(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-05
(45)【発行日】2022-04-13
(54)【発明の名称】脂肪酸エステルの流動点を降下させる方法
(51)【国際特許分類】
C07C 67/00 20060101AFI20220406BHJP
C10M 105/32 20060101ALI20220406BHJP
C10N 30/02 20060101ALN20220406BHJP
C10N 40/20 20060101ALN20220406BHJP
C10N 40/22 20060101ALN20220406BHJP
C10N 40/24 20060101ALN20220406BHJP
【FI】
C07C67/00
C10M105/32
C10N30:02
C10N40:20 Z
C10N40:22
C10N40:24 Z
(21)【出願番号】P 2021066687
(22)【出願日】2021-04-09
【審査請求日】2021-04-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591066362
【氏名又は名称】築野食品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】築野 卓夫
(72)【発明者】
【氏名】山本 弥
(72)【発明者】
【氏名】福 和真
【審査官】布川 莉奈
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-310502(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0125448(KR,A)
【文献】特開2004-067957(JP,A)
【文献】特開平09-050623(JP,A)
【文献】特開2010-275471(JP,A)
【文献】特開2006-274036(JP,A)
【文献】特開2005-154726(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C10M
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)及び(2)の条件を満たす、2以上の異なる脂肪酸エステルを混合する工程を含む、得られる脂肪酸エステル混合物の流動点を混合工程前の各脂肪酸エステルの流動点よりも降下させる方法
であって、2以上の異なる脂肪酸エステルが、下記(I)~(VI)のいずれかを含む、方法:
(1)2以上の異なる脂肪酸エステルの流動点の差が25℃以内であること、
(2)2以上の異なる脂肪酸エステルのエステル結合の総和が5以上であること
、
(I)(A)ネオペンチルグリコールとイソステアリン酸のエステル及び(B)2-エチルヘキサノールとトリマー酸のエステル、
(II)(C)トリメチロールプロパンとオレイン酸のエステル及び(D)2-エチルヘキサノールとトリマー酸のエステル、
(III)(E)トリメチロールプロパンとイソステアリン酸のエステル並びに(F)ペンタエリスリトールと、オクタン酸、イソノナン酸及びデカン酸からなる脂肪酸のエステル、
(IV)(G)トリメチロールプロパンとイソステアリン酸のエステル並びに(H)ジペンタエリスリトールと、ヘプタン酸、オクタン酸、イソノナン酸及びデカン酸からなる脂肪酸のエステル、
(V)(I)ペンタエリスリトールと、オクタン酸及びデカン酸からなる脂肪酸のエステル並びに(J)ジペンタエリスリトールと、ヘプタン酸、オクタン酸、イソノナン酸及びデカン酸からなる脂肪酸のエステル、又は
(VI)(K)ジペンタエリスリトールとイソノナン酸のエステル並びに(L)ジペンタエリスリトールと、ヘプタン酸、オクタン酸、イソノナン酸及びデカン酸からなる脂肪酸のエステル。
【請求項2】
脂肪酸エステル混合物の総質量に対して、2以上の異なる脂肪酸エステルのそれぞれが5質量%以上含まれることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪酸エステルの流動点を降下させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
