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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-05
(45)【発行日】2022-04-13
(54)【発明の名称】剥離剤組成物及び剥離シート
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/18 20060101AFI20220406BHJP
   C08F 220/18 20060101ALI20220406BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20220406BHJP
   C08K 5/29 20060101ALI20220406BHJP
   C08L 33/06 20060101ALI20220406BHJP
   C09J 133/06 20060101ALI20220406BHJP
【FI】
C09K3/18
C08F220/18
C08J5/18 CEY
C08K5/29
C08L33/06
C09J133/06
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018056074
(22)【出願日】2018-03-23
(65)【公開番号】P2019167440
(43)【公開日】2019-10-03
【審査請求日】2020-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000224123
【氏名又は名称】藤倉化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100160093
【弁理士】
【氏名又は名称】小室 敏雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】筒井 耕介
(72)【発明者】
【氏名】小川 健
【審査官】工藤 友紀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/113589(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/136435(WO,A1)
【文献】特開平03-103411(JP,A)
【文献】特開2014-040511(JP,A)
【文献】特開2011-141494(JP,A)
【文献】特開2016-079238(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 20/00- 20/70
C08F 120/00-120/70
C08F 220/00-220/70
C08L 33/00- 30/26
C08K 5/29
C09J 133/06
C08J 5/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式1で表される構成単位(A)と、下記式2で表される構成単位(B)と、下記式3で表される構成単位(C)とを有し、
全構成単位の合計を100質量%としたときに、前記構成単位(A)の割合が60~99.4質量%、前記構成単位(B)の割合が0.5~20質量%、前記構成単位(C)の割合が0.1~10質量%であり、
重量平均分子量が2000~30000であるアクリル共重合体と、
架橋剤とを含む剥離剤組成物
【化1】
(式中、R、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、Rは、炭素数8~28の直鎖又は分岐の炭化水素基を表し、Rは、水酸基、アミノ基、カルボキシル基及びエポキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する炭化水素基、又は水素原子を表し、Rは、炭化フッ素基を表す。)
【請求項2】
基材の少なくとも一方の面に、請求項に記載の剥離剤組成物から形成された剥離層を有する剥離シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル共重合体、剥離剤組成物及び剥離シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体デバイスの製造工程等において粘着シートが用いられている。粘着シートの粘着層には通常、粘着層を保護するために、剥離層を有する剥離シートが積層されている。
剥離層を形成する剥離剤としては、剥離力が軽い(小さい)点から、シリコーン系化合物を含むシリコーン系剥離剤が一般的に用いられている。しかし、シリコーン系剥離剤は、シリコーン系化合物が粘着層に移行して粘着層を汚染しやすい問題がある。そこで、シリコーン系化合物を含まない非シリコーン系剥離剤が求められる。
