(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】抗菌性接着タンパク質、抗菌性ナノ粒子、それを含む抗菌組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 38/10 20060101AFI20220405BHJP
A61K 38/08 20190101ALI20220405BHJP
A61K 47/64 20170101ALI20220405BHJP
A61K 9/51 20060101ALI20220405BHJP
A61K 33/00 20060101ALI20220405BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20220405BHJP
A61K 33/24 20190101ALI20220405BHJP
A61K 33/26 20060101ALI20220405BHJP
A61K 33/32 20060101ALI20220405BHJP
A61K 33/243 20190101ALI20220405BHJP
A61K 33/242 20190101ALI20220405BHJP
A61K 33/34 20060101ALI20220405BHJP
C07K 19/00 20060101ALN20220405BHJP
C07K 14/435 20060101ALN20220405BHJP
C07K 7/08 20060101ALN20220405BHJP
C07K 7/06 20060101ALN20220405BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20220405BHJP
【FI】
A61K38/10 ZNA
A61K38/08
A61K47/64
A61K9/51
A61K33/00
A61P31/04
A61K33/24
A61K33/26
A61K33/32
A61K33/243
A61K33/242
A61K33/34
C07K19/00
C07K14/435
C07K7/08
C07K7/06
C12N15/62 Z
(21)【出願番号】P 2020501571
(86)(22)【出願日】2018-07-13
(86)【国際出願番号】 KR2018007980
(87)【国際公開番号】W WO2019017658
(87)【国際公開日】2019-01-24
【審査請求日】2020-01-14
(31)【優先権主張番号】10-2017-0090691
(32)【優先日】2017-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(73)【特許権者】
【識別番号】506376458
【氏名又は名称】ポステック アカデミー-インダストリー ファンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】チャ、 ヒョン ジュン
(72)【発明者】
【氏名】チョ、 ユン ギ
(72)【発明者】
【氏名】チョン、 ヨンス
【審査官】北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2015-0143173(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0263136(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0030943(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0143174(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0144073(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0017499(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0112318(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0052712(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ムール貝の接着タンパク質に抗生ペプチドが連結された抗菌性接着タンパク質内のチロシン残基が
ドーパ(3,4-dihydroxyphenylalanine、DOPA)で修正された(modified)ムール貝の接着タンパク質の誘導体及び前記ムール貝の接着タンパク質の誘導体と配位結合可能な金属を含み、内在した抗菌性を有する、抗菌性ナノ粒子を含み、
前記抗菌性ナノ粒子は1.0μg/ml~2μg/mlで含まれる、抗菌組成物。
【請求項2】
前記配位結合可能な金属は、チタン(titanium)、バナジウム(vanadium)、クロム(chrome)、マンガン(manganese)、鉄、コバルト(cobalt)、ニッケル(nickel)、ジルコニウム(zirconium)、ニオブ(niobium)、モリブデン(molybdenum)、テクネチウム(technetium)、ルテニウム(ruthenium)、ロジウム、パラジウム(palladium)、銀、ハフニウム(hafnium)、タンタル(tantalum)、タングステン(tungsten)、レニウム(rhenium)、オスミウム(osmium)、イリジウム(iridium)、白金、及び金からなる群より選択された1種以上である、請求項
1に記載の抗菌組成物。
【請求項3】
抗菌剤がさらに積載されている、請求項1
または2に記載の抗菌組成物。
【請求項4】
前記抗菌剤は、ペニシリン系(penicillins)、セファロスポリン系(Cephalosporins)、ベータラクタム系(β-lactams)、マクロライド系(macrolides)、グリコペプチド系(glycopeptides)、リンコサミド系(lincosamides)、キノロン系(quinolones)、リファマイシン、クロラムフェニコール、ポリマイシン、トリメトロプリム、ストレプトグラミン、オキサゾリジノン、ゲンタマイシン、及びバシトラシンからなる群より選択された1種以上である、請求項
