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特許7054516こんにゃく粉及びこんにゃく加工品の産地判定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-06
(45)【発行日】2022-04-14
(54)【発明の名称】こんにゃく粉及びこんにゃく加工品の産地判定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/02 20060101AFI20220407BHJP
   G01N 27/62 20210101ALN20220407BHJP
【FI】
G01N33/02
G01N27/62 V
G01N27/62 D
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018043061
(22)【出願日】2018-03-09
(65)【公開番号】P2019158462
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】595044797
【氏名又は名称】株式会社関越物産
(74)【代理人】
【識別番号】100194113
【弁理士】
【氏名又は名称】八木田 智
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【弁理士】
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(72)【発明者】
【氏名】外山 慶一
(72)【発明者】
【氏名】新井 啓之
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2017-0125300(KR,A)
【文献】特許第5558991(JP,B2)
【文献】特開2010-239960(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0042304(US,A1)
【文献】特開2010-256302(JP,A)
【文献】特開2012-251899(JP,A)
【文献】特表2005-523432(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0158871(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第107424003(CN,A)
【文献】伊永隆史,安定同位体比質量分析法を用いた食品産地判別研究の現状と課題,RADIOISOTOPES,2013年,Vol.62, No.4,pp.219-233
【文献】SUGIYAMA, N. et al.,Classification of Elephant Foot Yam (Amorphophallus paeoniifolius) Cultivars in Java using AFLP Markers,Japanese Journal of Tropical Agriculture,2006年,Vol.50, No.4,pp.215-218
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/02
A23L 19/00
A47K 7/02
G01N 27/62
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
判別対象のこんにゃく粉における窒素及び炭素の安定同位体比を測定すると共に、同こんにゃく粉における窒素含有量を測定し、
測定した窒素及び炭素の安定同位体比並びに窒素含有量に基づいて、該判別対象のこんにゃく粉の産地が日本国であるか否かを判別する
ことを特徴とするこんにゃく粉の産地判別方法。
【請求項2】
こんにゃく粉における窒素及び炭素の安定同位体比並びに窒素含有量を説明変数とする線形1次判別関数を前記判別に使用し、
該関数が、日本国産のこんにゃく粉から成る群と、判別対象の国産のこんにゃく粉から成る群の中心座標を通り、最も良く前記2群を分けるように、各説明変数の係数を決定する
