(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】冷凍サイクル装置
(51)【国際特許分類】
F25B 1/00 20060101AFI20220405BHJP
F25B 41/35 20210101ALI20220405BHJP
C10M 145/14 20060101ALI20220405BHJP
C10M 113/10 20060101ALI20220405BHJP
C09K 5/04 20060101ALI20220405BHJP
C10N 50/10 20060101ALN20220405BHJP
C10N 10/12 20060101ALN20220405BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20220405BHJP
C10N 40/04 20060101ALN20220405BHJP
【FI】
F25B1/00 304L
F25B1/00 396Z
F25B41/35
C10M145/14
C10M113/10
C09K5/04 C
C09K5/04 G
C10N50:10
C10N10:12
C10N30:00 Z
C10N40:04
(21)【出願番号】P 2021192141
(22)【出願日】2021-11-26
【審査請求日】2021-11-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】316011466
【氏名又は名称】日立ジョンソンコントロールズ空調株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000660
【氏名又は名称】Knowledge Partners 特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】太田 亮
(72)【発明者】
【氏名】内藤 宏治
(72)【発明者】
【氏名】多田 修平
【審査官】森山 拓哉
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/025023(WO,A1)
【文献】特開2000-274886(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105822822(CN,A)
【文献】特許第6924888(JP,B1)
【文献】特開2016-006483(JP,A)
【文献】特開昭59-068397(JP,A)
【文献】特開平03-160093(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 1/00
F25B 41/35
C10M 145/14
C10M 113/10
C09K 5/04
C10N 50/10
C10N 10/12
C10N 30/00
C10N 40/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒が循環する冷凍サイクル装置であって、
前記冷媒は、トリフルオロヨードメタンを含む混合冷媒であって、
前記冷媒を減圧する減圧器として、ギヤ式電子膨張弁を備え、
前記ギヤ式電子膨張弁の潤滑グリースに
は、基油として、鉱油又は合成炭化水素油のみが用いられる、冷凍サイクル装置。
【請求項2】
冷媒が循環する冷凍サイクル装置であって、
前記冷媒は、トリフルオロヨードメタンを含む混合冷媒であって、
前記冷媒を減圧する減圧器として、ギヤ式電子膨張弁を備え、
前記ギヤ式電子膨張弁の潤滑グリースに
は、基油として、以下に示す、前記潤滑グリースの溶解実験における溶出量が22wt%以下の炭化水素系基油のみが用いられる、冷凍サイクル装置。
<溶解試験>
潤滑グリースを載せた円錐金網をオートクレーブ内に挿入し、オートクレーブ内を真空排気する。次に、円錐金網がすべて浸るように液冷媒をオートクレーブ内に封入する。このオートクレーブを90℃、72時間で恒温槽に入れて加熱を行う。加熱後、円錐金網内の潤滑グリースに溶け込んだ冷媒を30分間真空脱気し、実験前後の潤滑グリースの重量変化量を溶出量として算出する。
【請求項3】
前記基油は、分子量10000以上のポリマーを有する炭化水素系基油を含む、請求項
2に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項4】
前記ポリマーは、ポリメタクリレートである、請求項
3に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項5】
前記潤滑グリースは、粘土系増ちょう剤を含む、請求項1乃至
4の何れか1項に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項6】
前記粘土系増ちょう剤は、ベントナイトである、請求項
5に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項7】
