(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-06
(45)【発行日】2022-04-14
(54)【発明の名称】凍結乾燥かき卵およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 23/10 20160101AFI20220407BHJP
A23L 15/00 20160101ALI20220407BHJP
【FI】
A23L23/10
A23L15/00 D
(21)【出願番号】P 2020103031
(22)【出願日】2020-06-15
【審査請求日】2021-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】391063075
【氏名又は名称】アスザックフーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001726
【氏名又は名称】特許業務法人綿貫国際特許・商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】滝澤 陽子
(72)【発明者】
【氏名】山本 萌
(72)【発明者】
【氏名】丸山 圭
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-327813(JP,A)
【文献】特開平10-179097(JP,A)
【文献】特開2005-261225(JP,A)
【文献】特開昭60-91938(JP,A)
【文献】特開2019-176789(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 23/00-23/10
FSTA/CAplus/AGRICOLA/BIOSIS/
MEDLINE/EMBASE(STN)
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を注ぐことにより復元されてかき卵スープとして喫食される凍結乾燥かき卵の製造方法であって、
卵を加熱した水に投入して、かき卵を含むかき卵調理液を製造する工程と、
前記かき卵調理液とは別に、塩分を含むスープ調味液を製造する工程と、
前記かき卵調理液および前記スープ調味液のいずれか一方の液を容器に充填し、次いで該一方の液上に他方の液を充填する工程と、
次いで、前記かき卵調理液および前記スープ調味液を凍結乾燥する工程と、を含むこと
を特徴とする凍結乾燥かき卵の製造方法。
【請求項2】
前記スープ調味液を製造する工程において、前記かき卵以外の具材を、前記スープ調味液に含ませること
を特徴とする請求項1記載の凍結乾燥かき卵の製造方法。
【請求項3】
前記かき卵調理液を製造する工程において、前記卵を所定の長さを有するスリット孔を通して前記水に投入すること
を特徴とする請求項1または請求項2記載の凍結乾燥かき卵の製造方法。
【請求項4】
前記かき卵調理液を製造する工程において、前記水に還元水飴を混合すること
を特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の凍結乾燥かき卵の製造方法。
【請求項5】
かき卵および前記かき卵以外の具材を含む凍結乾燥かき卵であって、
前記かき卵を含む凍結乾燥部位と、前記かき卵以外の具材を含む凍結乾燥部位とが分離していること
を特徴とする凍結乾燥かき卵。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凍結乾燥かき卵およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
野菜、かき卵等の具材、および味噌液、スープ液等の調味液が凍結乾燥(フリーズドライ)されてブロック状等に固形化された食品(凍結乾燥ブロック)が知られている。当該食品は、お湯等の液体を注ぐ(液体で戻す)ことにより調味液が溶出すると共に具材が膨張して具材入りの味噌汁、かき卵スープ等が復元されて喫食される。
【0003】
