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特許7054246リグニンおよび/またはセルロースのグラフト共重合体を調製する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-05
(45)【発行日】2022-04-13
(54)【発明の名称】リグニンおよび/またはセルロースのグラフト共重合体を調製する方法
(51)【国際特許分類】
   D21C 3/00 20060101AFI20220406BHJP
   C08F 251/02 20060101ALI20220406BHJP
【FI】
D21C3/00 Z
C08F251/02
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019510774
(86)(22)【出願日】2017-08-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-09-19
(86)【国際出願番号】 SE2017050853
(87)【国際公開番号】W WO2018038672
(87)【国際公開日】2018-03-01
【審査請求日】2020-08-12
(31)【優先権主張番号】1651139-6
(32)【優先日】2016-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】519057494
【氏名又は名称】バイオファイバー テック スウェーデン エイビイ
【氏名又は名称原語表記】BIOFIBER TECH SWEDEN AB
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】特許業務法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チャン,エリック イージン
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-086145(JP,A)
【文献】米国特許第04376852(US,A)
【文献】特開2009-154326(JP,A)
【文献】特開昭50-119091(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21C 3/00
C08F 251/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグニンおよび/またはセルロースのグラフト共重合体を調製する方法であって、
当該方法は、次の工程、即ち、
木材チップおよびパルプからなる群より選択されるリグニンおよび/またはセルロース含有材料を、酸素濃度が空気中の酸素濃度と比較して少なくとも50%減少している酸素低減環境中で、レドックス開始剤にさらす工程と、
前記リグニンおよび/またはセルロース含有材料を、研削、摩砕および/またはリファイニングによる機械的衝撃にさらす工程と、
機械的衝撃にさらす前、さらしている最中、および/または、さらした直後に、前記リグニンおよび/またはセルロース含有材料をモノマーおよび/またはポリマーにさらす工程と、
を含んでおり、
ここで、前記リグニンおよび/またはセルロース含有材料が、前処理工程中、一次リファイニング工程中、および/または二次リファイニング工程中に、モノマーおよび/またはポリマーにさらされ、
前記リグニンおよび/またはセルロース含有材料のリグニンおよび/またはセルロースの骨格への機械的衝撃によってマクロラジカルがその場で生成され、そして、
前記モノマーおよび/またはポリマーが前記リグニンおよび/またはセルロースの骨格にグラフトされる、ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記木材チップは、木材、竹、わら、バガス、ケナフ、ラミー、麻、ジュート、サイザル麻、アブラヤシ由来の空の果実枝、および綿、並びに、それらの任意の組み合わせからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記パルプは、機械パルプ、半機械パルプ、硫酸塩化学パルプ、亜硫酸塩パルプ、溶解パルプ、セルロースおよびセルロース誘導体、並びに、それらの任意の組み合わせからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記酸素低減環境の酸素濃度が、空気中の酸素濃度と比較して、少なくとも75%、または少なくとも80%、または少なくとも85%、または少なくとも90%、または少なくとも96%、または少なくとも97%、または少なくとも98%、または少なくとも99%減少している、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記リグニンおよび/またはセルロース含有材料は化学的に前処理されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記レドックス開始剤は、過酸化水素、過酢酸、過ヨウ素酸カリウム、過炭酸ナトリウム、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記レドックス開始剤は過酸化水素である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記リグニンおよび/またはセルロース含有材料が、絶乾木材に基づき1~10重量%濃度の過酸化水素にさらされる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
pH調整剤更に含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記モノマーおよび/またはポリマーが少なくとも1つの二重結合または三重結合を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記モノマーは、スチレン、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、メチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記ポリマーが、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、ポリブタジエン、ポリスチレンブタジエン、ポリ(スチレン-コ-ブチルアクリレート)、ポリ(酢酸ビニル-コ-エチレン)、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記モノマーおよび/またはポリマーが、絶乾木材に基づき5~30重量%範囲の量で前記リグニンおよび/またはセルロース含有材料に添加される、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記リグニンおよび/またはセルロース含有材料が、前処理工程中に、モノマーおよび/またはポリマーにさらされる、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記リグニンおよび/またはセルロース含有材料が、一次リファイニング工程中に、モノマーおよび/またはポリマーにさらされる、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記リグニンおよび/またはセルロース含有材料が、二次リファイニング工程中に、モノマーおよび/またはポリマーにさらされる、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグニンおよび/またはセルロース含有材料中のリグニンおよび/またはセルロースの骨格への機械的衝撃によってインサイチュで(in situ、その場で)マクロラジカルを生成し、モノマーおよび/またはポリマーを骨格にグラフトすることを含む、リグニンおよび/またはセルロースのグラフト共重合体を調製(製造)する方法に関する。更に、本発明は、この方法によって得られるグラフト共重合体、グラフト共重合体を含む複合材料およびそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
リグノセルロース繊維は親水性であり、したがって湿気にさらされると機械的性質の損失を極めて受けやすい。これは、紙および厚紙を高度の安定性および機械的強度を必要とする用途には適さないものにするので、不利である。
【0003】
紙および厚紙は、リグノセルロース材料中の繊維が1つ以上のリファイナ(refiner、叩解機)中で機械的手段によって構成繊維に還元されているパルプである機械パルプから製造することができる。従来の機械パルプ化は、研磨作用によって木材を研削する回転石に対して木材を押しつけることを含む(石砕木)。機械パルプの製造は、リグニン含有量の除去をほとんどもたらさず、その結果、有意の量のリグニンを除去する他のパルプ化方法ほど高品質ではない紙および厚紙を生産する。
【0004】
木材は、セルロース、ヘミセルロースおよびリグニンからなる。リグニンは、木質繊維を互いに接着する接着剤である。パルプ化工程は、木材チップを木質繊維にするための繊維分離工程である。主に2種類のパルプ化工程およびパルプが存在する。機械パルプ化では、木質繊維は主に機械的粉砕すなわちリファイニング(refining、叩解)によって分離される。その結果である機械パルプはリグニンを含有する。化学パルプ化では、木質繊維は、化学パルプを製造するために、硫酸塩または亜硫酸塩蒸解のような化学工程を通して分離される。化学的蒸解工程は、木質繊維を分離させるためにリグニンを除去する。
【0005】
機械パルプ化工程の例には、リファイナメカニカルパルプ(RMP)、サーモメカニカルパルプ製造工程(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ製造工程(CTMP)およびアルカリ性過酸化物メカニカルパルプ製造工程(APMP)が含まれる。サーモメカニカルパルプ製造工程の間、木材チップはリファイナに入る前に温かい蒸気による熱処理を受ける。ケミサーモメカニカルパルプ製造工程の大部分は、サーモメカニカルパルプ製造工程と同様である。主な違いは、リグノセルロース材料、通常は木材チップを、一般的に使用される亜硫酸ナトリウムまたは過酸化水素などのある種の1つ以上の化学薬品で、例えば特定の温度で特定の期間にわたって前処理することにある。過酸化水素前処理の場合、この工程はアルカリ性過酸化物機械パルプ化工程(APMP)とも呼ばれる。
【0006】
木材などのリグノセルロース材料は、これらの方法における出発材料として使用することができる。木材は通常、パルプ製造工程において最初に不定数のチップに細断され、続いてそれらはさらなる機械的処理に供される。
【0007】
繊維を解繊するために任意の公知の1つ以上のリファイナを使用することができる。大部分のリファイナは、処理される材料がその間を通過する2枚のリファイニングディスクを含む。通常、一方のディスクは静止したままであり、他方のディスクは高速で回転する。別の種類のリファイナでは、2枚のリファイニングディスクは逆回転する。第3のタイプのリファイナは、中央に配置されたロータがその両側に取り付けられたリファイニングディスクを有する、4枚のリファイニングディスクを含む。
【0008】
機械パルプ製造工程から得られる繊維は機械繊維と称され、通常、新聞用紙、雑誌または他の種類の刊行紙において、および充填材料として包装において使用される。
【0009】
機械繊維の新たな用途を見出すためには、繊維に新たな官能性(機能性)を付加することが望ましい。そのような望ましい官能性(機能性)の例には、例えば疎水性、弾性、三次元成形性および難燃性が含まれる。
【0010】
プラスチック複合材料における機械パルプ繊維の適用が研究されてきたが、それらの適用は親水性リグノセルロース材料と疎水性プラスチックポリマーとの相互作用が乏しいために大きく制限されている。
【0011】
特許文献1は、無酸素環境下で、ジメチルスルホキシド(DMSO)および過酸化水素などの有機溶媒を使用してリグニンにアルケンまたはアルキンモノマーをグラフトする方法を開示しており、この無酸素環境は、反応媒体にNを通すことによって得られる。特許文献2は、機械パルプ繊維に適用されるが、水性無酸素媒体中の同様の反応系を開示する。しかしながら、これらの反応系は工業的規模のパルプおよび製紙工程において実施するのが困難である。パルプ繊維水懸濁液に可溶性の酸素空気が常に存在するので、パルプおよび製紙工業工程において懸濁液を窒素ガスでパージすることは実際上実行可能ではない。
【0012】
したがって、工業的規模で効率的に適用することができる新しい官能基をリグニンおよび/またはセルロース含有材料にグラフトするための方法が当技術分野において継続的に必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】米国特許第5741875号明細書
【文献】米国特許第8679292号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
先行技術の制限および不利な点を克服する、または少なくとも軽減する、リグニンおよび/またはセルロースのグラフト共重合体を調製するための方法を提供することが本開示の1つの目的である。
