(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】樹脂製容器に充填された銀塩含有眼科用水性組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7084 20060101AFI20220405BHJP
A61K 31/4704 20060101ALI20220405BHJP
A61K 31/436 20060101ALI20220405BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20220405BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20220405BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20220405BHJP
A61P 27/04 20060101ALI20220405BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20220405BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20220405BHJP
A61J 1/05 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
A61K31/7084
A61K31/4704
A61K31/436
A61K47/02
A61K9/08
A61K9/107
A61P27/04
A61P27/02
A61K47/32
A61J1/05 313B
(21)【出願番号】P 2021552932
(86)(22)【出願日】2021-02-26
(86)【国際出願番号】 JP2021007366
(87)【国際公開番号】W WO2021199814
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2021-09-06
(31)【優先権主張番号】P 2020062252
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000177634
【氏名又は名称】参天製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100158414
【氏名又は名称】秦野 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100191710
【氏名又は名称】馬渡 洋介
(72)【発明者】
【氏名】桃川 雄介
(72)【発明者】
【氏名】飯田 真希
(72)【発明者】
【氏名】浅田 博之
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 豊実
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-162648(JP,A)
【文献】特開2005-330276(JP,A)
【文献】特開2016-179960(JP,A)
【文献】国際公開第2020/059474(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/00
A61K 9/00
A61K 31/00
A61K 31/7084
A61K 45/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分および銀塩を含有する眼科用水性組成物であって、
低密度ポリエチレン製容器に充填され、前記
低密度ポリエチレン製容器がマルチドーズ型点眼容器であ
り、
有効成分が、レバミピド、ジクアホソル、シロリムスまたはそれらの塩であり、
銀塩の濃度が0.000004%(w/v)以上である、眼科用水性組成物。
【請求項2】
眼科用水性組成物中の銀塩の濃度が0.001%(w/v)以下である、請求項1に記載の眼科用水性組成物。
【請求項3】
眼科用水性組成物中の銀塩の濃度が0.00000
4~0.0003%(w/v)である、請求項1または2に記載の眼科用水性組成物。
【請求項4】
眼科用水性組成物中の銀塩の濃度が0.00001~0.0001%(w/v)である、請求項1または2に記載の眼科用水性組成物。
【請求項5】
眼科用水性組成物中の銀塩の濃度が0.00002~0.0001%(w/v)である、請求項1または2に記載の眼科用水性組成物。
【請求項6】
イオン性等張化剤をさらに含有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の眼科用水性組成物。
【請求項7】
点眼投与されることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の眼科用水性組成物。
【請求項8】
ソフトコンタクトレンズ装用眼に点眼投与されることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の眼科用水性組成物。
【請求項9】
銀塩が硝酸銀である、請求項1~8のいずれか1項に記載の眼科用水性組成物。
【請求項10】
シロリムスまたはその塩を除く有効成分を含有する、請求項
1に記載の眼科用水性組成物。
【請求項11】
レバミピド、ポリビニルピロリドンおよび硝酸銀を含有する眼科用水性組成物であって、
前記硝酸銀の濃度が0.000004%(w/v)以上であり、マルチドーズ型の
低密度ポリエチレン製点眼容器に充填された、眼科用水性組成物。
【請求項12】
ジクアホソルナトリウム、ポリビニルピロリドンおよび硝酸銀を含有する眼科用水性組成物であって、
前記硝酸銀の濃度が0.000004%(w/v)以上であり、マルチドーズ型の
低密度ポリエチレン製点眼容器に充填された、眼科用水性組成物。
【請求項13】
シロリムス、界面活性剤および硝酸銀を含有する眼科用水性組成物であって、
前記硝酸銀の濃度が0.000004%(w/v)以上であり、マルチドーズ型の
低密度ポリエチレン製点眼容器に充填された、眼科用水性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀塩を含有する眼科用水性組成物であって、ポリエステル系樹脂製容器またはポリプロピレンを除くポリオレフィン系樹脂製容器に充填される眼科用水性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
眼科用水性組成物は主に点眼投与されるため、眼科用水性組成物は1日に数回点眼されることも少なくなく、利便性の観点から、繰り返し点眼可能な容器、いわゆるマルチドーズ型の点眼容器に充填されることが好ましい。マルチドーズ型の点眼容器に充填される場合には、菌の汚染を防ぐため、防腐剤として、ベンザルコニウム塩化物を添加することが一般的である。
【0003】
しかしながら、ベンザルコニウム塩化物は高濃度で使用すると角膜障害を引き起こす可能性が知られている。また、ベンザルコニウム塩化物はソフトコンタクトレンズに吸着すること、ソフトコンタクトレンズを変形させることなどが知られている。このような不利益を避けるため、眼科疾患の治療には、防腐剤を一切含有しない眼科用水性組成物も使用されている。例えば、「ムコスタ(登録商標)点眼液UD2%」添付文書(非特許文献1)に記載されているとおり、「ムコスタ(登録商標)点眼液UD2%」には防腐剤が添加されていない。ただし、「ムコスタ(登録商標)点眼液UD2%」は1回使い切りであるので、前述したとおり利便性の観点では課題を残す。
【0004】
一方で、ベンザルコニウム塩化物よりも安全性の高い防腐剤を含有するマルチドーズ型の眼科用水性組成物も存在する。例えば、「ジクアス(登録商標)点眼液3%」添付文書(非特許文献2)に記載されているとおり、「ジクアス(登録商標)点眼液3%」については、防腐剤として、汎用されるベンザルコニウム塩化物ではなく、クロルヘキシジングルコン酸塩が添加されている。なお、特開2017-2036号公報(特許文献1)には、クロルヘキシジングルコン酸がソフトコンタクトレンズを変形させないことが記載されている。しかしながら、眼科用水性組成物に含有される有効成分や添加物の種類を問わず、常にベンザルコニウム塩化物に代えて、クロルヘキシジングルコン酸が使用できるのかは明らかではない。
【0005】
