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特許7054546アノードフリーの一次電池およびその電極アセンブリ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-06
(45)【発行日】2022-04-14
(54)【発明の名称】アノードフリーの一次電池およびその電極アセンブリ
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/058 20100101AFI20220407BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20220407BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20220407BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20220407BHJP
   H01M 4/70 20060101ALI20220407BHJP
   H01M 4/80 20060101ALI20220407BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20220407BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20220407BHJP
   H01M 6/16 20060101ALN20220407BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/58
H01M4/70 A
H01M4/80 C
H01M10/0568
H01M10/0569
H01M6/16 A
H01M6/16 Z
【請求項の数】 6
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020139618
(22)【出願日】2020-08-20
(65)【公開番号】P2021034381
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2020-08-20
(31)【優先権主張番号】62/889,566
(32)【優先日】2019-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】108144130
(32)【優先日】2019-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】503416331
【氏名又は名称】國立臺灣科技大學
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】▲ファン▼ 炳照
(72)【発明者】
【氏名】蘇 威年
(72)【発明者】
【氏名】▲ファン▼ 貞睿
(72)【発明者】
【氏名】▲ジャン▼ 仕凱
【審査官】藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-121609(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05 - 10/0587
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 4/58
H01M 4/70
H01M 4/80
H01M 6/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードフリーの一次電池であって、
互いに対向する正極側と負極側を有するセパレータと、
前記セパレータの前記正極側に位置し、正極集電体および正極材料を含む正極と、
前記セパレータの前記負極側に配置される負極集電体と、
前記負極集電体と前記正極集電体との間に設けられる電解質と、を含む電極アセンブリを含み、
前記アノードフリーの一次電池は、負極材料を含まず、
前記正極材料は、前記正極集電体と前記セパレータとの間に配置され、
前記正極材料は、リチウム金属酸化物、リン酸化合物、またはそれらの組み合わせを含み、
前記電解質は、少なくともリチウム塩、第1の有機溶媒、および第2の有機溶媒を含み、前記第1の有機溶媒フルオロエチレンカーボネートであり、第2の有機溶媒は1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテルであり、