前記潤滑グリースは、二硫化モリブデンを含む、請求項1に記載の冷凍サイクル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍サイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、空気調和機に使用される冷媒のGWP(地球温暖化係数:Global Warming Potential、地球温暖化係数)を規制する動きがある。GWPは、環境影響度を示す指標である。日本では、フロン排出抑制法の改正により、指定製品毎の加重平均で目標値が設定されている。家庭用エアコンについては、2018年までにGWPを750にすることが目標になっている。また、店舗・オフィス用エアコンについては、2020年までにGWPを750に、コンデンシングユニット及び定置式冷凍冷蔵ユニット(以下、冷凍機等と略する。)については、2025年までにGWP1500にすることが目標になっている。
【0003】
冷凍機用の冷媒としては、フロン排出抑制法との関係から、GWPが1500以下であり、HFO1234yfやHFO1234zeを含む不燃性の混合冷媒が注目されてきた。例えば、R448A(HFC32/HFC125/HFC134a/HFO1234ze/HFO1234yf)や、R449A(HFC32/HFC125/HFC134a/HFO1234yf)を用いた冷凍機が製品化されている。しかし、R448AやR449Aは、GWPを1100~1400程度に留めないと不燃化させることができないため、更なる低GWP化を進めるにあたって、燃焼性の抑制が必要とされている。
【0004】
このような状況下、トリフルオロヨードメタン(CF3I)を含み低GWPで不燃性の混合冷媒であるR466Aが注目されている。R466Aでは、現在のビル用マルチエアコン等で使用されているR410Aに近い冷凍能力が得られる。このため、据え付けの煩雑さや、大きな設計変更の必要がなく、環境適合性が高い空気調和機を提供できると期待されている。
【0005】
一方で、ビル用マルチエアコンの冷凍サイクル中には減圧器として電子膨張弁が数多く設置されている。電子膨張弁としては、特許文献1に示すような直動式が多く使用されているが、動作音が大きいため特に静穏性が必要な室内機周辺の場合はギヤ式電子膨張弁が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電子膨張弁のギヤは樹脂製が多く、ギヤ同士の潤滑のためグリースが塗布される。しかしながら、上述のように、低GWPと不燃化とを両立できる混合冷媒の成分であるトリフルオロヨードメタン(CF3I)は、有機物に対しての溶解性が非常に高い。このため、グリースは、ギヤ表面から洗い流されてしまう。これにより、ギヤ間の潤滑が不足してギヤ動作電圧が大きくなり、電子膨張弁の動作不良を起こすという懸念がある。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、トリフルオロヨードメタンを含む混合冷媒を用いつつ、長期信頼性の高い冷凍サイクル装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、冷媒が循環する冷凍サイクル装置であって、前記冷媒は、トリフルオロヨードメタンを含む混合冷媒であって、前記冷媒を減圧する減圧器として、ギヤ式電子膨張弁を備え、前記ギヤ式電子膨張弁の潤滑グリースには、基油として、鉱油又は合成炭化水素油のみが用いられる。
また、本発明の他の形態は、冷媒が循環する冷凍サイクル装置であって、前記冷媒は、トリフルオロヨードメタンを含む混合冷媒であって、前記冷媒を減圧する減圧器として、ギヤ式電子膨張弁を備え、前記ギヤ式電子膨張弁の潤滑グリースには、基油として、以下に示す、前記潤滑グリースの溶解実験における溶出量が22wt%以下の炭化水素系基油のみが用いられる。
<溶解試験>
潤滑グリースを載せた円錐金網をオートクレーブ内に挿入し、オートクレーブ内を真空排気する。次に、円錐金網がすべて浸るように液冷媒をオートクレーブ内に封入する。このオートクレーブを90℃、72時間で恒温槽に入れて加熱を行う。加熱後、円錐金網内の潤滑グリースに溶け込んだ冷媒を30分間真空脱気し、実験前後の潤滑グリースの重量変化量を溶出量として算出する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、長期信頼性の高い冷凍サイクル装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【発明を実施するための形態】
【0012】
<冷凍サイクル装置>
本実施形態に係る冷凍サイクル装置は、冷媒が形成する熱力学的な冷凍サイクルを利用して冷却対象を冷却する能力を備えた装置である。冷凍サイクル装置は、冷却を行う能力を備える限り、冷凍サイクルと反対の熱サイクルを行う能力を備えていてもよい。冷凍サイクル装置は、例えば、空気調和機、冷凍機等の各種の冷凍空調装置に適用することができる。
【0013】
本実施形態に係る冷凍サイクル装置は、冷媒を圧縮する圧縮機と、圧縮機で圧縮された冷媒を凝縮させる凝縮器と、凝縮器で凝縮された冷媒を減圧する減圧器と、減圧器で減圧された冷媒を蒸発させる蒸発器と、を備える。必要に応じて蒸発器で蒸発した冷媒を蓄えるアキュムレーターと、冷媒中の水分を除去する乾燥器を備えてもよい。圧縮機としては、密閉容器内に、圧縮機構部と、圧縮機構部を駆動するモータと、を備え、且つ、摺動部を潤滑する冷凍機油が充填されている密閉型電動圧縮機が用いられる。
【0014】
以下、本実施形態に係る冷凍サイクル装置や、冷凍サイクル装置に用いられる減圧器のギヤ式電子膨張弁について、具体例を示して説明する。