上記の凍結乾燥ブロックは、従来、具材入りの味噌汁、かき卵スープ等を調理して、これを凍結乾燥することにより製造されていた。このとき、凍結乾燥ブロックを液体で戻すと、溶出した調味液は当該液体によって希釈されることから、希釈された調味液が丁度喫食に適した濃度になるように、凍結乾燥前の調味液は相対的に濃厚に(塩分濃度を高くして)製造される。したがって、従来の製造方法では、調味液(塩分)が具材内へ含浸すると、具材によっては喫食する際に過剰に塩味が感じられたり、素材の風味(味わい)が低下するという課題があった。これを防止する手段として、例えば特許文献1(特開平10-179097号公報)には、容器に収容した具材に、所定量の塩分を含む味噌液と賦形剤との混合水溶液を、具材を被覆し得るように充填して凍結し、次いで当該凍結層上により多くの塩分を含む濃厚味噌液を充填して凍結乾燥する凍結乾燥味噌汁の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、凍結乾燥かき卵の場合、スープ液がかき卵内に含浸すると、前述の風味の低下に加えて、かき卵の柔らかく滑らかな食感が低下したり、卵色が変色することも課題となる。また、かき卵は、他の具材(かき卵以外の具材)との衝突等により形状が崩れやすいという課題もある。これに対して、特許文献1記載の方法では、熱水に溶いた卵を投入してかき卵を製造した後、かき卵を熱水中から採取したうえでこれを容器に収容しなければならないため、その際にかき卵の形状が崩れてしまうおそれがある。つまり、特許文献1記載の方法は、味噌汁に適用される方法であって、形状が崩れやすいというかき卵特有の課題を解決できない。また、特許文献1記載の方法は、具材層を予備凍結すること等により製造に手間が掛かるという課題もある。
【0006】
そこで、発明者は、かき卵をより大きく且つ柔らかく滑らかな食感に調理しつつ、液体で戻した際にこれらが復元可能な凍結乾燥かき卵について鋭意研究を行った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされ、液体で戻した際に大きく広がって、卵の風味および柔らかく滑らかな食感を有する卵色のかき卵が復元可能な凍結乾燥かき卵、およびその製造方法であって比較的手間が掛からない方法を提供することを目的とする。
【0008】
本発明は、一実施形態として以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
【0009】
本発明に係る凍結乾燥かき卵の製造方法は、液体を注ぐことにより復元されてかき卵スープとして喫食される凍結乾燥かき卵の製造方法であって、卵を加熱した水に投入して、かき卵を含むかき卵調理液を製造する工程と、前記かき卵調理液とは別に、塩分を含むスープ調味液を製造する工程と、前記かき卵調理液および前記スープ調味液のいずれか一方の液を容器に充填し、次いで該一方の液上に他方の液を充填する工程と、次いで、前記かき卵調理液および前記スープ調味液を凍結乾燥する工程と、を含むことを特徴とする。
【0010】
これによれば、かき卵(かき卵調理液)と、塩分を含む調味液(スープ調味液)とを別々に製造することにより、調味液がかき卵内へ含浸することを防止できる。したがって、かき卵の食感および風味の低下や卵色の変色を防止できる。また、かき卵以外の具材がある場合、これらの具材をスープ調味液に含ませることができる。したがって、かき卵と他の具材とが衝突してかき卵の形状が崩れてしまうことを防止できる。その結果、かき卵をより大きく形成し、且つこの大きさを維持できる。さらに、かき卵調理液をそのまま容器に充填すればよいため手間が掛からず、かき卵調理液とスープ調味液とを別々に充填することによりこれらが過度に混ざり合うことを防止して、調味液のかき卵内への含浸およびかき卵の形状の崩壊を防止できる。
【0011】
また、本発明に係る凍結乾燥かき卵は、かき卵および前記かき卵以外の具材を含む凍結乾燥かき卵であって、前記かき卵を含む凍結乾燥部位と、前記かき卵以外の具材を含む凍結乾燥部位とが分離していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、液体で戻した際に大きく広がって、卵の風味および柔らかく滑らかな食感を有する卵色のかき卵が復元可能な凍結乾燥かき卵を比較的手間が掛からない方法で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係る凍結乾燥かき卵の一連の製造工程の例を示すフローチャートである。
