(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-06
(45)【発行日】2022-04-14
(54)【発明の名称】PCグラウトの施工方法
(51)【国際特許分類】
E04G 21/12 20060101AFI20220407BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20220407BHJP
C04B 18/14 20060101ALI20220407BHJP
C04B 24/38 20060101ALI20220407BHJP
【FI】
E04G21/12 104D
C04B28/02
C04B18/14 Z
C04B24/38 B
(21)【出願番号】P 2017124881
(22)【出願日】2017-06-27
【審査請求日】2020-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】515181409
【氏名又は名称】宇部興産建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(73)【特許権者】
【識別番号】391010183
【氏名又は名称】極東興和株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100134566
【氏名又は名称】中山 和俊
(72)【発明者】
【氏名】宮本 一輝
(72)【発明者】
【氏名】高橋 恵輔
(72)【発明者】
【氏名】戸田 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】河金 甲
(72)【発明者】
【氏名】山根 隆志
【審査官】山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-006645(JP,A)
【文献】特開2019-006665(JP,A)
【文献】特開2012-051741(JP,A)
【文献】特開2005-231981(JP,A)
【文献】特開2006-290694(JP,A)
【文献】特開2010-111539(JP,A)
【文献】特開2012-211057(JP,A)
【文献】十河茂幸、玉田信二,材料分離のない高品質PCグラウトの関する研究,土木学会論文集,日本,土木学会,1990年02月,第414号/V-12,P145-153
【文献】藤原浩巳 他3名,高チクソトロピ-性状を有するPCグラウトの施工性の改良に関する実験。,セメント・コンクリート論文集,2007年,No.61,第645頁~第651頁,刊行物等提出書
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 21/12
C04B 28/02
C04B 18/14
C04B 24/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PC鋼材を張架した下り勾配を有するダクト内に、PCグラウトを注入するPCグラウトの施工方法であって、
注入口を基点として中心線が下方向に1°~30°傾斜するように前記ダクトを配置する配置工程と、
PCグラウト用セメント組成物と水とを混練して前記PCグラウトを調製する調製工程と、
前記PCグラウトをホッパーに収容する収容工程と、
前記ホッパー内のPCグラウトをポンプにより連続的に前記ダクトの注入口から前記ダクト内に圧送して注入する注入工程と、
を備え、
前記PCグラウト用セメント組成物として、
ポルトランドセメントと、
有機系増粘剤としてのセルロース系増粘剤と、
無機系増粘材としてのシリカフュームと、
ポリカルボン酸系流動化剤と、
を含み、
前記セルロース系増粘剤は、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、及びヒドロキシプロピルメチルセルロースの少なくとも1種を主成分として含み、
前記セルロース系増粘剤の1質量%水溶液の20℃、せん断速度0.1s
-1
における粘度が、1Pa・s~20Pa・sであり、
前記セルロース系増粘剤の1質量%水溶液の20℃、せん断速度30s
-1
における粘度が、0.001Pa・s~0.015Pa・sであり、
前記ポリカルボン酸系流動化剤の含有量は、前記ポルトランドセメント100質量部に対して0.01質量部~0.10質量部であり、
