IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社曙産業の特許一覧

特許7054493長ネギみじん切り器、及び、長ネギのみじん切り方法
<>
  • 特許-長ネギみじん切り器、及び、長ネギのみじん切り方法 図1
  • 特許-長ネギみじん切り器、及び、長ネギのみじん切り方法 図2
  • 特許-長ネギみじん切り器、及び、長ネギのみじん切り方法 図3
  • 特許-長ネギみじん切り器、及び、長ネギのみじん切り方法 図4
  • 特許-長ネギみじん切り器、及び、長ネギのみじん切り方法 図5
  • 特許-長ネギみじん切り器、及び、長ネギのみじん切り方法 図6
  • 特許-長ネギみじん切り器、及び、長ネギのみじん切り方法 図7
  • 特許-長ネギみじん切り器、及び、長ネギのみじん切り方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-06
(45)【発行日】2022-04-14
(54)【発明の名称】長ネギみじん切り器、及び、長ネギのみじん切り方法
(51)【国際特許分類】
   A47J 43/04 20060101AFI20220407BHJP
【FI】
A47J43/04
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020214639
(22)【出願日】2020-12-24
【審査請求日】2021-08-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000145552
【氏名又は名称】株式会社曙産業
(74)【代理人】
【識別番号】100140394
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 康次
(72)【発明者】
【氏名】大山 剛
【審査官】比嘉 貴大
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-334075(JP,A)
【文献】特開2005-074619(JP,A)
【文献】登録実用新案第3209907(JP,U)
【文献】特開昭64-078795(JP,A)
【文献】登録実用新案第3204677(JP,U)
【文献】特開2013-123633(JP,A)
【文献】特公平03-073440(JP,B2)
【文献】登録実用新案第3183827(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47J 43/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェーブ刃と、滑走面と、を備えた長ネギみじん切り器であって、
前記ウェーブ刃は、幅方向に亘って複数の波が連続する断面形状を有し、
前記滑走面は、前記ウェーブ刃の長手方向前後に第1・第2滑走面を備え、
前記ウェーブ刃は、第1・第2滑走面の両方向に対し刃体の切断端が配向された両刃であり、
前記ウェーブ刃と第1・第2滑走面との間には第1・第2落とし孔が形成され、かつ、
第1・第2滑走面が平滑面であり、かつ、
前記刃体の前記切断端が第1・第2滑走面の幅方向に連続し、
第1・第2落とし孔は、上方向から下方向に投影してみると、前記複数の波を含むように第1・第2滑走面の前記幅方向に延びている、
ことを特徴とする長ネギみじん切り器。
【請求項2】
第1滑走面と第2滑走面とが、第1・第2落とし孔により、前記ウェーブ刃の前記長手方向前後で分離されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の長ネギみじん切り器。
【請求項3】
前記ウェーブ刃は、前記波の谷が第1・第2滑走面に対して、
-A<x<A、及び、-A<x<Aの範囲内に位置するように取り付けられている(但し、Aは前記波の振幅、x,xは第1・第2滑走面を基準とした前記谷の位置である。)、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の長ネギみじん切り器。
【請求項4】
前記谷の位置が 0≦x<A/2、及び、0≦x<A/2、の範囲内である、
ことを特徴とする請求項に記載の長ネギみじん切り器。
【請求項5】
前記波の波長が3~10mmであり、かつ、
前記波の高さが2~7mmである、
ことを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の長ネギみじん切り器。
