(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-06
(45)【発行日】2022-04-14
(54)【発明の名称】緩み止めボルト、ナット構造
(51)【国際特許分類】
F16B 39/28 20060101AFI20220407BHJP
F16B 39/02 20060101ALI20220407BHJP
【FI】
F16B39/28 Z
F16B39/02 Z
(21)【出願番号】P 2018158401
(22)【出願日】2018-08-27
【審査請求日】2020-11-27
(73)【特許権者】
【識別番号】520466250
【氏名又は名称】カワサキ企画株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080160
【氏名又は名称】松尾 憲一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149205
【氏名又は名称】市川 泰央
(72)【発明者】
【氏名】川崎 勝成
【審査官】後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】実開昭63-118416(JP,U)
【文献】特開2018-096531(JP,A)
【文献】米国特許第08496421(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 23/00-43/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上ナット本体と下ナット本体の組合せによりボルト本体に螺合する六角ナットを構成し、六角ナットは上下ナット本体に内蔵した緩み止め機構を介してボルト本体から弛緩しないように構成した緩み止めボルト、ナット構造において、
緩み止め機構は上下ナット本体の内部に設けた以下の構造よりなることを特徴とする緩み止めボルト、ナット構造。
a 外周面を六角面の筒状に形成した下ナット本体の筒状内側には雌ネジを形成し、
b 下ナット本体の天端中央にピン孔を設けると共に、天端にラチェット保持筒体を一体に載置することにより下ナット本体の筒状内部とラチェット保持筒体の筒状内部とを連通し、
c ラチェット保持筒体内部から下ナット本体の筒状内部にわたって押し下げ付勢した係合ピンを挿入し、
d 係合ピンの下端部は押し下げ付勢により螺合ボルト先端面と係合自在に構成すると共に、上端部には環状ギアを設け、
e ラチェット保持筒体の外周鍔部には複数の係合凹部を等間隔に形成することにより複数の係合鍔体を突設し、
f 複数の係合鍔体の上面にはそれぞれ環状ギアと噛合可能なラチェット歯体を枢支して係合鍔体上にラチェット機構を構成し、
g 下ナット本体を被覆する上ナット本体は外周面を六角面に形成し、
h 上ナット本体の底板には係合鍔体を有するラチェット保持筒体の外形と略同形の遊嵌用孔部を形成すると共に、上ナット本体の底板は下ナット本体への被覆状態でラチェット保持筒体の係合鍔体と下ナット本体の天端との間を回転摺動自在に構成し、
i
下ナット本体の天端にラチェット保持筒体の外周面に沿った環状溝部を形成し、環状溝部に環状スプリングを遊嵌し、六角ナットのボルト本体への螺合締付け状態では、環状スプリングの付勢により上ナット本体は下ナット本体から所定の回転角度だけずれた状態とすると共に、上ナット本体の天端から垂設したラチェット歯体係合ピンとラチェット歯体側面とは非接触状態において係合ピンの環状ギアとラチェット歯体を係合し、ラチェット保持筒体と一体の下ナット本体の弛緩回転を阻止し、他方、かかる弛緩回転阻止状態を解除して六角ナットをボルト本体から弛緩するに際しては、上ナット本体を回転させて上ナット本体の六角面と下ナット本体の六角面とを符合状態としてラチェット歯体係合ピンをラチェット歯体側面に当接して係合ピンの環状ギアをラチェット歯体から解除してラチェット保持筒体と一体の下ナット本体を弛緩方向への回転可能とした。
【請求項2】
係合ピンは有底筒状に形成し、筒体内部はバネ挿入孔を形成しその内部には押圧バネを収納して上ナット本体の天面中央部に垂設した押し下げ部により係合ピンの押し下げ付勢するように構成したことを特徴とする請求項1に記載の緩み止めボルト、ナット構造。
【請求項3】
環状スプリングの中途部は下方に迂回した係止凸バネとし、環状スプリングの一部を切欠して切欠部一端には縦方向に立上げた上ナット本体の底板受けバネとし、切欠部他端は外向き上方付勢の係止バネとしたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の緩み止めボルト、ナット構造。
【請求項4】
係合ピンは内外の二重ピンに構成し、内側の係合ピンは下端部に螺合ボルト先端面と係合自在に構成し、外側の係合ピンはパイプ状として内側の係合ピンを挿入し上端部に環状ギアを設けて構成したことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の緩み止めボルト、ナット構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ボルトに螺合したネジの緩み止め機能を有すると共に、緩み止めのためのナットの螺合操作を通常の螺合操作で行える緩み止めボルト、ナット構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ボルトに螺合したナットは振動や経年変化で徐々に弛緩してボルトから離脱したり締め込み応力が減殺されてボルト、ナットによる連結構造が崩壊して思わぬ事故を招来する。
