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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-06
(45)【発行日】2022-04-14
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 25/22 20060101AFI20220407BHJP
   H02P 25/092 20160101ALI20220407BHJP
   H02P 21/06 20160101ALI20220407BHJP
【FI】
H02P25/22
H02P25/092
H02P21/06
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018063982
(22)【出願日】2018-03-29
(65)【公開番号】P2019176657
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2021-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】特許業務法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥村 繁一
(72)【発明者】
【氏名】須増 寛
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-138494(JP,A)
【文献】特開2016-149904(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0312809(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 25/22
H02P 25/092
H02P 21/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
突極性を有するロータを共有する複数系統のステータコイルを備えるモータを制御するためのモータ制御装置であって、
前記複数系統のステータコイルへの通電をそれぞれ制御する複数の制御部を含み、
各制御部が、対応する自系統のステータコイル以外の他系統のステータコイルが生成する磁束による干渉成分を除去するように自系統のステータコイルへの通電を制御する系統間非干渉制御を実行し、
各制御部は、
対応する自系統のステータコイルへの通電のための基本駆動値を生成する基本駆動値生成手段と、
前記系統間非干渉制御のための系統間非干渉制御量を演算する系統間非干渉制御量演算手段と、
前記基本駆動値を前記系統間非干渉制御量で補正して駆動値を生成する補正手段と、を含み、
前記補正手段が生成する駆動値を用いて、対応する自系統へのステータコイルへの通電を制御し、
前記基本駆動値生成手段は、基本d軸電圧指令値および基本q軸電圧指令値を生成するものであり、
前記系統間非干渉制御量演算手段は、前記ロータの突極差と、他系統のd軸電流の総和と、前記ロータの回転角速度との積により、自系統の基本q軸電圧指令値を補正するための系統間非干渉制御量を求める、モータ制御装置。
【請求項2】
各制御部は、自系統のd軸およびq軸の間の非干渉制御のための軸間非干渉制御量を演算する軸間非干渉制御量演算手段をさらに含み、
前記補正手段は、前記基本d軸電圧指令値および前記基本q軸電圧指令値を前記軸間非干渉制御量および前記系統間非干渉制御量で補正してd軸電圧指令値およびq軸電圧指令値を生成する、請求項に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
突極性を有するロータを共有する複数系統のステータコイルを備えるモータを制御するためのモータ制御装置であって、
前記複数系統のステータコイルへの通電をそれぞれ制御する複数の制御部を含み、
各制御部が、対応する自系統のステータコイル以外の他系統のステータコイルが生成する磁束による干渉成分を除去するように自系統のステータコイルへの通電を制御する系統間非干渉制御を実行し、
前記モータがN系統(Nは2以上の自然数)の前記ステータコイルを備えており、
第k系統(k=1,2,…,N)に対応した前記制御部は、
第k系統のステータコイルへの通電のための第k系統基本d軸電圧指令値および第k系統基本q軸電圧指令値を生成する第k系統基本駆動値生成手段と、
第k系統に対応して、下記式(A)のd軸非干渉制御量v0dkおよび下記式(B)のq軸非干渉制御量v0qkを演算する第k系統非干渉制御量演算手段と、
前記第k系統基本d軸電圧指令値および前記第k系統基本q軸電圧指令値を前記d軸非干渉制御量v0dkおよびq軸非干渉制御量v0qkでそれぞれ補正して、第k系統d軸電圧指令値および第k系統q軸電圧指令値を生成する第k系統補正手段と、を含み、
前記第k系統補正手段が生成する第k系統d軸電圧指令値および第k系統q軸電圧指令値を用いて、前記第k系統のステータコイルへの通電を制御する、モータ制御装置。
【数1】
【請求項4】
前記モータが、シンクロナスリラクタンスモータである、請求項1~のいずれか一項に記載のモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、突極性を有するロータを共有する複数系統のステータコイルを備えるモータを制御するためのモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ブラシレスモータは、ロータと、回転磁界を形成するステータとを含む。電動モータの制御のために適用されるdq座標系は、ロータの回転軸線まわりに回転する回転座標系である。d軸は、ロータの界磁の磁束方向に沿う座標軸であり、q軸はd軸に対して電気角で90度位相のずれた座標軸である。ロータに永久磁石を備えないリラクタンスモータの場合には、磁束の通り易い突極方向にd軸が定義され、磁束の通り難い方向(電気角で90度位相のずれた方向)にq軸が定義される。
【0003】
