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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】選択的水素化方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 27/043 20060101AFI20220405BHJP
   C10G 45/46 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
B01J27/043 Z
C10G45/46
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020536568
(86)(22)【出願日】2018-12-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-03-18
(86)【国際出願番号】 KR2018016245
(87)【国際公開番号】W WO2019132398
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2020-06-29
(31)【優先権主張番号】10-2017-0184762
(32)【優先日】2017-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】501014658
【氏名又は名称】ハンワ ソリューションズ コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】HANWHA SOLUTIONS CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】サン・ホ・ソ
(72)【発明者】
【氏名】ジ・ヘ・チェ
(72)【発明者】
【氏名】キ・ド・ハン
(72)【発明者】
【氏名】ソン・ホ・パク
(72)【発明者】
【氏名】ボン・シク・ジョン
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-016946(JP,A)
【文献】特開平06-001726(JP,A)
【文献】特表2009-531426(JP,A)
【文献】特表2008-512241(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0285950(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
C10G 45/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種以上の水素化触媒を溶媒に分散して触媒スラリーを製造する段階と;
前記触媒スラリー、水素化反応対象物、および水素気体を混合して水素化反応を行う段階と;
を含み、
前記水素化触媒は、選択的水素化触媒および非選択的水素化触媒を含
前記選択的水素化触媒は、ニッケルおよび助触媒が担体に担持されたものであり、前記助触媒は硫黄および銅を含み、
前記非選択的水素化触媒はニッケル(Ni)を含む、選択的水素化方法。
【請求項2】
前記水素化反応対象物は石油樹脂である、請求項1に記載の選択的水素化方法。
【請求項3】
前記非選択的水素化触媒および選択的水素化触媒の重量比は1:0.01~1:100である、請求項1に記載の選択的水素化方法。
【請求項4】
前記溶媒はペンタン、ヘキサン、ヘプタン、ノナン、デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、およびキシレンからなる群から選択される1種以上を含む、請求項1に記載の選択的水素化方法。
【請求項5】
前記水素化反応は、100~400℃の温度および1~200barの圧力で行われる、請求項1に記載の選択的水素化方法。
【請求項6】
前記水素化反応は、撹拌機付きオートクレーブ形反応器あるいは反応流体を循環させて混合するループ形反応器で行われる、請求項1に記載の選択的水素化方法。
【請求項7】
前記水素化反応を行った後に得られる生成物は、ASTM D1209により測定したAPHA値が150以下である、請求項1に記載の選択的水素化方法。
【請求項8】
前記水素化反応を行った後に得られる生成物は、NMR分析によって測定した芳香族化度(Aromaticity)が30%以下である、請求項1に記載の選択的水素化方法。
