(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-05
(45)【発行日】2022-04-13
(54)【発明の名称】分析系におけるプロセス中に試料同一性を追跡するための方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20220406BHJP
G01N 30/06 20060101ALI20220406BHJP
G01N 30/46 20060101ALI20220406BHJP
G01N 30/04 20060101ALI20220406BHJP
G01N 35/00 20060101ALI20220406BHJP
G01N 30/72 20060101ALI20220406BHJP
【FI】
G01N27/62 X
G01N30/06 Z
G01N30/46 E
G01N30/04 C
G01N27/62 V
G01N35/00 Z
G01N30/72 C
(21)【出願番号】P 2019534370
(86)(22)【出願日】2017-12-21
(86)【国際出願番号】 EP2017084023
(87)【国際公開番号】W WO2018115243
(87)【国際公開日】2018-06-28
【審査請求日】2020-11-04
(32)【優先日】2016-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ.ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100157923
【氏名又は名称】鶴喰 寿孝
(72)【発明者】
【氏名】ハインドル,ディーター
(72)【発明者】
【氏名】コボルト,ウーベ
(72)【発明者】
【氏名】レンプト,マルティン
(72)【発明者】
【氏名】ザイデル,クリストフ
【審査官】佐藤 仁美
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-507785(JP,A)
【文献】特表2003-529059(JP,A)
【文献】特表2005-538369(JP,A)
【文献】特表2011-519021(JP,A)
【文献】特表2014-522496(JP,A)
【文献】特表2007-522477(JP,A)
【文献】米国特許第7815803(US,B2)
【文献】国際公開第2016/035139(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC
B01J 20/281-B01J 20/292、
G01N 1/00-G01N 1/44
G01N 27/60-G01N 27/70、
G01N 27/92、
G01N 30/00-G01N 30/96、
G01N 35/00-G01N 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析系(112)におけるプロセス中に試料同一性を追跡するための方法であって、分析系(112)が液体クロマトグラフ(102)および質量分析計(104)を含み、該方法が:
-試料(108)を提供し、
-異なる化学物質(132)の組成物(130)を、質量分析計(104)の検出レベルより高い濃度で、試料(108)に添加し、
-試料(108)を組成物(130)とともに、分析系(112)によってプロセシングし、
-試料(108)の単数および/または複数の構成要素を、質量分析計(104)によって検出し、そして測定し、
-異なる化学物質(132)の組成物(130)または組成物(130)の部分を、質量分析計(104)によって検出し、そして測定し、
-化学物質(132)の組成物(130)に相当する物質検出シグナルを含む、質量分析計(104)の物質検出シグナルパターンの検出に基づいて、試料(108)を同定する
工程を含む、前記方法。
【請求項2】
異なる化学物質(132)の組成物(130)を、試料(108)の調製前、調製中または調製後に、試料(108)に添加する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
液体クロマトグラフ(102)の固定相上に化学物質(132)が保持されるのを防止するように、化学物質(132)が設計されている、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
化学物質(132)が液体クロマトグラフ(102)の固定相上に保持されるのを防止するように、化学物質(132)の極性および分子量が液体クロマトグラフ(102)の固定相に対して適応されている、請求項3記載の方法。
【請求項5】
化学物質(132)の極性が、化学物質(132)の同重性オリゴマーまたは同位体の混合物を用いることによって適応されている、請求項4記載の方法。
【請求項6】
分子量が、化学物質(132)の相同体、誘導体または同位体標識を用いることによって適応されている、請求項3または4記載の方法。
【請求項7】
化学物質(132)の極性が、化学物質(132)のオリゴマーまたは誘導体の混合物を用いることによって適応されている、請求項4記載の方法。
【請求項8】
各オリゴマー構成要素が、分子量コーディングのための標識基(134)を有し、該標識基が損なわれずに(intact)測定されるか、または質量分析プロセス中に放出され、そして質量分析計(104)によって測定される、請求項7記載の方法。
【請求項9】
試料(108)が、関心対象の少なくとも1つの分析物を含み、化学物質(132)が化学同位体であり、そして/または関心対象の分析物と類似の極性を有する、請求項1~8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
化学物質(132)が極性分子基(136)および親油性分子基(138)を含む、請求項1~9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
化学物質(132)が、(極性)
n-(親油性)
m、式中、(極性)が極性分子基(136)を示し、(親油性)が親油性分子基(140)を示し、そしてn、mが0より大きい整数である、の構造を有する単量体ブロックより形成される、請求項10記載の方法。
【請求項12】
化学物質(132)が、ランダムに重合する単量体構築ブロック、n
*(極性)およびm
*(親油性)、式中、(極性)が極性分子基(136)を示し、(親油性)が親油性分子基(138)を示し、そしてn、mが0より大きい整数である、より形成される、請求項10記載の方法。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項記載の方法であって、液体クロマトグラフ(102)が、複数の液体クロマトグラフィチャネル(112)を含む液体クロマトグラフィ分離ステーション(110)を含み、該方法がさらに、複数の試料(108)を提供し、異なる化学物質(132)の組成物(130)を複数の試料(108)各々に添加し、ここで複数の試料(108)に添加する組成物(130)は互いに異なる、複数の試料(108)を化学物質(132)の組成物(130)とともに、分析系(112)によってプロセシングし、そして化学物質(132)の異なる組成物(130)に相当する物質検出シグナルを含む、質量分析計(104)の物質検出シグナルパターンの検出に基づいて、複数の試料(108)各々を同定する工程を含む、前記方法。
【請求項14】
組成物(130)の数が、液体クロマトグラフィチャネル(112)の数に対応する、請求項13記載の方法。
【請求項15】
各化学物質(132)が、同重性オリゴマー基(140)および少なくとも1つの分子量コーディング基(142)を含み、ここで異なる化学物質(132)の同重性オリゴマー基(140)および分子量コーディング基(142)は互いに異なる、請求項1~14のいずれか一項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
分析系におけるプロセス中に試料同一性を追跡するための方法を開示する。
【発明の概要】
【0002】
