(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-06
(45)【発行日】2022-04-14
(54)【発明の名称】ニオブ酸オルガノゾルおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 33/00 20060101AFI20220407BHJP
【FI】
C01G33/00 A
(21)【出願番号】P 2017235594
(22)【出願日】2017-12-07
【審査請求日】2020-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2017023403
(32)【優先日】2017-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000203656
【氏名又は名称】多木化学株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高井 京子
(72)【発明者】
【氏名】角谷 定宣
(72)【発明者】
【氏名】石原 俊
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 雅樹
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-194250(JP,A)
【文献】特開2005-306641(JP,A)
【文献】HABIBI, M.H et al.,Novel sulfer-doped niobium pentoxide nanoparticles: fabrication, characterization, visible light sensitization and redox charge transfer study,Journal of Sol-Gel Science and Technology,2011年,Vol.59/No.2,pp.352-357
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 33/00
B01J 13/00
C09D 1/00
G02B 1/10
C03C 17/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニオブ酸を主たる成分とする微粒子が分散してなるニオブ酸オルガノゾルであって、
当該ゾルは、安定化剤を含有するものであり、
有機酸を実質的に含有しないものであり、かつニオブの含有量がNb
2
O
5
として3~30質量%の範囲であり、また、任意成分としてアンモニアを含有する場合には、その含有量が、NH
3/Nb
2O
5(モル比)<1.0であるニオブ酸オルガノゾル。
【請求項2】
前記安定化剤が、
オクタデシルアミン、オキシエチレンドデシルアミン、ポリオキシエチレンドデシルアミン、ジアルキルジメチルアンモニウムクロライド、アルキルトリメチルアンモニウムクロライドおよびアルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライドから選択される少なくとも一種類のものである請求項
1に記載のニオブ酸オルガノゾル。
【請求項3】
前記ゾルの溶媒が、親水性溶媒である請求項1
または2に記載のニオブ酸オルガノゾル。
【請求項4】
ニオブ酸を主たる成分とする微粒子と、安定化剤とを含有してなるニオブ酸オルガノゾル前駆体であって、
当該ゾル前駆体は、半固形状または固形状であり、
有機酸を実質的に含有しないものであり、かつニオブの含有量がNb
2
O
5
として3~30質量%の範囲であり、また、任意成分としてアンモニアを含有する場合には、その含有量が、NH
3/Nb
2O
5(モル比)<1.0であって、
親水性溶媒を任意成分として含有する、
親水性溶媒に分散可能であるニオブ酸オルガノゾル前駆体。
【請求項5】
前記安定化剤が、
オクタデシルアミン、オキシエチレンドデシルアミン、ポリオキシエチレンドデシルアミン、ジアルキルジメチルアンモニウムクロライド、アルキルトリメチルアンモニウムクロライドおよびアルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライドから選択される少なくとも一種類のものである請求項
4に記載のニオブ酸オルガノゾル前駆体。
【請求項6】
以下の工程を包含するニオブ酸オルガノゾルの製造方法。
ただし、上記ニオブ酸オルガノゾルは、有機酸を実質的に含有しないものである。
(1)水存在下にて、ニオブ酸を主たる成分とする微粒子と、安定化剤と、アミン化合物とを含有する混合液を調製する工程。
(2)(1)にて得られた混合液を溶媒置換によりオルガノゾルを得る工程。
【請求項7】
請求項
4または5に記載のニオブ酸オルガノゾル前駆体を、親水性溶媒に分散させることを特徴とするニオブ酸オルガノゾルの製造方法。
【請求項8】
以下の工程を包含するニオブ酸オルガノゾル前駆体の製造方法。
ただし、上記ニオブ酸オルガノゾル前駆体は、有機酸を実質的に含有しないものである。
(1)水存在下にて、ニオブ酸を主たる成分とする微粒子と、安定化剤と、アミン化合物とを含有する混合液を調製する工程。
(2)次の(a)または(b)のいずれか一つの工程を実施する工程。
(a)(1)によって得られた混合液から半固形状または固形状のニオブ酸オルガノゾル前駆体を得る為に脱溶媒または乾燥を行う工程。
(b)(1)によって得られた混合液に親水性溶媒を添加した後に、半固形状または固形状のニオブ酸オルガノゾル前駆体を得る為に脱溶媒または乾燥を行う工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニオブ酸オルガノゾルおよびその製造方法ならびにニオブ酸オルガノゾル前駆体に関する。
【背景技術】
【0002】
電子材料、表面処理剤の分野では高屈折率材料の需要が高まっており、特にオプトエレクトロニクス材料、反射防止材、屈折率調整剤等の分野では無機物に由来する高屈折率材料の要望が高い。特に透明性、意匠性等を考慮すると、該高屈折率材料が微粒子状の材料であった場合、材料への添加や塗布、表面処理等において非常に好ましいものである。
【0003】
無機物に由来する高屈折率材料として、酸化チタンが代表的な材料として挙げられる。特に、酸化チタンが微粒子状となり、分散媒に分散している状態のゾルは、上記の分野において広く利用されている。しかし、酸化チタンは光触媒活性が高く、紫外線照射下の環境ではチョーキング現象が確認され、特に樹脂等への添加用途では問題が見られる。
【0004】
本出願人はこれまで、上記分野における酸化チタンゾルに代わる材料の検討を行っており、特に高屈折率材料として微粒子状のニオブ系材料を含有するゾル(以下、「ニオブゾル」という。)の開発を幅広く行ってきた(例えば特許文献1)。これまでの本出願人の発明により、ニオブゾルが提供可能となったが、特許文献1記載のゾルは有機溶媒との相溶性が低いものであった。