前記電極アセンブリは、充電または起動の前に、前記負極材料を含まない、アノードフリーの一次電池。
【請求項2】
前記リチウム塩は、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiSbF、LiAlCl、LiGaCl、LiNO、LiC(SOCF、LiN(SOCF、LiSCN、LiOSCFCF、LiCSO、LiOCCF、LiSOF、LiB(C、LiCFSOおよびLiDFOBの少なくとも一つを含む、請求項記載のアノードフリーの一次電池。
【請求項3】
前記リチウム塩の濃度は、0.5Mから4.2Mの範囲内である、請求項2記載のアノードフリーの一次電池。
【請求項4】
前記電解質中の前記第2の有機溶媒に対する前記第1の有機溶媒の体積比は、4:1~1:4である、請求項1~3いずれか一項記載のアノードフリーの一次電池。
【請求項5】
前記正極集電体および前記負極集電体のうちの少なくとも1つは、金属箔または金属スポンジを含む、請求項記載のアノードフリーの一次電池。
【請求項6】
前記電解質が、体状態またはゲル状態である請求項1~5いずれか一項記載のアノードフリーの一次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電池およびその電極アセンブリに関し、特に、アノードフリーの一次電池およびその電極アセンブリに関する。
【背景技術】
【0002】
一次電池と二次電池(リチウムイオン電池など)の技術原理は類似するが、産業構造、応用分野、期待される性能などの点で若干の相違がある。例えば、一次電池は、医療、無線通信、あらゆる物のインターネット化、などでしばしば使用されており、その性能は、低リーク、低損失、安定した出力などに重点が置かれている。二次電池は、携帯電話、電気自動車、大型蓄電産業などで多く用いられており、その性能は充放電速度、容量維持率などに重点が置かれている。一般的に、一次電池は1度だけ放電され得るため、同じ体積で一次電池のエネルギー密度を高め、同時に一次電池の安定性を高めることは、当業者によって達成されることが期待される目標の1つである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本開示は、良好なエネルギー密度および安定性を有する一次電池およびその電極アセンブリを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示の一次電池の電極アセンブリは、セパレータ、正極、および負極集電体を含む。セパレータは、互いに対向する正極側と負極側を有する。正極はセパレータの正極側に位置し、正極は正極集電体および正極材料を含む。負極集電体は、セパレータの負極側に配置されている。電極アセンブリは、負極材料を含まない。
【0005】
本開示の一実施形態では、正極材料は、正極集電体とセパレータとの間に配置される。
【0006】
本開示の一実施形態では、正極材料は、リチウム金属酸化物、リン酸リチウム化合物、リチウム含有レドックス化合物またはそれらの組み合わせを含む。
【0007】
本開示の一実施形態では、電極アセンブリは、充電または起動の前に、負極材料を含まない。
【0008】
本開示の一実施形態では、正極集電体および負極集電体のうちの少なくとも1つは、金属箔または金属スポンジを含む。
【0009】
本開示の一次電池は、電極アセンブリおよび電解質を含む。電極アセンブリは、セパレータ、正極、負極集電体および電解質を含む。セパレータは、互いに対向する正極側と負極側を有する。正極はセパレータの正極側に位置し、正極は正極集電体および正極材料を含む。負極集電体は、セパレータの負極側に配置されている。電解質は、負極集電体と正極集電体との間に設けられる。一次電池は、負極材料を含まない。
【0010】
本開示の一実施形態では、電解質は、少なくともリチウム塩、第1の有機溶媒および第2の有機溶媒を含む。第1の有機溶媒は、第2の有機溶媒とは異なる。
【0011】
本開示の一実施形態では、リチウム塩は、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiSbF、LiAlCl、LiGaCl、LiNO、LiC(SOCF、LiN(SOCF、LiSCN、LiOSCFCF、LiCSO、LiOCCF、LiSOF、LiB(C、LiCFSOおよびLiDFOB(リチウムジフルオロ(オキサラト)ホウ酸塩)の少なくとも一つを含む。
【0012】
本開示の一実施形態では、リチウム塩の濃度は、0.5Mから4.2Mの範囲内である。
【0013】
