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特許7054220呼吸抵抗測定装置、データ処理方法及び呼吸抵抗測定システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-05
(45)【発行日】2022-04-13
(54)【発明の名称】呼吸抵抗測定装置、データ処理方法及び呼吸抵抗測定システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/085 20060101AFI20220406BHJP
【FI】
A61B5/085
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019021993
(22)【出願日】2019-02-08
(65)【公開番号】P2020127640
(43)【公開日】2020-08-27
【審査請求日】2021-10-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】597129229
【氏名又は名称】チェスト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久原 聡
(72)【発明者】
【氏名】西貝 学
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 久仁貴
【審査官】藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-049389(JP,A)
【文献】特表2005-537068(JP,A)
【文献】特開2002-095650(JP,A)
【文献】特開昭63-242231(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/08-5/097
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
過去に実施された被験者の測定結果を示すデータに基づいて新たな測定結果を示す追加データを処理する呼吸抵抗測定装置であって、
呼吸機能が正常である場合の測定結果を示す第1データ及び異常がある場合の測定結果を示す第2データを記憶する記憶部と、
前記第1データ及び前記第2データに基づいて、前記追加データと前記第1データとの相関及び前記追加データと前記第2データとの相関の少なくとも一方を判定する制御部とを備え、
前記第2データは、前記呼吸抵抗測定装置の利用方法が不適切な場合の測定結果を示すNGデータを含み、
前記NGデータは、被験者が測定中に咳をした場合の第1NGデータと、被験者が不適切な姿勢で測定を行った場合の第2NGデータと、被験者が測定中に舌を動かした場合の第3NGデータと、被験者が測定中に嚥下した場合の第4NGデータと、測定中に息漏れが生じた場合の第5NGデータとを含み、
前記制御部は、前記追加データが前記第2データに該当すると判定された場合、前記NGデータに該当するかさらに判定し、前記追加データが前記NGデータに該当すると判定された場合、前記第1NGデータ、前記第2NGデータ、前記第3NGデータ、前記第4NGデータ及び前記第5NGデータのうち該当するものをさらに判定する
呼吸抵抗測定装置。
【請求項2】
前記第2データは、COPDを罹患している被験者のCOPDデータと、喘息を罹患している被験者の喘息データと、COPD又は喘息のいずれであるか判定が困難な判定困難データとを含み、
前記喘息データは、気道可逆性試験を経た再度の測定結果に基づいて喘息と判定された試験済みデータを含み、
前記判定困難データは、前記試験済みデータが得られた被験者が前記気道可逆性試験を経る前の未試験データを含み、
前記試験済みデータと前記未試験データとは対応付けられ、
前記制御部は、前記追加データと前記未試験データとの照合結果に基づいて、前記追加データが測定された被験者に対する前記気道可逆性試験の実施の妥当性をさらに判定する
請求項に記載の呼吸抵抗測定装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記追加データを入力とし、前記第1データ及び前記第2データを教師データとし、前記追加データの判定結果を出力とするニューラルネットワークを生成する
請求項1又は2に記載の呼吸抵抗測定装置。
【請求項4】
情報処理装置が、呼吸抵抗測定装置を用いて過去に実施された被験者の測定結果を示すデータに基づいて新たな測定結果を示す追加データを処理するデータ処理方法であって、
呼吸機能が正常である場合の測定結果を示す第1データを記憶部に記憶する第1ステップと、
異常がある場合の測定結果を示す第2データを前記第1データと区別して前記記憶部に記憶する第2ステップと、
前記第1データ及び前記第2データに基づいて、前記追加データと前記第1データとの相関及び前記追加データと前記第2データとの相関の少なくとも一方を判定する第3ステップとを含み、
前記第2データは、前記呼吸抵抗測定装置の利用方法が不適切な場合の測定結果を示すNGデータを含み、
前記NGデータは、被験者が測定中に咳をした場合の第1NGデータと、被験者が不適切な姿勢で測定を行った場合の第2NGデータと、被験者が測定中に舌を動かした場合の第3NGデータと、被験者が測定中に嚥下した場合の第4NGデータと、測定中に息漏れが生じた場合の第5NGデータとを含み、
前記第3ステップで前記追加データが前記第2データに該当すると判定された場合、前記NGデータに該当するかさらに判定し、前記追加データが前記NGデータに該当すると判定された場合、前記第1NGデータ、前記第2NGデータ、前記第3NGデータ、前記第4NGデータ及び前記第5NGデータのうち該当するものをさらに判定する
データ処理方法。
【請求項5】
被験者の呼吸抵抗値を測定する測定部を備える呼吸抵抗測定装置と、
過去に実施された被験者の測定結果を示すデータに基づいて新たな測定結果を示す追加データを処理する情報処理装置と、を備える呼吸抵抗測定システムであって、
前記情報処理装置は、
過去に実施された被験者の測定結果を示すデータに基づいて新たな測定結果を示す追加データを処理する呼吸抵抗測定装置であって、
呼吸機能が正常である場合の測定結果を示す第1データ及び異常がある場合の測定結果を示す第2データを記憶する記憶部と、
前記第1データ及び前記第2データに基づいて、前記追加データと前記第1データとの相関及び前記追加データと前記第2データとの相関の少なくとも一方を判定する制御部とを備え、
前記第2データは、前記呼吸抵抗測定装置の利用方法が不適切な場合の測定結果を示すNGデータを含み、
前記NGデータは、被験者が測定中に咳をした場合の第1NGデータと、被験者が不適切な姿勢で測定を行った場合の第2NGデータと、被験者が測定中に舌を動かした場合の第3NGデータと、被験者が測定中に嚥下した場合の第4NGデータと、測定中に息漏れが生じた場合の第5NGデータとを含み、
前記制御部は、前記追加データが前記第2データに該当すると判定された場合、前記NGデータに該当するかさらに判定し、前記追加データが前記NGデータに該当すると判定された場合、前記第1NGデータ、前記第2NGデータ、前記第3NGデータ、前記第4NGデータ及び前記第5NGデータのうち該当するものをさらに判定し、
前記呼吸抵抗測定装置は、前記制御部の判定結果に応じた表示を行う表示部を備える
呼吸抵抗測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、呼吸抵抗測定装置、データ処理方法及び呼吸抵抗測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
