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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-05
(45)【発行日】2022-04-13
(54)【発明の名称】ヒートシンク付き絶縁回路基板
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20220406BHJP
   H01L 23/12 20060101ALI20220406BHJP
   H05K 1/02 20060101ALI20220406BHJP
【FI】
H01L23/36 C
H01L23/12 J
H05K1/02 F
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020510020
(86)(22)【出願日】2019-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2019012325
(87)【国際公開番号】W WO2019188884
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2020-09-17
(31)【優先権主張番号】P 2018059658
(32)【優先日】2018-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】湯本 遼平
(72)【発明者】
【氏名】大開 智哉
(72)【発明者】
【氏名】北原 丈嗣
(72)【発明者】
【氏名】長友 義幸
【審査官】平林 雅行
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-094867(JP,A)
【文献】特開2002-076214(JP,A)
【文献】特開2016-167502(JP,A)
【文献】特開2013-247230(JP,A)
【文献】特開2001-135789(JP,A)
【文献】特開2014-143342(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/12-23/15
H01L 23/29
H01L 23/34-23/36
H01L 23/373-23/427
H01L 23/44
H01L 23/467-23/473
H05K 1/00-1/02
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基板、前記セラミックス基板の一方の面に接合された回路層、および前記セラミックス基板の他方の面に接合されたアルミニウム又はアルミニウム合金からなる金属層を備える絶縁回路基板と;前記金属層に接合されたヒートシンクと;を備えるヒートシンク付き絶縁回路基板であって、
前記ヒートシンクは、前記金属層に接合された銅又は銅合金からなる厚さT1の第1金属層と、前記第1金属層の前記金属層とは反対側の面に接合されたセラミックス板材と、前記セラミックス板材の前記第1金属層とは反対側の面に接合された銅又は銅合金からなる厚さT2の第2金属層と、を有し、
前記第1金属層の前記厚さT1は0.3mm以上3.0mm以下であり、厚さ比率T1/T2が1.0以上であり、
前記ヒートシンクにおける前記セラミックス板材の平面サイズが、前記絶縁回路基板における前記セラミックス基板の平面サイズより大きいことを特徴とするヒートシンク付き絶縁回路基板。
【請求項2】
前記厚さ比率T1/T2が10.0以下であることを特徴とする請求項1に記載のヒートシンク付き絶縁回路基板。
【請求項3】
前記第2金属層の前記厚さT2が0.3mm以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のヒートシンク付き絶縁回路基板。
【請求項4】
前記回路層は、アルミニウム又はアルミニウム合金により構成され、
前記セラミックス基板は、窒化アルミニウムにより構成され、
前記セラミックス板材は、窒化珪素により構成されている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のヒートシンク付き絶縁回路基板。
【請求項5】
前記金属層と前記第1金属層とは、固相拡散接合していることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のヒートシンク付き絶縁回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大電流、高電圧を制御する半導体装置に用いられるパワーモジュール用基板等の絶縁回路基板にヒートシンクが接合されたヒートシンク付き絶縁回路基板に関する。本願は、2018年3月27日に出願された特願2018-59658号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
