(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-05
(45)【発行日】2022-04-13
(54)【発明の名称】水硬性組成物用セルフレベリング剤
(51)【国際特許分類】
C04B 24/26 20060101AFI20220406BHJP
C04B 24/38 20060101ALI20220406BHJP
C08F 290/06 20060101ALI20220406BHJP
【FI】
C04B24/26 E
C04B24/38 A
C08F290/06
(21)【出願番号】P 2017193194
(22)【出願日】2017-10-03
【審査請求日】2020-10-01
(73)【特許権者】
【識別番号】503044237
【氏名又は名称】株式会社フローリック
(73)【特許権者】
【識別番号】517347414
【氏名又は名称】株式会社ジニアスコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】船ヶ山 一
(72)【発明者】
【氏名】高嶋 靖生
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-195398(JP,A)
【文献】特開2016-124744(JP,A)
【文献】特開平07-138057(JP,A)
【文献】特開平06-055529(JP,A)
【文献】特開2011-241393(JP,A)
【文献】特開2003-286057(JP,A)
【文献】特開2005-054093(JP,A)
【文献】特開平05-213652(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 24/26
C04B 24/38
C08F 290/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント分散剤、及び、水溶性増粘剤(B)が、それぞれ接触することなく可溶性袋状物に内包されて
おり、
前記可溶性袋状物が、水分散性紙に水溶性樹脂フィルムをラミネート加工されてなるシート状物から形成されていることを特徴とする水硬性組成物用セルフレベリング剤。
【請求項2】
前記セメント分散剤が、下記一般式(1)で表される単量体に由来する構成単位及び下記一般式(2)で表される単量体に由来する構成単位を含むポリカルボン酸系共重合体またはその塩(A)であることを特徴とする請求項1に記載の水硬性組成物用セルフレベリング剤。
【化1】
(式中、
R
1、R
2、及びR
3は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基を表す。
pは、0~2の整数を表す。
qは、0又は1を表す。
A
1Oは、同一若しくは異なって、炭素原子数2~18のオキシアルキレン基を表す。
nは、オキシアルキレン基の平均付加モル数であり、1~300の数を表す。
R
4は、水素原子又は炭素原子数1~30の炭化水素基を表す。)
【化2】
(式中、
R
5、R
6、及びR
7は、それぞれ独立に、水素原子、-CH
3、又は-(CH
2)
rCOOM
2を表し、-(CH
2)
rCOOM
2は、-COOM
1又は他の-(CH
2)
rCOOM
2と無水物を形成していてもよく、その場合、それらの基のM
1及びM
2は存在しない。
M
1及びM
2は、同一若しくは異なって、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム基、アルキルアンモニウム基、又は置換アルキルアンモニウム基を表す。
rは0~2の整数を表す。)
【請求項3】
前記ポリカルボン酸系共重合体またはその塩(A)が、さらに下記一般式(3)で表される単量体に由来する構成単位を含む、請求項
2に記載の水硬性組成物用セルフレベリング剤。
【化3】
(式中、
R
8、R
9、及びR
10は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基を表す。
R
11は、炭素原子数1~4のヘテロ原子を含んでよい炭化水素基を表す。
sは、0~2の整数を表す。
ただし、一般式(3)で表される単量体には、一般式(1)で表される単量体は含まれない。)
【請求項4】
前記ポリカルボン酸系共重合体またはその塩(A)が、平均粒子径10μm以上500μm以下の範囲にある粉末状であることを特徴とする請求項2または3に記載の水硬性組成物用セルフレベリング剤。
【請求項5】
前記水溶性増粘剤(B)が、セルロース系増粘剤であることを特徴とする請求項1~
4のいずれかに記載の水硬性組成物用セルフレベリング剤。
【請求項6】
前記水溶性増粘剤(B)が、粘度5,000mPa・s(20℃/2重量%水溶液)以下の水溶性増粘剤(B-1)と、粘度10,000mPa・s(20℃/2重量%水溶液)以上の水溶性増粘剤(B-2)を含有することを特徴とする請求項1~
5のいずれかに記載の水硬性組成物用セルフレベリング剤。
【請求項7】
前記水溶性増粘剤(B)が、水溶性増粘剤(B-1):水溶性増粘剤(B-2)=50~95重量%:5~50重量%(ただし、水溶性増粘剤(B-1)+水溶性増粘剤(B-2)=100重量%)の範囲で含むことを特徴とする請求項
6に記載の水硬性組成物用セルフレベリング剤。
【請求項8】
前記水溶性増粘剤(B)が、平均粒子径10μm以上600μm以下の範囲にある粉末状であることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の水硬性組成物用セルフレベリング剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性組成物用セルフレベリング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
モルタルを用いて建造される建造物において、床版(スラブ版)等をモルタルで施工する場合、一次施工での表面の均質性がその後の施工工程の簡略化に大きく影響する。そのため、セメント組成物が硬化したのちに該床版等の斫り作業や、研磨作業を行い、その表面均質性を改善することが行われる。
しかしながらこのような斫り作業や研磨作業は、手間のかかる工程であるために大規模な建造物になるほど、工程の律速になり易い。
【0003】
そのため、斫り作業や研磨作業を短縮するために、流動性(レベリング性)が高く、施工後の均質性が高い、レベリングモルタル(例えばネリフローM(エービーシー商会製))等が用いられはじめてきた(特許文献1)。
このような方法により、モルタル施工箇所の斫り作業や研磨作業を短縮することができるようになったが、部分的なコンクリート箇所に対しては未だ斫り作業や研磨作業が必要であり、工程全体の作業性の改善は満足できるレベルまでは到達していなかった。
そこで、粗骨材が混合されるコンクリートに対してもよりレベリング性を付与する方法が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-248554号公報
【文献】特開2014-94846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2では液体形状の流動化剤をコンクリート組成物に添加しており、施工性(ワーカビリティ)や薬剤の保管性に向上の余地があった。
そこで本発明は、セメント組成物に対して高いレベリング効果を持ち、分散性の発揮に優れ、施工性(ワーカビリティ)に優れる水硬性組成物用セルフレベリング剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の課題を解決するための手段は、以下のとおりである。
1.セメント分散剤、及び、水溶性増粘剤(B)が、それぞれ接触することなく可溶性袋状物に内包されていることを特徴とする水硬性組成物用セルフレベリング剤。
2.前記セメント分散剤が、下記一般式(1)で表される単量体に由来する構成単位及び下記一般式(2)で表される単量体に由来する構成単位を含むポリカルボン酸系共重合体またはその塩(A)であることを特徴とする1.に記載の水硬性組成物用セルフレベリング剤。
【化1】
(式中、
R
1、R
2、及びR