本開示の一実施形態では、第1の有機溶媒はフッ素含有カーボネート化合物を含み、第2の有機溶媒はカーボネート化合物を含む。
【0014】
本開示の一実施形態では、第1の有機溶媒はフルオロエチレンカーボネート(FEC)を含み、第2の有機溶媒はエチレンカーボネート(EC)およびジエチルカーボネート(DEC)の少なくとも1つを含む。
【0015】
本開示の一実施形態では、電解質中の第2の有機溶媒に対する第1の有機溶媒の体積比(v/v%)は、約4:1~1:4である。
【0016】
本開示の一実施形態では、第1の有機溶媒はフッ素含有カーボネート化合物を含み、第2の有機溶媒はエーテル化合物を含む。
【0017】
本開示の一実施形態では、第1の有機溶媒はフルオロエチレンカーボネート(FEC)を含み、第2の有機溶媒は1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル(TTE)または1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルエーテル(TPE)を含む。
【0018】
本開示の一実施形態では、電解質中の第2の有機溶媒に対する第1の有機溶媒の体積比(v/v%)は、約4:1~1:4である。
【0019】
本開示の一実施形態では、正極材料は、正極集電体とセパレータとの間に配置される。
【0020】
本開示の一実施形態では、電極アセンブリは、充電または起動の前に、負極材料を含まない。
【0021】
本開示の一実施形態では、正極集電体および負極集電体のうちの少なくとも1つは、金属箔または金属スポンジを含む。
【0022】
本開示の一実施形態では、電解質は、固体状態またはゲル状態である。
【発明の効果】
【0023】
上記に基づくと、一次電池の電極アセンブリは負極材料を含まないので、一次電池内に負極材料を保持するために元々構成された空間は、より多くの正極材料(またはカソード材料という)と電解質を受け入れるように構成され得る。したがって、同じ体積のもとで、一次電池はより高いエネルギー密度を提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本開示の一実施形態の電極アセンブリの分解図である。
図2】本開示の一実施形態の一次電池の分解図である。
図3A】実施形態1の負極フリーの一次電池の電解液として実施したハーフ電池試験における電圧と容量との関係グラフである。
図3B】実施形態2の負極フリーの一次電池の電解液として実施したハーフ電池試験における電圧と容量との関係グラフである。
図3C図3Aおよび図3Bの20サイクルおよび50サイクルの比較図である。
図4】実施形態1および実施形態2を負極フリーの一次電池の電解液として実施したハーフ電池試験におけるクーロン効率とサイクル数との関係グラフである。
図5】実施形態1および実施形態2を負極フリーの一次電池の電解液として実施したハーフ電池試験における容量とサイクル数との関係グラフである。
図6A】実施形態1および実施形態2を負極フリーの一次電池の電解液として実施したフル電池試験における充放電曲線グラフである。
図6B】実施形態1および実施形態2を負極フリーの一次電池の電解液として実施したフル電池試験におけるクーロン効率とサイクル数との関係グラフである。
図6C】は、実施形態1および実施形態2を負極フリーの一次電池の電解液として実施したフル電池試験における容量維持率とサイクル数との関係グラフである。
図7A】5回の充放電サイクル後の負極集電体の走査型電子顕微鏡(SEM)画像であり、実施形態1の電解液を電池の電解液とする。
図7B】5回の充放電サイクル後の負極集電体の走査型電子顕微鏡(SEM)画像であり、実施形態2の電解液を電池の電解液とする。
図8】電気化学インピーダンス分光法(EIS)試験における実施形態1および実施形態2の異なるサイクル数の曲線グラフである。
図9】実施形態3を負極フリーの一次電池の電解液として実施したハーフ電池試験における電圧と容量との関係グラフである。
図10A】実施形態3および比較例1を負極フリーの一次電池の電解液として実施したフル電池試験における電圧と容量との関係グラフである。
図10B】実施形態3および比較例1を負極フリーの一次電池の電解液として実施したフル電池試験における容量とサイクル数との関係グラフである。
図10C】実施形態3および比較例1を負極フリーの一次電池の電解液として実施したフル電池試験におけるクーロン効率とサイクル数との関係グラフである。
図11A】実施形態3および比較例1をそれぞれ負極フリーの一次電池の電解液として実施したフル電池試験における充放電曲線グラフ(負極フリーの一次電池の充放電性能)である。