3に記載の抗菌組成物。
【請求項5】
細菌の感染環境であるpH0.1~pH6.5の条件下で抗菌効果を発現する、請求項1~
4のいずれか一項に記載の抗菌組成物。
【請求項6】
前記抗生ペプチドは、A7ペプチド、Tet-20ペプチド、minTBPペプチド、及びMP196ペプチドからなる群より選択される少なくとも一つのペプチドである、 請求項1~
5のいずれか一項に記載の抗菌組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性接着タンパク質、それを用いた抗菌性ナノ粒子、それを含む抗菌組成物及びその製造方法に関し、より詳細には、タンパク質自体が接着性及び抗菌性をともに示すタンパク質、それを含む抗菌組成物、ならびにそれを用いた抗菌性ナノ粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細菌は、外科手術機材や体内植込み型医療機器などの表面に付着してバイオフィルム(biofilm)を形成し、この過程で宿主に対する免疫反応や抗菌物質に対する抵抗性を獲得するようになる。この場合、患者の治療の失敗、治療期間の延長、合併症誘発などという様々な問題を引き起こすことがある。そこで、外科的手術中の感染を介したバイオフィルムの形成を防止するために、様々な抗菌剤及び抗菌戦略が開発されてきたが、抗菌剤に対する耐性の増加、周囲の組織への毒性、抗菌剤の限時性などという様々な問題点が浮上している。
【0003】
人体に感染する病原菌のうち特定の菌株は、宿主細胞内に寄生して宿主の代謝活動を支配しながら継続的に増殖する。結核菌、腸チフス菌、クラミジア菌、リステリア菌などが代表的な細胞内生菌(intracellular bacteria)であり、一般的に細胞外生菌(extracellular bacteria)として知られている大腸菌やブドウ球菌なども宿主細胞に侵入し、宿主細胞内に寄生する能力を有することが明らかになっている。かかる細胞内生菌の感染を阻害するために、細胞の内部まで抗菌剤が拡散または内包作用によって到達するようにする必要があるが、現存する抗菌剤のうち3分の2以上は、細胞内生菌に効果を奏することができないという限界がある。
【0004】
抗生ペプチド(または抗菌ペプチド、antimicrobial peptide、AMP)とは、自然に存在する生命体が有する先天的免疫システムの一部として生成されるアミノ酸の鎖のことであり、一般に、細菌、ウイルス、真菌類に対する抗生活性を示す。特に、抗生ペプチドは、細菌の細胞膜を崩壊したり、または孔を形成して細胞内の物質が失われるようにして、細菌細胞内の物質と反応し、細菌の核酸またはタンパク質合成を阻害するなどという様々な機作で幅広い細菌に対する抗菌活性を有することから、次世代の抗菌剤として脚光を浴びている。
【0005】
一方、海洋生命体であるムール貝(mussel)は、接着タンパク質(adhesive proteins)を生産及び分泌することにより、ムール貝自体を海の中の岩のような濡れた固体表面にしっかりと付着させることができ、波の衝撃や海水の浮力効果による影響を受けない。ムール貝の接着タンパク質は、強力な自然の接着剤として知られており、化学合成接着剤と比較したとき、大部分のエポキシ樹脂よりも約2倍程度の高い引張強度を示しながらも、曲がることができる柔軟性を有する。また、ムール貝の接着タンパク質は、プラスチック、ガラス、金属、テフロン(登録商標)や生体物質などという様々な表面に接着することができる能力を有しているため、これまで化学接着剤の開発において未完の課題として残っている濡れた表面での接着も数分内で可能である。
【0006】
しかし、ムール貝から自然抽出した接着物質1グラムを得るためには、約一万匹のムール貝を必要とするため、ムール貝の接着タンパク質の物性が非常に優れているにもかかわらず、自然抽出したムール貝の接着タンパク質を産業的に利用するには多くの制約を伴う。1つの代替案として、遺伝子組換え技術を用いたムール貝の接着タンパク質の大量生産に関する研究がMefp(Mytilus edulis foot protein)-1、Mgfp(Mytilus galloprovincialis foot protein)-1、Mcfp(Mytilus coruscus foot protein)-1、Mefp-2、Mefp-3、Mgfp-3、及びMgfp-5などで行われている。
【0007】
一方、ナノ粒子は、食細胞作用(phagocytosis)または飲細胞作用(pinocytosis)経路を介して動物細胞内に侵入することができる特性を有することから、細胞内感染を阻害するための戦略として注目されてきた。よって、温度やpHなどのような外部刺激感応型素材をベースに、ナノ粒子に抗菌剤を担持し、抗菌剤の安定性向上及び選択的な抗菌放出についての研究が報告されてきた。しかし、かかる大部分の研究では、ナノ粒子に担持された抗菌剤によって抗菌効果が示され、ナノ粒子自体が抗菌性を有する物質についての報告はされたことがない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】KR10-2014-0002244
【文献】WO06107183 A
【文献】WO05092920 A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の一目的は、自体が抗菌性を有する抗菌性接着タンパク質を提供することである。
【0010】
本発明の他の目的は、内在した抗菌性を有する抗菌性ナノ粒子を提供することである。
【0011】
本発明のさらに他の目的は、内在した抗菌性を有する、抗菌性ナノ粒子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一側面によると、ムール貝の接着タンパク質に抗生ペプチドが連結された抗菌性接着タンパク質が提供される。
【0013】
