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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-05
(45)【発行日】2022-04-13
(54)【発明の名称】貴金属のナノ粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/24 20060101AFI20220406BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20220406BHJP
【FI】
B22F9/24 E
B82Y30/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018057279
(22)【出願日】2018-03-23
(65)【公開番号】P2019167595
(43)【公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】515358023
【氏名又は名称】マックエンジニアリング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591060980
【氏名又は名称】岡山県
(74)【代理人】
【識別番号】110003085
【氏名又は名称】特許業務法人森特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100114535
【弁理士】
【氏名又は名称】森 寿夫
(74)【代理人】
【識別番号】100075960
【弁理士】
【氏名又は名称】森 廣三郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155103
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 厚
(74)【代理人】
【識別番号】100187838
【弁理士】
【氏名又は名称】黒住 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100194755
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀明
(72)【発明者】
【氏名】藤井 英司
(72)【発明者】
【氏名】小谷 功
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-195852(JP,A)
【文献】国際公開第2006/050251(WO,A2)
【文献】国際公開第2014/045570(WO,A1)
【文献】特開2010-077526(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/00-9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
貴金属イオンを含有する液体と、還元剤を含有する液体とを混合して、貴金属のナノ粒子を製造する方法であって、
当該製造方法は、貴金属イオンを含有する液体を搬送する流路と、還元剤を含有する液体を搬送する流路とを合流させて貴金属イオンを含有する液体及び還元剤を含有する液体とを混合する工程と、混合された液体を流路によって搬送する工程と、
混合する前の還元剤を含有する液体を加熱する第1加熱工程と、
混合した後の液体を加熱する第2加熱工程とを含み、
第1加熱工程及び第2加熱工程は、100℃以上の設定温度で流路を加熱するものであり、還元剤を含有する液体の沸点以上の温度かつ加圧条件となるように流路を加熱するものである貴金属のナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
還元剤を含有する液体を搬送する流路は、湾曲させて液体が流路内に滞留する時間を稼ぐ形状である請求項1に記載の貴金属のナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
混合した後の液体を搬送する流路は、湾曲させて液体が流路内に滞留する時間を稼ぐ形状である請求項1又は2に記載の貴金属のナノ粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貴金属のナノ粒子を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子径の小さい貴金属の粒子は、種々の用途で需要が高まっている。例えば、回路基板の微小な導体パターンを形成する際にはエッチングが利用されてきたが、最近では、貴金属の粒子を添加したインク組成物を吹き付けて導体パターンを形成する。また、導電性と透過性が必要とされるタッチスクリーンにも粒子径の小さい貴金属の粒子が配合された導電性フィルムなどが使用されている。
