(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-05
(45)【発行日】2022-04-13
(54)【発明の名称】焦電型赤外線センサー用間接型強誘電体、焦電型赤外線センサー、及び焦電型赤外線センサーアレイ
(51)【国際特許分類】
C04B 35/01 20060101AFI20220406BHJP
G01J 1/02 20060101ALI20220406BHJP
C01G 39/02 20060101ALI20220406BHJP
C01F 7/76 20220101ALI20220406BHJP
H01L 37/02 20060101ALI20220406BHJP
【FI】
C04B35/01
G01J1/02 Y
G01J1/02 Q
C01G39/02
C01F7/76
H01L37/02
(21)【出願番号】P 2018020202
(22)【出願日】2018-02-07
【審査請求日】2021-02-04
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、文部科学省、科学技術試験研究委託事業、東工大元素戦略拠点(TIES)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100160543
【氏名又は名称】河野上 正晴
(72)【発明者】
【氏名】谷口 博基
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/198746(WO,A1)
【文献】特開平07-072015(JP,A)
【文献】特開2013-096786(JP,A)
【文献】特開2003-061056(JP,A)
【文献】特開2008-064036(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/82
G01J 1/02
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(Ca
1-x
Sr
x
)
8
[(Al
1-y
Ga
y
)O
2
]
12
[(W
1-z
Mo
z
)O
4
]
2
、(0≦x≦1、0<y≦1、0≦z≦1)、
(Ca
1-x
Sr
x
)
8
[(Al
1-y
Ga
y
)O
2
]
12
[(Mo
1-z
S
z
)O
4
]
2
、(0≦x≦1、0<y≦1、0≦z≦1)、または
(Ca
1-x
Sr
x
)
8
[(Al
1-y
Ga
y
)O
2
]
12
[(W
1-z
S
z
)O
4
]
2
、(0≦x≦1、0<y≦1、0≦z≦1)、
で表される組成を有する、間接型強誘電体。
【請求項2】
請求項
1に記載の間接型強誘電体を活性層として含む焦電型赤外線センサー。
【請求項3】
アクティブマトリクス方式の信号読み出し回路と、前記アクティブマトリクスの各画素に配置された請求項
2に記載の焦電型赤外線センサーとを含む、焦電型赤外線センサーアレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、焦電型赤外線センサー用の間接型強誘電体、焦電型赤外線センサー、及び焦電型赤外線センサーアレイに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、赤外線センサーとして、安価な単画素焦電型赤外線センサーと、半導体を用いた非常に高価な赤外線イメージセンサーとが用いられている。
【0003】
単画素赤外線センサーを微細加工アレイ化して小規模赤外線アレイセンサーとすることや、赤外線イメージセンサーの価格を下げる取り組みが行われている。
【0004】
焦電型赤外線センサーは、周囲と温度差のある人や物が動く際におこる赤外線の変化量を検出するセンサーである。より具体的には、焦電型赤外線センサーは、赤外線照射による焦電体の温度上昇に伴う自発分極の温度変化を出力電場に変換することで赤外線のセンシングを行う。焦電型赤外線センサーに用いられる焦電体として強誘電体が用いられており、強誘電体は温度変化によって自発分極の大きさが変化する焦電性を示す(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Sidney B. Lang, Pyroelectricity: From Ancient Curiosity to Modern Imaging Tool, Physics Today, 58, 8, 31 (2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、焦電型赤外線センサーに用いられている強誘電体は、自発分極が大きく強誘電性相転移温度の近傍で誘電率が急激に増大するために、自発分極の温度変化を効率的に出力電場に変換することができなかった。
