(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】肝疾患予測又は診断用組成物及びこれを用いた肝疾患予測又は診断方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20220405BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20220405BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20220405BHJP
C12Q 1/6883 20180101ALN20220405BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
C12Q1/6883 Z ZNA
(21)【出願番号】P 2020501172
(86)(22)【出願日】2018-08-20
(86)【国際出願番号】 KR2018009548
(87)【国際公開番号】W WO2019039817
(87)【国際公開日】2019-02-28
【審査請求日】2020-01-15
(31)【優先権主張番号】10-2017-0105714
(32)【優先日】2017-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】504314133
【氏名又は名称】ソウル ナショナル ユニバーシティ ホスピタル
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】ウォン・キム
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-515336(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0237713(US,A1)
【文献】国際公開第2012/049874(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0232385(US,A1)
【文献】特表2015-532271(JP,A)
【文献】LEE, E.S外5名,Growth Differentiation Factor 15 Predicts Chronic Liver Disease Severity,Gut Liver,2017年03月,Vol.11,No.2,Page.276-282,Published online 2016 Oct 13. doi: 10.5009/gnl16049
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
G01N 33/15
C12Q 1/6883
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成長分化因子15(growth differentiation factor 15;以下、GDF15)タンパク質をコードする核酸配列の発現又はGDF15タンパク質の活性を測定する剤を含
み、
前記GDF15タンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列からなる、
非アルコール脂肪肝疾患(non-alcoholic fatty liver disease;NAFLD)における肝線維化の予測又は診断用組成物。
【請求項2】
前記GDF15タンパク質は、検体から分離された生物学的試料に由来
し、
前記生物学的試料は、血液又は生検組織から得られる、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記剤は、GDF15タンパク質又はその断片に特異的に結合可能な抗体である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
次の段階を含む、非アルコール脂肪肝疾患(non-alcoholic fatty liver disease;NAFLD)における肝線維化の予防、治療又は改善候補物質スクリーニング方法:
肝細胞を成長分化因子15(growth differentiation factor 15;GDF15)タンパク質及び候補物質で処理する処理段階;及び
前記GDF15タンパク質の活性を抑制する候補物質を選別する分析段階;
前記GDF15タンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列からなる。
【請求項5】
次の段階を含む、非アルコール脂肪肝疾患(non-alcoholic fatty liver disease;NAFLD)における肝線維化の予防、治療又は改善候補物質スクリーニング方法:
成長分化因子15(growth differentiation factor 15;GDF 15)タンパク質発現細胞を候補物質で処理する処理段階;及び
