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特許7053971安全性の高いパック設計用の異方性熱伝導率を有する多層複合材料
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  • 特許-安全性の高いパック設計用の異方性熱伝導率を有する多層複合材料 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】安全性の高いパック設計用の異方性熱伝導率を有する多層複合材料
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/658 20140101AFI20220405BHJP
   H01M 10/647 20140101ALI20220405BHJP
【FI】
H01M10/658
H01M10/647
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021560147
(86)(22)【出願日】2019-03-21
(86)【国際出願番号】 CN2019078966
(87)【国際公開番号】W WO2020186495
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-11-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521437965
【氏名又は名称】ホーフェイ ゴション ハイテク パワー エナジー カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジャン, ヤー
(72)【発明者】
【氏名】チォン, チェン
(72)【発明者】
【氏名】ツァイ, スティーブン
【審査官】下林 義明
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-524759(JP,A)
【文献】特表2017-533548(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/52 - 10/667
H01M 4/00 - 4/62
H01G 11/00 - 11/86
C01B 32/00 - 32/991
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パウチセルパックの断熱材として用いられるサンドイッチ構造を有する多層複合材料であって、
熱伝導率が25mW/m-K以下のエアロゲル材料からなる中間層、及び、
グラフェン系ナノカーボンを含みかつ熱伝導率が50W/m-K以上である二つの熱伝導層を含み、
前記中間層は、前記二つの熱伝導層に挟まれている多層複合材料。
【請求項2】
前記中間層の厚さが100μm以上1000μm以下である、請求項1に記載の多層複合材料。
【請求項3】
前記エアロゲル材料の空気体積率が95%より大きい、請求項1又は2に記載の多層複合材料。
【請求項4】
前記エアロゲル材料は、SiC、TiO、又はカーボンブラック等の乳白剤と、ガラス繊維等のバインダーとを含む、請求項1又は2に記載の多層複合材料。
【請求項5】
前記グラフェン系層の厚さが1~100μmである、請求項1に記載の多層複合材料。
【請求項6】
前記グラフェン系層は、グラフェン粉末とバインダーとを含み、バインダーの含有量が、グラフェン系層の全重量に対して10~20重量%である、請求項1又は5に記載の多層複合材料。
【請求項7】
前記グラフェン系層は、グラフェン粉末と、グラフェン以外のナノカーボン材料とを含むが、バインダーを含まない層であって、前記グラフェン以外のナノカーボン材料の含有量が、グラフェン系層の全重量に対して15~30重量%である、請求項1又は5に記載の多層複合材料。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の多層複合材料の製造方法であって、
エアロゲル材料からなる前記中間層を形成するプロセス、及び
前記中間層の両側に前記熱伝導層を設けるプロセスを含む、多層複合材料の製造方法。
【請求項9】
複数のセルと、隣接する二つのセル間に配置されたスペーサーとを含むパウチセルパックであって、スペーサーは請求項1~7のいずれか1項に記載の多層複合材料を含む、パウチセルパック。
【請求項10】
請求項9に記載のパウチセルパックを含む装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パウチセルを備えたパックの設計に使用される多層複合材料に関するものであり、該多層複合材料は、1.パウチセル表面の平面における放熱を均一にする(x-y方向の高熱伝導率)、2.セル間の熱伝播を阻止する(z方向の超低熱伝導率)、及び3.セル間のスペーサーとして機能して適切な圧力にする、という3つの機能を有する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、過去20年で新エネルギー車の動力源として非常に望ましいものとなった。グラファイト負極と層構造を有するLiMO(M=Ni、Co、Mnの二元系又は三元系)正極とを備える現在市販されているリチウムイオン電池は、セルレベルで250Wh/kgを超える重量エネルギーを有する。本業界ではより高いエネルギー密度(>300Wh/kg)が求め続けられている。
【0003】
高ニッケルNCM系電池又は高ニッケルNCA系電池は、エネルギー密度が比較的低い(160~180Wh/kg)リン酸リチウムイオン電池に比べてエネルギー密度が高いという点で非常に有利であり、特に、より軽量な不活性材料を用いたパウチセル型では、最大300Wh/kgのエネルギー密度を達成できる。しかし、化学的活性物質の組成割合が高く、通気の方向性が無いため、安全性に問題がある。更に、充放電中のパウチセルの熱分布が不均一であると、熱暴走に関連して、部分的に膨張が起こったり、リチウムデンドライトが成長したり、電圧分布が不均一になったり、部分的に過充電となったりして、電池管理システム(BMS)がより複雑になってしまう。
