(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】モータ油冷構造
(51)【国際特許分類】
H02K 9/19 20060101AFI20220405BHJP
H02K 3/24 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
H02K9/19 A
H02K3/24 P
(21)【出願番号】P 2020558268
(86)(22)【出願日】2019-11-08
(86)【国際出願番号】 JP2019043815
(87)【国際公開番号】W WO2020105467
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2021-02-17
(31)【優先権主張番号】P 2018217063
(32)【優先日】2018-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】小坂 昌広
【審査官】宮崎 賢司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/157555(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/107679(WO,A1)
【文献】特開2010-022082(JP,A)
【文献】特開2007-312569(JP,A)
【文献】特開2016-001974(JP,A)
【文献】特開2010-057261(JP,A)
【文献】国際公開第2011/132784(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 9/19
H02K 3/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの分割ステータコアに巻き付けられたコイルをオイルにより冷却するモータ油冷構造であって、
前記モータは、
モータケースと、モータケースに回転可能に支持されるロータと、モータケースに固定され、前記ロータの円筒周面に沿って複数個配列された分割ステータコアを有するステータと、を備え、
互いに隣接する前記分割ステータコアのコイルの間にはそれぞれモータ軸線方向に沿ってコイル隙間があり、
コイルエンドの一方側において前記分割ステータコアの周方向に沿って配列され
、前記コイル隙間に向かって
それぞれオイルを噴射する複数の噴射孔を有し、
全ての前記コイル隙間に対して前記噴射孔を備えており、
前記噴射孔は、前記コイル隙間と対向する位置から周方向にオフセットして配置されているとともに、前記噴射孔によるオイル噴射方向
が、前記コイル隙間を通して各分割ステータコアのコイルの側面に向かうように、モータ軸線の方向に対して周方向傾斜角度を持たせた方向に設定
されている、
モータ油冷構造。
【請求項2】
請求項1に記載されたモータ油冷構造において、
前記噴射孔によるオイル噴射方向を、前記コイル隙間に噴射したオイルが突き抜ける方向であるモータ軸線の方向に対して径方向傾斜角度を持たせた方向に設定した、
モータ油冷構造。
【請求項3】
請求項1又は2に記載されたモータ油冷構造において、
前記ロータの円筒周面に沿って複数個配列された分割ステータコアを、垂直線により第1分割ステータコア群と第2分割ステータコア群とに半周分けし、
前記複数個配列された分割ステータコアのうち、頂部に配置される分割ステータコアに対して両側面からオイルが噴射されるように、前記第1分割ステータコア群での前記噴射孔による周方向傾斜角度と、前記第2分割ステータコア群での前記噴射孔による周方向傾斜角度とを同じ角度で傾斜方向を異ならせて設定した、
モータ油冷構造。
【請求項4】
請求項1から3までの何れか一項に記載されたモータ油冷構造において、
前記モータを、変速機ユニットの内部位置、又は、近接位置に配置し、
前記オイルを、前記変速機ユニットのオイルポンプから発生した潤滑油圧による潤滑油とする、
モータ油冷構造。
【請求項5】
請求項1から4までの何れか一項に記載されたモータ油冷構造において、