【請求項9】
前記水素化反応を行った後に得られる生成物は、粘着剤または接着剤の用途に使用される、請求項1に記載の選択的水素化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2017年12月29日付の韓国特許出願第10-2017-0184762号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は本明細書の一部として含まれる。
本発明は、選択的水素化方法に関する。より詳しくは、石油樹脂の水素化反応において選択性(selectivity)および反応効率を向上させることができる選択的水素化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に有機化合物に対する水素化または水添反応(hydrogenation process)は、特定の官能基を還元させるか、または不飽和化合物を飽和化合物に転換するのに適用される反応であって、ケトン(ketone)、アルデヒド(aldehyde)、イミン(imine)などのような不飽和官能基を有する化合物をアルコール(alcohol)、アミン(amine)などの化合物に還元(reduction)させたり、オレフィン(olefin)化合物の不飽和結合を飽和させるなど、多様な化合物に対して適用することができ、商業的に非常に重要な反応の一つである。
【0003】
低級オレフィン(すなわち、エチレン、プロピレン、ブチレンおよびブタジエン)および芳香族化合物(すなわち、ベンゼン、トルエンおよびキシレン)は、石油化学および化学産業で広範囲に使用される基本的な中間物質である。熱クラッキングまたはスチーム熱分解は、典型的にはスチームの存在下、および酸素の不在下でこれら物質を形成させるための工程の主要類型である。供給原料はナフサ、ケロシンおよびガスオイルなどの石油ガスおよび蒸留物を含むことができる。この時、ナフサなどを熱分解することによって、エチレン、プロピレン、ブタンおよびブタジエンを含むC4留分、分解ガソリン(ベンゼン、トルエンおよびキシレンなど)、分解ケロシン(C9以上留分)、分解重油(エチレン残油(bottom oil))および水素ガスなどの物質を生成することができ、留分などから重合して石油樹脂を製造することができる。
【0004】
しかし、石油樹脂は一部に不飽和結合を含み、品質が落ちる可能性がある。この時、水素を添加する水素化工程を経ると不飽和結合が飽和して色が明るくなり、石油樹脂特有の匂いが減るなど品質を改善させることができる。
【0005】
このような石油樹脂の水素化反応時、芳香族含有量を制御するために、樹脂のオレフィン結合を選択的に水素化することが必要とされる。
【0006】
このようなオレフィン結合に対する選択的水素化反応は、一般に水素および水素化反応を行う反応対象物をパラジウム(Pd)、白金(Pt)等の貴金属触媒と接触させることによって行われるが、このような貴金属触媒は価格が非常に高くて、コスト上昇の主な原因となる。しかし、貴金属触媒でない金属、例えばニッケル(Ni)系触媒を使用する場合には、芳香族が一緒に水素化されて石油樹脂の芳香族含有量を調整することが難しいという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記問題を解決するために本発明は、石油樹脂の水素化反応にあたり、オレフィン結合に対して高い選択性で水素化反応を行うことができ、水素化触媒の維持および交換が容易で工程効率の高い石油樹脂の選択的水素化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態によれば、
2種以上の水素化触媒を溶媒に分散して触媒スラリーを製造する段階と;
前記触媒スラリー、水素化反応対象物、および水素気体を混合して水素化反応を行う段階と;
を含む選択的水素化方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の選択的水素化方法によれば、芳香族二重結合とオレフィン二重結合との両方を有する石油樹脂に対して、高い選択性でオレフィン二重結合に対して水素化反応を行うことができる。
【0010】
