(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-05
(45)【発行日】2022-04-13
(54)【発明の名称】ガス発生剤組成物およびその成形体ならびにそれを用いたガス発生器
(51)【国際特許分類】
C06D 5/00 20060101AFI20220406BHJP
C06B 31/00 20060101ALI20220406BHJP
C06B 33/00 20060101ALI20220406BHJP
C06D 5/06 20060101ALI20220406BHJP
B60R 21/264 20060101ALI20220406BHJP
B01J 7/00 20060101ALI20220406BHJP
【FI】
C06D5/00 Z
C06B31/00
C06B33/00
C06D5/06
B60R21/264
B01J7/00 A
(21)【出願番号】P 2017057861
(22)【出願日】2017-03-23
【審査請求日】2020-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】598015084
【氏名又は名称】学校法人福岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100195327
【氏名又は名称】森 博
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【氏名又は名称】南瀬 透
(72)【発明者】
【氏名】加藤 勝美
(72)【発明者】
【氏名】東 英子
(72)【発明者】
【氏名】松永 浩貴
(72)【発明者】
【氏名】中島 美穂
(72)【発明者】
【氏名】松本 晃典
(72)【発明者】
【氏名】高木 聡介
【審査官】柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-160152(JP,A)
【文献】特表2013-504507(JP,A)
【文献】特表2014-517803(JP,A)
【文献】特開2002-012493(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C06D 5/00
C06B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硝酸グアニジンと塩基性硝酸銅との質量比(硝酸グアニジン:塩基性硝酸銅)が、70:30~45:55であり、前記硝酸グアニジン及び前記塩基性硝酸銅の合計質量100質量部に対して、
沸点が2300℃以下または融点が1800℃以下の酸化剤を10~25質量部含有
し、
前記酸化剤が、酸化モリブデンおよび/または酸化バナジウムあるガス発生剤組成物。
【請求項2】
前記酸化剤が
、酸化バナジウムである請求項1記載のガス発生剤組成物。
【請求項3】
前記硝酸グアニジン及び酸化剤の合計質量100質量部に対して、さらに、酸化アルミニウムを1~25質量部含有する請求項1または2記載のガス発生剤組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のガス発生剤組成物を成形してなる成形体。
【請求項5】
ガス発生剤を装填したガス発生器において、前記ガス発生剤として請求項4記載の成形体を用いてなるガス発生器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアバッグ装置等の車両安全装置用ガス発生器等に使用されるガス発生剤組成物に関する。また、その成形体ならびにそれを用いたガス発生器に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車に代表される車両の衝突事故に対する搭乗員保護のための安全装置として、エアバッグ装置やシートベルトプリテンショナー装置が採用されている。エアバッグ装置は、車両が衝突事故を起こした場合、衝突検知センサーから電気信号がエアバッグ展開用ガス発生器に送られ、該ガス発生器内に装填されているガス発生剤を燃焼させてガスを生成させ、そのガス圧力によりエアバッグを展開させるものである。