【請求項6】
第1・第2滑走面及び前記ウェーブ刃の周囲を取り囲んだ外周壁が設けられ、かつ、
第1・第2滑走面、前記ウェーブ刃、前記外周壁の順で、各部材の高さが大きくなる、
ことを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の長ネギみじん切り器。
【請求項7】
ウェーブ刃と、該ウェーブ刃の長手方向前後に第1・第2滑走面とを用意する工程と、
第1・第2滑走面上の一方に長ネギの軸方向底部を手で押し当てながら、前記ウェーブ刃を通過するように第1・第2滑走面上で前記長ネギを摺動させる工程と、
を含み、かつ、
第1・第2滑走面が平滑面であり、
前記ウェーブ刃は、幅方向に亘って複数の波が連続する断面形状を有し、かつ、第1・第2滑走面の両方向に対し刃体の切断端が配向された両刃であり、
前記摺動工程において、前記長ネギを前記ウェーブ刃に進入させる度に前記長ネギの軸心を基準とした長ネギ姿勢角度を変化させる姿勢変化工程を含み、かつ、
前記ウェーブ刃と第1・第2滑走面との間には第1・第2落とし孔が形成され、
前記摺動工程では、前記ウェーブ刃で切断された前記長ネギの細片を第1・第2落とし孔から目的地に落下させる細片落下工程をさらに含み、かつ、
前記刃体の前記切断端が第1・第2滑走面の幅方向に連続し、
第1・第2落とし孔は、上方向から下方向に投影してみると、前記複数の波を含むように第1・第2滑走面の前記幅方向に延びている、
ことを特徴とする長ネギのみじん切り方法。
【請求項8】
第1滑走面と第2滑走面とが、第1・第2落とし孔により、前記ウェーブ刃の前記長手方向前後で分離されている、
ことを特徴とする請求項7に記載の長ネギのみじん切り方法。
【請求項9】
前記ウェーブ刃を、前記波の谷が第1・第2滑走面に対して、
-A<x<A、及び、-A<x<Aの範囲内に位置するように取り付ける取付工程(但し、Aは前記波の振幅、x,xは第1・第2滑走面を基準とした前記谷の位置である。)をさらに含むこと、
を特徴とする請求項7又は8に記載の長ネギのみじん切り方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般家庭において長ネギをみじん切りにするための専用調理器具に関し、さらに長ネギのみじん切りの新しい切断方法を提案するものである。
【背景技術】
【0002】
(調理材料としての長ネギ)
様々な料理の一材料として長ネギが使用される。その多くの場面で、長ネギは細かく切断される。長ネギの一般的な切断方法としては、斜め切り、小口切り、みじん切りなどが挙げられる。このうち、小口切りは、長ネギを1~5mm程度にスライスする切断方法である。小口切りされた長ネギは、麺類、みそ汁、料理の薬味などに使用される。一方、みじん切りされた長ネギは、炒飯、餃子、ネギ垂れ、麻婆豆腐の一材料として使用される。
【0003】
(包丁使用時に生じる問題)
いずれの切り方においても、長ネギ切断器具として俎板と包丁とを用いることが一般的である。しかしながら、ネギには特有の強い臭いが有り、この強烈な臭いが、ほんの少し調理しただけの俎板と包丁にも移ってしまう。このため、俎板と包丁をそのまま他の材料の切断等に使用できず、調理進行に支障となるため従来の切断器具での対応に不満を持つ人が多い。
【0004】
(長ネギを小口切りするための先行技術)
なお、小口切りに関しては、俎板及び包丁以外にも、専用の器具が幾つか提案・販売されている(例えば、特許文献1や非特許文献1を参照)。これらの小口切り専用器具を使えば、調理のために用意したボウルや皿の上で直接スライスしながら各スライス片をそこに落し入れることができるため、利用頻度の高い俎板と包丁を使用することなく、長ネギの小口切りを行えるので便利である。
【0005】
(長ネギみじん切り専用器具への需要)
このように長ネギの小口切りに関しては専用器具が、調理器具メーカーから既に多数、提案・販売されている。しかしながら、長ネギの「みじん切り」に関する専用器具は未だ提案すらされておらず、当該専用器具を世の中に提供することができれば、潜在的な需要に応えることができ、利用価値が大いにあるものと本発明者は想到した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】意匠登録第1305458号公報
【文献】登録実用新案第3183827号公報