前記細胞においてGDF15タンパク質の活性を抑制する候補物質を選別する分析段階;
前記GDF15タンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列からなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肝疾患予測又は診断用組成物及びこれを用いた肝疾患予測又は診断方法に関し、より詳細には、非アルコール脂肪肝における肝線維化を予測又は診断するためのマーカー及びこれを用いた予測又は診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
成長分化因子15(growth differentiation factor 15;GDF15)は、哺乳類組織に広範囲に分布し、炎症、癌及び心血管疾患において多角的な役割を担うものと知られている。最近では、血清GDF15数値が肝硬化及び慢性B型肝炎又はC型肝炎ウイルスの感染に関連した肝細胞癌腫疾患患者において増加することが報告された。肝臓疾患におけるGDF15の力学的役割は明らかでないが、GDF15は成長因子β1(transforming growth factor beta 1;TGF-β1)の発現を刺激するだけでなく、肝線維化/発癌経路において重要な役割を担うSMAD信号システムを直接に活性化させることが明らかになった。
【0003】
最近では、筋減少症が非アルコール脂肪肝炎(non-alcoholic steatohepatitis;NASH)及び非アルコール脂肪肝疾患(non-alcoholic fatty liver disease;NAFLD)の独立した危険因子であることが報告された。GDF15発現は筋肉消耗条件で増加するので、血清GDF15数値は筋肉量を調節してNAFLDの組織学的重症度に影響を与え得ることが予想された。
【0004】
したがって、知られた代謝性危険因子とは独立に、GDF15が、生検によって検証されたNAFLD患者達においてNASH発病の危険及び進行性線維化(Advanced fibrosis)の増加を招くかどうか、肝細胞が高濃度のGDF15に露出されることが肝線維化に影響を与えるかどうかを調べることにより、NAFLDの発病及び進行においてGDF15の病原性役割を確立する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者等は非アルコール脂肪肝疾患(non-alcoholic fatty liver disease;NAFLD)における肝線維化を予測又は診断するためのマーカー及びこれを用いた予測又は診断方法を開発しようと鋭意研究・努力した。
【0006】
その結果、成長分化因子15(growth differentiation factor 15;GDF15)タンパク質の数値と肝線維化との間に正の相関関係があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
したがって、本発明の目的は、成長分化因子15(growth differentiation factor 15;以下、「GDF15」という。)タンパク質をコードする核酸配列の発現又はGDF15タンパク質の活性を測定する剤を含む肝疾患予測又は診断用組成物を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、試料からGDF15タンパク質をコードする核酸配列の発現程度又はGDF15タンパク質の濃度を測定する測定段階を含む肝疾患予測又は診断方法を提供することにある。
【0009】
本発明のさらに他の目的は、次の段階を含む、肝疾患予防、治療又は改善候補物質スクリーニング方法を提供することにある:
被検試料をGDF15タンパク質で処理する段階;及び
前記GDF15タンパク質の活性を抑制する被検試料を選別する段階。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、次の段階を含む、肝疾患予防、治療又は改善候補物質スクリーニング方法を提供することにある:
被検試料をGDF15タンパク質発現細胞で処理する段階;及び
前記細胞においてGDF15タンパク質の活性を抑制する被検試料を選別する段階。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、肝疾患予測又は診断用組成物及びこれを用いた肝疾患予測又は診断方法に関し、より詳細には、非アルコール脂肪肝疾患(non-alcoholic fatty liver disease;NAFLD)における肝線維化を予測又は診断するためのマーカーを含む。以下、本発明をより詳細に説明する。
【0012】
本発明の一態様は、成長分化因子15(growth differentiation factor 15;以下、「GDF15」という)タンパク質をコードする核酸配列の発現又はGDF15タンパク質の活性を測定する剤を含む肝疾患予測又は診断用組成物である。
【0013】