図1は、冷凍サイクル装置の一例としての空気調和機の冷凍サイクル構成図である。本実施形態においては、空気調和機100は、ビル用マルチエアコン(多室型空気調和機)であるものとする。
【0015】
図1に示すように、空気調和機100は、室外機1と、室内機2a、2bと、を備えている。なお、本実施形態においては、空気調和機100は、2台の室内機2a、2bを備えるものとするが、空気調和機100は、3台以上の任意の数の室内機(2a、2b、・・・)を備えてもよい。
【0016】
室外機1は、圧縮機3と、四方弁4と、室外熱交換器(凝縮器/蒸発器)5と、室外膨張弁(減圧器)6と、レシーバタンク7と、乾燥器(ドライヤ)8と、アキュムレーター9と、室外送風機10と、を備えている。四方弁4と、アキュムレーター9と、圧縮機3とは、冷媒配管を介して閉環状に接続されている。また、四方弁4の一方の接続部には、室内機2a、2bが、冷媒配管を介して接続されている。四方弁4の他方の接続部には、室外熱交換器5及び室外膨張弁6が、この順に冷媒配管を介して接続されている。
【0017】
これらの機器や、機器同士を繋ぐ冷媒配管は、室外機1と室内機2a、2bとの間に、冷媒の循環路としての冷凍サイクルを形成している。冷凍サイクル内には、後述の冷媒が封入される。また、圧縮機3には、潤滑、冷媒の密封、冷却等の目的で、冷凍機油が封入される。
【0018】
圧縮機3は、密閉型電動圧縮機であり、密閉容器内に、圧縮機構部と、圧縮機構部を駆動するモータとが内蔵されている。四方弁4は、圧縮機3から吐出される冷媒の冷凍サイクル内での循環方向を、熱力学的サイクルに応じて切り替えることができる。室外熱交換器5は、冷媒と外気との熱交換を行い、冷房運転時には凝縮器として働き、暖房運転時には蒸発器として働く。圧縮機3は、スクロール圧縮機とする。ただし、他の例としては、圧縮機3は、スクリュー圧縮機、ロータリー圧縮機、ツインロータリー圧縮機、2段圧縮ロータリー圧縮機、ローラとベーンが一体化されたスイング式圧縮機等であってもよい。
【0019】
レシーバタンク7は、余剰冷媒を調整するための容器である。なお、他の例としては、空気調和機100は、レシーバタンク7を備えないこととしてもよい。乾燥器8は、液冷媒中の水分を除去する。乾燥器8の容器内にはモレキュラシーブス(水が入る細孔径の合成ゼオライト)が充填されている。本実施形態においては、乾燥器8は、冷凍サイクルのバイパスに設置されているが、本流上に設置されてもよい。室外膨張弁6は、例えば、ギヤ式電子膨張弁、直動式電子膨張弁、温度式膨張弁等で構成され、冷房運転時には減圧器として働く。アキュムレーター9は、冷媒ガスと液冷媒との気液分離を行う装置である。室外送風機10は、室外熱交換器5に外気を送風するために備えられており、冷媒と外気との熱交換を促進する。
【0020】
室内機2a、2bは、それぞれ、室内熱交換器(蒸発器/凝縮器)11a、11bと、室内膨張弁(減圧器)12a、12bと、室内送風機13a、13bと、を備えている。室内膨張弁12a、12bには、静穏性が求められる。このため、室内膨張弁12a、12bとしては、ギヤ式電子膨張弁が用いられることが好ましい。空気調和機100が2台以上の室内機(2a、2b、・・・)を備える場合、各室内機は、同様の構成に設けられ、並列状の冷凍サイクルを形成するように冷媒配管で接続される。
【0021】
室内熱交換器11a、11bは、冷媒と室内の空気との熱交換を行い、冷房運転時には蒸発器として働き、暖房運転時には凝縮器として働く。室内膨張弁12a、12bは、暖房運転時には減圧器として働く。室内送風機13a、13bは、室内熱交換器11a、11bに室内の空気を送風し、冷媒と室内の空気との熱交換を促進する。
【0022】
空気調和機100による冷房は、次の原理で行われる。圧縮機3で断熱圧縮された高温高圧の冷媒ガスは、四方弁4を通って、室外熱交換器5に送られる。そして、冷媒ガスは、凝縮器として働く室外熱交換器5で外気との熱交換によって冷却されて高圧の液冷媒となる。高圧の液冷媒は、室外膨張弁6、室内膨張弁12a、12bで減圧されて膨張し、気液二相冷媒(僅かに冷媒ガスを含む低温低圧の液冷媒)となる。気液二相冷媒は、個々の室内熱交換器11a、11bに送られる。そして、蒸発器として働く室内熱交換器11a、11bで、室内の空気との熱交換によって、冷媒は蒸発し熱を奪われ、低温低圧のガス冷媒となる。低温低圧のガス冷媒は、四方弁4を通って、アキュムレーター9に入り、蒸発しきれていない低温低圧の液冷媒が分離される。液冷媒が分離された低温低圧のガス冷媒は、圧縮機3に戻る。その後、同様のサイクルが繰り返されて冷房が続けられる。
【0023】
空気調和機100による暖房は、冷房時とは反対のサイクルで行われる。圧縮機3で断熱圧縮された高温高圧の冷媒ガスは、四方弁4の切り替えによって、個々の室内熱交換器11a、11bに送られる。そして、冷媒ガスは、凝縮器として働く室内熱交換器11a、11bで室内の空気に熱を与え、その後、蒸発器として働く室外熱交換器5で外気から熱を奪う。このような同様のサイクルが繰り返されて暖房が続けられる。
【0024】
膨張弁(室外膨張弁6、室内膨張弁12a、12b)は、冷凍サイクル装置の冷凍サイクル内において、凝縮器と蒸発器の間に配置される。膨張弁は、弁の隙間を通過させることで、高圧・高温の液冷媒を減圧する。
