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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】ロウの高圧精製
(51)【国際特許分類】
   C11B 13/00 20060101AFI20220405BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20220405BHJP
   A23L 29/00 20160101ALI20220405BHJP
   A61K 47/44 20170101ALI20220405BHJP
   A61K 8/92 20060101ALI20220405BHJP
   C11B 3/16 20060101ALI20220405BHJP
   C11B 11/00 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
C11B13/00
A23L5/00 F
A23L29/00
A61K47/44
A61K8/92
C11B3/16
C11B11/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020527873
(86)(22)【出願日】2018-10-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-12
(86)【国際出願番号】 IN2018050667
(87)【国際公開番号】W WO2019097535
(87)【国際公開日】2019-05-23
【審査請求日】2020-12-11
(31)【優先権主張番号】201721041439
(32)【優先日】2017-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(73)【特許権者】
【識別番号】517316535
【氏名又は名称】プラジ インダストリーズ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】PRAJ INDUSTRIES LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】クカーニー, マンゲシュ ガネシュ
(72)【発明者】
【氏名】シャルティー, プラジャク スバーシ
(72)【発明者】
【氏名】パル, シッダールタ
(72)【発明者】
【氏名】ディヴィカ, サガ シヴァジ
(72)【発明者】
【氏名】カシッド, モハン ガナパット
(72)【発明者】
【氏名】パリンティ, ラビクマル ラオ
(72)【発明者】
【氏名】クムバール, プラモド シュンク
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/142953(WO,A2)
【文献】特開平07-011285(JP,A)
【文献】特開平07-011284(JP,A)
【文献】特開平07-011286(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11B 1/00-15/00
C11C 1/00- 5/02
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗米糠ロウを精製するための方法であって、
a)前記ロウをエタノールと高圧下で混合して反応混合物を形成する混合工程、
b)前記混合物を高温で所望の時間還流して前記ロウを溶解する還流工程、
c)前記混合物を所望の時間及び温度で静置させる静置工程、
d)未溶解物質を液体画分から分離する分離工程、
e)前記未溶解物質に対して、工程(a)から(d)を2回繰り返して、第2液体画分に残留するロウを抽出する繰り返し工程、
f)前記液体画分と前記第2液体画分とを別の容器に収集してプールする収集工程、
g)前記プールされた液体画分を冷却して、前記溶解したロウを結晶化させる冷却工程、
h)前記結晶化したロウを濾過によって除去する除去工程、
i)前記結晶化したロウをエタノールによって洗浄する洗浄工程、
j)前記ロウを真空下で乾燥して最終製品を形成する乾燥工程、
を備え、
前記混合物は、粗ロウを、エタノールに対して1:4から1:5の質量比で含む、方法。
【請求項2】
請求項1の方法であって、エタノールの純度が体積比で95%以上である、方法。
【請求項3】
請求項1の方法であって、ロウを1としたとき、エタノールの使用量は1:11以下である、方法。