前記肝疾患は、肝線維化、肝硬化、急性肝炎、慢性肝炎、肝硬変又は肝癌でよく、例えば、肝線維化であり得るが、これに限定されるものではない。
【0014】
前記肝線維化は、非アルコール脂肪肝疾患における肝線維化であり得るが、これに限定されるものではない。
【0015】
前記GDF15タンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列を含むものでよく、例えば、配列番号1のアミノ酸配列からなるものであり得る。
【0016】
前記剤は、GDF15タンパク質又はその断片に特異的に結合可能な抗体であり得るが、これに限定されるものではない。
【0017】
前記剤は、前記GDF15タンパク質又はその断片に特異的に結合可能な抗体に特異的に結合する検出体をさらに含むことができる。
【0018】
前記検出体は、発色酵素、蛍光物質、放射性同位元素又はコロイドなどで標識した接合体(conjugate);又は前記GDF15タンパク質又はその断片に特異的に結合可能な抗体に特異的に結合できる2次抗体であり得るが、これに限定されるものではない。
【0019】
前記GDF15タンパク質は、検体から分離された生物学的試料から由来したものであり得る。
【0020】
前記生物学的試料は、血液又は生検組織から得られるものであり得るが、これに限定されるものではない。
【0021】
本発明の他の態様は、試料から成長分化因子15(growth differentiation factor 15;GDF15)タンパク質をコードする核酸配列の発現程度又はGDF15タンパク質の濃度を測定する測定段階を含む肝疾患予測又は診断方法である。
【0022】
前記肝疾患は、肝線維化、肝硬化、急性肝炎、慢性肝炎、肝硬変又は肝癌でよく、例えば、肝線維化であり得るが、これに限定されるものではない。
【0023】
前記肝線維化は、非アルコール脂肪肝疾患(non-alcoholic fatty liver disease;NAFLD)における肝線維化であり得るが、これに限定されるものではない。
【0024】
前記GDF15タンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列を含むものでよく、例えば、配列番号1のアミノ酸配列からなるものであり得る。
【0025】
前記GDF15タンパク質は、検体から分離された生物学的試料から由来したものであり得る。
【0026】
前記生物学的試料は、血液又は生検組織から得られるものであり得るが、これに限定されるものではない。
【0027】
前記測定段階は、ELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)、比色法(colorimetric method)、電気化学法(electrochemical method)、蛍光法(fluorimetric method)、発光法(luminometry)、粒子計数法(particle counting method)、肉眼測定法(visual assessment)、閃光計数法(scintillation counting method)及び組織免疫染色法からなる群から選ばれるいずれか一方法を用いて行うことができ、例えば、ELISAを用いて行うことができるが、これに限定されるものではない。
【0028】
前記測定段階は、GDF15タンパク質の濃度が1.52ng/mL以上であるか否かを測定することを含むことができる。
【0029】
本発明の一実施例において、血清GDF15数値の測定値を4個の群(quartiles;Q)に分類した。GDF15の数値が最高である群はQ4であり、これは、GDF15タンパク質の濃度が1.52ng/mL以上であることを意味し、この場合、重症線維化の有病率は41.7%であった。
【0030】
したがって、GDF15数値がQ4に該当する場合、進行性線維化と関連していると見なすことができるので、GDF15タンパク質の濃度が1.52ng/mL以上であるか否かを測定する方法を用いて、GDF15を非アルコール脂肪肝疾患(non-alcoholic fatty liver disease;NAFLD)における肝線維化を予測又は診断するためのマーカーとして活用することができる。
【0031】
本発明のさらに他の態様は、次の段階を含む、肝疾患予防、治療又は改善候補物質スクリーニング方法である:
被検試料を成長分化因子15(growth differentiation factor 15;GDF15)タンパク質で処理する処理段階;及び
前記GDF15タンパク質の活性を抑制する被検試料を選別する分析段階。
【0032】
前記肝疾患は、肝線維化、肝硬化、急性肝炎、慢性肝炎、肝硬変又は肝癌でよく、例えば、肝線維化であり得るが、これに限定されるものではない。
【0033】
前記肝線維化は、非アルコール脂肪肝疾患(non-alcoholic fatty liver disease;NAFLD)における肝線維化であり得るが、これに限定されるものではない。