窒化アルミニウムを始めとするセラミックス基板からなる絶縁層の一方の面に回路層が接合されるとともに、他方の面にアルミニウム板を介してアルミニウム系のヒートシンクが接合されたヒートシンク付絶縁回路基板が知られている。
【0003】
例えば特許文献1に開示されているヒートシンク付絶縁回路基板は、セラミックス基板からなる絶縁層の一方の面に純アルミニウム板、アルミニウム合金板、純銅板、銅合金板等のいずれかからなる回路層が接合され、絶縁層の他方の面に純アルミニウム又はアルミニウム合金の金属板からなる金属層が接合され、この金属層に、アルミニウム又はアルミニウム合金で構成されたヒートシンクが銅層を介して接合されている。この場合、絶縁層と金属層とはろう材を用いて接合され、金属層とヒートシンクとは、その間に介在した銅層との間で固相拡散接合されている。
【0004】
このようなヒートシンク付き絶縁回路基板において、セラミックス基板とアルミニウム板のような熱膨張係数の異なる部材の接合による反りが発生するおそれがある。そのような反りを防止するため、ヒートシンクの材料として、特許文献2に開示される多孔質炭化珪素成形体にアルミニウムを主成分とする金属を含浸させてなる低膨張係数の複合体を用いることが考えられる。
【0005】
特許文献3は、第1のセラミックス基板の一方の面に第1の金属板が接合され、第1のセラミックス基板の他方の面と第2のセラミックス基板の一方の面に第2の金属板が接合され、第2のセラミックス基板の他方の面に複数のフィンを有する板状の放熱部材が接合されてなる金属-セラミックス接合基板(ヒートシンク付き絶縁回路基板)を開示している。この金属-セラミックス接合基板は、第1のセラミックス基板および第2のセラミックス基板をカーボン製の鋳型内に間隔を開けて配置し、アルミニウム合金溶湯を鋳型に流し込んで冷却、固化させることにより形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-60215号公報
【文献】特開2000-281465号公報
【文献】特開2017-212316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献3に開示されている金属-セラミックス接合基板は、2枚のセラミックス基板を鋳型内に間隔を開けて配置して、溶融状態のアルミニウム合金を鋳型に流し込むことにより製造されるため、全ての金属板、放熱部材およびフィンが同じアルミニウム合金となる。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、絶縁回路基板の金属層と異なる組成の金属からなるヒートシンクが接合されてなるヒートシンク付絶縁回路基板の反りを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のヒートシンク付き絶縁回路基板は、セラミックス基板、前記セラミックス基板の一方の面に接合された回路層、および前記セラミックス基板の他方の面に接合されたアルミニウム又はアルミニウム合金からなる金属層を備える絶縁回路基板と;前記金属層に接合されたヒートシンクと;を備え、前記ヒートシンクは、前記金属層に接合された銅又は銅合金からなる厚さT1の第1金属層と、前記第1金属層の前記金属層とは反対側の面に接合されたセラミックス板材と、前記セラミックス板材の前記第1金属層とは反対側の面に接合された銅又は銅合金からなる厚さT2の第2金属層と、を有し、前記第1金属層の前記厚さT1は0.3mm以上3.0mm以下であり、厚さ比率T1/T2が1.0以上であり、前記ヒートシンクにおける前記セラミックス板材の平面サイズが、前記絶縁回路基板における前記セラミックス基板の平面サイズより大きい
【0010】
本発明では、ヒートシンクが絶縁回路基板の金属層に接合された第1金属層と、前記第1金属層に接合されたセラミックス板材と、前記セラミックス板材に接合された第2金属層とにより構成されている。すなわち、銅又は銅合金からなる第1金属層と第2金属層との内側にセラミックス板材が内蔵されているので、このヒートシンクの線膨張係数を小さくでき、絶縁回路基板との線膨張差を小さくできる。これにより、ヒートシンク付き絶縁回路基板の高温時と低温時との反り変化量を抑制できる。
【0011】
また、第1金属層の厚さT1を0.3mm以上3.0mm以下としたのは、第1金属層の厚さT1が0.3mm未満であるとヒートシンクの放熱効果が低下する可能性があり、厚さT1が3.0mmを超えると、銅又は銅合金からなる第1金属層の膨張の影響が大きくなり、セラミックス板材との接合体(ヒートシンク)の線膨張が増大するため、絶縁回路基板とヒートシンクとの接合体であるヒートシンク付き絶縁回路基板の反りが増大するからである。また、第1金属層の厚さT1が第2金属層の厚さT1未満となると、ヒートシンク付き絶縁回路基板の加熱時に絶縁回路側に凸状に反る可能性があるから、T1/T2を1.0以上とする。