ことを特徴とする請求項1に記載のこんにゃく粉の産地判別方法。
【請求項3】
判別対象のこんにゃく粉が、中国産又はミャンマー産である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のこんにゃく粉の産地判別方法。
【請求項4】
こんにゃく粉を用いて製造した判別対象のこんにゃく加工品を凍結乾燥した後に粉砕し、該粉砕したこんにゃく加工品を用いて、こんにゃく加工品における窒素及び炭素の安定同位体比を測定すると共に、同こんにゃく加工品における窒素含有量を測定し、
測定した窒素及び炭素の安定同位体比並びに窒素含有量に基づいて、該判別対象のこんにゃく加工品に用いられているこんにゃく粉の産地が日本国であるか否かを判別する
こんにゃく加工品の産地判別方法。
【請求項5】
こんにゃく加工品における窒素及び炭素の安定同位体比並びに窒素含有量を説明変数とする線形1次判別関数を前記判別に使用し、
該関数が、日本国産のこんにゃく粉で製造されたこんにゃく加工品から成る群と、判別対象の国産のこんにゃく粉で製造されたこんにゃく加工品から成る群の中心座標を通り、最も良く前記2群を分けるように、各説明変数の係数を決定する
ことを特徴とする請求項4に記載のこんにゃく粉の産地判別方法。
【請求項6】
判別対象のこんにゃく加工品に用いられているこんにゃく粉が、中国産又はミャンマー産である
ことを特徴とする請求項4又は5に記載のこんにゃく粉の産地判別方法。
【請求項7】
前記こんにゃく加工品が、こんにゃく、白滝、こんにゃくゼリー及びこんにゃくペーストを含む
ことを特徴とする請求項4~6の何れか一項に記載の方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、こんにゃく粉及びこんにゃく加工品の産地を判別する方法に関する。具体的には、こんにゃく粉及びこんにゃく加工品の産地が日本であるか否かを判別する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
こんにゃく等のこんにゃく加工品は従来から我が国において和食の材料として用いられて食されており、近頃は、低カロリーで食物繊維が豊富であり、かつ、満腹感が得られることからダイエット食品としても注目を集め、こんにゃくだけでなく、様々な種類のこんにゃく加工品が製造販売されている。
こんにゃくやしらたき等のこんにゃく加工品の原料となるこんにゃく粉は、蒟蒻芋から作られる。
上記したこんにゃく加工品の原料となるこんにゃく粉は、日本国内で生産されたものだけでなく、海外からも輸入されている。具体的には、例えば、中国、ミャンマー、ラオス等から輸入されており、各国から輸入したこんにゃく粉を単独で使用することもあれば、輸入したこんにゃく粉に日本国産のこんにゃく粉を混ぜて使用することもある。
このように日本国内において、様々なこんにゃく加工品の材料として利用され、かつ、その原料の産地が日本国内に限られず、輸入したものもあるこんにゃく粉及びこんにゃく加工品には、食品表示法の食品表示基準第3条により、農産加工品の一つとして原料原産地名を表示することが義務付けられている。
しかし、原産地が表示されていても、それを裏付ける根拠がなければ、原産地偽装の心配があるため、消費者及び取引者は安心することができない。
このため、表示された原産地を科学的に裏付けることが必要であるが、こんにゃく粉及びこんにゃく加工品の産地を科学的に特定して判別する方法は未だ開発されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5558991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
こんにゃく粉のような食品の産地を判別する方法として、安定同位体比を測定して、その測定結果からワカメの産地を特定する方法が既に提案されている(特許文献1)。
安定同位体は、同じ性質でありながら中性子の数が異なるために重さ(質量)が異なる原子の中で、不安定な放射性同位体と異なり、安定して存在する同位体であり、窒素、炭素、酸素の各原子には、それぞれ質量の異なる安定同位体が存在し、自然界における、同一の原子についての質量の異なる安定同位体の存在比率は、地理的要因によって変動することが知られており、世界中の各地域において、窒素、炭素、酸素の安定同位体の比率は僅かづつ異なる。
