(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-06
(45)【発行日】2022-04-14
(54)【発明の名称】カヌー
(51)【国際特許分類】
B63B 34/21 20200101AFI20220407BHJP
【FI】
B63B34/21
(21)【出願番号】P 2017115145
(22)【出願日】2017-06-12
【審査請求日】2020-05-29
(73)【特許権者】
【識別番号】501061319
【氏名又は名称】学校法人 東洋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100206999
【氏名又は名称】萩原 綾夏
(74)【代理人】
【識別番号】100192773
【氏名又は名称】土屋 亮
(72)【発明者】
【氏名】望月 修
(72)【発明者】
【氏名】窪田 佳寛
【審査官】中川 隆司
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-316089(JP,A)
【文献】中国実用新案第202147829(CN,U)
【文献】中国実用新案第202879759(CN,U)
【文献】特開2005-280627(JP,A)
【文献】登録実用新案第3190373(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2008/0184925(US,A1)
【文献】米国特許第05172646(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0037521(US,A1)
【文献】特開2000-177685(JP,A)
【文献】実開昭49-027193(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 34/21
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後方向に沿って延びる船体を備えたカヌーであって、
前記船体は、前記船体の底面を構成するボトム部と、前記ボトム部の上側に位置するカバー部と、を有し、内部に前記ボトム部およびカバー部に囲まれた中空部が設けられ、
前記カバー部は、上下方向に貫通して前記中空部に繋がる搭乗開口が設けられ、
前記ボトム部は、前記搭乗開口の直下に位置し下方に突出する突出部を有し、
前記ボトム部には、前記突出部の後方に位置し後方に向かって開口する第1の凹部が設けられ
、
前記第1の凹部は、開口を臨んで後方を向く後方面と、下側を向き前記後方面から後方に向かって延びる天面と、前記天面の幅方向両側に位置し前後方向に沿って延びる一対の側壁面と、から少なくとも構成され、
前記後方面には、上下方向に沿って延び後方に突出する凸条部が設けられる、カヌー。
【請求項2】
前記側壁面には、幅方向に貫通し上下方向に沿って延びるスリットが設けられる、請求項
1に記載のカヌー。
【請求項3】
前記ボトム部には、前記突出部より前方に位置し後方に向かって開口する第2の凹部が設けられている、
請求項1又は2に記載のカヌー。
【請求項4】
前記船体は、前記突出部より後方に位置する後方領域部において、幅方向中央から幅方向外側に向かうに従い薄く形成され、幅方向両端部で上面と下面とが鋭角に接続される、
請求項1~3の何れか一項に記載のカヌー。
【請求項5】
前記後方領域部の横断面において、前記上面は、中央から幅方向外側に向かうに従って下側に向かって湾曲しながら傾斜し、
前記後方領域部の横断面において、前記下面は、中央から幅方向外側に向かうに従って上側に向かって湾曲しながら傾斜し、
前記下面の曲率半径が前記上面の曲率半径より大きい、請求項
4に記載のカヌー。
【請求項6】
前記突出部の外面が、鈍体物体形状である、
請求項1~
5の何れか一項に記載のカヌー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカヌーに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、カヌー(例えば、特許文献1)は、外形を流線形に近づけて水の抵抗を抑制することを設計思想として設計されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
