(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-06
(45)【発行日】2022-04-14
(54)【発明の名称】溶栓式安全弁
(51)【国際特許分類】
F16K 17/38 20060101AFI20220407BHJP
F17C 13/04 20060101ALN20220407BHJP
【FI】
F16K17/38 A
F17C13/04 301D
(21)【出願番号】P 2018028761
(22)【出願日】2018-02-21
【審査請求日】2021-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】390033857
【氏名又は名称】株式会社フジキン
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【氏名又は名称】松村 直都
(74)【代理人】
【識別番号】100079038
【氏名又は名称】渡邉 彰
(74)【代理人】
【識別番号】100060874
【氏名又は名称】岸本 瑛之助
(72)【発明者】
【氏名】松岡 真司
(72)【発明者】
【氏名】下村 嘉徳
(72)【発明者】
【氏名】大道 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】薬師神 忠幸
(72)【発明者】
【氏名】北中 公夫
【審査官】加藤 昌人
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-282638(JP,A)
【文献】特開2005-345276(JP,A)
【文献】特開2005-331016(JP,A)
【文献】実開昭57-10565(JP,U)
【文献】実開昭50-37142(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2005/0217725(US,A1)
【文献】特開2009-275861(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 17/36-17/42
F17C 1/00-13/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器に取り付けられて温度が所定の温度以上に上昇した場合に容器内のガスを開放する溶栓式安全弁であって、
有底筒状であり、前記容器の内部と連通する本体ガス通路を底部に有する本体と、
前記本体の開口を塞ぐ蓋部材の内面に一端面が当接するように配された可溶栓体と、
前記可溶栓体の他端面に当接し前記本体の内周面に摺接する頭部および当該頭部から底部側にのびて前記本体ガス通路をシールする軸部とからなる移動部材と、
前記頭部の底部側の面に当接し、前記軸部が貫通する貫通孔を有する多孔質部材と、
前記本体の底部内面と前記多孔質部材の底部側の面との間に配された付勢部材とを有し、
前記本体の底部近傍の周壁には、貫通するガス開放通路が備えられており、
前記多孔質部材は、溶融した前記可溶栓体を受容する容量を有する溶栓式安全弁。
【請求項2】
容器に取り付けられて温度が所定の温度以上に上昇した場合に容器内のガスを閉鎖する溶栓式安全弁であって、
有底筒状であり、前記容器の内部と連通する本体ガス通路を底部に有する本体と、
前記本体の開口を塞ぐ蓋部材の内面に一端面が当接するように配された可溶栓体と、
前記可溶栓体の他端面に当接する移動部材であって、前記本体の内周面に摺接する頭部および当該頭部から底部側にのびる軸部を有し、当該軸部は前記頭部側の細径部と当該細径部に連なる太径部とからなり、当該太径部は、前記本体ガス通路よりも前記容器側に突出している移動部材と、
前記頭部の底部側の面に当接し、前記細径部が貫通する貫通孔を有する多孔質部材と、
前記本体の底部内面と前記多孔質部材の底部側の面との間に配された付勢部材とを有し、
前記本体の底部近傍の周壁には、貫通するガス開放通路が備えられており、
前記多孔質部材は、溶融した前記可溶栓体を受容する容量を有する溶栓式安全弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、溶栓式安全弁に関する。
【背景技術】
【0002】
火災発生時等における温度上昇時に、容器内ガスを開放する安全弁や容器内のガスの流出を遮断する安全弁が知られている。