【請求項4】
請求項1の方法であって、前記混合物は、窒素又は二酸化炭素によって、2-3バールに加圧される、方法。
【請求項5】
請求項1の方法であって、前記還流工程は、100℃で、少なくとも1時間実行される、方法。
【請求項6】
請求項1の方法であって、前記混合物は、70から75℃の間で、30分間静置される、方法。
【請求項7】
請求項1の方法であって、前記液体画分を、10℃まで1時間冷却し、ロウを結晶化する、方法。
【請求項8】
請求項1の方法であって、前記結晶化したロウは、濾過器によって濾過される、方法。
【請求項9】
請求項1の方法であって、前記最終製品の色は、鮮明な白色から淡黄色である、方法。
【請求項10】
化粧品、薬品、食品又は艶出し剤に用いられる、請求項1に記載のロウ製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコールを高圧条件下で精製溶媒として用いる、粗米糠ロウの精製のための方法に関する。本発明は、特には、粗米糠ロウを経済的に価値のある高純度ロウ製品とする、効率的かつ経済的な精製のための、前記溶媒としてのエチルアルコールの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
米は、世界において最も重要な穀物の1つであり、インドは、二番目に大きな米の生産地である。米糠は、精米産業の有益な副生成物である。米糠は、近年、有益な製品として食用米糠油を作るために使われている。糠は、約12~25%の油成分を含んでいる。油以外に、糠は、米糠ロウと呼ばれるロウ状物質も約5%含んでおり、これは、米糠油精製工程の副産物である。粗ロウは、利用価値が幾分低いが、ある程度の高い水準まで精製されていれば、化粧品、艶出し及び食料品の調製に用いられる有益な製品となる。
【0003】
化学的には、米糠ロウは、長鎖脂肪酸(C-22からC-26)及び長鎖脂肪族アルコール(C26からC30)の飽和モノエステルで作られる混成の生成物である。精製又は純化後、ロウは比較的均質な混合物となり、約78℃から82℃の間の融点、約70から120ユニットの間の鹸化価、約4から20ユニットの間のヨウ素価等の物理的特性を有する。この精製された米糠ロウは、その後、革磨き、クレヨン、キャンドル、靴クリーム、紙のコーティング、カーボン紙、潤滑剤等の多くの産業用用途を有する。他の主要な用途は、チョコレートのコーティング、野菜のコーティング、及び果物の保存のためのロウエマルジョン等の食品産業におけるものである。米糠ロウは、さらに、タブレット、軟膏、座薬等の医薬品、及び、保湿ローション、リップスティック、スキンクリーム等の化粧品に用いられる。
【0004】
先行技術における一つの方法では、米糠ロウは、可能な最大限の油圧プレスにより米糠ロウから残留油を除去する工程によって、続く水とイソブタノール又はイソプロパノールのような溶媒中でそれを抽出する工程によって、純化され又は精製される。これらの抽出は、イソブタノールの再生利用にコストがかかり、又はイソプロパノールが高価であり、プロセスの効率が制限されている。加えて、精製に関するいくつかの工程が、本方法を複雑にしている。また、イソプロパノールやイソブタノール抽出後に、ロウを漂白する必要もある。粗米糠ワックスには、油の他に約10~20%の樹脂性物質が含まれているため、これを除去することにより、精製された最終製品の価値と適用性が大幅に向上する。開示された本発明は、より少ない量の溶媒を使用して、最小限の抽出工程で粗米糠ワックスを高純度ワックスに精製する新規な方法を説明している。
【0005】
発明の詳細な説明
米糠ロウは、米糠油精製工程の副生成物である。前記米糠油は、約5%のロウを含む。このロウを精製するために、油及び樹脂性物質をロウから除去する必要がある。文献に報告されている方法では、ロウが溶剤を用いて精製されている。本明細書では、溶媒としてエタノールを用いた、米糠ロウの精製の新規かつ経済的な方法が開示されている。これにより、FDAによる特定の標準に適合する特性を有する米糠ロウを精製することが可能となる。エタノールは、文献に開示されているIPA、アセトン等の他の溶媒と比較して、経済的な溶媒である。
【0006】