異なるタイプの実験室、例えば臨床実験室において、質量分析、およびより具体的にはタンデム質量分析とカップリングした液体クロマトグラフィ(LC-MS/MS)の実施に関して、増大しつつある関心がある。特に、療法薬剤監視または薬物乱用検査における小分子に関して、公表される方法の数は増加しつつある。
【0003】
あらかじめ検証された臨床的MS適用のため、いくつかのすぐに使用できるキットが、商業的に入手可能になってきている。しかし、質量分析の使用は、こうしたキットと組み合わせたとしても、臨床診断には、規制当局により認可されない可能性もある。これは大部分、非常にわずかな分析物に関するものを除いて標準化された方法がないためであり、そして例えばいまだに多くの手動の工程が行われており、そして使用可能でかつ組み合わせ可能な、そして臨床的関連性の信頼可能でかつ再現可能な結果を送達する際に役割を果たす、多様なハードウェア構成要素があることにより、使用者に依存する要因がいまだに多数あるためである。特に、試料調製は、典型的には、手動で、そして面倒な手順である。続く遠心分離でのタンパク質沈殿が、望ましくないそして潜在的に妨害性である試料マトリックスを取り除くために、最も一般的な方法である。キットの使用は、少なくとも部分的に自動化可能な試料調製を、部分的に容易にしうる。しかし、キットは、関心対象の限定された数の分析物に関してのみ入手可能であり、そして試料調製から分離および検出までの全プロセスは、複雑なままであり、非常に洗練された装置を扱うには、非常に訓練された実験室職員の立会いが必要である。
【0004】
やはり典型的には、バッチアプローチにしたがい、この場合、同じ調製条件下であらかじめ調製した試料のバッチが、同じ分離条件下での連続分離実行を経る。しかし、このアプローチは、ハイスループットが不可能であり、そして柔軟性がなく、例えば優先性がより高く、そして最初にプロセシングする必要がある、入ってくる緊急の試料を考慮した再スケジューリング(あらかじめ定義されたプロセシングシーケンスの変更)を可能にしない。
【0005】
タンデム質量分析とカップリングした液体クロマトグラフィの実施は、いくつかの試料を平行してプロセシングすることを可能にする。複雑で非常に平行化されたランダムアクセス試料調製プロセス中の試料同一性の追跡可能性を確実にすることは、重要な問題である。これは、多数の試料を同時に平行して、そして部分的に同じ液体流動経路で処理する多重化HPLC-MS系において特に重要である。こうした場合、試料同一性は、流動経路を制御する転換バルブの正しいタイミングおよび配置によってのみ得られ、これは試料取り扱いをかなり複雑にする。
【0006】
開示する方法の態様は、質量分析とカップリングした液体クロマトグラフィを用いる分析系において、試料同一性の追跡可能性を、より好適に、そしてより信頼性があり、そしてしたがって特定の分析法、例えば臨床診断に適したものにすることを目的とする。特に、ランダムアクセス試料調製およびLC分離で、例えば最大100試料/時間またはそれより多い、ハイスループットが得られうる一方、それぞれの試料を全プロセスを通じて追跡可能である。さらに、該方法は完全に自動化可能であり、ウォークアウェイタイム(walk-away time)を増加させ、そして必要な技術レベルを減少させることも可能である。
【0007】
本明細書に開示するのは、分析系におけるプロセス中に試料同一性を追跡するための方法であって、分析計が液体クロマトグラフおよび質量分析計を含む、前記方法である。
分析系におけるプロセス中に試料同一性を追跡するための開示する方法の態様は、独立クレームの特徴を有する。単独の方式で、またはいずれの任意の組み合わせで実現可能である、本発明のさらなる態様を、従属クレームに開示する。
【0008】
以下で用いるような用語「有する(have)」、「含む(comprise)」または「含まれる(include)」あるいはその任意の文法的変形は、非排他的な方式で用いられる。したがって、これらの用語は、これらの用語によって導入される特徴に加えて、この文脈で記載される実体に、さらなる特徴はまったく存在しない状況、および1つまたはそれより多いさらなる特徴が存在する状況の両方を指してもよい。例えば、表現「AはBを有する」、「AはBを含む」および「AにはBが含まれる」は、Bに加えて、Aに他の要素がまったく存在しない状況(すなわちAはもっぱらそして排他的にBからなる状況)、ならびにBに加えて実体Aに1つまたはそれより多いさらなる要素、例えば要素C、要素CおよびDまたはさらにさらなる要素が存在する状況の両方を指してもよい。
【0009】
さらに、用語「少なくとも1つ」、「1つまたはそれより多く」、あるいは、特徴または要素が1回または典型的には1回より多く存在してもよいことを示す類似の表現は、それぞれの特徴または要素を導入する際に一度だけ用いられるであろう。その後は、大部分の場合、それぞれの特徴または要素に言及する際、それぞれの特徴または要素が1回または1回より多く存在してもよいという事実にもかかわらず、表現「少なくとも1つ」または「1つまたはそれより多く」は反復されないであろう。
【0010】
さらに、以下で用いるように、用語「詳細には(particularly)」、「より詳細には(more particularly)」、「特に(specifically)」、「より具体的に(more specifically)」または類似の用語は、代替の可能性を制限することなく、さらなる/別の特徴と組み合わせて用いられる。したがって、これらの用語によって導入される特徴はさらなる/別の特徴であり、そしていかなる点でも請求項の範囲を制限することを意図しない。本発明は、当業者が認識するであろうように、代替特徴を用いることによって実行可能である。同様に、「本発明の態様において」または類似の表現によって導入される特徴は、本発明の代替態様に関するいかなる制限も伴わず、本発明の範囲に関するいかなる制限も伴わず、そして本発明の他のさらなる/別のまたはさらなる/別のものではない特徴を伴うような方式で導入される特徴を組み合わせる可能性に関するいかなる制限も伴わず、さらなる/別の特徴であることが意図される。
【0011】
開示する方法にしたがって、分析系におけるプロセス中に試料同一性を追跡するための方法であって、分析系が液体クロマトグラフおよび質量分析計を含む、前記方法を開示する。該方法は:
-試料を提供し、
-異なる化学物質の組成物を、質量分析計の検出レベルより高い濃度で、試料に添加し、
-試料を組成物とともに、分析系によってプロセシングし、
-試料の単数および/または複数の構成要素を、質量分析計によって検出し、そして測定し、
-異なる化学物質の組成物または組成物の部分を、質量分析計によって検出し、そして測定し、
-化学物質の組成物に相当する物質検出シグナルを含む、質量分析計の物質検出シグナルパターンの検出に基づいて、試料を同定する
工程を含む。
【0012】
用語「分析系」は、本明細書において、測定値を得るように設定された、少なくとも液体クロマトグラフおよび質量分析計を含む任意の系を含む。分析系は、多様な化学的、生物学的、物理的、光学的または他の技術的方法を通じて、試料またはその構成要素のパラメータ値を決定するように操作可能である。分析系は、試料または少なくとも1つの分析物の前記パラメータを測定して、そして得た測定値を返すように操作可能であってもよい。分析装置によって返される、ありうる分析結果のリストは、限定なしに、試料中の分析物の濃度、試料中の分析物の存在を示すデジタル(あるまたはない)結果(検出レベルを超える濃度に対応する)、光学パラメータ、DNAまたはRNA配列、タンパク質または代謝産物の質量分析から得られるデータ、および多様なタイプの物理的または化学的パラメータを含む。分析系は、試料および/または試薬のピペッティング、ドージング、および混合を補助するユニットを含んでもよい。分析系は、アッセイを実行するために、試薬を保持するための試薬保持ユニットを含んでもよい。試薬を、例えば、貯蔵区画またはコンベヤ内の適切な容器または位置に置いた、個々の試薬または試薬群を含有するコンテナまたはカセットの形で配置してもよい。分析系は、消耗性フィーディングユニットを含んでもよい。分析系は、そのワークフローが特定のタイプの分析物のために最適化されている、プロセスおよび検出系を含んでもよい。こうした分析系の例は、化学的反応または生物学的反応の結果を検出するか、あるいは化学的反応または生物学的反応の進行を監視するために用いられる、臨床化学分析装置、凝固化学分析装置、免疫化学分析装置、尿分析装置、核酸分析装置である。