【0003】
そこで、古来ナットの緩みを防止するための各種の技術が提供されてきた。例えば、特許文献1には、ボルトに螺合する上下ナットの接続部をボルト螺合孔に偏心する雌雄ネジ構造に構成し、上下ナット螺着状態で上下のボルト螺合孔の軸線をずらしてボルトを上下ナットにより上下挟持する技術が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、被締結物とナットとの間に介在させるワッシャを被締結物表面に固着し、ボルトにナットを取り付けた状態でナットの六角面に当接係合する断面視コ字状片をナットに外嵌すると共にコ字状片両端をワッシャに固定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-40495号公報
【文献】特開2017-89762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、数多くのこれらのナット緩み止めの技術は確実にナットの弛緩防止機能を果たすことができるものであるが、ボルトにナットを一体化する螺合初動操作が複雑で各種の事前付加操作をしておかねばならず各種の部材組立て作業の煩雑化を招き容易に採用されにくい課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、上ナット本体と下ナット本体の組合せによりボルト本体に螺合する六角ナットを構成し、六角ナットは上下ナット本体に内蔵した緩み止め機構を介してボルト本体から弛緩しないように構成した緩み止めボルト、ナット構造において、緩み止め機構は上下ナット本体の内部に設けた以下の構造よりなることを特徴とする緩み止めボルト、ナット構造を提供せんとするものである。
【0008】
すなわち、
a 外周面を六角面の筒状に形成した下ナット本体の筒状内側には雌ネジを形成し、
b 下ナット本体の天端中央にピン孔を設けると共に、天端にラチェット保持筒体を一体に載置することにより下ナット本体の筒状内部とラチェット保持筒体の筒状内部とを連通し、
c ラチェット保持筒体内部から下ナット本体の筒状内部にわたって押し下げ付勢した係合ピンを挿入し、
d 係合ピンの下端部は押し下げ付勢により螺合ボルト先端面と係合自在に構成すると共に、上端部には環状ギアを設け、
e ラチェット保持筒体の外周鍔部には複数の係合凹部を等間隔に形成することにより複数の係合鍔体を突設し、
f 複数の係合鍔体の上面にはそれぞれ環状ギアと噛合可能なラチェット歯体を枢支して係合鍔体上にラチェット機構を構成し、
g 下ナット本体を被覆する上ナット本体は外周面を六角面に形成し、
h 上ナット本体の底板には係合鍔体を有するラチェット保持筒体の外形と略同形の遊嵌用孔部を形成すると共に、上ナット本体の底板は下ナット本体への被覆状態でラチェット保持筒体の係合鍔体と下ナット本体の天端との間を回転摺動自在に構成し、
i 下ナット本体の天端にラチェット保持筒体の外周面に沿った環状溝部を形成し、環状溝部に環状スプリングを遊嵌し、六角ナットのボルト本体への螺合締付け状態では、環状スプリングの付勢により上ナット本体は下ナット本体から所定の回転角度だけずれた状態とすると共に、上ナット本体の天端から垂設したラチェット歯体係合ピンとラチェット歯体側面とは非接触状態において係合ピンの環状ギアとラチェット歯体を係合し、ラチェット保持筒体と一体の下ナット本体の弛緩回転を阻止し、他方、かかる弛緩回転阻止状態を解除して六角ナットをボルト本体から弛緩するに際しては、上ナット本体を回転させて上ナット本体の六角面と下ナット本体の六角面とを符合状態としてラチェット歯体係合ピンをラチェット歯体側面に当接して係合ピンの環状ギアをラチェット歯体から解除してラチェット保持筒体と一体の下ナット本体を弛緩方向への回転可能とした。
【0009】
また、係合ピンは有底筒状に形成し、筒体内部はバネ挿入孔を形成しその内部には押圧バネを収納して上ナット本体の天面中央部に垂設した押し下げ部により係合ピンの押し下げ付勢するように構成したことを特徴とする。
【0010】
また、環状スプリングの中途部は下方に迂回した係止凸バネとし、環状スプリングの一部を切欠して切欠部一端には縦方向に立上げた上ナット本体の底板受けバネとし、切欠部他端は外向き上方付勢の係止バネとしたことを特徴とする
【0011】
また、係合ピンは内外の二重ピンに構成し、内側の係合ピンは下端部に螺合ボルト先端面と係合自在に構成し、外側の係合ピンはパイプ状として内側の係合ピンを挿入し上端部に環状ギアを設けて構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、上ナット本体と下ナット本体の組合せによりボルト本体に螺合する六角ナットを構成し、六角ナットは上下ナット本体に内蔵した緩み止め機構を介してボルト本体から弛緩しないように構成し、しかも、緩み止め機構は上下ナット本体の内部に設けたラチェット機構を中心として構成したことにより、上下ナット本体の締め込みの極限位置から六角ナットが弛緩することを防止できる効果がある。
【0015】
すなわち、ボルト本体に螺合した六角ナットは必要個所で極限まで締付けて螺合が完成するものであるが、この状態で六角ナットが弛緩することを防止するために六角ナットを必要個所で極限まで螺合締付ける過程において、下ナット本体に連動連結した係合ピン上端部の環状ギアがラチェット機構と一方向に自由に回転して六角ナットの螺合締付け作動が円滑に行われる。