本発明の一実施形態では、米糠油精製工程の副生成物として得られる粗米糠ロウを無水エチルアルコールに溶解する。第一の工程では、約5部のエタノールを1部のロウと高圧反応器内で混合し、反応混合物を形成する。前記高圧反応器を、次に窒素又は二酸化炭素で約2-3バールまで加圧し、前記混合物を、その圧力下で約90から110℃の間の温度で約1時間還流し、樹脂性不純物を未溶解の状態のままロウ状の部分を溶解し、次に混合物を約30分間70から75℃で静置し、樹脂性物質を反応器の底部に沈降させる。あるいは、前記高圧反応器を、次に窒素又は二酸化炭素で約2バールまで加圧し、前記混合物を、その圧力下で約70から75℃の間の温度で、約1時間還流し、樹脂性不純物を未溶解の状態のままロウ状の部分を溶解し、次に混合物を、約30分間静置し、樹脂性物質を反応器の底部に沈降させる。次に、沈降した樹脂性物質を、底部バルブから除去し、溶解したロウ及び油を含む上部の液体画分を、別の容器に収集する。得られた樹脂性物質を、更にエタノール還流にかけ、第2のサイクルの間に残留するロウを回収する。平均して、粗米糠ロウは、最大で40%の油を含み、これは、本明細書に開示された工程の副生成物として得られる。第2の工程の、更に残留する樹脂性物質は、その中に粗ロウ状物質も含む可能性があり、これは必要に応じて更に還流される。次に、前記液体画分をプールし、室温で冷却し、次に約10℃で1時間処理し、油及び他の不純物からロウを結晶化し、真空濾過によって分離する。前記結晶化したロウを、約1:1(w/v)のエタノールで一度再び洗浄し、真空下で乾燥し、最終ロウ製品(精製された米糠ロウ)を形成する。前記最終ロウの色は、鮮明な白色から淡黄色である。
【0007】
本発明の別の実施形態では、粗米糠の還流工程で溶媒として用いられるエタノールは、無水エタノール又は少なくとも体積比で95%の純度であるエタノールである。エタノール中の水の存在は、エタノール中のロウの溶解の低下をもたらすため、エタノールの純度の低下は、精製されたロウの最終収率の低下をもたらす。
【0008】
本発明のさらに別の実施形態では、前記ロウとエタノールとの混合物の還流工程は、溶媒の減少を防止するため、少なくとも1時間、温度約100℃で、効率的な凝縮器で実行する。
【0009】
本発明のさらに別の実施形態では、最終製品は、任意選択で過酸化水素又は亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤を用いて脱色される。
【0010】
本発明のさらなる実施形態では、前記精製ロウは、その融解温度、テクスチャー、色等のロウのユニークな特性を必要とする医薬品、艶出し剤又は化粧品の調製に使用される。
【0011】
開示された工程の利点
開示された工程は単純であり、それゆえに大容量の適用のためのスケールアップが可能である。
【0012】
回収のために用いられる工程は、エタノール中のロウをより効率的に選択的に抽出する高圧及び温度条件下で行われる。
【0013】
以前の工程でのエタノールの使用は、1:18であり、これが約1:11に低減されるため、開示された工程は、以前の工程と比較して実質的により経済的である。
【0014】
エタノールは、単蒸留の後の工程で、再生利用される。
【0015】
実施例
以下に提供される実施例は、当業者によって理解され得るバリエーションに応じ、いずれの制限もなしに、本発明のより広い有用性をもたらす。様々な実験結果の非限定的な概要が実施例で提供され、これは、本明細書に開示されている工程の有利で新規な側面を実証している。
【0016】
実施例1
約100gの粗米糠ロウを、約500mLのエタノール(体積比で純度99.9%)と共に高圧反応器内に入れ、反応混合物を形成した。前記高圧反応器を、窒素で約2-3バールまで加圧し、前記反応混合物を約100℃で約1時間攪拌した。抽出後反応混合物を約74℃で約30分間静置し、樹脂性物質を反応器の底部に沈降させた。次に、沈降した樹脂性物質を底部バルブから除去し、主にロウ及び油を含む上部の液体画分を別の容器に収集した。樹脂性物質を500mLで再び上記の還流工程にかけ、残留する未溶解ロウを除去した。2つの抽出工程の後、油及びロウを含む液体画分を収集した。次に、前記液体画分プールを、室温で冷却し、次に10℃で1時間冷却し、油及び他の不純物からロウを結晶化し、真空濾過によって分離した。前記結晶化したロウを、約100mLのエタノールで、一度再び洗浄し、真空下で乾燥し、最終ロウ製品(精製された米糠ロウ)を形成した。これらの工程により、約15.2ユニットの酸価、約70.4ユニットの鹸化価、及び約20ユニットのヨウ素価を有し、白色から淡黄色の着色を有する、約45gの高純度最終ロウ製品を得た。さらには約30gの油及び約24gの固形樹脂性物質を副生成物として回収した。
【0017】
実施例2
