(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-06
(45)【発行日】2022-04-14
(54)【発明の名称】シール装置およびターボ機械
(51)【国際特許分類】
F16J 15/447 20060101AFI20220407BHJP
F01D 11/02 20060101ALI20220407BHJP
F04D 29/08 20060101ALI20220407BHJP
F04D 29/12 20060101ALI20220407BHJP
【FI】
F16J15/447
F01D11/02
F04D29/08 E
F04D29/12
(21)【出願番号】P 2018147131
(22)【出願日】2018-08-03
【審査請求日】2021-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100150717
【氏名又は名称】山下 和也
(72)【発明者】
【氏名】佃 知彦
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-155626(JP,A)
【文献】実開昭47-006263(JP,U)
【文献】特開2014-141912(JP,A)
【文献】特開昭58-222902(JP,A)
【文献】実開昭62-029401(JP,U)
【文献】特開2013-174192(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0237914(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01D 1/00-11/24
F04D 1/00-13/16
F04D 17/00-19/02
F04D 21/00-25/16
F04D 29/00-35/00
F16J 15/40-15/453
F16J 15/54-15/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターボ機械の回転体と前記回転体の周囲に設けられた静止体との間の隙間から漏洩する作動流体の流量を低減するシール装置であって、
前記回転体と前記静止体との間に設けられ、前記回転体の周方向
の全周に亘って延びるシールフィンと、
前記シールフィンよりも上流側において
前記回転体の軸方向に前記シールフィンから所定の距離を置いて、前記静止体
の内周面に設けられ
た旋回防止フィンであって、前記回転体に近接して向かい合い、前記回転体の周方向に沿うように前記静止体に複数設けられた、前記作動流体の周方向速度成分を低減する旋回防止フィンと、を備え、
前記旋回防止フィンは、前記回転体の回転方向の側に設けられた負圧面と、前記負圧面とは反対側に設けられた正圧面と、を有し、
前記正圧面は、半径方向外側から半径方向内側に向かって前記回転体の前記回転方向とは反対側に延びている、シール装置。
【請求項2】
前記旋回防止フィンは、前記回転体の軸方向に延びている、請求項1に記載のシール装置。
【請求項3】
前記旋回防止フィンは、上流側から下流側に向かって前記回転体の前記回転方向とは反対側に延びている、請求項1に記載のシール装置。
【請求項4】
前記回転体にそれぞれ設けられた、前記旋回防止フィンと対向する第1対向面と、前記第1対向面よりも上流側に設けられた上流側面と、を更に備え、
前記第1対向面は、前記上流側面の直径よりも大きな直径を有し、
前記第1対向面と前記上流側面とが第1段差壁によって接続されている、請求項1~
3のいずれか一項に記載のシール装置。
【請求項5】
前記第1段差壁は、前記旋回防止フィンよりも上流側に配置されている、請求項
4に記載のシール装置。
【請求項6】
前記シールフィンは、前記静止体に設けられ、
前記シール装置は、前記回転体に設けられた、前記シールフィンと対向する第2対向面を更に備え、
前記第1対向面と前記第2対向面とが第2段差壁によって接続され、
前記第2対向面は、前記第1対向面の直径よりも小さな直径を有している、請求項
4または
5に記載のシール装置。
【請求項7】
前記第2段差壁は、前記旋回防止フィンよりも下流側に配置されている、請求項
6に記載のシール装置。
【請求項8】
回転体と、
静止体と、
請求項1~
7のいずれか一項に記載のシール装置と、を備えた、ターボ機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施の形態は、シール装置およびターボ機械に関する。
【背景技術】
【0002】
