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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-05
(45)【発行日】2022-04-13
(54)【発明の名称】ファニッシャロール
(51)【国際特許分類】
   B41F 31/07 20060101AFI20220406BHJP
【FI】
B41F31/07
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020010281
(22)【出願日】2020-01-24
(65)【公開番号】P2021115763
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2021-03-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000237260
【氏名又は名称】富士機械工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390015152
【氏名又は名称】明和ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森川 亮
(72)【発明者】
【氏名】大宮 利信
(72)【発明者】
【氏名】石橋 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】村上 徹
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 誠
(72)【発明者】
【氏名】鷹野 彰浩
(72)【発明者】
【氏名】篠原 博人
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 博人
(72)【発明者】
【氏名】宮坂 洋
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-072954(JP,A)
【文献】特開2007-261270(JP,A)
【文献】特開2003-011330(JP,A)
【文献】特開平11-040387(JP,A)
【文献】実開昭59-160273(JP,U)
【文献】特開2002-036508(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0185541(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102007044757(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41F 31/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷時に、外周面に塗料を付着して、互いに接した状態で回転している版胴の外周面に、その塗料を連続供給するファニッシャロールであって、
軸方向の略全域にわたって直径が同じストレート状の外周面を有し、印刷時に前記版胴の外周面に接するロール本体と、
前記ロール本体の各端に一体に連なって、各々が窄まったテーパー状の外周面を有する一対のロール端と、
前記ロール端の各々の端面の中央から突出する一対のシャフトと、
を備え、
前記ストレート状の外周面および前記テーパー状の外周面の各々が、フッ素樹脂製のチューブで被覆されているファニッシャロール。
【請求項2】
請求項1に記載のファニッシャロールにおいて、
前記チューブに、所定の第1径から第2径まで、内径が熱によって収縮可能な熱収縮性チューブが用いられ、
前記テーパー状の外周面の最大外径差が、前記第1径と前記第2径との差よりも小さく形成されていて、
前記ストレート状の外周面および前記テーパー状の外周面の各々が、熱収縮した前記チューブで被覆されているファニッシャロール。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のファニッシャロールにおいて、
前記ロール本体は、
繊維強化プラスチックで形成された、両端に取付開口を有する円筒状部材と、
前記取付開口の各々に嵌合して前記円筒状部材に固定される一対の嵌合部材と、
を有し、
前記シャフトの基端部分が前記嵌合部材に支持されていて、前記ロール端が前記シャフトの中間部分の周囲に取り付けられた状態で、前記ロール本体に一体化されているファニッシャロール。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれか1つに記載のファニッシャロールにおいて、