一般的なモータの電圧方程式は、下記式(1)および式(2)で与えられる。vはd軸電圧、vqはq軸電圧、idはd軸電流、iqはq軸電流、Raはステータコイルの電気抵抗、v0dはd軸誘起電圧、v0qはq軸誘起電圧をそれぞれ表す。d軸およびq軸の誘起電圧v0d,v0qは、それぞれ、下記式(3)および式(4)で表される。ωは、ロータの角速度、Ldはd軸インダクタンス、Lqはq軸インダクタンス、Ψaはロータの界磁による電機子鎖交磁束を表す。ロータに永久磁石が備えられないリラクタンスモータの場合には、Ψa=0であるので、q軸誘起電圧v0qは下記式(4a)のとおりとなる。
【0004】
【数1】
【0005】
d軸誘起電圧v0dはq軸電流値iqに依存し、q軸誘起電圧v0qはd軸電流値idに依存するので、軸間の干渉が生じ、これにより、制御精度(とくに追従性)の向上が妨げられる。そこで、たとえば、特許文献1に示されているような非干渉制御が実行される。
非干渉制御は、d軸誘起電圧およびq軸誘起電圧による干渉項をフィードフォワード的に除去する補償制御である。具体的には、下記式(5)および式(6)で示すとおりであり、d軸およびq軸の基本駆動電圧指令値vd′,vq′を、各式第2項の非干渉制御量で補正することによって、d軸およびq軸のための駆動電圧指令値vd,vqが求められる。これらの駆動電圧指令値vd,vqを用いてステータコイルへの通電制御が行われる。リラクタンスモータにおいては、Ψa=0であるので、q軸駆動電圧指令値vqは、下記式(6a)で与えられることになる。
【0006】
【数2】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2013-13320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
リラクタンスモータは、永久磁石を備えない構造であるため、リラクタンストルクのみがロータから出力される。そのため、同じ体格の永久磁石モータと比較すると、出力トルクが小さい。
そこで、本件発明者は、複数系統のステータコイルを有するリラクタンスモータの構造について研究している。たとえば、2系統のステータコイルを備えることによって、2個のモータを直結した場合と同等のトルクを出力できる。
【0009】
さらに、本件発明者は、複数系統の同相ステータコイルを集合配置することにより、或る他の系統のステータコイルがロータに与えた磁束を他の系統のステータコイルに鎖交させ、それにより、トルク出力の増加を図ることを検討している。この場合、或る系統のステータコイルがロータに与える磁束は、他の系統のステータコイルにとっては、あたかもロータに永久磁石が備えられているような効果を生む。すなわち、各系統は、リラクタンストルクに加えて、他の系統のステータコイルがロータに与える磁束を利用した擬似的なマグネットトルクをロータに与えることができる。それにより、出力トルクの増加を図ることができる。
【0010】
ところが、このような構造のリラクタンスモータでは、複数系統のステータコイルがロータを共有しているために、系統間の干渉が生じる。この系統間干渉のために、制御性(とくに追従性)が損なわれる。
このような課題は、リラクタンスモータの場合だけでなく、リラクタンストルクを利用するモータにおける共通の課題である。すなわち、複数系統のステータコイルにより突極性のロータを共有する構造のモータには、同様の課題がある。
【0011】
特許文献1は、軸間の非干渉制御を開示しているが、複数系統のステータコイルを備えるモータについての開示がなく、むろん複数系統のステータコイルによってロータを共有する場合の系統間干渉の問題についても全く触れられていない。
そこで、この発明の一つの目的は、複数系統のステータコイルが突極性のロータを共有する構造のモータの制御性を向上することができるモータ制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
の発明の一実施形態は、突極性を有するロータ(30)を共有する複数系統のステータコイル(U1,U2,V1,V2,W1,W2)を備えるモータ(M)を制御するためのモータ制御装置(12)であって、前記複数系統のステータコイルへの通電をそれぞれ制御する複数の制御部(61,62)を含み、各制御部が、対応する自系統のステータコイル以外の他系統のステータコイルが生成する磁束による干渉成分を除去するように自系統のステータコイルへの通電を制御する系統間非干渉制御を実行する、モータ制御装置を提供する。なお、括弧内の英数字は、後述の実施形態における対応構成要素等を表すが、むろん、この発明の範囲は当該実施形態に限定されない。以下、この項において同じ。
【0013】
の発明の一実施形態では、各制御部が、対応する自系統のステータコイルへの通電のための基本駆動値を生成する基本駆動値生成手段(71d,71q,72d,72q,91d,91q,92d,92q)と、前記系統間非干渉制御のための系統間非干渉制御量を演算する系統間非干渉制御量演算手段(171,172,211,212)と、前記基本駆動値を前記系統間非干渉制御量で補正して駆動値を生成する補正手段(181,182,191,192)と、を含み、前記補正手段が生成する駆動値を用いて、対応する自系統へのステータコイルへの通電を制御する。
【0014】
この構成により、系統間干渉成分を予め除去した駆動値を用いて各系統のステータコイルへの通電が制御されるフィードフォワード的な補償制御によって、系統間干渉を回避できる。それにより、制御性を向上できる。
の発明の一実施形態では、前記系統間非干渉制御量演算手段は、他系統のステータコイルが前記ロータに与える磁束と、前記ロータの回転角速度とを用いて、前記系統間非干渉制御量を演算する。
【0015】
この構成により、系統間非干渉制御量を適切に求めることができるので、系統間干渉を確実に回避でき、それに応じて制御性を向上できる。
の発明の一実施形態では、前記基本駆動値生成手段は、基本d軸電圧指令値および基本q軸電圧指令値を生成するものであり、前記系統間非干渉制御量演算手段は、前記ロータの突極差と、他系統のd軸電流の総和と、前記ロータの回転角速度との積により、自系統の基本q軸電圧指令値を補正するための系統間非干渉制御量を求める。
【0016】
この構成により、系統間非干渉制御量を一層適切に求めることができるので、系統間干渉を一層確実に回避でき、それに応じて制御性を向上できる。
