IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ マイリオタ ピーティーワイ エルティーディーの特許一覧

特許7054249拡張された衛星エフェメリス・データを生成するシステムおよび方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-05
(45)【発行日】2022-04-13
(54)【発明の名称】拡張された衛星エフェメリス・データを生成するシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 19/27 20100101AFI20220406BHJP
【FI】
G01S19/27
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2019534105
(86)(22)【出願日】2017-12-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-02-13
(86)【国際出願番号】 AU2017000286
(87)【国際公開番号】W WO2018112502
(87)【国際公開日】2018-06-28
【審査請求日】2020-11-06
(31)【優先権主張番号】2016905314
(32)【優先日】2016-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】518233372
【氏名又は名称】マイリオタ ピーティーワイ エルティーディー
【氏名又は名称原語表記】Myriota Pty Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】グラント、アレキサンダー ジェイムズ
(72)【発明者】
【氏名】マッキリアム、ロバート ジョージ
【審査官】九鬼 一慶
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-003092(JP,A)
【文献】特表2008-513738(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0055598(US,A1)
【文献】特表2013-522607(JP,A)
【文献】特開2012-074924(JP,A)
【文献】特開2008-302808(JP,A)
【文献】特開2000-142596(JP,A)
【文献】特開2007-292763(JP,A)
【文献】特表2015-517240(JP,A)
【文献】特開2000-162301(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0111738(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 19/00 -19/55
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
衛星通信システムにおいて端末装置が使用するための衛星の拡張された衛星エフェメリス・データを生成する方法であって、該衛星は最小制御衛星であり、該方法は、
最小制御衛星の過去のエフェメリス・データを受信するステップ(1)と、
該受信した過去のエフェメリス・データを使用して最小制御衛星についての軌道モデルを定義する、1つまたは複数の軌道パラメータのセットの時間的進展をモデル化するように、動的軌道モデルを推定するステップ(2)と、ここで、将来のエポック時刻が与えられると、前記動的軌道モデルは、将来のエポック時刻での軌道パラメータのセットの将来の値を予測するように構成されており、
該端末装置の外部にある供給源から受信される、または該端末装置によって推定されるいずれかである該動的軌道モデルを該端末装置によって記憶するステップ(3)、または該端末装置によって記憶されている動的軌道モデルを更新するステップ(3)と、
該端末装置により、該動的軌道モデルを使用してエポック時刻における合成軌道パラメータのセットを生成するステップ(4)と、
該端末装置が該合成軌道パラメータのセットを軌道予測器に提供して、予め定められた端末位置に対応する1つもしくは複数の衛星通過時刻の推定値、または所定の将来の時刻における1つもしくは複数の衛星ロケーションを取得するステップ(5)と、
を含む
方法。
【請求項2】
前記動的軌道モデルを推定するステップ(2)が、前記端末装置から遠隔にあるコンピュータ装置によって行われ、前記動的軌道モデルが、前記端末装置に送信またはアップロードされる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記軌道パラメータのセットは、軌道にある最小制御衛星の運動をモデル化するのに充分なパラメータの任意のセットであり、前記動的軌道モデルは、各軌道パラメータをフィットさせるように構成される、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記軌道パラメータのセットは、ケプラー軌道パラメータ(a、e、i、Ω、ω、M)を含み、前記過去のエフェメリス・データは、時間期間t=(t1,t2…,tn)にわたる軌道パラメータ(a[t]、e[t]、i[t]、Ω[t]、ω[t]、M[t])の値のセットを含み、動的軌道モデルを推定するステップ(2)は、少なくとも軌道パラメータ(Ω、ω、M)についての前記過去のエフェメリス・データと、前記時間期間tにわたる前記最小制御衛星の平均運動とにモデルをフィットさせ、フィットされていない各軌道パラメータ対して時間期間t内で最も最近の時間点(tn)に対応する前記軌道パラメータの値を使用することを含む、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記軌道パラメータのセットは、ケプラー軌道パラメータ(a、e、i、Ω、ω、M)を含み、前記過去のエフェメリス・データは、時間期間t=(t1,t2…,tn)にわたる軌道パラメータ(a[t]、e[t]、i[t]、Ω[t]、ω[t]、M[t])の値のセットを含み、ここで前記tnは時間期間t内で最も最近の時間点の時刻であり、動的軌道モデルを推定するステップは、軌道パラメータ(a、e、i、Ω、ω、M)についての前記過去のエフェメリス・データと、前記時間期間tにわたる前記衛星の平均運動とにモデルをフィットさせることを含む、請求項3記載の方法。
【請求項6】
モデルをフィットさせるステップは、軌道パラメータ(a、i、Ω、ω、M)については線形最小二乗モデルをフィットさせ、(e)については非線形最小二乗モデルをフィットさせることを含む、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記時間点tnは、最も最近の軌道パラメータ・データの時刻であり、前記時間期間は少なくとtnを含む過去2週間を含む、請求項4から6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
前記エポック時刻は、予め定められた対象の時間期間の直前に発生する時刻であって、前記最小制御衛星の昇交点通過の時刻である、請求項1から7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
時間期間t=(t1,t2…,tn)にわたる平均運動ρに対して線形フィットρ=mρt+cρを行って勾配パラメータmρおよびオフセットcρを取得し、
【数1】
もしくはmρ=0の場合はT=K/ρを使用して、最も最近の軌道パラメータ・データの時刻tnからの、前記衛星が次のK回の完全な軌道を完了するための所要時間Tを求めるステップ、または、
時間の関数としての過去の軌道番号に対して線形フィットを行って完全な軌道の数Kの推定値を取得し、時間に対する該軌道番号の導関数から前記平均運動ρを推定し、該推定される平均運動ρを使用して、該最も最近の軌道パラメータ・データの時刻tnからの、前記衛星が次のK回の完全な軌道を完了するための所要時間Tを求めるステップと、
前記エポック時刻Tepoch=tn+Tを求めるステップであって、tnは該最も最近の軌道パラメータ・データの時刻である、ステップと、
をさらに含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
モデルをフィットさせるステップが、ロバスト・フィッティング法を使用することを含む、請求項1から9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
線形モデルをフィットさせるための前記ロバスト・フィッティング法が、Theil-Senロバスト線形フィッティング法を使用することを含む、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記動的軌道モデルを使用してエポック時刻における合成軌道パラメータのセットを生成するステップが、該エポック時刻を使用して、外挿された軌道パラメータを計算することを含む、請求項1から11のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
