(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-06
(45)【発行日】2022-04-14
(54)【発明の名称】ヘパリン起因性血小板減少症の診断のための活性化アッセイ
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20220407BHJP
G01N 33/542 20060101ALI20220407BHJP
G01N 33/536 20060101ALI20220407BHJP
C07K 16/18 20060101ALN20220407BHJP
【FI】
G01N33/53 D
G01N33/542 Z
G01N33/536 E
C07K16/18
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018109988
(22)【出願日】2018-06-08
【審査請求日】2021-05-25
(32)【優先日】2017-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】510259921
【氏名又は名称】シーメンス ヘルスケア ダイアグノスティクス プロダクツ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】ハーラルト・アルタウス
(72)【発明者】
【氏名】ゲアリンデ・クリスト
(72)【発明者】
【氏名】ヘルベルト・シュヴァルツ
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエラ・ヴィッケ
(72)【発明者】
【氏名】ノルベルト・ツァンダー
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2007/0190582(US,A1)
【文献】特開平04-228088(JP,A)
【文献】特表2014-517311(JP,A)
【文献】特表2015-515009(JP,A)
【文献】Laila Vengal,Testing for Heparin-Induced Thrombocytopenia,Cleveland Clinic,2016年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
体液サンプル中の抗PF4/ヘパリン複合体抗体を検出するための方法であって:
i.サンプルと、血小板含有試薬およびPF4結合性非分枝多糖類またはPF4結合性ポリアニオンを混合して反応混合物を準備する工程;
ii.反応混合物をインキュベートする工程;次に
iii.反応混合物中のPF4量を決定する工程;
iv.こうして決定された、反応混合物中のPF4量を、抗PF4/ヘパリン複合体抗体を含有しないことがわかっているドナー由来の体液サンプルを含有する反応混合物中のPF4量に対する所定の基準値と比較する工程;および
v.反応混合物中の決定されたPF4量が、基準値を超える場合、サンプル中に抗PF4/ヘパリン複合体抗体が存在することを確定する工程
を含む前記方法。
【請求項2】
血小板含有試薬は、抗PF4/ヘパリン複合体抗体を含有していないことがわかっている1名またはそれ以上の健康なドナー由来のヒト血小板を含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
反応混合物中のPF4量は、少なくとも1種の抗PF4抗体と反応混合物を接触させることによって決定される、請求項1または2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
反応混合物と
・第1および第2の抗PF4抗体ならびに
・シグナル生成系の第1および第2の成分が、互いに極めて接近すると、検出可能なシグナルを生成するように相互作用する、シグナル生成系の第1および第2の成分
を混合し、第1の抗PF4抗体は、シグナル生成系の第1の成分と会合状態にある、または反応混合物をインキュベーションしている間、シグナル生成系の第1の成分と会合しており、第2の抗PF4抗体は、シグナル生成系の第2の成分と会合状態にある、または反応混合物をインキュベーションしている間、シグナル生成系の第2の成分と会合している請求項3に記載の方法。
【請求項5】
シグナル生成系の第1および第2の成分はいずれの場合も粒状固相を含み、反応混合物中の粒状固相の凝集を測定する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