【0015】
機械パルプ製造工程に組み入れることができる、リグニンおよび/またはセルロースのグラフト共重合体を調製するための方法を提供することが本開示の別の目的である。
【0016】
疎水性、弾性、三次元成形性および/または難燃性などの望ましい特性を有する、リグニンおよび/またはセルロースのグラフト共重合体を提供することが本開示の更に別の目的である。
【0017】
本開示の他の目的は、このグラフト共重合体を含む複合材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
したがって、本開示の第1の態様では、リグニンおよび/またはセルロースのグラフト共重合体を調製する方法が提供され、当該方法は、以下の工程:
・酸素低減環境中でリグニンおよび/またはセルロース含有材料を木材チップおよび/または解繊木材チップの形態でレドックス開始剤に供する工程、
・リグニンおよび/またはセルロース材料を機械的衝撃にさらす工程、並びに
・機械的衝撃にさらされる前、その最中および/または直後に、リグニンおよび/またはセルロース含有材料をモノマーおよび/またはポリマーに供する工程
を含み、
ここで、リグニンおよび/またはセルロース含有材料のリグニンおよび/またはセルロースの骨格への機械的衝撃によってマクロラジカルがインサイチュで(その場で)生成され、ならびに、ここで、モノマーおよび/またはポリマーがリグニンおよび/またはセルロースの骨格にグラフトされる。
【0019】
本明細書に開示される方法は、
(i)1つ以上のモノマーおよび/またはポリマー、並びに
(ii)リグニンおよび/またはセルロース
を含み、ここで、1つ以上のモノマーおよび/またはポリマーはリグニンおよび/またはセルロースにグラフトされている、
共重合体を調製するための方法であり得る。
【0020】
したがって、
(i)1つ以上のモノマーおよび/またはポリマー、並びに
(ii)リグニンおよび/またはセルロース
を含み、ここで、1つ以上のモノマーおよび/またはポリマーはリグニンおよび/またはセルロースにグラフトされている、
共重合体を調製するための方法が提供され、ここで、当該方法は、以下の工程:
- 酸素低減環境中でリグニンおよび/またはセルロース含有材料を木材チップおよび/または解繊木材チップの形態でレドックス開始剤に供する工程、
- リグニンおよび/またはセルロース材料を機械的衝撃にさらす工程、並びに
- 機械的衝撃にさらされる前、その最中および/または直後に、リグニンおよび/またはセルロース含有材料をモノマーおよび/またはポリマーに供する工程、
を含む。
【0021】
本開示は、合成または天然のモノマーおよび/またはポリマーを含有する任意の炭素-炭素二重結合または三重結合をグラフト重合することによって、リグニンおよび/またはセルロース含有材料に新しい官能性(機能性)を組み込むための新規の化学機械的方法を提供する。この方法は、木材チップおよび/または解繊木材チップのメカニカルリファイニングに基づいており、それにより、リグニンおよび/またはセルロースの骨格への機械的衝撃によってリグニンラジカルおよび/またはセルロースラジカルがインサイチュで(その場で)生成される。次いで、リグニンおよび/またはセルロースの骨格上のラジカルは、過酸化水素または他の過酸化物系酸化剤などのレドックス開始剤によって開始されるラジカルグラフト反応を介して、添加されたモノマーおよび/またはポリマーと反応することができる。
【0022】
本明細書に開示されている方法の上述の工程は任意の順序で実行されてもよいことが理解されよう。例えば、リグニンおよび/またはセルロース含有材料は、機械的衝撃の前、その最中または後にモノマーおよび/またはポリマーに供され得る。
【0023】
明確にするために、グラフト化は、添加されたモノマーとリグニンおよび/またはセルロース骨格との間に起こり得る。骨格にグラフトされたモノマーは、それ自体ラジカル反応によって重合して、骨格に結合したそれ自身の繰り返し単位のポリマーを形成することができる。グラフト化は、添加されたポリマーとリグニンおよび/またはセルロース骨格との間にも起こり得る。
【0024】
重要なことに、本発明の方法では、リグニンおよび/またはセルロース含有材料は、機械的衝撃にさらされる前、その最中および/または直後にモノマーおよび/またはポリマーに供される。
【0025】
グラフト化工程の収率および効率は、リグニンおよび/またはセルロースの骨格上へのラジカルの生成がどの程度成功し、それによってマクロラジカルが形成されるかに本質的に依存する。
【0026】
木材は、木や他の木質植物の幹や根に見られる多孔質の繊維状構造組織である。それは有機材料であり、圧縮に抵抗するリグニンのマトリックスに埋め込まれたセルロース繊維(これは張力が強い)の天然複合物である。
【0027】
本明細書で使用されるとき、用語「マクロラジカル」は、その骨格上の異なる部位にラジカルが生成されているリグニンおよび/またはセルロースそれ自体を指す。これらの部位は、リグニン分子中の潜在的なラジカル発生官能基および/またはリグノセルロース材料中のセルロースのカルビノール基のヒドロキシル基もしくは炭素原子であり得る。マクロラジカルが形成されると、グラフト重合が起こる、すなわちマクロラジカルがそれらの近傍の所望のモノマーおよび/またはポリマーと反応する。
【0028】
本明細書で使用される場合、「グラフト化」という用語は、官能基がポリマーに付与される共重合の工程を指す。グラフト共重合は、例えば化学処理によって開始され得る。
【0029】
本明細書で使用される場合、「グラフト共重合体」という用語は、側鎖の成分が主鎖の成分と構造的に異なる分岐コポリマーである。
【0030】
モノマーおよび/またはポリマーと少なくとも1つのレドックス開始剤とが1つ以上の木材チップ前処理段階の間、1つ以上のリファイニング段階の間、またはリファイニング直後に十分に混合されて、開始モノマーラジカルおよび/またはポリマーラジカルが、機械的衝撃によって生成された直後にリグニンおよび/またはセルロースラジカル(マクロラジカル)と反応するのに利用可能であることを確実にすることは有益である。
【0031】
本発明の方法で使用される材料は、リファイニングに供されるもしくは供された木材チップなどの、木材チップおよび/または解繊木材チップであり得る。解繊木材チップは、その後のリファイニングを容易にするために部分的に開いた構造を有する、圧縮によって破壊された木材チップである。
【0032】
任意のリグノセルロース材料を出発材料として使用し得る。そのような材料の例は、木材、竹、わら、バガス(bagasse)、ケナフ、ラミー(ramie、「カラムシ」ともいう)、麻、ジュート、サイザル麻および綿である。したがって、一実施形態では、リグニンおよび/またはセルロース含有材料は、木材、竹、わら、バガス、ケナフ、ラミー、麻、ジュート、アブラヤシ由来の空の果実枝、サイザル麻および綿からなる群より選択される。木材が好ましい出発原料であり、軟材および硬材の両方が、別々にまたは組み合わせて有益に使用し得る。木材は通常、パルプ製造工程において最初に不定数のチップに細断される。本開示によれば、木材チップは植物チップ、例えばわらであり得る。
【0033】
一実施形態では、リグニンおよび/またはセルロース含有材料は硬材または軟材である。本明細書で使用される「硬材(または硬木材)」という用語は、落葉樹および広葉常緑樹からの木材を指す。硬材は、球果を有する種子植物である針葉樹に由来する軟材とは対照的である。硬材は必ずしも軟材より硬いとは限らず、バルサ材はその一例である。硬材の木は軟材よりも多様であり、軟材よりも約100倍多くの種類の硬材がある。硬材は通常広い葉を有する。硬材はすべて堅果または種子を封入しており、軟材は裸子植物、裸の種子植物である。硬材の非限定的な例としては、ハンの木、セイヨウトネリコ、アスペン、ブナノキ、カバノキ、ツゲの木、サクラの木、ハコヤナギ、ニレの木、ハックベリー、ヒッコリー、サトウカエデ、セイヨウトチノキ、オーク、サッサフラス、カエデ、オリーブの木、ポプラ、アメリカンチューリップツリー、クルミおよびヤナギが挙げられる。本明細書で使用される「軟材(または軟木材)」という用語は、裸子植物の木に由来する木材を指す。これらはほとんどの常緑樹を含む針葉樹である。軟材は世界の材木生産量の約80%を占める。当業者は、機械パルプ化のための出発材料に関連して硬材および軟材が何を意味するのかを理解している。
【0034】
1つの特定の実施形態では、リグニンおよび/またはセルロース含有材料は、機械パルプ、または半機械パルプなどのリグニン含有材料である。
【0035】
1つの特定の実施形態では、リグニンおよび/またはセルロース含有材料は、硫酸塩化学パルプ、亜硫酸塩パルプ、溶解パルプ、セルロースおよびセルロース誘導体などのセルロース含有材料である。
【0036】
本明細書で使用される場合、「木材チップ」という用語は、より大きな木材片を切断するまたは切削することによって作られた中サイズの固体材料を指す。木材チップは木材チッパーによって望ましいサイズに製造し得る。木材チップは、木材パルプを製造するための原料として使用し得る。
【0037】
本発明の方法で使用される木材チップは、サイズが実質的に均一で、樹皮がないものであり得る。最適なサイズは木材の種類によって異なる。木材チップへの損傷はパルプ特性にとって重要であるため、木材チップへの損傷を避けることが重要である。本発明の方法の一実施形態では、使用される木材チップまたは解繊木材チップは、5~30mmの範囲の長さ、3~25mmの範囲の厚さおよび3~25mmの範囲の幅を有する。別の例では、使用される木材チップまたは解繊木材チップは、10~20mmの範囲の長さ、5~15mmの範囲の厚さおよび5~15mmの範囲の幅を有する。しかしながら、木材チップはリファイニングディスクに入ることができる任意のチップサイズを有し得る。
【0038】
一実施形態では、木材チップまたは解繊木材チップは前処理され、例えば化学的に前処理される。前処理は、硬材からの抽出物などの不要な物質を除去する。前処理は、チップ洗浄、スチーミング、EDTAまたはDTPAなどのキレート剤、亜硫酸塩または過酸化水素、オゾン等による化学処理、ならびにプラグスクリューおよび/または他の形態の圧縮スクリューにおける圧縮機械処理を含み得る。さらに、前処理は、機械パルプ製造工程の要件および出発材料の特性に応じて1、2、3またはそれ以上の工程で実施し得る。
【0039】
1つの特定の実施形態では、解繊木材チップは、部分的に開いた構造を有する圧縮によって破壊された木材チップである。
【0040】
一実施形態では、酸素低減環境が酸素欠乏である方法が提供される。酸素はラジカルグラフト反応を停止させ得るラジカルスカベンジャーであるので、これは有利である。木材チップをプレスチーミングすることにより、木材チップ中に存在する空気が飽和蒸気によって枯渇する。さらにリファイナ自体において、高い蒸気圧と組み合わせたチップの圧縮もまた、リファイナ内に酸素欠乏環境をもたらす。
【0041】
本開示によれば、「酸素低減環境」とは、空気中に存在する酸素量と比較して酸素量が減少していることを意味する。
【0042】
本発明によれば、窒素パージは不要である。窒素パージは、工業規模のパルプおよび製紙工程では実施が困難である。さらに、窒素パージは費用がかかる。
【0043】
一実施形態では、酸素低減環境中の酸素濃度は、空気中の酸素濃度と比較して少なくとも50%、例えば少なくとも75%、例えば少なくとも80%、例えば少なくとも85%、例えば少なくとも90%、例えば少なくとも96%、例えば少なくとも97%、例えば少なくとも98%、または例えば少なくとも99%減少している。
【0044】
一実施形態では、約1%、例えば約2%、例えば約5%、例えば約10%、または例えば約15%の酸素が酸素低減環境中に存在する。
【0045】
一実施形態では、レドックス開始剤が、過酸化水素、過酢酸、2-ヒドロペルオキシ-1,4-ジオアイシクロヘキサン、3,3-ジメチル-1,2-ジオキシブタン、1-ヒドロペルオキシベンゼン、1-(2-ヒドロペルオキシプロピル)ベンゼン、ならびにペルオキシフタル酸マグネシウム、ペルオキシホウ酸ナトリウムおよび過炭酸ナトリウムなどの無水固体過酸化物、ならびに過ヨウ素酸塩系酸化剤からなる群より選択される方法を提供する。一例では、レドックス開始剤は過酸化物系レドックス開始剤である。1つの特定の実施形態では、レドックス開始剤はHである。過酸化水素は、パルプおよび製紙産業において一般的に使用される漂白剤であり、商業的に容易に入手可能である。
【0046】
いくつかの実施形態では、他のラジカル開始剤を使用し得る。例えば、硝酸セリウムアンモニウム、コバルト(III)アセチルアセトネート錯体、他のCu2+/IO4-対(例えば二過ヨウ素酸銅(III)カリウム等)を使用し得る。
【0047】
さらに他の実施形態では、共開始剤をレドックス開始剤と共に使用してもよい。共重合工程で使用される共開始剤は還元剤である。一例として、鉄(II)をこの目的に使用することができる。銅、マンガン、クロム、バナジウム、または開始剤との酸化還元反応を実施することができる他の任意のカチオンも同様に使用することができる。開始工程は、硫酸または硝酸などのラジカルに解離することができる酸を使用することによってスピードアップし得る。鉄は木材チップ中に存在することが多いので、鉄(II)のような共開始剤を工程に添加する必要はない可能性がある。