流動点降下剤は、エステル系基油を含む潤滑油組成物において、流動点を低下させ、潤滑油組成物の適用温度範囲を広げるものであることが知られている(例えば特許文献1参照)。しかし、脂肪酸エステルに流動点降下剤を添加することで流動点を降下させる方法においては、流動点以外の性能に悪影響を与える可能性及び、流動点降下剤が他の添加剤と反応しスラッジを生成する恐れがあり、基油によって添加剤を使い分ける必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、流動点降下剤を使用しなくても脂肪酸エステルの流動点を降下させることができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために、多数の試行錯誤を繰り返し、鋭意研究を重ねた結果、特定の条件を満足させる脂肪酸エステルを混合させることにより、予想外にも流動点を降下させることができることを見出し、さらに鋭意研究を重ね、本発明を完成させた。
【0006】
本発明は、以下の発明等に関する。
[1] 下記(1)及び(2)の条件を満たす、2以上の異なる脂肪酸エステルを混合する工程を含む、得られる脂肪酸エステル混合物の流動点を混合工程前の各脂肪酸エステルの流動点よりも降下させる方法:
(1)2以上の異なる脂肪酸エステルの流動点の差が25℃以内であること、
(2)2以上の異なる脂肪酸エステルのエステル結合の総和が5以上である。
[2] 脂肪酸エステル混合物の総質量に対して、2以上の異なる脂肪酸エステルのそれぞれが5質量%以上含まれることを特徴とする、[1]に記載の方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の方法により、流動点降下剤を使用しなくても脂肪酸エステルの流動点を降下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施例において使用した脂肪酸エステルC及びDの混合割合と脂肪酸エステルC及びDの混合物の流動点との関係を示すグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、下記(1)及び(2)の条件を満たす、2以上の異なる脂肪酸エステルを混合する工程を含む、得られる脂肪酸エステル混合物の流動点を混合工程前の各脂肪酸エステルの流動点よりも降下させる方法を提供する。
(1)2以上の異なる脂肪酸エステルの流動点の差が25℃以内であること
(2)2以上の異なる脂肪酸エステルのエステル結合の総和が5以上である
【0010】
本発明において、脂肪酸エステルは、アルコールと脂肪酸のエステルを意味する。
【0011】
エステルを構成するアルコールは、例えば、メタノール、エタノール、ノルマルプロパノール、イソプロパノール、ノルマルブタノール、イソブタノール、2-エチルヘキサノール、アミルアルコール、フェノール等の1価のアルコール;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等の2価のアルコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等の3価のアルコール、ペンタエリスリトール、ジグリセリン等の4価のアルコール、5価のアルコール、ジペンタエリスリトール等の6価のアルコール等の多価アルコール;又はこれらの組み合わせが挙げられる。これらアルコールの分子量は約34~300程度であることが好ましく、約34~260程度であることがより好ましい。本開示において、「約」は、±2を包含する意味である。
【0012】
エステルを構成する脂肪酸は、一価であっても多価であってもよく、飽和であっても不飽和であってもよく、直鎖状であっても分岐状であってもよく、環状であってもよい。不飽和の炭素結合の数及び分岐の数は、特に限定されない。不飽和の炭素結合とは、炭素同士の二重結合又は三重結合をいう。不飽和炭素結合の数は、通常1~21程度である。
【0013】
好ましい脂肪酸の例として、ブタン酸(酪酸)、ペンタン酸(吉草酸)、ヘキサン酸(カプロン酸)、ヘプタン酸(エナント酸)、オクタン酸(カプリル酸)、ノナン酸(ペラルゴン酸)、デカン酸(カプリン酸)、ドデカン酸(ラウリン酸)、テトラデカン酸(ミリスチン酸)、ペンタデカン酸(ペンタデシル酸)、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、9-ヘキサデセン酸(パルミトレイン酸)、ヘプタデカン酸(マルガリン酸)、オクタデカン酸(ステアリン酸)、cis-9-オクタデセン酸(オレイン酸)、11-オクタデセン酸(バクセン酸)、cis,cis-9,12-オクタデカジエン酸(リノール酸)、9,12,15-オクタデカントリエン酸((9,12,15)-リノレン酸)、6,9,12-オクタデカトリエン酸((6,9,12)-リノレン酸)、9,11,13-オクタデカトリエン酸(エレオステアリン酸)、エイコサン酸(アラキジン酸)、8,11-エイコサジエン酸、5,8,11-エイコサトリエン酸(ミード酸)、5,8,11-エイコサテトラエン酸(アラキドン酸)、ドコサン酸(ベヘン酸)、テトラコサン酸(リグノセリン酸)、cis-15-テトラコサン酸(ネルボン酸)、ヘキサコサン酸(セロチン酸)、オクタコサン酸(モンタン酸)、トリアコンタン酸(メリシン酸)等の炭素数4~30(好ましくは18~22)の飽和又は不飽和の、直鎖又は分岐の脂肪酸が挙げられる。「分岐の」は「イソ」と読み替えてもよい。