3は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基を表す。
pは、0~2の整数を表す。
qは、0又は1を表す。
A
1Oは、同一若しくは異なって、炭素原子数2~18のオキシアルキレン基を表す。
nは、オキシアルキレン基の平均付加モル数であり、1~300の数を表す。
R
4は、水素原子又は炭素原子数1~30の炭化水素基を表す。)
【化2】
(式中、
R
5、R
6、及びR
7は、それぞれ独立に、水素原子、-CH
3、又は-(CH
2)
rCOOM
2を表し、-(CH
2)
rCOOM
2は、-COOM
1又は他の-(CH
2)
rCOOM
2と無水物を形成していてもよく、その場合、それらの基のM
1及びM
2は存在しない。
M
1及びM
2は、同一若しくは異なって、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム基、アルキルアンモニウム基、又は置換アルキルアンモニウム基を表す。
rは0~2の整数を表す。)
3.前記ポリカルボン酸系共重合体またはその塩(A)が、さらに下記一般式(3)で表される単量体に由来する構成単位を含む、1.または2.に記載の水硬性組成物用セルフレベリング剤。
【化3】
(式中、
R
8、R
9、及びR
10は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基を表す。
R
11は、炭素原子数1~4のヘテロ原子を含んでよい炭化水素基を表す。
sは、0~2の整数を表す。
ただし、一般式(3)で表される単量体には、一般式(1)で表される単量体は含まれない。)
4.前記水溶性増粘剤(B)が、セルロース系増粘剤であることを特徴とする1.~3.のいずれかに記載の水硬性組成物用セルフレベリング剤。
5.前記水溶性増粘剤(B)が、粘度5,000mPa・s(20℃/2重量%水溶液)以下の水溶性増粘剤(B-1)と、粘度10,000mPa・s(20℃/2重量%水溶液)以上の水溶性増粘剤(B-2)を含有することを特徴とする1.~4.のいずれかに記載の水硬性組成物用セルフレベリング剤。
6.前記水溶性増粘剤(B)が、水溶性増粘剤(B-1):水溶性増粘剤(B-2)=50~95重量%:5~50重量%(ただし、水溶性増粘剤(B-1)+水溶性増粘剤(B-2)=100重量%)の範囲で含むことを特徴とする1.~5.のいずれかに記載の水硬性組成物用セルフレベリング剤。
7.前記ポリカルボン酸系共重合体またはその塩(A)が、平均粒子径10μm以上500μm以下の範囲にある粉末状であることを特徴とする2.~6.のいずれかに記載の水硬性組成物用セルフレベリング剤。
8.前記水溶性増粘剤(B)が、平均粒子径10μm以上600μm以下の範囲にある粉末状であることを特徴とする1.~7.のいずれかに記載の水硬性組成物用セルフレベリング剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、分散性の発揮に優れ、セメント組成物に対して高いレベリング効果を持ち、施工性(ワーカビリティ)に優れる水硬性組成物用セルフレベリング剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、セメント分散剤、及び、水溶性増粘剤(B)が、それぞれ接触することなく可溶性袋状物に内包されている水硬性組成物用セルフレベリング剤に関する。
さらに本発明は、セメント分散剤が、ポリカルボン酸系共重合体またはその塩(A)であり、このポリカルボン酸系化合物またはその塩(A)と、水溶性増粘剤(B)が、それぞれ接触することなく、可溶性袋状物に内封されている水硬性組成物用セルフレベリング剤に関する。
【0009】
≪セメント分散剤≫
本発明のセメント分散剤は特に制限されず、例えば、AE減水剤(例えば、リグニンスルホン酸系分散剤、オキシカルボン酸系分散剤)、ナフタレンスルホン酸系分散剤、アミノスルホン酸系分散剤、及びポリカルボン酸系分散剤等が挙げられるが、特に後述するポリカルボン酸系共重合体またはその塩(A)が好ましい。
またセメント分散剤は、1種類の分散剤のみでもよいし、異なる2種以上を組み合わせて使用してもよい。2種以上のセメント分散剤を組み合わせる場合、混合して可溶性袋状物に内包することもできるし、それぞれ接触することなく可溶性袋状物に内包することができる。
【0010】
<ポリカルボン酸系共重合体またはその塩(A)>
本発明のポリカルボン酸系共重合体またはその塩(A)は、水溶性の粉末状固形物であり、セメント組成物に添加された際に適度な分散性を発揮できるものであれば特に制限されない。
そのようなポリカルボン酸系共重合体またはその塩(A)としては、下記一般式(1)で表される単量体に由来する構成単位及び下記一般式(2)で表される単量体に由来する構成単位を含むポリカルボン酸系共重合体またはその塩(以下、単に共重合体(A)とも記す)であることが好ましい。
【0011】
(一般式(1)で表される単量体(I))
まず、一般式(1)で表される単量体(単量体(I)ともいう。)について説明する。
【化4】
(式中、R
1、R
2、及びR
3は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基を表す。pは、0~2の整数を表す。qは、0又は1を表す。A
1Oは、同一若しくは異なって、炭素原子数2~18のオキシアルキレン基を表す。nは、オキシアルキレン基の平均付加モル数であり、1~300の数を表す。R
4は、水素原子又は炭素原子数1~30の炭化水素基を表す。)
【0012】
一般式(1)中のR1、R2、及びR3は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基を表し、好ましくは、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表す。
一般式(1)中のpは0~2の整数を表し、好ましくは0又は1を表す。
一般式(1)中のqは0又は1を表す。好ましくは、pが0を表しかつqが1を表し、又は、pが1若しくは2を表しかつqが0を表す。
一般式(1)中のA1Oは、同一若しくは異なって、炭素原子数2~18のオキシアルキレン基を表す。該オキシアルキレン基としては、例えば、オキシエチレン基(エチレングリコール単位)、オキシプロピレン基(プロピレングリコール単位)、オキシブチレン基(ブチレングリコール単位)が挙げられ、オキシエチレン基(エチレングリコール単位)、オキシプロピレン基(プロピレングリコール単位)が好ましい。
【0013】
上記「同一若しくは異なって」とは、一般式(1)中にA1Oが複数含まれる場合(nが2以上の場合)、それぞれのA1Oが互いに同一のオキシアルキレン基であってもよいし、異なる(2種類以上の)オキシアルキレン基であってもよい、ことを意味する。一般式(1)中にA1Oが複数含まれる場合の態様としては、オキシエチレン基(エチレングリコール単位)、オキシプロピレン基(プロピレングリコール単位)及びオキシブチレン基(ブチレングリコール単位)からなる群から選ばれる2以上のオキシアルキレン基が混在する態様が挙げられ、オキシエチレン基(エチレングリコール単位)とオキシプロピレン基(プロピレングリコール単位)とが混在する態様、又はオキシエチレン基(エチレングリコール単位)とオキシブチレン基(ブチレングリコール単位)とが混在する態様であることが好ましく、オキシエチレン基(エチレングリコール単位)とオキシプロピレン基(プロピレングリコール単位)とが混在する態様であることがより好ましい。異なるオキシアルキレン基が混在する態様において、2種類以上のオキシアルキレン基の付加は、ブロック状の付加であってもよく、ランダム状の付加であってもよい。
【0014】
一般式(1)中のnは、オキシアルキレン基の平均付加モル数であり、1~300の数を表す。nは、300以下であり、100以下であることが好ましく、50以下であることがより好ましく、45以下であることがさらに好ましい。nは、1以上であり、5以上であることが好ましく、7以上であることがより好ましい。nは、1~100であることが好ましく、5~100であることがより好ましく、5~50であることがさらに好ましく、最も好ましくは7~45である。平均付加モル数とは、単量体1モルに付加しているアルキレングリコール単位のモル数の平均値を意味する。