【
図2】本実施形態に係る凍結乾燥かき卵の写真である。
【
図3】実施例1および比較例1の結果を示す写真である。
【
図4】実施例2および比較例2の結果を示す写真である。
【
図5】実施例2および比較例2の結果を示す他の写真である。
【
図6】実施例3および比較例3の結果を示す写真である。
【
図7】実施例3および比較例3の結果を示す他の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳しく説明する。
図1は、本実施形態に係る凍結乾燥かき卵の一連の製造工程の例を示すフローチャートである。
図2は、本実施形態に係る凍結乾燥かき卵の写真である。
【0015】
(凍結乾燥かき卵の製造方法)
本実施形態に係る凍結乾燥かき卵の製造方法は、
図1に示すように、卵を加熱した水に投入して、かき卵を含むかき卵調理液を製造する工程(S101A)と、前記かき卵調理液とは別に、塩分を含むスープ調味液を製造する工程(S101B)と、前記かき卵調理液および前記スープ調味液のいずれか一方の液を容器に充填し、次いで該一方の液上に他方の液を充填する工程(S103)と、次いで、前記かき卵調理液および前記スープ調味液を凍結乾燥する工程(S105)と、を含む方法である。ここで、凍結乾燥かき卵とは、お湯等の液体を注ぐことにより復元されてかき卵スープとして喫食される食品である。以下、各工程について詳細に説明する。なお、「工程S101A」および「工程S101B」をあわせて「工程S101」と表記する。
【0016】
先ず、かき卵を含むかき卵調理液を製造する工程(S101A)と、塩分を含むスープ調味液を製造する工程(S101B)とを、各々実施する。各工程(S101A、S101B)の先後は限定されず、同時に実施してもよいが、各工程(S101A、S101B)を別途実施する。
【0017】
従来、熱水に溶いた卵を投入、攪拌してかき卵を製造し、調味料で調味すると共に適宜具材を投入、攪拌してかき卵スープを製造し、これを容器に収容して凍結乾燥することによって凍結乾燥かき卵が製造されていた。このとき、凍結乾燥前の調味液は相対的に濃厚に(塩分濃度を高くして)製造されるため、当該調味液がかき卵内へ含浸すると、かき卵が硬くなる、液面に浮きにくくなる、卵色が変色する、また、調味液の味が移ってしまう等の弊害が生じることがあった。これに対して、本工程(S101)によれば、かき卵(かき卵調理液)と、塩分を含む調味液(スープ調味液)とを別々に製造することにより、スープ調味液がかき卵内へ含浸することを防止できるため、このような弊害を防止できる。また、かき卵以外の具材がある場合、これらの具材をスープ調味液に含ませることができる。したがって、かき卵と他の具材とが衝突してかき卵の形状が崩れてしまうことを防止できる。
【0018】
ここで、工程S101Aについて、かき卵調理液は、溶いた卵(溶き卵)を加熱した水(熱水)に投入し、適宜攪拌して製造する。すなわち、かき卵調理液とは、製造されたかき卵を含む液体(製造直後の熱水、または冷めた状態の水)である。
【0019】
かき卵調理液には、例えばゴマ等のように相対的に小さい具材や、小ネギ等のように相対的に柔らかい具材であって、かき卵と衝突してもかき卵の形状を崩しにくい具材であれば含ませてもよい。一方、例えばホウレンソウ、キャベツ、ハクサイ、ニンジン等のような所定の大きさまたは硬さを有し、かき卵と衝突してかき卵の形状を崩してしまう具材を含ませてはならない。
【0020】
また、卵または卵を投入する水に対して、適宜デンプン、デキストリン等の賦形剤または増粘剤、その他着色料、香料、酸化防止剤等を混合してもよい。例えば、水に対して所定量の還元水飴(例えば、水100[質量%]に対して2[質量%]程度)を混合すると好ましい。これによれば、かき卵を柔らかく滑らかな食感にすることができる。その他、微量の塩分であれば卵または卵を投入する水に含ませてもよいが、卵を投入する水に対して所定量の塩分を付加してこれを調味液としてはならない。
【0021】