【0005】
特に樹脂組成物等に高屈折率を付与する為、ニオブゾルを混合した場合、樹脂組成物等に含まれる有機溶媒によってニオブゾルが白濁、増粘、凝固、固化し、樹脂組成物等の透明性、意匠性またはハンドリング性等が大きく損なわれ、その用途への適用が困難となることがあった。この為、有機溶媒との相溶性を有するニオブゾルが求められ、本出願人は親水性溶媒にて希釈可能なニオブゾルに関する技術を開発し(特許文献2)、該ニオブゾルは、親水性溶媒と混合した場合、透明性、ハンドリング性に優れる材料である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5441264号公報
【文献】特許第6156876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2記載のニオブゾルは、主となる溶媒は水である。該ニオブゾルを用い樹脂組成物等へ高屈折率を付与する場合、多量の水の混入は避けられないものであり、水の混入を極力抑える必要がある用途には適しているとは言い難かった。
【0008】
本発明は、前記従来技術の問題を解決し、有機溶媒に対し優れた相溶性を有するニオブゾルを提供する為、ニオブ系材料が有機溶媒に安定して分散してなるゾルおよび有機溶媒に容易に分散可能なニオブ系材料を含有する前駆体を得ることを目的としてなされたものである。
【0009】
ところで、本出願人は、先の出願にて、有機酸としてクエン酸およびシュウ酸を巧みに利用することによって、有機溶媒との相溶性の高いニオブゾルを開発している。(特許第4236182号公報)。しかし、一部において有機酸は水と同様に忌避される用途があり、該先行技術を鑑み、本発明は、有機酸を実質的に含有せずに課題を解決することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、有機酸を実質的に含有せず、有機溶媒との相溶性の高いニオブゾルについて鋭意検討を行ったところ、上記課題の解決について、ニオブ酸を主たる成分とする微粒子(以下、「ニオブ酸微粒子」ともいう。)と安定化剤とを巧みに利用することにより、有機溶媒に対し良好な分散性を有するニオブ酸微粒子が分散してなるゾルが得られることを見出し、かかる知見を元に、本発明を完成させたものである。さらに、上記ゾルの知見を元に、有機溶媒に分散させたときに当該ゾルが得られるものである前駆体の開発を行った。
【0011】
すなわち本発明は下記の通りである。
[1]ニオブ酸を主たる成分とする微粒子が分散してなるニオブ酸オルガノゾルであって、当該ゾルは、安定化剤を含有するものであり、また、任意成分としてアンモニアを含有する場合には、その含有量が、NH3/Nb2O5(モル比)<1.0であるニオブ酸オルガノゾル。
[2]有機酸を実質的に含有しないことを特徴とする[1]記載のニオブ酸オルガノゾル。
[3]前記安定化剤が、アミン塩系カチオン型界面活性剤および第4級アンモニウム塩系カチオン型界面活性剤から選択される少なくとも一種類のものである[1]または[2]に記載のニオブ酸オルガノゾル。
[4]前記ゾルの溶媒が、親水性溶媒である[1]~[3]のいずれか1つに記載のニオブ酸オルガノゾル。
[5]ニオブ酸を主たる成分とする微粒子と、安定化剤とを含有してなるニオブ酸オルガノゾル前駆体であって、当該ゾル前駆体は、半固形状または固形状であり、また、任意成分としてアンモニアを含有する場合には、その含有量が、NH3/Nb2O5(モル比)<1.0であって、親水性溶媒を任意成分として含有する、親水性溶媒に分散可能であるニオブ酸オルガノゾル前駆体。
[6]有機酸を実質的に含有しないことを特徴とする[5]記載のニオブ酸オルガノゾル前駆体。
[7]前記安定化剤が、アミン塩系カチオン型界面活性剤および第4級アンモニウム塩系カチオン型界面活性剤から選択される少なくとも一種類のものである[5]または[6]に記載のニオブ酸オルガノゾル前駆体。
[8]以下の工程を包含するニオブ酸オルガノゾルの製造方法。
(1)水存在下にて、ニオブ酸を主たる成分とする微粒子と、安定化剤と、アミン化合物とを含有する混合液を調製する工程。
(2)(1)にて得られた混合液を溶媒置換によりオルガノゾルを得る工程。
[9][5]~[7]のいずれか1つに記載のニオブ酸オルガノゾル前駆体を、親水性溶媒に分散させることを特徴とするニオブ酸オルガノゾルの製造方法。
[10]以下の工程を包含するニオブ酸オルガノゾル前駆体の製造方法。
(1)水存在下にて、ニオブ酸を主たる成分とする微粒子と、安定化剤と、アミン化合物とを含有する混合液を調製する工程。
(2)次の(a)または(b)のいずれか一つの工程を実施する工程。
(a)(1)によって得られた混合液から半固形状または固形状のニオブ酸オルガノゾル前駆体を得る為に脱溶媒または乾燥を行う工程。
(b)(1)によって得られた混合液に親水性溶媒を添加した後に、半固形状または固形状のニオブ酸オルガノゾル前駆体を得る為に脱溶媒または乾燥を行う工程。
【発明の効果】
【0012】
本発明のニオブ酸オルガノゾル(以下、「本発明のゾル」という。)は、主溶媒を水とする従来のニオブゾルでは使用が困難であった分野にも、幅広く利用可能である。また、本発明のゾルにかかる知見を元に得られた、ニオブ酸オルガノゾル前駆体(以下、「本発明のゾル前駆体」という。)は、有機溶媒に対して優れた分散性を有することから本発明のゾルを容易に調製することが可能なものであり、また、該前駆体を用いニオブ酸微粒子を提供することも可能となり、利便性の向上に役立つものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、好ましい実施形態に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。
なお、本発明において、数値範囲に関する「数値1~数値2」という表記は、数値1を下限値とし数値2を上限値とする、両端の数値1及び数値2を含む数値範囲を意味し、「数値1以上数値2以下」と同義である。
[ゾル]
本発明のゾルは、ニオブ酸を主たる成分とする微粒子が分散してなるものであって、当該ゾルは、安定化剤を含有するものであり、任意成分としてアンモニアを含有する場合には、その含有量が、NH3/Nb2O5(モル比)<1.0であることを特徴とするものである。なお、本発明のゾルは有機酸を実質的に含有しないことを特徴とする。ここで、有機酸を実質的に含有しないとは、原料中の不純物に由来する有機酸を除けば、本発明のゾル中には有機酸を含有しないことを意味する。
【0014】
本発明のゾル中のニオブ酸微粒子は、ニオブ酸を主たる成分とするものである。