前記分割ステータコアのコイルエンドの一方側に配置される環状冷却パイプと、
前記環状冷却パイプに突設され、前記コイル隙間と対向する位置から周方向にオフセットして配置される複数個のオイル噴射ノズルと、を備え、
前記噴射孔は、前記オイル噴射ノズルに有する、
モータ油冷構造。
【請求項6】
請求項1から4までの何れか一項に記載されたモータ油冷構造において、
前記モータケースのうち、前記分割ステータコアのコイルエンドの一方側のサイドケース部に形成される環状冷却油路を備え、
前記噴射孔は、一端を前記環状冷却油路に連通して前記サイドケース部に開孔されたオイル噴射ノズル孔の他端に有する、
モータ油冷構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの分割ステータコアに巻き付けられたコイルをオイルにより冷却するモータ油冷構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、分割ステータコアに巻き付けられたコイルをオイルにより冷却するモータの油冷構造が開示されている(例えば、特許文献1参照)。モータの油冷構造は、モータの周方向に沿って配列され、モータの軸方向に沿ってオイルを噴出して複数のコイルをそれぞれ冷却する複数の噴射孔を有し、噴射孔は、隣接する分割ステータコアの間ないしコイルの間の隙間に対向して配置される。
【0003】
上記特許文献1に開示されたモータの油冷構造は、噴射孔の向きの誤差により、どのコイルにオイルが当たっているか分からない場合があり、オイルが当たらないコイルが存在し、コイルが十分に冷却できない場合がある。また、コイルの間に噴射されたオイルはそのままコイルの間を突き抜けてしまい、コイルにオイルが当たらなくなり、コイルが十分に冷却できない場合がある、という課題があった。
【0004】
本発明は、簡素な構造でありながら、分割ステータコアに巻き付けられたコイルの冷却能力を高くすることを目的とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【0006】
本発明は、モータの分割ステータコアに巻き付けられたコイルをオイルにより冷却するモータ油冷構造であって、
モータは、モータケースと、モータケースに回転可能に支持されるロータと、モータケースに固定され、ロータの円筒周面に沿って複数個配列された分割ステータコアを有するステータと、を備え、互いに隣接する前記分割ステータコアのコイルの間にはそれぞれモータ軸線方向に沿ってコイル隙間があり、
コイルエンドの一方側において分割ステータコアの周方向に沿って配列され、前記コイル隙間に向かってそれぞれオイルを噴射する複数の噴射孔を有し、全ての前記コイル隙間に対して前記噴射孔を備えており、
前記噴射孔は、前記コイル隙間と対向する位置から周方向にオフセットして配置されているとともに、前記噴射孔によるオイル噴射方向が、前記コイル隙間を通して各分割ステータコアのコイルの側面に向かうように、モータ軸線の方向に対して周方向傾斜角度を持たせた方向に設定されている。
【0007】
このように、オイル噴射方向に周方向傾斜角度を持たせることで、コイル隙間に向かって噴射したオイルがコイルの側面に対して斜め方向から直接当たり、コイルから熱を奪いながらコイル隙間を通過する。この結果、簡素な構造でありながら、分割ステータコアに巻き付けられたコイルの冷却能力を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施例のモータ油冷構造が適用されたモータを示す縦断側面図である。
【
図2】第1実施例のモータにおいて隣接する分割ステータコアのコイル隙間を示す拡大側面図である。
【
図3】噴射孔によるオイル噴射方向をモータ軸線に対して周方向傾斜角度を持たせた方向に設定した状態を示す周方向傾斜角度説明図である。
【
図4】噴射孔によるオイル噴射方向をモータ軸線に対して径方向傾斜角度を持たせた方向に設定した状態を示す径方向傾斜角度説明図である。
【
図5】比較例1でのオイル噴射角がコイル隙間の方向と一致してオイルがコイルに当たらないで抜ける例を示す作用説明図である。