【0004】
その結果、パウチセルは平面における高伝導性(x-y方向の熱伝導率)を有することが期待されている。更に、セルが熱暴走した場合、熱を遮断して隣接するセルの熱暴走を阻止しなくてはならない。そのため、セル間(z方向)では熱伝導率が低い材料を用いることが望ましい。更に、角型セルや円筒セルと違って、パウチセルには、ジェリーロールを保持するための剛性ケースが用いられていない。通常、セルは、充放電中に体積が10%変化(セル呼吸)する。そのため、体積変化に適応できる圧縮可能な材料が必要となる。
【0005】
ガラス繊維、アスベスト繊維、ケイ酸塩等の断熱材料からなる断熱フィルムは、一般的にパウチセルパックに使用され、断熱壁や難燃剤として機能する。しかし、当該技術分野では一般的に、このような断熱フィルムは、厚みがあり、効果が比較的小さいと認識されている。
【0006】
一方、エアロゲル材料は、超低熱伝導率を有することが知られており、断熱材料として用いられてきた。例えば、特許文献1には、断熱材料として使用できるレゾルシノール-ホルムアルデヒド(RF)エアロゲルを調製する方法が開示されている。しかし、エアロゲル自体は等方性を有するものであり、セル間の熱伝導率を低くしつつ、平面における伝導性を高くすることはできない。
【0007】
特許文献2には、延伸ポリテトラフルオロエチレン層、グラフェン層、及びシリコンエアロゲル層を有する層状複合材料であって、グラフェン層及びシリコンエアロゲル層は、延伸ポリテトラフルオロエチレン層の両側にそれぞれ設けられている層状複合材料が開示されている。しかし、延伸ポリテトラフルオロエチレン層の膨張係数は低いため、使用時の体積変化が小さい。
【0008】
以上の観点から、当該技術分野において、パウチセルを備えた安全性の高いパックの設計を可能にするパウチセルパックの設計要件を満たし、(1)パウチセルの表面における不均一な熱分布、(2)電池モジュール/電池パック内の熱伝播、及び(3)パウチセルの体積変化に適応できるスペーサーに関する課題を解決できる多層複合材料を開発することが更に望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】中国特許出願公開第103933900号明細書
【文献】中国特許出願公開第107513168号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記の技術的課題に鑑みてなされたものである。特に、一つの態様において、本発明は、パウチセルパックの断熱材として適用可能であり、以下のパウチセルパックの設計要件、(1)x-y方向の高熱伝導率、(2)z方向の超低熱伝導率、及び(3)体積変化に適応できるように圧縮可能であること、を満たす多層複合材料を提供することを目的とする。
【0011】
更に、本発明は、本発明の多層複合材料を含むパウチセルパックであって、安全性の高いパックの設計を可能にし、かつ優れた電気的特性を有するパウチセルパックを提供することを目的とする。
【0012】
更に、他の態様において、本発明は、本発明の多層複合材料の製造方法を提供することを目的とする。
【0013】
一つの態様において、上記目的を達成するために、サンドイッチ構造を有する多層複合材料であって、25mW/m-K以下の超低熱伝導率を有するエアロゲル材料からなる中間層、及び、グラフェン系ナノカーボンを含みかつ50W/m-Kを超える高熱伝導率を有する二つの熱伝導層を含み、中間層は、二つの熱伝導層に挟まれている多層複合材料を提供する。
【0014】
更に、複数のセルと、隣接する二つのセル間に配置されたスペーサーとを含むパウチセルパックであって、スペーサーは本発明の多層複合材料を含む、パウチセルパックを提供する。
【0015】
更に、本発明のパウチセルパックを含む装置を提供する。
【0016】
他の態様において、エアロゲル材料からなる中間層を形成するプロセス、及び、中間層の両側に熱伝導層を設けるプロセスを含む、本発明の多層複合材料の製造方法を提供する。
【0017】
いくつかの好ましい実施形態において、上記中間層を形成するプロセスは、
(1)エアロゾル形成用前駆体の安定した溶液を調製する工程、
(2)上記溶液を重縮合反応によってゲル化する工程、
(3)工程(2)で得られたゾルを熟成する工程、及び
(4)熟成したゲルを超臨界乾燥させて、所望の形態や形状に成形する工程
を含む。
【0018】
本発明の多層複合材料は、従来技術における上記の技術的問題を解決することができ、均一な熱分布を達成し、熱伝播を阻止し、充放電中の体積変化に適応できるスペーサーとして機能する。更に、上記多層複合材料を含むパウチセルパックは、安全性の高いパックの設計を可能にし、優れた電気特性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
添付図面は、本発明のさらなる理解を提供するために含まれ、かつ本明細書の一部として組み込まれ、本発明の実施形態を示し、説明と共に本発明の原理を説明するのに役立つ。
【0020】
図1】本発明の多層複合材料の断面模式図である。
図2】比較例3及び実施例5~6における試験用電池モジュールの構造を模式的に示す斜視図である。
図3】比較例4及び実施例7~10における試験用パウチセルの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の技術的思想を当業者が容易に実施できるように、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されず、種々の態様で実施できる。
【0022】
なお、本発明において、「多層複合材料」と「断熱材」とは同じ意味を持ち、互いに言い換えて使用できる。
【0023】