【0014】
また、脂肪酸の例として、モノマー酸、ダイマー酸、トリマー酸、又はこれらの組み合わせ等が挙げられる。モノマー酸、ダイマー酸、トリマー酸の組み合わせである脂肪酸の例として、築野食品工業株式会社製の、ツノダイム205(モノマー酸10質量%、ダイマー酸76質量%、トリマー酸14質量%)、ツノダイム216(モノマー酸7質量%、ダイマー酸77質量%、トリマー酸14質量%)、ツノダイム228(モノマー酸5質量%、ダイマー酸81質量%、トリマー酸14質量%)、ツノダイム395(モノマー酸3質量%、ダイマー酸94質量%、トリマー酸3質量%)、ツノダイム346(モノマー酸2質量%、ダイマー酸28質量%、トリマー酸70質量%)等が挙げられる。
【0015】
エステルは上記アルコールと上記脂肪酸をエステル化反応させることにより製造される。このような反応は従来十分に確立されているので本発明においてもこれに従ってよい。またエステルは、例えば、TFE-30A(築野食品工業株式会社製)、TFE-40A(築野食品工業株式会社製)、TFE-220A(築野食品工業株式会社製)等の市販品を購入することによっても入手できる。
【0016】
2以上の異なる脂肪酸エステル
2以上の異なる脂肪酸エステルは、下記(1)及び(2)の条件を満たす。
(1)2以上の異なる脂肪酸エステルの流動点の差が25℃以内であること
(2)2以上の異なる脂肪酸エステルのエステル結合の総和が5以上である
異なる脂肪酸エステルの数は2以上であり、例えば2~10であってもよく、2~8であってもよく、2~6であってもよく、2~3であってもよい。
【0017】
流動点を測定する方法は、従来十分に確立されているので、本発明においてもそれに従ってよい。流動点を測定する方法として、例えば、後述の実施例に記載の方法を採用してもよい。流動点を測定する方法として、例えば、自動流動点・曇り点試験器 mpc-6形(田中科学機器製作株式会社製)を用いて、取扱説明書に記載の方法に従ってもよい。この測定方法は米国規格(ASTM D6749-02(2018) 石油製品の流動点(自動エア圧力法)のための標準試験方法)に従っており、また、日本工業規格(JIS 2269:1987 原油及び石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法)に対応している測定方法である。具体的には、当該試験器の測定用セルに各種脂肪酸を標線まで入れ、45℃まで予備加熱した後、予期点+40℃までは4℃/分、それ以降は試験終了まで1℃/分の速度で冷却することが好ましい。
【0018】
2以上の異なる脂肪酸エステルの流動点の差は、25℃以内であり、好ましくは20℃以内であり、より好ましくは16℃以内であり、さらに好ましくは10℃以内であり、特に好ましくは6℃以内である。
異なる脂肪酸エステルの数が3以上である場合、流動点の差を求める対象となる脂肪酸エステルは、例えば、流動点の差が最も大きい2つの異なる脂肪酸エステルであってもよく、流動点の差が最も小さい2つの異なる脂肪酸エステルであってもよく、無作為に抽出した2つの異なる脂肪酸エステルであってもよく、異なる脂肪酸エステル全てであってもよい。
【0019】
2以上の異なる脂肪酸エステルのエステル結合の総和は、各脂肪酸エステルのエステル結合の数の和である。
2以上の異なる脂肪酸エステルのエステル結合の総和は、5以上であり、例えば、5~30であってもよく、5~24であってもよく、5~18であってもよく、5~12であってもよく、5~9であってもよい。
【0020】
2以上の異なる脂肪酸エステルの質量割合及び質量比
2以上の異なる脂肪酸エステルの質量割合及び質量比は、本発明の効果を失しない限り、特に限定されない。2以上の異なる脂肪酸エステルの質量割合は、脂肪酸エステル混合物の総質量に対して、2以上の異なる脂肪酸エステルのそれぞれが5質量%以上含まれることが好ましく、10質量%以上含まれることがより好ましく、15質量%以上含まれることがさらに好ましく、20質量%以上含まれることがさらに好ましく、25質量%以上含まれることが特に好ましい。
【0021】
2以上の異なる脂肪酸エステルが、2つの異なる脂肪酸エステルA及びBである場合、質量比(A:B)は、例えば、1:(1/19~19)が好ましく、1:(1/3~3)がより好ましく、1:1が特に好ましい。
