項1に記載の方法が提供される。
【0009】
質量分析計を操作する方法は、質量対電荷比の初期範囲を有する試料からイオンを生成するステップと、四重極質量フィルタを使用して生成されたイオンを質量フィルタリングするステップとを含む。四重極質量フィルタは、初期範囲よりも狭い質量対電荷比の少なくとも1つの選択範囲内のイオンを四重極質量フィルタに透過させ、一方で選択範囲外のイオンは透過しないような選択パラメータのセットで動作する。例えば、非透過イオンの少なくとも一部分は、四重極質量フィルタの細長い電極と衝突する。四重極質量フィルタは、質量フィルタリング中にRFおよびDC電圧が印加される対向するペアとして配置された4つの平行な細長い電極を備え、イオンに引き付けられる誘引DC電圧が、対向電極の一方のペアに印加され、イオンに反発する反発DC電圧が、対向電極の他方のペアに印加される。当該技術分野で知られているように、RF電圧は、対向電極の一方のペアに印加され、一方で等しい逆相のRF電圧は、対向電極の他方のペアに印加される。いくつかの実施形態において、この方法は、四重極質量フィルタを透過したイオンを質量分析または検出するステップをさらに含む。イオンの生成、質量フィルタリング、および質量分析または検出のステップは複数回繰り返される。実施形態において、上述のイオン生成、質量フィルタリング、および質量分析または検出のステップを繰り返す過程で、誘引DC電圧および反発DC電圧が印加される対向電極のペアの構成が複数回切り替えられ、長期間の動作にわたり、対向電極の各ペアは、誘引DC電圧が印加された時間の実質的に半分の時間、および反発DC電圧が印加された時間の実質的に半分の時間を費やす。実施形態において、上述のイオン生成、質量フィルタリング、および質量分析または検出のステップを繰り返す過程で、誘引DC電圧および反発DC電圧が印加される対向電極のペアの構成が複数回切り替えられ、長期間の動作にわたり、対向電極の各ペアでの汚染の蓄積は実質的に等しくなる。方法は、好ましくは、定量的精度を維持すべき質量フィルタリングステップを決定し、決定された質量フィルタリングステップに対して誘引DC電圧および反発DC電圧が印加される対向電極のペアの同じ構成を維持するステップをさらに含む。
【0010】
本発明の別の態様によれば、質量分析計を操作する方法であって、質量対電荷比の初期範囲を有する試料からイオンを生成するステップと、初期範囲よりも狭い質量対電荷比の少なくとも1つの選択範囲内のイオンを四重極質量フィルタに透過させ、一方で選択範囲外のイオンは透過しないように、選択パラメータのセットを有する四重極質量フィルタを使用してイオンを質量フィルタリングするステップであって、四重極質量フィルタは、RFおよびDC電圧が印加される対向するペアとして配置された4つの平行な細長い電極を備え、イオンに引き付けられる誘引DC電圧が、対向電極の一方のペアに印加され、イオンに反発する反発DC電圧が、対向電極の他方のペアに印加され、透過されない選択範囲外のイオンの一部分は電極と衝突し、電極上に汚染の蓄積をもたらすステップと、イオンの生成および質量フィルタリングのステップを複数回繰り返すステップと、ステップを繰り返す過程で、誘引DC電圧および反発DC電圧が印加される対向電極のペアの構成を複数回切り替え、長期間の動作にわたり、対向電極の各ペアが、誘引DC電圧が印加された時間の実質的に半分の時間、および反発DC電圧が印加された時間の実質的に半分の時間を費やすように(ならびに/または長期間の動作にわたり、対向電極の各ペアへの汚染の蓄積が実質的に等しくなるように)するステップと、を含み、それにより、四重極質量フィルタを透過したイオンの最も狭い選択範囲に対して、電極上の汚染の蓄積に起因して、イオン透過効率が50%以上低下すると、最大値の半分のイオン透過率の分離される範囲の幅が10%以下変化する方法が提供される。
【0011】
質量分析計の長期の動作にわたり、対向電極の各ペアは、誘引DC電圧が印加された時間の実質的に半分の時間、および反発DC電圧が印加された時間の実質的に半分の時間を費やすため、四重極質量フィルタへの汚染の蓄積は、4つの電極のそれぞれで実質的に等しく、すなわち対称的に発生するようになされ得る、すなわち、汚染の量は各電極で実質的に等しくなる。例えば、電極間の堆積汚染のいかなる差も、デンシトメトリーによって測定されるように、電極のいずれか1つの全汚染の10%または5%以内となり得る。診断的に、堆積汚染のそのような違いは、対向電極のペアの各構成がイオンの較正混合物に使用される場合の質量分離ピーク形状の類似性によって測定され得る。堆積汚染は、例えばミクロン以下の厚さで見えるため、堆積汚染の違いは、顕微鏡下でのデンシトメトリー測定(四重極を取り外した後)で確認され得る。汚染を測定するための別の手法は、正イオンが対向電極の一方のペアのみに堆積し、負イオンが他方のペアのみに堆積するように分光計を設定し、対向電極のペアの両方の構成に対し四重極の透過を断続的に測定し(例えば正イオン)、これらの堆積および透過測定のステップを経時的に交互に継続することである。電極の2つの構成間の透過比率が時間の経過と共に一定である場合、例えば0.75~1.25の間である場合、四重極は許容できるほど清浄であると見なすことができる。経時的な比率がその範囲外にある場合、四重極は容認できないほど汚れているとみなすことができる(非常に汚れた四重極では、比率は最大7.0に達する可能性がある)。さらに、負イオンを使用せずに、対向電極の各構成の透過曲線が「清浄」状態と比較して互いにどの程度離れているかを診断的に測定することができる。例えば、(RFのみの動作と比較して)分離透過率対四重極分解能は、「清浄」な場合、対向電極ペアの各構成間で少量、例えば5%異なる場合がある。対称で均等な汚染プロセスでは、分離透過率の差は大きくは変化しないと予想されるが、非対称プロセスでは大きな変化が生じるであろう。質量フィルタの電極上の汚染のそのような対称的な蓄積により、四重極質量フィルタを透過したイオンの選択範囲が最も狭い(分離幅が最も狭い)場合、最大値の半分のイオン透過率での分離範囲の幅は、電極への汚染の蓄積によりイオン透過効率が50%以上低下する場合、10%以下変化する。これにより、四重極質量フィルタの性能が、例えばその質量較正および/またはイオン透過効率に関して、および/または質量フィルタの電極の清浄化が必要になる前に著しく影響を受けるまでの時間が遅くなる。これは、分析四重極質量フィルタ、例えば、イオンがイオン検出器または質量分析器に到達する前に最終質量フィルタリングを行う四重極質量フィルタ、または10Th以下もしくは5Th以下の幅を有する狭い選択範囲を質量フィルタリングできる四重極質量フィルタに特に有利である。
【0012】
したがって、以下によって質量分析計を操作する方法を含む本発明のさらなる実施形態が提供され得る:質量対電荷比の初期範囲を有する試料からイオンを生成するステップ、初期範囲よりも狭い質量対電荷比の少なくとも1つの選択範囲内のイオンを四重極質量フィルタに透過させ、一方で選択範囲外のイオンは透過しないように、選択パラメータのセットを有する四重極質量フィルタを使用してイオンを質量フィルタリングするステップであって、四重極質量フィルタは、RFおよびDC電圧が印加される対向するペアとして配置された4つの平行な細長い電極を備え、イオンに引き付けられる誘引DC電圧が、対向電極の一方のペアに印加され、イオンに反発する反発DC電圧が、対向電極の他方のペアに印加され、透過されない選択範囲外のイオンの一部分は電極と衝突し、電極上に汚染の蓄積をもたらすステップ、イオンの生成および質量フィルタリングのステップを複数回繰り返すステップ、イオンの生成と質量フィルタリングのステップを繰り返す過程で、誘引DC電圧および反発DC電圧が印加される対向電極のペアの構成を複数回切り替え、長期間の動作にわたり、対向電極の各ペアが、誘引DC電圧が印加された時間の実質的に半分の時間、および反発DC電圧が印加された時間の実質的に半分の時間を費やすようにするステップ、電極上の汚染の蓄積に起因して四重極質量フィルタのイオン透過効率が50%以上低下するが、四重極質量フィルタを透過したイオンの最も狭い選択範囲に対して、最大値の半分のイオン透過率の範囲の幅が10%以下変化するまで、イオンの生成および質量フィルタリングのステップを複数回繰り返すことにより、(清浄化の間で)質量分析計を操作するステップ。この方法は、電極上の汚染の蓄積に起因して四重極質量フィルタのイオン透過効率が50%以上低下するが、四重極質量フィルタを透過したイオンの最も狭い選択範囲に対して、最大値の半分のイオン透過率の範囲の幅が10%以下変化する場合に、四重極質量フィルタの電極を清浄化するステップをさらに含んでもよい。したがって、質量分析計の動作は、次の清浄化ステップが必要になるまで実行され得る。いくつかの実施形態における方法は、四重極質量フィルタのイオン透過効率が50~90%、50~80%、50~70%、または50~60%低下する、低下するが、四重極質量フィルタを透過したイオンの最も狭い選択範囲に対して、最大値の半分のイオン透過率の範囲の幅が10%以下変化するまで、イオンの生成および質量フィルタリングのステップを複数回繰り返すことにより、質量分析計を操作するステップをさらに含んでもよい。イオン透過率の50%以上の低下および選択範囲の幅の10%以内の変化は、電極が清浄である、すなわち新たに清浄化された場合(前の清浄化操作で電極が清浄化された直後)のイオン透過率および四重極質量フィルタの範囲の幅と比較した変化である。
【0013】