本発明は、サンドイッチ構造を有する多層複合材料であって、25mW/m-K以下の超低熱伝導率を有するエアロゲル材料からなる中間層、及び、グラフェン系ナノカーボンを含みかつ50W/m-Kを超える高熱伝導率を有する二つの熱伝導層を含み、中間層は、二つの熱伝導層に挟まれている多層複合材料を提供する。
【0024】
図1は、本発明の多層複合材料の断面模式図である。
【0025】
図1に示すように、多層複合材料100は、二つの熱伝導層102に挟まれたエアロゲル材料からなる中間層101を含む。すなわち、中間層101の両側には、二つの熱伝導層102が設けられている。
【0026】
中間層101は、中間層101の熱伝導率が25mW/m-K以下となるような適度な空隙率及び厚さを有するエアロゲル材料からなる。
【0027】
エアロゲル材料は空隙率が高いので、超低熱伝導率を有する。熱伝導は、主に気体伝導、固体伝導、及び放射伝導の3つの方法で起こることが知られている。中でも、気体伝導では、気体の多くは熱伝導率が非常に低いので、移動する熱量が最も少ない。したがって、断熱材料の多くは、材料全体の熱伝導率が低くなるよう、固体材料の体積の一部を空気が占める多孔質構造を有することが一般的である。
【0028】
本発明に係るエアロゲル材料の空隙率は、大抵の一般的な断熱材料の空隙率よりもはるかに高い。上記エアロゲル材料の空隙率は、空気体積率(%)で表すことができる。いくつかの実施態様において、上記エアロゲル材料の空気体積率は、95%より大きく、97%より大きいことが好ましく、99%より大きいことがより好ましい。いくつかの実施形態において、上記エアロゲル材料の孔径は、100nm以下であってもよく、50nm以下がより好ましく、10nm以下が最も好ましい。
【0029】
本発明に係るエアロゲル材料の厚さは、約100μm以上であってもよく、約200μm以上が好ましく、約400μm以上がより好ましい。厚さが100μm未満であると、所望の断熱効果が得られない場合がある。厚さの上限は特に限定されないが、製造の容易性、パウチセルの寸法との適合性の観点から、1000μm以下が好ましく、900μm以下がより好ましい。
【0030】
上記のように、本発明に係るエアロゲル材料の熱伝導率は、25mW/m-K以下であり、5mW/m-K以下がより好ましい。熱伝導率が25mW/m-Kより大きいと、所望の断熱効果が得られない場合がある。
【0031】
いくつかの実施態様において、上記エアロゲル材料は、シリカ、酸化チタン、酸化クロム、酸化鉄、酸化バナジウム、酸化ネオジム、サマリア、ホルミア、炭素(カーボンナノチューブを含む)、その他の金属酸化物、及びそれらの任意の組合せから選択されるナノサイズの材料から製造できる。上記エアロゲル材料は、シリカ、酸化チタン、炭素、又はそれらの任意の組み合わせから製造されることがより好ましい。上記エアロゲル材料はシリカから製造されることが最も好ましい。ここで、「ナノサイズ」とは、材料の粒径がナノスケールであること、例えば、粒径が500nm以下であり、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下であることを意味する。
【0032】
他の実施形態では、上記エアロゲル材料は、主成分として上記のエアロゲル形成材料と、添加剤とを含む。添加剤を含む場合、上記エアロゲル材料は、エアロゲル材料の全重量に対して、約60~90重量%のエアロゲル形成材料を含んでもよい。上記添加剤は、上記エアロゲル材料の構造安定性又は凝集性を高めたり、別の物理的な利益をもたらすように作用してもよい。例えば、上記エアロゲル材料は、バインダーとして長さが10μm~2mmのガラス繊維等のガラス繊維を含んでもよく、それにより上記複合材料が強化されて適度な機械的強度を有するようになる。また、特に高温では、放射熱伝導が起こることがある。そのため、上記エアロゲル材料は、通常、熱放射を防ぐためにSiC、TiO、又はカーボンブラック等の乳白剤を含んでもよい。上記乳白剤は、単結晶状であっても多結晶状であってもよい。上記乳白剤は、粒子状であってもよく、その粒径は1~50μmであってもよい。上記粒径は、HORIBALA-960等のレーザー式粒度分析装置で測定できる。ここで、粒径とは、多結晶粒子の二次粒径のことであってもよい。
【0033】
いくつかの実施態様において、本発明に係るエアロゲル材料は、エアロゲル材料の全重量に対して、約60~90重量%のエアロゲル形成材料(例えば、粒径10nmのSiO、又はナノサイズのSiO及びナノサイズのTiOの組合せ)、5~30重量%の粒径20μmのSiC、及び2~10重量%の長さ100μmのガラス繊維を含んでもよい。
【0034】
本発明に係るエアロゲル材料は、超低熱伝導率を与えるだけでなく、軽量で熱安定性が高い等の利点を有してもよく、本発明に有用でありうる。
【0035】
上記エアロゲルは、通常、その骨格を形成するモノマーが相互に反応して、結合した架橋高分子からなるゾルを形成し、溶液の堆積物が高分子内の空孔を満たすゾル-ゲル重合により製造される。
【0036】
次いで、生成物を超臨界条件下で超臨界乾燥させる。超臨界条件は特に限定されず、当該技術分野で一般的に用いられている条件で超臨界乾燥させてもよい。例えば、熟成したゲルを、超臨界乾燥に用いる媒体の臨界温度以上の超臨界温度でインキュベートしてエアロゲルを得てもよい。上記超臨界乾燥に用いる媒体は、二酸化炭素、メタノール、及びエタノールから選択してもよく、二酸化炭素が好ましい。上記超臨界乾燥は、超臨界温度が30~60℃、好ましくは40~45℃、圧力が1.01MPa以上(好ましくは5.06MPa以上、より好ましくは7.38MPa以上)、保持時間が2~5時間、好ましくは2~3時間の条件で行ってもよい。
【0037】
上記超臨界乾燥では、溶液が蒸発し、結合した架橋高分子骨格が残る。上記生成物の固体伝導性を低くするためには、接触抵抗が高くなるように、また固体マトリックス中の熱経路を複雑化できるように、生成物の粒径を小さく(5~20nm)する必要がある。これにより、固体伝導による伝熱の速度が低下する。気体伝導に関しては、ナノ材料(例えば、フュームドシリカ)の孔径は、空気分子の平均自由輸送経路(74nm)より小さいため、対流伝熱は低くできる。