の発明の一実施形態では、前記基本駆動値生成手段は、基本d軸電圧指令値および基本q軸電圧指令値を生成するものであり、各制御部は、自系統のd軸およびq軸の間の非干渉制御のための軸間非干渉制御量を演算する軸間非干渉制御量演算手段(201,202)をさらに含み、前記補正手段は、前記基本d軸電圧指令値および前記基本q軸電圧指令値を前記軸間非干渉制御量および前記系統間非干渉制御量で補正してd軸電圧指令値およびq軸電圧指令値を生成する。
【0017】
この構成によれば、系統間干渉のみならず、軸間干渉をも回避できる。それにより、制御性をさらに向上できる。
の発明の一実施形態では、前記モータがN系統(Nは2以上の自然数)の前記ステータコイルを備えており、第k系統(k=1,2,…,N)に対応した前記制御部は、第k系統のステータコイルへの通電のための第k系統基本d軸電圧指令値および第k系統基本q軸電圧指令値を生成する第k系統基本駆動値生成手段(71d,71q,72d,72q,91d,91q,92d,92q)と、第k系統に対応して、下記式(A)のd軸非干渉制御量v0dkおよび下記式(B)のq軸非干渉制御量v0qkを演算する第k系統非干渉制御量演算手段(171,172)と、前記第k系統基本d軸電圧指令値および前記第k系統基本q軸電圧指令値を前記d軸非干渉制御量v0dkおよびq軸非干渉制御量v0qkでそれぞれ補正して、第k系統d軸電圧指令値および第k系統q軸電圧指令値を生成する第k系統補正手段(181,182,191,192)と、を含み、前記第k系統補正手段が生成する第k系統d軸電圧指令値および第k系統q軸電圧指令値を用いて、前記第k系統のステータコイルへの通電を制御する。
【0018】
【数3】
【0019】
この構成により、軸間干渉および系統間干渉を回避して、制御性を向上できる。
の発明の一実施形態では、前記モータが、シンクロナスリラクタンスモータである。
シンクロナスリラクタンスモータは、ロータに永久磁石を含まないので、出力トルクは、リラクタンスのみに依存する。この発明の一実施形態のモータ制御装置の制御対象であるシンクロナスリラクタンスモータは、複数系統のステータによってロータが共有されているため、各系統は、他の系統がロータに与える磁束を利用した擬似的なマグネットトルクをロータに与えることができる。それにより、出力トルクの増加を図ることができる。そして、この発明の一実施形態では、系統間干渉を回避することができるので、シンクロナスリラクタンスモータの出力トルクが大きく、かつその制御性に優れたシステムを構築できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】この発明の一実施形態に係るシンクロナスリラクタンスモータを適用可能な電動パワーステアリング装置の概略構成を示す。
図2】シンクロナスリラクタンスモータの構造例を示す。
図3A】2系統のステータコイルの配置例を示す。
図3B】2系統のステータコイルの他の配置例を示す。
図3C】2系統のステータコイルのさらに他の配置例を示す。
図3D】2系統のステータコイルのさらに他の配置例を示す。
図4】シンクロナスリラクタンスモータの一つの系統のモデルを示す。
図5】シンクロナスリラクタンスモータを駆動するためのモータ制御装置の電気的構成を示す。
図6】非干渉制御量演算部の構成例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、この発明の一実施形態に係るシンクロナスリラクタンスモータを適用可能な電動パワーステアリング装置の概略構成を示す模式図である。
電動パワーステアリング装置1は、車両を操向するための操舵部材としてのステアリングホイール2と、ステアリングホイール2の回転に連動して転舵車輪3を転舵する転舵機構4と、運転者の操舵を補助する操舵補助機構5とを備えている。ステアリングホイール2と転舵機構4とは、ステアリングシャフト6および中間軸7を介して機械的に連結されている。
【0022】
ステアリングシャフト6は、ステアリングホイール2に連結された入力軸8と、中間軸7に連結された出力軸9とを含む。入力軸8と出力軸9とは、トーションバー10を介して同一軸線上で相対回転可能に連結されている。
トーションバー10の近傍には、トルクセンサ11が配置されている。トルクセンサ11は、入力軸8および出力軸9の相対回転変位量に基づいて、ステアリングホイール2に与えられた操舵トルクを検出する。トルクセンサ11によって検出される操舵トルクは、ECU(電子制御ユニット)12に入力される。
【0023】
転舵機構4は、ピニオン軸13と、ラック軸14とを備えたラックアンドピニオン機構を含む。ラック軸14の両端部には、タイロッド15およびナックルアーム(図示略)を介して転舵車輪3が連結されている。ピニオン軸13は、中間軸7に連結されている。ピニオン軸13の先端には、ラック軸14に噛合するピニオン16が連結されている。ラック軸14は、車両の左右方向に沿って直線状に延びている。ラック軸14の軸方向の中間部には、ピニオン16に噛み合うラック17が形成されている。
【0024】
ステアリングホイール2が操作されて回転されると、その回転が、ステアリングシャフト6および中間軸7を介して、ピニオン軸13に伝達される。ピニオン軸13の回転は、ピニオン16およびラック17によって、ラック軸14の軸方向移動に変換される。これにより、転舵車輪3が転舵される。
操舵補助機構5は、操舵補助力(アシストトルク)を発生するための電動モータ18と、電動モータ18の出力トルクを増幅して転舵機構4に伝達するための減速機構とを含む。減速機構は、たとえば、ウォームギヤ機構19を含む。ウォームギヤ機構19は、電動モータ18によって回転されるウォームギヤ20と、このウォームギヤ20と噛み合うウォームホイール21とを含む。ウォームホイール21は、ステアリングシャフト6に結合されている。
【0025】
ECU12は、トルクセンサ11が検出する操舵トルクに応じて電動モータ18を駆動する。電動モータ18が発生するトルクがウォームギヤ20に伝達され、さらに減速されてウォームホイール21を介してステアリングシャフト6に伝達される。それにより、ステアリングシャフト6にアシストトルクが与えられる。
図2は、電動モータ18として適用することができるシンクロナスリラクタンスモータの構造例を説明するための図である。