カヌーの競技の1つであるスラロームでは、競技者は、上流側から下流側に向かってゲートを通過しながら川を下る。本発明者らは、川の流れを利用することでカヌーの航行速度を高めることができることを着想した。
【0005】
本発明は、このような従来の事情に鑑みて提案されたもので、川の流れを利用することで航行速度を高めることができるカヌーの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の一態様のカヌーは、前後方向に沿って延びる船体を備えたカヌーであって、前記船体は、前記船体の底面を構成するボトム部と、前記ボトム部の上側に位置するカバー部と、を有し、内部に前記ボトム部およびカバー部に囲まれた中空部が設けられ、前記カバー部は、前記上下方向に貫通して前記中空部に繋がる搭乗開口が設けられ、前記ボトム部は、前記搭乗開口の直下に位置し下方に突出する突出部を有する。
【0007】
上述のカヌーにおいて、前記突出部の外面が、鈍体物体形状であってもよい。
【0008】
上述のカヌーにおいて、前記ボトム部には、前記突出部の後方に位置し後方に向かって開口する第1の凹部が設けられている構成としてもよい。
【0009】
上述のカヌーにおいて、前記第1の凹部は、開口を臨んで後方を向く後方面と、下側を向き前記後方面から後方に向かって延びる天面と、前記天面の幅方向両側に位置し前後方向に沿って延びる一対の側壁面と、から少なくとも構成され、前記後方面には、上下方向に沿って延び後方に突出する凸条部が設けられる構成としてもよい。
【0010】
上述のカヌーにおいて、前記側壁面には、幅方向に貫通し上下方向に沿って延びるスリットが設けられる構成としてもよい。
【0011】
上述のカヌーにおいて、前記ボトム部には、前記突出部より前方に位置し後方に向かって開口する第2の凹部が設けられている構成としてもよい。
【0012】
上述のカヌーにおいて、前記船体は、前記突出部より後方に位置する後方領域部において、幅方向中央から幅方向外側に向かうに従い薄く形成され、幅方向両端部で上面と下面とが鋭角に接続される構成としてもよい。
【0013】
上述のカヌーにおいて、前記後方領域部の横断面において、前記上面は、中央から幅方向外側に向かうに従って下側に向かって湾曲しながら傾斜し、前記後方領域部の横断面において、前記下面は、中央から幅方向外側に向かうに従って上側に向かって湾曲しながら傾斜し、前記下面の曲率半径が前記上面の曲率半径より大きい構成としてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、川の流れを利用することで航行速度を高めることができるカヌーを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明の範囲は、以下の実施の形態に限定されず、本発明の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。また、以下の図面においては、各構成をわかりやすくするために、実際の構造と各構造における縮尺や数等を異ならせる場合がある。
【0017】
また、以下の説明において、カヌー1の航行方向すなわちカヌー1に搭乗する搭乗者Mが向いている方向を前方と呼び、前方に対して後方、左方、右方、上方、下方を定義する。より具体的には、前方の反対方向を後方と呼び、水平面内において前後方向と直交する方向を左右方向又は幅方向と呼ぶ。さらに、前後方向および左右方向と直交する方向を上下方向と呼ぶ。
【0018】
<カヌー>
図1は、本実施形態のカヌー1の斜視図である。
図2は、カヌー1の平面図である。
図3は、カヌー1の底面図である。
図4は、カヌー1の側面図である。
図5は、
図2のV-V線に沿う断面図である。
【0019】
本実施形態のカヌー1は、カヌー競技の1つであるスラロームに使用されることに特化した競技用カヌーである。カヌー1は、1名の搭乗者(競技者)Mを搭乗させて、川の上流側から下流側に向かって航行する。カヌー1は、搭乗者Mによるパドルの操作および体重移動などによって、航行方向および航行速度が操作される。
【0020】
