(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-05
(45)【発行日】2022-04-13
(54)【発明の名称】動物遺体処理装置及び動物遺体処理方法
(51)【国際特許分類】
B09B 3/60 20220101AFI20220406BHJP
A01K 67/033 20060101ALI20220406BHJP
【FI】
B09B3/00 A ZAB
A01K67/033 502
(21)【出願番号】P 2018053000
(22)【出願日】2018-03-20
【審査請求日】2021-02-24
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、独立行政法人環境再生保全機構 環境研究総合推進費「ミズアブの機能を活用した革新的資源循環系の構築」による委託研究業務、産業技術力強化法第19条の規定の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】512224729
【氏名又は名称】地方独立行政法人大阪府立環境農林水産総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100118625
【氏名又は名称】大畠 康
(72)【発明者】
【氏名】藤谷 泰裕
【審査官】柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第201270727(CN,Y)
【文献】韓国登録特許第10-0756432(KR,B1)
【文献】特開2005-132683(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 3/00
A01K 67/033
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
肉食性の双翅目昆虫の幼虫に動物遺体を食餌として処理させることによって動物遺体を処理するための装置であって、
開閉可能な投入口を有する箱体と、
前記箱体内に上から順に配置された、遺体載置棚、幼虫支持棚、幼虫回収棚、及び遺体残渣回収棚と、
を備えており、
前記遺体載置棚は、投入された動物遺体が載せられるようになっており、前記幼虫が通過可能な大きさの網目を有する、網棚であり、
前記幼虫支持棚は、前記遺体載置棚に載せられた前記幼虫を下方から支持するようになっており、
前記遺体載置棚に近接して配置されており、網棚であり、網目は、幼虫が通過不可能な大きさに設定されており、
前記遺体載置棚及び前記幼虫支持棚は、それぞれ、下方に向けて開閉可能に設けられており、
前記幼虫回収棚は、前記幼虫支持棚が開くことによって落下して来た前記幼虫を、受けるようになっており、前記箱体の外へ引き出し可能に設けられており、
前記遺体残渣回収棚は、前記幼虫支持棚が開いており且つ前記幼虫回収棚が引き出された状態で前記遺体載置棚が開くことによって落下して来た遺体残渣を、受けるようになっており、前記箱体の外へ引き出し可能に設けられている、
ことを特徴とする動物遺体処理装置。
【請求項2】
遺体載置棚及び/又は幼虫支持棚は、幅方向中央で2分割されており、支持棒で下方から支持された状態では、棚としての形態を維持し、支持棒を抜き去ると、下方に向けて観音開きに開くようになっている、
請求項1記載の動物遺体処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肉食性の双翅目昆虫の幼虫に動物遺体を食餌として処理させることによって動物遺体を処理するための、装置及び方法に関する。肉食性の双翅目昆虫とは、例えば、アメリカミズアブ、コウカアブ、イエバエ等である。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、肉食性の双翅目昆虫の幼虫を利用して家畜の排泄物から有機肥料を製造する装置が、示されている。また、特許文献2には、肉食性の双翅目昆虫の幼虫を利用して有機廃棄物を処理する装置が、示されている。
【0003】
