(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】化合物
(51)【国際特許分類】
C07D 311/76 20060101AFI20220405BHJP
【FI】
C07D311/76 CSP
(21)【出願番号】P 2020081924
(22)【出願日】2020-05-07
(62)【分割の表示】P 2017510063の分割
【原出願日】2016-03-29
【審査請求日】2020-06-08
(31)【優先権主張番号】P 2015070470
(32)【優先日】2015-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504402429
【氏名又は名称】株式会社藤本分子化学
(73)【特許権者】
【識別番号】507420835
【氏名又は名称】株式会社エヌビィー健康研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】509065322
【氏名又は名称】株式会社ハイファジェネシス
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(74)【代理人】
【識別番号】100165847
【氏名又は名称】関 大祐
(72)【発明者】
【氏名】藤本 賢二
(72)【発明者】
【氏名】安井 美葉弥
(72)【発明者】
【氏名】辻本 恭
(72)【発明者】
【氏名】石崎 孝之
(72)【発明者】
【氏名】須藤 ユリ
(72)【発明者】
【氏名】内田 有紀
(72)【発明者】
【氏名】横田川 高峰
(72)【発明者】
【氏名】漆畑 祐司
(72)【発明者】
【氏名】藤川 和世
(72)【発明者】
【氏名】品川 雅彦
【審査官】小川 知宏
(56)【参考文献】
【文献】特許第6846338(JP,B2)
【文献】国際公開第2016/159021(WO,A1)
【文献】MULLADY E. L. et al.,A phthalide with in vitro growth inhibitory activity from an Oidiodendron strain,J. Nat. Prod.,2004年,67(12), 2086-2089,(Figure 1.、化合物1、第2086頁左欄第2段落)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 311/76
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
6,7,8-トリメトキシ-1-ペンチル-1H-イソクロメン-3(4H)-オン又はその薬学的に許容される溶媒和物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規イソクロメン誘導体化合物及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2014-185108号公報には,抗癌作用を有するイソクロメン誘導体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のとおり,イソクロメン誘導体は抗癌活性を含め様々な用途がある。このため,新規イソクロメン誘導体の開発が望まれる。そこで,本発明は,新規イソクロメン誘導体及びその用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の側面は,以下の式(I)又は式(II)で示される化合物,その薬学的に許容される塩又はその薬学的に許容される溶媒和物に関する。
【0006】
【0007】
上記式中,
R1は,水素原子,又はハロゲン原子を示し,
R2~R4は,同一でも異なってもよく,水素原子,ハロゲン原子,水酸基,-OR11で示される基,又は-O(C=O)R12で示される基を示し,
R5は,水素原子又はハロゲン原子であるか,又は,R13で置換されてもよい直鎖又は分鎖のC1-6又はC8-9アルキル基を示し,
R6及びR7は,同一でも異なってもよく,水素原子,ハロゲン原子,又はハロゲン原子で置換されてもよい直鎖又は分鎖のC1-3アルキル基を示し,
R8は,水素原子,ハロゲン原子,又はハロゲン原子で置換されてもよい直鎖又は分鎖のC1-3アルキル基を示し,
nは,0又は1を示し,
R11は,ハロゲン原子,直鎖又は分鎖のC1-3アルキル基を示し,
R12は,水素原子,直鎖又は分鎖のC1-3アルキル基を示し,
R13は,水酸基,ハロゲン原子,C5-8シクロアルキル基を示す。
【0008】
上記の化合物,その薬学的に許容される塩又はその薬学的に許容される溶媒和物の好ましい例は,
R1は,水素原子,フッ素原子,塩素原子,又は臭素原子を示し,
R2は,水素原子,フッ素原子,塩素原子,又は臭素原子,水酸基,又は-OCH3を示し,
R3は,水酸基を示し,
R4は,水素原子,フッ素原子,塩素原子,又は臭素原子,水酸基,又は-OCH3で示される基を示し,
R5は,シクロヘキシル基で置換されてもよい直鎖のC1-6又はC8-9アルキル基を示し,
R6及びR7は,水素原子,又は直鎖又は分鎖のC1-3アルキル基を示し,
R8は,水素原子,フッ素原子,塩素原子,臭素原子,又はC1-2アルキル基を示す,
化合物,その薬学的に許容される塩又はその薬学的に許容される溶媒和物である。
【0009】
上記の化合物,その薬学的に許容される塩又はその薬学的に許容される溶媒和物の好ましい例は,
R1は,水素原子,フッ素原子,塩素原子,又は臭素原子を示し,
R2は,水酸基,又は-OCH3を示し,
R3は,水酸基を示し,
R4は,水酸基,又は-OCH3で示される基を示し,
R5は,シクロヘキシル基で置換されてもよい直鎖のC1-6又はC8-9アルキル基を示し,
R6及びR7は,水素原子,又は直鎖のC1-3アルキル基を示し,
R8は,水素原子,又はC1-2アルキル基を示す,
化合物,その薬学的に許容される塩又はその薬学的に許容される溶媒和物である。
【0010】
上記の化合物,その薬学的に許容される塩又はその薬学的に許容される溶媒和物の好ましい例は,
R1は,水素原子,又は臭素原子を示し,
R2は,水素原子,又は水酸基を示し,
R3は,水酸基を示し,
R4は,水素原子,水酸基,又は-OCH3で示される基を示し,
R5は,シクロヘキシル基で置換されてもよい直鎖のC1-6又はC8-9アルキル基を示し,
R6及びR7は,水素原子,又はメチル基を示し,
R8は,水素原子,又はC1-2アルキル基を示す,
化合物,その薬学的に許容される塩又はその薬学的に許容される溶媒和物である。
【0011】
上記の化合物,その薬学的に許容される塩又はその薬学的に許容される溶媒和物の好ましい例は,
式(I)又は式(II)で示される化合物が,
2-ヘキサノイル-3,4,5-トリメトキシフェニル酢酸エチルエステル,
6,7,8-トリメトキシ-1-フェニル-1H-イソクロメン-3(4H)-オン,
4,5,6-トリメトキシ-3-ペンチルイソベンゾフラン-1(3H)-オン,
4,5,6-トリヒドロキシ-3-ペンチルイソベンゾフラン-1(3H)-オン,
4,5-ジヒドロキシ-6-メトキシ-3-ペンチルイソベンゾフラン-1(3H)-オン,
4,6-ジヒドロキシ-5-メトキシ-3-ペンチルイソベンゾフラン-1(3H)-オン,
7-ブロモ-4,5,6-トリメトキシ-3-ペンチルイソベンゾフラン-1(3H)-オン,
7-ブロモ-4,5,6-トリヒドロキシ-3-ペンチルイソベンゾフラン-1(3H)-オン,
7-ブロモ-4,5-ジヒドロキシ-6-メトキシ-3-ペンチルイソベンゾフラン-1(3H)-オン,又は
7-ブロモ-4,6-ジヒドロキシ-5-メトキシ-3-ペンチルイソベンゾフラン-1(3H)-オンである,
化合物,その薬学的に許容される塩又はその薬学的に許容される溶媒和物である。
【0012】
上記の化合物,その薬学的に許容される塩又はその薬学的に許容される溶媒和物の好ましい例は,
式(I)又は式(II)で示される化合物が,6,7,8-ヒドロキシ-1-フェニル-1H-イソクロメン-3(4H)-オンである,
化合物,その薬学的に許容される塩又はその薬学的に許容される溶媒和物である。
【0013】
本発明の第2の側面は,上記したいずれかの化合物,その薬学的に許容される塩又はその薬学的に許容される溶媒和物の1種以上を有効成分として含む,RSK1阻害剤に関する。
【0014】
本発明の第3の側面は,上記したいずれかの化合物,その薬学的に許容される塩又はその薬学的に許容される溶媒和物の1種以上を有効成分として含む,AKT阻害剤に関する。
【0015】
本発明の第4の側面は,上記したいずれかの化合物,その薬学的に許容される塩又はその薬学的に許容される溶媒和物の1種以上を有効成分として含む,癌の治療剤に関する。
【0016】
本発明の第5の側面は,上記したいずれかの化合物,その薬学的に許容される塩又はその薬学的に許容される溶媒和物の1種以上を有効成分として含む,線維症の治療剤に関する。
【0017】
本発明の第6の側面は,上記したいずれかの化合物,その薬学的に許容される塩又はその薬学的に許容される溶媒和物の1種以上を有効成分として含む,心血管病の治療剤に関する。
【0018】
本発明の第7の側面は,上記したいずれかの化合物,その薬学的に許容される塩又はその薬学的に許容される溶媒和物の1種以上を有効成分として含む,血管新生関連疾患の治療剤に関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば,新規イソクロメン誘導体を提供できる。また,本発明は,新規イソクロメン誘導体の,RSK1阻害剤,AKT阻害剤,癌の治療剤,線維症の治療剤,心血管病の治療剤及び血管新生関連疾患の治療剤の有効成分としての用途をも提供する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1A】
図1Aは,NH4(培養品)のNMRチャートを示す。
【
図1B】
図1Bは,NH4(合成品)のNMRチャートを示す。
【
図2】
図2に得られたMH4のマススペクトルを示す。
【
図3】
図3は,本発明の化合物(NH4)のAKT2,RSK1に対する酵素阻害作用を示す図面に替わるグラフである。
【
図4】
図4は,本発明の化合物(NH4)の乳がん由来細胞MCF7,乳腺由来正常細胞MCF10Aに対する細胞増殖阻害作用の代表的事例を示す図面に替わるグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下,図面を用いて本発明を実施するための形態について説明する。本発明は,以下に説明する形態に限定されるものではなく,以下の形態から当業者が自明な範囲で適宜修正したものも含む。