また、最終目的とする生成物の選択性およびAPHA値に応じて水素化反応に使用される水素化触媒を配合することができるので、所望の選択性およびAPHA値を容易に達成することができる。
【0011】
さらに、水素化反応中でも触媒を容易に交換することができ、触媒活性を一定に維持できるので、水素化反応の効率をより一層向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、多様な変更を加えることができ、様々な形態を有することができるため、特定の実施例を例示して下記で詳細に説明する。しかし、これは本発明を特定の開示形態に対して限定しようとするものではなく、本発明の思想および技術範囲に含まれるすべての変更、均等物乃至代替物を含むものとして理解しなければならない。
【0013】
また、本明細書において使われる用語は、単に例示的な実施例を説明するために使われるものであり、本発明を限定する意図ではない。単数の表現は文脈上明白に異なる意味を示さない限り、複数の表現を含む。本明細書において、「含む」、「備える」または「有する」などの用語は、実施された特徴、段階、構成要素またはこれらを組み合わせたものが存在することを指定しようとするものであり、一つまたはそれ以上の他の特徴や段階、構成要素、またはこれらを組み合わせたものなどの存在または付加の可能性をあらかじめ排除しないものと理解しなければならない。
【0014】
また、本発明において、各構成要素が各構成要素「上に」または「の上に」形成されると言及される場合は、各構成要素が直接各構成要素の上に形成されることを意味したり、他の構成要素が各層の間、対象体、基材上に追加的に形成できることを意味する。
【0015】
以下、本発明の選択的水素化方法をより詳しく説明する。
【0016】
本発明の一実施形態による選択的水素化方法は、2種以上の水素化触媒を溶媒に分散して触媒スラリーを製造する段階と;前記触媒スラリーに水素化反応対象物、および水素気体を投入して水素化反応を行う段階とを含む。
【0017】
本発明の選択的水素化方法は、ケトン、アルデヒド、イミンなどの不飽和官能基を還元させるか、またはオレフィン系化合物、芳香族化合物、石油樹脂、その他の有機化合物または樹脂に存在する炭素-炭素二重結合または三重結合のような不飽和結合を飽和させる多様な水添反応または水素化反応(hydrogenation process)に全て適用可能であるが、好ましくは、1分子中に2個以上の不飽和結合を含み、前記2個以上の不飽和結合に対して選択的(selective)水素化反応が要求される対象物に適用され得る。特に、オレフィン不飽和結合と芳香族不飽和結合を全て有する対象物で、ある1結合に対して選択的水素化を行う必要がある反応に有用に適用され得る。
【0018】
例えば、本発明の一実施形態によれば、本発明の選択的水素化方法は、オレフィン不飽和結合と芳香族不飽和結合との両方を含む石油樹脂に対して適用され得る。
【0019】
芳香族官能基を含む石油樹脂を製造するためには、選択的水添反応(selective hydrogenation)を通じて最終製品の色と芳香族化度(aromaticity)および色値を制御する技術が大変重要である。すなわち、高品質の石油樹脂を製造するために、芳香族部分(moiety)の二重結合よりはオレフィン二重結合だけを選択的に水素化(水添)反応を行う必要がある。また、目的とする水準の芳香族化度を達成するためにこのような選択性を様々に調整する必要もある。
【0020】
オレフィン結合に対する選択性が高いほど石油樹脂の芳香族化度(Aromaticity)が高くなり、前記芳香族化度はNMR法により測定することができる。
【0021】
また、石油樹脂の色特性を示すAPHA値は、これに必ずしも比例するものではないが、概して、オレフィン結合に対する選択性が高いほど低くなり、前記APHA値はASTM D1209により測定することができる。前記APHA値が低いほど色および匂いがほとんど無くなる無色透明(water white)樹脂となり、この時、残留するオレフィン含有量(NMR、%area)は0.1%未満であり得る。
【0022】
一方、従来水素化反応に商業的に幅広く使用されている反応器の形態は、固定層反応器(fixed bed reactor)であり、前記固定層反応器は投資費および運転費が低いという長所がある。前記固定層反応器は、水素化触媒が充填された触媒層(bed)を含む反応器内部に液相の原料物質を水素と一緒に上部から下部にあるいは下部から上部に貫通させて水素化反応を行う方式である。前記固定層反応器の触媒層は、通常、数カ月あるいは1年以上の長期間使用できるほど十分な量の触媒を充填して使用する。