前記テーパー状の外周面の各々が、前記版胴の端部の隅部の各々と対向するように配置されるファニッシャロール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示する技術は、グラビア印刷機に備えられているファニッシャロールに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、グラビア印刷機には、横長な円柱状部材である、版胴とファニッシャロールとが備えられている。印刷時には、版胴と、インキパンのインキに浸漬されたファニッシャロールとが、互いに接した状態で回転する。
【0003】
それにより、インキパンに貯まるインキが、ファニッシャロールを介して、版胴の外周面に付着される。版胴に付着した過剰なインキは、ドクターブレードによって掻き取られる。そうして、適量になったインキが、連続搬送されるシートに転写されることで、印刷される。
【0004】
印刷時には、ファニッシャロールの外周面が版胴の外周面に圧接することによってインキが版面に付着される。その際、ファニッシャロールが撓んで、版面に圧接しているファニッシャロールの軸方向(幅方向)の中央部分に隙間が生じると、インキの付着状態がばらついて、安定した印刷が行えない。
【0005】
そこで、特許文献1には、そのような隙間が生じないように、幅方向の形状がその中央で左右対称状に二分され、中央から各端に向かって次第に窄まる、略菱形の形状を有するファニッシャロールが開示されている。
【0006】
特許文献2には、内側から順に、鉄層、ゴム弾性体層、およびフロロカーボン樹脂層の3層を積層して構成されたファニッシャロールが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2002-36508号公報
【文献】特開平5-128510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、ファニッシャロールは、外周面にインキを付着させて版胴に転写する。ファニッシャロールのうち、版胴に接する中間部分は、インキの付着、転写が繰り返されるので、印刷中にインキが乾燥して固化することはない。
【0009】
それに対し、ファニッシャロールのうち、版胴に接しない両端部分は、印刷中に付着したインキが乾燥固化して、インキ汚れが発生する。そのため、通常は、版胴やインキの交換等、印刷の切替作業の際に、ファニッシャロールの端部に付着したインキ汚れを除去する作業が行われている。
【0010】
ところが、乾燥固化したインキ汚れは取れ難く、溶剤を用いて、拭き取りを繰り返す等しなければ、除去できない。そのため、インキ汚れの除去作業は、オペレータの負担が大きいうえに、時間を要し、切替時間短縮の障害となっている。また、溶剤の使用量の増大や、それに伴う残肉インキの濃度調整の煩雑化など、様々な不具合を招いている。
【0011】
それに対し、上述した特許文献1や2のファニッシャロールでは、そのようなインキ汚れについては考慮されていない。
【0012】
そこで開示する技術の主たる目的は、インキ等の汚れを抑制し、汚れが生じても容易に除去できるファニッシャロールを実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
開示する技術は、印刷時に、外周面に塗料を付着して、互いに接した状態で回転している版胴の外周面に、その塗料を連続供給するファニッシャロールに関する。
【0014】
前記ファニッシャロールは、軸方向の略全域にわたって直径が同じストレート状の外周面を有し、印刷時に前記版胴の外周面に接するロール本体と、前記ロール本体の各端に一体に連なって、各々が窄まったテーパー状の外周面を有する一対のロール端と、前記ロール端の各々の端面の中央から突出する一対のシャフトとを備える。そして、前記ストレート状の外周面および前記テーパー状の外周面の各々が、フッ素樹脂製のチューブで被覆されている。
【0015】
すなわち、このファニッシャロールによれば、印刷時に版胴の外周面に接する部分を含め、ファニッシャロールの外周面の全体が、フッ素樹脂製のチューブで被覆されている。まず、フッ素樹脂製のチューブであれば、適度な厚みと弾性が得られるため、版胴の外周面に塗料を適切に付着させることができる。チューブであれば、安価で容易に入手でき、細長いファニッシャロールであっても、その全体を均等に被覆できる。
【0016】
また、巻き替えも簡単に行える。なお、ここでいう塗料はインキに限らないが、塗料の中でも主な汚れは、インキによるものであることから、便宜上、塗料をインキとして説明する。
【0017】
フッ素樹脂製であるので、インキが付着して乾燥固化しても容易に除去できる。従って、インキ汚れが生じても容易に除去できる。そして、版胴の外周面に接しないテーパー状の外周面も、継ぎ目無く、連続して被覆されているので、版胴との圧接部位に貯まるインキがその端から流下しても、インキの飛散を抑制しながら円滑に流下させることができる。