上記ムール貝の接着タンパク質は、Mefp(Mytilus edulis foot protein)-1、Mefp-2、Mefp-3、Mefp-4、Mefp-5、Mgfp(Mytilus galloprovincialis foot protein)-1、Mgfp-2、Mgfp-3、Mgfp-4、Mgfp-5、Mcfp(Mytilus coruscus foot protein)-1、Mcfp-2、Mcfp-3、Mcfp-4、Mcfp-5、fp(foot protein)-1、fp-2、fp-3、fp-4、fp-5、及びfp-6からなる群より選択されたタンパク質、上記タンパク質の変異体、または上記群より選択された1種以上のタンパク質が連結される融合タンパク質であることが好ましい。
【0014】
上記抗生ペプチドは、A7ペプチド、Tet-20ペプチド、minTBPペプチド、及びMP196ペプチドからなる群より選択される少なくとも一つのペプチドであることが好ましい。
【0015】
本発明の他の側面によると、上記本発明の抗菌性接着タンパク質内のチロシン残基がカテコール誘導体で修正された(modified)ムール貝の接着タンパク質の誘導体、及び上記ムール貝の接着タンパク質の誘導体と配位結合可能な金属を含み、内在した抗菌性を有する抗菌性ナノ粒子が提供される。
【0016】
上記カテコール誘導体は、ドーパ(3,4-dihydroxyphenylalanine、DOPA)、ドーパキノン(Dopa o-quinone)、ドーパミン(dopamine)、ノルエピネフリン(norepinephrine)、エピネフリン(epinephrin)、エピガロカテキン(epigallocatechin gallate)、及びこれらの誘導体からなる群より選択された1種以上であることが好ましい。
【0017】
上記配位結合可能な金属は、チタン(titanium)、バナジウム(vanadium)、クロム(chrome)、マンガン(manganese)、鉄、コバルト(cobalt)、ニッケル(nickel)、ジルコニウム(zirconium)、ニオブ(niobium)、モリブデン(molybdenum)、テクネチウム(technetium)、ルテニウム(ruthenium)、ロジウム、パラジウム(palladium)、銀、ハフニウム(hafnium)、タンタル(tantalum)、タングステン(tungsten)、レニウム(rhenium)、オスミウム(osmium)、イリジウム(iridium)、白金、及び金からなる群より選択された1種以上であることが好ましい。
【0018】
上記抗菌性ナノ粒子は、抗菌剤がさらに積載されたものであることが好ましい。
【0019】
上記抗菌剤は、ペニシリン系(penicillins)、セファロスポリン系(Cephalosporins)、ベータラクタム系(β-lactams)、マクロライド系(macrolides)、グリコペプチド系(glycopeptides)、リンコサミド系(lincosamides)、キノロン系(quinolones)、リファマイシン、クロラムフェニコール、ポリマイシン、トリメトロプリム、ストレプトグラミン、オキサゾリジノン、ゲンタマイシン、及びバシトラシンからなる群より選択された1種以上であることが好ましい。
【0020】
細菌の感染環境であるpH0.1~pH6.5の条件下で抗菌効果を発現することができる。
【0021】
本発明のさらに他の側面によると、上記本発明の抗菌性接着タンパク質内のチロシン残基がカテコール誘導体で修正された(modified)ムール貝の接着タンパク質の誘導体を水とエタノールの混合溶媒に溶解する段階と、上記ムール貝の接着タンパク質の誘導体と配位結合可能な金属の塩を追加して放射溶液を製造する段階と、上記放射溶液を電気放射する段階と、を含む、内在した抗菌性を有する、抗菌性ナノ粒子の製造方法が提供される。
【0022】
上記混合溶媒は、水とエタノールが20:80~40:60の重量比で混合されることが好ましい。
【0023】
上記金属の塩は、金属イオンとカテコール誘導体のモル比が1:3~1:4になるように追加されることが好ましい。
【0024】
上記金属は、チタン(titanium)、バナジウム(vanadium)、クロム(chrome)、マンガン(manganese)、鉄、コバルト(cobalt)、ニッケル(nickel)、ジルコニウム(zirconium)、ニオブ(niobium)、モリブデン(molybdenum)、テクネチウム(technetium)、ルテニウム(ruthenium)、ロジウム、パラジウム(palladium)、銀、ハフニウム(hafnium)、タンタル(tantalum)、タングステン(tungsten)、レニウム(rhenium)、オスミウム(osmium)、イリジウム(iridium)、白金、及び金からなる群より選択された1種以上であることが好ましい。
【0025】
本発明のさらに他の側面によると、上記本発明の抗菌性ナノ粒子を含む抗菌組成物が提供される。
【0026】
上記抗菌性ナノ粒子は1.0μg/ml~2μg/mlの濃度で含まれることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明は、抗生ペプチドがムール貝の接着タンパク質に内在するようにすることにより、抗菌効果を示す生体接着材料として用いることができ、ムール貝の接着タンパク質の優れた接着力を用いることで、表面材質に関係なく様々な表面にコーティングすることができるとともに、ナノ粒子の形で製造することにより細胞内感染を効率的に防止することができる。特に、本発明による抗菌性ナノ粒子は、細胞内感染に活用される際に、感染した動物細胞には非活性状態として影響を与えず、細菌、すなわち、動物細胞内の感染した内生菌を死滅させる内在的抗菌性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の抗菌性接着タンパク質MAP-cAMPがコーティングされた表面において、抗生ペプチドの作用により細菌細胞膜を崩壊して抗菌効果を発現する様相を示す模式図である。
【