【0003】
上記のような粒子径の小さい貴金属の粒子は、銀を例にすると、酸などで銀を液化したものと還元剤とをフラスコなどの容器に投入して、撹拌子で撹拌しながら加熱して、銀イオンを還元して銀粒子とすることによって製造される。このようなバッチ式の方法で得た銀粒子は粒度のばらつきが大きく、粒径が40~50nmの粒子が多く含まれる。
【0004】
また、例えば、特許文献1に記載されているように、マイクロリアクターを使用して、連続的に粒子径の小さい金属粒子を製造する方法も知られている。この方法では、第1の金属イオンと第2の金属イオンを含有するA液と、還元剤を含有するB液とをマイクロリアクターを使用して混合する。この方法では数平均粒子径が20nmの銅粒子を製造することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-48494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の方法で得られる数平均粒子径は20nmであり、より小さい粒径を有する貴金属の粒子が望まれる。
【0007】
本発明は、より小さい粒径の貴金属の粒子を製造することが可能な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
貴金属イオンを含有する液体と、還元剤を含有する液体とを混合して、貴金属のナノ粒子を製造する方法であって、当該製造方法は、貴金属イオンを含有する液体を搬送する流路と、還元剤を含有する液体を搬送する流路とを合流させて貴金属イオンを含有する液体及び還元剤を含有する液体とを混合する工程と、混合する前の還元剤を含有する液体を加熱する第1加熱工程と、混合した後の液体を加熱する第2加熱工程とを含み、第1加熱工程及び第2加熱工程は、100℃以上の設定温度で流路を加熱するものである貴金属のナノ粒子の製造方法によって、上記の課題を解決する。
【0009】
上記の製造方法において、還元剤を含有する液体を搬送する流路は、迂回する形状とすることが好ましい。また、上記の製造方法において、混合した後の液体は流路によって搬送され、混合した後の液体を搬送する流路は、迂回する形状とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、より小さい粒径の貴金属の粒子を製造することが可能な方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】貴金属のナノ粒子の製造装置の一実施形態の構成を示す図である。
図2図1の接続部の要部の断面を示す図である。
図3】実施例1又は比較例1の方法で製造した銀粒子の懸濁液の粒度分布を示す図である。
図4】実施例1の方法で製造した銀粒子のTEM写真(倍率25万倍)である。
図5】実施例2の方法で製造した金粒子のTEM写真(倍率25万倍)である。
図6】比較例1の方法で製造した銀粒子のTEM写真(倍率25万倍)である。
図7】実施例3の方法で製造した白金粒子のTEM写真(倍率25万倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0013】
本実施形態の方法は、貴金属イオンを含有する液体と、還元剤を含有する液体とを混合して、ナノスケールの貴金属の粒子(貴金属のナノ粒子)を製造する方法である。
【0014】
本実施形態の方法は、貴金属イオンを含有する液体を搬送する流路と、還元剤を含有する液体を搬送する流路とを合流させて貴金属イオンを含有する液体及び還元剤を含有する液体とを混合する工程と、混合する前の還元剤を含有する液体を加熱する第1加熱工程と、混合した後の液体を加熱する第2加熱工程とを含む。そして、第1加熱工程及び第2加熱工程では、流路を100℃以上の設定温度で加熱する。
【0015】
上記の実施形態の方法では、第1加熱工程及び第2加熱工程の両工程において、100℃以上の設定温度で流路を加熱する。第1加熱工程においては、還元剤を含有する液体の温度を予め上昇させるために行う。第2加熱工程においては、混合液の温度が低下するのを防ぐために行う。
【0016】