シグナル生成系の第1の成分は化学発光剤であり、シグナル生成系の第2の成分は光増感剤である、またはその逆であり、反応混合物中の化学発光を測定する、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
得られた反応混合物は、血小板を除去するための遠心分離工程にかけない、請求項4~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
ヘパリン起因性血小板減少症を診断するための方法であって、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法が、患者由来の体液サンプル中に抗PF4/ヘパリン複合体抗体が存在することを検出するために使用される、前記診断するための方法。
【請求項9】
下記成分:
a.血小板を含有する第1の試薬;
b.PF4結合性非分枝多糖類またはPF4結合性ポリアニオンを含有する第2の試薬;および
c.少なくとも1種の試薬が抗PF4抗体を含有する、PF4を検出するための1種またはそれ以上の試薬
を含有する、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法を実行するためのアッセイキット。
【請求項10】
第2の試薬は、
・ヘパリン、未分画ヘパリン、分画ヘパリン、硫酸デキストラン、およびフコイダンからなる群からのPF4結合性非分枝多糖類;または
・ポリビニル硫酸、ポリビニルスルホン酸、ポリビニルリン酸、ポリビニルホスホン酸、ポリスチレン硫酸、およびポリスチレンスルホン酸からなる群からのPF4結合性ポリアニオン
を含有する、請求項9に記載のアッセイキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インビトロ診断の分野に属し、ヘパリン起因性血小板減少症の確定のための、機能的で、容易に自動化が可能なアッセイに関する。
【背景技術】
【0002】
ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)は、ヘパリン療法中に発症することがあり、致死的な血栓塞栓性合併症をもたらすことがある血栓性障害である。罹患患者は、ヘパリンと血小板第4因子(PF4)から構成される複合体と結合する抗体、いわゆる抗PF4/ヘパリン複合体抗体を産生する。インビボにおいて、抗体が結合したPF4/ヘパリン複合体は、血小板表面に結合し、血小板を活性化させる。これは、血小板数の低減を招き、血栓塞栓症リスクの増大に繋がる。
【0003】
HITの診断には、主に2つのアッセイの原理が用いられる。第1のアッセイの原理は、患者由来の体液サンプル中の抗PF4/ヘパリン複合体抗体の直接検出に基づく。この目的のため、サンプルを、PF4/ヘパリン複合体またはPF4と別の適当なポリアニオン(例えば、ポリビニルスルホン酸など)から構成される複合体と接触させ、サンプル中に存在するあらゆる抗PF4/ヘパリン複合体抗体の結合を、従来の免疫アッセイ法(例えば、ELISA)を用いて検出する。しかし、抗PF4/ヘパリン複合体抗体の検出は高感度であるが、十分に特異的ではない、すなわち、陰性結果によって、HITの可能性は適切かつ確実に否定されるものの、該抗体の検出は、HITの陽性診断として不十分であるという欠点がある。したがって、第2のアッセイの原理に基づく機能アッセイによる確定が推奨される。
【0004】
第2の機能アッセイの原理は、血小板により活性化される抗PF4/ヘパリン複合体抗体の活性の検出に基づく。前記アッセイの原理では、1名またはそれ以上の正常ドナー由来の洗浄血小板を、患者由来の血漿または血清サンプルおよびヘパリンと混合し、公知の活性化マーカーに基づいて、例えば、セロトニン放出量に基づいて(セロトニン放出アッセイ)、または視覚的に識別可能な血小板の凝集反応に基づいて(HIPAアッセイ)、血小板の活性化を測定する。患者のサンプルが抗PF4/ヘパリン複合体抗体を含有する場合、正常サンプル(このような抗体を含有しない)と比較し、増大された血小板の活性化を確定することが可能である。
【0005】