【0013】
分析系は臨床診断系として設計されていてもよいし、または臨床診断系の一部であってもよい。
「臨床診断系」は、本明細書において、in vitro診断のための試料の分析に特化した実験室自動化装置を指す。臨床診断系は、必要にしたがって、そして/または望ましい実験室ワークフローにしたがって、異なる構造を有してもよい。複数の装置および/またはモジュールを一緒にカップリングすることによって、さらなる構造を得ることも可能である。「モジュール」は、特化された機能を有する臨床診断系全体よりも典型的にはより小さいサイズの作業セルである。この機能は、分析機能であってもよいが、また、分析前または分析後の機能であってもよく、あるいは、これは、分析前機能、分析機能、または分析後機能のいずれかに対する補助的機能であってもよい。特に、モジュールは、例えば1つまたはそれより多い分析前工程および/または分析工程および/または分析後工程を実行することによって、試料プロセシングワークフローの特化されたタスクを実行するための1つまたはそれより多い他のモジュールと協働するように設定されていてもよい。特に、臨床診断系は、特定のタイプの分析、例えば臨床化学、免疫化学、凝固、血液学、液体クロマトグラフィ分離、質量分析等のために最適化された、それぞれのワークフローを実行するように設計された、1つまたはそれより多い分析装置を含んでももよい。したがって、臨床診断系は、それぞれのワークフローと共に、1つの分析装置またはこうした分析装置のいずれかの組み合わせを含んでももよく、ここで、分析前モジュールおよび/または分析後モジュールが個々の分析装置にカップリングされるか、または複数の分析装置によって共有されていてもよい。あるいは、分析前機能および/または分析後機能を、分析装置中に組み込まれたユニットによって実行してもよい。臨床診断系は、機能ユニット、例えば、試料および/または試薬および/または系の液体をピペッティングしそして/またはポンピングしそして/または混合するための液体取り扱いユニット、およびまたソートし、貯蔵し、輸送し、同定し、分離し、検出するための機能ユニットを含んでもよい。
【0014】
用語「試料」は、本明細書において、関心対象の1つまたはそれより多い分析物を含有すると推測され、そしてその定性的および/または定量的検出が、臨床状態と関連しうる、生物学的物質を指す。試料は、任意の生物学的供給源、例えば血液、唾液、眼のレンズの液体、脳脊髄液、汗、尿、母乳、腹水、粘液、滑液、腹腔水、羊水、組織、細胞等を含む、生理学的液体に由来してもよい。試料を、使用前に前処理してもよく、例えば血液から血漿の調製、粘液の希釈、溶解等を行ってもよく;処理法は、濾過、遠心分離、蒸留、濃縮、干渉構成要素の不活性化、および試薬の添加を伴ってもよい。いくつかの場合、供給源から得られたままの試料を直接用いてもよいし、あるいは試料特性を修飾するための前処理および/または試料調製ワークフロー後、例えば内部標準を加えた後、別の溶液で希釈した後、または例えば1つもしくはそれより多くのin vitro診断試験の実行を可能にするため、または関心対象の分析物を濃縮する(抽出する/分離する/濃縮する)ため、そして/または関心対象の分析物(単数または複数)の検出に潜在的に干渉するマトリックス構成要素を除去するため、試薬と混合した後に、用いてもよい。用語「試料」は、傾向として、試料調製前の試料を指すように用いられる一方、用語「調製試料」は、試料調製後の試料を指すよう用いられる。特定されない例において、用語「試料」は、一般的に、試料調製前の試料または試料調製後の試料のいずれか、あるいはその両方を指すことも可能である。関心対象の分析物の例は、一般的に、ビタミンD、乱用薬物、療法薬剤、ホルモン、および代謝産物である。しかし、このリストは包括的ではない。
【0015】
用語「液体クロマトグラフ」は、本明細書において、液体クロマトグラフィ(LC)に用いるように設定されている装置を指す。LCは、移動相が液体である分離技術である。LCは、カラムまたは平面のいずれで実行してもよい。一般的に非常に小さい充填粒子および比較的高い圧を利用する、現在の液体クロマトグラフィは、高性能液体クロマトグラフィ(HPLC)と称される。HPLCにおいて、試料は、高圧の液体(移動相)によって、不規則なまたは球状の形状の粒子、多孔性一体化層、あるいは多孔性膜で構成される固定相が充填されたカラムの通過を強いられる。HPLCは、歴史的に、移動相および固定相の極性に基づいて、2つの異なるサブクラスに分けられる。固定相が移動相より極性である(例えば移動相としてのトルエン、固定相としてのシリカ)方法は、順相液体クロマトグラフィ(NPLC)と称され、そして逆(例えば移動相として水-メタノール混合物および固定相としてC18=オクタデシルシリル)は逆相液体クロマトグラフィ(RPLC)と称される。
【0016】
用語「質量分析計」は、本明細書において、質量分析(MS)に用いられるよう設定された装置を指す。MSは、化学種をイオン化し、そして質量対電荷比に基づいて、イオンをソートする分析技術である。より単純な用語では、マススペクトルは、試料内の質量を測定する。質量分析は、多くの異なる分野で用いられ、そして純粋な試料とともに複雑な混合物に適用される。マススペクトルは、質量対電荷比の関数としてのイオンシグナルのプロットである。これらのスペクトルは、試料の元素的または同位体的シグネチャー、粒子および分子の質量を決定し、そして分子、例えばペプチドおよび他の化合物の化学構造を解明するために用いられる。典型的なMS法において、固体、液体、または気体であってもよい試料を、例えば電子で該試料を照射することによってイオン化する。これは、試料分子のいくつかの荷電断片への破壊を引き起こしうる。次いで、質量対電荷比にしたがって、典型的にはこれらのイオンを加速し、そして電場または磁場に供することによって、これらのイオンを分離し:同じ質量対電荷比のイオンは、同じ量の偏向を経るであろう。イオンは、荷電粒子を検出可能な機構、例えば電子増倍管によって検出される。結果は、質量対電荷比の関数として、検出されたイオンの相対的存在量のスペクトルとしてディスプレイされる。試料中の原子または分子は、既知の質量を同定された質量に相関させるか、または特徴的な断片化パターンを通じて同定されうる。
【0017】
用語「異なる化学物質の組成物」は、本明細書において、互いに異なる化学物質の混合物を指す。基本的な要件は、用いる化学物質が、分析物と同じワークフローにしたがわなければならないため、関心対象の分析物に比べて、試料プロセシングおよびクロマトグラフィ中にほぼ同一の振る舞いを示すことである。これは、分析物と類似の極性を持つ化学同位体または物質を用いることによって達成されうる。
【0018】
開示する方法を用いて、化学コーディングに関する可能性を提供する。化学コーディングの可能性は、質量分析検出の高い多重化能によって可能になる特別な特徴であり、これによって、測定中のいかなる時点でもさらなるシグナルの検出が可能になる。いくつかのマーカー(存在/非存在;高濃度/低濃度等)の組み合わせによって、系にあるすべての試料の明白な標識が可能になるであろう。
【0019】
異なる化学物質の組成物を、試料の調製前、調製中、または調製後に試料に添加してもよい。
このため、分析系は、試料の自動化調製のための試料調製ステーションを含んでもよい。「試料調製ステーション」は、試料中の干渉マトリックス構成要素を除去するかまたは少なくとも減少させ、そして/または試料中の関心対象の分析物を濃縮することを目的とした、一連の試料プロセシング工程を実行するように設計された1つまたはそれより多い分析装置または分析装置中のユニットとカップリングされた分析前モジュールである。こうしたプロセシング工程には、連続して、平行して、または交互の方式で、単数または複数の試料に対して実行する以下のプロセシング操作の任意の1つまたはそれより多くが含まれてもよい:液体のピペッティング(吸引および/または分配)、液体のポンピング、試薬との混合、特定の温度でのインキュベーション、加熱または冷却、遠心分離、分離、濾過、ふるい、乾燥、洗浄、再懸濁、アリコット、トランスファー、貯蔵等。
