(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】湿式めっき工程におけるバイオフィルムの抑制方法
(51)【国際特許分類】
C25D 21/18 20060101AFI20220405BHJP
C25D 5/20 20060101ALI20220405BHJP
C25D 17/00 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
C25D21/18 G
C25D5/20
C25D21/18 C
C25D21/18 D
C25D17/00 C
(21)【出願番号】P 2021561446
(86)(22)【出願日】2020-11-25
(86)【国際出願番号】 JP2020043777
(87)【国際公開番号】W WO2021106920
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2021-11-02
(31)【優先権主張番号】P 2019213877
(32)【優先日】2019-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】596133201
【氏名又は名称】松田産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】萱沼 義弘
(72)【発明者】
【氏名】吉井 大介
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-501099(JP,A)
【文献】特開2011-052309(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 21/18
C25D 5/20
C25D 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿式めっき装置で使用されるめっき槽、回収槽、水洗槽のいずれか一種以上の槽内で周波数が20kHz~50kHzの超音波を
、間隔をあけて照射することを特徴とするバイオフィルム抑制方法。
【請求項2】
湿式めっき装置で使用されるめっき槽、回収槽、水洗槽のいずれか一種以上の槽内で周波数が20kHz~40kHzの超音波を
、間隔をあけて照射することを特徴とするバイオフィルム抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式めっき工程におけるバイオフィルムの抑制方法に関する。特に湿式めっき工程で使用されるめっき槽、回収槽、水洗槽などで発生するバイオフィルムを抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
湿式めっき工程は、通常、製品にめっきを施すめっき槽、めっきされずに残留しためっき金属を洗浄回収する回収槽、めっき製品を最終的に洗浄する水洗槽、などから構成されている。特に、めっき金属として、金、パラジウム、銀、白金、ロジウム、などの貴金属が使用されるような場合、電解装置や樹脂を用いた回収槽を使用して、残留した貴金属を回収することが重要であり、また、水洗槽においても液中に低濃度であるが、貴金属イオンが存在するため、これらについても、樹脂などを用いて回収されている。
【0003】
ところで、建浴に使用する純水中もしくは環境中に含まれる微生物が、めっき浴に添加されるクエン酸のような有機酸を餌として育ち、めっき槽、回収槽、水洗槽などに藻のようなもの(バイオフィルム)が形成されることがある。特に、めっき浴は、めっき条件を整えるため一定温度に加温されていることもあり、微生物にとって繁殖しやすい条件となっている。バイオフィルムを形成する微生物は一種類ではなく、槽壁には嫌気性細菌類が付着した上に好気性細菌類が集まって形成されるため、それがある程度の大きさになると剥がれて、液中に分散するという問題がある。
【0004】
湿式めっき工程におけるめっき槽、洗浄を行うための回収槽や水洗槽において発生するバイオフィルムは、製品への付着による歩留まりの低下、回収装置の配管や回収用のイオン交換樹脂を閉塞させて、回収不良を発生させている。また、これらの槽、配管、樹脂塔の洗浄のための作業負荷が甚大であり、早急な対応が求められている。このような問題に対して、特許文献1には、めっき関連槽の循環配管中に電磁気装置を取り付けることにより、配管内の微生物増殖を抑制する技術が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、めっきの前処理において、紫外線を照射することにより生じる光触媒反応を用いて、液中の微生物の発生を抑える技術が開示されている。このようにめっき工程で使用される槽中に発生するバイオフィルムによる歩留まり低下を防止するために、めっき液に紫外線を照射したり、オゾン殺菌装置等が用いられたりすることがある。しかし、紫外線は照射した部分は殺菌効果が見られるものの、槽全体に照射することは物理的に難しく、有効な手段となり得ていないのが現状である。また、オゾンもめっき皮膜への影響が懸念され、有効な手段となり得ていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-52309号公報