ここで、ニオブ酸微粒子中の主たる成分がニオブ酸であるという意味は、微粒子を構成する無機化合物の内、ニオブ酸の割合が少なくとも50モル%以上であり、更に好ましくは100モル%となるよう設定するものである。ニオブ酸の好適な一例として、非晶質の酸化ニオブ、水酸化ニオブ、ニオブのポリ酸等が挙げられる。なお、ポリ酸は、[MXOY]n-(M = 金属元素)と表記されるものである。
【0015】
本発明のゾル中には、前記ニオブ酸微粒子の他に、安定化剤が含有されてなる。
安定化剤は、本発明のゾル中のニオブ酸微粒子の有機溶媒への分散安定化に対して効果を発揮するものであると考えられ、推測ではあるが、そのメカニズムについて説明する。ニオブ酸微粒子は、表面電荷として負電荷を有していることが知られており、負電荷を有した表面に、安定化剤が修飾することで、ニオブ酸微粒子が有機溶媒に対して分散安定化するものであると推測される。
【0016】
ニオブ酸微粒子は、その表面にアンモニアが強く結合あるいは吸着することが知られている。本発明のゾル中には任意の成分としてアンモニアを含有してもよく、ニオブの酸化物表記であるNb2O5に対し、アンモニアの含有量がNH3/Nb2O5(モル比)として1.0未満の範囲であれば、安定化剤はニオブ酸微粒子の表面に問題なく修飾することができると推測され、分散安定化の効果が損なわれ難い。アンモニアの含有量の範囲として、より好ましくは0.8未満であり、さらにより好ましくは0.5未満である。下限は0超である。この為、含有量の範囲は0<NH3/Nb2O5<1.0(モル比)と表記することもできる。なお、アンモニアの含有量が0であったとしても、本発明のゾルの範囲に含まれるものである。
【0017】
本発明のゾルに用いられる安定化剤としては次のものに限定されるものではないが、アミン塩系カチオン型界面活性剤および第4級アンモニウム塩系カチオン型界面活性剤から選択される少なくとも一種類であることが望ましい。
【0018】
アミン塩系カチオン型界面活性剤として、例えば、オクタデシルアミン、オキシエチレンドデシルアミン、ポリオキシエチレンドデシルアミン等を例示できる。第4級アンモニウム塩系カチオン型界面活性剤として、例えば、ジアルキルジメチルアンモニウムクロライド、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライド等を例示できる。これらのうち、第4級アンモニウム塩系カチオン型界面活性剤が好ましい。
【0019】
本発明のゾルの分散安定性の観点から、ニオブの酸化物表記であるNb2O5に対し、安定化剤の量は安定化剤/Nb2O5(モル比)=0.1~1の範囲となるように含有することが望ましい。上記メカニズムにおいて、有機溶媒に対してニオブ酸微粒子が分散安定化するためには、このモル比が0.1以上であれば、本発明のゾルが高い分散安定性を得られる傾向にあり、好ましくは0.3以上である。また、モル比が1以下であれば、ゾルとしての分散安定性が損なわれ難く、好ましくは0.8以下である。
【0020】
本発明は、ニオブ酸微粒子が有機溶媒に分散してなるオルガノゾルである。本発明のゾルに用いられる有機溶媒として、親水性溶媒を用いることが望ましい。親水性溶媒として、アルコール類、エステル類、およびケトン類からなる群から選択される少なくとも一種類のものであることが望ましい。アルコール類として例えばメタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロピルアルコール、1-ブタノール、イソブチルアルコール、2-ブタノール、ヘキサノール、ブチルカルビトール、1-メトキシ-2-プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロール、ペンタエリトリトール、ソルビトール、2-エトキシエタノール、2-ブトキシエタノール等を、エステル類として例えばγ-ブチロラクトン、酢酸ブチル、酢酸エチル等を、ケトン類として例えばメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等を挙げることが出来る。有機溶媒は実質的に一種類のみを用いてもよく、2種類以上を併存させてもよい。
本発明のゾル中のニオブ酸微粒子の分散安定性の観点から、特に本発明のゾルの溶媒として、エタノール、メチルイソブチルケトン、イソプロピルアルコール、メチルエチルケトン、酢酸ブチルおよびイソブチルアルコールから選択される少なくとも一種類のものを主溶媒とすることが望ましい。ここで、主溶媒とは、溶媒のうち、含有量が少なくとも50質量%以上である溶媒を指す。
本発明のゾルの溶媒として2種類以上の有機溶媒を必要に応じて任意に含有する場合、うち一種類の有機溶媒を主溶媒とし、その含有量が少なくとも50質量%以上であることが望ましい。主溶媒以外の有機溶媒については本発明のゾルの使用用途及び目的に応じて適宜選択し含有させても構わず、例えば本発明のゾル中の微粒子の分散安定性を改善する目的で含有させることが出来、その含有量は、多くとも50質量%以下であり、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは15質量%以下の範囲であれば含有していてもよい。また、本発明のゾルには有機溶媒の他に、水を含有することを許容するものであるが、水の含有量は少ない方が好ましく、例えば20質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下であれば含有していてもよい。
【0021】
本発明のゾル中のニオブの含有量として、ニオブの酸化物表記であるNb2O5に換算し、Nb2O5=1~30質量%の範囲であることが好ましい。製造上および輸送上の観点から下限は3質量%以上であることが好ましく、5質量%以上がより好ましい。また、ゾルの透明性と分散安定性の観点から上限は25質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。
【0022】
[前駆体]
本発明のゾル前駆体は、ニオブ酸微粒子と、安定化剤とを含有してなるニオブ酸オルガノゾル前駆体であって、当該ゾル前駆体中に任意成分としてアンモニアを含有する場合には、その含有量が、NH3/Nb2O5(モル比)<1.0であって、有機溶媒を任意成分として含有し、当該ゾル前駆体は、半固形状または固形状であり、有機溶媒に分散可能であることを特徴とするものである。なお、本発明のゾル前駆体は有機酸を実質的に含有しないことを特徴とする。ここで、有機酸を実質的に含有しないとは、原料中の不純物に由来する有機酸を除けば、本発明のゾル前駆体中には有機酸を含有しないことを意味する。
【0023】
本発明のゾル前駆体中のニオブ酸微粒子は、ニオブ酸を主たる成分とするものである。
ここで、ニオブ酸微粒子中の主たる成分がニオブ酸であるという意味は、微粒子を構成する無機化合物の内、ニオブ酸の割合が少なくとも50モル%以上であり、更に好ましくは100モル%となるよう設定するものである。ニオブ酸の好適な一例として、非晶質の酸化ニオブ、水酸化ニオブ、ニオブのポリ酸等が挙げられる。なお、ポリ酸は、[MXOY]n-(M=金属元素)と表記されるものである。