2以上の異なる脂肪酸エステルが、3つの異なる脂肪酸エステルA、B及びCである場合、質量比(A:B:C)は、例えば、1:(1/19~19):(1/19~19)が好ましく、1:(1/3~3):(1/3~3)がより好ましく、1:1:1が特に好ましい。
2以上の異なる脂肪酸エステルが、4つの異なる脂肪酸エステルA、B、C及びDである場合、質量比(A:B:C:D)は、例えば、1:(1/19~19):(1/19~19):(1/19~19)が好ましく、1:(1/3~3):(1/3~3):(1/3~3)がより好ましく、1:1:1:1が特に好ましい。
2以上の異なる脂肪酸エステルが、5つの異なる脂肪酸エステルA、B、C、D及びEである場合、質量比(A:B:C:D:E)は、例えば、1:(1/19~19):(1/19~19):(1/19~19):(1/19~19)が好ましく、1:(1/3~3):(1/3~3):(1/3~3):(1/3~3)がより好ましく、1:1:1:1:1が特に好ましい。
【0022】
2以上の異なる脂肪酸エステルが、6つの異なる脂肪酸エステルA、B、C、D、E及びFである場合、質量比(A:B:C:D:E:F)は、例えば、1:(1/19~19):(1/19~19):(1/19~19):(1/19~19):(1/19~19)が好ましく、1:(1/3~3):(1/3~3):(1/3~3):(1/3~3):(1/3~3)がより好ましく、1:1:1:1:1:1が特に好ましい。
2以上の異なる脂肪酸エステルが、7つの異なる脂肪酸エステルA、B、C、D、E、F及びGである場合、質量比(A:B:C:D:E:F:G)は、例えば、1:(1/19~19):(1/19~19):(1/19~19):(1/19~19):(1/19~19):(1/19~19)が好ましく、1:(1/3~3):(1/3~3):(1/3~3):(1/3~3):(1/3~3):(1/3~3)がより好ましく、1:1:1:1:1:1:1が特に好ましい。
2以上の異なる脂肪酸エステルが、8つの異なる脂肪酸エステルA、B、C、D、E、F、G及びHである場合、質量比(A:B:C:D:E:F:G:H)は、例えば、1:(1/19~19):(1/19~19):(1/19~19):(1/19~19):(1/19~19):(1/19~19):(1/19~19)が好ましく、1:(1/3~3):(1/3~3):(1/3~3):(1/3~3):(1/3~3):(1/3~3):(1/3~3)がより好ましく、1:1:1:1:1:1:1:1が特に好ましい。
【0023】
2以上の異なる脂肪酸エステルが、9つの異なる脂肪酸エステルA、B、C、D、E、F、G、H及びIである場合、質量比(A:B:C:D:E:F:G:H:I)は、例えば、1:(1/19~19):(1/19~19):(1/19~19):(1/19~19):(1/19~19):(1/19~19):(1/19~19):(1/19~19)が好ましく、1:(1/3~3):(1/3~3):(1/3~3):(1/3~3):(1/3~3):(1/3~3):(1/3~3):(1/3~3)がより好ましく、1:1:1:1:1:1:1:1:1が特に好ましい。
2以上の異なる脂肪酸エステルが、10の異なる脂肪酸エステルA、B、C、D、E、F、G、H、I及びJである場合、質量比(A:B:C:D:E:F:G:H:I:J)は、例えば、1:(1/19~19):(1/19~19):(1/19~19):(1/19~19):(1/19~19):(1/19~19):(1/19~19):(1/19~19):(1/19~19)が好ましく、1:(1/3~3):(1/3~3):(1/3~3):(1/3~3):(1/3~3):(1/3~3):(1/3~3):(1/3~3):(1/3~3)がより好ましく、1:1:1:1:1:1:1:1:1:1が特に好ましい。
【0024】
混合工程
2以上の異なる脂肪酸エステルを混合する工程における温度条件、撹拌条件等の混合の条件は、特に限定されず、混合の結果、混合物が均一に混ざっていることが好ましい。温度条件は例えば、約0~30℃であってもよく、約0~25℃であってもよい。撹拌には、公知の撹拌体(実験室スケール及び工場スケールのものを含む)を使用してよい。撹拌時間は、例えば約5~60分間であってもよく、約10~30分間であってもよい。
【0025】
効果
上記混合工程により、得られる脂肪酸エステル混合物の流動点を、混合工程前の各脂肪酸エステルの流動点よりも降下させることができる。得られる脂肪酸エステル混合物は、その流動点が降下することで、例えば、低温環境下でも流動性があり作業性が向上する。本開示において低温とは、例えば-10℃~20℃であり、好ましくは-10℃~10℃であり、より好ましくは、-10~5℃であり、さらに好ましくは、0~3℃である。得られる脂肪酸エステル混合物は、例えば、潤滑油、金属加工油、圧延油、金属切削油等として有用である。