【0016】
その後、六角ナットを極限まで締付け螺合し六角ナットの螺合回転を終了すると下ナット本体に連動連結した係合ピン上端部の環状ギアはラチェット機構に係合して逆方向への回転が阻止されて自由に回転しない状態となる。
【0017】
しかも、逆方向への回転が阻止された状態、すなわち、ラチェット機構に上端環状ギアを介して噛み合った状態では係合ピンは下端において螺合ボルト先端面の溝と一体に係合されているので係合ピンと一体連結された六角ナットはこの状態で機構的に弛緩することができない効果がある。
【0018】
特に、環状溝部に遊嵌した環状スプリングの中途部は下方に迂回した係止凸バネとし、環状スプリングの一部を切欠して切欠部一端には縦方向に立上げた上ナット本体の底板受けバネとし、切欠部他端は外向き上方付勢の係止バネとしているので、下ナット本体に対する上ナット本体の押圧嵌着作動により強制的に上方付勢の係止バネが押圧されそのまま上ナット本体を軸中心に約30°回転すると上ナット本体の下方付勢が無くなるために上方付勢の係止バネは跳ね上がり上ナット本体底板の遊嵌用孔部に係合し、同時に環状スプリングの切欠部一端に立ち上げた上ナット本体の底板受けバネは他方の遊嵌用孔部に係合する。
【0019】
従って、上ナット本体は上方付勢の係止バネと切欠部一端に立ち上げた上ナット本体の底板受けバネとにより左右の回転を阻止されて下ナット本体のラチェット機構下方において下ナット本体のラチェット保持筒体の係合鍔体と上ナット本体の遊嵌用孔部で形成された遊嵌用凸部とが重複する。
【0020】
これで上下ナット本体は一体に固定されてナットのロック状態が形成される。かかる状態では各上下ナット本体は図面上約30°ずれている。
【0021】
このように本発明によれば、六角ナットをボルト本体に螺合する操作はラチェット機構の一方向回動によって容易に遂行することができるに対して、螺合操作が終端の締め付け終端位置に来るとラチェット機構の逆方向回動不能状態となり六角ナットはボルト本体から弛緩不能となって六角ナットの弛緩防止効果を果たすことができる。
【0022】
他方、六角ナットを弛緩しボルト本体から離脱する時にはレンチ等の治具を利用して上ナット本体の約30°ずれた分を元に戻してレンチ等の治具によって下ナット本体と共に回すとラチェット歯体係合ピンはラチェット歯体の解除方向にまわりラチェット歯体の噛合を解除することができる。このようにラチェット歯体係合ピンは上下ナット本体をロックした後の解除操作時に作用する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明に係る六角ナットの構成を示す分解斜視図である。
【
図2】本発明に係る六角ナットにおける上ナット本体と下ナット本体の分離状態を示す外観斜視図である。
【
図3】本発明に係る六角ナットの構成を示す平面図である。
【
図4】本発明に係る六角ナットの構成を示すD-D断面図である。
【
図5】本発明に係る下ナット本体の構成を示す外観斜視図及び平面図である。
【
図6】本発明に係る係合ピンの構成を示す外観斜視図及び平面図である。
【
図7】本発明に係るラチェット歯体の構成を示す外観斜視図及び平面図である。
【
図8】本発明に係る上ナット本体の構成を示す外観斜視図及び底面図である。
【
図9】本発明に係る環状スプリングの構成を示す外観斜視図及び平面図である。
【
図10】本発明に係る環状スプリングの作動態様を示す模式的平面図である。
【
図11】本発明に係る緩み止め機能の作動態様を示す模式的平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
この発明の要旨は、上ナット本体と下ナット本体の組合せによりボルト本体に螺合する六角ナットを構成し、六角ナットは上下ナット本体に内蔵した緩み止め機構を介してボルト本体から弛緩しないように構成した緩み止めボルト、ナット構造において、緩み止め機構は上下ナット本体の内部に設けた以下の構造よりなることを特徴とする緩み止めボルト、ナット構造であり、
a 外周面を六角面の筒状に形成した下ナット本体の筒状内側には雌ネジを形成し、
b 下ナット本体の天端中央にピン孔を設けると共に、天端にラチェット保持筒体を一体に載置することにより下ナット本体の筒状内部とラチェット保持筒体の筒状内部とを連通し、
c ラチェット保持筒体内部から下ナット本体の筒状内部にわたって押し下げ付勢した係合ピンを挿入し、
d 係合ピンの下端部は押し下げ付勢により螺合ボルト先端面と係合自在に構成すると共に、上端部には環状ギアを設け、
e ラチェット保持筒体の外周鍔部には複数の係合凹部を等間隔に形成することにより複数の係合鍔体を突設し、
f 複数の係合鍔体の上面にはそれぞれ環状ギアと噛合可能なラチェット歯体を枢支して係合鍔体上にラチェット機構を構成し、
g 下ナット本体を被覆可能に形成した上ナット本体は外周面を六角面に形成し、
h 上ナット本体の底板には係合鍔体を有するラチェット保持筒体の外形と略同形の遊嵌用孔部を形成すると共に、上ナット本体の底板は下ナット本体への被覆状態でラチェット保持筒体の係合鍔体と下ナット本体の天端との間を回転摺動自在に構成し、
i 上ナット本体の底板は、下ナット本体の天端に設けた上ナット本体底板付勢用の環状スプリングを介して、ラチェット保持筒体の係合鍔体と下ナット本体の天端との間の所定位置でラチェット機構の作動停止状態を生起するように構成し、下ナット本体がボルト本体から弛緩することを防止できるように構成した。