【0007】
また、従来、強誘電体として自発分極が大きいPZT、PT等が焦電型赤外線センサーに用いられているが、鉛を含有するため環境負荷が大きい。
【0008】
そのため、環境負荷が小さく、自発分極の温度変化を効率的に出力電場に変換することができる焦電型赤外線センサー用強誘電体が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意研究を行い、鉛を含まず、自発分極が小さく誘電率も小さい間接型強誘電体を焦電型赤外線センサーに用いることにより、環境負荷が小さく、自発分極の温度変化を効率的に出力電場に変換することができる焦電型赤外線センサーを得ることができることを見出した。
【0010】
本開示は、焦電型赤外線センサー用間接型強誘電体を対象とする。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、環境負荷が小さく、自発分極の温度変化を効率的に出力電場に変換することができる焦電型赤外線センサー用強誘電体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、(Ca
0.84Sr
0.16)
8[Al
12O
24](MoO
4)
2で表される間接型強誘電体の誘電率の温度依存性を示すグラフである。
【
図2】
図2は、(Ca
0.84Sr
0.16)
8(AlO
2)
12(MoO
4)
2で表される間接型強誘電体の自発分極の温度依存性を表すグラフである。
【
図3】
図3は、
図2に記載の間接型強誘電体の、300Kにおける分極の大きさの電場依存性を表すグラフを示す。
【
図4】
図4は、(Ca
0.84Sr
0.16)
8(AlO
2)
12(MoO
4)
2で表される間接型強誘電体の焦電係数の温度依存性を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示の間接型強誘電体は、強誘電性相転移における第一秩序変数が分極でない強誘電体であるため、強誘電性相転移温度の近傍でも誘電率の大きな増大を示さない。そのため、間接型強誘電体は、自発分極の温度変化を効率的に出力電場に変換することが可能である。したがって、間接型強誘電体を焦電型赤外線センサーの活性層として用いることにより、優れた赤外線センシングの感度を有する焦電型赤外線センサーを得ることができる。
【0014】
間接型強誘電体は、環境負荷の高い鉛を含まず高価な希土類金属の含有量も少なく、軽量であり、焦電係数を有しながら小さな誘電率を有し、且つ相転移温度が高いという特徴を有する。間接型強誘電体であることは、第一原理計算を行い、強誘電性相転移を誘起するフォノンの波数がゼロでないことを確認することにより、示すことができる。
【0015】
焦電型赤外線センサーに用いられる焦電体の性能指数FOMDは、次の式で表される:
FOMD=λ/{Cp(ε’tanδ)1/2}
(λ:焦電係数、Cp:熱容量、ε’:誘電率、tanδ:誘電損失)
【0016】
性能指数FOMDは、損失係数を省略して、
FOMv=λ/(Cpε’)
と表すこともできる。
【0017】
したがって、焦電型赤外線センサーに用いられる焦電体としては、焦電係数λ、すなわち自発分極が大きく、外部からの熱の流出入を材料自体の昇温、降温に敏感に反映できるように熱容量Cpは小さく、分極変化で発生する電気変位を効率的に電場に変換できるように誘電率ε’が小さい材料が好ましい。
【0018】
従来用いられている強誘電体としては、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸鉛(PT)等の鉛系の強誘電体や、チタン酸バリウム(BaTiO3)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)等が挙げられる。例えば、相転移温度から十分に離れた温度、例えば室温におけるPZTの自発分極は約40~80μC/cm2と大きいが、誘電率ε’も最大約40000と大きく、相転移温度から十分に離れた良好な温度特性を示す温度帯での平均的な値でも1000程度と大きい誘電率を有する。BaTiO3も最大5000程度、SrTiO3も最大40000程度の大きな誘電率を有する。