【0024】
本発明のゾル前駆体中には、前記ニオブ酸微粒子の他に、安定化剤が含有されてなる。安定化剤は、本発明のゾル前駆体中のニオブ酸微粒子の有機溶媒への分散安定化に作用を発揮するものであると考えられ、推測ではあるが、そのメカニズムについて説明する。ニオブ酸微粒子は、表面電荷として負電荷を有していることが知られており、負電荷を有した表面に、安定化剤が修飾することで、ニオブ酸微粒子が有機溶媒に対して分散安定化するものであると推測される。
【0025】
ニオブ酸微粒子は、その表面にアンモニアが強く結合あるいは吸着することが知られている。本発明のゾル前駆体中には任意の成分としてアンモニアを含有してもよく、ニオブの酸化物表記であるNb2O5に対し、アンモニアの含有量がNH3/Nb2O5(モル比)として1.0未満の範囲であれば、安定化剤はニオブ酸微粒子の表面に問題なく修飾することができると推測され、分散安定化の効果が損なわれ難い。アンモニアの含有量の範囲として、より好ましくは0.8未満であり、さらにより好ましくは0.5未満である。下限は0超である。この為、含有量の範囲は0<NH3/Nb2O5<1.0(モル比)と表記することもできる。なお、アンモニアの含有量が0であったとしても、本発明のゾル前駆体の範囲に含まれるものである。
【0026】
本発明のゾル前駆体は半固形状または固形状であり、半固形状または固形状の一例とし、粘土状、ペースト状、ペレット状、粒状、粉末状等が挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0027】
本発明のゾル前駆体に用いられる安定化剤としては次のものに限定されるものではないが、アミン塩系カチオン型界面活性剤および第4級アンモニウム塩系カチオン型界面活性剤から選択される少なくとも一種類であることが望ましい。
【0028】
アミン塩系カチオン型界面活性剤として、例えば、オクタデシルアミン、オキシエチレンドデシルアミン、ポリオキシエチレンドデシルアミン等を例示できる。第4級アンモニウム塩系カチオン型界面活性剤として、例えば、ジアルキルジメチルアンモニウムクロライド、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライド等を例示できる。これらのうち、第4級アンモニウム塩系カチオン型界面活性剤が好ましい。
【0029】
本発明のゾル前駆体を有機溶媒に分散させた際の分散安定性の観点から、安定化剤の量については、ニオブの酸化物表記であるNb2O5に対し、安定化剤/Nb2O5(モル比)=0.1~1の範囲となるように含有することが望ましい。上記メカニズムにおいて、有機溶媒に対してニオブ酸微粒子が分散安定化するためには、このモル比が0.1以上であれば、本発明のゾルが高い分散安定性を得られる傾向にあり、好ましくは0.3以上である。また、モル比が1以下であれば、本発明のゾル前駆体を有機溶媒に分散させた際の分散安定性が損なわれ難く、好ましくは0.8以下である。
【0030】
本発明のゾル前駆体に含有されるニオブ酸微粒子は有機溶媒に対し良好な分散性を有するものである。本発明のゾル前駆体が好適に分散可能な有機溶媒として、親水性溶媒を用いることが望ましい。親水性溶媒として、アルコール類、エステル類、およびケトン類からなる群から選択される少なくとも一種類のものであることが望ましい。アルコール類として例えばメタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロピルアルコール、1-ブタノール、イソブチルアルコール、2-ブタノール、ヘキサノール、ブチルカルビトール、1-メトキシ-2-プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロール、ペンタエリトリトール、ソルビトール、2-エトキシエタノール、2-ブトキシエタノール等を、エステル類として例えばγ-ブチロラクトン、酢酸ブチル、酢酸エチル等を、ケトン類として例えばメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等を挙げることが出来る。有機溶媒は実質的に一種類のみを用いてもよく、2種類以上を併存させてもよい。
本発明のゾル前駆体中のニオブ酸微粒子の分散安定性の観点から、特に本発明のゾル前駆体が好適に分散可能な有機溶媒として、エタノール、メチルイソブチルケトン、イソプロピルアルコール、メチルエチルケトン、酢酸ブチルおよびイソブチルアルコールから選択される少なくとも一種類のものを主溶媒とすることが望ましい。ここで、主溶媒とは、溶媒のうち、含有量が少なくとも50質量%以上である溶媒を指す。
本発明のゾル前駆体を分散させる溶媒として2種類以上の有機溶媒を必要に応じて任意に用いる場合、うち一種類の有機溶媒を主溶媒とし、溶媒中の含有量が少なくとも50質量%以上であることが望ましい。主溶媒以外の有機溶媒についてはゾル前駆体の分散液の使用用途及び目的に応じて適宜選択し溶媒中に含有させても構わず、例えば本発明のゾル前駆体中の微粒子の分散安定性を改善する目的で含有させることが出来、その含有量は、多くとも50質量%以下であり、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは15質量%以下の範囲であれば含有していてもよい。また、本発明のゾル前駆体を分散させる溶媒中に水を含有することを許容するものであるが、水の含有量は少ない方が好ましく、例えば20質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下であれば含有していてもよい。
【0031】
本発明のゾル前駆体は任意成分として有機溶媒を含有することを許容するものであり、その場合当該有機溶媒は本発明のゾルに用いられる親水性溶媒であることが望ましい。本発明のゾル前駆体中に有機溶媒を含む場合、好ましい含有量の範囲として、50質量%以下であり、より好ましくは40質量%以下であり、さらにより好ましくは30質量%以下であるが、半固形状または固形状であれば特に問題はない。
【0032】
また、本発明のゾル前駆体として、本発明のゾル中の溶媒成分を取り除き、上記本発明のゾル前駆体の機能を有するものが得られれば、それは本発明のゾル前駆体の範囲に含まれるものである。
本発明のゾル前駆体を得る為の本発明のゾルの除溶媒の方法や程度は特に限定されない。除溶媒の程度によっては、本発明のゾル前駆体中に有機溶媒が残留することもあり、特に乾燥により本発明のゾル前駆体が得られる場合、沸点が高い有機溶媒を含有する場合は残留しやすく、例えば沸点が150℃以上である有機溶媒は残留しやすいが、得られたゾル前駆体が半固形状または固形状であり、上記本発明のゾル前駆体の機能を有するものが得られれば、それは本発明のゾル前駆体の範囲に含まれるものである。