【0026】
シンクロナスリラクタンスモータMは、この実施形態では、三相のモータである。シンクロナスリラクタンスモータMは、ロータ30と、ロータ30を取り囲むように配置されたステータ40とを含む。ロータ30は、回転軸線25まわりに回転可能に設けられている。図2は、回転軸線25に直交する切断面における断面構造を示している。ただし、図面を簡素化して構造を明瞭に表すために、断面を表すハッチングは省略している。
【0027】
ロータ30は、ロータコア31と、ロータ軸33とを含む。ロータ軸33は、回転軸線25に沿って延びるようにロータコア31の中心部を貫通し、かつロータコア31に固定されている。ロータコア31は、中心部に孔32を有する円形の電磁鋼板が複数枚積層されることによって構成されている。
この実施形態では、ロータ30は、4極(2極対)を有する。ロータコア31には、外周側からロータ軸33に向かって複数層をなすように配置されたフラックスバリア34が形成されて、フラックスバリア群35を形成している。ロータコア31には、周方向に間隔を空けて極数分のフラックスバリア群35が設けられている。フラックスバリア34は、この例では、空気層を形成するスリットである。フラックスバリア34は、回転軸線25に直交する断面において、ロータ軸33に向かって凸の弧状に形成されている。
【0028】
回転軸線25から見て、隣接するフラックスバリア群35の間を通る径方向(ロータコア31の径方向)には磁束が流れやすいので、この径方向に沿って、二相回転座標系のd軸が定義される。また、回転軸線25から見て、フラックスバリア群35を構成するフラックスバリア34の中央を通る径方向(ロータコア31の径方向)には磁束が通りにくいので、この径方向に沿って、二相回転座標系のq軸が定義される。
【0029】
ステータ40は、回転軸線25まわりに円筒形状をなす内周面41を有している。この実施形態では、ステータ40は、回転軸線25に直交する断面において、円環形状を有している。以下の説明において、単に「周方向」というときには、円筒形状の内周面41の周方向をいうものとする。また、単に「径方向」というときには、円筒形状の内周面41の半径方向をいうものとする。さらに、単に「軸方向」というときには、回転軸線25に平行な方向をいうものとする。
【0030】
ステータ40は、ステータコア42と、複数のステータコイルU1,U2,V1,V2,W1,W2とを含む。ステータコア42は、この実施形態では、円環状の電磁鋼板が回転軸線25に沿う方向に複数枚積層されて構成されており、全体として筒状のステータコア42が形成されている。ステータコア42は、周方向に沿って等間隔に配置された複数のティース部43と、これらのティース部43の径方向外側の基端部が結合されたヨーク部44とを含む。ヨーク部44は、回転軸線25に直交する切断面が円環状に形成されている。各ティース部43は、ヨーク部44から回転軸線25に向かって径方向に突出し、かつ軸方向に延びた突条である。換言すれば、複数のティース部43は、回転軸線25まわりに放射状に配置され、かつ回転軸線25に平行に延びている。複数のティース部43の先端面が、円筒形状の内周面41を形成している。この内周面41は、連続した円筒面ではなく、ティース部43の間に回転軸線25に平行に延びたスリット45を有していて、周方向には不連続な円筒形状を形成している。
【0031】
周方向に隣り合うティース部43の間には、ステータコイルU1,U2,V1,V2,W1,W2が配置されるスロット46が形成されている。周方向に一つおきのティース部43の周方向両側に位置する一対のスロット46に同相のステータコイルU1,U2,V1,V2,W1,W2が配置される。ステータコイルU1,U2,V1,V2,W1,W2の配置は、集中巻および分布巻のいずれであってもよいが、図2には分布巻の例を示す。
【0032】
ステータコイルU1,U2,V1,V2,W1,W2に電流が流れることにより、ティース部43の先端に磁極が発生する。このように、ティース部43およびその両側の一対のスロット46に配置される同相のステータコイルU1,U2,V1,V2,W1,W2によって、一つの磁極が形成される。そこで、以下の説明では、一つの磁極を形成する一対の同相ステータコイルを便宜的に一つのステータコイルと扱い、また、一対の同相ステータコイルが配置される一対のスロット46を便宜的に一つのスロットと扱って、ステータコイルU1,U2,V1,V2,W1,W2の配置を説明する。
【0033】
複数のステータコイルU1,U2,V1,V2,W1,W2は、この実施形態では、2系統のステータコイルU1,V1,W1;U2,V2,W2を含む。第1系統のステータコイルU1,V1,W1は、U相ステータコイルU1と、V相ステータコイルV1と、W相ステータコイルW1とを含む。第2系統のステータコイルU2,V2,W2も同様に、U相ステータコイルU2と、V相ステータコイルV2と、W相ステータコイルW2とを含む。
【0034】
図2では、第1系統のステータコイルU1,V1,W1と第2系統のステータコイルU2,V2,W2とを異なるパターンのハッチングで表してある。ただし、これらのハッチングは、ステータコイルU1,V1,W1;U2,V2,W2の断面構造を表すものではなく、それらの配置を明瞭に表すために付したものである。ステータコイル配置を表す他の図面においても同様である。
【0035】
図3A図3Dは、複数のステータコイルU1,V1,W1;U2,V2,W2の配置例を説明するための図である。ステータコイルU1,V1,W1;U2,V2,W2の数は、次式に従って定められる。
ステータコイル数=ロータ極数×相数×系統数 ……(7)
この実施形態では、ロータ極数が4、相数が3、系統数が2であるので、ステータ40は、24個のステータコイルを備えている。
【0036】
より具体的には、第1系統のステータコイルU1,V1,W1は、4個のU相ステータコイルU1と、4個のV相ステータコイルV1と、4個のW相ステータコイルW1とを含み、これらは、周方向に等間隔で配置されている。第2系統のステータコイルU2,V2,W2は、4個のU相ステータコイルU2と、4個のV相ステータコイルV2と、4個のW相ステータコイルW2とを含み、これらは、周方向に等間隔で配置されている。