図2は、ギヤ式電子膨張弁20の一例の縦断面図である。本実施形態においては、室外膨張弁6、室内膨張弁12a、12bの少なくとも1つがギヤ式電子膨張弁20であるものとする。なお、前述の通り、室内膨張弁12a、12bがギヤ式電子膨張弁20であることが好ましい。ギヤ式電子膨張弁20は、コイル25によってマグネット21が回転し、ギヤ22を介し軸23へ伝達する。軸23へ伝達された回転により弁24が上下し液冷媒の流量が調整される。
【0025】
<冷媒>
冷凍サイクル装置(空気調和機100)の冷媒には、低GWPと低燃焼性とを両立させることができるトリフルオロヨードメタン(CF3I)を含む、混合冷媒が用いられる。冷媒として、具体的には、ジフルオロメタン(HFC32)、ペンタフルオロエタン(HFC125)及びトリフルオロヨードメタン(CF3I)を含む混合冷媒が用いられる。なお、混合冷媒は、前記の三成分のみを冷媒成分として含んでもよいし、前記の三成分以外に他の冷媒成分を含んでもよい。また、混合冷媒は、添加剤が添加されていてもよいし、添加剤が添加されていなくてもよい。
【0026】
冷媒成分のうち、HFC32は、主に、高い冷凍能力やエネルギ効率を確保するために用いられる。また、HFC125は、主に、温度勾配を縮小させるために用いられる。また、トリフルオロヨードメタン(CF3I)は、主に、混合冷媒自体のGWPや燃焼性を低下させるために用いられる。ここで、温度勾配とは、冷媒の相変化(蒸発・凝縮)の開始温度と終了温度との温度差を意味する。
【0027】
これらの三成分を用いることで、冷凍能力やエネルギ効率に優れ、温度勾配が小さく、GWP及び燃焼性が低い混合冷媒を得ることができる。そのため、安全性や環境適合性が高く、且つ、冷凍能力や電力効率に優れた冷凍サイクル装置を得ることができる。
【0028】
冷凍サイクル装置の冷媒は、地球温暖化係数(GWP)が、750以下であり、好ましくは500以下であり、より好ましくは150以下である。GWPが750以下であると、環境性能に優れた冷媒となり、法令上の規制に対する適合性が高く、冷凍機だけでなく空気調和機にも使用可能になる。冷媒のGWPは、混合冷媒の組成比を変えることによって750以下に調整することができる。HFC32は、GWP=677、HFC125は、GWP=3500、トリフルオロヨードメタン(CF3I)は、GWP=0.4である。
【0029】
また、冷凍サイクル装置の冷媒は、25℃における飽和蒸気圧が1.1MPa以上1.8MPa以下であることが好ましい。飽和蒸気圧がこの範囲であると、HFC32、R410A、R404A等を用いた従来の一般的な冷凍サイクル装置に対し、システム・設計・冷媒配管の施工法等に大きな変更を加えなくとも、同等の冷凍能力、冷媒の封入性等を得ることができる。冷媒の飽和蒸気圧は、混合冷媒の組成比を変えることによって前記の範囲に調整することができる。25℃における飽和蒸気圧は、HFC32:約1.69MPa、HFC125:約1.38MPa、CF3I:約0.5MPaである。
【0030】
冷凍サイクル装置の冷媒におけるHFC32の割合は、エネルギ効率の観点から、好ましくは10重量%以上、より好ましくは20重量%以上80重量%以下、更に好ましくは20重量%以上60重量%以下、特に好ましくは30重量%以上50重量%以下である。また、HFC125の割合は、好ましくは5重量%以上25重量%以下である。また、CF3Iの割合は、不燃性の観点から、好ましくは30重量%以上60重量%以下である。このような組成であると、微燃性であるHFC32を含む混合冷媒を、HFC125で疑似共沸化し、CF3Iで低GWP化し、且つ、少量のHFC125とCF3Iとで十分に不燃性化させることができる。
【0031】
冷凍サイクル装置の冷媒は、前記の三成分以外に、他の冷媒成分として、CO2、炭化水素、エーテル、フルオロエーテル、フルオロアルケン、HFC、HFO、HClFO、HClFO、HBrFO等を含んでもよい。
【0032】
なお、「HFC」は、ハイドロフルオロカーボンを示す。「HFO」は、炭素原子、フッ素原子、及び、水素原子からなるハイドロフルオロオレフィンであり、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を有する。「HClFO」は、炭素、塩素、フッ素及び水素原子からなり、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を有する。「HBrFO」は、炭素、臭素、フッ素及び水素原子からなり、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を有する。
【0033】
HFCとしては、ジフルオロメタン(HFC32)、ペンタフルオロエタン(HFC125)、1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC134)、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC134a)、トリフルオロエタン(HFC143a)、ジフルオロエタン(HFC152a)、1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン(HFC227ea)、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC236fa)、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン(HFC245fa)、1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン(HFC365mfc)が例示される。