硝酸銀点眼液「ボンハッピー(登録商標)」添付文書(非特許文献3)には、新生児膿漏眼の治療のために硝酸銀点眼液が使用されることが記載されている。しかしながら、非特許文献3には、眼科用水性組成物の防腐剤として硝酸銀が利用できることは記載されていない。また、特表2016-507469号公報(特許文献2)には、ジフルプレドナートおよび抗菌性金属を含有するエマルション組成物が開示されており、抗菌性金属として銀塩が例示されている他、当該エマルション組成物を眼科用組成物とすることができることも記載されている。しかしながら、特許文献2には、前記組成物をどのような材質の容器に充填すれば良いのかについては、一切記載も示唆もされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-2036号公報
【文献】特表2016-507469号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】「ムコスタ(登録商標)点眼液UD2%」添付文書
【文献】「ジクアス(登録商標)点眼液3%」添付文書
【文献】硝酸銀点眼液「ボンハッピー(登録商標)」添付文書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、有効成分や添加物の種類を問わず、眼科用水性組成物に広く使用できる防腐剤/システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行なった結果、銀塩を含有する眼科用水性組成物であって、ポリエステル系樹脂製容器またはポリプロピレンを除くポリオレフィン系樹脂製容器に充填される眼科用水性組成物が、長期にわたり十分な保存効力を有することを見出し、本発明に至った。
【0010】
また、本発明者らは、銀塩がソフトコンタクトレンズ(SCL)を変形させないことから、本発明の眼科用水性組成物がSCL装用眼にも点眼投与可能なことをも見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、以下に関する。
(1)銀塩を含有する眼科用水性組成物であって、ポリエステル系樹脂製容器またはポリプロピレンを除くポリオレフィン系樹脂製容器に充填される、眼科用水性組成物(以下、「本眼科用水性組成物」ともいう)。
【0012】
(2)ポリエステル系樹脂がポリエチレンテレフタレートである、(1)に記載の眼科用水性組成物。
【0013】
(3)ポリオレフィン系樹脂がポリエチレンである、(1)に記載の眼科用水性組成物。
【0014】
(4)眼科用水性組成物中の銀塩の濃度が0.001%(w/v)以下である、(1)~(3)のいずれか1に記載の眼科用水性組成物。
【0015】
(5)眼科用水性組成物中の銀塩の濃度が0.000003~0.0003%(w/v)である、(1)~(4)のいずれか1に記載の眼科用水性組成物。
【0016】
(6)眼科用水性組成物中の銀塩の濃度が0.00001~0.0001%(w/v)である、(1)~(4)のいずれか1に記載の眼科用水性組成物。
【0017】
(7)眼科用水性組成物中の銀塩の濃度が0.00002~0.0001%(w/v)である、(1)~(4)のいずれか1に記載の眼科用水性組成物。
【0018】
(8)イオン性等張化剤をさらに含有する、(1)~(7)のいずれか1に記載の眼科用水性組成物。
【0019】
(9)前記ポリエステル系樹脂製容器または前記ポリオレフィン系樹脂製容器がマルチドーズ型点眼容器である、(1)~(8)のいずれか1に記載の眼科用水性組成物。
【0020】
(10)点眼投与されることを特徴とする、(1)~(9)のいずれか1に記載の眼科用水性組成物。
【0021】
(11)ソフトコンタクトレンズ装用眼に点眼投与されることを特徴とする、(1)~(10)のいずれか1に記載の眼科用水性組成物。
【0022】
(12)銀塩が硝酸銀である、(1)~(11)のいずれか1に記載の眼科用水性組成物。
【0023】
(13)有効成分を含有する、(1)~(12)のいずれか1に記載の眼科用水性組成物。
【0024】
(14)有効成分がレバミピド、ジクアホソルまたはそれらの塩である、(13)に記載の眼科用水性組成物。
【0025】
(15)有効成分がシロリムスまたはその塩である、(13)に記載の眼科用水性組成物。
【0026】
(16)シロリムスまたはその塩を除く有効成分を含有する、(13)に記載の眼科用水性組成物。
【0027】
(17)レバミピド、ポリビニルピロリドンおよび硝酸銀を含有する眼科用水性組成物であって、マルチドーズ型のポリエチレン製点眼容器に充填された、眼科用水性組成物。
【0028】
(18)ジクアホソルナトリウム、ポリビニルピロリドンおよび硝酸銀を含有する眼科用水性組成物であって、マルチドーズ型のポリエチレン製点眼容器に充填された、眼科用水性組成物。
【0029】
(19)シロリムス、界面活性剤および硝酸銀を含有する眼科用水性組成物であって、マルチドーズ型のポリエチレン製点眼容器に充填された、眼科用水性組成物。
【0030】
(20)0.00001~0.0001%(w/v)の硝酸銀を含有する眼科用水性組成物であって、マルチドーズ型のポリエチレンテレフタレート製点眼容器に充填された、眼科用水性組成物。
【0031】
(21)0.00002~0.0001%(w/v)の硝酸銀を含有する眼科用水性組成物であって、マルチドーズ型のポリエチレンテレフタレート製点眼容器に充填された、眼科用水性組成物。
【0032】
更に、本発明は、以下にも関する。
(22)銀塩を含有する眼科用防腐剤であって、ポリエステル系樹脂製容器またはポリプロピレンを除くポリオレフィン系樹脂製容器に充填される、眼科用防腐剤(以下、「本眼科用防腐剤」ともいう)。
【0033】
(23)眼科用水性組成物に日本薬局方の保存効力試験基準に適合する保存効力を付与する方法であって、該眼科用水性組成物に銀塩を添加するステップ、および該眼科用水性組成物をポリエステル系樹脂製容器またはポリプロピレンを除くポリオレフィン系樹脂製容器に充填するステップを含む、方法(以下、「本方法」ともいう)。
【発明の効果】
【0034】
本眼科用水性組成物は長期間にわたり十分な保存効力を有するため、マルチドーズ型の点眼剤とすることができる他、SCL装用眼にも点眼投与可能である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明において、銀塩とは、例えば、硝酸銀、硫酸銀、塩化銀、臭化銀、酸化銀、酢酸銀、炭酸銀、クエン酸銀、乳酸銀、リン酸銀、シュウ酸銀、チオ硫酸銀、プロテイン銀などが挙げられるが、好ましくは硝酸銀を意味する。
【0036】
本眼科用水性組成物に含有される銀塩の濃度は、好ましくは1%(w/v)以下であり、より好ましくは0.1%(w/v)以下であり、さらに好ましくは0.01%(w/v)以下であり、特に好ましくは0.001%(w/v)以下であり、最も好ましくは0.0001%(w/v)以下である。また、本眼科用水性組成物に含有される銀塩の濃度は、好ましくは0.0000001%(w/v)以上であり、より好ましくは0.000001%(w/v)以上であり、さらに好ましくは0.000003%(w/v)以上であり、0.00001%(w/v)以上とすることが最も好ましい。なお、本眼科用水性組成物に含有される有効成分、添加物等に影響を受けずに十分な保存効力を得る観点から、本眼科用水性組成物に含有される銀塩の濃度を0.00002%(w/v)以上とすることも好ましい。本眼科用水性組成物に含有される銀塩の濃度範囲は、好ましくは0.0000001~0.01%(w/v)であり、0.000001~0.001%(w/v)であることがより好ましく、0.000003~0.0003%(w/v)であることがさらに好ましく、0.00001~0.0001%(w/v)であることが最も好ましい。また、本眼科用水性組成物に含有される有効成分、添加物等に影響を受けずに十分な保存効力を得る観点からは、本眼科用水性組成物に含有される銀塩の濃度範囲は、好ましくは0.00002~0.01%(w/v)であり、0.00002~0.001%(w/v)であることがより好ましく、0.00002~0.0003%(w/v)であることがさらに好ましく、0.00002~0.0001%(w/v)であることが最も好ましい。
【0037】
本発明において、眼科用水性組成物とは、被験者の目に局所的に投与されることを意味し、例えば、点眼、眼局所注射により投与される水性組成物を意味する。好ましい眼科用水性組成物は、被験者の目に点眼投与される水性組成物であり、点眼剤とも言う。
【0038】
本発明において、水性組成物とは、水を基剤とする組成物を意味し、その性状は問わない。水性組成物には、水を基剤とする、溶液(水溶液)、懸濁液(水性懸濁液)、エマルションが含まれる。