図2】MAP-cAMP融合タンパク質の発現を確認したSDS-PAGEの結果を示すものである。
【
図3】MAP-cAMP融合タンパク質の溶液内の電荷を確認した結果を示すグラフである。ここで、対照群として、ペプチドを融合しないMAPを適用した。
【
図4】MAP-cAMP融合タンパク質のコーティング濃度による抗菌効果を分析するためのディスク拡散試験(disk diffusion test)の結果を示すものである。
【
図5】上記
図4の抗菌活性分析の結果から阻害面積を図式化したグラフである。
【
図6】コーティング濃度を異ならせたMAP-cAMP融合タンパク質のコーティング表面を大腸菌が培養される液体培地に適用した後、24時間後の光学密度(optical density)の値を示すグラフである。
【
図7】抗菌性接着タンパク質MAP-cAMPを用いて製造したナノ粒子の感染環境における抗菌効果の活性化に関する模式図である。
【
図8】MAP-cAMP融合タンパク質と対照群MAPタンパク質のナノ粒子相及びタンパク質溶液相の電荷を確認した結果を示すものである。
【
図9】抗菌性ナノ粒子MAP-cAMP-NPsのSEM観察結果及び粒子サイズ分布についての結果を示すグラフである。
【
図10】ゲンタマイシンを搭載した抗菌性ナノ粒子(MAP-cAMP@GENT)-NPsのSEM観察結果及び粒子サイズ分布についての結果を示すグラフである。
【
図11】抗菌性ナノ粒子MAP-cAMP-NPsの中性環境(pH7.4)及び酸性環境(pH4.0)における溶液内の電荷を確認した結果を示すグラフである。
【
図12】抗菌性ナノ粒子MAP-cAMP-NPsの中性環境(pH7.4)及び酸性環境(pH4.0)におけるSEM観察結果を示すグラフである。
【
図13】濃度を異ならせた抗菌性ナノ粒子MAP-cAMP-NPsを大腸菌が培養される液体培地に適用した後、12時間及び24時間後の光学密度(optical density)の値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、添付の図面を参照して、本発明の好ましい実施形態を説明する。しかし、本発明の実施形態は、いくつかの他の形態に変形することができ、本発明の範囲が以下説明する実施形態に限定されるものではない。
【0030】
本発明によると、抗菌性接着タンパク質、抗菌性ナノ粒子、及びその製造方法が提供される。
【0031】
本発明によって提供される抗菌性接着タンパク質は、タンパク質自体が抗菌性を有し、ムール貝の接着タンパク質に抗生ペプチドが連結されたものである。
【0032】
本発明において、ムール貝の接着タンパク質は、KR10-2014-0002244、WO2006/107183 A、及びWO2005/092920 Aなどに開示されたものを用いることができ、具体的な製造過程は、国際特許公開WO2006/107183及びWO2005/092920に示すように行われることができる。
【0033】
このとき、適用されることができるムール貝の接着タンパク質は、ムール貝から由来した接着タンパク質であって、好ましくは、ヨーロッパイガイ(Mytilus edulis)、ムラサキイガイ(Mytilus galloprovincialis)、イガイ(Mytilus coruscus )に由来したムール貝の接着タンパク質またはその変異体を含むが、これに制限されない。
【0034】
上記ムール貝の接着タンパク質は、上記ムール貝種からそれぞれ由来したMefp(Mytilus edulis foot protein)-1、Mefp-2、Mefp-3、Mefp-4、Mefp-5、Mgfp(Mytilus galloprovincialis foot protein)-1、Mgfp-2、Mgfp-3、Mgfp-4、Mgfp-5、Mcfp(Mytilus coruscus foot protein)-1、Mcfp-2、Mcfp-3、Mcfp-4、及びMcfp-5、またはその変異体を含むことができ、好ましくは、fp(foot protein)-1、fp-2、fp-3、fp-4、fp-5、及びfp-6からなる群より選択されたタンパク質、または上記群から選択された1種以上のタンパク質が連結される融合タンパク質、または上記タンパク質の変異体を含むが、これに制限されない。
【0035】
また、本発明のムール貝の接着タンパク質は、上記WO2006/107183及びWO2005/092920に記載されたすべてのムール貝の接着タンパク質を含む。好ましくは、上記ムール貝の接着タンパク質は、fp-151やfp-131、fp-353、fp-153、fp-351などの融合タンパク質を含むことができるが、これらに制限されない。また、本発明のムール貝の接着タンパク質は、fp-1において80回程度繰り返されるデカペプチドが1~12回、またはそれ以上連結されたポリペプチドを含むことができる。好ましくは、上記序列番号2のデカペプチドが12回連続して連結されたfp-1変異(variant)ポリペプチドであってもよいが、これに制限されない。
【0036】
本発明者らは、前回の研究で、fp-1において10個の繰り返しアミノ酸が6回繰り返された構造を、fp-5におけるN-末端及びC-末端に遺伝子レベルで連結させた新しい形のムール貝の接着タンパク質fp-151を開発し、上記組換えムール貝の接着タンパク質を大腸菌で発現させることに成功し、大量生産が可能で、単純な分離精製過程を経て産業利用の可能性が非常に高いことを確認した(WO2006/107183及びWO2005/092920)。
【0037】
例えば、上記ムール貝の接着タンパク質は、Mefp(Mytilus edulis foot protein)-1、Mefp-2、Mefp-3、Mefp-4、Mefp-5、Mgfp(Mytilus galloprovincialis foot protein)-1、Mgfp-2、Mgfp-3、Mgfp-4、Mgfp-5、Mcfp(Mytilus coruscus foot protein)-1、Mcfp-2、Mcfp-3、Mcfp-4、Mcfp-5、fp(foot protein)-1、fp-2、fp-3、fp-4、fp-5、及びfp-6からなる群より選択されたタンパク質、上記タンパク質の変異体、または上記群より選択された1種以上のタンパク質が連結される融合タンパク質であることができる。