図11B】実施形態3および比較例1をそれぞれ負極フリーの一次電池の電解液として実施したフル電池試験における充放電曲線グラフ(安定性)である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本実施形態の図面を参照して、本開示をより包括的に説明する。しかしながら、本開示はまた、様々な形態で実装されてもよく、本明細書で説明される実施形態に限定されるべきではない。明確にするために、図面中の層および領域の厚さは拡大されている。同一または類似する符合は、同一または類似する要素を示し、以下の段落ではそれらを1つずつ反復しない。さらに、上、下、左、右、前、または後などの実施形態で言及される方向を示す用語は、添付の図面を参照する際の方向に過ぎない。従って、使用される方向を示す用語は、説明を目的とするものであり、本開示を限定することを意図するものではない。
【0026】
要素が、例えば、他の要素「の上に」または「に接続されている」と表現される場合、それは、直接他の要素の上にまたは直接他の要素に接続されていてもよく、または中間要素があっても良いと理解される。要素が他の要素「の直接上に」または「に直接接続されている」と表現される場合、中間要素は存在しない。
【0027】
本明細書で使用される「約」、「およそ」または「実質的に」という用語は、言及された値、および許容偏差範囲内で当業者により決定され得る特定値の平均値を含み、議論された測定値および測定関連誤差の特定の数(すなわち測定システムへの制限)が考慮される。例えば、「約」は、値の1つまたは複数の標準偏差内で表すことができる。さらに、本明細書で使用される「約」、「およそ」、または「実質的に」という用語は、光学特性、エッチング特性または他の特性に従ってより許容可能な偏差範囲または標準偏差を選択し得、すべての特性に1つの標準偏差を適用しない場合がある。
【0028】
本明細書で使用される表現は、例示的な実施形態を説明するためだけに使用され、本開示を限定する意図はない。この場合、文脈で別段の説明がない限り、単数形は複数形を含む。
【0029】
図1は、本開示の一実施形態の電極アセンブリの分解図である。図2は、本開示の一実施形態の一次電池の分解図である。
【0030】
図1に示すように、一次電池の電極アセンブリ10は、セパレータS、正極CEおよび負極集電体ACを含む。本実施形態において、電極アセンブリ10は、リチウム一次電池に適用されてもよいが、本開示はこれに限定されない。他の実施形態では、電極アセンブリ10はまた、ナトリウム一次電池およびカリウム一次電池などの他の一次電池に適用されてもよい。
【0031】
セパレータSは、互いに対向する正極側CSと負極側ASとを有し得る。なお、本明細書で使用される「正極側」とは、セパレータSの対向する2辺のうち、正極CEに隣接する側をいう。同様に、本明細書で使用される「負極側」とは、セパレータSの対向する2辺のうち、負極集電体ACに隣接する側をいう。セパレータSは、絶縁材料を含んでもよい。例えば、セパレータSは、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、またはPE/PP/PEなどの上記の材料の多層複合構造であってもよい。
【0032】
正極CEは正極集電体CCと正極材料CMとを含み、正極CEはセパレータSの正極側CSに配置されてもよい。本実施形態において、正極材料CMは、正極集電体CCとセパレータSとの間に配置されてもよい。正極材料CMは、リチウム金属酸化物、リン酸化合物、リチウム含有レドックス化合物などを含んでもよい。例えば、正極材料CM(またはカソード材料という)は、LiMnO、LiMn、LiCoO、LiCr、LiCrO、LiNiO、LiFeO、LiNixCo1-x、LiFePO、LiMn0.5Ni0.5、LiMn1/3Co1/3Ni1/3、LiMc0.5Mn1.5、Li[Nix/2Li(1-x)/3Mn(2-x/2)/3]O、LiSまたはそれらの組み合わせを含み得、xは0超1未満、およびMcは二価の金属であり得る。本実施形態では、正極集電体CCは、アルミニウム箔などの金属箔を含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、正極材料CMは、コーティング法により正極集電体CC上に配置することができる。
【0033】