【0003】
非シリコーン系剥離剤として、長鎖アルキル基を有するアクリル系樹脂を含むアクリル系剥離剤が知られている。しかし、アクリル系剥離剤は一般に、シリコーン系剥離剤に比べて剥離力が重い(大きい)問題がある。
そこで、以下のような剥離剤組成物が提案されている。
(1)特定の式で表される、炭素数12~28の長鎖アルキル基を有する構成単位を有するポリ(メタ)アクリル酸エステルと、液状ポリマーと、架橋剤とを含み、ポリ(メタ)アクリル酸エステル及び液状ポリマーの少なくとも一方が反応性官能基を有する剥離剤組成物(特許文献1)。
(2)主鎖炭素数16~28の直鎖又は分岐脂肪族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルと、主鎖炭素数4~14の直鎖又は分岐脂肪族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルと、(メタ)アクリル酸及び反応性官能基を有する(メタ)アクリル酸エステルの少なくとも一方とを反応させて得られるプレポリマー、及びポリオール化合物等からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物(架橋剤)を含む剥離剤原料組成物(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-137940号公報
【文献】特開2017-125091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1又は2の剥離剤組成物を用いると、剥離層に架橋構造が導入されることで、剥離層の剥離力が軽減される。しかし、特許文献1又は2の剥離剤組成物から形成される剥離層の剥離性は未だ充分ではない。
【0006】
本発明は、剥離性に優れた剥離層を形成できる剥離剤組成物が得られるアクリル共重合体、並びに剥離性に優れた剥離層を形成できる剥離剤組成物及びこれを用いた剥離シートの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の態様を有する。
〔1〕下記式1で表される構成単位(A)と、下記式2で表される構成単位(B)と、下記式3で表される構成単位(C)とを有し、
重量平均分子量が2000~30000であるアクリル共重合体。
【0008】
【化1】
【0009】
(式中、R、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、Rは、炭素数8~28の直鎖又は分岐の炭化水素基を表し、Rは、水酸基、アミノ基、カルボキシル基及びエポキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する炭化水素基、又は水素原子を表し、Rは、炭化フッ素基を表す。)
〔2〕全構成単位の合計を100質量%としたときに、前記構成単位(A)の割合が60~99.4質量%、前記構成単位(B)の割合が0.5~20質量%、前記構成単位(C)の割合が0.1~10質量%である前記〔1〕のアクリル共重合体。
〔3〕前記〔1〕又は〔2〕のアクリル共重合体と、架橋剤とを含む剥離剤組成物。
〔4〕基材の少なくとも一方の面に、前記〔3〕の剥離剤組成物から形成された剥離層を有する剥離シート。
【発明の効果】
【0010】
本発明のアクリル共重合体によれば、剥離性に優れた剥離層を形成できる剥離剤組成物が得られる。
本発明の剥離剤組成物によれば、剥離性に優れた剥離層を形成できる。
本発明の剥離シートが有する剥離層は、剥離性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔アクリル共重合体〕
本発明のアクリル共重合体は、下記式1で表される構成単位(A)と、下記式2で表される構成単位(B)と、下記式3で表される構成単位(C)とを有し、重量平均分子量が2000~30000である。
【0012】
【化2】
【0013】
式1~式3中、R、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表す。R、R及びRはそれぞれ、水素原子及びメチル基のいずれでもよく、アクリル共重合体のガラス転移温度が低くなり、剥離層へ優れた柔軟性を付与できる点で、水素原子が好ましい。
【0014】
式1中、Rは、炭素数8~28の直鎖又は分岐の炭化水素基を表す。Rの炭素数が上記数値の範囲内であれば、本発明のアクリル共重合体を含む剥離剤組成物から形成された層が剥離層として機能し得る。