【0048】
いくつかの例では、木材種およびそれらの抽出物含有量、特に抽出物含有量の高い熱帯硬材種に応じて、有害な抽出物を洗い流すためにEDTA、DTPAまたは他の金属キレート剤を木材チップの前処理工程で添加してもよい。いくつかの場合には、ラジカルグラフト化反応を開始するために、第一鉄イオンなどのいくつかの遷移金属イオンを過酸化水素の添加の前またはそれと同時に添加する必要がある。
【0049】
本明細書に記載の方法は、水酸化ナトリウムなどのpH調整剤をさらに含み得る。pH調整剤はレドックス開始剤と共に提供されてもよい。リグニンおよび/またはセルロースマクロラジカルの形成は、中性のpH、例えば6~8の範囲内、例えば6~7の範囲内で有利に形成されると考えられる。pH調整剤は、絶乾木材に基づき、0.5~10重量%、例えば0.7~5重量%、例えば0.8~2重量%の範囲の量で添加し得る。pH調整剤は、リファイナ内のpHを6~8の範囲内、例えば6~7の範囲内、または約6.5などのpHにすることができる。
【0050】
本明細書で説明されるように、リグニンおよび/またはセルロースラジカル(「マクロラジカル」とも称される)は、本発明の方法における機械的衝撃下で生成される。機械的衝撃は、本発明のモノマーおよび/またはポリマーと反応し得るリグニンおよび/またはセルロースマクロラジカルの形成をもたらす、リグニンおよび/またはセルロース構造の両方の均等開裂によってマクロラジカルを生成すると考えられる。一実施形態では、機械的衝撃は、研削、摩砕および/またはリファイニングである。機械的衝撃はマクロラジカルを生成するのに十分でなければならない。機械的衝撃は、リファイニングモータにおける比電気エネルギー消費量によって定量化され得る。比エネルギー消費量を変化させることによって、機械的衝撃を変化させ得る。したがって、一実施形態では、機械的衝撃は、1~7バールの範囲の圧力下に、70~180℃の範囲の温度で、および300~2900kWh/BDTの比エネルギー消費量(絶乾トン)で行われる。別の例では、機械的衝撃は、6~7バールの範囲の圧力下に150~170℃の範囲の温度で行われる。さらに別の例では、比エネルギー消費量は、300~2900kWh/BDT、例えば500~2000kWh/BDT、例えば800~1500kWh/BDTの範囲内である。
【0051】
当業者は、ラジカル重合によって重合され得ることを条件として、本発明の方法に関連してあらゆる種類のアルキル、アリール(aryl)、ビニル、アリル(ally)タイプ、またはあらゆる二重結合もしくは三重結合含有分子をモノマーとして使用し得ることを理解する。そのようなモノマーの非限定的な例としては、アクリルアミド、メチルアクリレート、ブチルアクリレート、4-ビニルピリジン、アクリル酸、ジメチルアミノエチルメタクリレート、アクリロニトリルおよびブチルメタクリレート、ならびにそれらの任意の組み合わせが挙げられる。また、インサイチュで(その場で)重合することができる分子、例えば巨大分子(macromolecule)も本発明におけるモノマーとして適している。アクリレート、スチレンまたはブタジエンが可能なモノマーの例である。
【0052】
したがって、本開示によれば、使用されるモノマーが少なくとも1つの二重結合または三重結合を有する方法が提供される。一実施形態では、モノマーは、アルキル、アリールビニルまたはアリルである。
【0053】
一実施形態では、モノマーは、アクリルアミド、メチルアクリレート、ブチルアクリレート、4-ビニルピリジン、アクリル酸、ジメチルアミノエチルメタクリレート、アクリロニトリルおよびブチルメタクリレート、ならびにそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される。一実施形態では、モノマーは、アクリレート、スチレンまたはブタジエンである。
【0054】
一実施形態では、モノマーはビニルモノマーである。一実施形態では、ビニルモノマーは、メチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、アクリルアミド、メチルアクリレート、ブチルアクリレート、4-ビニルピリジン、アクリル酸、ジメチルアミノエチルメタクリレート、アクリロニトリルおよびブチルメタクリレート、ならびにそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される。
【0055】
モノマーは、(次の化学式の)一般構造:
【化1】

のアルケンまたはアルキンであってもよい。
【0056】
上記の式中、Ri[ここで、i=1、2、3、4、5、6または7]は、フリーラジカル重合に干渉しない有機または無機官能基であり、しばしば、1)水素、2)ハロゲン、3)有機酸、有機アルコール、アルデヒド、アルカン、アルケン、アルキン、アミド、芳香族、シクロアルカン、エステル、エーテル、有機ハロゲン、ケトン、有機ニトリル、フェノール、有機リン酸エステルおよび有機スルホン酸からなる群、4)原子記号S、Se、Te、Si、Ge、SnもしくはPbを有する二価ヘテロ原子、原子記号N、P、As、Sb、BiもしくはBを有する三価ヘテロ原子、または原子記号S、Se、Te、Si、Ge、SnもしくはPbを有する4価ヘテロ原子によって少なくとも1個の四価炭素原子において置換されている3)で特定された群、ならびに、5)そのような群のメンバーによってさらに置換された3)および4)の群の構造体から選択される。そのようなモノマーの非限定的な例には以下のものが含まれる:1-クロロエテン;1,1,2,2-テトラフルオロエテン;1-フェニルエテン;1,2-ジフェニルエテン(スチルベン);1-(j-ハロフェニル)エテン[ここで、jは2、3または4であり、ハロゲン化物置換基はフッ素、塩素または臭素である];1,k-ジエテニルベンゼンまたはk-エテニルピリジン[ここで、k=2、3、または4];1,3-ブタジエン;3-ブテン-2-オン;2-チオ-3-ブテン;2-メチル-1,3-ブタジエン;2-クロロ-1,3-ブタジエン;2-プロペン酸;2-プロペン-1-アル(アクロレイン);2-プロペンニトリル;2-メチル-2-プロペン酸;1,1-ジクロロエテン;1,2-ジクロロエテン;2-プロペンアミド;N,N-ジメチル-2-プロペンアミド;N,N-ビス(2-プロペンアミド)メタン;1-メチル-1-フェニルエテン;2-オキソ-3-オキシペント-4-エン;2-メチル-3-オキソ-4-オキシブト-1-エン-(p-エトキシ-(3p+3)-オール[ここで、pは1~300,000である];水素、リチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、亜鉛、マグネシウムまたはカルシウムから選択される1つ以上のカチオンで中和されている2-メチル-2N-プロペンアミドプロパンスルホン酸;ジメチルジプロプ-2-エニルアンモニウムクロリド;(3-オキシ-4-オキソ-5-メチルヘキサ-5-エニル)トリメチルアンモニウムメチルサルフェート;(3-オキシ-4-オキソ-5-メチルヘキサ-5-エニル)トリメチルアンモニウムクロリド;2-オキシ-3-オキソペンタ-4-エン;4-メチル-2-オキシ-3-オキソペンタ-4-エン;プロペン;エテンスルホン酸;およびエテン。
なお、2-メチル-3-オキソ-4-オキシブト-1-エン-(p-エトキシ-(3p+3)-オールの名称において、pは0より大きい整数であり、有機酸基に結合したアルコキシ鎖中のエトキシ基、-O-CH-CH-の数を表す。具体的には、スチレン-ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、α-ピネン、およびβ-ピネンなどのモノマーが、リグニンおよび/またはセルロース含有材料に弾性官能基を付与し得る。
【0057】
一実施形態では、モノマーは、スチレンブタジエン、イソプレン、クロロプレン、メチルメタクリレート、およびメタクリレート、ならびにそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される。
【0058】
本開示によれば、グラフト化は、添加されたポリマーとリグニンおよび/またはセルロース骨格との間にも起こり得る。添加されたポリマーは、機械的衝撃下でマクロラジカルに変換され、骨格中のリグニンおよび/またはセルロースマクロラジカルにグラフトされ得る。
【0059】
本開示によれば、機械的衝撃下でマクロラジカルを形成し得る任意のポリマーをリグニンおよび/またはセルロース骨格にグラフトすることができる。ラジカルを生成する過酸化物系開始剤を生じやすい反応性基を有するポリマーもまた、リグニンおよび/またはセルロースの骨格にグラフトされる添加ポリマーとして使用し得る。得られるグラフト化材料の所望の官能性に応じてポリマーを選択することができる。
【0060】
本開示によれば、添加されるポリマーは重合モノマーであり得る。
【0061】
他の例では、添加されるポリマーは天然生分解性資源に由来し得る。
【0062】
一実施形態では、添加ポリマーは電子に富む炭素-炭素二重結合を含む。二重結合は、リグニンおよび/またはセルロースラジカルによって容易に攻撃されると考えられる。したがって、ポリマーは、リグニンおよび/またはセルロースのマクロラジカルに容易にグラフトされ得る。
【0063】
一実施形態では、添加ポリマーは、炭素-炭素二重結合を含有する天然ポリマー、例えばα-リノレン酸などの多価不飽和脂肪酸を含有する植物油である。他の例は、トウモロコシ油、ヒマワリ油および亜麻仁油である。
【0064】
一実施形態では、ポリマーは、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、ポリブタジエン、およびポリスチレンブタジエンからなる群より選択される。これらのポリマーは、木質繊維および/または解繊木質繊維をより可塑性にし得る。一実施形態では、添加ポリマーはポリスチレンブタジエンである。
【0065】
一実施形態では、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリプロピレン(PP)またはポリエチレン(PE)を添加ポリマーとして使用し得る。
【0066】
一実施形態では、ポリスチレンブタジエンなどのスチレンブタジエン系ラテックスエマルジョン、コポリマースチレンブチルアセテート(即ち、ポリ(スチレン-コ-ブチルアクリレート))などのスチレンアクリレート系ラテックスエマルジョン、および/またはポリ(酢酸ビニル-コ-エチレン)などの酢酸ビニル系ラテックスエマルジョンを添加ポリマーとして使用し得る。
【0067】
一実施形態では、モノマーおよび/またはポリマーは、絶乾木材に基づき5~20重量%、例えば5~15重量%、例えば6~12重量%、例えば8~10重量%の範囲の量でリグニンおよび/またはセルロース含有材料に添加される。別の実施形態では、モノマーおよび/またはポリマーは、絶乾木材に基づき、約6重量%、約8重量%、または約12重量%の量で木材チップおよび/または解繊木材チップに添加される。
【0068】
一実施形態では、リグニンおよび/またはセルロース含有材料をレドックス開始剤に供することによって追加のマクロラジカルが生成される、本明細書に開示される方法が提供される。したがって、レドックス開始剤は、それ自体でまたは機械的衝撃と組み合わせてマクロラジカルを生成し得る。
【0069】
一実施形態では、モノマーおよび/またはポリマーが、マクロラジカルが形成されるリグニンおよび/またはセルロース含有材料のリグニンおよび/またはセルロースの骨格にグラフトされる、本明細書に開示される方法が提供される。
【0070】
リグニンおよび/またはセルロース含有材料は、機械パルプ製造法の間の様々な工程でモノマーおよび/またはポリマーに供され得ることが理解されるであろう。
【0071】
簡潔に、典型的な機械パルプ製造工程を図1に示す。当業者は、機械パルプ製造プロセスに精通している。一般に、機械パルプリファイニング工程は、スチーミング、洗浄、予備化学含浸/処理などのある種の木材チップ前処理、および最近では、例えば、化学物質の添加を伴うまたは伴わない、Andritz MSDインプレッサファイナまたはValmet Prexプラグスクリューによる機械的前処理が先行することが多い。機械的前処理の主な機能は、その後のリファイニングを容易にするために部分的に開いた構造を有する変形した、圧縮によって破壊された木材チップが得られるように、木材チップを変形させ、圧縮することである。
【0072】
本明細書で使用される場合、「部分的に開いた構造」という用語は、新しく生成された表面で開かれている木材チップを指す。
【0073】
この段階では、比エネルギー消費量は、50~180℃の温度範囲(プレスチーミング温度と前処理圧力によって調整される)で約10~40kWh/BDTという典型的なレベルで低く、処理時間はしばしば数秒以内である。
【0074】