【0037】
第1系統の1個のU相ステータコイルU1と、第2系統の1個のU相ステータコイルU2とが、集合配置されており、第1U相ステータコイル群UG1を形成している。同様に、第1系統の1個のV相ステータコイルV1と、第2系統の1個のV相ステータコイルV2とが、集合配置されており、第1V相ステータコイル群VG1を形成している。さらに同様に、第1系統の1個のW相ステータコイルW1と、第2系統の1個のW相ステータコイルW2とが、集合配置されており、第1W相ステータコイル群WG1を形成している。そして、第1U相ステータコイル群UG1、第1V相ステータコイル群VG1および第1W相ステータコイル群WG1が、この順序で、ロータ30の機械角で90度の範囲において、周方向に並んで配列されている。
【0038】
同様の配置パターンが周方向に沿って循環的に繰り返されている。すなわち、第1系統の各1個のU相ステータコイルU1と、第2系統の各1個のU相ステータコイルU2とが集合配置されて、第2、第3および第4U相ステータコイル群UG2,UG3,UG4が形成されている。同様に、第1系統の各1個のV相ステータコイルV1と、第2系統の各1個のV相ステータコイルV2とが集合配置されて、第2、第3および第4V相ステータコイル群VG2,VG3,VG4が形成されている。さらに同様に、第1系統の各1個のW相ステータコイルW1と、第2系統の各1個のW相ステータコイルW2とが集合配置されて、第2、第3および第4W相ステータコイル群WG2,WG3,WG4が形成されている。そして、U相ステータコイル群UG1,UG2,UG3,UG4、V相ステータコイル群VG1,VG2,VG3,VG4およびW相ステータコイル群WG1,WG2,WG3,WG4が、周方向に沿って相順に循環配列されている。
【0039】
「集合配置」とは、周方向に関して集合または集中して配置されていることを意味し、より具体的には、周方向に関して他の相のステータコイルが介在されることなく配置されていることを意味する。より機能的に言えば、「集合配置」とは、一つのステータコイル群に属する一つのステータコイルが、当該ステータコイル群に属する他のステータコイルがロータに与える磁束と鎖交するような接近配置をいう。
【0040】
極数分(この実施形態では4個)のU相ステータコイル群UG1~UG4は、周方向に等間隔で配置されている。同様に、極数分のV相ステータコイル群VG1~VG4およびW相ステータコイル群WG1~WG4は、それぞれ、周方向に等間隔で配置されている。
図3Aおよび図3Bの配置例では、第1系統のステータコイルU1,V1,W1と第2系統のステータコイルU2,V2,W2とが周方向に交互に、すなわち、一定の系統順に並んでいる。それにより、ロータ30に対する系統間の位置関係が均一になっており、各系統による均一な駆動が可能な配置となっている。
【0041】
図3Aの配置例では、第1系統および第2系統の同相のステータコイルU1,U2;V1,V2;W1,W2が、周方向に隣り合う別のスロットに配置されている。図3Bの配置例では、第1系統および第2系統の同相のステータコイルU1,U2;V1,V2;W1,W2が、周方向に並べられて、同じスロットに収容されている。前述の図2におけるステータコイルU1,U2;V1,V2;W1,W2の配置は、図3Bの配置例に相当する。
【0042】
図3Cおよび図3Dの配置例においても、第1系統および第2系統の同相のステータコイルU1,U2;V1,V2;W1,W2が同じスロットに収容されている。ただし、これらの同相のステータコイルU1,U2;V1,V2;W1,W2は、径方向に並べられている。すなわち、各スロットにおいて、第1および第2系統の同相のステータコイルU1,U2;V1,V2;W1,W2の一方が内側に、それらの他方が外側に配置されている。これにより、複数系統のステータコイルを周方向に関して同じ位置に配置して、他の系統のステータコイルがロータ30に与える磁束を共有しやすい配置となっている。
【0043】
図3Cの配置例では、各スロットにおいて、第1系統のステータコイルU1,V1,W1が径方向内側に配置され、第2系統のステータコイルU2,V2,W2が径方向外側に配置されている。むろん、第1系統のステータコイルU1,V1,W1を径方向外側に配置し、第2系統のステータコイルU2,V2,W2を径方向内側に配置してもよい。このように系統順を固定することにより、ロータ30から各系統のステータコイルまでの距離に応じて、各系統を適切に制御しやすい。
【0044】
図3Dの配置例では、周方向に隣り合うスロットにおいて、第1系統のステータコイルU1,V1,W1と第2系統のステータコイルU2,V2,W2との径方向の並び順が反転されている。すなわち、第1系統順の配置と、第2系統順の配置とが周方向に交互に現れる。それにより、周方向の配列に注目すると、第1系統のステータコイルU1,V1,W1と第2系統のステータコイルU2,V2,W2とが交互に、すなわち、一定の系統順で並んでいる。
【0045】
図3Aおよび図3Bの配置例を比較すると、図3Bの配置例の方が、同相のステータコイルU1,U2;V1,V2;W1,W2が周方向に接近している。さらに、図3Cおよび図3Dの配置例では、同相のステータコイルU1,U2;V1,V2;W1,W2が周方向に関して同じ位置にある。各同相ステータコイル群UG1~UG4,VG1~VG4,WG1~WG4において、同相ステータコイル同士が周方向に接近しているほど、ロータ30に与えられた磁束を共有しやすい。そのため、図3Aの配置よりも図3Bの配置の方が、また、図3Bの配置よりも図3Cおよび図3Dの配置の方が出力トルクを増大するうえで有利である。磁束の共有による出力トルク増大の原理については、後述する。
【0046】
さらに、図3Cおよび図3Dの配置例を比較すると、図3Dの配置の方が、ロータ30から第1系統のステータコイルU1,V1,W1および第2系統のステータコイルU2,V2,W2までの距離が均等である。そのため、図3Dの配置の方が、第1および第2系統間で駆動力を均等にできる。