【0022】
本発明の化合物
本発明の第1の側面は,以下の式(I)又は式(II)で示される化合物,その薬学的に許容される塩又はその薬学的に許容される溶媒和物に関する。これらの化合物を,本発明の化合物ともよぶ。
【0023】
【0024】
上記式中,
R1は,水素原子,又はハロゲン原子を示し,
R2~R4は,同一でも異なってもよく,水素原子,ハロゲン原子,水酸基,-OR11で示される基,又は-O(C=O)R12で示される基を示し,
R5は,水素原子又はハロゲン原子であるか,又は,R13で置換されてもよい直鎖又は分鎖のC1-6又はC8-9アルキル基を示し,
R6及びR7は,同一でも異なってもよく,水素原子,ハロゲン原子,又はハロゲン原子で置換されてもよい直鎖又は分鎖のC1-3アルキル基を示し,
R8は,水素原子,ハロゲン原子,又はハロゲン原子で置換されてもよい直鎖又は分鎖のC1-3アルキル基を示し,
nは,0又は1を示し,
R11は,ハロゲン原子,直鎖又は分鎖のC1-3アルキル基を示し,
R12は,水素原子,直鎖又は分鎖のC1-3アルキル基を示し,
R13は,水酸基,ハロゲン原子,C5-8シクロアルキル基を示す。
【0025】
上記の化合物,その薬学的に許容される塩又はその薬学的に許容される溶媒和物の好ましい例は,
R1は,水素原子,フッ素原子,塩素原子,又は臭素原子を示し,
R2は,水素原子,フッ素原子,塩素原子,又は臭素原子,水酸基,又は-OCH3を示し,
R3は,水酸基を示し,
R4は,水素原子,フッ素原子,塩素原子,又は臭素原子,水酸基,又は-OCH3で示される基を示し,
R5は,シクロヘキシル基で置換されてもよい直鎖のC1-6又はC8-9アルキル基を示し,
R6及びR7は,水素原子,又は直鎖又は分鎖のC1-3アルキル基を示し,
R8は,水素原子,フッ素原子,塩素原子,臭素原子,又はC1-2アルキル基を示す,
化合物,その薬学的に許容される塩又はその薬学的に許容される溶媒和物である。
【0026】
上記の化合物,その薬学的に許容される塩又はその薬学的に許容される溶媒和物の好ましい例は,
R1は,水素原子,フッ素原子,塩素原子,又は臭素原子を示し,
R2は,水酸基,又は-OCH3を示し,
R3は,水酸基を示し,
R4は,水酸基,又は-OCH3で示される基を示し,
R5は,シクロヘキシル基で置換されてもよい直鎖のC1-6又はC8-9アルキル基を示し,
R6及びR7は,水素原子,又は直鎖のC1-3アルキル基を示し,
R8は,水素原子,又はC1-2アルキル基を示す,
化合物,その薬学的に許容される塩又はその薬学的に許容される溶媒和物である。
【0027】
上記の化合物,その薬学的に許容される塩又はその薬学的に許容される溶媒和物の好ましい例は,
R1は,水素原子,又は臭素原子を示し,
R2は,水素原子,又は水酸基を示し,
R3は,水酸基を示し,
R4は,水素原子,水酸基,又は-OCH3で示される基を示し,
R5は,シクロヘキシル基で置換されてもよい直鎖のC1-6又はC8-9アルキル基を示し,
R6及びR7は,水素原子,又はメチル基を示し,
R8は,水素原子,又はC1-2アルキル基を示す,
化合物,その薬学的に許容される塩又はその薬学的に許容される溶媒和物である。
【0028】
上記の化合物,その薬学的に許容される塩又はその薬学的に許容される溶媒和物の好ましい例は,
式(I)又は式(II)で示される化合物が,
2-ヘキサノイル-3,4,5-トリメトキシフェニル酢酸エチルエステル,
6,7,8-トリメトキシ-1-フェニル-1H-イソクロメン-3(4H)-オン,
4,5,6-トリメトキシ-3-ペンチルイソベンゾフラン-1(3H)-オン,
4,5,6-トリヒドロキシ-3-ペンチルイソベンゾフラン-1(3H)-オン,
4,5-ジヒドロキシ-6-メトキシ-3-ペンチルイソベンゾフラン-1(3H)-オン,
4,6-ジヒドロキシ-5-メトキシ-3-ペンチルイソベンゾフラン-1(3H)-オン,
7-ブロモ-4,5,6-トリメトキシ-3-ペンチルイソベンゾフラン-1(3H)-オン,
7-ブロモ-4,5,6-トリヒドロキシ-3-ペンチルイソベンゾフラン-1(3H)-オン,
7-ブロモ-4,5-ジヒドロキシ-6-メトキシ-3-ペンチルイソベンゾフラン-1(3H)-オン,又は
7-ブロモ-4,6-ジヒドロキシ-5-メトキシ-3-ペンチルイソベンゾフラン-1(3H)-オンである,
化合物,その薬学的に許容される塩又はその薬学的に許容される溶媒和物である。
【0029】
上記の化合物,その薬学的に許容される塩又はその薬学的に許容される溶媒和物の好ましい例は,
式(I)又は式(II)で示される化合物が,6,7,8-ヒドロキシ-1-フェニル-1H-イソクロメン-3(4H)-オンである,
化合物,その薬学的に許容される塩又はその薬学的に許容される溶媒和物である。
【0030】
ハロゲン原子の例は,フッ素原子,塩素原子,臭素原子,又はヨウ素原子であり,例えばフッ素原子,塩素原子,又は臭素原子が好ましい。
【0031】
直鎖又は分鎖のC1-6又はC8-9アルキル基は,炭素数が1-6,8-9個の直鎖アルキル基又は分鎖(分岐)アルキル基を意味する。C1-6アルキル基の例は,メチル基,エチル基,プロピル基,イソプロピル基,ブチル基,イソブチル基,sec-ブチル基,tert-ブチル基,ペンチル基,及びヘキシル基である。C8-9アルキル基の例は,オクチル基,又はノニル基である。
C1-3アルキル基の例は,メチル基,エチル基,プロピル基,及びイソプロピル基である。
【0032】
C5-8シクロアルキル基の例は,シクロペンチル基,シクロヘキシル基,シクロヘプチル基,及びシクロオクチル基である。
【0033】
その薬学的に許容される塩は,式(I)又は式(II)で示されるいずれかの化合物の塩を意味する。塩は,エステルを構成する基や保護基であってもよい。薬学的に許容される塩の例は,ナトリウム,カリウム等のアルカリ金属との塩,塩酸塩,硫酸塩,硝酸塩,リン酸塩,炭酸塩,炭酸水素塩,過塩素酸塩等の無機酸塩;例えば酢酸塩,プロピオン酸塩,乳酸塩,マレイン酸塩,フマール酸塩,酒石酸塩,リンゴ酸塩,クエン酸塩,アスコルビン酸塩等の有機酸塩;例えばメタンスルホン酸塩,イセチオン酸塩,ベンゼンスルホン酸塩,トルエンスルホン酸塩等のスルホン酸塩;例えばアスパラギン酸塩,グルタミン酸塩等の酸性アミノ酸塩である。
【0034】
その薬学的に許容される溶媒和物は,式(I)又は式(II)で示されるいずれかの化合物の溶媒和物を意味する。溶媒和物の例は水和物である。
【0035】
本発明の化合物の製造方法
式(I)及び(II)においてnが1の化合物の合成方法
【0036】
【0037】
式(A-1)で示される化合物と,R8OHで示されるアルコールとを反応させることで,式(A-2)で示される化合物を得る。
この反応は,例えば,室温において攪拌下,濃硫酸の触媒を用いて反応を行えばよい。反応時間の例は,10時間以上2日以下である。アルカリ(例えば重曹水)を添加することで反応を停止させることができる。反応後の化合物を適宜,抽出する。反応後の化合物を抽出する際には,例えば飽和食塩水と酢酸エチルの混合液を用い,油層を抽出すればよい。抽出された化合物を,硫酸マグネシウムといった乾燥剤を用いて乾燥し,ろ過,濃縮,及び精製を行って,式(A-2)で示される化合物を得ればよい。上記の式においてMeはメチル基本を意味する。メチル基に替えてエチル基を用いてもよい。また,式中のR1,R6,R7,及びR8は,先に定義したと同様のものであり,公知の保護基で保護されていてもよい。
【0038】
【0039】
式(A-2)で示される化合物に,R5CO2Hで示されるカルボン酸化合物を反応させ,式(A-3)で示される化合物を得る。
反応は,酸(例えばリン酸)の存在下,室温において10時間以上2日以下攪拌して行えばよい。反応後,上記カルボン酸化合物を蒸留により取り除き,アルカリ(例えば重曹水)を添加することで反応を停止させることができる。反応後の化合物を適宜,抽出する。反応後の化合物を抽出する際には,例えば酢酸エチルを用い,油層を抽出すればよい。抽出された化合物を,硫酸マグネシウムといった乾燥剤を用いて乾燥し,ろ過,濃縮,及び精製を行って,式(A-2)で示される化合物を得ればよい。
【0040】
【0041】
式(A-3)で示される化合物の溶液に,氷冷下,ルイス酸(例えば三臭化ホウ素のジクロロメタン溶液)又はブレンステッド酸を滴下することで,1~3個のメトキシ基を水酸基に置換することができる。そして,水酸基をアシル化するためには,例えば,DMAP(ジメチルアミノピリジン)触媒の存在下に酸無水物を混合すればよい。また,水酸基をアルキル化するためには,公知のアルキル化剤(例えば,ピリジン中ジメチルホルムアミド/ジメチルアセタールやペンタフルオロベンジルブロマイド)を作用させればよい。R2~R4が水素のものは,出発物質である式(A-1)で示される化合物におけるメトキシ基(-OMe)を水素原子に変えた化合物を用いればよい。このようにして,式(II)においてnが1である化合物(式(II’)で示される化合物)を得ることができる。
【0042】
次に,式(I)においてnが1である化合物(式(I’)で示される化合物)の製造方法について説明する。先に説明した式(A-3)で示される化合物を,上記と同様にして合成する。
【0043】
【0044】
式(A-3)で示される化合物のアルコール溶液に,還元剤(たとえば,NaBH4)を作用させ,閉環させることで,式(A-4)で示される化合物を得る。この反応は,例えば氷冷攪拌条件で,30分以上2時間以下反応させる。反応を停止させる際には,酸(例えば塩酸)を添加すればよい。反応後の化合物を適宜,抽出する。反応後の化合物を抽出する際には,例えば飽和食塩水と酢酸エチルの混合液を用い,油層を抽出すればよい。抽出された化合物を,硫酸マグネシウムといった乾燥剤を用いて乾燥し,ろ過,濃縮,及び精製を行って,式(A-4)で示される化合物を得ればよい。
【0045】
【0046】
式(A-4)のメトキシ基を1~3個水酸基(-OH)に置換する方法
式(A-4)で示される化合物の溶液に,氷冷下,ルイス酸(例えば三臭化ほう素のジクロロメタン溶液)を滴下することで,1~3個のメトキシ基を水酸基に置換することができる。そして,水酸基をアシル化するためには,例えば,DMAP(ジメチルアミノピリジン)触媒の存在下に酸無水物を混合すればよい。また,水酸基をアルキル化するためには,公知のアルキル化剤(例えば,ピリジン中ジメチルホルムアミド/ジメチルアセタールやペンタフルオロベンジルブロマイド)を作用させればよい。R2~R4が水素のものは,出発物質である式(A-1)で示される化合物におけるメトキシ基(-OMe)を水素原子に変えた化合物を用いればよい。このようにして,式(I)においてnが1である化合物(式(I’)で示される化合物)を得ることができる。