【0034】
前記被検試料は、血液又は生検組織から得られるものであり得るが、これに限定されるものではない。
【0035】
前記分析段階は、GDF15タンパク質の活性を測定するために、SDS-PAGE、免疫蛍光法、酵素免疫分析法(ELISA)、質量分析及びタンパク質チップからなる群から選ばれる方法を用いて行うことができるが、これに限定されない。
【0036】
前記GDF15タンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列を含むものでよく、例えば、配列番号1のアミノ酸配列からなるものであり得る。
【0037】
本発明のさらに他の態様は、次の段階を含む、肝疾患予防、治療又は改善候補物質スクリーニング方法である:
被検試料を成長分化因子15(growth differentiation factor 15;GDF15)タンパク質発現細胞で処理する処理段階;及び
前記細胞においてGDF15タンパク質の活性を抑制する被検試料を選別する分析段階。
【0038】
前記肝疾患は、肝線維化、肝硬化、急性肝炎、慢性肝炎、肝硬変又は肝癌でよく、例えば、肝線維化であり得るが、これに限定されるものではない。
【0039】
前記肝線維化は、非アルコール脂肪肝疾患(non-alcoholic fatty liver disease;NAFLD)における肝線維化であり得るが、これに限定されるものではない。
【0040】
前記被検試料は、血液又は生検組織から得られるものであり得るが、これに限定されるものではない。
【0041】
前記分析段階は、GDF15タンパク質の発現を測定するために、ウェスタンブロット(Western blotting)、酵素-免疫化学検出法(Enzyme-linked immunosorbent assay,ELISA)、免疫組織化学染色法(immunohistochemical staining)、免疫沈降(immunoprecipitation)及び免疫蛍光法(immunofluorescence)からなる群から選ばれる方法を用いて行うことができるが、これに限定されない。
【0042】
前記GDF15タンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列を含むものでよく、例えば、配列番号1のアミノ酸配列からなるものであり得る。
【発明の効果】
【0043】
本発明は、肝疾患予測又は診断用組成物及びこれを用いた肝疾患予測又は診断方法に関し、前記組成物を用いて、非アルコール脂肪肝疾患(non-alcoholic fatty liver disease;NAFLD)における肝線維化と正の相関関係を持つ成長分化因子15(growth differentiation factor 15;GDF15)タンパク質の数値を確認することができるので、これを、NAFLDにおける肝線維化の予測及び診断に効果的に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1a】非アルコール脂肪肝疾患(non-alcoholic fatty liver disease;NAFLD)の組織学的重症度によって成長分化因子15(growth differentiation factor 15;GDF15)数値が有意に増加することを示すグラフである。
【
図1b】脂肪症等級による平均GDF15数値を示すグラフである。
【
図1c】風船変性(ballooning)等級による平均GDF15数値を示すグラフである。
【
図1d】肝小葉炎症等級による平均GDF15数値を示すグラフである。
【
図1e】線維化段階による平均GDF15数値を示すグラフである。
【
図1f】線維化段階を重症度によって区分して平均GDF15数値を示すグラフである。
【
図2a】線維化段階F0に該当する肝組織をマッソントリクローム(Masson’s trichrome)染色して示す写真である。
【
図2b】線維化段階F0に該当する肝組織を抗-GDF15抗体で染色して示す写真である。
【
図2c】線維化段階F1に該当する肝組織をマッソントリクローム染色して示す写真である。
【
図2d】線維化段階F1に該当する肝組織を抗-GDF15抗体で染色して示す写真である。
【
図2e】線維化段階F2に該当する肝組織をマッソントリクローム染色して示す写真である。
【
図2f】線維化段階F2に該当する肝組織を抗-GDF15抗体で染色して示す写真である。
【
図2g】線維化段階F3に該当する肝組織をマッソントリクローム染色して示す写真である。
【
図2h】線維化段階F3に該当する肝組織を抗-GDF15抗体で染色して示す写真である。
【
図3a】GDF15数値と肝硬直程度との相関関係を示すグラフである。
【
図3b】血清GDF15数値と糖尿病状態によって確認された進行性線維化(Advanced fibrosis)を示すグラフである。
【