下記式(1)~式(3)で表される関係式を満たすPCグラウト用セメント組成物を用いるPCグラウトの施工方法。
Y=-30X+t (1)
1.0<Y<10.0 (2)
11.0<t<29.0 (3)
但し、式(1)~式(3)において、
Y:ポルトランドセメント100質量部に対するシリカフュームの質量部、
X:ポルトランドセメント100質量部に対するセルロース系増粘剤の質量部、
t:係数、
である。
【請求項2】
前記ダクトの内径が、30mm~100mmである、請求項1に記載のPCグラウトの施工方法。
【請求項3】
前記PCグラウトを2L/分~20L/分で注入する、請求項1又は2に記載のPCグラウトの施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PCグラウトの施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PCグラウトは、例えば、ポストテンション方式PC(プレストレストコンクリート)のダクト内に配置されたPC鋼材を腐食から保護するためや、コンクリートとPC鋼材を一体化するために、ダクト内に充填されるグラウトである(例えば、特許文献1を参照。)。PCグラウトは、ダクト内にポンプ圧送されて充填される。このため、PCグラウトには、ポンプ圧送可能な流動性を有することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ポストテンション方式PCのPCグラウトが充填されるダクトには、下り勾配の傾斜部が存在することがある。その傾斜部にPCグラウトが充填される際に、PCグラウトの鉛直方向における下側部分が、上側部分よりも先行して流動する、所謂「先流れ」が生じることがある。PCグラウトの先流れが生じると、ダクト内に空気が残留することがある。
【0005】
また、ダクトに充填されたPCグラウトが硬化する前に、PCグラウトの一部の構成材料が分離や沈降することによって、PCグラウトから水が遊離してダクトの上部に溜まるブリーディングが発生することがある。ブリーディングが発生すると、その後に遊離した水が揮発し、水が存在していた部分に空気が残留することがある。
【0006】
このように、ダクト内に残留空気が生じると、PC鋼材に、PCグラウトの硬化物により好適に被覆されていない部分が生じる場合がある。その場合、PC鋼材の表面に十分な不動態皮膜が形成されず、PC鋼材に錆が生じることにより、PC鋼材の耐久性が低下する虞がある。しかしながら、先流れやブリーディングの発生を抑制する為に、PCグラウトの流動性を低くすると、PCグラウトを圧送するために要する圧力が高くなりすぎ、PCグラウトを好適に充填することが困難になる場合がある。従って、先流れ及びブリーディングが生じにくく、かつ、PCグラウトを圧送しやすいPCグラウトの施工方法が求められている。
【0007】
本発明の主な目的は、先流れ及びブリーディングが生じにくく、かつ、PCグラウトを圧送しやすいPCグラウトの施工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究の結果、ポルトランドセメントと、有機系増粘剤としてのセルロース系増粘剤と、無機系増粘材としてのシリカフュームとを含むセメント組成物を、下記式(1)~式(3)で表される関係を満たすように調製したPCグラウト用セメント組成物を用いたPCグラウトを用いることにより、先流れ及びブリーディングが生じにくく、かつPCグラウトの圧送が容易になることに想到し、本発明を成すに至った。
【0009】
すなわち、本発明に係るPCグラウトの施工方法は、PC鋼材を張架した下り勾配を有するダクト内に、PCグラウトを注入するPCグラウトの施工方法に関する。本発明に係るPCグラウトの施工方法では、注入口を基点として中心線が下方向に1°~30°傾斜するようにダクトを配置する配置工程を行う。PCグラウト用セメント組成物と水とを混練してPCグラウトを調製する調製工程を行う。PCグラウトをホッパーに収容する収容工程を行う。ホッパー内のPCグラウトをポンプにより連続的にダクトの注入口からダクト内に圧送して注入する注入工程を行う。PCグラウト用セメント組成物として、ポルトランドセメントと、有機系増粘剤としてのセルロース系増粘剤と、無機系増粘材としてのシリカフュームとを含み、下記式(1)~式(3)で表される関係を満たすPCグラウト用セメント組成物を用いる。