前記予め定められた端末位置が、前記端末装置のメモリに記憶された位置である、請求項1から12のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
前記端末が衛星測位システム受信機をさらに備え、前記予め定められた端末位置が該衛星測位システム受信機から取得される、請求項1から13のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
衛星通信システムで使用するための端末装置であって、該衛星は最小制御衛星であり、該端末装置は、
少なくとも1つのアンテナと、
該少なくとも1つのアンテナを使用して該衛星にデータを送信するように少なくとも構成された通信モジュールと、
少なくとも1つのプロセッサおよびメモリと、を備え、該メモリは、請求項1から14のいずれか一項記載の方法の端末装置ステップを該プロセッサに行わせる命令を備えている、端末装置。
【請求項16】
前記端末装置が、前記通信モジュールを介して過去のエフェメリス・データを受信し、前記動的軌道モデルを推定するように構成されている、請求項15記載の端末装置。
【請求項17】
前記端末装置の位置推定値を前記軌道予測器に提供するように構成された衛星測位システム受信機をさらに備える、請求項15記載の端末装置。
【請求項18】
前記メモリは、前記端末装置の位置の推定値を記憶するように構成され、記憶された該位置を前記軌道予測に提供するための命令を含む、請求項15記載の端末装置。
【請求項19】
衛星通過時間期間の推定値を受信し、推定される該衛星通過時間期間中に前記端末装置をウェイクアップさせるように構成されたアラーム・モジュールをさらに備える、請求項15記載の端末装置。
【請求項20】
請求項1から14のいずれか一項記載の方法を実施するように構成された衛星通信システムにおけるコンピュータ装置と少なくとも1つの端末装置とを備えるシステムであって、該コンピュータ装置は、前記動的軌道モデルを推定し、前記動的軌道モデルを、請求項1の少なくともステップ(3)、(4)、(5)を行う該少なくとも1つの端末装置に提供するように構成されている、システム。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<優先権文献>
本願は、2016年12月22日に出願されたオーストラリア仮特許出願第2016905314号、名称「SYSTEM AND METHOD FOR GENERATING EXTENDED SATELLITE EPHEMERIS DATA」に対する優先権を主張し、同出願の内容は参照により全体が本明細書に援用される。
【0002】
本開示は、衛星軌道に関する。特定の形態では、本開示は、衛星エフェメリス(ephemeris)データを生成する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
地球を周回する軌道にある人工衛星は、遠隔通信および測位の用途に使用されることがある。そのようなシステムでは、地球の表面上またはその近傍に位置するデバイスが、衛星からの信号を受信するか、または衛星に信号を送信する。これらの用途の多くでは、軌道にある衛星の精密な位置を知ることが必要である。例えば、全地球測位システム(GPS)は、相対論的効果を考慮する必要があるほど精密にシステムの衛星の位置を判定できることに依拠する。いくつかの遠隔通信用途では、高度に指向性の(場合によっては操縦可能な)アンテナを衛星の方に向ける必要がある。
【0004】
他の用途では、衛星の精密な位置は必要とされず、むしろ各衛星通過のタイミングを予測する必要がある。衛星通過とは、地上の観察者にとって衛星が有用である時間期間を言う。例えば、これは、衛星が観察者に対して任意の最小の仰角を超えている時間間隔であり得る。
【0005】
多くの衛星通信および測位システムに対する主要な要件の1つは、地上のデバイスが衛星通過を予測できることである。GPSシステムの場合、各衛星の通過時刻を知ることにより、GPS受信機は任意の特定の時に見るべき衛星を知ることができ、それによりGPS受信機は衛星を迅速に取得し、その衛星にロックすることができ、その結果、最初の位置算出までの時間が短縮する。すなわち、GPS受信機は、この情報を使用して、ユーザ(またはユーザ・デバイス)に対して位置推定値を迅速に作成することができる。多くの補助GPSシステムは、ユーザ体感を改善する(すなわち待ち時間を短縮することによる)ために、最初の位置算出までの時間を可能な限り短く短縮する(例えば秒以下)ことに着目する。
【0006】
通信システムでは、通過時刻を知ることにより、トランシーバ・デバイスは、どの通信と通信すべきか、およびどの時間に通信すべきかを知ることができる。そのようなシステムでは、最初の位置算出までの時間はそれほど重要ではないが、一般には電力を浪費するため、一般には最初の位置算出までの時間は数十分から数時間ではないことが望ましい。
【0007】
通過時刻を推定するための既存の方法は軌道予測アルゴリズムに基づいており、これらのアルゴリズムは、通例は2行要素(TLE(two-line element))であるエフェメリス・データ(または軌道要素)を使用して衛星の軌道をモデル化する。SGP4アルゴリズム(Felix R.Hoots and Ronald L.Roehrich, “Models for propagation of NORAD element sets”, Technical Report 3, Spacetrack, 1988)は、TLEデータに使用するために設計された軌道予測アルゴリズムの一例である。
【0008】
これらの方法は、衛星の位置および通過タイミングの非常に正確な予測を提供することができる。しかし、これらの方法はTLEデータが古過ぎない場合にのみ有効であることは十分に立証されている。TLEデータに使用される標準的なSGP4予測器は、TLEデータが約一カ月以上経過すると、非常に不正確になる。この不正確さは、(a)軌道ドリフト、および(b)予測器自体の不正確さ、という2つの主要な影響に起因し得る。
【0009】
衛星の軌道パラメータは、時間と共に変化することがある(自然力に起因するか、または衛星の外部制御に起因するかのいずれか)。一部の衛星は厳密に制御された軌道にあり、「軌道上」にあり続けるために推進剤を費やす。例えば、中地球軌道(MEO)にあるGPS衛星の軌道は、衛星を望ましい軌道に保つために、常に監視され、頻繁に調節される(例えば毎週から数カ月ごとの時間スケール)。
【0010】
他の衛星は、無制御であるかまたは弱い制御のみを受けている場合がある。ここでは、そのような衛星をまとめて最小制御衛星と呼ぶことにする。これは、多くの場合、多量の推進剤を積んでおらず、ステーション維持の目的というよりは、衝突回避のために操縦動作を確保しておく、低地球軌道にある小型の衛星が該当する。
【0011】
太陽同期軌道は、衛星が常に同じローカル太陽時に赤道上空(または実際には地球表面上の任意の地点)を通過するように設計される。これらの軌道は、地球の非球面性によって軌道が正確に一年に一回歳差運動するように、傾き(通例は近極)と高度との精密に選ばれた組み合わせを用いて設計される。実際には、これは厳密にはならず、無制御の軌道は意図される面からドリフトすることになる。
【0012】
図1は、名目上は太陽同期軌道にある小型衛星についての昇交点の平均ローカル時刻(MLTAN)(過去のTLEデータから取得された)の曲線1をプロットしている。横軸は打ち上げからの日数を示している。縦軸は、UTC時間で表された、昇交点の平均ローカル時刻を示している。軌道は太陽同期となるように設計されているが、その軌道面は、一年につきおよそ1時間ずつドリフトする。これらのようなシナリオに期限切れのTLEデータを使用すると、結果として不正確な予測となる。図1の例では、期限切れになって1年が経過したTLEでは、少なくとも1時間の誤差が生じることになる。そのため、衛星の獲得または衛星との通信を試みる地上端末は、衛星が視界になかった間に衛星の獲得を試みて1時間分の電力を浪費するか、または、衛星が当該メッセージを受信することを誤って予想したメッセージを送信する可能性があり、その場合、メッセージは失われる可能性があり、またはメッセージの再送信を試みて電力が浪費される可能性がある。しばしば、電力は衛星端末にとって貴重な資源である。
【0013】
一方、図2は、制御された太陽同期軌道にある衛星についての昇交点の平均ローカル時刻(MLTAN)の曲線をプロットしている。軌道面の変動は、約4年後に、図1における約4時間と比べてわずか数分である(両図のスケールの違いに注意されたい)。
【0014】
軌道ドリフトを見越して、SGP4予測アルゴリズムが「新鮮でない」TLEデータに使用されると、安定軌道の場合でも、アルゴリズム自体が不正確な結果を生ずることになる。例えば、図2に示す制御軌道衛星は、その軌道面を一カ月につき約40秒変動させる。しかし、期限切れになって6カ月が経過したTLEをSGP4に使用すると、通過タイミングの不正確さは1時間を越える結果となる。