【0039】
本発明において、「ポリエステル系樹脂製容器」とは、容器のうち少なくとも水性組成物と接する部分がポリエステル系樹脂製である容器を意味する。従って、例えば、眼科用水性組成物と接する内層にポリエステル系樹脂の層を設け、その外側に他の材質の樹脂などを積層などさせてなる容器も「ポリエステル系樹脂製容器」に該当する。ここで、ポリエステル系樹脂を構成するジカルボン酸、ジオールは特に限定されず、ジカルボン酸としては例えばフタル酸、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸などが挙げられ、ジオールとしては例えばエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールなどが挙げられる。また、単一種のポリエステル単位の重合体であっても、複数種のポリエステル単位の重合体であってもよい。また、複数種のポリエステル単位の重合体の場合には、その重合様式は特に限定されず、ランダム重合でもブロック重合でもよい。さらに、その立体規則性(タクティシティー)は特に限定されない。
【0040】
ポリエステル系樹脂の例としては、ポリアルキレンテレフタレート(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなど)、ポリアルキレンナフタレート(例えば、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレートなど)、ポリシクロアルキレンテレフタレート(例えば、ポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)など)、ポリアリレート(例えば、ビスフェノールとフタル酸で構成された樹脂など)などのホモポリエステルや、これらのホモポリエステル単位を主成分として含むコポリエステル、さらには前記ホモポリエステルの共重合体などが挙げられ、これらの1種または2種以上を組合わせて使用できる。
【0041】
本発明における最も好ましいポリエステル系樹脂は、ポリエチレンテレフタレートである。
【0042】
本発明において、ポリエステル系樹脂製とは、その材質の少なくとも一部にポリエステル系樹脂を含んでいることを意味し、例えば、ポリエステル系樹脂と他の樹脂との2種以上の樹脂の混合体(ポリマーアロイ)もポリエステル系樹脂製に含まれる。
【0043】
本発明において、「ポリオレフィン系樹脂製容器」とは、容器のうち少なくとも水性組成物と接する部分がポリオレフィン系樹脂製である容器を意味する。従って、例えば、眼科用水性組成物と接する内層にポリオレフィン系樹脂の層を設け、その外側に他の材質の樹脂などを積層などさせてなる容器も、「ポリオレフィン系樹脂製容器」に該当する。ここで、ポリオレフィン系樹脂は特に限定されず、単一種のモノマーの重合体(ホモポリマー)であっても、複数種のモノマーの共重合体(コポリマー)であってもよい。また、コポリマーである場合においては、その重合様式は特に限定されず、ランダム重合でもブロック重合でもよい。さらに、その立体規則性(タクティシティー)は特に限定されない。
【0044】
ポリオレフィン系樹脂の例としては、ポリエチレン、環状ポリオレフィン、ポリ(4-メチルペンテン)、ポリテトラフルオロエチレン、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・α-オレフィン共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・メタクリル酸共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・アクリル酸エチル共重合体などが挙げられ、これらの1種または2種以上を組合わせて使用できる。さらに、前記ポリエチレンの具体例として、低密度ポリエチレン(直鎖状低密度ポリエチレンを含む)、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレンなどが挙げられる。
【0045】
本発明における最も好ましいポリオレフィン系樹脂は、ポリエチレンであり、低密度ポリエチレンまたは高密度ポリエチレンが好ましい。なお、一般に、ポリプロピレンはポリオレフィン系樹脂の一種であるが、本眼科用水性組成物をポリプロピレン製容器に充填すると、銀塩が容器に吸着し、十分な保存効力が担保できなくなるため、本眼科用水性組成物が充填される樹脂製容器の材料としてポリプロピレンは除外されるものとする。
【0046】
本発明において、「ポリオレフィン系樹脂製」とは、その材質の少なくとも一部にポリオレフィン系樹脂を含んでいることを意味し、例えば、ポリオレフィン系樹脂と他の樹脂との2種以上の樹脂の混合体(ポリマーアロイ)も「ポリオレフィン系樹脂製」に含まれる。
【0047】
本発明において、樹脂製容器は好ましくは点眼容器であり、特に、開栓、閉栓を行うことで、充填された水性組成物を繰り返し点眼できる、いわゆる、マルチドーズ型の点眼容器が最も好ましい。
【0048】
ソフトコンタクトレンズ(SCL)は、平成11年3月31日医薬審第645号「ソフトコンタクトレンズおよびソフトコンタクトレンズ用消毒剤の製造(輸入)承認申請に際し添付すべき資料の取扱い等について」に従い、4つに分類される。すなわち、グループI(含水率が50%未満で非イオン性であるもの)、グループII(含水率が50%以上で非イオン性であるもの)、グループIII(含水率が50%未満でイオン性であるもの)、グループIV(含水率が50%以上でイオン性であるもの)に分類され、原材料ポリマーの構成モノマーのうち陰イオンを有するモノマーのモル%が1%以上であるものをイオン性、1%未満であるものを非イオン性とされる。また、ソフトコンタクトレンズとしては、例えば、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、(ポリエチレングリコール)モノメタクリレート(PEGMA)、グリセロールメタクリレート(GMA)、N,N-ジメチルアクリルアミド(DMA)、ビニルアルコール(VA)、N-ビニルピロリドン(NVPまたはVP)、メタクリル酸(MAA)、フッ素系含有メタクリレート系化合物、ケイ素含有メタクリレート系化合物、シリコーンハイドロゲル、シクロアルキルメタクリレートなどを主成分とするソフトコンタクトレンズなどが挙げられる。
【0049】
本発明において、「ソフトコンタクトレンズ装用眼に点眼投与される」とは、ソフトコンタクトレンズを装用した状態で本眼科用水性組成物を点眼投与できることを意味する。
【0050】
後述するように、本眼科用水性組成物については、添加する銀塩の濃度を低下させた場合、ポリオレフィン系樹脂樹脂にも吸着することがあるため、これを抑制する目的でイオン性等張化剤を添加することができる。
【0051】
本眼科用水性組成物に添加するイオン性等張化剤の添加量は、本眼科用水性組成物を等張化する量であれば特に制限はないが、例えば、0.1~0.9%(w/v)のイオン性等張化剤を本眼科用水性組成物に添加することができる。
【0052】
本発明において、「イオン性等張化剤」の例としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムなどが挙げられる。
【0053】
また、本眼科用水性組成物にはポリビニルピロリドンを添加することができる。なお、ポリビニルピロリドンとは、N-ビニル-2-ピロリドンが重合した高分子化合物を意味し、ポビドンとも呼ばれる。
【0054】
本眼科用水性組成物に含有されるポリビニルピロリドンのK値は17以上であることが好ましいが、17~120であることがより好ましく、25~120であることがさらに好ましく、30~120が特に好ましい。
【0055】
本発明において、「ポリビニルピロリドン」の例としては、ポリビニルピロリドンK15(PVP K15)、ポリビニルピロリドンK17(PVP K17)、ポリビニルピロリドンK25(PVP K25)、ポリビニルピロリドンK30(PVP K30)、ポリビニルピロリドンK40(PVP K40)、ポリビニルピロリドンK50(PVP K50)、ポリビニルピロリドンK60(PVP K60)、ポリビニルピロリドンK70(PVP K70)、ポリビニルピロリドンK80(PVP K80)、ポリビニルピロリドンK85(PVP K85)、ポリビニルピロリドンK90(PVP K90)、ポリビニルピロリドンK120(PVP K120)などが挙げられる。
【0056】