図4に示すように、カヌー1は、前後方向に沿って延びる船体2と、船体2の内部に配置された着座部4と、を備える。船体2は、船体2の底面を構成するボトム部10と、ボトム部10の上側に位置するカバー部50と、を有する。また、船体2の内部には、ボトム部10とカバー部50に囲まれた中空部3が設けられている。
【0021】
船体2を構成するボトム部10およびカバー部50は、FRP(Fiber-Reinforced Plastics、繊維強化プラスチックから形成されている。また、ボトム部10およびカバー部50は、金属製の板材を板金加工することで形成されていてもよい。さらに、ボトム部10およびカバー部50は、和紙の表面に漆を塗布して硬化させたもので形成されていてもよい。
【0022】
(カバー部)
カバー部50は、前後方向に沿って延びる板材である。カバー部50は、幅方向中央から幅方向外側に向かうに従い下側に向かってなだらかに湾曲して傾斜する。カバー部50は、ボトム部10を上側から覆う。
【0023】
カバー部50には、上下方向に貫通して中空部3に繋がる搭乗開口51が設けられている。搭乗開口51は、中空部3を外部に連通させる。船体2の中空部3であって、搭乗開口51の直下には、着座部4が収容されている。搭乗者Mは、搭乗開口51からカヌー1に乗り込む。搭乗者Mは、下半身を中空部3の内部に収容させ、臀部を着座部4上に搭載させ、搭乗開口51を介して上半身を外部に露出させた状態で、カヌー1に搭乗する。
なお、本実施形態では、カバー部50に搭乗開口51が1つだけ設けられた場合を例示するが、複数人の搭乗者が搭乗するカヌーにおいては、複数の搭乗開口が設けられていてもよい。この場合、後段において説明する突出部30は、複数の搭乗開口のうち何れか1つの直下に位置する。
【0024】
(ボトム部)
ボトム部10は、第1部材11、第2部材12および第3部材13を有する。第1部材11は、船体2の前方端から搭乗開口51の後方まで延びる。第2部材12は、第1部材11より後方側に位置する。第2部材12は、搭乗開口51の近傍から船体2の後方端まで延びる。第1部材11の後方の一部は、第2部材12の前方の一部と重なり合っている。第1部材11と第2部材12とが重なり合った部分は、後段において説明する第1の凹部20を構成する。第3部材13は、中空部3内に位置し、第1部材11に固定されている。
【0025】
第1部材11および第2部材12は、前後方向に沿って延びる板材である。第1部材11および第2部材12は、幅方向中央から幅方向外側に向かうに従い上側に向かってなだらかに湾曲して傾斜する。第1部材11と第2部材12とは互いに連結されている。また、第1部材11および第2部材12は、カバー部50と連結されている。
【0026】
第1部材11は、下方に突出する突出部30を有する。すなわち、ボトム部10は、突出部30を有する。突出部30は、搭乗開口51の直下に位置する。突出部30は、水面WSの下側に位置する。カヌー1は、ボトム部10に突出部30が設けられていることにより、抵抗係数および水の流れに沿う方向への投影面積が大きくなる。このためカヌー1は、水流を受けやすい。したがって、カヌー1が上流側から下流側に航行する場合、川の流れを受けて前方(すなわち下流側)への推進力として利用することができ、上流側から下流側に高速で航行することができる。
【0027】
突出部30の外面は、鈍体物体形状である。より具体的には、突出部30の外面は、
図3および
図4に示すように、球面状に湾曲する球面状領域30aと、球面状領域30aを囲む接続領域30bと、を有する。球面状領域30aには、カヌー1の下面の最下点LPが含まれる。球面状領域30aは、最下点LPから斜め上方に広がる。接続領域30bは、球面状領域30aとカヌー1の下面のうち突出部30以外の領域とを滑らかに接続する。すなわち、接続領域30bは、上側に向かうに従い最下点LPから離れる方向に曲率半径を変えながら湾曲して傾斜する。なお、本明細書において、「球面状」とは、厳密な意味での球面に限定されることはなく、球面に類する形状であればよい。
【0028】