これまで、記載された2つの機能アッセイの原理は、従来の検査室における実施が不可能であり、これらの原理は、複雑な手動操作を必要とし、このため、訓練された人員によってのみ実行可能であることから、自動化による実施が不可能であった。さらに、セロトニン放出アッセイは、遠心分離工程および放射性物質の使用による血小板の除去を必要とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、体液サンプル中の抗PF4/ヘパリン複合体抗体を検出するための機能的方法であって、前述の欠点を回避した機能的方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
検査中のサンプルを含有する反応混合物中のPF4、血小板、およびヘパリン(または、機能的に同等であるPF4結合性多糖類もしくはポリアニオン)を定量的に測定することによって、サンプルが抗PF4/ヘパリン複合体抗体を含有するかどうかを確定することは、可能であることが見出された。記載の反応混合物中、抗PF4/ヘパリン複合体抗体を含有するサンプルは、血小板におけるPF4分泌を明らかに引き起こしており、これは、反応混合物中のPF4量の増加が、抗PF4/ヘパリン複合体抗体の存在を、ひいては、ヘパリン起因性血小板減少症の存在を示すことを意味している。
【0008】
したがって、本発明は、体液サンプル中の抗PF4/ヘパリン複合体抗体を検出するための方法を提供する。該方法は:
i.サンプルと、血小板含有試薬およびPF4結合性非分枝多糖類またはPF4結合性ポリアニオンを混合して反応混合物を準備するする工程;
ii.反応混合物をインキュベートする工程;次に
iii.反応混合物中のPF4量を決定する工程;
iv.こうして決定された、反応混合物中のPF4量を、抗PF4/ヘパリン複合体抗体を含有しないことがわかっているドナー由来の体液サンプルを含有する反応混合物中のPF4量に対する所定の基準値と比較する工程;および
v.反応混合物中の決定されたPF4量が、基準値を超える場合、該サンプル中に抗PF4/ヘパリン複合体抗体が存在することを確定する工程
を含む。
【0009】
体液サンプルは、好ましくはヒト由来である。好ましくは、体液サンプルは、実質的に血小板を含有しないものであり、具体的には、血漿または血清である。
【0010】
反応混合物の準備に必要な血小板含有試薬は、好ましくは、洗浄および再懸濁されたヒト血小板の懸濁液である。該血小板は、好ましくは、抗PF4/ヘパリン複合体抗体を含有していないことがわかっている1名またはそれ以上の健康なドナー由来のものである。適当な血小板含有試薬は、多血小板血漿を得るため、例えば、好ましくは、ヒルジンも加えたクエン酸全血サンプルを遠心分離することによって調製される。クエン酸溶液およびアピラーゼを、該多血小板血漿に再度加え、遠心分離を再度実施し、その後、細胞を含有しない上清を捨てる。最後に、ペレット化された血小板を緩衝化懸濁溶液に集める。
【0011】
さらに、体液サンプルを、PF4結合性非分枝多糖類またはPF4結合性ポリアニオンと混合する。検出しようとする抗PF4/ヘパリン複合体抗体が結合する複合体を、PF4と形成する多様なPF4結合性物質が知られている。適当な非分枝多糖類は、例えば、ヘパリン、未分画ヘパリン(UFH)、分画ヘパリン(LMWH)、硫酸デキストラン、およびフコイダンである。適当なポリアニオンは、例えば、ポリビニル硫酸、ポリビニルスルホン酸、ポリビニルリン酸、ポリビニルホスホン酸、ポリスチレン硫酸、およびポリスチレンスルホン酸である。
【0012】
反応混合物中のPF4量の決定前に、PF4結合性非分枝多糖類またはPF4結合性ポリアニオンとサンプル中に存在するPF4タンパク質との間の複合体を形成させ、サンプル中に恐らく存在する抗PF4/ヘパリン複合体抗体と形成された複合体を結合させ、最後に、抗体が結合した複合体が血小板表面に結合することによって血小板を活性化させるための期間、反応混合物をインキュベートする。典型的なインキュベーション時間は、好ましくは+37℃で、5~10分の間である。
【0013】
十分なインキュベーション後、反応混合物中のPF4量を決定するため、工程を実施する。該反応混合物中のPF4量の決定は、様々な方法による実施が可能である。少なくとも1種のPF4結合性パートナー、例えば、抗PF4抗体またはヘパリンもしくはPF4結合性非分枝多糖類かPF4結合性ポリアニオンなどと反応混合物を接触させることによって、反応混合物中のPF4量を決定する結合アッセイが優先される。例えば、このアッセイは、反応混合物(全部または一部)と固相に会合したPF4結合性パートナーを接触させることによっても実現可能である。結合していない構成成分を洗浄によって除去し、固相に結合したPF4タンパク質量を、第2の標識されたPF4結合性パートナーを用いて決定する(ELISA法)。特に適当な抗PF4抗体は、遊離PF4に対して特異性を有する、すなわち、ヘパリンまたは機能的に同等である多糖類もしくはポリアニオンに結合していないPF4に対して特異性を有するモノクローナルまたはポリクローナル抗体、または遊離および複合PF4タンパク質の両方に結合するモノクローナルもしくはポリクローナル抗体である。