一方、動物遺体は、焼却したり私有地の土中へ埋葬したりすることによって、処理していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5913044号公報
【文献】特開2004-181379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の装置は、ペースト状態の排泄物を処理しており、特許文献2の装置は、破砕された生ゴミ等を処理しており、いずれの装置も、動物遺体そのものの完全体を処理してはいない。また、処理後の残渣からの幼虫の分離は、蛹になるための自立的這い出し習性を利用しているので、比較的長時間を要していた。例えば、イエバエでは4~5日、アメリカミズアブでは2~3週間を、要していた。
【0006】
また、動物遺体の焼却処理は、燃料を必要とするので、高コストであった。また、動物遺体の埋葬処理は、穴掘削作業及び埋設作業を必要とするので、作業性が悪かった。
【0007】
本発明は、動物遺体を省力的且つ経済的に処理することができ、更には、処理後の残渣から幼虫を簡単に分離できる、動物遺体処理装置及び動物遺体処理方法を、提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の動物遺体処理装置は、肉食性の双翅目昆虫の幼虫に動物遺体を食餌として処理させることによって動物遺体を処理するための装置であって、
開閉可能な投入口を有する箱体と、
前記箱体内に上から順に配置された、遺体載置棚、幼虫支持棚、幼虫回収棚、及び遺体残渣回収棚と、
を備えており、
前記遺体載置棚は、投入された動物遺体が載せられるようになっており、前記幼虫が通過可能な大きさの網目を有する、網棚であり、
前記幼虫支持棚は、前記遺体載置棚に載せられた前記幼虫を下方から支持するようになっており、
前記遺体載置棚及び前記幼虫支持棚は、それぞれ、下方に向けて開閉可能に設けられており、
前記幼虫回収棚は、前記幼虫支持棚が開くことによって落下して来た前記幼虫を、受けるようになっており、前記箱体の外へ引き出し可能に設けられており、
前記遺体残渣回収棚は、前記幼虫支持棚が開いており且つ前記幼虫回収棚が引き出された状態で前記遺体載置棚が開くことによって落下して来た遺体残渣を、受けるようになっており、前記箱体の外へ引き出し可能に設けられている、
ことを特徴としている。
【0009】
本発明の動物遺体処理方法は、肉食性の双翅目昆虫の幼虫に動物遺体を食餌として処理させることによって動物遺体を処理するための方法であって、
遺体載置棚上に載せた動物遺体を、前記遺体載置棚上に載せた肉食性の双翅目昆虫の幼虫に食餌として処理させる、食処理工程と、
前記遺体載置棚上の前記幼虫のみを落下させて幼虫回収棚で受けて取り出す、幼虫回収工程と、
前記遺体載置棚上に残った遺体残渣を落下させて遺体残渣回収棚で受けて取り出す、遺体残渣回収工程と、
を有する、
ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の動物遺体処理装置によれば、次のような効果を発揮できる。
(a)完全体である動物遺体そのものを幼虫によって処理できるので、焼却処理のための燃料や、埋葬処理のための穴掘削作業及び埋設作業を、不要にできる。したがって、動物遺体を省力的且つ経済的に処理することができる。
【0011】
(b)幼虫支持棚を下方に開いて幼虫を落下させるだけで、動物遺体の残渣から幼虫を分離できるので、残渣からの幼虫の分離を簡単に行うことができる。
【0012】
(c)分離された幼虫を受けた幼虫回収棚を、箱体から引き出すことによって、幼虫を簡単に回収できるので、回収した幼虫を、他の用途に、簡単に供することができる。
【0013】
(d)遺体載置棚を下方に開いて動物遺体の残渣を落下させ、遺体残渣回収棚を箱体から引き出すことによって、残渣を回収できるので、残渣を簡単に回収して廃棄できる。
【0014】
本発明の動物遺体処理方法によれば、次のような効果を発揮できる。
(i)完全体である動物遺体そのものを幼虫によって処理できるので、焼却処理のための燃料や、埋葬処理のための穴掘削作業及び埋設作業を、不要にできる。したがって、動物遺体を省力的且つ経済的に処理することができる。
