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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-06
(45)【発行日】2022-04-14
(54)【発明の名称】蓄電素子
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/02 20060101AFI20220407BHJP
   H01M 4/04 20060101ALI20220407BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20220407BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20220407BHJP
【FI】
H01M4/02 Z
H01M4/04 Z
H01M4/13
H01M4/139
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018510586
(86)(22)【出願日】2017-04-03
(86)【国際出願番号】 JP2017013893
(87)【国際公開番号】W WO2017175697
(87)【国際公開日】2017-10-12
【審査請求日】2020-02-18
(31)【優先権主張番号】P 2016075259
(32)【優先日】2016-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】特許業務法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 祥太
(72)【発明者】
【氏名】加古 智典
(72)【発明者】
【氏名】川口 和輝
【審査官】井原 純
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-526759(JP,A)
【文献】特表2008-532910(JP,A)
【文献】特開平09-129230(JP,A)
【文献】特開2000-133246(JP,A)
【文献】国際公開第2013/046711(WO,A1)
【文献】特開2011-134535(JP,A)
【文献】国際公開第2014/104234(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/103558(WO,A1)
【文献】特開2015-185354(JP,A)
【文献】特開2003-157831(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子状の活物質を含む正極活物質層を有する正極を備え、
前記正極活物質層は、活物質の一次粒子と、複数の前記一次粒子が凝集した二次粒子とを含み、
前記正極活物質層の活物質の体積基準による粒径頻度分布は、第1のピークと、該第1のピークよりも粒子径が大きい方に現れる第2のピークとを有し、
前記粒径頻度分布にて、前記第1のピークと前記第2のピークとの間で頻度が極小となる粒子径をDxとしたときに、粒子径がDx以下の粒子の割合は、活物質の全粒子に対して、5%以上40%以下であり、
前記一次粒子の平均径Dpと、前記第1のピークの粒子径D1とは、0.5≦D1/Dp≦2の関係式を満たし、
前記一次粒子の平均径Dpは、前記正極活物質層にて単独で存在する一次粒子の平均径であり、前記正極活物質層の厚み方向断面の走査型電子顕微鏡観察像において、少なくとも100個の一次粒子の最も長い径を直径として測定し、測定値を平均することによって求められ、
前記第2のピークの粒子径D2は、2μm以上5μm以下である、蓄電素子。
【請求項2】
前記一次粒子の平均径Dpは、0.1μm以上2.0μm以下であり、
前記第1のピークの粒子径D1は、0.1μm以上1.0μm以下である、請求項1に記載の蓄電素子。
【請求項3】
前記粒子径がDx以下の粒子の割合は、前記活物質の全粒子に対して、34.7%以上40.0%以下である、請求項1又は2に記載の蓄電素子。
【請求項4】
活物質の二次粒子を少なくとも含む合剤から正極活物質層を形成し、該正極活物質層を有する正極を作製することと、
作製された前記正極を用いて蓄電素子を組み立てることと、を備え、
前記正極を作製することでは、正極活物質層をプレスすることによって前記二次粒子の一部を解砕させて一次粒子を生じさせ、以下の条件を満たすように前記正極活物質層を形成する、蓄電素子の製造方法。
(1)前記正極活物質層の活物質の体積基準による粒径頻度分布は、第1のピークと、該第1のピークよりも粒子径が大きい方に現れる第2のピークとを有する。
(2)前記粒径頻度分布にて、前記第1のピークと前記第2のピークとの間で頻度が極小となる粒子径をDxとしたときに、粒子径がDx以下の粒子の割合は、活物質の全粒子に対して、5%以上40%以下である。
(3)前記一次粒子の平均径Dpと、前記第1のピークの粒子径D1とは、0.5≦D1/Dp≦2の関係式を満たす。
(ただし、前記一次粒子の平均径Dpは、前記正極活物質層にて単独で存在する一次粒子の平均径であり、前記正極活物質層の厚み方向断面の走査型電子顕微鏡観察像において、少なくとも100個の一次粒子の最も長い径を直径として測定し、測定値を平均することによって求められる。)
(4)前記第2のピークの粒子径D2は、2μm以上5μm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池などの蓄電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、正極と負極とを含む電極体と、非水電解液と、が電池ケース内に収容されたリチウム二次電池が知られている。
【0003】
この種の電池としては、層状のリチウム遷移金属酸化物で構成された殻部と、その内部に形成された中空部と、を有する中空構造の正極活物質粒子を正極が備えた電池が知られている(例えば、特許文献1)。特許文献1に記載の電池では、リチウム遷移金属酸化物の一次粒子のSEM観察に基づく長径が1μm以下であり、かつ、殻部のSEM観察に基づく厚さが2μm以下である。また、負極は、炭素材料で構成された負極活物質粒子を備える。負極活物質粒子は、非晶質炭素でコートされた黒鉛を含み、負極活物質粒子のクリプトン吸着量は、3.5m/g以上4m/g以下である。特許文献1に記載の電池の容量維持率が経時的に低下することは、抑制されている。即ち、特許文献1に記載の電池は、耐久性能を有する。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の電池では、高レートでの入出力性能が必ずしも十分でない場合がある