特許文献1に開示された方法は、この安定同位体比を利用して、ワカメの産地を特定するものである。
しかし、全ての食品が、必ずしもワカメのように安定同位体の比率だけで産地を特定することができるわけではない。
発明者等の研究によれば、こんにゃく及びこんにゃく加工品については、安定同位体比だけでは産地を十分な確率で特定することができなかった。
本発明は、上記した従来の問題点を解決し、100%又はそれに近い割合で、産地を特定することができるこんにゃく粉及びこんにゃく加工品の産地判別方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記した目的を達成するために、本発明に係るこんにゃく粉の産地判別方法は、判別対象のこんにゃく粉における窒素及び炭素の安定同位体比を測定すると共に、同こんにゃく粉における窒素含有量を測定し、
測定した窒素及び炭素の安定同位対比並びに窒素含有量に基づいて、該判別対象のこんにゃく粉の産地が日本国であるか否かを判別することを特徴とする。
前記判別には、こんにゃく粉における窒素及び炭素の安定同位体比並びに窒素含有量を説明変数とする線形1次判別関数が使用され得、その場合、該関数が、日本国産のこんにゃく粉から成る群と、判別対象の国産のこんにゃく粉から成る群の中心座標を通り、最も良く前記2群を分けるように、各説明変数の係数が決定され得る。
判別対象のこんにゃく粉は、限定するものではないが、例えば、中国産又はミャンマー産であり得る。
【0006】
また、本発明に係るこんにゃく加工品の産地判別方法は、
こんにゃく粉を用いて製造した判別対象のこんにゃく加工品を凍結乾燥した後に粉砕し、該粉砕したこんにゃく加工品を用いて、こんにゃく加工品における窒素及び炭素の安定同位体比を測定すると共に、同こんにゃく加工品における窒素含有量を測定し、
測定した窒素及び炭素の安定同位対比並びに窒素含有量に基づいて、該判別対象のこんにゃく加工品に用いられているこんにゃく粉の産地が日本国であるか否かを判別することを特徴とする。
前記判別には、こんにゃく加工品における窒素及び炭素の安定同位体比並びに窒素含有量を説明変数とする線形1次判別関数が使用され得、その場合、該関数が、日本国産のこんにゃく粉を用いたこんにゃく加工品から成る群と、判別対象の国産のこんにゃく粉を用いたこんにゃく加工品から成る群の中心座標を通り、最も良く前記2群を分けるように、各説明変数の係数が決定され得る。
判別対象のこんにゃく加工品の原料となるこんにゃく粉は、限定するものではないが、例えば、中国産又はミャンマー産であり得る。
前記こんにゃく加工品には、例えば、こんにゃく、白滝、こんにゃくゼリー及びこんにゃくペースト等が含まれる。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るこんにゃく粉の産地判別方法は、判別対象のこんにゃく粉における窒素及び炭素の安定同位体比を測定すると共に、同こんにゃく粉における窒素含有量を測定し、測定した窒素及び炭素の安定同位対比並びに窒素含有量に基づいて、該判別対象のこんにゃく粉の産地が日本国であるか否かを判別するものであるところ、安定同位体比が地理的要因により変動することは知られており、特に、窒素の安定同位体比は食物連鎖が要因となって濃縮され、炭素の安定同位体比はその食物が生産された植物の固有値を示すことが知られている。
しかしながら、発明者等の研究によればこんにゃく粉の場合には、窒素及び炭素の安定同位体比だけでは、十分な産地判別を行うことができないことが分かっており、さらに窒素含有量を判別材料に加えることにより実用に耐え得る十分な判別を行うことができることが分かった。
これにより、判別対象のこんにゃく粉の産地が日本国であるか否かを正確に判別することが可能になる。
具体的には、こんにゃく粉における窒素及び炭素の安定同位体比並びに窒素含有量を説明変数とする線形1次判別関数を前記判別に使用し、該関数が、日本国産のこんにゃく粉から成る群と、判別対象の国産のこんにゃく粉から成る群の中心座標を通り、最も良く前記2群を分けるように、各説明変数の係数を決定することで、判別対象のこんにゃく粉における窒素及び炭素の安定同位体比並びに窒素含有量に基づいて、該判別対象のこんにゃく粉の産地が日本国であるか否かを判別することが可能になる。