軸流タービン(例えば、蒸気タービン、ガスタービン)やコンプレッサなどのターボ機械は、ロータと、そのロータの周囲に設けられたケーシングと、を有している。ロータの外周面には動翼が設けられており、ロータと共に回転体を構成している。ケーシングの内周面には静翼が設けられており、ケーシングと共に静止体を構成している。
【0003】
ケーシングは、作動流体を密閉するように構成されている。しかしながら、静止体と回転体との間には、接触を防止するために半径方向に隙間が設けられている。このような隙間は、例えば、動翼とケーシングとの間や、静翼とロータとの間、ロータとケーシングとの間に設けられている。これらの隙間には、通過する作動流体の流量を低減するためのシール装置が設けられている。これにより、作動流体の漏れ流れを抑制し、軸流タービンの効率低下を抑制している。大型の発電プラントなどに設置される軸流タービンでは、シール装置としてラビリンスシール装置を使用することが一般的である。
【0004】
シール装置に流入する作動流体は、周方向速度成分を有している場合がある。作動流体が周方向速度成分を有している状態でロータが半径方向に変位すると、シール装置内において作動流体の圧力が周方向で不平衡になるおそれがある。このことについて、
図8を用いて説明する。
【0005】
図8では、図面を簡略化するために、回転体R’と、回転体R’の周囲に設けられた静止体S‘とを示している。
図8に示すように、半径方向に変位した回転体R’の周方向において、圧力の高い領域P1と圧力の低い領域P2とが形成される。すなわち、回転体R’と静止体S‘との間の隙間が狭い部分に対して作動流体が流れ込む側に圧力の高い領域P1が形成され、当該狭い部分から作動流体が流れ出す側に圧力の低い領域P2が形成される。すると、これらの圧力差に起因して、回転体R’を不安定化させる流体力F1(以下、不安定流体力と称する)が発生するおそれがある。この不安定流体力は、回転体に不安定振動を引き起こし得る。特に、回転体であるロータが高速回転する場合や、回転体と静止体との間に設けられたシール装置の入口における作動流体の圧力と出口における作動流体の圧力との差が大きい場合には、この不安定流体力は大きくなる。
【0006】
このような不安定流体力を低減するために、シール装置の入口に旋回防止フィンを設けて、作動流体が周方向速度成分によって旋回することを抑制する技術が提案されている。このことについて、より具体的に説明する。
【0007】
ここで、
図9~
図11を用いて、軸流タービンにおける一般的なシール装置について説明する。
図9に示すように、シール装置106は、ロータ102と、ロータ102の周囲に設けられたケーシング104との間に配置されている。シール装置106は、ケーシング104に保持されたパッキンリング107を有している。
【0008】
パッキンリング107の内周面170には、ロータ102とパッキンリング107との間の隙間を通過する作動流体の流量を低減するためのシールフィン108が設けられている。シールフィン108は、ロータ102の軸方向X’に複数並んで配置されている。シールフィン108は、パッキンリング107の内周面170からロータ102の外周面120に向かって突出している。
【0009】
また、シール装置106の入口におけるパッキンリング107の内周面170には、作動流体の周方向速度成分を低減するための旋回防止フィン109が設けられている。
図11に示すように、旋回防止フィン109は、ロータ102の周方向に複数並んで配置されている。
図10に示すように、旋回防止フィン109は、パッキンリング107の内周面170からロータ102の外周面120に向かって突出している。旋回防止フィン109は、ロータ102の回転方向112の側に設けられた負圧面192と、負圧面192とは反対側に設けられた正圧面191と、を有している。
【0010】
シール装置106に流入する作動流体は、ロータ102の回転摩擦などにより、ロータ102の回転方向112と同じ方向の周方向速度成分を有している場合がある。これにより、作動流体は、符号111で示した矢印の方向に流れ、旋回防止フィン109の正圧面191に衝突する。そして、作動流体は、
図11に示すように、ロータ102の軸方向X’に沿う方向に流れが転向されて旋回防止フィン109が設けられた領域から流出し、シールフィン108が設けられた領域に流入する。このようにして、旋回防止フィン109は、作動流体の周方向速度成分を低減するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上述したシール装置106では、旋回防止フィン109とロータ102の外周面120との間には微小な隙間が設けられている。このため、ロータ102の外周面120の近傍を流れる作動流体は、旋回防止フィン109に衝突することなく、この微小な隙間を通過して、周方向速度成分を有した状態でシールフィン108が設けられた領域に流入してしまう。