直鎖又は分岐の炭化水素基は、飽和炭化水素基でも不飽和炭化水素基でもよく、重合安定性、すなわちゲル化物抑制の観点から、飽和炭化水素基、すなわちアルキル基が好ましい。
としては、2-エチルヘキシル基、オクチル基、イソオクチル基、ノニル基、イソノニル基、イソデシル基、n-ラウリル基、トリデシル基、ヘキサデシル基、イソステアリル基、n-ステアリル基、ベヘニル基等が挙げられる。
【0015】
式2中、Rは、水酸基、アミノ基、カルボキシル基及びエポキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基(以下、「反応性官能基」ともいう。)を有する炭化水素基、又は水素原子を表す。炭化水素基の炭素原子間にエステル結合やエーテル結合が介在していてもよい。Rは、典型的には、水酸基を有する炭化水素基、アミノ基を有する炭化水素基、カルボキシル基を有する炭化水素基、エポキシ基を有する炭化水素基又は水素原子である。
【0016】
式3中、Rは、炭化フッ素基を表す。
炭化フッ素基としては、直鎖又は分岐の炭化フッ素基が好ましい。直鎖又は分岐の炭化フッ素基の炭素数は、2~8が好ましい。直鎖又は分岐の炭化フッ素基としては、フルオロアルキル基が好ましい。
炭化フッ素基としては、2,2,2-トリフルオロエチル基、2,2,3,3-テトラフルオロプロピル基、1H,1H,5H-オクタフルオロペンチル基、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロオクチル基等が挙げられる。
【0017】
構成単位(A)は、典型的には、下記式m1で表されるモノマー(a)に基づく構成単位である。
CH=C(R)-COOR 式m1
【0018】
モノマー(a)としては、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸n-ラウリル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸イソステアリル、(メタ)アクリル酸n-ステアリル、(メタ)アクリル酸ベヘニル等が挙げられる。これらのモノマーはいずれか1種が単独で用いられてもよく2種以上が併用されてもよい。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル」はアクリル酸2-エチルヘキシル又はメタクリル酸2-エチルヘキシルを示す。他の(メタ)アクリル酸エステルについても同様である。
【0019】
構成単位(B)は、典型的には、下記式m2で表されるモノマー(b)に基づく構成単位である。
CH=C(R)-COOR 式m2
【0020】
モノマー(b)としては、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、アクリル酸、メタクリル酸、フタル酸2-メタクリロイルオキシエチル、ヘキサヒドロフタル酸2-メタクリロイルオキシエチル、コハク酸2-メタクリロイルオキシエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチルグリシジルエーテル等が挙げられる。これらのモノマーはいずれか1種が単独で用いられてもよく2種以上が併用されてもよい。
【0021】
構成単位(C)は、典型的には、下記式m3で表されるモノマー(c)に基づく構成単位である。
CH=C(R)-COOR 式m3
【0022】
モノマー(c)としては、(メタ)アクリル酸2,2,2-トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸2,2,3,3-テトラフルオロプロピル、(メタ)アクリル酸1H,1H,5H-オクタフルオロペンチル、(メタ)アクリル酸3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロオクチル等が挙げられる。これらのモノマーはいずれか1種が単独で用いられてもよく2種以上が併用されてもよい。
【0023】
本発明のアクリル共重合体を構成する全構成単位の合計を100質量%としたときに、構成単位(A)の割合は、60~99.4質量%が好ましく、85~98質量%がより好ましい。構成単位(A)の割合が前記範囲の下限値以上であれば、本発明のアクリル共重合体を含む剥離剤組成物から形成される剥離層が充分な剥離力を発現しやすい。構成単位(A)の割合が前記範囲の上限値以下であれば、構成単位(B)、(C)による効果が充分に発現しやすい。
【0024】
本発明のアクリル共重合体を構成する全構成単位の合計を100質量%としたときに、構成単位(B)の割合は、0.5~20質量%が好ましく、1.0~10質量%がより好ましい。構成単位(B)のCOORは、架橋剤と反応する架橋点として機能する。構成単位(B)の割合が前記範囲の下限値未満の場合、剥離層の架橋度が充分ではないため、剥離層の剥離性、剥離層の強度が劣るおそれがある。構成単位(B)の割合が前記範囲の上限値を越える場合、構成単位(A)、(C)による効果が充分に発現しづらくなる。