【0015】
一般式(1)中のR4は、水素原子又は炭素原子数1~30の炭化水素基を表す。R4で表される炭化水素基の炭素原子数が大きすぎないことにより、水硬性材料(例、セメント)を十分に分散し得るので、R4は水素原子又は炭素原子数1~10の炭化水素基であることが好ましく、水素原子又は炭素原子数1~5の炭化水素基であることがさらに好ましく、水素又はメチル基であることが最も好ましい。
【0016】
qが0である単量体(I)としては、例えば、(ポリ)エチレングリコールアリルエーテル、(ポリ)エチレングリコールメタリルエーテル、(ポリ)エチレングリコール3-メチル-3-ブテニルエーテル、(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコールアリルエーテル、(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコールメタリルエーテル、(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコール3-メチル-3-ブテニルエーテル、(ポリ)エチレン(ポリ)ブチレングリコールアリルエーテル、(ポリ)エチレン(ポリ)ブチレングリコールメタリルエーテル、(ポリ)エチレン(ポリ)ブチレングリコール3-メチル-3-ブテニルエーテル、メトキシ(ポリ)エチレングリコールアリルエーテル、メトキシ(ポリ)エチレングリコールメタリルエーテル、メトキシ(ポリ)エチレングリコール3-メチル-3-ブテニルエーテル、メトキシ(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコールアリルエーテル、メトキシ(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコールメタリルエーテル、メトキシ(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコール3-メチル-3-ブテニルエーテル、メトキシ(ポリ)エチレン(ポリ)ブチレングリコールアリルエーテル、メトキシ(ポリ)エチレン(ポリ)ブチレングリコールメタリルエーテル、メトキシ(ポリ)エチレン(ポリ)ブチレングリコール3-メチル-3-ブテニルエーテルが挙げられる。これらの中では、共重合体(A)の親水性及び疎水性のバランスを優れたものとし得るので、qが0である単量体(I)として、(ポリ)エチレングリコール(メタ)アリルエーテル又は(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコールアリルエーテルが好ましい。なお、本明細書において「(ポリ)」は、その直後に記載される構成要素または原料が、1個または2個以上結合していることを意味する。なお、本明細書において、「(メタ)アリル」は、「アリル又はメタリル」を意味する。
【0017】
qが1である単量体(I)としては、例えば、(ポリ)アルキレングリコール(メタ)アクリレート(例、(ポリ)エチレングリコール(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコール(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレン(ポリ)ブチレングリコール(メタ)アクリレート)、アルコキシ(ポリ)アルキレングリコール(メタ)アクリレート(例、メトキシ(ポリ)エチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシ(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシ(ポリ)エチレン(ポリ)ブチレングリコール(メタ)アクリレート)が挙げられる。qが1である単量体(I)としては、これらの中では、(ポリ)アルキレングリコール(メタ)アクリレート又はメトキシ(ポリ)エチレングリコール(メタ)アクリレートが好ましく、メトキシ(ポリ)エチレングリコール(メタ)アクリレートがより好ましい。なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート又はメタアクリレート」を意味する。
【0018】
単量体(I)は、公知の方法で製造し得る。
qが0である単量体(I)の製造方法としては、例えば、アリルアルコール、メタリルアルコール、3-メチル-3-ブテン-1-オール等の不飽和アルコールにアルキレンオキサイドを1~300モル付加する方法が挙げられる。
また、qが1である単量体(I)の製造方法としては、例えば、(メタ)アクリレート等の不飽和モノカルボン酸と、(ポリ)エチレングリコール、(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコール、(ポリ)エチレン(ポリ)ブチレングリコール、メトキシ(ポリ)エチレングリコール、メトキシ(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコール、メトキシ(ポリ)エチレン(ポリ)ブチレングリコール等の(ポリ)アルキレングリコールとをエステル化する方法が挙げられる。
上記製造方法の例示において、(ポリ)アルキレングリコールの平均付加モル数は1~300であることが好ましく、5~100であることがより好ましく、5~50であることがさらに好ましく、最も好ましくは7~45である。
【0019】
なお、ポリカルボン酸系共重合体またはその塩(A)は、一般式(1)で表わされる単量体(I)に由来する構成単位を、1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0020】
(一般式(2)で表される単量体(II))
次に、一般式(2)で表される単量体(以下、単量体(II)ともいう。)について説明する。
【化5】
(式中、R
5、R
6、及びR
7は、それぞれ独立に、水素原子、-CH
3、又は-(CH
2)
rCOOM
2を表し、-(CH
2)
rCOOM
2は、-COOM
1又は他の-(CH
2)
rCOOM
2と無水物を形成していてもよく、その場合、それらの基のM
1及びM
2は存在しない。M
1及びM
2は、同一若しくは異なって、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム基、アルキルアンモニウム基、又は置換アルキルアンモニウム基を表す。rは0~2の整数を示す。)
【0021】
単量体(II)としては、例えば、不飽和モノカルボン酸系単量体及び不飽和ジカルボン酸系単量体が挙げられる。不飽和モノカルボン酸系単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、及びクロトン酸、並びにこれらの塩(例、一価金属塩、アンモニウム塩、及び有機アミン塩)が挙げられる。不飽和ジカルボン酸系単量体としては、例えば、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、及びフマル酸、並びにこれらの塩(例、一価金属塩、アンモニウム塩、及び有機アミン塩)、並びにそれらの無水物が挙げられる。
なお、ポリカルボン酸系共重合体またはその塩(A)は、一般式(2)で表わされる単量体(II)に由来する構成単位を、1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0022】
(一般式(3)で示される単量体(III))
本発明の水硬性組成物用セルフレベリング剤に含まれるポリカルボン酸系共重合体またはその塩(A)は、さらに下記一般式(3)で表される単量体(以下、単量体(III)ともいう。)に由来する構成単位を含んでいてもよい。
【化6】
(式中、R
8、R
9、及びR
10は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基を表す。R
11は、炭素原子数1~4のヘテロ原子を含んでよい炭化水素基を表す。sは、0~2の整数を表す。ただし、一般式(3)で表される単量体には、一般式(1)で表される単量体は含まれない。)
【0023】