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5630669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本実施形態は、耐久性能及び高レートでの入出力性能の両方を十分に有する蓄電素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態の蓄電素子は、粒子状の活物質を含む正極活物質層を有する正極を備え、正極活物質層は、活物質の一次粒子と、複数の一次粒子が凝集した二次粒子とを含み、正極活物質層の活物質の体積基準による粒径頻度分布は、第1のピークと、該第1のピークよりも粒子径が大きい方に現れる第2のピークとを有し、粒径頻度分布にて、第1のピークと第2のピークとの間で頻度が極小となる粒子径をDxとしたときに、粒子径がDx以下の粒子の割合は、活物質の全粒子に対して、5%以上40%以下である。斯かる構成の蓄電素子によれば、耐久性能及び高レートでの入出力性能の両方を十分に有することができる。
【0008】
上記の蓄電素子では、正極活物質層の活物質の体積基準による粒径頻度分布は、第1のピークと、該第1のピークよりも粒子径が大きい方に現れる第2のピークとを有し、一次粒子の平均径Dpと、第1のピークの粒子径D1とは、0.5≦D1/Dp≦2の関係式を満たしてもよい。斯かる構成により、上記の蓄電素子は、耐久性能及び高レートでの入出力性能の両方をより十分に有することができる。
【0009】
上記の蓄電素子では、第2のピークの粒子径D2は、2μm以上5μm以下であってもよい。斯かる構成により、上記の蓄電素子は、耐久性能及び高レートでの入出力性能の両方をより十分に有することができる。
【0010】
本実施形態の蓄電素子の製造方法は、活物質の二次粒子を少なくとも含む合剤から正極活物質層を形成し、該正極活物質層を有する正極を作製することと、作製された正極を用いて蓄電素子を組み立てることと、を備え、正極を作製することでは、正極活物質層をプレスすることによって二次粒子の一部を解砕させて一次粒子を生じさせ、正極活物質層における活物質の粒子全体に対する一次粒子の割合を5%以上40%以下に調整する。
【発明の効果】
【0011】
本実施形態によれば、耐久性能及び高レートでの入出力性能の両方を十分に有する蓄電素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本実施形態に係る蓄電素子の斜視図である。
図2図2は、同実施形態に係る蓄電素子の正面図である。
図3図3は、図1のIII-III線位置の断面図である。
図4図4は、図1のIV-IV線位置の断面図である。
図5図5は、同実施形態に係る蓄電素子の一部を組み立てた状態の斜視図であって、注液栓、電極体、集電体、及び外部端子を蓋板に組み付けた状態の斜視図である。
図6図6は、同実施形態に係る蓄電素子の電極体の構成を説明するための図である。
図7図7は、重ね合わされた正極、負極、及びセパレータの断面図(図6のVII-VII断面)である。
図8図8は、蓄電素子の製造方法の工程を表したフローチャート図である。
図9図9は、同実施形態に係る蓄電素子を含む蓄電装置の斜視図である。
図10図10は、同実施形態における正極活物質粒子の模式図である。
図11図11は、同実施形態における正極活物質粒子断面の二値化処理した画像処理図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る蓄電素子の一実施形態について、図1図7を参照しつつ説明する。蓄電素子には、二次電池、キャパシタ等がある。本実施形態では、蓄電素子の一例として、充放電可能な二次電池について説明する。尚、本実施形態の各構成部材(各構成要素)の名称は、本実施形態におけるものであり、背景技術における各構成部材(各構成要素)の名称と異なる場合がある。
【0014】
本実施形態の蓄電素子1は、非水電解質二次電池である。より詳しくは、蓄電素子1は、リチウムイオンの移動に伴って生じる電子移動を利用したリチウムイオン二次電池である。この種の蓄電素子1は、電気エネルギーを供給する。蓄電素子1は、単一又は複数で使用される。具体的に、蓄電素子1は、要求される出力及び要求される電圧が小さいときには、単一で使用される。一方、蓄電素子1は、要求される出力及び要求される電圧の少なくとも一方が大きいときには、他の蓄電素子1と組み合わされて蓄電装置100に用いられる。前記蓄電装置100では、該蓄電装置100に用いられる蓄電素子1が電気エネルギーを供給する。
【0015】
蓄電素子1は、図1図7に示すように、正極11と負極12とを含む電極体2と、電極体2を収容するケース3と、ケース3の外側に配置される外部端子7であって電極体2と導通する外部端子7と、を備える。また、蓄電素子1は、電極体2、ケース3、及び外部端子7の他に、電極体2と外部端子7とを導通させる集電体5等を有する。
【0016】
電極体2は、正極11と負極12とがセパレータ4によって互いに絶縁された状態で積層された積層体22が巻回されることによって形成される。
【0017】
正極11は、金属箔111(正極基材)と、金属箔111の表面に沿って配置され且つ活物質を含む活物質層112と、金属箔111(正極基材)及び活物質層112の間に配置され且つ導電助剤を含む導電層113と、を有する。本実施形態では、導電層113は、金属箔111の両方の面にそれぞれ重なる。活物質層112は、各導電層113の一方の面にそれぞれ重なる。活物質層112は、金属箔111の厚み方向の両側にそれぞれ配置され、同様に、導電層113は、金属箔111の厚み方向の両側にそれぞれ配置される。なお、正極11の厚みは、通常、40μm以上150μm以下である。
【0018】
金属箔111は帯状である。本実施形態の正極11の金属箔111は、例えば、アルミニウム箔である。正極11は、帯形状の短手方向である幅方向の一方の端縁部に、正極活物質層112の非被覆部(正極活物質層が形成されていない部位)115を有する。