第1加熱工程及び第2加熱工程の両工程において、100℃以上の設定温度でそれぞれの流路を加熱することによって、例えば、平均粒子径が10nm以下、より好ましくは6nm以下のナノスケールの貴金属の粒子を製造することができる。ここで、平均粒子径とは、貴金属の一次粒子の平均粒子径である。平均粒子径の算出方法は、粒子の透過型電子顕微鏡写真から複数個の一次粒子を選択する。選択した粒子の形状を画像解析ソフトウエアを用いて長軸径を測定する。各長軸径の値の和を個数で除して、平均粒子径とする。
【0017】
第1加熱工程及び第2加熱工程における加熱する際の設定温度は、100℃以上とする。混合する前の貴金属イオンを含有する液体、及び混合した後の液体の温度が低くなると、平均粒子径が10nm以下のナノスケールの貴金属の粒子の収率が低下する。前記温度が低くなると平均粒子径が10nm以下のナノスケールの貴金属の粒子が析出する量が低下するためである。逆に第1加熱工程及び第2加熱工程における設定温度が高くなると、平均粒子径が10nm以下のナノスケールの貴金属の粒子が析出する量が上昇する傾向がある。このため、第1加熱工程及び第2加熱工程は、110℃以上の温度で流路を加熱するものとすることがより好ましい。第1加熱工程及び第2加熱工程は、高温加熱を可能とする観点から加圧下で加熱することが好ましい。第1加熱工程及び第2加熱工程において流路を加熱する際の設定温度の上限は、温度を過度に上昇させても収率が向上する効果は頭打ちとなり、エネルギーの無駄となるので、180℃以下とすることが好ましく、150℃以下とすることがより好ましく、130℃以下とすることがさらに好ましい。
【0018】
第1加熱工程及び第2加熱工程において、それぞれの流路を加熱する際には、それぞれの流路を流通する液体の温度が設定温度と同等となるようにすることが好ましい。第2加熱工程においては、背圧弁に至るまでにおいて液体の温度が設定温度と同等になるようにすることが好ましい。そのためには、それぞれの流路を長く構成する必要がある。しかしながら、流路を長くすると、流路が長大になる。このため、貴金属イオンを含有する液体を搬送する流路は、迂回した形状とすることが好ましい。同様に、混合した後の液体を搬送する流路は、迂回した形状とすることが好ましい。迂回した形状としては、例えばジグザク状又はらせん状になるように流路を湾曲させた形状が挙げられる。
【0019】
ナノスケールの貴金属の粒子は、粒子径が小さいため、条件によっては製造後に凝集する可能性がある。このため、貴金属イオンを含有する液体、還元剤を含有する液体、又は背圧弁から排出された液体は、分散剤を含有するものとしてもよい。分散剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、セルロースナノファイバー、ポリビニルピロリドンなどを使用することができる。
【0020】
貴金属イオンとしては、還元剤によって還元されるものであればよい。例えば、Cu、Ag、Au、Ni、Pd、Pt、Co、Ir、Ru、CoNi、及びFeNiからなる群から選ばれる1種以上の貴金属のイオンが挙げられる。これらの金属は、互いに同族又は族が近いものである。同族元素や近接する族の元素は、同じ反応系で還元されることが一般的である。
【0021】
貴金属イオンを含有する液体において、貴金属イオンの供給源は、貴金属の硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、貴金属のハロゲン化物、ハロゲンと貴金属との錯体などが挙げられる。これらは、水などの極性溶媒に対して可溶であるので、流体混合する際に好適に使用することができる。貴金属のイオンの供給源としては、例えば、硝酸銀、テトラクロロ金酸四水和物、ヘキサクロロ白金酸六水和物などが挙げられる。
【0022】
還元剤としては、ヒドラジン、ギ酸、水素化ホウ化ナトリウム、又はエタノール、メタノールなどのアルコールなどが挙げられる。還元剤の溶媒としては、例えば水を使用することができる。上記の還元剤は、水などの極性溶媒に対して可溶であるので、流体混合する際に好適に使用することができる。
【0023】
第1加熱工程及び第2加熱工程における加熱は、貴金属イオンを含有する液体、及び還元剤を含有する液体の沸点以上の温度かつ加圧条件となるように加熱することが好ましい。
【0024】
上記の実施形態の貴金属のナノ粒子の製造方法は、例えば、図1に示した貴金属のナノ粒子の製造装置によって、実施することができる。
【0025】
図1のナノ粒子の製造装置1は、貴金属イオンを含有する液体を搬送する第1流路11と、還元剤を含有する液体を搬送する第2流路12と、第1流路11及び第2流路12の接続部13と、接続部13で混合された液体を搬送する第3流路14と、第3流路14に設けられる背圧弁15とを有する。