図4は、シンクロナスリラクタンスモータMの一つの系統(たとえば第1系統)のモデルを示す。U相、V相およびW相のステータコイルの方向にU軸、V軸およびW軸を取った三相固定座標系(UVW座標系)が定義される。一方、ロータ30の回転中心から外周部に向かって磁束の流れやすい突極方向にd軸をとり、ロータ30の回転中心から外周部に向かって磁束の流れ難い方向にq軸を沿った二相回転座標系(dq座標系)が定義される。dq座標系は、ロータ30の回転角(ロータ回転角)θに従う回転座標系である。
【0047】
この実施形態では、ロータ30の正転方向は、図4における反時計回り方向に対応し、ロータ30の逆転方向は図4における時計回り方向に対応するものとする。たとえば、ロータ30の正転方向はステアリングホイール2の左操舵方向に対応し、ロータ30の逆転方向はステアリングホイール2の右操舵方向に対応する。
ステータコイルが形成する回転磁界を表す電流ベクトルiaは、d軸に対して電流位相角βをなしている。この実施形態では、ベクトル制御方式によって、電流位相角βが45度となるようにステータコイルへの通電が制御される。なお、電流位相角βは、45度~90度の範囲で任意の角度に設定することができる。
【0048】
図5は、シンクロナスリラクタンスモータMを駆動するためのモータ制御装置を構成するECU12の電気的構成を説明するためのブロック図である。ECU12は、マイクロコンピュータ50と、第1系統駆動回路51と、第2系統駆動回路52と、第1系統電流センサ53と、第2系統電流センサ54とを含む。第1系統駆動回路51および第2系統駆動回路52は、典型的にはインバータ回路である。第1系統電流センサ53は、第1系統のUVW各相の電流を検出する3つの電流センサを含む。同様に、第2系統電流センサ54は、第2系統のUVW各相の電流を検出する3つの電流センサを含む。各電流センサは、シャント抵抗を含んでいてもよい。シンクロナスリラクタンスモータMには、ロータ30の回転位置を検出する位置センサ55が附属している。位置センサ55は、レゾルバであってもよい。
【0049】
マイクロコンピュータ50は、図示は省略するが、プロセッサと、メモリとを含む。メモリには、プロセッサによって実行されるプログラムと、各種のデータとが格納される。プロセッサがメモリに格納されたプログラムを実行することにより、マイクロコンピュータ50は、指令値生成部60と、第1系統制御部61と、第2系統制御部62との機能を実現する。第1系統制御部61と第2系統制御部62とは、個別のプロセッサおよびメモリを備えていてもよい。
【0050】
指令値生成部60は、トルクセンサ11(図1参照)によって検出される操舵トルクに応じて、シンクロナスリラクタンスモータMから出力すべきトルク(アシストトルク)に対応した電流指令値ia *を生成する。指令値生成部60は、操舵トルクおよび車速情報に応じたアシストトルクを表す電流指令値ia *を生成してもよい。車速情報は、電動パワーステアリング装置1(図1参照)が搭載される車両の速さを表す情報である。
【0051】
第1系統制御部61は、第1系統のステータコイルに第1系統駆動回路51から供給される電流を制御する。第2系統制御部62は、第2系統のステータコイルに第2系統駆動回路52から供給される電流を制御する。
各系統制御部61,62は、d軸指令値算出部71d,72d、q軸指令値算出部71q,72q、d軸電流偏差演算部81d,82d、q軸電流偏差演算部81q,82q、d軸電流制御部91d,92d、q軸電流制御部91q,92q、二相/三相座標変換部101,102、PWM(パルス幅変調)変換部111,112、非干渉制御部121,122、電流演算部131,132、三相/二相座標変換部141,142、位置演算部151,152、および速度演算部161,162を含む。
【0052】
d軸指令値算出部71d,72dは、電流指令値ia *に基づき、第1および第2系統のためのd軸電流目標値id1 *,id2 *を生成する。q軸指令値算出部71q,72qは、電流指令値ia *に基づき、第1および第2系統のためのq軸電流目標値iq1 *,iq2 *をそれぞれ生成する。d軸電流偏差演算部81d,82dは、d軸電流目標値id1 *,id2 *と自系統のステータコイルに実際に流れているd軸電流値id1,id2との偏差であるd軸電流偏差Δid1(=id1 *-id1),Δid2(=id2 *-id2)を演算する。同様に、q軸電流偏差演算部81q,82qは、q軸電流目標値iq1 *,iq2 *と自系統のステータコイルに実際に流れているq軸電流値iq1,iq2との偏差であるq軸電流偏差Δiq1(=iq1 *-iq1),Δiq2(=iq2 *-iq2)を演算する。d軸電流制御部91d,92dは、d軸電流偏差Δid1,Δid2に対して、たとえば比例積分演算(PI演算)を行うことにより、第1系統および第2系統のための基本d軸電圧指令値vd1′,vd2′をそれぞれ生成する。同様に、q軸電流制御部91q,92qは、q軸電流偏差Δiq1,Δiq2に対して、たとえば比例積分演算を行うことにより、第1系統および第2系統のための基本q軸電圧指令値vq1′,vq2′をそれぞれ生成する。
【0053】
このように、d軸指令値算出部71d,72d、q軸指令値算出部71q,72q、d軸電流偏差演算部81d,82d、q軸電流偏差演算部81q,82q、d軸電流制御部91d,92d、およびq軸電流制御部91q,92qなどにより、第1系統および第2系統のための基本d軸電圧指令値vd1′,vd2′および基本q軸電圧指令値vq1′,vq2′を生成する基本駆動値生成手段が構成されている。
【0054】
非干渉制御部121,122は、非干渉制御量演算部171,172と、d軸指令値補正部181,182と、q軸指令値補正部191,192とを含む。非干渉制御量演算部171,172は、d軸非干渉制御量v0d1,v0d2およびq軸非干渉制御量v0q1,v0dq2を演算する。d軸指令値補正部181,182は、基本d軸電圧指令値vd1′,vd2′をd軸非干渉制御量v0d1,v0d2でそれぞれ補正して、d軸電圧指令値vd1,vd2を生成する。同様に、q軸指令値補正部191,192は、基本q軸電圧指令値vq1′,vq2′をq軸非干渉制御量v0q1,v0dq2でそれぞれ補正して、q軸電圧指令値vq1,vq2を生成する。このように、d軸指令値補正部181,182およびq軸指令値補正部191,192は、第1系統および第2系統のための補正手段を構成している。
【0055】