【
図6】比較例1でのオイル噴射角のバラツキによりオイルがコイルに当たらないで抜ける例を示す作用説明図である。
【
図7】第1実施例によるコイル冷却後のオイルを排出するときのオイル排出作用を示す作用説明図である。
【
図8】第2実施例のモータ油冷構造が適用されたモータを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明によるモータ油冷構造を実現する最良の実施形態を、図面に示す第1実施例及び第2実施例に基づいて説明する。
【0010】
第1実施例におけるモータ油冷構造A1は、ハイブリッド車の駆動系に変速機ユニットと共に搭載され、コイルの発熱対策を要する走行駆動用モータやアシスト駆動用モータに適用される。以下、第1実施例の構成を、「モータ構成」、「モータ油冷構造の詳細構成」に分けて説明する。
【0011】
[モータ構成]
図1は、第1実施例のモータ油冷構造A1が適用されたモータMを示し、
図2は、第1実施例のモータMにおいて隣接する分割ステータコアのコイル隙間を示す。以下、
図1及び
図2に基づいてモータ構成を説明する。
【0012】
モータMは、三相交流による永久磁石式同期モータと呼ばれ、力行駆動と回生発電が可能なモータである。このモータMは、
図1に示すように、ロータ1と、ステータ2と、モータケース3と、を備えている。
【0013】
ロータ1は、モータケース3に対して回転可能にベアリング支持され、
図1及び
図2に示すように、ロータコア11と、永久磁石12と、モータ軸13と、を有する。
【0014】
ロータコア11は、打ち抜き成形された複数枚のロータコアプレートをモータ軸方向に積層することで構成される。このロータコア11には、
図2に示すように、外周領域に沿って複数開口される磁石用開口部11aと、内周端に内径方向に突出する回り止め突起11bと、を有する。
【0015】
永久磁石12は、
図2に示すように、ロータコア11に複数開口された磁石用開口部11aのそれぞれに対してモータ軸方向に押し込んだ状態で埋め込み装着される。
【0016】
モータ軸13は、ロータコア11を固定する大径軸部13aと、モータケース3に対して回転可能にベアリング支持される小径軸部13bと、を有する。ここで、大径軸部13aには、ロータコア11に形成された回り止め突起11bに嵌合する回り止め溝13cを有し、回り止め突起11bと回り止め溝13cとの嵌合により、大径軸部13aにロータコア11を固定する。
【0017】
ステータ2は、モータケース3に対して固定され、
図1及び
図2に示すように、ステータコア21と、インシュレータ22と、コイル23と、を有する。
【0018】
ステータコア21は、打ち抜き成形された複数枚のステータコアプレートをモータ軸方向に積層することで構成される。このステータコア21には、
図2に示すように、外周コア部21aと、外周コア部21aの内面から等間隔に複数個突出する歯状の分割ティース部21bと、外周コア部21aの外周面にモータ軸方向に形成されたスプライン突起21cと、を有する。なお、外周コア部21aは、分割ティース部21b毎に分割した構成のものを環状に繋ぎ合わせて一体化したものを示しているが、環状による一体構成の外周コア部21aとしても良い。
【0019】
コイル23は、ステータコア21の分割ティース部21bに対してインシュレータ22を介在させて巻き付けられる。即ち、ロータ1の円筒周面に沿って複数個配列される分割ステータコア2Sは、分割ティース部21bとインシュレータ22とコイル23により構成される。なお、隣接する分割ステータコア2S,2Sとの間には、モータ軸方向に沿ってコイル隙間4が形成される。また、ロータ1の円筒周面と分割ステータコア2Sの内周端面との間には、エアーギャップを介在させている。
【0020】
モータケース3は、ロータ1を回転可能に支持すると共に、ステータ2を固定するもので、ドラムケース部31と、サイドケース部32とを有する(
図4参照)。
【0021】
ドラムケース部31の内面には、モータ軸方向のスプライン溝31aが形成され、ステータコア21に形成されたスプライン突起21cとのスプライン嵌合により、ステータ2はモータケース3に固定される。