【0047】
式(I)及び(II)においてnが0の化合物の合成方法
【0048】
【0049】
式(B-1)で示される化合物の無極性溶媒(例えばテトラヒドロフラン)溶液に,N(R10)2で示される化合物(例えばジエチルアミン)を作用させ,式(B-2)で示される化合物を得る。上記式においてR9は,ハロゲン原子を示し,R10はC1-3アルキル基を示す。
上記の反応は,氷冷下において30分から2時間反応させた後,室温で30分から2時間攪拌することにより行えばよい。反応を停止させる際には,飽和食塩水を添加すればよい。反応後の化合物を適宜,抽出する。反応後の化合物を抽出する際には,例えば酢酸エチルを用い,油層を抽出すればよい。抽出された化合物を,硫酸マグネシウムといった乾燥剤を用いて乾燥し,ろ過,濃縮,及び精製を行って,式(B-2)で示される化合物を得ればよい。
【0050】
【0051】
式(B-2)で示される化合物の極性溶媒(例えばジメチルホルムアミド)溶液にハロゲン化剤(例えば,N-臭化スクシンイミド)を加え,室温にて10時間から2日攪拌し反応を行う。反応を停止させる際には,飽和食塩水を添加すればよい。反応後の化合物を適宜,抽出する。反応後の化合物を抽出する際には,例えば酢酸エチルを用い,油層を抽出すればよい。抽出された化合物を,硫酸マグネシウムといった乾燥剤を用いて乾燥し,ろ過,濃縮,及び精製を行って,式(B-2)で示される化合物を得ればよい。
【0052】
【0053】
式(B-3)で示される化合物の無極性溶媒(例えば,テトラヒドロフラン)溶液に,氷冷下,グリニャール試薬(例えば,イソブチルマグネシウムクロライド・塩化リチウム錯体の無極性溶媒溶液)を滴下し,還元剤(例えばヘキサナールの無極性溶媒溶液)を滴下した後に,30分以上2時間以下攪拌する。R11は,ハロゲン原子を示す。飽和塩化アンモニウム水溶液を加えて反応を停止させ,水で希釈する。反応後の化合物を抽出する際には,例えば酢酸エチルを用い,油層を抽出すればよい。抽出された化合物を,硫酸マグネシウムといった乾燥剤を用いて乾燥し,ろ過,濃縮,及び精製を行って,式(B-5)で示される化合物を得ればよい。
【0054】
【0055】
式(B-5)で示される化合物の溶液に,氷冷下,ルイス酸(例えば三臭化ほう素のジクロロメタン溶液)を滴下することで,式(B-5)で示される化合物を得ることができる。水を加えることで反応を停止させることができる。反応後の化合物を抽出する際には,例えば酢酸エチルを用い,油層を抽出すればよい。抽出された化合物を,硫酸マグネシウムといった乾燥剤を用いて乾燥し,ろ過,濃縮,及び精製を行って,式(B-6)で示される化合物を得ればよい。このようにして式(I)においてnが0である化合物(式(I’’)で示される化合物)を得ることができる。
【0056】
そして,水酸基をアシル化するためには,例えば,DMAP(ジメチルアミノピリジン)触媒の存在下に酸無水物を混合すればよい。また,水酸基をアルキル化するためには,公知のアルキル化剤(例えば,ピリジン中ジメチルホルムアミド/ジメチルアセタールやペンタフルオロベンジルブロマイド)を作用させればよい。R2~R4が水素のものは,出発物質である式(B-1)で示される化合物におけるメトキシ基(-OMe)を水素原子に変えた化合物を用いればよい。
【0057】
本発明の化合物(NH4)の微生物を利用した製造方法
【0058】
本発明の化合物(NH4),例えば糸状菌,例えばOidiodendron属,Byssoascus属,Arachniotus属などに属する微生物,好ましくはOidiodendron属に属する微生物,さらに好ましい具体的な例としては,本発明者らが茨城県桜川市真壁町酒寄にて採集した朽木より新たに分離したOidiodendron属に属する,Oidiodendron maius,Oidiodendron citrinumなどの微生物を培養し,その培養物から取得することができる。特に好適には,Oidiodendron maius TAMA 495株(F 5978株)の培養物から取得することができる。
【0059】
TAMA 495株の菌学的性質を以下に詳述する。
(1)各培地における生育状態
三浦培地(LCA)培地上での生育は比較的遅く,25℃,7日間培養で直径10.0~12.0 mm,21日目で37.0~40.0 mmに達した。LCA培地上のコロニーは薄く,ビロード状,オリーブ色(マンセル 5Y7/4~4/6)で中心ほど菌糸が濃く,着色も濃い。中心から放射状に粉をふいたように分生子を多く形成する帯が認められる。 裏もオリーブ色(マンセル 10Y4/4~7/2)。
【0060】
2%麦芽エキス寒天(MA)培地上での生育は遅く,25℃,7日間培養で直径8.0~10.0 mm,21日で26.0~31.0 mmに達した。MA培地のコロニーはビロード状から羊毛状を呈し,褐色(マンセル 10YR6/10~8/6)。コロニー中心部と外円部は色素が薄く,中心からドーナツ状に着色が濃い部分が認められ,中心付近は粉をふいたように分生子形成帯が発達する。裏は淡褐色から濃褐色(マンセル 10YR8/10~4/6)。
【0061】
オートミール寒天(OA)培地上での生育は遅く,25℃,7日間培養で直径7.0~10.0 mm,21日で26.0~28.0 mmに達した。OA培地のコロニーはビロード状で非常に薄く,白色からオリーブ色(マンセルN9/0~5GY4/6)で中心ほど着色が濃い。裏は白色からオリーブ色(マンセル N9/0~5GY4/4)。
【0062】
ポテトデキストロース寒天(PDA)培地上での生育は遅く,25℃,7日間培養で直径9.0~10.0 mm,21日で21.0~22.0 mmに達した。PDA培地上でのコロニーは羊毛状で毛羽立ち,淡灰緑色(マンセル 5BG7/2)から淡黄緑色(マンセル 5Y7/6),褐色(マンセル 5YR5/10)。表面には茶褐色(マンセル 5YR5/8)の分泌液が認められる。裏は濃褐色から明褐色(マンセル 5YR3/6~6/12)。
【0063】
(2)形態的性状
LCA培地上では,菌糸は隔壁を有し,無色透明である。分生子柄は褐色で垂直に立ち上がるか,もしくは平伏し,300 μmに達し,上部より複数に分枝し,分節型分生子を形成する。分生子は連鎖して複雑な樹状となるが,少しの刺激でばらばらに崩壊する。分生子は亜球形から長い円筒形,活面もしくは租面で薄いオリーブ色,2~5×1.5~2.4 μmである。
【0064】
(3)生理的性状
TAMA 495株はpH 2.63~5.89の範囲で生育し,指摘pH範囲は4.48である。生育温度は10℃から30℃で,指摘生育温度範囲は20℃から30℃である。30℃では寒天中に拡散する暗褐色色素生産が顕著である。分生子は4℃,1週間で発芽する。
【0065】
(4)DNA配列による系統解析
得られたITS領域(Internal Transcribed Spacer領域)の塩基配列をBlast検索した結果,TAMA 495株はOidiodendron属菌と相同性が高いことがわかった。系統解析は,TAMA 495株とBlast検索で相同性が高かったOidiodendron属菌および本属の系統解析に良く用いられている種をデータベースより選出して,Pseudogymnoascus roseusを外群としておこなった。ここで,ITS領域について検索を行うのは,コード領域(DNA中のアミノ酸配列をコードしている領域)より,スペーサー領域の塩基配列の方がより速く進化するために,属間・種間のようなより低次の分類階級の類縁関係を調べるのに適しているといわれているからである。
【0066】
系統樹は近隣結合法(neighbor-joining method:NJ法)および最尤法(Maximum Likelihood method:ML法)で作製した。その結果,TAMA 495株は,Oidiodendron maiusおよびO. citrinumとブートストラップ値85~90でクレードを形成することが明らかとなった。
【0067】
(4)菌株の同定
TAMA 495株は褐色,オリーブ色から,白色のコロニーを形成し,300 μmに達する明瞭な分生子柄とその上部より複数に分枝し,亜球形から円筒形の分節型分生子が連鎖して,複雑な樹状となることから,Oidiodendron属に含まれることは明瞭である。Oidiodendron属はヨーロッパやカナダなど世界各地で分離報告があり,ツツジ目植物の根と共生関係を結び,エリコイド菌根を形成するエリコイド菌根菌として知られているが,土壌や植物遺体上にも生息している。分子系統解析の結果,本菌はOidiodendron maiusおよびO. citrinumとクレードを形成した。過去の文献によれば,この2種は分子系統学的に非常に密接であり,ブートストラップ値100(Hambleton S, Egger KN, Currah RS. 1998. The genus Oidiodendron: species delimitation and phylogenetic relationships based on nuclear ribosomal DNA analysis. Mycologia 90:854~869)もしくは,99(Calduch M, Gene J, Cano J, Stchigel AM, Guarro J. 2004. Three new species of Oidiodendron Robak from Spain. Stud. Mycol. 50:150~170)でmaiusクレードを作ることが報告されている。これは,本研究の結果と一致する。従って,TAMA 495株はO. maiusもしくはO. citrinumのいずれかであることが示唆された。
【0068】