なお、ポリビニルピロリドンのK値は、分子量と相関する粘性特性値で、毛細管粘度計により測定される相対粘度値(25℃)を下記のFikentscherの式(1)に適用して計算される数値である。
【0057】
【0058】
式(1)中、ηrelは、ポリビニルピロリドン水溶液の水に対する相対粘度、cは、ポリビニルピロリドン水溶液中のポリビニルピロリドン濃度(%)である。
【0059】
ここで、K値は、第十七改正日本薬局方「ポビドン」のK値に関する記載に準じて、表示K値の90~108%であることから、例えば、「K30」とは、上記の式(1)を適用して算出される粘性特性値(K値)が27~32.4の範囲にあることをいい、「K90」とは、上記の式(1)を適用して算出される粘性特性値(K値)が81~97.2の範囲にあるものをいう。
【0060】
本眼科用水性組成物に含有されるポリビニルピロリドンは1種単独でもよく、またK値の異なる2種以上のポリビニルピロリドンを任意に組み合わせて使用してもよい。
【0061】
また、本眼科用水性組成物に含有される有効成分の分散性および再分散性を維持し、凝集を抑制するために、本眼科用水性組成物には界面活性化剤を配合することができる。
【0062】
本眼科用水性組成物には、医薬品の添加剤として使用可能な界面活性化剤を適宜配合することができ、例えば、カチオン性界面活性化剤、アニオン性界面活性化剤、両性界面活性化剤、非イオン性界面活性化剤などが挙げられ、これらの水和物または溶媒和物であってもよい。
【0063】
本発明において、「カチオン性界面活性化剤」としては、アルキルアミン塩、アルキルアミンポリオキシエチレン付加物、脂肪酸トリエタノールアミンモノエステル塩、アシルアミノエチルジエチルアミン塩、脂肪酸ポリアミン縮合物、アルキルイミダゾリン、1-アシルアミノエチル-2-アルキルイミダゾリン、1-ヒドロキシルエチル-2-アルキルイミダゾリンなどのアミン塩;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジンなどのアンモニウム塩などが挙げられる。
【0064】
本発明において、「アニオン性界面活性化剤」としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、α-スルホ脂肪酸エステル塩などのスルホン酸塩;アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩などの硫酸エステル塩;ポリオキシエチレンセチルエーテルリン酸ナトリウムなどのリン酸塩などが挙げられる。
【0065】
本発明において、「非イオン性界面活性化剤」としては、ステアリン酸ポリオキシル40などのポリオキシエチレン脂肪酸エステル;ポリソルベート80、ポリソルベート60、ポリソルベート40、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレート、ポリソルベート65などのポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油10、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油50、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60などのポリオキシエチレン硬化ヒマシ油;ポリオキシル5ヒマシ油、ポリオキシル9ヒマシ油、ポリオキシル15ヒマシ油、ポリオキシル35ヒマシ油、ポリオキシル40ヒマシ油などのポリオキシルヒマシ油;ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール、ポリオキシエチレン(42)ポリオキシプロピレン(67)グリコール、ポリオキシエチレン(54)ポリオキシプロピレン(39)グリコール、ポリオキシエチレン(196)ポリオキシプロピレン(67)グリコール、ポリオキシエチレン(20)ポリオキシプロピレン(20)グリコールなどのポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール;ショ糖ステアリン酸エステルなどのショ糖脂肪酸エステル;トコフェロールポリエチレングリコール1000コハク酸エステル(ビタミンE TPGS)などが挙げられる。
【0066】
本眼科用水性組成物には、イオン性等張化剤、ポリビニルピロリドン、界面活性剤以外の添加剤を添加することもできる。例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ソルビトール、マンニトール、トレハロース、マルトース、スクロースなどの非イオン性等張化剤;リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸水素ナトリウム水和物、リン酸二水素ナトリウム、クエン酸ナトリウム水和物、酢酸ナトリウム、イプシロン-アミノカプロン酸などの緩衝化剤;エデト酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム水和物などの安定化剤;アスコルビン酸などの抗酸化剤;カルボキシルビニルポリマー、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロース)などの粘稠化剤(増粘剤ともいう);塩酸、水酸化ナトリウムなどのpH調節剤などから必要に応じて選択して用い、調製することができ、pHは眼科製剤に許容される範囲内にあればよいが、通常4~8の範囲内が好ましい。
【0067】
本眼科用水性組成物には、有効成分を含有させることができる。本眼科用水性組成物に含有される有効成分(以下、単に「本有効成分」ともいう)の例としては、ドライアイ・角膜疾患治療薬、抗アレルギー薬、ステロイド系抗炎症薬、非ステロイド性抗炎症薬、眼圧下降薬、抗ウイルス薬、抗菌薬などが挙げられる。
【0068】
ドライアイ・角膜疾患治療薬の具体例としては、ジクアホソル、レバミピドまたはそれらの塩が挙げられる。
【0069】
ドライアイ・角膜疾患治療薬のその他の具体例としては、シクロスポリン、lifitegrastまたはそれらの塩が挙げられる。
【0070】
抗アレルギー薬の具体例としては、オロパタジン、レボカバスチン、ケトチフェンまたはそれらの塩が挙げられる。
【0071】
ステロイド系抗炎症薬の具体例としては、フルオロメトロン、ハイドロコルチゾン、トリアムシノロン、フルオシノロン、デキサメタゾン、ベタメタゾンまたはそれらの塩が挙げられる。
【0072】
非ステロイド性抗炎症薬の具体例としては、インドメタシン、ブロムフェナク、ジクロフェナクオロパタジン、レボカバスチン、ケトチフェンまたはそれらの塩が挙げられる。
【0073】
眼圧下降薬の具体例としては、ブリモニジン、ドルゾラミド、ブリンゾラミド、チモロール、カルテオロール、ビマトプロスト、ラタノプロスト、トラボプロスト、リパスジルまたはそれらの塩が挙げられる。
【0074】
抗ウイルス薬の具体例としては、アシクロビルまたはその塩が挙げられる。
抗菌薬の具体例としては、ガチフロキサシン、モキシフロキサシン、トスフロキサシンまたはそれらの塩が挙げられる。
【0075】
本有効成分であって、上記に列挙されたもの以外の例としては、シロリムスまたはその塩などが挙げられる。
【0076】
本有効成分として好ましいのは、ジクアホソル、レバミピド、シロリムスまたはそれらの塩であり、ジクアホソルナトリウム、レバミピド(フリー体)、シロリムス(フリー体)が特に好ましい。
【0077】
本発明に用いられるジクアホソルは下記式で表される化合物である。
【0078】
【0079】
本発明に用いられる、レバミピドは下記式で示される化合物である。
【0080】
【0081】
本発明に用いられる、シロリムスは下記式で示される化合物である。
【0082】
【0083】