【文献】意匠登録第1603560号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】“製品紹介 スライサー フルベジきゅうり・ネギスライサー FV-610”、下村工業株式会社のホームページ、[令和2年12月24日検索]、インターネット<https://www.shimomura-kogyo.co.jp/products/category.html#slicer>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような事情に鑑み、本発明は、一般家庭にて、長ネギのみじん切りが可能な調理器具、及び、長ネギのみじん切りの新しい切断方法を提供することを目的とする。
【0009】
本発明者は、鋭意検討の末、波状断面を有したウェーブ刃と、平滑な滑走面と、を利用することで、長ネギのみじん切りが見事に実現できることを見出し、本発明の調理器具を完成するに至った。
【0010】
なお、ウェーブ刃を利用した食材スライサーとして、本願出願人は、じゃが芋等の野菜をスライスする道具や、胡瓜を波状にスライスする道具を既に提案している(特許文献2,3を参照)。なお、これらの公知のウェーブ刃スライサーは、いずれも食材から毎回、均一厚みの波状スライス片を得るために、食材に回転や傾きを与えずに(つまり、直線的な摺動方向を維持するように)滑走面の波状ガイド溝を使って「食材の動きを拘束」しながら食材を切断していることを特徴としている。
【0011】
しかしながら、これらの公知のウェーブ刃スライサーに対して、本発明は、ウェーブ刃の利用は共通するものの、後述するように両方向の滑走面を平滑(フラット)にして食材を非拘束状態で回転自由に摺動させる仕組み(食材を敢えてガイド溝等で拘束しない自然な動きの実現)が異なるだけでなく、本発明に適用する食材を特異な同心円状の多層繊維構造体からなる長ネギに着目したことで、長ネギの「みじん切り」という今まで誰も発想したことが無い作用効果を得ることができるようになったのである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明は、例えば、次の構成・特徴を採用するものである。
【0013】
(態様1)
ウェーブ刃と、滑走面と、を備えた長ネギみじん切り器であって、
前記ウェーブ刃は、幅方向に亘って複数の波が連続する断面形状を有し、
前記滑走面は、前記ウェーブ刃の長手方向前後に第1・第2滑走面を備え、
前記ウェーブ刃は、第1・第2滑走面の両方向に対し刃体の切断端が配向された両刃であり、
前記ウェーブ刃と第1・第2滑走面との間には第1・第2落とし孔が形成され、かつ、
第1・第2滑走面が平滑面であり、かつ、
前記刃体の前記切断端が第1・第2滑走面の幅方向に連続し、
第1・第2落とし孔は、上方向から下方向に投影してみると、前記複数の波を含むように第1・第2滑走面の前記幅方向に延びている、
ことを特徴とする長ネギみじん切り器。
(態様2)
第1滑走面と第2滑走面とが、第1・第2落とし孔により、前記ウェーブ刃の前記長手方向前後で分離されている、
ことを特徴とする態様1に記載の長ネギみじん切り器。
(態様3)
前記ウェーブ刃は、前記波の谷が第1・第2滑走面に対して、
-A<x<A、及び、-A<x<Aの範囲内に位置するように取り付けられている(但し、Aは前記波の振幅、x,xは第1・第2滑走面を基準とした前記谷の位置である。)、
ことを特徴とする態様1又は2に記載の長ネギみじん切り器。
(態様4)
前記谷の位置が 0≦x<A/2、及び、0≦x<A/2、の範囲内である、
ことを特徴とする態様に記載の長ネギみじん切り器。
(態様5)
前記波の波長が3~10mmであり、かつ、
前記波の高さが2~7mmである、
ことを特徴とする態様1~のいずれかに記載の長ネギみじん切り器。
(態様6)
第1・第2滑走面及び前記ウェーブ刃の周囲を取り囲んだ外周壁が設けられ、かつ、
第1・第2滑走面、前記ウェーブ刃、前記外周壁の順で、各部材の高さが大きくなる、
ことを特徴とする態様1~のいずれかに記載の長ネギみじん切り器。
(態様7)
ウェーブ刃と、該ウェーブ刃の長手方向前後に第1・第2滑走面とを用意する工程と、
第1・第2滑走面上の一方に長ネギの軸方向底部を手で押し当てながら、前記ウェーブ刃を通過するように第1・第2滑走面上で前記長ネギを摺動させる工程と、
を含み、かつ、
第1・第2滑走面が平滑面であり、
前記ウェーブ刃は、幅方向に亘って複数の波が連続する断面形状を有し、かつ、第1・第2滑走面の両方向に対し刃体の切断端が配向された両刃であり、
前記摺動工程において、前記長ネギを前記ウェーブ刃に進入させる度に前記長ネギの軸心を基準とした長ネギ姿勢角度を変化させる姿勢変化工程を含み、かつ、