【0022】
サイドケース部32には、後述するモータ油冷構造A1のオイル噴射ノズル6を配置するノズル開口32aが設けられている(
図4参照)。なお、モータケース3には、モータMの力行時にバッテリから三相交流の電力をコイル23へ供給し、モータMの回生時に三相交流の発電電力をコイル23からバッテリへ供給する電源端子ユニットが設けられる。
【0023】
[モータ油冷構造の詳細構成]
図3は、噴射孔7によるオイル噴射方向をモータ軸線ML(すなわちモータ中心軸線と平行な直線)に対して周方向傾斜角度θ1を持たせた方向に設定した状態を示し、
図4は、噴射孔7によるオイル噴射方向をモータ軸線MLに対して径方向傾斜角度θ2を持たせた方向に設定した状態を示す。なお、
図3は、ステータコア21の内周面を展開して示した説明図であり、
図4は、モータMの縦断面に相当する説明図である。以下、
図1~
図4に基づいて、モータ油冷構造A1の詳細構成を説明する。
【0024】
第1実施例のモータ油冷構造A1は、分割ステータコア2Sに巻き付けられたコイル23を、図外の変速機ユニットで用いられるオイル(変速機作動油)により冷却する構造であり、環状冷却パイプ5と、オイル噴射ノズル6と、噴射孔7と、を備える。ここで、コイル冷却用のオイルとしては、変速ユニット内の既存のオイルポンプから発生した潤滑油圧による潤滑油を用いている。
【0025】
環状冷却パイプ5は、コイル冷却用のオイルが図外の変速機ユニットから供給されるパイプであり、分割ステータコア2Sのコイルエンドの一方側に配置される。第1実施例においては、
図1及び
図4に示すように、環状冷却パイプ5を、分割ステータコア2Sのコイルエンドの一方側のうち分割ステータコア2Sの内径位置に配置している。
【0026】
オイル噴射ノズル6は、環状冷却パイプ5に複数個突設され、
図1及び
図3に示すように、コイル隙間4と対向する位置から周方向にオフセットして配置される。オイル噴射ノズル6の個数(例えば、24個)は、コイル隙間4の数と同数としている。ここで、コイル隙間4と対向するコイル隙間延長位置Pからの周方向へのオフセット量Loffは、設定する周方向傾斜角度θ1やコイル隙間4の幅(入口溝8の幅)等により決められる。つまり、各オイル噴射ノズル6は、環状冷却パイプ5に対してオフセット量Loffを設定して取り付けることで、ノズル先端部がコイル隙間4から外れた位置に配置している。
【0027】
噴射孔7は、オイル噴射ノズル6の先端に有し、分割ステータコア2Sの周方向に沿って複数個配列され、隣接する分割ステータコア2Sのコイル隙間4の入口溝8に向かってオイルを噴射する。ここで、互いに隣接する分割ステータコア2Sによりコイル隙間4の入口に形成される入口溝8は、隣接するコイルエンドが対向するV字状に開いた溝になる。そして、噴射孔7により入口溝8に向かうオイル噴射方向は、オイル噴射ノズル5の環状冷却パイプ5に対して配置されるオフセット位置と、オイル噴射ノズル6の周方向傾斜角度θ1により決まる。
【0028】
噴射孔7によるオイル噴射方向は、
図3に示すように、コイル隙間4に噴射したオイルが突き抜ける方向であるモータ軸線MLの方向に対して周方向傾斜角度θ1を持たせた方向に設定している。さらに、噴射孔7によるオイル噴射方向は、
図4に示すように、コイル隙間4に噴射したオイルが突き抜ける方向であるモータ軸線MLの方向に対して径方向傾斜角度θ2を持たせた方向に設定している。
【0029】