【0023】
しかし、水素化反応が行われることによって、水素化触媒の活性が徐々に減少することになる。触媒活性の減少は、触媒に対する多様な物理的および化学的影響により、例えば熱的、機械的または化学的処理の結果として触媒活性部位の遮断または触媒活性部位の損失によって引き起こされる。また、反応初期には高濃度の反応原料によって反応が急速に進行して部分的に反応熱が蓄積してホットスポット(hot spot)を生成し得る。このようなホットスポットによって焼結(sintering)が発生することによって、触媒の活性低下がさらに加速化される。このような触媒活性の低下は、全体的な反応性の減少を誘発し、水素化反応生成物全体の水素化度、選択性、および純度が低下する原因となるので、触媒活性がある水準以下に低下すれば充填された触媒を交換することになる。
【0024】
この時、固定層反応器では、反応中に触媒を交換することができないため、触媒の交換時には反応を完全に中止し、触媒を交換しなければならないので、産業的規模ではこれによる多くの損失が伴う。また、水素化反応の選択性を調整するために反応途中で触媒の種類を変更することも、基本的に不可能である。
【0025】
本発明は、上記のような複合的な問題を解決するためになされたものであり、芳香族化度およびAPHA値の調整が容易であるように2種以上の水素化触媒を混合して使用し、このような2種以上の水素化触媒を固定層でなく、スラリー型触媒で製造して水素化反応を行うことによって、水素化触媒の活性を維持するための触媒交換、追加などが容易であり、水素化触媒の組み合わせにより水素化反応の選択性などを容易に調整することができることに着眼し、本発明を完成するに至った。
【0026】
本発明の選択的水素化方法にあたり、まず、2種以上の水素化触媒を溶媒に分散して触媒スラリーを製造する。
【0027】
水素化工程にあたり、従来は1種の水素化触媒だけを用いて水素化を進行する場合が大部分であった。このように1種の水素化触媒だけを用いる場合、当該触媒により水素化工程の選択性が固定され、工程途中に当該水素化工程の選択性を変化させることはほとんど不可能である。
【0028】
そこで、本発明では、互いに異なる特性を有する2種以上の水素化触媒を使用し、これをベッドに固定して使用するのではなく、溶媒中に分散してスラリー状に作って水素化反応を進行する。
【0029】
前記2種以上の水素化触媒は、水素化反応の選択性が互いに異なる水素化触媒であり得る。また、前記2種以上の水素化触媒は交換および混合を容易にするため、それぞれ互いに異なる担体に担持された担持触媒であり得る。
【0030】
例えば、本発明の一実施形態によれば、前記2種以上の水素化触媒は、オレフィン不飽和結合と芳香族不飽和結合に対して選択性が相対的に低い非選択的水素化触媒と、オレフィン結合に対して選択性が相対的に高い選択的水素化触媒とを混合したものであり得る。
【0031】
本発明において、前記非選択的水素化触媒と選択的水素化触媒の分類は、絶対的な基準によるものでなくて相対的なものであり、例えば、オレフィン結合に対して選択性が互いに異なる2種の水素化触媒として触媒aおよび触媒bを含み、触媒aが触媒bよりオレフィン結合に対して選択性が高い場合、触媒aを選択的水素化触媒に、触媒bを非選択的水素化触媒に分類することができる。しかし、触媒aと、前記触媒aよりオレフィン結合に対して選択性が高い触媒cを含む場合、触媒cが選択的水素化触媒に、触媒aが非選択的水素化触媒に分類され得る。
【0032】
また、前記非選択的水素化触媒と選択的水素化触媒の種類および混合比は、水素化反応対象物で目的とする選択性、芳香族化度、またはAPHA値に応じて様々に調整することができる。
【0033】
一方、水素化反応の反応時間に伴って、APHA値と芳香族化度は減ることになるが、これらが減る程度および速度は差があり、正比例の関係にあるのではない。したがって、本発明の一実施形態によれば、非選択的水素化触媒と選択的水素化触媒の種類および混合比を適切に調整してAPHA値と芳香族化度の減少速度をそれぞれ調整することができ、これにより、所望する程度のAPHA値と芳香族化度を容易に達成することができる。
【0034】