【0019】
このように、従来用いられている強誘電体は、自発分極が大きく焦電係数が大きいが、誘電率も大きい。さらには、強誘電体は、自発分極が大きく強誘電性相転移温度の近傍で誘電率が急激に増大するために、性能指数が低下し、自発分極の温度変化を効率的に出力電場に変換することができない、といった課題がある。また、鉛系の強誘電体は、環境負荷が大きく、また、鉛の揮発をできるだけ抑えるため使用温度は最大でも400℃未満に制限される、といった課題もある。
【0020】
間接型強誘電体の一例である(Ca0.84Sr0.16)8(AlO2)12(MoO4)2の相転移温度から十分に離れた温度、例えば室温(25℃)における焦電係数λは2.5×10-4μC・cm-2・K-1、熱容量Cpは8J・g-1・K-1、誘電率ε’は10であり、室温(25℃)における性能指数FOMvは次のように算出される。
【0021】
室温(25℃)における(Ca0.84Sr0.16)8(AlO2)12(MoO4)の性能指数FOMvは、
FOMv=2.5×10-4(μC・cm-2・K-1)/{0.8(J・g-1・K-1)×10}=31×10-6μC・g・J-1・cm-2
と算出される。
【0022】
これに対して、従来用いられている強誘電体であるPZTの室温(25℃)における焦電係数λは2.0×10-2μC・cm-2・K-1、熱容量Cpは0.7J・g-1・K-1であり、誘電率ε’は1000であり、室温(25℃)における性能指数FOMvは次のように算出される。
【0023】
室温(25℃)におけるPZTの性能指数FOMvは、
FOMv=2.0×10-2(μC・cm-2・K-1)/{0.7(J・g-1・K-1)×1000}=29×10-6μC・g・J-1・cm-2
と算出される。
【0024】
このように、間接型強誘電体は、焦電係数は大きくはないが、誘電率が極めて小さいので、焦電係数が比較的低くなる相転移温度から十分に離れた温度、例えば相転移温度より100℃低い温度における値で比べても、PZTと同等の性能指数を示すことができる。
【0025】
焦電型赤外線センサーはリフロー工程を経て作製されることがあるため、焦電型赤外線センサーに用いられる焦電体の強誘電性相転移温度は、少なくとも300℃以上であることが必要である。
【0026】
間接型強誘電体は、従来行われている炭酸塩の粉末冶金と同じ製造方法で作製することができる。原料粉末をプレスしてペレットを作製し、仮焼により脱炭酸し、焼成することによって、間接型強誘電体を作製することができる。焼成温度は組成に応じて変えればよいが、好ましくは1200~1350℃である。原料粉末には、微量の焼結助剤を添加してもよい。
【0027】
間接型強誘電体は、充填ゼオライト型酸化物であり、下記の設計指針に基づいて作製することができる。
【0028】
SiO2を原料として、下式:
(Si4+O2-
2)n
(nは1~12の整数)で表される仮想的なn個のゼオライトをフレームワークとして得る。
【0029】
上記仮想的なゼオライトのSi4+を、異価数元素Mc+に置換して下式:
(Mc+O2-
2)n
n(4-c)-
で表されるアニオン化したフレームワークを得る。
【0030】
アニオン化したフレームワーク内の空間に、価数補償として、元素Yn(4-c)+を加えて、下式:
Yn(4-c)+(Mc+O2-
2)n
n(4-c)-
から、下式:
Y(MO2)n
で表される間接型強誘電体を得る。
【0031】
上記設計指針は、(Si4+O2-
2)nで表されるゼオライトのフレームワーク自体は、石英、クリストパライト、トリジマイト等に対応し、圧電性を有するが自発分極を示さないが、副格子を形成することにより、反転対称性のない構造に分極要素を追加する、という指針に基づいている。
【0032】
元素Yn(4-c)+は、(MO2)nの価数変化に応じて選択することができ、2以上の元素で構成されてもよい。nは、好ましくは2または12であり、より好ましくは12である。
【0033】