【0025】
本発明のアクリル共重合体を構成する全構成単位の合計を100質量%としたときに、構成単位(C)の割合は、0.1~10質量%が好ましく、1.0~5.0質量%がより好ましい。構成単位(C)の割合が前記範囲の下限値未満の場合、剥離層中に充分な量のRを導入できず、剥離層の剥離性が劣るおそれがある。構成単位(C)の割合が前記範囲の上限値を越える場合、構成単位(A)、(B)による効果が充分に発現しづらくなる。
【0026】
本発明のアクリル共重合体は、発明の効果を損なわない範囲で、構成単位(A)、構成単位(B)及び構成単位(C)以外の他の構成単位をさらに含んでいてもよい。
他の構成単位としては、例えば、炭素数1~7の炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルに基づく構成単位が挙げられる。
全構成単位の合計を100質量%としたときの、構成単位(A)、構成単位(B)及び構成単位(C)の合計の割合は、70質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、100質量%が特に好ましい。
【0027】
本発明のアクリル共重合体の重量平均分子量(Mw)は、2000~30000であり、3000~20000が好ましい。重量平均分子量が前記範囲の上限値以下であれば、剥離層の剥離力を軽くしやすい。重量平均分子量が前記範囲の下限値以上であれば、アクリル共重合体を製造しやすい。
アクリル共重合体の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定される標準ポリスチレン換算の値である。
【0028】
以上説明した本発明のアクリル共重合体にあっては、構成単位(A)と構成単位(B)と構成単位(C)とを有し、重量平均分子量が2000~30000であるため、架橋剤と組み合わせて剥離剤組成物としたときに、剥離性に優れた剥離層を形成できる。本発明のアクリル共重合体を用いた剥離層は、粘着層に積層した後に剥離する際の剥離力が軽く、また、剥離層を積層する前後で粘着層の粘着力を変化させにくい。
また、上記剥離剤組成物から形成される剥離層は、架橋剤と反応した架橋塗膜であるため、耐ブロッキング性にも優れる。
上記効果を奏することから、本発明のアクリル共重合体は、剥離剤用アクリル共重合体であることが好ましい。ただし、本発明のアクリル共重合体の用途は剥離剤に限定されるものではなく、無機化合物等の分散性を向上させる分散剤、高分子化合物等を可塑化する可塑剤、高分子化合物等を相溶化する相溶化剤等の用途にも適用可能である。
【0029】
<アクリル共重合体の製造方法>
本発明のアクリル共重合体の製造方法としては、例えば、前記モノマー(a)と前記モノマー(b)と前記モノマー(c)とを含むモノマー混合物を、重合開始剤及び溶媒の存在下で重合(溶液重合)する方法が挙げられる。
【0030】
モノマー混合物は、モノマー(a)、モノマー(b)及びモノマー(c)以外の他のモノマーをさらに含んでいてもよい。
モノマー混合物の総質量を100質量%としたときのモノマー(a)、モノマー(b)、モノマー(c)それぞれの好ましい割合は、アクリル共重合体の全構成単位の合計を100質量%としたときの構成単位(A)、構成単位(B)、構成単位(C)それぞれの好ましい割合と同様である。
【0031】
重合開始剤としては、公知の重合開始剤を使用でき、例えば2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイル等が挙げられる。
【0032】
溶媒としては、例えばトルエン、キシレン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、イソプロパノール、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、イソブタノール、セカンダリーブチルアルコール、2-オクタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ブチレングリコールモノメチルエーテル、ブチレングリコールモノエチルエーテル等が挙げられる。これらの溶媒はいずれか1種が単独で用いられてもよく2種以上が併用されてもよい。
【0033】
前記モノマー混合物を重合すると、構成単位(A)と構成単位(B)と構成単位(C)とを有するアクリル共重合体と、溶媒とを含む樹脂溶液が得られる。必要に応じて、得られた樹脂溶液から溶媒を留去する。