【0038】
一方、本発明に用いられることができる上記抗生ペプチドは、下記表1に開示されているように、A7ペプチド、Tet-20ペプチド、minTBPペプチド、MP196ペプチド、PTP7ペプチド、テンポリン(Temporin)1CEaからなる群より選択される少なくとも一つのペプチドであることができるが、これらに制限されるものではない。
【0039】
例えば、上記抗生ペプチドは、序列番号16のアミノ酸序列からなるものであってもよい。
【0040】
【0041】
本発明によると、内在した抗菌性を有する、抗菌性ナノ粒子が提供される。このとき、上記抗菌性ナノ粒子は、抗菌性接着タンパク質内のチロシン残基がカテコール誘導体で修正された(modified)ムール貝の接着タンパク質の誘導体、及び上記ムール貝の接着タンパク質の誘導体と配位結合可能な金属を含む。
【0042】
本発明において、抗菌活性とは、微生物または菌株の生長を抑制する抗生効果、及び存在する微生物または菌株を除去する除菌効果を示すものすべてを含むことができる。
【0043】
一方、本発明において、ムール貝の接着タンパク質内のチロシン残基がカテコール誘導体で修正された(modified)ムール貝の接着タンパク質を「修正ムール貝の接着タンパク質」または「ムール貝の接着タンパク質の誘導体」と呼ぶ。ここで、その修正方法は特に制限されない。
【0044】
上記カテコール誘導体は、ジヒドロキシ基を含む化合物であって、金属との配位結合が可能である。具体的には、上記カテコール誘導体は、ドーパ(3,4-dihydroxyphenylalanine、DOPA)、ドーパキノン(Dopa o-quinone)、ドーパミン(dopamine)、ノレピネプリン(norepinephrine)、エピネフリン(epinephrin)、エピガロカテキン(epigallocatechin gallate)、及びこれらの誘導体からなる群より選択された1種以上であることが好ましい。
【0045】
例えば、上記カテコール誘導体は、全チロシン残基の10~100%がカテコール誘導体、特にDOPAで修正されたものであってもよい。
【0046】
上記配位結合可能な金属は、カテコール誘導体と配位結合が可能な任意の金属であって、典型金属または遷移金属であることができる。例えば、上記金属は、チタン(titanium)、バナジウム(vanadium)、クロム(chrome)、マンガン(manganese)、鉄、コバルト(cobalt)、ニッケル(nickel)、ジルコニウム(zirconium)、ニオブ(niobium)、モリブデン(molybdenum)、テクネチウム(technetium)、ルテニウム(ruthenium)、ロジウム、パラジウム(palladium)、銀、ハフニウム(hafnium)、タンタル(tantalum)、タングステン(tungsten)、レニウム(rhenium)、オスミウム(osmium)、イリジウム(iridium)、白金、及び金からなる群より選択された1種以上であることができ、鉄(III)であることが好ましい。
【0047】
このとき、用いられることができる金属の塩は、例えば、塩化鉄(II)(FeCl2)、塩化鉄(III)(FeCl3)、四塩化チタン(TiCl4)、塩化チタン(III)(TiCl3)、塩化コバルト(III)(CoCl3)、塩化コバルト(II)(CoCl2)、塩化ニッケル(NiCl2)、塩化銀(AgCl)などであってもよいが、これらに制限されるものではない。
【0048】
上記カテコール誘導体及び金属は、配位結合して金属-カテコール誘導体の複合体を形成することができる。好ましくは、上記金属-カテコール誘導体の複合体は、Fe(III)-ドーパ複合体であることができる。本発明の一実施例によると、ドーパ及びFe(III)は、配位結合を介して架橋を形成する。ここで、ドーパ及びFe(III)は、体内に既に存在している物質であるため、生体適合性に優れるという長所がある。
【0049】
上記ドーパは、Fe(III)金属と反応してpHに応じてモノ-、ビス-、トリス-結合すると知られている。また、それぞれの結合様相に応じて、Fe(III)-ドーパ結合の固有の色を示すと知られている。本発明の一実施例によると、Fe(III)金属を提供するために、Fe(III)を含む試薬、すなわち、FeCl3を用いることができ、好ましくは、Fe(III):ドーパの分子比が1:3のモル(molar)比、またはFe(III)の割合がこれよりも少なくなるようにFeCl3溶液を添加することができる。
【0050】
さらに、本発明の抗菌性ナノ粒子は、抗菌剤がさらに積載されたものであってもよく、例えば、抗菌剤薬物を担持し、多重薬剤(multi-drug)の形でも応用することができる。上記抗菌剤薬物は、ペニシリン、メチシリン、オキサシリン、ナフシリン、アンピシリン、カルボキシペニシリン、アモキシシリン、ピペラシリンなどのペニシリン系(penicillins);セファロスポリン、セファゾリン、セフタジジム、セフォペラゾン、セフォタキシム、セフチゾキシム、セフトリアキソン、セフタジジムなどのセファロスポリン系(Cephalosporins);カルバペネム、メロペネム、スルバクタム、クラブラン酸、タゾバクタムなどのその他のベータラクタム系(β-lactams);ストレプトマイシン、ネオマイシン、ゲンタマイシン、トブラマイシン、アミカシン、シソマイシン、アストロマイシン、イセパマイシン、アルベカシンなどのアミノグリコシド系(aminoglycosides);エリスロマイシン、クラリスロマイシンなどのマクロライド系(macrolides);テトラサイクリン、メタサイクリン、ミノサイクリン、チゲサイクリン、ドキシサイクリンなどのテトラサイクリン系(tetracyclines);バンコマイシン、テイコプラニンなどのグリコペプチド系(glycopeptides);リンコマイシン、クリンダマイシンなどのリンコサミド系(lincosamides);ナリジクス酸、オキソリニン酸、フルオロキノロン、シプロフロキサシン、ノルフロキサシン、レボフロキサシンなどのキノロン系(quinolones);リファマイシン、クロラムフェニコール、ポリマイシン、トリメトロプリム、ストレプトグラミン、オキサゾリジノン、バシトラシン、及びこれらの混合物であることができるが、これらに制限されない。