権利範囲を限定するものではないが、判別対象のこんにゃく粉は、例えば、中国産又はミャンマー産であり得る。
【0008】
また、本発明に係るこんにゃく加工品の産地判別方法は、こんにゃく粉を用いて製造した判別対象のこんにゃく加工品を凍結乾燥した後に粉砕し、該粉砕したこんにゃく加工品を用いて、こんにゃく加工品における窒素及び炭素の安定同位体比を測定すると共に、同こんにゃく加工品における窒素含有量を測定し、
測定した窒素及び炭素の安定同位対比並びに窒素含有量に基づいて、該判別対象のこんにゃく加工品に用いられているこんにゃく粉の産地が日本国であるか否かを判別する。
上記したようにこんにゃく加工品を一度凍結乾燥させてから粉砕したものを使用して、安定同位対比及び窒素含有量の測定を行っているため、加熱乾燥に比べてこんにゃく加工品の成分変化が著しく少なく、信頼性のある安定同位対比及び窒素含有量の測定を行うことが可能になり、結果として、正確な産地判別を行うことが可能になる。
こんにゃく加工品としては、限定をするわけではないが、前記こんにゃく加工品には、例えば、こんにゃく、白滝及びこんにゃくゼリー並びにこんにゃくペースト等が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】日本国内産のこんにゃく粉を含む複数の産地の異なるこんにゃく粉から測定した窒素及び炭素の安定同位体比の散布図である。
図2】日本国内産のこんにゃく粉のみを使用して製造したこんにゃく加工品を含む複数の産地の異なるこんにゃく粉から製造したこんにゃく加工品から測定した窒素及び炭素の安定同位体比の散布図である。
図3】日本国内産のこんにゃく粉及び同こんにゃく粉のみを使用して製造したこんにゃく加工品を含む産地の異なるこんにゃく粉及びこんにゃく加工品から測定した窒素含有量を表すグラフである。
図4】安定同位体比測定システムの構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本発明に係るこんにゃく粉及びこんにゃく加工品の産地判別方法を説明する。
本発明に係るこんにゃく粉及びこんにゃく加工品の産地判別方法は、
こんにゃく粉及びこんにゃく加工品における窒素及び炭素の安定同位体比並びに窒素含有量を用いて、こんにゃく粉及びこんにゃく加工品の産地判別を行うものである。
【0011】
ここで「安定同位体」とは、同一の原子から成るため同じ性質をもちながら、中性子の数が異なるために質量が異なる原子が存在する同位体における安定した同位体を意味し、「安定同位体比」は、判別対象の物質における安定同位体の構成割合を意味する。具体的には、判別対象の物質における、窒素及び炭素の重い原子と軽い原子の構成比であり、この判別対処の物質における安定同位体組成と、国際原子力委員会により値が決定された標準物質の安定同位体組成との比を千分率で表した値(窒素:δ15N/炭素:δ13C)を用いて評価を行う。
【0012】
図1は、日本国産、ミャンマー産及び中国産のこんにゃく粉の窒素及び炭素の安定同位体比をIsoprime社の同位体比分析システムBioVisIONを用いて測定し、その測定結果をプロットした表である。縦軸が窒素安定同位体比であり、横軸が炭素安定同位体比である。サンプル数は以下の通りであり、図中、●は日本国産の測定結果であり、■はミャンマー産の測定結果であり、▲は中国産の測定結果である。また、図中直線は、日本国産と中国産との判別直線を表し、点線は、日本国産とミャンマー産との判別直線を表す。
日本国産こんにゃく粉:58
ミャンマー産こんにゃく粉:5
中国産こんにゃく粉:13
図1に示すように、産地毎にδ13C及びδ15Nに有意な差が見て取れる。
【0013】