本有効成分の塩としては、医薬として許容される塩であれば特に制限はなく、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸などの無機酸との塩、酢酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、クエン酸、酒石酸、アジピン酸、グルコン酸、グルコヘプト酸、グルクロン酸、テレフタル酸、メタンスルホン酸、乳酸、馬尿酸、1,2-エタンジスルホン酸、イセチオン酸、ラクトビオン酸、オレイン酸、パモ酸、ポリガラクツロン酸、ステアリン酸、タンニン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、硫酸ラウリルエステル、硫酸メチル、ナフタレンスルホン酸、スルホサリチル酸などの有機酸との塩;臭化メチル、ヨウ化メチルなどとの四級アンモニウム塩;臭素イオン、塩素イオン、ヨウ素イオンなどのハロゲンイオンとの塩;リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属との塩;カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属との塩;鉄、亜鉛などとの金属塩;アンモニアとの塩;トリエチレンジアミン、2-アミノエタノール、2,2-イミノビス(エタノール)、1-デオキシ-1-(メチルアミノ)-2-D-ソルビトール、2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)-1,3-プロパンジオール、プロカイン、N,N-ビス(フェニルメチル)-1,2-エタンジアミンなどの有機アミンとの塩などが挙げられる。
【0084】
本発明において、本有効成分の水和物などの溶媒和物は、本有効成分の塩に含まれる。
本発明において、本有効成分またはそれらの塩に幾何異性体または光学異性体が存在する場合は、当該異性体またはそれらの塩も本発明の範囲に含まれる。また、本有効成分またはそれらの塩にプロトン互変異性が存在する場合には、当該互変異性体またはそれらの塩も本発明の範囲に含まれる。
【0085】
本発明において、本有効成分またはそれらの塩に結晶多形および結晶多形群(結晶多形システム)が存在する場合には、それらの結晶多形体および結晶多形群(結晶多形システム)も本発明の範囲に含まれる。ここで、結晶多形群(結晶多形システム)とは、それら結晶の製造、晶出、保存などの条件および状態(なお、本状態には製剤化した状態も含む)により、結晶形が変化する場合の各段階における個々の結晶形およびその過程全体を意味する。
【0086】
本発明において、「ジクアホソルまたはその塩」として好ましいのは、下記式で示されるジクアホソルの四ナトリウム塩(以下、単に「ジクアホソルナトリウム」ともいう)である。
【0087】
【0088】
本発明において、「レバミピドまたはその塩」として好ましいのは、レバミピド(フリー体)である。
【0089】
本発明において、「シロリムスまたはその塩」として好ましいのは、シロリムス(フリー体)である。
【0090】
本有効成分がジクアホソルナトリウムの場合、点眼回数を低減する目的で、ポリビニルピロリドンを本眼科用水性組成物に添加することができる。この場合のポリビニルピロリドンの好ましいK値は60~120であるが、60~90であることがより好ましく、90であることが特に好ましい。したがって、本有効成分がジクアホソルナトリウムの場合、本眼科用水性組成物にポリビニルピロリドンK60、ポリビニルピロリドンK70、ポリビニルピロリドンK80、ポリビニルピロリドンK85、ポリビニルピロリドンK90またはポリビニルピロリドンK120を添加することが好ましく、ポリビニルピロリドンK90を添加することが特に好ましい。
【0091】
本有効成分がジクアホソルナトリウムの場合、本眼科用水性組成物に添加されるポリビニルピロリドンの濃度は、0.1~10%(w/v)であることが好ましく、0.1~5%(w/v)であることがより好ましく、1~5%(w/v)であることがさらに好ましい。
【0092】
すなわち、本有効成分がジクアホソルナトリウムの場合、本眼科用水性組成物は、ジクアホソルナトリウム、ポリビニルピロリドンおよび硝酸銀を含有する眼科用水性組成物であって、マルチドーズ型のポリエチレン製点眼容器に充填された、眼科用水性組成物とすることができる。
【0093】
前述したとおり、本眼科用水性組成物には、種々の添加剤を添加することができるが、本有効成分がジクアホソルナトリウムの場合、ポリビニルピロリドンに加えて、塩化ナトリウムなどのイオン性等張化剤、リン酸水素ナトリウム水和物などの緩衝化剤、エデト酸ナトリウム水和物などの安定化剤、pH調節剤などを本眼科用水性組成物に添加することが好ましい。
【0094】
本有効成分がレバミピドの場合、ポリビニルピロリドンを本眼科用水性組成物に添加することで、本眼科用水性組成物に含有されるレバミピドの平均粒子径(D50)を、好ましくは0.01~10μm、より好ましくは0.05~5μm、さらに好ましくは0.1~3μm、特に好ましくは0.5~1μmとすることができる。この場合のポリビニルピロリドンの好ましいK値は17~90であるが、17~60であることがより好ましく、30であることが特に好ましい。したがって、本有効成分がレバミピドの場合、本眼科用水性組成物にポリビニルピロリドンK30、ポリビニルピロリドンK40、ポリビニルピロリドンK50、ポリビニルピロリドンK60を添加することが好ましく、ポリビニルピロリドンK30を添加することが特に好ましい。
【0095】
本有効成分がレバミピドの場合、本眼科用水性組成物に添加されるポリビニルピロリドンの濃度は0.1~2%(w/v)であることが好ましく、0.5~2%(w/v)であることがより好ましく、1~2%(w/v)であることがさらに好ましく、2%(w/v)であることが最も好ましい。
【0096】
すなわち、本有効成分がレバミピドの場合、本眼科用水性組成物は、レバミピド、ポリビニルピロリドンおよび硝酸銀を含有する眼科用水性組成物であって、マルチドーズ型のポリエチレン製点眼容器に充填された、眼科用水性組成物とすることができる。
【0097】
また、本有効成分がレバミピドの場合、本眼科用水性組成物の粘度を向上させる目的で、カルボキシルビニルポリマーを添加することができる。この場合におけるカルボキシルビニルポリマーの濃度は、0.01~1%(w/v)であることが好ましく、0.03~0.5%(w/v)であることがより好ましく、0.05~0.3%(w/v)であることがさらに好ましく、0.05~0.2%(w/v)であることが最も好ましい。
【0098】
前述したとおり、本眼科用水性組成物には、種々の添加剤を添加することができるが、本有効成分がレバミピドの場合、ポリビニルピロリドンおよびカルボキシルビニルポリマーに加えて、塩化ナトリウム、塩化カリウムなどのイオン性等張化剤、クエン酸ナトリウム水和物などの緩衝化剤、pH調節剤などを本眼科用水性組成物に添加することが好ましい。
【0099】
本有効成分がシロリムスの場合、前述の界面活性剤を本眼科用水性組成物に添加することができる。本眼科用水性組成物に添加される界面活性化剤として好ましいのは、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシルヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ステアリン酸ポリオキシル40、ポリソルベート80、ポリオキシル35ヒマシ油、ポリオキシエチレンセチルエーテルリン酸ナトリウムからなる群より選択される1以上の界面活性剤であるが、ポリソルベート80であることが特に好ましい。
【0100】
本有効成分がシロリムスの場合、本眼科用水性組成物に添加される界面活性剤の濃度は0.0001~5%(w/v)が好ましく、0.001~2%(w/v)がより好ましく、0.001~1%(w/v)がより好ましく、0.002~1%(w/v)がより好ましく、0.005~1%(w/v)がより好ましく、0.005~0.5%(w/v)がより好ましく、0.01~1%(w/v)がより好ましく、0.01~0.5%(w/v)がさらに好ましく、0.01~0.1%(w/v)が特に好ましい。
【0101】
また、本有効成分がシロリムスの場合、本眼科用水性組成物のpHは、医薬品として許容される範囲内にあればよいが、本眼科用水性組成物の安定性の観点から、5付近が好ましい。具体的には、本有効成分がシロリムスの場合、本眼科用水性組成物のpHは4~6であること好ましく、4.0~6.0であることがより好ましく、4.1~5.9であることがより好ましく、4.5~5.5であることがより好ましく、4.7~5.3がさらに好ましく、5.0であることが特に好ましい。
【0102】
すなわち、本有効成分がシロリムスの場合、本眼科用水性組成物は、シロリムス、界面活性剤および硝酸銀を含有する眼科用水性組成物であって、マルチドーズ型のポリエチレン製点眼容器に充填された、pHが4~6の眼科用水性組成物とすることができる。
【0103】