【0038】
また、本発明に係るエアロゲル材料は、高温での収縮率が極めて低い。例えば、上記エアロゲル材料を600℃で24時間加熱した場合、収縮率は、0.5%未満であってもよく、0.1%未満が好ましく、約0%がより好ましい。更に、上記エアロゲル材料を900℃で24時間加熱した場合、収縮率は、2%未満であってもよく、1.5%未満が好ましく、1%未満がより好ましい。
【0039】
本発明によれば、上記エアロゲル材料は、電池の動作中に熱膨張が起こり隣接するセルによって圧縮力が加えられると変形することがある。具体的には、寸法3×3mm、厚さ1mmの試験片に10kg(5×5mm)の荷重を1時間かけた圧縮実験において、本発明に係るエアロゲル材料の圧縮率は、10%以上であり、10~15%が好ましい。
【0040】
上記エアロゲル材料の形成は、エアロゲルの骨格を形成するためのモノマー、溶媒、及び任意に上記の添加剤を含む、エアロゲル材料形成用の溶液を必要とするものである。
【0041】
上記エアロゲル材料形成用の溶媒としては、特に限定されず、当該技術分野で一般的に用いられる、エアロゲル形成用の任意の溶媒を用いることができる。上記溶媒は、例えば、水若しくは水とエタノールとの混合物等の水性液体、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチレンカーボネート、若しくはジメチルカーボネート等の有機溶媒、又は1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス[(トリフルオロメチル)スルホニル]アミド等のイオン性液体であってもよい。
【0042】
以下に、本発明に係るエアロゲル材料の具体的な製造方法について説明する。
【0043】
上記のように、エアロゲル材料からなる中間層101は、二つの熱伝導層102によって挟まれている。図1に示すように、中間層101の両側には、二つの熱伝導層102が設けられている。
【0044】
熱伝導層102は、グラフェンと、補助成分として任意に他の種類のナノカーボンとを含む高熱伝導率を有するグラフェン系層である。
【0045】
上記グラフェン系層の熱伝導率は、50W/m-K以上であってもよく、75W/m-K以上が好ましく、100W/m-K以上がより好ましい。上記グラフェン系層の熱伝導率が50W/m-Kより低いと、所望の面内伝導効果が得られない。
【0046】
グラフェン層は、sp2混成炭素原子からなる単一平面シートを含む単層グラフェンを有する炭素の二次元同素体である。グラフェンは、共有結合した炭素原子の二次元(2D)六方格子に起因する非常に高い固有強度を有することが知られている。更に、グラフェンは、層の面における高い導電率や高い熱伝導率等の多くの他の利点も示す。
【0047】
本発明に係るグラフェン系層は、物理的に剥離されたグラフェンから製造できるグラフェン粉末、還元グラフェンオキシド、及びグラフェンオキシド等を含む。上記グラフェン粉末の粒径は、50~5000メッシュであってもよい。上記グラフェンは、単層であっても、層の数が2~50である多層であってもよく、上記グラフェン層の厚さは、10μm未満であり、100nm未満が好ましい。
【0048】
上記グラフェン系層は、一般的なコーティング法によって中間層の表面に塗布できる。その際、必要に応じてバインダーを用いてもよい。バインダーを用いると、高い機械的信頼性を達成できる。上記バインダーとしては、ポリ(アクリル酸)、ポリ(フッ化ビニリデン)、及びスチレン-ブタジエンゴム等であってもよい。バインダーを使用する場合、バインダーの量は、グラフェン系層の全重量に対して、2~20重量%であってもよい。
【0049】
上記コーティング法は、本発明に係るグラフェン層の所望の特性に影響を与えない限り、特に限定されない。例えば、上記コーティング法は、スピンコート法、ブレードコート法、又はキャスト法であってもよい。
【0050】
例えば、一実施形態では、上記グラフェン系層は、バインダーとして15重量%のアクリル酸又はアクリレートを用いて、スピンコート法により中間層の表面に塗布できる。
【0051】
上記グラフェン層は、グラフェン以外のナノカーボン材料を含み、その結果、複合材料を含むことが好ましい。上記ナノカーボン材料としては、特に限定されず、フラーレン、カーボン量子ドット、カーボンナノチューブ、及びカーボンナノロッド等であってもよい。中でも、上記ナノカーボン材料としては、カーボンナノチューブを用いることがより好ましい。カーボンナノチューブは一次元材料であり、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)と多層カーボンナノチューブ(MWCNT)に分類してもよい。上記ナノカーボン材料としては、単層カーボンナノチューブがより好ましい。上記単層カーボンナノチューブの長さは50nmよりも長いことが好ましい。
【0052】
グラフェンとカーボンナノチューブとを混合してグラフェン系層を形成する場合、バインダーを含まない高伝導性層を形成して中間層の両側に設けることができる。また、グラフェン(2次元材料)とカーボンナノチューブ(1次元材料)とを混合すると、電池の充放電過程による体積収縮を吸収できる3次元多孔質材料となり、容易に体積コンプライアンスを得ることができる。更に、このような3次元多孔質材料は、グラフェンのみを含む層と比較して、より良好な熱伝導率を有してもよい。
【0053】
グラフェン以外のナノカーボン材料を含む場合、ナノカーボン材料の量は、グラフェン系層の全重量に対して10~30重量%であってもよい。例えば、上記グラフェン系層は、単層カーボンナノチューブとグラフェンとを1:3(重量%)で混合することによって作製してもよく、SWCNTはバインダーとして機能するのでバインダーを含まないコーティングを得ることができる。
【0054】