なお、溶き卵を熱水に投入する際は、所定形状の小孔を通して線状に投入するのと比較して所定の長さを有するスリット孔を通して帯状に投入する方が好ましい。これによれば、かき卵をより大きく広がった形状に形成できる。さらに、溶き卵を帯状に投入する場合、適宜熱水の入った容器(例えば、ニーダー)等の壁面を伝わせて投入するとより好ましい。
【0022】
また、工程S101Bについて、スープ調味液は、水に対して適宜塩、醤油、魚介エキス等の調味料で調味すると共に、例えばホウレンソウ、キャベツ、ハクサイ、ニンジン等の野菜類や肉類等のかき卵以外の固形の具材がある場合にはこれらを投入して、適宜攪拌、加熱して製造する。すなわち、スープ調味液とは、所定量の塩分を含み、凍結乾燥したものにお湯等の液体を注ぐことにより溶出すると共に、当該液体によって希釈されてかき卵スープのスープ液をなす調味液である。スープ調味液は「調味液」であるが、従来の方法における「調味液」とは相違してかき卵を含まない。
【0023】
次に、かき卵調理液およびスープ調味液のいずれか一方の液を容器に充填し、次いで当該一方の液上に他方の液を充填する工程(S103)を実施する。本工程(S103)によれば、かき卵調理液とスープ調味液とを上下2層に分離した状態で容器に充填することができる。そのため、充填後かき卵調理液とスープ調味液とが徐々に馴染んでいくが過度に混ざり合うことはない。その結果、スープ調味液のかき卵内への含浸を防止でき、かき卵の食感および風味の低下や卵色の変色を防止できる。
【0024】
また、かき卵調理液およびスープ調味液は、製造直後の液を充填してもよく、所定程度冷ました液を充填してもよい。また、かき卵調理液およびスープ調味液のいずれの液を上層(または下層)にして、充填してもよい。その他、容器は、ブロック状の容器を用いればよく、具体的な形状(例えば、直方体、立方体、角錐台等)は限定されない。
【0025】
次に、容器に充填したかき卵調理液およびスープ調味液を凍結乾燥する工程(S105)を実施する。本工程(S105)によれば、スープ調味液をかき卵内に含浸させることなく凍結乾燥して固形化することができる。
【0026】
本工程(S105)は、工程S103を実施後所定時間(例えば、1時間程度)内に実施すればよい。かき卵は調味料とあわせて加熱撹拌されることなく調理され、さらに、かき卵調理液およびスープ調味液が充填された後、温度は低下する一方である。そのため、2層に分離されたかき卵調理液とスープ調味液とが所定程度自然に混ざり合ってもかき卵に調味料の味が移ることはなく、スープ調味液がかき卵内へ含浸することはない。したがって、かき卵の食感および風味の低下や卵色の変色を防止して凍結乾燥することができる。なお、凍結乾燥条件は任意に設定してよい。
【0027】
以上の工程(S101~S105)によって本実施形態に係る凍結乾燥かき卵を製造することができる。本実施形態に係る方法では、かき卵(かき卵調理液)と調味液(スープ調味液)とを別々に製造したうえで、一方の液上に他方の液を充填してこれらを凍結乾燥して固形化すればよい。そのため、例えばかき卵や他の具材を予備凍結する必要もなく、比較的手間を掛けずに凍結乾燥かき卵を製造することができる。
【0028】
(凍結乾燥かき卵)
本実施形態に係る凍結乾燥かき卵は、
図2に示すように、かき卵およびかき卵以外の具材を含み、かき卵を含む凍結乾燥部位(紙面の下方の部位)と、かき卵以外の具材を含む凍結乾燥部位(紙面の上方の部位)とが分離している構成を特徴とする。ただし、ここでいう「分離している」とは、各凍結乾燥部位が目視で区別できる程度に分離していることを意味し、各凍結乾燥部位の境目が明確に分離している必要はない。
【0029】
本実施形態に係る凍結乾燥かき卵は、従来と比較してより大きく形成されたかき卵が崩れることなく、また、調味液がかき卵内に含浸することなく凍結乾燥されている。したがって、液体で戻した際に卵の風味および柔らかく滑らかな食感を有し且つ卵色をしたかき卵がスープ液面に大きく広がったボリューム感のあるかき卵スープを復元することができる。
【0030】