【0012】
本発明のヒートシンク付き絶縁回路基板の好ましい態様としては、前記厚さ比率T1/T2が10.0以下であるとよい。
【0013】
本発明のヒートシンク付き絶縁回路基板の好ましい態様としては、前記第2金属層の前記厚さT2が0.3以上であるとよい。
【0014】
本発明のヒートシンク付き絶縁回路基板の好ましい態様としては、前記回路層はアルミニウム又はアルミニウム合金により構成され、前記セラミックス基板は窒化アルミニウムにより構成され、前記セラミックス板材は窒化珪素により構成されているとよい。
【0015】
本発明のヒートシンク付き絶縁回路基板の好ましい態様としては、前記金属層と前記第1金属層とは、固相拡散接合しているとよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、金属層を有する絶縁回路基板と、絶縁回路基板の金属層とは異なる組成の金属層を有するヒートシンクとが接合されてなるヒートシンク付絶縁回路基板の反りを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係るヒートシンク付き絶縁回路基板を用いたパワーモジュールを示す断面図である。
図2】上記実施形態におけるヒートシンク付き絶縁回路基板を回路層側から見た平面図である。
図3A図1に示すヒートシンク付き絶縁回路基板の製造方法を説明する断面図である。
図3B図1に示すヒートシンク付き絶縁回路基板の製造方法を説明する断面図である。
図3C図1に示すヒートシンク付き絶縁回路基板の製造方法を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0019】
[絶縁回路基板の概略構成]
本発明に係るヒートシンク付き絶縁回路基板100は、図1に示すように、絶縁回路基板1にヒートシンク2が接合されてなり、例えば、パワーモジュール用基板として用いられる。このヒートシンク付き絶縁回路基板100の表面(上面)には、図1の二点鎖線で示すように、素子30が搭載されパワーモジュールとなる。
【0020】
この素子30は、半導体を備えた電子部品であり、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)、FWD(Free Wheeling Diode)等の種々の半導体素子が選択される。この場合、素子30は、図示を省略するが、上部に上部電極部が設けられ、下部に下部電極部が設けられており、下部電極部が回路層12の上面にはんだ31等により接合されることで、素子30が回路層12の上面に搭載される。また、素子30の上部電極部は、はんだ等で接合されたリードフレーム等を介して回路層12の回路電極部等に接続され、パワーモジュールが製造される。
【0021】
[絶縁回路基板の構成]
絶縁回路基板1は、セラミックス基板11と、セラミックス基板11の一方の面に接合された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面に接合された金属層13とを備える。
【0022】
セラミックス基板11は、回路層12と金属層13の間の電気的接続を防止する矩形板状の絶縁基板であって、例えば窒化アルミニウム(AlN)、窒化珪素(Si)、酸化アルミニウム(Al)、ジルコニア強化アルミナ基板等により形成され、その厚さは0.2mm~1.2mmである。なお、セラミックス基板11の両面に接合される回路層12及び金属層13がいずれもアルミニウム又はアルミニウム合金からなる場合には、窒化アルミニウムにより構成されることが好ましい。
【0023】
また、セラミックス基板11の平面サイズは、特に限定されないが、本実施形態では40mm~140mm×40mm~100mmに設定されている。
【0024】
回路層12は、セラミックス基板11の上面(表面)に接合され、純度99質量%以上の純アルミニウム又はアルミニウム合金が用いられ、その厚さは、例えば0.2mm以上0.9mmである。
【0025】
また、回路層12の平面サイズはセラミックス基板11よりも小さく、特に限定されないが、本実施形態では36mm~136mm×36mm~96mmに設定されている。
【0026】
金属層13は、セラミックス基板11の下面(裏面)に接合され、純度99質量%以上の純アルミニウム又はアルミニウム合金が用いられ、JIS規格では1000番台のアルミニウム、特に1N99(純度99.99質量%以上:いわゆる4Nアルミニウム)を用いることができる。その厚さは、例えば0.2mm~0.9mmである。
【0027】