さらに、本眼科用水性組成物に含有されるシロリムスの平均粒子径(D50)は0.001~45μmであり、好ましくは0.001~15μmであり、より好ましくは0.001~10μmであり、より好ましくは0.001~8μmであり、より好ましくは0.001~5μmであり、より好ましくは0.001~2.5μmであり、より好ましくは0.001~1μmであり、より好ましくは0.01~0.5μmであり、さらに好ましくは0.1~1μmである。前記平均粒子径は0.01~0.3μmとすることが特に好ましい。
【0104】
本有効成分がシロリムスの場合、本眼科用水性組成物にはさらに分散剤を添加することができる。分散剤の例としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、カルボキシメチルエチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース等のセルロース系高分子;ポリビニルピロリドン;ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール等の多価アルコール;カルボキシビニルポリマー;ヒアルロン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸等のムコ多糖類等が挙げられ、これらの水和物または溶媒和物であってもよい。
【0105】
前述したとおり、本眼科用水性組成物には、種々の添加剤を添加することができるが、本有効成分がシロリムスの場合、界面活性剤および分散剤に加えて、塩化ナトリウム、塩化カリウムなどのイオン性等張化剤、エデト酸ナトリウム水和物などの安定化剤、クエン酸ナトリウム水和物などの緩衝化剤、pH調節剤などを本眼科用水性組成物に添加することが好ましい。
【0106】
本眼科用水性組成物は、有効成分(シロリムスまたはその塩を除く)および銀塩を含有する眼科用水性組成物であって、ポリエステル系樹脂製容器またはポリプロピレンを除くポリオレフィン系樹脂製容器に充填される、眼科用水性組成物とすることもできる。
【0107】
本眼科用水性組成物において説明された上述の語句の定義、好ましい例、好ましい数値範囲等は、本眼科用防腐剤および本方法にも適用される。
【0108】
また本方法において、「日本薬局方の保存効力試験基準に適合する保存効力を付与する」とは、対象となる組成物を用いて第十七改正日本薬局方の保存効力試験法に準拠して行なった際に、当該組成物が日本薬局方の保存効力試験基準に適合する保存効力を有していることをいう。
【0109】
以下に、本眼科用水性組成物を用いて行った試験の結果および製剤例を示すが、これらの例は本発明をよりよく理解するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0110】
[試験1]
ジクアホソルナトリウム含有水溶液に種々の濃度の硝酸銀を添加した場合における当該水溶液の保存効力について検討を行った。
【0111】
(試料調製方法)
処方1-1:表1に示す処方に従って、処方1-1を調製した。具体的には、ジクアホソルナトリウム(3g)、硝酸銀(0.00008g)、リン酸水素ナトリウム水和物(0.2g)、エデト酸ナトリウム水和物(0.01g)、ポリビニルピロリドンK30(PVP K30)(2g)、濃グリセリン(1.2g)、ヒドロキシエチルセルロース(0.25g)を滅菌精製水に溶解して100mLとし、pH調節剤を添加して、pH7.5とした。
【0112】
処方1-2~1-5:表1に示す処方に従って、処方1-1と同様にして処方1-2~1-5を調製した。
【0113】
【0114】
(試験方法)
保存効力試験は、第十七改正日本薬局方の保存効力試験法に準拠して行なった。本試験では、試験菌として、Esherichia Coli(E.coli)、Pseudomonas aeruginosa(P.aeruginosa)、Staphylococcus aureus(S.aureus)、Candida albicans(C.albicans)およびAspergillus brasiliensis(A.brasiliensis)を用いた。
【0115】
(結果)
試験結果を表2に示す。処方1-1~1-5は日本薬局方の保存効力試験基準に適合することが示された。なお、表8の試験結果は検査時の生菌数が接種した菌数に比べてどの程度減少したかをlog reductionで示しており、たとえば「1」の場合には、検査時の生菌数が接種菌数の10%に減少したことを示している。
【0116】
【0117】
(考察)
水性点眼液を調製するにあたり、硝酸銀などの銀塩は、ベンザルコニウム塩化物、クロルヘキシジングルコン酸塩などの既存の防腐剤に代わる新たな防腐剤となることが明らかとなった。
【0118】
[試験2]
レバミピド含有水性懸濁液に種々の濃度の硝酸銀を添加した場合における当該懸濁液の保存効力について検討を行った。また、保存期間中に当該懸濁液中の硝酸銀濃度に変動が生じるか否かについても併せて検討を行った。
【0119】
(試料調製方法)
処方2-1:表3に示す処方に従って、処方2-1を調製した。具体的には、クエン酸ナトリウム水和物0.146g、塩化ナトリウム0.65g、塩化カリウム0.18g、ポリビニルピロリドンK30 2g、カルボキシビニルポリマー(CARBOPOL(登録商標)971PNF)0.11g、硝酸銀0.00004gを水に溶かし、レバミピド2.0gを加えて攪拌懸濁し、pH5.9とし、水を加えて100mLとした。
【0120】
処方2-2~2~3:表3に示す処方に従って、処方2-1と同様にして調製した。
【0121】
【0122】
(試験方法)
<保存効力試験>
保存効力試験は、第十七改正日本薬局方の保存効力試験法に準拠して行なった。本試験では、試験菌として、Esherichia Coli(E.coli)、Pseudomonas aeruginosa(P.aeruginosa)、Staphylococcus aureus(S.aureus)、Candida albicans(C.albicans)およびAspergillus braziliensis(A.braziliensis)を用いた。
【0123】
<安定性試験>
処方2-1および処方2-3を低密度ポリエチレン(LDPE)製点眼容器に5mL入れ、40℃で3ヵ月または、光120万lx・hrで保存した。保存前後の薬液中の硝酸銀の含量を「日局 誘導結合プラズマ質量分析法」により測定した。
【0124】
(試験結果)
試験結果を表4および表5に示す。処方2-1~2-3は日本薬局方の保存効力試験基準に適合することが示された。また、保存期間中にレバミピド含有水性懸濁液中の硝酸銀濃度の変動は認められなかった。
【0125】
【0126】
【0127】
(考察)
水性懸濁点眼液においても、硝酸銀などの銀塩はベンザルコニウム塩化物、クロルヘキシジングルコン酸塩などの既存の防腐剤に代わる新たな防腐剤となることが明らかとなった。すなわち、硝酸銀などの銀塩は、水性点眼液、水性懸濁点眼液のいずれにおいても、防腐剤として使用可能であることが示された。
【0128】
また、硝酸銀などの銀塩は、レバミピド含有水性懸濁液中で安定であることも明らかとなった。
【0129】
[試験3]
ジクアホソルナトリウム含有水性点眼液中における硝酸銀とクロルヘキシジングルコン酸塩の安定性を比較した。
【0130】
(試料調製方法)
処方3-1:表3に示す処方に従って、処方3-1を調製した。具体的には、ジクアホソルナトリウム(3g)、硝酸銀(0.00008g)、PVP K30(2g)、ヒドロキシエチルセルロース(0.25g)、リン酸水素ナトリウム水和物(0.2g)、エデト酸ナトリウム水和物(0.01g)、塩化ナトリウム(0.45g)を水に溶解して100mLとし、pH調節剤(q.s.)を添加して、pH7.5とした。
【0131】
比較処方3-1~3-4:表6に示す処方に従って、処方3-1と同様にして比較処方3-1~3-4を調製した。
【0132】
【0133】
(試験方法)
処方3-1を60℃で4週間保存した際の銀イオンの含有量を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)を用いて定量し、その残存率(%)を算出した。また、比較処方3-1および3-2を60℃で4週間保存したときのクロルヘキシジングルコン酸塩の含有量を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて定量し、その残存率(%)を算出した。さらに、比較処方3-3および3-4を60℃で2週間保存したときの、クロルヘキシジングルコン酸塩の含有量を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて定量し、その残存率(%)を算出した。
【0134】