【0026】
本発明は、本発明の効果を奏する限り、本発明の技術的範囲内において、上述の構成を種々組み合わせた態様を含む。
【実施例】
【0027】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。
【0028】
1.脂肪酸エステルの原料
脂肪酸エステルの製造に用いた原料は下記の通りである。
(アルコール)
2-エチルヘキサノール(2EH);商品名:2-エチルヘキサノール;三菱ケミカル株式会社製
ネオペンチルグリコール(NPG);三菱ガス化学株式会社製
トリメチロールプロパン(TMP);三菱ガス化学株式会社製
ペンタエリスリトール(PE);Perstorp社製
ジペンタエリスリトール(DiPE);Perstorp社製
(脂肪酸)
ヘプタン酸(C7);商品名:OLERIS(登録商標) n-heptanoic acid;アルケマ株式会社製
オクタン酸(C8);商品名:ルナック8-98;花王株式会社製
デカン酸(C10);商品名:ルナック10-98;花王株式会社製
イソノナン酸(iC9);商品名:キョーワノイックN;KHネオケム株式会社製
イソステアリン酸(iC18);イソステアリン酸は、ヤシ油脂肪酸、パーム油脂肪酸、オリーブ油脂肪酸、ひまし油脂肪酸、トール油脂肪酸、或はトール油脂肪酸などの不飽和脂肪酸の重合により副生したモノマー酸(例えば、TFA-45、築野食品工業株式会社製)中に含有される分岐脂肪酸を分離して得られる。
オレイン酸(OL);商品名:SINAR-OL;SOCI MAS社製
トリマー酸;商品名:Td346;築野食品工業株式会社製
(市販品の脂肪酸エステル)
ペンタエリスリトールと脂肪酸(オクタン酸、デカン酸)とのエステル;商品名:TFE-30A:築野食品工業株式会社製
ペンタエリスリトールと脂肪酸(オクタン酸、イソノナン酸、デカン酸)とのエステル;商品名:TFE-40A;築野食品工業株式会社製
ジペンタエリスリトールと脂肪酸(ヘプタン酸、オクタン酸、イソノナン酸、デカン酸)とのエステル;商品名:TFE-220A;築野食品工業株式会社製
【0029】
2.流動点の測定方法
自動流動点・曇り点試験器 mpc-6形(田中科学機器製作株式会社製)を用いて、取扱説明書に記載の方法に従って、各種脂肪酸エステルの流動点を測定し、評価を行った。尚、この測定方法は米国規格(ASTM D6749-02(2018) 石油製品の流動点(自動エア圧力法)のための標準試験方法)に従っており、また、日本工業規格(JIS 2269:1987 原油及び石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法)に対応している測定方法である。具体的には、当該試験器の測定用セルに各種脂肪酸を標線まで入れ、45℃まで予備加熱した後、予期点+40℃までは4℃/分、それ以降は試験終了まで1℃/分の速度で冷却した。
【0030】
3.脂肪酸エステルの製造と流動点測定
上記原料アルコールと原料脂肪酸とを常法により、エステル化反応させて得た脂肪酸エステル及び使用した市販品の脂肪酸エステルを下記表1に示す。
【0031】
【0032】
[A、Mの脂肪酸エステル製造方法]
攪拌器、温度計、冷却管付きディーンスターク管を備えた1Lの4つ口フラスコに、イソステアリン酸569g(2.00モル)、ネオペンチルグリコール91g(0.87モル)、及び触媒として、酸化スズを総量に対し0.05重量%仕込み、窒素雰囲気下で230℃まで昇温した。230℃到達後、減圧し、留出してくる生成水をディーンスターク管で除去しながら、エステル化反応を行った。水酸基価が5.0mgKOH/g以下になったところで反応を終了した。反応終了後、エステル化粗物に対してそれぞれ0.2重量%の活性炭と活性白土を投入し、80℃で30分攪拌した後、1時間減圧下で攪拌した。その後、常圧に戻し、濾過してそれらを除去した。次いで、得られたエステル化ろ過物の過剰の酸と低沸点成分を薄膜蒸留器により留去して本発明の脂肪酸エステル(エステルA、M)を得た。
【0033】
[B、Dの脂肪酸エステル製造方法]