図4a】ヒト肝星状細胞(Human Hepatic Stellate Cell;HSCs)であるLX-2細胞の抽出物に組換えヒトGDF15(Recombinant human GDF15;rhGDF15)処理後に時間の経過に従って示すα-平滑筋アクチン(α-smooth muscle actin;α-SMA)の免疫ブロッティング写真である。
【
図4b】LX-2細胞にrhGDF15処理後に時間の経過に従って示すα-SMAの免疫蛍光写真である。
【
図4c】LX-2細胞にrhGDF15処理後に時間の経過に従って示すα-SMAの免疫ブロッティング写真である。
【
図4d】肝細胞の抽出物にrhGDF15処理後に時間の経過に従って示すα-SMAの免疫ブロッティング写真である。
【
図5a】肝細胞、HSCs細胞及びクッパー細胞にパルミチン酸を処理して3時間経過後にGDF15mRNAの発現量を示すグラフである。
【
図5b】肝細胞、HSCs細胞及びクッパー細胞にパルミチン酸を処理して6時間経過後にGDF15mRNAの発現量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0045】
成長分化因子15(growth differentiation factor 15;以下、GDF15)タンパク質をコードする核酸配列の発現又はGDF15タンパク質の活性を測定する剤を含む肝疾患予測又は診断用組成物に関する。
【実施例】
【0046】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。これらの実施例は単に本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例によって制限されるものと解釈されないことは、当業界における通常の知識を有する者にとって明らかであろう。
【0047】
実験例1:対象者の選定
対象者は、肝脂肪症の放射線学的記録があるか否かを基準に選抜した。
対象者の適格性基準は次の通りである:
(i)18歳以上;
(ii)超音波スキャニング(肝/腎臓エコー発生及び後方減衰増加)において明るいエコーが生成される肝;及び
(iii)6ケ月以内に基準値を超えたアラニントランスアミナーゼ(Alanine Transaminase,ALT)数値の原因不明の上昇。
次の除外基準が適用された:
(i)B型肝炎又はC型肝炎ウイルス感染;
(ii)自己免疫性肝炎;
(iii)薬物による肝損傷又は脂肪症;
(iv)ウィルソン病又は血色素沈着症;
(v)過度な飲酒(男性>30g/day、女性>20g/day);及び
(vi)悪性腫瘍診断。
実験群には非アルコール脂肪肝炎(nonalcoholic Steatohepatitis;NASH)又は線維化が疑われる肝生検患者が含まれた。
また、対照群は、肝組織の肝生検及び供与者肝移植のための事前評価から収集された血清又は放射線結果に基づいて、肝脂肪症の徴候はないが、肝腺腫又は局所結節過形成と疑われる固形肝癌の確認のために収集された血清を含むように設定された。
【0048】
実験例2:測定方法
身体質量指数(Body mass index,BMI、≧25kg/m2)は、世界保健機構アジア-太平洋基準に基づいて肥満を判断する基準として用いた。代謝症候群は、改正された国家コレステロール教育プログラム成人治療パネルIII基準(National Cholesterol Education Program Adult Treatment Panel III criteria)によって定義された。インスリン抵抗性は、12時間(一晩)中に迅速に生検を行った静脈血サンプルに対してインスリン抵抗性(homeostasis model assessment of insulin resistance,HOMA-IR)の恒常性モデル評価を用いて評価した。筋減少症(Sarcopenia)は、四肢骨格筋(appendicular skeletal muscle;ASM)の質量を体重で割った値で評価した(ASM/weight,ASM%)。骨格筋量欠乏(Low skeletal muscle mass;LSMM)は、米国国立保健院筋減少症プロジェクト(National Institutes of Health Sarcopenia Project)指針に従って骨格筋質量(ASM)をBMIで割った値(ASM/BMI)で定義した。成長分化因子15(growth differentiation factor 15;GDF15)数値は、商業的に利用可能な酵素免疫吸着分析キット(enzyme-linked immunosorbent assay kit;ELISA;R & D Systems、Minneapolis、MN)を用いて測定した。前記GDF15のアミノ酸配列情報は、下記表1の通りである。
【0049】
【0050】