本発明のさらに別の態様によれば、質量分析計を操作する方法であって、質量対電荷比の初期範囲を有する試料からイオンを生成するステップと、初期範囲よりも狭い質量対電荷比の少なくとも1つの選択範囲内のイオンを四重極質量フィルタに透過させ、一方で選択範囲外のイオンは透過しないように、選択パラメータのセットを有する四重極質量フィルタを使用してイオンを質量フィルタリングするステップであって、四重極質量フィルタは、RFおよびDC電圧が印加される対向するペアとして配置された4つの平行な細長い電極を備え、イオンに引き付けられる誘引DC電圧が、対向電極の一方のペアに印加され、イオンに反発する反発DC電圧が、対向電極の他方のペアに印加され、透過されない選択範囲外のイオンの一部分は電極と衝突し、電極上に汚染の蓄積をもたらすステップと、イオンの生成および質量フィルタリングのステップを複数回繰り返すステップと、ステップを繰り返す過程で、誘引DC電圧および反発DC電圧が印加される対向電極のペアの構成を複数回切り替え、長期間の動作にわたり、対向電極の各ペアが、誘引DC電圧が印加された時間の実質的に半分の時間、および反発DC電圧が印加された時間の実質的に半分の時間を費やすようにするステップと、を含む方法が提供され、方法は、四重極質量フィルタのイオン透過が電極上の汚染の蓄積により低下する場合、四重極質量フィルタに入射するときにイオンのエネルギーを増加させるステップをさらに含む。したがって、いくつかの実施形態において、イオンの生成およびイオンの質量フィルタリングのステップを複数回繰り返す過程で、例えば長期動作にわたり、四重極質量フィルタに入射するイオンのエネルギーが増加する。イオンエネルギーの増加は、電極上の汚染の蓄積を補償し、これは四重極質量フィルタのイオン透過を減少させるように作用する。イオンエネルギーの増加は、質量フィルタのイオン透過を可能な限り高く維持するように作用することが好ましい。エネルギーが増加した後、任意選択で四重極質量フィルタの質量再較正が実行されてもよい。イオンエネルギーを経時的に増加させることにより、電極上の汚染を除去するための清浄化操作間の時間の長さが延長され得る。
【0014】
本発明のさらに別の態様によれば、質量分析計を操作する方法であって、質量対電荷比の初期範囲を有する試料からイオンを生成するステップと、初期範囲よりも狭い質量対電荷比の少なくとも1つの選択範囲内のイオンを四重極質量フィルタに透過させ、一方で選択範囲外のイオンは透過しないように、選択パラメータのセットを有する四重極質量フィルタを使用してイオンを質量フィルタリングするステップであって、四重極質量フィルタは、RFおよびDC電圧が印加される対向するペアとして配置された4つの平行な細長い電極を備え、イオンに引き付けられる誘引DC電圧が、対向電極の一方のペアに印加され、イオンに反発する反発DC電圧が、対向電極の他方のペアに印加され、透過されない選択範囲外のイオンの一部分は電極と衝突し、電極上に汚染の蓄積をもたらすステップと、イオンの生成および質量フィルタリングのステップを複数回繰り返すステップと、ステップを繰り返す過程で、誘引DC電圧および反発DC電圧が印加される対向電極のペアの構成を複数回切り替え、長期間の動作にわたり、対向電極の各ペアが、誘引DC電圧が印加された時間の実質的に半分の時間、および反発DC電圧が印加された時間の実質的に半分の時間を費やすようにするステップと、を含む方法が提供され、対向電極のペアの異なる構成は、四重極質量フィルタのイオン透過の差を有し、方法は、質量分析におけるイオン透過の差を補償するために、質量分析計の1つ以上のパラメータを調整するステップを含む。いくつかの実施形態において、補償は、イオン源と質量分析器もしくは検出器との間の1つ以上のイオン光学デバイスの離調、あるいは、質量分析のための質量分析器に、または検出器に、または質量分析器もしくは検出器の上流にある別のイオン光学デバイス(イオントラップ等)にイオンを導入するための注入時間の調整を含む。例えば、ビーム経路に沿って1つ以上のイオンレンズに印加される電圧を変更して、イオン透過率の高いロッド構成のイオン電流を低減することができる。別の実施形態において、質量分離ウィンドウは、より低いイオン透過率のロッド構成に対してわずかに広くすることができ、したがってこの「アナログ」様式で透過率を上げ、対向電極ペアの各構成に対してわずかに異なる質量較正を効果的に使用することができる。このようにして、質量フィルタの異なる構成のイオン透過率差の質量分析への影響が、効果的に低減または排除され得る。代替として、分離幅は、対向電極ペアの各構成で同じに維持することができ、より高い透過率を有する構成では、分離ウィンドウの中心は、透過するターゲットイオンからわずかにシフトし、ターゲットイオンは分離ウィンドウの傾斜側にあり(ピークではない)、それにより、透過率がより低い構成と透過率を一致させるために、より透過されなくなる。したがって、他の構成が使用されている場合に一方の構成の質量較正にオフセットを適用する等、対向電極のペアの異なる構成に異なる質量較正を適用することができる。
【0015】
本発明のさらなる態様によれば、請求項22に記載の質量分析計が提供される。
【0016】
質量分析計は、質量対電荷比の初期範囲を有する試料からイオンを生成するためのイオン源と、初期範囲よりも狭い質量対電荷比の少なくとも1つの選択範囲内のイオンを四重極質量フィルタに透過させ、一方で選択範囲外のイオンは透過しないように、生成されたイオンを質量フィルタリングするための選択パラメータのセットで操作される四重極質量フィルタとを備える。四重極質量フィルタは、RFおよびDC電圧が印加される対向するペアとして配置された4つの平行な細長い電極を備え、イオンに引き付けられる誘引DC電圧が、対向電極の一方のペアに印加され、イオンに反発する反発DC電圧が、対向電極の他方のペアに印加される。四重極質量フィルタを透過したイオンを受容するために、質量分析器または検出器が提供される。四重極質量フィルタを制御し、イオンの生成およびイオンの質量フィルタリングのステップを繰り返す過程で、誘引DC電圧および反発DC電圧が複数回印加される対向電極のペアの構成を切り替えて、質量分析計の長期間の動作にわたり、対向電極の各ペアが、DC電圧が印加された時間の実質的に半分の時間、および反発DC電圧が印加された時間の実質的に半分の時間を費やすように(ならびに/または長期間の動作にわたり対向電極の各ペアへの汚染物質の蓄積が実質的に等しくなるように)構成されるコントローラが提供され、コントローラは、定量的精度を維持すべき質量フィルタリングステップを決定し、決定された質量フィルタリングステップに対して誘引DC電圧および反発DC電圧が印加される対向電極のペアの同じ構成を維持するようにさらに構成される。
【0017】
本発明のさらに別の態様によれば、質量分析計であって、質量対電荷比の初期範囲を有する試料からイオンを生成するためのイオン源と、初期範囲よりも狭い質量対電荷比の少なくとも1つの選択範囲内のイオンを四重極質量フィルタに透過させ、一方で選択範囲外のイオンは透過しないようにイオンを質量フィルタリングするための選択パラメータのセットを有する四重極質量フィルタであって、四重極質量フィルタは、RFおよびDC電圧が印加される対向するペアとして配置された4つの平行な細長い電極を備え、イオンに引き付けられる誘引DC電圧が、対向電極の一方のペアに印加され、イオンに反発する反発DC電圧が、対向電極の他方のペアに印加され、イオンに反発する反発DC電圧が、対向電極の他方のペアに印加され、透過されない選択範囲外のイオンの一部分は電極と衝突し、電極上に汚染の蓄積をもたらす四重極質量フィルタと、四重極質量フィルタを透過したイオンを分析または検出する質量分析器または検出器と、四重極質量フィルタを制御し、イオンの生成およびイオンの質量フィルタリングのステップを繰り返す過程で、誘引DC電圧および反発DC電圧が複数回印加される対向電極のペアの構成を切り替えて、質量分析計の長期間の動作にわたり、対向電極の各ペアが、DC電圧が印加された時間の実質的に半分の時間、および反発DC電圧が印加された時間の実質的に半分の時間を費やすように、ならびに/または対向電極の各ペアへの汚染物質の蓄積が実質的に等しくなるように構成されたコントローラと、を備える質量分析計が提供され、それにより、四重極質量フィルタを透過したイオンの最も狭い選択範囲に対して、電極上の汚染の蓄積に起因して、四重極質量フィルタのイオン透過効率が50%以上低下すると、最大値の半分のイオン透過率の範囲の幅が10%以下変化する。
【0018】
本発明のさらになる態様によれば、質量分析計であって、質量対電荷比の初期範囲を有する試料からイオンを生成するためのイオン源と、初期範囲よりも狭い質量対電荷比の少なくとも1つの選択範囲内のイオンを四重極質量フィルタに透過させ、一方で選択範囲外のイオンは透過しないようにイオンを質量フィルタリングするための選択パラメータのセットを有する四重極質量フィルタであって、四重極質量フィルタは、RFおよびDC電圧が印加される対向するペアとして配置された4つの平行な細長い電極を備え、イオンに引き付けられる誘引DC電圧が、対向電極の一方のペアに印加され、イオンに反発する反発DC電圧が、対向電極の他方のペアに印加され、イオンに反発する反発DC電圧が、対向電極の他方のペアに印加され、透過されない選択範囲外のイオンの一部分は電極と衝突し、電極上に汚染の蓄積をもたらす四重極質量フィルタと、四重極質量フィルタを透過したイオンを分析または検出する質量分析器または検出器と、四重極質量フィルタを制御し、イオンの生成およびイオンの質量フィルタリングのステップを繰り返す過程で、誘引DC電圧および反発DC電圧が複数回印加される対向電極のペアの構成を切り替えて、質量分析計の長期間の動作にわたり、対向電極の各ペアが、DC電圧が印加された時間の実質的に半分の時間、および反発DC電圧が印加された時間の実質的に半分の時間を費やすように構成されたコントローラと、を備える質量分析計が提供される。いくつかの好ましい実施形態において、コントローラは、四重極質量フィルタのイオン透過が汚染物の蓄積により低下する場合、四重極質量フィルタに入射するときにイオンのエネルギーを増加させるようにさらに構成される。
【0019】
本発明のさらなる態様によれば、質量分析計であって、質量対電荷比の初期範囲を有する試料からイオンを生成するためのイオン源と、初期範囲よりも狭い質量対電荷比の少なくとも1つの選択範囲内のイオンを四重極質量フィルタに透過させ、一方で選択範囲外のイオンは透過しないようにイオンを質量フィルタリングするための選択パラメータのセットを有する四重極質量フィルタであって、四重極質量フィルタは、RFおよびDC電圧が印加される対向するペアとして配置された4つの平行な細長い電極を備え、イオンに引き付けられる誘引DC電圧が、対向電極の一方のペアに印加され、イオンに反発する反発DC電圧が、対向電極の他方のペアに印加され、イオンに反発する反発DC電圧が、対向電極の他方のペアに印加され、透過されない選択範囲外のイオンの一部分は電極と衝突し、電極上に汚染の蓄積をもたらす四重極質量フィルタと、四重極質量フィルタを透過したイオンを分析または検出する質量分析器または検出器と、四重極質量フィルタを制御し、イオンの生成およびイオンの質量フィルタリングのステップを繰り返す過程で、誘引DC電圧および反発DC電圧が複数回印加される対向電極のペアの構成を切り替えて、質量分析計の長期間の動作にわたり、対向電極の各ペアが、DC電圧が印加された時間の実質的に半分の時間、および反発DC電圧が印加された時間の実質的に半分の時間を費やすように構成されたコントローラと、を備える質量分析計が提供され、対向電極のペアの異なる構成は、四重極質量フィルタのイオン透過の差を有し、コントローラは、イオン透過の差を補償するために、質量分析計の1つ以上のパラメータを調整するようにさらに構成される。