【0034】
モノマー混合物の重合は、例えば、以下の手順で実施できる。
反応容器にモノマー混合物、重合開始剤及び溶媒を仕込み、任意の重合温度で任意の重合時間反応させる。
重合条件は、得られるアクリル共重合体の重量平均分子量が前記範囲内となるように設定される。アクリル共重合体の重量平均分子量は、モノマー混合物の100質量部に対する重合開始剤の割合、重合時間、重合温度等により調整できる。
【0035】
モノマー混合物の100質量部に対する重合開始剤の割合は、0.1~5質量部であり、0.3~4.0質量部が好ましく、0.5~3.0質量部がより好ましい。重合開始剤の割合が前記範囲の下限値以上であると、アクリル共重合体の重量平均分子量を前記範囲の上限値以下としやすい。重合開始剤の割合が前記範囲の上限値以下であると、アクリル共重合体中に残存する重合開始剤やその分解物の含有量が少なく、剥離層の剥離性がより優れる。
【0036】
モノマー混合物100質量部に対する溶媒の割合は、例えば、40~900質量部であってよい。
重合温度は、例えば60~130℃にであってよい。重合時間は、例えば3~10時間であってよい。重合は、大気下で行ってもよく、窒素等の不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。
【0037】
〔剥離剤組成物〕
本発明の剥離剤組成物は、上述の本発明のアクリル共重合体と架橋剤とを含む。
本発明の剥離剤組成物に含まれる本発明のアクリル共重合体は、1種でもよく2種以上でもよい。
【0038】
架橋剤は、構成単位(B)が有するCOORと反応して架橋構造を形成する。これにより、剥離層の剥離性が向上する。
架橋剤は、典型的には、COORと反応可能な官能基(以下、「架橋性官能基」ともいう。)を2以上有する多官能化合物である。COORが水酸基を含む場合、架橋性官能基としては、イソシアネート基等が挙げられる。COORがアミノ基を含む場合、架橋性官能基としては、カルボキシル基、エポキシ基等が挙げられる。COORがカルボキシル基を含む場合、架橋性官能基としては、アミノ基、エポキシ基、金属キレート化合物等が挙げられる。COORがエポキシ基を含む場合、架橋性官能基としてはアミノ基、カルボキシル基等が挙げられる。
【0039】
架橋剤としては、アクリル共重合体の構成単位(B)の官能基との反応性の点から、多官能イソシアネート化合物、多官能カルボン酸化合物及び多官能アミノ化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
多官能イソシアネート化合物としては、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)、キシレンジイソシアネート(XDI)、ナフタレンジイソシアネート(NDI)、トリメチロールプロパン(TMP)アダクトTDI、TMPアダクトHDI、TMPアダクトIPDI、TMPアダクトXDI等が挙げられる。
多官能カルボン酸化合物としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸等が挙げられる。
多官能アミノ化合物としては、例えば、エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、N,N’-ジフェニルエチレンジアミン、p-キシリレンジアミン等が挙げられる。
架橋剤として、多官能エポキシ化合物や金属キレート化合物を用いてもよい。
【0040】
本発明の剥離剤組成物は、必要に応じて、発明の効果を損なわない範囲で、本発明のアクリル共重合体及び架橋剤以外の他の成分をさらに含んでいてもよい。
他の成分としては、溶媒、本発明のアクリル共重合体以外の他の樹脂、COORと架橋剤との反応を促進する触媒、帯電防止剤、界面活性剤、酸化防止剤、滑剤、難燃剤、着色剤、耐光安定剤、耐熱安定剤、等が挙げられる。
【0041】
溶媒としては、例えばトルエン、キシレン、メタノール、エタノール、イソブタノール、n-ブタノール、酢酸エチル、メチルエチルケトン、アセトン、テトラヒドロフラン、イソプロパノール、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等が挙げられる。
【0042】
他の樹脂としては、例えばポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、ポリペンタジエン、ポリブテン、ポリイソブチレン、ポリスチレン、イソプレン-ブタジエン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体、ポリオレフィン及びこれらの誘導体等が挙げられる。他の樹脂は、水酸基、アミノ基、カルボキシル基等の官能基を有していてもよい。これらの樹脂はいずれか1種が単独で用いられてもよく2種以上が併用されてもよい。