即ち、複数の噴射孔7を、分割ステータコア2Sの内周方向に沿って配列している。そして、噴射孔7によるオイル噴射方向を、コイル隙間4の入口溝8に向かって外径方向に噴射したオイルが斜め方向からコイル23の側面23a(隣接するコイルと対向するコイル面)に当たりながらコイル隙間4を通過するように、周方向傾斜角度θ1と径方向傾斜角度θ2を設定している。つまり、噴射孔7によるオイル噴射方向に角度を付けてコイル23の側面23aを全体的に冷やした後、出口溝9へ抜けるようにしている。言い換えると、噴射孔7によるオイル噴射方向を、コイル隙間4に向かう方向では無く、オフセット位置とノズル設定角度に誤差範囲のバラツキがあったとしても、V字状に開いた入口溝8からコイル23の側面23aを直接狙える角度を付けた方向としている。そのため、噴射孔7の位置は、コイル隙間4に対向する位置、つまり、入口溝8の正面から外れてコイル23の正面23b(環状冷却パイプ5側のコイル面)に対向する位置に配置される。これにより、オフセット位置とノズル設定角度に誤差範囲のバラツキがあったとしても、V字状に開いた入口溝8からコイル23の側面23aを直接狙える角度を容易につけることができる。
【0030】
周方向傾斜角度θ1の設定は、複数個配列された分割ステータコア2Sのうち、
図1に示すように、頂部に配置される分割ステータコア2S’に対して両側面からオイルが噴射されるようにしている。即ち、ロータ1の円筒周面に沿って複数個配列された分割ステータコア2Sを、頂部の分割ステータコア2S’と底部の分割ステータコア2S”を除いて第1分割ステータコア群2S(G1)と第2分割ステータコア群2S(G2)とに半周分けする。そして、第1分割ステータコア群2S(G1)での噴射孔7による周方向傾斜角度θ1と、第2分割ステータコア群2S(G2)での噴射孔7による周方向傾斜角度θ1とを同じ角度で傾斜方向を異ならせて設定している。なお、図示例のモータMは、例えば、中心軸線がほぼ水平となる姿勢で用いられる。
【0031】
次に、第1実施例の作用を、「背景技術と課題」、「課題の解決対策」、「モータコイルの油冷作用」に分けて説明する。
【0032】
[背景技術と課題]
ステータコイルを冷却する周知技術として、ステータの外周位置にウォータジャケットを配置し、ウォータジャケットを流れる冷却水によりステータコイルの熱を抜熱しようとするものである。しかし、ウォータジャケットによる周知の冷却技術は、コイル熱が多数の部品間を伝わっていく構造であるために抜熱性が悪い。つまり、コイル熱は、ステータコイルからインシュレータ→ステータコア→モータケース→ウォータジャケットへと伝わっていく経路により抜熱される。
【0033】
即ち、ウォータジャケットによる周知の冷却技術は、冷却水回路、水冷媒、水ポンプ、水配管部品、等の空間や多くの部品を必要としながら、発熱するコイルに対し間接的にしか抜熱することができない。このように、部品が複雑で大きくなる構造でありながら、冷却性能が良く無い、という課題があった。
【0034】
そこで、ステータコイルを冷却する技術として、特開2010-57261号公報(比較例1)や特開2015-211543号公報(比較例2)、等が提案されている。
【0035】
比較例1に提案されている技術は、モータの周方向に沿って配列され、モータの軸方向に沿ってオイルを噴出して複数のコイルをそれぞれ冷却する複数の噴射孔を有し、噴射孔は、隣接する分割ステータコアのコイル隙間に対向して配置される油冷構造である。
【0036】
比較例1に開示された油冷構造は、噴射孔の向きの製品バラツキにより、どのコイルにオイルが当たっているか分からない場合があり、コイル冷却にバラツキが生じる、という課題がある。つまり、
図5に示すように、噴射孔からのオイル噴射方向とコイル隙間方向とが一致した設定であると、コイル隙間に噴射されたオイルはそのままコイルの間を突き抜けてしまい、分割ステータコアのコイルにオイルが当たらなくなり、コイルが十分に冷却できない。また、
図6に示すように、分割ステータコアとしてコア1,コア2,コア3があり、噴射孔の向きのバラツキにより噴射孔1からのオイルがコア1に当たり、噴射孔2からのオイルがコア3に当たる設定となる場合がある。その理由は、ノズルの向きは真っ直ぐではあるが、加工精度により噴射の向きがばらつく可能性があり、噴射の向きのみが斜めになることによる。この場合、コア1とコア3にはオイルが当たるが、コア2にオイルが当たらなくなり、コア2のコイルを冷却できない。
【0037】