攪拌器、温度計、冷却管付きディーンスターク管を備えた1Lの4つ口フラスコに、Td346 424g(0.50モル)、2-エチルヘキサノール260g(2.00モル)、及び触媒として、酸化スズを総量に対し0.1重量%仕込み、窒素雰囲気下で230℃まで昇温した。230℃到達後、減圧し、留出してくる生成水をディーンスターク管で除去しながら、エステル化反応を行った。酸価が1.0mgKOH/g以下になったところで反応を終了した。反応終了後、それぞれ0.2重量%の活性炭と活性白土を投入し、80℃で30分攪拌した後、1時間減圧下で攪拌した。その後、常圧に戻し、濾過してそれらを除去した。次いで、得られたエステル化粗物の過剰のアルコールと低沸点成分を薄膜蒸留により除去して本発明の脂肪酸エステル(エステルB、D)を得た。
【0034】
[Cの脂肪酸エステル製造方法]
ネオペンチルグリコールの代わりにトリメチロールプロパン78g(0.58モル)、イソステアリン酸の代わりにオレイン酸565g(2.00モル)を使用した以外は、Aの製造方法と同様の方法により、本発明の脂肪酸エステル(エステルC)を得た。
【0035】
[E、Gの脂肪酸エステル製造方法]
ネオペンチルグリコールの代わりにトリメチロールプロパン78g(0.58モル)を使用した以外は、Aの製造方法と同様の方法により、本発明の脂肪酸エステル(エステルE、G)を得た。
【0036】
[Fの脂肪酸エステル製造方法]
ネオペンチルグリコールの代わりにペンタエリスリトール110g(0.81モル)、イソステアリン酸の代わりにオクタン酸198g(1.37モル)、イソノナン酸164g(1.04モル)、デカン酸237g(1.38モル)を使用した以外は、Aの製造方法と同様の方法により、本発明の脂肪酸エステル(エステルF)を得た。
【0037】
[H、J、Lの脂肪酸エステル製造方法]
ネオペンチルグリコールの代わりにジペンタエリスリトール134g(0.53モル)、イソステアリン酸の代わりにヘプタン酸37g(0.29モル)、オクタン酸33g(0.23モル)、イソノナン酸469g(2.97モル)、デカン酸41g(0.24モル)を使用した以外は、Aの製造方法と同様の方法により、本発明の脂肪酸エステル(エステルH、J、L)を得た。
【0038】
[Iの脂肪酸エステル製造方法]
ネオペンチルグリコールの代わりにペンタエリスリトール101g(0.75モル)、イソステアリン酸の代わりにオクタン酸324g(2.24モル)、デカン酸215g(1.25モル)を使用した以外は、Aの製造方法と同様の方法により、本発明の脂肪酸エステル(エステルI)を得た。
【0039】
[Kの脂肪酸エステル製造方法]
ネオペンチルグリコールの代わりにジペンタエリスリトール121g(0.48モル)、イソステアリン酸の代わりにイソノナン酸522g(3.30モル)を使用した以外は、Aの製造方法と同様の方法により、本発明の脂肪酸エステル(エステルK)を得た。
【0040】
[Nの脂肪酸エステル製造方法]
イソステアリン酸の代わりにヘプタン酸508g(3.90モル)を使用した以外は、Aの製造方法と同様の方法により、本発明の脂肪酸エステル(エステルN)を得た。
【0041】
4.物性の確認結果
脂肪酸エステル混合物の流動点測定結果を下記表2に示す。
【0042】
【0043】
実施例2a~cのケースを含む、脂肪酸エステルC及びDを混合した場合の流動点の変化を
図1に示す。
【0044】
表1及び2並びに
図1から明らかなように、実施例においては、用いた脂肪酸エステルの流動点の差が、25℃以内であり、かつ、エステル結合の数の総和が5以上であり、脂肪酸エステル混合物の流動点は、用いた脂肪酸エステルのいずれの流動点よりも降下していた。一方、比較例においては、用いた脂肪酸エステルの流動点の差が、25℃をはるかに超えており、かつ、エステル結合の数の総和が4、即ち5未満であり、脂肪酸エステル混合物の流動点は、用いた脂肪酸エステルの流動点よりも上昇していた。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の方法により、得られる脂肪酸エステル混合物の流動点を、混合工程前の各脂肪酸エステルの流動点よりも降下させることができる。得られる脂肪酸エステル混合物は、その流動点が降下することで、例えば、低温環境下でも流動性があり作業性が向上する。得られる脂肪酸エステル混合物は、例えば、潤滑油、金属加工油、圧延油、金属切削油等として有用である。
【要約】
【課題】流動点降下剤を使用しなくても脂肪酸エステルの流動点を降下させることができる方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 下記(1)及び(2)の条件を満たす、2以上の異なる脂肪酸エステルを混合する工程を含む、得られる脂肪酸エステル混合物の流動点を混合工程前の各脂肪酸エステルの流動点よりも降下させる方法:
(1)2以上の異なる脂肪酸エステルの流動点の差が25℃以内であること、
(2)2以上の異なる脂肪酸エステルのエステル結合の総和が5以上であること。
【選択図】
図1