TAMA 495株のコロニーは黄色がかった白色から緑色,淡黄色で,分生子は薄い褐色,サイズは2~5×1.5~2.4 μm,亜球形から円筒形,表面は滑面から粗面であった。O. maiusとO. citrinumの最も大きな違いにコロニーの色調があげられる。O. maiusは薄灰色から青味がかった黒,一方O. citrinumは黄色がかった緑色や黄緑がかった黒とされている。TAMA 495株のコロニーは黄色がかることからコロニーの特徴はO. citrinumと一致する。しかしながらO. citrinumの分生子は2~3.5×1.5~2.5 μmで楕円形から亜球形,表面は小いぼ状から平滑で(More Dematiaceous Hyphomycetes, M. B. Ellis),TAMA 495株と比較すると小型で丸い。一方,O. maiusの分生子は3~5×2~2.5μm,亜球形から楕円形,円筒形で表面は平滑から小いぼ状とされ(More Dematiaceous Hyphomycetes, M. B. Ellis),TAMA 495株よりやや大きいが,分生子のサイズおよび形態,表面構造はほぼ一致する。このことから,TAMA 495株はOidiodendron maius Barronと同定することが妥当である。そこで,本発明における本菌株の名称をOidiodendron maius TAMA 495と称することとする。なお,Oidiodendron maius TAMA 495株は,独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンター特許微生物寄託センター(NPMD)(〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に寄託申請され,平成27年2月19日,受領番号FERM AP-02008として受領されている。
【0069】
以上,本発明の新規化合物の生産菌の一例であるOidiodendron maius TAMA 495株について説明したが,一般的には糸状菌類の菌学的性質は極めて変化しやすく,自然界において,あるいは通常行われている紫外線照射,X線照射,変異誘発剤(例えば,N-メチル-N-ニトロ-N-ニトロソグアニジン及び2-アミノプリン等)又は遺伝子組替えを用いる人為的変異手段により変異することは周知の事実である。このように自然変異株ならびに人工変異株も含めてOidiodendron属あるいはその完全世代の属,例えばByssoascus属に属し,本発明の化合物を生産する能力を有する菌株はすべて本発明に使用することができる。
【0070】
上記微生物の培養は,自体公知の方法に従って行うことができる。培地は液体あるいは固体を成分として用いることができ,炭素源としては,グルコース,シュクロース,ガラクトース,デキストリン,グリセロール,有機酸,澱粉,穀類,水飴,糖蜜,動・植物油等を利用できる。また,窒素源としては,大豆粉,小麦胚芽,コーンミール,コーンスティープリカー,綿実かす,肉エキス,ペプトン,酵母エキス,硫酸アンモニウム,硝酸アンモニウム,硝酸ナトリウム,尿素などを使用できる。そのほか必要に応じ,寒天,アミノ酸,カザミノ酸,ビオチン,チアミン等の各種ビタミン等の栄養素を,またナトリウム,カリウム,カルシウム,マグネシウム,コバルト,塩素,燐酸,硫酸及びその他のイオンを生成できる無機塩類を添加することは有効である。また,菌株の発育を助け,本発明の化合物の生産を促進するような無機及び有機物を適当に添加することができる。なお,培地中に金属塩が存在すると,それに対応するアニオンとの塩の形で本発明の化合物が得られることがある。
【0071】
上記Oidiodendron maius TAMA 495株を培養する場合には,炭素源として酒石酸,グルコース,シュクロース,ポテト・スターチ,押し麦,そば粒をそれぞれ単独もしくは混合して加えることが好ましい。窒素源としては,例えばアンモニア,硫酸アンモニウム,塩化アンモニウム,硝酸アンモニウム,酵母エキス,コーンミール,大豆粉又は大豆殻等をそれぞれ単独もしくは混合して用いることができる。また,無機塩として,例えばリン酸二水素カリウム,炭酸カルシウム,硫酸亜鉛,硫酸銅,塩化マンガン,硫酸マグネシウム,硫酸鉄等を使用することができる。
【0072】
培養は,通常,通気攪拌,静置又は振盪等の好気的条件下又は通性嫌気的条件下,10℃~35℃好ましくは約20~30℃の温度で行うことができる。培養時のpHは2~7.5,好ましくは2.5~6付近の範囲がよく,培養中のpH調整は酸又はアルカリを添加することにより行うことができる。また,培養期間は5日~30日間好ましくは7日~21日間である。上記Oidiodendron maius TAMA 495株の場合は液体振盪培養が望ましい。
【0073】
培養後,培養物に直接以下の処理を施す。
【0074】
得られた菌体培養物を,例えば溶媒抽出又はクロマトグラフィーなどの精製手段に付する。精製手段は,公知の手段であってよく,例えば,活性炭カラムクロマトグラフィー,陽イオン交換カラムクロマトグラフィー,陰イオン交換カラムクロマトグラフィー,ゲルろ過クロマトグラフィー(例えばSephadexTM LH-20(ファルマシア社製)),HPLCクロマトグラフィー(例えばODSカラム)などが好ましい例として挙げられる。クロマトグラフィーによって得られる全画分を,生物活性を指標としてスクリーニングする。
【0075】
さらにこのようにして集められた画分を,例えば,転溶,濃縮,クロマトグラフィー,結晶化,再結晶,蒸留などの精製手段に付して,目的とする本発明の化合物を得ることができる。
【0076】
すなわち,本発明は,本発明の化合物を産生し得る糸状菌を培養し,その培養物から本発明の化合物を取得する方法を提供する。そして,糸状菌が,Oidiodendron属,Byssoascus属,Arachniotus属の菌類である方法をも提供する。
【0077】
本発明の化合物を有効成分として含む医薬組成物
本発明の化合物は,適宜公知の担体とあわせて医薬組成物とすることができる。そのような担体の例は,生理食塩水である。
【0078】
本発明の化合物を有効成分として含むRSK1阻害剤
RSK(90 kDa ribosomal S6 kinase)はセリンスレオニンキナーゼファミリーに属し,哺乳類ではそのアイソフォーム(isoforms)として,RSK1~4の4種類が知られている。これらのアイソフォームは,種々の異なる組織あるいは臓器において特異的ないしは非特異的に発現し,種々の異なる基質タンパク質をリン酸化し,それらのタンパク質の機能を活性化したりあるいは不活性化したり,あるいは安定化あるいは不安定化したりすることにより,細胞周期の調節機構に特に深く関わり,そのために種々の生体の機能の調節に関与していることが知られている。
【0079】
RSKが癌,線維症,心血管病の発症あるいは病態進展にそれぞれ関与していることが知られており,それらの病態への関与の詳細は対応するRSKに対する基質タンパク質など相互作用する対象タンパク質とRSKとの相互作用の研究において知られる事となりつつある。具体的にRSKがリン酸化する基質タンパク質として,例えば,GSK3β,CREB,IκBα/β,C/EBP-β,Bad,neuronal NO synthase,Na+/H+ exchanger isoform 1(NHE-1)などを挙げることができる(Frodin F.ら Mol.Cell.Endocrino.,150(1-2):65-77.1999)。
【0080】
RSKは,MAPK(Mitogen activated protein kinases )カスケードの下流に位置付けられている。細胞が成長因子やサイトカインの刺激を受けると,様々なキナーゼが活性したのちERK(extracellular singanl-regulated kinase)が活性化する。活性化したERKは直接RSKのC末端領域をリン酸化してRSKを活性化状態に促すことが知られている。活性化したRSKは上述の基質タンパク質をリン酸化することで,成長因子,サイトカイン依存的な細胞の増殖,分化,細胞生存ならびに細胞機能変化を促すことが知られている(Frodin F.ら Mol.Cell.Endocrino.,150(1-2):65-77.1999)。
【0081】
様々な癌細胞では正常細胞と比較してMAPKカスケードが活性していることが知られている。例えば,Eisenmannらは悪性黒色腫において,正常のメラニン細胞と比較してMAPKカスケードが亢進し,RSKが高度にリン酸化し活性化状態にあることを見出している。活性化したRSKは,癌細胞の生存維持を促すことを見出している。さらにMAPKカスケードにおいてRSKの上流に位置するMEK(MAPK Kinase)阻害剤の添加によりRSKのリン酸化を低下させ,癌細胞特異的に細胞死(アポトーシス)を促すことを見出している(Eisenmann らCancer Res., 63: 8330―8337. 2003)。
【0082】
また同様に,Smithらは,乳が癌細胞(MCF-7)細胞にRSK1ならびにRSK2のRNAiを添加することで,細胞増殖の抑制が認められることを証明している。
さらにRSKに比較的選択性が高い熱帯植物由来の阻害化合物SL0101も同様にMCF-7の増殖を抑制することを見出している(SmithJA.らCancer Res., 65: 1027―1034. 2005)。
【0083】
Kang らは,RSK2が頭頸部扁平上皮癌で高発現していることを見出している。頭頸部扁平上皮癌を移植する動物実験モデルにおいてRSK2のRNAiを添加することで癌細胞の転移を抑制することを証明している(Kang らJ. Clin. Invest., 120:165-1177. 2010)。同様な研究が様々な癌細胞においてなされ,RSK阻害剤に基づく抗がん剤が有効であることが期待されているものの,これまでRSK阻害に基づく抗癌剤としての医薬品は完成には至っていない。
【0084】
また,RSKは線維症とも関連することが知られている。Yang M.-Fらは,ラット肝線維症モデルにおいて,RSKが高発現していることを証明している。さらに活性化した肝臓星細胞(stellate cell)を用いた実験で,RSKのRNAiを添加することで線維化に重要なタンパク質の1つである,コラーゲンタイプ1の発現が減少することを見出している(Yang M.-Fら World Journal of Gastroenterology ,15(17):2109-2115.2009)。
【0085】
Buck M.らは,ヒトの肝線維症患者の肝臓星細胞でCCAAT/Enhancer binding protein β(C/EBP-β)とRSKが活性化していることを見出している。また四塩化炭素誘発の肝臓線維化モデルにおいて,RSK活性を阻害するペプチドを投与することで症状が改善することを示している。RSKは直接C/EBP-βをリン酸化することも確認されている(Buck M ら PLoS ONE 2(12):e1372.2007)。
【0086】