一方、シートベルトプリテンショナー装置は、車両の衝突をセンサーが検知すると、電気信号によりシートベルトプリテンショナー用ガス発生器に装填したガス発生剤を燃焼させてガスを生成させ、そのガス圧力によりシートベルト巻取り機構を作動させるものである。このようなエアバッグ装置等に採用されているガス発生器の性能の重要な構成となる各種のガス発生剤組成物が開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1は、テトラゾール誘導体、グアニジン誘導体又はそれらの混合物、塩基性金属硝酸塩及びバインダ及び/又はスラグ形成剤を含有するガス発生剤組成物を開示するものである。また、特許文献2は、燃料としての有機化合物および含酸素酸化剤、水酸化マグネシウム、又は水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウムの混合物を含有し、必要に応じて更にバインダ、金属酸化物、金属炭酸化物から選ばれる添加剤、比表面積が100~500m2/gである二酸化ケイ素等を含有するガス発生剤組成物を開示するものである。また、特許文献3は、燃料としての有機化合物および、含酸素酸化剤、水酸化アルミニウム、必要に応じて更にバインダ、金属酸化物、金属炭酸化物から選ばれる添加剤等を含有するガス発生剤組成物を開示するものである。また、特許文献4は、燃料、酸化剤、並びにリン酸類及びリン酸類の塩から選ばれるものを含有するガス発生剤組成物を開示するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-12493号公報
【文献】特開2005-126262号公報
【文献】特開2004-155645号公報
【文献】特開2006-076824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ガス発生剤は、燃焼されて燃焼ガスを発生させるために利用され、そのガスによりエアバッグの展開等が行われる。この燃焼ガスには、一酸化炭素(CO)や、アンモニア(NH3)、窒素酸化物(NOx)などの有害ガスが発生し含まれていることが知られている。特許文献1~4は、それぞれのガス発生剤組成物により、一酸化炭素及び窒素酸化物の生成量を少なくすることなどを課題とするものである。なお、特許文献4は、さらに、燃焼残渣がミストになり、インフレータ外に放出することを防止するものである。
【0006】
特許文献1~4に開示されるような従来技術によって有害ガスの低減は図られているが、それでも一定の有害ガスは発生しており、近年、自動車1台あたりに搭載されるエアバッグの種類や個数も増加傾向にあることからも、さらに有害ガスの発生量を低減することが求められている。
【0007】
このような状況下、本発明の目的は、燃料成分として硝酸グアニジンを使用したガス発生剤により、有害ガスの中でも特に一酸化炭素が極めて少ないガス発生剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> 硝酸グアニジンと塩基性硝酸銅との質量比(硝酸グアニジン:塩基性硝酸銅)が、70:30~45:55であり、前記硝酸グアニジン及び前記塩基性硝酸銅の合計質量100質量部に対して、
沸点が2300℃以下または融点が1800℃以下の酸化剤を1~25質量部含有するガス発生剤組成物。
<2> 前記酸化剤が、酸化モリブデンおよび/または酸化バナジウムである前記<1>記載のガス発生剤組成物。
<3> 前記硝酸グアニジン及び酸化剤の合計質量100質量部に対して、さらに、酸化アルミニウムを1~25質量部含有する前記<1>または<2>記載のガス発生剤組成物。
<4> 前記<1>~<3>のいずれかに記載のガス発生剤組成物を成形してなる成形体。
<5> ガス発生剤を装填したガス発生器において、前記ガス発生剤として前記<4>記載の成形体を用いてなるガス発生器。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ガス発生器として燃焼を行っても一酸化炭素発生量が極めて少ないガス発生剤組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下の例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。なお、本明細書において、「~」とはその前後の数値又は物理量を含む表現として用いるものとする。