【0025】
また、係合ピンは有底筒状に形成し、筒体内部はバネ挿入孔を形成しその内部には押圧バネを収納して上ナット本体の中央部に垂設した押し下げ部により係合ピンの押し下げ付勢するように構成したことにある。
【0026】
また、下ナット本体の天端にラチェット保持筒体の外周面に沿った環状溝部を形成し、環状溝部に下ナット本体の六角周面と符合するように上ナット本体の底板付勢用の環状スプリングを遊嵌し、環状スプリングの中途部は下方に迂回した係止凸バネとし、環状スプリングの一部を切欠して切欠部一端には縦方向に立上げた上ナット本体の底板受けバネとし、切欠部他端は外向きの係止バネとしたことにある。
【0027】
また、係合ピンは内外の二重ピンに構成し、内側の係合ピンは下端部に螺合ボルト先端面と係合自在に構成し、外側の係合ピンはパイプ状として内側の係合ピンを挿入し上端部に環状ギアを設けて構成したことにある。
【0028】
また、六角ナットのボルト本体への螺合締付け状態では、環状スプリングの付勢により上ナット本体は下ナット本体から所定の回転角度だけずれた状態とすると共に、上ナット本体の天端から垂設したラチェット歯体係合ピンとラチェット歯体側面とは非接触状態で係合ピンの環状ギアをラチェット歯体に係合した状態とし係合ピンを介してラチェット保持筒体と一体の下ナット本体が弛緩方向へのロックをされた状態とし、他方、かかるロックを解除して六角ナットをボルト本体から弛緩するに際しては、上ナット本体を回転させて上ナット本体の六角面と下ナット本体の六角面とを符合状態としてラチェット歯体係合ピンをラチェット歯体側面に当接して係合ピンの環状ギアをラチェット歯体から解除して係合ピンを介してラチェット保持筒体と一体の下ナット本体を弛緩方向への回転を可能とすることにある。
【0029】
ここで、本発明では上ナット本体と下ナット本体とを組合せることにより六角ナットを構成しているが、緩み止め機構を備えていれば六角ナット以外に、例えば四角ナットや八角ナット、十二角ナットであってもよいことは勿論である。
【0030】
すなわち、本発明にかかる「六角ナット」とは、最も多用されるナットの一例として挙げたものであり、上ナット本体と下ナット本体との組み合わせにより内部に緩み止め機構を備えた多角ナットを意図する。
【0031】
また、本発明にかかる六角ナットやボルト本体は、緩み止め機構を備えていれば、サイズや材質について特に限定されることはなく、また、左ネジ式又は右ネジ式のいずれであってもよい。
【0032】
以下、この発明の実施例について図面に従い詳細に説明する。
図1は本発明に係る緩み止めボルト、ナット構造の分解斜視図、
図2は六角ナットの構成を示す分解斜視図、
図3は六角ナットの構成を示す平面図、
図4は六角ナットの構成を示すD-D断面図、
図5は下ナット本体の構成を示す外観斜視図及び平面図、
図6は係合ピンの構成を示す外観斜視図及び平面図、
図7はラチェット歯体の構成を示す外観斜視図及び平面図、
図8は上ナット本体の構成を示す外観斜視図及び底面図、
図9は環状スプリングの構成を示す外観斜視図及び平面図、
図10は環状スプリングの作動態様を示す模式的平面図、
図11は緩み止め機能の作動態様を示す模式的平面図である。
【0033】
本実施例に係る緩み止めボルト、ナット構造は、
図1及び
図2に示すように上ナット本体10と下ナット本体20の組合せにより、ボルト本体Bに螺合する六角ナットAを構成し、六角ナットAは上下ナット本体10、20に内蔵した緩み止め機構を介してボルト本体Bから弛緩しないように構成している。
【0034】
ボルト本体Bは、
図1に示すように外周に雄ネジ70を形成すると共に螺合ボルト先端面71に係合横溝72を形成している。
【0035】
係合横溝72は、後述する係合ピン先端が嵌着係合する溝で、ボルト本体Bの先端面71においてボルト本体Bの直径に沿った凹状溝に形成している。
【0036】
下ナット本体20は、
図2~
図4に示すように筒状であって外周面を六角面21に形成すると共に筒状内側にボルト本体Bの雄ネジ70に螺合する雌ネジ22を形成している。
【0037】
また、上ナット本体10は、
図1、
図2及び
図5に示すように下ナット本体20の外径と同じ外径とし、外周面を六角面11に形成すると共に下ナット本体20の上方を被覆可能な蓋状に形成している。
【0038】
すなわち、六角ナットAは、蓋部分に相当する上ナット本体10と、ナット機能部分に相当する下ナット本体20とを、同軸心上に配置して組み合わせたキャップ型ナットに構成している。
【0039】
このような構成の上下ナット本体10、20は、
図3に示すうようにボルト本体Bに作用して六角ナットAとボルト本体Bとの不用意な弛緩を防止するための緩み止め機構を内蔵している。
【0040】
基本的には緩み止め機構は、上下ナット本体10、20の間に介設したラチェット機構により実現するものであり、下ナット本体20上に一体に設けたラチェット保持筒体30上のラチェット歯体40と、係合ピン50頭部の環状ギア51とで構成している。
【0041】
環状ギア51は、ラチェット保持筒体30内部から下ナット本体20の筒状内部にわたって押し下げ付勢した係合ピン50の頭部に一体に設けており、ラチェット歯体40と噛合可能に構成している。
【0042】
下ナット本体20の天端中央には、
図5に示すように係合ピン50を挿入するためのピン孔23が設けられている。