(試験結果)
試験結果を表7に示す。有効成分としてジクアホソルナトリウム、添加物としてPVP K30などを含有する処方3-1において、銀イオンの含有量に変化は認められなかった。一方で、有効成分としてジクアホソルナトリウム、添加物としてPVP K30またはPVP K90などを含有する比較処方3-2~3-4においては、クロルヘキシジングルコン酸塩の含有量の低下が認められた。
【0135】
【0136】
(考察)
背景技術の項で説明されたように、クロルヘキシジングルコン酸塩は、ベンザルコニウム塩化物よりも安全な防腐剤として眼科用水性組成物に使用されているが、使用される有効成分や添加物の種類によっては組成物中で不安定化されることが示された。一方で、硝酸銀などの銀塩はジクアホソルナトリウム含有水性点眼液中で高い安定性を示したことから、使用される有効成分、添加物、点眼液の性状などに依存することなく、広く使用可能で且つ安定な防腐剤であることが示された。
【0137】
[試験4]
レバミピド含有水性点眼液中におけるクロルヘキシジングルコン酸塩の安定性を検討した。
【0138】
(試料調製方法)
比較処方4-1:市販の「ムコスタ(登録商標)点眼液UD2%」を使用した。
【0139】
比較処方4-2:表8に示す処方に従って、比較処方4-2を調製した。具体的には、クエン酸ナトリウム水和物0.15g、塩化ナトリウム0.72g、塩化カリウム0.18g、ポリビニルアルコール部分けん化物1g、クロルヘキシジングルコン酸塩0.01gを水に溶かし、レバミピド2gを加えて攪拌懸濁し、pH6.0とし、水を加えて100mLとした。
【0140】
比較処方4-3:表8に示す処方に従って、比較処方4-2と同様にして調製した。
(試験方法)
保存効力試験は、第十七改正日本薬局方の保存効力試験法に準拠して行なった。本試験では、試験菌として、Esherichia Coli(E.coli)、Pseudomonas aeruginosa(P.aeruginosa)、Staphylococcus aureus(S.aureus)、Candida albicans(C.albicans)およびAspergillus braziliensis(A.braziliensis)の全てまたは一部を用いた。なお、クロルヘキシジングルコン酸塩の含量は、「日局 高速液体クロマトグラフィー法」により測定した。
【0141】
(結果)
測定結果を表8に示す。比較処方4-1~4-3は保存効力試験に適合しなかった。
【0142】
【0143】
(考察)
背景技術の項で説明されたように、クロルヘキシジングルコン酸塩は、ベンザルコニウム塩化物よりも安全な防腐剤として眼科用水性組成物に使用されているが、使用される有効成分や添加物の種類によっては配合変化を起こし、十分な保存効力を発揮できないことが示唆された。一方、試験2で説明したとおり、硝酸銀等の銀塩はレバミピド含有含有水性点眼液中で配合変化などは認められず、使用される有効成分、添加物、点眼液の性状などに依存することなく、広く使用可能で且つ安定な防腐剤であることが示された。
【0144】
[試験5]
硝酸銀がソフトコンタクトレンズ(SCL)に及ぼす影響を検討した。
【0145】
(試料調製方法)
処方5-1:表9に示す処方に従って、処方5-1を調製した。具体的には、硝酸銀(0.0004g)、リン酸水素ナトリウム水和物(0.2g)、塩化ナトリウム(0.9g)を水に溶解して100mLとし、pH調節剤(q.s.)を添加して、pH7.0とした。
【0146】
比較処方5-1~5-4:表9に示す処方に従って、処方5-1と同様にして比較処方5-1~5-4を調製した。
【0147】
【0148】
(試験方法)
各被験製剤中にソフトコンタクトレンズを室温で30分間浸漬し、取り出した。ソフトコンタクトレンズの直径およびベースカーブを測定した。なお、使用したソフトコンタクトレンズはグループIVに分類される2ウィークアキュビュー(登録商標)(ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社)である。
【0149】
なお、直径変形量およびベースカーブ変形量は以下の計算式より算出した。
直径変形量(mm)=(浸漬後の直径)-(浸漬前の直径)
ベースカーブ変形量(mm)=(浸漬後のベースカーブ)-(浸漬前のベースカーブ)
(試験結果)
試験結果を表10に示す。
【0150】
【0151】
(考察)
SCLを変形させることなどが知られているベンザルコニウム塩化物については、本試験においても、他の防腐剤と比較してSCLを変形させる傾向があることが確認された。一方、硝酸銀含有処方ではSCLの変形がほぼ認められず、SCLを変形させないと言われているクロルヘキシジングルコン酸含有処方と比較しても、その傾向は顕著であった。従って、硝酸銀などの銀塩を防腐剤として含有する眼科用水性組成物はSCLを変形させず、SCL装用眼にも点眼可能であることが明らかとなった。
【0152】
[試験6]
銀イオンの種々の樹脂に対する吸着性を検討した。
【0153】
(試料調製方法)
処方6-1:日本イオン(株)から製造販売されている銀イオンを10ppm含有する水溶液を3ppm(0.0003%(w/v))となるよう純水で希釈し、試料を調製した。
【0154】
(試験方法)
処方6-1を低密度ポリエチレン(LDPE)製点眼容器、ポリプロピレン(PP)製点眼容器、ポリエチレンテレフタレート(PET)製点眼容器に5mL充填し、充填直後および60℃で4週間保存したときの銀イオン含有量を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)を用いて定量し、充填直後に対する保存後の残存率(%)を算出した。
【0155】
(試験結果)
試験結果を表11に示す。銀イオンはポリプロピレンに強く吸着することが明らかとなった。
【0156】
【0157】
(考察)
一般に、眼科用水性組成物は樹脂製容器に充填されるが、硝酸銀などの銀塩を含有する眼科用組成物については、銀イオンの吸着による保存効力の低下を避けるべく、ポリプロピレン製容器以外の樹脂製容器に充填することが望ましいことが示された。
【0158】
[試験7]
ジクアホソルナトリウム含有水性点眼中における銀イオンの樹脂に対する吸着性を検討した。
【0159】
(試料調製方法)
処方7-1:表12に示す処方に従って、処方7-1を調製した。具体的には、ジクアホソルナトリウム(3g)、硝酸銀(0.00004g)、PVP K30(2g)、ヒドロキシエチルセルロース(0.25g)、リン酸水素ナトリウム水和物(0.2g)、エデト酸ナトリウム水和物(0.01g)、塩化ナトリウム(0.45g)を水に溶解して100mLとし、pH調節剤(q.s.)を添加して、pH7.5とした。
【0160】
処方7-2:表12に示す処方に従って、処方7-1と同様にして処方7-2を調製した。
【0161】
【0162】
(試験方法)
処方7-1および処方7-2を低密度ポリエチレン(LDPE)製点眼容器に充填し、60℃で4週間保存したときの、銀イオン含有量を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)を用いて定量し、充填直後に対するその残存率(%)を算出した。
【0163】
(試験結果)
試験結果を表13に示す。処方7-2において、低密度ポリエチレン(LDPE)製点眼容器に対しても銀イオンが吸着することが確認されたが、塩化ナトリウムを添加することで、当該吸着は完全に抑制された。
【0164】
【0165】
(考察)
本試験において、水性組成物中に添加された硝酸銀濃度は0.00004%(w/v)であり、試験6で用いられた濃度(0.003%(w/v))よりもかなり低濃度であるため、低密度ポリエチレン(LDPE)製点眼容器に対しても無視できない銀イオンの吸着が認められたものと考えられる。一方で、このような銀イオンの樹脂製容器への吸着は、塩化ナトリウムなどのイオン性等張化剤の添加により顕著に抑制できることが示唆された。
【0166】
[試験8]
シロリムス含有水性懸濁液に種々の濃度の硝酸銀を添加した場合における当該懸濁液の保存効力について検討を行った。また、保存期間中に当該懸濁液中の硝酸銀濃度に変動が生じるか否かについても併せて検討を行った。
【0167】
(試料調製方法)
比較処方8-1:表14に示す処方に従って、比較処方8-1を調製した。具体的には、シロリムス、ポリソルベート80および精製水を混合した後で、ビーズミルで湿式粉砕を行い、その後で表14に記載する添加物溶液を投入、混合し、pH調節剤を添加して、pH5とした。