【0013】
また、旋回防止フィン109の正圧面191に作動流体が衝突することにより、正圧面191における圧力が上昇する。このため、正圧面191と負圧面192との間の圧力差が増大し、旋回防止フィン109とロータ102の外周面120との間の微小な隙間を通過して正圧面191から負圧面192に流れる作動流体の流量が増大するおそれがある。このように流れる作動流体も周方向速度成分を有している。
【0014】
このようにして微小な隙間を通過した作動流体は、ロータ102の回転摩擦によってロータ102の回転方向112と同じ方向に再び加速され、周方向速度成分が増大し得る。このため、上述したシール装置106では、作動流体の周方向速度成分を低減するという旋回防止フィン109の効果を十分に発揮させることができない場合がある。
【0015】
本発明は、このような点を考慮してなされたものであり、作動流体の周方向速度成分を効果的に低減することができるシール装置およびターボ機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
実施の形態によるシール装置は、ターボ機械の回転体と回転体の周囲に設けられた静止体との間の隙間から漏洩する作動流体の流量を低減するシール装置であって、回転体と静止体との間に設けられ、回転体の周方向に延びるシールフィンと、シールフィンよりも上流側において静止体に設けられ、作動流体の周方向速度成分を低減する旋回防止フィンと、を備えている。旋回防止フィンは、回転体の回転方向の側に設けられた負圧面と、負圧面とは反対側に設けられた正圧面と、を有している。正圧面は、半径方向外側から半径方向内側に向かって回転体の回転方向とは反対側に延びている。
【0017】
また、実施の形態によるターボ機械は、回転体と、静止体と、上述したシール装置と、を備えている。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、作動流体の周方向速度成分を効果的に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、第1の実施の形態による軸流タービンの一部を示す子午面断面図である。
【
図2】
図2は、第1の実施の形態によるシール装置の構造を示す子午面断面図である。
【
図5】
図5は、第2の実施の形態によるシール装置の構造を示す、
図2をB方向から見た矢視図である。
【
図6】
図6は、第3の実施の形態によるシール装置の構造を示す子午面断面図である。
【
図7】
図7は、第4の実施の形態によるシール装置の構造を示す子午面断面図である。
【
図8】
図8は、回転体と静止体を軸方向から見たときの模式断面図である。
【
図9】
図9は、一般的なシール装置の構造を示す子午面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0021】
(第1の実施の形態)
図1~
図4を用いて、第1の実施の形態によるシール装置およびターボ機械について説明する。本実施の形態によるシール装置が適用可能なターボ機械の具体例としては、蒸気タービンやガスタービンなどの軸流タービン、およびコンプレッサなどが挙げられる。本実施の形態では、ターボ機械の一例として軸流タービンを例にとって以下説明する。
【0022】
図1に示すように、軸流タービン1は、ロータ2と、ロータ2の周囲に設けられたケーシング4と、を備えている。ロータ2は、軸方向Xに沿って配置された回転軸線を中心に回転可能に構成されている。
【0023】
ロータ2には、複数の動翼翼列3が設けられている。ロータ2と動翼翼列3は、回転体Rとして構成されている。一方、ケーシング4には、複数の静翼翼列5が設けられている。ケーシング4と静翼翼列5は、静止体Sとして構成されている。静翼翼列5と動翼翼列3は、ロータ2の軸方向Xに交互に配置されている。そして、一の静翼翼列5と、当該一の静翼翼列5の下流側(
図1における右側)に隣り合って配置された一の動翼翼列3とにより、一のタービン段落10が構成されている。軸流タービン1は、このようなタービン段落10が、ロータ2の軸方向Xに複数設けられている。
【0024】
静翼翼列5は、ケーシング4に支持された静翼外輪51と、静翼外輪51よりも半径方向内側に設けられた静翼内輪52と、静翼外輪51と静翼内輪52との間に配置された複数の静翼53と、を有している。静翼53は、周方向に配列されている。静翼外輪51は、外輪本体51aと、外輪本体51aから下流側に突出する外輪突出部51bと、を含んでいる。外輪本体51aは、静翼53に対向するように配置されており、外輪突出部51bは、後述する動翼31に対向するように配置されている。
【0025】