【0010】
Y=-30X+t (1)
1.0<Y<10.0 (2)
11.0<t<29.0 (3)
但し、式(1)~式(3)において、
Y:ポルトランドセメント100質量部に対するシリカフュームの質量部、
X:ポルトランドセメント100質量部に対するセルロース系増粘剤の質量部、
t:係数、
である。
【0011】
本発明に係るPCグラウトの施工方法では、ダクトの内径が、30mm~100mmであることが好ましい。
【0012】
本発明に係るPCグラウトの施工方法では、PCグラウトを2L/分~20L/分で注入することが好ましい。
【0013】
本発明に係るPCグラウトの施工方法では、セルロース系増粘剤の1質量%水溶液の20℃、せん断速度0.1s-1における粘度が、1Pa・s~20Pa・sであり、セルロース系増粘剤の1質量%水溶液の20℃、せん断速度30s-1における粘度が、0.001Pa・s~0.015Pa・sであることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、先流れ及びブリーディングが生じにくく、かつ、PCグラウトを圧送しやすいPCグラウトの施工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例1~実施例10及び比較例1~比較例9のそれぞれのセルロース系増粘剤の配合量とシリカフュームの配合量とを表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
まず、本発明に係るPCグラウトの施工方法に用いるPCグラウト用セメント組成物について説明する。
【0017】
(PCグラウト用セメント組成物)
本発明に用いるPCグラウト用セメント組成物は、ポルトランドセメントと、有機系増粘剤としてのセルロース系増粘剤と、無機系増粘材としてのシリカフュームとを含む。本発明に係るPCグラウト用セメント組成物は、下記式(1)~式(3)で表される関係を満たす。
【0018】
Y=-30X+t (1)
1.0<Y<10.0 (2)
11.0<t<29.0 (3)
但し、式(1)~式(3)において、
Y:ポルトランドセメント100質量部に対するシリカフュームの質量部、
X:ポルトランドセメント100質量部に対するセルロース系増粘剤の質量部、
t:係数、
である。
【0019】
(ポルトランドセメント)
好ましく用いられるポルトランドセメントとしては、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント及び耐硫酸塩ポルトランドセメント等が挙げられる。これらのポルトランドセメントのうちの1種のみを用いてもよいし、複数種類を混合して用いてもよい。
【0020】
上記ポルトランドセメントのなかでも、本発明に係るPCグラウト用セメント組成物を用いて調製したPCグラウトの硬化特性を良好にする観点からは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント及び超早強ポルトランドセメントからなる群から選ばれた少なくとも1種のポルトランドセメントを用いることがより好ましい。
【0021】
(有機系増粘剤)
本発明においては、有機系増粘剤として、セルロース系増粘剤が用いられる。有機系増粘剤として、セルロース系増粘剤のみを用いてもよいし、セルロース系増粘剤に加え、セルロース系増粘剤以外の種類の有機系増粘剤を併用してもよい。その場合、セルロース系増粘剤は、有機系増粘剤100質量部に対して、50質量部以上用いることが好ましく、70質量部以上用いることがより好ましい。また、好ましく用いられるセルロース系増粘剤以外の種類の有機系増粘剤の具体例としては、デンプン系増粘剤、グアーガム系増粘剤、ビニル系増粘剤等が挙げられる。
【0022】
セルロース系増粘剤としては、例えば、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の少なくとも1種を主成分として含むセルロース系増粘剤を好適に用いることができる。セルロース系増粘剤は、上記セルロースのうちの1種のみを主成分として含んでいてもよく、複数種類を主成分として含んでいてもよい。
【0023】
なお、本発明において、「主成分として含む」とは、50質量%以上含むことを意味する。
【0024】