本実施形態に係る凍結乾燥かき卵は、前述の製造方法により製造することができる凍結乾燥かき卵の一例である。具体的には、工程S103を実施後比較的短時間内に工程S105を実施したもので、2層に分離されたかき卵調理液とスープ調味液とが比較的混ざり合わないうちに凍結乾燥されて固形化したものである。そのため、前述の通り、かき卵を含む凍結乾燥部位とかき卵以外の具材を含む凍結乾燥部位とが分離している構成を特徴としている。
【0031】
なお、前述の製造方法によれば、かき卵調理液とスープ調味液とが所定程度自然に混ざり合った後で凍結乾燥してもよい。こうして製造された凍結乾燥かき卵は、かき卵を含む凍結乾燥部位とかき卵以外の具材を含む凍結乾燥部位とが必ずしも分離した構成を有していないが、本実施形態に係る凍結乾燥かき卵と同様に調味液がかき卵内に含浸することなく凍結乾燥されている。
【実施例】
【0032】
(実施例1)
水16.8[g]にタピオカデンプン0.4[g]およびデキストリン2.5[g]を溶解させた調理水をニーダーに流し込んだ。ニーダー内で調理水を加熱して90[℃]以上に保持しながら、溶き卵5.3[g]を供給治具を用いて線状に投入してかき卵調理液A(実施例1)を製造した。ニーダーは、羽回転数を8±1[回転/分]に設定した。なお、上記の配合は1食(1容器に充填する量)当たりに換算した値を示している。
【0033】
一方、ニーダー内で水を加熱して90[℃]以上に保持しながら、溶き卵を供給治具を用いて線状に投入してかき卵を製造し、さらにその中に適宜水で溶解した塩、醤油等の調味料と、ホウレンソウ、キャベツ、ニンジン等の具材とを投入してかき卵スープC1(比較例1)を製造した。ニーダーは、羽回転数を13±1[回転/分]に設定した。
【0034】
図3(a)に実施例1(かき卵調理液A)の写真、
図3(b)に比較例1(かき卵スープC1)の写真を示す。
図3(b)に示す比較例1(かき卵スープC1)は、かき卵の状態が視認しやすいように、かき卵以外の具材を箸で取除いている。
【0035】
図3(b)に示す比較例1(かき卵スープC1)のかき卵は細かく千切れ、その破片は一部がスープ液面に浮遊し、残り大部分がスープ液底に沈んでいる状態が観察された。これに対して、
図3(a)に示す実施例1(かき卵調理液A)のかき卵は形状が崩れることなく調理液全体に大きく広がっている状態が観察された。このことから、かき卵(かき卵調理液)とかき卵以外の具材を含む調味液(スープ調味液)とを別々に製造することにより、かき卵の形状の崩壊を防止でき、かき卵を液全体に広がるように浮遊させることができることが示された。
【0036】
(実施例2)
水に対して塩、醤油等の調味料で調味すると共に、ホウレンソウ、ハクサイ等の具材を投入して、適宜攪拌、加熱してかき卵以外の具材を含むスープ液B(スープ調味液B)を製造した。スープ調味液Bは、色が視認しやすい「チゲスープ」として調味した。次いでスープ調味液Bを、幅50×奥行41×高さ20(底:幅46×奥行37)(単位:[mm])のトレー容器に24[g]充填し、次いでスープ調味液B上に、かき卵調理液A(実施例1)を19[g]充填した。次いで充填したかき卵調理液Aおよびスープ調味液Bを直ちに凍結乾燥して(凍結乾燥条件:-25[℃]、12時間以上)、二段階充填した凍結乾燥かき卵(実施例2)を製造した。
【0037】
一方、比較例1に準じた方法により、熱水に溶き卵を投入してかき卵を製造し、調味料および具材と共に適宜攪拌、加熱してスープ液と卵とを同時に加熱撹拌したかき卵入りチゲスープであるかき卵スープC2を製造した。次いでかき卵スープC2を、上記と同一寸法のトレー容器に43[g]充填した。次いで充填したかき卵スープC2を直ちに上記実施例2と同一条件で凍結乾燥して、凍結乾燥かき卵(比較例2)を製造した。
【0038】
また、実施例2および比較例2の凍結乾燥かき卵に対して、それぞれ熱湯を160[ml]注いでかき卵スープを復元させた。
【0039】
図4(a)に実施例2の凍結乾燥かき卵の写真、
図4(b)に比較例2の凍結乾燥かき卵の写真を示す。また、
図5(a)に、
図4(a)に示す実施例2の凍結乾燥かき卵を熱湯で戻したかき卵スープの写真、
図5(b)に、
図4(b)に示す比較例2の凍結乾燥かき卵を熱湯で戻したかき卵スープの写真を示す。
【0040】