動翼翼列3は、周方向に配列された複数の動翼31を有している。各動翼31は、ロータ2に植え付けられている。より具体的には、ロータ2は、その外周面20から半径方向外側に突出する複数のロータディスク32を含んでいる。ロータディスク32は、軸方向Xに複数設けられており、このロータディスク32に各動翼31が固定されている。動翼31は、その外周面20が、静翼外輪51の外輪突出部51bの内周面と対向するように配置されている。また、静翼内輪52は、ロータディスク32が設けられていない領域において、その内周面がロータ2の外周面20と対向するように配置されている。
【0026】
ケーシング4には、供給管(不図示)が連結されており、蒸気や燃焼ガスなどの作動流体が、軸流タービン1に供給されるようになっている。供給管から軸流タービン1に供給された作動流体は、符号11で示した矢印のように流れて、各タービン段落10の静翼翼列5と動翼翼列3とを交互に通過し、動翼31に対して仕事を行う。このことにより、作動流体の持つ流体エネルギが、ロータ2を回転駆動させる回転エネルギに変換される。ロータ2は、発電機(不図示)に連結されており、回転エネルギ(または回転トルク)を発電機に伝達することができるようになっている。発電機は、その回転エネルギによって発電を行うように構成されている。各タービン段落10を通過した作動流体は、不図示の排気流路を通って排出される。
【0027】
軸流タービン1の運転中にロータ2および動翼翼列3で構成される回転体Rとケーシング4および静翼翼列5で構成される静止体Sとが接触することを防止するために、回転体Rと静止体Sとの間には、隙間が設けられている。より具体的には、ロータ2の外周面20とケーシング4の内周面との間、動翼31の外周面20と外輪突出部51bの内周面との間、およびロータ2の外周面20と静翼内輪52の内周面との間には、それぞれ隙間が設けられている。
【0028】
しかしながら、これらの隙間から漏洩する作動流体の流量が増大すると、軸流タービン1の性能低下に繋がるおそれがある。そこで、回転体Rと静止体Sとの間に形成されたこれらの隙間には、漏洩する作動流体の流量を低減するためのシール装置6が設けられている。以下では、一例として、ロータ2の外周面20とケーシング4の内周面との間に設けられたシール装置6について説明する。
【0029】
図2に示すように、シール装置6は、軸流タービン1のロータ2と、ロータ2の周囲に設けられたケーシング4との間に配置されている。シール装置6は、ケーシング4に保持されたパッキンリング7を有している。パッキンリング7は、ロータ2の周方向に延びるように形成されている。パッキンリング7は、ケーシング4に設けられた溝41に嵌合して保持されている。パッキンリング7は、ロータ2の周方向に分割された複数のセグメント部材によって構成されていてもよい。
【0030】
ロータ2とケーシング4との間にシールフィン8が設けられている。本実施の形態では、シールフィン8は、ケーシング4にパッキンリング7を介して設けられており、パッキンリング7の内周面70に、複数のシールフィン8が設けられている。シールフィン8は、ロータ2の軸方向Xに複数並んで配置されている。また、
図4に示すように、シールフィン8は、ロータ2の周方向に延びている。シールフィン8は、パッキンリング7の内周面70からロータ2の外周面20に向かって突出している。
図2で示す断面で見たとき、シールフィン8は、パッキンリング7の内周面70からロータ2の外周面20に向かって先細になるような略三角形の形状を有している。シールフィン8とロータ2とが接触することを防止するために、シールフィン8の先端とロータ2の外周面20との間には微小な隙間が設けられている。
【0031】
図2に示すシール装置6は、Hi-Lo型のラビリンスシール装置である。すなわち、
図2に示すように、ロータ2の半径方向における高さが相対的に小さいシールフィン8と、高さが相対的に大きいシールフィン8とが、ロータ2の軸方向Xに交互に並んで配置されている。ロータ2の直径は、高さが相対的に小さいシールフィン8と対向する位置において大きく、高さが相対的に大きいシールフィン8と対向する位置において小さくなっている。言い換えると、ロータ2の外周面20には、高さが相対的に小さいシールフィン8と対向する突出部21が設けられている。
【0032】
シール装置6に流入した作動流体は、このように構成されたシールフィン8によって、相対的に小さな通過面積と相対的に大きな通過面積とを順次通過する。これにより、作動流体の加速、減速を順次繰り返して作動流体を膨張させることで、流体抵抗を増して漏洩流量を低減させている。このようなシールフィン8により、ロータ2とパッキンリング7との間の隙間を通過する作動流体の流量を低減することができる。