nが12であり、Mとして3価の陽イオンを用いた例を以下に示す。
【0034】
SiO2を原料として、下式:
(Si4+O2-
2)12
で表される仮想的なゼオライトをフレームワークとして作製する。
【0035】
上記仮想的なゼオライトのSi4+を、M3+に置換して下式:
(M3+O2-
2)12
12-
で表されるアニオン化したフレームワークを得る。
【0036】
アニオン化したフレームワーク内の空隙に、価数補償として、A2+
8及びX2-
2を加えて、下式:
A2+
8(M3+O2-
2)12
12-X2-
2
から、下式:
A8(MO2)12X2
で表される間接型強誘電体を得る。
【0037】
A8(MO2)12X2で表される間接型強誘電体において、Mは、3価または4価の陽イオンであることができ、好ましくはAl3+、Ga3+、In3+、Si3+、Fe3+、Mn3+、Ge4+、Sn4+、Fe4+、Mn4+、またはこれらの組み合わせである。Mは、より好ましくは、Al3+、Ga3+、In3+、またはこれらの組み合わせであり、さらに好ましくは、Al3+、Ga3+、またはこれらの組み合わせであり、さらにより好ましくはAl3+及びGa3+の組み合わせである。
【0038】
Aは、好ましくは、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Zn2+、Sn2+、Li+、Na+、K+、Ag+、またはこれらの組み合わせであり、より好ましくはCa2+、Sr2+、またはこれらの組み合わせである。
【0039】
Xは、好ましくは、Cl-、Br-、I-、CrO4
2-、MoO4
2-、WO4
2-、SO4
2-、MnO4
2-、S2-、S2
2-、BO2
-、e-、またはこれらの組み合わせであり、より好ましくはMoO4
2-、WO4
2-、SO4
2-、またはこれらの組み合わせである。
【0040】
Mに3価の陽イオンのみを選択した場合は、Aは2価の陽イオンから選択される。Mの一部あるいは全てに4価の陽イオンが含まれる場合は、[MO2]12の価数変化に応じて、(i)Aの一部あるいは全てに1価の陽イオンが入るか、(ii)Xの一部あるいは全てに1価の陰イオンが入るか、またはAの一部あるいは全てに1価の陽イオンが入り且つXの一部あるいは全てに1価の陰イオンが入る。
【0041】
間接型強誘電体は、より好ましくは、
(Ca1-xSrx)8[(Al1-yGay)O2]12[(W1-zMoz)O4]2、(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1)、
(Ca1-xSrx)8[(Al1-yGay)O2]12[(Mo1-zSz)O4]2、(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1)、または
(Ca1-xSrx)8[(Al1-yGay)O2]12[(W1-zSz)O4]2、(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1)、
で表される組成を有する。
【0042】
間接型強誘電体の上記より好ましい組成において、さらに好ましくはy=0ではなくGaを含む。また、間接型強誘電体の上記より好ましい組成において、さらに好ましくはSを含む。
【0043】
すなわち、間接型強誘電体は、さらに好ましくは
(Ca1-xSrx)8[(Al1-yGay)O2]12[(W1-zMoz)O4]2、(0≦x≦1、0<y≦1、0≦z≦1)、
(Ca1-xSrx)8[(Al1-yGay)O2]12[(Mo1-zSz)O4]2、(0≦x≦1、0<y≦1、0≦z≦1)、または
(Ca1-xSrx)8[(Al1-yGay)O2]12[(W1-zSz)O4]2、(0≦x≦1、0<y≦1、0≦z≦1)、
で表される組成を有する。
【0044】
あるいは、間接型強誘電体は、さらに好ましくは、
(Ca1-xSrx)8(AlO2)12[(Mo1-zSz)O4]2、(0≦x≦0.3、0<z≦1)、
(Ca1-xSrx)8(AlO2)12(SO4)2、(0≦x≦0.3)、または
(Ca1-xSrx)8(AlO2)12[(W1-zSz)O4]2、(0≦x≦0.3、0<z≦1)
で表される組成を有する。
【0045】