前記ウェーブ刃と第1・第2滑走面との間には第1・第2落とし孔が形成され、
前記摺動工程では、前記ウェーブ刃で切断された前記長ネギの細片を第1・第2落とし孔から目的地に落下させる細片落下工程をさらに含み、かつ、
前記刃体の前記切断端が第1・第2滑走面の幅方向に連続し、
第1・第2落とし孔は、上方向から下方向に投影してみると、前記複数の波を含むように第1・第2滑走面の前記幅方向に延びている、
ことを特徴とする長ネギのみじん切り方法。
(態様8)
第1滑走面と第2滑走面とが、第1・第2落とし孔により、前記ウェーブ刃の前記長手方向前後で分離されている、
ことを特徴とする態様7に記載の長ネギのみじん切り方法。
(態様9)
前記ウェーブ刃を、前記波の谷が第1・第2滑走面に対して、
-A<x<A、及び、-A<x<Aの範囲内に位置するように取り付ける取付工程(但し、Aは前記波の振幅、x,xは第1・第2滑走面を基準とした前記谷の位置である。)をさらに含むこと、
を特徴とする態様7又は8に記載の長ネギのみじん切り方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の調理器具に採用されたウェーブ刃は、長ネギのみじん切りに最適である。なぜならば、長ネギは、ウェーブ刃に進入する際に「高さ方向にも幅方向にも」所定の大きさを持って一度に細かく切断されることになるからである。
【0015】
さらに、本発明では第1・第2滑走面が平滑面であることも極めて重要となる。例えば、特許文献2,3に見られるような複数のガイド溝(例えば、ウェーブ刃の波形状と同様の波形状)を滑走面に設置してしまうと、長ネギが、毎回のストロークにおいて常に同じ方向・姿勢でウェーブ刃内に進入して行くため、波形状の小口切りになってしまう(つまり、上手くみじん切りにならない)。
【0016】
一方、本発明のような平滑面を有した滑走面であれば、手で把持した長ネギの姿勢(具体的には、長ネギの軸心を基準とした姿勢角度であって、ウェーブ刃に進入する際の長ネギの角度・向き)に変化を与えながらウェーブ刃を通過させることができる。別言すれば、ガイド溝の無い平滑な滑走面上では、毎回のウェーブ刃進入の際に同一の長ネギ姿勢角度を正確に保ち続けるように長ネギを把持・摺動することは実際上困難である。そして、本発明者の検討によれば、手で把持した長ネギに僅かな姿勢角度の変化が生じれば、比較的小さい直径を有した同心円状の多層繊維構造体を成す長ネギは、ウェーブ刃を通過する際に、同時に「奥行き方向」にも細かく切断されることになる。
【0017】
このように、本発明では、切断対象を長ネギとし、切断器具としてウェーブ刃を採用し、このウェーブ刃を挟んで平滑な第1・第2滑走面上を往復摺動させることにより、ウェーブ刃を通過する長ネギは、「高さ方向」、「幅方向」、及び「奥行き方向」の3方向(3次元的)に一度に(同時に)細かく切断することが可能となり、摺動の度に生じる手の動きの若干の乱れ・ブレよって長ネギの姿勢角度が都度変化することも相俟って、より「自然な」大小のみじん切りを仕上げることができるようになる。
【0018】
また、このウェーブ刃を、その前後方向に刃体を設けた「両刃」の形態とすることにより、片刃だけの使用の際に毎回のストローク(長ネギの摺動)で生じやすい「切り損ない」(つまり、最外周の長ネギ繊維体)を確実に切り落とすことが可能となる。
【0019】
すなわち、一方(基端側)の刃体を通過した際(例えば、前進方向のストローク)に長ネギの後方で残存した最外周の長ネギ繊維体は、次に、他方(先端側)の刃体を通過する際(戻り方向のストローク)では、該刃体に直面しながら最初に接触するため、確実に切断されるのである。
【0020】
この戻り方向のストロークの際に長ネギ後方で切り損なった新たな残存部が発生し得るが、次の前進方向のストロークの際に基端側の刃体で確実に切り落とすことができるようになる。この繰り返しにより、長ネギ外周の残存繊維体は毎回発生しても次のストロークで長ネギから切り離されるのである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】上方向又は下方向から観察した長ネギみじん切り器の斜視図である。
図2】長ネギみじん切り器の平面図及び底面図、並びに変形例の平面図である。
図3】長ネギみじん切り器の長手方向断面図及び幅方向断面図である。
図4】片刃の使用時に生じる切り損ない剥離繊維体が発生する仕組みを示した図である。