比較例2に提案されている技術は、回転電機の軸方向外側端面に沿って設けられ、回転電機の軸を中心とする円周方向に延びた冷媒流路管を備える。冷媒流路管は、冷媒流路管の管路方向に対して直交する断面でみたときに曲面状となるよう形成され、外周面には、回転電機の軸方向外側端面と対向する位置に、管内に連通した複数の開口が形成されている。複数の開口は、冷媒流路管の管路方向と直交する各断面で見たときに、冷媒流路管の延在する仮想面に対してなす角度の異なる開口を含む回転電機の冷却構造である。
【0038】
比較例2に開示された回転電機の冷却構造は、3次元的にコイルエンドに冷媒をかけるものである。このため、冷却構造がかなり複雑になるし、コイルエンドのみを冷却しても分割ステータコアに巻き付けられたコイルを、全体的に十分に冷却できない、という課題がある。
【0039】
[課題の解決対策]
本発明者は、上記背景技術の課題に対し、コイルの冷却オイルをかける領域として、コイルエンドだけの小面積領域では十分に抜熱できなく、コイルとコイルの間の広い面積にオイルをかける必要がある点に着目した。課題の解決対策として、分割ステータコア2Sの周方向に沿って配列され、隣接する分割ステータコア2Sのコイル隙間4に向かってオイルを噴射する複数の噴射孔7を有する。そして、噴射孔7によるオイル噴射方向を、コイル隙間4に噴射したオイルが突き抜ける方向であるモータ軸線MLの方向に対して周方向傾斜角度θ1を持たせた方向に設定する手段を採用した。
【0040】
即ち、オイル噴射方向に周方向傾斜角度θ1を持たせることで、
図3に示すように、隣接するコイルエンドによりV字状に開いた入口溝8に向かって噴射したオイルがコイル23の側面23aに対して斜め方向から直接当たり、コイル23の側面23aの広い面積にオイルがかけられる。そして、かけられたオイルによりコイル23から熱を奪いながらコイル隙間4を通過する。
【0041】
また、分割ステータコア2Sのコイル隙間4に向かってオイルを噴射する構成としている。このため、ウォータジャケットによる周知技術のように、モータケースにウォータジャケットを形成する必要が無く、スペース的にも構成的にも簡潔な構造とすることができる。特に、第1実施例の場合、変速機ユニット内の既存のオイルポンプから発生した潤滑油圧による潤滑油を直接発熱体であるモータMのコイル23にかけるオイルとしている。この場合、冷媒として用いられるコイル冷却用オイルやオイル専用ポンプを必要とせず、オイル回路も潤滑油圧回路からの分岐回路により簡略化した回路構成とすることができる。
【0042】
この結果、簡素な構造でありながら、分割ステータコア2Sに巻き付けられたコイル23の冷却能力を高くすることができる。つまり、コイル冷却性能の向上を図りながらも、スペース効率と部品削減に繋がるモータ油冷構造A1を提供することができる。
【0043】
[モータコイルの油冷作用]
まず、コイル隙間4に噴射されたオイルがそのままコイル23,23の間を突き抜けることを防止するため、噴射孔7によるオイル噴射方向が、コイル隙間4に噴射したオイルが突き抜ける方向であるモータ軸線MLの方向に対して周方向傾斜角度θ1を持たせた方向に設定されている。
【0044】
よって、噴射孔7からは、
図3の矢印Eに示すように、オイルがコイル隙間4を真直ぐ通り抜けないように、コイル隙間4に対向するコイル隙間延長位置Pから周方向へ少しずれたオフセット位置からオイルが噴射される。そして、噴射されたオイルは、入口溝8の奥側のコイル23の側面23aに直接当たり、その後、オイルが隣接するコイル23,23の間に形成されるコイル隙間4に入り、出口溝9から排出される。
【0045】
このように、噴射孔7から噴射されるオイルがコイルに当たらず貫通して出口溝9から飛び出すことが無く、確実にコイルに当てることができる。よって、コイルエンドを含みコイル23とコイル23の間の広い面積にオイルをかけることで、コイル23が効率良く冷却される。また、噴射孔7によるオイル噴射方向を、周方向傾斜角度θ1により管理することで、オイル噴射方向にバラツキ誤差があったとしても、隣接する分割ステータコア2S,2Sのうち、どちらのコイル23を冷却しているかが明確になる。よって、オイル噴射方向のバラツキ誤差により、冷却しているコイル23が不明確だったことを明確化でき、冷却能力の安定化ができる。
【0046】