【0003】
特許文献1に記載の安全弁(
図5参照) は、容器22に取り付けられた安全弁21である。この安全弁21は、本体23の上部に取り付けられた頂壁23aの下面に接する可溶栓体31と、可溶栓体31の下面に接する移動部材24と、移動部材24を上方に付勢する圧縮コイルばね25とを有し、本体23の周壁23bには温度上昇時にガスを開放するためのガス開放通路27があけられており、周壁23bと頂壁23aには、溶融可溶栓体26を逃がすための溶融可溶栓通路26があけられている。
【0004】
特許文献2に記載の安全弁(
図6参照) は、容器43に取り付けられた安全弁41である。この安全弁41は、本体42の左端の栓中央に突起があり、この突起の右端面に接する可溶栓体52が備えられ、この可溶栓体52は、移動部材54の左端面中央に設けられた窪みに入れられている。移動部材54は、圧縮コイルばね55によって左方向に付勢されている。移動部材54の右端部には、可動栓体44が移動部材54と直交するように当接し、可動栓体44は、容器43内のガスと連通する可動栓体配置通路45に配置されている。容器43の上部には、可動栓体配置通路45と連通する逃がし通路46があけられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-132475号公報
【文献】特開2016-125596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の溶栓式安全弁(
図5参照)では、温度が上昇すると可溶栓体31が溶けて溶融可溶栓通路26から流れ出る。移動部材24は、圧縮コイルばね25によって上方に付勢されて上方に移動する。移動部材24が上方に移動すると、移動部材24と周壁23bとの間のシールが破れてガスがガス開放通路27を通ってガスは外部に開放される。
【0007】
特許文献1に記載の安全弁(
図5参照)では、可溶栓体31の側面に溶融可溶栓通路26が開口しているため、圧縮コイルばね25の付勢力と容器22内のガスの圧力によって可溶栓体31が圧縮されて可溶栓体31がクリープ変形を起こし、固体状の可溶栓体31が溶融可溶栓通路26に一部入り込むと、移動栓体24が上方に移動して、所定温度未満で安全弁21が作動するおそれがある。また、温度が所定温度以上になって可溶栓体31が溶融すると、溶融した可溶栓体31の一部が周壁23bと移動部材24の頭部側面との間の隙間から圧縮コイルばね25が配置されている空間に流れ出し、この溶融した可溶栓体31がガス開放通路27に入ってこの通路を塞いでガスが外部へ開放されなくなり、温度が所定温度以上になっても安全装置として作動しないおそれがある。
【0008】
特許文献2に記載の溶栓式安全弁(
図6参照)では、温度が上昇すると可溶栓体52が溶けて圧縮コイルばね23bが配置される空間に流入する。移動部材54は、圧縮コイルばね55によって左方に付勢されて左方向に移動する。移動部材54が左方向に移動すると、可動栓体44が上方に移動して、可動栓体44と可動栓体配置通路45の側周面との間のシールが破れてガスが逃がし通路46を通ってガスは外部に開放される。
【0009】
特許文献2に記載の安全弁(
図6参照)では、溶融した可溶栓体52が、圧縮コイルばね23bが配置される空間に流入するため、逃がし通路46が溶融した可溶栓体52によって塞がれることがないようにするために、逃がし通路46を可溶栓体52から遠く離して、容器43の上部に設けている。しかし、このような構造にしているため、可動栓体46を新たに設けねばならず、構造が複雑となってコストアップとなる。
【0010】
この発明の目的は、所定の温度以下で誤作動を起こさず、安全弁作動時にガス開放通路を塞ぐことがない溶栓式安全弁を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明(1)による溶栓式安全弁は、容器に取り付けられて温度が所定の温度以上に上昇した場合に容器内のガスを開放する溶栓式安全弁であって、有底筒状であり、前記容器の内部と連通する本体ガス通路を底部に有する本体と、前記本体の開口を塞ぐ蓋部材の内面に一端面が当接するように配された可溶栓体と、前記可溶栓体の他端面に当接し前記本体の内周面に摺接する頭部および当該頭部から底部側にのびて前記本体ガス通路をシールする軸部とからなる移動部材と、前記頭部の底部側の面に当接し、前記軸部が貫通する貫通孔を有する多孔質部材と、前記本体の底部内面と前記多孔質部材の底部側の面との間に配された付勢部材とを有し、前記本体の底部近傍の周壁には、貫通するガス開放通路が備えられており、前記多孔質部材は、溶融した前記可溶栓体を受容する容量を有する溶栓式安全弁である。