図5】両刃の使用時の長所(剥離繊維体が都度切り落とされる仕組み)を示した図である。
図6】同心円状構造を成す長ネギが従来の滑走面上又は本発明の滑走面上で移動・切断される様子を説明した図である。
図7】本発明のウェーブ刃の好適な形態・構造を示した図である。
図8】本発明の長ネギみじん切り器の使用方法及び使用状態を説明した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の長ネギみじん切り器1(以下、単に「みじん切り器」又は「器具」とも呼ぶ。)を図面に示す実施例に基づき説明するが、本発明は下記の具体的な実施例に何等限定されるものではない。なお、各図において同一又は対応する要素には同一符号を用いる。
【実施例
【0023】
(みじん切り器の全体構成)
図1(a)に上方向(斜め上方)から観察した本発明の器具1の斜視図を示し、図1(b)に下方向(斜め下方)から観察した器具1の斜視図を示す。一方、図2(a)及び(b)は、器具1の平面図及び底面図を示し、図2(c)は後述の変形例に係る器具1Aの平面図を示す。図3(a)並びに(b)及び(c)は、長手方向断面図並びに幅方向断面図(夫々、図2(a)中のA-A’線、B-B’線、C-C’線で破断した断面図)である。
【0024】
本発明の器具1は、長ネギNが器具1と触れる部分である本体2と、この器具1を手で保持・固定するための把持部3と、を備える。把持部3には、図示の例のように、貫通孔3hが設けられることが好ましい。これにより、台所にある図示しないフック等に器具1を吊持・保管することが可能となるとともに、器具1の軽量化を図ることができる。
【0025】
(本体の構造)
長ネギNをみじん切りする際に重要な役目を果たす本体2には、滑走面4と、ウェーブ刃5と、これらの部材4,5の周囲を取り囲みかつこれらより更に上方へ延びた外周壁6が設けられる。なお、ウェーブ刃5の直下には、図1(b)や図2(b)に示すように、両端が外周壁6に連結された橋部7が設けられており、この橋部7はウェーブ刃5を本体2上の所定の位置・高さに支持する。橋部7は、図3(c)に示すようにウェーブ刃5に対応した波状断面を有することが好ましく、これにより、ウェーブ刃5を本体2に安定的かつ容易に取付・固定することができる。また、器具1は、小型化又は軽量化の観点から、本体2を含め、図示のように、長ネギNの進行(摺動)方向に沿って延びた細長形状であることが好ましいが、必ずしも図示の形状に限定されない。
【0026】
(ウェーブ刃が長ネギのみじん切りに最適な理由)
ここで、ウェーブ刃5が長ネギNの「みじん切り」に最適であることに本発明者が初めて想到したことに留意されたい。なぜならば、長ネギNは、ウェーブ刃5を通過する際に、波形状の刃体51,52により「高さ方向にも幅方向にも」一度に切断されることになる。さらに、長ネギNの断面は直径の比較的小さな同心円状の特異な多層集合繊維体からなるため、後述するように、平滑な滑走面4を採用し、この平滑面上に長ネギNを手動で自由に摺動させることで、同時に「奥行き方向」にも自然と細かく切断されることになる。
【0027】
(第1・第2滑走面、第1・第2落とし孔)
また、本発明では、滑走面4が、ウェーブ刃5の長手方向(刃体51,52が置かれた切断方向)の前後に第1・第2滑走面41,42を備えるように構成している。そして、ウェーブ刃5と第1・第2滑走面41,42との間には第1・第2落とし孔43,44が形成される。なお、図1(b)や図2(b)に示すように、第1・第2落とし孔43,44との境界を画する第1・第2滑走面41,42の端部には、落下方向(本体2の底面方向)に延びた第1・第2張出部45,46がさらに設けられており、これにより、第1・第2落とし孔43,44から落下する長ネギNの各切断片Sの散乱範囲は極力抑えられ、受け皿などの目標に向かって収束することになる。
【0028】
(両刃のウェーブ刃の採用)
滑走面4などの部材を以上のように配置・構成した理由は、ウェーブ刃5の形態を両刃にしたことによる。具体的には、ウェーブ刃5は、第1・第2滑走面41,42の両方向に対し刃体51,52が配向された両刃である。ウェーブ刃5をこのような両刃の形態とすることにより、片刃だけの使用の際に毎回の切断ストロークで生じやすい後述の不具合を解消する(つまり、切り損ないの最外周の長ネギ繊維体Pを確実に切り落とす)ことが可能となる。
【0029】
(片刃だけを使用した場合に長ネギに生じ得る問題)