【0018】
ファニッシャロールの端から端まで、一気にインキ汚れを拭き取ることができる。従って、インキ汚れが抑制できるし、インキ汚れが生じても容易に除去できる。
【0019】
前記ファニッシャロールはまた、前記チューブに、所定の第1径から第2径まで、内径が熱によって収縮可能な熱収縮性チューブが用いられ、前記テーパー状の外周面の最大外径差が、前記第1径と前記第2径との差よりも小さく形成されていて、前記ストレート状の外周面および前記テーパー状の外周面の各々が、熱収縮した前記チューブで被覆されている、としてもよい。
【0020】
本来、フッ素樹脂素材は扱い難く、被膜を形成しても容易に剥がれるなど問題が多いが、このようなチューブを用いることで、高品質で安定したフッ素樹脂の外周面を、簡単に安定して形成できる。すなわち、ロール本体および各ロール端を、熱収縮していないチューブに挿入して熱を付与するだけで、これらを被覆できるので、容易に製造できる。ロール本体および各ロール端の全体にわたって、一体物で被覆きるので、継ぎ目が無く、インキの内部への浸入も確実に防止できる。
【0021】
前記ファニッシャロールはまた、前記ロール本体は、繊維強化プラスチックで形成された、両端に取付開口を有する円筒状部材と、前記取付開口の各々に嵌合して前記円筒状部材に固定される一対の嵌合部材と、を有し、前記シャフトの基端部分が前記嵌合部材に支持されていて、前記ロール端が前記シャフトの中間部分の周囲に取り付けられた状態で、前記ロール本体に一体化されている、としてもよい。
【0022】
そうすれば、ファニッシャロールに要求される強度および剛性を確保しながら、軽量化できるので、よりいっそう扱い易くなり、切替時間の短縮化を促進できる。
【0023】
前記ファニッシャロールはまた、前記テーパー状の外周面の各々が、前記版胴の端部の隅部の各々と対向するように配置される、としてもよい。
【0024】
版胴の端部の隅部は傷付き易い。そして、傷付いた版胴の端部の隅部がファニッシャロールの外周面に接すると、チューブが破損するおそれがある。それに対し、このファニッシャロールでは、版胴の端部の隅部がファニッシャロールの外周面に接しないため、そのような破損が防止できる。
【0025】
しかも、過剰になって流下するインキが、ファニッシャロールの回転に伴って、テーパー状の外周面に沿って流下するため、インキが飛散し難いし、インキの飛散範囲が縮小される。
【発明の効果】
【0026】
開示する技術を適用したファニッシャロールによれば、インキ汚れが抑制され、インキ汚れが生じても容易に除去できる。従って、インキ汚れの除去に要する溶剤の使用量も削減できるし、印刷の切替作業の負担が軽減され、切替時間を短縮できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】ファニッシャロールを適用した印刷機の要部を示す簡略図である。
図2】本実施形態のファニッシャロールを示す概略図である。要部の断面構造を拡大して示してある。
図3】チューブを説明するための図である。
図4図1における矢印Xの方向から見たファニッシャロール等の端部の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、開示する技術の実施形態を図1等に基づいて詳細に説明する。ただし、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物あるいはその用途を制限するものではない。説明で用いる「軸方向」は、軸J2が延びる方向を意味する。同様に、「周方向」は、軸J2を中心とする円周の方向を意味する。
【0029】
<グラビア印刷機>
図1に、グラビア印刷機(単に印刷機1ともいう)の要部を、簡略化して例示する。本実施形態のファニッシャロール3は、このような印刷機1に付設される。印刷機1には、ファニッシャロール3と共に、インキパン2、版胴4、圧胴5、ドクターブレード6なども備えられている。
【0030】
インキパン2は、印刷時にインキを貯留するトレイ状の容器である。インキが不足すると、図外のインキ供給装置からインキパン2にインキが供給される。それにより、印刷中は、所定量のインキがインキパン2に保持される。印刷時には、ファニッシャロール3、版胴4、および圧胴5は、滴下するインキが回収できるように、インキパン2の上方に配置される。
【0031】
ファニッシャロール3、版胴4、および圧胴5の各々は、いずれも横長な円柱状の部材からなる。これらはいずれも、図外の支持部材により、略水平方向に延びる軸J1~J3を中心に回転自在に軸支されている。ファニッシャロール3の詳細については、後述する。