【0015】
衛星システムは現在、衛星の位置およびダイナミクスを定期的に観測し、更新されたTLEデータを作成し(一日につき数回)、更新されたデータを、最新のTLEを必要とする地上のデバイスに定期的に送信することにより、この問題を解決している。例えば、GPSシステムでは、衛星は4時間の間有効である新しいエフェメリスを2時間おきにブロードキャストし、すべての衛星が、そのフレーム構造の一部としてすべてのエフェメリス・データを含んでいる完全なアルマナック(almanac)を継続的に送信する(完全なアルマナックは衛星からダウンロードするのに12.5分かかる)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかし、更新されたエフェメリス・データを送信するには、更新すべきデバイスへの通信リンク(または複数のリンク)の存在が前提となる。例えば、GPSシステムでは、エフェメリスはGPS衛星から取得されることがあり、または、補助GPSシステムでは、これは地上の送信機によって、または別のデータ・リンクを通じて提供されることがある。しかし、多くの衛星通信システムでは、デバイス(端末)への通信は、高費用であるか、利用不可能であるか、またはその他の理由で望ましくないことがある。そのため、いくつかの用途では、衛星通過タイミングの適度に正確な推定値を見つけることができる期間を拡張することに関心が持たれ得る。それらの用途には以下が含まれる。
1.)エフェメリス・データを定期的に更新することが難しいかまたは不可能であり得る、低帯域幅または断続的な通信リンクを備えるシステム、
2.)例えば一方向通信デバイスなど、エフェメリス・データを遠隔から更新する能力を持たないシステム、
3.)データ通信コスト、バッテリ使用、または他のコストのいずれかの点から、定期的にエフェメリス・データを更新するコストが高すぎるシステム、および
4.)デバイスに送信されるエフェメリス・データの通信妨害または電波妨害によって影響され得るシステム。
【0017】
そのため、エフェメリス・データの更新が必要となるまでに端末デバイスが何カ月またはそれ以上にわたってエフェメリス・データを記憶もしくは生成できるように、拡張された衛星エフェメリス・データを生成するシステムおよび方法を提供するか、または少なくとも現在のシステムおよび方法の代替物を提供する必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本明細書に記載される実施形態は、現在のTLEおよびSGP4などの軌道予測器を使用して、現在可能なよりもはるかに長い時間枠にわたって衛星通過時刻を正確に予測するために使用することができる。
方法は、衛星の過去のエフェメリス・データが提供される衛星端末内で実施することができ、または、方法は、コンピューティング装置が動的軌道モデルの過去のエフェメリス・データを推定し、この動的軌道モデルが衛星端末に提供される通信システム内で分散させることができる。端末は、動的軌道モデルを使用して所望の時刻(すなわち、衛星への送信または衛星からの受信のためにウェイクアップ時刻をスケジュールしたい時)における合成軌道要素を生成し、その後これらの合成軌道要素(例えば合成TLE)はSGP4のような標準的な軌道予測器などの軌道予測器に渡される。
【0019】
第1の態様によれば、端末装置が使用するための衛星の拡張された衛星エフェメリス・データを生成する方法が提供され、該衛星は最小制御衛星であり、方法は、
衛星の過去のエフェメリス・データを受信するステップであって、衛星は最小制御衛星である、ステップと、
受信した過去のエフェメリス・データを使用して、衛星についての軌道パラメータのセットの時間的進展の推定値を生成するための動的軌道モデルを推定するステップと、
動的軌道モデルを端末装置に提供するステップであって、端末は動的軌道モデルを記憶する、または記憶された動的軌道モデルを更新する、ステップと、
端末装置により、動的軌道モデルを使用してエポック時刻における合成軌道要素のセットを生成するステップと、
端末装置が合成軌道要素のセットを軌道予測器に提供して、予め定められた端末位置に対応する1つもしくは複数の衛星通過時刻の推定値、または所定の将来の時刻における1つもしくは複数の衛星ロケーションを取得するステップと、を含む。
【0020】
一形態では、動的軌道モデルを推定するステップは、端末装置から遠隔にあるコンピューティング装置によって行われ、動的軌道モデルは、端末装置に送信またはアップロードされる。
【0021】
軌道パラメータのセットは、軌道にある最小制御衛星の運動をモデル化するのに充分なパラメータの任意のセットであり、動的軌道モデルは、各軌道パラメータを直接または間接的にフィットさせるように構成される。一形態では、軌道パラメータのセットは、ケプラー軌道パラメータ(a、e、i、Ω、ω、M)を含み、過去のエフェメリス・データは、時間期間t=(t,t…,t)にわたる軌道パラメータ(a[t]、e[t]、i[t]、Ω[t]、ω[t]、M[t])の値のセットを含み、動的軌道モデルを推定するステップは、軌道パラメータ(Ω、ω、M)についての過去のエフェメリス・データと、時間期間tにわたる衛星の平均運動とにモデルをフィットさせ、各軌道パラメータ(a、e、i)に対して時間期間t内で最も最近の時間点(t)に対応する軌道パラメータの値を使用することを含む。別の形態では、動的軌道モデルを推定するステップは、軌道パラメータ(a、e、i、Ω、ω、M)についての過去のエフェメリス・データと、時間期間tにわたる衛星の平均運動ρとにモデルをフィットさせることを含み、ここでtは時間期間t内で最も最近の時間点の時刻である。さらなる形態では、モデルをフィットさせるステップは、軌道パラメータ(a、i、Ω、ω、M)については線形最小二乗モデルをフィットさせ、(e)については非線形最小二乗モデルをフィットさせることを含む。一形態では、時間点tは、最も最近の軌道パラメータ・データの時刻であり、時間期間は少なくとも、tに先行しかつtを含んだ2週間を含む。
【0022】
一形態では、エポック時刻は、予め定められた対象の時間期間の直前に発生する、衛星の昇交点通過の時刻である。さらなる形態では、上記方法は、
時間期間t=(t,t…,t)にわたる平均運動ρに対して線形フィットρ=mρt+cρを行って勾配パラメータmρおよびオフセットcρを取得し、
【数1】

もしくはmρ=0の場合はT=K/ρを使用して、最も最近の軌道パラメータ・データの時刻tからの、衛星が次のK回の完全な軌道を完了するための所要時間Tを求めるステップ、または、
時間の関数としての過去の軌道番号に対して線形フィットを行って完全な軌道の数Kの推定値を取得し、時間に対する軌道番号の導関数から平均運動ρを推定し、推定される平均運動ρを使用して、最も最近の軌道パラメータ・データの時刻tからの、衛星が次のK回の完全な軌道を完了するための所要時間Tを求めるステップと、をさらに含む。
所要時間Tが取得されると、Tepoch=t+Tを使用してエポック時刻が求められる。
【0023】
一形態では、モデルをフィットさせるステップが、ロバスト・フィッティング法を使用することを含む。さらなる形態では、線形モデルをフィットさせるためのロバスト・フィッティング法は、Theil-Senロバスト線形フィッティング法を使用することを含む。一形態では、動的軌道モデルを使用してエポック時刻における合成軌道要素のセットを生成するステップは、エポック時刻を使用して、外挿された軌道要素を計算することを含む。一形態では、予め定められた端末位置は、端末装置のメモリに記憶された位置である。一形態では、端末は衛星測位システム受信機をさらに備え、予め定められた端末位置は衛星測位システム受信機から取得される。
【0024】
第2の態様によれば、衛星通信システムで使用するための端末装置が提供され、衛星は最小制御衛星であり、端末装置は、
少なくとも1つのアンテナと、
少なくとも1つのアンテナを使用して衛星にデータを送信するように少なくとも構成された通信モジュールと、
少なくとも1つのプロセッサおよびメモリと、を備え、メモリは、第1の態様の端末装置ステップをプロセッサに行わせる命令を備えている。
【0025】
一形態では、端末装置は、通信モジュールを介して過去のエフェメリス・データを受信し、動的軌道モデルを推定するように構成されている。一形態では、端末装置は、端末装置の位置推定値を軌道予測器に提供するように構成された衛星測位システム受信機をさらに備える。一形態では、メモリは、端末装置の位置の推定値を記憶するように構成され、位置を軌道予測器モジュールに提供するための命令を含む。一形態では、端末装置は、衛星通過時間期間の推定値を受信し、推定される衛星通過時間期間中に端末装置をウェイクアップさせるように構成されたアラーム・モジュールをさらに備える。
【0026】
第3の態様によれば、第1の態様の方法を実施するように構成された衛星通信システムにおけるコンピューティング装置と端末装置とを備えるシステムが提供され、該コンピューティング装置は、動的軌道モデルを推定し、動的軌道モデルを、第1の態様の方法の少なくとも最後の3つのステップを行う少なくとも1つの端末装置に提供するように構成されている。