【0168】
処方8-1~8~2:表14に示す処方に従って、処方8-1と同様にして調製した。
【0169】
【0170】
(試験方法)
<保存効力試験>
保存効力試験は、第十七改正日本薬局方の保存効力試験法に準拠して行なった。本試験では、試験菌として、Esherichia Coli(E.coli)、Pseudomonas aeruginosa(P.aeruginosa)、Staphylococcus aureus(S.aureus)、Candida albicans(C.albicans)およびAspergillus braziliensis(A.braziliensis)を用いた。
【0171】
<安定性試験>
比較処方8-1および処方8-1~8-2を低密度ポリエチレン(LDPE)製点眼容器に5mL入れ、60℃で4週間保存した。保存前後の薬液中の硝酸銀の含量を「日局 誘導結合プラズマ質量分析法」により測定した。
【0172】
(試験結果)
試験結果を表15および表16に示す。処方8-1および処方8-2は日本薬局方の保存効力試験基準に適合することが示された。また、保存期間中にシロリムス含有水性懸濁液中の硝酸銀濃度の変動は認められなかった。
【0173】
【0174】
【0175】
(考察)
シロリムス含有水性懸濁点眼液においても、硝酸銀などの銀塩はベンザルコニウム塩化物、クロルヘキシジングルコン酸塩などの既存の防腐剤に代わる新たな防腐剤となることが明らかとなった。シロリムス含有水性懸濁点眼液には、前述のジクアホソルナトリウム含有水性点眼液、レバミピド含有水性懸濁点眼液とは異なり、界面活性剤が含有されていれるものの、0.00002%(w/v)以上の濃度の硝酸銀を含有することで十分な保存効力が得られることが示された。すなわち、硝酸銀などの銀塩は、有効成分および添加剤の種類を問わず、水性点眼液、水性懸濁点眼液のいずれにおいても、防腐剤として使用可能であることが示された。
【0176】
[製剤例]
製剤例を挙げて本発明の薬剤をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの製剤例にのみ限定されるものではない。
【0177】
(製剤例1)
100mL中
ジクアホソルナトリウム 3g
リン酸水素ナトリウム水和物 0.01~0.5g
塩化ナトリウム 0.01~0.9g
エデト酸ナトリウム水和物 0.0001~0.1g
ポリビニルピロリドンK90 0.0001~10g
硝酸銀 0.0000001~0.01g
pH調節剤 適量
精製水 適量
pH 7.0~8.0
上記製剤を低密度ポリエチレン(LDPE)製のマルチドーズ型点眼容器に充填する。
【0178】
(製剤例2)
100mL中
レバミピド 3g
クエン酸ナトリウム水和物 0.01~0.5g
塩化ナトリウム 0.01~0.9g
塩化カリウム 0.01~0.9g
ポリビニルピロリドンK30 0.1~2g
硝酸銀 0.0000001~0.01g
pH調節剤 適量
精製水 適量
pH 5.5~6.5
上記製剤を低密度ポリエチレン(LDPE)製のマルチドーズ型点眼容器に充填する。
【0179】
(製剤例3)
100mL中
塩化ナトリウム 0.01~0.9g
塩化カリウム 0.01~0.9g
硝酸銀 0.0000001~0.01g
pH調節剤 適量
精製水 適量
pH 7.8~8.0
上記製剤をポリエチレン製のポリエチレンテレフタレート製のマルチドーズ型点眼容器に充填する。
【0180】
(製剤例4)
100mL中
シロリムス 0.01~0.1g
ポリソルベート80 0.005~0.1g
ヒドロキシプロピルメチルセルロース 0.0001~0.01g
クエン酸ナトリウム水和物 0.05~0.1g
エデト酸ナトリウム水和物 0.01~0.075g
濃グリセリン 1.2~2.0g
硝酸銀 0.00002~0.01g
pH調節剤 適量
精製水 適量
pH 5.0
上記製剤を低密度ポリエチレン(LDPE)製のマルチドーズ型点眼容器に充填する。
【0181】
(製剤例5)
100mL中
シロリムス 0.01~0.1g
ポリソルベート80 0.005~0.1g
ヒドロキシプロピルメチルセルロース 0.0001~0.01g
クエン酸ナトリウム水和物 0.05~0.1g
エデト酸ナトリウム水和物 0.01~0.075g
塩化ナトリウム 0.7~1.2g
硝酸銀 0.00002~0.01g
pH調節剤 適量
精製水 適量
pH 5.0
上記製剤を低密度ポリエチレン(LDPE)製のマルチドーズ型点眼容器に充填する。
【0182】
(製剤例6)
100mL中
シロリムス 0.01~0.1g
ポリソルベート80 0.005~0.1g
カルボキシメチルセルロースナトリウム 0.001~0.01g
クエン酸ナトリウム水和物 0.05~0.1g
エデト酸ナトリウム水和物 0.01~0.075g
濃グリセリン 1.2~2.0g
硝酸銀 0.00002~0.01g
pH調節剤 適量
精製水 適量
pH 5.0
上記製剤を低密度ポリエチレン(LDPE)製のマルチドーズ型点眼容器に充填する。
【0183】
(製剤例7)
100mL中
シロリムス 0.01~0.1g
ポリソルベート80 0.005~0.1g
カルボキシメチルセルロースナトリウム 0.001~0.01g
クエン酸ナトリウム水和物 0.05~0.1g
エデト酸ナトリウム水和物 0.01~0.075g
塩化ナトリウム 0.7~1.2g
硝酸銀 0.00002~0.01g
pH調節剤 適量
精製水 適量
pH 5.0
上記製剤を低密度ポリエチレン(LDPE)製のマルチドーズ型点眼容器に充填する。
【0184】
(製剤例8)
100mL中
ジクアホソルナトリウム 3g
リン酸水素ナトリウム水和物 0.01~0.5g
塩化ナトリウム 0.01~0.9g
エデト酸ナトリウム水和物 0.0001~0.1g
ポリビニルピロリドンK60 0.0001~10g
硝酸銀 0.0000001~0.01g
pH調節剤 適量
精製水 適量
pH 7.0~8.0
上記製剤を低密度ポリエチレン(LDPE)製のマルチドーズ型点眼容器に充填する。
【0185】
(製剤例9)
100mL中
ジクアホソルナトリウム 3g
リン酸水素ナトリウム水和物 0.01~0.5g
塩化ナトリウム 0.01~0.9g
エデト酸ナトリウム水和物 0.0001~0.1g
ポリビニルピロリドンK30 0.0001~10g
硝酸銀 0.0000001~0.01g
pH調節剤 適量
精製水 適量
pH 7.0~8.0
上記製剤を低密度ポリエチレン(LDPE)製のマルチドーズ型点眼容器に充填する。
【0186】
(製剤例10)
100mL中
ジクアホソルナトリウム 3g
リン酸水素ナトリウム水和物 0.01~0.5g
塩化ナトリウム 0.01~0.9g
エデト酸ナトリウム水和物 0.0001~0.1g
ポリビニルピロリドンK90 0.0001~10g
硝酸銀 0.0000001~0.01g
ヒドロキシエチルセルロース 0.0001~5g
pH調節剤 適量
精製水 適量
pH 7.0~8.0
上記製剤を低密度ポリエチレン(LDPE)製のマルチドーズ型点眼容器に充填する。
【0187】
(製剤例11)
100mL中
ジクアホソルナトリウム 3g
リン酸水素ナトリウム水和物 0.01~0.5g
塩化ナトリウム 0.01~0.9g
エデト酸ナトリウム水和物 0.0001~0.1g
ポリビニルピロリドンK60 0.0001~10g
硝酸銀 0.0000001~0.01g
ヒドロキシエチルセルロース 0.0001~5g
pH調節剤 適量
精製水 適量
pH 7.0~8.0
上記製剤を低密度ポリエチレン(LDPE)製のマルチドーズ型点眼容器に充填する。
【0188】
(製剤例12)
100mL中
ジクアホソルナトリウム 3g
リン酸水素ナトリウム水和物 0.01~0.5g
塩化ナトリウム 0.01~0.9g
エデト酸ナトリウム水和物 0.0001~0.1g
ポリビニルピロリドンK30 0.0001~10g
硝酸銀 0.0000001~0.01g
ヒドロキシエチルセルロース 0.0001~5g
pH調節剤 適量
精製水 適量
pH 7.0~8.0
上記製剤を低密度ポリエチレン(LDPE)製のマルチドーズ型点眼容器に充填する。
【産業上の利用可能性】
【0189】
本発明は、銀塩を含有する眼科用水性組成物であって、ポリエステル系樹脂製容器またはポリプロピレンを除くポリオレフィン系樹脂製容器に充填される眼科用水性組成物に関する。本眼科用水性組成物は長期間にわたり十分な保存効力を有するため、マルチドーズ型の点眼剤とすることができる他、SCL装用眼にも点眼投与可能である。