【0019】
正極活物質層112は、粒子状の活物質と、粒子状の導電助剤と、バインダとを含む。正極11の活物質は、リチウムイオンを吸蔵放出可能な化合物である。正極活物質層112(1層分)の厚みは、通常、20μm以上90μm以下である。正極活物質層112(1層分)の目付量は、6.0mg/cm以上16.5mg/cm 以下である。正極活物質層112の密度は、1.7g/cm以上2.6g/cm 以下である。密度は、金属箔111の一方の面を覆うように配置された1層分における密度である。
【0020】
正極活物質層112は図10に示すように、活物質の一次粒子1121と、複数の一次粒子1121が凝集した二次粒子1122とを含む。詳しくは、正極活物質層112は、単独で存在する一次粒子1121と、複数の一次粒子同士が凝結した二次粒子1122とを含む。二次粒子1122では、一次粒子同士が互いに固着している。二次粒子1122の少なくとも一部には、中空部1123が形成されている。なお、中空部1123は、イオンビームを用いて、正極活物資層を厚み方向に裁断した断面をSEM観察したSEM画像を二値化処理することで確認することができる。図11は、中空率の異なる3種類の正極活物質のSEM画像を二値化処理した画像である。ここで、白色領域の外周で囲まれる領域を二次粒子と定義し、当該二次粒子の内側に存在する黒色領域を中空部であると定義する。また、当該中空部の面積を二次粒子の面積(中空部の面積も含む)で除した値の百分率を、中空率と定義する。図11に示された各粒子の中空率は、(a)0%、(b)9.9%、(c)11.4%と算出される。なお、正極活物質の中空率は好ましくは5%以上であり、より好ましくは10%以上である。
【0021】
正極活物質層112では、活物質の粒子全体に対する一次粒子の割合は、5%以上40%以下である。斯かる割合は、10%以上35%以下であってもよい。斯かる割合は、正極活物質層112にて単独で存在する一次粒子の割合である。斯かる割合は、レーザー回折式の粒度分布測定によって求められる。一次粒子の割合は、正極11を作製するときのプレス圧を上げることにより、大きくすることができる。即ち、プレス圧を上げることにより上述した二次粒子をより多く解砕することができるため、正極活物質層112における一次粒子の割合を大きくすることができる。
【0022】
正極活物質層112の活物質の体積基準の粒径頻度分布は、第1のピークと、該第1のピークよりも粒子径が大きい方に現れる第2のピークとを有する。一次粒子の平均径Dpと、第1のピークの粒子径D1とは、0.5≦D1/Dp≦2の関係式を満たす。D1/Dpの値は、正極活物質層112を作製するときの、粒子状の活物質の種類を変えることによって調整することができる。例えば、活物質の二次粒子を構成する一次粒子の粒子径に対する、二次粒子の粒子径がより大きい二次粒子を採用し、斯かる二次粒子を配合した合剤(後述)から正極活物質層112を作製することによって、D1/Dpの値を大きくすることができる。
【0023】
正極11の活物質の粒径頻度分布では、活物質の一次粒子、及び、上記の二次粒子の粒径に対する頻度が表される。粒径頻度分布は、レーザ回折・散乱式の粒度分布測定装置を用いた測定によって求められる。粒径頻度分布は、粒子の体積基準によって求められる。測定条件は、実施例において詳しく説明されている。なお、製造された電池の活物質の粒径頻度分布を測定する場合、例えば、1.0Cレートで4.2Vに達するまで電池を充電した後、さらに4.2Vの定電圧で電池を3時間放電した後、1.0Cレートで2.0Vまで定電流放電する。その後、2.0Vで5時間の定電圧放電を行う。続いて、電池を乾燥雰囲気下で解体する。活物質層を取り出してジメチルカーボネートで洗浄して砕いた後、2時間以上真空乾燥する。その後、粒度分布測定装置を用いて測定することができる。
【0024】
正極活物質層112の一次粒子の平均径Dpは、通常、0.1μm以上2.0μm以下である。一次粒子の平均径Dpは、正極活物質層112にて単独で存在する一次粒子の平均径である。一次粒子の平均径Dpは、正極活物質層112の厚み方向断面の走査型電子顕微鏡観察像において、少なくとも100個の一次粒子径の直径を測定し、測定値を平均することによって求められる。一次粒子が真球状でない場合、最も長い径を直径として測定する。
【0025】
上記の粒径頻度分布において、第1のピークの粒子径D1は、通常、0.1μm以上1.0μm以下である。第2のピークの粒子径D2は、通常、2μm以上5μm以下である。
【0026】
上記の粒径頻度分布において、第1のピークと第2のピークとの間で頻度が極小となる粒子径をDxとしたときに、粒子径がDx以下の粒子の割合は、活物質の全粒子に対して、5%以上40%以下である。粒子径がDx以下の粒子の割合は、粒径頻度分布において粒子径がDx以下の部分の面積の、全面積に対する割合によって求められる。粒子径がDx以下の粒子の割合は、通常、上述した粒度分布測定装置に付属するソフトウェアによって求められる。
【0027】
正極活物質層112の多孔度は、通常、25%以上50%以下である。
【0028】
正極11の活物質は、例えば、リチウム金属酸化物である。具体的に、正極の活物質は、例えば、LiMeO(Meは、1又は2以上の遷移金属を表す)によって表される複合酸化物(LiNi、LiCo、LiMn、LiNiCoMn等)、又は、LiMe(XO(Meは、1又は2以上の遷移金属を表し、Xは例えばP、Si、B、Vを表す)によって表されるポリアニオン化合物(LiFePO、LiMnPO、LiMnSiO、LiCoPOF等)である。
【0029】
本実施形態では、正極11の活物質は、LiNiCoMnの化学組成で表されるリチウム金属複合酸化物(ただし、0<x≦1.3であり、a+b+c+d=1であり、0≦a≦1であり、0≦b≦1であり、0≦c≦1であり、0≦d≦1であり、1.7≦e≦2.3である)である。なお、0<a<1であり、0<b<1であり、0<c<1であり、d=0であってもよい。
【0030】
上記のごときLiNiCoMnの化学組成で表されるリチウム金属複合酸化物は、例えば、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNi1/6Co1/6Mn2/3、LiCoO などである。
【0031】