【0034】
フルオロアルケンとしては、フルオロエテン、フルオロプロペン、フルオロブテン、クロロフルオロエテン、クロロフルオロプロペン、クロロフルオロブテンが例示される。フルオロエテンとしては、1,1-ジフルオロエテン(HFO1132a)、(E)-1,2-ジフルオロエテン(HFO1132(E))、(Z)-1,2-ジフルオロエテン(HFO1132(Z))、トリフルオロエテン(HFO1123)が例示される。フルオロプロペンとしては、3,3,3-トリフルオロプロペン(HFO1243zf)、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO1234ze)、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO1234yf)、HFO1225が例示される。フルオロブテンとしては、C4H4F4、C4H3F5(HFO1345)、C4H2F6(HFO1336)が例示される。
【0035】
クロロフルオロエテンとしては、C2F3Cl(CTFE)が例示される。クロロフルオロプロペンとしては、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペン(HCFO1233xf)、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペン(HCFO1233zd)が例示される。
【0036】
<冷凍機油>
冷凍サイクル装置の冷凍機油としては、ポリオールエステル油が挙げられる。冷凍空調用の化学合成油としてポリビニルエーテル油が知られているが、これはトリフルオロヨードメタン(CF
3I)と共存下で加熱すると油が劣化されやすいため好ましくない。このことから冷凍機油にはポリオールエステル油を用いることが好ましい。ポリオールエステル油は、下記化学式(1)で表されるペンタエリスリトール系化合物、下記化学式(2)で表されるジペンタエリスリトール系化合物、又は、これらの混合物であることが好ましい。但し、化学式(1)及び(2)中、R
1は、炭素数4~9のアルキル基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【化1】
【化2】
【0037】
R1としては、直鎖状のアルキル基、及び、分枝状のアルキル基のいずれであってもよい。R1の具体例としては、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、3-ペンチル基、tert-ペンチル基、ネオペンチル基、1-エチルペンチル基、イソへキシル基、2-エチルヘキシル基等が挙げられる。
【0038】
化学式(1)で表されるペンタエリスリトール系化合物、及び、化学式(2)で表されるジペンタエリスリトール系化合物は、R1として、分枝状のアルキル基のみを有することが好ましい。これらの化合物が分枝状のアルキル基で置換されていると、エステル基が冷凍サイクル内に混入している水分等と反応し難くなるため、冷凍機油が劣化するのを効果的に抑制することができる。また、ポリオールエステル油は、摺動面に形成する油膜が破断し難い特徴があるため、極圧剤の有無にかかわらず、良好な潤滑性を得ることができる。
【0039】
一般的な冷凍機油としては、ポリオールエステル油以外に、ポリアルキレングリコール油、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油、ポリαオレフィン油、ソフト型アルキルベンゼン油等も知られている。しかし、これらの油は、CF3Iを含む混合冷媒との熱化学安定性が低い。このため、これらの油は、CF3Iを含む混合冷媒と共に用いる冷凍機油として適切ではない。
【0040】
冷凍サイクル装置の冷凍機油は、40℃における動粘度が22mm2/s以上84mm2/s以下であることが好ましい。動粘度がこの範囲であると、低温でも十分な相溶性が得られるため、様々な形式の密閉型電動圧縮機において支障なく使用することができる。圧縮機の形式にかかわらず、圧縮機の摺動部の潤滑性や、冷媒と相溶したときの圧縮室の密閉性を適切に確保することができる。
【0041】
冷凍機油の動粘度は、主としてポリオールエステル油の組成を変えることによって調整することができる。冷凍機油の動粘度は、ISO(International Organization for Standardization、国際標準化機構)3104、ASTM(American Society for Testing and Materials、米国材料試験協会)D445、D7042等の規格に基づいて測定することができる。
【0042】
冷凍サイクル装置の冷凍機油は、冷凍サイクル内に冷媒と共に封入された状態において、水分量が300重量ppm以下に保持されることが好ましい。一般に、冷凍機油の水分量は製造時に低減されている。しかし、水分は、圧縮機への充填時に冷凍機油に混入したり、冷凍サイクル装置の製造時に冷凍サイクル内に侵入したりすることがある。冷凍機油に混入した水分や、冷凍サイクル内に侵入した水分は、冷凍サイクル装置の運転時には、冷媒の相ではなく、主として冷凍機油の相に局在する。