図2は、日本国産、ミャンマー産及び中国産のこんにゃく粉を用いて製造したこんにゃく加工品としての「こんにゃく」を、凍結乾燥した後、1mmφ以下の粒度で粉砕し、粉砕後のこんにゃく加工品粉を用いて、その窒素及び炭素の安定同位体比をIsoprime社の同位体比分析システムBioVisIONを用いて測定し、その測定結果をプロットした表である。縦軸が窒素安定同位体比であり、横軸が炭素安定同位体比である。サンプル数は以下の通りであり、図中、●は日本国産の測定結果であり、■はミャンマー産の測定結果であり、▲は中国産の測定結果である。また、図中直線は、日本国産と中国産との判別直線を表し、点線は、日本国産とミャンマー産との判別直線を表す。
日本国産こんにゃく粉を用いたこんにゃく:16
ミャンマー産こんにゃく粉を用いたこんにゃく:2
中国産こんにゃく粉を用いたこんにゃく:20
図2に示すように、原料の産地毎にδ13C及びδ15Nに有意な差が見て取れる。
【0014】
図3は、上記図1及び図2に示したこんにゃく粉及びこんにゃく粉を用いて製造したこんにゃく加工品(こんにゃく)(凍結乾燥後粉砕)の窒素及び炭素含有量を測定した結果を表すグラフである。縦軸が窒素含有量であり、横軸が炭素含有量である。
図3に示すように、原料の産地毎に窒素含有量に有意な差が見て取れる。
【0015】
図1図3の測定結果から、原料の産地毎に窒素及び炭素の安定同位体比並びに窒素含有量に有意な差が見て取れる。
そこで、窒素及び炭素の安定同位体比並びに窒素含有量を説明変数として、日本国産のこんにゃく粉又はこんにゃく加工品と、他の特定の国産のこんにゃく粉又はこんにゃく加工品とを判別するために、線形1次判別にて判別関数を構築し、複数のサンプルに基づいて、各説明変数の係数を獲得した。
判別は、以下の方法で行う。
1.2群(日本国産のこんにゃく粉又はこんにゃく加工品群及び他の特定の国産のこんにゃく粉又はこんにゃく加工品群)の中心座標を算出する。
2.中心座標を通り、最も良く2群を分ける関数(判別式)を決める。
3.関数(判別式)に判別したいサンプルの座標を代入し、正なら日本国産、負なら他の特定の国産と判別する。
【0016】
判別関数の係数は、比較のために
2変数(こんにゃく粉又はこんにゃく加工品における窒素の安定同位体比(σ15N)及び炭素の安定同位体比(σ13C))、
3変数(こんにゃく粉又はこんにゃく加工品における窒素の安定同位体比(σ15N)及び炭素の安定同位体比(σ13C)並びに窒素含有量(N%))、
4変数(こんにゃく粉又はこんにゃく加工品における窒素の安定同位体比(σ15N)及び炭素の安定同位体比(σ13C)並びに窒素含有量(N%)及び炭素含有量(C%))とし、
複数のサンプルを用いて日本国産及び中国産のこんにゃく粉又はこんにゃく加工品を判別するための各係数及び日本国産及びミャンマー産のこんにゃく粉又はこんにゃく加工品を判別するための各係数を夫々取得した結果を表1及び2に示す。
【表1】
【表2】
【0017】
判別関数の一般式は以下の式1で表される。
指揮中、aは判別関数の係数であり、各変数に対して表1に示す係数が用いられる。xは説明変数であり、判別すべきこんにゃく粉又はこんにゃく加工品をの各変数(窒素の安定同位体比(σ15N)、炭素の安定同位体比(σ13C)、窒素含有量(N%)及び/又は炭素含有量(C%))が代入される。Cは、判別関数が判別対象の2群の中心を通るという条件を満足するための切片であり、変数の数及び判別対象の国に応じて表1に示す値が用いられる。
【0018】
(日本国産と中国産のこんにゃく粉)
日本国産のこんにゃく粉と中国産のこんにゃく粉とを判別する判別関数は、
2変数(窒素の安定同位体比(σ15N)及び炭素の安定同位体比(σ13C))の場合には、次式(式2)で表される。
サンプルの窒素及び炭素の安定同位体比を代入した結果が、0より大きければ日本国産、0より小さければ中国産と判別する。
同様に、3変数(窒素の安定同位体比(σ15N)及び炭素の安定同位体比(σ13C)並びに窒素含有量(N%))の場合は、次式(式3)で表される。
サンプルの窒素及び炭素の安定同位体比並びに窒素含有量を代入した結果が、0より大きければ日本国産、0より小さければ中国産と判別する。

4変数(こんにゃく粉における窒素の安定同位体比(σ15N)及び炭素の安定同位体比(σ13C)並びに窒素含有量(N%)及び炭素含有量(C%))の場合は、次式(式4)で表される。
サンプルの窒素及び炭素の安定同位体比並びに窒素及び炭素含有量を代入した結果が、0より大きければ日本国産、0より小さければ中国産と判別する。