好ましくは、R8、R9、及びR10が、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基であり、より好ましくは、R8、R9、及びR10が水素原子であり、又はR9がメチル基でありかつR8及びR10が水素原子である。
R11が表す、炭素原子数1~4のヘテロ原子を含んでよい炭化水素基としては、例えば、炭素原子数1~4のアルキル基及び炭素原子数1~4のモノヒドロキシアルキル基が挙げられ、より具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、グリセリル基、2-ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシプロピル基、4-ヒドロキシブチル基が挙げられる。
R11が表す、炭素原子数1~4のヘテロ原子を含んでよい炭化水素基は、好ましくは、炭素原子数1~4のモノヒドロキシアルキル基であり、より好ましくは、ヒドロキシプロピル基であり、さらに好ましくは、2-ヒドロキシプロピル基である。
【0024】
単量体(III)としては、例えば、不飽和モノカルボン酸のモノエステルが挙げられる。不飽和モノカルボン酸のモノエステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセリル(メタ)アクリレートが挙げられる。単量体(III)は、好ましくは、(メタ)アクリレートの炭素原子数1~4のモノヒドロキシアルキルエステルであり、より好ましくは、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートである。
なお、ポリカルボン酸系共重合体またはその塩(A)は、一般式(3)で表わされる単量体(III)に由来する構成単位を、1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0025】
(その他の構成単位)
ポリカルボン酸系共重合体またはその塩(A)は、上記の単量体(I)~(III)以外の単量体(IV)に由来する構成単位を含んでいてもよい。ポリカルボン酸系共重合体またはその塩(A)は、単量体(IV)に由来する構成単位として、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。単量体(IV)としては、例えば、下記の単量体(IV-1)~(IV-25)を挙げることができる。なお、下記例示のうち、単量体(I)~(III)に含まれる単量体は単量体(IV)から除かれる。
【0026】
一般式(IV-1):
【化7-1】
で示されるジアリルビスフェノール類、例えば4,4’-ジヒドロキシジフェニルプロパン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホンの3及び3’位アリル置換物;
【0027】
一般式(IV-2):
【化7-2】
で示されるモノアリルビスフェノール類、例えば4,4’-ジヒドロキシジフェニルプロパン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホンの3位アリル置換物;
【0028】
一般式(IV-3):
【化7-3】
で示されるアリルフェノール;
【0029】
(IV-4):マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸等の不飽和ジカルボン酸類と炭素原子数1~30のアルコールとのハーフエステル、ジエステル類;
(IV-5):上記不飽和ジカルボン酸類と炭素原子数1~30のアミンとのハーフアミド、ジアミド類;
(IV-6):上記アルコール又はアミンに、炭素原子数2~18のアルキレンオキシドを1~500モル付加させたアルキル(ポリ)アルキレングリコールと、上記不飽和ジカルボン酸類とのハーフエステル、ジエステル類;
(IV-7):上記不飽和ジカルボン酸類と炭素原子数2~18のグリコール又はこれらのグリコールの付加モル数2~500のポリアルキレングリコールとのハーフエステル、ジエステル類;
(IV-8):マレアミド酸と炭素原子数2~18のグリコール又はこれらのグリコールの付加モル数2~500のポリアルキレングリコールとのハーフアミド類;
(IV-9):炭素原子数1~30のアルコールに炭素原子数2~18のアルキレンオキシドを1~500モル付加させたアルコキシ(ポリ)アルキレングリコールと(メタ)アクリル酸等の不飽和モノカルボン酸類とのエステル類;(ポリ)エチレングリコールモノメタクリレート、(ポリ)プロピレングリコールモノメタクリレート、(ポリ)ブチレングリコールモノメタクリレート等の(メタ)アクリル酸等の不飽和モノカルボン酸類への炭素原子数2~18のアルキレンオキシドの1~500モル付加物類;
【0030】
(IV-10):トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコール(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等の(ポリ)アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート類;
(IV-11):ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート類;
(IV-12):トリエチレングリコールジマレート、ポリエチレングリコールジマレート等の(ポリ)アルキレングリコールジマレート類;
(IV-13):ビニルスルホネート、(メタ)アリルスルホネート、2-(メタ)アクリロキシエチルスルホネート、3-(メタ)アクリロキシプロピルスルホネート、3-(メタ)アクリロキシ-2-ヒドロキシプロピルスルホネート、3-(メタ)アクリロキシ-2-ヒドロキシプロピルスルホフェニルエーテル、3-(メタ)アクリロキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシスルホベンゾエート、4-(メタ)アクリロキシブチルスルホネート、(メタ)アクリルアミドメチルスルホン酸、(メタ)アクリルアミドエチルスルホン酸、2-メチルプロパンスルホン酸(メタ)アクリルアミド、スチレンスルホン酸等の不飽和スルホン酸類、並びに、それらの一価金属塩、二価金属塩、アンモニウム塩及び有機アミン塩;
【0031】
(IV-14):メチル(メタ)アクリルアミド等の不飽和モノカルボン酸類と炭素原子数1~30のアミンとのアミド類;
(IV-15):スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、p-メチルスチレン等のビニル芳香族類;
(IV-16):1,4-ブタンジオールモノ(メタ)アクリレート、1,5-ペンタンジオールモノ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールモノ(メタ)アクリレート等のアルカンジオールモノ(メタ)アクリレート類;
(IV-17):ブタジエン、イソプレン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2-クロル-1,3-ブタジエン等のジエン類;
(IV-18):(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアルキルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド等の不飽和アミド類;
(IV-19):(メタ)アクリロニトリル、α-クロロアクリロニトリル等の不飽和シアン類;
(IV-20):酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等の不飽和エステル類;
(IV-21):(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸メチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸ジブチルアミノエチル、ビニルピリジン等の不飽和アミン類;
(IV-22):ジビニルベンゼン等のジビニル芳香族類;トリアリルシアヌレート等のシアヌレート類;
【0032】