本実施形態の突出部30は、後方からの水の抵抗を受けて推進力に変えることができる一方で、前方からの水の抵抗を受けやすい。このため、突出部30は、搭乗者Mがパドルを用いて川の流れより早くなるようにカヌー1を加速しようとする場合、又は、川の流れに反して航行しようとする場合に、前方からの水の抵抗を受け、加速が阻害される。本実施形態によれば、突出部30の外面が、球面状領域30aおよび接続領域30bを有する鈍体物体形状であることにより、前方に進む際の水の抵抗を抑制でき、カヌー1の加速性能を高めることができる。なお、このような効果は、突出部30の外面が鈍体物体形状である場合の効果であり、突出部30の外面は、必ずしも球面状領域30aおよび接続領域30bを有していなくてもよい。
【0029】
ここで、鈍体物体形状(blunt body shape)について流線型形状と比較して説明する。
鈍体物体形状とは、流体(本実施形態では水)中に載置されたときに、物体に加わる抵抗のうち圧力抵抗が支配的となる形状を意味する。鈍体物体形状の物体が、流体中に載置されると、物体の先端からある程度離れた位置で境界層が物体の表面から剥離し、物体の背後に渦ができる。この剥離域は圧力が低くなるため、物体の前面と背面との圧力差により、物体には、背後側に向かう強い抵抗(圧力抵抗)が生じる。なお、鈍体物体形状の例としては、球、円柱などが例示される。これに対し流線型形状の物体では、境界層の剥離がなく、圧力抵抗が極めて小さく、流体の粘性による摩擦抵抗が支配的となる。
本実施形態によれば、突出部30の外面が鈍体物体形状であるため、カヌー1の後方からの応力を前方に向かう力に変えることができる一方で、カヌー1が前方から受ける水の流れを適度に受け流すことができる。
【0030】
突出部30は、搭乗開口51の直下に位置する。したがって、突出部30は、搭乗者Mの体軸Jの延長線上に位置する。したがって、搭乗者Mは、カヌー1を旋回させる際に、体重を後ろに移動させ、船体2の前方端を浮かせた状態で突出部30を中心として旋回させることができる。また、本実施形態によれば、突出部30の外面に球面状に湾曲する球面状領域30aが設けられているため、搭乗者Mの体重移動により、球面状の突出部30を中心としたカヌー1の旋回操作を容易とすることができる。
搭乗者Mがカヌー1に搭乗者Mが搭乗し水面WSに浮かんだ状態において、搭乗者Mの体軸Jは、鉛直軸Vに対して後方に向かって角度φによって傾いている。本実施形態において、角度φは、約5°である。角度φは、0°を超え10°以下とすることが好ましい。これにより、搭乗者Mが搭乗開口51の内部の背もたれによりかかった状態で、搭乗者Mの姿勢を安定させることができるのみならず、搭乗者Mによる前後方向の体重移動およびカヌー1の旋回操作を容易とすることができる。
【0031】
図3に示すように、第1部材11には、上下方向に貫通する開口部11aが設けられている。開口部11aは、第1部材11において、突出部30より前方に位置する。開口部11aは、第3部材13により中空部3の内側から覆われている。
【0032】
図5に示すように、第3部材13は、前方に向かうに従い上側に向かって傾斜する傾斜壁13aと、傾斜壁13aの前端部に位置し上下方向に沿って延びる前端壁13bと、を有する。傾斜壁13aの後端は、第1部材11に連結されている。傾斜壁13aの後端は、開口部11aの後端に位置する。前端壁13bの下端は、第1部材11に連結されている。前端壁13bの下端は、開口部11aの前端より前方に位置する。第1部材11の一部であって、前端壁13bの下端から開口部11aの前端まで延びる部分を、底壁部11bと呼ぶこととする。
【0033】
中空部3の内部であって第3部材13に囲まれた領域には、第2の凹部40が設けられている。すなわち、ボトム部10には、第2の凹部40が設けられている。第2の凹部40は、第1部材11の底壁部11bと、第3部材13の傾斜壁13aおよび前端壁13bから構成される。第2の凹部40の開口は、第1部材11の開口部11aである。第2の凹部40の開口(すなわち開口部11a)は、下方に開口する。また、傾斜壁13aが開口部11aの縁から前方に向かっての延びるため、第2の凹部40の開口は、後方に向かって開口する。
【0034】
第2の凹部40の開口を上下方向から覆う傾斜壁13aは、前方に向かうに従い前方に向かうに従い上側に向かって傾斜する。すなわち、傾斜壁13aは、第1部材11に沿って形成されている。したがって、カヌー1が水流に対して前方に加速する場合に水の抵抗を受けにくい。