呼吸機能の測定方法として、強制オシレーション法が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-240752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
強制オシレーション法の測定結果を示す表示内容は、医療関係者が当該表示内容を一見しても被験者の状態を判断することが困難なことがあった。
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、判断を支援する情報処理が可能な呼吸抵抗測定装置、データ処理方法及び呼吸抵抗測定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明に係る呼吸抵抗測定装置は、過去に実施された被験者の測定結果を示すデータに基づいて新たな測定結果を示す追加データを処理する呼吸抵抗測定装置であって、呼吸機能が正常である場合の測定結果を示す第1データ及び異常がある場合の測定結果を示す第2データを記憶する記憶部と、前記第1データ及び前記第2データに基づいて、前記追加データと前記第1データとの相関及び前記追加データと前記第2データとの相関の少なくとも一方を判定する制御部とを備え、前記第2データは、前記呼吸抵抗測定装置の利用方法が不適切な場合の測定結果を示すNGデータを含み、前記制御部は、前記追加データが前記第2データに該当すると判定された場合、前記NGデータに該当するかさらに判定する。
【0007】
これによって、追加データの異常の原因が呼吸抵抗測定装置の利用方法が不適切であることによるかが示唆される。従って、判断を支援する情報処理が可能である。
【0008】
呼吸抵抗測定装置の望ましい態様として、前記NGデータは、被験者が測定中に咳をした場合の第1NGデータと、被験者が不適切な姿勢で測定を行った場合の第2NGデータと、被験者が測定中に舌を動かした場合の第3NGデータと、被験者が測定中に嚥下した場合の第4NGデータと、測定中に息漏れが生じた場合の第5NGデータとを含み、前記制御部は、前記追加データが前記NGデータに該当すると判定された場合、前記第1NGデータ、前記第2NGデータ、前記第3NGデータ、前記第4NGデータ及び前記第5NGデータのうち該当するものをさらに判定する。
【0009】
これによって、追加データの異常の原因が認識されやすくなる。従って、判断を支援する情報処理が可能である。
【0010】
呼吸抵抗測定装置の望ましい態様として、前記第2データは、COPDを罹患している被験者のCOPDデータと、喘息を罹患している被験者の喘息データと、COPD又は喘息のいずれであるか判定が困難な判定困難データとを含み、前記喘息データは、気道可逆性試験を経た再度の測定結果に基づいて喘息と判定された試験済みデータを含み、前記判定困難データは、前記試験済みデータが得られた被験者が前記気道可逆性試験を経る前の未試験データを含み、前記試験済みデータと前記未試験データとは対応付けられ、前記制御部は、前記追加データと前記未試験データとの照合結果に基づいて、前記追加データが測定された被験者に対する前記気道可逆性試験の実施の妥当性をさらに判定する。
【0011】
これによって、気道可逆性試験を行うことで喘息と判定する診断の確度がより高められる。従って、判断を支援する情報処理が可能である。
【0012】
呼吸抵抗測定装置の望ましい態様として、前記制御部は、前記追加データを入力とし、前記第1データ及び前記第2データを教師データとし、前記追加データの判定結果を出力とするニューラルネットワークを生成する。
【0013】
これによって、機械学習を利用した判断の支援が可能である。
【0014】
また、上記の目的を達成するため、本発明に係るデータ処理方法は、情報処理装置が、呼吸抵抗測定装置を用いて過去に実施された被験者の測定結果を示すデータに基づいて新たな測定結果を示す追加データを処理するデータ処理方法であって、呼吸機能が正常である場合の測定結果を示す第1データを記憶部に記憶する第1ステップと、異常がある場合の測定結果を示す第2データを前記第1データと区別して前記記憶部に記憶する第2ステップと、前記第1データ及び前記第2データに基づいて、前記追加データと前記第1データとの相関及び前記追加データと前記第2データとの相関の少なくとも一方を判定する第3ステップとを含み、前記第2データは、前記呼吸抵抗測定装置の利用方法が不適切な場合の測定結果を示すNGデータを含み、前記第3ステップで前記追加データが前記第2データに該当すると判定された場合、前記NGデータに該当するかさらに判定する。
【0015】
これによって、追加データの異常の原因が呼吸抵抗測定装置の利用方法が不適切であることによるかが示唆される。従って、判断を支援する情報処理が可能である。
【0016】
また、上記の目的を達成するため、本発明に係る呼吸抵抗測定システムは、被験者の呼吸抵抗値を測定する測定部を備える呼吸抵抗測定装置と、過去に実施された被験者の測定結果を示すデータに基づいて新たな測定結果を示す追加データを処理する情報処理装置と、を備える呼吸抵抗測定システムであって、前記情報処理装置は、過去に実施された被験者の測定結果を示すデータに基づいて新たな測定結果を示す追加データを処理する呼吸抵抗測定装置であって、呼吸機能が正常である場合の測定結果を示す第1データ及び異常がある場合の測定結果を示す第2データを記憶する記憶部と、前記第1データ及び前記第2データに基づいて、前記追加データと前記第1データとの相関及び前記追加データと前記第2データとの相関の少なくとも一方を判定する制御部とを備え、前記第2データは、前記呼吸抵抗測定装置の利用方法が不適切な場合の測定結果を示すNGデータを含み、前記制御部は、前記追加データが前記第2データに該当すると判定された場合、前記NGデータに該当するかさらに判定し、前記呼吸抵抗測定装置は、前記制御部の判定結果に応じた表示を行う表示部を備える。
【0017】
これによって、追加データの異常の原因が呼吸抵抗測定装置の利用方法が不適切であることによるかが示唆される。従って、判断を支援する情報処理が可能である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、判断を支援する情報処理が可能な呼吸抵抗測定装置及びデータ処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、実施形態の呼吸抵抗測定装置の主要構成例を示すブロック図である。
図2図2は、測定部の主要構成例を示す模式図である。
図3図3は、時系列に沿う呼吸抵抗値の波形の一例を示す3Dグラフである。
図4図4は、COPDを罹患している被験者の呼吸抵抗値の波形の一例を示す3Dグラフである。
図5図5は、喘息を罹患している被験者の呼吸抵抗値の波形の一例を示す3Dグラフである。
図6図6は、喘息を罹患している被験者の可逆性試験前の呼吸抵抗値の波形の一例を示す3Dグラフである。
図7図7は、可逆性試験前に図6の呼吸抵抗値が得られた被験者から可逆性試験を行った後に得られた呼吸抵抗値の波形の一例を示す3Dグラフである。
図8図8は、測定データの付加データをテーブルデータ形式で表現した場合の一例を示す図である。
図9図9は、可逆性試験前後の呼吸抵抗値と疾患の種類との関係の例を示す図である。
図10図10は、演算部による処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図11図11は、測定中に咳をした被験者の呼吸抵抗値の波形の一例を示す3Dグラフである。
図12図12は、不適切な姿勢で測定を行った被験者の呼吸抵抗値の波形の一例を示す3Dグラフである。
図13図13は、不適切な姿勢で測定を行った被験者の呼吸抵抗値の波形の他の一例を示す3Dグラフである。