正極活物質層112に用いられるバインダは、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、エチレンとビニルアルコールとの共重合体、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレンブタジエンゴム(SBR)である。本実施形態のバインダは、ポリフッ化ビニリデンである。
【0032】
正極活物質層112の導電助剤は、炭素を98質量%以上含む炭素質材料である。炭素質材料は、例えば、ケッチェンブラック(登録商標)、アセチレンブラック、黒鉛等である。本実施形態の正極活物質層112は、導電助剤としてアセチレンブラックを有する。
【0033】
導電層113は、粒子状の導電助剤と、バインダ(結着剤)とを含む。なお、導電層113は、正極活物質を含まない。導電層113は、導電助剤の間の間隙によって多孔質に形成されている。導電層113は、導電助剤を含むことから、導電性を有する。導電層113は、金属箔111と正極活物質層112との間における電子の経路となり、これらの間の導電性を保つ。導電層113の導電性は、通常、活物質層112の導電性よりも高い。
【0034】
導電層113は、金属箔111及び正極活物質層112の間に配置される。バインダ(結着剤)を含む導電層113は、金属箔111に対して十分な密着性を有する。導電層113は、正極活物質層112に対しても十分な密着性を有する。
【0035】
導電層113の厚みは、通常、0.1μm以上2.0μm以下である。導電層113の目付量は、通常、0.25g/m以上0.65g/m以下である。
【0036】
導電層113の導電助剤は、炭素を98質量%以上含む炭素質材料である。炭素質材料の電気伝導率は、通常、10-6 S/m以上である。炭素質材料は、例えば、ケッチェンブラック(登録商標)、アセチレンブラック、黒鉛等である。本実施形態の導電層113は、導電助剤としてアセチレンブラックを有する。導電助剤の粒子径は、通常、20nm以上150nm以下である。
【0037】
導電層113のバインダとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体、エチレンとビニルアルコールとの共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリフォスファゼン、ポリシロキサン、ポリ酢酸ビニル、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエチレンオキサイド(ポリエチレングリコール)、ポリプロピレンオキサイド(ポリプロピレングリコール)、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリオレフィン、ニトリル-ブタジエンゴムなどの合成高分子化合物が挙げられる。また、導電層113のバインダとしては、例えば、キトサンやキトサン誘導体、セルロースやセルロース誘導体などの天然高分子化合物が挙げられる。
【0038】
導電層113は、通常、導電助剤として炭素質材料を20質量%以上50質量%以下含み、バインダを50質量%以上80質量%以下含む。
【0039】
負極12は、金属箔121(負極基材)と、金属箔121の上に形成された負極活物質層122と、を有する。本実施形態では、負極活物質層122は、金属箔121の両面にそれぞれ重ねられる。金属箔121は帯状である。本実施形態の負極の金属箔121は、例えば、銅箔である。負極12は、帯形状の短手方向である幅方向の一方の端縁部に、負極活物質層122の非被覆部(負極活物質層が形成されていない部位)非被覆部125を有する。負極12の厚み(1層分)は、通常、40μm以上150μm以下である。
【0040】
負極活物質層122は、粒子状の活物質と、バインダと、を含む。負極活物質層122は、セパレータ4を介して正極11と向き合うように配置される。負極活物質層122の幅は、正極活物質層112の幅よりも大きい。
【0041】
負極活物質層122では、バインダの比率は、負極の活物質とバインダとの合計質量に対して、5質量%以上10質量%以下であってもよい。
【0042】
負極12の活物質は、負極12において充電反応及び放電反応の電極反応に寄与し得るものである。例えば、負極12の活物質は、グラファイト、非晶質炭素(難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素)などの炭素材料、又は、ケイ素(Si)及び錫(Sn)などリチウムイオンと合金化反応を生じる材料である。ここで、グラファイトとは広角X線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.340nm未満の炭素材料をいう。また、非晶質炭素とは放電状態において広角X線回折法から測定される(002)面の面間隔が、0.340nm以上である。
本実施形態の負極の活物質は、非晶質炭素である。より具体的には、負極の活物質は、難黒鉛化炭素である。
【0043】
負極活物質層122(1層分)の厚みは、通常、10μm以上50μm以下である。負極活物質層122の目付量(1層分)は、通常、2.5mg/cm以上5.0mg/cm 以下である。負極活物質層122の密度(1層分)は、通常、0.8g/cm
上1.6g/cm 以下である。
【0044】
負極活物質層122に用いられるバインダは、正極活物質層112に用いられたバインダと同様のものである。本実施形態のバインダは、ポリフッ化ビニリデンである。
【0045】
負極活物質層122は、ケッチェンブラック(登録商標)、アセチレンブラック、黒鉛等の導電助剤をさらに有してもよい。
【0046】
本実施形態の電極体2では、以上のように構成される正極11と負極12とがセパレータ4によって絶縁された状態で巻回される。即ち、本実施形態の電極体2では、正極11、負極12、及びセパレータ4の積層体22が巻回される。セパレータ4は、絶縁性を有する部材である。セパレータ4は、正極11と負極12との間に配置される。これにより、電極体2(詳しくは、積層体22)において、正極11と負極12とが互いに絶縁される。また、セパレータ4は、ケース3内において、電解液を保持する。これにより、蓄電素子1の充放電時において、リチウムイオンが、セパレータ4を挟んで交互に積層される正極11と負極12との間を移動する。