C/EBP-βは肝線維症のみならず肺線維症などの臓器線維症においても重要な役割を果たすことが知られている。しかしながらRSK阻害剤に基づくC/EBP-βの活性化抑制や線維芽細胞の増殖抑制等を介した線維症治療薬は完成には至っていない。
【0087】
さらにRSKは心血管病の発症あるいは病態進展に関与知られている。Na+/H+ exchanger isoform 1(NHE-1)は心筋梗塞,心肥大,脳梗塞といった心血管病の重要な標的分子である。これまでNHE-1の機能を阻害する薬剤(例えばカリポライドなど)が心血管病治療薬として試みられた。一方,RSKはNHE-1キナーゼとよばれ,RSKは直接NHE-1をリン酸化し,NHE-1の機能を制御することが知られている(Garciarena C.D.ら,Cellular Physiology and Biochemistry 27:1 (13-22) 2011)。
【0088】
実施例により示されたとおり,本発明に係る化合物は,優れたRSK1阻害作用活性に基づく細胞増殖抑制作用を示すので,抗がん剤として有用であると考えられる。即ち,本発明に係る新規化合物又はその薬学的に許容し得る塩若しくはエステルを含む医薬組成物及びRSK1阻害剤,或いは,本発明に係る化合物又はその薬学的に許容し得る塩若しくはエステルを含む抗がん剤は,がん患者の治療において有効と考えられる。
【0089】
また,該医薬組成物及び該阻害剤並びに該抗がん剤は,薬学的に許容できる担体又は希釈剤を含んでいてもよい。ここで,「薬学的に許容できる担体又は希釈剤」は,賦形剤〔例えば,脂肪,蜜蝋,半固体及び液体のポリオール,天然若しくは硬化オイルなど〕; 水(例えば,蒸留水,特に,注射用蒸留水など),生理学的食塩水,アルコール(例えば,エタノール),グリセロール,ポリオール,ブドウ糖水溶液,マンニトール,植物オイルなど; 添加剤〔例えば,増量剤,崩壊剤,結合剤,潤滑剤,湿潤剤,安定剤,乳化剤,分散剤,保存剤,甘味料,着色剤,調味料若しくは芳香剤,濃化剤,希釈剤,緩衝物質,溶媒若しくは可溶化剤,貯蔵効果を達成するための薬剤,浸透圧を変えるための塩,コーティング剤,又は抗酸化剤〕などを意味する。
【0090】
また,本発明に係る化合物の治療効果が期待される好適な腫瘍としては,例えばヒトの固形がん等が挙げられる。ヒトの固形がんとしては,例えば,脳がん,頭頸部がん,食道がん,甲状腺がん,小細胞がん,非小細胞がん,乳がん,胃がん,胆のう・胆管がん,肝がん,膵がん,結腸がん,直腸がん,卵巣がん,絨毛上皮がん,子宮体がん,子宮頸がん,腎盂・尿管がん,膀胱がん,前立腺がん,陰茎がん,睾丸がん,胎児性がん,ウイルムスがん,皮膚がん,悪性黒色腫,神経芽細胞腫,骨肉腫,ユ-イング腫,軟部肉腫などが挙げられる。
【0091】
本発明に係る製剤は,各種の形態を選択することができ,例えば錠剤,カプセル剤,散剤,顆粒剤若しくは液剤等の経口製剤,或いは,例えば溶液若しくは懸濁液等の殺菌した液状の非経口製剤,坐剤,軟膏剤等が挙げられる。
【0092】
固体の製剤は,そのまま錠剤,カプセル剤,顆粒剤又は粉末の形態として製造することもできるが,適当な担体(添加物)を使用して製造することもできる。そのような担体(添加物)としては,例えば乳糖若しくはブドウ糖等の糖類; 例えばトウモロコシ,小麦若しくは米等の澱粉類; 例えばステアリン酸等の脂肪酸; 例えばメタケイ酸アルミン酸マグネシウム若しくは無水リン酸カルシウム等の無機塩; 例えばポリビニルピロリドン若しくはポリアルキレングリコール等の合成高分子; 例えばステアリン酸カルシウム若しくはステアリン酸マグネシウム等の脂肪酸塩; 例えばステアリルアルコール若しくはベンジルアルコール等のアルコール類; 例えばメチルセルロース,カルボキシメチルセルロース,エチルセルロース若しくはヒドロキシプロピルメチルセルロース等の合成セルロース誘導体; その他,ゼラチン,タルク,植物油,アラビアゴム等通常用いられる添加物が挙げられる。
【0093】
これらの錠剤,カプセル剤,顆粒剤及び粉末等の固形製剤は一般的には,製剤全体の重量を基準として,例えば,本発明の化合物0.1~100重量%,好ましくは5~98重量%の有効成分を含んでいてもよい。
【0094】
液状製剤は,水,アルコール類又は例えば大豆油,ピーナツ油,ゴマ油等の植物由来の油等の液状製剤において通常用いられる適当な添加物を使用し,懸濁液,シロップ剤,注射剤,点滴剤(静脈内輸液)等の形態として製造される。
【0095】
特に,非経口的に筋肉内注射,静脈内注射又は皮下注射の形で投与する場合の適当な溶剤又は希釈剤としては,例えば注射用蒸留水,塩酸リドカイン水溶液(筋肉内注射用),生理食塩水,ブドウ糖水溶液,エタノール,ポリエチレングリコール,プロピレングリコール,静脈内注射用液体(例えばクエン酸及びクエン酸ナトリウム等の水溶液)若しくは電解質溶液(点滴静注及び静脈内注射用)等,又はこれらの混合溶液が挙げられる。
【0096】
これらの注射剤は予め溶解したものの他,粉末のまま或いは適当な担体(添加物)を加えたものを用時溶解する形態もとり得る。これらの注射液は,製剤全体の重量を基準として,例えば,0.1~10重量%の有効成分を含むことができる。
【0097】
また,経口投与用の懸濁剤,シロップ剤等の液剤は,製剤全体の重量を基準として,例えば,0.1~10重量%の有効成分を含むことができる。
【0098】
本発明に係る製剤はまた,常法或いは慣用技術に従っても,当業者が容易に製造することができる。例えば,本発明の化合物と併用される他の抗がん剤を含む製剤は,それが経口製剤の場合,例えば,該抗がん剤適量と,乳糖適量を混合し,経口投与に適した硬ゼラチンカプセルに詰めることにより製造することができる。一方,該抗がん剤を含む製剤が注射剤の場合は,例えば,該抗がん剤適量を0.9%生理食塩水適量と混合し,この混合物を注射用バイアルに詰めることにより製造することができる。
【0099】
また,本発明に係る本発明の化合物と他の抗がん剤を含む合剤の場合にも,常法或いは慣用技術に従って,当業者が容易に製造することができる。
【0100】
本発明に係る方法において,好ましい治療単位は,本発明の化合物の投与形態,使用される本発明の化合物の種類,使用される本発明の化合物の剤型; 併用される他の抗がん剤の種類,投与形態,剤型など;及び治療されるがん細胞,患者の状態などによって変化してもよい。所定の条件において最適な治療は,慣用の治療決定単位を基にして,及び/又は,本明細書を考慮して,当業者が決定することができる。
【0101】
本発明に係る方法において,本発明の化合物の治療単位は,具体的に言うと,使用される化合物の種類,配合された組成物の種類,適用頻度及び治療すべき特定部位,病気の軽重,患者の年令,医師の診断,がんの種類等によって変えることができるが,一応の目安として,例えば,1日当たりの成人1人当りの投与量は,経口投与の場合,例えば,1ないし1000mgの範囲内とすることができる。また非経口投与,例えば,静脈内投与の場合,例えば,1日当たり1ないし100mg/m2(体表面積)の範囲内とすることができる。ここで,点滴静注の場合,例えば,1~48時間連続して投与してもよい。なお,投与回数は,投与方法及び症状により異なるが,例えば,1日1回ないし5回である。また,隔日投与,隔々日投与などの間けつ投与等の投与方法でも用いることができる。非経口投与の場合の治療の休薬期間は,例えば,1~6週間である。
【0102】
また,本発明の化合物と併用される他の抗がん剤の治療単位は,特に限定されないが,公知文献などにより当業者が必要に応じて決定することができる。
【0103】
本発明の化合物を有効成分として含むAKT阻害剤。
次に,本発明の化合物を有効成分として含むAKT阻害剤について説明する。本発明の化合物を有効成分として含むAKT阻害剤も先に説明した本発明の化合物を有効成分として含むRSK1阻害剤と同様に調製すればよい。
AKTはセリンスレオニンキナーゼファミリーに属し,哺乳類ではそのアイソフォーム(isoforms)として,AKT1~3の3種類が知られている。これらのアイソフォームは,種々の異なる組織あるいは臓器において特異的ないしは非特異的に発現し,種々の異なる基質タンパク質をリン酸化し,それらのタンパク質の機能を活性化したりあるいは不活性化したり,あるいは安定化あるいは不安定化したりすることにより,細胞周期の調節機構に特に深く関わり,そのために種々の生体の機能の調節に関与していることが知られている。
【0104】
AKTが癌,線維症,血管新生を伴う眼疾患,炎症性疾患の発症あるいは病態進展にそれぞれ関与していることが知られており,それらの病態への関与の詳細は対応するRSKに対する基質タンパク質など相互作用する対象タンパク質とAKTとの相互作用の研究において知られる事となりつつある。具体的にAKTがリン酸化する基質タンパク質として,例えば,IκBα,Bad,eNOS,mTORなどを挙げることができる(Hers I ら Cell Signal. 23(10):1515-27. 2011)。
【0105】
AKTは,PI3キナーゼカスケードの下流に位置付けられている。細胞が成長因子やサイトカインの刺激を受けると,PI3キナーゼが活性したのち細胞内のPI(3,4,5)P3が蓄積する。PI(3,4,5)P3は直接AKTのPH端領域に結合してAKTを活性化状態に促すことが知られている。活性化したAKTは上述の基質タンパク質をリン酸化することで,成長因子,サイトカイン依存的な細胞の増殖,分化,細胞生存ならびに細胞機能変化を促すことが知られている(Hers I ら Cell Signal. 23(10):1515-27. 2011)。
【0106】
特表2010-533206号公報には,抗腫瘍活性を有するAKT/PKBの阻害剤が開示されている。特表2004-527531号公報には,癌を治療する方法であって,セリン/スレオニンタンパク質キナーゼであるAKTの1種または2種のイソ型の活性を選択的に阻害する化合物を投与することを含む方法が開示されている。
【0107】
異常な組織修復反応と血管新生が肺線維症に関連していることが知られている。Luらは、ブレオマイシンでヒト肺線維芽細胞を刺激すると、PI3/AKTカスケードが活性化に伴い、線維芽細胞の増殖とコラーゲン産生の亢進が認められることを示している。さらにAKTのドミナントネガティブ体を導入すると線維芽細胞の増殖とコラーゲン産生の亢進が抑制されることを証明した。これらの結果は、AKTの選択的阻害が抗線維症活性を有することを示すものである。(Luら American Journal of Respiratory Cell and Molecular Biology.42(4): 432-441.2010).