【0043】
また、下ナット本体20の天端には、ラチェット保持筒体30を一体に載置することにより下ナット本体20の筒状内部とラチェット保持筒体30の筒状内部とを連通している。
【0044】
具体的には、下ナット本体20の上部開口内縁には、
図4に示すように開口径を縮径する略ドーナツ状天端24を形成しており、略ドーナツ状天端24の内側開口を係合ピン50を挿入するためのピン孔23としている。
【0045】
かかる略ドーナツ状天端24は、下ナット本体20に螺着したボルト本体Bの螺合ボルト先端面71周縁部と面対向してボルト本体Bの螺進を規制する規制部として機能すると共に係合ピン50を載置支持する支持段部として機能する。
【0046】
すなわち、略ドーナツ状天端24の内周縁部は、
図4に示すように内方にせり出して係合ピン50を載置支持するための支持段部24aとなる。
【0047】
支持段部24aは、ラチェット保持筒体30を一体載置した場合にラチェット保持筒体30の下部開口の内側にせり出して形成される。
【0048】
ラチェット保持筒体30は、
図4及び
図5に示すように外径を下ナット本体20の外径よりも縮径して形成しており、筒軸を下ナット本体20の筒軸と同一軸心上に配置している。
【0049】
また、ラチェット保持筒体30の筒孔は、係合ピン50を構成する外側係合ピン53を挿入可能とすべく下ナット本体20のピン孔23の直径よりもやや拡径した外側係合ピン孔31としている。
【0050】
換言すれば、ドーナツ状天端24のピン孔23は、係合ピン50における内側係合ピン52を下ナット本体20内へ挿通するための孔であり、内側係合ピン52の胴部外径と略同じ直径となるように形成している。
【0051】
すなわち、外側係合ピン孔31は、
図4及び
図5に示すように下ナット本体20の内部と略ドーナツ状天端24のピン孔23を介して連通する。
【0052】
このように互いに連通したピン孔23と外側係合ピン孔31に対して、ラチェット保持筒体30内部から下ナット本体20の筒状内部にわたって押し下げ付勢した係合ピン50が挿入される。
【0053】
係合ピン50は、
図1及び
図6に示すように有底筒状であって、筒体内部をバネ挿入孔54とし、同バネ挿入孔54に押圧バネ55を収納して上ナット本体10の天面中央部で垂設した押し下げ部12により押し下げ付勢するように構成している。
【0054】
また、係合ピン50の下端部は押し下げ付勢により螺合ボルト先端面71と係合自在に構成すると共に、上端部には環状ギア51を設けている。
【0055】
具体的には、係合ピン50は、内側係合ピン52と外側係合ピン53との内外二重ピン構造に構成している。
【0056】
内側係合ピン52は、
図4に示すように下端部で螺合ボルト先端面71と係合自在に構成している。一方、外側係合ピン53は、パイプ状として内側係合ピン52を内嵌すると共に上端部に環状ギア51を設けて構成している。
【0057】
内側係合ピン52の下端部は、
図6に示すように螺合ボルト先端面71の係合横溝72に嵌着対応する係合突片56を設けている。
【0058】
係合突片56は、所定厚みの扁平小板であって内側係合ピン52の外底面から内側係合ピン52の直径に沿うように下方に突出形成している。
【0059】
また、内側係合ピン52の上端には、ナット状頭部52aを形成している。ナット状頭部52aは、内側係合ピン52の上部外周から外周面を六角面52bに形成して外方突出して形成している。
【0060】
一方、外側係合ピン53は、筒体内部を内側係合ピン52のナット状頭部52aと嵌着するピン内嵌孔53aとしている。ピン内嵌孔53aは、筒体内周面を内側係合ピン52のナット状頭部52aの外周面に対応する六角面53bに形成している。
【0061】
かかる構成により内側係合ピン52と外側係合ピン53とは互いの嵌着状態において、内側係合ピン52のナット状頭部52aと外側係合ピン53の内周面とを係合して外側係合ピン53内部での内側係合ピン52の自由回転を規制する。
【0062】
すなわち、外側係合ピン53と内側係合ピン52とは、
図6(b)に示すように回転方向については互いの六角周面52b,53bを当接係合して一体回転する一方、鉛直方向については互いの六角周面52b,53bに沿って上下摺動することを可能としている。
【0063】
また、外側係合ピン53頭部の環状ギア51は、
図6(a)及び
図6(b)に示すように外側係合ピン53の上端部外周から複数のギア歯51aを周方向外方に向けて突出して形成している。
【0064】
環状ギア51は、外側係合ピン53をラチェット保持筒体30の外側係合ピン孔31に遊嵌した場合に、
図4に示すようにドーナツ状天端24の支持段部24aに支持されて、外側係合ピン53の胴部上端と共にラチェット保持筒体30の上面より上方位置に露出する。
【0065】
また、内側係合ピン52は、ナット状頭部52aを形成しているため、外側係合ピン53内で上下スライドした際には、ナット状頭部52aが支持段部24aに突き当たることで下方移動が規制される。
【0066】
また、係合ピン50とピン孔23とは、互いに可及的緊密に接触するように形成して、シール性を向上させている。
【0067】
具体的には、内側係合ピン52は、上述のように胴部外径をドーナツ状天端24のピン孔23の直径と略同じに形成している。一方、外側係合ピン53は、胴部外径をラチェット保持筒体30の外側係合ピン孔31の直径と略同じに形成している。
【0068】