【0047】
セパレータ4は、帯状である。セパレータ4は、多孔質なセパレータ基材を有する。本実施形態のセパレータ4は、セパレータ基材のみを有する。セパレータ4は、正極11及び負極12間の短絡を防ぐために正極11及び負極12の間に配置されている。
【0048】
セパレータ基材は、例えば、織物、不織布、又は多孔膜によって多孔質に構成される。セパレータ基材の材質としては、高分子化合物、ガラス、セラミックなどが挙げられる。高分子化合物としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリアミド(PA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)などのポリオレフィン(PO)、又は、セルロースが挙げられる。
【0049】
セパレータ4の幅(帯形状の短手方向の寸法)は、負極活物質層122の幅より僅かに大きい。セパレータ4は、正極活物質層112及び負極活物質層122が重なるように幅方向に位置ずれした状態で重ね合わされた正極11と負極12との間に配置される。このとき、図6に示すように、正極11の非被覆部115と負極12の非被覆部125とは重なっていない。即ち、正極11の非被覆部115が、正極11と負極12との重なる領域から幅方向に突出し、且つ、負極12の非被覆部125が、正極11と負極12との重なる領域から幅方向(正極11の非被覆部115の突出方向と反対の方向)に突出する。積層された状態の正極11、負極12、及びセパレータ4、即ち、積層体22が巻回されることによって、電極体2が形成される。正極11の非被覆部115又は負極12の非被覆部125のみが積層された部位によって、電極体2における非被覆積層部26が構成される。
【0050】
非被覆積層部26は、電極体2における集電体5と導通される部位である。非被覆積層部26は、巻回された正極11、負極12、及びセパレータ4の巻回中心方向視において、空間部27(図6参照)を挟んで二つの部位(二分された非被覆積層部)261に区分けされる。
【0051】
以上のように構成される非被覆積層部26は、電極体2の各極に設けられる。即ち、正極11の非被覆部115のみが積層された非被覆積層部26が電極体2における正極11の非被覆積層部を構成し、負極12の非被覆部125のみが積層された非被覆積層部26が電極体2における負極12の非被覆積層部を構成する。
【0052】
ケース3は、開口を有するケース本体31と、ケース本体31の開口を塞ぐ(閉じる)蓋板32と、を有する。ケース3は、電極体2及び集電体5等と共に、電解液を内部空間に収容する。ケース3は、電解液に耐性を有する金属によって形成される。ケース3は、例えば、アルミニウム、又は、アルミニウム合金等のアルミニウム系金属材料によって形成される。ケース3は、ステンレス鋼及びニッケル等の金属材料、又は、アルミニウムにナイロン等の樹脂を接着した複合材料等によって形成されてもよい。
【0053】
電解液は、非水溶液系電解液である。電解液は、有機溶媒に電解質塩を溶解させることによって得られる。有機溶媒は、例えば、プロピレンカーボネート及びエチレンカーボネートなどの環状炭酸エステル類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、及びエチルメチルカーボネートなどの鎖状カーボネート類である。電解質塩は、LiClO、LiBF、及びLiPF等である。本実施形態の電解液は、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、及びエチルメチルカーボネートを所定の割合で混合した混合溶媒に、0.5~1.5mol/LのLiPFを溶解させたものである。
【0054】
ケース3は、ケース本体31の開口周縁部と、長方形状の蓋板32の周縁部とを重ね合わせた状態で接合することによって形成される。また、ケース3は、ケース本体31と蓋板32とによって画定される内部空間を有する。本実施形態では、ケース本体31の開口周縁部と蓋板32の周縁部とは、溶接によって接合される。
以下では、図1に示すように、蓋板32の長辺方向をX軸方向とし、蓋板32の短辺方向をY軸方向とし、蓋板32の法線方向をZ軸方向とする。
【0055】
ケース本体31は、開口方向(Z軸方向)における一方の端部が塞がれた角筒形状(即ち、有底角筒形状)を有する。蓋板32は、ケース本体31の開口を塞ぐ板状の部材である。
【0056】
蓋板32は、ケース3内のガスを外部に排出可能なガス排出弁321を有する。ガス排出弁321は、ケース3の内部圧力が所定の圧力まで上昇したときに、該ケース3内から外部にガスを排出する。ガス排出弁321は、X軸方向における蓋板32の中央部に設けられる。
【0057】
ケース3には、電解液を注入するための注液孔が設けられる。注液孔は、ケース3の内部と外部とを連通する。注液孔は、蓋板32に設けられる。注液孔は、注液栓326によって密閉される(塞がれる)。注液栓326は、溶接によってケース3(本実施形態の例では蓋板32)に固定される。
【0058】
外部端子7は、他の蓄電素子1の外部端子7又は外部機器等と電気的に接続される部位である。外部端子7は、導電性を有する部材によって形成される。例えば、外部端子7は、アルミニウム又はアルミニウム合金等のアルミニウム系金属材料、銅又は銅合金等の銅系金属材料等の溶接性の高い金属材料によって形成される。
【0059】
外部端子7は、バスバ等が溶接可能な面71を有する。面71は、平面である。外部端
子7は、蓋板32に沿って拡がる板状である。詳しくは、外部端子7は、Z軸方向視において矩形状の板状である。
【0060】
集電体5は、ケース3内に配置され、電極体2と通電可能に直接又は間接に接続される。本実施形態の集電体5は、クリップ部材50を介して電極体2と通電可能に接続される。即ち、蓄電素子1は、電極体2と集電体5とを通電可能に接続するクリップ部材50を備える。
【0061】
集電体5は、導電性を有する部材によって形成される。図3に示すように、集電体5は、ケース3の内面に沿って配置される。集電体5は、蓄電素子1の正極11と負極12とにそれぞれ配置される。本実施形態の蓄電素子1では、ケース3内において、電極体2の正極11の非被覆積層部26と、負極12の非被覆積層部26とにそれぞれ配置される。
【0062】