Mの少なくとも一部にAl3+を用いることにより、間接型強誘電体の軽量化を図ることができる。Mの少なくとも一部にGa3+を用いることにより、間接型強誘電体を焦電体として使用できる上記Aの組成範囲を拡大することができる。
【0046】
例えば、(Ca1-xSrx)8[(Al1-yGay)O2]12(MoO4)2で表される間接型強誘電体において、y=0のとき、すなわちGa3+を含まない場合、焦電体として使用できるxの範囲は、0≦x≦0.2である。Alの一部をGa3+で置換すると、0≦x≦1.0の範囲でxを大きくしても、相転移温度が低下せず、焦電体として使用することができる。すなわち、xの範囲を0≦x≦1.0に拡大することができる。
【0047】
Xの少なくとも一部にSO4
2-を用いることにより、Ga3+と同様に、間接型強誘電体を焦電体として使用できる上記Aの組成範囲を拡大することができる。Xの一部をSO4
2-で置換すると、0≦x≦0.3の範囲でxを大きくしても、相転移温度が低下せず、焦電体として使用することができる。すなわち、xの範囲を0≦x≦0.3に拡大することができる。
【0048】
また、Xの少なくとも一部にSO4
2-を用いることにより、間接型強誘電体の強誘電性相転移温度を高くすることができる。例えば、(Ca1-xSrx)8[(Al1-yGay)O2]12(MoO4)2で表される間接型強誘電体において、最高使用温度は650Kであるが、Xの少なくとも一部にSO4
2-を用いることにより、焦電体として使用することができる温度範囲の上限を800Kにすることができる。
【0049】
さらには、Xの少なくとも一部にSO4
2-を用いることにより、間接型強誘電体の密度を小さくして、より軽量化を図ることができる。
【0050】
間接型強誘電体には希土類元素を含む必要はないので、間接型強誘電体は安価に作製され得る。したがって、間接型強誘電体には不純物を除いて希土類元素は含まれず、間接型強誘電体に含まれる希土類元素の含有量は、実質的に0.0at%である。また、間接型強誘電体は、その組成に基づいて極めて軽量であり、好ましくは1.0~4.0g/cm3、より好ましくは2.0~3.0g/cm3の密度を有する。
【0051】
間接型強誘電体は、
図1に示すように、相転移温度から十分に離れた温度、例えば相転移温度より100℃低い温度(25℃)において、6~10程度の小さな誘電率ε’を有し、相転移温度近傍でも誘電率の温度変化が小さい。
図1は、(Ca
0.84Sr
0.16)
8[Al
12O
24](MoO
4)
2で表される間接型強誘電体の誘電率の温度依存性を示すグラフである。(Ca
0.84Sr
0.16)
8[Al
12O
24](MoO
4)
2は、以下の方法で作製した。陽イオンの化学量論比で秤量した炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、酸化アルミニウム、及び酸化モリブデンの粉末を、メノウ乳鉢及びメノウ乳棒を用いてエタノール中で湿式混合し、得られた混合粉末を油圧プレスを用いてプレスして直径10mmのペレットを作製した。次いで、マッフル炉を用いて1200℃で焼成を行って(Ca
0.84Sr
0.16)
8(AlO
2)
12(MoO
4)
2の組成を有する、直径が8.5mmの間接型強誘電体の焼結体を得た。
【0052】
その他の組成を有する間接型強誘電体の作製方法を例示する。例えば、Ca8(Al1-yGayO2)12(MoO4)2(0≦y≦1)の組成を有する間接型強誘電体は、以下の方法で作製することができる。陽イオンの化学量論比で秤量した炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、酸化ガリウム、及び酸化モリブデンの粉末を、メノウ乳鉢及びメノウ乳棒を用いてエタノール中で湿式混合し、得られた混合粉末を油圧プレスを用いてプレスして直径10mmのペレットを作製する。次いで、マッフル炉を用いて1200℃~1300℃で焼成を行ってCa8(Al1-yGayO2)12(MoO4)2(0≦y≦1)の組成を有する、直径が8.5mm~9.0mmの間接型強誘電体の焼結体を得る。
【0053】