本発明の一実施形態によれば、前記非選択的水素化触媒は、活性金属としてニッケル(Ni)を含むことができる。
【0035】
また、本発明の一実施形態によれば、前記選択的水素化触媒は、活性金属としてパラジウム(Pd)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)などの貴金属を含むことができる。
【0036】
また、前記非選択的および選択的水素化触媒は、それぞれ独立して、シリカ、アルミナ、マグネシア、またはこれらの混合物などの担体に担持されたものであり得るが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0037】
本発明の一実施形態によれば、前記選択的水素化触媒はニッケル(Ni)と一緒に助触媒として硫黄(S)および銅(Cu)がともに担体に担持されたものであり得る。
【0038】
一般に、ニッケル(Ni)触媒は、オレフィン結合に対する選択性が非常に低くて、選択的水素化反応では使用しにくいことが知られている。
【0039】
しかし、本発明の一実施形態による前記ニッケル触媒は、助触媒として硫黄(S)または銅(Cu)化合物をともに含むことによって、オレフィン結合に対する高い選択性を示して、選択的水素化触媒として使用され得る。
【0040】
本明細書においては、このようにニッケルと一緒に、助触媒として硫黄および銅をともに含む触媒を、他のニッケル触媒、例えば活性金属としてニッケルだけを含み、助触媒を含まないか、活性金属としてニッケルを含みながら、硫黄および銅でなく、他の助触媒または化合物を含む触媒と区分して、「ニッケル系選択的水素化触媒」と称する。
【0041】
本発明の一実施形態による前記ニッケル系選択的水素化触媒は、触媒活性を示す金属としてニッケルを含み、助触媒として硫黄および銅を含み、前記ニッケルと助触媒は担体にともに担持されたことを特徴とする。また、前記担体は、多孔性シリカ(SiO)およびアルミナ(Al)の中から選択される1種以上であり得る。
【0042】
前記ニッケル系選択的水素化触媒は、硫黄および銅を助触媒として含むことによって、ニッケルを使用しても石油樹脂の水素化反応時にオレフィン不飽和結合に対する水素化反応速度は維持しながら、芳香族不飽和結合に対する水素化反応速度を著しく減少させて、オレフィン不飽和結合に対して選択的に水素化できる効果がある。
【0043】
前記ニッケル系選択的水素化触媒にあたり、前記ニッケルの平均結晶サイズは1~10nmであり、好ましくは3~7nmであり得る。前記ニッケルの平均結晶サイズが上記の範囲を外れる場合触媒活性が低下する可能性がある。
【0044】
また、前記ニッケル系選択的水素化触媒は、平均粒子の大きさが1~20μm、好ましくは3~10μmであり得る。前記触媒の平均粒子の大きさが小さすぎると触媒の濾過性が不足する恐れがあり、大きすぎると触媒活性が低下する問題が発生することがある。
【0045】
前記ニッケル系選択的水素化触媒は、ニッケルおよび助触媒を含む全体前駆体100重量部に対して、ニッケルを約40~約80重量部、好ましくは約50~約70重量部で含むことができる。前記ニッケルの含有量が40重量部未満の場合触媒活性が低下することがあり、80重量部を超える場合分散性が低下して触媒活性が低くなる問題が発生することがある。
【0046】
また、前記ニッケルおよび助触媒を含む全体前駆体100重量部に対して、硫黄および銅は、それぞれ独立して約0.05~約10重量部、好ましくは約0.1~約5重量部で含むことができる。前記硫黄および銅の含有量が0.05重量部未満の場合選択的触媒活性が低下することがあり、10重量部超過の場合分散性が低下して選択的触媒活性が低くなる問題が発生することがある。
【0047】
また、前記担体:前記ニッケルのモル比(mole ratio)は1:0.1~10.0であり得る。ニッケル含有量が上記の範囲未満の場合触媒活性が低下することがあり、超過の場合分散性が低下して触媒活性が低くなる問題が発生することがある。
【0048】
また、前記ニッケル:前記助触媒のモル比(mole ratio)は1:0.03~0.5であり得る。前記助触媒の含有量が上記の範囲未満の場合選択的触媒活性が低下することがあり、超過の場合分散性が低下して選択的触媒活性が低くなる問題が発生することがある。
【0049】