【0033】
なお、シールフィン8は、パッキンリング7に一体的に削り出して形成されてもよく、パッキンリング7とは別体に作製してパッキンリング7に取り付けられてもよい。また、シールフィン8は、ケーシング4またはロータ2に一体または別体に形成されてもよい。シールフィン8は、シール装置6が静翼外輪51と動翼31との間に設けられる場合には静翼外輪51または動翼31に一体または別体に形成されてもよく、シール装置6が静翼内輪52とロータ2との間に設けられる場合には静翼内輪52またはロータ2に一体または別体に形成されてもよい。
【0034】
更に、ケーシング4に、作動流体の周方向速度成分を低減する旋回防止フィン9がパッキンリング7を介して設けられている。本実施の形態では、ケーシング4に保持されたパッキンリング7の内周面70に、旋回防止フィン9が設けられている。旋回防止フィン9は、シールフィン8よりも上流側(すなわち、シール装置6の入口)に設けられている。
図4に示すように、旋回防止フィン9は、ロータ2の周方向に複数並んで配置されている。また、旋回防止フィン9は、ロータ2の軸方向Xに延びている。旋回防止フィン9は、半径方向外側から半径方向内側に向かって(すなわち、パッキンリング7の内周面70からロータ2の外周面20に向かって)突出している。
図3に示す断面で見たとき、旋回防止フィン9は、パッキンリング7の内周面70からロータ2の外周面20に向かって先細になるような略三角形の形状を有している。旋回防止フィン9とロータ2とが接触することを防止するために、旋回防止フィン9の先端とロータ2の外周面20との間には微小な隙間が設けられている。また、旋回防止フィン9は、ロータ2が回転する方向(回転方向12)の側に設けられた負圧面92と、負圧面92とは反対側に設けられた正圧面91と、を有している。
【0035】
本実施の形態では、正圧面91は平坦状に形成され、
図3に示す断面で見たときに、正圧面91は、パッキンリング7の内周面70からロータ2の外周面20に向かって進みながらロータ2の回転方向12とは反対側に進むように、半径方向に対して傾いて形成されている。そして、負圧面92も、正圧面91と同様に、平坦状に形成され、かつ半径方向に対して傾いて形成されている。このことにより、旋回防止フィン9が、全体として、パッキンリング7の内周面70からロータ2の外周面20に向かってロータ2の回転方向12とは反対側に延びるように形成されている。
【0036】
なお、
図3においては、正圧面91および負圧面92が平坦状に形成され、旋回防止フィン9が略三角形の形状を有しているが、これに限られることはない。正圧面91は、パッキンリング7の内周面70からロータ2の外周面20に向かってロータ2の回転方向12とは反対側に延びるように、湾曲状に形成されていてもよい。負圧面92も同様である。更に、負圧面92は、パッキンリング7の内周面70からロータ2の外周面20に向かってロータ2の回転方向12とは反対側に延びていなくてもよい。
【0037】
また、旋回防止フィン9は、パッキンリング7に一体的に削り出して形成されてもよく、パッキンリング7とは別体に作製してパッキンリング7に取り付けられてもよい。また、旋回防止フィン9は、ケーシング4に一体または別体に形成されてもよい。旋回防止フィン9は、シール装置6が静翼外輪51と動翼31との間に設けられる場合には、静翼外輪51に一体または別体に形成されてもよく、シール装置6が静翼内輪52とロータ2との間に設けられる場合には静翼内輪52に一体または別体に形成されてもよい。
【0038】
次に、このような構成からなる本実施の形態の作用について説明する。
【0039】
本実施の形態による軸流タービン1を運転する場合、蒸気や燃焼ガスなどの作動流体が、供給管から軸流タービン1に供給される。供給管から軸流タービン1に供給された作動流体は、各タービン段落10の静翼翼列5と動翼翼列3とを交互に通過し、動翼31に対して仕事を行う。このことにより、作動流体の持つ流体エネルギが、ロータ2を回転駆動させる回転エネルギに変換され、その回転エネルギによって発電機が発電を行う。そして、各タービン段落10を通過した作動流体は、排気流路を通って排出される。
【0040】
一方、軸流タービン1に供給された作動流体の一部は、回転体Rと静止体Sとの間に設けられた隙間に流入し、シール装置6を通過する。シール装置6を通過する作動流体には、ロータ2の回転摩擦などにより、ロータ2の回転方向12と同じ方向の周方向速度成分が付与される。すなわち、シール装置6に流入する作動流体は、ロータ2の外周面20の近傍を流れているため、ロータ2の回転に起因する周方向速度成分を有するようになる。
【0041】