例えば、(Ca1-xSrx)8(AlO2)12(SO4)2(0≦x≦0.3)の組成を有する間接型強誘電体は、以下の方法で作製することができる。陽イオンの化学量論比で秤量した炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、酸化アルミニウム、硫酸カルシウム、及び硫酸ストロンチウムの粉末を、メノウ乳鉢及びメノウ乳棒を用いてエタノール中で湿式混合し、得られた混合粉末を油圧プレスを用いてプレスして直径10mmのペレットを作製する。次いで、マッフル炉を用いて1150℃~1200℃で焼成を行って(Ca1-xSrx)8(AlO2)12(SO4)2(0≦x≦0.3)の組成を有する、直径が8.5mm~9.0mmの間接型強誘電体の焼結体を得る。
【0054】
従来の強誘電体の相転移温度近傍での誘電率は、相転移温度から十分に離れた温度である相転移温度より100℃低い温度での誘電率に対して、1000倍以上の値を示す。これに対して、間接型強誘電体の相転移温度近傍での誘電率は、相転移温度から十分に離れた温度である相転移温度より100℃低い温度での誘電率に対して、100倍以下、好ましくは50倍以下、より好ましくは30倍以下、さらに好ましくは10倍以下の値を示す。本願において相転移温度とは、
図1における誘電率のピークの最大値を示す温度をいう。
【0055】
このように、間接型強誘電体は、強誘電性相転移温度の近傍でも誘電率の大きな増大を示さないため、性能指数が低下しにくく、自発分極の温度変化を効率的に出力電場に変換することができる。
【0056】
また、間接型強誘電体は、好ましくは300℃以上、より好ましくは400℃以上の強誘電性相転移温度を有する。強誘電性相転移温度の上限は組成に応じて変わるが、例えば500℃以下であることができる。
【0057】
図2に、(Ca
0.84Sr
0.16)
8(AlO
2)
12(MoO
4)
2で表される間接型強誘電体の自発分極の温度依存性を表すグラフを示す。
図2のグラフは、相転移温度(400K)よりも高い温度(500K)に昇温し、一定の電場をかけながら降温させて分極処理を行うことにより得た。
【0058】
誘電体を焦電体として用いるためには、通常、分極処理が必要であり、本開示の間接型強誘電体についても、焦電体として用いるためには分極処理が必要である。間接型強誘電体を分極処理する際、シート成形やスパッタリングにより薄膜の間接型強誘電体を作製すれば、室温において絶縁オイル中で分極処理を容易に行うことができる。バルクの間接型強誘電体も、同様に分極処理を行うことは可能であるが高電圧が必要になるので、相転移温度よりも高い温度に昇温して、一定の電場をかけながら相転移温度よりも低い温度を下げることにより容易に分極させることができる。
【0059】
図3に、間接型強誘電体の、300Kにおける分極の大きさの電場依存性を表すグラフを示す。
図3のグラフは、
図2のデータに基づく。
図3から、15kV/cm以上の電場を印加すると0.2μC/cm
2の一定の自発分極が得られ、十分に分極できていることが分かる。このデータは、(Ca
0.84Sr
0.16)
8(AlO
2)
12(MoO
4)
2の多結晶体で得られたものであり、同じ組成を有する単結晶として作製すれば、3倍の自発分極、すなわち0.6μC/cm
2の分極を得ることができる。
【0060】
このように、間接型強誘電体の自発分極値は小さく、好ましくは0.1以上1.0μC/cm2未満である。
【0061】
また、間接型強誘電体は、相転移温度から十分に離れた温度である相転移温度より100℃低い温度において、好ましくは1×10-5~1×10-2μC・cm-2・K-1の焦電係数を有し且つ5~30の誘電率を有する。なお、焦電係数は、自発分極と温度との関係を表す曲線を微分することにより得ることができる。
【0062】
図4に、(Ca
0.84Sr
0.16)
8(AlO
2)
12(MoO
4)
2で表される間接型強誘電体の焦電係数の温度依存性を表すグラフを示す。相転移温度から十分に離れた温度である相転移温度より100℃低い温度における焦電係数は2.5×10
-4μC・cm
-2・K
-1であるが、相転移温度である430~440Kの高温における焦電係数は室温(25℃)における焦電係数に対して2桁ほど大きく、間接型強誘電体の焦電係数はシャープな温度依存性を示す。
【0063】
このように、間接型強誘電体は、強誘電性相転移温度近傍で上昇するシャープな温度依存性を示す焦電係数を有する。間接型強誘電体の強誘電性相転移温度近傍における焦電係数は、好ましくは、室温(25℃)における焦電係数に対して、10倍以上である。強誘電性相転移温度の室温(25℃)における焦電係数に対する強誘電性相転移温度近傍における焦電係数の比率の上限は組成に応じて変わるが、例えば100倍以下であることができる。