【0108】
さらに、AKTは正常ならびに病的な血管新生に関与していることが知られている。AKTは、VEGFやHIF-1といった血管新生に重要な分子の発現制御を担っていることが示されている。AKTの阻害が抗血管新生活性を有していることが開示されている。(Jiang B.-H.らCurrent Cancer Drug Targets. 8(1): 19-26. 2008)
【0109】
本発明の化合物を有効成分として含む線維症の治療剤。
次に,本発明の化合物を有効成分として含むAKT阻害剤について説明する。本発明の化合物を有効成分として含むAKT阻害剤も先に説明した本発明の化合物を有効成分として含むRSK1阻害剤と同様に調製すればよい。先に説明したとおり,本発明の化合物は,AKT阻害活性を有するため,線維症の治療剤として有効に利用されうる。線維症の例は,腎臓の線維症(例えば増殖性糸球体腎炎、硬化性糸球体腎炎、腎性線維化性皮膚症、糖尿病性腎症、腎尿細管間質性線維症、及び巣状分節性糸球体硬化症),肺の線維症(例えば肺間質性線維症、薬物誘発サルコイドーシス、肺線維症、特発性肺線維症、喘息、慢性閉塞性肺疾患、びまん性肺胞損傷疾患、肺高血圧症、及び新生児気管支肺形成異常)、肝線維症(例えば肝硬変、虚血再灌流、肝移植後傷害、壊死性肝炎、B型肝炎、C型肝炎、原発性胆汁性肝硬変、及び原発性硬化性胆管炎)、皮膚線維症(例えば強皮症、ケロイド瘢痕化、乾癬、肥厚性瘢痕化、及び偽性強皮症)、心血管線維症(例えばアテローム性動脈硬化、冠動脈再狭窄、うっ血性心筋症、心不全、心移植、及び心筋線維症)、消化管線維症(例えばコラーゲン蓄積大腸炎、絨毛萎縮、陰窩過形成、ポリープ形成、クローン病の線維症、胃潰瘍治癒、及び腹部癒着術後瘢痕)、及び他の線維性疾患である。
【0110】
本発明の化合物を有効成分として含む心血管病の治療剤。
次に,本発明の化合物を有効成分として含む心血管病の治療剤について説明する。本発明の化合物を有効成分として含む心血管病の治療剤も先に説明した本発明の化合物を有効成分として含むRSK1阻害剤と同様に調製すればよい。本発明の化合物は,AKT阻害活性を有するため,血管病の治療剤として有効に利用されうる。
血管病の例は,変性疾患動脈硬化(例えば,大動脈瘤),炎症性疾患(例えば大動脈炎症候群),先天性疾患(例えば動静脈瘻),及び機能性疾患(例えばレイノー病)を含む動脈疾患,血栓性静脈炎,下肢静脈瘤及び上大静脈症候群である。又、冠状血管の動脈硬化症に由来する閉塞、スパズム、心臓外科手術時の人工心肺装置の使用、経皮冠動脈形成術(バルーンカテーテル)、冠動脈バイパス術に起因して発生する虚血若しくは虚血再灌流後における急性心筋梗塞、無症候性心筋虚血、不安定狭心症等が挙げられる。又は、急性あるいは慢性心不全、心筋炎が含まれる。また脳の血管に起因する虚血若しくは虚血再灌流後における疾患(脳卒中、脳梗塞、脳出血、脳虚血、クモ膜下出血、動脈瘤出血)である。
【0111】
本発明の化合物を有効成分として含む血管新生関連疾患の治療剤。
次に,本発明の化合物を有効成分として含む血管新生関連疾患について説明する。本発明の化合物を有効成分として含むA血管新生関連疾患も先に説明した本発明の化合物を有効成分として含むRSK1阻害剤と同様に調製すればよい。本発明の化合物は,AKT阻害活性を有するため,血管新生関連疾患の治療剤として有効に利用されうる。血管新生関連疾患の例は,血管新生緑内障,糖尿病性網膜症,及び加齢黄斑変性症である。
【0112】
医薬組成物を製造するための本発明の化合物の使用
本発明は,上記した各種治療剤や医薬組成物を製造するための本発明の化合物の使用をも提供する。
【0113】
本発明は,本発明の化合物を対象に投与する工程を含む,対象疾患の治療方法をも提供する。
【実施例1】
【0114】
NH4(6,7,8-ヒドロキシ-1-フェニル-1H-イソクロメン-3(4H)-オン)の合成
【0115】
【0116】
3,4,5-トリメトキシフェニル酢酸エチルエステルの合成
3,4,5-トリメトキシフェニル酢酸2.26gとエタノール10mlと触媒量の濃硫酸の混合溶液を室温で24時間撹拌した。10%重曹水で反応を停止させ,飽和食塩水20mlを加え酢酸エチル50mlで抽出した。硫酸マグネシウムで乾燥し,ろ過,濃縮を経て粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し,2.30gの3,4,5-トリメトキシフェニル酢酸エチルエステルを収率90%で得た。
【0117】
1H-NMR(CDCl3):σppm 6.02(2H,s), 4.12(2H,q), 3.73(9H,s),3.51(2H,s), 1.30(3H,t)
【0118】
【0119】
2-ヘキサノイル-3,4,5-トリメトキシフェニル酢酸エチルエステルの合成
3,4,5-トリメトキシフェニル酢酸エチルエステル1.15gとトリフルオロ酢酸無水物20mlの溶液に,85%リン酸2mlを加え,室温で20時間撹拌した。反応終了後,トリフルオロ無水酢酸を留去し,5%重曹水を加え,酢酸エチル50mlで抽出した。硫酸マグネシウムで乾燥し,ろ過,濃縮を経て粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し,1.38gの2-ヘキサノイル-3,4,5-トリメトキシフェニル酢酸エチルエステルを収率79%で得た。
【0120】
1H-NMR(CDCl3):σppm 6.10(1H,s), 4.12(2H,q), 3.73(9H,m), 3.51(2H,s), 2.55(2H,t), 1.48(2H,m), 1.33(4H,m), 0.96(3H,t)
【0121】
【0122】
6,7,8-トリメトキシ-1-フェニル-1H-イソクロメン-3(4H)-オンの合成
2-ヘキサノイル-3,4,5-トリメトキシフェニル酢酸エチルエステル705mgとエタノール20mlの溶液にテトラヒドロホウ酸ナトリウム75mgを加え0度で1時間撹拌した。0.5Mの塩酸を加えて反応を停止させ,エタノールを留去後,飽和食塩水を加え酢酸エチルで抽出した。硫酸マグネシウムで乾燥し,ろ過,濃縮を経て粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し,550mgの6,7,8-トリメトキシ-1-フェニル-1H-イソクロメン-3(4H)-オンを収率90%で得た。
【0123】
1H-NMR(CD3CN):σppm 7.26(1H,s), 5.24(1H,dd), 3.73(9H,m), 3.52(2H,m), 1.86(2H,m), 1.33(2H,m), 1.29(4H,m), 0.96(3H,t)
【0124】
質量分析:ESIMS:m/z 307[M-1]
【0125】
【0126】
6,7,8-ヒドロキシ-1-フェニル-1H-イソクロメン-3(4H)-オンの合成(NH4)
6,7,8-トリメトキシ-1-フェニル-1H-イソクロメン-3(4H)-オン308mgとジクロロメタン10mlの溶液を0度に冷却し,1.0Mの臭化ほう素ジクロロメタン溶液10mlをゆっくり滴下し,0度から室温まで自然昇温させながら18時間撹拌した。水を加えて反応を停止させ,酢酸エチルで抽出した。硫酸マグネシウムで乾燥し,ろ過,濃縮を経て粗生成物を得た。シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し淡黄色固体で158mgの6,7,8-ヒドロキシ-1-フェニル-1H-イソクロメン-3(4H)-オンを収率60%で得た。さらにODSカラムクロマトグラフィー(水・メタノール)で精製し,白色固体で126mgの6,7,8-ヒドロキシ-1-フェニル-1H-イソクロメン-3(4H)-オンを得た。
【0127】
1H-NMR(CD3OD):σppm 6.19(1H,s), 5.63(1H,dd,J=10Hz, 5Hz), 3.70(1H,d,J=15Hz), 3.44(1H,d,J=15Hz), 1.83(2H,m), 1.80(1H,m), 1.55(1H,m), 1.35(4H,m), 0.90(3H,t, J=7.5Hz)HPLC純度:96.5%
質量分析:ESIMS:m/z 265[M-1]
【実施例2】
【0128】
PHFN-14001(4,5,6-トリヒドロキシ-3-ペンチルイソベンゾフラン-1(3H)-オン)の合成
【0129】
【0130】
N,N-ジエチル-3,4,5-トリメトキシベンズアミドの合成
3,4,5-トリメトキシ安息香酸クロライド2.30gとテトラヒドロフラン50mlの溶液にジエチルアミン1.47gを加え0度で1時間,室温で1時間撹拌した。飽和食塩水を加えて反応を停止させ,酢酸エチル50mlで抽出した。硫酸マグネシウムで乾燥し,ろ過,濃縮を経て粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し2.67gのN,N-ジエチル-3,4,5-トリメトキシベンズアミドを収率100%で得た。
【0131】
1H-NMR(CDCl3):σppm 6.91(2H,m)、3.73(9H,m)、 3.24(4H,m)、 1.20(6H、m)
【0132】
【0133】
2-ブロモ-N,N-ジエチル-3,4,5-トリメトキシベンズアミドの合成
N,N-ジエチル-3,4,5-トリメトキシベンズアミド1.34gとジメチルホルムアミド50mlの溶液にN-臭化スクシンイミド889mgを加え室温で20時間撹拌した。飽和食塩水を50ml加え,酢酸エチル50mlで抽出した。硫酸マグネシウムで乾燥し,ろ過,濃縮を経て粗生成物を得た。シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し1.51gの2-ブロモ-N,N-ジエチル-3,4,5-トリメトキシベンズアミドを収率85%で得た。