図14図14は、不適切な姿勢で測定を行った被験者の呼吸抵抗値の波形の他の一例を示す3Dグラフである。
図15図15は、測定中に舌を動かした被験者の呼吸抵抗値の波形の一例を示す3Dグラフである。
図16図16は、測定中に嚥下した被験者の呼吸抵抗値の波形の一例を示す3Dグラフである。
図17図17は、測定中に吸気に息漏れが生じた被験者の呼吸抵抗値の波形の一例を示す3Dグラフである。
図18図18は、測定中に呼気に息漏れが生じた被験者の呼吸抵抗値の波形の一例を示す3Dグラフである。
図19図19は、測定中に呼気及び吸気に息漏れが生じた被験者の呼吸抵抗値の波形の一例を示す3Dグラフである。
図20図20は、NGと判定された根拠を示す情報を含む表示部の表示態様の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0021】
図1は、実施形態の呼吸抵抗測定装置1の主要構成例を示すブロック図である。呼吸抵抗測定装置1は、測定部10と、データ管理部20とを備える。測定部10は、呼吸抵抗の測定に用いられる。データ管理部20は、測定部10を用いて測定された呼吸抵抗に関するデータを利用した各種の処理を行う。
【0022】
図2は、測定部10の主要構成例を示す模式図である。測定部10は、負荷発生部11、流量計測部12、圧力計測部13、分岐管14、ニューモタコグラフ15、マウスピース16等を備える。実施形態の測定部10は、所謂広域周波オシレーション法と呼ばれる呼吸抵抗測定方法で被験者の呼吸抵抗を測定するためのものである。
【0023】
負荷発生部11は、被験者が行う呼吸により生じる気流B(安静換気)に対して負荷を与える。負荷発生部11は、例えば、気流Bが流れる流路に対して波動Oを発生して負荷を与えるスピーカである。流量計測部12は、気流Bの流量を測定するセンサである。圧力計測部13は、気流Bの圧力を測定するセンサである。なお、流量計測部12が計測する流量は、所定の単位時間(例えば、1秒)あたりの流量である。
【0024】
分岐管14は、気流Bが流れる管状の流路の終端側に設けられて、終端側を2分岐させるY字状の管路を有する部材である。負荷発生部11には、2分岐した流路の一端側に負荷発生部11が設けられ、他端側に終端抵抗14aが設けられている。負荷発生部11及び終端抵抗14aは、流路の終端の一部又は全部を塞いでいる。ニューモタコグラフ15は、分岐管14とマウスピース16との間に介在するように気流Bの流路に設けられる。ニューモタコグラフ15には、流量計測部12、圧力計測部13及びスクリーン15aが設けられる。スクリーン15aは、気流Bが通過可能に設けられる。気流Bがスクリーン15aに与える影響に基づいて、流量計測部12及び圧力計測部13がセンシングを行う。マウスピース16は、気流Bの流路の始端側に設けられる。マウスピース16に、被験者の口(又は、鼻及び口)が密着されて呼吸が行われる。
【0025】
なお、流量計測部12、圧力計測部13を測定部10に設けるための具体的構成は、ニューモタコグラフ15に限られない。例えば、リリー型フローセンサ等の差圧式流量計を用いて気流Bの流量、圧力を測定してもよい。
【0026】
図2に示す負荷発生部11は、負荷制御部11aとユニット11bとを含む。負荷制御部11aは、流量計測部12が測定する流量のデータ及び圧力計測部13が測定する圧力のデータに基づいて、呼吸のタイミングに合わせてユニット11bに負荷を発生させる。ユニット11bは、負荷制御部11aの制御下で波動Oを発生させて気流Bに対して負荷を与える。
【0027】
実施形態では、ユニット11bが発生させる波動Oとして、例えば、ハニング波、雑音波等の広帯域周波数成分を含む波動が採用されている。波動Oの周波数帯は、例えば、5~35Hzである。これら例示された波動Oの詳細は、あくまで広域周波オシレーション法で採用されるオシレーション波の具体例であってこれらに限られるものでなく、適宜変更可能である。
【0028】
負荷制御部11aは、流量計測部12及び圧力計測部13からのデータと、ユニット11bに負荷を発生させたタイミング及び負荷の種類(周波数等)を示すデータとをデータ管理部20に出力する。流量計測部12及び圧力計測部13からのデータは、負荷制御部11aを介さずデータ管理部20に出力されてもよい。
【0029】
データ管理部20は、記憶部21、演算部22、表示部23、入力部24等を備える。記憶部21は、ハードディスクドライブ(HDD:Hard Disk Drive)、ソリッドステートドライブ(SSD:Solid State Drive)、フラッシュメモリーその他の記憶装置のいずれかを有し、各種のデータを記憶する。記憶部21は、例えば、測定データ210、表示プログラム220、判定プログラム230等を記憶する。
【0030】
測定データ210は、過去に測定部10を用いて行われた測定結果を示すデータである。また、被験者が新たに行った測定によって測定部10からデータ管理部20に出力された新たな測定結果を示すデータ(追加データAD)は、1人の被験者の1回分の測定データ210として扱われる。すなわち、測定部10を用いて測定が行われるたび、測定データ210に含まれる被験者のデータは増加する。
【0031】
表示プログラム220は、測定データ210に基づいた表示出力を行うためのソフトウェア・プログラムである。以下、単にプログラムと記載した場合、ソフトウェア・プログラムのことをさす。判定プログラム230は、追加データADがどのようなデータであるかを判定するためのプログラムである。これらのプログラムにより実現される機能については後述する。
【0032】
演算部22は、CPU(Central Processing Unit)等の演算回路を有し、記憶部21に記憶されているプログラム、データを読み出して実行処理し、データ管理部20の動作に関する各種の処理を行う。表示部23は、液晶ディスプレイ、有機エレクトロルミネセンスディスプレイその他の表示装置のいずれかを有し、演算部22の処理内容に応じた表示出力を行う。入力部24は、例えば表示部23の表示領域に対するタッチ操作を検出するタッチパネル、キーボード、マウスその他の入力装置のいずれかを有し、データ管理部20に対するユーザの手動入力操作を受け付ける。
【0033】
まず、データ管理部20によるデータ表示機能の概要について説明する。演算部22は、流量計測部12及び圧力計測部13からのデータに基づいて高速フーリエ変換等の処理を行い、当該データが検出された被験者の呼吸抵抗値及びリアクタンス値を求める。演算部22は、測定部10を用いて行われた被験者の呼吸抵抗測定期間(時間)の時系列に沿って変化する気流Bの流量及び圧力に基づいて、時系列に沿って呼吸抵抗値及びリアクタンス値を求める。
【0034】
演算部22は、表示プログラム220を実行し、時系列に沿った呼吸抵抗値の変化を表示部23に表示させる処理を行う。表示部23は、演算部22によって求められた呼吸抵抗値等を時系列に沿って表示する。以下、呼吸抵抗値の表示例について、図3を参照して説明する。
【0035】
図3は、時系列に沿う呼吸抵抗値の波形の一例を示す3Dグラフである。図3に示す3Dグラフは、3軸のうち1つが呼吸抵抗値(R)、他の1つが周波数(F)、残りの1つが時間(T)を示す。図3のグラフでは、周波数(F)の軸に沿って手前側から奥側に渡って表示される呼吸抵抗値(R)の高低を示す波形Wが時間(T)の軸に沿って3D状に表示されることで、表示部23を見たユーザが周波数別の呼吸抵抗値の傾向を容易に把握可能になっている。図3に例示する波形Wは、波形W1,W2,W3,W4,W5,W6を含む。波形W1,W2,W3,W4,W5,W6は、それぞれ異なる周波数帯の5[Hz]幅の呼吸抵抗値を示す波形である。図3のようなグラフにおける周波数(F)と呼吸抵抗値(R)との関係は、負荷発生部11からの負荷の周波数が変化した場合に呼吸抵抗値がどのように変化したかを示している。図4以降の3Dグラフでは、3軸の矢印及び符号の図示を省略しているが、3Dグラフの解釈方法については図3と同様である。実施形態では、表示部23からの表示出力内容に呼吸抵抗値(R)、周波数(F)及び時間(T)を示す矢印は表示されないが、表示するようにしてもよい。また、図3及び図4以降の3Dグラフでは、吸気の期間にハッチングを付している。ハッチングが付されていない期間が呼気の期間である。