セルロース系増粘剤の1質量%水溶液の20℃、せん断速度0.1s-1における粘度は、1Pa・s~20Pa・sであることが好ましく、5Pa・s~15Pa・sであることがより好ましく、7Pa・s~13Pa・sであることがさらに好ましく、8Pa・s~12Pa・sであることがなお好ましい。
【0025】
セルロース系増粘剤の1質量%水溶液の20℃、せん断速度0.1s-1における粘度を上記範囲とすることで、PCグラウト充填時の先流れをさらに抑制することができる。
【0026】
セルロース系増粘剤の1質量%水溶液の20℃、せん断速度30s-1における粘度は、0.001Pa・s~0.015Pa・sであることが好ましく、0.002Pa・s~0.013Pa・sであることがより好ましく、0.003Pa・s~0.01Pa・sであることがさらに好ましく、0.004Pa・s~0.009Pa・sであることがなお好ましい。
【0027】
セルロース系増粘剤の1質量%水溶液の20℃、せん断速度30s-1における粘度を上記範囲とすることで、PCグラウトのポンプ圧送性をさらに改善することができる。また、ブリーディングの発生をより効果的に抑制することができる。
【0028】
なお、「ポンプ圧送性」とは、PCグラウトをダクト内に圧送するときに必要となる圧力のことであり、当該圧力が低いほどポンプ圧送性が良好となる。
【0029】
(無機系増粘材)
本発明においては、無機系増粘材として、シリカフュームが用いられる。無機系増粘材として、シリカフュームのみを用いてもよいし、シリカフュームに加え、シリカフューム以外の種類の無機系増粘材を併用してもよい。その場合、シリカフュームは、無機系増粘材100質量部に対して、50質量部以上用いることが好ましく、70質量部以上用いることがより好ましい。また、好ましく用いられるシリカフューム以外の種類の無機系増粘材の具体例としては、ベントナイト、カオリナイト、タルク等が挙げられる。
【0030】
シリカフュームの主成分は、シリカである。シリカフュームとしては、アルミニウム含有量が少ないシリカフュームが好ましく用いられる。アルミニウムは水と反応し、膨張作用の大きな水素を発生させるため、PCグラウト硬化物の強度低下に繋がる虞があるためである。
【0031】
シリカフュームのBET比表面積は、好ましくは15m2/g~25m2/gであり、より好ましくは16m2/g~24m2/gであり、さらに好ましくは17m2/g~23m2/gである。シリカフュームのBET比表面積を上記範囲とすることにより、PCグラウト充填時の先流れをより効果的に抑制することができる。また、PCグラウトのポンプ圧送性をさらに改善することができる。
【0032】
(その他の成分)
本発明に係るPCグラウト用セメント組成物は、本発明の効果が損なわれない範囲で、ポルトランドセメント、セルロース系増粘剤及び無機系増粘材以外の成分をさらに含んでいてもよい。
【0033】
(流動化剤)
本発明に係るPCグラウト用セメント組成物は、本発明の効果が損なわれない範囲で、流動化剤をさらに含んでいることが好ましい。流動化剤を含ませることにより、先流れの抑制や圧送性がより向上したPCグラウトを実現し得る。
【0034】
好ましく用いられる流動化剤としては、例えば、ポリカルボン酸系流動化剤等が挙げられる。ポリカルボン酸系流動化剤の具体例としては、ポリエーテル・ポリカルボン酸系流動化剤、変形ポリカルボン酸系流動化剤等が挙げられる。本発明に係るPCグラウト用セメント組成物は、1種の流動化剤のみを含んでいてもよいし、複数種類の流動化剤を含んでいてもよい。
【0035】
流動化剤の含有量は、ポルトランドセメント100質量部に対して、好ましくは0.01質量部~0.10質量部であり、より好ましくは0.02質量部~0.09質量部であり、さらに好ましくは0.03質量部~0.08質量部である。流動化剤の含有量を上記範囲とすることで、PCグラウトのポンプ圧送性をさらに改善することができる。
【0036】
(無機系膨張材、消泡剤、収縮低減剤、凝結調整剤)
本発明に係るPCグラウト用セメント組成物は、本発明の効果が損なわれない範囲で、無機系膨張材、消泡剤、収縮低減剤及び凝結調整剤の群から選ばれる少なくとも1種をさらに含んでいることが好ましい。無機系膨張材、消泡剤、収縮低減剤及び凝結調整剤の群から選ばれる少なくとも1種の合量は、ポルトランドセメント100質量部に対して、好ましくは0.1質量部~8.5質量部であり、より好ましくは0.15質量部~7.85質量部であり、さらに好ましくは0.2質量部~7.2質量部である。