シール装置6に流入した作動流体は、まず旋回防止フィン9の正圧面91に衝突する。ここで、本実施の形態による旋回防止フィン9の正圧面91は、パッキンリング7の内周面70からロータ2の外周面20に向かってロータ2の回転方向12とは反対側に延びている。このことにより、正圧面91に衝突した作動流体の流れは、この正圧面91の形状に沿うようにしてロータ2の半径方向外側に転向される。このため、ロータ2の外周面20に向かう作動流体の流れが抑制される。
【0042】
この場合、作動流体が正圧面91で堰き止められるように保持されることになり、正圧面91と負圧面92との圧力差が増大し得る。しかしながら、上述したように、作動流体がロータ2の外周面20に向かう流れが抑制されるため、旋回防止フィン9とロータ2の外周面20との間の微小な隙間を通過する作動流体の流量は低減される。
【0043】
また、半径方向外側へ流れが転向されることにより、正圧面91の近傍において、半径方向外側に巻き上げられるような流れが形成され、この流れに、正圧面91よりも半径方向内側を流れる作動流体が引き込まれるようになる。このため、旋回防止フィン9とロータ2の外周面20との間の微小な隙間に作動流体が流れることが抑制される。
【0044】
このように本実施の形態によれば、旋回防止フィン9の正圧面91は、半径方向外側から半径方向内側に向かってロータ2の回転方向12とは反対側に延びている。このことにより、正圧面91に衝突した作動流体の流れをロータ2の半径方向外側に転向させることができる。このため、旋回防止フィン9とロータ2の外周面20との間の微小な隙間から漏洩する作動流体の流量を低減することができる。これによって、旋回防止フィン9により、シール装置6内を流れる作動流体の周方向速度成分を効果的に低減することができる。この結果、シール装置6内を流れる作動流体の周方向速度成分に起因したロータ2の不安定振動を効果的に抑制することができる。
【0045】
また、本実施の形態によれば、旋回防止フィン9はロータ2の軸方向Xに延びている。このことにより、正圧面91に衝突してロータ2の半径方向外側に転向させた作動流体をロータ2の軸方向Xに沿って流すことができる。このため、シール装置6内を流れる作動流体の周方向速度成分を旋回防止フィン9によって効果的に低減することができる。
【0046】
また、本実施の形態によれば、旋回防止フィン9はロータ2の周方向に複数並んで配置されている。このことにより、ロータ2の周方向における複数の箇所で、作動流体の流れをロータ2の半径方向外側に転向させることができ、上述したような旋回防止フィン9による周方向速度成分の低減効果をより一層発揮させることができる。
【0047】
(第2の実施の形態)
次に、
図5を用いて、第2の実施の形態によるシール装置およびターボ機械について説明する。
【0048】
図5に示す第2の実施の形態においては、旋回防止フィンが、上流側から下流側に向かって回転体の回転方向とは反対側に延びている点が主に異なり、他の構成は、
図1~
図4に示す第1の実施の形態と略同一である。なお、
図5において、
図1~
図4に示す第1の実施の形態と同一部分には同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0049】
図5に示すように、本実施の形態による旋回防止フィン9は、上流側から下流側に向かってロータ2の回転方向12とは反対側に延びている。すなわち、旋回防止フィン9は、上流側から下流側に向かって進みながらロータ2の回転方向12とは反対側に進むように、軸方向Xに対して傾いて形成されている。なお、
図5に示す旋回防止フィン9は、半径方向外側に向かって(
図2に示すB方向から)見たときに、直線状に形成されているが、これに限られることはない。例えば、旋回防止フィン9は、上流側から下流側に向かってロータ2の回転方向12とは反対側に延びていれば、湾曲状に形成されていてもよい。
【0050】
図5に示す本実施の形態では、軸流タービン1の運転時に、旋回防止フィン9の正圧面91で堰き止められるように保持された作動流体の流れの向き11がロータ2の回転方向12と反対側を向くようになる。このことにより、作動流体にロータ2の回転方向12と反対方向の周方向速度成分が付与され、この状態で旋回防止フィン9が設けられた領域から流出する。
【0051】
その後、作動流体は、シールフィン8が設けられた領域を流れる間、ロータ2との回転摩擦によってロータ2の回転方向12と同じ方向に加速され得る。しかしながら、作動流体は、回転方向12と反対方向の周方向速度成分を有した状態で、シールフィン8が設けられた領域に流入している。このため、回転方向12と同じ方向への周方向速度成分の増大は抑制される。この結果、作動流体は、周方向速度成分を有していない(周方向速度成分が0(ゼロ)の)状態で旋回防止フィン9が設けられた領域から流出した場合よりも、周方向速度成分が更に低減され得る。