【0035】
図4に示すように、カヌー1に搭乗者Mが搭乗し水面WSに浮かんだ状態において、第2の凹部40の開口は、水面WSより下側に位置する。第2の凹部40は、後方に向かって開口するため、カヌー1の後方から前方に向かって流れる水流を受ける。本実施形態によれば、カヌー1は、第2の凹部40を設けたことにより、上流側から下流側に航行する際に川の流れを前方への推進力として利用することができる。
【0036】
図5に示すように、第1部材11と第2部材12とは、突出部30の後方において上下方向に互いに重なり合っている。
第1部材11は、突出部30から後方に向かって延びて第2部材12の一部の下側に位置する第1重複部11cを有する。第1重複部11cは、突出部30から滑らかに繋がり、後方に向かうに従い上側に傾斜する。第1重複部11cの幅方向両端には、上側に向かって滑らかに延びて第2部材12に接続される。
第2部材12は、前方の先端に位置し上下方向に沿って延びる前端部12aと、前端部12aの上端から後方に向かって延びる本体部12bと、を有する。前端部12aの下端は、第1部材11の上面に連結されている。第2部材12は、前端部12aおよび本体部12bの前方の一部において第1重複部11cの上側に位置する。本体部12bにおいて、第1部材11部材の下側に位置する部分を第2重複部12cと呼ぶこととする。第2重複部12cとの間には、上下方向の隙間が設けられている。
【0037】
第1重複部11c、第2重複部12cおよび前端部12aに囲まれた領域には、第1の凹部20が設けられている。すなわち、ボトム部10には、突出部30の後方に位置する第1の凹部20が設けられている。第1の凹部20は、後方に向かって開口する。
【0038】
第1の凹部20は、後方面21と、天面22と、一対の側壁面23と、底面24と、から構成される。すなわち、第1の凹部20は、後方面21、天面22、一対の側壁面23および底面24に囲まれた空間として構成されている。
後方面21は、第2部材の前端部12aの後方を向く面である。後方面21は、第1の凹部20の開口を臨んで後方を向く。
天面22は、第2重複部12cの下側を向く面である。天面22は、後方面21から後方に向かって延びる。
底面24は、第1重複部11cの上側を向く面である。底面24は、後方面21から後方に沿って延びる。底面24は、天面22と上下方向に対向する。
一対の側壁面23は、第1部材11の一部の第1の凹部20の内部空間を幅方向両側から囲む面である。一対の側壁面23は、天面22と底面24との間に位置する。すなわち、一対の側壁面23は、天面22の幅方向両側に位置し前後方向に沿って延びる。
なお、底面24は、省略されていてもよい。すなわち、第1の凹部20は、後方面21、天面22および一対の側壁面23から少なくとも構成されていればよい。底面24が省略された場合、第1の凹部は、後方のみならず下方にも開口する。
【0039】
本実施形態のカヌー1によれば、ボトム部10には、突出部30の後方に位置し後方に向かって開口する第1の凹部20が設けられている。カヌー1が後方から前方に向かう流れを有する水流中に配置されたとき、水は、第1の凹部20の内部に流入し後方面21に当たり、カヌー1に推進力を与える。すなわち、本実施形態によれば、カヌー1は、後方から前方に向かう水流を第1の凹部20により受けて、前方への推進力に変えることができる。
【0040】
図6は、
図4のVI-VI線に沿う断面図である。
後方面21には、上下方向に沿って延び後方に突出する凸条部25が設けられる。
一対の側壁面23には、前後方向に沿って並ぶ複数のスラット部28が設けられている。スラット部28同士の間には、隙間が設けられている。この隙間は、上下方向に沿って延びるスリット29を構成する。すなわち、一対の側壁面23には、それぞれ幅方向に貫通し上下方向に沿って延びるスリット29が設けられる。
【0041】
凸条部25の先端は、鋭角を構成している。後方から第1の凹部20内に流入した水流は、凸条部25によって左右に分断される。さらに、水流は、一対の側壁面23に当たって後方に向けて旋回し、スリット29が第1の凹部20の外部に流出する。
【0042】