上記グラフェン系層を形成するためのコーティング溶液は、グラフェン粉末と、溶媒と、グラフェン以外の任意のナノカーボン材料と、任意のバインダーとを含んでいてもよい。
【0055】
上記グラフェン系層を形成するための溶媒としては、特に限定されず、当該技術分野で一般的に用いられる溶媒を用いることができる。上記溶媒は、例えば、水、エタノール、N-メチルピロリドン、又はこれらの混合物であってもよい。
【0056】
本発明によれば、上記断熱材は、エアロゲル材料からなる中間層を形成するプロセスと、中間層の両側に熱伝導層を設けるプロセスとを含む方法によって作製される。
【0057】
上記中間層を形成するプロセスは、通常、
(1)エアロゾル形成用前駆体の安定した溶液を調製する工程、
(2)上記溶液を重縮合反応によってゲル化する工程、
(3)工程(2)で得られたゾルを熟成する工程、及び
(4)熟成したゲルを超臨界乾燥させて、所望の形態や形状に成形する工程、を含む。
【0058】
具体的には、工程(1)において、エアロゾル形成用前駆体の安定な溶液を形成する。上記のように、上記前駆体は、シリカ、酸化チタン、酸化クロム、酸化鉄、酸化バナジウム、酸化ネオジム、サマリア、ホルミア、炭素(カーボンナノチューブを含む)、その他の金属酸化物、及びそれらの任意の組合せから選択されるナノサイズの材料であってもよい。また、上記溶液は、SiC、TiO、又はカーボンブラック等の乳白剤又はガラス繊維等のバインダーを添加剤として含んでいてもよい。このように、一実施形態では、工程(1)は、前駆体、乳白剤、及びバインダーを含む安定な溶液を調製する工程を含んでもよい。
【0059】
上記安定な溶液を調製する方法は特に限定されず、本発明の所望の特性に影響を与えない限り、任意の適切な方法を用いてもよい。例えば、上記前駆体及び任意の添加剤を、水や水/エタノール混合物等の水性液体、及びN-メチルピロリドンや炭酸プロピレン等の有機溶媒から選択される溶媒に溶解又は分散させてもよい。
【0060】
本発明によれば、工程(1)は、水を用いて安定なケイ酸塩溶液を調製する工程を含むことが好ましい。
【0061】
次に、工程(2)において、重縮合反応により酸化物又はアルコールで架橋させたネットワークを形成して、ナノサイズの前駆体を含む溶液をゲル化してもよい。その結果、溶液の粘度が大幅に増加する。
【0062】
本発明によれば、上記溶液のpHを変化させることにより重縮合反応を開始させることが好ましい。具体的には、上記溶液にアルカリ溶液を添加して上記ナノサイズの前駆体を含む溶液のpHを調整してもよい。本発明において、上記アルカリ溶液は、特に限定されず、NaOHやKOH等のアルカリ金属水酸化物の溶液、MgOH等のアルカリ土類金属水酸化物の溶液、及びNaCO等の炭酸塩の溶液などが挙げられる。また、目標pHは特に限定されず、ナノサイズの前駆体の種類によって決定してもよい。
【0063】
例えば、本発明によれば、上記ナノサイズの前駆体がケイ酸塩及びチタン酸塩である場合、NaOHのようなアルカリ溶液を用いて溶液のpHを3~4に調整し、SiO/TiOゾルを形成してもよい。
【0064】
次に、工程(3)において、得られたゲルを熟成し、その間、ゾルがゲルになるまで重縮合反応が続く。その際、ゲルネットワークの収縮や、ゲルの細孔からの溶媒の排出が伴う。上記熟成プロセスは、形成されたゲルに亀裂が生じるのを防止するために重要である。
【0065】
上記熟成プロセスは、45~60℃、好ましくは50~55℃の温度で、8~24時間、好ましくは8~10時間行ってもよい。
【0066】
例えば、工程(2)でSiO/TiOゾルを形成する場合、SiO/TiOゾルを50℃で10時間熟成してゲルを形成してもよい。
【0067】
次に、工程(4)において、得られたゲルを超臨界乾燥させて、所望の形態や形状に成形する。この工程において、溶媒を除去する。
【0068】
上記のように、上記熟成したゲルは、超臨界乾燥に用いる媒体の臨界温度以上の超臨界温度でインキュベートしてエアロゲルを得てもよい。上記超臨界乾燥に用いる媒体は、二酸化炭素、メタノール、及びエタノールから選択してもよく、二酸化炭素が好ましい。上記超臨界乾燥は、超臨界温度が30~60℃、好ましくは40~45℃、保持時間が2~5時間、好ましくは2~3時間の条件で行ってもよい。
【0069】
例えば、工程(3)でSiO/TiOゲルを形成する場合、上記熟成したゲルを、超臨界CO媒体中で、50℃の超臨界温度で2時間インキュベートしてSiO/TiOエアロゲルを形成してもよい。
【0070】
上記工程(1)~(4)により、所望の空隙率及び厚さを有するエアロゲル材料を得て、更なる使用のために静置できる。
【0071】
本発明によれば、上記断熱材を作製するプロセスは、更に、上記中間層の両側に熱伝導層を設ける工程(5)を含んでもよい。
【0072】
工程(5)において、バインダーを有するグラフェン層やバインダーを含まない層(例えば、グラフェン/SWCNT(3:1(重量%))複合層)等のグラフェン系層を、エアロゲルの両側に設ける。上記したように、この工程で、グラフェン系層を形成するためのコーティング液を調製し、エアロゲルの両側に塗布してもよい。上記コーティング液を乾燥させて溶媒を除去し、エアロゲルの両側にグラフェン系層を残すことにより、工程(1)~(5)を経て本発明の断熱材を形成できる。
【0073】
他の態様では、本発明は、複数のセルと、二つのセル間に配置された、本発明の断熱材を含むスペーサーとを含むパウチセルパックを提供する。
【0074】
すなわち、上記断熱材は、パウチセル間の緩衝材として用いることができる。例えば、上記断熱材は、パウチセルパックにおいて断熱シート又は断熱フィルムであってもよい。図2に示すように、セルが熱暴走した場合に、上記断熱材は、拡散した熱から隣接するセルを保護できる。
【0075】
上記パウチセルパック中のセルユニットとしては、パウチセルの構成は特に限定されず、当該技術分野で使用される通常の構成を有していてもよい。例えば、上記パウチセルは、リチウムイオンポリマーセル又はリチウム金属ポリマーセル等のリチウムポリマーセルであってもよい。通常、上記パウチセルは、正極、負極、及び電解質を含む。