【0012】
本発明は、硝酸グアニジンと塩基性硝酸銅との質量比(硝酸グアニジン:塩基性硝酸銅)が、70:30~45:55であり、前記硝酸グアニジン及び前記塩基性硝酸銅の合計質量100質量部に対して、沸点が2300℃以下または融点が1800℃以下の酸化剤を1~25質量部含有するガス発生剤組成物に関する。なお、沸点が2300℃以下の酸化剤と融点が1800℃以下の酸化剤とを併用する場合、これらの合計量として、前記質量部含有するものとしてもよい。また、沸点と融点の双方の要件を満たす場合は、重複して重量を換算する必要はない。
【0013】
本発明者らは、硝酸グアニジンと塩基性硝酸銅とを含有するガス発生剤組成物を用いて、沸点が2300℃以下または融点が1800℃以下の酸化剤を含有させることで、意外にも、極めて一酸化炭素発生量が極めて低いことを実験的に見出して本願発明に至った。すなわち、この本願発明のガス発生剤組成物は、一酸化炭素発生量が極めて低いガス発生器に用いられる。
【0014】
[硝酸グアニジン]
本発明のガス発生剤組成物は、燃料成分として硝酸グアニジンを含有する。硝酸グアニジンは、ガス発生剤組成物の燃料成分である。硝酸グアニジンは、比較的燃焼性が高く有害ガスの発生も少ないとされ、広くガス発生剤組成物の燃料成分として利用されている。また、硝酸グアニジンは低圧で燃焼する。よって、これを用いるガス発生器は、そのハウジングの耐圧性を低く設計し得ることから、ガス発生器の肉厚を薄くし、軽量化しやすい。本発明ではこの硝酸グアニジンを燃料成分として利用して、有害ガス、特に一酸化炭素の発生が極めて少ないガス発生剤組成物等を提供する。
【0015】
[塩基性硝酸銅(BCN)]
本発明のガス発生剤組成物は、共酸化剤として塩基性硝酸銅を含有する。ガス発生剤組成物には、着火性や燃焼持続性を向上させるために、共酸化剤が用いられる。本発明においては、この共酸化剤として塩基性硝酸銅(BCN:Cu(NO3)2・3Cu(OH)2)を含有する。塩基性硝酸銅は、着火性が高く酸素供給性が優れていることから硝酸グアニジンと組み合わせた時、より一酸化炭素の生成量を低減することができる。
【0016】
[硝酸グアニジンと塩基性硝酸銅との質量比(硝酸グアニジン:塩基性硝酸銅)]
本発明のガス発生剤組成物は、硝酸グアニジンと塩基性硝酸銅との質量比(硝酸グアニジン(GN):塩基性硝酸銅(BCN))が、70:30~45:55である。硝酸グアニジンと塩基性硝酸銅とが、ガス発生剤組成物の主要成分となる。ガス発生剤を燃焼した時、これらの比率によって、燃焼ガス中のガス成分が変化する。硝酸グアニジンと塩基性硝酸銅との酸素バランスは、GN/BCNのモル比が9/4(質量比で53/47)でほぼ0となる。これを基準とする範囲で設計した時、特に燃焼ガス中の有害ガスが低減されやすい。
【0017】
なお、本発明者らの知見によれば、酸素バランスがプラス(BCN比率が多い)になるほど、CO,NH3の発生量が少ない。また、酸素バランスがマイナス(GN比率が多い)になるほど、NOxの発生量が少ない。特に有害ガスとしての全量を制御すべきCOとNOxの合計量を低減するためには、GN/BCN(質量比)を、70:30~45:55とする。CO発生量を少なくするためには、57:43~50:50とすることがより好ましい。一方、NOx発生量を少なくするためには、GN/BCN(質量比)を、60:40~53:47とすることがより好ましい。CO、NOxといった排ガス量を低減する観点からは、65:35~50:50とすることがより好ましく、57:43~53:47とすることが特に好ましい。
【0018】
本発明のガス発生剤組成物は、添加剤として、「沸点が2300℃以下の酸化剤」または「融点が1800℃以下の酸化剤」の少なくとも一方を含有する。以下、本願において「沸点が2300℃以下の酸化剤」と「融点が1800℃以下の酸化剤」とを合わせて「本発明に用いられる酸化剤」と記載する場合がある。本発明は、添加剤として含有される酸化剤を沸点または融点の特徴から適したものを選択するものである。なお、これらの酸化剤は、沸点、融点いずれの要件も満足する酸化剤を用いてもよく、そのような添加剤を用いる場合、一方の添加剤としてのみその含有量を管理すればよい。