約100gの粗米糠ロウを、約400mLのエタノール(体積比で純度99.9%)と共に高圧反応器内に入れ、反応混合物を形成した。前記高圧反応器を、窒素で約2-3バールまで加圧し、前記反応混合物を約100℃で、約1時間攪拌した。抽出後、反応混合物を、約74℃で約30分間静置させて、樹脂性物質を反応器の底部に沈降させた。次に、沈降した樹脂性物質を底部バルブから除去し、主にロウ及び油を含む上部の液体画分を別の容器に収集した。樹脂性物質を、400mLで再び上記の還流工程にかけ、残留する未溶解ロウを除去した。2つの抽出工程の後、油及びロウを含む液体画分を、収集し、プールした。次に、前記液体画分プールを、室温で冷却し、次に10℃で約1時間冷却し、油及び他の不純物からロウを結晶化し、真空濾過によって分離した。前記結晶化したロウを、約100mLのエタノールで一度再び洗浄し、真空下で乾燥し、最終ロウ製品(精製された米糠ロウ)を形成した。これらの工程により約12.59ユニットの酸化価、約78.52ユニットの鹸化価、及び約21.48ユニットのヨウ素価を有し、白色から淡黄色の着色を有する、約39.7gの高純度最終ロウ製品を得た。さらには、副生成物として約30.6gの油及び約27.7gの固形樹脂性物質を回収した。
【0018】
実施例3
約100gの脱油した米糠ロウを、約500mLのエタノール(体積比で純度99.9%)と共に高圧反応器内に入れ、反応混合物を形成した。前記高圧反応器は、窒素で約2-3バールまで加圧され、前記反応混合物を約100℃で約1時間攪拌して、ロウ部分を溶解し、次にそれを約74℃で約30分間静置し、反応器の底部に樹脂性物質を沈降させた。次に、沈降した樹脂性物質を底部バルブから除去し、主にロウ及び油を含む上部の液体画分を別の容器に収集した。樹脂性物質を500mLで再び上記の還流工程にかけ、残留する未溶解ロウを除去した。油及びロウを含む液体画分は、2つの抽出工程の後収集した。次に、前記液体画分プールを室温で冷却し、次に10℃で1時間冷却し、油及び他の不純物からロウを結晶化し、真空濾過によって分離した。前記結晶化したロウを、約100mLのエタノールで一度再び洗浄し、真空下で乾燥し、最終ロウ製品(精製された米糠ロウ)を形成した。これらの工程により、約12.9ユニットの酸価、約87.3ユニットの鹸化価、及び約11.25ユニットのヨウ素価を有し、白色から淡黄色の着色を有する、約34gの高純度最終ロウ製品を得た。さらには副生成物として、約5gの油及び約60gの固形樹脂性物質を回収した。
【0019】
実施例4
約100gの粗米糠ロウを、約500mLのエタノール(体積比で純度99.9%)と共に、高圧反応器内に入れ、反応混合物を形成した。前記高圧反応器は、二酸化炭素で、約2-3バールまで加圧され、前記反応混合物を約100°Cで約1時間攪拌して、ロウ部分を溶解し、次にそれを約74℃で約30分間静置し、樹脂性物質を反応器の底部に沈降させた。次に、沈降した樹脂性物質を底部バルブから除去し、主にロウ及び油を含む上部の液体画分を、別の容器に収集した。樹脂性物質を、500mLで再び上記の還流工程にかけ、残留する未溶解のロウを除去した。2つの抽出工程の後、油及びロウを含む液体画分を収集した。次に、前記液体画分プールを室温で冷却し、次に10℃で1時間冷却し、油及び他の不純物からロウを結晶化し、真空濾過によって分離した。前記結晶化したロウを、約100mLのエタノールで一度再び洗浄し、真空下で乾燥し、最終ロウ製品(精製された米糠ロウ)を形成した。これらの工程により、約12.32ユニットの酸価、約71.2ユニットの鹸化価、及び約21.13ユニットのヨウ素価を有し、白色から淡黄色の着色を有する、約42.6gの高純度最終ロウ製品を得た。さらには約31.2gの油及び約23gの固形樹脂性物質を副生成物として回収した。
【0020】
本発明を、実施例に挙げられた実施形態を参照して、特に示し、説明してきたが、上記で開示されたいくつかの特徴及び機能、並びに他の特徴及び機能、又はそれらの代替物は、望ましくは多くの異なるシステム又はアプリケーションに組み合わせることができる。また、当業者は、現在予期されず、予測されない様々な代替、修正、変更、又は改良を、ここに加えることができ、これらもまた、以下の特許請求の範囲に含まれることが意図されている。本発明を、特定の好ましい実施形態を参照して説明してきたが、本発明は、これらの実施形態に限定されることを意図するものではなく、むしろ、当業者は、本発明の思想の範囲内であり、特許請求の範囲内である変更及び修正がなされてもよいことを認識するであろう。