二相/三相座標変換部101,102は、d軸電圧指令値vd1,vd2およびq軸電圧指令値vq1,vq2を座標変換して、U相、V相およびW相の電圧指令値vU1,vV1,vW1;vU2,vV2,vW2図5中には、それぞれvUVW1,vUVW2と表記)を生成する。PWM変換部111,112は、電圧指令値vU1,vV1,vW1;vU2,vV2,vW2にそれぞれ対応するデューティのU相PWM制御信号、V相PWM制御信号およびW相PWM制御信号を生成する。各系統の駆動回路51,52を構成する各相のスイッチング素子56,57(たとえばMOSFET)は、これらのPWM制御信号に応じてオン/オフされる。それにより、各系統の各相のステータコイルが電圧指令値vU1,vV1,vW1;vU2,vV2,vW2に応じて通電される。
【0056】
電流演算部131,132は、UVW各相の電流センサ53,54からの検出信号に基づいて各相に実際に流れている電流値iU1,iV1,iW1;iU2,iV2,iW2図5中には、それぞれiUVW1,iUVW2と表記)を演算する。三相/二相座標変換部141,142は、これらの三相の電流値iU1,iV1,iW1;iU2,iV2,iW2を座標変換して、d軸電流値id1,id2およびq軸電流値iq1,iq2を生成し、それらをd軸電流偏差演算部81d,82dおよびq軸電流偏差演算部81q,82qにそれぞれ供給する。
【0057】
第1系統のd軸電流値id1は、第2系統の非干渉制御量演算部172にも供給される。また、第2系統のd軸電流値id2は、第1系統の非干渉制御量演算部171にも供給される。
位置演算部151,152は、所定の演算周期毎に、位置センサ55の出力信号に基づいて、ロータ30の回転角(ロータ回転角)θを演算する。ロータ回転角θは、二相/三相座標変換部101,102および三相/二相座標変換部141,142での座標変換のために用いられる。より詳細には、ロータ回転角θに対して、電流指令値ia *に応じて、電流位相角βを加算または減算することによって、座標変換回転角γ(γ=θ+βまたはγ=θ-β)が求められる。二相/三相座標変換部101,102および三相/二相座標変換部141,142は、座標変換回転角γを用いて、二相回転座標系と三相固定座標系との間の座標変換を行う。
【0058】
速度演算部161,162は、位置演算部151,152によって求められたロータ回転角θを時間微分することにより、ロータ30の回転角速度ω(電気角速度)を求める。この回転角速度ωは、非干渉制御量演算部171,172での演算に用いられる。
図6は、非干渉制御量演算部171,172の構成例を説明するためのブロック図である。非干渉制御量演算部171,172は、軸間非干渉制御量演算部201,202と、系統間非干渉制御量演算部211,212とを含む。軸間非干渉制御量演算部201,202は、自系統のd軸およびq軸の間の干渉を補償するための非干渉制御量を演算する。系統間非干渉制御量演算部211,212は、自系統および他系統の間、すなわち、この実施形態では、第1系統と第2系統との間の干渉を補償するための非干渉制御量を演算する。
【0059】
より具体的には、第1系統の軸間非干渉制御量演算部201は、前記式(5)の第2項に相当するd軸非干渉制御量-ωLqq1と、前記式(6a)の第2項に相当するq軸非干渉制御量+ωLdd1とを求める。第1系統の系統間非干渉制御量演算部211は、+ω(Ld-Lq)id2で表される系統間非干渉制御量を演算する。ただし、Ldは、d軸インダクタンス、Lqは、q軸インダクタンスである。
【0060】
第2系統のステータコイルがロータ30に与える磁束は、突極差(Ld-Lq)および第2系統d軸電流値id2との積(Ld-Lq)id2で表される。この磁束による誘起電圧は、回転角速度ωを乗じて、+ω(Ld-Lq)id2として求めることができる。この値が、系統間非干渉制御量である。
前述の式(3)および式(4)からわかるとおり、ロータ30に生じる磁束Ψaによる誘起電圧は、q軸電圧に対して影響し、d軸電圧には影響しない。したがって、系統間非干渉制御量+ω(Ld-Lq)id2により基本q軸電圧指令値vq1′を補正すればよい。
【0061】
そこで、第1系統の非干渉制御量演算部171は、下記式(7)によりd軸非干渉制御量vd01を求め、下記式(8)によりq軸非干渉制御量vq01を求める。q軸非干渉制御量vq01は、軸間非干渉制御量+ωLdd1と、系統間非干渉制御量+ω(Ld-Lq)id2との和となっている。
同様に、第2系統の軸間非干渉制御量演算部202は、前記式(5)の第2項に相当するd軸非干渉制御量-ωLqq2と、前記式(6a)の第2項に相当するq軸非干渉制御量+ωLdd2とを求める。第2系統の系統間非干渉制御量演算部212は、+ω(Ld-Lq)id1で表される系統間非干渉制御量を演算する。そして、第2系統の非干渉制御量演算部172は、下記式(9)によりd軸非干渉制御量vd02を求め、下記式(10)によりq軸非干渉制御量vq02を求める。q軸非干渉制御量vq02は、軸間非干渉制御量+ωLdd2と、系統間非干渉制御量+ω(Ld-Lq)id1との和となっている。
【0062】
【数4】
【0063】
d軸指令値補正部181,182は、下記式(11)および式(13)のとおり、基本d軸電圧指令値vd1′,vd2′に対して軸間非干渉制御量についての補正を行い、第1系統のd軸電圧指令値vd1および第2系統のd軸電圧指令値vd2をそれぞれ生成する。一方、q軸指令値補正部191,192は、下記式(12)および式(14)のとおり、基本q軸電圧指令値vq1′,vq2′に対して、軸間非干渉制御量(各式第2項)についての補正および系統間非干渉制御量(各式第3項)についての補正を行い、第1系統のq軸電圧指令値vq1および第2系統のq軸電圧指令値vq2をそれぞれ生成する。軸間非干渉制御量および系統間非干渉制御量の補正は、順不同で順次行ってもよく、それらを加算して合成非干渉制御量v0q1,v0q2を求め、その干渉制御量v0q1,v0q2で基本q軸電圧指令値vq1′,vq2′をそれぞれ補正してもよい。
【0064】
【数5】
【0065】
次に、シンクロナスリラクタンスモータMが発生するトルクについて説明する。