【0019】
[沸点が2300℃以下の酸化剤]
本発明のガス発生剤組成物は、添加剤として、沸点が2300℃以下の酸化剤を含有することが好ましい。このような酸化剤としては、酸化モリブデン(MoO3(沸点1155℃))、酸化バナジウム(V2O5(沸点1750℃))、酸化タングステン(WO3(沸点1837℃))、酸化スズ(SnO2(沸点1800℃))などの金属酸化物があげられる。特に、価数が4以上の金属酸化物が好ましい。本発明者らは、この沸点が2300℃以下の酸化剤を含有することで、そのガス発生剤組成物を燃焼した時、一酸化炭素(CO)の発生量が少なくなることを実験的に確認した。これは、詳細な原理は明らかではないが、これらの酸化物(金属酸化物)が、ガス燃焼時に酸素(O2)を放出し、その酸素とガス燃焼時に発生した一酸化炭素とが反応して二酸化炭素となるためと考えられる。
【0020】
[融点が1800℃以下の酸化剤]
本発明のガス発生剤組成物は、添加剤として、融点が1800℃以下の酸化剤を含有することが好ましい。このような酸化剤としては、MoO3(融点795℃)、V2O5(融点690℃)、WO3(融点1473℃)、SnO2(融点1630℃)などの金属酸化物があげられる。特に、価数が4以上の金属酸化物が好ましい。本発明者らは、この融点が1800℃以下の酸化剤を含有することで、そのガス発生剤組成物を燃焼した時、一酸化炭素(CO)の発生量が少なくなることを実験的に確認した。
【0021】
本発明のガス発生剤組成物における、沸点が2300℃以下の酸化剤または沸点が1800℃以下の酸化剤の含有量は、前記硝酸グアニジン及び前記塩基性硝酸銅の合計質量100質量部を基準として、これに対して、1~25質量部含有する。この比率で沸点が2300℃以下の酸化剤を含有させることで、有害ガス、特に一酸化炭素の発生量を少なくすることができる。有害ガスの発生量をより少なくするために、前記含有量は、3質量部以上とすることが好ましく、5質量部以上とすることがより好ましい。一方、沸点が2300℃以下の酸化剤の含有量を過剰にしても、その効果は飽和すると考えられ、ガス発生剤組成物のガス発生のための主要成分となる硝酸グアニジン及び塩基性硝酸銅の含有量が相対的に低下することから、前記含有量は25質量部以下とされる。この含有量は22質量部以下がより好ましい。
【0022】
なお、本発明のガス発生剤組成物においては、沸点が2300℃を超える酸化剤または融点が1800℃を超える金属酸化剤の含有量は特別管理しなくてもよい。しかし、これらが含まれることで、相対的に本発明に用いられる酸化剤による有害ガス低減のための反応性が低下する場合がある。よって、本発明に用いられる酸化剤の要件を満たさない、「沸点が2300℃を超える酸化剤」および「融点が1800℃を超える金属酸化剤」の合計含有量は、本発明のガス発生剤組成物に含まれる硝酸グアニジン及び塩基性硝酸銅の合計質量100質量部に対して、25質量部以下含有するものとすることが好ましい。この含有量は、10質量部以下とすることがより好ましく、1質量部以下とすることが特に好ましい。これらの含有量は、本発明のガス発生剤組成物における任意成分である酸化アルミニウム以外の金属酸化剤の合計含有量として管理してもよい。
【0023】
本発明においては、一酸化炭素の低減効果から、本発明の沸点が2300℃以下または融点が1800℃以下の酸化剤として、酸化モリブデン、酸化バナジウム、酸化タングステン、および酸化スズからなる群から選択される少なくとも1以上の金属酸化物を含有することが好ましい。また、特に、本発明のガス発生剤組成物における前記沸点が2300℃以下の酸化剤または融点が1800℃以下の酸化剤は、酸化モリブデン(MoO3)および/または酸化バナジウム(V2O5)であることが好ましい。酸化モリブデンおよび酸化バナジウムは、特に有害ガスの発生量を少なくするために有効である。なお、これらを用いるときは、いずれか一方のみで、前記含有量としてもよい。また、双方を用いる場合、それらの合計量として、前記沸点が2300℃以下の酸化剤(および融点が1800℃以下の酸化剤)の含有量としたガス発生剤組成物とすることが好ましい。
【0024】