【0027】
本開示の実施形態を、以下で添付図面を参照して解説する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】名目上は太陽同期軌道にある小型衛星についての昇交点の平均ローカル時刻(MLTAN)の曲線のプロットである。
【0029】
図2】制御された太陽同期軌道にある衛星についての昇交点の平均ローカル時刻(MLTAN)の曲線のプロットである。
【0030】
図3】楕円軌道およびその楕円軌道を定義する6つのケプラー軌道要素の概略プロットである。
【0031】
図4】一実施形態に係る端末装置が使用するための衛星の拡張された衛星エフェメリス・データを生成する方法のフローチャートである。
【0032】
図5A】一実施形態に係る衛星軌道の準主軸aの過去の値のプロットである。
【0033】
図5B】一実施形態に係る衛星軌道の離心率eの過去の値のプロットである。
【0034】
図5C】一実施形態に係る衛星軌道の傾きiの過去の値のプロットである。
【0035】
図5D】一実施形態に係る衛星軌道の赤経昇交点Ωの過去の値のプロットである。
【0036】
図5E】一実施形態に係る衛星軌道の近地点の引数ωの過去の値のプロットである。
【0037】
図5F】一実施形態に係る衛星軌道の平均近点離角Mの過去の値のプロットである。
【0038】
図6】一実施形態に係る衛星の平均運動のプロットである。
【0039】
図7】一実施形態に係るエポックの予測を実際のエポックと比較するプロットである。
【0040】
図8A】一実施形態に係る衛星軌道の推定される準主軸aの時間の誤差のプロットである。
【0041】
図8B】一実施形態に係る衛星軌道の推定される離心率eの時間の誤差のプロットである。
【0042】
図8C】一実施形態に係る衛星軌道の推定される傾きiの時間の誤差のプロットである。
【0043】
図8D】一実施形態に係る衛星軌道の推定される赤経昇交点Ωの時間の誤差のプロットである。
【0044】
図8E】一実施形態に係る衛星軌道の推定される近地点の引数ωの時間の誤差のプロットである。
【0045】
図8F】一実施形態に係る衛星軌道の推定される平均近点離角Mの時間の誤差のプロットである。
【0046】
図9】一実施形態に係る端末装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下の説明では、同様の参照符号は、すべての図を通じて同様のまたは対応する部分を指し示す。
【0048】
次いで、端末装置が使用するための衛星の拡張された衛星エフェメリス・データを生成する方法の実施形態について説明する。この新しい方法は、現在のTLEおよびSGP4などの軌道予測器を使用して、現在可能なよりもはるかに長い時間枠にわたって衛星通過時刻を正確に予測するために使用することができる。この方法の実施形態は、無制御軌道または最小制御軌道にある衛星に特に適用可能である。大まかには、過去の軌道パラメータ・データ(例えば過去のTLEから取られる)を使用して、軌道パラメータの将来の値の予測器を構築する。その後、軌道パラメータ予測モデルが端末装置に記憶され(または既存のモデルが更新されることができ)、所望のエポックに、予め記憶された軌道パラメータ予測器を使用してそのエポックに対応する衛星の軌道パラメータの推定値を作成する(すなわち合成または予測TLE)。その後、予測された軌道パラメータを軌道予測器への入力として使用して、例えば衛星通過時刻または衛星がいつ端末に対して特定の位置に来るかを判定するために、衛星のロケーションの推定値を作成する。
【0049】
表1にリストされ、図3に例示される6つのケプラー軌道要素によって楕円軌道3を記述することができる。この表は、以降で使用される表記および単位も紹介している。単位の選択は任意であり、例えば、角度量は、代わりにラジアンおよびメートル単位の距離で表されることも可能である。
【表1】
【0050】
ケプラー・モデルは理想化されており、地球軌道にある物体に関するいくつかの追加的な影響、例えば、大気抵抗、太陽および月への重力による引力を考慮に入れない。しかし、この実施形態では、この理想的ケプラー・モデルを使用すれば十分である。他の実施形態では、これらの追加的な影響を考慮に入れるモデルを使用することもできる。
【0051】
数量ω、e、Ω、i、aは、軌道楕円の幾何学的形状および地球に対するその向きを記述し、一方、Mは、軌道における衛星の位置を記述する(すなわち楕円上の点)。離心率eおよび準主軸aは、楕円に関係する通常の数量である。さらに、aは、主天体からの衛星の平均距離である。傾きiは、地球の回転軸に対する軌道面の角度傾斜である。赤道軌道はi=0度であり、極軌道はi=90度である。昇交点は、軌道を回っている物体が赤道面を南から北に交差する、軌道内の点である。赤経昇交点Ωは、春分点から測定した昇交点の角距離(経度)である。近地点の引数ωは、軌道の周りで昇交点から地球に最も近い軌道内の点まで測定される角距離である。
【0052】
Tを軌道周期とし、n=360/Tを時間単位当たりの度単位の平均角運動とする。衛星が時刻tに近地点にあり、現在の時間がt+Δtであるとする。すると、平均近点離角は以下となる。
M=n・Δt 式(1)
【0053】
これは、周期Tの円軌道にある仮想上の衛星が同じ量の時間内に進むであろう、近地点から測定された角度である。あるいは、離心近点角Eを使用することができ、これら2つの数量が、
M=E-esinE 式(2)
を介して関係付けられ、円軌道の場合、e=0およびM=Eである。
【0054】
図4は、端末装置100が使用するための衛星4の拡張された衛星エフェメリス・データを生成する方法のフローチャート10である。この方法は、衛星4が最小制御される衛星通信システムで使用するのに特に適する。上記で定義したように、これは、例えば、6カ月に一度、一年に一度、数年に一度、緊急状況時のみに補正されるか、または全く補正が行われないなど、低頻度のみで、小さい量(すなわち小さいΔv)だけ補正される衛星である。多くのマイクロサット、ナノサット、およびキューブサットを含む多くの低地球軌道衛星はこの基準を満たす。図4を参照すると、どこで演算が行われるかによって定義される2つの主要な演算ブロック11、21がある。第1の主要コンポーネント11は、衛星4の軌道パラメータ(例えばケプラー軌道パラメータ)の時間的進展の動的軌道モデル20を推定するためのソフトウェア・モジュールである。下記で説明するように、推定またはフィッティング工程14は、過去のエフェメリス・データ12にモデルをフィットさせ、動的軌道モデル20をまとめて定義するモデル・パラメータのセット18を取得する。
【0055】
動的軌道モデル11のこの推定は、端末装置100とは異なるコンピューティング装置(またはシステム)で行われる、オフラインまたはリモートの演算16として行われてよい。例えば、これは、過去のエフェメリス・データ12にアクセスできる、独立型コンピュータ、スマートフォン、クラウド・サーバ等であってよい。いくつかの実施形態では、このコンピューティング装置は、衛星通信システムの中央ハブ内に、または衛星通信システムの中央ハブとして働くクラウド・ベースのサーバ上に位置する。これは、継続的に、毎月など周期的に、または6カ月もしくは12カ月ごとのようにより低頻度で、または要求に応じて行うことができる。生成されると、これは周期的に端末装置100に提供される。これは、データ接続が利用可能な時は有線もしくは無線のリンクを通じて、もしくはリモートの更新手順の一部として提供されてよく、または例えばサービス時などに手動でアップロードされてもよい(例えばUSBなどの物理的データ接続により)。
【0056】
あるいは、過去のエフェメリス・データ12が端末装置に供給されるかまたは端末装置によって取得される場合、端末装置は、この推定工程を時折デバイス上で行い、これを使用して記憶された動的軌道モデルを更新することができる。例えば、端末装置は、時折遠隔から更新され、サービスされ(例えば年に一度のサービス)てよく、または過去のエフェメリス・データを取得できるように時折データ接続へのアクセスを有してもよい。
【0057】
動的軌道モデルが端末装置の外部にある供給源から生成された場合、動的軌道モデルは端末装置に送られるか、または提供される。動的軌道モデルが端末装置に対して利用可能になると、動的軌道モデルは端末装置によって記憶されるか、または、新たに計算されたモデル・パラメータに基づいて、以前に記憶された動的モデルが更新(もしくは置換)される。
【0058】
第2の主要な演算ブロック21は、動的軌道モデルが生成され11、端末装置のメモリに記憶された後に、端末装置100上で行われる。このブロックで、端末装置は、記憶された動的軌道モデル(またはより具体的にはモデル・パラメータのセット18)を使用して、衛星通過時刻の予測値40、および/または衛星位置42、および/またはデバイスに対する衛星位置44を取得する。この工程は、衛星のセット(またはコンステレーション)ごとに行うことができる。1つの実施形態では、端末装置はアラーム・モジュール46を備え、アラーム・モジュール46は、低電力のスリープ・モードから端末装置をウェイクさせて、衛星が端末装置の視界内にあると推定される時に衛星の1つにデータを送信するかまたは衛星の1つからデータを受信するために、この情報を使用して対象の1つまたは複数の衛星の通過時刻40を判定する。