すなわち、上ナット本体10と下ナット本体20との隙間から六角ナットA内部に水が侵入したとしても、各ピン孔23、31と各係合ピン52、53とは、
図4に示すように互いに緊密に接触するとともに互いの間に形成される隙間を紆余曲折した長尺経路とするように構成にしているために、その下方の下ナット本体20の雌ネジ22側内部空間へ水が到達することがない。
【0069】
したがって、六角ナットAの内部や六角ナットAに螺合するボルト本体Bが錆びることなく六角ナットAとボルト本体Bとの恒常的な螺合状態を可能とする。
【0070】
また、ラチェット保持筒体30の外周鍔部には、
図1、
図5(a)及び
図5(b)に示すように複数の係合凹部32を等間隔に形成することにより複数の係合鍔体33を突設している。
【0071】
すなわち、ラチェット保持筒体30の上部外周には、
図5(b)に示すように平面視略扇型の係合鍔体33と、係合鍔体33と略同形同大の係合凹部32とが、周方向について3つずつそれぞれ交互に配置形成されている。
【0072】
換言すれば、ラチェット保持筒体30の外周鍔部は、周方向について交互に配設した係合鍔体33と係合凹部32とにより6等分して形成している。
【0073】
また、ラチェット保持筒体30の係合鍔体33と係合凹部32とは、平面視で六角ナットAの六角面、すなわち下ナット本体20の六角面21位置に対応する位置に形成している。
【0074】
具体的には、係合鍔体33と係合凹部32は、下ナット本体20に一体載置したラチェット保持筒体30おいて、
図5(b)に示すように平面視でそれぞれの幅方向中央から径方向外方に伸延する仮想中心線を下ナット本体20の六角面21の中心C1上に配置して筒軸心Cを中心に点対称となるように形成している。
【0075】
かかる係合鍔体33は、ラチェット歯体40を枢支する基台として機能すると共に上ナット本体10との嵌着係合を可能とする嵌着部として機能する。
【0076】
すなわち、複数の係合鍔体33の上面には、
図2及び
図4に示すように係合ピン50の環状ギア51と噛合可能なラチェット歯体40を枢支して係合鍔体33上にラチェット機構を構成している。
【0077】
具体的には、ラチェット保持筒体30内に遊嵌され上部露出した係合ピン50の環状ギア51を周方向に所定間隔を隔てて囲繞するように複数のラチェット歯体40が係合鍔体33上面に回転可能に枢支される。
【0078】
なお、係合鍔体33の上面中央部には、
図5(a)に示すようにラチェット歯体40を枢支するための枢軸孔33aを設けている。
【0079】
ラチェット歯体40は、
図7(a)及び
図7(b)に示すように枢支軸42aを介して係合鍔体33の上面に枢支される略円柱状の軸受42と、環状ギア51と噛合する爪本体41と、爪本体41を環状ギア51に常時噛合方向へ付勢する付勢バネ43と、後述する上ナット本体10の天端に垂設したラチェット歯体係合ピン13と係合する係合段部44と、を備える。
【0080】
爪本体41は、所定長さの棒状突起であって、軸受42の径方向から偏位した軸受42の周壁中途位置から外方突出している。
【0081】
すなわち、ラチェット歯体40は、
図2に示すように爪本体41先端を環状ギア51に対して下ナット本体20の弛緩回動を規制する方向に向けて係合鍔体33の上面に回転可能に枢支している。
【0082】
付勢バネ43は、棒状の弾性素材であって軸受42の下部外周から径方向に沿って軸受42と一体に外方突出しており、外側係合ピン53の胴部外周に押接する。
【0083】
すなわち、付勢バネ43は、
図11(a)に示すように軸受42を介して爪本体41との間で外側係合ピン53を挟持するように外側係合ピン53の周面を押圧することにより、爪本体41が環状ギア51に常時噛合するように軸受42を回動付勢している。
【0084】
係合段部44は、爪本体41近傍の軸受42の周壁の一部を外方突出する角状にして形成している。一方、上ナット本体10の天端には、
図2及び
図8(a)に示すように周方向について所定間隔を隔ててラチェット歯体係合ピン13を複数垂設している。
【0085】
具体的には、ラチェット歯体係合ピン13は、上ナット本体10の天端において、
図8(b)に示すように平面視で後述する上ナット本体10の底板の遊嵌用凹部16位置に対応する位置、且つ、ラチェット保持筒体30上面のラチェット歯体40の軸位置を基準に周方向に約1/6長さ離れた位置に垂設している。
【0086】
すなわち、ラチェット歯体40は、
図11に示すように上ナット本体10が回転するに伴い周方向に移動してきたラチェット歯体係合ピン13と係合する係合段部44を介して、付勢バネ43に抗した爪本体41の環状ギア51からの離反方向への回転変位を行うように構成している。
【0087】
また、上ナット本体10の底板には、
図2及び
図8に示すように係合鍔体33を有するラチェット保持筒体30の外形と略同形の遊嵌用孔部14を形成している。
【0088】
また、上ナット本体10の底板は下ナット本体20への被覆状態でラチェット保持筒体30の係合鍔体33と下ナット本体20の天端との間を回転摺動自在に構成している。
【0089】
すなわち、遊嵌用孔部14は、
図8(b)に示すように上ナット本体10の下端開口周縁で、ラチェット保持筒体30の係合凹部32に対応する略扇形状の遊嵌用凸部15と、ラチェット保持筒体30の係合鍔体33に対応する遊嵌用凹部16とを、周方向についてそれぞれ3つずつ交互に配置形成することにより、形成している。
【0090】