【0014】
結合していない構成成分の除去を省略する、したがって洗浄工程を省略することが可能である、均一系イムノアッセイが特に優先される。この目的のため、反応混合物(全部または一部)を、第1および第2の抗PF4抗体と混合し、さらにシグナル生成系の第1および第2の成分と混合する。シグナル生成系の成分は、シグナル生成系の第1および第2の成分が、互いに極めて接近すると、検出可能なシグナルを生成するように相互作用する。この関係において、第1の抗PF4抗体は、シグナル生成系の第1の成分と会合状態にある、または反応混合物をインキュベーションしている間、シグナル生成系の第1の成分と会合しており、第2の抗PF4抗体は、シグナル生成系の第2の成分と会合状態にある、または反応混合物をインキュベーションしている間、シグナル生成系の第2の成分と会合している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
均一なPF4イムノアッセイの一実施形態において、シグナル生成系の成分は、粒状固相、例えば、ラテックス粒子であり、その凝集を、濁度法または比濁法を用いて決定する。この目的のため、シグナル生成系の第1の成分は、第1の粒状固相からなり、前記粒状固相が、第1の抗PF4抗体と会合状態にある、または会合可能であるような性質を持つ。第1の粒状固相は、共有結合または結合ペアX/Y(binding pair X/Y)を介し、第1の抗PF4抗体と結合状態にあってよく、または結合ペアX/Yを介し、反応混合物中の第1の抗PF4抗体と結合してよい。さらに、シグナル生成系の第2の成分は、第2の粒状固相からなり、前記粒状固相が、第2の抗PF4抗体と会合状態にある、または会合可能であるような性質を持つ。第2の粒状固相は、共有結合または結合ペアA/B(binding pair A/B)を介し、第2の抗PF4抗体と結合状態にあってよく、または結合ペアA/Bを介し、反応混合物中の第2の抗PF4抗体と結合してよい。粒子増強光散乱の原理に基づくイムノアッセイは、1920年頃から公知であった(概要として、Newman,D.J.ら、Particle enhanced light scattering immunoassay.Ann Clin Biochem 1992;29:22~42頁を参照)。好ましくは、0.1~0.5μmの直径を有する、特に好ましくは、0.15~0.35μmの直径を有するポリスチレン粒子を用いる。好ましくは、アミン、カルボキシル、またはアルデヒド官能基を有するポリスチレン粒子を用いる。さらに好ましくは、シェル/コア粒子を用いる。該粒子の合成およびリガンドの共有結合性カップリングは、例えば、Peula,J.M. ら、Covalent coupling of antibodies to aldehyde groups on polymer carriersに記載されている。Journal of Materials Science:Materials in Medicine 1995;6:779~785頁。
【0016】
均一なPF4イムノアッセイの別の実施形態において、シグナル生成系は、少なくとも1種の第1の成分および1種の第2の成分を含み、これらの成分が、互いに極めて接近し、結果として相互作用が可能になると、検出可能なシグナルを生成するように相互作用する。該成分間の相互作用は、具体的にはエネルギ移動、すなわち、例えば、光または電子線放射による、またさらに、例えば、短寿命の一重項酸素のような反応性化学分子を介した該成分間の直接的なエネルギ移動を意味すると理解されるべきである。エネルギ移動は、ある成分から別の成分に生じ得るが、エネルギの移動が生じる種々の物質によるカスケードも可能である。例えば、該成分は、例えば、光増感剤と化学発光剤(EP-A2-0515194、LOCI(登録商標)technology)、または光増感剤とフルオロフォア(WO95/06877)、または放射性ヨウ素<125>とフルオロフォア(Udenfriendら、(1985)Proc. Natl. Acad. Sci.