永久磁石モータの基本トルク式は、下記式(15)で表される。式中、Trはトルク、Pnはロータの極対数である。右辺第1項はリラクタンストルクを表し、右辺第2項はマグネットトルクを表す。
シンクロナスリラクタンスモータMは、永久磁石を持たないので、右辺第2項は零となる。すなわち、シンクロナスリラクタンスモータMの基本トルク式は、下記式(16)で表される。
【0066】
【数6】
【0067】
したがって、第1系統および第2系統を個別に駆動する場合にそれぞれ発生するトルクT1,T2は、下記式(17)および(18)のとおりである。
【0068】
【数7】
【0069】
第1系統および第2系統が互いに影響を与えないとすれば、第1系統および第2系統を同時に駆動したときのトルクTは、下記式(19)のとおりである。2つの系統を同じ電流d軸電流値id(=id1=id2)および同じq軸電流値iq(=iq1=iq2)で駆動するとすれば、下記式(20)のとおりとなる。
【0070】
【数8】
【0071】
しかし、この実施形態では、前述のとおり、第1系統および第2系統の同相ステータコイルU1,U2;V1,V2;W1,W2が集合配置されており、互いに接近しているので、互いに他の系統のステータコイルがロータ30に与える磁束の影響を受ける。そのため、第1系統が発生するトルクT1および第2系統が発生するトルクT2は、次の式(21)および式(22)で表される。
【0072】
【数9】
【0073】
式(21)の第2項は、第2系統がロータ30に与える磁束(Ld-Lq)id2との鎖交によって生じるトルクであり、いわば、擬似的なマグネットトルクを表す項である。同様に、式(22)の第2項は、第1系統がロータ30に与える磁束(Ld-Lq)id1との鎖交によって生じるトルクであり、いわば、擬似的なマグネットトルクを表す項である。
したがって、第1系統および第2系統を同時に駆動することによって得られるトルクTは、次式(23)のとおりであり、2つの系統を同じ入力で駆動する場合には、id1=id2=id、iq1=iq2=iqと置くことにより、次式(24)が得られる。
【0074】
【数10】
【0075】
すなわち、理論上、式(20)の場合の2倍のトルクが得られる。
以上のように、この実施形態の構成によれば、集合配置された複数系統のステータコイルによってロータ30を共有することにより、シンクロナスリラクタンスモータMの出力トルクの増加を図ることができる。一方、複数系統のステータコイルによってロータ30を共有していることにより生じる系統間の干渉が補償される。そのため、出力トルクが大きく、かつ制御性(とくに追従性)に優れたシステムを実現することができる。
【0076】
ステータコイルの系統数を3以上とし、対応する数の制御系を設けることにより、3系統以上のシステムを構成することもできる。
たとえば、3系統のステータコイルおよび対応する制御系を設ける場合には、第1~第3系統のd軸非干渉制御量v0d1,v0d2,v0d3およびq軸非干渉制御量v0q1,v0q2,v0q3は、下記式(25)~(30)の通りである。ただし、id1,id2,id3は、第1~第3系統のd軸電流値であり、iq1,iq2,iq3は、第1~第3系統のq軸電流値である。軸間非干渉制御量は、式(25)~式(30)の各第1項である。系統間非干渉制御量は、式(26)、式(28)および式(30)の各第2項である。したがって、第1~第3系統のd軸電圧指令値vd1,vd2,vd3およびq軸電圧指令値vq1,vq2,vq3は、対応する基本d軸電圧指令値vd1′,vd2′,vd3′およびq軸電圧指令値vq1′,vq2′,vq3′を用いて、下記式(31)~(36)で与えられる。
【0077】
【数11】
【0078】
一般に、N系統(Nは2以上の自然数)のステータコイルを設け、それらを前述の各例に倣ってN系統の同相のステータコイルが集合するように配置した場合に、第k系統(kはN以下の自然数)のd軸非干渉制御量v0dkおよびq軸非干渉制御量v0qkは、下記式(37)および式(38)の通りである。軸間非干渉制御量は、式(37)および式(38)の各第1項である。ただし、idkは、第k系統のd軸電流値であり、iqkは、第k系統のq軸電流値である。系統間非干渉制御量は、式(38)の第2項である。したがって、d軸電圧指令値vdkおよびq軸電圧指令値vqkは、対応する基本d軸電圧指令値vdk′および基本q軸電圧指令値vdk′を用いて、下記式(39)および式(40)で与えられる。
【0079】
【数12】
【0080】
以上、この発明のいくつかの実施形態について説明してきたが、この発明は、さらに他の形態で実施することができる。たとえば、前述の実施形態では、ロータ30の極数が4の例について説明したが、ロータ30の極数はこれらに限られない。また、前述の実施形態では、3相のシンクロナスリラクタンスモータについて説明したが、3相以外の相数のシンクロナスリラクタンスモータにもこの発明を適用できる。さらに、シンクロナスリラクタンスモータに限らず、リラクタンストルクを利用する他の形態のモータにもこの発明を適用することができる。具体的には、埋込構造永久磁石同期モータ(Interior Permanent Magnet Synchronous Motor)に複数系統のステータコイルを備える場合にも、この発明を適用して、系統間の干渉を回避することができる。
【0081】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0082】
12…ECU、18,M…電動モータ(シンクロナスリラクタンスモータ)、30…ロータ、40…ステータ、U1,U2…U相ステータコイル、V1,V2…V相ステータコイル、W1,W2…W相ステータコイル、50…マイクロコンピュータ、61…第1系統制御部、62…第2系統制御部、71d,72d…d軸指令値算出部、71q,72q…q軸指令値算出部、91d,92d…d軸電流制御部、91q,92q…q軸電流制御部、121,122…非干渉制御部、171,172…非干渉制御量演算部、181,182…d軸指令値補正部、191,192…q軸指令値補正部、201,202…軸間非干渉制御量演算部、211,212…系統間非干渉制御量演算部
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5
図6