【0037】
(無機系膨張材)
無機系膨張材を用いることにより、高い圧縮強度を有するPCグラウト硬化体を実現し得る。
【0038】
好ましく用いられる無機系膨張材としては、例えば、生石灰-石膏系膨張材、石膏系膨張材、カルシウムサルフォアルミネート系膨張材等が挙げられる。これらのうちの1種のみを用いてもよいし、複数種類を混合して用いてもよい。無機系膨張材の含有量は、ポルトランドセメント100質量部に対して、好ましくは3質量部~7質量部であり、より好ましくは3.5質量部~6.5質量部であり、さらに好ましくは4質量部~6質量部である。無機系膨張材の含有量を上記範囲とすることで、より高い圧縮強度を有するPCグラウト硬化体を得ることができる。より高い圧縮強度を実現する観点からは、上記無機系膨張材のなかでも、生石灰-石膏系膨張材を用いることがより好ましい。
【0039】
(消泡剤)
消泡剤を用いることにより、硬化した際に、より高い圧縮強度を有するPCグラウトを実現し得る。
【0040】
好ましく用いられる消泡剤としては、例えば、鉱油系、シリコーン系、アルコール系、ポリエーテル系等の合成物質又は植物由来の天然物質等が挙げられる。これらのうちの1種のみを用いてもよいし、複数種類を混合して用いてもよい。消泡剤の含有量は、ポルトランドセメント100質量部に対して、好ましくは0.2質量部~0.5質量部であり、より好ましくは0.25質量部~0.45質量部であり、さらに好ましくは0.3質量部~0.4質量部である。消泡剤の含有量を上記範囲とすることで、硬化した際に、より高い圧縮強度を有するPCグラウトが実現できる。上記消泡剤のなかでも、優れた分散性と優れた持続効果とを実現する観点から、ポリエーテル系や鉱油系の消泡剤がより好ましく用いられる。
【0041】
(収縮低減剤)
収縮低減剤を用いることにより、硬化物のひび割れの発生を抑えることができるPCグラウトが実現し得る。
【0042】
好ましく用いられる収縮低減剤としては、例えば、低級・高級アルコールアルキレンオキシド付加物やグリコールエーテル誘導体などが挙げられる。これらのうちの1種のみを用いてもよいし、複数種類を混合して用いてもよい。収縮低減剤の含有量は、ポルトランドセメント100質量部に対して、好ましくは0.1質量部~0.5質量部であり、より好ましくは0.15質量部~0.45質量部であり、さらに好ましくは0.2質量部~0.4質量部である。収縮低減剤の含有量を上記範囲とすることで、硬化物のひび割れの発生を抑えることが可能となる。PCグラウト硬化物の寸法安定性をさらに向上する観点からは、上記収縮低減剤のなかでもポリエーテル誘導体がより好ましく用いられる。
【0043】
(凝結調整剤)
凝結調整剤を用いることにより、硬化時間が適度に長く、適度な可使時間を有するPCグラウトを実現し得る。
【0044】
好ましく用いられる凝結調整剤の具体例としては、例えば、ナトリウム塩、具体的には、硫酸ナトリウム及び重炭酸ナトリウム等の無機ナトリウム塩や、酒石酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム及びグルコン酸ナトリウム等の有機ナトリウム塩などが挙げられる。これらのうちの1種のみを用いてもよいし、複数種類を混合して用いてもよい。凝結調整剤の含有量は、ポルトランドセメント100質量部に対して、好ましくは0.1質量部~0.5質量部であり、より好ましくは0.15質量部~0.45質量部であり、さらに好ましくは0.2質量部~0.4質量部である。消泡剤の含有量を上記範囲とすることで、硬化時間が適度に長く、適度な可使時間を有するPCグラウトを実現し得る。
【0045】
(無機系増粘材及び有機系増粘剤の含有量)
本発明において、無機系増粘材及び有機系増粘剤の含有量は、下記式(1)~式(3)で表される関係を満たす。
【0046】
Y=-30X+t (1)
1.0<Y<10.0 (2)
11.0<t<29.0 (3)
但し、式(1)~式(3)において、
Y:ポルトランドセメント100質量部に対するシリカフュームの質量部、
X:ポルトランドセメント100質量部に対するセルロース系増粘剤の質量部、
t:係数、
である。
【0047】
先流れの観点からは、下記の式(2-1)を満たすことが好ましく、下記の式(2-2)を満たすことが好ましい。
【0048】
2.0<Y<9.0 (2-1)