負極集電体ACは、セパレータSの負極側ASに配置されている。本実施形態において、負極集電体ACは、金属箔または金属スポンジを含んでもよい。すなわち、負極集電体ACおよび正極集電体CCの少なくとも一方は、金属箔または金属スポンジを含んでいてもよい。金属箔は、銅箔または銅スポンジ、ニッケル箔またはニッケルスポンジ、高導電性ステンレス鋼箔またはスポンジ、およびアルミニウム箔であり得る。いくつかの実施形態では、金属箔の材料とは異なる材料を有する他の金属(Au、Sn、Zn、Ag、またはInなど)などの他の材料を、負極集電体ACの金属箔上にさらに変更することができる。
【0034】
本実施形態では、一次電池の電極アセンブリ10は、負極材料(アノード材料ともいう)を含まない、すなわち、セパレータSと負極集電体ACとの間に負極材料が設けられていない。従って、本実施形態の電極アセンブリ10を一次電池に適用する場合には、負極フリーの一次電池(またはアノードフリーの一次電池)と呼んでもよい。本実施形態では、一次電池の電極アセンブリ10は負極材料を含まないので、一次電池内に負極材料を保持するために元々構成された空間は、より多くの正極材料(またはカソード材料という)と電解質を受け入れるように構成され得る。したがって、同じ体積のもとで、負極フリーの一次電池はより高いエネルギー密度を提供し得る。
【0035】
他の態様によれば、負極材料は通常、金属リチウムまたは金属ナトリウムなどの高活性金属を含むので、負極フリーの一次電池は、製造プロセスおよびその後の使用または保管においてより安全でより安定である。また、負極フリーの一次電池は、黒鉛、シリコンカーボン、スズなど、負極に使用される一般的な材料を省略してもよい。
【0036】
図2に示すように、一次電池100は、電極アセンブリ10と電解質Eとを含んでもよい。電極アセンブリ10の構成要素の接続関係、材料、製造プロセスは、前節で詳細に説明したので、その説明は以下では省略する。
【0037】
電解質Eは、負極集電体ACと正極集電体CCとの間に設けられる。本実施形態では、電解質Eは、負極集電体ACとセパレータSとの間に配置されてもよい。電解質Eは、少なくともリチウム塩、第1の有機溶媒および第2の有機溶媒を含み得る。いくつかの実施形態では、第1の有機溶媒および/または第2の有機溶媒は、他の適切な溶媒または添加剤を含み得るが、本開示はこれに限定されない。例えば、第1の有機溶媒は、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、およびプロピレンカーボネート(PC)から選択される溶媒を含む混合物であり得、第2の有機溶媒は、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル(TTE)、ジメトキシエタン、ビス(2-メトキシエチル)エーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、およびテトラエチレングリコールジメチルエーテルから選択される溶媒を含む混合物であってもよい。電解質Eは、液体、固体、またはゲル状態で一次電池100に存在することができ、本開示はこれに限定されない。
【0038】
リチウム塩は、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiSbF、LiAlCl、LiGaCl、LiNO、LiC(SOCF、LiN(SOCF、LiSCN、LiOSCFCF、LiCSO、LiOCCF、LiSOF、LiB(C、LiCFSOおよびLiDFOBの少なくとも一つを含み得る。本実施形態では、リチウム塩の濃度は、0.5Mから4.2Mの範囲内で有り得る。このようにして、一次電池100は、良好な性能を有し得る。例えば、一次電池100は、クーロン効率および容量維持率において良好な性能を有する。
【0039】
本実施形態では、第1の有機溶媒は、第2の有機溶媒とは異なり得る。例えば、いくつかの実施形態では、第1の有機溶媒はフッ素含有カーボネート化合物を含み得、第2の有機溶媒はカーボネート化合物を含み得るので、一次電池100が良好な性能を有することができる。フッ素含有カーボネート化合物は、例えば、フルオロエチレンカーボネート(FEC)であってもよい。カーボネート化合物は、例えば、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、酢酸プロピル(PA)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、プロピレンカーボネート(PC)または他のフッ化物を含まないカーボネート化合物であり得る。例えば、第1の有機溶媒はFECを含み得、第2の有機溶媒はECおよびDECの少なくとも1つを含む。本実施形態では、第1の有機溶媒はFECであり得、第2の有機溶媒はECおよびDECであり得る。本実施形態では、電解質E中の第2の有機溶媒に対する第1の有機溶媒の体積比(v/v%)は、約4:1~1:4である。本実施形態では、電解質E中の第2の有機溶媒に対する第1の有機溶媒の体積比(v/v%)は、約1:1であり得る。