【0032】
ファニッシャロール3の下部は、インキに浸漬される。版胴4は、ファニッシャロール3の斜め上方に配置され、版胴4の下横部の外周面がファニッシャロール3の上横部の外周面に圧接される。圧胴5は、版胴4の上方に配置され、印刷対象である帯状のシートWを間に挟み込んだ状態で、圧胴5の下部の外周面が版胴4の上部の外周面に圧接される。
【0033】
図示しないが、版胴4の外周面の両端部を除く部分には、印刷模様を構成する凹溝が形成された印刷面が設けられている。版胴4の各端部の隅部4bは、面取り加工によって丸められている(図4参照)。
【0034】
印刷時には、版胴4は、図1に矢印で示す方向(図例では反時計回り)に、軸J1を中心に所定の速度で回転駆動される。それに連動して、ファニッシャロール3および圧胴5も、それぞれ軸J2、J3を中心に回転する(図例では時計回り)。版胴4の回転に合わせて、シートWが連続搬送される。
【0035】
ファニッシャロール3が回転すると、その下部の浸漬部位を通過する際に、ファニッシャロール3の外周面にインキが付着する。インキが付着したファニッシャロール3の外周面は、版胴4との圧接部位に向かって回転していく。
【0036】
ファニッシャロール3は、版胴4から独立して回転駆動される。適量のインキを飛散させることなく移送するため、ファニッシャロール3の回転速度は、例えば、マイナス10%~20%等、版胴4の回転数よりも所定量小さく設定されるのが一般的である。
【0037】
それにより、ファニッシャロール3と版胴4との圧接部位の上側の隙間に、軸方向に沿って延びるインキ溜まりIpが形成される。このようなインキ溜まりIpが形成されることにより、版胴4の外周面(印刷面)の全域に、安定して十分量のインキが連続供給される。
【0038】
ドクターブレード6は、帯板形状を有する刃物状の部材からなる。ドクターブレード6は、版胴4に沿って延びるように、ブレードホルダー7を介して図外の支持部材に支持されている。
【0039】
印刷時には、版胴4の外周面のうち、ファニッシャロール3との圧接部位から圧胴5との圧接部位に向かって回転している側の所定部位に、所定の角度で、その刃先が圧接するように、ドクターブレード6は位置決めされている。
【0040】
そうすることにより、ファニッシャロール3によって版胴4の外周面に付着された過剰なインキは、ドクターブレード6によって掻き取られる。そうして、適量になったインキが、連続搬送されるシートWに転写されて印刷が行われる。
【0041】
<ファニッシャロール3>
印刷時のファニッシャロール3は、その外周面にインキを付着した状態で回転し、ファニッシャロール3の上横部に形成されるインキ溜まりIpで過剰になったインキは、その両端から流下する。
【0042】
従って、印刷時には、ファニッシャロール3の外周面やインキ溜まりIpからインキが飛散し、そのインキがファニッシャロール3の各端部に付着する。ファニッシャロール3の両端部分に付着したインキは印刷中に乾燥固化し、インキ汚れが発生する。
【0043】
従って、通常は、印刷の切替作業の際に、インキ汚れの除去作業が行われる。ところが、インキ汚れは、溶剤を用いて、拭き取りを繰り返す等しなければ、除去できない。そのため、インキ汚れの除去作業は、オペレータの負担が大きく、時間を要し、切替時間短縮の障害となるなど、問題視されている。
【0044】
そこで、本実施形態のファニッシャロール3では、インキ汚れが抑制され、インキ汚れが生じても容易に除去できるように工夫が施されている。
【0045】
図2に、そのファニッシャロール3を示す。ファニッシャロール3には、ロール本体30、一対のロール端31,31、および一対のシャフト32,32が備えられている。
【0046】
ロール本体30は、印刷時に版胴4の外周面に接するファニッシャロール3の中間部分である。ロール本体30は、細長い円柱状に形成されていて、軸方向の略全域にわたって直径が同じストレート状の外周面30aを有している。
【0047】
ロール端31の各々は、そのロール本体30の各端に一体に連なってファニッシャロール3の端部を構成する部分である。すなわち、各ロール端31は、ロール本体30と一体的に構成されている。ロール端31の各々は、截頭円錐状に形成されていて、先端に向かうほど直径が小さくなる、窄まったテーパー状の外周面31aを有している。
【0048】
シャフト32の各々は、ロール本体30よりも十分に小径の高剛性な金属棒からなり、ロール端31の各々の端面の中央から、軸方向を互いに逆向きに突出している。ファニッシャロール3は、これらシャフト32を介して、図外の支持部材に軸支される。なお、ファニッシャロール3は、その支持部材から必要に応じて脱着できる。
【0049】