3.0<Y<8.0 (2-2)
【0049】
ポンプ圧送性、ブリーディング率の観点からは、下記の式(3-1)を満たすことが好ましい。
【0050】
12.5<t<27.5 (3-1)
【0051】
(PCグラウトの施工方法)
本発明に係るPCグラウトの施工方法は、PC鋼材を張架した下り勾配を有するダクト内に、PCグラウトを注入するPCグラウトの施工方法に関する。
【0052】
本発明に係るPCグラウトの施工方法は、配置工程と、調製工程と、収容工程と、注入工程とを備える。なお、配置工程と、調製工程及び収容工程とは、並行して行ってもよいし、一方の工程を先に行い、他方の工程を後に行ってもよい。
【0053】
配置工程では、注入口を基点として中心線が下方向に1°~30°傾斜するように前記ダクトを配置する。詳細には、ダクトを有し、ダクト内にPC鋼材が張架されたコンクリート部材本体を、ダクトが注入口を基点として中心線が下方向に1°~30°傾斜するように配置する。また、中心線が下方向に5°~30°傾斜していてもよく、中心線が下方向に10°~30°傾斜していてもよい。
【0054】
ダクトの内径は、30mm~100mmであってもよく、40mm~95mmであってもよく、60mm~90mmであってもよい。ダクトの内径を上記範囲とすることで、圧送性に優れたPCグラウトが得られる。
【0055】
調製工程では、まず、PCグラウト用セメント組成物と水とを混練して前記PCグラウトを調製する。詳細には、まず、PCグラウト用セメント組成物を調製する。具体的には、ポルトランドセメント、有機系増粘剤としてのセルロース系増粘剤、無機系増粘材としてのシリカフューム等の原料を、式(1)~式(3)が満たされるように調合し、混合することにより、PCグラウト用セメント組成物を得る。次に、得られたPCグラウト用セメント組成物と水とを混練することによりPCグラウトを調製する。混練水量は、PCグラウト用セメント組成物100質量部に対して、好ましくは30質量部~44質量部であり、より好ましくは32質量部~42質量部であり、さらに好ましくは34質量部~40質量部である。
【0056】
収容工程では、PCグラウトをホッパーに収容する。
【0057】
注入工程では、ホッパー内のPCグラウトをポンプにより連続的にダクトの注入口からダクト内に圧送して注入する。その後、PCグラウトを硬化させることにより、PCコンクリート部材を完成させることができる。
【0058】
PCグラウトのダクトへの注入速度は、2L/分~20L/分であることが好ましく、3L/分~18L/分であることがより好ましく、5L/分~15L/分であることがさらに好ましい。PCグラウトのダクトへの注入速度を上記範囲とすることで、シース内へ均一に充填が可能となる。
【0059】
以上のように、ポルトランドセメントと、有機系増粘剤としてのセルロース系増粘剤と、無機系増粘材としてのシリカフュームとを含むセメント組成物を、式(1)~式(3)で表される関係を満たすように調製したPCグラウト用セメント組成物を用いたPCグラウトを用いる。このため、先流れ及びブリーディングが生じにくく、かつ容易にPCグラウトを圧送することができる。
【0060】
(先流れ性)
PCグラウトの先流れは、好ましくは0.1cm~3cmであり、より好ましくは0.1cm~2cmである。
【0061】
なお、PCグラウトの先流れは、下記の先流れ性試験を行うことにより測定することができる。
【0062】
まず、直径が65mmのアクリル管を鉛直方向に沿って配置した状態で、アクリル管に混練直後のPCグラウトを430g充填する。次に、PCグラウトが充填されたアクリル管の下部がアクリル管の上部よりも上となるように水平方向から15°傾けて、PCグラウトの流動がストップするまでアクリル管を静置した。その状態で、PCグラウトの下端部の鉛直方向下端と、上端との間のアクリル管の軸心に沿った距離を測定し、その距離をPCグラウトの先流れとする。
【0063】
(ブリーディング率)
PCグラウトのブリーディング率は、好ましくは0%~0.3%であり、より好ましくは0%~0.15%である。
【0064】
なお、PCグラウトのブリーディング率は、下記の試験を行うことにより測定することができる。
【0065】