【0040】
いくつかの実施形態では、第1の有機溶媒はフッ素含有カーボネート化合物を含み得、第2の有機溶媒はでエーテル化合物を含み得るので、一次電池100が良好な性能を有することができる。フッ素含有カーボネート化合物は、例えば、FECであってもよい。エーテル化合物は、例えば、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル(TTE)または1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルエーテル(TPE)を含み得る。いくつかの実施形態では、第1の有機溶媒はFECであってよく、第2の有機溶媒はTTEまたはTPEであってよく、電解質E中の第2の有機溶媒に対する第4の有機溶媒の体積比(v/v%)は、約1:4~4:1であり得る。例えば、電解質E中の第2の有機溶媒に対する第1の有機溶媒の体積比(v/v%)は、約3:7であり得る。いくつかの実施形態では、第1の有機溶媒はFECを含み得、第2の有機溶媒はTTEおよびDMCを含み得、FEC、TTE、およびDMCの体積比(v/v%)は、約3:2:5であり得る。
【0041】
本実施形態では、一次電池100は負極材料を含まない、すなわち、セパレータSと負極集電体ACとの間に負極材料が設けられていないため、本実施形態の一次電池100は、負極フリーの一次電池とも呼ばれる。このように、一次電池内に負極材料を保持するために元々構成された空間は、より多くの正極材料(またはカソード材料)と電解質を受け入れるように構成され得る。従って、同じ体積のもとで、負極フリーの一次電池はより高いエネルギー密度を提供し得る。
【0042】
他の態様によれば、負極材料は通常、金属リチウムまたは金属ナトリウムなどの高活性金属を含むので、負極フリーの一次電池は、製造プロセスおよびその後の使用または保管においてより安全でより安定である。また、負極フリーの一次電池は、黒鉛、シリコンカーボン、スズなど、負極に使用される一般的な材料を省略してもよい。
【0043】
また、本実施形態では、一次電池100は負極材料を含まない(すなわち、一次電池100が負極活物質を有さない)ため、使用前に充電して起動する必要がある。このようにして、一次電池100の保管時間を長くすることができる。利用者や販売者は、使用や配送の前に一次電池を充電して起動させ得るので、電池の電気量は保管時間の影響を受けにくい。いくつかの実施形態では、一次電池100は、低電流(例えば、0.1mA/cm)を印加して低速充電および化学変換反応を実行することによって起動でき、その後、一次電池100は、数時間放置した後に使用できる。いくつかの実施形態では、一次電池100の電極アセンブリ10は、充電または起動の前に、負極材料を含まないで良い。
【0044】
以下、実施形態1~3および比較例1を参照しながら、本開示の特徴をより具体的に説明する。以下の実施形態1~3について説明するが、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、使用材料、使用量、比率、処理内容、処理フローなどを適宜変更することができる。従って、本開示は、以下に説明する実施形態1~3によって限定的に解釈されるべきではない。さらに、本実施形態の電池は一次電池であるが、以下の実験で行われた電気化学分析は、1サイクルおよび複数サイクルでの電池の性能をテストして、完全な分析結果を得ることとした。
【0045】
(実施形態1)
まず、LiPFを溶媒としてのEC/DECで溶解して、LiPF溶液を作製した。次に、上記LiPF溶液をFECで体積比1:1に希釈して、1M濃度のLiPFの電解液を調製した。図3C図4図5図6A図6Cおよび図8では、図に示す内容をより簡潔かつ理解しやすくするために、実施形態1をE1として示した。
【0046】
(実施形態2)
まず、LiPFを溶媒としてのEC/DECで溶解して、LiPF溶液を作製した。次に、上記LiPF溶液をFECで体積比1:1に希釈して、2M濃度のLiPFの電解液を調製した。図3C図4図5図6A図6Cおよび図8では、図に示す内容をより簡潔かつ理解しやすくするために、実施形態2をE2として示した。
【0047】
(実施形態3)