【0033】
本発明のゾルおよび前駆体の製造方法について説明する。
[ゾルの製造方法]
本発明のゾルの製造方法は、以下の(1)および(2)の工程を包含するものである。
(1)水存在下にて、ニオブ酸を主たる成分とする微粒子と、安定化剤と、アミン化合物とを含有する混合液を調製する工程。
(2)(1)にて得られた混合液を溶媒置換によりオルガノゾルを得る工程。
【0034】
本発明のゾルの製造方法において、水存在下にて、ニオブ酸微粒子と、安定化剤と、アミン化合物とを含有する混合液を調製するための方法は特に限定されるものではないが、好適な一例として、主たる溶媒が水であるニオブゾルを用い、安定化剤と、アミン化合物とを添加し調製することができる。
なお、本発明のゾルの原料として好適に利用できる前記主たる溶媒が水であるニオブゾルとして、次のものに限定されるものではないが、例えばニオブ酸アンモニウムゾル、ニオブ酸ゾル等を挙げることができる。
【0035】
ニオブ酸アンモニウムゾルについて説明する。ニオブ酸アンモニウムゾルおよびその製造方法は、特許文献1に詳述されているので、ここではその概略を説明する。ニオブ酸アンモニウムゾルは、無定形のニオブ酸にアンモニアが強固に吸着したと推測される微粒子が分散した、主たる溶媒が水であるニオブゾルであり、該ゾルを100℃で10時間乾燥させたときのアンモニアとニオブ酸がNH3/Nb2O5(モル比)=0.5~1.5の範囲であることを特徴とするものである。ニオブ酸アンモニウムゾルの製造方法は、フッ酸、又はフッ酸と硫酸の混酸にニオブ化合物を溶解させた水溶液と、アンモニア水溶液とを、pHを8以上に維持しつつ混合、反応させてニオブ酸微粒子を含有する分散液を得た後、当該分散液をろ過洗浄するものである。また、市販のニオブ酸アンモニウムゾルとして、例えば、多木化学(株)製の商品名「バイラール Nb-G6000」を挙げることができる。該ニオブ酸アンモニウムゾル中のアンモニアの形態としては、ゾル中に存在するアンモニウムイオンの他に、上記のように100℃で10時間乾燥させても一定量のアンモニアが検出されることより、ニオブ酸粒子表面に強固に吸着したアンモニアが存在すると考えられている。
【0036】
(1)の工程において、ニオブ酸アンモニウムゾルと、安定化剤と、アミン化合物とを含有する混合液を調製した場合、アミン化合物がニオブ酸微粒子表面のアンモニアの一部と置換し、液中にアンモニウムイオンとして遊離するものであると推測される。アンモニアの一部と置換し、ニオブ酸微粒子の表面に存在すると推測されるアミン化合物によって、安定化剤がニオブ酸微粒子を修飾する効果が得られると考えられ、安定化剤の修飾により、本発明のゾル中のニオブ酸微粒子が有機溶媒に対して分散安定化する効果を発揮すると推測される。なお、ニオブ酸微粒子表面のアミン化合物は、安定化剤の修飾に伴い基本的に液中に遊離するものと考えられ、(2)の工程の操作によっては除去されるものであるが、アミン化合物が本発明のゾル中に残存していても特に問題は無い。
【0037】
続いて、ニオブ酸ゾルについて説明する。ニオブ酸ゾルは、前記ニオブ酸アンモニウムゾルから、アンモニア含有量を低減させたものである。ニオブ酸ゾルおよびその製造方法は、特許文献2に記述されているので、ここではその概略を説明する。ニオブ酸ゾルは、先述のニオブ酸アンモニウムゾルと無機酸とを混合したゾルを調製し、このゾルを洗浄してアンモニアを低減した後、このアンモニアを低減したゾルとアミン化合物とを混合し、次いで加熱し得られるものである。
前記ニオブ酸ゾルの製造において、無機酸の使用量は目的とするアンモニア低減量に応じ適宜設定すればよいが、目安を示すと、ニオブの酸化物表記であるNb2O5に対し、無機酸/Nb2O5(モル比)=0.2~1.5の範囲である。無機酸の種類としては塩酸、硝酸、硫酸等を例示でき、これらのうち塩酸が好適である。
【0038】
前記ニオブ酸ゾルには、ニオブ酸微粒子と、アミン化合物とが含まれるものであるため、前記ニオブ酸ゾルに安定化剤を添加し、(1)の工程の混合液を調製してもよい。ニオブ酸ゾルを用い混合液を調製した場合、ニオブ酸アンモニウムゾルの場合と同様にアミン化合物と安定化剤とが置換され、ニオブ酸微粒子を好適に修飾することが可能となることが推測される。
【0039】
用いられるアミン化合物として、安定化剤の修飾により、ニオブ酸微粒子が有機溶媒に対し分散安定化することができれば特に限定はしないが、例えば、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、水酸化第4級アンモニウム等を例示することができる。第1級アミンとしては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン、モノエタノールアミン、イソプロパノールアミン等が挙げられる。第2級アミンとしては、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン等が挙げられる。第3級アミンとしては、例えば、トリメチルアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン等が挙げられる。水酸化第4級アンモニウムとしては、例えば、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化トリメチルエチルアンモニウム、水酸化トリメチルプロピルアンモニウム、水酸化ジメチルジエチルアンモニウム、コリン等が挙げられる。
上記アミン化合物のうち、第3級アミンまたは第4級アンモニウムが好ましく、第4級アンモニウムがより好ましい。
【0040】
アミン化合物の含有量は、ニオブの酸化物表記であるNb2O5に対し、アミン化合物/Nb2O5(モル比)=0.1~1の範囲となるように混合液を調製することが望ましい。このモル比が0.1以上であれば、安定化剤が効果的に微粒子を修飾すると推測され、好ましい範囲としては0.3以上である。また、モル比が1以下であれば、添加量に見合った効果が得られる傾向が見られ、好ましい範囲としては0.8以下である。
なお、(1)の工程で得られた混合液は、安定化剤の添加によりニオブ酸微粒子が凝集し沈殿や白濁を生じたとしても、該微粒子が(2)の工程の溶媒置換の後に分散し、本発明のゾルを得ることができれば特に問題ない。
【0041】
安定化剤の含有量は、ニオブの酸化物表記であるNb2O5に対し、安定化剤/Nb2O5(モル比)=0.1~1の範囲となるように混合液を調製することが望ましい。このモル比が0.1以上であれば、本発明のゾルが高い分散安定性を得られる傾向にあり、好ましくは0.3以上である。また、モル比が1以下であれば、ゾルとしての分散安定性が損なわれ難く、好ましくは0.8以下である。
【0042】