100mm×100mmのポリエチレン容器に、PCグラウトを400ml充填し、透明なガラス板でポリエチレン容器に蓋をした後、3時間が経過するまで、0.5時間ごとに表面に遊離したブリーディング水を採取し、採取したブリーディング水の積算体積をPCグラウトの体積で除算することによりブリーディング率を求めることができる。
【0066】
(レオロジー特性)
PCグラウトのせん断応力0.1s-1時のレオロジー特性は、好ましくは30Pa~168Pa、より好ましくは32Pa~100Pa、さらに好ましくは35Pa~80Paである。
【0067】
PCグラウトのせん断応力30s-1時のレオロジー特性は、好ましくは70Pa~299Pa、より好ましくは100Pa~250Paである。
【0068】
PCグラウトのレオロジー特性を上記範囲とすることにより、より良好なポンプ圧送性を実現でき、かつ、先流れをより効果的に抑制することができる。
【0069】
なお、PCグラウトのレオロジー特性は、下記の試験行うことにより測定することができる。
【0070】
Anton Paar社製レオメーターMCR101を用いて、共軸二重円筒治具CC27/P6に混練直後のPCグラウトを充填し、低せん断速度0.1s-1及び高せん断速度30s-1のそれぞれにおいてせん断応力(Pa)を測定し、測定値をレオロジー特性とする。
【0071】
なお、上記各試験は、20℃、湿度65%RHの条件下において行う。
【0072】
以下、本発明について、具体的な実施例に基づいて、さらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0073】
(実施例1~実施例10及び比較例1~比較例9)
下記の表1に示す配合割合で原料をアイリッヒミキサーを用いて7分間混合し、PCグラウト用セメント組成物を調製した。
【0074】
次に、調製したPCグラウト用セメント組成物1.0kgに水400gを加え、20℃、湿度65%RHの条件下、ケミスターラーを用いて2分間混練することによりPCグラウトを得た。
【0075】
但し、液状タイプの有機系増粘剤O3を用いた比較例6は、表1に示す原料のうち、有機系増粘剤O3を除いた原料を混合し、PCグラウト用セメント組成物を得、そのPCグラウト用セメント組成物と水とを混練する際に有機系増粘剤O3を加えた。
【0076】
なお、表1に示すC、O1、O2、O3、O4、O5、I、F、E、Dは、下記の通りである。表1に示す各成分O1、O2、O3、O4、O5、I、F、E、Dの配合割合は、ポルトランドセメントを100質量部とした場合の質量部を示している。
【0077】
【0078】
(1)ポルトランドセメント
C:ポルトランドセメント (早強ポルトランドセメント、ブレーン比表面積4440cm2/g)
(2)有機系増粘剤
O1:セルロース系増粘剤「主成分:ヒドロキシプロピルメチルセルロース」
(せん断速度0.1s-1の粘度9.76Pa・s、せん断速度30s-1の粘度0.00678Pa・s)
O2:界面活性ポリマー「カチオン+アニオンタイプ」
(せん断速度0.1s-1の粘度0.0178Pa・s、せん断速度30s-1の粘度0.00129Pa・s)
O3:界面活性ポリマー「カチオン+アニオンタイプ、液状タイプ」
(せん断速度0.1s-1の粘度0.053Pa・s、せん断速度30s-1の粘度0.00152Pa・s)
O4:吸水性合成樹脂ポリマー5514F
(せん断速度0.1s-1の粘度13.5Pa・s、せん断速度30s-1の粘度0.498Pa・s)
O5:吸水性合成樹脂ポリマー3910F
(せん断速度0.1s-1の粘度48.1Pa・s、せん断速度30s-1の粘度2.11Pa・s、)
【0079】
上記粘度は、20℃の条件下において、有機系増粘剤の1質量%水溶液をAnton Paar社製レオメーターMCR101に共軸二重円筒治具CC27/P6を用いて、せん断速度0.1s-1及び30s-1の条件で0.1s-1で120秒測定して得られた値である。また、使用原料のうち、有機系増粘剤のO3は液状であり、それ以外は粉末状である。
(3)無機系増粘材
I:シリカフューム(BET比表面積20.0m2/g)
(4)流動化剤
F:ポリカルボン酸系流動化剤
(5)無機系膨張材
E:生石灰-石膏系膨張材
(6)消泡剤
D:ポリエーテル系消泡剤
【0080】
(評価)
実施例1~実施例10及び比較例1~比較例9のそれぞれで作製したPCグラウトにつき、上記評価方法により、ブリーディング率、レオロジー特性、先流れ性、ポンプ圧送性を評価した。結果を表2及び
図1に示す。
【0081】