【0076】
硬質金属ケースを有する角型セルや円筒セルとは異なり、パウチセルでは、ジェリーロールが、ポリエチレンテレフタレート、アルミニウム金属箔、及びポリプロピレンを積層した厚さ100~150μmの軟質アルミラミネートフィルムによってパッケージされている。
【0077】
本発明は、更に、本発明のパウチセルパックを含む装置を提供する。上記パウチセルパックは装置の電源として使用される。上記装置としては、例えば、電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)、及びプラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)等の電気自動車の1つ以上であってもよい。
【実施例
【0078】
以下、実施例を用いて実施形態を詳細に説明するが、これらの実施例に限定されない。
【0079】
比較例1
厚さ0.5mmのマイカ(IEC-60371-2、AXIM MICA製)を断熱フィルムとして用いた。断熱フィルムをホットプレート上に置き、一方の面をホットプレートに接触させて、300秒で600℃まで加熱した。断熱フィルムの他方の面の温度を記録した。結果を下記表1に示す。
【0080】
比較例2
厚さ1mmのマイカを断熱フィルムとして用いた。断熱フィルムをホットプレート上に置き、一方の面をホットプレートに接触させて、300秒で600℃まで加熱した。断熱フィルムの他方の面の温度を記録した。結果を下記表1に示す。
【0081】
実施例1
SiO /TiO エアロゲルの調製
SiO/TiOエアロゲルを、以下の工程(1)~(4)により調製した。
(1)まず、秤量した4gのNaSiO(シグマアルドリッチ製)及び3gのNaTi(シグマアルドリッチ製)を蒸留水100mlに加えてよく撹拌して、NaSiO及びNaTiを含む安定な水溶液を調製した。
(2)アルカリ性溶液(1M KOH、シグマアルドリッチ製)を上記安定な溶液にゆっくりと添加し、上記安定な溶液のpHを3.5に調整してSiO/TiOゾルを形成した。
(3)得られたSiO/TiOゾルを水中で10時間熟成してゲルを形成した。
(4)熟成したゲルを、超臨界CO媒体中、50℃の超臨界温度、超臨界圧下で2時間インキュベートしてSiO/TiOエアロゲルを形成した。
【0082】
上記工程(1)~(4)により、72重量%のSiO/TiOを含むエアロゲルを得た。工程(1)では、更に、25重量%のSiC(乳白剤、シグマアルドリッチ製、378097)及び3重量%のガラス繊維(バインダー、旭化成製、PA66)を添加した。得られたSiO/TiOエアロゲルを厚さ0.5mmの断熱中間層として用いた。
【0083】
グラフェン系層の作製
グラフェン粉末(900552、シグマアルドリッチ製)及びバインダーとしてアクリル酸(147230、シグマアルドリッチ製)を含むコーティング液を、最終的なコーティング層におけるグラフェンとバインダーの割合が重量比で95:5となるように調製した。コーティング液を上記で得られたエアロゲルの両側に塗布し、乾燥して、高い熱伝導率を有するコーティング層を得た。各コーティング層の厚さは0.05mmであった。
【0084】
得られた多層複合材料をホットプレート上に置き、一方の面をホットプレートに接触させて、300秒で600℃まで加熱した。多層複合材料の他方の面の温度を記録した。結果を下記表1に示す。
【0085】
実施例2
得られたエアロゲルの厚さを0.9mmにしたこと以外は、実施例1と同様にして多層複合材料を作製した。得られた多層複合材料をホットプレート上に置き、一方の面をホットプレートに接触させて、300秒で600℃まで加熱した。多層複合材料の他方の面の温度を記録した。結果を下記表1に示す。
【0086】
実施例3
本実施例では、実施例1で作製した多層複合材料を用いる。得られた多層複合材料をホットプレート上に置き、一方の面をホットプレートに接触させて、600秒で600℃まで加熱した。多層複合材料の他方の面の温度を記録した。結果を下記表1に示す。
【0087】
実施例4
本実施例では、実施例2で作製した多層複合材料を用いる。得られた多層複合材料をホットプレート上に置き、一方の面をホットプレートに接触させて、600秒で600℃まで加熱した。多層複合材料の他方の面の温度を記録した。結果を下記表1に示す。
【0088】
【表1】
【0089】
表1から分かるように、本発明の多層複合材料を有する実施例1及び2では、600℃で300秒間加熱した後の、ホットプレートとは反対側の面の温度は、比較例1及び2の温度よりもはるかに低い。本発明の多層複合材料を600℃で600秒間加熱したとしても(実施例3及び4)、ホットプレートとは反対側の面の温度は、比較例1及び2の温度よりもはるかに低い。従って、上記多層複合材料は、従来の断熱材に比べてz方向の断熱性に優れていることが分かった。
【0090】
比較例3
厚さ1mmのマイカを断熱フィルムとして用いた。
図2に示すように、四つのパウチセル(250Wh/kg、550Wh/L)を有する電池モジュール200を試験体として用いた。図2において、セル1、セル2、セル3、及びセル4は、210、220、230、及び240で示し、それぞれ平行に配置する。一枚の断熱フィルム250を二つのセル間に配置する。このように、このモジュールでは、合計三枚の断熱フィルムを使用した。
【0091】
試験では、セル1を強制的に熱暴走させた。その他のセルが熱暴走するまでの待機時間を記録した。熱暴走しているセルから排出される高温ガスが隣接するセルに影響を及ぼさないように、上記四つのパウチセルを十分に広い開放空間に置いた。その結果、隣接するセルは、熱暴走しているセルから熱が伝わることのみにより発火しうる。
比較例3の結果を表2に示す。
【0092】
実施例5
本実施例では、実施例1で作製した多層複合材料を断熱フィルムとして用いる。