【0059】
方法は大まかに、動的軌道モデル20を使用してエポック時刻28における合成軌道要素のセット32を生成することを含む。このことは、内部クロック、外部クロック、またはUTCに同期されたタイミング源などの時刻源22から参照時刻24を取得することを伴う。エポック演算26を行って、合成軌道要素のセット32を生成することが望まれる適切なエポック時刻を求める。通例、これは、衛星のロケーションが予測されることになる所望の時間よりも前の短い量の時間である。1つの実施形態では、エポック時刻は、参照時刻に対する昇交点の最も最近の時刻など、軌道モデルに依存するか、または軌道モデルに基づいて選択される。エポック時刻演算26が行われ、エポック時刻28が取得されると、軌道要素予測器モジュール30が、動的軌道モデル20についてのモデル・パラメータのセット18を使用して、そのエポックに対応する軌道要素のセット32を生成する。これらを、ローカルに生成された推定値であることを示すために合成軌道要素と呼ぶことにする(衛星または参照源によって送信された軌道要素に対して)。合成軌道要素32は、ケプラー・パラメータのセット、または軌道予測器34が使用するためのTLEなど、予め定められた軌道要素のセットを備える。その後、合成軌道要素32は、SGP4、J2、または何らかの他の代替物などの軌道予測器32に提供される。軌道予測器24は、衛星42の絶対ロケーション、および/または端末位置38が既知である場合には端末装置に対する衛星位置44、および/または端末の位置が既知である場合には1つまたは複数の通過時刻40を予測するために使用される。端末装置38デバイスのロケーションは位置源36から取得され、位置源36は、静止デバイスの場合には端末装置の既知の位置を記憶するメモリであってよく、または位置38はGPSなどの測位サービス36から取得されてもよい。この方法の実施形態について以下でより詳細に解説する。
【0060】
上記で概説したように、動的軌道モデル20の推定は、軌道予測器が使用するための改善された(また長期間有効な)軌道要素を予測するために当該パラメータを使用することを可能にする軌道モデルを定義する軌道パラメータ18の時間的進展をモデル化することに基づく。以下の実施形態では、軌道モデルはケプラー・パラメータとして表されるが、この選択は任意であり、便宜上採用されるに過ぎない。この軌道モデルは、通例は低地球軌道に見られる、無制御の太陽同期衛星などの無制御衛星、ならびにやはり通例は低地球軌道に見られる最小制御衛星に適する。モデルによって使用されるモデル軌道パラメータのセットは、軌道にある最小制御衛星の運動をモデル化するのに十分なパラメータの任意のセットである。他の実施形態では、より精緻化された軌道モデルと、座標系をモデル化するためのパラメータの他の選択とを使用することができる。同様に、記載される方法は、他の種類の軌道に対する用途を有し、それらの軌道への用途は、本明細書に記載される技法の単純な発展である。
【0061】
時間期間Tにわたる過去の軌道パラメータ・データ12を使用して、それらの軌道パラメータが時間と共にどのように進展したかと整合するモデルを開発またはフィットし、それを使用してこれらの軌道パラメータ18の将来の値を予測することができる。図5A~5Fは、先の図1の例と同じ低地球軌道衛星についてのケプラー要素の過去の値を示す。横軸は打ち上げからの日数である。Ω、ω、およびMに対応する角度は「アンラップ(unwrapped)」である。図5Aは、準主軸aの過去の値の曲線51を示し、図5Bは、離心率eの過去の値の曲線52を示し、図5Cは、傾きiの過去の値の曲線53を示し、図5Dは、赤経昇交点Ωの過去の値の曲線54を示し、図5Eは、近地点の引数ωの過去の値の曲線55を示し、図5Fは、平均近点離角Mの過去の値の曲線56を示す。
【0062】
これらの図から、Mは時間と共に線形に進展することが見て取れる(またこれは式(1)から予想される)。興味深いことに、ωおよびΩは両方とも時間と共に線形に進展するようにも見える。a、i、およびeはそれほど線形ではないが、それらは大きく変動してもいない。そのため、1つの実施形態では、軌道パラメータについてのモデルは以下のように生成される。ここでは、a、e、i、Ω、ω、Mの各値の最も最近の組がいくらかの時間期間(または時間の間隔)Tにわたって入手可能であるとする。tを時間変数とし、時間期間tにわたる時刻インスタンスt=(t,t...,t)についてのデータを持っているものとする。時刻インスタンスtは、時間期間t内で最も古い時間点であり、tは時間期間tの間で最も最近の時間点である。時刻インスタンスは、軌道パラメータの発行の時刻、または特定の軌道位置(例えば軌道の開始や、軌道内での参照点)などの任意の事象のエポック時刻であってよい。対象の時間期間t内で最も最近の時間点tは、最も最近の軌道パラメータ・データの時刻(すなわちそれ以降軌道パラメータ・データが発行されていない)であってよく、または多少古いものであってもよいが、好ましくは過去1カ月以内または最も最近の軌道補正以降のものである。時間期間は、直前の2週間(tに先行し、かつtを含む)、直前の1カ月にわたるか、または、軌道パラメータ・データの最も最近の発行(t)から最も最近の軌道補正までの時間期間であってよい。いくつかの実施形態では、時間期間は、直近のn個のデータ点によって定義されてよい(すなわち、直近の10、20、または30個の値のみを使用することができる)。これらの時刻インスタンスは、時間期間にわたって規則的な間隔である場合も、そうでない場合もある(またTLEデータの場合は通例そうではない)ことに留意されたい。さらに、時刻インスタンスは、最初の時刻インスタンスと最後の時刻インスタンスとの間でデータが発行されたあらゆる時刻インスタンスである必要はない(すなわち時間期間は連続した時間点を備える必要がある)。例えば、1つおきのデータ点を使用することができ、または1日につき単一のデータ点がいくらかの時間期間にわたって使用されてもよい等である。a[t]、e[t]、i[t]、Ω[t]、ω[t]、M[t]のそれぞれを、所与の時刻tにおける軌道パラメータの各値とする。
【0063】
そして、例えば、線形もしくは非線形の回帰もしくはフィッティング技術を使用するか、またはカルマン・フィルタ(および関連するカルマン予測器)もしくはベイズ推定器などの代替の推定技術を使用することにより、各時系列データ・セットに対してモデルをフィットさせる。本明細書の文脈では、モデルのフィッティングは、回帰技術およびそれに関係する推定技術の両方を伴う。
【0064】
フィッティング技法は、対象の特定のパラメータに合わせて選択されるべきである。例えば、線形最小二乗を使用して、およそ線形に進展するパラメータについてのフィッティング・パラメータを取得することができる。あるいは、例えば二次または正弦など、より高次の多項式フィットまたは非線形の周期関数が適することもある。ノイズのあるデータに対して線形関数または二次関数などの多項式をフィットさせることは標準的な問題であり、応用することが可能なよく知られた解を有する。データによっては、非線形最小二乗などの非線形フィッティングを使用することが有利であり得る。ここでも、すでに利用可能となっているそのようなアルゴリズムの多数の選択肢がある。一部の場合では、適切なフィッティング関数の選択は、反復的な工程であり得る。例えば、線形フィットが剰余における構造または湾曲を示す場合、このことは非線形の二次または多項式フィットがより適することを示す可能性があり、その後、そのようなアプローチを使用してデータが再フィットされてよい。あるいは、高次多項式(例えば3次式)を使用してフィッティングが行われてよく、その後重要でない項が除去され、データが再フィッティングされてよい。フィッティング技法は、各軌道パラメータを直接フィットさせても、または間接的にフィットさせてもよい。例えば、モデル・フィッティングは、変数の変化、変数の関数を利用する、および/または座標の変換を利用するなどにより、ケプラー・パラメータに基づくモデルをフィットさせてよい。例えば、1つの実施形態では、平均近点離角Mを直接フィットさせるのではなく、平均近点離角の代わりに衛星の真の近点離角を使用/フィットし、真の近点離角から平均近点離角が導出される。同様に、平均近点離角の代わりに衛星の離心近点角を使用し/フィットさせ、ケプラーの方程式により離心近点角から平均近点離角が導出される。別の実施形態では、平均運動の代わりに衛星の軌道番号を使用し/フィットさせ、時間に対する軌道番号の導関数として平均運動が導出される。
【0065】