【0043】
本発明の剥離剤組成物において、架橋剤の含有量は、本発明のアクリル共重合体100質量部に対し、0.5~10質量部が好ましく、1.0~5.0質量部がより好ましい。架橋剤の含有量が前記範囲の下限値以上であれば、剥離層の剥離性、剥離層の強度がより優れる。架橋剤の含有量が前記範囲の上限値以下であれば、剥離性がより優れる。
【0044】
本発明のアクリル共重合体に対する他の樹脂の質量比(他の樹脂/本発明のアクリル共重合体)は、例えば0/100~90/10であってよい。
【0045】
本発明の剥離剤組成物は、本発明のアクリル共重合体と、架橋剤と、必要に応じて他の成分を混合することにより製造できる。
【0046】
以上説明した本発明の剥離剤組成物にあっては、本発明のアクリル共重合体と架橋剤とを含むため、剥離性に優れた剥離層を形成できる。本発明の剥離剤組成物から形成された剥離層は、粘着層に積層した後に剥離する際の剥離力が軽く、また、剥離層を積層する前後で粘着層の粘着力を変化させにくい。
また、本発明の剥離剤組成物から形成される剥離層は、耐ブロッキング性にも優れる。
【0047】
〔剥離シート〕
本発明の剥離シートは、基材の少なくとも一方の面に、上述の本発明の剥離剤組成物から形成された剥離層を有する。
剥離シートは、枚葉状のシートでもよく、長尺のシート(テープ等)でもよい。
【0048】
剥離層は、本発明のアクリル共重合体と架橋剤との反応生成物を含む。
剥離層の厚さは、通常、0.1~5.0μm、好ましくは0.1~1.0μm程度である。
剥離層は、基材の一方の面のみに設けられてもよく、両方の面に設けられてもよい。
【0049】
基材としては、剥離シートの基材として公知のものを特に制限されることなく使用でき、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリブタジエン、塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、トリアセチルセルロース、ポリノルボルネン等の樹脂からなる樹脂フィルム;上質紙、無塵紙、グラシン紙、クレーコート紙、樹脂コート紙、ラミネート紙(ポリエチレンラミネート紙、ポリプロピレンラミネート紙等)等の紙;不織布、金属箔等が挙げられる。
【0050】
基材の厚さは、用途や基材の材質等に応じて適宜選定できる。基材が樹脂フィルムである場合には、基材の厚さは、通常、5~300μm、好ましくは20~200μm程度である。基材が紙である場合には、基材の厚さは、通常、坪量として20~450g/m、好ましくは40~220g/m程度である。
【0051】
本発明の剥離シートは、基材の少なくとも一方の面に本発明の剥離剤組成物からなる層を形成し、本発明のアクリル共重合体と架橋剤とが反応させることにより製造できる。それらを反応させることによって架橋構造が形成され、剥離層が形成される。
本発明の剥離剤組成物からなる層は、常法により形成できる。例えば本発明の剥離剤組成物が溶媒を含む場合には、剥離剤組成物を、グラビアコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ナイフコート法、バーコート法、スプレーコート法等の公知のウェットコート方法により基材上に塗布することにより前記層を形成できる。
本発明のアクリル共重合体と架橋剤とは、例えば、前記層を加熱することによって反応させ得る。加熱条件としては、例えば50~200℃で1~60分間の条件が挙げられる。
前記層が溶媒を含む場合には、本発明のアクリル共重合体と架橋剤とを反応させる際の加熱によって溶媒を除去してもよいし、本発明のアクリル共重合体と架橋剤とを反応させる前に予め、本発明のアクリル共重合体と架橋剤とが反応しない温度で前記層を乾燥して溶媒を除去してもよい。
【0052】
本発明の剥離シートの用途に特に制限はなく、公知の剥離剤の用途と同様であってよい。
例えば、粘着層を有する粘着シート等の粘着層に、剥離層側の表面が接するように本発明の剥離シートを積層してもよい。
粘着シートの製造に本発明の剥離シートを用いてもよい。例えば、本発明の剥離シートの剥離層側の表面に粘着剤を塗布して粘着層を形成し、その上に粘着シートの基材又は別の本発明の剥離シートを積層する。これにより、基材の一方の面に粘着層を有する粘着シート又は両方の面に本発明の剥離シートが積層された両面粘着シート(粘着層)が得られる。
本発明の剥離シートが、基材の一方の面に剥離層を有するものである場合、基材の他方の面に粘着層を形成し、剥離層付き粘着シートとしてもよい。このような粘着シートは、ロール状に巻き取られた状態で保存できる。