【0020】
いくつかの実施形態において、構成は、四重極質量フィルタの選択パラメータおよび/または使用ベースのトリガに基づいて切り替えられることが好ましい。したがって、コントローラは、四重極質量フィルタの選択パラメータおよび/または使用ベースのトリガに基づいて構成を切り替えるように構成されることが好ましい。
【0021】
いくつかの実施形態において、質量対電荷比の1つ以上の選択範囲は、10Th以下の幅を有することが好ましい。
【0022】
いくつかの実施形態において、四重極質量フィルタの選択パラメータの異なるセットを使用して、イオンを生成するステップおよびイオンを質量フィルタリングするステップが複数回繰り返されることが好ましい。
【0023】
いくつかの実施形態において、誘引DC電圧が印加される対向電極のペアおよび反発DC電圧が印加される対向電極のペアの構成が、四重極質量フィルタの実質的に同じ選択パラメータを使用してイオンを選択するたびに、および/またはイオンの生成に使用される試料が分析時間もしくは組成の類似性によって関連付けられている場合に同じであることが好ましい。したがって、好ましくは、誘引DC電圧が印加される対向電極のペアおよび反発DC電圧が印加される対向電極のペアが、四重極質量フィルタの実質的に同じ選択パラメータを使用してイオンを選択するたびに、および/またはイオンの生成に使用される試料が関連する場合に同じになるように、コントローラが構成される。
【0024】
いくつかの実施形態において、方法は、好ましくは、選択パラメータの各セットについて一意のコードを計算するステップと、少なくとも1つのルールに基づき、一意のコードを使用して誘引DC電圧が印加される対向電極のペアおよび反発DC電圧が印加される対向電極のペアを決定するステップとをさらに含む。したがって、コントローラは、質量対電荷比の少なくとも1つの選択範囲を透過させる四重極質量フィルタの選択パラメータを設定し、各セットの一意のコードを計算し、少なくとも1つのルールに基づいて、一意のコードを使用して、誘引DC電圧が印加される対向電極のペアおよび反発DC電圧が印加される対向電極のペアを決定するように構成され得る。コードは、コード生成アルゴリズムを使用して生成され得る。いくつかの実施形態において、一意のコードは、ハッシュ関数(ハッシュアルゴリズム)を使用して計算されたコードであることが好ましい。したがって、一意のコードはハッシュコードであることが好ましい。いくつかの実施形態において、一意のコードは、質量対電荷比の選択範囲の中心質量ならびに/または最初の質量および最後の質量に基づいて計算される。いくつかの実施形態において、一意のコードは、質量対電荷比の選択範囲の切り捨てられた中心質量に基づいて、ならびに/または切り捨てられた最初の質量および切り上げられた最後の質量に基づいて計算される。一意のコードが質量対電荷比の選択範囲の中心質量に基づいて計算される実施形態において、特定の中心質量の電極構成は、フィルタリング中に使用される選択範囲の幅に依存しない。
【0025】
いくつかの実施形態において、少なくとも1つのルールは、一意のコードが偶数値である場合、対向電極の第1のペアに誘引DC電圧を印加し、対向電極の第2のペアに反発DC電圧を印加すること、および、一意のコードが奇数値である場合、対向電極の第2のペアに誘引DC電圧を印加し、対向電極の第1のペアに反発DC電圧を印加することを含む。いくつかの実施形態において、誘引DCおよび反発電圧が印加される対向電極のペアを切り替える質量対電荷比ドメインにおける周波数を増加または減少させるために、一意のコードが係数で乗算または除算される。好ましくは、係数は、質量対電荷比の選択範囲が対向電極のペアの切り替えの間の質量対電荷比ドメインにおける平均間隔より十分に狭いような係数であり、したがって、質量対電荷比の範囲、x-0.5w~x+0.5w(式中、xは選択範囲の中心質量であり、wは選択範囲の幅である)は、誘引DCおよび反発電圧が後続の質量フィルタリングステップで選択された場合に適用される対向電極の同じペアを使用して選択される可能性が最も高い。
【0026】
いくつかの実施形態において、誘引DC電圧が印加される対向電極のペアと、反発DC電圧が印加される対向電極のペアとが、1つ以上の使用ベースのトリガ、すなわち使用依存トリガに基づいて切り替えられる。1つ以上の使用依存トリガは、1つ以上の時間依存またはイベント依存トリガを含んでもよい。1つ以上の時間依存またはイベント依存トリガが、質量較正手順を実行すること、または対向電極のペアが最後に切り替えられてからの所定の期間の経過を含んでもよい。
【0027】
いくつかの実施形態において、この方法は、誘引DC電圧および反発DC電圧のそれぞれが印加される場合、対向電極の各ペアの使用(すなわちより高い質量対電荷比のイオンの相対的堆積)を表す使用データを測定(すなわち収集)および保存するステップと、使用データに基づいて、平均して、対向電極の各ペアが、誘引DC電圧が印加された時間の実質的に半分の時間、および反発DC電圧が印加された時間の実質的に半分の時間を費やすように、誘引DC電圧が印加される対向電極のペアと、反発DC電圧が印加される対向電極のペアとを切り替えるステップとをさらに含む。したがって、誘引DC電圧および反発DC電圧のそれぞれが印加される場合、対向電極の各ペアの使用を表す使用データを収集および保存し、使用データに基づいて、平均して、対向電極の各ペアが、誘引DC電圧が印加された時間の実質的に半分の時間、および反発DC電圧が印加された時間の実質的に半分の時間を費やすように、誘引DC電圧が印加される対向電極のペアと、反発DC電圧が印加される対向電極のペアとを切り替えるように、コントローラが構成され得る。例えば、コントローラは、対向電極の各ペアの使用に関するリアルタイムデータを保存してもよい。この使用データは、単純な場合、各構成の測定されたイオン導入イベントの合計数(例えば、1つの構成の四重極質量フィルタを介したイオン注入の数x、他の構成のイオン注入の数y)、測定された時間(例えば、1つの構成の四重極質量フィルタを介したすべてのイオン注入の合計注入時間、および他の構成の質量フィルタを介したすべてのイオン注入の合計注入時間)、または測定電荷(例えば、各構成の四重極質量フィルタを流れる電荷を表し、これは、各注入イベントの質量分析器またはイオン検出器で測定されたイオン電流に基づき得る(これにより、2つの構成のそれぞれに合計累積電荷が提供される))を含み得る。いくつかの実施形態において、四重極質量フィルタへの「失われた」電荷(すなわち、非透過電荷)は、実質的にすべてのイオンが四重極を透過する場合(例えば、以前の「全質量範囲」またはMS1スキャンで)のイオン電流および質量フィルタリングが実行されたときに透過するイオン電流の比較により測定され得る。さらなる改良において、低m/zのイオンによって四重極に失われた電荷よりも高い、高m/zイオンによって四重極に失われた電荷を重み付けすることにより、四重極に失われた電荷のm/z分布依存スケーリングを行うことができる。
【0028】
さらに好ましい実施形態において、本発明は、四重極の電極の使用を追跡または測定して、長期間にわたって電極のペアが一方の構成で半分の時間で使用され、他方の構成で半分の時間で使用され、汚染が電極上に均一に(対称的に)蓄積することを確実にすることを含む。そのような実施形態において、使用データを対向電極の各ペアの汚染の量を表すデータとして取得し、対向電極の各ペア間で汚染の量を均等に平衡化するように、誘引DC電圧が印加される対向電極のペアと、反発DC電圧が印加される対向電極のペアとを切り替えることが可能である。したがって、コントローラは、対向電極の各ペアへの汚染の量を表すデータに基づいて、誘引DC電圧が印加される対向電極のペアと、反発DC電圧が印加される対向電極のペアとを切り替えるように構成される。いくつかの実施形態において、質量分析計は、例えば定期的な較正または評価の一部として、上記のように衝突する単位電荷あたりの主電極DC停止曲線のシフトとして、対向電極の各ペアの充電速度を個別に測定することができる。この充電速度は、電極の2つのペアの相対的な汚染レベルと相関している。分光計コントローラは、2つの速度を(各電極ペアについて)比較し、この情報を能動的平衡化メカニズムに供給することができる。能動的平衡化メカニズムは、前述の使用データ(例えば、前述のデータおよび/または汚染測定値の監視)によって各構成の電極ペアの相対使用量の不均衡を検出し、電極の使用を等しい状態にするために電極切り替えアルゴリズムを能動的に調整することができる(すなわち、平均して、対向電極の各ペアが、誘引DC電圧が印加された時間の実質的に半分の時間、および反発DC電圧が印加された時間の実質的に半分の時間を費やすように、ならびに/または対向電極の各ペア間で汚染の量を均等に平衡化するように、誘引DC電圧が印加される対向電極のペアと、反発DC電圧が印加される対向電極のペアとを切り替える)。いくつかの実施形態において、これは、(切り替えのモードに応じて)コード生成(ハッシュ)アルゴリズムを修正することにより、または(時間ベースの切り替えモードの場合)電極ペアの各構成に異なる時間を使用する(例えば、1つの構成で5秒および他の構成で5秒の代わりに、1つの構成で5秒および他の構成で4秒を使用する)ことにより、または(イベントトリガモードの場合)1つ以上の電極ペア切り替えイベントをスキップすることにより達成することができる。
【0029】