図2に示すように、四つのパウチセル(250Wh/kg、550Wh/L)を有する電池モジュール200を試験体として用いた。図2において、セル1、セル2、セル3、及びセル4は、210、220、230、及び240で示し、それぞれ平行に配置する。一枚の断熱フィルム250を二つのセル間に配置した。このように、このモジュールでは、合計三枚の断熱フィルムを使用した。
【0093】
試験では、セル1を強制的に熱暴走させた。その他のセルが熱暴走するまでの待機時間を記録した。熱暴走しているセルから排出される高温ガスが隣接するセルに影響を及ぼさないように、上記四つのパウチセルを十分に広い開放空間に置いた。その結果、隣接するセルは、熱暴走しているセルから熱が伝わることのみにより発火しうる。
実施例5の結果を表2に示す。
【0094】
実施例6
本実施例では、実施例2で作製した多層複合材料を断熱フィルムとして用いる。
図2に示すように、四つのパウチセル(250Wh/kg、550Wh/L)を有する電池モジュール200を試験体として用いた。図2において、セル1、セル2、セル3、及びセル4は、210、220、230、及び240で示し、それぞれ平行に配置する。一枚の断熱フィルム250を二つのセル間に配置した。このように、このモジュールでは、合計三枚の断熱フィルムを使用した。
【0095】
試験では、セル1を強制的に熱暴走させた。その他のセルが熱暴走するまでの待機時間を記録した。熱暴走しているセルから排出される高温ガスが隣接するセルに影響を及ぼさないように、上記四つのパウチセルを十分に広い開放空間に置いた。その結果、隣接するセルは、熱暴走しているセルから熱が伝わることのみにより発火しうる。
実施例6の結果を表2に示す。
【0096】
【表2】
【0097】
表2から分かるように、実施例6の断熱フィルムは、比較例3と厚さが同じであるが、セル2及びセル3が熱暴走するまでの待機時間が比較例3の待機時間よりも著しく長くなる効果がある。実施例6のセル4は、試験中に熱暴走しなかったが、比較例3のセル4は、熱暴走するまで8分もかからなかった。また、実施例6の断熱フィルムは、厚さが比較例3の半分であるが、セル2~4が熱暴走するまでの待機時間は著しく長く、これは、当該技術分野における従来の材料に比べて断熱性が格段に向上していることを意味する。熱暴走までの待機時間を数分改善することは、当該技術分野では大きな改善であることが知られている。
【0098】
比較例4
厚さ0.5mmのマイカを断熱フィルムとして用いた。
実験にはパウチセル(250Wh、550Wh/L、261mm×216mm×7.91mm)を用いた。図3に示すように、断熱フィルム340をパウチセル300の外側側面に取り付けた。負極タブ310の表面にはヒーター330が取り付けられており、参照番号320は正極タブを示す。熱電対350をパウチの底部の断熱フィルム340の下に配置した。セルをSOC50まで充電した。ヒーターを70℃に加熱し、1分後、5分後、10分後、及び30分後に底部の熱電対の温度を記録した。比較例4の結果を表3に示す。
【0099】
実施例7
本実施例では、実施例1で作製した多層複合材料を断熱フィルムとして用いる。
実験にはパウチセル(250Wh、550Wh/L、261mm×216mm×7.91mm)を用いた。図3に示すように、断熱フィルム340をパウチセル300の外側側面に取り付けた。負極タブ310の表面にはヒーター330が取り付けられており、参照番号320は正極タブを示す。熱電対350をパウチの底部の断熱フィルム340の下に配置した。セルをSOC50まで充電した。ヒーターを70℃に加熱し、1分後、5分後、10分後、及び30分後に底部の熱電対の温度を記録した。実施例7の結果を表3に示す。
【0100】
実施例8
得られたエアロゲルの両側のグラフェンコーティング層の厚さを0.1mmとした以外は、実施例1と同様にして多層複合材料を作製した。
実験にはパウチセル(250Wh、550Wh/L、261mm×216mm×7.91mm)を用いた。図3に示すように、断熱フィルム340をパウチセル300の外側側面に取り付けた。負極タブ310の表面にはヒーター330が取り付けられており、参照番号320は正極タブを示す。熱電対350をパウチの底部の断熱フィルム340の下に配置した。セルをSOC50まで充電した。ヒーターを70℃に加熱し、1分後、5分後、10分後、及び30分後に底部の熱電対の温度を記録した。実施例8の結果を表3に示す。
【0101】
実施例9
実施例1と同様にしてエアロゲルからなる中間層を作製した。
【0102】
グラフェン系層の作製
グラフェン粉末(900552、シグマアルドリッチ製)及びアクリル酸(147230、シグマアルドリッチ製)を含むコーティング液を、最終的なコーティング層におけるグラフェンと単層カーボンナノチューブの割合が重量比で70:30となるように調製した。コーティング液を上記で得られたエアロゲルの両側に塗布し、乾燥して、高い熱伝導率を有するコーティング層を得た。各コーティング層の厚さは0.1mmであった。
このようにして、断熱フィルムとして多層複合材料を得た。
【0103】
実験にはパウチセル(250Wh、550Wh/L、261mm×216mm×7.91mm)を用いた。図3に示すように、断熱フィルム340をパウチセル300の外側側面に取り付けた。負極タブ310の表面にはヒーター330が取り付けられており、参照番号320は正極タブを示す。熱電対350をパウチの底部の断熱フィルム340の下に配置した。セルをSOC50まで充電した。ヒーターを70℃に加熱し、1分後、5分後、10分後、及び30分後に底部の熱電対の温度を記録した。実施例9の結果を表3に示す。
【0104】
実施例10
実施例1と同様にしてエアロゲルからなる中間層を作製した。
【0105】
グラフェン系層の作製
単層カーボンナノチューブ(シグマアルドリッチ製、704121)を含むコーティング液を調製した。コーティング液を上記で得られたエアロゲルの両側に塗布し、乾燥して、高い熱伝導率を有するコーティング層を得た。各コーティング層の厚さは0.1mmであった。