【0019】
(日本国産とミャンマー産のこんにゃく粉)
日本国産のこんにゃく粉とミャンマー産のこんにゃく粉とを判別する判別関数は、
2変数(窒素の安定同位体比(σ15N)及び炭素の安定同位体比(σ13C))の場合には、次式(式5)で表される。
サンプルの窒素及び炭素の安定同位体比を代入した結果が、0より大きければ日本国産、0より小さければミャンマー産と判別する。
同様に、3変数(窒素の安定同位体比(σ15N)及び炭素の安定同位体比(σ13C)並びに窒素含有量(N%))の場合は、次式(式6)で表される。
サンプルの窒素及び炭素の安定同位体比並びに窒素含有量を代入した結果が、0より大きければ日本国産、0より小さければミャンマー産と判別する。

4変数(こんにゃく粉における窒素の安定同位体比(σ15N)及び炭素の安定同位体比(σ13C)並びに窒素含有量(N%)及び炭素含有量(C%))の場合は、次式(式7)で表される。
サンプルの窒素及び炭素の安定同位体比並びに窒素及び炭素含有量を代入した結果が、0より大きければ日本国産、0より小さければミャンマー産と判別する。
【0020】
(日本国産と中国産のこんにゃく加工品)
日本国産のこんにゃく加工品と中国産のこんにゃく加工品とを判別する判別関数は、
2変数(窒素の安定同位体比(σ15N)及び炭素の安定同位体比(σ13C))の場合には、次式(式8)で表される。
サンプルの窒素及び炭素の安定同位体比を代入した結果が、0より大きければ日本国産、0より小さければ中国産と判別する。
同様に、3変数(窒素の安定同位体比(σ15N)及び炭素の安定同位体比(σ13C)並びに窒素含有量(N%))の場合は、次式(式9)で表される。
サンプルの窒素及び炭素の安定同位体比並びに窒素含有量を代入した結果が、0より大きければ日本国産、0より小さければ中国産と判別する。

4変数(こんにゃく粉における窒素の安定同位体比(σ15N)及び炭素の安定同位体比(σ13C)並びに窒素含有量(N%)及び炭素含有量(C%))の場合は、次式(式10)で表される。
サンプルの窒素及び炭素の安定同位体比並びに窒素及び炭素含有量を代入した結果が、0より大きければ日本国産、0より小さければ中国産と判別する。
【0021】
(日本国産とミャンマー産のこんにゃく加工品)
日本国産のこんにゃく加工品とミャンマー産のこんにゃく加工品とを判別する判別関数は、
2変数(窒素の安定同位体比(σ15N)及び炭素の安定同位体比(σ13C))の場合には、次式(式11)で表される。
サンプルの窒素及び炭素の安定同位体比を代入した結果が、0より大きければ日本国産、0より小さければミャンマー産と判別する。
同様に、3変数(窒素の安定同位体比(σ15N)及び炭素の安定同位体比(σ13C)並びに窒素含有量(N%))の場合は、次式(式12)で表される。
サンプルの窒素及び炭素の安定同位体比並びに窒素含有量を代入した結果が、0より大きければ日本国産、0より小さければミャンマー産と判別する。

4変数(こんにゃく粉における窒素の安定同位体比(σ15N)及び炭素の安定同位体比(σ13C)並びに窒素含有量(N%)及び炭素含有量(C%))の場合は、次式(式13)で表される。
サンプルの窒素及び炭素の安定同位体比並びに窒素及び炭素含有量を代入した結果が、0より大きければ日本国産、0より小さければミャンマー産と判別する。
【0022】
上記判別式(2)~(13)を使用して、135個のこんにゃく粉サンプル及び51個のこんにゃく加工品サンプルを用いてこんにゃく粉の産地判別を行った結果を表3に示す。
【表3】
表3中、グレーで示されている結果は誤判別である。
実際に産地判別を行った結果、表2に示すように、
こんにゃく粉では2変量においてミャンマー産のこんにゃく粉を日本国産と誤判別したサンプルが一つ、
4変量において中国産のこんにゃく粉を日本国産と誤判別したサンプルが一つ、
こんにゃく加工品では2変量において中国産のこんにゃく加工品を日本国産と誤判別したサンプルが一つあった。
上記した結果から、窒素の安定同位体比(σ15N)及び炭素の安定同位体比(σ13C)並びに窒素含有量(N%)の3変量を用いて判別を行うことが、こんにゃく粉及びこんにゃく加工品については適切であることが確認できた。