いくつかの実施形態において、方法は、四重極質量フィルタを使用してイオンを質量フィルタリングする前に、イオンを事前にフィルタリングするステップをさらに含み、イオンを事前にフィルタリングするステップは、四重極質量フィルタにより選択された質量対電荷比の選択範囲を含むが、それよりも広い質量対電荷比の事前選択範囲内のイオンを四重極質量フィルタに透過させることを含む。したがって、質量分析計は、四重極質量フィルタの上流に位置する、四重極質量フィルタの前にイオンをフィルタリグするための1つ以上の質量プレフィルタを備えてもよく、1つ以上の質量プレフィルタは、四重極質量フィルタにより選択された質量対電荷比の選択範囲を含むが、それよりも広い質量対電荷比の事前選択範囲内のイオンを四重極質量フィルタに透過させるように制御される。好ましくは、事前選択範囲は、10Thより大きい、または50Thより大きい、または100Thより大きい幅を有する。
【0030】
いくつかの実施形態において、方法は、四重極質量フィルタのイオン透過が電極上の汚染の蓄積により低下する場合、四重極質量フィルタに入射するときにイオンのエネルギーを増加させるステップを含む。したがって、コントローラは、四重極質量フィルタのイオン透過が、汚染物の蓄積により低下する場合、四重極質量フィルタに入射するときにイオンのエネルギーを増加させるようにさらに構成され得る。
【0031】
本発明の実施形態は、質量分析計の長期間の動作にわたり、対向電極の各ペアが、誘引DC電圧が印加された時間の実質的に半分の時間、および反発DC電圧が印加された時間の実質的に半分の時間を費やすことを提供するが、いくつかの実施形態において、質量分析ステップの定量的精度を最適化するために、短期間にわたり、対向電極のペアが、誘引DC電圧が印加された時間の半分超の時間、および反発DC電圧が印加された時間の半分未満の時間を費やす、またはその逆であってもよい(すなわち、反発DC電圧が印加される時間の半分超の時間、および誘引DC電圧が印加される時間の半分未満の時間を費やしてもよい)。したがって、誘引DC電圧および反発DC電圧が印加される対向電極のペアの構成は、透過イオンの定量分析または比較が必要な場合、質量フィルタリングの連続するステップごとに単純に切り替えられない。
【0032】
対向電極のペアの構成間の四重極質量フィルタの透過率差のいかなる影響も、定量分析のために効果的に除去されることが好ましい特徴である。
【0033】
対向電極のペアの構成は、透過イオンが定量的に分析される質量フィルタリングのステップと同じに設定され得る。したがって、構成は、透過イオンが定量的に分析される、特に互いに関して定量的に分析される質量フィルタリングのステップに対して一定に維持され得る。
【0034】
いくつかの実施形態において、使用される最も狭い選択幅であっても、四重極電極の極性を切り替えても質量選択ウィンドウまたは範囲の形状または透過率が大幅に変化しない場合、四重極質量フィルタの定量的精度は同様に切り替えにより大幅に影響されず、そのため上記の対策は必要ない場合がある。例えば、そのような場合、定量的精度を維持する質量フィルタリングステップと、誘引DC電圧および反発DC電圧が印加される対向電極のペアの同じ構成を維持する決定された質量フィルタリングステップの決定を使用する必要はない場合がある。それにもかかわらず、例えば、質量フィルタリングステップごとに、または固定数の質量フィルタリングステップごとにペアの構成を単純に交互させることを含み得る対向電極のペアの切り替えは、汚染の蓄積の対称的な分布をもたらし、したがって、質量フィルタの清浄化操作の間に必要な時間の延長をもたらす。そのような場合の小さな違いは、上記のように補正され得る。
【0035】
四重極質量フィルタは、典型手には、互いに平行に、中心軸の周りに対称的に配置されたある特定の断面形状のロッド等の金属電極を使用して構築される。ロッドの横断面形状は、所望の用途に応じてさまざまな形状となり得る。電極の形状は、典型的には長方形、円形、または双曲線状である。四重極質量フィルタは、好ましくは、比較的狭い選択質量範囲をフィルタリングすることができ、典型的にはそのために使用される分析用四重極質量フィルタであり、例えば、100Th以下、50Th以下、20Th以下、10Th以下、5Th以下、2Th以下、または1Th以下の幅を有する。質量対電荷比の選択範囲は、10Th以下の幅を有することが好ましい。典型的には、幅は、少なくとも0.5Thの幅である。選択質量範囲は、0.5~10Thの範囲内、例えば0.5~5Th、または0.5~2Th、または0.5~1.5Th、または0.7~1.4Thの範囲内の幅を有してもよい。四重極質量フィルタは、四重極質量プレフィルタまたはイオン移動度フィルタ等の1つ以上の質量プレフィルタの下流に位置してもよい。典型的には、1つ以上の質量プレフィルタは、同等の高透過率で分析用四重極質量フィルタほど狭い質量範囲をフィルタリングすることができない。1つ以上の質量プレフィルタを使用して、分析質量フィルタで除去しなければならない不要なイオンの存在量を減らすことができ、したがって所与の期間の質量フィルタリングの間に分析質量フィルタの電極に堆積するイオンの量を低減することができる。したがって、質量プレフィルタフィルタは、分析質量フィルタによって分離されるm/z比付近の広いウィンドウでイオンの粗い分離を実行する。したがって、本発明は、好ましくは、四重極質量フィルタを使用してイオンを質量フィルタリングする前に、イオンを事前にフィルタリングするステップをさらに含み、イオンを事前にフィルタリングするステップは、四重極質量フィルタにより選択された質量対電荷比の選択範囲を含むが、それよりも広い質量対電荷比の事前選択範囲内のイオンを四重極質量フィルタに透過させることを含む。事前選択範囲は、10Thより大きい、または50Thより大きい、または100Thより大きい幅(例えば300Th)を有してもよい。
【0036】
イオンの生成および質量フィルタリングの後、典型的には、質量対電荷比の選択範囲内の四重極質量フィルタを透過したイオンを質量分析するステップがある。イオンの質量分析は、典型的には、イオンを検出して質量スペクトルデータを生成することを含む。いくつかの実施形態において、質量フィルタリングの後、イオンを質量分析または検出する前にイオンを処理する1つ以上の任意選択のステップがある。処理は、イオンの断片化、捕捉、および冷却のうちの1つ以上を含んでもよい。処理は、1つ以上のイオン光学デバイスで行われてもよい。1つ以上のイオン光学デバイスは、断片化セル、イオントラップ、およびイオンガイドのうちの1つ以上を備えてもよい。イオンは、四重極質量フィルタの下流、および任意選択で1つ以上のイオン光学デバイスの下流に位置する質量分析器を使用して質量分析され得る。質量分析器は、イオン検出器を備えてもよい。質量分析器は、質量対電荷比に基づいてイオンを分離することができてもよく、また次の種類の質量分析器の1つ以上を含んでもよい:イオントラップ、例えば、RFイオントラップ、静電イオントラップ、静電軌道トラップ(例えばOrbitrap(商標)質量分析器)、フーリエ変換(FTMS)質量分析器、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FT-ICR)質量分析器、飛行時間(TOF)質量分析器、例えば線形TOF質量分析器、直交加速TOF(OA-TOF)質量分析器、リフレクトロンTOF、多重反射TOF(MR-TOF)質量分析器、四重極質量分析器、または磁気セクター質量分析器。質量分析器は、四重極質量フィルタよりも高い質量分解能が可能であることが好ましい。好ましくは、質量分析器は、高分解能および/または正確な質量(HR-AM)が可能である。例えば、質量400および/または質量精度<10ppm、または<5ppm、または<3ppm、または<2ppmで>25,000または>50,000または>100,000または>200,000の分解能を実現できる質量分析器。そのような質量分析器は、軌道トラップ型およびフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴、FT-ICR型のうちの1つを含み得る。好ましくは、質量分析計は、1回の取得またはスキャンで対象m/zをすべて測定できる質量分析器を含む。好ましい質量分析計は、静電イオントラップ、静電軌道トラップ、またはFT-ICR、または単一反射または多重反射(MR)-TOF(好ましくはMR-TOF)等のTOFを含む。そのような質量分析器のイオン検出器を使用して、質量分析器によって分離されたイオンを検出することができる。画像電流検出器、電子増倍管、マイクロチャネルプレート、シンチレータ、および/または光電子増倍管を使用してイオンを検出することができる。好ましくは、質量分析は、イオンの定量分析を提供する。
【0037】
本発明は、質量分析計の長期間の動作にわたり、平均して、対向電極の各ペアが、誘引DC電圧が印加された時間の実質的に半分の時間、および反発DC電圧が印加された時間の実質的に半分の時間を費やすことを提供する。したがって、イオンの生成、質量フィルタリング、およびイオンの分析のステップを複数回繰り返すことは、長期間にわたって行われ、これは、いくつかの実施形態において、典型的には1日以上、またはより好ましくは1週間以上または1か月以上であり、すなわち、質量分析計の長期間の動作にわたる。好ましくは、長期間は、汚染の蓄積を除去するための四重極質量フィルタの連続清浄化操作間の期間である。比較的長い期間は、例えば質量分析実験中に電極が切り替えられる比較的短い期間に比べて長い、または少なくともそれより長い。いくつかの実施形態において、比較的短い期間は、1日以内(すなわち24時間以内)となり得る。第1の期間にわたり、対向電極の各ペアは、誘引DC電圧が印加された時間の実質的に半分の時間、および反発DC電圧が印加された時間の実質的に半分の時間を費やし、一方、第1の期間より短い第2の期間にわたり、質量分析の定量的精度が維持される。複数の第2のより短い期間が、第1のより長い期間にわたり生じる。
【0038】