LiPFを溶媒であるFEC/TTEで溶解し、濃度1MのLiPFの電解液を作製し、FECとTTEの体積比は3:7とした。図10A図10Cでは、図に示す内容をより簡潔かつ理解しやすくするために、実施形態3をEFC/TTEとして示した。
【0048】
(比較例)
LiPFを溶媒であるEC/DECで溶解し、濃度1MのLiPFの電解液を作製し、ECとDECの体積比は1:1とした。図10A図10Cでは、図に示す内容をより簡潔かつ理解しやすくするために、比較例1をEC/DECとして示した。
【0049】
(実験1)
実施形態1および実施形態2の電解液を負極フリーの一次電池の電解液として、ハーフ電池の電気化学試験を実施した。負極集電体は銅箔であったため、負極フリーの一次電池は、ハーフ電池(Li||Cu)と表現できる。試験結果を図3A図3C図4および図5に示す。図3Aおよび図3Bは、実施形態1および実施形態2をそれぞれ負極フリーの一次電池の電解液として実施したハーフ電池試験における電圧と容量との関係グラフである。図3Cは、図3Aおよび図3Bの20サイクルおよび50サイクルの比較図である。図4は、実施形態1および実施形態2を負極フリーの一次電池の電解液として実施したハーフ電池試験におけるクーロン効率とサイクル数との関係グラフである。図5は、実施形態1および実施形態2を負極フリーの一次電池の電解液として実施したハーフ電池試験における容量とサイクル数との関係グラフである。なお、図3A図3Cに示す1st、20th、40th、50thは、サイクル数を示す(同様に、他の図面の同一または同様の数字もサイクル数を示す)。各サイクルには、堆積(またはメッキ)および溶解(またはストリッピング)のステップが含まれる。負の電圧(0V未満)が印加されると、銅箔にLiが析出することがあり、正の電圧(0V超)が印加されると、Liが銅箔に溶解することがある。従って、同じサイクル数の元で、電圧とLi溶解の容量との関係曲線は0Vの上に表示され、電圧とLi析出の容量との関係曲線は0Vの下に表示される。図3Cは、図3の左図においてAで囲んだ部分の拡大図である。
【0050】
実施形態1を電解液とした一次電池が20サイクル(図3CではE1の20サイクルとして示される)を経た後、Liの溶解と析出との間の電圧差は33mVであり、実施形態1を電解液とした一次電池が50サイクル(図3CではE1の50サイクルとして示される)を経た後、Liの溶解と堆積との間の電圧差は76mVである、という図3A図3Cに示された結果から明らかであり得る。実施形態2を電解液とした一次電池が20サイクル(図3CではE2の20サイクルとして示される)を経た後、Liの溶解と析出との間の電圧差は25mVであり、実施形態2を電解液とした一次電池が50サイクル(図3CではE2の50サイクルとして示される)を経た後、Liの溶解と堆積との間の電圧差は30mVである。従って、実施形態2の電解液を電解液とする負極フリーの一次電池は、比較的性能がよい。
【0051】
実施形態1と比較して、実施形態2の電解液を電解液とした負極フリーの一次電池は、複数回のサイクルを経てもクーロン効率が高く、基本的には1回目のサイクルと同じ容量値を有することが、図4および図5に示された結果からわかり得る。
【0052】
(実験2)
実施形態1および実施形態2の電解液を負極フリーの一次電池の電解液として、フル電池の電気化学試験を行った。負極集電体は銅箔であり、正極集電体はNMCであったため、負極フリーの一次電池は、フル電池(Cu||NMC)と表現できる。試験結果を図6A図6Cに示す。図6Aは、実施形態1および実施形態2を負極フリーの一次電池の電解液として実施したフル電池試験における充放電曲線グラフである。容量が大きくなると電圧が上昇する曲線が充電曲線であり、容量が小さくなると電圧が低下する曲線が放電曲線である。図6Bは、実施形態1および実施形態2を負極フリーの一次電池の電解液として実施したフル電池試験におけるクーロン効率とサイクル数との関係グラフである。図6Cは、実施形態1および実施形態2を負極フリーの一次電池の電解液として実施したフル電池試験における容量維持率とサイクル数との関係グラフである。
【0053】
図6A図6Cに示す結果より、実施形態2の電解液を負極フリーの一次電池の電解液とした場合、(図6Aに示すように)負極フリーの一次電池の充放電性能、(図6Bに示すように)クーロン効率、および(図6Cに示すように)容量維持率は、比較的良好であることが理解し得る。図6Aにおいて、1stおよび10thは、それぞれ、一次電池が1サイクルおよび10サイクルを経ることを示す。