なお、ブリーディング率に関しては、ブリーディング率が0.3%以内であれば○とし、0.3%を超える場合は×と判断した。
【0082】
先流れ性に関しては、先流れが3cm以内であるものは○とし、3cmを超えて6cm以内であるものは△とし、6cmを超えるものは×と判断した。
【0083】
ポンプ圧送性に関しては、30s-1時のせん断応力が300Pa以内の材料は○、300Paを超える材料は×とした。
【0084】
なお、比較例3に関しては、ブリーディング率及び先流れ性の評価を行わなかった。
【0085】
【0086】
表2及び
図1に示す結果から、下記式(1)~式(3)で表される関係を満たす場合に、先流れ及びブリーディングが生じにくく、かつ、圧送性に優れていることが分かる。
【0087】
(比較例10)
比較例6と同様の配合割合で原料をアイリッヒミキサーを用いて7分間混合し、PCグラウト用セメント組成物を調製した。
【0088】
次に、調製したPCグラウト用セメント組成物20.0kgに水8kgを加え、20℃(外気温:12℃)、湿度65%RHの条件下、ハンドミキサーを用いて2分間混練することによりPCグラウトを得た。なお、比較例10においては、有機系増粘剤O3を水と共に加えた。
【0089】
(実施例11)
PCグラウト用セメント組成物を調製するにあたり、実施例1と同様の配合割合で原料を混合したこと以外は、比較例10と同様にしてPCグラウトを得た。
【0090】
(評価)
比較例10及び実施例11のそれぞれで作製したPCグラウトについて、下記の充填試験(1)を行った。結果を表3に示す。
【0091】
充填試験(1)
注入口を基点として中心線が下方に向に15°傾けた、内径70mmφ、全長3mの半透明ポリエチレンシース管(ダクト)内に、12S12.7のPC鋼より線(鋼材:JIS G 3536-2008)を設置した後、混練直後のPCグラウトを、注入口から注入速度5L/分で充填したときの、注入圧力、注入中の先流れ性、24時間後のブリーディングを測定した。注入圧力は圧力計により測定した。先流れが10cm以下であるものは○とし、10cmを超えるものは×と判断した。ブリーディング水が目視で確認できなかった場合は○とし、目視で確認された場合は×とした。結果を表3に示す。
【0092】
【0093】
(実施例12)
下記の表4に示す配合割合で原料をアイリッヒミキサーを用いて7分間混合し、PCグラウト用セメント組成物を調製した。
【0094】
次に、調製したPCグラウト用セメント組成物50.0kgに水18.5kgを加え、20℃(外気温:20℃)、湿度65%RHの条件下、グラウトミキサーを用いて2分間混練することによりPCグラウトを得た。
【0095】
【0096】
(評価)
実施例12で作製したPCグラウトについて、下記の充填試験(2)を行った。結果を表5に示す。
【0097】
充填試験(2)
注入口を基点として中心線が下方向に25°傾けた、内径70mmφ、全長12mの半透明ポリエチレンシース管内に、12S12.7のPC鋼より線を設置した後、混練直後のPCグラウトを、注入口から注入速度5L/分で充填したときの、注入圧力、注入中の先流れ性、24時間後のブリーディングおよび充填後の残留空隙を測定した。注入圧力は圧力計により測定した。先流れが10cm以下であるものは○とし、10cmを超えるものは×と判断した。ブリーディングとしては、ブリーディング水が目視で確認できなかった場合は○とし、目視で確認された場合は×とした。残留空隙が目視で確認できなかった場合は○、1箇所でも確認されれば×とした。結果を表5に示す。
【0098】
(実施例13)
実施例12と同様にしてPCグラウトを得た。
【0099】
(評価)
注入口を基点として中心線が下方向に25°傾けた、内径80mmφ、全長12mの半透明ポリエチレンシース管内に、12S15.2のPC鋼より線を設置した後、混練直後のPCグラウトを、注入口から注入速度5L/分で充填したときの、注入圧力、注入中の先流れ性、24時間後のブリーディングおよび充填後の残留空隙を測定した。注入圧力は圧力計により測定した。先流れが10cm以下であるものは○とし、10cmを超えるものは×と判断した。ブリーディングとしては、ブリーディング水が目視で確認できなかった場合は○とし、目視で確認された場合は×とした。残留空隙が目視で確認できなかった場合は○、1箇所でも確認されれば×とした。結果を表5に示す。
【0100】