【0043】
冷凍機油に含まれる水分量が300重量ppm以下に低減されていると、水分とCF3Iやポリオールエステル油との反応量が極めて小さくなる。したがって、CF3Iやポリオールエステル油の加水分解を大きく抑制することができる。その結果、冷凍サイクル装置に銅配管が用いられている場合には、銅配管内面に生成するヨウ化銅の生成量も極めて微量になる。そのため、冷凍サイクル装置の運転中、混合冷媒自体の劣化や冷凍機油の劣化の進行を実質的に阻止することができる。冷凍機油の水分量は、より好ましくは200重量ppm以下、更に好ましくは150重量ppm以下、特に好ましくは100重量ppm以下である。
【0044】
冷凍機油の水分量は、例えば、冷凍機油の乾燥処理、冷凍機油の充填時における雰囲気の調整、冷凍機油の充填時に冷凍サイクルに施す真空引きの減圧度合(真空度等)、冷凍サイクル内への乾燥器・乾燥剤の設置等によって低減することができる。これらの水分量を低減する手段は、適宜、組み合わせて用いてもよい。冷凍機油の水分量は、例えば、冷媒と相溶している冷凍機油を冷凍サイクル内から採取して測定試料とし、カールフィッシャー式電量滴定法を用いて測定することができる。冷凍機油中の水分量(油中水分量)の測定は、JIS K 2275-3:2015「原油及び石油製品-水分の求め方-第3部:カールフィッシャー式電量滴定法」に準じて測定した。
【0045】
冷凍機油の全酸価は、初期封入時から試験終了時に至るまで0.1mgKOH/g以下となることが好ましい。全酸価とは、油1g中に含まれている全酸性成分を中和するのに要する水酸化カリウム(KOH)のミリグラム(mg)数であり、冷凍機油の劣化の指標となる。全酸価の測定方法はJIS K 2501で定められている。冷凍機油の全酸価の増加は、冷媒成分であるCF3Iの劣化が進行していることを意味する。0.1mgKOH/gを超えると劣化生成物の増加による冷凍サイクル内の腐食や圧縮機摺動部の潤滑不良などが発生する懸念がある。冷凍サイクル装置の冷凍機油は、添加剤として、潤滑性向上剤、酸化防止剤、安定剤、酸捕捉剤、消泡剤、金属不活性剤等を含むことができる。
【0046】
次に、本実施形態に係る冷凍サイクル装置で使用する電子膨張弁について説明する。冷凍サイクル装置に使用する電子膨張弁は、高温高圧の冷媒液を絞り膨張で低温低圧の冷媒液にする役割がある。また、電子膨張弁は、冷凍負荷に応じて冷媒流量を調整する役割もある。熱負荷が大きい場合、蒸発器内の冷媒液が不足する。このため圧縮機吸い込み蒸気の過熱度が過大となり、圧縮機の温度上昇による寿命低下の懸念がある。一方、熱負荷が小さい場合、蒸発器内の冷媒液が蒸気になり難い。圧縮機に未蒸発の液が流れ込むと、液圧縮による圧縮機の故障につながる。このため冷凍サイクル装置内の冷媒流量を調整する冷凍サイクル装置では、定圧膨張弁は不向きであり、温度式膨張弁や電子膨張弁が適している。また、ビル用マルチエアコンなどの冷媒封入量が多い冷凍サイクル装置には、キャピラリーチューブのような減圧器は適切ではない。
【0047】
前述したようにビル用マルチエアコンなどの冷凍サイクル装置は、冷凍負荷により冷媒流量を細かく調整する必要がある。このため、近年では温度式膨張弁よりも電子膨張弁が使用されることが多くなってきた。ビル用マルチエアコンなどの冷凍サイクル装置の室外膨張弁には、温度式電子膨張弁、直動式電子膨張弁、ギヤ式電子膨張弁が使用される。一方、室内熱交換器付近に設置する膨張弁は、静穏性が求められることから騒音が出難いギヤ式電子膨張弁の使用が好ましい。本実施形態の空気調和機100においては、室内膨張弁12a、12bは、ギヤ式電子膨張弁であるものとする。なお、室外膨張弁6は、ギヤ式電子膨張弁でもよく、これ以外の膨張弁でもよい。
【0048】
ギヤ式電子膨張弁のギヤ部には、ギヤ潤滑のためグリース(潤滑グリース)が用いられる。トリフルオロヨードメタン(CF3I)を含む混合冷媒は、グリースに対しての溶解性が非常に高い。このため、ギヤ部に付着しているグリースを洗い流してしまい、正常なギヤ動作が困難になる問題がある。グリースは、基油と増ちょう剤を分散させて半固体状にしたものであり、この組み合わせにより冷媒に対するグリースの溶解性が異なる。
【0049】
グリースの基油としては、炭化水素系基油が用いられる。具体的には、基油としては、高精製度パラフィンなどの鉱油系やポリαオレフィンなどの合成炭化水素油が好ましい。この基油に粘度指数向上剤として、ポリメタクリレート、オレフィンコポリマー、スチレンオレフィンコポリマー、ポリイソブチレンなどのポリマーが含まれるグリースを添加させるのが、冷媒との溶解性を低下させるためさらに好ましい。この粘度指数向上剤としてのポリマーの分子量は10000以上がさらに好ましい。
【0050】
ジエステル、ポリオールエステルなどのエステル系合成油やポリグリコール、ポリフェニルエーテルなどのエーテル系合成油、ポリジメチルシロキサンなどのシリコーン系合成油、パーフルオロポリエーテルなどのフッ素系合成油は、冷媒との溶解性が高い。このため、これらを基油として用いた場合には、ギヤ部からグリースが洗い流されやすい。したがって、こられを基油として用いるのは適切でない。
【0051】