また、判別への寄与の度合いは係数の絶対値の大きさと相関があり、各係数を見るとこんにゃく粉では国産:中国産ではδ13Cの寄与が大きく、国産:ミャンマー産ではN%の寄与が大きい。こんにゃく加工品では国産:中国産ではN%の寄与が大きく、国産:ミャンマー産ではδ13Cの寄与が大きい。また、δ15Nもこんにゃく粉の国産:ミャンマー産の判別において大きく寄与している。
この点から見ても、窒素の安定同位体比(σ15N)及び炭素の安定同位体比(σ13C)並びに窒素含有量(N%)の3変量を用いて判別を行うことが、こんにゃく粉及びこんにゃく加工品については適切であることが分かる。
【0023】
本発明に係るこんにゃく粉判別方法によれば、
窒素の安定同位体比(σ15N)及び炭素の安定同位体比(σ13C)並びに窒素含有量(N%)の3変量を用いて、各変量毎に、判別すべき国毎に線形1次判別にて構築した判別関数の係数を予め決め、該判別関数を用いて、日本国産と他の特定の国産との判別を行うので、判別精度が高い。
具体的には、日本国産と中国産のこんにゃく粉を判別する場合には、式(3)が用いられ、
日本国産とミャンマー産のこんにゃく粉を判別する場合には式6が用いられ得る。
同様に、日本国産と中国産のこんにゃく加工品を判別する場合には、式(9)が用いられ、
日本国産とミャンマー産のこんにゃく加工品を判別する場合には式12が用いられ得る。
【0024】
次に、上記安定同位体比を測定するために使用した安定同位体比測定システムの構成について簡単に説明をする。
図4は、安定同位体比測定システムの構成を示す概略図である。
図面に示すように、この安定同位体比測定システムは、燃焼管1、還元管2、脱水管3、分離カラム4、熱伝導度検出器5、ガスボックス6、イオンビーム源7、マグネット8及び検出器9を有し、サンプルとしてのこんにゃく粉を燃焼管1に供給すると、燃焼管1においてサンプルを熱分解して酸化させ、COガス及びNOxガスを得る。
次いで、還元管2においてNOxガスを還元してNガスを得た後に、脱水管3において水分を除去する。
脱水管3を通過して水分が除去されたサンプルは、分離カラム4においてCOガスとNガスとに分離された後、さらに下流に送られる。
熱伝導度検出器5は、COガスとNガスとに分離されたサンプルガスの流量を検出し、ガスボックス6において、サンプルガスが希釈され、モニタリングガスが導入される。
サンプルガス及びモニタリングガスは、イオンビーム源7によってイオン化され、さらに、マグネット8がイオン化したガスに磁場をかけて安定同位体の核種を分離する。
検出器9は、質量数28の検出器(図示せず)及び質量数29の検出器(図示せず)を有し、これらの検出器でNを分子レベルで検出し、各検出器のクロマトグラムの面積比からσ15Nを計算により算出する。
また、検出器9は、質量数44の検出器(図示せず)、質量数45の検出器(図示せず)及び質量数46の検出器(図示せず)を有し、これらの検出器でCOを分子レベルで検出し、各検出器のクロマトグラムの面積比からσ13Cを計算により算出する。
天然に存在する物質の安定同位体の質量比は非常に小さく、実用上不便であるため、炭素であればVPDB(矢石という化石)、窒素であれば大気を標準物質として、標準物質に対するサンプルの安定同位体組成の比を千分率として表したものをδ13C及びδ15Nとする。
【0025】
上記した実施例では、日本国産及び中国産のこんにゃく粉又はこんにゃく加工品の判別と、日本国産及びミャンマー国産のこんにゃく粉又はこんにゃく加工品の判別とを行っているが、判別対象の国は、中国及びミャンマーに限定されることなく、他の国産のこんにゃく粉又はこんにゃく加工品についても、窒素及び炭素の安定同位体比並びに窒素含有量を用いて判別関数により判別を行うことができることは勿論のことである。他の国産のこんにゃく粉又はこんにゃく加工品の判別を行う場合には、判別すべき国毎に説明変数の係数が求められる。
【符号の説明】
【0026】
1 燃焼管
2 還元管
3 脱水管
4 分離カラム
5 熱伝導度検出器
6 ガスボックス
7 イオンビーム源
8 マグネット
9 検出器
図1
図2
図3
図4