【0036】
実施形態の表示プログラム220は、図3に例示するように、測定データ210に基づいて求められた呼吸抵抗値を3Dグラフの形態で表示出力するプログラムである。表示プログラム220による表示態様は図3に示す例に限定されず、測定部10を用いた測定によって求められた呼吸抵抗値を把握可能な形態であればよい。
【0037】
図3に示すグラフは、呼吸器系に特段の疾患を持たない健常者が被験者である場合の呼吸抵抗値の一例を示すグラフである。図3に示すグラフのようなデータは、追加データADに限られない。図3に示すグラフのようなデータのうち、過去に実施済みのデータについては、呼吸機能が正常であると判定済みの測定結果を示す第1データ211として扱われる。図1に示すように、第1データ211は、記憶部21に記憶されている測定データ210に含まれる。
【0038】
一方、追加データADが得られた場合、演算部22は、判定プログラム230を実行し、追加データADと過去のデータとの類似性に関する判定を行う。具体的には、判定プログラム230を実行中の演算部22は、当該データから求められる呼吸抵抗値と周波数と時間の関係(前者)と、記憶済みの第1データ211が示す呼吸抵抗値と周波数と時間の関係(公社)との相関から、前者と後者との類似性を数値化する。前者と後者との相関は、例えば後者を教師データとして扱った特徴量分析による。
【0039】
より具体的な例を挙げると、上述の前者と後者で同じ周波数の負荷が与えられているタイミングでの呼吸抵抗値の値が一致又は実質的に一致すると評価可能な誤差の範囲内であると判定された場合に前者と後者の相関は高くなり、一致しないと判定された場合に前者と後者の相関はより低くなる。判定プログラム230を実行中の演算部22は、このような相関の高低に関する判定を、呼気と吸気とで個別に行って前者と後者の総合的な相関を数値化する。このようなより具体的な例はあくまで相関を求めるための一手法であって、実施形態における判定プログラム230を実行中の演算部22の処理内容をこれに限定するものでない。
【0040】
実施形態の判定プログラム230は、過去に測定されたデータを含む測定データ210を教師データとして、追加データADが測定データ210に含まれるどのデータに該当する可能性がより高いかを判定するAI(Artificial Intelligence)的な振る舞いを演算部22で実現するためのプログラムである。
【0041】
上述の例では、追加データADが第1データ211に該当するかどうかを判定することを例として判定プログラム230を実行中の演算部22について説明しているが、測定データ210に含まれるデータは第1データ211に限られない。判定プログラム230を実行中の演算部22は、第1データ211に限らず、追加データADが測定データ210のどのデータに該当するかを判定する。また、第1データ211として扱われる過去のデータは、1人の被験者の1回分のデータに限らず、複数人の被験者の複数回分のデータであってよい。同様に、後述する第2データ212に該当する各種のデータについても、それぞれ1人の被験者の1回分のデータに限らず、複数人の被験者の複数回分のデータであってよい。
【0042】
以下、第1データ211とは異なる呼吸抵抗値が算出された場合のデータ、すなわち、異常があると判定済みの測定結果を示す第2データ212の具体例として、被験者が罹患した疾患によって異常が生じたデータの例を、図4から図7を参照して説明する。慢性閉塞性肺疾患(COPD:Chronic Obstructive Pulmonary Disease)、喘息等の呼吸器系疾患を罹患している被験者の呼吸抵抗値及び呼吸抵抗値のグラフは、図3とは異なるものになる。
【0043】
図4は、COPDを罹患している被験者の呼吸抵抗値の波形の一例を示す3Dグラフである。図4で例示するように、COPDを罹患している被験者では、負荷発生部11からの負荷の周波数(F)によって呼吸抵抗値の高低差が生じる「呼吸抵抗値の周波数依存性」が発現することが多い。図4に示すような3Dグラフが表示されることになる呼吸抵抗値と周波数と時間の関係が求められるデータは、COPDデータ213として扱われる。
【0044】
図5は、喘息を罹患している被験者の呼吸抵抗値の波形の一例を示す3Dグラフである。図3の例と図5の例との対比から、喘息を罹患している被験者では、健常者に比して呼吸抵抗値が相対的に高くなる傾向が発現する。一方、喘息を罹患している被験者では、重症度により傾向は様々だが、図4で例示したような「呼吸抵抗値の周波数依存性」は発現しないことが多い。図5に示すような3Dグラフが表示されることになる呼吸抵抗値と周波数と時間の関係が求められるデータは、喘息データ214として扱われる。
【0045】
図4図5との差にあるような「呼吸抵抗値の周波数依存性」の有無に基づいて、呼吸抵抗測定装置1のユーザである医療関係者は、COPDと喘息を判別しやすくなる。3Dグラフでの表示によって、このような「呼吸抵抗値の周波数依存性」の有無をより判別しやすくなる。
【0046】
また、被験者が喘息であることを検証するために気道可逆性試験を行うことが知られている。以下、可逆性試験と記載した場合、気道可逆性試験をさす。可逆性試験とは、気管支拡張剤を吸入することで呼吸器系の機能が改善するかどうかを確認する試験である。喘息の場合、気管支拡張剤を吸入することで呼吸器系の機能が有意に改善することが知られている。一方、COPDの場合、気管支拡張剤を吸入しても呼吸器系の有意な機能改善は見受けられないとされる。可逆性試験を行って有用な結果が得られるかどうかが予め推定できると、被験者にとって負担の大きい可逆性試験をしなくてもよい被験者を増やすことができる。
【0047】
図6は、喘息を罹患している被験者の可逆性試験前の呼吸抵抗値の波形の一例を示す3Dグラフである。なお、図5も可逆性試験前のグラフであるが、図6図5と異なるグラフである。図7は、可逆性試験前に図6の呼吸抵抗値が得られた被験者から可逆性試験を行った後に得られた呼吸抵抗値の波形の一例を示す3Dグラフである。
【0048】
図6図7との呼吸抵抗値の高低差が示すように、喘息を罹患している被験者が可逆性試験を行うと、可逆性試験後の呼吸抵抗値が可逆性試験前に比して有意に下がることが多い。このような可逆性試験前後の呼吸抵抗値の差異によって、被験者が喘息であるという判別結果の確度をより高められる。図7に示すような3Dグラフが表示されることになる呼吸抵抗値と周波数と時間の関係が求められるデータは、喘息データ214のうち試験済みデータ214aとして扱われる。また、図6に示すような3Dグラフが表示されることになる呼吸抵抗値と周波数と時間の関係が求められるデータは、喘息データ214として扱われてもよいし、後述する判別困難データ215の未試験データ215aとして扱われてもよい。
【0049】
図3から図7を参照した説明で例示したように、ユーザである医療関係者は、表示部23に表示された3Dグラフに基づいて被験者の呼吸器系に関する判別の手掛かりを得られる。データ管理部20は、さらに、判断を支援する情報処理を行う。
【0050】