本発明(1)による溶栓式安全弁は、温度が所定温度以上になって前記可溶栓体が溶融して前記移動部材が前記蓋部材側に移動した際、前記本体ガス通路のシールが破れて、前記容器の内部と前記ガス開放通路とは連通し、溶融した前記可溶栓体は、前記本体の内周面と前記頭部の外周面との間を通って、前記多孔質部材に流れ込んでトラップするようにしている。
【0012】
本発明(1)の溶栓式安全弁は、所定の温度以上の温度になったときに、容器内のガスを開放する安全弁である。
【0013】
本発明(1)の溶栓式安全弁によると、特許文献1にあるような溶融可溶栓通路が設けられていないため、所定の温度未満における可溶栓体のクリープ現象は発生せず、クリープ現象による誤作動を起こすことはない。
【0014】
また、溶融した可溶栓体が移動部材の頭部の外周面と本体の内周面との間の隙間を通って付勢部材が配置されている空間に流れ込んでも、多孔質部材にトラップされるのでガス開放通路を塞ぐことがないため、特許文献2に記載の安全弁のような複雑な構造をとる必要がなく、製造上のコストダウンとなる。
【0015】
本発明(2)による溶栓式安全弁は、容器に取り付けられて温度が所定の温度以上に上昇した場合に容器内のガスを閉鎖する溶栓式安全弁であって、有底筒状であり、前記容器の内部と連通する本体ガス通路を底部に有する本体と、前記本体の開口を塞ぐ蓋部材の内面に一端面が当接するように配された可溶栓体と、前記可溶栓体の他端面に当接する移動部材であって、前記本体の内周面に摺接する頭部および当該頭部から底部側にのびる軸部を有し、当該軸部は前記頭部側の細径部と当該細径部に連なる太径部とからなり、当該太径部は、前記本体ガス通路よりも前記容器側に突出している移動部材と、前記頭部の底部側の面に当接し、前記細径部が貫通する貫通孔を有する多孔質部材と、前記本体の底部内面と前記多孔質部材の底部側の面との間に配された付勢部材とを有し、前記本体の底部近傍の周壁には、貫通するガス開放通路が備えられており、前記多孔質部材は、溶融した前記可溶栓体を受容する容量を有する溶栓式安全弁である。本発明(2)による溶栓式安全弁は、温度が所定温度以上になって前記可溶栓体が溶融し、前記移動部材が前記蓋部材側に移動した際、前記太径部により前記本体ガス通路がシールされて、前記容器内と前記ガス開放通路とは閉鎖され、溶融した前記可溶栓体は、前記本体の内周面と前記頭部の外周面との間を通って、前記多孔質部材に流れ込んでトラップするようにしている。
【0016】
本発明(2)の溶栓式安全弁は、所定の温度以上の温度になったときに、容器内のガスの流出を閉鎖する安全弁である。
【0017】
本発明(2)の溶栓式安全弁によると、本発明(1)の溶栓式安全弁と同様に、所定の温度未満における可溶栓体のクリープ現象は発生せず、クリープ現象による誤作動を起こすことはない。また、特許文献2に記載の安全弁のような複雑な構造をとる必要がないため製造上のコストダウンとなる。
【発明の効果】
【0018】
この発明の溶栓式安全弁によると、所定の温度未満での誤作動を起こすことがなく、構造もシンプルで製造上のコストダウンを図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、この発明による溶栓式安全弁の実施例1の縦断面図である。
【
図2】
図2は、実施例1の溶栓式安全弁が作動したときの縦断面図である。
【
図3】
図3は、この発明による溶栓式安全弁の実施例2の縦断面図である。
【
図4】
図4は、実施例2の溶栓式安全弁が作動したときの縦断面図である。
【
図5】
図5は、従来技術の溶栓式安全弁の縦断面図である。
【
図6】
図6は、従来技術の溶栓式安全弁の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施例を詳しく説明する。便宜的に図面上での方向によって部位等の方向を上下左右と指称することがあるが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0021】