【0054】
(実験3)
上記実験2では、一次電池を5回の充放電サイクル後、完全に放電した状態で、負極集電体(たとえば銅箔)の表面モフォロジー分析を行った。図7Aおよび図7Bに結果を示す。図7Aおよび図7Bは、5回の充放電サイクル後の負極集電体の走査型電子顕微鏡(SEM)画像であり、実施形態1および実施形態2の電解液を電池の電解液とする。
【0055】
図7A図7Cに示す結果より、実施形態2の電解液を負極フリーの一次電池の電解液とした場合、負極集電体の表面モフォロジーは比較的平坦であり、表面に他の物質は存在しない。
【0056】
(実験4)
実施形態1および実施形態2の電解液を負極フリーの一次電池の電解液として、交流インピーダンス試験を実施した。試験結果を図8に示す。図8は、電気化学インピーダンス分光法(EIS)試験における実施形態1および実施形態2の異なるサイクル数の曲線グラフである。図8にそれぞれ示されるサイクル前のE1およびサイクル前のE2は、実施形態1および実施形態2を電解液とした一次電池のサイクル前の曲線を示す。図8にそれぞれ示される5サイクル後のE1および5サイクル後のE2は、実施形態1および実施形態2を電解液とした一次電池の5サイクル後の曲線を示す。図8にそれぞれ示される15サイクル後のE1および20サイクル後のE2は、実施形態1および実施形態2を電解液とした一次電池の5および20サイクル後の曲線を示す。
【0057】
図8に示す結果より、実施形態2の電解液を負極フリーの一次電池の電解液とした場合、負極フリーの一次電池は良好なインピーダンス性能を示す。
【0058】
(実験5)
実施形態3の電解液を負極フリーの一次電池の電解液として、ハーフ電池の電気化学試験を行った。負極集電体は銅箔であったため、負極フリーの一次電池は、ハーフ電池(Li||Cu)と表現できる。試験結果を図9に示す。図9は、実施形態3を負極フリーの一次電池の電解液として実施したハーフ電池試験における電圧と容量との関係グラフである。図9に示す1st、10th、20th、50th、90th、120thはサイクル数を示す。
【0059】
図9に示す結果より、実施形態3の電解液を負極フリーの一次電池の電解液とした場合、負極フリーの一次電池は良好な電気的性能を示す。
【0060】
(実験6)
(図ではFEC/TTEとして示す)実施形態3および(図ではEC/DECとして示す)比較例1の電解液を負極フリーの一次電池の電解液として、フル電池の電気化学試験を行った。負極集電体は銅箔であり、正極集電体はNMCであったため、負極フリーの一次電池は、フル電池(Cu||NMC)と表現できる。試験結果を図10A図10C図11Aおよび図11Bに示す。図10Aは、実施形態3および比較例1を負極フリーの一次電池の電解液として実施したフル電池試験における電圧と容量との関係グラフである。図10Bは、実施形態3および比較例1を負極フリーの一次電池の電解液として実施したフル電池試験における容量とサイクル数との関係グラフである。図10Cは、実施形態3および比較例1を負極フリーの一次電池の電解液として実施したフル電池試験におけるクーロン効率とサイクル数との関係グラフである。図11Aおよび図11Bは、実施形態3および比較例1を負極フリーの一次電池の電解液として実施したフル電池試験における充放電曲線グラフである。
【0061】
図10A図10Cおよび図11Aならびに11Bに示す結果より、実施形態3の電解液を負極フリーの一次電池の電解液とした場合、(図11Aに示すように)負極フリーの一次電池の充放電性能、(図11Bに示すように)安定性、および(図10Cに示すように)クーロン効率は、比較的良好であることが理解し得る。
【0062】
上記に基づくと、本開示において、一次電池の電極アセンブリは負極材料を含まないので、一次電池内に負極材料を保持するために元々構成された空間は、より多くの正極材料(またはカソード材料という)と電解質を受け入れるように構成され得る。従って、同じ体積のもとで、一次電池はより高いエネルギー密度を提供し得る。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の一次電池の電極アセンブリは、一次電池に適用され得る。
【符号の説明】
【0064】
10:電極アセンブリ
AS:負極側
AC:負極集電体
CC:正極集電体
CM:正極材料
CE:正極
CS:正極側
E:電解質
S:セパレータ
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図8
図9
図10A
図10B
図10C
図11A
図11B