82:8672~8676頁)、またはフルオロフォアと蛍光消光剤(US3,996,345)のようなエネルギドナーとエネルギアクセプターで構成されるペアであってよい。特に好ましくは、シグナル生成系の第1の成分が化学発光剤であり、シグナル生成系の第2の成分が光増感剤であるかその逆であり、反応混合物中の化学発光を測定する。
【0017】
互いに相互作用し得る、シグナル生成系の第1の成分および/または第2の成分は、共有結合的様式もしくは特異的な相互作用を介して粒状固相と会合状態にある、または前記粒状固相に埋め込まれた状態であってよい。粒状固相という用語は、例えば、金属ゾル、シリカ粒子、磁性粒子、または特に好ましくは、ラテックス粒子のような非細胞性の(noncellular)、懸濁可能な粒子を意味すると理解されるべきである。0.01~10μmの直径を有する粒子が好ましく、0.1~1μmの直径を有する粒子が特に好ましい。
【0018】
その成分が、互いに極めて接近し、結果として相互作用が可能になると、検出可能なシグナルを生成するように相互作用するシグナル生成系の第1の成分は、第1の抗PF4抗体と会合状態にある、または会合可能であるような性質を持つ。シグナル生成系の第1の成分は、第1の抗PF4抗体と、直接的な様式で会合状態にあってよく、または会合可能であってよい。好ましくは、シグナル生成系の第1の成分は、第1の抗PF4抗体と、間接的な様式で会合状態にあり、または会合可能である。この目的のため、シグナル生成系の第1の成分は、粒状固相と会合状態にあり、さらに、粒状固相は、共有結合的手段もしくは結合ペアX/Yを介して第1の抗PF4抗体と会合状態にある、または結合ペアX/Yを介して抗PF4抗体と会合可能である。
【0019】
その成分が、互いに極めて接近し、結果として相互作用が可能になると、検出可能なシグナルを生成するように相互作用するシグナル生成系の第2の成分は、第2の抗PF4抗体と会合状態にある、または会合可能であるような性質を持つ。シグナル生成系の第2の成分は、第2の抗PF4抗体と、直接的な様式で会合状態にあってよく、または会合可能であってよい。好ましくは、シグナル生成系の第2の成分は、第2の抗PF4抗体と、間接的な様式で会合状態にあり、または会合可能である。この目的のため、シグナル生成系の第2の成分は、粒状固相と会合状態にあり、さらに、粒状固相は、共有結合的手段もしくは結合ペアA/Bを介してリガンドと会合状態にある、または結合ペアA/Bを介してリガンドと会合可能である。
【0020】
「結合パートナーXおよびY」ならびに「結合パートナーAおよびB」は、どちらの場合も、互いに特異的に認識し、かつ結合する2つの異なる分子である。特異的な認識および結合の例は、抗体-抗原相互作用、ポリヌクレオチド相互作用などである。
【0021】
適当な結合ペアX/YおよびA/Bは、特に抗原/抗体の組合せであり、該結合パートナーXまたはAは、抗PF4抗体の抗原性エピトープである。該抗原性エピトープは、該抗体の天然配列または構造的エピトープであってよい。該抗原性エピトープは、修飾した抗PF4抗体の異種配列または構造的エピトープであってもよい。異種配列または構造的エピトープの例は、FLAG-、HIS-、またはフルオレセイン-タグであり、これらは、具体的には、ペプチドまたはタンパク質の標識化に使用される。さらに、適当な結合ペアX/YおよびA/Bは、それぞれ相補的ポリヌクレオチドであるXおよびYならびにAおよびBである。特に好ましい結合ペアX/YおよびA/Bは、FLAG-タグ/抗FLAG-タグ抗体、HIS-タグ/抗HIS-タグ抗体、フルオレセイン/抗フルオレセイン抗体、ビオチン/アビジン、およびビオチン/ストレプトアビジンである。
【0022】
記載された均一なイムノアッセイを用いることで、反応混合物中の血小板を除去するための遠心分離工程の省略が可能であることが見出されている。これは、一般的な分析機器での該方法の自動処理を可能にする、方法手順の簡略化を表す。本発明に記載の方法の好ましい実施形態において、得られた反応混合物は、血小板の沈殿または除去のための遠心分離工程にかけない。
【0023】