さらに、オイルがコイル23に当たる面積を拡大するために、第1実施例では、コイル隙間4に噴射したオイルが突き抜ける方向であるモータ軸線MLの方向に対して径方向傾斜角度θ2を持たせた方向に設定している。
【0047】
よって、噴射孔7からは、
図4の矢印Fに示すように、オイルが分割ステータコア2Cのコイル面に斜めに横断するように上向き角度を持たせて噴射される。そして、噴射されたオイルがコイル隙間4に入ると、インシュレータ22やコイル23に当たり、その後、オイルの噴射方向が上向き角度を持たせた方向に変えられ、隣接するコイル23,23の間を斜めに横断しながら出口溝9から排出される。
【0048】
このように、放射されるオイルの向きを、
図4の矢印Fに示すように、斜めの放射角度を持たせると、インシュレータ22の鍔面やコイルに当たり、その後、重力等により放物軌道を描いたり、勢いを無くしたオイルが垂れたりする。このように、コイル23の側面に対し広い面積でオイル冷却がなされるため、冷却性能を上げることができる。
【0049】
なお、コイル23が巻かれた分割ステータコア2CがモータM内に円周状に配置されているため、オイルの放射角度は一定ではない。つまり、コイル23の配置場所が天であれば角度を上げ、コイル23の配置場所が地であれば角度を下げ、コイル23の配置場所が水平であればその中間等、その位置で冷却に適した角度にそれぞれ設定でき、効率のよいコイル冷却ができる。
【0050】
そして、分割ステータコア2Sの入口溝→コイル隙間4→出口溝9から排出されたオイルは、
図7の矢印Gに示すように、各経路をたどって、
図7の矢印Hに示すように、変速機ユニットのオイルパンに向かってドレーンされる。
【0051】
上記のように、第1実施例におけるモータ油冷構造A1にあっては、下記に列挙する効果が得られる。
【0052】
(1) モータMの分割ステータコア2Sに巻き付けられたコイル23をオイルにより冷却するモータ油冷構造A1であって、
モータMは、モータケース3に回転可能に支持されるロータ1と、モータケース3に固定され、ロータ1の円筒周面に沿って複数個配列された分割ステータコア2Sを有するステータ2と、を備え、
分割ステータコア2Sの周方向に沿って配列され、隣接する分割ステータコア2Sのコイル隙間4に向かってオイルを噴射する複数の噴射孔7を有し、
噴射孔7によるオイル噴射方向を、コイル隙間4に噴射したオイルが突き抜ける方向であるモータ軸線MLの方向に対して周方向傾斜角度θ1を持たせた方向に設定する。
このため、簡素な構造でありながら、分割ステータコア2Sに巻き付けられたコイル23の冷却能力を高くすることができる。即ち、オイル噴射方向に周方向傾斜角度θ1を持たせることで、コイル隙間4に向かって噴射したオイルがコイル23の側面23aに対して斜め方向から直接当たり、コイル23から熱を奪いながらコイル隙間4を通過する。
【0053】
(2) 噴射孔7によるオイル噴射方向を、コイル隙間4に噴射したオイルが突き抜ける方向であるモータ軸線MLの方向に対して径方向傾斜角度θ2を持たせた方向に設定する。
このため、コイル23の側面に対し広い面積でのオイル冷却になり、冷却性能を向上させることができる。即ち、噴射孔7によるオイル噴射方向に径方向傾斜角度θ2を持たせたことで、オイルは隣接するコイル隙間4を斜めに横断しながら流れる。
【0054】
(3) ロータ1の円筒周面に沿って複数個配列された分割ステータコア2Sを、垂直線により第1分割ステータコア群2S(G1)と第2分割ステータコア群2S(G2)とに半周分けし、
複数個配列された分割ステータコア2Sのうち、頂部に配置される分割ステータコア2S’に対して両側面からオイルが噴射されるように、第1分割ステータコア群2S(G1)での噴射孔7による周方向傾斜角度θ1と、第2分割ステータコア群2S(G2)での噴射孔7による周方向傾斜角度θ1とを同じ角度で傾斜方向を異ならせて設定する。
このため、複数個配列される分割ステータコア2Sの中でコイル温度が最高温度に上昇する頂部に配置される分割ステータコア2S’の冷却性能を向上させることができる。即ち、頂部に配置される分割ステータコア2S’に対して両側面からオイルが噴射されることになり、分割ステータコア2S’のコイル23へのオイル噴射量が増加する。