(IV-23):(メタ)アリルアルコール、グリシジル(メタ)アリルエーテル等のアリル類;
(IV-24):メトキシポリエチレングリコールモノビニルエーテル、ポリエチレングリコールモノビニルエーテル、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル等のビニルエーテルあるいはアリルエーテル類;及び、
(IV-25):ポリジメチルシロキサンプロピルアミノマレインアミド酸、ポリジメチルシロキサンアミノプロピレンアミノマレインアミド酸、ポリジメチルシロキサン-ビス-(プロピルアミノマレインアミド酸)、ポリジメチルシロキサン-ビス-(ジプロピレンアミノマレインアミド酸)、ポリジメチルシロキサン-(1-プロピル-3-アクリレート)、ポリジメチルシロキサン-(1-プロピル-3-メタクリレート)、ポリジメチルシロキサン-ビス-(1-プロピル-3-アクリレート)、ポリジメチルシロキサン-ビス-(1-プロピル-3-メタクリレート)等のシロキサン誘導体。
【0033】
(反応溶媒)
溶媒中での重合において使用される溶媒としては、例えば、水;メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;シクロヘキサン、n-ヘキサン等の脂環式又は脂肪族炭化水素;酢酸エチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類等が挙げられる。原料単量体及び得られる共重合体の溶解性の面から、水及び低級アルコールからなる群から選ばれる1種以上を用いることが好ましく、その中でも水を用いることがより好ましい。
溶媒中で共重合を行う場合は、各単量体と重合開始剤とを各々反応容器に連続滴下してもよいし、各単量体の混合物と重合開始剤とを各々反応容器に連続滴下してもよい。また、反応容器に溶媒を仕込み、単量体及び溶媒の混合物と、重合開始剤溶液とを各々反応容器に連続滴下してもよいし、単量体の一部又は全部を反応容器に仕込み、重合開始剤を連続滴下してもよい。
【0034】
(開始剤)
共重合に使用し得る重合開始剤として、特に限定はないが、水溶媒中で共重合を行う際には、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩;t-ブチルハイドロパーオキサイド等の水溶性有機過酸化物が挙げられる。この際、亜硫酸水素ナトリウム、モール塩等の促進剤を併用してもよい。また、低級アルコール、芳香族炭化水素、脂環式又は脂肪族炭化水素、エステル類あるいはケトン類等の溶媒中で共重合を行う際には、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド等のパーオキサイド;クメンパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド;アゾビスイソブチロニトリル等の芳香族アゾ化合物等が重合開始剤として使用できる。この際、アミン化合物等の促進剤を併用してもよい。さらに、水-低級アルコール混合溶剤中で共重合を行う場合には、例えば、前述の重合開始剤又は重合開始剤と促進剤との組合せの中から適宜選択して使用することができる。重合温度は、用いる溶媒、重合開始剤の種類等重合条件によって適宜異なるが、通常50~120℃の範囲で行われる。
【0035】
(連鎖移動剤)
また、共重合においては、必要に応じて連鎖移動剤を用いて分子量を調整してもよい。使用される連鎖移動剤としては、例えば、メルカプトエタノール、チオグリセロール、チオグリコール酸、2-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、チオグリコール酸オクチル、及び、2-メルカプトエタンスルホン酸等の既知のチオール系化合物;亜リン酸、次亜リン酸、及びその塩(次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム等)、亜硫酸、亜硫酸水素、亜二チオン酸、メタ重亜硫酸、及びその塩(亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム、亜二チオン酸ナトリウム、亜二チオン酸カリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸カリウム等)の低級酸化物及びその塩;等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。さらに、共重合体(A)の分子量調整のためには、共重合体(A)を得るための単量体として、上記単量体(I)~(IV)以外に、さらに連鎖移動性の高い単量体(V)を用いてもよい。連鎖移動性の高い単量体(V)としては、例えば(メタ)アリルスルホン酸(塩)系単量体が挙げられる。単量体(V)の配合率は、共重合体(A)において、通常は20重量%以下であり、10重量%以下であることが好ましい。なお、上記配合率は、単量体(I)の配合率+単量体(II)の配合率+単量体(III)の配合率+単量体(IV)の配合率=100重量%としたときの配合率である。
【0036】
(中和)
共重合体(A)を得る際に水溶媒中で共重合する場合、重合時のpHは通常不飽和結合を有する単量体の影響で強酸性となるが、これを適当なpHに調整してもよい。重合の際にpHの調整が必要な場合は、リン酸、硫酸、硝酸、アルキルリン酸、アルキル硫酸、アルキルスルホン酸、(アルキル)ベンゼンスルホン酸等の酸性物質を用いてpHの調整を行うことができる。これら酸性物質の中では、pH緩衝作用がある点等から、リン酸を用いることが好ましい。しかし、エステル系の単量体が有するエステル結合の不安定さを解消するためには、pH2~7で重合を行うことが好ましい。また、pHの調整に用い得るアルカリ性物質に特に限定はないが、NaOH、Ca(OH)2等のアルカリ性物質が一般的である。pH調整は、重合前の単量体を含む溶液に対して行ってもよいし、重合後の共重合体を含む溶液に対して行ってもよい。また、これらは重合前に一部のアルカリ性物質を添加して重合を行った後、さらに共重合体を含む溶液に対してpH調整を行ってもよい。
【0037】
(分子量)
ポリカルボン酸系共重合体またはその塩(A)の重量平均分子量は、5,000以上であることが好ましく、6,000以上であることがより好ましく、6,500以上であることがさらに好ましい。これにより、水硬性材料に対する分散性が十分発揮され、リグニンスルホン酸系又はオキシカルボン酸系等のAE減水剤を上回る減水率を得ることができ、流動性及び/又は作業性が改善され、セメント添加剤(セメント分散剤)としての目的の効果を十分に発現することができる。重量平均分子量の上限は、60,000以下であることが好ましく、50,000以下であることがより好ましく、30,000以下であることがさらに好ましい。これにより、セメント粒子の凝集作用が抑制され、作業性を良好にすることができる。重量平均分子量は、5,000~60,000であることが好ましい。
【0038】
なお、本発明における重量平均分子量は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)にてポリエチレングリコール換算する公知の方法にて測定できる。
GPCの測定条件として特に限定はないが、例として以下の条件を挙げることができる。後段の実施例における重量平均分子量は、この条件で測定した値である。
測定装置 :東ソー製
使用カラム:Shodex Column OH-pak SB-806HQ、
SB-804HQ、SB-802.5HQ
溶離液 :0.05mM硝酸ナトリウム/アセトニトリル 8/2(v/v)
標準物質 :ポリエチレングリコール(東ソー製、GLサイエンス製)
検出器 :示差屈折計(東ソー製)
検量線 :ポリエチレングリコール基準
【0039】
<水溶性増粘剤(B)>
本発明に係る水溶性増粘剤(B)は、水溶性を示す粉末状固形物であって、溶解後の水溶液の粘度を溶解前よりも上昇させることができるものであれば特に限定されないが、通常、水溶性増粘剤は、高分子化合物である。水溶性と粘度を上昇させる度合の調整をし易いので、水溶性増粘剤は、好ましくは、多糖誘導体であり、より好ましくは、セルロース系増粘剤であり、さらに好ましくは、ヒドロキシプロピルメチルセルロースである。