試料は、例えば、血液、組織、植物抽出物、尿、血清、細胞溶解物等の生体試料に由来してもよい。イオンは、1つ以上の異なる分子、例えば生体高分子、タンパク質、ペプチド、ポリペプチド、アミノ酸、炭水化物、糖、脂肪酸、脂質、ビタミン、ホルモン、多糖類、リン酸化ペプチド、リン酸化タンパク質、糖ペプチド、糖タンパク質、オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオシド、DNA、DNAの断片、cDNA、cDNAの断片、RNA、RNAの断片、mRNA、mRNAの断片、tRNA、tRNAの断片、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、リボヌクレアーゼ、酵素、代謝産物、および/またはステロイドから選択される1つ以上の分子等を含む、1つ以上の試料から生成され得る。試料は、典型的には、複数の異なる分子(すなわち、異なる分子種)を含み、これらは、イオン源において複数の異なるイオンを生じさせ、それらの質量対電荷比によって質量フィルタリングすることができる。試料は、少なくとも2、5、10、20、50の異なる分子を含んでもよく、または少なくとも100、500、1000、または5000の異なる分子を含む複雑な試料であってもよい。
【0039】
いくつかの好ましい実施形態において、誘引DC電圧が印加される対向電極のペア、および反発DC電圧が印加される対向電極のペアは、四重極質量フィルタの実質的に同じ選択パラメータを使用してイオンを選択するたびに、および/または質量分析実験においてイオンの生成に使用される試料が関連する場合に同じである。したがって、所与の実験で試料を分析するには、定量的精度が維持されるべきである。
【0040】
試料は、分析時間および/または組成の類似性によって実験で関連付けられ得る。試料は、例えば、質量分析を相互に定量的に比較する等、定量的に比較する必要がある場合、関連付けることができる。したがって、質量分析は、好ましくは定量的質量分析である。これは、試料が互いに所定の時間内に分析される場合に該当し得る。関連付けられる試料の例は、同じクロマトグラフィーの実行から溶出された試料、質量分析計の連続質量較正の同じ期間にイオン化された試料、複製試料、同じ生物源からの試料、同一またはほぼ同一の検体セットを含む試料(例えば、少なくとも90%または少なくとも95%の検体を共通して含む試料)、および内部標準を含む試料(例えば、定量される標的分子の追加的な同位体的に重い(したがってより高いm/z)類似体、既知濃度の内部標準が標的分子を定量化するために使用される)を含み得る。
【0041】
イオンは、以下のイオン源のいずれかにより試料から生成され得る:エレクトロスプレーイオン化(ESI)、大気圧化学イオン化(APCI)、大気圧光イオン化(APPI)、グロー放電を伴う大気圧ガスクロマトグラフィー(APGC)、AP-MALDI、レーザー脱着(LD)、インレットイオン化、DESI、レーザーアブレーションエレクトロスプレーイオン化(LAESI)、誘導結合プラズマ(ICP)、レーザーアブレーション誘導結合プラズマ(LA-ICP)、電子衝撃イオン化(EI)、化学イオン化(CI))等。これらのイオン源はいずれも、イオン源の上流にある以下の試料分離のいずれかに結合され得る:液体クロマトグラフィー(LC)、イオンクロマトグラフィー(IC)、ガスクロマトグラフィー(GC)、キャピラリーゾーン電気泳動(CZE)、2次元GC(GCxGC)、2次元LC(LCxLC)等。
【0042】
RFおよびDC電圧は、好ましくはコントローラによって制御されるそれぞれの電圧供給によって四重極質量フィルタに提供されてもよい。コントローラは、RFおよびDC電圧を制御し、誘引DC電圧が印加される四重極の対向電極のペア、および反発DC電圧が印加される対向電極のペアを切り替えるためのコンピュータおよびそれに関連する電子機器を備えてもよい。電子機器は、高速でRFおよびDCを生成する(例えば、ゼロから最大振幅に変化するのに数ミリ秒を要する)四重極用の電源ボードを備えてもよい。切り替えには、RF電圧よりもはるかに小さいDC電圧のみが反転されてもよい。
【0043】
コンピュータおよび関連する電子機器を含むコントローラは、コントローラに本発明による質量分析計を動作させるためのプログラムでプログラムされてもよい。プログラムは、コンピュータ可読媒体に提供されてもよい。
【0044】
分光計は、質量分析または検出されたイオンの量を表す質量分析器または検出器からのデータを受け取り、データを処理してイオンの定量分析を提供するデータ処理システムをさらに備えてもよい。コントローラは、データ処理デバイスを備えてもよい。コントローラのコンピュータは、データ処理デバイスを備えてもよい。データ処理デバイスは、データをデータセットに保存するためのストレージユニットを備えてもよい。
【0045】
コントローラおよび/またはデータ処理デバイスは、質量分析計にコマンドを伝送するか、または質量分析計を操作するように構成された機器インターフェースを備えてもよい。前述のように、データ処理システムは、例えば機器インターフェースを介して、質量分析器または検出器から測定データを受信するように構成される。データ処理デバイスと分光計との間の接続は、ワイヤーもしくはグラスファイバーによって、またはワイヤレスで確立され得る。
【0046】
好ましくは、コントローラおよび/またはデータ処理デバイスは、ユーザが情報を表示および入力できるように、視覚化手段、特にディスプレイおよび/またはプリンタ、ならびにインタラクション手段、特にキーボードおよび/またはマウスをさらに備える。コントローラおよび/またはデータ処理デバイスが視覚化手段およびインタラクション手段を備える場合、分光計の動作は、グラフィカルユーザインターフェース(GUI)を介して制御されることが好ましい。コントローラおよび/またはデータ処理デバイスは、有線または無線ネットワークにより相互接続されたいくつかの処理デバイスを備えた分散形態であってもよいコンピュータとして実現され得る。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1】四重極質量フィルタの電気的および機械的配置を模式的に示す図である。
図2】軌道トラップ質量分析計と連携した四重極質量フィルタを備える質量分析計の概略図である。
図3】誘引DC電圧および反発DC電圧が印加される対向電極のペアの2つの構成AおよびB、ならびに切り捨てられた分離中心質量に基づいてハッシュアルゴリズムを適用する場合の構成AおよびBの使用法、ならびに(a)-(e)において、各構成(y軸で示される)ラベルの平衡化した使用を維持しながら、0.25~4.0のさまざまな係数を適用することにより分離中心質量ドメインにおける構成を切り替える周波数の変化を示す図である。
図4】(a)~(d)のさまざまな分離ウィンドウ幅の分離ウィンドウの切り捨てられた最初の質量と切り上げられた最後の質量に基づいてハッシュアルゴリズムを適用する場合の対向電極のペアの構成AおよびBの使用法を示す図である。
図5】MSおよびMS2スキャンを考慮(上のプロット)して、およびMS2スキャンのみを考慮(下のプロット)して、top15 DDA実験からのデータの取得後分析からの構成AおよびBの使用のシミュレーションを示す図である。ハッシュコードは、切り捨てられた分離中心質量を係数0.5で除算して計算された。
図6】ロッド切り替えを無効化(プロットA)およびロッド切り替えを有効化(プロットB)したユビキチンを含む試料の300時間超の分析にわたる四重極汚染による分離プロファイルドリフト(m/z74幅0.8)の例を示す図である。分離幅および中心質量の誤差は、理論(または設定)値に対して計算される。
【発明を実施するための形態】
【0048】
ここで、本発明のより詳細な理解を可能にするために、図面を参照しながら様々実施形態を説明する。本発明の範囲は、そのような実施形態に限定されるものではなく、これらの実施形態は単なる例であることを理解されたい。
【0049】
図1を参照すると、示される四重極質量フィルタ2は、示される実施形態において中心軸の周りに正方形の配置で離間したロッドである4つの平行な細長い電極4a~4dを備える。電極断面形状は円形であるが、他の実施形態において、電極形状は双曲線状または長方形(平坦)であってもよい。対向電極は、互いに電気接続され、ロッドの一方のペアと他方との間に電圧が印加され、これは、DCオフセット電圧と共に無線周波数(RF)電圧を含む。イオンはロッド電極間の四重極を通って移動する。RFおよびDC電圧の所与の値に対して、ある特定の質量対電荷比(m/z)のイオンが、矢印Aにより示されるようにロッド間の中心軸に沿って四重極を透過し、他のイオンは不安定な軌道を有し、電極と衝突する。誘引DC電圧(例えば正イオンに対して負電圧)が対向ロッドの一方のペア(4a、4b)に印加され、等しい大きさの反発DC電圧(例えば正イオンに対して正電圧)が対向ロッドの他方のペア(4c、4d)に印加される。誘引および反発DC電圧は、四重極フィルタを通過できるイオンm/z比の範囲への質量カットオフを与える。典型的には、選択されたm/z比よりも高いm/z比のイオンは誘引ロッドと衝突し、より低いm/z比のイオンは反発ロッドと衝突する。当該技術分野において知られているように、RFおよびDC電圧の適切な較正により、四重極質量フィルタは、幅広いm/z比および可変質量選択ウィンドウ幅でイオンをフィルタリングできる。
【0050】
典型的には、四重極製造技術、機械的公差および/または電子機器の制限により、機器の動作中の誘引および反発DC電圧は常に同じ対向ロッドのペアに印加される。これは、イオンがデバイスによってフィルタリングされると、(特に分離されるm/zよりも大きい質量対電荷比を有する)不安定な軌道のイオンが、他のペアと比較して対向ロッドの一方のペアに優先的に堆積することを意味する。時間の経過と共に、特に高イオン負荷および困難な試料条件下では、このような材料の堆積およびこの材料のその後の帯電により、四重極場に外乱が生じ、したがって、例えば透過損失および較正の陳腐化の形で質量フィルタの性能が低下する。すると、四重極質量フィルタは、失われた性能を回復するために機械清浄化を必要とする。本発明は、四重極質量フィルタの堅牢性のこの問題に対処する。以下に説明するように、本発明は、定量的精度を含む質量フィルタリング性能の実質的な損失なしに堅牢性を高めることができる。
【0051】
本発明は、誘引および反発DC電圧が印加される対向ロッドの対を交互させることに基づいており、それにより、機器の長期使用(例えば、数日、数週間または数か月)にわたり4つすべてのロッドにほぼ均等に堆積材料を分散させる。DC電圧を受けるロッドペアを交互させるプロセスは、本明細書において「ロッド切り替え」または「切り替えロッド」と様々に呼ばれる。材料堆積の表面積を効果的に2倍にすることに加えて、4つすべてのロッドに材料を均等に堆積させることにより、四重極場への外乱が各ロッドで一致することが確実となり、したがってその効果が最小限に抑えられる。これにより、ロッドの清浄化が必要になるまでの時間が2倍以上長くなり、汚染に関連する性能損失が低下することが分かっている。