【0026】
第1流路は、貴金属イオンを含有する液体を搬送することができる構成とすればよい。例えば、第1流路は、図1に示したように、通液可能に構成した内部に液体を流通可能に構成した管から構成することができる。第1流路11には、例えば、ポンプ16を利用して、第1容器17に貯留した貴金属イオン含有する液体を供給することができる。図1の例では、第1容器として、ビーカーを利用している。第1容器としては、フラスコなどのその他の容器を使用することができる。
【0027】
第2流路は、還元剤を含有する液体を搬送することができる構成とすればよい。例えば、第2流路12は、図1に示したように、通液可能に構成した管から構成することができる。第2流路12には、例えば、ポンプ18を利用して、第2容器19に貯留した還元剤を含有する液体を供給することができる。図1の例では、第2容器として、ビーカーを利用している。第2容器としては、フラスコなどのその他の容器を使用することができる。
る。
【0028】
接続部13は、第1流路11と第2流路12とを合流させて、第1流路11から搬送された貴金属イオンを含有する液体と第2流路12から搬送された還元剤を含有する液体とを混合できる構成とすればよい。接続部13としては、例えば、図2に示したように、第1管路21、第2管路22、及び第3管路23が合流するように構成したものを使用することができる。小スケールでの製造を行う場合は、接続部としてマイクロリアクターを好適に使用することができる。図2の例では、第1管路21、第2管路22、及び第3管路23が一点で合流するT字状のマイクロリアクターを使用した。その他、合流点がY字状のマイクロリアクターを使用してもよい。図1の例では、第1管路21は第1流路11に接続されており、第2管路22は第2流路12に接続されており、第3管路23は第3流路14に接続されている。
【0029】
第3流路14は、接続部13で混合された上記の液体を搬送する構成とすればよい。例えば、第3流路14は、通液可能に構成した中空の管から構成することができる。
【0030】
背圧弁15は、混合する前の貴金属イオンを含有する液体と混合した後の液体を含有する液体とを加熱した際に、それらの液体の体積が膨張することを防止することができる構成とすればよい。例えば、スプリングなどの弾性体でダイヤフラムなどの遮断具を付勢し、流路内の連通をダイヤフラムで遮断する弁を利用することができる。係る弁では、管路内の圧力が弾性体の付勢力を超えたときに、遮断具が弾性体の付勢力に抗して押し上げられて、遮断された管路が連通して、液体が排出される。
【0031】
上記の製造装置では、乾熱装置や電熱コイルなどの加熱部によって少なくとも第2流路12及び第3流路14を加熱すれば、混合する前の還元剤を含有する液体と、混合した後の液体を加熱することが可能である。図1では、乾熱装置2の中に接続部13であるマイクロリアクターを設置する構成とした。乾熱装置2を作動させると、マイクロリアクターに接続された第1流路11、第2流路12、及び第3流路14が加熱される構成となっている。
【0032】
上記の製造装置1では、第2流路12は迂回部121を有する構成とすることが好ましい。すなわち、還元剤を含有する液体を搬送する流路は、迂回する形状とすることが好ましい。また、第3流路14は迂回部141を有する構成とすることが好ましい。すなわち、混合した後の液体を搬送する流路は、迂回する形状とすることが好ましい。これによって、第2流路又は第3流路における液体の滞留時間を稼ぎつつ、第2流路又は第3流路を省スペースに構成することが可能になる。
【0033】
第2流路12の長さは、還元剤を含有する液体を100℃以上に加熱する観点から2m以上とすることが好ましく、5m以上とすることがより好ましく、8m以上とすることがさらに好ましい。第2流路12の長さの上限は特にないが、省スペースの観点から20m以下であることが好ましい。第3流路14の長さは、還元剤、貴金属イオン、及び析出した貴金属を含有する液体を100℃以上に加熱する観点から2m以上にすることが好ましく、5m以上とすることがより好ましく、8m以上とすることがさらに好ましい。第3流路14の長さの上限は特にないが、省スペースの観点から30m以下であることが好ましい。ここでいう長さとは、迂回部を直線状に伸ばした状態の流路長のことをいう。
【0034】