【0020】
「試薬」は、例えば分析のための試料を調製するか、反応が起こることを可能にするか、あるいは試料または試料中に含有される分析物の物理的パラメータの検出を可能にするため、試料の処理に用いられる物質である。特に、試薬は、例えば試料中に存在する1つもしくはそれより多い分析物または試料の望ましくないマトリックス構成要素に結合するか、またはこれらを化学的に変換することが可能な反応物質、典型的には、化合物もしくは剤であるかまたはこうした反応物質を含む物質であってもよい。反応物質の例は、酵素、酵素基質、コンジュゲート化色素、タンパク質結合分子、リガンド、核酸結合分子、抗体、キレート剤、促進剤、阻害剤、エピトープ、抗原等である。しかし、用語、試薬は、試料に添加可能な任意の液体を含むように用いられ、これには、水または他の溶媒または緩衝溶液を含む希釈液、あるいはタンパク質、結合タンパク質または表面への分析物の特異的または非特異的結合の破壊のために用いられる物質が含まれる。試料を、例えば、試料コンテナ、例えば一次チューブ(primary tubes)および二次チューブ(secondary tubes)を含む試料チューブ、またはマルチウェルプレート、あるいは任意の他の試料保持支持体中で提供してもよい。試薬を、例えば、個々の試薬または試薬群を含有するコンテナまたはカセットの形で配置してもよく、そして貯蔵区画またはコンベヤ内の適切な容器または位置に置いてもよい。他のタイプの試薬または系の液体を、バルクコンテナ中で、またはラインサプライを通じて提供してもよい。
【0021】
試料追跡のため、コーディング物質の組み合わせを、試料調製プロセスの初期に、理想的には試料のアリコット(患者試料のアリコット)を第一の試料プロセシングバイアルに分配した直後に、試料に添加する。
【0022】
液体クロマトグラフの固定相上へのその保持を防止するように、化学物質を設計することも可能である。したがって、試料同一性が明白に検出可能であり、そして質量分析計が通常の適用中に化学物質を検出しないように、ワークフロー全体で、化学物質が試料を追跡することが確実になる。
【0023】
例えば、化学物質が液体クロマトグラフの固定相上に保持されるのを防止するように、化学物質の極性および分子量を液体クロマトグラフの固定相に適応させる。
化学物質の極性は、化学物質の同重性オリゴマーまたは同位体の混合物を用いることによって適応させてもよい。したがって、用いる化学物質は、試料プロセシングおよびクロマトグラフィ中、関心対象の分析物と、ほとんど同一の振る舞いを示す。それによって、試料の同一性は、明白に検出されうる。
【0024】
分子量は、化学物質の相同体、誘導体または同位体標識を用いることによって適応させてもよい。したがって、分子量は、かなり単純な方式で適応させうる。
化学物質の極性は、化学物質のオリゴマーまたは誘導体の混合物を用いることによって適応させてもよい。したがって、極性は、かなり単純な方式で適応させうる。
【0025】
各オリゴマー構成要素は、分子量コーディングのための標識基を有することも可能であり、該標識基は、損なわれずに(intact)測定されるか、または質量分析プロセス中に放出され、そして質量分析計によって測定される。第一の選択肢では、標識基は主鎖で損なわれないままであり、そして総質量が検出され、これは、単一の構成要素各々の主鎖質量が同重性である場合に可能である。後者の選択肢では、標識基は、例えば質量分析計のイオン供給源または衝突セル内で、放出されるかまたは分離され、そしてその質量が検出される。この選択肢では、主鎖の質量は、同重性である必要はない。
【0026】
試料は、少なくとも1つの関心対象の分析物を含み、ここで化学物質は、化学同位体であり、そして/または関心対象の分析物と類似の極性を有する。したがって、化学物質は、試料プロセシングおよびクロマトグラフィ中、関心対象の分析物とほぼ同一の振る舞いを示す。したがって、分析物の同一性は、明白に追跡可能である。
【0027】
化学物質は、極性分子基および親油性分子基を含んでもよい。したがって、極性は、関心対象の分析物に個々に適応させてもよい。
化学物質は、(極性)n-(親油性)m、式中、(極性)が極性分子基を示し、(親油性)が親油性分子基を示し、そしてn、mが0より大きい整数である、の構造を有する単量体ブロックより形成されることも可能である。したがって、単量体は同一の分子量を有するように設計されてもよく(同重性構築ブロック)、それによってオリゴマーサブユニットの全体の分子量は、同重性オリゴマー主鎖を生成する比n/mとは独立に、一定である。
【0028】
例えば、化学物質は、ランダムに重合する単量体構築ブロック、n*(極性)およびm*(親油性)、式中、(極性)が極性分子基を示し、(親油性)が親油性分子基を示し、n、mが0より大きい整数である、より形成される。したがって、nおよびmの配列分布は、質量分析計の望ましい読み出し、選択したイオン監視を用いることのみによるまたは分子量の読み出しによる分子量、および断片化パターン(娘イオンスキャン)による配列に応じて、ランダムであってもよいしまたはランダムでなくてもよい。
【0029】
液体クロマトグラフは、複数の液体クロマトグラフィチャネルを含む、液体クロマトグラフィ分離ステーションを含んでもよい。該方法は、さらに、複数の試料を提供し、異なる化学物質の組成物を複数の試料各々に添加し、ここで複数の試料に添加する組成物は互いに異なる、複数の試料を化学物質の組成物とともに、分析系によってプロセシングし、そして化学物質の異なる組成物に相当する物質検出シグナルを含む、質量分析計の物質検出シグナルパターンの検出に基づいて、複数の試料各々を同定する工程を含む。
【0030】
用語「液体クロマトグラフ分離ステーション」は、本明細書において、例えば関心対象の分析物をマトリックス構成要素、例えば続く検出、例えば質量分析検出になお干渉する可能性がある試料分離後に残っているマトリックス構成要素から分離し、そして/または個々の検出を可能にするため関心対象の分析物を互いに分離するために、調製試料をクロマトグラフィ分離に供するように設計された、分析装置あるいは分析装置中のモジュールまたはユニットを指す。1つの態様にしたがって、液体クロマトグラフ分離ステーションは、試料を質量分析のために調製し、そして/または調製試料を質量分析計にトランスファーするように設計された、中間分析装置あるいは分析装置中のモジュールまたはユニットである。特に、液体クロマトグラフ分離ステーションは、複数の液体クロマトグラフィチャネルを含むマルチチャネル液体クロマトグラフ分離ステーションである。
【0031】
「液体クロマトグラフィチャネル」は、試料(単数または複数)および分析物のタイプにしたがって選択された固定相を含み、そして例えば一般的に知られるように、極性またはlog P値、サイズまたはアフィニティにしたがって、選択された条件下で、関心対象の分析物を捕捉し、そして/または分離し、そして溶出しそして/またはトランスファーするために、固定相を通じて移動相をポンピングする、少なくとも1つのキャピラリーチュービングおよび/または液体クロマトグラフィカラムを含む流体ラインである。少なくとも1つの液体クロマトグラフィチャネル中の少なくとも1つの液体クロマトグラフィカラムは交換可能であってもよい。特に、液体クロマトグラフィは、液体クロマトグラフィチャネルよりも多い液体クロマトグラフィカラムを含んでもよく、この場合、複数の液体クロマトグラフィカラムが、同じ液体クロマトグラフィチャネルに、交換可能にカップリングしていてもよい。キャピラリーチュービングは液体クロマトグラフィカラムをバイパスしていてもよいし、またはデッドボリュームの調節を可能にして、溶出時間ウィンドウを微調整してもよい。
【0032】
液体クロマトグラフィ分離ステーションは、典型的にはまた、十分な数のポンプ、例えば溶出勾配の使用を必要とする条件の場合はバイナリポンプ、およびいくつかのスイッチングバルブもさらに含む。