特許文献3に開示の野菜(胡瓜)スライサーに採用されたような片刃のウェーブ刃を、長ネギNのみじん切りに適用しようとすると、以下の不具合が発生する。具体的には、常に同じ切断方向(例えば、図4(a)の矢印に示す前進方向Fのように、本体2の基端側に刃体51(片刃)が置かれたときは前進方向Fのストロークのみ)で長ネギNが切断され、切断片Sが形成されることになる。そうすると、図4(b)に示すように、刃体51に直面しない最も後方の最外周付近の繊維体Pは確実に切り落とされずに長ネギNに残存するようになる。その後も同じ前進方向Fのストロークを続けると、切り損ないの繊維体Pは残存又は新たに発生し続け、図4(c)に示すように、切り損ないの残存部Pが長大化することになってしまう。
【0030】
(両刃を使用した場合の長ネギ切断時の利点)
これに対して、本発明の器具1のように両刃51,52の形態を採用した場合は、上述の不具合が見事に解消される。具体的には、図5(a)に示すように、一方(基端側)の刃体51を通過した際(前進方向Fのストローク)に長ネギNが切断され、切断片S(S)が落下する。そして、その後方で最外周の長ネギ繊維体P(P)が残存する。しかしながら、次に他方(先端側)の刃体52を通過する際(戻り方向Rのストローク)では、図5(b)に示すように、当該残存した繊維体Pは、該刃体52に直面しながら最初に接触するため、切断片Sとともに、長ネギNから確実に切断されることになる。
【0031】
この戻り方向Rのストロークの際に長ネギN後方で切り損なった新たな残存部P(P)が発生し得るが、図5(c)に示すように、次の前進方向Fのストロークの際には、この新たな残存部Pは基端側の刃体51に直面する位置となるため、切断片S3とともに、長ネギNから確実に切り落とすことができるようになる。この繰り返しにより、長ネギNの最外周の残存繊維体P(P)が偶発的に発生しても、次の対向する切断ストロークで長ネギNから都度切り離されるのである。
【0032】
(滑走面の平滑化)
また、本発明では、第1・第2滑走面41,42を「平滑面」としたことにも留意されたい。つまり、食材がウェーブ刃5に進入する際に食材の向きや姿勢を常に拘束しながら案内する波状溝等のガイド溝(特許文献2,3を参照)を敢えて設けないようにしているのである。
【0033】
もし、本発明の器具1に対し、特許文献2,3に見られるような複数のガイド溝を滑走面4(41,42)に設置してしまうと、図6(a)に示すように、望ましくない問題が生じる。なお、図6(a)では、見易さを重視して滑走面4(41,42)にガイド溝が表れていないが、設置されたものと仮定する。この場合、図示しないガイド溝に拘束された長ネギNは常に全く同じ方向・姿勢(具体的には、長ネギNの軸心Oを基準とした長ネギ姿勢角度であって、ウェーブ刃5に進入する際の長ネギNの角度・向き)で、刃体51,52に接触・通過(戻り方向も同様)してしまい、長ネギNが上手くみじん切りにならない。
【0034】
さらに詳述すると、長ネギNが第1滑走面41から第2滑走面42に移動する(つまり、図6(a)に示す丸で囲んだ数字の順で長ネギNが進む)こととした場合、長ネギNの軸心Oを基準とした姿勢角度に変化が無いため、長ネギNの外周の任意の位置C,Cは、第1位置から第2位置だけでなく、さらに第3位置及び第4位置へ移動した場合でも、常に同一に保たれた状態で長ネギNが切断されてしまう。言い換えれば、特許文献2,3に開示のような食材の波状スライス片(今回の長ネギNの場合は波状小口切り片)が出来てしまう。
【0035】
これに対して、各滑走面41,42をガイド溝の全く無い平滑面とした場合を想定し、この状態を図6(b)に示す。この場合、手で把持した長ネギNは、非拘束の状態となり、ウェーブ刃5に毎回進入する度に、長ネギ姿勢角度に変化を与えながら(つまり、長ネギNに軸回転を加えながら)ウェーブ刃5を通過させることができる。
【0036】
より詳述すれば、長ネギNが図6(b)の下方に示す丸で囲んだ数字の順に進んだ場合、長ネギNの外周の任意の位置C,Cは、第1位置から第2位置(刃体51)を通過する迄に軸心Oを基準に回転し、同様に第3位置(第2滑走面42)や第4位置(刃体52)を通過する迄にさらに回転・移動することになる(図示の白抜き矢印を参照)。別言すれば、ガイド溝の無い平滑な滑走面41,42上では、毎回のウェーブ刃5進入の際に同一の長ネギ姿勢角度を正確に保ち続けながら長ネギNを把持・摺動することは、試みたとしても実際上困難である。この不利と思われる点が「みじん切り」では有利に働くのである。
【0037】