また、金属層13の平面サイズはセラミックス基板11よりも小さく、特に限定されないが、本実施形態では36mm~136mm×36mm~96mmで回路層12と同じに設定されている。なお、回路層12及び金属層13は、同じ組成で、かつ、同じ厚さ、大きさであることが好ましい。
【0028】
[ヒートシンクの構成]
ヒートシンク2は、絶縁回路基板1に接合されて、前記絶縁回路基板1から伝達された熱を放熱する。このヒートシンク2は、絶縁回路基板1の金属層13に接合された第1金属層21と、第1金属層21の下面(裏面)に接合されたセラミックス板材23と、セラミックス板材23の下面(裏面)に接合された第2金属層22とからなる。
【0029】
第1金属層21は、銅又は銅合金からなり、その厚さT1は0.3mm以上3.0mm以下に設定されている。また、第2金属層22は、銅又は銅合金からなり、その厚さT2は0.3mm以上3.0mm以下に設定されている。
【0030】
なお、第1金属層21の厚さが0.3mm未満であるとヒートシンク2の放熱効果が低下する可能性があり、3.0mmを超えると、セラミックス板材23との接合体(ヒートシンク2)の線膨張が増大するため、絶縁回路基板1とヒートシンク2との接合体であるヒートシンク付き絶縁回路基板100の反りが増大する。また、第1金属層21の厚さが第2金属層22の厚さよりも小さいと、ヒートシンク2が加熱時に第1金属層21側に凸状に反る可能性がある。このため、第1金属層21の厚さT1は、0.3mm以上3.0mm以下、かつ第2金属層22の厚さT2以上に(第2金属層22の厚さT2と等しいか、厚さT2より厚く)設定されている。
【0031】
また、第1金属層21の厚さT1と第2金属層22の厚さT2との厚さ比率T1/T2は1.0以上であり、10.0以下であることが好ましい。
【0032】
セラミックス板材23は、ヒートシンク2と絶縁回路基板1との線膨張差を低減させるために設けられており、窒化珪素(Si)、窒化アルミニウム(AlN)、酸化アルミニウム(Al)、ジルコニア強化アルミナ基板等により形成され、その厚さT3は、0.2mm~1.2mmに設定されている。
【0033】
また、第1金属層21、第2金属層22及びセラミックス板材23の平面サイズはセラミックス基板11よりも大きく、特に限定されないが、いずれも同じ大きさに設定され、例えば、50mm~180mm×60mm~140mmに設定されている。なお、セラミックス板材23は、その両面に銅又は銅合金からなる第1金属層21及び第2金属層22が接合されるため、窒化珪素により構成されることがより好ましい。
【0034】
ヒートシンク付き絶縁回路基板100を回路層12側から見た場合、図2に示すように、回路層12よりもセラミックス基板11が大きく、セラミックス基板11よりもヒートシンク2(第1金属層21,第2金属層22およびセラミックス板材23)が大きい。
【0035】
以上説明したように、ヒートシンク2は、銅又は銅合金からなる第1金属層21と第2金属層22との内側にセラミックス板材23が内蔵された構成となっている。
【0036】
[ヒートシンク付き絶縁回路基板の製造方法]
次に、本実施形態のヒートシンク付き絶縁回路基板100の製造方法について説明する。
【0037】
ヒートシンク付き絶縁回路基板100の製造方法は、図3A~3Cに示すように、セラミックス基板11に純アルミニウム又はアルミニウム合金からなる回路層用金属板120及び金属層用金属板130を接合する絶縁回路基板製造工程(図3A)と、セラミックス板材23に銅又は銅合金からなる第1金属層用金属板210及び第2金属層用金属板220を接合するヒートシンク製造工程(図3B)と、絶縁回路基板1とヒートシンク2とを接合する接合工程(図3C)と、を有する。以下、この工程順に説明する。
【0038】
(絶縁回路基板製造工程)
まず、図3Aに示すように、セラミックス基板11に回路層用金属板120及び金属層用金属板130をそれぞれAl-Si系のろう材を用いて接合する。具体的には、セラミックス基板11の表面(上面)及び裏面(下面)に、それぞれAl-Si系のろう材箔14を介在させて回路層用金属板120及び金属層用金属板130を積層し、これらの積層体をカーボン板により挟持し、積層方向に荷重をかけながら真空中で加熱することにより、セラミックス基板11と回路層用金属板120及び金属層用金属板130を接合する。これにより、セラミックス基板11の表面(上面)に回路層12が接合部(ろう付け部)を介して接合され、裏面(下面)に金属層13が接合部(ろう付け部)を介して接合された絶縁回路基板1が形成される。
【0039】
なお、積層方向への加圧力は0.3MPa~1.5MPa、加熱温度は630℃以上655℃以下とするとよい。また、Al-Si系ろう材箔は、厚さ5μm~15μmであるとよい。さらに、Al-Si系ろう材の他、Al-Ge系、Al-Cu系、Al-Mg系、Al-Mn系、又はAl-Si-Mg系ろう材を用いることもできる。
【0040】