図8は、測定データ210の付加データをテーブルデータ形式で表現した場合の一例を示す図である。なお、図8では、図3のデータが「00000001」の識別番号に該当し、図4のデータが「00000002」の識別番号に該当し、図5のデータが「00000003」の識別番号に該当し、図6のデータが「00000004」の識別番号に該当し、図7のデータが「00000005」の識別番号に該当することを想定している。測定データ210に含まれる複数の種類のデータは、例えば図8の識別番号のような固有の識別子によって各回の測定結果単位で区別されている。識別番号は、例えば演算部22が過去のデータに与えられていない識別番号を新たに生成し、測定部10からデータ管理部20に入力されたデータに個別に与えることで各回のデータに割り当てられる。
【0051】
図8の診断結果は、呼吸抵抗測定装置1のユーザが入力部24を用いて行った入力又は判定プログラム230を実行した記憶部21による判定によって測定データ210に含まれる各回のデータに設定された診断結果である。「正常」の診断結果は、図1に示す第1データ211に該当するデータであることを示す。「COPD」の診断結果は、図1に示すCOPDデータ213に該当するデータであることを示す。「喘息」の診断結果は、図1に示す喘息データ214に該当するデータであることを示す。「不明」の診断結果は、図1に示す判別困難データ215に該当するデータであることを示す。「NG」の診断結果は、図1に示すNGデータ216に該当するデータであることを示す。
【0052】
図8の可逆性試験欄における試験の有無は、可逆性試験が行われた測定結果と関係があるか否かを示す。試験の有無が「無」であるデータは、可逆性試験が行われた測定結果と関係がないことを示す。試験の有無が「有」であるデータは、可逆性試験が行われた測定結果と関係があることを示す。
【0053】
図8の可逆性試験欄における試験前、試験後、試験前データ及び試験後データは、試験の有無が「有」であるデータのみフィールドにパラメータが設定される。図8の例では、可逆性試験前のデータに該当する場合、試験前に「丸(○)」が設定され、当該データと同一の被験者が可逆性試験を行った後のデータの識別番号が試験後データに設定される。「00000004」の識別番号が与えられたレコードを例にすると、当該レコードに対応するデータが可逆性試験前のデータであり、当該データを得られた被験者が可逆性試験を行った後に得られたデータが「00000005」の識別番号を与えられたデータであることを示している。また、可逆性試験後のデータに該当する場合、試験後に「丸(○)」が設定され、当該データと同一の被験者が可逆性試験を行う前のデータの識別番号が試験前データに設定される。「00000005」の識別番号が与えられたレコードを例にすると、当該レコードに対応するデータが可逆性試験後のデータであり、当該データを得られた被験者が可逆性試験を行う前に得られたデータが「00000004」の識別番号を与えられたデータであることを示している。
【0054】
また、図8の被験者属性に含まれる年齢[歳]、性別、身長[cm]、体重[kg]のカラムに設定されているパラメータによって例示するように、測定データ210データに含まれる各種のデータには、被験者の年齢[歳]、性別、身長[cm]、体重[kg]等、被験者の身体的特性その他の情報を示すパラメータがさらに設定されてもよい。可逆性試験及び被験者属性のパラメータは、例えば入力部24を用いた入力を介して、ユーザにより設定される。
【0055】
なお、測定データ210は、例えば、流量計測部12及び圧力計測部13からのデータを記録したもの、すなわち、高速フーリエ変換等の処理前のデータであってもよいし、流量計測部12及び圧力計測部13からのデータに基づいて演算部22が行った高速フーリエ変換等の処理によって求められた呼吸抵抗値等を示すデータであってもよい。また、図8で例示する付加データの具体的な内容はあくまで一例であってこれに限られるものでなく、同様の意味を示す他の表現が用いられていてもよい。
【0056】
図9は、可逆性試験前後の呼吸抵抗値と疾患の種類との関係の例を示す図である。以下、可逆性試験が有効である場合と無効である場合の区別について、図9を参照して説明する。図9では、可逆性試験が有効である場合の例として、喘息を罹患している被験者のデータを採用している。また、可逆性試験が無効である場合の例として、COPDを罹患している被験者のデータを採用している。
【0057】
図9で示す例の場合、可逆性試験前の呼吸抵抗値と周波数と時間の関係だけでは、喘息であってもCOPDであってもいずれの疾患であるのか判定し難い程度の差異しか現れていない。このような呼吸抵抗値と周波数と時間の関係が現れるデータが測定された場合、3Dグラフを見て疾患を判定するユーザも、判定プログラム230を実行中の演算部22も、診断結果の判定が困難になる。従って、図9で示す可逆性試験前の3Dグラフが現れるようなデータが過去のデータとして測定データ210に含まれる場合、判別困難データ215として予め記憶される。また、可逆性試験前のデータであるので、当該過去のデータは、未試験データ215aとして予め記憶される。また、図9で示す可逆性試験前の3Dグラフが現れるようなデータが追加データADとして測定部10からデータ管理部20に出力された場合、判定プログラム230を実行中の演算部22は、当該追加データADの診断結果を「不明」とし、判別困難データ215として測定データ210に加える。また、呼吸抵抗測定装置1のユーザによって当該追加データADが可逆性試験前のデータであることを示す付加データが入力部24を用いて入力された場合、判定プログラム230を実行中の演算部22は、当該追加データADを未試験データ215aとする。
【0058】
一方、図6図7及び図9の上段で示すように、喘息を罹患している被験者では、可逆性試験前の呼吸抵抗値よりも可逆性試験後の呼吸抵抗値が有意に下がることが多い。これに対し、図9の下段で示すようにCOPDを罹患している被験者では、可逆性試験前後で呼吸抵抗値に実質的に変化が見られないことが多い。これらのデータが可逆性試験後のデータであること及び可逆性試験前のデータとの対応付けを示す付加データが入力部24を用いて入力された場合、判定プログラム230を実行中の演算部22は、これらのデータの診断結果を可逆性試験前後の呼吸抵抗値の差に基づいて診断結果を判定する。図8に示す例では、図9上段のデータのうち、可逆性試験前のデータが「00000006」の識別番号を与えられたデータである。また、図9上段のデータのうち、可逆性試験後のデータが「00000007」の識別番号を与えられたデータである。また、図9下段のデータのうち、可逆性試験前のデータが「00000008」の識別番号を与えられたデータである。また、図9下段のデータのうち、可逆性試験後のデータが「00000009」の識別番号を与えられたデータである。「00000006」の識別番号を与えられたデータ及び「00000008」の識別番号を与えられたデータは、未試験データ215aとして扱われる。「00000007」の識別番号を与えられたデータは、喘息データ214の試験済みデータ214aとして扱われる。「00000009」の識別番号を与えられたデータは、COPDデータ213の試験済みデータ213aとして扱われる。
【0059】