【0134】
1H-NMR(CDCl3):σppm 6.80(1H,s)、3.73(9H,m)、 3.24(4H,m)、1.20(6H,m)
【0135】
【0136】
4,5,6-トリメトキシ-3-ペンチルイソベンゾフラン-1(3H)-オンの合成
2-ブロモ-N,N-ジエチル-3,4,5-トリメトキシベンズアミド380mgとテトラヒドロフラン10mlの溶液を0度に冷却し,イソブチルマグネシウムクロライド・塩化リチウム錯体のテトラヒドロフラン溶液1.0Mを1.1ml滴下し,続いてヘキサナール150mgのテトラヒドロフラン溶液を滴下し,同温度で1時間撹拌した。飽和塩化アンモニウム水溶液を加えて反応を停止させ,水で希釈し,酢酸エチル50mlで抽出した。硫酸マグネシウムで乾燥し,ろ過,濃縮を経て粗生成物を得た。シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し275mgの4,5,6-トリメトキシ-3-ペンチルイソベンゾフラン-1(3H)-オンを収率86%で得た。
【0137】
1H-NMR(CDCl3):σppm 6.86(1H,s)、5.24(1H,m)、3.73(9H,m)、2.04(2H,m)、1.29(4H、m)、0.96(3H,m)
質量分析:ESIMS:m/z 293 [M-1]
【0138】
【0139】
4,5,6-トリヒドロキシ-3-ペンチルイソベンゾフラン-1(3H)-オンの合成(PHFN-14001)
4,5,6-トリメトキシ-3-ペンチルイソベンゾフラン-1(3H)-オン147mgとジクロロメタン5mlの溶液を0度に冷却し,三臭化ほう素ジクロロメタン溶液1.0Mの5mlをゆっくり滴下し,0度から室温まで自然昇温させながら18時間撹拌した。水を加えて反応を停止させ,酢酸エチルで抽出した。硫酸マグネシウムで乾燥し,ろ過,濃縮を経て粗生成物を得た。シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し85mgの4,5,6-ヒドロキシ-3-ペンチルイソベンゾフラン-1(3H)-オンを収率68%で得た。
【0140】
1H-NMR(CD3CN):σ6.80(1H,s)、 5.46(1H、dd、J=10Hz、5Hz)、 2.23(1H,m)、 1.74(1H,m)、 1.30(6H、m)、 0.89(3H,m)HPLC純度:99.8%
質量分析:ESIMS:m/z 251[M-1]
【実施例3】
【0141】
PHFN-14002(4,5-ジヒドロキシ-6-メトキシ-3-ペンチルイソベンゾフラン-1(3H)-オンおよび4,6-ジヒドロキシ-5-メトキシ-3-ペンチルイソベンゾフラン-1(3H)-オンの混合物)の合成
【0142】
【0143】
4,5,6-トリメトキシ-3-ペンチルイソベンゾフラン-1(3H)-オン147mgとジクロロメタン5mlの溶液を0度に冷却し,三臭化ほう素ジクロロメタン溶液1.0Mの5mlをゆっくり滴下し,0度で3時間撹拌した。水を加えて反応を停止させ,酢酸エチルで抽出した。硫酸マグネシウムで乾燥し,ろ過,濃縮を経て粗生成物を得た。シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し93mgの4,5-ジヒドロキシ-6-メトキシ-3-ペンチルイソベンゾフラン-1(3H)-オンおよび4,6-ジヒドロキシ-5-メトキシ-3-ペンチルイソベンゾフラン-1(3H)-オンの混合物を収率70%で得た。2次元NMR解析により,約1:1の混合物であることが分かった。
【0144】
1H-NMR(CD3OD):6.95(1H,m)、 5.50(1H,m)、 3.92(3H,m)、 2.25(1H,m)、 1.72(1H,m)、 1.32(6H,m)、 0.89(3H,m)
HPLC純度:99.6%(混合物として)
質量分析:ESIMS:m/z 265 〔M-1〕
【実施例4】
【0145】
PHFN-14101(7-ブロモ-4,5,6-トリヒドロキシ-3-ペンチルイソベンゾフラン-1(3H)-オン)の合成
【0146】
【0147】
7-ブロモ-4,5,6-トリメトキシ-3-ペンチルイソベンゾフラン-1(3H)-オンの合成
2,7-ジブロモ-N,N-ジエチル-3,4,5-トリメトキシベンズアミド105mgとテトラヒドロフラン5mlの溶液を0度に冷却し,イソブチルマグネシウムクロライド・塩化リチウム錯体のテトラヒドロフラン溶液1.0Mを0.28ml滴下し,続いてヘキサナール50mgのテトラヒドロフラン溶液を滴下し,同温度で1時間撹拌した。飽和塩化アンモニウム水溶液を加えて反応を停止させ,水で希釈し,酢酸エチル50mlで抽出した。硫酸マグネシウムで乾燥し,ろ過,濃縮を経て粗生成物を得た。シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し80mgの4,5,6-トリメトキシ-3-ペンチルイソベンゾフラン-1(3H)-オンを収率88%で得た。
【0148】
1H-NMR(CDCl3):σppm 5.24(1H,m)、 3.73(3H,m)、 2.04(2H,m)、 1.33(2H,m)、 1.29(2H,m)、 0.96(3H,m)
質量分析:ESIMS:m/z 357 [M-1]
【0149】
【0150】
7-ブロモ-4,5,6-トリヒドロキシ-3-ペンチルイソベンゾフラン-1(3H)-オンの合成(PHFN-14101)
7-ブロモ-4,5,6-トリメトキシ-3-ペンチルイソベンゾフラン-1(3H)-オン41mgとジクロロメタン5mlの溶液を0度に冷却し,三臭化ほう素ジクロロメタン溶液1.0Mの1.0mlをゆっくり滴下し,0度から室温まで自然昇温させながら21時間撹拌した。水を加えて反応を停止させ,酢酸エチルで抽出した。硫酸マグネシウムで乾燥し,ろ過,濃縮を経て粗生成物を得た。シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し28mgの7-ブロモ-4,5,6-ヒドロキシ-3-ペンチルイソベンゾフラン-1(3H)-オンを収率75%で得た。
【0151】
1H-NMR(CD3OD):σppm 5.41(1H,m)、 2.25(1H,m)、 1.74(1H,m)、 1.32(6H,m)、 0.90(3H,m)
HPLC純度:96.8%
質量分析:ESIMS:m/z 329 [M-1]
【実施例5】
【0152】
PHFN-14102(7-ブロモ-4,5-ジヒドロキシ-6-メトキシ-3-ペンチルイソベンゾフラン-1(3H)-オンおよび7-ブロモ-4,6-ジヒドロキシ-5-メトキシ-3-ペンチルイソベンゾフラン-1(3H)-オンの混合物)の合成
【0153】
【0154】
7-ブロモ-4,5,6-トリメトキシ-3-ペンチルイソベンゾフラン-1(3H)-オン41mgとジクロロメタン5mlの溶液を0度に冷却し,三臭化ほう素ジクロロメタン溶液1.0Mの1.0mlをゆっくり滴下し,0度で3時間撹拌した。水を加えて反応を停止させ,酢酸エチルで抽出した。硫酸マグネシウムで乾燥し,ろ過,濃縮を経て粗生成物を得た。シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し30mgの7-ブロモ-4,5-ジヒドロキシ-6-メトキシ-3-ペンチルイソベンゾフラン-1(3H)-オンおよび7-ブロモ-4,6-ジヒドロキシ-5-メトキシ-3-ペンチルイソベンゾフラン-1(3H)-オンの混合物を収率80%で得た。2次元NMR解析により,約1:1の混合物であることが分かった。
【0155】
1H-NMR(CD3OD):σppm 5.51(1H,m)、 3.89(3H,m)、 2.21(1H,m)、 1.70(1H,m)、 1.33(6H,m)、 0.90(3H,m)
HPLC純度:98.6%(混合物として)
質量分析:ESIMS:m/z 343 [M-1]
【実施例6】
【0156】
NH4(6,7,8-ヒドロキシ-1-フェニル-1H-イソクロメン-3(4H)-オン)の発酵生産
【0157】
全ての培地は,使用前に121℃,20分間の滅菌操作を行った。
【0158】
(i)菌株保存方法
菌株保存は10%グリセロール,5%トレハロースを保護材とした滅菌分散媒を含むチューブにOidiodendron maius TAMA 495株の分生子・菌体を濃厚に懸濁し,-80℃で保存した。
【0159】
(ii)菌株復帰培地
菌株復帰培地として,改変麦芽エキス寒天,すなわち麦芽エキス(BD社製)10 g,ソイトン(BD社製)1 g,酵母エキス(BD社製)1 g,グルコース10 g,寒天20 gからなる培地を用いた。なお,滅菌前の培地のpHは未調整である。本培地を含むプレートに(i)のグリセロール懸濁液よりOidiodendron maius TAMA 495株を塗布し,25℃で14日間培養した。
【0160】
(1)発酵生産1
Oidiodendron maius TAMA 495株の復帰プレートから,7mm角の菌体を寒天ごと1片切り取り,8%シュクロース,0.1%酵母エキス(BD社製),5%コーンミールを20 ml仕込んだ250 ml容三角フラスコ100本に植菌し,25℃,225 rpmで21日間回転振盪培養した。培養後,合計2.0 Lの培養物に,フラスコ1本あたり酢酸エチル20 mlを添加して30分間振盪撹拌して抽出した。培養フラスコ100本分を一晩静置したのち,これをデカンテーションに供して,不溶物を除去し,酢酸エチル抽出物1.09 gを得た。
【0161】
(2)発酵生産2