【0052】
四重極質量フィルタを備える質量分析計の例を図2に示す。質量分析計10は、ESI源等の大気圧イオン源12を備える。質量分析計のイオン源は、クロマトグラフ(図示せず)等の分離デバイスに接続され得ることが理解されよう。最初に広い質量範囲を有する生成されたイオンは、使用中の約3ミリバールの真空の第1段階で移送チューブ14およびRF電気力学的イオン漏斗16を通過する。イオン漏斗レンズ18を通過した後、イオンは注入フラットポール20に入射する。注入フラットポール20は、長方形の断面およびイオンに面する平面を有する4つの細長い電極を備える四重極である。RF電圧が注入フラットポール20に印加される。いくつかの実施形態において、イオンの粗い質量フィルタリングを提供するために、すなわち、下流の四重極質量フィルタ28を透過するより狭い選択質量範囲外のイオンをフィルタリングするために、追加のDC電圧を注入フラットポール20の電極の対向するペアに印加することができる(等しい大きさであるが極性が逆の電圧)。したがって、注入フラットポール20は、以下により詳細に説明するように、質量プレフィルタとして機能することができる。注入フラットポールを出た後、イオンは、レンズ22、中性種を除去し得る湾曲フラットポールイオンガイド24、およびさらなるレンズ26を通過する。
【0053】
次いで、イオンの質量フィルタリングが、4つの双曲線形状のロッド電極を備える四重極質量フィルタ28で実行され得る。四重極質量フィルタ28は、主四重極セグメントおよび各端部の端部セグメントを含むセグメント化四重極として構成される。四重極質量フィルタ28は、使用中に約3×10-5ミリバールの圧力で真空室に収容される。ロッドに印加されるRFおよびDC電圧の形の四重極質量フィルタ28の動作パラメータは、イオン源からのイオンの初期質量範囲よりも狭い、またはフラットポール20により事前にフィルタリングされる場合には事前にフィルタリングされた質量範囲よりも狭い、質量対電荷比の少なくとも1つの選択範囲内のイオンを四重極質量フィルタに透過させるように、必要な質量選択パラメータに従って設定される。四重極質量フィルタ28を透過されない選択範囲外のイオンの一部分は、ロッドと衝突し、ロッド上に汚染の蓄積を引き起こし、これは、本発明によって対処され、以下でさらに説明される。このようにして質量フィルタリングされたイオンは、その後質量分析または検出される。
【0054】
四重極質量フィルタ28を出たイオンは、スプリットゲート30、32、および移送多重極34を通過した後、入射レンズ36を介してRF曲線線形イオントラップ38(Cトラップ)に入射する。スプリットゲート30、32は、Cトラップ38の充填中にイオンを透過させ、他の時点ではそれらを偏向させる。イオントラップ38はまた、出口レンズシステム40を有する。トラップDC電圧をイオントラップ38の入口および出口レンズに印加して、そこでイオンをトラップおよび冷却することができる。例えば1つ以上の質量選択範囲内の1つ以上の質量フィルタリングステップからのイオンは、イオントラップ38に一緒に捕捉され得る。次いで、イオンは、RFをオフにし、DC排出パルスを印加してイオンをパルスとしてZレンズ40を介して静電軌道トラップ質量分析器42(Orbitrap質量分析器)に送ることによりイオントラップ38から放射状に排出されるが、この分析器はフーリエ変換質量分析器(FTMS分析器)の一種であり、10-9ミリバール未満の内部圧力を有する。他の実施形態において、飛行時間型、FT-ICR等の別の種類の質量分析器が使用されてもよいことが理解されよう。いくつかの実施形態において、四重極質量フィルタ28により質量フィルタリングされるイオンは、代わりに下流に配置された検出器により(例えば、イオントラップ38および他の下流イオン光学系の代わりに)、すなわちさらなる質量分析なしに検出され得る。そのような検出器は、電子増倍管型またはファラデーカップであってもよい。その場合、四重極質量フィルタ28の質量選択範囲をスキャンし、範囲内の各質量でイオンを検出することにより、質量スペクトルを取得することができる。
【0055】
いくつかの実施形態において、質量フィルタリングされたイオンは、イオントラップ38を介してガス充填衝突セル44(この実施形態では高エネルギー衝突解離(HCD)セル)に透過し、衝突セル44内でイオンを断片化させるようにイオントラップ38と衝突セル44との間のDCオフセットを設定することにより処理され得る。衝突セル44からの断片イオンは、質量分析器42への排出の前に、例えば衝突セルのDCオフセットを変更することにより、イオントラップ38に戻される。質量分析器は、分析されたイオンの質量スペクトルを提供する。
【0056】
イオン源12、RFイオン漏斗16、注入フラットポール20、四重極質量フィルタ28、イオントラップ38および質量分析器42、ならびに質量分析計の他のコンポーネントは、それぞれシステムコントローラ50の制御下にあり、これにより、イオンの生成、質量フィルタリング、質量分析を制御し得る。システムコントローラ50は、質量分析または検出されたイオンの量を表すデータを質量分析器から受け取り、データを処理してイオンの質量スペクトルおよび/または定量分析を提供するためのデータプロセッサとして機能するコンピュータを備える。システムコントローラ50は、ユーザが情報を表示および入力できるように、ディスプレイおよびインタラクション手段、特にキーボードおよび/またはマウスをさらに備える。
【0057】
システムコントローラ50は、本発明の方法を実行するように構成されたコンピュータの制御下で、様々な電圧供給源および関連する制御電子機器をさらに備える。システムコントローラ50は、設定された選択パラメータに従って、四重極質量フィルタ28を通して質量対電荷比の少なくとも1つの選択範囲を透過するように構成される。さらに、システムコントローラ50は、本発明に従って誘引および反発DC電圧が印加されるロッドを切り替えるために、四重極質量フィルタ28のロッド切り替えを制御する。
【0058】
上述のように、四重極質量フィルタ28を透過されない選択範囲外のイオンの一部は、ロッドと衝突し、ロッド上に汚染の蓄積をもたらす。本発明は、誘引および反発DC電圧が複数回印加される対向ロッドのペアを切り替え、それにより堆積材料を4本のロッドすべてにほぼ均等に分配する(「ロッド切り替え」または「切り替えロッド」)ことによってこれに対処する。
【0059】
4本のロッドすべてに材料を均等に堆積させるための簡単な手法の1つは、四重極を通過するイオンの負荷ごとに、すなわち質量フィルタリングステップごとにロッドを切り替えることである。例えば、40Hzの質量分析速度で動作する図2に示す種類の質量分析計の場合、四重極ロッドも同様に40Hzで切り替わる。しかしながら、この戦略は単純ではあるが、性能に大きな欠点がある各ロッドペアは典型的には互いに機械的に幾分異なるため、単一のイオンまたはある範囲のイオンを監視する場合、誘引および反発DC電圧が印加される対向ロッドのペアの各構成間の四重極を通るイオン透過の差は、振動信号強度として現れる。選択イオン監視(SIM)または選択(もしくは並列)反応監視(SRM/PRM)アプローチの場合、そのような信号の振動により、ピーク面積を使用した定量化の精度が低下する可能性がある。さらに、例えばデータ独立取得(DIA)スキームである範囲のイオンを分離する場合、質量選択ウィンドウの極値付近のイオンのロッド切り替え時の透過率の差は、各ロッドペアの較正の違いに起因して、選択ウィンドウの中心付近のイオンの透過率の差よりも大きくなり得る。同様に、単一の選択ウィンドウで複数のイオンの強度を比較する場合、これにより定量的精度が低下する。
【0060】
これらの欠点を最小限に抑えるために、好ましい実施形態は、四重極質量選択パラメータをコードにエンコードし、コードの特性をルールのセットと共に使用して、誘引DC電圧が印加される対向ロッドのペア、および反発DC電圧が印加される対向電極のペアを決定する。このようにして、ロッドの構成は、四重極質量フィルタの選択パラメータに基づいて切り替えられる。これにより、幅広い実験の種類にわたり、および実験間で定量的精度が保証される。システムコントローラ50は、選択パラメータの各セットについて一意のコードを計算し、少なくとも1つのルールに基づいて、一意のコードを使用して、誘引DC電圧が印加される対向電極のペアおよび反発DC電圧が印加される対向電極のペアを決定するように構成される。
【0061】
質量対電荷比の選択範囲を符号化する好ましい方法は、ハッシュコードを計算することを含む。ハッシュコードは、CRC-32、MD5、SHA-1等の任意の適切なアルゴリズムにより計算することができ、または他の既知のハッシュ関数が使用されてもよい。質量対電荷比の選択範囲を符号化する好ましい方法は、質量対電荷比の選択範囲の切り捨てられた中心質量のハッシュコードを計算することを含む。計算の結果、すなわちハッシュコードが偶数の場合、対向電極のペアの1つの構成が選択され、奇数の場合、対向電極のペアの他の構成が選択される。
【0062】