【実施例
【0053】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下において「部」は「質量部」を示す。「%」は、特に規定のない場合、「質量%」を示す。
【0054】
(実施例1)
<アクリル共重合体の製造>
重合用の攪拌羽を装着した攪拌棒、攪拌機、温度計、窒素パージ用のガラス管を備えたセパラブルフラスコに、プロピレングリコールモノメチルエーテル233部と、アクリル酸n-ラウリル93.0部と、アクリル酸2-ヒドロキシエチル5.0部と、アクリル酸2,2,2-トリフルオロエチル2.0部と、重合開始剤(2,2’-アゾビスイソブチロニトリル)2.0部とを加え、窒素雰囲気下、撹拌しながら90℃で8時間保持して溶液重合を行い、アクリル共重合体30%を含む樹脂溶液を得た。
得られた樹脂溶液から前記記載の溶媒を130℃で減圧留去して、重量平均分子量(Mw)が5000のアクリル共重合体を得た。
アクリル共重合体のMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により、標準ポリスチレン換算の値を測定して求めた。
【0055】
<剥離剤組成物の製造>
前記アクリル共重合体100部にトルエン350部と、3官能性イソシアネート(東ソー株式会社製、コロネートL)2.66部をトルエン7.34部に溶解した溶液とを加え、室温で攪拌して剥離剤組成物を得た。
【0056】
<剥離シートの製造>
前記剥離剤組成物を、膜厚50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(パナック社製、ルミラー50S10)上にバーコーターを用いて、乾燥後の膜厚が1μm以下となるよう塗工し、その塗膜を110℃で5分間加熱した。これにより、塗膜を乾燥させると共にアクリル共重合体と3官能性イソシアネートとを反応させて硬化塗膜(剥離層)を形成し、剥離シートを得た。
【0057】
<剥離性の評価>
アクリル系粘着剤(藤倉化成株式会社製、アクリベース LKG-1413)100部に、3官能性イソシアネート(東ソー株式会社製、コロネートL)1.33部をトルエン8.67部に溶解した溶液を加え、室温で攪拌して粘着剤組成物を得た。この粘着剤組成物を前記剥離シートの剥離層上に、ドクターブレードを使用して乾燥後の膜厚が30μmとなるよう塗工し、その塗膜を100℃で5分間加熱した。これにより、塗膜を乾燥させると共にアクリル系粘着剤と3官能性イソシアネートを反応させて粘着層を形成した。次に、膜厚50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(パナック社製、ルミラー50S10)を粘着層の上に貼り合せ、2kgゴムローラーで往復させて圧着し、40℃で72時間放置し、さらに23℃で24時間放置し、積層体を得た。
得られた積層体を25mm幅に切断した後、温度23℃、湿度50%下で、引張試験機(株式会社東洋精機製作所製、STROGRAPH VG1-E)を用いて、引張速度300mm/minで剥離シートを180°剥離して剥離力(mN/25mm)を求めた。
求めた剥離力を以下の基準で判定した。
〇:剥離力が200mN/25mm以下。
×:剥離力が200mN/25mm超。
【0058】
(実施例2~4、8~10、比較例1~4)
アクリル共重合体の製造においてセパラブルフラスコに加える材料を表1~2に示すように変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行い、アクリル共重合体、剥離剤組成物及び剥離シートを製造し、剥離層の剥離性を評価した。表1~2中、各材料の配合量の単位は「部」である(以下同様)。アクリル共重合体のMw及び評価結果を表1~2に併記した。
【0059】
(実施例5~7)
アクリル共重合体の製造においてセパラブルフラスコに加える材料を表1に示すように変更したこと、及び3官能性イソシアネート1.33部の代わりに下記の架橋剤を用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、アクリル共重合体、剥離剤組成物及び剥離シートを製造し、剥離層の剥離性を評価した。アクリル共重合体のMw及び評価結果を表1に併記した。
実施例5:アジピン酸1.0部。
実施例6:ヘキサメチレンジアミン1.0部。
実施例7:コハク酸1.0部。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
上記結果に示すとおり、実施例1~10で得た剥離シートの剥離層は、比較例1~4で得た剥離シートの剥離層に比べ、剥離力が小さく、剥離性に優れたものであった。