本発明の一実施形態によれば、前記ニッケル系選択的水素化触媒は、ニッケル化合物および助触媒を溶媒中に混合して前駆体溶液を製造し、前記前駆体溶液に担体を懸濁させてニッケルおよび助触媒を担体に沈殿させることによって製造することができる。
【0050】
前記ニッケル系選択的水素化触媒の製造方法をより具体的に説明すると、まず、多孔性シリカ粉末、ニッケル前駆体および銅前駆体を蒸留水に溶解して、前駆体溶液を製造する。この時、前記ニッケル前駆体はニッケル、またはニッケルの硝酸塩、酢酸塩、硫酸塩、塩化物などの金属塩を含むことができ、最も好ましくは塩化ニッケルを使用することができる。また、前記銅前駆体は銅の硝酸塩、酢酸塩、硫酸塩、塩化物および水酸化物の中から選択される1種または2種以上の混合物を使用することができる。
【0051】
前記前駆体溶液を沈殿容器に入れ、攪拌しながら50~120℃まで昇温する。次に、前記昇温された前駆体溶液にpH調整剤および硫黄前駆体が含まれている溶液を30分~2時間注入して沈殿させて、ニッケルおよび助触媒が担持された担持触媒を形成する。前記硫黄前駆体は銅の硝酸塩、酢酸塩、硫酸塩、塩化物および水酸化物の中から選択される1種または2種以上の混合物を使用することができる。
【0052】
前記担持触媒は洗浄およびろ過した後、100~200℃で5~24時間乾燥する。そして、前記乾燥された触媒を水素雰囲気下で200~500℃、好ましくは300~450℃の温度で還元して活性化する段階をさらに含むことができ、活性化した担持触媒は0.1~20%の酸素が含まれている窒素混合ガスで不動化して粉末触媒を製造することができる。
【0053】
しかし、前記製造方法は単なる一例に過ぎず、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0054】
前記ニッケル系選択的水素化触媒は、粉末、粒子、顆粒の形態であり得、好ましくは粉末形態であり得る。
【0055】
上記のように準備されたニッケル系選択的水素化触媒は、石油樹脂に対して単独で水素化反応の触媒として使用したとき、反応生成物の芳香族化度が貴金属触媒と類似の程度の高い選択性を示すことができる。
【0056】
本発明の一実施形態によれば、水素化触媒として非選択的水素化触媒1種以上と、選択的水素化触媒1種以上とを混合して使用することができる。
【0057】
また、本発明の一実施形態により前記水素化触媒として非選択的水素化触媒と選択的水素化触媒とを混合して使用する場合、前記非選択的水素化触媒および選択的水素化触媒の重量比は、生成物の目的とする芳香族化度によって異なるので特に限定されないが、例えば1:0.01~1:100、または1:1~1:50の重量比で混合して使用することができる。
【0058】
本発明の他の一実施形態によれば、水素化触媒として、芳香族化度が互いに異なる選択的水素化触媒2種以上を混合して使用することもできる。
【0059】
この時、前記選択的水素化触媒としては、前記ニッケル系選択的水素化触媒または貴金属を含む選択的水素化触媒を使用することができる。
【0060】
上述のようにオレフィン結合に対する選択性が互いに異なる2種以上の水素化触媒を準備して溶媒に分散させることによって触媒スラリーを製造する。
【0061】
使用可能な溶媒としてはペンタン、ヘキサン、ヘプタン、ノナン、デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、またはキシレンなどの炭化水素溶媒を使用することができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0062】
前記水素化触媒を溶媒に分散させる方法としては、水素化反応器に投入する前に別途の触媒混合装置で攪拌して混合しながら分散させる方法などが挙げられるが、本発明はこれに限定されるものではなく、水素化触媒を溶媒に均一に分散させることができる方法であれば制限なく使用することができる。
【0063】
このように準備された触媒スラリーを水素化反応器に投入し、前記水素化反応器に別途の配管を通して水素化反応対象物、および水素気体を投入することによって水素化反応を行う。この時、前記触媒スラリーを前記水素化反応器への投入は一回的、周期的、非周期的、または連続的など、いずれの方法も限定されず採用することができる。
【0064】