本発明の水溶性増粘剤(B)としては、種類や粘性等で定まる1種のものを用いてもよいし、異なる2種以上のものを用いてもよい。2種以上の水溶性増粘剤(B)を組み合わせる場合、混合して可溶性袋状物に内包することもできるし、それぞれ接触することなく可溶性袋状物に内包することができる。
【0040】
そのような本発明の水溶性増粘剤(B)は、20℃で2重量%水溶液に調製した際の粘度が5,000mPa・s以下の水溶性増粘剤(B-1)と、20℃で2重量%水溶液に調製した際の粘度が10,000mPa・s以上の水溶性増粘剤(B-2)を、少なくとも含有することが好ましい。水溶性増粘剤(B-1)は、20℃で2重量%水溶液に調整した際の粘度が4,500mPa・s以下であり、水溶性増粘剤(B-2)は、20℃で2重量%水溶液に調製した際の粘度が12,000mPa・s以上であることがさらに好ましい。水溶性増粘剤(B)が、これら粘度の異なる2種以上を含むことにより、水硬性組成物に本発明の水硬性組成物用セルフレベリング剤を添加した際に、溶解性とレベリング性の発現のバランスに優れる。水溶性増粘剤(B-1)と水溶性増粘剤(B-2)とは、それぞれ接触することなく可溶性袋状物に内包することができる。
【0041】
水溶性増粘剤(B-1)及び水溶性増粘剤(B-2)は、水溶性増粘剤(B-1)と水溶性増粘剤(B-2)の合計量100重量%に対し、水溶性増粘剤(B-1):水溶性増粘剤(B-2)=50~95重量%:5~50重量%の範囲で含まれることが好ましく、水溶性増粘剤(B-1):水溶性増粘剤(B-2)=70~95重量%:5~30重量%の範囲で含まれることがさらに好ましい。水溶性増粘剤(B-1)と水溶性増粘剤(B-2)とが上記範囲を満たすことで、水硬性組成物に本発明の水硬性組成物用セルフレベリング剤を添加した際に、溶解性とレベリング性の発現のバランスに優れる。
水溶性増粘剤(B)としては、前述される水溶性増粘剤(B-1)及び水溶性増粘剤(B-2)以外の、異なる増粘剤を含むことに制限されない。
【0042】
<その他添加成分(C)>
本発明の水硬性組成物用セルフレベリング剤は、その他添加成分(C)として、セメント組成物に用いられる添加剤を含むことができる。そのような添加剤としては、例えば、水溶性高分子、高分子エマルジョン、空気連行剤、セメント湿潤剤、膨張剤、防水剤、遅延剤、増粘剤、凝集剤、乾燥収縮低減剤、強度増進剤、効果促進剤、消泡剤、その他の界面活性剤等の公知のコンクリート用添加剤、及び/または水硬性組成物で後述されるセメント材料(各種水硬性セメント、シリカヒュームやフライアッシュ、CfFA(日本製紙製)等の鉱物質微粉末、骨材)等を挙げることができる。また、その他添加成分として、上記添加剤を2種以上組み合わせて使用することもできる。その他添加成分(C)は、可溶性袋状物に、他の内包物と混合して内包することもできるし、それぞれ接触することなく内包することもできる。
【0043】
≪可溶性袋状物≫
本発明の水硬性組成物用セルフレベリング剤は、前述されるセメント分散剤(特にポリカルボン酸系共重合体またはその塩(A))と水溶性増粘剤(B)が、それぞれ接触することなく可溶性袋状物に内包されている形状である。
【0044】
(水分散性紙)
可溶性袋状物は、水分散性紙から形成する。ここで、本発明において、水分散性紙とは、フロック状水分散時間が30秒以内であり、かつ繊維状水分散時間が60秒以内である紙を意味する。フロック状水分散時間とは、脱イオン水300mlを300mlビーカーに入れ、スターラーで650rpmに撹拌しながら、3cm角の試験片を投入し、試験片が2つ以上に千切れる時間である。また、繊維状水分散時間とは、試験片が完全に繊維一本一本にほぐれる時間である。
【0045】
水分散性紙としては、例えば、特許第6010461号公報に記載の精製パルプを全パルプの15重量%以上95重量%以下含有する水分散紙、これに水溶性重合体を含浸または塗工した水分散紙、特許第4917274号公報に記載の水分散性繊維と水溶性繊維であるカルボキシアルキルセルロース塩とを含む水剥離性塗工紙用基紙等を使用することができる。
【0046】
また、水分散性紙として、製紙用繊維と、水分散性や強度向上を目的として添加される水溶性高分子とを含むものを適宜用いることができる。水溶性高分子は、水分散性紙に対して2重量%以上30重量%以下添加することが、水分散性と強度とのバランスの点から好ましい。
下記で詳述するように、本発明の可溶性袋状物は、骨材等の粉粒体を含有するコンクリートスラリーやセメントスラリー中に可溶性袋状物ごと添加することができる。この際、可溶性袋状物は、骨材等の粉粒体の物理的抵抗を受けて分散が抑制される。また、骨材等の粉粒体が含有するカルシウムイオンやマグネシウムイオンにより、水溶性高分子が溶け難くなり、水分散性が低下する場合がある。
【0047】
このようなスラリー中の骨材等の粉粒体の粘性抵抗による水分散性の低下を避けるために、水分散性紙に添加する水溶性高分子は、コンクリートスラリー等を増粘させない低粘度のものを用いることが好ましい。好ましい水溶性高分子として、カルボキシメチルセルロース塩等のカルボキシアルキルセルロースのアルカリ金属塩、冷水可溶性ポリビニルアルコールが挙げられる。冷水可溶性ポリビニルアルコールとは、30℃以下の水に溶解するもので、ケン化度が89%以下の部分ケン化ポリビニルアルコール、分子内にスルホン酸基やカルボン酸基を導入した変性ポリビニルアルコール等を挙げることができる。これらの水溶性高分子は、20℃における4重量%水溶液の粘度が、1mPa・s以上25mPa・s以下のものが好ましい。この粘度が1mPa・s未満では強度向上効果が乏しく、この粘度が25mPa・sを超えるものは水やコンクリートスラリーへの分散性が低下して好ましくない。
【0048】
可溶性袋状物に用いる水分散性紙の坪量は50g/m2以上400g/m2以下の範囲が好ましく、坪量50g/m2以上300g/m2以下がより好ましく、且つJIS P3401に規定されるクラフト紙1種~4種の坪量に適合したものが好ましい。比引張強さは、縦方向45N・m/g以上、横方向15N・m/g以上であることが好ましく、縦方向60N・m/g以上、横方向20N・m/g以上であることがより好ましい。比引裂強さは縦方向8mN・m2/g以上、横方向9mN・m2/g以上であることが好ましく、縦方向10mN・m2/g以上、横方向11mN・m2g以上であることがより好ましい。
【0049】
水分散性は、フロック状水分散時間が30秒以内であり、かつ繊維状水分散時間が60秒以内であることが好ましく、フロック状水分散時間が20秒以内であり、かつ繊維状水分散時間が30秒以内であることがより好ましく、フロック状水分散時間が10秒以内であり、かつ繊維状水分散時間が20秒以内であることがさらに好ましい。
【0050】
水分散性紙の紙面pHは、6.0以上11.0以下であることが好ましく、6.2以上10.0以下であることがより好ましい。紙面pHをこの範囲に調整することで、紙中の酸、強アルカリが内包物に悪影響を及ぼすことを防止することができる。
紙面pHを調整する方法は、特に限定されるものではなく、例えば、中性領域の材料を主成分として水分散性紙を抄紙する。あるいは、アルカリ性、酸性の水分散性紙を、酸性物質、アルカリ性物質で中和して製造することができる。
【0051】
<水分散性紙の付加加工>
本発明の水分散性紙は、平滑性を向上させて印刷用途等に供するため、マシンカレンダー、スーパーカレンダー、ソフトニップカレンダー等の一般的な製紙用カレンダーを用いてカレンダー加工を施すことができる。
【0052】
また、湿潤時の強度や透気抵抗度を高めるため、水分散性紙に水溶性樹脂フィルムをラミネート加工してもよい。水溶性樹脂フィルムとしては、水溶性ポリビニルアルコール、ポリアルキレンオキサイド、ポリアルキレンオキサイド共重合物等の水溶性樹脂をフィルム化したものを使用する。ラミネート加工は、可溶性袋状物とした際に、最外層または最内層となる面に施すことが好ましい。最外層にラミネート層を有する可溶性袋状物は、外部からの湿度の影響を抑えられるため、保管性が向上する。一方、最内層にラミネート層を有する可溶性袋状物は、袋ごと投入した際の水分散性が、最内層以外にラミネート層を有する可溶性袋状物と比較して、水分散性に優れる。