正極11の集電体5と負極12の集電体5とは、異なる材料によって形成される。具体的に、正極11の集電体5は、例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金によって形成され、負極12の集電体5は、例えば、銅又は銅合金によって形成される。
【0063】
本実施形態の蓄電素子1では、電極体2とケース3とを絶縁する袋状の絶縁カバー6に収容された状態の電極体2(詳しくは、電極体2及び集電体5)がケース3内に収容される。
【0064】
次に、本実施形態の蓄電素子の製造方法について説明する。
【0065】
本実施形態の蓄電素子の製造方法は、図8に示すように、活物質の二次粒子を少なくとも含む合剤から正極活物質層を形成し、該正極活物質層を有する正極を作製すること(ステップ1)と、作製された正極を用いて蓄電素子を組み立てること(ステップ2)と、を備える。正極を作製することでは、正極活物質層をプレスすることによって二次粒子の一部を解砕させて一次粒子を生じさせ、正極活物質層における活物質の粒子全体に対する一次粒子の割合を5%以上40%以下に調整する。
【0066】
詳しくは、本実施形態の蓄電素子の製造方法は、上記のごとき正極を作製すること(ステップ1)及び負極を作製することを含む電極を作製することと、正極及び負極を有する電極体を形成することと、電極体をケースに入れて蓄電素子を組み立てることと、を備える。
【0067】
具体的には、蓄電素子1の製造方法では、まず、金属箔(電極基材)に活物質を含む合剤を塗布し、活物質層を形成し、電極(正極11及び負極12)を作製する。なお、正極11の作製では、導電助剤を含む導電層113を金属箔111上に形成してから、活物質層112を形成する。次に、正極11、セパレータ4、及び負極12を重ね合わせて電極体2を形成する。続いて、電極体2をケース3に入れ、ケース3に電解液を入れることによって蓄電素子1を組み立てる。
【0068】
ステップ1(正極11の作製)では、金属箔の両面に、導電助剤とバインダと溶媒とを含む導電層用の組成物をそれぞれ塗布し、例えば100~160度で組成物を乾燥させることによって、導電層113を形成する。さらに、活物質とバインダと溶媒とを含む合剤を各導電層に塗布することによって正極活物質層112を形成する。導電層113や正極活物質層112を形成するための塗布方法としては、一般的な方法が採用される。塗布された導電層113や正極活物質層112を、所定の温度(例えば80~150℃)及び所定の圧力(例えば5~100kg/cmの線圧)でロールプレスする。プレス圧を調整することにより、導電層113や正極活物質層112の密度を調整できる。プレス後に、80~140℃にて12~24時間の真空乾燥を行う。なお、導電層を形成せずに負極も同様にして作製する。
【0069】
ステップ1(正極11の作製)では、正極活物質層112にて活物質の粒子全体に対する一次粒子の割合が、5%以上40%以下となるように、正極活物質層112を形成する。また、上述した一次粒子の平均径Dpと、第1のピークの粒子径D1とが、0.5≦D1/Dp≦2の関係式を満たすように正極活物質層112を形成することができる。また、上述した粒子径がDx以下の粒子の割合が、活物質の全粒子に対して5%以上40%以下であるように正極活物質層112を形成することができる。また、上述した第2のピークの粒子径D2が、2μm以上5μm以下であるように正極活物質層112を形成することができる。
【0070】
正極活物質層112の形成にて、活物質の一次粒子同士が凝結した二次粒子を用いて合剤を調製する。合剤を塗布した後、上記のロールプレスのプレス圧を調整することによって、上述した一次粒子の割合、上述した粒子径がDx以下の粒子の割合などを調整することができる。具体的には、プレス圧を高めることにより、二次粒子をより解砕させることができる。このため、二次粒子が解砕されて生じた一次粒子を増やすことができる。従って、プレス圧を高めることにより、上述した一次粒子の割合を大きくでき、上述した粒子径がDx以下の粒子の割合を大きくできる。なお、正極活物質層112の形成にて、下記の方法によっても、上述した一次粒子の割合、上述した粒子径がDx以下の粒子の割合などを調整することができる。例えば、二次粒子(活物質)とバインダと溶媒とを含む合剤を混合するときに合剤に与えるせん断力をより大きくすることによって、より多くの二次粒子を解砕させ、正極活物質層112における一次粒子をより多くすることができる。また、例えば、二次粒子を押しつぶすことで一次粒子を生じさせたものを合剤に配合することができる。押しつぶす力をより大きくすることにより、正極活物質層112における一次粒子をより多くすることができる。
【0071】
ステップ2(電極体2の形成)では、正極11と負極12との間にセパレータ4を挟み込んだ積層体22を巻回することにより、電極体2を形成する。詳しくは、正極活物質層112と負極活物質層122とがセパレータ4を介して互いに向き合うように、正極11とセパレータ4と負極12とを重ね合わせ、積層体22を作る。続いて、積層体22を巻回して、電極体2を形成する。
【0072】
蓄電素子1の組み立てでは、ケース3のケース本体31に電極体2を入れ、ケース本体31の開口を蓋板32で塞ぎ、電解液をケース3内に注入する。ケース本体31の開口を蓋板32で塞ぐときには、ケース本体31の内部に電極体2を入れ、正極11と一方の外部端子7とを導通させ、且つ、負極12と他方の外部端子7とを導通させた状態で、ケース本体31の開口を蓋板32で塞ぐ。電解液をケース3内へ注入するときには、ケース3の蓋板32の注入孔から電解液をケース3内に注入する。
【0073】
上記のように構成された本実施形態の蓄電素子1では、正極活物質層112は、活物質の一次粒子と、複数の一次粒子が凝集した二次粒子とを含む。正極活物質層112にて活物質の粒子全体に対する一次粒子の割合は、5%以上40%以下である。上記の一次粒子の割合が5%未満であると、電池の耐久性は十分であるものの、入出力性能が不十分になるおそれがある。一方、上記の一次粒子の割合が40%よりも大きいと、活物質の表面積が大きくなり過ぎ、電池の耐久性能が不十分になるおそれがある。従って、上記の蓄電素子1は、耐久性能及び高レートでの入出力性能の両方を十分に有することができる。
【0074】