【0033】
組成物の数は、液体クロマトグラフィチャネルの数に対応することも可能である。したがって、各チャネルに関して、プロセス全体で試料を明白に追跡することを可能にする、化学コーディングを提供する。
【0034】
化学物質は、同一の分子量を有することも可能である。したがって、質量分析計内での関心対象の分析物とほぼ同一の振る舞いが確実になる。
化学物質は:ペプチド、ペプチドの誘導体、ペプチド核酸、オリゴヌクレオチド、およびオリゴマーからなる群より選択される少なくとも1つの要素であることも可能である。したがって、うまく取り扱い可能である物質を用いることも可能である。
【0035】
各化学物質は、同重性オリゴマー基および少なくとも1つの分子量コーディング基を含むことも可能であり、ここで、異なる化学物質の同重性オリゴマー基および分子量コーディング基は互いに異なる。したがって、異なる分子量を持つ多様なコーディング物質の生成を可能にすることが可能である。これは、例えば、分子量コード内に、異なる量の安定同位体標識または異なる化学官能性を用いることによって生成される。オリゴマー構築ブロックの機能は、サブユニットが異なるクロマトグラフィ特性(logP)を有するが、同一の分子量を有する、極性リーダーを生成することである。したがって、分子量コードおよび同重性オリゴマー主鎖の組み合わせによって、化学コーディング実体を生成することが可能である。
【0036】
本発明はさらに、本明細書に含まれる態様の1つまたはそれより多くにおいて、プログラムをコンピュータまたはコンピュータネットワーク上で実行した際に、本発明にしたがった方法を実行するための、コンピュータ実行可能命令を含むコンピュータプログラムを開示し、そして提唱する。特に、コンピュータプログラムは、コンピュータ読み取り可能データキャリア上で記憶されてもよい。したがって、特に、上に示すような方法工程の1つ、1つより多く、またはさらにすべてを、コンピュータまたはコンピュータネットワークを用いることによって、好ましくはコンピュータスクリプトを用いることによって、実行してもよい。
【0037】
本発明はさらに、本明細書に含まれる態様の1つまたはそれより多くにおいて、該プログラムをコンピュータまたはコンピュータネットワーク上で実行した際に、本発明にしたがった方法を実行するためのプログラムコード手段を有するコンピュータプログラム製品を開示し、そして提唱する。特に、プログラムコード手段は、コンピュータ読み取り可能データキャリア上で記憶されてもよい。
【0038】
さらに、本発明は、データ構造がその上に記憶されているデータキャリアであって、コンピュータまたはコンピュータネットワーク内に、例えばコンピュータまたはコンピュータネットワークの作業メモリまたは主メモリ内にロードされた後、本明細書に開示する態様の1つまたはそれより多くにしたがって、方法を実行可能である、前記データキャリアを開示し、そして提唱する。
【0039】
本発明はさらに、プログラムをコンピュータまたはコンピュータネットワーク上で実行した際に、本明細書に開示する態様の1つまたはそれより多くにしたがった方法を実行するための、機械読み取り可能キャリア上に記憶されたプログラムコード手段を有するコンピュータプログラム製品を提唱し、そして開示する。本明細書において、コンピュータプログラム製品は、取引可能な製品としてのプログラムを指す。製品は、一般的に、任意の形式で、例えば紙形式で、またはコンピュータ読み取り可能データキャリア上に存在してもよい。特に、コンピュータプログラム製品は、データネットワーク上で流通されてもよい。
【0040】
最後に、本発明は、本明細書に開示する態様の1つまたはそれより多くにしたがって方法を実行するための、コンピュータ系またはコンピュータネットワークにより読み取り可能な命令を含有する、修飾された(modulated)データシグナルを提唱し、そして開示する。
【0041】
好ましくは、本発明のコンピュータの実施の側面に言及した際、本明細書に開示する態様の1つまたはそれより多くにしたがった方法の、方法工程の1つまたはそれより多く、あるいはさらに方法工程のすべては、コンピュータまたはコンピュータネットワークを用いることによって実行可能である。したがって、一般的に、データの提供および/または操作を含む方法工程のいずれも、コンピュータまたはコンピュータネットワークを用いることによって実行可能である。一般的に、これらの方法工程には、典型的には手動の作業を必要とする方法工程、例えば試料の提供および/または実際の測定を実行する特定の側面を除いて、方法工程のいずれも含まれることも可能である。
【0042】
特に、本発明はさらに:
-少なくとも1つのプロセッサを含むコンピュータまたはコンピュータネットワークであって、該プロセッサが、本明細書に記載する態様の1つにしたがって方法を実行するために適応されている、前記コンピュータまたはコンピュータネットワーク、
-コンピュータロード可能データ構造であって、該データ構造がコンピュータ上で実行される間、本明細書に記載する態様の1つにしたがって方法を実行するために適応されている、前記データ構造、
-コンピュータプログラムがコンピュータ上で実行される間、本明細書に記載する態様の1つにしたがって該プログラムが方法を実行するために適応されている、コンピュータスクリプト、
-コンピュータプログラムがコンピュータまたはコンピュータネットワーク上で実行される間、本明細書に記載する態様の1つにしたがって方法を実行するための、プログラム手段を含むコンピュータプログラム、
-先行する態様にしたがったプログラム手段を含むコンピュータプログラムであって、プログラム手段がコンピュータに読み取り可能な記憶媒体上に記憶されている、前記コンピュータプログラム、
-記憶媒体であって、データ構造が該記憶媒体上に記憶され、そして該データ構造が、コンピュータまたはコンピュータネットワークの主記憶および/または作業記憶内にロードされた後、本明細書に記載する態様の1つにしたがった方法を実行するために適応されている、前記記憶媒体、および
-プログラムコード手段を有するコンピュータプログラム製品であって、該プログラムコード手段がコンピュータまたはコンピュータネットワーク上で実行される場合、本明細書に記載する態様の1つにしたがった方法を実行するために、プログラムコード手段が記憶媒体上に記憶されることが可能であるかまたは記憶されている、前記コンピュータプログラム製品
を開示する。
【0043】
開示する方法の知見を要約して、以下の態様を開示する:
態様1:分析系におけるプロセス中に試料同一性を追跡するための方法であって、分析系が液体クロマトグラフおよび質量分析計を含み、該方法が:
-試料を提供し、
-異なる化学物質の組成物を、質量分析計の検出レベルより高い濃度で、試料に添加し、
-試料を組成物とともに、分析系によってプロセシングし、
-試料の単数および/または複数の構成要素を、質量分析計によって検出し、そして測定し、
-異なる化学物質の組成物または組成物の部分を、質量分析計によって検出し、そして測定し、
-化学物質の組成物に相当する物質検出シグナルを含む、質量分析計の物質検出シグナルパターンの検出に基づいて、試料を同定する
工程を含む、前記方法。
【0044】
態様2:異なる化学物質の組成物を、試料の調製前、調製中または調製後に、試料に添加する、態様1記載の方法。
態様3:液体クロマトグラフの固定相上に化学物質が保持されるのを防止するように、化学物質が設計されている、態様1または2記載の方法。
【0045】
態様4:化学物質が液体クロマトグラフの固定相上に保持されるのを防止するように、化学物質の極性および分子量が液体クロマトグラフの固定相に対して適応されている、態様3記載の方法。
【0046】
態様5:化学物質の極性が、化学物質の同重性オリゴマーまたは同位体の混合物を用いることによって適応されている、態様4記載の方法。
態様6:分子量が、化学物質の相同体、誘導体または同位体標識を用いることによって適応されている、態様3または4記載の方法。
【0047】
態様7:化学物質の極性が、化学物質のオリゴマーまたは誘導体の混合物を用いることによって適応されている、態様4記載の方法。