【0053】
可溶性袋状物を作製するには、まずシート状の包装材料を作製し、水溶性または水分散性接着剤や縫合等により袋状に加工する。また、ヒートシールにより袋製する場合は、シート状の包装材料に、ヒートシール性の高分子を塗布、含浸、積層又はラミネートすることが好ましい。ヒートシール性高分子としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール等の従来公知のものが挙げられるが、ヒートシール性を示し収縮の少ないものであればこれに限られず用いることができる。ヒートシールによる袋製によれば、工業的生産に有利となる。
【0054】
≪水硬性組成物用セルフレベリング剤≫
本発明の水硬性組成物用セルフレベリング剤は、そのような可溶性袋状物にセメント分散剤、及び、水溶性増粘剤(B)を、それぞれ接触することなく充填し内包する。また、必要に応じてその他添加成分(C)を充填し内包する。
【0055】
セメント分散剤、水溶性増粘剤(B)を、それぞれ接触させないためには、同一の包装材料からなる可溶性袋状物である場合、例えば袋状の中央部分等に水溶性または水分散性接着剤、縫製、ヒートシール加工等を行い、少なくとも2つ以上の区切られた内室を有する可溶性袋状物を成し、セメント分散剤、水溶性増粘剤(B)それぞれを、異なる内室に充填し内包させる方法等を挙げることができる。
そのような場合、必要に応じて他の成分を、セメント分散剤、水溶性増粘剤(B)が内包されたどちらか/両方の内室に混合し充填したり、またはセメント分散剤、水溶性増粘(B)のどちらも内包されていない別の内室に充填することができる。
さらに、別個の包装材料からなる袋状物にセメント分散剤、セメント添加剤のいずれか、または両方の2種以上を内包し、また必要に応じてその他添加成分(C)をどちらか又は別の可溶性袋状物に内包した可溶性袋状物とする実施態様でもよい。
【0056】
本発明の水硬性組成物用セルフレベリング剤が優れた効果を発揮する理由としては以下のことが推測される。すなわち、セメント分散剤と水溶性増粘剤(B)はそれぞれ溶解性が異なり、通常高分子である水溶性増粘剤は溶解速度に劣る。そのように溶解性の異なる2種類のものを混合し水硬性組成物中で溶解させると、溶解性に劣る水溶性増粘剤が吸水したゲル状態に、セメント分散剤も巻き込まれ、セメント分散剤がうまく分散性を発揮できない状態になると推考される。そのため、セメント分散剤と、水溶性増粘剤(B)は、それぞれ接触することなく水硬性組成物中に溶解できるようにすることが重要であると推考される。
【0057】
本発明の水硬性組成物用セルフレベリング剤は、ポリカルボン酸系共重合体またはその塩(A)と水溶性増粘剤(B)が接触することなく内包されていることが好ましい。ポリカルボン酸系共重合体またはその塩(A)と水溶性増粘剤(B)が接触することなく内包されている水硬性組成物用セルフレベリング剤は、水硬性組成物に用いられることにより、水硬性組成物中でポリカルボン酸系共重合体またはその塩(A)や水溶性増粘剤(B)が溶解した後に混合されることで、優れたレベリング性と分散性を両立し、本発明の効果を高く得ることができる。また、ポリカルボン酸系共重合体またはその塩(A)が平均粒子径10μm以上500μm以下の粉末状、水溶性増粘剤(B)が平均粒子径10μm以上600μm以下の粉末状であることが、迅速に溶解するため好ましい。なお、ここで平均粒子径は、レーザー回折・散乱式粒度分布計(マイクロトラック Model-9220-SPA、日機装(株)製)により行うことができる。ここで、最大粒子径とは体積累計100%粒子径の値を、平均粒子径とは体積累計50%粒子径の値をいう。
【0058】
本発明の水硬性組成物用セルフレベリング剤は、可溶性袋状物にポリカルボン酸系共重合体またはその塩(A):水溶性増粘剤(B)=10~90重量%:90~10重量%(ただし、(A)+(B)=100重量%とする)の範囲で含むことが好ましく、ポリカルボン酸系共重合体またはその塩(A):水溶性増粘剤(B)=30~70重量%:70~30重量%の範囲で含むことがより好ましく、ポリカルボン酸系共重合体またはその塩(A):水溶性増粘剤(B)=40~60重量%:60~40重量%の範囲で含むことがさらに好ましい。
【0059】
ポリカルボン酸系共重合体またはその塩(A)と水溶性増粘剤(B)が接触することなく内包されている水硬性組成物用セルフレベリング剤に、その他添加成分(C)を含む場合、そのポリカルボン酸系共重合体またはその塩(A)と水溶性増粘剤(B)の合計固形分量に対し、50重量%以下が好ましく、30重量%以下がより好ましく、20重量%以下がさらに好ましい。
【0060】
≪水硬性組成物≫
本発明の水硬性組成物用セルフレベリング剤は、セメント材料と、セルフレベリング剤の質量比(セメント材料/セルフレベリング剤)が、99.5~99.999/0.5~0.001の範囲内で、水と混練することにより水硬性組成物となる。セメント材料と、水硬性組成物用セルフレベリング剤の質量比(セメント材料/水硬性組成物用セルフレベリング剤)は、99.6~99.91/0.4~0.09であることが好ましく、99.9~99.984/0.1~0.016であることがより好ましい。
【0061】
セメント材料としては、例えば、普通、低熱、中庸熱、早強、超早強、耐硫酸塩等のポルトランドセメント、ポルトランドセメントの低アルカリ形、高炉セメント(A種、B種、C種)、シリカセメント(A種、B種、C種)、フライアッシュセメント(A種、B種、C種)、エコセメント(普通、速硬)、シリカヒュームセメント、白色ポルトランドセメント、アルミナセメント、超速硬セメント、グラウト用セメント、油井セメント、低発熱セメント、セメント系固化材が挙げられる。また、セメント材料中に含まれ得る粉体としては、シリカヒューム、フライアッシュ、石炭石微粉末、高炉スラグ微粉末、膨張剤、その他の鉱物質微粉末等が例示される。即ち、珪酸カルシウム生成物を生成する水和物全般及びセメント換算で強度寄与率が適用される粉体全てが適用される。
【0062】
骨材は、粒径によって細骨材と粗骨材に分類される。細骨材としては、例えば、川砂、山砂、海砂、砕砂、重量骨材、軽量骨材、スラグ骨材、再生骨材が挙げられる。粗骨材としては、例えば、川砂利、砕石、重量骨材、軽量骨材、スラグ骨材、再生骨材が挙げられる。セメント組成物に使用できる水は特に限定されず、例えば、上水道水、上水道水以外の水(河川水、湖沼水、井戸水等)、回収水が挙げられる。
【0063】
水硬性組成物は、本発明の水硬性組成物用セルフレベリング剤の他に、必要に応じて他の混和剤を含有してもよい。他の混和剤は、水硬性組成物用セルフレベリング剤と混合して水硬性組成物に配合してもよく、水硬性組成物用セルフレベリング剤ともに他の混和剤を可溶性袋状物に内封して水硬性組成物に配合してもよく、別々に配合してもよい。ただし、本発明の水硬性組成物の効果を損なわないものを用いることが必要である。
他の混和剤として、例えば空気連行剤(空気連行成分)、消泡剤(消泡成分、制泡成分)、減水剤(標準形、遅延形、促進形)、高性能AE減水剤(標準形、遅延形)、高性能減水剤、硬化促進剤、流動化剤(標準形、遅延形)、(高性能)AE減水剤収縮低減タイプ、高性能減水剤収縮低減タイプ、凝結遅延剤、促進剤、急結剤、起泡剤、防錆剤、耐寒促進剤、付着モルタル安定剤、黒ずみ抑制剤、増粘剤、分離低減剤、凝集剤、セルフレベリング剤、防黴剤等が挙げられる。上記他の混和剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
水硬性組成物の製造方法、運搬方法、打設方法、養生方法、管理方法等について特に制限はなく、通常の方法を採用することができる。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。以下の実施例は、本発明を好適に説明するためのものであって、本発明を限定するものではない。なお、物性値等の測定方法は、別途記載がない限り、上記に記載した測定方法である。また、「部」は別途記載がない限り、質量部を示す。
【0065】
<A成分>
実施例及び比較例において、ポリカルボン酸系共重合体またはその塩(A)として、下記共重合体A1~A2を用いた。