化学的前処理は、木材中の樹脂性抽出物質のような有害な物質を除去し、化学物質を主にリグニン構造と反応させて、リファイニングにおける解繊工程を容易にする目的でリグニン高分子を軟化させるためにしばしば実施される。アルカリ性過酸化水素の機械パルプ化工程の場合、Hの前処理はパルプの白色度を増すために漂白の目的にも役立つ。過酸化水素の典型的な使用量は、絶乾木材に基づき1~5重量%Hの範囲内であり、アルカリ添加は、絶乾木材に基づき0.5~5重量%の範囲内である(軟材または硬材などの木材種に依存する)。本明細書で使用される「絶乾木材」という用語は、100℃の温度にさらした場合に水分をまったく除去することができない木材を指す。
【0075】
本発明によれば、過酸化水素は、木材チップおよび/または解繊木材チップ上に噴霧し得る。他の例では、過酸化水素はチップ圧縮段階の後に含浸容器に添加される。さらに他の例では、過酸化水素はリファイナの眼に添加される。さらに、過酸化水素は、パルプレイテンシーチェスト(pulp latency chest)でのリファイニング後に添加され得る。
【0076】
本開示によれば、いくつかの実施形態では、過酸化水素の使用量は、絶乾木材に基づき、1~15重量%、例えば2~10重量%、例えば2~8重量%、例えば2~5重量%、例えば2~4重量%、または例えば2.5~4重量%の範囲である。さらに他の例では、過酸化水素の使用量は、絶乾木材に基づき、約1重量%、例えば約2重量%、例えば約2.5重量%、例えば約3重量%、例えば約4重量%または例えば約5重量%である。さらに他の例では、過酸化水素の使用量は、絶乾木材に基づき6~8重量%である。
【0077】
本開示によれば、いくつかの実施形態では、アルカリ添加は、絶乾木材に基づき、0.5~6重量%、例えば1~4重量%、または例えば2~3重量%の範囲である。さらに他の例では、アルカリ添加は、絶乾木材に基づき、約0.8重量%、例えば約1重量%、例えば約2重量%、例えば約2.5重量%、例えば約3重量%、例えば約4重量%、例えば約5重量%、例えば約6重量%、または例えば約8重量%である。
【0078】
本開示によれば、過酸化水素などのレドックス開始剤は、ヒドロキシルラジカルの形成を促進する。ヒドロキシルラジカルは水性媒体中の強力な酸化剤であり、リグニンおよび/またはセルロースに容易に結合してリグニンおよび/またはセルロースラジカルを形成する。これらのラジカルは、添加されたモノマーおよび/またはポリマーの炭素-炭素二重結合と有利に反応することができ、それによってグラフト化反応を完了させると考えられる。遷移金属イオンの存在は、ヒドロキシルラジカルの形成に有利であり得る。
【0079】
一般的に、例えば通常のアルカリ性過酸化物機械パルプ化法では、処理はしばしばアルカリ性条件下で行われ、これらの場合にはケイ酸塩または硫酸マグネシウムのようないくつかの過酸化水素安定剤が添加される。さらに、EDTAまたはDTPAなどの遷移金属キレート剤も添加され得る。過酸化水素の分解を避けるために、処理温度はしばしば90℃以下の温度に制御される。
【0080】
別の一般的に使用される化学的前処理は、亜硫酸塩の使用によるものである。これらの場合には、絶乾木材に基づき1~5重量%のNaSOの範囲の亜硫酸塩充填量、絶乾木材に基づき0~5重量%の範囲のアルカリ添加量、および60~120℃の温度で数分間の前処理時間が使用される。
【0081】
本開示によれば、いくつかの実施形態では、NaSOの充填量は、絶乾木材に基づき、2~5重量%、例えば2~4重量%、または例えば2.5~4重量%の範囲である。さらに他の例では、NaSOの充填量は、絶乾木材に基づき、約1重量%、例えば約2重量%、例えば約2.5重量%、例えば約3重量%、例えば約4重量%、または例えば約5重量%である。
【0082】
本開示によれば、いくつかの実施形態では、アルカリ添加量は、絶乾木材に基づき、1~4重量%、または例えば2~3重量%の範囲である。さらに他の例では、アルカリ添加量は、絶乾木材に基づき、約1重量%、例えば約2重量%、例えば約2.5重量%、例えば約3重量%、例えば約4重量%、または例えば約5重量%である。
【0083】
本開示は、モノマーおよび/またはポリマーグラフト化の目的のために、モノマーおよび/またはポリマーは、リファイニング前の前処理段階で木材チップとこれらのモノマーおよび/またはポリマーとのある程度の予備混合が既に行われているように、単独でまたは過酸化物系開始剤(例えば過酸化水素)などのレドックス開始剤と共に化学的前処理段階で添加されることを記載する。
【0084】
亜硫酸塩の場合、亜硫酸塩の還元性のために、モノマーおよび/またはポリマーと共に別の(分離した)、過酸化水素での前処理段階が好ましい。
【0085】
木材チップの前処理後、含浸された木材チップは、しばしば木材チップがさらに圧縮され、大部分の液体内容物が除去されるプラグスクリューによって、一次リファイニング段階に移される。AndritzまたはValmetなどの機器供給業者から市販されているリファイナを使用することが想定される。これらのリファイナは、典型的なサーモメカニカルパルプ化工程のために、圧力がしばしば2~6バールで、120~180℃、例えば150~170℃、特に157~168℃の温度で運転されるシングルまたはダブルディスクリファイナであり得る。
【0086】
木材チップをプレスチーミングすることにより、木材チップ中に存在する空気が飽和蒸気によって枯渇する。さらにリファイナ自体において、高い蒸気圧と組み合わせたチップ圧縮は、ラジカルグラフト反応にとって望ましい、酸素が不足した、または少なくとも酸素が減少した環境をもたらす。リファイニング段階での機械的エネルギー入力は、通常、比エネルギー消費量として測定され、繊維特性の発現に必要なリファイニング度に応じて、通常600kWh/BDT~2700kWh/BDTの範囲が適用される。
【0087】
一次リファイニングされた木質繊維は、いくつかの実施形態では、繊維をさらにリファイニングするために二次リファイニング段階に進み、いくつかの実施形態では、一次リファイニング木質繊維は、不合格材料の除去および取り扱いのためにさらにクリーニングおよびふるい分け段階に進む。
【0088】
他の例では、一次リファイニング木質繊維は乾燥段階に進む。乾燥段階の後、粒状物を形成するために、追加のマトリックスポリマーを用いてまたは用いずに、一次リファイニング木質繊維を配合する。
【0089】
木材チップはリファイナ内で解繊およびリファイニングされ、リファイナそれ自体は、機械的エネルギーおよび/または衝撃によってリグニンおよび/またはセルロース骨格構造上にインサイチュで生成される、リグニンおよび/またはセルロースマクロラジカルへの添加されたモノマーおよび/またはポリマーのより完全な浸透を可能にする非常に効率的な混合装置である。
【0090】
グラフト化反応が、木材チップおよび/もしくは解繊木材チップのバルク(大部分)のほぼ近傍で、または木材チップおよび/もしくは解繊木材チップの大部分にわたって本質的に均一に起こるために、モノマーおよび/またはポリマーが、木材チップおよび/または解繊木材チップの大部分にわたって良好に分布するようにモノマーおよび/またはポリマーと木材チップおよび/または解繊木材チップとが十分に混合されることが望ましい。グラフト化反応を開始するために、レドックス開始剤が木材チップおよび/または解繊木材チップの大部分にわたって良好に分布することも望ましい。
【0091】
例えば、モノマーおよび/またはポリマーは、木材チップ前処理工程中に木材チップおよび/または解繊木材チップに添加され得る。さらに、モノマーおよび/またはポリマーは、レドックス開始剤の添加の前に、それと同時にまたはその後に添加され得ることが理解されよう。例えば、レドックス開始剤は、添付の図2~4に示されているように、パルプ化法におけるモノマーおよび/またはポリマーの添加より前の工程中、添加と同じ工程中または添加の直後に添加され得る。
【0092】
したがって、一実施形態では、リグニンおよび/またはセルロース含有材料が木材チップ前処理工程中にモノマーおよび/またはポリマーに供される、本明細書に開示される方法が提供される。例えば、モノマーおよび/またはポリマーは、木材チップ前処理工程中に添加され得る。木材チップの前処理は、木材チップの性質に応じて2つ以上、例えば2または3つ以上の別々の前処理工程で実施することが可能である。2つ以上の別々の前処理工程は、異なる反応容器中または同じ反応容器中で行い得る。本発明の方法の一実施形態では、リグニンおよび/またはセルロース含有材料は、少なくとも1つの前処理工程、例えば少なくとも2つの前処理工程、例えば3つの前処理工程に供される。したがって、リグニンおよび/またはセルロース含有材料は、少なくとも1つの前処理工程、例えば少なくとも2つの前処理工程、例えば3つの前処理工程またはすべての前処理工程においてモノマーおよび/またはポリマーに供され得る。
【0093】
加えてまたは代替的に、モノマーおよび/またはポリマーを、図2図4に示されるようにリファイニング工程中に解繊木材チップに添加することも可能である。したがって、一実施形態では、リグニンおよび/またはセルロース含有材料は、木材チップの一次リファイニング工程および/または木材チップの二次リファイニング工程中にモノマーおよび/またはポリマーに供される。
【0094】
また、リグニンおよび/またはセルロース含有材料は、1つ以上の前処理工程およびリファイニング工程の両方の間にモノマーおよび/またはポリマーに供されることも想定される。
【0095】
別の例では、リグニンおよび/またはセルロース含有材料は、レイテンシーチェスト工程中にモノマーおよび/またはポリマーに供される。
【0096】
リグニンおよび/またはセルロース含有材料がアルカリ性過酸化物の機械パルプ化に供される、本明細書に開示される方法の実施形態では、リグニンおよび/またはセルロース含有材料は、図2Aおよび図2Bに示されるように方法の異なる工程でモノマーおよび/またはポリマーに供され得ることが想定される。例えば、モノマーおよび/またはポリマーは、方法の異なる工程で添加され得る。したがって、本明細書に開示される方法の一実施形態では、リグニンおよび/またはセルロース含有材料は、アルカリ性過酸化物機械パルプ化法における木材チップ前処理工程、一次リファイニング工程、二次リファイニング工程および/またはレイテンシーチェスト工程中にモノマーおよび/またはポリマーに供される。方法の別の実施形態では、リグニンおよび/またはセルロース含有材料は、アルカリ性過酸化物機械パルプ化法における木材チップ前処理工程、一次リファイニング工程、および/または二次リファイニング工程中にモノマーおよび/またはポリマーに供される。方法の別の実施形態では、リグニンおよび/またはセルロース含有材料は、アルカリ性過酸化物機械パルプ化法における木材チップ前処理工程および/またはリファイニング工程中にモノマーおよび/またはポリマーに供される。方法の別の実施形態では、リグニンおよび/またはセルロース含有材料は、アルカリ性過酸化物機械パルプ化法における木材チップ前処理工程中にモノマーおよび/またはポリマーに供される。別の実施形態では、リグニンおよび/またはセルロース含有材料は、アルカリ性過酸化物機械パルプ化法におけるリファイニング工程中にモノマーおよび/またはポリマーに供される。
【0097】
1つ以上の木材チップ前処理段階におけるモノマーおよび/またはポリマーの添加は、リファイニング段階の前に既にモノマーと木材チップとの良好な混合をもたらし、これはより均一なグラフト化を促進し得る。リファイナ内へのモノマー/ポリマーの直接の添加は、強い機械的衝撃下で即時グラフト化反応を可能にし得る。さらに、本明細書に開示されるように、モノマーおよび/またはポリマーは、1つ以上の前処理段階およびリファイニング段階の両方で添加されてもよく、これは良好なグラフト化反応を提供する。
【0098】
リグニンおよび/またはセルロース含有材料がサーモメカニカルパルプ化に供される、本明細書に開示される方法の実施形態では、図3Aおよび図3Bに示されるように、リグニンおよび/またはセルロース含有材料は方法の異なる工程でモノマーおよび/またはポリマーに供され得ることが想定される。例えば、モノマーおよび/またはポリマーは、方法の異なる工程で添加され得る。したがって、本明細書に開示される方法の一実施形態では、リグニンおよび/またはセルロース含有材料は、サーモメカニカルパルプ化法における木材チップのプレスチーミング工程、木材チップの前処理工程、一次リファイニング工程、二次リファイニング工程および/またはレイテンシーチェスト工程中にモノマーおよび/またはポリマーに供される。方法の別の実施形態では、リグニンおよび/またはセルロース含有材料は、サーモメカニカルパルプ化法における木材チップのプレスチーミング工程、木材チップの前処理工程、一次リファイニング工程、および/または二次リファイニング工程中にモノマーおよび/またはポリマーに供される。方法の別の実施形態では、リグニンおよび/またはセルロース含有材料は、サーモメカニカルパルプ化法における木材チップの前処理工程、一次リファイニング工程、および/または二次リファイニング工程中にモノマーおよび/またはポリマーに供される。方法の別の実施形態では、リグニンおよび/またはセルロース含有材料は、サーモメカニカルパルプ化法における木材チップのプレスチーミング工程中にモノマーおよび/またはポリマーに供される。方法の別の実施形態では、リグニンおよび/またはセルロース含有材料は、サーモメカニカルパルプ化法における木材チップの前処理工程中にモノマーおよび/またはポリマーに供される。別の実施形態では、リグニンおよび/またはセルロース含有材料は、サーモメカニカルパルプ化法におけるリファイニング工程中にモノマーおよび/またはポリマーに供される。木材チップはリファイナ内で解繊およびリファイニングされ、リファイニングの間に混合のための非常に効率的な条件が起こり、それにより添加されたモノマーおよび/またはポリマーはリグニンおよび/またはセルロース含有材料と混合される。これは、モノマーおよび/またはポリマーを、リグニンおよびセルロース骨格構造のインサイチュで生成されたマクロラジカルと反応させるために利用可能にする。