態様8:各オリゴマー構成要素が、分子量コーディングのための標識基を有し、該標識基が損なわれずに測定されるか、または質量分析プロセス中に放出され、そして質量分析計によって測定される、態様7記載の方法。
【0048】
態様9:試料が、関心対象の少なくとも1つの分析物を含み、化学物質が化学同位体であり、そして/または関心対象の分析物と類似の極性を有する、態様1~8のいずれか一項記載の方法。
【0049】
態様10:化学物質が極性分子基および親油性分子基を含む、態様1~9のいずれか一項記載の方法。
態様11:化学物質が、(極性)n-(親油性)m、式中、(極性)が極性分子基を示し、(親油性)が親油性分子基を示し、そしてn、mが0より大きい整数である、の構造を有する単量体ブロックより形成される、態様10記載の方法。
【0050】
態様12:化学物質が、ランダムに重合する単量体構築ブロック、n*(極性)およびm*(親油性)、式中、(極性)が極性分子基を示し、(親油性)が親油性分子基を示し、そしてn、mが0より大きい整数である、より形成される、態様10記載の方法。
【0051】
態様13:態様1から12のいずれか一項記載の方法であって、液体クロマトグラフが、複数の液体クロマトグラフィチャネルを含む液体クロマトグラフィ分離ステーションを含み、該方法がさらに、複数の試料を提供し、異なる化学物質の組成物を複数の試料各々に添加し、ここで複数の試料に添加する組成物は互いに異なる、複数の試料を化学物質の組成物とともに、分析系によってプロセシングし、そして化学物質の異なる組成物に相当する物質検出シグナルを含む、質量分析計の物質検出シグナルパターンの検出に基づいて、複数の試料各々を同定する工程を含む、前記方法。
【0052】
態様14:組成物の数が、液体クロマトグラフィチャネルの数に対応する、態様13記載の方法。
態様15:化学物質が同一の分子量を有する、態様1~14のいずれか一項記載の方法。
【0053】
態様16:化学物質が:ペプチド、ペプチドの誘導体、ペプチド核酸、オリゴヌクレオチド、およびオリゴマーからなる群より選択される少なくとも1つの要素である、態様1~15のいずれか一項記載の方法。
【0054】
態様17:各化学物質が、同重性オリゴマー基および少なくとも1つの分子量コーディング基を含み、ここで、異なる化学物質の同重性オリゴマー基および分子量コーディング基は互いに異なる、態様1~16のいずれか一項記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0055】
本発明のさらなる特徴および態様は、特に従属クレームと組み合わせて、続く説明により詳細に開示されるであろう。その中で、それぞれの特徴を、当業者が理解するであろうように、単独の方式で、ならびにいずれの任意の実現可能な組み合わせで達成してもよい。態様を、図面に模式的に示す。その中で、これらの図面中の同一の参照番号は、同一要素または機能的に同一である要素を指す。
【
図1】
図1は、分析系におけるプロセス中に試料同一性を追跡するための分析系および方法の模式図を示す。
【
図3】
図3は、HPLC-PDAによって分析した一般的タイプn
*(極性)およびm
*(親油性)からの4つの例のクロマトグラフィ分離の結果を示す。
【
図4】
図4は、Q-Tof質量分析によって分析した一般的タイプn
*(極性)およびm
*(親油性)からの4つの例のオンライン質量分析スキャンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0056】
図1は、分析系100および分析系100におけるプロセス中に試料同一性を追跡するための方法の模式図を示す。
図1を参照すると、分析系100の例が記載される。分析系100は、臨床診断系であってもよい。分析系100は、少なくとも液体クロマトグラフ102および質量分析計104を含む。現在の態様において、分析系100は、各々少なくとも1つの関心対象の分析物を含む試料108の自動化前処理および調製のための試料調製ステーション106をさらに含む。
【0057】
液体クロマトグラフ102は、複数の液体クロマトグラフィチャネル112を含む液体クロマトグラフィ分離ステーション110を含む。液体クロマトグラフィチャネル112は互いに異なることも可能であり、ここで、より短いサイクル時間の液体クロマトグラフィチャネル112およびより長いサイクル時間の液体クロマトグラフィチャネル112がある。しかし、液体クロマトグラフィ分離ステーション110は、複数のより迅速な液体クロマトグラフィチャネル112のみ、または複数のより緩慢な液体クロマトグラフィチャネル112のみを含んでもよい。分析系100は、液体クロマトグラフィチャネル112のいずれか1つに、調製試料をインプットするための試料調製/液体クロマトグラフィインターフェース114をさらに含む。
【0058】
分析系100は、液体クロマトグラフィ分離ステーション110を質量分析計104に連結するための、液体クロマトグラフィ/質量分析計インターフェース116をさらに含む。液体クロマトグラフィ/質量分析計インターフェース116は、イオン化源118、ならびにイオン化源118および質量分析計104の間のイオン移動度モジュール120を含む。イオン移動度モジュール120は、高電界非対称波形イオン移動度分光法(high-field asynmetric waveform ion mobility spectrometry)(FAIMS)モジュールであってもよい。質量分析計104は、多重反応監視(MRM)が可能な、タンデム質量分析計、および特に三重四極質量分析計である。
【0059】
分析系100は、関心対象の分析物に応じて、各々、試料調製工程のあらかじめ定義されたシーケンスを含み、そして完了のためにあらかじめ定義された時間を必要とする、あらかじめ定義された試料調製ワークフローに、試料108を割り当てるようプログラミングされたコントローラー122をさらに含む。コントローラー122は、関心対象の分析物に応じて、各調製試料に関して、液体クロマトグラフィチャネル112を割り当て(あらかじめリザーブし)、そして予期される溶出時間に基づいて、重複しないLC溶出物アウトプットシーケンスE1~nにおいて、異なる液体クロマトグラフィチャネル112から、関心対象の分析物が溶出することを可能にする、調製試料をインプットするための液体クロマトグラフィチャネルインプットシーケンスI1~nを計画するように、さらにプログラミングされる。コントローラー122は、液体クロマトグラフィチャネルインプットシーケンスI1~nにマッチする、調製試料アウトプットシーケンスP1~nを生成する、試料調製スタートシーケンスS1~nをセットし、そして開始するよう、さらにプログラミングされる。
【0060】
図1において、試料調製スタートシーケンスS1~nの各試料、調製試料アウトプットシーケンスP1~nおよび液体クロマトグラフィチャネルインプットシーケンスI1~nの各調製試料、液体クロマトグラフィ溶出物アウトプットシーケンスE1~nの各液体クロマトグラフィ溶出物を、重複しない隣接セグメントを含むシーケンスのセグメント中に示し、各セグメントは、1つの参照期間を模式的に示す。各シーケンスは、したがって、参照期間または時間単位のシーケンスであり、その長さは固定されていてもよく、そして異なるシーケンスに渡って一定のままである。
【0061】
試料調製スタートシーケンスS1~nにおける新規試料の調製は、参照期間あたり1つの試料の頻度で、あるいは試料調製が開始されない、シーケンスにおける空のセグメントによって示される、1つまたはそれより多い参照期間によって分離された間隔で、開始される。
【0062】
また、調製試料アウトプットシーケンスP1~nにおける試料の調製は、参照期間あたり1つの調製試料の頻度で、あるいは試料調製が完了しない、シーケンスにおける空のセグメントによって示される、1つまたはそれより多い参照期間によって分離された間隔で、完了する。
【0063】