(1)の工程で得られた混合液中のニオブ酸微粒子は、安定化剤によって修飾されていると推測され、有機溶媒に対する分散安定性を有しており、(2)の工程にて混合液中の水を有機溶媒に置換することで、オルガノゾルを得ることが出来る。(2)の工程の溶媒置換の方法は、混合液中の主溶媒を有機溶媒に置換できれば特に限定はされないが、エバポレーターや限外洗浄などの公知の方法により有機溶媒に置換することができる。また、有機溶媒を添加し、溶媒抽出法にて溶媒置換する方法も公知な方法として知られている。さらに、(1)の工程にて混合液を調製する過程で生じた凝集物または沈殿物をウエットケーキとして回収し、このウエットケーキを有機溶媒に分散させる方法も、溶媒置換の方法の一種であるため、本発明のゾルの製造方法の範囲に含まれるものである。
【0043】
ここで、本発明における溶媒抽出法について一つの方法を例示すると、(1)の工程で得られた混合液に有機溶媒を添加後、ニオブ酸微粒子が有機溶媒相に分散した後に水相を取り除く方法が挙げられる。これは、混合液に有機溶媒を添加すると、水相と有機溶媒相との2相に分離することが確認され、混合液中に含まれるニオブ酸微粒子は、有機溶媒相に対し優れた分散性を有するものであり、前記2相に分離した溶媒のうち、主として有機溶媒相に対し分散するものである。
【0044】
前記の溶媒置換方法で本発明のゾルを得る場合、単一の方法のみで溶媒置換を行っても良く、また各方法を組み合わせ、本発明のゾルを得ても良い。また、今回例示していない溶媒置換方法であっても、特に構わない。
【0045】
また、混合液に有機溶媒を添加する場合、本発明のゾルの主溶媒となる有機溶媒を添加し、公知の溶媒置換法にて溶媒置換することもできるが、作業性、コスト、微粒子の分散状態の改善の為、本発明のゾルの主溶媒以外の有機溶媒にて溶媒置換を行い、水を十分に取り除いた後に本発明のゾルの主溶媒となる有機溶媒に溶媒置換する方法でも特に問題なく、本発明のゾルの主溶媒以外の有機溶媒をゾル中に主溶媒の含有量を超えない範囲で含む様に溶媒置換してもよく、その含有量は溶媒のうち、50質量%以下であり、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下である。
【0046】
(2)の工程で有機溶媒に置換される際、混合液に含まれる水と共に、液中に遊離しているアンモニアが取り除くことができるものであり、本発明のゾル中のアンモニアの含有量は、ニオブの酸化物表記であるNb2O5に対し、NH3/Nb2O5(モル比)とした場合、1.0未満の範囲であればよく、より好ましくは0.8未満であり、さらにより好ましくは0.5未満である。なお、各種条件を最適に設定すればアンモニアの含有量を0にすることも不可能ではない。
【0047】
本発明のゾルの別の一製造方法として、本発明のゾル前駆体を有機溶媒に分散させることで調製する方法が挙げられる。本発明のゾル前駆体に含有されるニオブ酸微粒子は有機溶媒に対し良好な分散性を有するものである為、ゾル前駆体に対し、分散させる為に十分な量の本発明のゾルの主溶媒となる有機溶媒を添加し、分散させることにより、本発明のゾルを得ることができる。ゾル前駆体を分散させる方法は特に限定されないが、好適な一例として振とうまたは攪拌等の公知の方法が例示できる。
【0048】
[前駆体の製造方法]
本発明のゾル前駆体の製造方法として、以下の(1)および(2)の工程を包含するものである。
(1)水存在下にて、ニオブ酸を主たる成分とする微粒子と、安定化剤と、アミン化合物を含有する混合液を調製する工程。
(2)次の(a)または(b)のいずれか一つの工程を実施する工程。
(a)(1)によって得られた混合液から半固形状または固形状のニオブ酸オルガノゾル前駆体を得る為に脱溶媒または乾燥を行う工程。
(b)(1)によって得られた混合液に有機溶媒を添加した後に、半固形状または固形状のニオブ酸オルガノゾル前駆体を得る為に脱溶媒または乾燥を行う工程。
【0049】
本発明のゾル前駆体の製造方法において、(1)の混合液を得る工程は、前述の本発明のゾルの製造方法における混合液を得る(1)の工程と同一である。
【0050】
(2)の(a)工程は、(1)の工程で得られた混合液から、半固形状または固形状のニオブ酸オルガノゾル前駆体を得られる程度まで脱溶媒または乾燥を行えばよい。
脱溶媒または乾燥を行う方法について、本発明のゾル前駆体が得られるのであれば特に限定されることはなく、常法により実施すればよい。脱溶媒または乾燥を行う方法として、例えば、噴霧乾燥、静置乾燥等を挙げることができる。また、乾燥条件(温度、時間)は、適宜設定することが好ましい。
前駆体を得る方法の一例として、エバポレーターや限外洗浄などの公知の方法により(1)の工程で得られた混合液を高濃度化し、その後に公知の方法にて脱溶媒または乾燥を行うことで、本発明のゾル前駆体を効率的に得ることができる。
また、(1)の工程の混合液調製の過程で生じた凝集物または沈殿物をろ過し、脱溶媒されたウエットケーキとして回収し、本発明のゾル前駆体を得ることができる。また、このウエットケーキを更に脱溶媒または乾燥を行うことで、本発明のゾル前駆体を得ることもできる。
【0051】
また、(2)の(b)工程として、(1)の工程で得られた混合液に有機溶媒を添加し、脱溶媒または乾燥を行い、本発明のゾル前駆体を得ても良い。
【0052】
ここで、(2)の(b)工程において、混合液に添加する有機溶媒として親水性溶媒を用いることが望ましい。親水性溶媒として、アルコール類、エステル類、およびケトン類からなる群から選択される少なくとも一種類のものであることが望ましい。アルコール類として例えばメタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロピルアルコール、1-ブタノール、イソブチルアルコール、2-ブタノール、ヘキサノール、ブチルカルビトール、1-メトキシ-2-プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロール、ペンタエリトリトール、ソルビトール、2-エトキシエタノール、2-ブトキシエタノール等を、エステル類として例えばγ-ブチロラクトン、酢酸ブチル、酢酸エチル等を、ケトン類として例えばメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等を挙げることが出来る。
【0053】
有機溶媒を添加後、脱溶媒または乾燥を行った場合、脱溶媒または乾燥の工程に由来し、もしくは有機溶媒の種類に由来し、本発明のゾル前駆体中に任意成分として有機溶媒が残留する場合もあるが、本発明のゾル前駆体の機能を有する物が得られれば、特に問題はない。また、有機溶媒を添加後、溶媒抽出法にて有機溶媒相にニオブ酸微粒子を分散させ、水相を取り除いた後に脱溶媒または乾燥を行い、本発明のゾル前駆体を得る方法を例示できる。当該水相を取り除くまでのプロセスは、本発明のゾルの製造方法の(2)の溶媒抽出法にも該当し、これにより本発明のゾルまたはこれに近しいものが得られる方法である。よって、本発明のゾルを出発原料として脱溶媒または乾燥によって半固形状または固形状の本発明のゾル前駆体を得る方法は、(2)の(b)工程の範囲に含まれるものである。