本発明の一実施形態によれば、前記触媒スラリーに含まれる触媒を、重量基準で、前記水素化反応対象物100重量部に対して約0.1~約10重量部、好ましくは約0.1~約5重量部の量で投入することができる。前記触媒スラリーの投入量が少なすぎると触媒活性がうまく発現できず、投入量が多すぎると投入量に比べて生産性が低下することがあり、このような観点から上記重量部の範囲で投入することが好ましい。
【0065】
また、水素化反応の温度は約100~約400℃、好ましくは約150~約300℃であり得、圧力は約1~約200bar、好ましくは約30~約150barであり得る。そして、前記水素化反応は多様な反応器で行われるが、好ましくは混合方式により撹拌機付きオートクレーブ形反応器あるいは反応流体を循環させて混合するループ形反応器を使用することができる。
【0066】
前記水素化反応対象物は選択的水素化が求められる対象物であり、例えば蒸留、前処理および重合を経たC5またはC9石油分画および副産物並びにこれらの組み合わせからなる石油樹脂であり得る。
【0067】
水素化反応の進行により触媒活性が低下するか生成物の芳香族化を調整するために触媒を交換または追加する必要がある場合にも反応を中断することなく、投入されるスラリー型触媒を変更することができるので、連続的な反応が可能で触媒活性を一定に維持することができ、水素化反応の効率を画期的に向上させることができる。
【0068】
上記のような本発明の選択的水素化方法によれば、水素化反応の生成物のAPHA値および芳香族化度を広い範囲で調整することができる。
【0069】
例えば、本発明の水素化反応の生成物は、ASTM D1209により測定したAPHA値が150以下、または140以下、または130以下であり得るが、本発明はこれに限定されるものではない。また、前記APHA値は低いほど好ましいので、その下限値は特に限定されないが、例えば5以上、または10以上、または20以上、または25以上であり得る。
【0070】
また、本発明の水素化反応の生成物は、NMR分析によって測定した芳香族化度(Aromaticity)が0.1%以上、または0.5%以上、または1%、または5%以上であり、かつ30%以下、または25%以下、または15%以下、または10%以下であり得るが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0071】
しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、水素化触媒の種類および重量比を変更して目的とするAHPA値および芳香族化度をどのような範囲でも容易に達成することができ、また、そのために水素化反応中に、常時水素化触媒を自由に変更できる方法を提供することが、本発明の目的とするところである。
【0072】
一方、本発明の一実施形態によれば、前記2種以上の水素化触媒を用いて水素化反応を行った石油樹脂は、粘着剤および/または接着剤の用途に使用することができる。このような用途のためにASTM D1209により測定したAPHA値が150以下、例えば5~150であり、NMR分析によって測定した芳香族化度が30%以下、例えば0.1~30%、または5~15%となるように調整することができる。
【0073】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、これは発明の具体的理解を助けるためのものであり、本発明の範囲は実施例や比較例によって限定されるものではない。
【実施例
【0074】
<実施例>
<水素化触媒の用意例>
用意例1:非選択的水素化触媒(A)
200m/gの表面積と28nmの気孔サイズを有する多孔性シリカ粉末1gと、塩化ニッケル(243g/lニッケル)および塩化銅(2.2g/l銅)を蒸留水に溶解した溶液50mlとを沈殿容器に入れ、攪拌しながら80℃まで昇温した。80℃に到達した後、炭酸ナトリウム(175g/l)が含まれている溶液40mlをsyringe pumpを用いて1時間以内に全て注入した。沈殿完了後、スラリーのpHは7.8であり、これを約1.5Lの蒸留水で洗浄およびろ過した後、乾燥オーブンを用いて120℃で12時間以上乾燥した。これを小分けした後、水素雰囲気下で400℃の温度で還元して活性化した。活性化された触媒を、1%酸素が含まれている窒素混合ガスを用いて不動化して、水素化触媒を製造した。
【0075】
触媒の総重量を基準にして、不動化した触媒中のニッケルの含有量は63.2wt%、銅の含有量は0.89wt%であり、ニッケル結晶の平均サイズは5.7nmであった。