本発明のガス発生剤組成物は、更に酸化アルミニウム(Al2O3)を含有することが好ましい。この酸化アルミニウムの含有量は、前記硝酸グアニジン及び酸化剤の合計質量100質量部に対して、酸化アルミニウム(Al2O3)を1~25質量部とすることが好ましい。さらに酸化アルミニウムを含有することで、燃焼ガスに含まれるNOxの発生量をより少なくすることができる。また、本発明に用いられる酸化剤と組み合わせて、一酸化炭素の発生量も少なくすることができる。これは、詳細な原理は明らかではないが、酸化アルミニウムが、燃焼時に触媒として作用することによると考えられる。有害ガスの発生量をより少なくするために、前記含有量は、3質量部以上とすることが好ましく、5質量部以上とすることがより好ましい。一方、酸化アルミニウムの含有量を過剰にしても、その効果は飽和すると考えられ、ガス発生剤組成物のガス発生のための主要成分となる硝酸グアニジン及び塩基性硝酸銅の含有量が相対的に低下することから、前記含有量は25質量部以下とされる。この含有量は22質量部以下がより好ましい。
【0025】
本発明のガス発生剤組成物は、更に任意の添加剤を含有していてもよい。このような添加剤としては、一般的に車両搭乗者安全装置用ガス発生器用のガス発生剤組成物に使用可能な添加剤を用いることができる。例えば、好適な燃焼特性を維持するために成形性や形状保持性を付与するためのバインダー剤、燃焼残渣を容易にろ過することを可能にするためのスラグ形成剤、その他、滑剤、燃焼調整剤等の添加剤を用いることができる。
【0026】
これら添加剤を用いる場合、その含有量はその用途により異なるが、いずれの用途においても、添加剤の含有量が多くなり過ぎると、燃焼性等の性能が低下するため、ガス発生剤組成物中に占める添加剤の含有量は、0.1~15質量%が好ましく、0.1~10質量%が更に好ましい。
【0027】
上記バインダー剤は、好適な燃焼特性を維持させるために成形性、形状保持性を付与する添加剤であり、インフレータが使用される過酷な環境下であってもガス発生剤の成形体形状が保たれることにより燃焼性能を保持することができる。該バインダー剤としては、ガス発生剤組成物の燃焼挙動に大幅な悪影響を与えなければ特に制限なく使用でき、例えば、カルボキシメチルセルロースの金属塩、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、ニトロセルロース、微結晶性セルロース、グアガム、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、デンプン等の多糖誘導体、ステアリン酸塩等の有機バインダー、二硫化モリブデン、合成ヒドロタルサイト、酸性白土、タルク、ベントナイト、ケイソウ土、カオリン、シリカ、酸化アルミニウム等の無機バインダーが好適に挙げられる。これらの中でも、セルロース系バインダー、酸性白土が特に好ましい。
【0028】
本発明のガス発生剤組成物中におけるバインダー剤の含有量は、1~10質量%が好ましく、1~5質量%が更に好ましい。バインダー剤の含有量が高いと、成形体の破壊強度を高めることができるが、組成物中の炭素元素及び水素元素の数が増大し、炭素元素の不完全燃焼生成物である一酸化炭素ガスの濃度が増大し、発生ガスの品質を低下させ、また燃焼を阻害してしまうおそれもあることから、ガス発生剤組成物の形状を維持できる最低量での使用が好ましい。特に、バインダー剤の含有量が10質量%を超えると、酸化剤成分の相対的存在割合の増大が必要となり、ガス発生剤組成物中における燃料成分の相対的存在割合が低下し、ガス発生器の実用化が困難になるおそれがある。
【0029】
上記スラグ形成剤は、ガス発生剤組成物の燃焼後に生成する燃焼残渣を容易にろ過することを可能にする添加剤であり、インフレータの外に放出することを防ぐことを目的に添加される。該スラグ形成剤の具体例としては、例えば、窒化珪素、炭化珪素、二酸化珪素、珪酸塩、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸性白土、クレー等の天然鉱物等が挙げられる。
【0030】
本発明においてスラグ形成剤を用いる場合、ガス発生剤組成物中における含有量は、0.5~10質量%が好ましく、1~5質量%が更に好ましい。スラグ形成剤の含有量が高いと、燃焼性を低下させ、更には発生ガスのモル数を低下させることから、乗員保護性能が十分に発揮されないおそれがある。