図9を参照した説明に基づいて、演算部22は、追加データADが、試験済みデータ214aと対応付けられた未試験データ215aに類似するか判定するようにしてもよい。この類似判定は、例えば、未試験データ215aのうち、試験済みデータ214aと対応付けられたものと当該追加データADとの相関と、未試験データ215aのうち、試験済みデータ213aと対応付けられたものと当該追加データADとの相関と、の相対的高低に基づいて行われる。この類似判定を行った結果、追加データADが試験済みデータ214aと対応付けられた未試験データ215aに類似すると判定された場合、演算部22は、3Dグラフを含む表示を行うとともに、可逆性試験を促す通知を当該表示に含ませるようにしてもよい。これによって、可逆性試験を実施する妥当性に関する情報の提供が可能になる。従って、判断を支援する情報処理が可能である。これにより、被験者にとって負担の大きい可逆性試験をしなくてもよい被験者を増やすことができる。
【0060】
図10は、演算部22による処理の流れの一例を示すフローチャートである。特筆しない限り、図10に示す処理は、判定プログラム230を実行中の演算部22による処理である。測定部10を用いて新たに測定された追加データADが測定部10からデータ管理部20に出力された場合、演算部22は、当該追加データADを取得し(ステップS1)、呼吸抵抗値と周波数と時間の関係を求める。また、演算部22は、ステップS1の追加データADに関して呼吸抵抗測定装置1のユーザによって入力された、可逆性試験の有無、可逆性試験が行われた場合の前後関係を示す付加データを取得する(ステップS2)。ステップS1の処理とステップS2の処理は順不同である。
【0061】
演算部22は、ステップS2の処理で得た付加データに基づいて、ステップS1の処理で得た追加データADが試験済みデータ(試験済みデータ214a又は試験済みデータ213aと判定されることになるデータ)に該当するか判定する(ステップS3)。具体的には、演算部22は、付加データの試験後に「丸(○)」が設定されたか判定する。以下、ステップS3の処理で該当しないと判定された場合(ステップS3;No)について先に説明する。
【0062】
演算部22は、ステップS1の処理で得た追加データADの呼吸抵抗値と周波数と時間の関係が、第1データ211に該当すると判定可能な相関を過去の第1データ211に対して有しているか判定する(ステップS4)。係る相関を有していると判定された場合(ステップS4;Yes)、演算部22は、当該追加データADを第1データ211に追加し(ステップS5)、当該追加データADの診断結果を「正常」とする付加データを与える。また、演算部22は、表示プログラム220を実行して当該追加データADに基づいた表示を行う(ステップS6)。ステップS6の処理後、当該追加データADに関する処理は終了する。
【0063】
ステップS4の処理で、第1データ211に該当すると判定可能な相関を過去の第1データ211に対して有していないと判定された場合(ステップS4;No)、演算部22は、ステップS1の処理で得た追加データADの呼吸抵抗値と周波数と時間の関係が、NGデータ216に該当すると判定可能な相関を過去のNGデータ216に対して有しているか判定する(ステップS7)。係る相関を有していると判定された場合(ステップS7;Yes)、演算部22は、NGデータ216の種類を判定し(ステップS8)、当該追加データADをNGデータ216のうち該当する種類のデータに追加し(ステップS9)、当該追加データADの診断結果を「NG」とする付加データを与える。その後、ステップS6の処理に移行する。なお、ステップS8の処理及びステップS9の処理におけるNGデータ216の種類については後述する。
【0064】
ステップS7の処理で、NGデータ216に該当すると判定可能な相関を過去の第1データ211に対して有していないと判定された場合(ステップS7;No)、演算部22は、ステップS1の処理で得た追加データADの呼吸抵抗値と周波数と時間の関係が、判別困難データ215に該当すると判定可能な相関を過去の判別困難データ215に対して有しているか判定する(ステップS10)。係る相関を有していないと判定された場合(ステップS10;No)、演算部22は、当該追加データADがCOPDデータ213又は喘息データ214のいずれであるかを判定する。図10では、ステップS11の処理として、演算部22は、当該追加データADが喘息データ214に該当すると判定可能な相関を過去の喘息データ214に対して有しているか判定している。ステップS11の処理は、当該追加データADがCOPDデータ213に該当すると判定可能な相関を過去のCOPDデータ213に対して有しているか演算部22が判定する処理であってもよい。
【0065】
ステップS1の処理で得た追加データADが喘息データ214に該当すると判定可能な相関を過去の喘息データ214に対して有していると判定された場合(ステップS11;Yes)、演算部22は、当該追加データADを喘息データ214に追加し(ステップS12)、当該追加データADの診断結果を「喘息」とする付加データを与える。一方、そうでない場合(ステップS11;No)、すなわち、当該追加データADがCOPDデータ213に該当すると判定可能な相関を過去のCOPDデータ213に対して有していると判定された場合、演算部22は、当該追加データADをCOPDデータ213に追加し(ステップS13)、当該追加データADの診断結果を「COPD」とする付加データを与える。ステップS12又はステップS13の処理後、ステップS6の処理に移行する。
【0066】
ステップS10の処理で、判別困難データ215に該当すると判定可能な相関を過去の判別困難データ215に対して有していると判定された場合(ステップS10;Yes)、演算部22は、当該追加データADを判別困難データ215に追加し(ステップS14)、当該追加データADの診断結果を「不明」とする付加データを与える。演算部22は、当該追加データADが、喘息を罹患している被験者のデータであると判定された試験済みデータ(試験済みデータ214a)と対応付けられた未試験データ215aに類似するか判定する(ステップS15)。
【0067】
ステップS1の処理で得た追加データADが試験済みデータ214aと対応付けられた未試験データ215aに類似すると判定された場合(ステップS15;Yes)、演算部22は、表示プログラム220を実行して当該追加データADに基づいた表示を行うとともに、可逆性試験を促す通知を当該表示に含ませる(ステップS16)。ステップS16の処理後、当該追加データADに関する処理は終了する。一方、当該追加データADが試験済みデータ214aと対応付けられた未試験データ215aに類似しないと判定された場合(ステップS15;No)、ステップS6の処理に移行する。
【0068】
次に、ステップS3の処理で、追加データADが試験済みデータ(試験済みデータ214a又は試験済みデータ213aと判定されることになるデータ)に該当すると判定された場合(ステップS3;Yes)について説明する。演算部22は、ステップS2の処理で与えられた付加データによって対応付けられた未試験データ215aを取得する(ステップS17)。演算部22は、当該未試験データ215aの呼吸抵抗値に比して当該追加データADの呼吸抵抗値が有意に下がっているか判定する(ステップS18)。下がっていると判定された場合(ステップS18;Yes)、ステップS12の処理に移行する。ただし、この場合、ステップS12の処理において、演算部22は、当該追加データADを喘息データ214の試験済みデータ214aに追加する。一方、ステップS18の処理で、当該未試験データ215aの呼吸抵抗値に比して当該追加データADの呼吸抵抗値が有意に下がっていないと判定された場合(ステップS18;No)、ステップS13の処理に移行する。なお、この場合、ステップS13の処理において、演算部22は、当該追加データADをCOPDデータ213の試験済みデータ213aに追加する。
【0069】