図4(a)に示す実施例2では、かき卵を含む凍結乾燥部位(紙面の上方の部位)と、かき卵以外の具材を含む凍結乾燥部位(紙面の下方の部位)とが2層に分離した。各部位は色の違いで明確に区別され、かき卵を含む凍結乾燥部位は全体が白色乃至卵色の薄色をして、かき卵以外の具材を含む凍結乾燥部位はチゲスープの濃色をしており、かき卵を含む凍結乾燥部位中(すなわちかき卵内)にチゲスープの濃色の着色(スープ調味液Bの含浸)は全く見られなかった。このことから、かき卵(かき卵調理液)と塩分を含む調味液(スープ調味液)とを別々に製造し、一方の液上に他方の液を充填して凍結乾燥することにより、調味液のかき卵内への含浸が防止できることが示された。
【0041】
また、
図5(b)に示す比較例2では、かき卵にスープ液が含浸して変色してしまって、スープ液面にかき卵をほとんど視認できなかったが、
図5(a)に示す実施例2では、卵色をしたかき卵がスープ液面に大きく広がっているのが観察された。ここで、実施例2および比較例2のかき卵スープをそれぞれ喫食すると、比較例2のかき卵はスープ液が滲み込んで濃味であったのに対して、実施例2のかき卵は卵の風味を有し、柔らかく滑らかな食感であった。このことから、調味液のかき卵内への含浸が防止されることにより、液体で戻した際に大きく広がって、卵の風味および柔らかく滑らかな食感を有する卵色のかき卵が復元できることが示された。
【0042】
(実施例3)
実施例1(かき卵調理液A)に準じた方法により、ニーダー内で熱水に溶き卵を投入してかき卵(かき卵調理液)を製造した。比較例3では、溶き卵を実施例1と同じ供給治具を用いて直径3.5[mm]の丸孔を通して線状に投入したのに対して、実施例3では、2[cm]の長さのスリット孔を通してニーダーの壁面を伝わせて帯状に投入した。その他の条件はいずれも同一にした。
【0043】
図6および
図7に実施例3および比較例3のかき卵の写真を示す。
図6は、紙面の右側に実施例3、紙面の左側に比較例3を示す。
図7は、
図7(a)に実施例3、
図7(b)に比較例3を示す。
【0044】
図6および
図7に示すように、実施例3のかき卵は、比較例3と比較して大きく広がった形状を有していた。このことから、溶き卵を帯状に投入することにより、かき卵をより大きく広がった形状に形成できることが示された。
【0045】
(実施例4)
実施例1(かき卵調理液A)に準じた方法により、ニーダー内で熱水に溶き卵を投入してかき卵(かき卵調理液)を製造した。ただし、実施例4および比較例4のいずれも卵150[g]、水300[g]として、水には(タピオカデンプンおよびデキストリンに代えて)馬鈴薯デンプン6[g]を溶解させた。また、実施例4では、水に対してさらに還元水飴(MU-45、ウエノフードテクノ製)6[g](水100[質量%]に対して2[質量%])を溶解させた。その他の条件はいずれも同一にした。
【0046】
実施例4および比較例4のかき卵を、アスザックフーズ株式会社の従業者10名が喫食し、両者の食感を評価した。具体的には、実施例4と比較例4とを比較して、どちらの方がより柔らかく滑らかな食感を有しているかを比較した。その結果、全ての評価者によって、実施例4のかき卵の方が、比較例4のかき卵よりも柔らかく滑らかな食感を有していると評価された。このことから、水に還元水飴を混合することにより、かき卵を柔らかく滑らかな食感にできることが示された。
【0047】
なお、本発明は、以上説明した実施例に限定されることなく、本発明を逸脱しない範囲において種々変更可能である。特に、実施例では調味液のかき卵内への含浸の有無が視認しやすいように、かき卵調理液およびスープ調味液をトレー容器に充填後直ちに凍結乾燥し、かき卵を含む凍結乾燥部位とかき卵以外の具材を含む凍結乾燥部位とを明確に2層に分離させた。一方、本発明によれば、かき卵調理液とスープ調味液とが所定程度自然に混ざり合ったうえで凍結乾燥された結果、かき卵およびかき卵以外の具材が混在した凍結乾燥部位からなる凍結乾燥かき卵も製造され得る。そして、このような凍結乾燥かき卵も、調味液のかき卵内への含浸が防止されており、液体で戻した際に大きく広がって、卵の風味および柔らかく滑らかな食感を有する卵色のかき卵が復元可能である。