反応混合物中のPF4量を決定した後、これによって決定されたPF4量を、所定の基準値と比較する。適当な基準値は、抗PF4/ヘパリン複合体抗体を含有しないことがわかっている、ドナー由来の体液サンプルを含有する反応混合物中の同じ方法で決定した(またはあらかじめ決定しておいた)PF4量である。通常、抗PF4/ヘパリン複合体抗体を含有しないことがわかっている健康なドナー由来の多様なサンプルにおける基準値を決定するため、該PF4量を決定し、次にHITに罹患しており、抗PF4/ヘパリン複合体抗体を有するドナー由来の多様なサンプルのPF4量と比較する。ここで、基準値は、例えば、抗PF4/ヘパリン複合体抗体を有するサンプルと有しないサンプルを識別できる閾値であってよい。反応混合物中の決定されたPF4量が基準値を超える場合、該サンプル中の抗PF4/ヘパリン複合体抗体の存在を確定することが可能である。一方、反応混合物中の決定されたPF4量が基準値に達しない場合、該サンプル中に抗PF4/ヘパリン複合体抗体の存在しないことを確定することが可能である。
【0024】
さらに、本発明は、ヘパリン起因性血小板減少症の診断をするための方法を提供し、本発明に記載の方法は、患者由来の体液サンプル中に抗PF4/ヘパリン複合体抗体が存在することを検出するために使用される。
【0025】
その上さらに、本発明は、本発明に記載の方法を実行するためのアッセイキットを提供する。アッセイキットは、少なくとも下記成分を含有する:
a.血小板を含有する第1の試薬;
b.PF4結合性非分枝多糖類またはPF4結合性ポリアニオンを含有する第2の試薬;および
c.少なくとも1種の試薬が抗PF4抗体を含有する、PF4を検出するための1種またはそれ以上の試薬。
【0026】
血小板を含有する試薬は、好ましくは、洗浄および再懸濁されたヒト血小板の懸濁液である。該血小板は、好ましくは、抗PF4/ヘパリン複合体抗体を含有していないことがわかっている1名またはそれ以上の健康なドナー由来のものである。適当な血小板含有試薬は、多血小板血漿を得るため、例えば、好ましくは、ヒルジンも加えたクエン酸全血サンプルを遠心分離することによって調製される。クエン酸溶液およびアピラーゼを、該多血小板血漿に再度加え、遠心分離を再度実施し、その後、細胞を含有しない上清を捨てる。最後に、ペレット化された血小板を緩衝化懸濁溶液に集める。適当な血小板含有試薬は、少なくとも1リットル当たり300x109個の血小板を含有する。
【0027】
第2の試薬は、
・好ましくは、ヘパリン、未分画ヘパリン、分画ヘパリン、硫酸デキストラン、およびフコイダンからなる群からのPF4結合性非分枝多糖類;または
・好ましくは、ポリビニル硫酸、ポリビニルスルホン酸、ポリビニルリン酸、ポリビニルホスホン酸、ポリスチレン硫酸、およびポリスチレンスルホン酸からなる群からのPF4結合性ポリアニオン
のいずれかを含有する。
【0028】
第1および第2の試薬は、体液サンプルを含む反応混合物の提供を意図する。
【0029】
アッセイキットは、少なくとも1種の試薬が抗PF4抗体を含有する、PF4を検出するための1種またはそれ以上の試薬も含有する。抗PF4抗体を含有する試薬は、固相に会合した抗体、例えば、ラテックス粒子またはマイクロタイトレーションプレートのウェルに結合した抗体であってよい。アッセイ形式によって、アッセイキットは、抗PF4抗体が結合したPF4の定量的検出のため、例えば、検出可能なラベルで標識された第2の抗体を含有する試薬のような追加の成分を含有する。
【0030】
好ましいアッセイキットは、第1の抗PF4抗体を含有する試薬および第2の抗PF4抗体を含有する別の試薬を含有する。該第1および/または第2の抗PF4抗体は、固相ならびに/またはシグナル生成系の第1および第2の成分それぞれと会合状態であってよく、該シグナル生成系の成分は、互いに極めて接近すると、検出可能なシグナルを生成するように相互作用する。本発明に記載のアッセイキットの試薬は、液体形態または凍結乾燥形態で提供してよい。アッセイキットのいくつかまたはすべての試薬が、凍結乾燥物として存在する場合、該アッセイキットは、例えば、蒸留水または適当な緩衝液のような、該凍結乾燥物を溶解するために必要な溶媒を、さらに含有してよい。
【0031】
下記実施例は、本発明を例証するのに役立ち、限定するものと理解されるべきではない。