肝硬直の測定のために、進行性線維化(Advanced fibrosis)を予測するための一時的弾力性検査(transient elastography;TE)を行った。線維化指数(NAFLD fibrosis score;NFS)、線維化-4(Fibrosis-4;Fib4)基準及びアスパラギン酸アミノ転移酵素(aspartate aminotransferase;AST)、血小板比指数(AST to Platelet Ratio Index;APRI)を計算し、GDF15に対するそれらの指数を進行性線維化の予測及び診断の観点から比較した。
【0051】
実験例3:肝組織学的評価
非アルコール脂肪肝疾患(non-alcoholic fatty liver disease;NAFLD)は、5%以上の巨大水疱性脂肪症の存在の有無によって診断された。NASHは、巨大細胞で構成された組織学的肝損傷の全パターンに基づいて診断された。このような基準によって線維化が確認された。進行性線維化は、F3以上の段階に該当するものに限って診断された。
【0052】
実験例4:GDF15存在下における肝細胞培養
GDF15 100ng/mL及びTGF-β 10ng/mLの存在下で培養されたLX-2細胞(ヒト肝星状細胞;Human Hepatic Stellate Cell,KAIST)及びマウスの肝から直接分離した1次肝細胞(primary hepatocytes cells)当たりに3×105cells/6ウェル(well)に組換えヒトGDF15(Recombinant human GDF15;rhGDF15;R&D Systems;957-GD-025)を100ng/mL添加した。アルファ平滑筋アクチン(Alpha-smooth muscle actin;α-SMA)及びコラーゲン1(Collagen 1)のような線維化マーカーの数値は、免疫ブロッティング、免疫組織化学染色及び免疫蛍光染色で確認した。
【0053】
実験例5:パルミチン酸処理によるGDF15mRNAの発現量変化確認
1次肝細胞を分離して、肝細胞、HSCs(LX-2)、クッパー(Kupffer)細胞及び肝血管内皮細胞(liver sinusoidal endothelial cells;LSECs)に分化させた。クッパー細胞は肝に存在する大食細胞であり、炎症の開始に必須の役割を担うものと知られている。
【0054】
クッパー細胞とLSECsとを区分するために、MiniMACSTM分離システム(Miltenyi Biotec,Seoul,Korea)を用いて自己-活性化細胞選別(magnetic-activated cell sorting;MACS)を行った。LSECsの純度は、抗-PE抗体(純度90%以上)を用いた蛍光-活性化細胞分類方法によって評価された。1次細胞を1.5mLの無血清(serum-free)培地で4時間培養し、5(w/w)%牛血清アルブミン(bovine serum albumin;BSA対照群)、200μMパルミチン酸/5(w/w)%BSA溶液及び500μMパルミチン酸/5(w/w)%BSA溶液をそれぞれ処理した。3時間及び6時間の経過後、細胞を収集してさらに分析した。逆転写重合酵素連鎖反応(Reverse-transcription polymerase chain reaction;RT-PCR)及び実時間PCR(real-time PCR)を行ってパルミチン酸処理後のGDF15mRNAの発現を評価した。
【0055】
実験例6:統計分析
グループ間の差異は、独立t検定、マンホイットニーU(Mann-Whitney U)検定、分散分析(analysis of variance;ANOVA)又は連続変数に対するクラスカルウォリス(Kruskal-Wallis)検定及び範疇型変数に対するカイ二乗(chi-square)検定を用いて評価された。スピアマン(Spearman)の相関分析は、GDF15数値と組織学的媒介変数との関係を評価するために行われた。
【0056】
年齢、性別、インスリン抵抗性(homeostasis model assessment of insulin resistance;HOMA-IR)を補正した一般の線形モデルを用いてNASH又は進行性線維化状態によるGDF15数値を比較した。NASH又は線維化の独立した予測因子を調べるために、共変量(covariates)が調整されたバイナリロジスティック回帰モデル(binary logistic regression model)を生成した。有意性は、P<0.05と定義された。全ての統計分析は、IBM SPSS統計バージョン20.0(IBM Inc.,Armonk,NY)を用いて行われた。
【0057】
結果例1:NAFLDの組織学的スペクトルによる臨床的特徴
表2-1~2-3に示すように、150名のNAFLD患者と40名の対照群を調べた。NAFLD患者達を、生検によって、非アルコール脂肪肝(non-alcoholic fatty liver;NAFL)72名(男性65.3%)とNASH78名(男性44.9%)とに区分した。
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