(ヒートシンク製造工程)
次に、図3Bに示すように、厚さT3が0.2mm~1.2mmのセラミックス板材23に厚さT1が0.3mm~3.0mmの第1金属層用金属板210及び厚さT2が0.3mm~3.0mmかつT1以下の第2金属層用金属板220をそれぞれAg-Cu-Ti系のろう材を用いて接合する。具体的には、セラミックス板材23の表面(上面)及び裏面(下面)に、それぞれAg-Cu-Ti系のろう材箔14を介在させて第1金属層用金属板210及び第2金属層用金属板220を積層し、これらの積層体をカーボン板により挟持し、積層方向に荷重をかけながら真空中で加熱することにより、セラミックス板材23と第1金属層用金属板210及び第2金属層用金属板220を接合する。これにより、セラミックス板材23の表面(上面)に厚さT1が0.3mm~3.0mmの第1金属層21が接合部(ろう付け部)を介して接合され、裏面(下面)に厚さT2が0.3mm~3.0mmで、かつ第1金属層21の厚さT1以下の第2金属層22が接合部(ろう付け部)を介して接合されたヒートシンク2が形成される。
【0041】
また、積層方向への加圧力は0.1MPa~1.0MPa、加熱温度は800℃~930℃とするとよい。また、Ag-Cu-Ti系ろう材箔は、厚さ5μm~15μmであるとよい。さらに、Ag-Cu-Ti系ろう材の他、Cu-P系ろう材を用いることもできる。
【0042】
(接合工程)
そして、絶縁回路基板1とヒートシンク2とを固相拡散接合する。具体的には、図3Cに示すように、絶縁回路基板1の金属層13をヒートシンク2上に積層し、これらの積層体を積層方向に加圧した状態で、真空雰囲気下で接合温度に加熱することにより、金属層13とヒートシンク2を固相拡散接合する。この場合の加圧力としては例えば0.5MPa~2.0MPa、加熱温度としては500℃~540℃とされ、この加圧及び加熱状態を30分~120分保持する。これにより、金属層13とヒートシンク2とが接合され、図1に示すように、ヒートシンク付き絶縁回路基板100が得られる。
【0043】
なお、本実施形態においては、金属層13の接合面及びヒートシンク2の接合面は、予め傷が除去されて平滑にされた後に固相拡散接合される。
【0044】
ここで、ヒートシンクが銅又は銅合金の一枚板にて構成されている場合、絶縁回路基板1のアルミニウム又はアルミニウム合金からなる金属層13との線膨張差が大きいため、高温時の膨張率や低温時の収縮率が異なり、ヒートシンク付き絶縁回路基板100の反りが大きくなる。
【0045】
これに対し、本実施形態では、絶縁回路基板1の金属層13に接合された第1金属層21と、前記第1金属層21に接合されたセラミックス板材23と、前記セラミックス板材23に接合された第2金属層22とによりヒートシンク2が構成されている。すなわち、銅又は銅合金からなる第1金属層21と第2金属層22との内側にセラミックス板材23が内蔵されているので、このヒートシンク2の線膨張係数を小さくでき、絶縁回路基板1との線膨張差を小さくできる。
【0046】
また、第1金属層21の厚さT1が0.3mm以上3.0mm以下であり、かつ第2金属層22の厚さT2以上(T1≧T2)であるので、ヒートシンク2の放熱効果を維持しつつ、ヒートシンク2の反りを抑制でき、ひいてはヒートシンク付き絶縁回路基板100の高温時と低温時との反り変化量をさらに抑制できる。
【0047】
その他、細部構成は実施形態の構成のものに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0048】
例えば、上記実施形態では、回路層12は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなることとしたが、これに限らず、例えば、無酸素銅により構成されてもよい。すなわち、回路層12の組成は問わない。
【0049】
また、上記実施形態では、ヒートシンク付き絶縁回路基板100をヒートシンク付きパワーモジュール用基板として用いる例を説明したが、このヒートシンク付き絶縁回路基板100は、LED素子用基板等、各種の絶縁基板として用いることもできる。
【実施例
【0050】
次に、本発明の効果について実施例を用いて詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0051】
実施例1~18、比較例1~3及び従来例の試料を構成する絶縁回路基板としては、厚さ0.635mm、平面サイズが120mm×90mmのセラミックス基板に厚さ0.4mmの回路層及び厚さ0.4mmの金属層を上記実施形態で述べた製造方法により製造し、回路層及び金属層については、表1に示す組成のものを用意した。
【0052】