また、先述の(1)の工程の混合液調製の過程で生じた凝集物または沈殿物をろ過し、脱溶媒されたウエットケーキに有機溶媒を添加し、このウエットケーキを更に脱溶媒または乾燥を行うことで、本発明のゾル前駆体を得る方法も(2)の(b)工程の一例として示すことができる。
【0054】
(2)の工程において、混合液を脱溶媒または乾燥を行うことによって、液中に遊離しているアンモニアを取り除くことができるものであり、本発明のゾル中のアンモニアの含有量は、ニオブの酸化物表記であるNb2O5に対し、NH3/Nb2O5(モル比)とした場合、1.0未満の範囲であればよく、より好ましくは0.8未満であり、さらにより好ましくは0.5未満である。なお、各種条件を最適に設定すればアンモニアの含有量を0にすることも不可能ではない。
【実施例】
【0055】
以下、本発明の詳細を実施例を挙げて説明するが、本発明はそれらの実施例によって限定されるものではない。なお、特に断らない限り%は全て質量%を示す。
【0056】
また、実施例中の限外濾過装置は、限外濾過膜として「ラボモジュール」型式SLP-1053(旭化成(株)製)を用いた。本発明のゾルおよび本発明のゾル前駆体の物性は、以下の方法で測定した。
【0057】
(1)メジアン径の測定
メジアン径は、動的光散乱式粒径分布測定装置LB-500(堀場製作所(株)製)を用いて測定した。
(2)水分量の測定
水分量は、自動水分測定装置KF-100型(三菱化学(株)製)を用い、カールフィッシャー反応に基づく、容量滴定法によって測定した。
(3)安定化剤の測定
試料に塩酸を添加、加熱処理した液を遠心分離機にかけ、凝集物を除去した後、高速液体クロマトグラフLC-2010C((株)島津製作所製)を用いて、含有量を測定した。
(4)NH3の測定
アンモニア量は、ケルダール法により測定した窒素量から求めた。
【0058】
本発明の実施例において、安定化剤として、第4級アンモニウム塩系カチオン型界面活性剤であるヤシアルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライドを用いる場合、日油(株)製「カチオンF2-50」(ヤシアルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライド:約50%)を用いた。
【0059】
[実施例1]
五酸化ニオブ(多木化学(株)製)50gを10%フッ化水素酸水溶液480mLに溶解させ、イオン交換水を8.8L添加することによってNb2O5=0.54%のフッ化ニオブ酸水溶液を得た。30℃に温度調整を行ったフッ化ニオブ酸水溶液を、アンモニア水(NH3=1%)4.9Lに対し、反応液のpHが8.0を下回らないように一定速度で約60分間かけて添加し、副生成塩を含有するpH8.3、Nb2O5含有量:0.35%のニオブ酸アンモニウムの分散液を得た。次に、この分散液を限外ろ過装置を用いてろ液の電気伝導度が0.4mS/cm以下になるまでイオン交換水でろ過洗浄し、フッ化アンモニウム等を除去することによって、pH7.5のニオブ酸アンモニウムゾル600g(Nb2O5含有量:8.0%)を得た。得られたニオブ酸アンモニウムゾルに対し、アミン化合物として、第3級アミンであるトリ-n-ブチルアミンをトリ-n-ブチルアミン/Nb2O5(モル比)=0.5となる様に添加し、続いて安定化剤として第4級アンモニウム塩カチオン型界面活性剤である10%ヤシアルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライド水溶液を用い、安定化剤/Nb2O5(モル比)=0.5となる様に添加し、混合液を調製した。
混合液を調製後、限外濾過装置を用いて濃縮を行いながら、濾液量と等量のメチルエチルケトンを投入し混合液の希釈を同時併行で実施することで、溶媒置換し、主溶媒がメチルエチルケトンである本発明のゾルを得た。このゾルを分析に供した結果、Nb2O5=7.3%、安定化剤/Nb2O5(モル比)=0.46、NH3/Nb2O5(モル比)=0.8であり、メジアン径16nmであり、分散媒中の水分量は14.5%であった。
【0060】
[実施例2]
多木化学(株)製の「バイラール Nb-G6000」(Nb2O5濃度:6%)1000gに、アミン化合物として、水酸化第4級アンモニウムである水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAH)をTEAH/Nb2O5(モル比)=0.5となる様に添加し、続いて安定化剤として第4級アンモニウム塩カチオン型界面活性剤である10%ヤシアルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライド水溶液を用い、安定化剤/Nb2O5(モル比)=0.5となる様に添加し、混合液を調製した。
混合液を調製後、エバポレーターにより減圧濃縮を行いながら、溶媒の減少量と等量のイソプロピルアルコールを投入し混合液の希釈を同時併行で実施することで、溶媒置換し、主溶媒がイソプロピルアルコールである本発明のゾルを得た。このゾルを分析に供した結果、Nb2O5=10.5%、安定化剤/Nb2O5(モル比)=0.49、NH3/Nb2O5(モル比)=0.4であり、メジアン径31nmであり、分散媒中の水分量は3.5%であった。
【0061】
[実施例3]
多木化学(株)製の「バイラール Nb-G6000」(Nb2O5濃度:6%)1000gに、アミン化合物として、水酸化第4級アンモニウムである水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAH)をTEAH/Nb2O5(モル比)=0.5となる様に添加し、続いて安定化剤として第4級アンモニウム塩カチオン型界面活性剤である10%n-デシルトリメチルアンモニウムブロミド水溶液を用い、安定化剤/Nb2O5(モル比)=0.7となる様に添加し、混合液を調製した。
混合液を吸引濾過することによってウエットケーキを得た後、エタノールを添加し分散させ、主溶媒がエタノールである本発明のゾルを得た。このゾルを分析に供した結果、Nb2O5=6.0%、安定化剤/Nb2O5(モル比)=0.68、NH3/Nb2O5(モル比)=0.6であり、メジアン径20nmであり、分散媒中の水分量は3.8%であった。
【0062】
[実施例4]
多木化学(株)製の「バイラール Nb-G6000」(Nb2O5=6.2%)1000gをイオン交換水でNb2O5=1.0%まで希釈後、塩酸をHCl/Nb2O5(モル比)=1.3となる様に添加し、10分程度撹拌後、ろ液ECが100μS/cmになるまで限外洗浄を行い、続いてアミン化合物である水酸化第4級アンモニウムとして、TEAHをTEAH/Nb2O5(モル比)=0.7となる様に添加し、120℃で5時間の加熱処理を行い、ニオブ酸ゾル(Nb2O5=6.2%、pH8.3)を得た。得られたニオブ酸ゾルに対し、安定化剤として第4級アンモニウム塩カチオン型界面活性剤である10%ヤシアルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライド水溶液を用い、安定化剤/Nb2O5(モル比)=0.5となる様に添加し、混合液を調製した。