本実施形態によれば、後方面21に凸条部25が設けられていることによって、第1の凹部20の内部に流入した水流が凸条部25を中心として左右対称に渦を巻く。したがって、水流による左右の側壁面23を押す力は互いに釣り合う。このため、後方からの水の流れを安定的に前方に押す力に効率的に利用できる。
【0043】
本実施形態によれば、第1の凹部20の内部で渦を巻いた水流が、スリット29を介してバケット部60の外側に流出される。したがって、第1の凹部20の内部で渦を巻いた水流により、後方から第1の凹部20への水流の流入を阻害されることがない。このため、後方からの水流を効率的に第1の凹部20に導くことが可能となり、後方から効率的に水を受けて前方への推進力として利用できる。スリット29の形状には、バイオメティック(生体工学)が利用されている。スリット29は、サメのエラと類似の形状を有する。
【0044】
(後方領域)
図4に示すように、船体2は、突出部30の後方の領域を後方領域部5と呼ぶこととする。後方領域部5は、カバー部50とボトム部10の第2部材12とから構成されている。後方領域部5は、後方に向かうに従って徐々に上側に向かって傾斜する方向に延びる。
【0045】
図7は、
図2に示すVII-VII線に沿う後方領域部5の断面図である。後方領域部5は、上面5aと下面5bを有する。上面5aは、カバー部50の上面の一部である。下面5bは、ボトム部10の下面の一部である。上面5aは、中央から幅方向外側に向かうに従って下側に向かって湾曲しながら傾斜する。
図7に示す後方領域部5の横断面において、上面5aは、曲率半径R1で湾曲する。また、本実施形態において、下面5bは、略平坦である。上面5aおよび下面5bは、幅方向両側において連続する。上面5aおよび下面5bの接続部分は、鋭角となっている。すなわち、船体2は、後方領域部5において、幅方向両端部で上面5aと下面5bとが鋭角に接続される。
【0046】
後方領域部5は、カヌー1に搭乗者Mが搭乗し水面WSに浮かんだ状態において、水面WSより上側に位置する。上述したように、カヌー1は、後方に傾かせて旋回する。
本実施形態によれば、後方領域部5が、中央から幅方向外側に向かうに従い薄くなっており上面5aと下面5bとが鋭角に接続されている。これにより、突出部30より前方の領域を水面WSから浮かせ後方領域部5を水中に沈めた状態で旋回させる際に、後方領域部5に加わる水の抵抗を低減しカヌー1のスムーズな旋回を実現できる。
【0047】
また、本実施形態によれば、後方領域部5の横断面において、上面5aが曲率半径R1で上側に突出するように湾曲し、下面5bが略平坦である。したがって、後方領域部5を水中に沈めた状態でカヌー1を旋回させることで、後方領域部5に下向きの力を付与させて後方領域部5を水中に沈めた状態を維持しやすくできる。すなわち、前側の領域を水上に浮かせて旋回を行うことを容易として、カヌー1の旋回性能を高めることができる。
なお、このような効果は、下面が中央から幅方向外側に向かうに従って上側に向かって曲率半径R2で湾曲しながら傾斜する場合には、下面の曲率半径R2が上面の曲率半径R1より大きければ(R2>R1であれば)奏することができる効果である。本実施形態の下面5bは、中央から幅方向外側に向かうに従って上側に向かって湾曲する下面において、曲率半径R2が無限大である場合として分類される。
後方領域部5の横断面形状には、バイオメティックが利用されている。後方領域部5の横断面形状は、カモノハシのくちばし形状と類似の形状を有する。
【0048】
以上に、本発明の様々な実施形態を説明したが、各実施形態における各構成およびそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換およびその他の変更が可能である。また、本発明は実施形態によって限定されることはない。
例えば、上述の実施形態において船体2は別体のボトム部とカバー部とを有する。しかしながら、ボトム部とカバー部とは、一体成形されていてもよい。
【符号の説明】
【0049】
1…カヌー、2…船体、3…中空部、5…後方領域部、5a…上面、5b…下面、10…ボトム部、20…第1の凹部、21…後方面、22…天面、23…側壁面、24…底面、25…凸条部、29…スリット、30…突出部、40…第2の凹部、50…カバー部、51…搭乗開口