ステップS18の処理で「有意に下がる」と判定される呼吸抵抗値の下落の度合いを判定するための閾値は、過去の試験済みデータ214aの呼吸抵抗値と、過去の試験済みデータ214aと対応付けられている未試験データ215aの呼吸抵抗値との差に基づいた値(例えば、差の平均値)であってもよいし、予め定められて記憶部21に記憶されている閾値であってもよい。なお、喘息とCOPDが合併したACO(Asthma and Copd Overlap)を罹患している被験者の場合、COPDと合併していない喘息を罹患している被験者に比して、可逆性試験による呼吸抵抗値の下がり度合いが小さくなる傾向がある。ステップS18等、喘息とCOPDとの判別に係る処理は、ACOのような症例を考慮した処理に置換されてもよい。例えば、COPDを合併していない喘息と、喘息を合併していないCOPDと、ACOと、が区別された第2データ212に基づいた判定処理を行うようにしてもよい。
【0070】
以上説明したように、実施形態の測定データ210は、呼吸抵抗測定装置1の利用方法が不適切な場合の測定結果を示すNGデータ216を含む。実施形態の演算部22は、過去のデータとして予め測定データ210に含まれる第1データ211及び第2データ212に基づいて、追加データADが第1データ211又は第2データ212のいずれであるか判定する制御部として機能する。また、実施形態の演算部22は、追加データADが第2データ212に該当すると判定された場合、NGデータ216に該当するかさらに判定する。
【0071】
このような実施形態によれば、追加データADの異常の原因が呼吸抵抗測定装置1の利用方法が不適切であることによるかが示唆される。従って、判断を支援する情報処理が可能である。
【0072】
また、実施形態の測定データ210は、可逆性試験を経た再度の測定結果に基づいて喘息と判定された試験済みデータ214aを含む。また実施形態の判別困難データ215は、未試験データ215aを含む。試験済みデータ214aと未試験データ215aとは対応付けられる。実施形態の演算部22は、追加データADと未試験データ215aとの照合結果に基づいて、追加データADが測定された被験者に対する可逆性試験の実施の妥当性をさらに判定する。
【0073】
これによって、可逆性試験を行うことで喘息と判定する診断の確度がより高められる。従って、判断を支援する情報処理が可能である。
【0074】
次に、図10のステップS8の処理及びステップS9の処理におけるNGデータ216の種類について、図11から図19を参照して説明する。
【0075】
図11は、測定中に咳をした被験者の呼吸抵抗値の波形の一例を示す3Dグラフである。被験者が咳をした場合、図11の下落部L1,L2で例示するように、呼気に極端な呼吸抵抗値の低下が現れる。図11に示すような3Dグラフが表示されることになる呼吸抵抗値と周波数と時間の関係が求められるデータは、第1NGデータ216aとして扱われる。
【0076】
図12は、不適切な姿勢で測定を行った被験者の呼吸抵抗値の波形の一例を示す3Dグラフである。測定部10を用いた測定で想定されている正しい姿勢に比して、被験者が測定中に顎を引き過ぎる不適切な姿勢を取った場合、図12で例示するように、第1データ211に比して全体的に呼吸抵抗値が上がる。特に、吸気の呼吸抵抗値に比して、呼気の呼吸抵抗値の上昇がより顕著に現れる。
【0077】
図13及び図14は、不適切な姿勢で測定を行った被験者の呼吸抵抗値の波形の他の一例を示す3Dグラフである。上述の正しい姿勢に比して、被験者が猫背になる不適切な姿勢を取った場合、図13及び図14で例示するように、顎を引き過ぎる場合に比してさらに呼吸抵抗値が上がる。特に、吸気の呼吸抵抗値に比して、呼気の呼吸抵抗値の上昇がより顕著に現れる。ただし、COPDデータ213及び喘息データ214と異なり、呼吸抵抗値の上昇が姿勢に依存しているため、呼吸抵抗値の上昇の度合いが不安定である。図12図13及び図14に示すような3Dグラフが表示されることになる呼吸抵抗値と周波数と時間の関係が求められるデータは、第2NGデータ216bとして扱われる。
【0078】
図15は、測定中に舌を動かした被験者の呼吸抵抗値の波形の一例を示す3Dグラフである。被験者が舌を動かした場合、図15の上昇部H1で例示するように、極端な呼吸抵抗値の上昇が現れる。当該上昇は、呼気中か吸気中かに関わらず、舌の動きに依存する。図15に示すような3Dグラフが表示されることになる呼吸抵抗値と周波数と時間の関係が求められるデータは、第3NGデータ216cとして扱われる。
【0079】
図16は、測定中に嚥下した被験者の呼吸抵抗値の波形の一例を示す3Dグラフである。被験者が嚥下した場合、図16の上昇部H2で例示するように、上述の上昇部H1よりもさらに極端な呼吸抵抗値の上昇が現れる。1回嚥下する毎に、1回の呼吸期間(各1回の呼気+吸気の期間)に比して、数分の1~3分の1程度の期間に相当する上昇部H2が現れる傾向がある。一般的に、1回の呼吸期間は2~3[秒]程度であるのに対し、1回の嚥下期間は数百ミリ[秒]~1[秒]程度である。図16に示すような3Dグラフが表示されることになる呼吸抵抗値と周波数と時間の関係が求められるデータは、第4NGデータ216dとして扱われる。
【0080】
図17は、測定中に吸気に息漏れが生じた被験者の呼吸抵抗値の波形の一例を示す3Dグラフである。測定中に吸気に息漏れが生じると、呼気に比して、流量計測部12及び圧力計測部13が検知する吸気の信号強度が呼気の信号強度に比して小さくなる。このため、図17で例示するように、呼気の呼吸抵抗値に比して吸気の呼吸抵抗値が下がる。
【0081】
図18は、測定中に呼気に息漏れが生じた被験者の呼吸抵抗値の波形の一例を示す3Dグラフである。測定中に呼気に息漏れが生じると、吸気に比して、流量計測部12及び圧力計測部13が検知する呼気の信号強度が吸気の信号強度に比して小さくなる。このため、図18で例示するように、吸気の呼吸抵抗値に比して呼気の呼吸抵抗値が下がる。
【0082】
図19は、測定中に呼気及び吸気に息漏れが生じた被験者の呼吸抵抗値の波形の一例を示す3Dグラフである。測定中に呼気及び吸気に息漏れが生じると、図19で例示するように、測定結果として不適切なレベルまで呼吸抵抗値が全体的に下がる。測定結果として適切か不適切かを判定するための呼吸抵抗値の基準値は、過去の第1データ211の呼吸抵抗値に基づいた値であってもよいし、予め定められて記憶部21に記憶されている基準値であってもよい。図17図18及び図19に示すような3Dグラフが表示されることになる呼吸抵抗値と周波数と時間の関係が求められるデータは、第5NGデータ216eとして扱われる。
【0083】
図11から図19を参照して説明したように、実施形態のNGデータ216は、第1NGデータ216a、第2NGデータ216b、第3NGデータ216c、第4NGデータ216d及び第5NGデータ216eを含む。追加データADがNGデータ216に該当すると判定された場合、図10に示すステップS8の処理において、実施形態の演算部22は、第1NGデータ216a、第2NGデータ216b、第3NGデータ216c、第4NGデータ216d及び第5NGデータ216eのうち追加データADが該当するものをさらに判定する。この判定に基づいて、図10に示すステップS9の処理において、実施形態の演算部22は、追加データADをNGデータ216のうち該当する種類のデータに追加する。
【0084】
これによって、追加データADの異常の原因が認識されやすくなる。従って、判断を支援する情報処理が可能である。なお、NGデータ216の種類は、図11から図19を参照した説明で例示したものに限られない。また、表示プログラム220を実行中の演算部22は、NGと判定された根拠を示す情報の表示をさらに行ってもよい。
【0085】