【0099】
リグニンおよび/またはセルロース含有材料がケミサーモメカニカルパルプ化に供される、本明細書に開示される方法の実施形態では、リグニンおよび/またはセルロース含有材料は、図4Aおよび図4Bに示されるように、方法の異なる工程でモノマーおよび/またはポリマーに供され得ることが想定される。例えば、モノマーおよび/またはポリマーは、方法の異なる工程で添加され得る。したがって、本明細書に開示される方法の一実施形態では、リグニンおよび/またはセルロース含有材料は、ケミメカニカルパルプ化法における亜硫酸塩による木材チップの予備含浸工程、木材チップの前処理工程、一次リファイニング工程、二次リファイニング工程および/またはレイテンシーチェスト工程中にモノマーおよび/またはポリマーに供される。方法の一実施形態では、リグニンおよび/またはセルロース含有材料は、ケミメカニカルパルプ化法における亜硫酸塩による木材チップの予備含浸工程、木材チップの前処理工程、一次リファイニング工程および/または二次リファイニング工程中にモノマーおよび/またはポリマーに供される。方法の一実施形態では、リグニンおよび/またはセルロース含有材料は、ケミメカニカルパルプ化法における木材チップの前処理工程、一次リファイニング工程および/または二次リファイニング工程中にモノマーおよび/またはポリマーに供される。
【0100】
方法の一実施形態では、リグニンおよび/またはセルロース含有材料は、ケミメカニカルパルプ化法における亜硫酸塩による木材チップの予備含浸工程中にモノマーおよび/またはポリマーに供される。方法の一実施形態では、リグニンおよび/またはセルロース含有材料は、ケミメカニカルパルプ化法における木材チップの前処理工程中にモノマーおよび/またはポリマーに供される。方法の一実施形態では、リグニンおよび/またはセルロース含有材料は、ケミメカニカルパルプ化法におけるリファイニング工程中にモノマーおよび/またはポリマーに供される。
【0101】
方法の別の実施形態では、リグニンおよび/またはセルロース含有材料は、ケミメカニカルパルプ化法における木材チップのプレスチーミング工程中にモノマーおよび/またはポリマーに供される。方法の別の実施形態では、リグニンおよび/またはセルロース含有材料は、ケミメカニカルパルプ化法における木材チップの前処理工程中にモノマーおよび/またはポリマーに供される。別の実施形態では、リグニンおよび/またはセルロース含有材料は、ケミメカニカルパルプ化法におけるリファイニング工程中にモノマーおよび/またはポリマーに供される。
【0102】
リグニンおよび/またはセルロース含有材料をモノマーおよび/またはポリマーに供する工程は、所与の工程段階の間にモノマーおよび/またはポリマーをリグニンおよび/またはセルロース含有材料に添加することによって実施され得る。簡潔にするために、モノマーおよび/またはポリマーの添加に関連して上記の項をここでは繰り返さないが、当業者は、上記の記載が、前記モノマーおよび/またはポリマーに供する工程がモノマーおよび/またはポリマーの添加によって行われる実施形態にも等しく関連することを理解するであろう。
したがって、一実施形態では、モノマーおよび/またはポリマーが木材チップの前処理工程中にリグニンおよび/またはセルロース含有材料に添加される、本明細書に開示される方法が提供される。本発明の方法の一実施形態では、モノマーおよび/またはポリマーは、少なくとも1つの前処理工程、例えば少なくとも2つの前処理工程、例えば3つの前処理工程中にリグニンおよび/またはセルロース含有材料に添加される。
【0103】
図2図4に示されるように、モノマーおよび/またはポリマーをリファイニング工程中に解繊木材チップに添加することも可能である。したがって、一実施形態では、モノマーおよび/またはポリマーは、一次リファイニング工程および/または二次リファイニング工程中にリグニンおよび/またはセルロース含有材料に添加される。
【0104】
また、モノマーおよび/またはポリマーが1つ以上の前処理工程およびリファイニング工程の両方の間にリグニンおよび/またはセルロース含有材料に添加されることも想定される。
【0105】
別の例では、モノマーおよび/またはポリマーは、レイテンシーチェスト工程中にリグニンおよび/またはセルロース含有材料に添加される。
【0106】
したがって、本明細書に開示される方法の一実施形態では、モノマーおよび/またはポリマーは、アルカリ性過酸化物機械パルプ化法における木材チップ前処理工程、一次リファイニング工程、二次リファイニング工程および/またはレイテンシーチェスト工程中にリグニンおよび/またはセルロース含有材料に添加される。方法の別の実施形態では、モノマーおよび/またはポリマーは、アルカリ性過酸化物機械パルプ化法における木材チップ前処理工程、一次リファイニング工程、および/または二次リファイニング工程中にリグニンおよび/またはセルロース含有材料に添加される。方法の別の実施形態では、モノマーおよび/またはポリマーは、アルカリ性過酸化物機械パルプ化法における木材チップ前処理工程および/またはリファイニング工程中にリグニンおよび/またはセルロース含有材料に添加される。
【0107】
方法の別の実施形態では、モノマーおよび/またはポリマーは、アルカリ性過酸化物機械パルプ化法における木材チップ前処理工程中にリグニンおよび/またはセルロース含有材料に添加される。別の実施形態では、モノマーおよび/またはポリマーは、アルカリ性過酸化物機械パルプ化法におけるリファイニング工程中にリグニンおよび/またはセルロース含有材料に添加される。木材チップ前処理段階におけるモノマーおよび/またはポリマーの添加は、リファイニング前に既にモノマーおよび/またはポリマーと木材チップとのより良好な混合をもたらし、これはより均一なグラフト化を促進し得る。
【0108】
本明細書に開示される方法の一実施形態では、モノマーおよび/またはポリマーは、サーモメカニカルパルプ化法における木材チップのプレスチーミング工程、木材チップ前処理工程、一次リファイニング工程、二次リファイニング工程および/またはレイテンシーチェスト工程中にリグニンおよび/またはセルロース含有材料に添加される。方法の別の実施形態では、モノマーおよび/またはポリマーは、サーモメカニカルパルプ化法における木材チッププレスチーミング工程、木材チップ前処理工程、一次リファイニング工程、および/または二次リファイニング工程中にリグニンおよび/またはセルロース含有材料に添加される。方法の別の実施形態では、モノマーおよび/またはポリマーは、サーモメカニカルパルプ化法における木材チップ前処理工程、一次リファイニング工程、および/または二次リファイニング工程中にリグニンおよび/またはセルロース含有材料に添加される。方法の別の実施形態では、モノマーおよび/またはポリマーは、サーモメカニカルパルプ化法における木材チッププレスチーミング工程中にリグニンおよび/またはセルロース含有材料に添加される。別の実施形態では、モノマーおよび/またはポリマーは、サーモメカニカルパルプ化法における木材チップ前処理工程中にリグニンおよび/またはセルロース含有材料に添加される。別の実施形態では、モノマーおよび/またはポリマーは、サーモメカニカルパルプ化法におけるリファイニング工程中にリグニンおよび/またはセルロース含有材料に添加される。
【0109】
本明細書に開示される方法の別の実施形態では、モノマーおよび/またはポリマーは、ケミメカニカルパルプ化法における亜硫酸塩による木材チップの予備含浸工程、木材チップ前処理工程、一次リファイニング工程、二次リファイニング工程および/またはレイテンシーチェスト工程中にリグニンおよび/またはセルロース含有材料に添加される。方法の一実施形態では、モノマーおよび/またはポリマーは、ケミメカニカルパルプ化法における亜硫酸塩による木材チップの予備含浸工程、木材チップ前処理工程、一次リファイニング工程、および/または二次リファイニング工程中にリグニンおよび/またはセルロース含有材料に添加される。方法の一実施形態では、モノマーおよび/またはポリマーは、ケミメカニカルパルプ化法における木材チップ前処理工程、一次リファイニング工程、および/または二次リファイニング工程中にリグニンおよび/またはセルロース含有材料に添加される。
【0110】
方法の一実施形態では、モノマーおよび/またはポリマーは、ケミメカニカルパルプ化法における亜硫酸塩による木材チップの予備含浸工程中にリグニンおよび/またはセルロース含有材料に添加される。一実施形態では、モノマーおよび/またはポリマーは、ケミメカニカルパルプ化法における木材チップ前処理工程中にリグニンおよび/またはセルロース含有材料に添加される。一実施形態では、モノマーおよび/またはポリマーは、ケミメカニカルパルプ化法におけるリファイニング工程中にリグニンおよび/またはセルロース含有材料に添加される。
【0111】
別の実施形態では、モノマーおよび/またはポリマーは、ケミメカニカルパルプ化法における木材チップのプレスチーミング工程中にリグニンおよび/またはセルロース含有材料に添加される。方法の別の実施形態では、モノマーおよび/またはポリマーは、ケミメカニカルパルプ化法における木材チップ前処理工程中にリグニンおよび/またはセルロース含有材料に添加される。さらに別の実施形態では、モノマーおよび/またはポリマーは、ケミメカニカルパルプ化法におけるリファイニング工程中にリグニンおよび/またはセルロース含有材料に添加される。
【0112】
本開示によれば、機械的リファイニングは、より効率的な酸素除去のためおよびリグニン高分子を軟化させるために、1~7バールの範囲の圧力下で行われる。また、好ましくはリグニン軟化温度より高い120~170℃の範囲のリファイニング温度が使用される。したがって、本明細書に開示される方法の一実施形態では、リファイニング工程における圧力は1~7バールの範囲内にある。サーモメカニカルまたはケミメカニカルパルプ製造法が使用される場合、リファイニング工程における圧力は6~7バールの範囲にあることが有益である。したがって、一実施形態では、リファイニング工程における圧力は、サーモメカニカルまたはケミメカニカルパルプ製造法のリファイニング工程におけるように、6~7バールの範囲内である。適用される高温は、繊維特性の発現およびリファイニング段階におけるより低いエネルギー消費のために有益である。この高いリファイニング温度は、リグニン(の)ガラス転移温度を上回り、リファイニング工程中にリグニン高分子をより可動性にするので、ラジカルグラフト反応が有利になる。
【0113】
別の実施形態では、リファイニング工程における圧力は、アルカリ性過酸化物機械パルプ製造法のリファイニング工程におけるように、約1バールである。これは、主に有利な漂白反応を目的とする、アルカリ性過酸化物機械パルプ化法の条件の一般的な慣例と一致する。
【0114】
リファイニング工程における温度が、約120~170℃であるリグニン軟化温度より高いことも有利であるが、90~190℃の範囲の温度を使用し得る。したがって、本明細書に開示される方法の一実施形態では、リファイニング工程における温度は、90~190℃の範囲内、例えば90~170℃の範囲内、例えば120~170℃の範囲内、例えば150~170℃の範囲内である。
【0115】
本明細書に開示される方法の一実施形態では、サーモメカニカルリファイニング条件は、2~7バールの圧力および120~170℃である。120~170℃という高いリファイニング温度は、リグニンガラス転移温度を上回り、その温度はリファイニング工程中にリグニン高分子をより可動性にし、それによってラジカルグラフト反応が促進される。
【0116】
アルカリ性過酸化物機械パルプ化法のいくつかにおいては、一次リファイニング段階は、上記のように良好な漂白反応を得るために大気圧(1バール)で行われる。この場合、リファイニングの前に木材チップ中に存在する空気(したがって酸素)を枯渇させるために木材チップのプレスチーミングを行うことが有利である。
【0117】
また、酸素欠乏環境がまだ優勢であるリファイニング段階でまたはリファイニング段階の直後にモノマーを添加することも可能である。
【0118】
本開示によれば、木材チップの代わりにパルプを使用してもよい。パルプは、好ましくは30~40%を超える高い濃度(consistency)を有する。パルプは、例えば加圧プラグスクリューを介してリファイナに直接供給してもよく、次いで、酸素欠乏環境を確保するために大気圧より高い圧力でリファイニングし得る。グラフト化反応を生じさせるために、モノマーおよび/またはポリマーおよびレドックス開始剤、例えばH、および場合によりFeSOを、リファイナの前またはリファイナの眼を通してリファイナ内に充填し得る。
【0119】