(ii)幼虫回収工程によれば、幼虫のみを簡単に回収できる。
(iii)遺体残渣回収工程によれば、動物遺体の残渣を簡単に回収できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態の動物遺体処理装置の斜視図である。
【
図5】遺体載置棚が開いた状態を示す正面図である。
【
図6】本実施形態の装置の作動を示す正面透視図である。
【
図9】遺体載置棚又は幼虫支持棚の別の例を示す正面透視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明の一実施形態の動物遺体処理装置の斜視図である。
図2は、
図1の装置の正面透視図である。この装置10は、肉食性の双翅目昆虫の幼虫に動物遺体を食餌として処理させることによって動物遺体を処理するための装置である。肉食性の双翅目昆虫としては、例えば、アメリカミズアブ、コウカアブ、イエバエ等を、採用できる。
【0017】
装置10は、開閉可能な投入口11を有する箱体1と、箱体1内に上から順に配置された、遺体載置棚2、幼虫支持棚3、幼虫回収棚4、及び遺体残渣回収棚5と、を備えている。遺体載置棚2及び幼虫支持棚3は、箱体1内の上下方向の略中間に、上下に重なるように配置されている。幼虫回収棚4及び遺体残渣回収棚5は、箱体1内の底部に、上下に重なるように配置されており、扉12を開くことによって、それぞれ、箱体1の外へ引き出し可能に設けられている。
【0018】
更に、装置10には、幼虫回収棚4より上方且つ幼虫支持棚3より下方の位置に、網目で塞がれた通気口61が、形成されており、遺体載置棚2より上方の位置に、排気口(図示せず)に連結された脱臭装置62が、設けられている。これにより、箱体1内では、下方から上方へ至る通気が行われるようになっている。
【0019】
遺体載置棚2は、投入された動物遺体が載せられるようになっている。遺体載置棚2は、具体的には、平面図である
図3に示されるように、幼虫が通過可能な大きさの網目21を有する、網棚である。そして、遺体載置棚2は、幅方向Wの中央で棚部2Aと棚部2Bとに2分割されており、
図4に示されるように、支持棒22で下方から支持された状態では、棚としての形態を維持しているが、
図5に示されるように、支持棒22を抜き去ると、下方に向けて観音開きのように開くようになっている。すなわち、遺体載置棚2は、下方に向けて開閉可能となっている。遺体載置棚2は、例えば、幅方向Wの両縁において箱体1の内壁に回動自在にヒンジ支持されることによって、開閉可能となっている。
【0020】
幼虫支持棚3は、遺体載置棚2に載せられた幼虫を下方から支持するようになっており、遺体載置棚2に近接して配置されている。幼虫支持棚3も、網棚であるが、網目は、幼虫が通過不可能な大きさに設定されている。幼虫支持棚3も、
図3~
図5に示される遺体載置棚2と同様の構成を有しており、幅方向Wの中央で2分割されており、支持棒32で下方から支持された状態では、棚としての形態を維持しているが、支持棒32を抜き去ると、下方に向けて観音開きのように開くようになっている。すなわち、幼虫支持棚3は、下方に向けて開閉可能となっている。
【0021】
幼虫回収棚4は、幼虫支持棚3が開くことによって落下して来た幼虫を、受けるようになっている。幼虫回収棚4は、具体的には、トレー様容器である。幼虫回収棚4には、乾燥したコーヒー粕又はふすま等が敷設されているのが好ましく、それによれば、幼虫が幼虫回収棚4から脱出するのを防止できる。
【0022】
遺体残渣回収棚5は、幼虫支持棚3が開いており且つ幼虫回収棚4が引き出された状態で遺体載置棚2が開くことによって落下して来た遺体残渣を、受けるようになっている。遺体残渣回収棚5は、具体的には、トレー様容器であるが、骨壺又は袋等でもよい。
【0023】
次に、上記構成の装置10の作動について、説明する。
【0024】
(食処理工程)
まず、