また、ロバスト・フィッティング(またはロバスト回帰)法を使用して外れ値の影響を低めに考慮してもよい。取得された過去のデータの一部は、(a)ノイズがある/信頼性が低いか、または(b)例えば小さな操縦に起因する外れ値を含むことがある。そのような場合には、外れ値を予め考慮するかまたは低めに考慮するロバスト・フィッティング(または回帰)アルゴリズム、例えば、反復的に重み付けが更新される最小二乗、least trimmed squares、またはTheil-Sen法のようなロバスト技術を使用することが有益であり得る。Theil-Sen法は、サンプル点のすべてのペアを通るすべての線の勾配の中央値(厳密には、それぞれ異なるx座標をもつ点のペアからのみ定義された勾配の中央値)を選ぶことにより、サンプル点を通るように線をフィットさせる。ロバスト・フィッティング法の使用は、データの量をオフセットするためにも使用することができる(例えば、ロバスト・フィッティング法が使用される場合、nはより小さくてもよい)。場合によっては、例えば、多重線形回帰(ロバスト・フィッティング法の使用を含む)などの一般的な線形モデル化アプローチを使用して、パラメータの一部またはすべての合同フィッティングが行われてもよい。
【0066】
図5の観察に基づき、表2は、一実施形態に係るフィッティング技法を概説する。
【表2】
【0067】
図5は、パラメータ(e、i、a)の変動が小さいことを示している。そのため、1つの実施形態では、回帰フィッティングはパラメータ(Ω、ω、M)のみに行われ、パラメータ(e、i、a)は最も最近の(すなわちtの時の)過去の値に設定される。これは、例えば、これらの値がゆっくりと変化していたことを示す過去のデータの以前の分析に基づいて予め決定されてよく、または過去のデータの分析の一部として動的に行われてもよい。例えば、フィットされるパラメータの閾値が予め定められてよく、フィットされた値がこれらの事前に定義された変数よりも小さい場合、パラメータは最も最近の(すなわちtの時の)過去の値に設定される。
【0068】
ケプラー軌道パラメータの動的推定値を取得することに加えて、下記で説明されるエポック演算は、衛星の平均運動についてのモデルを必要とする。これは、ここでも、他のパラメータに関して上記で説明したのと同様にして、例えば過去のデータに対する線形最小二乗フィットを使用して、フィッティング(または回帰)によって取得されてよい。ρが平均運動である場合、1つの実施形態では、線形最小二乗フィットで、最良フィットの線mρt+cρを記述するmρ、cρが見つかる。1つの実施形態では、平均運動の代わりに衛星の軌道番号がフィットされ、平均運動は、時間に対する軌道番号の導関数として導出される。
【0069】
動的軌道モデル20は、フィッティング・ステップ14中に求められたモデル・パラメータ18からなる(平均運動を含む)。動的軌道モデルは、フィットされたパラメータの誤差(推定も行う場合)を含むこともあり得る。いくつかの実施形態では、動的軌道モデルによってフィットされる軌道パラメータのセットは、軌道にある最小制御衛星の運動をモデル化するのに十分なパラメータの任意のセットである。例えば、一部の軌道パラメータは、大幅には変動しない可能性があり、そのため固定値に設定され、モデルによってフィットされなくてよい。
【0070】
動的軌道モデルが端末装置100によって取得され、記憶されると、端末装置100はこれを使用して取得することができる。方法は、エポック演算26と、エポック30における軌道パラメータの予測/生成と、その後の、エポックの前後の時刻における衛星ロケーションを予測する標準的な軌道予測器34への入力としてのこれらの「合成」軌道要素(すなわち合成TLE)の提供と、の3つの主要な処理ステップを含む。本発明ではTLEを軌道要素の汎用的な記述子として使用しており、そのため、必ずしもNORADの2行要素だけはなく、軌道パラメータの任意のセットに当てはまることに留意されたい。
【0071】
端末装置は、十分に正確にUTCと同期されている、一日のうちの時刻である参照時刻24を提供する時刻源22へのアクセスを有する。例えば、端末装置は、GPSモジュール、周期的にUTCと同期される安定ローカル発振器、または端末装置100の内部および外部の両方にある何らかの他のタイミング参照源から時刻を取得してよい。
【0072】
大半の軌道予測器(SGP4等)は、入力として、エポックと呼ばれる特定の時刻インスタンスにおける軌道および衛星位置を記述する軌道パラメータのセット(すなわちエフェメリス・データ)を受け取る。多くの場合、エポックが、昇交点の時刻など軌道上の特定の事象と位置合わせされることが利便である。通例は、ただし常にそうではないが、エポックを参照時刻の近傍に設定することを望む。そのため、1つの実施形態では、エポック時刻28は、衛星通過予測の対象となる時間期間の直前に発生する昇交点通過の時刻となるように演算される。
【0073】
を最も最近の過去の軌道パラメータのセットのエポック時刻とし、mρおよびcρを、過去の平均運動データρに対する最良の(ロバストな)線形フィットの勾配パラメータおよびオフセット・パラメータとする。図6は、図5A~5Fに示されるものと同じ衛星の平均運動のプロットを示す。実線61は過去のデータ(30日分の実際のTLEデータ)を示し、破線62は、フィットされたパラメータcρ=14.22699787回転/日、および一日当たりmρ=1.65664×10-6回転の二乗での、Theil-Senのロバスト線形フィットである。
【0074】
ρが周回数/時間の単位で表されるとする(tと同じ単位での時間)。衛星が次のK回の完全な軌道を完了するための所要時間Tを推定したいとする。すると、以下が示されることができる。
【数2】
【0075】
同様の式を他のフィッティング・モデルに対して取得することが可能である。この積分を行い、Tについて解くと、
【数3】
が得られ、ここでは非負の解を取る。mρ=0の場合、ロピタルの定理を使用してT=K/ρを回復できることに留意されたい。
【0076】
式(4)を使用すると、所与の整数の軌道周回数Kに対応するtへのオフセットである適切なTを求めることは単純である。そのため、1つの実施形態では、勾配パラメータmρおよびオフセットcρを取得するために、時間期間t=(t,t...,t)にわたる平均運動ρについてのρ=mρt+cρの線形フィットが行われ、これらはTを求めるために式(4)に提供される。あるいは、時間の関数としての過去の軌道番号についての線形フィットを行い、このフィットを使用して直接Kを推定することにより、完全な軌道の数Kを推定することができる。次いで、平均運動ρの推定値が時間に対する軌道番号の導関数として取得され、次いでこれを使用して、例えば式(4)を使用して所要時間Tを求める。逆に、所与の目標時間オフセットT’については、式(4)を使用して、何らかの整数の軌道周回数に対応する最も近いT(必要に応じてT’の前または後)を容易に見つけることができる。
【0077】
すると、エポックをTepoch=t+Tに設定することができる。例えば、勾配パラメータmρおよびオフセットcρを取得した後に、衛星が次のK回の完全な軌道を完了するための所要時間Tを、Tが対象のタイマ期間T’の開始の直前になるまで、ある範囲のKの値に対して式(4)を使用して推定することができる。すなわち、T≦T’<TK+1となるようにKを探索することができ、その際にT(=T)を取得することができる。これは、初期値(例えば1または1000)で開始し、次いで、時刻が対象の時間期間の開始の前であるか後であるかに応じて、Kを増分または減分することによって行うことができる。あるいは、式(3)においてT=T’を使用することによって式(3)を使用することができ、次いでKの値を最も近い整数に切り捨て(完全な軌道の数を得るため)、次いで式(4)を使用してTを見つける。図7は、本発明の例示的衛星に対するこの工程の結果を示している。エポック時刻は、過去のエフェメリス・データから、図6で取得されたフィットを使用して演算された。実線71は、予測されたエポック時刻と実際のTLEエポック時刻との間の誤差を示している。これより、誤差は約300日後にわずか1分であり、一年後の将来の誤差はわずかおよそ3分であることを見て取ることができる。この誤差の大きさは最終的な衛星通過予測の誤差を支配することになり、よってこれは非常に良好なパフォーマンスを示している。
【0078】
次いで、軌道要素予測器30を使用して、時刻インスタンスTepochについての予測される軌道要素のセット(すなわちエフェメリス・データまたはTLE)を作成する。この予測器30は、入力として、以前に演算されたTepoch28、ならびに上記で演算された軌道モデル・パラメータ34を受け取り、外挿を使用して、所望の参照時間に対応する所望の軌道パラメータを取得する。例えば、本実施形態では以下を演算することになる。
a[Tepoch]=mepoch+c 式(5)
i[Tepoch]=csin(νepoch+θ) 式(6)
Ω[Tepoch]=mΩepoch+cΩ 式(7)
ω[Tepoch]=mωepoch+cω 式(8)
M[Tepoch]=mepoch+c 式(9)
【0079】
他のモデル(例えば、より高次の多項式)およびそれらに対応するフィットされたパラメータを使用して、同様の予測を見つけることができる。例えば、カルマン予測器が、カルマン・フィッティングの工程によって求められたパラメータと共に用いられてもよい。