また、調製試料は、参照期間あたり1つの液体クロマトグラフィチャネルインプットの頻度で、あるいは液体クロマトグラフィチャネルインプットが行われない、シーケンスにおける空のセグメントによって示される、1つまたはそれより多い参照期間によって分離された間隔で、液体クロマトグラフィチャネルインプットシーケンスI1~nにしたがってそれぞれの割り当てられた液体クロマトグラフィチャネル112にインプットされる。
【0064】
また、液体クロマトグラフィ溶出物アウトプットシーケンスE1~nにおける液体クロマトグラフィ溶出物は、参照期間あたり1つの液体クロマトグラフィ溶出物の頻度で、あるいは液体クロマトグラフィ溶出物がアウトプットされない、シーケンスにおける空のセグメントによって示される、1つまたはそれより多い参照期間によって分離された間隔で、アウトプットされる。
【0065】
あるいは、液体クロマトグラフィチャネル112は、液体クロマトグラフィ/質量分析計インターフェース116に連結可能であり、そしてコントローラー122が、イオン化源118に、一度に1つの液体クロマトグラフィ溶出物をインプットするため、液体クロマトグラフィ溶出物アウトプットシーケンスE1~nにしたがって、バルブスイッチング124をコントロールする。特に、液体クロマトグラフィ溶出物アウトプットシーケンスE1~nにおける液体クロマトグラフィ溶出物は、参照期間あたり1つの液体クロマトグラフィ溶出物の頻度で、あるいは液体クロマトグラフィ溶出物アウトプットシーケンスE1~nにしたがって、1つまたはそれより多い参照期間によって分離された間隔で、イオン化源118にインプットされる。
【0066】
イオン化源118は、ESI源126およびAPCI源128を含む二重イオン化源であり、ここで、液体クロマトグラフィ溶出物アウトプットシーケンスE1~nにおける液体クロマトグラフィ溶出物に応じて、そして該溶出物中に含有される関心対象の分析物(単数または複数)に応じて、コントローラー122は、最も適切である、2つのイオン化源126、128の1つを選択することも可能である。試料調製スタートシーケンスS1~nをセットする際、コントローラー122は、イオン化源126、128の間の頻繁なスイッチが防止されるように、やはりイオン化源126、128にしたがって、試料を一緒にグループ分け(シーケンス中で互いに隣接して配置)してもよい。イオン化源スイッチングは、例えば、1つまたはそれより多い空の参照期間中に計画してもよい。
【0067】
図1への参照を続けると、分析系100におけるプロセス中に試料同一性を追跡するための方法が記載される。該方法は、試料108を提供する工程を含む。異なる化学物質132の組成物130を、質量分析計104の検出レベルより高い濃度で、試料108に添加する。異なる化学物質132の組成物130を、試料108の調製前、調製中、または調製後に、試料108に添加してもよい。いかなる場合でも、異なる化学物質132の組成物130を、試料108を液体クロマトグラフ102にインプットする前に、試料108に添加する。本態様において、異なる化学物質132の組成物130を、試料108の調製中に、試料108に添加する。すなわち、異なる化学物質132の組成物130を、試料調製ステーション106で、試料108に添加する。
【0068】
次いで、試料108を組成物130とともに、分析系100によってプロセシングする。言い換えると、こうして調製した試料108を、組成物と一緒に、液体クロマトグラフ102にインプットし、液体クロマトグラフ102を通過させ、そして質量分析計104にインプットする。質量分析計によって、試料108の単数および/または複数の構成要素を検出し、そして測定する。さらに、異なる化学物質132の組成物130または組成物130の部分を、質量分析計104によって検出し、そして測定する。異なる化学物質132の組成物130に相当する物質検出シグナルを含む、質量分析計104の物質検出シグナルパターンの検出に基づいて、試料108を同定する。言い換えると、質量分析計104のシグナルには、試料108に対応する検出結果が含まれるだけでなく、異なる化学物質132に特有なシグナルも含まれ、それによって、試料108を明白に同定することが可能になる。
【0069】
本明細書において、以後、化学物質132の特定の詳細を記載する。基本的に、試料は、少なくとも1つの関心対象の分析物を含み、そして化学物質132は、用いる化学物質が、分析物と同じワークフローにしたがわなければならないため、関心対象の分析物に比べて、試料プロセシングおよびクロマトグラフィ中にほぼ同一の振る舞いを示すことを確実にするため、化学同位体であり、そして/または関心対象の分析物と類似の極性を有する。化学物質132は、同一の分子量を有する。化学物質132は:ペプチド、ペプチドの誘導体、ペプチド核酸、オリゴヌクレオチド、およびオリゴマーからなる群より選択される少なくとも1つの要素である。さらに、化学物質は、液体クロマトグラフ102の固定相上への保持を防止するように設計される。これは、化学物質132が液体クロマトグラフ102の固定相上に保持されるのを防止するように、化学物質132の極性および分子量を、液体クロマトグラフ102の固定相に対して適応させることで達成可能である。例えば、化学物質132の極性を、化学物質132の同重性オリゴマーまたは同位体の混合物を用いることによって適応させ、そして分子量を、化学物質132の相同体、誘導体または同位体標識を用いることによって適応させる。より詳細には、化学物質132の極性を、化学物質132のオリゴマーまたは誘導体の混合物を用いることによって適応させる。各オリゴマー構成要素は、本明細書に以下にさらに詳細に記載するように、分子量コーディングのための標識基134を有し、該標識基が損なわれずに測定されるか、または質量分析プロセス中に放出され、そして質量分析計104によって測定される。
【0070】
図2は、化学物質132の1つの構成を模式的に示す。化学物質132は、極性分子基136および親油性分子基138を含む。化学物質132は、(極性)
n-(親油性)
m、式中、(極性)が極性分子基136を示し、(親油性)が親油性分子基138を示し、そしてn、mが0より大きい整数である、の構造を有する単量体ブロックより形成される。より詳細には、化学物質は、ランダムに重合する単量体構築ブロック、n
*(極性)およびm
*(親油性)、式中、(極性)が極性分子基136を示し、(親油性)が親油性分子基138を示し、そしてn、mが0より大きい整数である、より形成される。
図2に示す例において、化学物質132は、4つの極性分子基136、それに続く4つの親油性分子基138を含む。したがって、各化学物質132は、同重性オリゴマー基140および少なくとも1つの分子量コーディング基142を含み、ここで、異なる化学物質132の同重性オリゴマー基140および分子量コーディング基142は互いに異なる。
【0071】
化学物質132を、したがって、試料の化学コーディングに用いてもよい。ターゲット分析物の数は、分析系100上のアプリケーションメニューに非常に依存する。コーディング化学物質に対する必要条件は、したがって、アプリケーションメニューの全極性範囲を含むことである。これは、上に記載するように、コーディング化学物質の複雑な機能的実体の組成物によって達成される。単量体は、同一の分子量を有するように設計され(同重性構築ブロック)、したがって、このオリゴマーサブユニットの全体の分子量は、同重性オリゴマー主鎖を生成する比n/mとは独立に、一定である。nおよびmの配列分布は、質量分析計104の望ましい読み出し、選択したイオン監視を用いることのみによるまたは分子量の読み出しによる分子量、および断片化パターンによる配列(娘イオンスキャン)に応じて、ランダムであってもよいしまたはランダムでなくてもよい。この構築ブロックに付着させて、分子量区別標識がある。分子量コーディング基142の機能は、異なる分子量を有する多様なコーディング物質の生成を可能にすることである。これは、例えば、分子量コーディング基142内に異なる量の安定同位体標識または異なる化学官能性を用いることによって生成される。オリゴマー構築ブロックの機能は、サブユニットが異なるクロマトグラフィ特性(logP)を有するが、同一の分子量を有する、極性リーダーを生成することである。したがって、分子量コーディング基142および同重性オリゴマー主鎖の組み合わせによって、化学コーディング実体を生成することが可能である。同重性オリゴマー主鎖の生成に用いられる単量体に関する例は、129.16の分子量を有するセリン-プロピルエーテル、129.16の分子量を有するホモセリン-エチルエーテル、および129.11の分子量を有するグルタミン酸である。