【0031】
上記滑剤は、ガス発生剤組成物の調製時において原料成分の混合性向上、流動性改善を目的として添加される。該滑剤の具体例としては、例えば、グラファイト、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸ナトリウム、窒化ホウ素、高分散シリカ(二酸化珪素)、タルク等が挙げられる。これらの中でも、高分散シリカ(二酸化珪素)は、原料混合時の固着や凝集を抑制して均一に分散混合する機能を有しており、各成分の粒度特性・作用を維持する効果があり、特に有用である。
【0032】
本発明において滑剤を用いる場合、ガス発生剤組成物中における滑剤の含有量は、0.1~5質量%が好ましく、0.1~2質量%が更に好ましい。滑剤の含有量が高いと、燃焼性の低下、発生ガスのモル数の低下、更には発生ガス中の一酸化炭素の濃度の増大等が起きるおそれがある。
【0033】
上記燃焼調整剤は、ガス発生剤組成物の燃焼を調整するための添加剤であり、具体例としては、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化銅、酸化亜鉛、酸化マンガン、酸化クロム、酸化コバルト等の金属酸化物、水酸化銅、水酸化コバルト、水酸化亜鉛、水酸化アルミニウム等の金属水酸化物、活性炭粉末、グラファイト、カーボンブラック等の炭素類等が挙げられる。
【0034】
本発明において燃焼調整剤を用いる場合、ガス発生剤組成物中における燃焼調整剤の含有量は、10質量%以下が好ましく、5質量%以下が更に好ましい。
【0035】
本発明のガス発生剤組成物は、所望の形状に成形して成形体とし、ガス発生器に組み込むガス発生剤として使用される。以下、ガス発生剤組成物の成形体を「ガス発生剤」と称する場合がある。
【0036】
本発明のガス発生剤は、燃焼性能、ガス発生器の燃焼特性に合わせて様々な形状に成形することができる。本発明のガス発生剤の形状は、特に限定されず、ペレット状、ディスク状、球状、棒状、円柱状、円筒状、金平糖状、テトラポット状等が挙げられる。また、該成形体は、無孔のものでもよいし、単孔又は多孔といった有孔のもの(例えば、単孔円筒状又は多孔円筒状)でもよい。更に、ペレット状、ディスク状の成形体は、片面又は両面に1個乃至複数個程度の突起を設けてもよい。突起の形状は特に制限されず、例えば、円柱状、円筒状、円錐状、多角錘状等が挙げられる。
【0037】
本発明のガス発生剤の成形は、従来公知の方法で行えばよく、例えば、本発明のガス発生剤組成物に溶媒を加えて混合し、押出成型する方法や、打錠機等を用いて圧縮成型する方法が挙げられる。
【0038】
本発明のガス発生器は、ガス発生剤を装填したガス発生器において、前記ガス発生剤として上述したガス発生剤組成物からなる成形体(ガス発生剤)を用いたものである。
【0039】
本発明のガス発生器は、自動車をはじめとする各種車両用のガス発生器として好適である。車両用のガス発生器としては、エアバック用ガス発生器、プリテンショナー用ガス発生器等が挙げられるに適用できる。
【0040】
本発明のガス発生器において、本発明のガス発生剤組成物から得られる成形体以外は、従来公知のガス発生器と同様の構成とすることができ、特に特定の構成に制限されず、通常、車両に搭載される構造のインフレータであれば特に限定されるものではなく採用することができる。代表的なガス発生器は、内容積を有する外殻シェルの内部に点火装置及び必要に応じてフィルター材を装備し、併せてガス発生剤(ガス発生剤組成物から得られる成形体)を充填して構成されている。
【0041】
なお、本発明のガス発生器は、ガスの供給がガス発生剤のみであるパイロタイプと、アルゴン等の圧縮ガスとガス発生剤の両方であるハイブリッドタイプのいずれでもよい。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0043】
1.原料試料
(a)燃料成分
・硝酸グアニジン(GN、和光純薬(株)製)
(b)共酸化剤
・塩基性硝酸銅(BCN、日本化学産業(株)製)
(c)添加剤(金属酸化物)
・酸化モリブデン(MoO3、和光純薬(株)社製、沸点1155℃、融点795℃)