【0066】
(製造例A1)
温度計、撹拌装置、還流装置、窒素導入管及び滴下装置を備えたガラス反応容器に水501部、3-メチル-3-ブテン-1-オールのエチレンオキサイド付加物(エチレンオキサイドの平均付加モル数25個)400部を仕込み、撹拌下で反応容器内を窒素置換し、窒素雰囲気下で80℃に昇温した。その後、アクリル酸80部及び水532部を混合したモノマー水溶液と、過硫酸アンモニウム10部及び水190部の混合液とを、各々1時間で、80℃に保持した反応容器に連続滴下した。さらに、温度を100℃に保持した状態で1時間反応させることにより共重合体の水溶液を得た。液中の共重合体は共重合体A1(重量平均分子量22,000、Mw/Mn1.7)であった。
得られた共重合体A1を回転する冷却盤にゆっくりと薄く広げ、1mm以下の厚さで固体になったものを箆でこそぎ落とし、1mmの網ふるいを通過させ最大粒子径1mm以下に調整し、A1成分を準備した。A1成分の平均粒子径は250μmであった。
【0067】
(製造例A2)
温度計、撹拌装置、還流装置、窒素導入管及び滴下装置を備えたガラス反応容器に水148部、及び、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノアリルエーテル(エチレンオキサイドの平均付加モル数37個、プロピレンオキサイドの平均付加モル数3個、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのランダム付加)94部を仕込み、撹拌下で反応容器内を窒素置換し、窒素雰囲気下で80℃に昇温した。その後、メタクリル酸35部、アクリル酸5部、メトキシポリエチレングリコールメタアクリレート(エチレンオキサイドの平均付加モル数25個)63部、2-ヒドロキシプロピルアクリレート60部、3-メルカプトプロピオン酸8部、水165部を混合したモノマー水溶液と、過硫酸アンモニウム3部及び水47部の混合液とを、各々2時間で、80℃に保持した反応容器に連続滴下した。さらに、温度を100℃に保持した状態で1時間反応させることにより共重合体の水溶液を得た。液中の共重合体は共重合体A2(重量平均分子量11,100、Mw/Mn1.5)であった。
得られた共重合体A2を回転する冷却盤にゆっくりと薄く広げ、1mm以下の厚さで固体になったものを箆でこそぎ落とし、1mmの網ふるいを通過させ最大粒子径1mm以下に調整し、A2成分を準備した。A2成分の平均粒子径は200μmであった。
【0068】
<水溶性増粘剤B>
実施例及び比較例において、水溶性増粘剤Bとして、下記の水溶性増粘剤B1~B2を使用した。
水溶性増粘剤B1:ヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学工業製、メトローズ60SH4000)
水溶性増粘剤B2:ヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学工業製、メトローズ65SH15000)
上記水溶性増粘剤B1、B2は、乾燥器で80℃5時間処理し含水量を4%以下に調整した。その後、ハンマーミル(ホソカワミクロン製、AP-S型)を用いて機械的に粉砕し、目開き600μmの網ふるいを通過させ、最大粒子径600μm以下となるように調整し使用した。平均粒子径は、B1が250μm、B2が200μmであった。
【0069】
<その他添加成分C>
実施例及び比較例において、その他成分Cとして、下記のC1、C2を使用した。
添加剤C1:セメント用消泡剤
添加剤C2:空気連行剤(フローリック製、フローリックAE-4)
上記添加剤C1、C2は、それぞれ水溶液状態とした後、回転する冷却盤にゆっくりと薄く広げ、5mm以下の厚さで固体になったものを箆でこそぎ落とし、10mmの網ふるいを通過させ各辺を10mm以下に調整し、(C)成分を準備した。なお、これ以上のサイズに成形されたものは除外した。
【0070】
<可溶性袋状物への内包>
横21cm×縦21cmの水分散性紙(日本製紙パピリア製、A3015)を用い、短辺の端部それぞれが中央部に接するように折り返し、端部と中央部の接触面でヒートシールを行い接着した。
その後、得られた2つの筒状体の下部をヒートシールで接着し、1箇所のみ開口する内室I及び内室IIを得た。
得られた内室I及び内室IIに対し、下表の配合で薬剤をそれぞれ内包した後、開口部をヒートシールで接着させ、密封した可溶性袋状物を得て、実施例及び比較例の水硬性組成物用セルフレベリング剤とした。
【0071】
【0072】
得られた水硬性組成物用セルフレベリング剤を用いて、コンクリート試験を実施した。試験に用いたコンクリートは、下記のようにして製造した。なお、スランプ試験はJIS A 1101:2014に準じて測定した。
【0073】
(処方1)
コンクリートの配合処方を表2に示す。
【表2】
表2の略称を下記に示す。
C:普通ポルトランドセメント(密度=3.16g/cm
3)
S:細骨材(掛川産山砂(表乾密度=2.58g/cm
3、吸水率=1.90%,F.M.=2.78))
W:上水道水
G:粗骨材(砕石2005 東京都青梅産(表乾密度=2.65g/cm
3、実積率59.3%))
a:粗骨材+細骨材
【0074】
表2記載の各成分を、粗骨材、(半量の)細骨材、セメント、(半量の)細骨材の順で強制二軸ミキサーに投入し、混練10秒後に初期セメント混和剤水を投入し、さらに90秒混練し、排出しベースとなるコンクリートのフレッシュ試験(JIS A 1101 2014に準じてスランプ試験、JIS A 1128 2014に準じて空気量の測定)を実施した。その結果を表3に示す。
なお初期セメント混和剤は、AE減水剤標準形I種である「フローリックSV10」を使用した。
【0075】
フレッシュ試験後すぐに可変式形動ミキサーにコンクリートを入れ、8~10rpm程度の速度でミキサーを回転しながら、表1記載の実施例及び比較例の水硬性組成物用セルフレベリング剤を投入し、180秒混練後、排出し再度フレッシュ試験を実施した。フレッシュ試験後、材料分離抵抗性および施工性に関して、官能試験を実施した。その結果を表3に示す。
【0076】
【0077】
なお、各項目については、下記基準で目視評価した。
<材料分離抵抗性>
◎:骨材とモルタルペーストが一体化しており、コンクリートの性状も非常に良好な状態
○:骨材とモルタルペーストは一体化しており、コンクリートの性状が良好な状態
×:骨材とモルタルペーストが一体化しておらず、モルタルペーストが分離している状態
<施工性>
◎:流動性があり、ポンプ圧送性が良好で、こてによる施工性が非常に良好な状態
○:流動性があり、ポンプ圧送性が良好で、こてによる施工性が良好な状態
△:流動性があり、辛うじて圧送は可能だが、施工性が悪い状態
×:流動性がなく、ポンプ圧送が不可能かつ施工性が非常に悪い状態
【0078】
分散剤単独または増粘剤単独の比較例と比較すると、実施例は施工性や流動性と材料分離抵抗性を両立している結果となった。
【0079】
(処方2)
モルタルの配合処方を表4に示す。
【表4】
略称については表2記載ものと同様である。
【0080】
表4記載の各成分を、(半量の)細骨材、セメント、(半量の)細骨材の順でモルタルミキサー(丸東)に投入し、混練10秒後にセメント混和剤と水を投入し、さらに30秒低速混練し、一度ミキサーを止めて、かき落としを実施した。その後、高速で60秒撹拌して、モルタルを得た。
なおセメント混和剤は、AE減水剤標準形I種である「フローリックSV10」を使用した。
その後排出し、ベースとなるモルタルのフレッシュ試験(ミニスランプ測定および単位容積質量試験による空気量の算出)を実施した。その結果を表5に示す。
【0081】
フレッシュ試験後すぐにモルタルミキサーで低速撹拌しながら、表1記載の実施例及び比較例の水硬性組成物用セルフレベリング剤を投入し、低速で180秒混練した。その後、モルタルについて、再度フレッシュ試験を実施した。フレッシュ試験後、材料分離抵抗性および施工性に関して、上記処方例1と同様にして官能試験を実施した。その結果を表5に示す。
【0082】
【0083】
コンクリート試験同様に、分散剤単独または増粘剤単独の比較例と比較すると、実施例は施工性や流動性と材料分離抵抗性を両立している結果となった。