【0051】
例えば、上記抗菌剤は、ペニシリン系(penicillins)、セファロスポリン系(Cephalosporins)、ベータラクタム系(β-lactams)、マクロライド系(macrolides)、グリコペプチド系(glycopeptides)、リンコサミド系(lincosamides)、キノロン系(quinolones)、リファマイシン、クロラムフェニコール、ポリマイシン、トリメトロプリム、ストレプトグラミン、オキサゾリジノン、ゲンタマイシン、及びバシトラシンからなる群より選択された1種以上であることが好ましい。
【0052】
本発明の抗菌性ナノ粒子は、内在的抗菌性を有するものであって、特に酸性条件、すなわち、pH0.1~pH6.5、好ましくはpH0.1~pH5、例えば、pH4.0~5.0の条件下では、ナノ粒子の形が溶解しながら(dissolution)抗菌性を発現することができる。
【0053】
すなわち、上記ナノ粒子は、pH7.4の体液内ではナノ粒子の形を十分に維持して安定性を示すのに対し、細菌に感染し、結果として、代謝産物である酢酸及び乳酸を生成することで造成された酸性環境(pH=~6.5)では、ナノ粒子の形が溶解し、本来抗菌性接着タンパク質が本来有する正電荷を誘導することができる。
【0054】
したがって、本発明による抗菌性接着タンパク質MAP-cAMPベースのナノ粒子は、非活性化した形で適用されて存在し、抗菌活性が要求される時点で分解(dissolution)されて抗菌性を発現することができる技術を確立することができる。これにより、特に細胞内感染で感染した宿主動物細胞には影響を与えることなく、細胞内部の感染菌を死滅させるために活用されることができる。
【0055】
上記ナノ粒子のサイズは、平均直径80~130nmの範囲であることができ、好ましくは110nmであることができる。かかるサイズは、上記ナノ粒子の標的細胞への移動に適する。尚、人体に投入される際には、注射、経口、皮膚などの様々な方法を介して伝達されることができる。積載された薬物は、治療に効果的な疾患状態または症状のある人、またはその他の哺乳動物に好適に注射または他の方法で伝達されることができるが、特に非経口の方法で伝達されることが好ましい。
【0056】
非経口とは、筋肉内、腹膜内、腹部内、皮下、静脈、及び動脈内を意味する。そのため、本発明のナノ粒子は、代表的に注射剤形で製剤されることができる。
【0057】
本発明の注射可能なナノ粒子は、任意の適切な方法、好ましくは、皮下針を介して注射によって人や他の哺乳動物の体内に注射または挿入することができる。例えば、注射またはその他の方法で動脈内、静脈内、尿生殖、皮下筋肉内、皮下、頭蓋内、心臓膜内、胸膜内、またはその他の体腔、または可能な空間内に投与されることができる。または、カテーテルまたはシリンジを介して、例えば、関節鏡手術中に、関節内、尿生殖管内、脈管内、口蓋内、胸膜内、または身体内の任意の体腔または可能な空間内に、手術、外科、診断、またはインターベンション中に導入することができる。
【0058】
上記ナノ粒子は、結核、肝炎、腸チフス、食中毒、コレラ、赤痢などの感染症疾患に用いられることができるが、これらに制限されるものではない。
【0059】
さらに、本発明によると、上述のような内在した抗菌性を有する、抗菌性ナノ粒子の製造方法が提供される。
【0060】
本発明の抗菌性ナノ粒子の製造方法は、本発明の抗菌性接着タンパク質内のチロシン残基がカテコール誘導体で修正された(modified)ムール貝の接着タンパク質の誘導体を水とエタノールの混合溶媒に溶解する段階と、上記ムール貝の接着タンパク質の誘導体と配位結合可能な金属の塩を追加して放射溶液を製造する段階と、上記放射溶液を電気放射する段階と、を含む。
【0061】
電気放射工程は、高分子溶液または溶融した高分子を所定の電圧に荷電させる際に発生する電気的引力及び斥力を用いてナノ粒子を形成させる技術である。電気放射工程により、数nm~数千nmのサイズの様々な直径を有するナノ粒子を製造することができ、装備の構造が簡単であり、且つ幅広い材料への適用が可能である。
【0062】
有機溶媒の代わりに水ベースの溶媒を用いることにより、電気放射中に残っている溶媒の毒性効果を排除することができる。上記水ベースの溶媒は、蒸発性を向上させるために、有機溶媒をさらに混合することができ、好ましくは、蒸留水に対して60~80%(v/v)のエタノールをさらに混合することができる。
【0063】
このとき、上記溶媒は、有機溶媒の代わりに水ベースの溶媒を用いることにより、電気放射中に残っている溶媒の毒性効果を排除することができる。上記水ベースの溶媒には、蒸発性を向上させるために、有機溶媒をさらに混合することができ、好ましくは、蒸留水に対して60~80%(v/v)のエタノールをさらに混合することができる。すなわち、上記混合溶媒は、水とエタノールが20:80~40:60の重量比で混合されることが好ましく、30:70の重量比で混合されることがより好ましい。
【0064】
一方、上記金属の塩は、金属イオンとカテコール誘導体のモル比が1:3~1:4になるように追加されることが好ましい。上記金属は、チタン(titanium)、バナジウム(vanadium)、クロム(chrome)、マンガン(manganese)、鉄、コバルト(cobalt)、ニッケル(nickel)、ジルコニウム(zirconium)、ニオブ(niobium)、モリブデン(molybdenum)、テクネチウム(technetium)、ルテニウム(ruthenium)、ロジウム(rhodium)、パラジウム(palladium)、銀、ハフニウム(hafnium)、タンタル(tantalum)、タングステン(tungsten)、レニウム(rhenium)、オスミウム(osmium)、イリジウム(iridium)、白金、及び金からなる群より選択された1種以上であることができる。