・酸化バナジウム(V2O5、和光純薬(株)社製、沸点1750℃、融点690℃)
・酸化タングステン(WO3、和光純薬(株)社製、沸点1837℃、融点1473℃)
・酸化スズ(SnO2、和光純薬(株)社製、沸点1800℃、融点1630℃)
・酸化アルミニウム(Al2O3、昭和電工(株)社製、沸点2980℃、融点2072℃)
・酸化マグネシウム(MgO、和光純薬(株)社製、沸点3600℃、融点2852℃)
・酸化チタン(TiO2、和光純薬(株)社製、沸点2972℃、融点1870℃)
【0044】
2.ガス発生剤組成物の製造
硝酸グアニジン(GN)を篩にかけて、粒径をおよそ100~212μmに調製したものを、実施例および比較例のガス発生剤組成物用の硝酸グアニジン(GN)として使用した。
硝酸グアニジン(GN)、塩基性硝酸銅(BCN)、適宜添加剤を混合し、ペレタイザーに導入して圧縮成形することでガス発生剤組成物(ガス発生剤の成形体)を製造した。なお、GN・BCNのみで製造する場合、合計量3.0gを一つのガス発生剤組成物として秤量して圧縮成形した。また、さらに添加剤を用いる場合、GN・BCN・添加剤の合計量3.3gを一つのガス発生剤組成物として秤量して圧縮成形した。
【0045】
3.評価方法
3.1 チムニ型ストランド燃焼装置
チムニ型ストランド燃焼装置を使用して燃焼試験を行った。1MPa窒素雰囲気下にて、コイル状のニクロム線に通電し、試料(ガス発生剤組成物)に着火して、その燃焼性や燃焼ガスを分析した。
(1)燃焼ガス組成
燃焼ガスをテトラバッグに捕集して、下記仕様の検知管を用いて、CO、NH3、NOxの濃度を測定した。その後、燃焼ガスの体積と、試料重量および組成より、各試料のGNおよびBCNの合計含有量1g当たりのガス発生量(L/g)に換算して評価を行った。
・検知管((株)ガステック製)
「CO」測定範囲8~1000(ppm)、吸引量50、100(mL)吸引時間120(s)
「NH3」測定範囲0.5~78(ppm)、吸引量100(mL)吸引時間45(s)
「NOx」測定範囲5~625(ppm)、吸引量50、100(mL)吸引時間45(s)
【0046】
[実施例1~5、比較例1~4]
実施例および比較例を、表1、2に示す。表のガス発生剤組成物の成分に記載のものを、成分比率の列に記載の質量部の比率で混合してガス発生剤組成物を成形し、燃焼試験を行った。たとえば実施例1の場合、GNを53質量部と、BCNを47質量部と、MoO3を10質量部としてガス発生剤を製造した。この燃焼試験の結果、発生したCO発生量を、表に合わせて示す。
【0047】
【0048】
【0049】
GNとBCNからなるガス発生剤組成物は、比較例1に示すように、1.16(×10-2L/g)のCO発生量であった。これと比較し、本発明の実施例に係る沸点が2300℃以下の金属酸化物または融点が1800℃以下の金属酸化物を混合した実施例1~6は、そのCO発生量が著しく低減しおよそ半分以下となった。一方、沸点が2300℃を超える金属酸化物または融点が1800℃を超える金属酸化物を用いた比較例2~4はCO発生量がやや低減しているもののその低減量は少なかった。
【0050】
なお、実施例3の酸化モリブデンと、酸化アルミニウムとを混合したものは、NOx発生量を評価した結果、0.42(×10-2L/g)であった。これは、比較例1のNOx発生量が0.47(×10-2L/g)であり、実施例1のNOx発生量が0.46(×10-2L/g)であったことから、これらよりも、NOx発生量も低減されたものであった。
【0051】
また、GN・BCNを用いるガス発生剤組成物の場合、NH3発生量が少ない。比較例1においても、発生量は、0.05(×10-2L/g)と少ないものであったが、実施例1(MoO3)、実施例2(V2O5)、実施例6(MoO3)については、それらのNH3発生量は、検出下限以下まで低減されており、よりガス発生量が低減されていた。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、一酸化炭素(CO)などの有害ガスの発生量が極めて少ないガス発生剤組成物が得られる。このガス発生剤組成物は、硝酸グアニジンを用いることから、ガス発生器の小型化(薄肉化)にも寄与し、自動車用エアバッグ等ガス発生器に好適に使用することができる。