また、遊嵌用凸部15と遊嵌用凹部16とは、
図8(b)に示すように平面視において六角ナットAの六角面によりなす角部、すなわち上ナット本体10の六角面11によりなす六角頂部11a位置に対応する位置に形成している。
【0091】
具体的には、遊嵌用凸部15と遊嵌用凹部16は、上ナット本体10において、
図8(b)に示すように平面視でそれぞれの幅方向中央から径方向外方に伸延する仮想中心線C2を上ナット本体10の六角面11同士によりなす六角頂部11a上に配置して筒軸心Cを中心に点対称となるように形成している。
【0092】
すなわち、下ナット本体20と一体のラチェット保持筒体30の係合鍔体33と、上ナット本体10の遊嵌用凸部15とは、六角ナットAの径方向について、互いの突出方向を外内逆方向にすると共にそれぞれの六角面11、21を基準に互いに30度ずれた位置に形成している。
【0093】
このような構成により、上ナット本体10下面の遊嵌用孔部14に下ナット本体20上面のラチェット保持筒体30を嵌着して下ナット本体20を上ナット本体10で被覆した状態、すなわち六角ナットAを組み上げ形成可能としている。
【0094】
また、六角ナットAの筒軸方向において、上ナット本体10の遊嵌用凸部15は、ラチェット保持筒体30の係合鍔体33の下方位置且つ下ナット本体20の天端の上方位置に配設される。
【0095】
また、上ナット本体10の遊嵌用凸部15は、その内側面をラチェット保持筒体30の胴部の外周側面に面対向している。
【0096】
すなわち、上ナット本体10は、
図4に示すようにラチェット保持筒体30の係合鍔体33下面と略ドーナツ状天端24上面との間に配置した遊嵌用凸部15を介して、下ナット本体20のラチェット保持筒体30の胴部外周に沿って回転可能に下ナット本体20に遊嵌される。
【0097】
換言すれば、六角ナットAにおける上ナット本体10と下ナット本体20とは、遊嵌用凸部15とラチェット保持筒体30を介して互いに相対回転可能に構成している。
【0098】
かかる構成により、
図11(a)に示すように平面視において、上ナット本体10の六角面11と下ナット本体20の六角面21との各面を周方向に互いにずらした状態、すなわち非符合状態とした場合には、その内部の上ナット本体10の遊嵌用凸部15とラチェット保持筒体30の係合鍔体33とは軸方向に沿って互いに上下重なり合う符合状態となる。
【0099】
一方で、
図11(b)に示すように外観上で上ナット本体10の六角面11と下ナット本体20の六角面21との各面を面一状態、すなわち符合状態とした場合には、その内部の上ナット本体10の遊嵌用凸部15とラチェット保持筒体30の係合鍔体33とは周方向に互いにずれた非符合状態となる。
【0100】
また、上ナット本体10の底板は、
図2及び
図4に示すように下ナット本体20の天端に設けた上ナット本体底板付勢用の環状スプリング60を介して、ラチェット保持筒体30の係合鍔体33と下ナット本体20の天端との間の所定位置でラチェット機構の作動停止状態を生起するように下ナット本体20がボルト本体Bから弛緩することを防止可能に構成している。
【0101】
すなわち、下ナット本体20の天端24には、
図2、
図5(a)及び
図5(b)に示すようにラチェット保持筒体30の外周面に沿った環状溝部25を形成しており、同環状溝部25に下ナット本体20の六角周面21と符合するように上ナット本体10の底板付勢用の環状スプリング60を遊嵌している。
【0102】
環状スプリング60は、
図1、
図9(a)及び
図9(b)に示すように環状の一部を切り欠いた切欠部61を形成し、中途部を下方に迂回折曲形成した係止凸バネ62と、切欠部61の一端を縦方向に立上げ形成した上ナット本体10の底板受けバネ63とし、他端を外向きに傾斜立ち上げ形成した係止バネ64として構成している。
【0103】
また、下ナット本体20の環状溝部25の底面の所定位置には、
図5(a)及び
図5(b)に示すように係止凸バネ62を挿入するためのバネ係合孔25aを形成している。
【0104】
すなわち、環状スプリング60は、
図10(a)及び
図10(b)に示すようにバネ係合孔25aに挿入係合した係止凸バネ62を介して下ナット本体20の環状溝部25に装着すると共に上ナット本体10の底板の下方位置に敷設している。
【0105】
また、環状スプリング60の切欠部61は、
図9(b)及び
図10(b)に示すように仮想円弧線の長さを上ナット本体10の遊嵌用凸部15の仮想円弧長さLと略同じ長さ、すなわち環状スプリング60の仮想円周線の1/6長さ分切欠いて形成している。
【0106】
すなわち、環状スプリング60は、周方向について環状スプリング60両端の係止バネ64と上ナット本体10の底板受けバネ63との間に上ナット本体10の遊嵌用凸部15を介在可能に形成している。
【0107】
なお、環状スプリング60は、切欠部61を下ナット本体20に一体載置したラチェット保持筒体30の複数のうち1つの係合鍔体33を配置するように環状溝部25に遊嵌している。
【0108】
上ナット本体10の底板受けバネ63は、環状スプリング60の切欠部61に配置した上ナット本体10の遊嵌用凸部15の一側壁に当接して環状スプリング60の弾性応力を上ナット本体10に伝達する。
【0109】
上述のように緩み止めボルト、ナット構造を構成した六角ナットAとボルト本体Bとは、以下のようにしてボルト、ナットの緩み止め機能を果たす。
【0110】