【0080】
図8A~8Fは、本発明の例示的衛星の軌道パラメータについての時間に伴う絶対誤差のプロットを示している。横軸は、最も最近の過去のデータ点以降の、日単位で測定された時間である。直前の30日間分のデータを使用してフィットを作成した。図8Aは、準主軸aの絶対誤差の曲線81を示し、図8Bは、離心率eの絶対誤差の曲線82を示し、図8Cは、傾きiの絶対誤差の曲線83を示し、図8Dは、赤経昇交点Ωの絶対誤差の曲線84を示し、図8Eは、近地点の引数ωの絶対誤差の曲線88を示し、図8Fは、平均近点離角Mの絶対誤差の曲線86を示している。
【0081】
図8A~8Fは、単純な線形フィットを使用して取得された結果が充分なものであることを例示しているが、前述したようにe、i、ω、およびMに正弦関数をフィットさせることにより、改善された(すなわち低減した誤差)が取得されよう。また、ωおよびMの誤差は相殺される傾向があることにも留意されたい(Mはωからのオフセットとして測定されるため)。これらの図は、350日前後に宇宙船に加えられた小さな調節の影響も明らかにしている。このことは、TLEデータが通例有効である通常の数時間から数日と比べて、エフェメリス・データの有効時間の大幅な延長を意味する。
【0082】
これで更新されたまたは合成の軌道要素を取得したので、SGP4またはJ2(Shraddha Gupta, M.Xavier James Raj, and Ram Krishan Sharma. Short-term orbit prediction with J2 and mean orbital elements. International Journal of Astronomy and Astrophysics, 1:135{146、2011)などの軌道予測器モジュール34が、軌道要素予測器30によって作成された合成軌道要素32を使用して、Tepochに近い時刻における衛星の絶対位置42を推定する。合成軌道要素は、端末装置100の視点からの衛星4の相対位置44(例えば範囲、仰角、方位角)を求めるためにも使用することができる。この場合、端末装置の位置38も必要とされ、位置38は、GPSなどの位置参照源36から提供されるか、または静止している端末装置100の場合はメモリに記憶されてよい。軌道予測器30は、端末装置100から見た次の通過(または複数回の次の通過)の時刻を推定するためにも使用することができる。これには、この場合も、端末装置100のおよその位置38の知識が必要となる。
【0083】
通過時刻を推定する際に、生じ得る誤差(例えば通過時刻プラスまたはマイナス誤差時間)の推定値を報告することも有用であり得る。例えば、デバイスがスリープからウェイクして衛星と通信するために予測通過時刻を使用する用途では、デバイスは少し早くウェイクして、少し長めにウェイク状態のままであることにより、通過時刻の不確定性を考慮に入れることができる。
【0084】
上記で解説したように、エポック演算、軌道要素の予測、および実際の軌道予測は、端末装置上で行うことができる。図9は、一実施形態に係る端末装置100の概略図である。端末装置は、1つまたは複数のアンテナ112を備えたRFフロントなどの通信モジュール110と、符号化および変調を含めて、データを準備し、そのデータを無線周波リンクを通じて衛星4に送信するための関連するハードウェアとを備える。いくつかの実施形態では、通信モジュール110は、衛星または他の供給源からデータを受信(および復号)するようにも構成される。通信モジュールは、RFフロント・エンドと、追加的なハードウェア・コンポーネントおよび/またはソフトウェア・コンポーネントとを備える。受信信号は、RFフロント・エンドによってベースバンドに変換され、メッセージ・データを抽出するための復調および復号などの処理のためにベースバンド受信機に送られる。同様に、端末送信機が、ソース・ビットを受け取り、それらを使用して、変調および符号化方式の適用、ならびに送信サブキャリアおよび電力の選択など、ユーザ端末のRFフロント・エンドを介して送信するためのベースバンド信号を生成する。通信モジュールは、独立型モジュールもしくは基板であってよく、または他のコンポーネントと一体化されてもよい。ソフトウェアによって定義される無線実装が使用されてよく、その場合は、RFフロント・エンドが受信信号をアナログ-デジタル(ADC)変換器に提供し、変換器はスペクトル・サンプルを信号プロセッサに提供する。
【0085】
端末装置は、プロセッサ・モジュール120およびメモリ130も備える。メモリは、軌道モデル20を記憶すること、エポック28を演算または推定すること、軌道要素32の予測を生成すること、およびそれらを軌道予測器に渡して通過時刻または衛星位置を取得することなど、本明細書に記載される方法をプロセッサに実施させるためのソフトウェア命令またはソフトウェア・モジュールを含む。メモリは、所望の時間に(例えば予測される衛星通過時刻の間に)端末をウェイクアップさせるアラーム・モジュールなど、他の機能に関するモジュールを記憶するためにも使用されてよい。電源、クロック、センサ・プラットフォーム等の他のコンポーネントも端末装置に含まれてよい。
【0086】
メモリ130は、動的軌道モデル20およびモデル・パラメータ18を記憶するためにも使用される。端末装置は、過去のエフェメリス・データ12を受け取り、更新された動的軌道モデル20を取得(および記憶)するためのフィッティング工程を行う。あるいは、動的軌道モデル30(および関連するモデル・パラメータ18)は、端末装置に提供されてもよく、端末装置はモデルをメモリ120に記憶する。これは、以前に記憶された値を更新すること、または以前に記憶されたモデルを完全に置換する(もしくはモデルを初めて保存する)ことを伴い得る。
【0087】
過去のエフェメリス・データ12または軌道モデル20は、通信モジュール110を介して提供されてよい。これは、スケジュールされた時刻に取得されてよく、その場合、デバイスはウェイクアップして送信を受信するか、またはデータの送信源の範囲内にある時に時機を見て取得されてもよい(例えば端末装置が可動性である場合)。あるいは、USBインターフェースなどの物理インターフェースが提供されて、サービス時または保守時にこのデータがデバイスに物理的に転送(またはアップロード)されるようにしてもよい。端末は、位置および時刻の推定値を提供するため(すなわち図4のブロック22および36の両方)に使用できるGPS受信機140を有してよい。あるいは、端末装置は、通信モジュール110を介してタイミング情報を受信してもよく、または、端末装置は、例えばサービス時または保守時にUTCと周期的に同期される安定した内蔵クロックを含んでよい。
【0088】
本願は、端末装置が使用するための衛星の拡張された衛星エフェメリス・データを生成する方法およびシステムの実施形態を記載する。これらの実施形態は、最小制御衛星(無制御衛星を含む)に使用するのに特に適する。この方法は、現在のTLEおよびSGP4などの軌道予測器を使用して現在可能なよりもはるかに長い時間枠、例えば数時間/数日から数カ月/一年またはそれ以上にわたって衛星通過時刻または衛星位置を正確に予測するために使用することができる。大まかには、過去の軌道パラメータ・データ(例えば過去のTLEから取られる)を使用して、軌道パラメータの将来の値の予測器を構築する(すなわち動的軌道モデルを構築する)。これは、端末上かまたはオフラインのいずれかで行うことができ、モデルの結果が端末に提供される。
【0089】
動的軌道パラメータ予測モデルが取得されると、モデルは端末装置上に記憶される。そして、所望のエポックに、事前に記憶された軌道パラメータ予測モデルを使用して、そのエポックに対応する衛星の軌道パラメータの推定値を作成する(すなわち合成または予測TLE)。その後、これらの予測された軌道パラメータがSGP4などの軌道予測器への入力として使用されて、例えば衛星通過時刻またはいつ衛星が端末に対して特定の位置に来るかを判定するために、所望の時刻における衛星のロケーションの推定値を作成する。本明細書に示されるように、モデルが生成された時から数百日にわたって衛星ロケーションの正確な推定値を作成することができる。これにより、端末は衛星通過時刻を正確に推定できるため、低電力が分配される端末装置が効率的に動作することが可能となる。これにより、頻繁なエフェメリス・データを受信するためにウェイクアップする、または衛星通過を逃さないようにするために長期間にわたってウェイクアップすることなどによって、端末が不必要に電力を浪費しないことが保証される。
【0090】
本明細書に記載される方法の実施形態は、衛星通過タイミングまたは衛星ロケーションの適度に正確な推定値を見つけることができる期間を拡張することに関心が持たれ得る種々の衛星通信システムで使用することができる。これらには、エフェメリス・データを定期的に更新することが難しいかまたは不可能であり得る、低帯域幅または断続的な通信リンクを備えるシステム、例えば一方向通信デバイスなど、エフェメリス・データを遠隔から更新する能力を持たないシステム、データ通信コスト、バッテリ使用、または他のコストのいずれかの点から、定期的にエフェメリス・データを更新するコストが高すぎるシステム、およびデバイスに送信されるエフェメリス・データの通信妨害または電波妨害によって影響され得るシステム、が含まれる。