Oidiodendron maius TAMA 495株の復帰プレートから,7mm角の菌体を寒天ごと4~5片切り取り,8%シュクロース,0.1%酵母エキス(ベクトンディキンソン社製),5%コーンミールを100 ml仕込んだ500 ml容三角フラスコ98本に植菌し,25℃,225 rpmで10日間回転振盪培養した。培養後,合計9.8 Lの培養物に,フラスコ1本あたり酢酸エチル100 mlを添加して30分間振盪撹拌して抽出した。培養フラスコ98本分を一晩静置したのち,これをデカンテーションならびに遠心分離により,不溶物を除去し,酢酸エチル抽出物10.25 gを得た。
【0162】
(3)発酵生産3
Oidiodendron maius TAMA 495株の復帰プレートから,7mm角の菌体を寒天ごと4~5片切り取り,8%シュクロース,0.1%酵母エキス(ベクトンディキンソン社製),5%コーンミールを100 ml仕込んだ500 ml容三角フラスコ1本に植菌し,25℃,225 rpmで14日間回転振盪培養しシードとした。3 L容ジャー・ファーメンターに8%シュクロース,0.1%酵母エキス(ベクトンディキンソン社製),3%コーンミールを2 L仕込み,消泡剤(Actcol 0.5 ml/liter)加えてオートクレーブ滅菌の後,先のシードを植菌(5%)し,25℃,500 rpm,通気量0.5 vvmで7日間回転浸透培養した。培養液に酢酸エチル2 Lを添加して1時間スターラーで撹拌して抽出した。これを一晩静置したのち,これをデカンテーションならびに遠心分離により,不溶物を除去し,酢酸エチル抽出物2.47 gを得た。
【0163】
このようにして得られた化合物を分析したところ,得られら化合物が6,7,8-ヒドロキシ-1-フェニル-1H-イソクロメン-3(4H)-オン(NH4)であることが分かった。
【0164】
活性物質の単離
(1)単離1
発酵生産1の抽出物をシリカゲル・カラム・クロマトグラフィーに供試し,ジクロロメタン:メタノールで溶出し粗生成物0.27 gを得た。これから再結晶により136 mgを得た。この化合物を,以下活性物質NH4と称する。
(2))単離2
発酵生産2の抽出物をシリカゲル・カラム・クロマトグラフィーに供試し,ジクロロメタン:メタノールで溶出し粗生成物0.98 gを得た。これから再結晶により653 mgを得た。さらにODSカラムクロマトグラフィーに供試し,水:メタノールで溶出し純粋な白色固体を520mgを得た。
(3)単離3
発酵生産3の抽出物をシリカゲル・カラム・クロマトグラフィーに供試し,ジクロロメタン:メタノールで溶出し粗生成物0.62 gを得た。これから再結晶により287 mgを得た。
(4)分析
1H-NMR、13C-NMR、二次元NMR、高分解能質量分析により、単離1、単離2、および単離3の化合物は全てNH4であった。
1H-NMR(CD3CN):σppm 6.28(1H,s), 5.56(1H,dd、J=10Hz、5Hz)、 3.68(1H,d、J=20Hz)、 3.44(1H,d,J=20Hz)、 1.85(1H,m)、 1.94(1H,m)、 1.53(1H,m)、 1.52(1H,m)、 1.34(4H,m)、 0.91(3H,t,J=5Hz)
質量分析:ESIMS:m/z 265[M-1]
【0165】
図1に得られたNH4のNMRチャートを示す。
図2に得られたMH4のマススペクトルを示す。
【実施例7】
【0166】
NH4のRSK1酵素阻害作用
Desktop profilerを用いた阻害活性評価方法
RSK1は測定直前にKinase buffer(HEPES(pH7.4) 50mM,MgCl2 10mM,Brij-35 0.01%)にて0.4μg/mLの濃度になるよう希釈した。ATP,FL-peptide 1(Caliper life science社製 Cat.No760345)は,それぞれ,40μM,2μMの濃度になるようKinase buffer中に混合して,基質液として使用した。DMSO濃度が8%になるようKinase bufferで希釈した被験化合物5μLとRSK1 5μLを混合し,15分間室温で反応した後,基質液を10μL添加して室温で60分反応させた。Termination buffer(100mM HEPES,11.2mM EDTA,0.16% CR-3,5.6% DMSO,0.02% Brij35,pH7.5)を40μL添加して反応を停止させ,Desktop profilerでFL-peptide1のリン酸化活性を測定した。被験化合物を添加しない場合のRSK1のリン酸化活性を測定し,[100-(被験化合物を添加した場合のRSK1のリン酸化活性)/(被験化合物を添加しない場合のRSK1のリン酸化活性)×100]により当該化合物の阻害率(%)を算出した。
【実施例8】
【0167】
NH4のAKT2酵素阻害作用
Desktop profilerを用いた阻害活性評価方法
AKT2は測定直前にKinase buffer(HEPES(pH7.4) 50mM,MgCl2 10mM,Brij-35 0.01%)にて0.2μg/mLの濃度になるよう希釈した。ATP,FL-peptide 6(Caliper life science社製 Cat.No760350)は,それぞれ,40μM,3μMの濃度になるようKinase buffer中に混合して,基質液として使用した。DMSO濃度が8%になるようKinase bufferで希釈した被験化合物5μLと5μLを混合し,15分間室温で反応した後,基質液を10μL添加して室温で60分反応させた。Termination buffer(100mM HEPES,11.2mM EDTA,0.16% CR-3,5.6% DMSO,0.02% Brij35,pH7.5)を40μL添加して反応を停止させ,Desktop profilerでFL-peptide6のリン酸化活性を測定した。被験化合物を添加しない場合のAKT2のリン酸化活性を測定し,[100-(被験化合物を添加した場合のAKT2のリン酸化活性)/(被験化合物を添加しない場合のAKT2のリン酸化活性)×100]により当該化合物の阻害率(%)を算出した。
【0168】
図3に,本発明の化合物(NH4)のAKT2,RSK1に対する酵素阻害作用を示す。いずれの酵素に対しても,用量依存的な酵素阻害活性が観察された。
【実施例9】
【0169】
NH4の癌細胞増殖抑制作用
増殖過程にある乳がん由来細胞MCF7に対してNH4を添加する細胞アッセイをおこない,NH4の増殖抑制効果を評価した。以下の実験において,細胞培養は,特に言及しない限り,全て37℃,5% CO2条件下でおこなった。
【0170】
(1)Alamar Blue アッセイ
がん細胞としてヒト乳がん由来細胞MCF7を,比較対象の正常細胞として,ヒト乳腺由来正常細胞MCF10Aを用いて,24ウェルプレートに,15,000細胞/ウェルとなるよう播いた。播種時の培地組成は,次のとおりであった。MCF7細胞用としては,フェノールレッド不含DMEMに10%ウシ胎児血清,100μg/mLペニシリン・ストレプトマイシン,非必須アミノ酸,0.1nMエストロジェンおよび0.1% BSAを添加した培地を用いた。MCF10A細胞用としては,フェノールレッド不含DMEMに5%ウマ血清,乳腺上皮細胞添加因子セット(Lonza社,Cat No.CC-4136)および0.1% BSAを添加した培地を用いた。上記の培地でそれぞれ24時間培養した後,血清不含培地で24時間培養して飢餓状態とした。血清不含培地の組成は,フェノールレッド不含DMEMに100μg/mL ペニシリン・ストレプトマイシンおよび0.1% BSAを添加したものとした。
【0171】
飢餓状態のMCF7細胞に,0.01%ウシ胎児血清,非必須アミノ酸,0.1nMエストロジェンおよび10nM IGF-Iを加えて増殖を誘導すると同時に,NH4を0.5μM,2.5μMまたは5μMとなるよう添加した。MCF10A細胞に対しては,5%ウマ血清,乳腺上皮細胞添加因子セットを加えて増殖を誘導すると同時に,NH4をMCF7と同濃度で添加した。培地中のDMSO濃度は,すべてのウェルで0.1%とした。細胞を72時間培養した後,各ウェルの培地を10% Alamar Blue溶液(Abdセロテック社,Cat No.BUF012B)に置換して,さらに4時間インキュベートした。蛍光強度(535nm励起,595nm放射)を,ARVOプレートリーダー(パーキンエルマー社製)を用いて定量した。
【0172】
図4に,本発明の化合物(NH4)の乳がん由来細胞MCF7,乳腺由来正常細胞MCF10Aに対する細胞増殖阻害作用の代表的事例を示す。NH4は癌細胞のより選択的に用量依存的な細胞増殖阻害作用が観察された。
【実施例10】
【0173】
NH4誘導体のAKT2酵素阻害作用
【0174】
に示す,方法でNH4誘導体の酵素活性を測定した。結果を表1に示す。
いずれの化合物も,いずれの酵素に対しても酵素阻害活性が観察された。
表1は,10μMにおけるAKT2の活性評価を示す。
【0175】
【実施例11】
【0176】
NH4の線維症抑制効果の測定
生理食塩水に溶解したブレオマイシン(日本化薬社,商品名 ブレオ)を5mg/kgとなるように生後6から8週齢のラットに経気道投与する。ブレオマイシン投与日を0日とし,投与後から1日おきに,生理食塩水に溶解した阻害剤を0.1mg/匹~0.5mg/匹の範囲で腹腔投与する。対照として,阻害剤の溶媒のみを同様のスケジュールで投与する。ブレオマイシン投与から15日後にマウスを剖検し,右肺4葉は常法に従い肺組織を中性ホルマリンで固定し,病理切片を作製する。病理組織に対しヘマッソン・トリクローム染色を行い,線維化の状態を確認する。
【産業上の利用可能性】
【0177】
本発明は,化学及び製薬産業において利用されうる。