一方、グリースの増ちょう剤としては、カルシウム石けん、リチウム石けん、アルミニウムコンプレックス石けん、リチウムコンプレックス石けんなどの石けん系グリースがある。また、増ちょう剤としては、ウレア系、ベントナイト系、PTFE(テフロン(登録商標))系などの非石けん系グリースがある。これらのうち、リチウムコンプレックス石けんやベントナイトを用いたグリースは、冷媒に対して洗い流され難い。したがって、増ちょう剤としては、リチウムコンプレックス石けんやベントナイトが好ましい。このように、潤滑グリースは、粘土系増ちょう剤を含むことが好ましい。なお、ベントナイトは、有機化ベントナイトが好ましい。また、ギヤ式電子膨張弁のギヤ材は樹脂製が多く、これら潤滑のためグリースは、固形潤滑剤として、カーボンや二硫化モリブデンを含むものが好ましい。
【0052】
以上のように、本実施形態に係る冷凍サイクル装置においては、冷媒として、HFC32/HFC125/トリフルオロヨードメタン(CF3I)の三成分を含む混合冷媒を用いる。また、冷凍機油として、全酸価が0.1mgKOH/g以下のポリオールエステル油を用い、ギヤ式電子膨張弁のギヤ部に混合冷媒と溶解性の低いグリースを用いる。これにより、ギヤ式電子膨張弁のギヤ部からグリースが流れるのを防ぐことができる。したがって、ギヤ式電子膨張弁のギヤ部の動作電圧の増加が抑制され、長期的にわたって冷凍サイクル内の膨張弁の動作不良を防止することができる。すなわち、長期信頼性の高い冷凍サイクル装置を得ることができる。特に、ビル用マルチエアコンでは、冷凍サイクル中には減圧器として電子膨張弁が数多く設置されている。これに対し、本実施形態に係る冷凍サイクル装置においては、グリースが洗い流されるのを防ぐことができるので、ギヤの動作不良を防ぐことができる。
【0053】
以上、実施形態に係る冷凍サイクル装置について説明したが、本発明は前記の実施形態に限定されるものではなく、技術的範囲を逸脱しない限り、様々な変形例が含まれる。例えば、前記の実施形態は、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。また、或る実施形態の構成の一部を他の構成に置き換えたり、或る実施形態の構成に他の構成を加えたりすることが可能である。また、或る実施形態の構成の一部について、他の構成の追加、構成の削除、構成の置換をすることも可能である。
【0054】
例えば、前記の実施形態では、冷凍サイクル装置の具体例として、ビル用マルチエアコンと冷凍機を示したが、本発明に係る冷凍サイクル装置は、1台の室内機を備えるルームエアコンやパッケージエアコンに適用してもよい。
【実施例1】
【0055】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
<試験1~17>
HFC32、HFC125及びトリフルオロヨードメタン(CF3I)を含む混合冷媒と、ギヤ部に塗布するグリースの溶解性を評価するため、オートクレーブを用いたグリース溶解性試験を行って評価した。
【0056】
ビル用マルチエアコンを想定し、冷媒として、HFC32とHFC125とCF3Iとの重量比が、HFC32:HFC125:CF3I=50:10:40重量%である混合冷媒を用いた。
【0057】
グリースには、基油と増ちょう剤との組み合わせが異なる種類のものを用いた。グリースの基油には、高精製度鉱油、ポリαオレフィン油、ポリオールエステル油、高精製度鉱油とポリオールエステル油との混合油、ポリグリコール油、シリコーン油、フッ素油を選んだ。また、グリースの増ちょう剤には、リチウム石けん、リチウムコンプレックス石けん、ウレア、有機化ベントナイト、PTFEを選んだ。
【0058】
(オートクレーブを用いたグリース溶解試験)
グリース溶解性試験は、
図3に示す方法で実施した。オートクレーブ200の中に、グリース220を載せた円錐金網202を挿入し、液冷媒210の環境下において試験前後のグリース重量変化から冷媒に対するグリースの溶解量を評価する方法で実施した。次の手順で試験を行った。はじめに、JIS K2220で使用されるグリース離油度試験用の円錐金網に5.0gのグリースを採取した。次に、洗浄したオートクレーブ(耐圧:最大20MPa、内容積:220mL)に、架台に載せたグリースを採取した円錐金網を挿入した後、ふたを閉め、系内を真空排気した。次に、オートクレーブ内に挿入した円錐金網が全て浸るように液冷媒140ml封入した。このオートクレーブを90℃、72時間で恒温槽に入れて加熱を行い、加熱後にオートクレーブ内の冷媒をゆっくりと開放し、オートクレーブ内からグリースの入った円錐金網を回収した。
【0059】
このグリースには冷媒が溶け込んでいるため、30分間の真空脱気を行い、冷媒を除去し、その後、小数点以下4桁の精度の天秤でグリースの重量を測定した。試験前から試験後のグリース重量の変化量を、冷媒に溶解したグリースの溶出量として算出した。表1に、HFC32、HFC125及びCF
3Iを含む混合冷媒に対するグリースの溶出量測定結果を示す。
【表1】
【0060】
表1に示すように、試験1~17は、各々基油と増ちょう剤が異なる組合せのグリースを用いている。この表1で示した溶出量が小さいほど冷媒に対するグリースの溶解性が低いことを示す。試験1~4の高精製度鉱油、試験5~8のポリαオレフィンを基油として用いたグリースは、冷媒に対する溶出量が小さい。この中でもリチウムコンプレックス石けんと有機化ベントナイトを増ちょう剤として用いたグリースはさらに冷媒に対する溶出量が小さくなった。一方、基油にポリオールエステル油、高精製度鉱油とポリオールエステル油との混合油、ポリグリコール油、シリコーン油、フッ素油を用いたグリースは、増ちょう剤の種類に関わらず冷媒に対する溶出量が大きくなった。