前記表2-1~2-3から確認できるように、NAFLDの重症度とBMI、腰回り、関連条件(糖尿病、高血圧及び黄斑症)、アラニントランスアミナーゼ(Alanine Transaminase;ALT)及びアスパラギン酸トランスアミナーゼ(Aspartate Transaminase;AST)数値、インスリン抵抗性(HOMA-IR)との線形相関関係を発見した(1BMI≧25kg/m2、2米国国立保健院筋減少症プロジェクト(National Institutes of Health Sarcopenia Project)指針による男性<0.789及び女性<0.512以上のASM/BMI、3連続変数のための独立t検定又はマンホイットニー分析検定;範疇型変数に対するカイ二乗検定)。
【0062】
表3-1~3-2から確認できるように、NAFLD患者(n=150)のうち、進行性線維化患者は、年齢が高く、女性の方が多く、進行性線維化が確認されなかったNAFLD患者に比べて有意に低い血清アルブミン数値及び血小板数値を示した。
【0063】
【0064】
【0065】
進行性線維化は、糖尿病と高血圧、高いインスリン抵抗性、低いASM/BMI(P:0.003,0.001,<0.001,0.008)の条件と有意の相関関係を示したが、腰回りやBMIとは有意の相関関係を示さなかった(1BMI≧25kg/m2、2米国国立保健院筋減少症プロジェクト(National Institutes of Health Sarcopenia Project)指針による男性<0.789及び女性<0.512以上のASM/BMI、3連続変数に対するANOVA又はクラスカルウォリス検定;範疇型変数に対するカイ二乗検定)。
【0066】
結果例2:GDF15数値と進行性線維化との関係
前記表2-1~2-3によれば、GDF15数値は、NAFLDの組織学的重症度によって有意に増加した。
図1aから確認できるように、NASH患者は、対照群(No NAFLD)又はNAFL患者に比べて有意に高いGDF15数値を示した。一方、
図1bから確認できるように、GDF15数値と脂肪症等級との連関性はなかった(P=0.202)。
図1c及び
図1dから確認できるように、血清GDF15数値は風船変性(ballooning)(Spearman’s ρ,0.200;P=0.006)及び肝小葉炎症の重症度(Spearman’s ρ,0.271;P<0.001)によって有意に増加した。
図1eから確認できるように、線維化程度は、血清GDF15数値と有意の相関関係があった(Spearman’s ρ,0.337;P<0.001)。
図1fから確認できるように、進行性線維化に該当する対象者であるF3及びF4は、そうでない対象者であるF0~F2に比べて有意に高いGDF15数値を示した(P<0.001)。
【0067】
結果的に、血清GDF15数値とNAFLDの組織学的な重症度との間に階段式連関性があることが確認でき、また、肝小葉炎症、風船変性及び線維化の重症度と正の相関関係があることが確認できる。
【0068】
図2から確認できるように、免疫組織化学的分析によって確認したところによれば、
図2hのように表示される進行性線維化を示す対象者の肝におけるGDF15発現程度は、
図2b、
図2d及び
図2fのように表示され、進行性線維化が確認されなかった対象者の場合に比べて顕著に高く現れた。
【0069】
GDF15数値が進行性線維化(≧F3)と独立に関連しているため、GDF15数値と、線維化の重症度を肝硬直度で示したTE数値との間に相関関係が成立するかを調べた。
【0070】
図3aから確認できるように、GDF15数値と肝硬直度との間に有意な正の相関関係があることを発見した(Spearman’s ρ,0.525;P<0.001)。
【0071】
次に、GDF15数値を4個の群(quartiles;Q)に分類した;Q1とQ4はそれぞれ、最低群と最高群である。重症線維化の有病率はそれぞれ、Q1、Q2、Q3及びQ4において2.2%、8.2%、8.5%及び41.7%であった(P<0.001)。GDF15が最も高い群(Q4;GDF15数値≧1.52ng/mL)は、進行性線維化と関連があった(unadjusted odds ratio[OR],10.56;95% confidence interval[CI],4.35-25.60;P<0.001)。
【0072】
結果例3:NAFLDにおいて線維化の決定的因子としてのGDF15の確認
その後、GDF15数値によって線維化進行の危険を予測することがNAFLD患者に限って可能であるかを調べた。
【0073】
表4のように、多変数モデル1は、年齢、性別及び体質量指数を調整し、多変数モデル2は、モデル1に含まれた要因の他にも喫煙、高血圧及び糖尿病を、多変数モデル3は、モデル2に含まれた要因の他にもAST、血小板及びアルブミンを、多変数モデル4は、モデル3に含まれた要因の他にもHOMA-IRを、多変数モデル5は、モデル4に含まれた要因の他にもLSMMを、変数として追加して調整した。
【0074】