本開示の別の態様では、リグニンおよび/またはセルロースのグラフト共重合体が提供され、その材料は本明細書に記載の方法によって得ることができる。本明細書に記載の方法によって得られるコポリマーは、コポリマー骨格がリグニンおよび/またはセルロースを含むかまたはそれらからなり、ならびにモノマーおよび/またはポリマーが共有結合によって骨格にグラフトされている、いわゆるグラフト共重合体である。本明細書では、「グラフト共重合体」および「グラフトコポリマー」という用語は互換的に使用される。
【0120】
グラフト共重合体は、グラフトされた官能性モノマーおよび/またはポリマー単位を有するリグニンおよび/またはセルロース骨格を含む。例えば、モノマー単位は、骨格にグラフトされたポリマー単位になるように重合され得る。これらの官能単位は、リグニンおよび/またはセルロースに、疎水性、弾性、三次元成形性および/または難燃性などの所望の特性を付与する。例えば、リグニンおよび/またはセルロースのグラフト共重合体は、任意の種類のアルキル、アリールビニル、アリルタイプ、または任意の二重結合もしくは三重結合含有分子をグラフトすることによって得ることができる。ラジカル重合によって重合され得ることを条件として、本発明の方法に関連してあらゆる種類のアルキル、アリール、ビニル、アリルタイプ、またはあらゆる二重結合もしくは三重結合含有分子をモノマーとして使用し得る。したがって、得られる材料は、リグニンおよび/またはセルロース骨格と、共有結合を介して骨格上にグラフトされたモノマーおよび/またはポリマーとを含む。
【0121】
更に、本発明の材料の利点は、リグニンおよび/またはセルロースを主成分とすることにより、生分解性であり、したがって環境に優しいことである。
【0122】
そのような材料の例には、リグニンおよび/またはセルロース骨格を含むコポリマーと、アクリルアミド、メチルアクリレート、ブチルアクリレート、4-ビニルピリジン、アクリル酸、ジメチルアミノエチルメタクリレート、アクリロニトリルおよびブチルメタクリレート、ならびにそれらの任意の組み合わせからなる群より選択されるモノマーなどの重合モノマーから誘導されるグラフトポリマーとを含むコポリマーが含まれるが、これらに限定されない。他の例には、リグニンおよび/またはセルロース骨格と、アクリレート、スチレンおよびブタジエンからなる群より選択されるモノマーなどの重合モノマーから誘導されるグラフトポリマーとを含むコポリマーが含まれる。さらに他の例には、リグニンおよび/またはセルロース骨格と、アルキル、アリールビニルまたはアリルからなる群より選択されるモノマーなどの重合モノマーから誘導されるグラフトポリマーとを含むコポリマーが含まれる。さらなる例としては、リグニンおよび/またはセルロース骨格と、メチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、アクリルアミド、メチルアクリレート、ブチルアクリレート、4-ビニルピリジン、アクリル酸、ジメチルアミノエチルメタクリレート、アクリロニトリルおよびブチルメタクリレート、ならびにそれらの任意の組み合わせからなる群より選択されるビニルモノマーなどの重合モノマーから誘導されるグラフトポリマーとを含むコポリマーが挙げられる。
【0123】
他の例では、リグニンおよび/またはセルロース骨格と、天然生分解性資源から誘導されるグラフトポリマーとを含むコポリマーが利用される。
【0124】
更に、グラフト共重合体を第2の相補的材料と組み合わせて複合材料を製造し得ることが想定される。複合材料(組成物材料とも呼ばれ、または複合材と略される)は、有意に異なる物理的または化学的特性を有する2つ以上の構成材料から作られる材料であり、組み合わせた場合、個々の成分とは異なる特性を持つ材料を生成する。個々の成分は、完成した構造内で分離していて別個のままである。
【0125】
したがって、本開示の別の態様では、本明細書に開示される少なくとも1つのグラフト共重合体を含む複合材料が提供される。複合材料は、第2の相補的材料を含むことが想定される。第2の相補的材料の非限定的な例には、グラフト共重合体と相互作用し得るポリオレフィンまたは他の任意の合成もしくは天然ポリマーが含まれる。第2の相補的材料は、単独でまたはグラフト共重合体と組み合わせて、複合材料にさらなる望ましい特性を付与するように選択され得る。そのような特性の例としては、疎水性、弾性、機械的強度、バリア特性、難燃性、導電性、断熱性および遮音性等が挙げられる。
【0126】
したがって、一実施形態では、複合材料は、バイオポリマー、例えばポリ(ヒドロキシブチレート)、アルカノエートファミリーのバイオポリマー、ポリ(乳酸)から選択されるバイオポリマー、並びに、ポリエチレンまたはポリプロピレンなどのポリオレフィンからなる群より選択される材料などの、第2の相補的材料を含む。一実施形態では、第2の相補的材料は、ポリエチレンまたはポリプロピレンなどのポリオレフィンである。
【0127】
複合材料は、グラフト共重合体およびポリマーマトリックスを含み得るか、またはグラフト共重合体が製品を強化および官能基化するために使用される発泡材料であり得る。複合材料はまた、積層構造でもあり得る。複合材は、本明細書に開示される修飾疎水性グラフト共重合体、並びにバイオポリマー、例えばポリ(ヒドロキシブチレート)または一般にアルカノエートファミリー、およびポリ(乳酸); ポリオレフィン、例えばポリ(エチレン)またはポリ(プロピレン)を含有し得る。
【0128】
複合材は、断熱材、屋根瓦、外装材、または多機能パネル用の低密度または超低密度材料を製造するために使用され得る。それはまた、自動車部品または限られた耐荷重能力を必要とする他の建築製品にも使用され得る。他の例としては、建築および自動車用途のための構造用複合材が挙げられる。非構造用バイオ複合材は、自動車(インテリア、フロアマット等)および建築物(例えば断熱材)などの用途を含み得る。疎水性グラフト共重合体は、湿気または水蒸気に対する包装材料のバリア性能をさらに高め得る。
【0129】
複合材料は、成形などの様々な技術によって製造され得る。金型内で、材料が組み合わされ、圧縮され、硬化(加工)されて溶融事象を生じる。溶融工程後、部品形状が基本的に設定されるが、特定の工程条件下では変形し得る。当業者は、リグニンおよび/またはセルロース含有材料の成形方法に精通している。
【0130】
図5および図7に示されるように、得られたグラフト化リグニンおよび/またはセルロース材料はさらなる処理に供され得る。それを乾燥し、次いでさらに配合して、射出成形または圧縮成形に適した粉末または粒状物を得ることができる。あるいは、複合材料を得るためにポリエチレン(PE)またはポリプロピレン(PP)などのプラスチック粒状物のような1つ以上の第2の相補的材料を材料に添加してもよい。場合により、プラスチック粒状物を乾燥前に加えて粉末/粒状物を形成してもよい。1種類または数種類の第2の相補的材料をグラフト化リグニンおよび/またはセルロース含有材料の個々のバッチに添加し得ることが理解されよう。抄紙機でのさらなる処理工程の後、複合材料を使用して、バイオ複合材料用途のための三次元成形可能な紙もしくは厚紙(ボール紙)または繊維マットを得ることができる。更に、前記(複合)材料は、建築、包装、家具、輸送、家庭用品、スポーツウェア、自動車部品、船舶用機器の分野、ならびに現在プラスチックポリマーが使用されている任意の用途分野の製品を得るために使用され得る。
【0131】
したがって、本開示の別の態様では、建築、包装、家具、輸送、家庭用品の分野ならびに現在プラスチックポリマーが使用されている任意の用途分野における適用のため、例えば建築、包装、家具、家庭用品、スポーツウェア、自動車部品、船舶用機器(例えばボート)、または任意のセルロース繊維ベースの複合材料における適用のための、リグニンおよび/またはセルロースのグラフト共重合体の使用が提供される。
【0132】
また、グラフトポリマーを含む複合材料も、例えば建築、包装、家具、輸送、家庭用品の分野ならびに現在プラスチックポリマーが使用されている任意の用途分野における適用のために、例えば包装、家具、家庭用品、スポーツウェア、自動車部品、船舶用機器(例えばボート)のためまたはセルロースおよび/もしくはリグニン繊維ベースの複合材料において、使用し得ることが理解されよう。そのような複合材料は、本明細書に記載のリグニンおよび/またはセルロースのグラフト共重合体を少なくとも部分的に含むので、複合材料は少なくとも部分的に生分解性であり、したがって環境にも優しい。
【0133】
したがって、本開示はまた、建築、包装、家具、輸送、家庭用品の分野、ならびに例えば包装、家具、家庭用品などの現在プラスチックポリマーが使用されている任意の用途分野における製品、ならびに本明細書に開示されるリグニンおよび/もしくはセルロースのグラフト共重合体ならびに/または複合材料を含むスポーツウェア、自動車部品、船舶用機器(例えばボート)などの他の任意のバイオ繊維ベースの複合製品を包含する。
【0134】
本明細書に開示される方法は、合成および/または天然のモノマー/ポリマーの添加点ならびにレドックス開始剤の導入方法が異なり得る様々なメカニカル、サーモメカニカルおよびケミサーモメカニカルパルプ化工程に適合され得ることが理解されよう。
【0135】
本発明を様々な例示的態様および実施形態を参照して説明したが、本発明の範囲から逸脱することなく様々な変更を加え得ることおよびその要素を等価物で置き換える得ることが当業者に理解されよう。さらに、本発明の本質的な範囲から逸脱することなく、特定の状況を本発明の教示に適合させるために多くの修正を加え得る。したがって、本発明は、企図される特定の実施形態に限定されず、末尾に添付の項目(アイテム)の範囲内に含まれるすべての実施形態(実施態様)を含むことが意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0136】
図1】一般的な機械パルプ製造法の主要工程を示すフローチャートである。試薬(薬剤)の添加は矢印で示されている。破線の矢印は、工程中の可能なモノマー添加点を示す。破線は任意選択の工程段階を示す。
図2A】アルカリ性過酸化物機械パルプ製造法の主要工程を示すフローチャートを示す。試薬の添加は矢印で示されている。破線の矢印は、工程中の可能なモノマー添加点を示す。破線は任意選択の工程段階を示す。
図2B】実施例1に記載の方法を示すフローチャートを示す。試薬の添加は矢印で示されている。破線の矢印は、工程中の可能なモノマー添加点を示す。
図3A】サーモメカニカルパルプ製造法の主要工程を示すフローチャートを示す。試薬の添加は矢印で示されている。破線の矢印は、工程中の可能なモノマー添加点を示す。破線は任意選択の工程段階を示す。
図3B】実施例2に記載の方法を示すフローチャートを示す。試薬の添加は矢印で示されている。破線の矢印は、工程中の可能なモノマー添加点を示す。
図4A】ケミメカニカルパルプ製造法の主要工程を示すフローチャートを示す。試薬の添加は矢印で示されている。破線の矢印は、工程中の可能なモノマー添加点を示す。破線は任意選択の工程段階を示す。
図4B】実施例3に記載の方法を示すフローチャートを示す。試薬の添加は矢印で示されている。破線の矢印は、工程中の可能なモノマー添加点を示す。
図5】リファイニングされた製品を得るためのグラフト化リグニンおよび/またはセルロース材料のさらなる処理の選択肢を示すフローチャートを示す。
図6】実施例5に記載の方法を示すフローチャートを示す。試薬(薬剤)の添加は矢印で示されている。
図7】圧縮および/または射出成形用の粉末/粒状物が製造される典型的な配合方法における工程を示すフローチャートを示す。
図8】実施例4で測定した水接触角(度)と時間(ミリ秒)の関係を示す図(グラフ)を示す。ポリマーポリスチレンブタジエンを利用するグラフト化反応を、水のみが添加される参照系と比較している。
図9】実施例5で測定した水接触角(度)と時間(ミリ秒)の関係を示す図(グラフ)を示す。HおよびNaOHの添加と共にポリマーポリスチレンブタジエンを利用するグラフト化反応を、水のみが添加される参照系と比較している。
図10】わらがリグニンおよび/またはセルロース含有材料として利用されるパルプ製造法における工程を示すフローチャートを示す。
図11】わらチップを利用する実施例6で測定した水接触角(度)と時間(ミリ秒)の関係を示す図(グラフ)を示す。HおよびNaOHの添加と共にポリマーポリスチレンブタジエン(SB)を利用するグラフト化反応を、水のみが添加される参照系と比較している。
【発明を実施するための形態】
【0137】
[実施例1]
この実施例は、図2Aおよび図2Bに従うアルカリ性過酸化物機械パルプ製造法において実施される、本明細書に開示される方法を例示する。この実施例では、ポリスチレンブタジエンをポリマーとして添加する。
【0138】
従来のアルカリ性過酸化水素機械パルプ化法では、木材チップを洗浄し(図2Aの位置2)、続いて、酸化剤、過酸化水素、アルカリ、ならびにケイ酸塩および/または硫酸マグネシウムなどの過酸化水素安定剤のような化学物質を添加する1または2段階の過酸化水素処理(図2Aの位置3および4)を行う。次いで、これらの過酸化物処理されたチップスは、図1に示すように、ふるい分けおよびクリーニング段階に入る前に最初の一次リファイニング段階、続いて第2リファイニング段階を経る。
【0139】