そして、本発明者の検討によれば、手で把持した長ネギN自体に僅かな姿勢角度の変化(手のブレやゆらぎ)が生じれば、比較的小さい直径を有した同心円状の多層繊維構造体を成す長ネギNは、ウェーブ刃5を通過する際に、同時に「奥行き方向」にも細かく切断されることになることを見出したのである。
【0038】
このように、ウェーブ刃5を挟んで平滑な第1・第2滑走面41,42上で長ネギNを往復摺動させることにより、ウェーブ刃5を通過する長ネギNは、「高さ方向」、「幅方向」、及び「奥行き方向」の3方向(3次元)に一度に(同時に)細かく切断することが可能となり、摺動の度に生じる手の動きの若干の乱れ・ブレよって長ネギNの姿勢角度が都度変化することも相俟って、より自然な大小のみじん切り(図8(b)に示す符号Sを参照)を仕上げることができるようになる。
【0039】
(ウェーブ刃の好適な形態)
さらに、図7の各図を参照しながら本発明に好適なウェーブ刃5の形態・構造について述べておく。ウェーブ刃5の波形状を定量化するため、図7(a)に示すように、波の上端(山)及び下端(谷)を符号T及びVで示し、波の振幅(高さ)及び波長を符号A及びλで示す。本発明では、ウェーブ刃5は、波の谷Vが第1・第2滑走面41,42に対して、-A<x<A、及び、-A<x<Aの範囲内に位置するように取り付けられていることが好ましい。但し、x,xは第1・第2滑走面41,42を基準(図示では零(0)と表示)としたウェーブ刃5の谷Vの位置を示す。
【0040】
ここで、x,xの好適範囲が下限より下回ると、図7(c)に示すように、ウェーブ刃5全体が第1・第2滑走面41,42に対し高さ方向に沈み込んでしまい、第1・第2滑走面41,42の上側には一切現れないことになり、第1・第2滑走面41,42を摺動した長ネギNはウェーブ刃5に接触せず通過してしまい、当然に切断もされないことになる。
【0041】
一方、x,xの好適範囲が上限を上回ると、図7(b)に示すように、ウェーブ刃5の谷Vと第1・第2滑走面41,42との距離(ウェーブ刃5の下側と第1・第2滑走面41,42との空間)が比較的大きくなり、この間を通過する長ネギNは切断されることが無いため、結局、表面部分Nのみがウェーブ刃5によって波状或いは凸凹状に複雑に切断された小口切り片Nが毎回出来上がってしまうことになる。
【0042】
本発明では、図7(d)に示すように、ウェーブ刃5の谷Vの位置が、0≦x<A/2、及び、0≦x<A/2、の範囲内であることがさらに好ましい。これにより、ウェーブ刃5の連続した波が全て、長ネギNの進行方向に現れるため、刃体51,52を余すことなく長ネギNの切断に効率良く使用することができるようになる。また、第1・第2滑走面41,42までのウェーブ刃5の下側の空間も無くなるか或いは極めて薄いため、長ネギNがウェーブ刃5を通過すると、その切断片Sは小口切りのような一体物のままにならず、多数の細片Sに分割されるようになる。
【0043】
ところで、図3(b)に示すように、本体2を断面視でみると、平滑な第1・第2滑走面41,42、ウェーブ刃5、外周壁6の順で、各部材の高さが大きくなることが好ましい。これにより、長ネギNを第1・第2滑走面41,42上で摺動する際、摺動可能距離が適切な範囲内に制限されるとともに、みじん切りの各切断片Sが本体2の幅方向や長手方向の外縁から落下することが無くなる。つまり、余程の事が無い限り、各切断片Sが第1・第2落とし孔43,44から確実に落下するか、一部が残ったとしても第1・第2滑走面41,42上に滞在することになる。
【0044】
また、ウェーブ刃5を構成する波については、その波長λが3~10mmであり、かつ、波の高さ(振幅)Aが2~7mmであることが好ましい。波長λ及び高さAの上記好適な範囲より小さな波の群で構成された場合は、みじん切りの各切断片Sが細かすぎることになるばかりか、刃体51,52と長ネギNとの接触面が増え、刃体51,52を通過させるのにより大きな力が必要となり、器具1の操作が危険になる。一方、上記の好適な範囲より大きな波の群で構成された場合は、切断片Sがみじん切りにしては通常より大きな塊片となるため、望ましくない。
【0045】
(器具の使用方法)
本発明の器具1の使い方は至って簡単である。なお、図8は本発明の器具1の使用方法及び使用状態を説明した図(写真)である。
【0046】
先ず、一方の手で器具1の把持部3を持ちつつ他方の手で長ネギNを持つ。そして、長ネギNの最下部を一方の滑走面4(例えば、第1滑走面41)上に当接させ、当接させたままで長ネギNをウェーブ刃5へ進入・通過させ、他方の滑走面4(第2滑走面42)まで移動させる(前進方向Fのストローク)。これにより、刃体51で切り落とされた各切断片Sが一方の落とし孔(第1落とし孔43)から落下する。