【0061】
<試験18~25>
さらに、試験1~4で冷媒に対するグリースの溶出量が小さかったものに、粘度指数向上剤として分子量10000以上のポリメタクリレートとオレフィンコポリマーを基油に配合したグリースを用いて、グリース溶解性試験を行った。この結果を表2に示す。
【表2】
【0062】
表2に示すように、粘度指数向上剤を基油に配合したグリースは、未配合のグリースと比較して、さらに冷媒に対する溶出量が小さくなることがわかった。
【0063】
以上の結果から、HFC32、HFC125及びトリフルオロヨードメタン(CF3I)を含む混合冷媒に対するグリースの溶出量が小さいグリース構成は、基油に高精製度油又はポリαオレフィン油を用い、増ちょう剤にリチウムコンプレックス石けん又は有機化ベントナイトを用いたものであることがわかった。したがって、このような構成のグリースを、ギヤ式電子膨張弁のギヤ部に使用するのが好ましい。さらには基油に粘度指数向上剤としてポリマーが配合されているグリースは、より冷媒に対する溶出量が小さく好ましいといえる。
【0064】
<実施例1>
図1に示した空気調和機100(冷凍サイクル装置)を用いて高速高負荷条件における3000時間の耐久試験を実施した。具体的には、室内膨張弁12aとしてのギヤ式電子膨張弁のギヤ部に、グリース溶解試験において、冷媒に対する溶出量が小さかった試験No.2(表1参照)の高精製度油とリチウムコンプレックス石けんのグリースを塗布して耐久試験を実施した。同様に、室内膨張弁12bとしてのギヤ式電子膨張弁のギヤ部に、グリース溶解試験において、冷媒に対する溶出量が小さかった試験No.21(表2参照)のポリメタクリレートが配合された高精製度鉱油と有機化ベントナイトのグリースを塗布して耐久試験を実施した。
【0065】
冷凍サイクル装置としては、スクロール式の密閉型電動圧縮機を搭載した装置であって、冷房能力が28kWのビル用マルチエアコン用の装置を用いた。圧縮機の回転速度は、6000min-1とした。モータの鉄心とコイルとの絶縁には、厚さが250μmの耐熱PETフィルム(B種、温度指数:130℃)を用いた。コイルには、ポリエステルイミド-アミドイミドのダブルコートを施した二重被覆銅線を用いた。
【0066】
冷媒としては、オートクレーブを用いたグリース溶解試験と同様に、HFC32:HFC125:R13I1(CF3I)=50:10:40の混合冷媒を用いた。冷媒は、冷凍サイクル内に8000gを封入した。冷凍機油としては、ポリオールエステル油を用い、圧縮機内に1500mL封入した。3000時間にわたって運転した冷凍サイクル装置の室内膨張弁12a、12bを回収した。その後、動作電圧のチェックを行い、その後、室内膨張弁12a、12bを解体し、樹脂ギヤ部のグリース残存状態を目視にて観察した。
【0067】
その結果、いずれのギヤ式電子膨張弁(室内膨張弁12a、12b)も、正常な動作電圧範囲内に収まっていた。また、樹脂ギヤ部においては、グリースの基油部が多少冷媒に洗い流されて若干硬化していたが、グリースの多くは残存していた。室内膨張弁12aのNo.2のグリースは、約7割残存していた。室内膨張弁12bのNo.21のグリースは、約8割残存していた。これらの割合は、充填時のグリースを10割とした場合の割合である。
【0068】
<比較例1>
実施例1の比較評価のため、比較例1では、室内膨張弁12aとしてのギヤ式電子膨張弁のギヤ部に、グリース溶解試験において、冷媒に対する溶出量が大きかった試験No.11(表1)のポリオールエステル油と有機化ベントナイトのグリースを塗布し、実施例1と同じ試験を実施した。そして、3000時間にわたって運転した冷凍サイクル装置の室内膨張弁12aを回収した。この結果、ギヤ式電子膨張弁(室内膨張弁12a)は、動作電圧が高くなり規格範囲外となっていた。また、冷媒に溶解し難い増ちょう剤の有機化ベントナイトが含まれているにもかかわらず、ギヤ部のグリース状態は、グリースの基油分が冷媒に洗い流されてかなり硬化しており、グリースが約2割しか残存していないことがわかった。
【0069】
以上の結果から、本実施形態に係る冷凍サイクル装置は、トリフルオロヨードメタン(CF3I)を含む、低GWP、且つ、不燃性の混合冷媒を用いつつ、長期的にギヤ式電子膨張弁を安定して動作させることができる。
【符号の説明】
【0070】
1 室外機
2a,2b 室内機
3 圧縮機
4 四方弁
5 室外熱交換器
6 室外膨張弁
7 レシーバタンク
8 乾燥器
9 アキュムレーター
10 室外送風機
11a,11b 室内熱交換器
12a,12b 室内膨張弁
13a,13b 室内送風機
20 ギヤ式電子膨張弁
21 マグネット
22 ギヤ
23 軸
24 弁
25 コイル
100 空気調和機
【要約】
【課題】トリフルオロヨードメタンを含む混合冷媒を用いつつ、長期信頼性の高い冷凍サイクル装置を提供することを目的とする。
【解決手段】冷媒が循環する冷凍サイクル装置であって、前記冷媒は、トリフルオロヨードメタンを含む混合冷媒であって、前記冷媒を減圧する減圧器として、ギヤ式電子膨張弁を備え、前記ギヤ式電子膨張弁の潤滑グリースに、炭化水素系基油が用いられる。
【選択図】
図1