任意選択で、コントローラは、質量対電荷比ドメインにおける、例えば選択範囲の中央質量対電荷わたるロッドの切り替え周波数を増加または低減するために、ハッシュ値を係数で乗算または除算されてもよい。図3は、500~600Thの中心質量の選択範囲の中心質量で、誘引および反発DC電圧が印加される対向ロッドのペアの2つのロッドペア構成(AおよびBとして指定)がどのように変化するかを示している。ハッシュコードは、係数0.25、0.5、1.0、2.0および4.0で除算された切り捨てられた中心質量から計算された(それぞれプロット(a)、(b)、(c)、(d)、および(e))が、これにより中心質量での切り替え周波数が調節される。y軸ラベルの横には、ロッドペアAに割り当てられた選択中心質量のパーセンテージが示されている。中心質量の約50%が、ロッド構成Aに割り当てられる(したがって中心質量の約50%がロッド構成Bに割り当てられる)ことが分かる。この方法では、特定の質量選択中心質量に対するロッドの割り当ては、使用される選択範囲の幅に依存しない。しかしながら、いくつかの実施形態において、データ収集前に通常知られている予想される選択質量範囲が、質量対電荷ドメイン(中央質量ドメイン)内の切り替え間隔よりも十分に小さくなるように、例えば切り替え間隔の平均値を参照することにより、上記の係数を選択することが好ましくなり得る。これにより、後続の質量フィルタリングステップに選択される場合、幅wのウィンドウを使用した中心質量xの選択において、質量対電荷比が¥[x-0.5w、x+0.5w]以内の同時分離イオンが、ロッドペアの同じ構成で選択される可能性が高くなる。図3は、m/z500~600の中心質量範囲のロッド切り替え間隔に対する前述の係数の影響を示しており、係数(a)0.25、(b)0.5、(c)1.0、(d)2.0、および(e)4.0に対して、ロッド切り替え間隔は、それぞれ0.5~1.0Th、1.0~2.0Th、2.0~4.0Th、4.0~8.0Th、8.0~16.0Thである。一方、実験において、小さな質量対電荷範囲に含まれる既知のイオンの小さなセットのみが含まれる場合、ロッドペアの均等な使用を維持するためには、ロッド切り替え間隔を最小化する(すなわち、ロッド切り替えの数を最大化する)係数を設定する必要がある。
【0063】
代替として、コードは、選択質量範囲の幅を考慮して計算され得る。ハッシュコードは、例えば、選択範囲の切り捨てられた最初の質量を、範囲の切り上げられた最後の質量に連結した結果から計算され得る。ここで、特定の選択された中心質量対電荷に割り当てられたロッドペアの構成は、選択範囲の幅が変化する場合、必ずしも同じままではない。図4は、いくつかの選択範囲幅における、範囲の切り捨てられた最初の質量および範囲の切り上げられた最後の質量の連結からハッシュコードが計算された場合、2つのロッドペア構成AおよびBが、500~600Thの中心質量の選択範囲の中心質量でどのように変化するかを示している。幅は、0.4Th、1.0Th、2.0Thおよび10.0Thであった(それぞれ図4のプロット(a)、(b)、(c)および(d))。y軸ラベルの横には、ロッドペアAに割り当てられた選択中心質量のパーセンテージが示されている。中心質量の約50%が、ロッド構成Aに割り当てられる(したがって中心質量の約50%がロッド構成Bに割り当てられる)ことが分かる。いくつかの好ましい実施形態において、ハッシュコードを作成する様式は、実験的に比較可能な条件下で同じイオン種が(質量対電荷比に関して)分析されるたびに、四重極のロッドペアリングの同じ構成が選択されるという要件によって制限される。このようにして、アッセイの定量的精度が実験内および実験間で維持される。
【0064】
表1は、プロテオミクス等で一般的ないくつかの質量分析実験の種類でロッド切り替えが制御され得る方法のコードベースの戦略の例を示す:TopNデータ依存取得(DDA);オーバーラップしないウィンドウを使用したターゲットSIM;ターゲットSRM/PRM、等しいウィンドウを有するデータ独立取得(DIA);等しくないウィンドウを有するDIA;重複するウィンドウを有するDIA。ハッシュコードは、選択範囲の中心質量に基づいて、0.5の除算係数で、すなわち図3のスキーム(b)に従って計算された。表には、質量選択の質量範囲または中心質量(CM)が、CM/係数、ハッシュコード値、および四重極ロッド構成の割り当て(AまたはB)と共に示されている。
【0065】
表1に示されるのと同じコードベースの戦略が、典型的なプロテオミクス試料の代表的なtop15 DDA実験からのデータに取得後に適用されたが、結果は図5に示される。すべてのスキャン(MSおよびMS2)を考慮すると、四重極ロッド切り替え戦略により、質量選択のために2つの構成のロッドペアが約63%/37%使用される。しかしながら、ほとんどのイオンがデバイスを通過するためロッドの汚染に大きく寄与しないMSスキャンが使用量の計算に含まれない場合、ロッドペアの使用量は50%/50%でほぼ等しくなる。
【表1】
【0066】
コードベースの切り替えアプローチの代わりに、またはそれに加えて、ユーザのインタラクション、すなわち使用依存トリガに基づいて、特定の時点でロッドペアを切り替えることができる。使用依存または使用ベースのトリガは、1つ以上の時間依存またはイベント依存トリガを含み得る。例えば、ユーザが較正手順を実行するたびに、四重極ロッドが切り替えられてもよい。これは通常、定期的および/または一定間隔(毎日、毎週等)で行われるため、ロッド切り替えも同様に同時に定期的に行われる。ユーザは通常、途中の較正を実行せずに関連試料のセットを1つの実験ブロックで分析するため、これらの試料の分析間の比較は、同じロッドペア構成を使用してすべて取得されたため、定量的な正確性を維持する。
【0067】
ユーザのインタラクションに基づくアプローチの欠点は、場合によってはロッド切り替えの間隔が質量分析計のスキャン速度(例えば、40Hzのスキャン速度等のロッド切り替えイベント間の日または週)に比べて長くなり得ることであり、これはユーザのインタラクションに基づいているため、四重極ロッドペアの汚染負荷の正確な50/50バランスを達成する保証はない。したがって、そのようなアルゴリズムは、好ましくは、基準に基づいて切り替えイベントを省略するために、各ロッドペア構成の使用状況(例えば、費やした時間、スキャン数または負荷)を追加で追跡し(例えば、較正が連続して複数回開始された場合、または以前の較正のスキャンのある特定の回数内で開始された場合)、それによってロッドペアに対する汚染負荷バランスを改善するべきである。これは、単純な場合、時間単位(ロッドのペアAおよびBを使用したすべての注入の合計イオン注入時間)、または充電単位(例えば、各イオン注入のOrbitrapで測定されたイオン電流を追加で考慮することにより(上記のように、AおよびB構成で蓄積された総電荷または電極で失われた総電荷を考慮して(すなわち、実質的にすべてのイオンが(例えば、DDA実験での以前のMS1スキャンで)四重極フィルタを介して透過した場合のイオン電流と、質量フィルタリングイベント後に残ったイオン電流との比較により))において、合計イベント(A構成でのx回のイオン注入、B構成でのx回イオン注入)の追跡を含み得る。
【0068】
いくつかの好ましい実施形態において、質量分析計は、例えば定期的な較正または評価の一部として、衝突する単位電荷あたりの四重極主セグメント電極DC停止曲線におけるシフトとして、対向電極の各ペアの充電速度を追跡することができる。これは、典型的には四重極主セグメントのオフセットをスキャンすることにより、四重極を通るイオンエネルギーに対する透過(イオン電流)をスキャンすることで測定され得る。代替として、湾曲したフラットポール24およびすべての先行する光学系等の上流イオン光学系の電圧を変更することにより、イオンエネルギーをスキャンすることができる。イオン電流対イオンエネルギーは、イオンが四重極ロッドより低い電位から開始すると透過率がゼロであり、エネルギーが高いと完全に透過する特性S曲線を示す。S曲線の中心(透過率50%)は、四重極ロッドの実際の有効オフセットを示している。代替として、対向電極の各ペアの充電率を測定する別のアプローチは、正イオンが対向電極の一方のペアにのみ堆積し、負イオンが他方のペアにのみ堆積するように分光計を設定し、対向電極のペアの両方の構成に対する四重極の透過比率を断続的に測定し(例えば正イオンで)、これらの堆積および透過測定のステップを経時的に交互に継続することであってもよい。さらに、対向電極の各構成の透過曲線が「清浄」状態に対して互いにどの程度逸れているかを測定することにより、対向電極の各ペアの充電速度を測定することができる。この充電速度は、電極の2つのペアの相対的な汚染レベルと相関している。分光計コントローラは、2つの速度(各電極ペアの速度)を比較し、この情報を能動的平衡化システムに供給することができる。平衡化システムでは、前述のトラッキング測定値の1つ以上を監視することでロッドペアの使用量の不均衡が検出されると、システムはロッド切り替えアルゴリズムを能動的にバイアスして、ロッドの使用量を平衡化状態にする(各ロッドペアで等しい時間および/または汚染)。これは、(アプリケーションモードに応じて)ハッシュアルゴリズムを変更することで、または各ロッドペアに異なる時間を使用する(例えば、構成Aで5秒、構成Bで5秒の代わりに、Aで5秒、構成Bで4秒を使用する)ことで時間ベースの切り替えアルゴリズムを使用する場合、または1つ以上のロッドペア切り替えイベントを省略してイベントトリガモードを使用する場合達成され得る。
【0069】
コードベースのアプローチおよび使用トリガロッド切り替えアプローチの組み合わせが使用されてもよく、また、コードベースのアプローチは、MS2スキャンでの高い切り替え速度およびロッドペアの使用の良好なバランスを提供し得、使用トリガアプローチは、固定ウィンドウMSスキャンを長期間にわたって平衡化し得るため、組み合せが好ましくなり得る。
【0070】
本発明によるロッド切り替えの利点を説明するために、汚染堅牢性実験の結果を図6に示す。ユビキチンの高濃度試料を、数週間(300時間超)にわたり継続的に分析した。8時間にわたり、図2に示す質量分析計の四重極質量フィルタにより、ユビキチンの上位10の強度電荷状態が周期的に選択された。この期間の後、質量分析計は、経時的な質量分離プロファイルにおけるドリフト(分離質量に対する正規化強度)を測定することにより、四重極の汚染を評価するテストを実行した。1つの分離ウィンドウ、m/z74幅0.8Thの例を図6に示す。ウィンドウの幅は、最大強度の半分の幅として測定される。ロッド切り替えが無効になった場合(図6A)、300時間のユビキチン分析にわたり、分離プロファイル幅誤差(理論(セット)の幅に対して)は最大35%逸脱し、中心質量誤差(理論(セット)の中心質量に対して)は最大-20%逸脱した。本発明に従ってロッド切り替えが有効化された場合(図6B)、分離幅誤差および中心質量誤差の両方が理論値の±10%未満だけ逸脱した。したがって、いくつかの実施形態は、四重極質量フィルタを透過したイオンの最も狭い選択範囲について、電極の汚染の蓄積に起因して四重極質量フィルタのイオン透過効率が50%以上低下すると、最大値の半分のイオン透過率の範囲の幅が10%以下変化することを提供することができる。
【0071】