【0047】
次に、今度は、長ネギNを手前側に戻すように動かし、ウェーブ刃5へ進入・通過させ、元の滑走面4(第1滑走面41)上に移動させる(戻り方向Rのストローク)。これにより、今度は、刃体52で切り落とされた各切断片Sが他方の落とし孔(第2落とし孔44)から落下する。
【0048】
以上のような長ネギNの摺動工程において、手で把持した長ネギNを平滑な滑走面4(41,42)上で動かすために、ウェーブ刃5に進入させる度に長ネギNの軸心Oを基準とした長ネギ姿勢角度を常に変化させることができ、結果として、長ネギNを「高さ方向」、「幅方向」、及び「奥行き方向」の3方向(3次元)に一度に(同時に)細かく切断することが可能となるのである。
【0049】
このような往復する2つの切断ストロークF,Rを繰り返し実行することにより、長ネギNが第1・第2滑走面41,42及びウェーブ刃5上を摺動することになり、みじん切りされた各切断片Sが、第1落とし孔43と第2落とし孔44とから交互に落下し、図示しない皿やボウル(つまり、目的地)の上に収容されることなる。
【0050】
(変形例)
なお、本発明の器具は、図示の実施形態に限定されない。例えば、図2(a)に示したウェーブ刃5は平面視で器具の幅方向に水平(つまり、両刃51,52の外形線が平面視で直線状)であるが、図2(c)に示すように、斜めに傾斜した器具1A(つまり、ウェーブ刃5Aの両刃51A,52Aにおける外形線の左右(幅方向)の一端が他端よりも前進した直線状)であっても良い。なお、図2(c)の変形例では、第1・第2滑走面41A,42Aや第1・第2落とし孔43A,44Aなどの他の部材も、ウェーブ刃5Aの傾斜に対応した形状を採用している。
【0051】
(切断対象の可能性)
なお、実施例では示さなかったが、切断対象を長ネギと同種の多層繊維構造を成す同種のチャイブやリーキ、玉ねぎにも使用可能である。本明細書では、これらを含めた意味で「長ネギ」と呼ぶことにする。
【産業上の利用可能性】
【0052】
このように、本発明では、切断対象を長ネギとし、切断器具としてウェーブ刃を採用し、このウェーブ刃を挟んで平滑な第1・第2滑走面上を往復摺動させることにより、ウェーブ刃を通過する長ネギは、「高さ方向」、「幅方向」、及び「奥行き方向」の3方向(3次元)に一度に(同時に)細かく切断することが可能となり、摺動の度に生じる手の動きの若干の乱れ・ブレよって長ネギの姿勢角度が都度変化することも相俟って、より自然な大小のみじん切りを仕上げることができるようになる。
【0053】
このように本発明の長ネギみじん切り器及び長ネギのみじん切り方法は、産業上の利用価値及び産業上の利用可能性が非常に高い。
【符号の説明】
【0054】
1,1A 長ネギみじん切り器(みじん切り器,器具)
2 本体
3 把持部
3h 貫通孔
4 滑走面
5,5A ウェーブ刃
6 外周壁
7 橋部
41,41A,42,42A 第1・第2滑走面
43,43A,44,44A 第1・第2落とし孔
45,46 第1・第2張出部
51,51A,52,52A 刃体
A,λ,T,V 波の振幅(高さ),波長,上端(山),下端(谷)
,C 長ネギの外周位置
F,R 前進方向,戻り方向
N,N,N,O 長ネギ,長ネギ表面,小口切り片,長ネギの軸心
P,P,P,P 最外周の繊維体(残存部)
S,S,S 切断片(みじん切りされた細片)
,x 第1・第2滑走面を基準とした谷の位置
【要約】
【課題】一般家庭にて、長ネギのみじん切りが可能な調理器具を提供する。
【解決手段】長ネギみじん切り器1はウェーブ刃5と滑走面4とを備える。ウェーブ刃5は、幅方向に亘って複数の波が連続する断面形状を有する。滑走面4は、ウェーブ刃5の長手方向前後に第1・第2滑走面41,42を備える。ウェーブ刃5は、第1・第2滑走面41,42の両方向に対し刃体51,52が配向された両刃である。ウェーブ刃5と第1・第2滑走面41,42との間には第1・第2落とし孔43,44が形成される。第1・第2滑走面41,42が平滑面であることを特徴とする。第1・第2滑走面41,42及びウェーブ刃5の周囲を取り囲んだ外周壁6が設けられ、かつ、第1・第2滑走面41,42、ウェーブ刃5、外周壁6の順で、各部材の高さが大きくなることが好ましい。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8