【0091】
当業者は、情報および信号は様々なテクノロジーおよび技術のいずれかを使用して表され得ることを理解されよう。例えば、上記の説明全体を通じて参照され得るデータ、命令、コマンド、情報、信号、ビット、シンボル、およびチップは、電圧、電流、電磁波、磁場もしくは磁性粒子、光学場もしくは光学粒子、またはそれらの任意の組み合わせによって表されてよい。
【0092】
当業者はさらに、本明細書に開示される実施形態との関連で記載される様々な説明用の論理ブロック、モジュール、回路、およびアルゴリズム・ステップは、電子ハードウェア、コンピュータ・ソフトウェアもしくは命令、または両者の組み合わせによって実施されてよいことを認識されよう。ハードウェアとソフトウェアとの互換性を明確に例示するために、様々な説明用のコンポーネント、ブロック、モジュール、回路、およびステップについて、上記では概してそれらの機能性の点から説明した。そのような機能性がハードウェアとして実施されるかソフトウェアとして実施されるかは、特定の用途およびシステム全体に課される設計の制約に依存する。当業者は、記載される機能性を特定の用途ごとに異なる方式で実施してよいが、そのような実施の決定は、本発明の範囲からの逸脱を生じさせるものとは解釈すべきでない。
【0093】
本明細書に開示される実施形態に関連して記載される方法またはアルゴリズムのステップは、直接ハードウェアとして、プロセッサによって実行されるソフトウェア・モジュールとして、またはそれら2つの組み合わせとして具現化されてよい。ハードウェア実装の場合、処理は、1つまたは複数の特定用途集積回路(ASIC)、デジタル信号プロセッサ(DSP)、デジタル信号処理デバイス(DSPD)、プログラム可能論理デバイス(PLD)、フィールド・プログラマブル・ゲートアレイ(FPGA)、プロセッサ、コントローラ、マイクロコントローラ、マイクロプロセッサ、もしくは本明細書に記載される機能を行うように設計された他の電子ユニット、またはそれらの組み合わせの中で実施されてよい。
【0094】
いくつかの実施形態では、プロセッサ・モジュール110は、方法のステップのいくつかを行うように構成された1つまたは複数の中央演算処理装置(CPU)を備える。同様に、端末装置に供給される軌道モデルを生成するためにコンピューティング装置が使用されてもよく、コンピューティング装置は1つまたは複数のCPUを備えてよい。CPUは、入出力インターフェースと、演算論理ユニット(ALU)と、制御ユニットと、入出力インターフェースを通じて入力装置および出力装置と通信状態にあるプログラム・カウンタ要素とを備えてよい。入出力インターフェースは、予め定められた通信プロトコル(例えばBluetooth、Zigbee、IEEE802.15、IEEE802.11、TCP/IP、UDP等)を使用して別のデバイス内の同等の通信モジュールと通信するためのネットワーク・インターフェースおよび/または通信モジュールを備えてよい。コンピューティング装置または端末装置は、単一のCPU(コア)もしくは複数のCPU(マルチ・コア)、または複数のプロセッサを備えてよい。コンピューティング装置または端末装置は、並列プロセッサ、ベクトル・プロセッサを使用してよく、または分散コンピューティング・デバイスであってもよい。メモリが、動作可能にプロセッサに結合され、RAMおよびROMコンポーネントを含んでよく、またデバイスまたはプロセッサ・モジュールの内部または外部に設けられてよい。メモリは、オペレーティング・システムおよび追加的なソフトウェア・モジュールまたは命令を記憶するために使用されてよい。プロセッサは、メモリに記憶されたソフトウェア・モジュールまたは命令をロードし、実行するように構成されてよい。
【0095】
コンピュータ・プログラム、コンピュータ・コード、または命令とも呼ばれるソフトウェア・モジュールは、いくつかのソース・コードまたはオブジェクト・コード・セグメントまたは命令を含んでいてよく、RAMメモリ、フラッシュ・メモリ、ROMメモリ、EPROMメモリ、レジスタ、ハード・ディスク、取り外し可能ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、Blu-rayディスク、または任意の他の形態のコンピュータ可読媒体などの任意のコンピュータ可読媒体に常駐してよい。いくつかの態様では、コンピュータ可読媒体は、非一時的なコンピュータ可読媒体(例えば有形の媒体)を備えてよい。また、他の態様には、コンピュータ可読媒体は、一時的なコンピュータ可読媒体(例えば信号)を備えてよい。上記の組み合わせもコンピュータ可読媒体の範囲に含められるべきである。別の態様では、コンピュータ可読媒体は、プロセッサと一体であってよい。プロセッサおよびコンピュータ可読媒体は、ASICまたは関係するデバイスに常駐してよい。ソフトウェア・コードはメモリ・ユニットに記憶されてよく、プロセッサはそれらを実行するように構成されてよい。メモリ・ユニットは、プロセッサの内部またはプロセッサの外部に実施されてよく、外部の場合、メモリ・ユニットは当技術分野で知られる様々な手段を介してプロセッサに動作可能に結合されることができる。
【0096】
さらに、本明細書に記載される方法および技術を行うモジュールおよび/または他の適切な手段は、コンピューティング・デバイスによってダウンロードされるか、および/またはその他の形で取得できることを認識すべきである。例えば、そのようなデバイスをサーバに結合して、本明細書に記載される方法を行うための手段の移送を容易にすることができる。あるいは、本明細書に記載される様々な方法は、記憶手段(例えばRAM、ROM、コンパクト・ディスク(CD)またはフロッピー・ディスクなどの物理記憶媒体等)を介して提供することができ、それによりコンピューティング・デバイスは、記憶手段をデバイスに結合するかまたは提供すると、様々な方法を取得することができる。さらに、本明細書に記載される方法および技術をデバイスに提供するための任意の他の適切な技術を利用することができる。
【0097】
本明細書に開示される方法は、記載される方法を実現するための1つまたは複数のステップまたは動作を含む。これらの方法ステップおよび/または動作は、特許請求の範囲から逸脱することなく互いに入れ替えられてよい。換言すると、ステップまたは動作の特定の順序が指定されない限り、特定のステップおよび/または動作の順序および/または使用は、特許請求の範囲から逸脱することなく変更されてよい。
【0098】
本明細書で使用される場合、用語「推定する(estimating)」または「判定する/求める(determining)」は、幅広い動作を包含する。例えば、「推定する(estimating)」または「判定する/求める(determining)」は、計算すること、演算すること、処理すること、導出すること、調査すること、参照すること(例えばテーブル、データベース、または別のデータ構造内の参照)、確定すること等を含み得る。また、「推定する(estimating)」または「判定する/求める(determining)」は、受信すること(例えば情報の受信)、アクセスすること(例えばメモリ内のデータへのアクセス)等を含み得る。また、「判定する/求める(determining)」は、解決すること、選択すること、選ぶこと、立証すること等を含み得る。
【0099】
明細書および以下の特許請求の範囲の全体を通じて、文脈が別様に必要としない限り、単語「~を備える(comprise)」および「~を含む(include)」ならびに「~を備える(comprising)」および「~を含む(including)」などの変化形は、述べられる整数または整数の群の包含を示唆するが、他の整数または整数の群の排除は示唆しないものと理解されるものとする。
【0100】
本明細書における従来技術への参照は、そのような従来技術が通常の一般的知識の一部をなすという任意形態の示唆の認知ではなく、またそのようにみなすべきではない。
【0101】
本開示は、その使用において記載される1つまたは複数の特定の用途に制約されないことが当業者により認識されよう。また、本開示は、本明細書に記載または図示される特定の要素および/または特徴に関してその好ましい実施形態に制約されることもない。本開示は、開示される1つまたは複数の実施形態に制限されず、以下の特許請求の範囲によって述べられ、定義される範囲から逸脱することなく、多数の再構成、変更、および置換が可能であることが認識されよう。本明細書で使用される場合、項目のリスト「のうちの少なくとも1つ」を言及する語句は、個々の単一の部材を含む、それらの項目の任意の組み合わせを指す。一例として、「a、b、またはcのうちの少なくとも1つ」は、a、b、c、a-b、a-c、b-c、およびa-b-cを網羅することが意図される。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図8F
図9