【0055】
(4) モータMを、変速機ユニットの内部位置、又は、近接位置に配置し、
オイルを、変速機ユニットのオイルポンプから発生した潤滑油圧による潤滑油とする。
このため、冷媒として用いられるコイル冷却用オイルやオイル専用ポンプを必要とせず、オイル回路も潤滑油圧回路からの分岐回路により簡略化した回路構成とすることができる。
【0056】
(5) 分割ステータコア2Sのコイルエンドの一方側に配置される環状冷却パイプ5と、環状冷却パイプ5に突設され、コイル隙間4と対向する位置から周方向にオフセットして配置される複数個のオイル噴射ノズル6と、を備え、
噴射孔7は、オイル噴射ノズル6に有する。
このため、複数個のオイル噴射ノズル6を有する環状冷却パイプ5を新たに付加するだけで、既存のモータMに対して容易にモータ油冷構造A1を適用することができる。
【0057】
次に第2実施例を説明する。
第1実施例はモータ油冷構造A1を冷却油配管によるモータMに対する外部付加構造としたのに対し、第2実施例はモータ油冷構造A2をモータケース部品自体に織り込んだ内部付加構造とした。
【0058】
図8は、第2実施例のモータ油冷構造A2が適用されたモータMを示す。以下、
図8に基づいて第2実施例のモータ油冷構造A2の構成を説明する。
【0059】
第2実施例のモータ油冷構造A2は、
図8に示すように、モータケース3のうち、分割ステータコア2Sのコイルエンドの一方側のサイドケース部32に形成される環状冷却油路5’を備える。噴射孔7’は、一端を環状冷却油路5’に連通してサイドケース部32に開孔されたオイル噴射ノズル孔6’の他端に有する。ここで、サイドケース部32に開口される噴射孔7’は、第1実施例と同様に、オイル噴射方向に周方向傾斜角度θ1と径方向傾斜角度θ2を持たせた設定とされる。
【0060】
なお、他の構成は、第1実施例と同様であるので図示並びに説明を省略する。また、第2実施例の作用についても、噴射孔7を噴射孔7’に読み替えるだけで、第1実施例と同様であるので図示並びに説明を省略する。
【0061】
以上説明したように、第2実施例のモータ油冷構造A2にあっては、第1実施例の(1)~(4)の効果に加え、下記の効果を奏する。
【0062】
(6) モータケース3のうち、分割ステータコア2Sのコイルエンドの一方側のサイドケース部32に形成される環状冷却油路5’を備え、
噴射孔7’は、一端を環状冷却油路5’に連通してサイドケース部32に開孔されたオイル噴射ノズル孔6’の他端に有する。
このため、モータケース3に、環状冷却油路5’とオイル噴射ノズル孔6’と噴射孔7’とを形成するだけで、モータ部品点数を増加させることなく、容易にモータ油冷構造A2を適用することができる。
【0063】
以上、本発明のモータ油冷構造を第1,第2実施例に基づき説明してきた。しかし、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0064】
第1実施例では、噴射孔7によるオイル噴射方向として、周方向傾斜角度θ1と径方向傾斜角度θ2を設定する好ましい例を示した。しかし、噴射孔によるオイル噴射方向としては、周方向傾斜角度のみを設定する例としても良い。
【0065】
第1実施例では、複数個配列された分割ステータコア2Sのうち、頂部に配置される分割ステータコア2S’に対して両側面からオイルが噴射されるように噴射孔7を配置する例を示した。しかし、熱的に厳しいコイルが存在する分割ステータコアに対しては、オイル噴射ノズルの周方向オフセット配置を利用し、1つの入口溝と1つのコイル隙間に向かって2つの噴射孔を配置する例としても良い。
【0066】
第1実施例では、本発明のモータ油冷構造を、変速機ユニットの内部位置、又は、近接位置に配置し、オイルを、変速機ユニットのオイルポンプから発生した潤滑油圧による潤滑油とする例を示した。しかし、本発明のモータ油冷構造は、冷媒として用いられるコイル冷却用オイルやオイル専用ポンプを要するモータに対しても適用することができる。