また、実施例1~18及び比較例1~3の資料を構成するヒートシンクとしては、厚さ0.32mm、平面サイズが140mm×100mmのセラミックス基板に無酸素銅により構成される第1金属層及び第2金属層を上記実施形態で述べた製造方法により製造し、第1金属層及び第2金属層については、表1に示す厚さのものを用意した。なお、従来例については、厚さ5.0mm、平面サイズが140mm×100mmの無酸素銅の一枚板により構成されるヒートシンクを製造した。
【0053】
そして、これら絶縁回路基板とヒートシンクとを上記実施形態で述べた接合方法により接合し、得られた試料(実施例1~18,比較例1~3,および従来例)について下記の実験を行った。
【0054】
(反り変化量)
得られた各試料につき、30℃から285℃に加熱した後冷却して30℃とする一連の加熱試験において、285℃加熱時の反り量及び285℃に加熱した後冷却して30℃となった際の反り量(30℃冷却時の反り量)をそれぞれ測定し、温度変化による各試料の変形を反り変化量として確認した。
【0055】
反り量はモアレ式三次元形状測定機(Akrometrix社製熱反り・歪み測定機 Thermoire PS200)を用いて、ヒートシンクの第2金属層の中央(100mm×80mmの範囲)を測定面として測定した。より具体的には、測定面のプロファイルから最小二乗面を求め、その面を基準として最高点と最低点との差(絶対値)を求めて反り量を得た。
【0056】
このように得られた反り量について反り状態に応じて正負を設定する。すなわち、測定範囲の中心が測定範囲の四隅が形成する面よりも回路層側に近い場合(第2金属層が回路層側に凸)および測定範囲の中心が測定範囲の四隅が形成する面上となる場合は正の値、測定範囲の中心が測定範囲の四隅が形成する面よりも回路層側から遠い場合(第2金属層がヒートシンク側に凸)は負の値として設定した。
【0057】
このように正負が設定された285℃加熱時の反り量及び30℃冷却時の反り量の差(正負が設定された285℃加熱時の反り量-正負が設定された30℃冷却時の反り量)の絶対値を反り変化量とした。
【0058】
(素子位置ずれの評価)
素子位置ずれの評価は、電子部品を回路層にはんだ付けした後に、そのはんだ付け位置を計測することにより、位置ずれ発生の有無を、試料を30個製作して確認した。そして、0.2mm以上の位置ずれが生じた場合を不合格とし、0.2mm未満の位置ずれの場合は合格と評価した。
【0059】
そして、試料30個について行った各評価において、合格の比率が90%以上の場合を良「A」、合格の比率が90%未満の場合を否「B」と評価した。
【0060】
(冷熱サイクル信頼性の評価)
また、実施例1~18、比較例1~3及び従来例のヒートシンク付き絶縁回路基板に対して、-50℃~175℃の間で1000回変化させる温度サイクル試験を実行した後、絶縁回路基板のセラミックス基板に割れがあるか否かを目視にて判定した。この際、セラミックス基板に割れがあるものを否「B」、セラミックス基板に割れがないものを良「A」と判定した。反り変化量、素子位置ずれの評価及び冷熱サイクル信頼性の評価について、表2に結果を示す。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
表2からわかるように、実施例1~18では、反り変化量が1.20mm以下と小さく、素子位置ずれ及び冷熱サイクル信頼性の評価がいずれも良「A」であった。このため、ヒートシンクの第1金属層の厚さT1が0.3mm以上3.0mm以下であり、かつ第2金属層の厚さT2以上(T1≧T2)であることが有効な範囲であることがわかった。
【0064】
一方、比較例1及び2は、反り変化量は比較的大きいものの素子位置ずれの評価は良「A」であったが、上記冷熱サイクル試験の結果、セラミックス基板が割れたので、評価が否「B」であった。このため、第1金属層の厚さが4.0mmの場合は、有効な結果を得られないことがわかった。また、比較例3は、冷熱サイクル信頼性の評価が良「A」であったものの、反り変化量が1.3mm以上と大きく、素子位置ずれが発生したため、評価が否「B」であった。このため、第1金属層の厚さT1よりも第2金属層の厚さT2が大きい場合は、有効な結果を得られないことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
金属層を有する絶縁回路基板と、絶縁回路基板の金属層とは異なる組成の金属層を有するヒートシンクとが接合されてなるヒートシンク付絶縁回路基板の反りを抑制できる。
【符号の説明】
【0066】
1 絶縁回路基板
2 ヒートシンク
11 セラミックス基板
12 回路層
13 金属層
14 ろう材箔
21 第1金属層
22 第2金属層
23 セラミックス板材
30 素子
31 はんだ
100 ヒートシンク付き絶縁回路基板
120 回路層用金属板
130 金属層用金属板
210 第1金属層用金属板
220 第2金属層用金属板
図1
図2
図3A
図3B
図3C