いくつかの重要なユーザアプリケーションでは、ユーザは、例えば質量分析計のシステムコントローラ50のソフトウェアの設定(例えば、「Small Molecule Quantification」設定または「Proteomics」設定等)によって、目的のアプリケーションを選択することができる。次いで、質量分析計のコントローラは、そのアプリケーションの事前に決定された(精度/堅牢性)要件に基づいて、ロッド切り替えを使用するかどうか、および分析中に適用するロッド切り替えアルゴリズムまたは機能の種類を決定する。
【0072】
本発明は、好ましくは、分析分解能を有する四重極質量フィルタ、好ましくは、例えば20Th以下、10Th以下、5Th以下、2Th以下、または1Th以下、特に2Th以下、または1Th以下の幅を有する比較的狭い選択質量範囲のフィルタリングが可能であり、また典型的にはそれに使用される分析四重極質量フィルタに適用される。しかしながら、本発明は、分析質量フィルタの上流で分析性能が低下した1つ以上の追加の四重極質量フィルタと組み合わせて、そのような四重極質量フィルタで実施することができる。質量分離の忠実度は、質量フィルタを通って移動する間にイオンが受けるRFサイクルの数によって決まり、通常はフィルタの長さによって定義される。したがって、いくつかの実施形態において、例えば、第1の(そして最短の)質量フィルタは、100Th超の(例えば300Thの)質量ウィンドウを分離することができ、任意選択の第2の(そして第1より長い)質量フィルタは、10~50Th(例えば20Th)のウィンドウを分離することができ、第3の高解像度分析フィルタは、1Th未満(例えば0.4Th)のウィンドウを分離することができる。1200Thの質量範囲にわたり単純にイオンが均一に分布すると仮定すると、第1のフィルタはロッド上のすべてのイオンの75%、第2のフィルタはすべてのイオンの23.3%、第3の分析フィルタはすべてのイオンの1.6%を吸収する。上記のように、図2に示される質量分析計では、注入フラットポール20は分析質量フィルタ28の上流の第1の四重極質量フィルタとして機能し得る。そのような実施形態において、1つの四重極質量フィルタを備えたロッド切り替えのための上述の方法および手段は、四重極質量フィルタのシリーズ内の任意の数の質量フィルタに同様に適用され得る。切り替えイベントは、各質量フィルタで同じであってもよい。理想的には、質量フィルタの1つ、例えば最終分析フィルタが、シリーズ内のフィルタのすべてに対してロッドの切り替え状態を決定する。換言すれば、分析質量フィルタのロッド切り替えは、他の質量フィルタをトリガして、同時にロッドを切り替える。定量的精度を維持するために、他のフィルタのロッド切り替え状態は、分析フィルタの特定の状態に常にリンクされていることが好ましい(例えば3フィルタシリーズの場合、ロッドペア構成BABおよびABAの切り替え)。
【0073】
本発明の使用から生じる汚染堆積の対称性は、汚染されたロッドの漸進的な帯電も対称的に生じることを保証する。堆積材料の帯電が徐々に増加することにより形成されるイオン移動の経路に沿った電位障壁の増加は、イオンが質量フィルタを通過するのを徐々に妨げる。したがって、電極上の汚染の蓄積に起因して四重極質量フィルタのイオン透過が低下する場合、四重極質量フィルタに入射するときにイオンのエネルギーを増加させることが好ましくなり得る。イオンエネルギーは、例えば、イオン光学デバイス、レンズ等の間のDCオフセットを調整することにより調整することができる。したがって、いくつかの実施形態において、特に長期間の動作にわたり、イオンの生成および質量フィルタリングのステップを複数回繰り返す過程で、四重極質量フィルタに入射するイオンのエネルギーは、電極上の汚染の蓄積に伴って徐々に増加する。2つ以上の四重極質量フィルタのシリーズを有する実施形態において、各フィルタにおいて充電からの電位障壁がほぼ同時にイオン透過に影響を与えるように、各フィルタにおけるイオンエネルギーは、各フィルタで予想される汚染の異なる蓄積速度に従って調整または選択され得る(例えば、イオンエネルギーは、第1のフィルタにおいて20eV、第2のフィルタにおいて6eV、および第3のフィルタにおいて0.5eV)。その後、同じ清浄化セッション中に質量フィルタのすべてを清浄化できるため、結果として機器のダウンタイムが短縮される。したがって、イオンが四重極質量フィルタのそれぞれに入射するときのイオンの相対エネルギーは、質量フィルタの質量選択範囲の長さおよび/または平均幅に応じて調整され得る。
【0074】
本明細書の開示から、本発明が多くの利点を提供することが分かる。ロッド切り替えを提供することにより、定量的および/または定性的性能を大幅に犠牲にすることなく、清浄化が必要となるまでの四重極質量フィルタの作業時間が延長され得る。本発明は、プロテオミクス実験、すなわち、DDAおよびDIAモードの両方での多重荷電タンパク質およびペプチドの分析に関連する汚染問題に対処するのに特に有益である。質量フィルタ汚染は、対向電極のペアに関する非対称汚染プロセスから対称汚染プロセスに変換されるため、場合によっては四重極の堅牢性を少なくとも2倍拡張し、フィルタの各点検(電極の清浄化)間の時間を延長する。本発明の実施形態は、例えば質量選択ウィンドウ依存アルゴリズム(質量選択パラメータをコードするハッシュ技術等)ならびに/または反発および誘引DCロッドペアの選択および割り当てのためのユーザ/モード依存トリガを使用して、多くの実験の種類の汚染対称性および定量的性能の維持の両方を保証する。汚染の影響は、イオンのエネルギーを調整する、および/またはロッド切り替えを有する1つ以上のプレフィルタを使用することによってさらに低減され得る。
【0075】
本明細書において、質量という用語は、一般に、トムソン(Th)での質量対電荷比(m/z)を指すように使用される。いくつかの実施形態はイオンの質量または質量対電荷比を決定するが、これは本発明の動作の成功に必須ではないことが理解されよう。飛行時間、周波数、電圧、磁場の偏向等(ただしこれらに限定されない)の多くの異なる物理的パラメータが測定され得る(例えば、選択したイオン検出方法に依存する)が、これらはそれぞれ、イオン質量(m/z)の導出に関連する、またはそれを可能にする、すなわち質量(m/z)を表す。しかしながら、各々の場合において質量(m/z)自体を計算する必要はなく、非質量空間で測定されたパラメータを質量に変換しない方が計算上効率的となり得る。さらに、比較データベースに保存されている量は、それ自体質量として保持されなくてもよく、代わりに質量に関連する別の量が保持されてもよい。したがって、本明細書における質量スペクトルという用語は、m/zドメインにおけるスペクトル、またはm/zドメインに直接関連する、もしくはm/zドメインから導出可能なドメイン、例えば周波数ドメイン等におけるスペクトルを意味する。また、質量という用語は、一般的にm/z、または周波数もしくはm/zに直接関係する任意の他の量を指し、逆もまた成り立つ(例えば、周波数という用語は質量等も指す)。質量およびm/zという用語は、本明細書において互換的に使用され、したがって一方への言及は他方への言及を含む。
【0076】
本明細書において提供される任意のおよびすべての例、または例示的な言い回し(「例えば(for instance)」、「例えば~等(such as)」、「例えば(for example)」、および同様の言い回し)の使用は、単に、発明をより良く例示することを意図し、特に特許請求されない限り、本発明の範囲への限定を示すものではない。本明細書におけるいずれの言い回しも、本発明の実施に不可欠なものとしていかなる特許請求されない要素を示すものとして解釈されるべきではない。
【0077】
特許請求の範囲を含む、本明細書において使用される際、特に文脈が示さない限り、本明細書における用語の単数形は、複数形を含むものとして解釈され、逆の場合も同様である。例えば、特に文脈が示さない限り、特許請求の範囲を含む本明細書における単数形の指示語、「a」または「an」等は、「1つ以上」を意味する。
【0078】
本明細書の記載および特許請求の範囲全体を通して、単語「備える(comprise)」、「含む」、「有する」、および「含有する」、ならびにそれらの単語の変形、例えば、「備えている(comprising)」および「備える(comprises)」等は、「限定されるものではないが、~を含む」を意味し、他の構成要素を排除することを意図されない(および排除しない)。
【0079】
本発明はまた、これらの用語、特徴、値、および範囲等が、約、およそ、概して、実質的に、本質的に、少なくとも等の用語と組み合わせて使用される場合、その厳密な用語、特徴、値、および範囲等も包含する(例えば、「約3」はまた厳密に3を包含する、または「実質的に一定」はまた厳密に一定を包含する)。
【0080】
「少なくとも1つ」という用語は「1つ以上」を意味すると理解されるべきであり、したがって、1つまたは複数の構成要素を含む両方の実施形態を含む。さらに、「少なくとも1つ」を用いて機能を説明している独立請求項を参照する従属請求項は、その機能が「前記」および「前記少なくとも1つ」と呼ばれる両方の場合に同じ意味を有する。
【0081】
本明細書に記載された任意のステップは、異なるように記載されていない限り、または文脈により別の意味が必要とされない限り、任意の順序で、または同時に実行され得る。
【0082】
本明細書に開示される特徴のすべては、そのような特徴および/またはステップのうちの少なくともいくつかが相互排他的である組み合わせを除いて、任意の組み合わせで組み合わされてもよい。特に、本発明の好適な特徴は、本発明のすべての態様に適用可能であり、任意の組み合わせで使用されてもよい。同様に、必須ではない組み合わせで記述された特徴は、(組み合わせてではなく)別々に使用されてもよい。
【0083】
本発明の前述の実施形態は、本発明の範囲内であることを維持しながら修正され得ることが認識されよう。本明細書に開示される各特徴は、別段に指定されない限り、同じ、同等、または類似の目的を果たす代替の特徴と置き換えられてもよい。したがって、別段に指定されない限り、開示される各特徴は、包括的な一連の同等または類似の特徴の単なる一例である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6