上記の蓄電素子1では、正極活物質層112の活物質の体積基準による粒径頻度分布は、第1のピークと、該第1のピークよりも粒子径が大きい方に現れる第2のピークとを有する。一次粒子の平均径Dpと、第1のピークの粒子径D1とは、0.5≦D1/Dp≦2の関係式を満たす。斯かる構成により、上記の蓄電素子1は、耐久性能及び高レートでの入出力性能の両方をより十分に有することができる。
【0075】
上記の蓄電素子1では、粒径頻度分布にて、第1のピークと第2のピークとの間で頻度が極小となる粒子径をDxとしたときに、粒子径がDx以下の粒子の割合は、活物質の全粒子に対して、5%以上40%以下である。これにより、上記の蓄電素子1は、耐久性能及び高レートでの入出力性能の両方をより十分に有することができる。
【0076】
上記の蓄電素子1では、第2のピークの粒子径D2が、2μm以上5μm以下であることにより、耐久性能及び高レートでの入出力性能の両方がより十分に発揮される。
【0077】
上記の蓄電素子1では、正極の活物質は、リチウム金属複合酸化物である。リチウム金属複合酸化物は、LiNiMnCoの化学組成(ただし、0<x≦1.3であり、a+b+c+d=1であり、0≦a≦1であり、0≦b≦1であり、0≦c≦1であり、0≦d≦1であり、1.7≦e≦2.3である)で表される。また、負極の活物質は、難黒鉛化炭素である。上記の蓄電素子1は、耐久性能及び高レートでの入出力性能の両方をより確実に且つより十分に有することができる。
【0078】
上記のように実施する本実施形態の蓄電素子の製造方法は、活物質の二次粒子を少なくとも含む合剤から正極活物質層112を形成し、該正極活物質層112を有する正極11を作製すること(ステップ1)と、作製された正極11を用いて蓄電素子1を組み立てること(ステップ2)と、を備える。ステップ1では、正極活物質層112をプレスすることによって二次粒子の一部を解砕させて一次粒子を生じさせ、正極活物質層112における活物質の粒子全体に対する一次粒子の割合を5%以上40%以下に調整する。これにより、上述した構成の蓄電素子1を製造することができる。
【0079】
尚、本発明の蓄電素子は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。
【0080】
上記の実施形態では、金属箔と活物質層との間に配置された導電層を有する正極について詳しく説明したが、本発明では、正極が導電層を有さず、正極の活物質層が金属箔に直接接してもよい。
【0081】
上記実施形態では、活物質層が各電極の金属箔の両面側にそれぞれ配置された電極について説明したが、本発明の蓄電素子では、正極11又は負極12は、活物質層を金属箔の片面側にのみ備えてもよい。
【0082】
上記実施形態では、積層体22が巻回されてなる電極体2を備えた蓄電素子1について詳しく説明したが、本発明の蓄電素子は、巻回されない積層体22を備えてもよい。詳しくは、それぞれ矩形状に形成された正極、セパレータ、負極、及びセパレータが、この順序で複数回積み重ねられてなる電極体を蓄電素子が備えてもよい。
【0083】
上記実施形態では、蓄電素子1が充放電可能な非水電解質二次電池(例えばリチウムイオン二次電池)として用いられる場合について説明したが、蓄電素子1の種類や大きさ(容量)は任意である。また、上記実施形態では、蓄電素子1の一例として、リチウムイオン二次電池について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、本発明は、種々の二次電池、その他、電気二重層キャパシタ等のキャパシタの蓄電素子にも適用可能である。
【0084】
蓄電素子1(例えば電池)は、図9に示すような蓄電装置100(蓄電素子が電池の場合は電池モジュール)に用いられてもよい。蓄電装置100は、少なくとも二つの蓄電素子1と、二つの(異なる)蓄電素子1同士を電気的に接続するバスバ部材91と、を有する。この場合、本発明の技術が少なくとも一つの蓄電素子に適用されていればよい。
【実施例
【0085】
以下に示すようにして、非水電解質二次電池(リチウムイオン二次電池)を製造した。
【0086】
(試験例1)
(1)正極の作製
溶剤としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)と、導電助剤(アセチレンブラック)と、バインダ(PVdF)とを、混合し、混練することで、導電層用の組成物を調製した。導電助剤、バインダの配合量は、それぞれ50質量%、50質量%とした。調製した導電層用の組成物を、アルミニウム箔(15μm厚み)の両面に、乾燥後の塗布量(目付量)が0.1mg/cmとなるようにそれぞれ塗布し、乾燥させた。
次に、溶剤としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)と、導電助剤(アセチレンブラック)と、バインダ(PVdF)と、平均粒子径D50が5μmの活物質(LiNi1/3Co1/3Mn1/3)の粒子とを、混合し、混練することで、正極用の合剤を調製した。導電助剤、バインダ、活物質の配合量は、それぞれ4.5質量%、4.5質量%、91質量%とした。調製した正極用の合剤を、導電層に、乾燥後の塗布量(目付量)が10mg/cmとなるようにそれぞれ塗布した。乾燥後、ロールプレスを行った。その後、真空乾燥して、水分等を除去した。プレス後の活物質層(1層分)の厚みは、30μmであった。活物質層の密度は、2.6g/cmであった。活物質層の多孔度は、38であった。プレス後の導電層の厚みは、1μmであった。導電層の密度は、1.0g/cmであった。
・活物質について
合剤に配合する活物質として、一次粒子が互いに凝結した二次粒子(凝結粒子)を用いた。二次粒子を構成する一次粒子の平均粒子径は、0.8μmであった。斯かる平均粒子径は、上述した平均径Dpである。斯かる平均粒子径は、走査型電子顕微鏡観察像において、100個の一次粒子径の直径を測定し、測定値を平均することによって求めた。一次粒子が真球状でない場合、最も長い径を直径として測定した。
【0087】
(2)負極の作製
活物質としては、粒子状の非晶質炭素(難黒鉛化炭素)を用いた。また、バインダとしては、PVdFを用いた。負極用の合剤は、溶剤としてNMPと、バインダと、活物質とを混合、混練することで調製した。バインダは、7質量%となるように配合し、活物質は、93質量%となるように配合した。調製した負極用の合剤を、乾燥後の塗布量(目付量)が4.0mg/cmとなるように、銅箔(10μm厚み)の両面にそれぞれ塗布した。乾燥後、ロールプレスを行い、真空乾燥して、水分等を除去した。活物質層(1層分)の厚みは、35μmであった。活物質層の密度は、1.2g/cmであった。