第2流路12に液体を供給してから第3流路14から排出されるまでの滞留時間は、還元剤及び銀塩を含有する液体を100℃以上に加熱する観点から300秒以上とすることが好ましく、480秒以上とすることが好ましい。滞留時間の上限は特にないが、単位時間内における銀粒子の製造量の増大の観点から1800秒以下であることが好ましい。
【0035】
第1流路、第2流路、又は第3流路は、種々の材料から構成することができる。例えば、第1流路、第2流路、又は第3流路は、ステンレス鋼などの金属材料、又はポリテトラフルオロエチレンなどの合成樹脂から構成することが好ましい。
【0036】
第1流路、第2流路、又は第3流路の内径は、0.01~1mmとすることが好ましい。
【実施例
【0037】
以下、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。
【0038】
図1に示す装置として、マイクロリアクターを使用して、貴金属の粒子を製造した。マイクロリアクターは、図2に示したのと同様なT字状の菅路を備えており、管路の内径は140μmである。各管路は、第1流路、第2流路、及び第3流路に接続されている。第1流路は貴金属イオンを含有する水溶液を貯留するフラスコに差し込まれている。貴金属イオンを含有する水溶液は、ポンプによって第1流路を搬送される。第2流路は、還元剤であるメタノール水溶液を貯留するフラスコに差し込まれている。第3流路の端部には背圧弁が設けられており、第2流路及び第3流路を加熱した際に各流路内の液体が沸騰して気泡が発生することがないようにされている。
【0039】
マイクロリアクターと、それに接続される第1流路、第2流路、及び第3流路は、乾熱装置内に設置されている。第2流路、及び第3流路には、迂回部が設けられており、それぞれの流路を流れる液体が乾熱装置の設定温度と同等になるまで加熱されるにようになっている。第2流路の迂回部の長さは10mであり、第3流路の迂回部の長さは5mである。第1流路、第2流路、及び第3流路は、ポリテトラフルオロエチレン樹脂から構成されている。
【0040】
[実施例1]
上記のマイクロリアクターと乾熱装置とを組み合わせた装置を使用して、以下の条件で銀粒子を製造した。すなわち、第1流路に接続されるフラスコに3.5mMの硝酸銀を含有する水溶液を貯留しておき、第2流路に接続されるフラスコに99.8%(特級)のメタノール液を貯留した。両液体の液温は10~26℃程度の常温である。乾熱装置を120℃に設定し、第1流路、第2流路、及び第3流路を予熱した。予熱完了後、ポンプを作動させて、第1流路から流速1ml/minで硝酸銀を含有する水溶液を供給すると共に、第2流路から流速1ml/minでメタノール液を供給した。メタノール液と硝酸銀を含有する水溶液とは、接続部で流体混合される。背圧弁から排出される混合液を1gのポリビニルピロリドンK30(和光純薬工業株式会社製)が含まれる100mlの水溶液を貯留しているフラスコで受けて、これを順次、限外濾過して濃縮した。固形分を集めて50mlの水溶液に懸濁して銀粒子の懸濁液を得た。
【0041】
[実施例2]
上記のマイクロリアクターと乾熱装置とを組み合わせた装置を使用して、以下の条件で金粒子を製造した。すなわち、第1流路に接続されるフラスコに0.5mMのテトラクロロ金酸四水和物を含有する水溶液を貯留しておき、第2流路に接続されるフラスコに99.8%(特級)メタノール液を貯留した。両液体の液温は10~26℃程度の常温である。乾熱装置を120℃に設定し、第1流路、第2流路、及び第3流路を予熱した。予熱完了後、ポンプを作動させて、第1流路から流速1ml/minでテトラクロロ金酸四水和物を含有する水溶液を供給すると共に、第2流路から流速1ml/minでメタノール液を供給した。メタノール液とテトラクロロ金酸四水和物を含有する水溶液とは、接続部で流体混合される。背圧弁から排出される混合液を1gのポリビニルピロリドンK30(和光純薬工業株式会社製)が含まれる100mlの水溶液を貯留しているフラスコで受けて、これを順次、限外濾過して濃縮した。固形分を集めて50mlの水溶液に懸濁して金粒子の懸濁液を得た。
【0042】
[実施例3]