【実施例】
【0032】
実施例1:抗PF4/ヘパリン複合体抗体の検出のための均一なイムノアッセイ
本明細書に使用されるLOCI(登録商標)技術は、ラテックス粒子にカップリングさせた化学発光化合物(ケミビーズ)とラテックス粒子にカップリングさせた光増感剤(センシビーズ)が、同時に被分析物と結合することを介し、互いに極めて接近し、その結果、光増感剤によって産生される一重項酸素が、該化学発光化合物を励起し得ることを伴う。
【0033】
熱不活性化(56℃にて30分間)ヒト血漿サンプル2μLを、6名の健康なドナー由来の洗浄したヒト血小板を含有する懸濁液7.5μL(およそ300x109血小板/L)およびヘパリン0.2IU/mLを含有する緩衝液10μLと混合し、37℃でインキュベートした。10分後、下記成分を該反応混合物に加えた:
・緩衝液中に、化学発光化合物(2-(4-(N,N,ジテトラデシル)-アニリノ-3-フェニルチオキセン)でコーティングされたラテックス粒子および遊離および複合PF4タンパク質の両方に結合する第1のモノクローナル抗PF4抗体(MAK-23/064)を含有する「ケミビーズ」溶液(50μg/mL)50μL;
・遊離および複合PF4タンパク質の両方に結合する第2のビオチン化モノクローナル抗PF4抗体(MAK-23/074)を含有する抗体溶液(5μg/mL)50μL;および
・緩衝液中に、光増感化合物(ビス-(トリヘキシル)-シリコン-t-ブチル-フタロシアニン)でコーティングされたラテックス粒子およびストレプトアビジンを含有する「センシビーズ」溶液(50μg/mL)100μL。
【0034】
約10分後、化学発光シグナルを測定した[kcounts]。
【0035】
本発明に記載の方法(以下「PF4放出」とも呼ばれる)を用い、臨床基準(血栓性事象を有する一部の症例における4Tスコア)に基づいてHITと診断され、2つの独立した市販のイムノアッセイ(HemosIL(登録商標)AcuStar HIT-Ab(PF4-H)、Instrumentation LaboratoriesおよびAsserachrom(登録商標)HPIA-IgG、Diagnostica Stago)を用いて抗PF4/ヘパリン複合体抗体の存在が確定された10名のHIT患者由来の血漿サンプルを測定した。
【0036】
さらに、本発明に記載の方法を用い、7名の健康なドナー(HITの臨床基準を満たさず、抗PF4/ヘパリン複合体抗体を有することもない)由来の血漿サンプルを測定し、正常血漿プール(約20名の健康なドナー由来「FNP」の血漿)を測定した。
【0037】
PF4放出アッセイの「100%対照」として、使用される血小板含有試薬によるPF4の可能な最大分泌量を確認するため、血漿サンプルの代わりに、血小板を活性化する抗PF4/ヘパリン複合体抗体を含有する抗体溶液(50μg/mL)を用いた。%でPF4の分泌量(PF4放出[%])を確認するため、kcountsで測定された生値(raw values)を、該100%対照の生値の割合に変換した。
【0038】
比較を目的とし、記載のサンプルを、Sheridan, D.ら(1986)A diagnostic test for heparin-induced thrombocytopenia. Blood 67(1):27~30頁に従って、ゴールドスタンダードとみなされる[14C]-セロトニン放出アッセイ(以下「SRA」とも呼ばれる)を用いて同様に測定した。
【0039】
アッセイの結果を表1にまとめた。
【0040】
【0041】
本発明に記載の方法による結果は、SRAゴールドスタンダードアッセイの結果と非常に良く相関していることが明らかになった。HIT患者サンプルを含有するすべての反応混合物において、健康なドナーと比較して著しく増加したPF4濃度を検出することが可能である。抗PF4/ヘパリン複合体抗体を含有するサンプルを、これを含有しないサンプルと鑑別するための閾値(カットオフ)として、PF4放出値≧15%または≧20%(SRAアッセイのカットオフ:≧20%)とも定義することが可能であろう。しかし、該カットオフ値の統計的により正確な定義のためには、明確により多くのサンプル測定値が必要とされる。