【0075】
Q4のGDF15数値は、年齢、性別、BMI、喫煙状態によって調整された多変数モデル(Multivariate model)分析において有意味な状態を維持する進行性線維化、高血圧、糖尿病、AST数値、血小板数値、アルブミン数値を示した。インスリン抵抗性及びLSMMに対する追加調整は、GDF15数値と進行性線維化との連関性において統計的有意性を示した。対照的に、Q4のGDF15数値は、NAFLD対象者においてNASH発病の危険とは連関性がなかった。しかし、GDF15は、LSMM及びインスリン抵抗性に対する調整後にもNAFLDの進行性線維化に独立した決定因子として機能することが確認できる。
【0076】
結果例4:糖尿病の有無と進行性線維化有病率との相関関係
GDF15が糖尿病の有無に関係なく進行性線維化に決定的な影響を及ぼし得るかを調べた。
【0077】
図3bから確認できるように、GDF15数値を4個の群に分けて層化分析した結果は、進行性線維化の重症度に対する更なる差異を示した。特に、糖尿病を持つ対象者のうち、進行性線維化の有病率は、Q4のGDF15数値に該当する場合に54.2%だったが、Q1~Q3のGDF15数値に該当する場合には12.1%に過ぎなかった。特に、GDF15数値がQ4に該当する場合、非糖尿病患者においても、重症線維化に該当する有病率は31.3%であり、これは、Q1~Q3に該当するGDF15数値を有する非糖尿病患者の危険度に比べて線維化進行危険度が6倍以上も高いことを示す(OR,6.72,95% CI,1.50-30.13)。糖尿病の有無に関係なく、GDF15数値に関連した進行性線維化の有病率は、NAFLD群において29.8%(17/57)、10.8%(10/93)だった(P=0.003、カイ二乗検定)。
【0078】
結果例5:GDF15処理によるLX-2細胞における線維化の誘導
図4aから確認できるように、rhGDF15処理によってLX-2細胞においてα-SMA及びコラーゲン1(Collagen 1)のような既存線維化マーカーの発現は増加し、細胞死滅には影響を与えなかった。
【0079】
図4bから確認できるように、免疫ブロッティング(immunoblotting)と同様に、免疫蛍光(immunoluorescence)染色法によって確認した結果、GDF15を12時間処理した場合、白色矢印で表される部分のように、α-SMAが高い発現量を示した。
図4cから確認できるように、GDF15がヒト肝細胞においてSMAD2及びSMAD3のリン酸化を増加させることによって線維化を誘導するということを検証した。
図4dから確認できるように、GDF15の処理は、1次肝細胞においてSMAD2及びSMAD3のリン酸化を上向き調節することによって線維化を誘導した。
【0080】
GDF15処理後、12時間以内にα-SMA数値は増加し、SMADリン酸化は3時間以内で非常に早く誘導された。GDF15処理後に肝細胞活性化及び線維化に重要な役割を担うものと知られたSMAD2とSMAD3のリン酸化が増加することによって、GDF15がヒト肝細胞を活性化させ、線維化を誘導するということを発見した。肝細胞に対するGDF15の急性刺激効果は12時間後に顕著に減少し、これは、GDF15が肝損傷又は炎症に対する初期反応に関与し得るということを示唆する。
【0081】
結果例6:パルミチン酸処理によるGDF15mRNAの発現増加
GDF15がLSMMに関係なく進行性線維化に決定的な影響を及ぼし得るかどうかを調べた。筋減少現象を誘導するものと知られたパルミチン酸を肝細胞に時間及び容量依存的に処理した後、GDF15mRNA発現を評価した。
【0082】
図5aから確認できるように、パルミチン酸処理3時間後に肝細胞では変化がなく、HSCsでは、パルミチン酸200μMを処理した場合、GDF15mRNA発現レベルがやや上昇したが、有意ではなかった。しかし、クッパー細胞ではパルミチン酸500μMを処理した場合、GDF15mRNA発現レベルの約2倍と有意に増加した(P=0.004)。
【0083】
図5bから確認できるように、パルミチン酸処理6時間経過後、肝細胞とHSCsにおけるGDF15mRNA発現数値では有意の変化がなかった。クッパー細胞におけるGDF15mRNA発現量は、パルミチン酸200μMを処理した場合に2.5倍増加し(P=0.009)、パルミチン酸を500μM処理した場合に1.5倍増加した(P=0.032)。
【0084】
結果的に、パルミチン酸を処理する場合、クッパー細胞においてGDF15mRNA発現量が増加することを確認し、これは、GDF15の発現量と筋肉量との間に逆の相関関係があることを意味する。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、肝疾患予測又は診断用組成物及びこれを用いた肝疾患予測又は診断方法に関し、より詳細には、非アルコール脂肪肝における肝線維化を予測又は診断するためのマーカー及びこれを用いた予測又は診断方法に関する。
【配列表】