本開示によれば、グラフトモノマーおよび/またはポリマーをアルカリ性過酸化物前処理段階で添加して、グラフトポリマーが解繊木材チップと十分に混合されることを確実にする。添加点はいずれのチップ前処理段階にあってもよいが、マクロラジカルが形成されるリファイニングの直前のチップ前処理段階にあることが好ましい。温度および添加されるモノマーおよび/またはポリマーの量などのアルカリ性過酸化物前処理条件は、これらのモノマーおよび/またはポリマーが、リファイニング段階で生成されるマクロ(リグニンおよび/またはセルロース)ラジカルに有効にグラフトされ得るために、実際のリファイニングの前に残存するモノマーおよび/またはポリマーが木材チップ混合物中に存在するようにすることが重要である。
【0140】
図2Bに示すようなこの特定の実施例では、東南アジア起源のアカシア木材チップを使用する。木材チップを最初に5分間プレスチーミングし、次いで0.5重量%(絶乾木材に基づく)のEDTAを含浸させ、続いてアルカリ機械パルプ化法の一般的な慣例に従って前処理Iの段階でチップを4重量%のH、4重量%の水酸化ナトリウム、および2重量%のケイ酸塩(絶乾木材に基づく)で60℃の温度にて約45分間処理する。pH値を調整するために水酸化ナトリウムを添加する。続く前処理II段階では、45%の固形分含有量を有するSBRスチレンブタジエンラテックスエマルジョンをチップに充填し(絶乾木材に基づき12重量%の量で)、完全に混合する。その後、これらのチップは大気圧リファイナに送られ、そこでチップは90℃のリファイニング温度でリファイニングされ、それによってマクロラジカルが形成される。リファイニング段階の間、1.5重量%の過酸化水素(絶乾木材に基づく)をリファイナの眼を通してリファイナに充填する。リファイニング段階でのエネルギー消費は約900kWh/BDTパルプである。
【0141】
リファイニング後、得られた材料を、繊維を調和させるためにUltra Turexx型分散機を用いて6400rpmで5分間処理し、次いで水で1回十分に洗浄し、続いてアセトンで2回洗浄し、最後に再び水で洗浄して材料中の残存する化学物質をすべて除去する。次いで、洗浄されたリグノセルロース材料を動的シート成形機によって300g/mハンドシートの坪量を有するハンドシートにする。
【0142】
紙のハンドシートは、(例えばプレス成形装置を使用して)良好な弾性および良好な三次元成形性を示す。これは、ポリスチレンブタジエンポリマーがこれらのリグニンおよび/またはセルロース繊維に結合し、それらをより弾性的にすることを示す。
【0143】
[実施例2]
この実施例は、図3Aおよび図3Bに従うサーモメカニカルパルプ製造法において実施される、本明細書に開示される方法を例示する。この実施例では、メチルメタクリレートをモノマーとして添加する。
【0144】
図3Aは、典型的なサーモメカニカルパルプ化法(TMP)を示す。この方法では、木材チップをプレスチーミングし、いくつかの工程では、一次リファイニング段階を行う前に予備解繊する。モノマーおよび/またはポリマーおよび過酸化水素開始剤を、プレスチーミング段階またはチップ前処理段階のいずれかで添加する。また、チップがちょうど解繊されるブローラインでリファイニング段階の直後にモノマーおよび/またはポリマーおよび過酸化水素を添加することも選択肢である(図3Aには示していない)。あるいは、モノマーおよび/またはポリマーを、二次リファイニング後にレイテンシーチェストで添加してもよい。両方の場合に、モノマーおよび/またはポリマーは、実質的に無酸素環境においてリグニンおよび/またはセルロースマクロラジカルと反応する。
【0145】
図3Bに示すようなこの実施例では、トウヒ材チップを使用する。木材チップをスチームビンに供給し(90℃、15分)、次いで幾何学的圧縮比が約4:1のAndritz製の圧縮スクリューに通し、そこで圧縮スクリューの先端のチップ含浸装置においてメチルメタクリレートのモノマーを過酸化水素およびEDTAと共に充填する。絶乾木材に基づき、メチルメタクリレートの充填量は8重量%、過酸化水素は3重量%、EDTAは0.2重量%である。処理時間は約数分である。次に、これらの混合木材チップをAndritzタイプのダブルディスクリファイナに供給する。リファイニングは5~6バールの圧力および160~170℃の温度で行われ、それによってマクロラジカルが形成される。リファイニング後、得られた材料を、繊維を調和させるためにUltra Turexx型分散機を用いて6400rpmで5分間処理し、次いで水で1回十分に洗浄し、続いてアセトンで2回洗浄し、最後に再び水で洗浄して材料中の残存する化学物質をすべて除去する。次いで、洗浄されたリグノセルロース材料を動的シート成形機によって300g/mハンドシートの坪量を有するハンドシートにする。水接触角は、リグノセルロース材料などの材料または製品の疎水性の適切な測定値である。グラフト化されていないリグニンおよび/またはセルロース含有材料は親水性であり、材料が疎水性モノマーおよび/またはポリマーでグラフト化されると、グラフト化の程度を反映する接触角が増大する。次いで形成された紙シートの水接触角測定を実施し、接触角は約98度に達し、これは、メチルメタクリレートのグラフト化が起こり、得られたグラフト化材料のシートが疎水性かつ耐湿性であることを意味する。
【0146】
[実施例3]
この実施例は、図4Aおよび図4Bに従うケミメカニカルパルプ製造法において実施される、本明細書に開示される方法を例示する。この実施例では、メチルメタクリレートをモノマーとして添加する。
【0147】
図4Aは、典型的なケミサーモメカニカルパルプ化法(CTMP)を示す。チップの前処理は、しばしば亜硫酸塩の予備含浸を用いて行われる。
この場合、さらなるチップ前処理段階を追加してもよく、ここでモノマーおよび/またはポリマーおよび過酸化水素開始剤が、リファイナに入る前に木材チップと十分に混合される。リグニンおよび/またはセルロースマクロラジカルにグラフトされるモノマーおよび/またはポリマーラジカルはリファイナ内で生成される。
【0148】
図4B示すようなこの実施例では、マツの木のチップを使用する。木材チップをスチームビンに供給し(90℃、15分)、次いで幾何学的圧縮比が約4:1のAndritz製の圧縮スクリューに通し、そこで、絶乾木材に基づき0.6重量%の亜硫酸ナトリウムを充填する。処理時間は約数分である。次に、これらの混合木材チップをAndritzタイプのダブルディスクリファイナに供給する。リファイニングは5~6バールの圧力および160~170℃の温度で行われる。リファイニングの直後にレイテンシーチェストでは(それによって)マクロラジカルが形成され、絶乾木材に基づき6重量%のメチルメタクリレート、2.5重量%の過酸化水素および0.2重量%のEDTAが充填される。レイテンシーチェストの温度は90℃より高い。リグニンおよび/またはセルロース含有材料を約10分間レイテンシーチェスト内に留める。次に材料を洗浄し、動的シート成形機によってハンドシートにする。
【0149】
次いで、得られた紙シートの水接触角測定を実施する。接触角は約98度に達したことが予期され、これは、メチルメタクリレートのグラフト化が起こり、得られたグラフト化材料のシートが疎水性かつ耐湿性であることを意味する。
【0150】
[実施例4]
この実施例は、図6に従うサーモメカニカルパルプ化法において実施される、本明細書に開示される方法を例示する。この実施例は、ポリスチレンブタジエンポリマーによるリファイニングを利用する。
【0151】
この実施例では、乾燥含有量が43.8%のノルウェートウヒの新鮮な木材チップを使用した。木材チップをスチームビンに供給し(90℃、45分)、次いで幾何学的圧縮比が約4:1のAndritz製のMSDインプレッサファイナに通し、そこでポリスチレンブタジエンポリマー(BASFから入手)の水性分散液を、予備含浸容器を介して10重量%(絶乾木材に基づく)の量でMSDインプレッサファイナの先端に充填した。木材チップの金属含有量を測定した、それを表1に示す。
【0152】
【表1】
【0153】
表1に見られるように、MSD装置からの鉄の磨耗および洗浄のために、木材チップはMSDインプレッサファイナの後に45mg/kgの鉄含有量を有しており、天然木材の6.6mg/kgから増加した。
【0154】
MSDインプレッサファイナの処理時間は約数分であった。次に混合木材チップをAndritz型のダブルディスクリファイナに供給した。リファイニングは2バールの圧力および140℃の温度で行われた。比リファイニングエネルギー消費量は約370kWh/BDTであり、その結果のパルプ濃度(pulp consistency)は40%であった。
【0155】
上記と同様に参照比較実験を行ったが、予備含浸容器を介してMSDインプレッサファイナに水のみを添加し(すなわちポリスチレンブタジエンを添加せずに)、希釈水のみをリファイナに添加した(すなわち過酸化水素を添加せずに)。したがって、過酸化水素は両方の実験(すなわち共重合体を用いた実験および共重合体なしでの実験)において存在しない。参照実験では、比リファイニングエネルギー消費量は350kWh/BDTであり、その結果のパルプ濃度(pulp consistency)は33%であった。
【0156】
リファイニング後、得られた材料を、繊維を調和させるためにUltra Turexx型分散機を用いて6400rpmで5分間処理し、次いで材料を水で1回十分に洗浄し、続いてアセトンで2回洗浄し、最後に再び水で洗浄して材料中の残存する化学物質をすべて除去した。次いで、材料をRapid Kothen標準ハンドシート成形機によってハンドシートにした。
【0157】
次に、これらの紙シートの水接触角測定を、ハンドシート試料の上面に較正された水滴(0.3μl)を沈着させて行った。その結果を図8に示す。
【0158】
図8に見られるように、ポリスチレンブタジエンポリマーによるリファイニングは、参照実験と比較してより大きな水接触角を提供し、木質繊維へのポリスチレンブタジエンポリマーのグラフト化が起こったことを示した。
【0159】
[実施例5]
この実施例は、図6に従うサーモメカニカルパルプ化法において実施される、本明細書に開示される方法を例示する。この実施例は、ポリスチレンブタジエンポリマーによるリファイニング、ならびにレドックス開始剤、過酸化水素、および塩基、水酸化ナトリウムの添加を利用する。
【0160】
この実施例では、乾燥含有量が43.8%のノルウェートウヒの新鮮な木材チップを使用した。木材チップをスチームビンに供給し(90℃、45分)、次いで幾何学的圧縮比が約4:1のAndritz製のMSDインプレッサファイナに通し、そこでポリスチレンブタジエンのポリマー(BASFから入手)の水性分散液を、予備含浸容器を介して10重量%(絶乾木材に基づく)の量でMSDインプレッサファイナの末端に充填した。木材チップの金属含有量を測定した、その結果を上記の表1に示す。
【0161】
表1に見られるように、MSD装置からの鉄の磨耗および洗浄のために、木材チップはMSDインプレッサファイナの後に45mg/kgの鉄含有量を有しており、天然木材の6.6mg/kgから増加した。
【0162】
MSDインプレッサファイナの処理時間は約数分であった。次に混合木材チップをAndritz型のダブルディスクリファイナに供給した。リファイニングは2バールの圧力および140℃の温度で行われた。過酸化水素溶液を6重量%(絶乾木材に基づく)の量でリカーポンプ(liquor pump)を介してリファイナの眼に充填した。水酸化ナトリウム溶液を、別のポンプを介してリファイナの眼の直前の別の注入点を通して0.8重量%(絶乾木材に基づく)の量で充填した。比リファイニングエネルギー消費量は約400kWh/BDTであり、その結果のパルプ濃度(pulp consistency)は45%であった。
【0163】
リファイニング後、得られた材料を、木質繊維を調和させるためにUltra Turexx型分散機を用いて6400rpmで5分間処理し、次いで材料を水で1回十分に洗浄し、続いてアセトンで2回洗浄し、最後に再び水で洗浄して材料中の残存する化学物質をすべて除去し、次に材料をRapid Kothen標準ハンドシート成形機によってハンドシートにした。
【0164】
次に、これらの紙シートの水接触角測定を、ハンドシート試料の上面に較正された水滴(0.3μl)を沈着させて行った。その結果を図9に示す。
【0165】
水酸化ナトリウムをリファイナに添加する目的は、リファイニング環境を中性pHに保つことであった。先に説明したように、リグニンおよび/またはセルロースマクロラジオカルの形成は中性pHで有利に行われると考えられる。加えてまたは代替的に、水酸化ナトリウムを添加せずに過酸化水素を添加すると、リファイナ内に酸性状態がもたらされる。これは、リグニンおよび/またはセルロース骨格の酸性加水分解を引き起こし、例えば繊維の親水性の上昇および繊維の強度の低下をもたらし得ると考えられる。
【0166】
図9に示されるように、リファイナの眼に過酸化水素と水酸化ナトリウムを充填することによって、増大した水接触角が得られる。したがって、増強された繊維疎水性が得られる。水接触角の増大は、コポリマーのみが添加されている(しかしHまたはNaOHは添加されていない)実験と比較して、ポリスチレンブタジエンポリマーによるより高いグラフト化度を示す。
【0167】