【文献】特開2010-185117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、湿式めっき工程で使用される、めっき槽、回収層、水洗層などにおいて、バイオフィルムの形成を阻害するための方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決することができる本発明の一態様は、バイオフィルムの形成を阻害する方法であって、湿式めっき工程で使用されるめっき槽、回収槽、水洗槽、などの槽内で周波数20kHz~100kHzの超音波を照射することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、湿式めっき工程で使用されるめっき槽、回収槽、水洗槽、などにおいて、バイオフィルムの形成を阻害することができる。これにより、バイオフィルムの付着による製品不良の歩留りを改善することができる。また、各槽に設置されたイオン交換樹脂や配管の閉塞を軽減することができる。また、めっき槽などの洗浄頻度を低減することができるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】湿式めっき装置で使用される回収槽の概略図である。
【
図3】超音波によるめっき皮膜への影響評価に用いた装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
湿式めっき工程は、通常、製品にめっきを施すめっき槽、めっき製品を洗浄して、めっきされずに残留しためっき金属を回収する回収槽、最終的にめっき製品を洗浄する水洗槽、などから構成されている。めっき金属として、金、パラジウム、銀、白金、ロジウム、などの貴金属が使用されるような場合には、残留した貴金属を回収することが重要であり、また、水洗槽においても、低濃度で残留した貴金属イオンが樹脂等を用いて回収されている。
【0012】
ところで、このような湿式めっき装置で使用されるめっき槽、回収槽、水洗槽などにおいては、建浴に使用する純水中もしくは環境中に含まれる微生物が、めっき浴に添加されるクエン酸のような有機酸を餌として育ち、藻のようなバイオフィルムが形成される。このようなバイオフィルムは、製品(被めっき物)への付着による歩留りの悪化、回収槽のイオン交換樹脂の閉塞による回収不良、水洗槽の配管つまりによる洗浄負荷等の問題を引き起こしている。
【0013】
このようなバイオフィルムの抑制方法として、例えば、特許文献2に開示されているような紫外線殺菌装置やオゾン殺菌装置、もしくは、それらを併用した装置などを使用して、微生物を死滅させる技術がある。しかしながら、紫外線などを照射した部分については殺菌効果が得られるものの、槽全体に紫外線を照射することは物理的に難しく、有効な手段とはなり得ていないのが現状であった。
【0014】
また、オゾンについても殺菌効果は認められているものの、オゾンによるめっき皮膜への影響が懸念されることや、水への溶解度が低いことから、紫外線照射と同様に有効な手段とはなり得ていない。また、バイオフィルムを除去するための薬剤として、殺菌効果の高い次亜塩素を用いることも検討されているが、めっき皮膜に影響があり、また、ランニングコストが高いという問題がある。
【0015】
以上の方法は、いずれも微生物を死滅させる技術であり、一部分あるいは一時的には効果があるものの、実用的な使用には問題があり、さらには、めっき皮膜にも影響を与えるという問題があった。上記問題に関して、本発明者が鋭意研究を重ねた結果、微生物を存在させつつも、微生物にバイオフィルムを形成させないようにすることで、被めっき物に影響を与えることなく、バイオフィルムの形成を阻害できるという知見を見出した。
【0016】
上記知見に基づき、本発明の実施形態に係るバイオフィルムの抑制方法は、めっき槽、回収層、水洗槽など槽内において、周波数20kHz~100kHzの超音波を照射することを特徴とする。これにより、めっき膜の悪影響を及ぼさず、バイオフィルムの形成を効果的に阻害することができる。そして、バイオフィルムの付着による歩留り低下、配管の閉塞やイオン交換樹脂閉塞による回収不良等を防止することができる。
【0017】
従来では、微生物を死滅させることに重点を置いていたため、微生物を死滅させることができる一方で、めっき膜に影響を及ぼす負の側面があったが、本発明では微生物がバイオフィルムを形成しなければ、特に微生物を死滅させる必要はないという新たな着想を得たものであり、この点が特に重要ある。そして、その結果、超音波を使用することで、大規模な紫外線やオゾンの発生装置、めっき膜に影響を及ぼす薬剤の使用をせずとも、バイオフィルムの形成の阻害が可能とした点で、従来技術より秀でた点であるといえる。
【0018】
ところで、湖沼などから回収した被処理水に超音波を照射して、プランクトンなどを除去し、浄化することは知られている。しかし、めっき業界では、めっき皮膜への影響を恐れて、超音波のような物理的刺激を与える手法は忌避されてきた。さらに、水洗槽でも塩ビ溶接が剥がれることの懸念から同様に、槽内で超音波を照射することは行われてこなかった。本発明者らは、めっき槽などの槽内で超音波を照射した場合であっても、その周波数を制御することで、めっき皮膜の悪影響を及ぼさずにバイオフィルムの形成を阻害できることを見出した。
【0019】
具体的には、後述の通り、めっき槽に異なる周波数の超音波を照射して、それぞれ周波数に対するバイオフィルムの発育状態を観察した。その結果、照射する超音波の周波数を20kHz以上100kHz以下であれば、めっき皮膜に悪影響を与えることなく、バイオフィルムの形成を効果的に阻害することが可能であることを確認した。
好ましくは50kHz以下であり、さらに好ましくは40kHz以下である。超音波照射は、めっき膜を形成中であっても可能であり、また、連続的に又は間隔をあけて照射することができる。また、バイオフィルム発育状態を確認しながら、適宜、照射時間を決めることができる。
【0020】