【0088】
(3)セパレータ
セパレータとして厚みが22μmのポリエチレン製微多孔膜を用いた。ポリエチレン製微多孔膜の透気度は、100秒/100ccであった。
【0089】
(4)電解液の調製
電解液としては、以下の方法で調製したものを用いた。非水溶媒として、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートを、いずれも1容量部ずつ混合した溶媒を用い、この非水溶媒に、塩濃度が1mol/LとなるようにLiPFを溶解させ、電解液を調製した。
【0090】
(5)ケース内への電極体の配置
上記の正極、上記の負極、上記の電解液、セパレータ、及びケースを用いて、一般的な方法によって電池を製造した。
まず、セパレータが上記の正極および負極の間に配されて積層されてなるシート状物を巻回した。正極活物質層と負極活物質層とが重なった部分の面積は、5000cmであった。次に、巻回されてなる電極体を、ケースとしてのアルミニウム製の角形電槽缶のケース本体内に配置した。続いて、正極及び負極を2つの外部端子それぞれに電気的に接続させた。さらに、ケース本体に蓋板を取り付けた。上記の電解液を、ケースの蓋板に形成された注液口からケース内に注入した。最後に、ケースの注液口を封止することにより、ケースを密閉した。
【0091】
・正極活物質層の活物質の粒径頻度分布について
いったん製造した電池から正極の活物質層を取り出した。取り出した活物質層を50倍以上の重量のNMPに浸漬し、30分間の超音波分散によって前処理を施した。測定装置としてレーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所社製「SALD2200」)、測定制御ソフトとして専用アプリケーションソフトフェアDMS ver2を用いた。具体的な測定手法としては、散乱式の測定モードを採用し、測定試料(活物質)が分散する分散液が循環する湿式セルを2分間超音波環境下に置いた後に、レーザー光を照射し、測定試料から散乱光分布を得た。そして、散乱光分布を対数正規分布により近似し、その粒径頻度分布(横軸、σ)において最小を0.021μm、最大を2000μmに設定した範囲の中で累積度50%(D50)にあたる粒径を平均粒子径とした。また、分散液は、界面活性剤と、分散剤としてのSNディスパーサント 7347-C(製品名)またはトリトンX-1
00(製品名)とを含んでもよい。
【0092】
・第1のピークの粒子径D1、第2のピークの粒子径D2
粒径頻度分布において、2つのピークが存在した。粒子径が小さい方のピークの極大点における粒子径を第1のピークの粒子径D1とした。粒子径が大きい方のピークの極大点における粒子径を第2のピークの粒子径D2とした。
・活物質の粒子全体に対する一次粒子の割合
(粒子径がDx(2つのピーク間の極小点の粒子径)以下の粒子の割合)
上記粒径頻度分布において、D1とD2との間に極小点が存在した。極小点における粒子径をDxとした。粒径頻度分布において全測定点の値の和を100としたときの、粒子径Dxよりも小さな粒子径における測定点の値の和を、活物質の粒子全体に対する一次粒子の割合とした。
【0093】
(試験例2~12)
電池を表1に示す構成となるように変更した点以外は、試験例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を製造した。
【0094】
【表1】
【0095】
<耐久性能の評価>
25℃の恒温槽中で5Aの充電電流、4.2Vの定電流定電圧充電を3時間行い、10分の休止後、5Aの放電電流にて2.4Vまで定電流放電を行うことで、当該電池の耐久試験前の放電容量C1[Ah]を測定した。25℃の恒温槽中で5Aの充電電流、4.2V
の定電流定電圧充電を3時間行い、65℃の環境にて30日間保管した.その後当該電池を25℃で4時間保持した後、25℃の恒温槽中で5Aの充電電流、4.2Vの定電流定電圧充電を3時間行い、10分の休止後、5Aの放電電流にて2.4Vまで定電流放電を行うことで、当該電池の耐久試験後の放電容量C2[Ah]を測定した。上述のC1およびC2をもちいてC2/C1×100[%]を計算し、この値を耐久性能とした。
【0096】
<高レートでの入出力性能の評価>
25℃の恒温槽中で5Aの放電電流にて2.4Vまで定電流放電を行った後、上記放電容量C1の50%に相当する電気量を5Aの電流値で定電流充電し、10分の休止後、開回路電圧V1を測定した。その後当該電池を-10℃の恒温槽で4時間保管し、25Aの放電電流にて10秒間の定電流放電を行い、通電後10秒での閉回路電圧V2を測定した。その後5Aの放電電流にて50秒間の定電流放電を行い、10分の休止後、25Aの充電電流にて10秒間の定電流充電を行い、通電後10秒での閉回路電圧V3を測定した。上記V1、V2、V3をもちいて、電流値-5[A]での電圧をV2、電流値0[A]での電圧をV1、電流値5[A]での電圧をV3とした場合の直流抵抗R[Ω]を最小二乗法により算出し、その値の逆数1/RであるWをもちい、高レートでの入出力性能の指標とした。表1においては、各例におけるWの値Wxと、試験例1におけるWの値W1との比Wx/W1×100[%]の値を記載した
【0097】
本実施形態の所定の構成の電池では、耐久性能及び高レートでの入出力性能の両方が十分に発揮された。一方、それ以外の電池では、十分な耐久性能および高レートでの入出力性能を同時に発揮するものはなかった。
【符号の説明】
【0098】
1:蓄電素子(非水電解質二次電池)、
2:電極体、
26:非被覆積層部、
3:ケース、 31:ケース本体、 32:蓋板、
4:セパレータ、 5:集電体、 50:クリップ部材、
6:絶縁カバー、
7:外部端子、 71:面、
11:正極、
111:正極の金属箔(正極基材)、 112:正極活物質層、
113:導電層、
12:負極、
121:負極の金属箔(負極基材)、 122:負極活物質層、
91:バスバ部材、
100:蓄電装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11