ロール本体30は、円筒状部材301と一対の嵌合部材302,302を有している。円筒状部材301は、両端に取付開口301aを有する細長い円筒状の部材からなり、炭素繊維強化プラスチック(carbon fiber reinforced plastic、いわゆるCFRP)で形成されている。ロール本体30の各端の縁には、各ロール端31のテーパー状の外周面31aと円滑に連なるように、研磨により、僅かに傾斜した傾斜面301bが形成されている。
【0050】
嵌合部材302の各々は、短寸円柱状の部材からなり、アルミ合金などで形成されている。各嵌合部材302は、各取付開口301aに嵌合されて円筒状部材301の各端部に固定されている。従って、ロール本体30の大半は中空なうえに、ロール本体30の全体が軽量な素材で構成されている。しかも、円筒状部材301は、CFRPで形成されているため、金属と同等の強度および剛性が確保できる。
【0051】
各嵌合部材302の中央には、軸孔302aが形成されている。その軸孔302aに、シャフト32の基端部分を挿入して固定することにより、各シャフト32は各嵌合部材302に支持されている。それにより、各シャフト32は、ロール本体30と強固に一体化されている。
【0052】
ロール端31の各々は、シャフト32が貫通するカップ形状の部分からなり、繊維強化プラスチック(fiber reinforced plastic、いわゆるFRP)、発泡樹脂、エポキシ樹脂などで形成されている。
【0053】
各ロール端31の外周部分は、FRPで形成されていて、基端から突端に向かって僅かに窄んだ円筒状の外枠部材310で構成されている。外枠部材310の基端は、ロール本体30の端に連結されていて、ロール本体30のストレート状の外周面30aの端(傾斜面301b)と外枠部材310のテーパー状の外周面31aとは、段差無く連ねられている。
【0054】
外枠部材310の内側には、樹脂製の発泡体311が充填されていて、外枠部材310をシャフト32およびロール本体30に対して安定的に固定しながら、軽量化が図られている。発泡体311は、外枠部材310の突端側の一部を除く部分に充填されている。
【0055】
本実施形態では、外枠部材310の突端から基端側に発泡体311の表面が一段下がることにより、各ロール端31の突端に凹部31bが形成されていて、その凹部31bにエポキシ樹脂312(熱硬化性樹脂)が充填されている。
【0056】
ファニッシャロール3の外周面、すなわち、ロール本体30のストレート状の外周面30aおよび、ロール端31のテーパー状の外周面31aの各々は、テフロン(登録商標)などの、フッ素樹脂製のチューブ40で被覆されている。
【0057】
ファニッシャロール3は、その外周面にインクを付着し、版胴4に圧接することによってインクを版胴4に転写する。そのため、その外周面は適度な弾性が必要であり、適度な厚みと弾性を有するチューブ40が用いられている。
【0058】
チューブ40であれば、安価で容易に入手でき、細長いファニッシャロール3であっても、その全体を均等に被覆できる。しかも、そのチューブ40には、熱によって収縮する熱収縮性チューブが用いられていて、ストレート状およびテーパー状の外周面30a,31aの各々が、熱収縮したチューブ40で被覆されている。
【0059】
具体的には、チューブ40の収縮率には限界があり、例えば、図3に示すように、熱によって収縮可能な内径の範囲は、二点鎖線で示す第1径D1から実線で示す第2径D2までに限られる。そこで、各ロール端31のテーパー状の外周面31aの最大外径差L(図2参照)は、その第1径D1と第2径D2との差よりも小さく形成されていて、チューブ40が熱収縮することで、ファニッシャロール3の外周面の全体に、チューブ40が確りと密着するように構成されている。
【0060】
ロール本体30および各ロール端31を、熱収縮していないチューブ40に挿入して熱を付与するだけで、これらを被覆できるので、製造も容易である。本来、フッ素樹脂素材は扱い難く、被膜を形成しても容易に剥がれるなど問題が多いが、このようなチューブ40を用いることで、フッ素樹脂の外周面を、簡単に安定して形成できる。チューブ40は弾性部材としても機能するので、部材数を削減できる利点もある。
【0061】
例えば、チューブ40の厚みとしては、0.2~1.0mm(0.2mm以上1.0mm以下、以下同様)の範囲が好ましい(本実施形態では0.5mm)。テーパー状の外周面31aの傾斜角θ(基端部位における傾斜角)としては、1°より大きく20°以下が好ましい(本実施形態では、約6°)。
【0062】
端部にアールを有するファニッシャロールの場合、通常、端部の傾斜した曲面部分は10~20mm程度である。それに対し、このファニッシャロール3の場合、このような適度な傾斜を得るために、テーパー状の外周面31aの軸方向の長さは、50~150mmとなっている。