このようにして、断熱フィルムとして多層複合材料を得た。
【0106】
実験にはパウチセル(250Wh、550Wh/L、261mm×216mm×7.91mm)を用いた。図3に示すように、断熱フィルム340をパウチセル300の外側側面に取り付けた。負極タブ310の表面にはヒーター330が取り付けられており、参照番号320は正極タブを示す。熱電対350をパウチの底部の断熱フィルム340の下に配置した。セルをSOC50まで充電した。ヒーターを70℃に加熱し、1分後、5分後、10分後、及び30分後に底部の熱電対の温度を記録した。実施例10の結果を表3に示す。
【0107】
【表3】
【0108】
表4によると、実施例7~9における5分後、10分後、及び30分後の底部の温度は、比較例4の底部の温度よりもはるかに高く、これは、グラフェン系層が、その良好なx-y面の熱伝導率によって熱を再分散し、その結果、熱をセルパックの外部に放散できることを意味する。また、実施例7~9を比較すると、グラフェンとカーボンナノチューブとを組み合わせた実施例9において、底部の温度が最も高くなっていることが分かり、これは、グラフェンとカーボンナノチューブとを組み合わせることで、x-y面の熱伝導やz方向の断熱に関する良好な技術的効果が得られることを意味する。
【0109】
実施例11
本実施例では、実施例1で調製したエアロゲルを用いる。得られたエアロゲルを同じサイズに3分割して試験片とした。
【0110】
収縮率の測定
得られたエアロゲルについて、ASTM C356及び専用の社内技術に準じて収縮率の測定を行う。この「完全浸漬(full soak)」させる方法では、試験材料を完全に浸漬し、それぞれ24時間で100℃、600℃、900℃まで加熱した後、寸法変化を測定する。実施例11の結果を表4に示す。
【0111】
実施例12
得られるエアロゲルが、SiO/TiOを63重量%、SiCを34重量%、ガラス繊維を3重量%含有すること以外は実施例1と同様にしてエアロゲルを調製した。得られたエアロゲルを同じサイズに3分割して試験片とした。
【0112】
収縮率の測定
得られたエアロゲルについて、ASTM C356及び専用の社内技術に準じて収縮率の測定を行う。この「完全浸漬(full soak)」させる方法では、試験材料を完全に浸漬し、それぞれ24時間で100℃、600℃、900℃まで加熱した後、寸法変化を測定する。実施例12の結果を表4に示す。
【0113】
【表4】
【0114】
表4に示すように、実施例11及び12のエアロゲルは、高温での収縮率が極めて低い。例えば、実施例11及び12では、100℃及び600℃で24時間加熱した後のエアロゲルは収縮していない(0%)。より高い900℃でも、24時間加熱した後のエアロゲルの収縮率はせいぜい、実施例11における1.7%である。一般的に知られているように、SiO/TiOの粒子は、温度が上昇すると焼結及び融合し始め、構造の性質が変化し、伝熱のための固体伝導成分が増加する。しかし、本発明に係る微孔性断熱構造体によれば、収縮率を極めて低くでき、パウチセルに用いた場合の実効性能にほとんど影響を及ぼさない。
【0115】
比較例5
本比較例では、面積3×3mm、厚さ1mmのマイカ(IEC-60371-2、AXIM MICA製)を試験片として用いる。
【0116】
圧縮永久歪みの測定
マイカを10kg(5×5mm)の荷重で1時間圧縮する。圧縮試験前及び圧縮試験後の試験片の厚さを記録し、次式に従って試験片の圧縮永久歪みを決定する。
圧縮永久歪み(%)=(t-t)/t
式中、tは圧縮試験前の試験片の厚さを示し、tは圧縮試験後の試験片の厚さを示す。
比較例5の結果を表5に示す。
【0117】
実施例13
エアロゲルを面積3×3mm、厚さ1mmにしたこと以外は、実施例1と同様にしてエアロゲルを調製した。
【0118】
圧縮永久歪みの測定
得られたエアロゲルを10kg(5×5mm)の荷重で1時間圧縮する。圧縮試験前及び圧縮試験後の試験片の厚さを記録し、比較例5の式に従って試験片の圧縮永久歪みを決定する。実施例13の結果を表5に示す。
【0119】
実施例14
エアロゲルが、SiO/TiOを63重量%、SiCを34重量%、ガラス繊維を3重量%含有すること以外は実施例1と同様にしてエアロゲルを調製した。得られたエアロゲルは面積3×3mm、厚さ1mmであった。
【0120】
圧縮永久歪みの測定
得られたエアロゲルを10kg(5×5mm)の荷重で1時間圧縮する。圧縮試験前及び圧縮試験後の試験片の厚さを記録し、比較例5の式に従って試験片の圧縮永久歪みを決定する。実施例14の結果を表5に示す。
【0121】
【表5】
【0122】
表4から、実施例12及び13の本発明の複合断熱材の中間層としてのエアロゲル材料の圧縮永久歪み(率)は、比較例4のマイカ材料の圧縮永久歪みよりもはるかに高く、これらの複合断熱材は、電池の熱膨張に起因して隣接するセルによって圧縮力が加えられた場合、適切に変形しうることが分かる。このように、本発明の複合断熱材は圧縮可能であるため、リチウム二次電池の動作中の体積変化に適応でき、パウチセルにおける用途に特に有利であると理解される。
【0123】
以上、本発明の具体的な実施形態について説明したが、本発明の範囲から逸脱することなく、当業者には種々の適用及び変更が容易に明らかになるであろう。

【要約】
【課題】安全性の高いパック設計用の異方性熱伝導率を有する多層複合材料の提供。
【解決手段】上記多層複合材料はサンドイッチ構造を有し、超低熱伝導率を有するエアロゲル材料からなる中間層、及びグラフェン系ナノカーボンを含みかつ高い熱伝導率を有する二つの熱伝導層を含み、上記中間層は、二つの熱伝導層に挟まれている。上記多層複合材料は、隣接する二つのセル間に配置されたスペーサーとして用いると、均一な熱分布を達成し、熱伝播を阻止し、充放電中の体積変化に適応できるスペーサーとして機能する。
【選択図】図1
図1
図2
図3