図20は、NGと判定された根拠を示す情報を含む表示部23の表示態様の一例を示す図である。図20に示す表示態様では、3DグラフGと、3DグラフGの読み方に関する情報を提供する情報提供部Pと、3DグラフGが示す呼吸抵抗値のうちNGデータ216と判定される根拠になった呼吸抵抗値の範囲を示す強調表示部Eとを含む。図20の例では、3DグラフGが図14の3Dグラフと同様のグラフである場合を例示している。従って、強調表示部Eは、不適切な姿勢によって顕著に上がった呼吸抵抗値を示す範囲を示すように表示されている。強調表示部Eの表示位置及び大きさは、NGデータ216の種類及びNGとされた原因に応じて適宜変更される。
【0086】
なお、図20の情報提供部Pにおける「Rrs」は、呼吸抵抗値の高低と3Dグラフのパターンとの対応関係に関する情報を提供している。図20及び上述の図3等ではドットパターンの濃淡で3Dグラフにおける呼吸抵抗値の高低を表現しているが、実際には、カラー表示可能な表示部23を用いた多色表現が行われる。また、図20及び上述の図3等でハッチングの有無によって表現されている呼気と吸気との区別についても、実際には色の差によって表現される。
【0087】
また、図20及び上述の図3等では図示を省略しているが、呼吸抵抗測定装置1は、呼吸抵抗値と周波数と時間の関係だけでなく、流量計測部12及び圧力計測部13からのデータに基づいて求められたリアクタンス値と周波数と時間の関係を示す3Dグラフも表示可能である。図20の情報提供部Pにおける「Xrs」は、リアクタンス値の高低と3Dグラフのパターンとの対応関係に関する情報を提供している。
【0088】
なお、可逆性試験が行われた場合、表示部23の表示内容に可逆性試験前後のデータを並列表示するようにしてもよい。その場合、例えば、図6に示すような3Dグラフと図7に示すような3Dグラフとが並列表示される。これによって、可逆性試験の効果をより分かりやすく示すことができる。また、並列表示の場合、図6及び図7の3Dグラフと他の3Dグラフとの時間軸方向の幅の差で例示するように、表示部23の表示領域内で並列可能な幅になるよう3Dグラフのレイアウトを変更するようにしてもよい。
【0089】
また、判定プログラム230の実行によって記憶部21がデータの種別(診断結果)の判定を行った追加データADに対して、呼吸抵抗測定装置1のユーザが入力部24を用いた入力によって診断結果を更新した場合、当該追加データADは、更新された診断結果に対応するデータとして扱われるようにしてもよい。これによって、万が一、演算部22の判定結果に誤りが生じたとしても、事後に訂正できる。また、この訂正によって、以後の演算部22による判定の確度をより高めることができる。
【0090】
また、追加データADと第1データ211との相関及び追加データADと第2データ212との相関の判定は、少なくとも一方でよい。追加データADと第1データ211との相関が高いということは、追加データADと第2データ212との相関が低いことを示唆する。また、追加データADと第2データ212との相関が高いということは、追加データADと第1データ211との相関が低いことを示唆する。このように、一方の相関は、他方の相関を逆説的に示唆する。
【0091】
また、図1を参照して説明した実施形態の構成では、データ管理部20が呼吸抵抗測定装置1に含まれているが、データ管理部20の構成は、測定部10を備える呼吸抵抗測定装置と別体の情報処理装置に含まれていてもよい。この場合、呼吸抵抗測定装置と情報処理装置は通信可能に接続される。情報処理装置のデータ管理部20は、測定部10を備える呼吸抵抗測定装置から出力される追加データADを取得し、予め記憶されている測定データ210を参照した判定を行う。呼吸抵抗測定装置は、表示部23と同様の表示装置を備え、情報処理装置の判定結果に基づいた表示出力(図20参照)を行う。
【0092】
さらに、実施形態の呼吸抵抗測定装置1は、所謂機械学習によって追加データADの判定精度をより高められる。例えば、所謂ニューラルネットワークにおける入力を追加データADとし、出力を追加データADの判定結果とし、教師データを測定データ210に含まれる各種のデータとする。ここで、判定プログラム230を実行中の演算部22は、当該ニューラルネットワークを生成して入力と出力との間に介在し、上述の処理(特に、図10参照)を行って入力から出力を導出するための重み付けを行う隠れ層として機能する。当該隠れ層としての演算部22は、追加データADが示す呼気及び吸気の各々の呼吸抵抗値の最高値、最低値、一連の呼吸における増減パターンその他の特徴に基づいて追加データADに基づいた重み付けの度合いを示す値を出力することで、追加データADの判定結果を決定する。
【0093】
より具体的には、例えば追加データADが第1データ211である可能性が高い場合に高い値を出力するニューロンと、追加データADがCOPDデータ213であるである可能性が高い場合に高い値を出力するニューロンと、追加データADが喘息データ214であるである可能性が高い場合に高い値を出力するニューロンと、…のように、測定データ210に含まれるデータの種類の各々に対応したニューロンとして演算部22が機能する判定プログラム230が採用される。これによって、実施形態では、機械学習による追加データADの判定を行うことができる。すなわち、判定プログラム230は、機械学習プログラムとして機能する。また、判定プログラム230を実行中の演算部22を含む構成は、所謂機械学習システムとして機能する。
【0094】
さらに、呼吸抵抗値の最高値及び最低値に基づいた重み付けを行うためのニューロンと、呼吸抵抗値の増減に基づいた重み付けを行うためのニューロンと、被験者の身長・体重等の身体的特徴との関係に基づいた重み付けを行うためのニューロンと、…のように、入力と出力との間に介在する隠れ層を構成するニューロンを階層化するアルゴリズムを含む判定プログラム230が採用されることで、より高い精度が望める。これらをさらに発展させて所謂ディープラーニングによる追加データADの判定を行うようにしてもよい。
【0095】
上述の実施形態における判定結果に従って追加データADが測定データ210に含まれるいずれかのデータに分類されると、その後、当該追加データADを含む測定データ210が教師データとして機能する。すなわち、追加データADが生じる程、測定データ210がより多様なデータを含み、かつ、正しい判定結果を得るための「学習後の教師データ」として機能する。ここで、万が一、判定結果に誤りがあったとしても、例えば入力部24を介した手動入力によってユーザが当該誤りを訂正して正しい判定結果を設定することで、演算部22は、判定プログラム230による隠れ層の重み付けを訂正する機会を得ることができる。すなわち、実施形態では、必要に応じてユーザが教師データをより正確なデータにすることができる。これによって、判定プログラム230を実行中の演算部22は、より正解に近い判定結果を得られる重み付けに基づいて追加データADの判定結果を導出することができる。このような教師データと出力とのすりあわせの機会が生じ得ることを考慮し、判定プログラム230は更新可能に設けられることが望ましい。
【符号の説明】
【0096】
1 呼吸抵抗測定装置
10 測定部
20 データ管理部
21 記憶部
22 演算部
23 表示部
24 入力部
210 測定データ
211 第1データ
212 第2データ
213 COPDデータ
214 喘息データ
214a 試験済みデータ
215 判別困難データ
215a 未試験データ
216 NGデータ
216a 第1NGデータ
216b 第2NGデータ
216c 第3NGデータ
216d 第4NGデータ
216e 第5NGデータ
AD 追加データ
図1
図2
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