また、超音波装置は、めっき槽、回収槽、水洗槽に直接設置してもよいが、後述の実施例で示すように、回収槽や水洗槽に附属するストック槽内に超音波装置を設置して、ストック槽内で超音波照射した後、その液を還流させてもよい。また、実施例等には示していないが、回収槽や水洗槽の液交換を行うための系外ストック槽に送液し、系外ストック槽に超音波を照射し、系外ストック槽の閉塞を改善することもできる。この場合、液はめっきラインに還流することはなく、系外に排出される。本開示ではこのような系内・系外のストック槽も、めっき槽、回収槽、水洗槽の一部としてその意味に含まれるものとする。
【実施例】
【0021】
本発明の実施例等について説明する。なお、以下の実施例は、あくまで代表的な例を示しているもので、本発明はこれらの実施例に制限される必要はなく、明細書の記載される技術思想の範囲で解釈されるべきものである。
【0022】
湿式めっき工程の全体概略図の一例を
図1に示す。めっき槽1にて、キャリア5を用いて対象製品4のめっきを実施した後、めっき製品4を回収槽2にて洗浄する。回収槽と称しているのは、洗浄することで、めっきされず残留しためっき金属(例えば、貴金属)を回収することを目的としているためである。この回収槽2において、金属イオンの濃度が高い場合には、電解装置などを用いて残留金属を回収し、濃度が低い場合には、イオン交換樹脂などを用いて回収する。その後、水洗槽3において、めっき製品4を洗浄する。このとき、微量にめっき金属が残留しているため、この水洗槽3においても金属の回収を行うことができる。これらのいずれの槽においても、建浴に使用する純水もしくは環境中に含まれる微生物によって、バイオフィルムが形成し、バイオフィルムの付着による歩留り低下、配管の閉塞やイオン交換樹脂閉塞による回収不良等を起こす。
【0023】
次に、
図2に湿式めっき装置の一例で使用される水洗槽3の概略図である。ストック槽8に保管された洗浄水を、フィルター10を介して循環ポンプ11によって水洗槽3内に注入する。めっき製品の洗浄に使用した後は、液中のめっき金属の回収工程を経て、再度、ストック槽8に戻される。なお、説明の都合上、めっき金属回収工程の詳細は図から省略する。洗浄水ストック槽8に超音波装置9を設置して、超音波を照射する。これにより、洗浄水中の微生物によるバイオフィルムの形成を抑制する。
このとき、バイオフィルムは、側壁に形成されやすいことから、超音波を側壁に照射することがより効果的である。ここでは、ストック槽8に超音波装置9を設置した例を図示しているが、水洗槽3中で超音波を照射しても、同様の効果が得られる。同様に、めっき槽1、回収槽2においても、各槽あるいは各ストック槽に超音波装置を設置し、超音波を照射することで、バイオフィルムの形成を抑制することができる。
【0024】
(バイオフィルム抑制の効果評価)
図2に示した水洗槽を用いて、バイオフィルム抑制の効果を評価した。テストピースとして、PVC板を50mm×50mmに加工したものを水洗槽に設置し、設置後、2週間超音波(周波数:20kHz~40kHz)を照射したテストピースを「超音波あり」とし、新たにテストピースを設置し、超音波を2週間停止したものを「超音波なし」として、評価した。そして、この操作を3回繰り返した後、テストピースを採取した。それぞれに付着したバイオフィルムを全量採取した後、一般生菌数測定と重量変化を調べた。一般生菌数測定については、採取したテストピース上のバイオフィルムを一定量の純水に入れ、十分に撹拌した後、一般生菌数測定キットにて測定した。また、重量変化については、純水にて洗い流し、乾燥させた後、乾燥させた後の乾燥残渣重量を精密天秤にて測定した。
【0025】
その結果を表1に示す。表1に示す通り、超音波ありの場合、重量増がほとんどなく、超音波なしの場合に比べて一般生菌数の著しく低減していることが確認できた。
【表1】
【0026】
(超音波によるめっき皮膜への影響評価)
めっき皮膜(無電解Ni/Pd/Auめっき皮膜)を形成した試験用めっき基板Aと、レジスト皮膜が形成された試験用レジスト基板Bを準備した。次に、
図3に示すように、純水で満たされた水槽内に、めっき基板A(レジスト基板B)をワイヤーで吊り下げて投入し、めっき面(レジスト面)に超音波の照射面が対向するようにして超音波振動子を設置した。次に、超音波(周波数帯20~40kHz、出力15W)を1分、10分照射し、それぞれの照射時間ごとに水槽内からめっき基板A(レジスト基板B)を引き上げ、基板を乾燥させて、めっき皮膜(レジスト皮膜)の状態等について評価を行った。なお、めっき基板Aとレジスト基板Bとは、別々の水槽を用いて試験を行っている。
【0027】
めっき皮膜およびレジスト皮膜の密着性を確認するために、テープによるピーリング試験を行った。その結果、超音波の照射時間を1分、10分とした場合、超音波を照射しなかった場合(超音波:0分)と変化はなく、良好な結果が得られた。次に、めっき皮膜の表面をSEM(走査型電子顕微鏡)によって観察し、レジスト皮膜の表面をデジタルマイクロスコープによって観察した結果、表2に示す通り、良好な結果が得られた。以上の通り、超音波の照射はめっき皮膜の悪影響を及ぼさないことが確認できた。
【0028】
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、湿式めっき工程で使用されるめっき槽、回収槽、水洗槽などにおいて、めっき皮膜に悪影響を与えることなく、バイオフィルムの発生を抑制することができる。これにより、バイオフィルムの付着による製品不良の歩留りを改善することができる。また、各槽に設置されたイオン交換樹脂や配管の閉塞を軽減することができる。また、めっき槽などの洗浄頻度を低減することができるという優れた効果を有する。本発明は、湿式めっき工程において、有用である。
【符号の説明】
【0030】
1 めっき槽
2 回収槽
3 洗浄槽
4 製品
5 キャリア
6 給水
7 排水
8 ストック槽
9 超音波装置
10 フィルター
11 循環ポンプ