ボルト本体Bに螺合した六角ナットAは必要個所で極限まで締付けて螺合が完成するものであるが、この状態で六角ナットAが弛緩することを防止するために六角ナットAを必要個所で極限まで螺合締付ける。
【0111】
この螺合締付過程において、下ナット本体20に連動連結した係合ピン50上端部の環状ギア51がラチェット機構により一方向に自由に回転して六角ナットAの螺合締付け作動が円滑に行われる。
【0112】
その後、六角ナットAを極限まで締付け螺合し六角ナットAの螺合回転を終了すると下ナット本体20に連動連結した係合ピン50上端部の環状ギア51はラチェット機構で係合して逆方向への回転が阻止されて自由に回転しない状態となる。
【0113】
しかも、逆方向への回転が阻止された状態、すなわち、ラチェット機構に上端環状ギア51を介して噛み合った状態では、
図4に示したように係合ピン50は下端において螺合ボルト先端面の係合横溝72と一体に係合しているので、係合ピン50と一体連結された六角ナットAはこの状態で機構的に弛緩することができない効果がある。
【0114】
特に、環状溝部25に遊嵌した環状スプリング60の中途部は下方に迂回した係止凸バネ62とし、環状スプリング60の一部を切欠して切欠部一端には縦方向に立上げた上ナット本体10の底板受けバネ63とし、切欠部他端は外向き上方付勢の係止バネ64としているので、下ナット本体20に対する上ナット本体10の押圧嵌着作動により強制的に係止バネ64が押圧され、そのまま上ナット本体10を約30°回転すると上ナット本体10の下方付勢が無くなるために係止バネ64は跳ね上がり上ナット本体10底板の遊嵌用孔部14(遊嵌用凸部15)に係合し、同時に環状スプリング60の切欠部一端に立ち上げた上ナット本体10の底板受けバネ63は他方の遊嵌用孔部14(遊嵌用凸部15)に係合する。
【0115】
従って、上ナット本体10は、
図10(a)に示すように上方付勢の係止バネ64と切欠部61一端に立ち上げた上ナット本体10の底板受けバネ63とにより左右の回転を阻止されて、
図11(a)に示すように下ナット本体20のラチェット機構下方において下ナット本体20のラチェット保持筒体30の係合鍔体33と上ナット本体10の遊嵌用孔部14で形成された遊嵌用凸部15とが重複する。
【0116】
すなわち、六角ナットAのボルト本体Bへの螺合締付け状態では、
図10(a)及び
図11(a)に示すように環状スプリング60の付勢により上ナット本体10は下ナット本体20から所定の回転角度、具体的には六角ナットAの中心角において約30°だけずれた状態となる。
【0117】
このような上下ナット本体10、20の六角面11、21同士の非符合状態におけるラチェット機構において、
図11(a)に示すように上ナット本体10の天端から垂設したラチェット歯体係合ピン13とラチェット歯体40側面(係合段部44)とが非接触状態となり、係合ピン50の環状ギア51とラチェット歯体40とが係合し、係合ピン50を介してラチェット保持筒体30と一体の下ナット本体20が弛緩回転を阻止された状態となる。
【0118】
このようにしてボルト本体Bと上下ナット本体20は一体に固定されてボルト、ナットのロック状態が形成される。かかる状態では各上下ナット本体10、20は、約30°ずれている。
【0119】
このように本発明によれば、六角ナットAをボルト本体Bに螺合する操作はラチェット機構の一方向回動によって容易に遂行することができるに対して、螺合操作が終端の締め付け終端位置に来るとラチェット機構の逆方向回動不能状態となり六角ナットAはボルト本体Bから弛緩不能となって六角ナットAの弛緩防止効果を果たす。
【0120】
他方、弛緩回転阻止状態を解除して六角ナットAをボルト本体Bから弛緩するに際しては、
図10(b)及び
図11(b)に示すように上ナット本体10を回転させて上ナット本体10の六角面11と下ナット本体20の六角面21とを符合状態とする。
【0121】
このような上下ナット本体10、20の六角面同士の符合状態におけるラチェット機構において、下ナット本体20のラチェット歯体係合ピン13はラチェット歯体側面(係合段部44)に当接して係合ピン50の環状ギア51をラチェット歯体40から解除し、係合ピン50を介してラチェット保持筒体30と一体の下ナット本体20が弛緩方向へ回転可能となる。
【0122】
すなわち、六角ナットAを弛緩しボルト本体Bから離脱する時にはレンチ等の治具を利用して上ナット本体10の約30°ずれた分を元に戻してレンチ等の治具によって下ナット本体20と共に回すと、ラチェット歯体係合ピン13はラチェット歯体40の解除方向にまわりラチェット歯体40の噛合を解除することができる。このようにラチェット歯体係合ピン13は上下ナット本体10、20をロックした後の解除操作時に作用する。
【0123】
以上、説明してきたように、本発明によれば上ナット本体と下ナット本体の組合せによりボルト本体に螺合する六角ナットを構成し、六角ナットは上下ナット本体に内蔵した緩み止め機構を介してボルト本体から弛緩しないように構成し、しかも、緩み止め機構は上下ナット本体の内部に設けたラチェット機構を中心として構成したことにより、上下ナット本体の締め込みの極限位置から六角ナットが弛緩することを防止できる効果がある。
【符号の説明】
【0124】
A 六角ナット
B ボルト本体
10 上ナット本体
20 下ナット本体
30 ラチェット保持筒体
40 ラチェット歯体
41 爪本体
50 係合ピン
51 環状ギア
56 係合突片
60 環状スプリング
72 係合横溝