【0065】
このように製造された放射溶液を電気放射する段階は、特に制限されるものではないが、例えば、上記放射溶液をシリンジポンプを用いて0.5~2ml/hの速度で送り出しながら0.1~0.8mmの直径を有する針を通過させる際に、6~14kVの高電圧をかけながらナノ粒子を生成させる方法で行うことができる。このように生成されたナノ粒子は、リン酸緩衝食塩水(PBS;pH7.4)などを含む攪拌水槽またはアルミホイル上に回収することができる。
【0066】
さらに、本発明によると、上述のような内在した抗菌性を有する抗菌性ナノ粒子を含む抗菌組成物が提供される。
【0067】
上記抗菌性ナノ粒子は、1.0μg/ml~2μg/mlの濃度、好ましくは1.0~1.5μg/mlの濃度で含まれることが好ましい。上記抗菌性ナノ粒子の濃度が1.0μg/mlの未満の場合には、抗菌活性が不十分な問題があり、2μg/mlを超えると、濃度増加に対する効果の差が大きくなく、工程上経済の面から好ましくない。
【0068】
本発明の抗菌性ナノ粒子及び抗菌組成物が微生物または菌株の生長を抑制する抗生効果、及び存在する微生物または菌株を除去する除菌効果を示すことができる菌株は、特に制限されるものではないが、例えば、大腸菌などを含むものであってもよい。
【実施例】
【0069】
以下、具体的な実施例を介して本発明をより具体的に説明する。下記実施例は、本発明の理解を助けるための例示に過ぎず、本発明の範囲がこれに限定されるものではない。
【0070】
実施例
1.抗菌性接着タンパク質MAP-cAMPの製造
先ず、12回繰り返し連結されたデカペプチド(AKPSYPPTYK)で構成されたムール貝の接着タンパク質fp-1(Mytilus mussel foot protein type 1)変異体を公知の手順に従って準備した(参照:Proc.Natl.Acad.Sci.USA,2010年,107,12850-3)。
【0071】
上記のように製造されたムール貝の接着タンパク質fp-1に抗菌ペプチドインドリシジン(Indolicidin)から由来した類似ペプチドA7ペプチド(Nan,YH,Bang,J-K,Shin,SY,2009.Peptides 30:832-838)に対する序列のプライマー(下記表2)を製作し、重合酵素連鎖反応を用いて連結した。
【0072】
【0073】
その結果物であるMAP-cAMP遺伝子を、T7プロモーターが含まれるpET-22b(+)ベクターをプラスミド運搬体として用いて、大腸菌TOP10菌株に形質転換した。また、融合タンパク質の発現のために、クローニングされた組換えベクターを大腸菌BL21(DE3)菌株に再び形質転換した。
【0074】
MAP-cAMP遺伝子に形質転換された大腸菌菌株を(BL21)50μg/mlのアンピシリン(ampicillin)を含むLB液体培地で37℃、300rpmの条件で培養し、600nmに対する光学密度(optical density;OD600)が0.4~0.6のレベルに達したとき、1mMのイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド(isopropyl-β-D-thiogalactopyranoside(IPTG))を添加して同一の条件で8時間培養した。このように培養された細胞は、4℃、18,000>gの条件で10分間遠心分離し、溶出バッファー(10mMのTris-HCl、及び100mMのsodiumphosphate、pH8)に再浮遊させて200Kpsiの条件で細胞破砕を行った。
【0075】
これにより得られた細胞溶解物(cell lysate)から細胞破壊物(cell debris)を得るために、4℃、18,000>gの条件で20分間遠心分離し、25%(v/v)の酢酸を用いて目的融合タンパク質を抽出し、最終的に精製された融合タンパク質は、凍結乾燥を経た後、-80℃で保管した。
【0076】
タンパク質に対する生産及び精製は、12%(w/v)SDS-PAGEを用いて分析し、融合タンパク質が正常に発現されることを確認した(
図2参照)。タンパク質の濃度は、Bradford assay(Bio-Rad)を用いて測定した。生産された融合タンパク質MAP-cAMPは、対照群タンパク質であるMAPに比べてpH7.4溶液相で高い正電荷を示した(
図3参照)。
【0077】
2.抗菌表面コーティング剤でコーティングされた表面の抗菌効果を確認
上記1.で製造した抗菌性接着タンパク質MAP-cAMPの抗菌活性を確認するために、上記タンパク質をそれぞれ0、5、10、20mg/mlの濃度で蒸留水に溶解した後、ポリスチレン製のカバースリップが覆われるように、一定量適用し、1時間37℃で乾燥してコーティングした。このように準備されたMAP-cAMPコーティング表面を細菌が接種された固体及び液体培地にそれぞれ適用し、抗菌効果を確認した。このとき、コーティングされていない物質を陰性対照群として用いた。
【0078】
(1)固体培地での抗菌効果を確認
遅延期(log phase)のグラム陰性菌である大腸菌(Escherichia coli)が塗抹されている寒天平板培地(agar plate medium)上に、上述のように、MAP-cAMPがそれぞれ0、5、10、20mg/mlでコーティングされた表面を37℃で1日間培養した。
【0079】
抗菌効果は、グラフィックプログラム(ImageJ)を用いて阻害面積(inhibition area)を測定して分析した。その結果、MAP-cAMPがコーティングされたすべての表面では細菌成長阻害を示し、コーティング濃度が高くなるほど、広い阻害面積を示すことを確認した(
図4及び
図5参照)。
【0080】
(2)液体培地での抗菌効果を確認
上記(1)で用いた各ポリスチレン製のカバースリップを遅延期状態のグラム陰性菌である大腸菌(Escherichia coli)5μlが接種された500μlのLB液体培地に適用した後、24時間培養して、600nmに対する光学密度(optical density;OD600)を測定した。細菌菌株の培養は、48ウェルカルチャープレート(48-well culture plate)を用いて、37℃、300rpmの条件で行った。