【0052】
ここで、旋回防止フィン9を上流側から下流側に向かってロータ2の回転方向12とは反対側に延ばすように形成すると、作動流体の転向の程度(転向角度)が大きくなり、旋回防止フィン9の正圧面91における圧力が上昇する場合がある。このため、正圧面91と負圧面92との間の圧力差が増大し、旋回防止フィン9とロータ2の外周面20との間の微小な隙間を通過して漏洩する作動流体の流量が増大し得る。
【0053】
しかしながら、第1の実施の形態と同様、旋回防止フィン9の正圧面91は、パッキンリング7の内周面70からロータ2の外周面20に向かってロータ2の回転方向12とは反対側に延びている。このことにより、旋回防止フィン9とロータ2の外周面20との間の微小な隙間を通過する作動流体の流量が増大することを最小限に抑制することができる。
【0054】
このように本実施の形態によれば、旋回防止フィン9は、上流側から下流側に向かってロータ2の回転方向12とは反対側に傾いた方向に延びている。このことにより、正圧面91に衝突してロータ2の半径方向外側に転向させた作動流体を、ロータ2の回転方向12と反対側に流すことができる。このため、シール装置6内を流れる作動流体の周方向速度成分をより一層低減することができる。この結果、シール装置6内を流れる作動流体の周方向速度成分に起因したロータ2の不安定振動を効果的に抑制することができる。
【0055】
(第3の実施の形態)
次に、
図6を用いて、第3の実施の形態によるシール装置およびターボ機械について説明する。
【0056】
図6に示す第3の実施の形態においては、旋回防止フィンと対向する第1対向面が、その上流側に設けられた上流側面の直径よりも大きな直径を有しており、第1対向面と上流側面とが第1段差壁によって接続されている点が主に異なり、他の構成は、
図1~
図4に示す第1の実施の形態と略同一である。なお、
図6において、
図1~
図4に示す第1の実施の形態と同一部分には同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0057】
図6に示すように、本実施の形態によるシール装置6は、ロータ2の外周面20にそれぞれ設けられた、旋回防止フィン9と対向する第1対向面20aと、第1対向面20aよりも上流側に設けられた上流側面20bと、を更に有している。第1対向面20aは、上流側面20bの直径よりも大きな直径を有している。第1対向面20aの上流側には、第1段差壁22が設けられている。
図6に示す例では、第1段差壁22は、旋回防止フィン9の上流端(
図6における左端)よりも上流側に配置されている。第1対向面20aと上流側面20bは、この第1段差壁22によって接続されている。なお、
図2で説明した突出部21は、第1対向面20aに設けられており、高さが相対的に小さいシールフィン8と対向する位置に配置されている。
【0058】
このように本実施の形態によれば、ロータ2の外周面20に、旋回防止フィン9と対向する第1対向面20aと、第1対向面20aよりも上流側に設けられた上流側面20bとを接続する第1段差壁22が設けられている。このことにより、上流側面20bにおいてロータ2の外周面20の近傍を流れていた作動流体の流れを、第1段差壁22によって半径方向外側に転向させることができる。このため、ロータ2の外周面20の近傍を流れていた作動流体を、ロータ2の外周面20から離すことができる。すなわち、旋回防止フィン9とロータ2の外周面20(第1対向面20a)との間の微小な隙間を通過する作動流体の流量を低減することができる。このため、旋回防止フィン9の正圧面91に衝突する作動流体の割合を増加させ、旋回防止フィン9による周方向速度成分の低減効果をより一層発揮させることができる。この結果、シール装置6内を流れる作動流体の周方向速度成分に起因したロータ2の不安定振動を効果的に抑制することができる。
【0059】
また、本実施の形態によれば、第1段差壁22は、旋回防止フィン9よりも上流側に配置されている。このことにより、ロータ2の外周面20の近傍を流れていた作動流体の流れを、作動流体が旋回防止フィン9が設けられた領域に流入する前に、半径方向外側に向けることができる。このため、旋回防止フィン9による周方向速度成分の低減効果をより一層発揮させることができる。
【0060】
なお、上述した本実施の形態においては、第1段差壁22が、旋回防止フィン9の上流端(