混合液を調製後、限外濾過装置を用いて濃縮を行いながら、濾液量と等量のメチルエチルケトンを投入し混合液の希釈を同時併行で実施することで、溶媒置換し、主溶媒がメチルエチルケトンである本発明のゾルを得た。このゾルを得た後、グリセロールを主溶媒を超えない様に、溶媒のうち約3.5%となる様に添加した。このゾルを分析に供した結果、Nb2O5=10.2%、安定化剤/Nb2O5(モル比)=0.49、NH3/Nb2O5(モル比)<0.1であり、メジアン径15nmであり、分散媒中の水分量は4.1%であった。
【0063】
[実施例5]
実施例4と同様の方法にて得られたニオブ酸ゾル(Nb2O5=6.2%、pH8.3、TEAH/Nb2O5(モル比)=0.7)に対し、安定化剤として第4級アンモニウム塩カチオン型界面活性剤である10%ヤシアルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライド水溶液を用い、安定化剤/Nb2O5(モル比)=0.5となる様に添加し、混合液を調製した。
混合液を調製後、有機溶媒としてメチルイソブチルケトンを用い、溶媒抽出法により溶媒置換し、主溶媒がメチルイソブチルケトンである本発明のゾルを得た。このゾルを分析に供した結果、Nb2O5=10.4%、安定化剤/Nb2O5(モル比)=0.50、NH3/Nb2O5(モル比)<0.1であり、メジアン径15nmであり、分散媒中の水分量は3.5%であった。
【0064】
[実施例6]
多木化学(株)製の「バイラール Nb-G6000」(Nb2O5濃度:6%)1000gに、アミン化合物として、第3級アミンであるトリエタノールアミン(TEA)をTEA/Nb2O5(モル比)=0.5となる様に添加し、続いて安定化剤として第4級アンモニウム塩カチオン型界面活性剤である10%ヤシアルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライド水溶液を用い、安定化剤/Nb2O5(モル比)=0.5となる様に添加し、混合液を調製した。
混合液を調製後、エバポレーターにより減圧濃縮を行いながら、溶媒の減少量と等量の酢酸ブチルを投入し混合液の希釈を同時併行で実施することで、溶媒置換し、主溶媒が酢酸ブチルである本発明のゾルを得た。このゾルを分析に供した結果、Nb2O5=9.5%、安定化剤/Nb2O5(モル比)=0.48、NH3/Nb2O5(モル比)=0.6であり、メジアン径41nmであり、分散媒中の水分量は5.5%であった。
【0065】
[実施例7]
実施例1と同様にして調製された混合液を吸引濾過することによって脱溶媒し、半固形状の本発明のゾル前駆体を得た。得られた前駆体とメチルエチルケトンとを、溶媒中のNb2O5が10%となる様に混合したところ、主溶媒がメチルエチルケトンである本発明のゾルを得た。このゾルを分析に供した結果、Nb2O5=10.2%、安定化剤/Nb2O5(モル比)=0.48、NH3/Nb2O5(モル比)=0.6であり、メジアン径35nmであり、分散媒中の水分量は1.5%であった。
【0066】
[実施例8]
実施例2と同様にして調製された混合液を吸引濾過することによってウエットケーキを得た後、60℃で静置乾燥することにより、半固形状の本発明のゾル前駆体を得た。得られた前駆体とメチルエチルケトンとを、溶媒中のNb2O5が10%となる様に混合したところ、主溶媒がメチルエチルケトンである本発明のゾルを得た。このゾルを分析に供した結果、Nb2O5=10.1%、安定化剤/Nb2O5(モル比)=0.48、NH3/Nb2O5(モル比)=0.4であり、メジアン径60nmであり、分散媒中の水分量は1.3%であった。
【0067】
[実施例9]
実施例3と同様にして調製された混合液を吸引濾過することによってウエットケーキを得た後、有機溶媒としてグリセロールをグリセロール/Nb2O5(モル比)=1.0となる様に添加し、60℃で静置乾燥することにより、固形状の本発明のゾル前駆体を得た。得られた前駆体とメチルイソブチルケトンとを、溶媒中のNb2O5が10%となる様に混合したところ、主溶媒がメチルイソブチルケトンである本発明のゾルを得た。このゾルを分析に供した結果、Nb2O5=10.1%、安定化剤/Nb2O5(モル比)=0.68、NH3/Nb2O5(モル比)=0.5であり、メジアン径30nmであり、分散媒中の水分量は2.3%であった。
【0068】
[実施例10]
実施例4と同様にして調製された混合液を吸引濾過することによってウエットケーキを得た後、有機溶媒としてエチレングリコールをエチレングリコール/Nb2O5(モル比)=5.0となる様に添加し、60℃で静置乾燥することにより、固形状の本発明のゾル前駆体を得た。得られた前駆体とイソプロピルアルコールとを、溶媒中のNb2O5が10%となる様に混合したところ、主溶媒がイソプロピルアルコールである本発明のゾルを得た。このゾルを分析に供した結果、Nb2O5=10.0%、安定化剤/Nb2O5(モル比)=0.49、NH3/Nb2O5(モル比)<0.1であり、メジアン径43nmであり、分散媒中の水分量は1.1%であった。
【0069】
[実施例11]
実施例5と同様にして調製された混合液に有機溶媒としてグリセロールをグリセロール/Nb2O5(モル比)=1.0となる様に添加し、ヤマト科学(株)製スプレードライヤADL310(入口温度:200℃、出口温度:100℃)にて噴霧乾燥し、固形状の本発明のゾル前駆体を得た。得られた前駆体とメチルエチルケトンとを、溶媒中のNb2O5が20%となる様に混合したところ、主溶媒がメチルエチルケトンである本発明のゾルを得た。このゾルを分析に供した結果、Nb2O5=19.8%、安定化剤/Nb2O5(モル比)=0.49、NH3/Nb2O5(モル比)<0.1であり、メジアン径52nmであり、分散媒中の水分量は0.9%であった。
【0070】
[実施例12]
実施例6と同様にして調製された混合液に有機溶媒としてエチレングリコールをエチレングリコール/Nb2O5(モル比)=5.0となる様に添加し、60℃で静置乾燥することにより、固形状の本発明のゾル前駆体を得た。得られた前駆体とメチルエチルケトンとを、溶媒中のNb2O5が10%となる様に混合したところ、主溶媒がメチルエチルケトンである本発明のゾルを得た。このゾルを分析に供した結果、Nb2O5=10.8%、安定化剤/Nb2O5(モル比)=0.48、NH3/Nb2O5(モル比)=0.39であり、メジアン径55nmであり、分散媒中の水分量は1.1%であった。