【0081】
その結果、大腸菌の生長を90%阻害するためのMAP-cAMPの最小コーティング濃度(minimum coating concentration)は20mg/mlであり、50%阻害のための最小コーティング濃度は5mg/mlであることが分かった(
図6参照)。
【0082】
3.融合タンパク質MAP-cAMPを用いた抗菌性ナノ粒子の製造
(1)ドーパ(DOPA)変換された融合タンパク質mMAP-cAMPの準備
上記1.で準備された融合タンパク質MAP-cAMPに対してチロシナーゼ(mushroom tyrosinase)酵素を用いた試験管内(in vitro)酵素反応を行い、上記MAP-cAMPのチロシン残基をDOPA(dihydroxyphenylalanine)に変換した。具体的には、1.50mg/mlのMAP-cAMP溶液及び100μg/mLのチロシナーゼをバッファ溶液(100mMのリン酸ナトリウム、20mMのホウ酸、25mMのアスコルビン酸、pH6.8)で1時間反応させた後、1%の酢酸溶液を用いて透析した。
【0083】
(2)抗菌性ナノ粒子の製造
上記(1)で製造されたmMAP-cAMPを用いてナノ粒子を製造するために、電気放射技術を用いた。具体的には、蒸留水:エタノール(30:70)溶媒に1.5~3wt%のmMAP-cAMPを溶解し、FeCl
3溶液を加えてFe
3+:DOPAが1:3のモル(molar)比になるように製作した後、上記混合溶液を電気放射した。電気放射は、上記溶液をシリンジポンプを用いて1ml/hの速度で送り出しながら、0.4mmの直径を有する針を通過させる際に、6~14kVの高電圧をかけてナノ粒子を生成させる方法で行った。その後、生成されたナノ粒子をリン酸緩衝食塩水(PBS;pH7.4)を含む攪拌水槽またはアルミホイル上に回収した。MAP-cAMPは、従来溶液相に比べてナノ粒子になって正電荷が減少し、対照群であるMAPのナノ粒子が示す電荷様相と同様のレベルの表面電位を示した(
図8参照)。
【0084】
したがって、本発明による抗菌性接着タンパク質MAP-cAMPベースのナノ粒子は、非活性化した形で適用されて存在し、抗菌活性が要求される時点で分解(dissolution)されて抗菌性を発現することができる技術を確立することができる。これにより、特に細胞内感染で感染した宿主動物細胞には影響を与えることなく、細胞内部の感染菌を死滅させるために活用されることができる。
【0085】
(3)ゲンタマイシン積載の抗菌性ナノ粒子の製造
ゲンタマイシン(gentamicin、GENT)積載のFe(III)-ドーパ(DOPA)ナノ粒子を製造するために、上記混合溶液にGENT溶液を加えた後、上記混合溶液をPBSに直接電気放射した。その後、MWCO(molecular weight cut off)3500膜を用いてPBS(pH7.4)に対する透析を3回行うことで、積載されていないGENTを除去することにより、紫の純粋なGENT積載のFe(III)-ドーパ(DOPA)複合体ナノ粒子を得た。
【0086】
DLS分析の結果、MAP-cAMP-NPは~90nm、(MAP-cAMP@GENT)-NPは~135nmの平均直径を有することが分かった(
図9及び
図10参照)。
【0087】
4.抗菌性ナノ粒子の抗菌効果を確認
(1)抗菌性ナノ粒子のpH条件に応じた抗菌効果を確認
上記3.(2)で得られた抗菌性ナノ粒子(MAP-cAMP-NP)のpHに応じた抗菌性の発現有無を確認するために、グラム陰性菌である大腸菌(Escherichia coli)5μlが接種された500μlのLB液体培地に適用した後、24時間培養して、600nmに対する光学密度(optical density;OD600)を測定した。細菌菌株の培養は、48ウェルカルチャープレート(48-well culture plate)を用いて、37℃、300rpmの条件で行った。
【0088】
その結果、上記抗菌性ナノ粒子MAP-cAMP-NPは、中性環境であるpH7.4溶液に比べて酸性環境であるpH4.0溶液相で高い正電荷を示すことが確認できた(
図11参照)。これは、ナノ粒子となって減少したナノ粒子の正電荷が細菌感染環境などのような酸性環境で溶解され、従来の正電荷を回復するものと解釈することができる。さらに、SEM観察の結果、上記抗菌性ナノ粒子MAP-cAMP-NPは、酸性環境で従来のナノ粒子の形を奪われて瓦解される様相を示すことが確認できた(
図12参照)。
【0089】
(2)抗菌性ナノ粒子の細菌感染環境における抗菌効果を確認
上記3.(2)で得られた抗菌性ナノ粒子(MAP-cAMP-NP)の抗菌活性を確認するために、上記ナノ粒子をそれぞれ0、0.25、0.5、1、1.5、2μg/mlの濃度で、細菌が接種された液体培地にそれぞれ適用して抗菌効果を確認した。
【0090】
具体的には、本実験では、遅延期状態のグラム陰性菌である大腸菌(Escherichia coli)5μl(約5×105CFU)が接種された500μlのLB液体培地に、上記各濃度のナノ粒子を適用した後、12時間及び24時間の間培養し、600nmの光学密度(optical density;OD600)を測定した。細菌菌株の培養は、48ウェルカルチャープレートを用いて、37℃、300rpmの条件で行った。
【0091】
その結果、大腸菌の生長を90%阻害するための抗菌性ナノ粒子(MAP-cAMP-NP)の最小阻害濃度(minimum inhibition concentration、MIC
90)は1.5μg/mlであり、50%阻害のための最小阻害濃度(MIC
50)は1.0μg/mlであることを確認した(
図13参照)。
【0092】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の技術的思想を外れない範囲内で様々な修正及び変形が可能であることは、当技術分野における通常の知識を有する者には自明である。