上記のマイクロリアクターと乾熱装置とを組み合わせた装置を使用して、以下の条件で白金粒子を製造した。すなわち、第1流路に接続されるフラスコに0.04mMのヘキサクロロ白金酸六水和物を含有する水溶液を貯留しておき、第2流路に接続されるフラスコに99.8%(特級)メタノール液を貯留した。両液体の液温は10~26℃程度の常温である。乾熱装置を120℃に設定し、第1流路、第2流路、及び第3流路を予熱した。予熱完了後、ポンプを作動させて、第1流路から流速1ml/minでヘキサクロロ白金酸六水和物を含有する水溶液を供給すると共に、第2流路から流速1ml/minでメタノール液を供給した。メタノール液とヘキサクロロ白金酸六水和物を含有する水溶液とは、接続部で流体混合される。背圧弁から排出される混合液を1gのポリビニルピロリドンK30(和光純薬工業株式会社製)が含まれる100mlの水溶液を貯留しているフラスコで受けて、これを順次、限外濾過して濃縮した。固形分を集めて50mlの水溶液に懸濁して白金粒子の懸濁液を得た。
【0043】
[比較例1]
乾熱装置の設定温度を80℃に変更した点以外は、実施例1と同様にして、銀粒子の懸濁液を製造した。
【0044】
実施例1、実施例2及び比較例1の方法で得た銀粒子の懸濁液と、実施例2の方法で得た金粒子の懸濁液と、実施例3の白金粒子の懸濁液とを用いてサンプルを調整し、透過型電子顕微鏡写真装置(TEM)(日本電子株式会社製JEM-2100)を用いて、電子顕微鏡写真を撮影した。実施例1の電子顕微鏡写真を図4に、実施例2の電子顕微鏡写真を図5に、比較例1の電子顕微鏡写真を図6に、実施例3の電子顕微鏡写真を図7に示す。なお、TEM写真を撮影するにあたり、サンプル調整は以下のようにして行った。カーボン支持膜付き銅メッシュ(応研商事株式会社製 ウルトラハイレゾカーボン)上に、各懸濁液を数滴滴下させ、風乾したものを観察試料とした。
【0045】
撮影した電子顕微鏡画像から、明暗が明瞭で粒子の輪郭を判別できる粒子を50個選択し、粒子の長軸径を画像解析ソフトウエアを用いて計測し、平均することによって求めた。実施例1の平均粒子径は2.5nmであり、比較例1の平均粒子径は6.5nmであった。実施例2の平均粒子径は2.6nmであった。実施例3の平均粒子径は、5.11nmであった(標準偏差±1.19nm)。図3にTEM写真の画像解析によって計算された粒度分布を示す。
【0046】
図3の粒度分布に示したように、実施例1の方が比較例1に比べて得られる銀粒子の平均粒子径、及び粒子の分布範囲の上限値、粒子の分布範囲の下限値が小さいことがわかる。また、実施例2の方が比較例1に比べて得られる金粒子の平均粒子径が小さいことがわかる。
【0047】
実施例1の方法において、マイクロリアクターから排出された混合流体にレーザー光を照射したところ、チンダル現象によるレーザーの光路がはっきりと確認できた。一方、比較例1の方法において、マイクロリアクターから排出された混合流体にレーザー光を照射したところ、チンダル現象によるレーザーの光路はごくわずかにしか観測されなかった。このことから比較例1の方法では、マイクロリアクターから排出された混合流体を多量(実施例1の方法のおよそ20倍の液量)に集めて、限外濾過によって濃縮する必要があった。このことからして、実施例1の方法は収率において優れており、比較例1の方法は収率において劣ることがわかる。
【0048】
実施例1又は実施例2の方法によれば、平均粒子径が5nm以下のナノスケールの銀粒子又は金粒子が収率良く得られる。また、実施例3の方法によれば、平均粒子径が6nm以下のナノスケールの白金粒子が効率良く得られる。粒子径の小さい銀粒子、金粒子又は白金粒子は、単位重量当たりの表面積が大きくなる。例えば、銀粒子を抗菌剤として利用する場合などは、銀粒子の使用量を低減することが可能になる。また、銀粒子、金粒子又は白金粒子を触媒として利用する際に、銀粒子、金粒子又は白金粒子の使用量を低減することが可能になる。
【0049】
また、例えば銀粒子、金粒子又は白金粒子の懸濁液の場合は、銀粒子、金粒子又は白金粒子の粒子径が小さくなるほど、液と銀粒子、金粒子又は白金粒子とが分離するのに要する時間が長くなる。より、小さい粒子径を有する銀粒子、金粒子又は白金粒子であれば、銀粒子、金粒子又は白金粒子が長時間にわたって安定な状態を維持できるようになる。
【0050】
また、例えば、タッチスクリーン用の導電性フィルムにおいては、配合する銀粒子、金粒子又は白金粒子の粒子径が小さくなるほど光の透過性が向上する。
【0051】
上記の各実施例の方法で製造した銀粒子、金粒子又は白金粒子は、従来よりも小さい粒子径であり、粒径のばらつきも小さい。このため、種々の用途に好適に使用することができる。また、実施例1、実施例2、及び実施例3の方法では、収率において優れているため、平均粒子径が6nm以下の銀粒子、金粒子又は白金粒子を短時間かつ連続的に製造することができる。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7