【0063】
詳細は後述するが、このようなテーパー状の外周面31aを形成することで、ファニッシャロール3の端部を、版胴4の隅部4bに接触することなく、インキパン2に溜まるインキの液面よりも上方に位置させることが可能になり、インキを円滑にインキパン2に流下させることができる。
【0064】
本実施形態では、チューブ40を熱収縮させた後、チューブ40の端部は、各ロール端31から少し張り出すように調整される。そうして、各ロール端31から張り出したチューブ40の端部は、外枠部材310の突端に沿って折り返されて、凹部31bに差し入れられている。その状態でエポキシ樹脂312が充填されて硬化されることにより、チューブ40の端部は、エポキシ樹脂312に埋設されて固定されている。
【0065】
シャフト32の外周面のうち、ロール端31の近傍部分にも、フッ素樹脂製の熱収縮性のチューブ41で被覆されている。エポキシ樹脂312で構成されているロール端31の端面には、リング形状をしたフッ素樹脂製のテープ42が貼り付けられている。それにより、各シャフト32の突端部分を除いた、ファニッシャロール3の外面の全域が、フッ素樹脂素材で被覆されている。
【0066】
エポキシ樹脂312の充填およびテープ42の貼り付けに替えて、凹部31bに、リング形状に形成したフッ素樹脂製の板を嵌め込み、固定してもよい。フッ素樹脂素材であれば、インキが付着して乾燥固化しても容易に除去できる。従って、インキ汚れが生じても容易に除去できる。
【0067】
更に、このファニッシャロール3では、フッ素樹脂の被覆が傷付き難く、かつ、インキ汚れが生じ難くなるように構成されている。
【0068】
すなわち、図4に示すように、ファニッシャロール3は、版胴4に対して、テーパー状の外周面31aの各々が、版胴4の端部の隅部4bの各々と、隙間を介して対向するように配置される。
【0069】
版胴4の各端部の端面には軸支孔4cが形成されていて、これら軸支孔4cにシャフト4aが挿入されることにより、版胴4は着脱自在に支持される。印刷機1から取り外された版胴4は、その端部の隅部4bを利用して転がしたり、一方の端面を下にして縦置きしたりする場合があるため、版胴4の端部の隅部4bは傷付き易い。
【0070】
傷付いた版胴4の端部の隅部4bがファニッシャロール3の外周面に接すると、チューブ40が破損するおそれがあるが、このファニッシャロール3では、版胴4の端部の隅部4bがファニッシャロール3の外周面に接しないため、そのような破損が防止できる。
【0071】
そして、ファニッシャロール3の端部であるロール端31には、テーパー状の外周面31aが形成されているので、ロール本体30の外周面をインキパン2に溜まるインキの液面IFよりも下方に浸漬しながら、ロール端31の端側の部分を、安定して、インキの液面IFよりも上方に位置させることができる。従って、インキの液面IFが波打っても、ファニッシャロール3の端部にインキが付着するのを効果的に防止できる。
【0072】
そして、インキ溜まりIpで過剰になったインキは、その両端から流下するが、図4に矢印で示すように、流下するインキは、ファニッシャロール3の回転に伴って、テーパー状の外周面31aに沿って流下する。そのため、インキが飛散し難い。
【0073】
しかも、軸方向を外方に行くほど、外周面の移動が早くなるので、飛散しても軸方向の外方には向き難い。従って、テーパー状の外周面31aを越えた箇所にインキ汚れが生じること自体が抑制される。
【0074】
このように、このファニッシャロール3によれば、インキ汚れが抑制され、インキ汚れが生じても容易に除去できる。従って、印刷の切替作業の負担が軽減され、切替時間を短縮できるようになる。しかも、ファニッシャロール3、それ自体が軽量化されているので、簡単に脱着して、持ち運びできる。従って、よりいっそう切替時間を短縮できる。
【0075】
なお、開示する技術にかかるファニッシャロールは、上述した実施形態に限定されず、それ以外の種々の構成をも包含する。例えば、ロール端や嵌合部材の素材や構造は、仕様に応じて適宜変更できる。テーパー状の外周面は、平坦に限らない。曲面であってもよい。ロール本体の材質は、強化プラスチックやアルミ合金などの軽金属であってもよい。
【符号の説明】
【0076】
1 印刷機
2 インキパン
3 ファニッシャロール
4 版胴
5 圧胴
6 ドクターブレード
30 ロール本体
30a ストレート状の外周面
31 ロール端
31a テーパー状の外周面
310 外枠部材
311 発泡体
312 エポキシ樹脂
32 シャフト
40 フッ素樹脂製のチューブ
41 フッ素樹脂製のチューブ
42 フッ素樹脂製のテープ
J1~J3 軸
W シート
Ip インキ溜まり
図1
図2
図3
図4