図1は、この発明の溶栓式安全弁の実施例1の縦断面図を示しており、この実施例1の溶栓式安全弁は、温度が所定の温度以上に上昇した場合に容器内のガスを開放するタイプの溶栓式安全弁である。
【0022】
実施例1の溶栓式安全弁1は、容器2にねじにより取り付けられ、有底筒形状をしている本体3と、本体3の上部に備えられた蓋部材9の下面に上端面が当接するように配された可溶栓体7と、可溶栓体7の下面に当接する頭部4aおよび軸部4bとからなる移動部材4と、頭部4aの下面に当接し、軸部4bが貫通する貫通孔8aを有する多孔質部材8と、底部内面3fと多孔質部材8の下面との間に配された付勢部材である圧縮コイルばね5とを有している。なお、溶栓式安全弁1は、図に示すように本体3の下端にねじ部を形成して容器2に取り付けるほか、例えば、本体3の下端部にフランジを設けてボルト等の締結手段で容器2に取り付ける等、種々の取り付け形態を採用することができる。
【0023】
蓋部材9と本体3とは、蓋部材9に備えられているおねじ部9aと本体3の周壁3aの内周面の上部に備えられているめねじ部3dとによって結合している。
【0024】
本体3と容器2とは、Oリング10aによってシールされ、本体ガス通路3eは軸部4bと底部3gの内周面との間に介在するOリング10bによって封鎖され、本体3と蓋部材9とは本体上面3cと蓋部材9の下面との間に介在するOリング10cによってシールされている。
【0025】
底部3gの近傍の周壁3aには、ガス開放通路6があけられている。容器2には、ガスが充填されている内部と本体ガス通路3eとを連通する容器ガス通路2aが設けられている。この容器ガス通路2aは必ずしも必要ではなく、本体ガス通路3eが容器2の内部と直接に連通していてもよい。
【0026】
図2は、
図1の安全弁が作動したときの状態を示している。温度が所定の温度以上になったため、可溶栓体7は溶けて、頭部4aの側面と内周面3bの間の僅かな隙間から下方に流れ出て、多孔質部材8にトラップされて、元の位置にはなくなっている。
【0027】
移動部材4は、圧縮コイルばね5および容器2内のガスの圧力によって上方に付勢されて移動し、軸部4bはOリング10bから外れ、本体ガス通路3eの遮断が破れ、容器2内のガスは、容器ガス通路2a、本体ガス通路3eおよびガス開放通路6を通って外部に放出される。なお、ガス開放通路6は、
図5に示す位置に形成するようにしても構わない。
【0028】
ガス開放通路6から外部に放出されるガスによって、多孔質部材8は冷却され、多孔質部材8にトラップされた溶融した可溶栓体7は、多孔質部材8の内部で固化され固定される。これによって、溶融した可溶栓体7によってガス開放通路6が溶け出た可溶栓体7によって塞がれることがなくなる。
【0029】
図3は、この発明の溶栓式安全弁の実施例2の縦断面図を示しており、この実施例2の溶栓式安全弁は、温度が所定の温度以上に上昇した場合にガスの流出を閉鎖するタイプの溶栓式安全弁である。
【0030】
図1の実施例1の溶栓式安全弁と同じ構造部分は一部説明を省略する。
【0031】
移動部材4の軸部4bは細径部4cと太径部4dを有しており、
図3の安全弁の作動前の状態では、細径部4cの外周面と本体ガス通路3eの内側面との間には隙間がありガスが通れる状態にある。太径部4dは、本体ガス通路3eの下側の開口よりも下方に位置している。
【0032】
温度が所定温度以上になって、可溶栓体7が溶けて多孔質部材8に流れ込んで、移動部材4が上方に移動すると、太径部4dが本体ガス通路3eの中に入り込み、太径部4dの外周面とOリング10bが圧接してガスの流れが遮断され、安全弁が作動された状態となる。
【符号の説明】
【0033】
1 :安全弁
2 :容器
2a:容器ガス通路
3 :本体
3a:周壁
3b:内周面
3c:本体上面
3d:めねじ部
3e:本体ガス通路
3f:底部内面
3g:底部
4 :移動部材
4a:頭部
4b:軸部
4c:細径部
4d:太径部
5 :圧縮コイルばね(付勢部材)
6 :ガス開放通路
7 :可溶栓体
8 :多孔質部材
8a:貫通孔
9 :蓋部材
9a:おねじ部
10a, 10b, 10c:Oリング
F :実施例1の安全弁の作動時のガスの流れ
F’: 実施例2の安全弁の非作動時のガスの流れ