ポリスチレンブタジエン(絶乾木材に基づき10重量%)を添加し、レドックス開始剤H(絶乾木材に基づき6重量%)を添加したが、NaOHなどのpH調整剤を添加していないノルウェートウヒの新鮮な木材チップを用いて追加の実験も行った。レドックス開始剤が存在しない実験と比較して、増大した水接触角が得られた。しかしながら、水接触角は、レドックス開始剤とpH調整剤の両方を添加した実験の場合ほど大きくはなかった。リグニンおよび/またはセルロースマクロラジカルの形成は中性pHで促進されると考えられる。
【0168】
[実施例6]
この実施例は、図10に従うサーモメカニカルパルプ化法において実施される、本明細書に開示される方法を例示する。この実施例は、ポリスチレンブタジエンポリマーによるリファイニング、ならびにレドックス開始剤、過酸化水素、および塩基、水酸化ナトリウムの添加を利用する。
【0169】
この実施例では、乾燥含有量が74.5%の小麦わら茎チップを使用した。わらチップを、2.53cmの穴を有するスクリーンを通してハンマーミルし、次いで水中に浸した。これらの浸したわらチップをスチームビンに供給し(90℃、45分)、次いで幾何学的圧縮比が約4:1のAndritz製のMSDインプレッサファイナ圧縮スクリューに通し、そこでポリスチレンブタジエンのポリマー(BASFから入手)の水性分散液を、予備含浸容器を介して10重量%(絶乾木材に基づく)の量でMSDインプレッサファイナの末端に充填した。木材チップの金属含有量は以下のように分析された。
【0170】
【表2】
【0171】
表2に見られるように、わらチップは、MSD装置からの鉄の磨耗及び洗浄のために、MSDインプレッサファイナの後に75mg/kgの鉄含有量を有し、天然材料の47.6mg/kgから増加した。これは、過酸化水素の触媒酸化還元反応を開始するために追加の鉄イオンを添加する必要がないことを意味する。約30mg/kgのマンガンも材料中に存在した。この実験によれば、マンガンイオンと鉄イオン(天然に存在し、MSD装置からの鉄の摩耗と洗浄に起因する)は過酸化水素のレドックス反応を開始するのに十分であると考えられる。
【0172】
MSDインプレッサファイナの処理時間は約数分であった。次に、混合わらチップをAndritz型のダブルディスクリファイナに供給した。リファイニングは2バールの圧力および140℃の温度で行われた。過酸化水素溶液を5重量%(絶乾木材に基づく)の量でリカーポンプ(liquor pump)を介してリファイナの眼に充填した。水酸化ナトリウム溶液を、別のポンプを介してリファイナの眼の直前の別の注入点を通して0.7重量%(絶乾木材に基づく)の量で充填した。比リファイニングエネルギー消費量は約360kWh/BDTであり、その結果のパルプ濃度(pulp consistency)は45%であった。
【0173】
上記と同様に参照比較実験を行ったが、予備含浸容器を介してMSDインプレッサファイナに水のみを添加し(すなわちポリスチレンブタジエンを添加せずに)、希釈水のみをリファイナの眼を通してリファイナに添加した(すなわちレドックス開始剤なしで)。この場合、比リファイニングエネルギー消費量は330kWh/BDTであり、その結果のパルプ濃度(pulp consistency)は33%であった。
【0174】
リファイニング後、得られた材料を、わら木質繊維を調和させるためにUltra Turexx型分散機を用いて6400rpmで5分間処理し、次いで材料を水で1回十分に洗浄し、続いてアセトンで2回洗浄し、最後に再び水で洗浄して材料中の残存する化学物質をすべて除去し、次に材料をRapid Kothen標準ハンドシート成形機によって坪量120g/mのハンドシートにした。
【0175】
次に、これらの紙シートの水接触角測定を、ハンドシート試料の上面に較正された水滴(0.3μl)を沈着させて行った。結果を図11に示す。
【0176】
図11に示されるように、ポリスチレンブタジエン共重合体エマルジョンを充填し、過酸化水素および水酸化ナトリウムの存在下でリファイニングすることによって、わらを用いたが過酸化水素および水酸化ナトリウムを添加していない実験と比較して、ポリスチレンブタジエンポリマーによるより高いグラフト化度を示す、増強された繊維疎水性が得られた。
【0177】
[実施例7]
同様に、実施例6と同じ工程段階をバガス(bagasse)に適用することができる。この特定の場合には、脱ピスバガス材料を使用した。バガス材料を最初に水に浸し、スチーミングして、次にMSDインプレッサファイナを通してプレスし、続いて10重量%(バガスの絶乾重量に基づく)の量のポリスチレンブタジエンエマルジョンを含浸させ、その後、リファイニングをわずかに中性状態に保つために、5重量%の過酸化水素および0.7重量%のNaOH(絶乾木材に基づく)と共に、2バールの圧力および140℃の温度でAndritz型のダブルディスクリファイナを用いてさらにリファイニングした。
【0178】
参照試料を同様の方法で調製したが、脱イオン水のみを含浸させ、過酸化水素はリファイナの眼に充填しなかった。次に、両方の試料のハンドシートを作製し、水接触角を分析した。接触角の結果は、ポリスチレンブタジエン処理した試料について増強された繊維疎水性を示し、これは、バガス繊維への疎水性ポリスチレンブタジエンのグラフト化を示すものである。
【0179】
したがって、本明細書に提供されるデータは、本明細書に開示される方法がリグニンおよび/またはセルロース含有材料の様々な選択に対して良好な結果を提供することを示している。
【0180】
[付記] 実施態様の項目(アイテム)の一覧
1.リグニンおよび/またはセルロースのグラフト共重合体を調製する方法であって、
・酸素低減環境中で、解繊木材チップなどの木材チップ、およびパルプからなる群より選択されるリグニンおよび/またはセルロース含有材料をレドックス開始剤に供する工程、
・リグニンおよび/またはセルロース含有材料を機械的衝撃にさらす工程、ならびに
・機械的衝撃にさらされる前、その最中および/または直後に、リグニンおよび/またはセルロース含有材料をモノマーおよび/またはポリマーに供する工程、
を含み、
ここで、リグニンおよび/またはセルロース含有材料のリグニンおよび/またはセルロースの骨格への機械的衝撃によってマクロラジカルがインサイチュで(その場で)生成され、ここで、モノマーおよび/またはポリマーがリグニンおよび/またはセルロースの骨格にグラフトされる、方法。
2.前記木材チップが、木材、竹、わら、バガス、ケナフ、ラミー、麻、ジュート、サイザル麻、アブラヤシ由来の空の果実枝、および綿からなる群より選択される、項目1に記載の方法。
3.前記木材チップが硬材または軟材である、項目2に記載の方法。
4.前記パルプが機械パルプまたは半機械パルプである、項目1~3のいずれか1つに記載の方法。
5.前記パルプが、硫酸塩化学パルプ、亜硫酸塩パルプ、または溶解パルプなどのセルロース含有材料である、項目1~3のいずれか1つに記載の方法。
6.前記木材チップおよび/または解繊木材チップが、5~30mmの範囲の長さ、3~25mmの範囲の厚さ、および3~25mmの幅を有する、項目1~3のいずれか1つに記載の方法。
7.前記木材チップおよび/または解繊木材チップが化学的に前処理されている、項目1~6のいずれか1つに記載の方法。
8.前記解繊木材チップが、部分的に開いた構造を有する圧縮によって破壊された木材チップである、項目1~7のいずれか1つに記載の方法。
9.前記酸素低減環境は、酸素欠乏である、先行する項目のいずれかに記載の方法。
10.レドックス開始剤が、過酸化水素、過酢酸、2-ヒドロペルオキシ-1,4-ジオアイシクロヘキサン(dioaycyclohexane)、3,3-ジメチル-1,2-ジオキシブタン、1-ヒドロペルオキシベンゼン、1-(2-ヒドロペルオキシプロピル)ベンゼン、過ヨウ素酸カリウムなどの過ヨウ素酸系酸化剤、ならびに、ペルオキシフタル酸マグネシウム、ペルオキシホウ酸ナトリウムおよび過炭酸ナトリウムなどの無水固体過酸化物からなる群より選択される、先行する項目のいずれかに記載の方法。
11.前記レドックス開始剤がHである、項目10に記載の方法。
12.機械的衝撃が、研削、摩砕および/またはリファイニングである、先行する項目のいずれかに記載の方法。
13.前記機械的衝撃が、1~7バールの圧力、60~190℃の範囲の温度、および300~2900kWh/BDTの比エネルギー消費量(絶乾トン)の下で行われる、項目12に記載の方法。
14.モノマーが、アクリレート、スチレンおよびブタジエンから選択されるモノマーなどの少なくとも1つの二重結合または三重結合を有する、先行する項目のいずれかに記載の方法。
15.ポリマーが、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、ポリブタジエン、およびポリスチレンブタジエンなどの少なくとも1つの二重結合または三重結合を有する、先行する項目のいずれかに記載の方法。
16.リグニンおよび/またはセルロース含有材料をレドックス開始剤に供することによって追加のマクロラジカルが生成される、先行する項目のいずれかに記載の方法。
17.遷移金属イオンがレドックス開始剤と同時に添加される、先行する項目のいずれかに記載の方法。
18.前記遷移金属イオンが第一鉄イオンである、項目17に記載の方法。
19.NaOHなどのpH調整剤を更に含む、先行する項目のいずれかに記載の方法。
20.モノマーおよび/またはポリマーが、マクロラジカルが形成されるリグニンおよび/またはセルロース含有材料のリグニンおよび/またはセルロースの骨格にグラフトされる、先行する項目のいずれかに記載の方法。
21.リグニンおよび/またはセルロース含有材料が、木材チップ前処理工程中にモノマーおよび/またはポリマーに供される、先行する項目のいずれかに記載の方法。
22.リグニンおよび/またはセルロース含有材料が、少なくとも1つの前処理工程(例えば少なくとも2つの前処理工程、例えば3つの前処理工程)に供される、項目21に記載の方法。
23.リグニンおよび/またはセルロース含有材料が、一次リファイニング工程および/または二次リファイニング工程中にモノマーおよび/またはポリマーに供される、先行する項目のいずれかに記載の方法。
24.リグニンおよび/またはセルロース含有材料が、レイテンシーチェスト工程中にモノマーおよび/またはポリマーに供される、先行する項目のいずれかに記載の方法。
25.リグニンおよび/またはセルロース含有材料が、アルカリ性過酸化物機械パルプ化法における木材チップ前処理工程、一次リファイニング工程、二次リファイニング工程および/またはレイテンシーチェスト工程中にモノマーおよび/またはポリマーに供される、先行する項目のいずれかに記載の方法。
26.リグニンおよび/またはセルロース含有材料が、サーモメカニカルパルプ化法における木材チッププレスチーミング工程、木材チップ前処理工程、一次リファイニング工程、二次リファイニング工程および/またはレイテンシーチェスト工程中にモノマーおよび/またはポリマーに供される、項目1~24のいずれかに記載の方法。
27.リグニンおよび/またはセルロース含有材料が、ケミメカニカルパルプ化法における亜硫酸塩による木材チップの予備含浸工程、木材チップ前処理工程、一次リファイニング工程、二次リファイニング工程および/またはレイテンシーチェスト工程中にモノマーおよび/またはポリマーに供される、項目1~24のいずれかに記載の方法。
28.リファイニング工程における圧力が1~7バールの範囲内である、先行する項目のいずれかに記載の方法。
29.一次リファイニング工程または二次リファイニング工程において圧力が2~7バール、例えば6~7バールである、項目26または27に記載の方法。
30.一次リファイニング工程において圧力が約1バールである、項目25に記載の方法。
31.リファイニング工程における温度が60~190℃の範囲内である、先行する項目のいずれかに記載の方法。
32.メカニカルリファイニング工程において温度が120~170℃の範囲内である、項目1~30のいずれか1つに記載の方法。
33.項目1~32のいずれか1つに記載の方法によって得られるリグニンおよび/またはセルロースのグラフト共重合体。
34.項目33に記載のグラフト共重合体を含む物品。
35.包装製品、家具製品、家庭用製品、ならびにリグニンおよび/またはセルロース繊維ベースの複合製品からなる群より選択される、項目34に記載の物品。
36.建築、包装、家具、家庭用品、または任意のリグニンおよび/もしくはセルロース繊維ベースの複合材料における用途のための、項目33に記載のリグニンおよび/またはセルロースのグラフト共重合体の使用。
37.項目33に記載のリグニンおよび/またはセルロースのグラフト共重合体を少なくとも一種含む複合材料。
38.建築、包装、家具、家庭用品、またはリグニンおよび/もしくはセルロース繊維ベースの複合材料における用途のための、項目37に記載の複合材料の使用。
39.ポリ(ヒドロキシブチレート)、アルカノエートファミリーのバイオポリマー、ポリ(乳酸)およびポリオレフィンからなる群より選択される材料などのような第2の相補的材料を含む、項目37に記載の複合材料。
40.建築、包装、家具、家庭用品、または任意のリグニンおよび/もしくはセルロース繊維ベースの複合材料における用途のための、項目39に記載の複合材料の使用。
(付記以上)
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11