図6に示されるように、処理したい動物遺体71を、投入口11から箱体1内に投入して遺体載置棚2上に載せるとともに、幼虫72も、投入口11から箱体1内に投入して遺体載置棚2上に載せる。遺体載置棚2上に載った幼虫72は、網目21を通過しようとするが、幼虫支持棚3が幼虫を下方から支持しているので、遺体載置棚2上に残る。そして、下方から上方への通気を作動させながら、例えば一晩放置する。これにより、幼虫72が動物遺体71を食餌として処理し、遺体載置棚2上には、動物遺体71の残渣711(
図7)と幼虫72とが載った状態となる。
【0025】
(幼虫回収工程)
次に、
図7に示されるように、幼虫支持棚3の支持棒32を引き抜く。これにより、幼虫支持棚3が下方に向けて開くので、遺体載置棚2上の幼虫72が、遺体載置棚2から落下して、幼虫回収棚4によって受けられるとともに、遺体載置棚2上には、動物遺体71の残渣711が残る。すなわち、動物遺体71の残渣711から幼虫72が分離される。そして、幼虫回収棚4に受けられた幼虫72は、扉12を開いて幼虫回収棚4を箱体1から引き出すことによって、回収される。
【0026】
(遺体残渣回収工程)
次に、
図8に示されるように、遺体載置棚2の支持棒22を引き抜く。これにより、遺体載置棚2が下方に向けて開くので、遺体載置棚2上の残渣711が遺体載置棚2から落下して、遺体残渣回収棚5によって受けられる。そして、遺体残渣回収棚5に受けられた残渣711は、扉12を開いて遺体残渣回収棚5を箱体1から引き出すことによって、回収される。
【0027】
以上のようにして、動物遺体71の処理と、幼虫72及び残渣711の回収と、が行われる。
【0028】
上記構成の装置10によれば、次のような効果を発揮できる。
【0029】
(1)完全体である動物遺体71そのものを幼虫72によって処理できるので、焼却処理のための燃料や、埋葬処理のための穴掘削作業及び埋設作業を、不要にできる。したがって、動物遺体を省力的且つ経済的に処理することができる。
【0030】
例えば、20gのネズミの遺体を、10g(すなわち200頭)のアメリカミズアブによって、24時間で、処理できた。このときの箱体1内の温度は25℃であった。なお、箱体1内の温度が23~34℃であれば、幼虫の活動を維持できた。
【0031】
処理できる動物遺体としては、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、クマ、シカ、イノシシ、アライグマ、ヌートリア、イヌ、ネコ、ネズミ等の哺乳類;アヒル、カモ、ニワトリ、カラス、ハト、スズメ等の鳥類;ワニ、イグアナ、ヘビ等の爬虫類;タコ、イカ、サカナ、カニ、エビ等の魚介類;等を、挙げることができる。
【0032】
(2)幼虫支持棚3の支持棒32を引き抜くだけで、動物遺体71の残渣711から幼虫72を分離できるので、残渣711からの幼虫72の分離を簡単に行うことができる。
【0033】
(3)分離された幼虫72を受けた幼虫回収棚4を、箱体1から引き出すことによって、幼虫72を簡単に回収できるので、回収した幼虫72を、魚、豚、家禽、観賞用動物等の飼料として、簡単に供することができる。
【0034】
(4)遺体載置棚2の支持棒22を引き抜き、残渣711を落下させ、遺体残渣回収棚5を箱体1から引き出すことによって、残渣711を回収できるので、残渣711を簡単に回収して廃棄できる。
【0035】
(5)投入口11から幼虫72を容易に追加できるので、動物遺体71の処理時間を容易に短縮できる。
【0036】
[変形例]
(a)支持棒22、32は、1本に限らず、並設された複数本でもよい。
【0037】
(b)遺体載置棚2及び幼虫支持棚3は、例えば、
図8に示される形態を有してもよい。
図9では、遺体載置棚2(又は幼虫支持棚3)は、1枚の網棚であり、幅方向Wの一辺201にて回動自在にヒンジ支持されており且つ幅方向Wの他辺202にて係止部材26で係止されており、係止部材26の係止を解くと、幅方向Wの一辺201を支点として下方に回動するようになっている。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、動物遺体を省力的且つ経済的に処理することができるので、産業上の利用価値が大である。
【符号の説明】
【0039】
1 箱体 2 遺体載置棚 21 網目 22 支持棒 3 幼虫支持棚
32 支持棒 4 幼虫回収棚 5 遺体残渣回収棚