図6における左端)よりも上流側に配置されている例について説明した。しかしながら、このことに限られることはなく、第1段差壁22は、旋回防止フィン9の上流端に対向する位置(軸方向Xにおいて一致する位置)に配置されていてもよい。また、ロータ2の外周面20の近傍を流れていた作動流体の流れを半径方向外側に転向させることができれば、第1段差壁22は、旋回防止フィン9の上流端よりも下流側に配置されていてもよい。この場合、第1対向面20aは、旋回防止フィン9の一部と対向するようになる。
【0061】
(第4の実施の形態)
次に、
図7を用いて、第4の実施の形態によるシール装置およびターボ機械について説明する。
【0062】
図7に示す第4の実施の形態においては、第1対向面と、シールフィンと対向する第2対向面が第2段差壁によって接続され、第2対向面が第1対向面よりも小さな直径を有している点が主に異なり、他の構成は、
図6に示す第3の実施の形態と略同一である。なお、
図7において、
図6に示す第3の実施の形態と同一部分には同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0063】
図7に示すように、本実施の形態によるシール装置6は、ロータ2の外周面20に設けられた、シールフィン8と対向する第2対向面20cを更に有している。第2対向面20cは、第1対向面20aの直径よりも小さな直径を有している。第2対向面20cの直径は、上流側面20bの直径と同一であってもよい。第1対向面20aの下流側で、かつシールフィン8の上流側には、第2段差壁23が設けられている。
図7に示す例では、第2段差壁23は、旋回防止フィン9の下流端(
図7における右端)よりも下流側に配置されている。第1対向面20aと第2対向面20cは、この第2段差壁23によって接続されている。なお、
図2で説明した突出部21は、第2対向面20cに設けられており、高さが相対的に小さいシールフィン8と対向する位置に配置されている。各シールフィン8の先端と第2対向面20cとの間の微小な隙間の寸法は、第3の実施の形態と同様に設定されている。
【0064】
このように本実施の形態によれば、ロータ2の外周面20に、シールフィン8と対向する第2対向面20cが設けられ、第2対向面20cの直径を、旋回防止フィン9と対向する第1対向面20aの直径よりも小さくしている。このことにより、シールフィン8とロータ2の外周面20(第2対向面20c)との間の微小な隙間の流路断面積を小さくすることができる。このため、当該微小な隙間を通過する作動流体の流量を低減することができる。この結果、シール装置6を通過して漏洩する作動流体の流量を低減することができる。また、本実施の形態によれば、ロータ2の上流側面20bの直径と、第2対向面20cの直径とを同一にすることができる。この場合、シール装置6を通過して漏洩する作動流体の流量を低減しつつ、ロータ2の剛性を確保することができる。
【0065】
また、本実施の形態によれば、第2段差壁23は、旋回防止フィン9よりも下流側に配置されている。このことにより、旋回防止フィン9の先端とロータ2の外周面20との間の微小な隙間が増大することを防止できる。このため、旋回防止フィン9による周方向速度成分の低減効果を効果的に発揮させることができる。この結果、シール装置6内を流れる作動流体の周方向速度成分に起因したロータ2の不安定振動を効果的に抑制することができる。
【0066】
なお、上述した本実施の形態においては、第2段差壁23が、旋回防止フィン9の下流端(
図7における右端)よりも下流側に配置されている例について説明した。しかしながら、このことに限られることはなく、第2段差壁23は、旋回防止フィン9の下流端に対向する位置(軸方向Xにおいて一致する位置)に配置されていてもよい。また、第2段差壁23は、旋回防止フィン9の下流端よりも上流側に配置されていてもよい。更には、第2段差壁23は、シールフィン8に対向する位置に配置されていてもよいし、シールフィン8の下流側に配置されていてもよい。
【0067】
以上述べた実施の形態によれば、作動流体の周方向速度成分を効果的に低減することができる。
【0068】
以上、本発明のいくつかの実施の形態を説明したが、これらの実施の形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの新規な実施の形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施の形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0069】
1:軸流タービン、2:ロータ、4:ケーシング、6:シール装置、7:パッキンリング、8:シールフィン、9:旋回防止フィン、12:回転方向、20a:第1対向面、20b:上流側面、20c:第2対向面、22:第1段差壁、23:第2段差壁、91:正圧面、92:負圧面、R:回転体、S:静止体