【0064】
間接型強誘電体が焦電型赤外線センサーに用いられる場合、焦電係数がこのようなシャープな温度依存性を有することにより、外部からの熱ノイズにより脱分極が起こることを抑制し、信頼性が高い焦電型赤外線センサーを作製することができる。
【0065】
本開示の間接型強誘電体を活性層として用いて焦電型赤外線センサーを作製することができる。焦電型赤外線センサーの構造は、従来の強誘電体を間接型強誘電体に置き換えること以外は、従来の焦電型赤外線センサーと同じであることができる。
【0066】
単画素赤外線センサーで2次元の赤外線像を得ようとすると単画素赤外線センサーを移動させてスキャンする必要があるが、小規模赤外線アレイセンサーにすることで、結像させて2次元の赤外線像を得ることができる赤外域のイメージセンサーとして使用することができる。
【0067】
小規模赤外線アレイセンサーは、人が通ったことを検知するIoTのスタートアップ用センサー、すなわち起動スイッチとして用いることができる。小規模赤外線アレイセンサーは、待機電流が不要なので安価に作製することが可能である。
【0068】
小規模赤外線アレイセンサーでは、信号の読み出しを逐次行うための回路が必要である。アクティブマトリクス方式の信号読み出し回路を用意し、このアクティブマトリクスの各画素に本開示の間接型強誘電体を含む焦電型赤外線センサーを配置することにより、焦電型赤外線センサーアレイを作製することができる。
【0069】
アクティブマトリクス方式の信号読み出し回路は、以下の構成を有することができる。アクティブマトリクス回路を含むバックプレーンは、通常の大規模集積回路と同様にシリコンウェハ基板上に設けることができる。アクティブマトリクス回路は、直交し互いに絶縁された複数のゲート配線とデータ配線とを含む。ゲート配線及びデータ配線の本数はアレイセンサーの縦方向及び横方向の画素数に対応する。
【0070】
ゲート配線は、各行毎に駆動用のゲート配線に加えてリセット用のゲート配線を有していてもよい。ゲート配線はアレイセンサーの画素部の周辺の一辺または両辺に設けたシフトドライバ回路やクロック回路等からなるゲートドライバ回路に接続される。データ配線は画素部の周辺の一辺もしくは両辺に設けたでマルチプレクサ回路に接続され、ゲート配線一行毎に赤外線画像データを読み出す。
【0071】
各画素は少なくともキャパシタと画素スイッチングのトランジスタとを有し、そのゲート電極が上記ゲート配線に、ソース電極がデータ配線に、そしてドレイン電極がキャパシタの一つの電極に接続される。キャパシタのもう一方の電極は、アプティブマトリクス回路のバックプレーン上に設けた絶縁層に開口したビア配線を介して、絶縁層上に設けた間接型強誘電体を含む焦電体層に接続される。キャパシタのスイッチングトランジスタのドレイン電極に接続された電極は、同画素中にもう一つ設けたリセット用トランジスタのドレイン電極に接続してもよい。リセット用トランジスタのゲート電極はリセット用のゲート配線に接続され、ソース電極はデータ配線に接続される。
【0072】
係るアクティブマトリクス型のセンサーアレイにおいては、一定期間に間接型強誘電体を含む焦電体層に蓄積した電荷をキャパシタの容量として蓄積し、順次ゲート配線方向に各行のスイッチングトランジスタのゲートを開けることで、キャパシタに蓄積した容量に対応する電流をデータ線に放出して、赤外線画像データを得る。各行からの読み出し期間の最後にはリセットトランジスタを開けることで残余の電荷を放出して蓄積容量をゼロにリセットする期間を設けてもよい。なお、アクティブマトリクス回路の各素子、配線、及び焦電体層のディメンジョンは、設定する感度、画素数、画素解像度、及び読み出しレートから逆算して適宜決定すればよい。
【0073】
アクティブマトリクスの各画素に本開示の間接型強誘電体を含む焦電型赤外線センサーを配置するために、間接型強誘電体を薄膜として形成してもよい。例えば、間接型強誘電体のペレットを作製し、スパッタターゲットとして用いて、RFスパッタを行うことにより、間接型強誘電体を薄膜として形成することができる。次いで、Pt等を電極として用いて薄膜の間接型強誘電体の分極処理を行うことができる。