【0072】
したがって、最後に、各分子量コーディング基142を、アプリケーションの全クロマトグラフィ空間を含む同重性オリゴマー主鎖の混合物に連結する。したがって、関心対象の分析物の極性(logP)とは独立に、各化学コーディング実体または化学物質132の少なくとも1つのメンバーは、関心対象の分析物と同じ時間ウィンドウで、質量分析計104によって検出されるであろう。例えば、同じ同重性オリゴマー主鎖に付着した7つの異なる分子量コーディング基142を用いることによって、107の異なる化学コードのマトリックスを生成することが可能である。この場合、唯一の区別基準は分子量である(SIM読み取りのみ)。
【0073】
上述のように、液体クロマトグラフィ分離ステーション110は、複数の液体クロマトグラフィチャネル112を含む。したがって、複数の試料108を同時にプロセシングすることも可能である。したがって、方法は、複数の試料108を提供し、異なる化学物質132の組成物130を複数の試料108各々に添加し、ここで複数の試料108に添加する組成物130は互いに異なる、複数の試料108を化学物質132の組成物130とともに、分析系100によってプロセシングし、そして化学物質132の異なる組成物130に相当する物質検出シグナルを含む、質量分析計104の物質検出シグナルパターンの検出に基づいて、複数の試料108各々を同定する工程を含んでもよい。この場合、組成物130の数は、液体クロマトグラフィチャネル112の数と対応することも可能である。
【0074】
本明細書に以後、開示する方法の詳細な例を提供する。
【実施例】
【0075】
化学物質の一般的なタイプn*(極性)およびm*(親油性)の4つの異なる例1~4を合成した。同じ分子質量(±1Da)を有する以下の化学物質132が選択された。疎水性を第一に、極性(lоgP)の降順でソートされた化学物質は以下の通りである:**Hse**Hse**Hse*L*Hse**Hse**Hse**-OH*; *Hse**Hse*LE*Hse**Hse**-OH*; **Hse**Hse*ELE*Hse**Hse**-OH*; **Hse*E*Hse*ELE*Hse**-OH*。それぞれの略語は、Hse=ホモセリンエチルエーテル、L=ロイシン、LE=ロイシン-グルタミン酸、ELE=グルタミン酸-ロイシン-グルタミン酸、E=グルタミン酸。
【0076】
この実験の予期される結果として、分子量は、すべての異なる化学物質に関して同じである(±1Da)はずである一方、極性の相違により、クロマトグラフィ系上の保持時間の相違が起こるはずである。
【0077】
実験法:
0.5mgの重量のそれぞれの物質を計量し、そして10%(v/v)酢酸を含有する水1mlで希釈することによって、物質を個々に調製した。こうして調製した試料を、Vydac 218TP C18カラム(5μm、2.1x150mm)を装備したHPLC系(Waters Aquity)に注入した。以下の溶媒を用いて、ポンプを勾配モードに維持した。
【0078】
溶媒A:水+2%アセトニトリル+0.1%ギ酸(v/v)
溶媒B:アセトニトリル+0.1%ギ酸(v/v)
以下の勾配を適用した:
0分(98%A)、15分(35%A)、17分(0%A)、25分(0%A)、25.1分(98%A)、30分(98%A)。
【0079】
Waters Aquity PDA検出装置(190nm~450nm)および陽イオンエレクトロスプレーイオン化イオンモード(スキャン90~1500Da、30Vコーン電圧、5V衝突エネルギー、120℃供給源温度、および300℃脱溶媒和温度)のWaters Q-Tof Premier Mass spectrometerを用いるHPLCのオンラインカップリングによって、試料を分析した。スキャン速度は、質量分析計に関しては2Hz、そしてPDA検出装置に関しては10Hzであった。
【0080】
図3は、HPLC-PDAによって分析した一般的なタイプn
*(極性)およびm
*(親油性)由来の4つの例のクロマトグラフィ分離の結果を示す。x軸144は、それぞれ、保持時間を示し、そしてy軸146は、それぞれ、それぞれの保持シグナルを示す。グラフ148、150、152、154は、この順に4つの例1~4のクロマトグラフィ分離の結果を示し、ここで、例1の結果を最下部に提供し、そして例4の結果を最上部に示し、例2および3は、最下部から最上部の間に示す。
【0081】
予期されるように、**Hse**Hse**Hse*L*Hse**Hse**Hse**-OH*; *Hse**Hse*LE*Hse**Hse**-OH*; **Hse**Hse*ELE*Hse**Hse**-OH*; **Hse*E*Hse*ELE*Hse**-OH*からなる4つの異なる試料は、異なる保持時間で、上述の逆相クロマトグラフィ系上で溶出し、したがって、例1~4に関して、この順で、異なる時点で、それぞれのシグナルピーク、156、158、160、162から得られうるように、異なる極性、すなわち異なるlogPを見せた。特に、グラフ148によって示される例1は、最小の保持時間を有し、続いてグラフ150によって示される例2が続き、次にグラフ152によって示される例3が続く。グラフ154に示される例4は、最大の保持時間を有する。
【0082】
図4は、Q-Tof質量分析によって分析した一般的なタイプn
*(極性)およびm
*(親油性)由来の4つの例1~4のオンライン質量分析計スキャンを示す。x軸164は、それぞれ、分子質量を示し、そしてy軸166は、それぞれ、試料の分子質量パーセンテージを示す。グラフ168、170、172、174は、この順に4つの例1~4の分子質量分布の結果を示し、ここで、例1の結果を最下部に提供し、そして例4の結果を最上部に示し、例2および3は、最下部から最上部の間に示す。
【0083】
予期されるように、**Hse**Hse**Hse*L*Hse**Hse**Hse**-OH*; *Hse**Hse*LE*Hse**Hse**-OH*; **Hse**Hse*ELE*Hse**Hse**-OH*; **Hse*E*Hse*ELE*Hse**-OH*からなる4つの異なる試料は、この順序で、例1~4に関して、それぞれのシグナルピーク176、178、180、182から得られうるように、同一の高さを有し、906Da(±1Da)で偽分子イオン[M+H]+の同じ分子量を表す。
【符号の説明】
【0084】
100 分析系
102 液体クロマトグラフ
104 質量分析計
106 試料調製ステーション
108 試料
110 液体クロマトグラフィ分離ステーション
112 液体クロマトグラフィチャネル
114 試料調製/液体クロマトグラフィインターフェース
116 液体クロマトグラフィ/質量分析計インターフェース
118 イオン化源
120 イオン移動度モジュール
122 コントローラー
124 バルブスイッチング
126 ESI源
128 APCI源
130 組成物
132 化学物質
134 標識基
136 極性分子基
138 親油性分子基
140 同重性オリゴマー基
142 分子量コーディング基
144 時間
146 保持シグナル
148 例1に関するクロマトグラフィ分離の結果
150 例2に関するクロマトグラフィ分離の結果
152 例3に関するクロマトグラフィ分離の結果
154 例4に関するクロマトグラフィ分離の結果
156 例1に関するシグナルピーク
158 例2に関するシグナルピーク
160 例3に関するシグナルピーク
162 例4に関するシグナルピーク
164 分子質量
166 分子質量パーセンテージ
168 例1に関する分子質量分布
170 例2に関する分子質量分布
172 例3に関する分子質量分布
174 例4に関する分子質量分布
176 例1に関するシグナルピーク
178 例2に関するシグナルピーク
180 例3に関するシグナルピーク
182 例4に関するシグナルピーク