【0076】
用意例2:非選択的水素化触媒(B)
BASF社製の商業用ニッケル触媒であるNi-5338Pを準備した。
【0077】
用意例3:ニッケル系選択的水素化触媒(C)
200m/gの表面積および28nmの気孔サイズを有する多孔性シリカ粉末1gと、塩化ニッケル(243g/lニッケル)および塩化銅(2.2g/l銅)を蒸留水に溶解した溶液50mlとを沈殿容器に入れ、攪拌しながら80℃まで昇温した。80℃に到達した後、硫黄/ニッケルのモル比が0.09となるように炭酸ナトリウム(175g/l)および硫化ナトリウム(15g/l)が含まれている溶液40mlをsyringe pumpを用いて1時間以内に全て注入した。沈殿完了後、スラリーのpHは7.7であり、これを約1.5Lの蒸留水で洗浄およびろ過した後、乾燥オーブンを用いて120℃で12時間以上乾燥した。これを小分けした後、水素雰囲気下で400℃の温度で還元して活性化した。活性化された触媒を、1%酸素が含まれている窒素混合ガスを用いて不動化して、ニッケル系選択的水素化触媒を製造した。
【0078】
触媒の総重量を基準にして、不動化した触媒中のニッケルの含有量は63.8wt%、銅の含有量は0.87wt%、硫黄の含有量は2.8wt%であり、ニッケル結晶の平均サイズは5.1nmであった。
【0079】
<水素化反応の実施例>
前記用意例1~3で製造した触媒を用いて下記のように水素化反応を行った。
【0080】
実施例1
製造例1の非選択的水素化触媒(A)と、製造例3のニッケル系選択的水素化触媒(C)とを、それぞれの触媒重量を基準にして1:19の重量比で混合し、これを反応原料に混合した。
【0081】
非水添石油樹脂(DCPD重合石油樹脂)と溶媒Exxsol D40とを6:4の重量比で混合して流動するスラリー反応器に、該パウダー触媒を、触媒重量を基準にして石油樹脂重量に対して2wt%で投入し、反応圧力を90barに維持するために水素気体を供給しながら反応温度230℃で1時間水素化反応を行った。
【0082】
実施例2
実施例1で、製造例2の非選択的水素化触媒(B)と製造例3のニッケル系選択的水素化触媒(C)とを、それぞれの触媒に含まれている金属含有量を基準にして1:19の重量比で混合し、実施例1と同様の方法で、水素化反応を行った。
【0083】
実施例3
実施例1で、製造例1の非選択的水素化触媒(A)と製造例3のニッケル系選択的水素化触媒(C)とを、それぞれの触媒に含まれている金属含有量を基準にして1:7の重量比で混合し、実施例1と同様の方法で、水素化反応を行った。
【0084】
実施例4
実施例1で、製造例1の非選択的水素化触媒(A)と製造例3のニッケル系選択的水素化触媒(C)とを、それぞれの触媒に含まれている金属含有量を基準にして1:4の重量比で混合し、実施例1と同様の方法で、水素化反応を行った。
【0085】
比較例1
実施例1で、製造例1の非選択的水素化触媒(A)だけを分散させてスラリー触媒を製造したことを除いては、実施例1と同様の方法で、水素化反応を行った。
【0086】
比較例2
実施例1で、製造例2の非選択的水素化触媒(B)だけを分散させてスラリー触媒を製造したことを除いては、実施例1と同様の方法で、水素化反応を行った。
【0087】
比較例3
実施例1で、製造例3のニッケル系選択的水素化触媒(C)だけを分散させてスラリー触媒を製造したことを除いては、実施例1と同様の方法で、水素化反応を行った。
【0088】
<実験例>
前記実施例および比較例の水素化反応に対してオレフィン結合に対する選択性テストを下記方法により行い、その結果を下記表1に示す。
【0089】
(1)APHA値測定
前記実施例および比較例の水素化反応の反応物について、ASTM D1209によりAPHA値を測定した。
APHA値は、石油樹脂中のオレフィン含有量に比例してオレフィン結合が多いほどAPHA値が高く、水素化反応前の石油樹脂のAPHA値は1,500であった。
【0090】
(2)芳香族化度(Aromaticity、%)測定
前記実施例および比較例の水素化反応の反応物について、NMR分析で芳香族化度(Aromaticity、%)を測定した。
【0091】
【表1】
【0092】
上記表1を参照すると、水素化触媒の種類および混合比により石油樹脂のAPHA値および芳香族化度を多様な範囲で容易に調整することができることが分かった。