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<図1>
  • 特許-レーザ発生装置 図1
  • 特許-レーザ発生装置 図2
  • 特許-レーザ発生装置 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-06
(45)【発行日】2022-04-14
(54)【発明の名称】レーザ発生装置
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/39 20060101AFI20220407BHJP
   G02F 1/37 20060101ALI20220407BHJP
   H01S 3/108 20060101ALI20220407BHJP
【FI】
G02F1/39
G02F1/37
H01S3/108
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018127962
(22)【出願日】2018-07-05
(65)【公開番号】P2020008657
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-03-25
(73)【特許権者】
【識別番号】318004361
【氏名又は名称】梅村 信弘
(73)【特許権者】
【識別番号】591108455
【氏名又は名称】株式会社オカモトオプティクス
(73)【特許権者】
【識別番号】502105085
【氏名又は名称】加藤 洌
(73)【特許権者】
【識別番号】503420833
【氏名又は名称】学校法人常翔学園
(74)【代理人】
【識別番号】100101269
【弁理士】
【氏名又は名称】飯塚 道夫
(72)【発明者】
【氏名】梅村 信弘
(72)【発明者】
【氏名】加藤 洌
(72)【発明者】
【氏名】岡本 隆幸
(72)【発明者】
【氏名】岡本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】三上 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】神村 共住
【審査官】山本 元彦
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-084314(JP,A)
【文献】特開平07-056204(JP,A)
【文献】特開平09-043653(JP,A)
【文献】特開平10-170967(JP,A)
【文献】特開平03-256383(JP,A)
【文献】特開2005-156635(JP,A)
【文献】特開平06-241908(JP,A)
【文献】米国特許第05828424(US,A)
【文献】米国特許第06219363(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00-1/125
G02F 1/21-7/00
H01S 3/00-3/30
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス状にレーザ光を発生するNd:YAGレーザとされる励起光源と、
相互に特性の異なる複数のCKTA結晶を備えた波長変換デバイスを該励起光源のレーザ光が通る入射光軸上に配置すると共に、該波長変換デバイスに該レーザ光が入射されて出射する他に、レーザ光より波長が長いシグナル光を少なくとも出射する光パラメトリック発振部と、
光パラメトリック発振部から出射されたレーザ光とシグナル光とを一旦分離すると共に相互に異なる方向から一点に集光させる光分離集合部と、
レーザ光とシグナル光との集光部分にKTP結晶が配置され、これら2つの光より波長の短い出力光を発生する光和周波発生部と、
を含むことを特徴とするレーザ発生装置。
【請求項2】
光パラメトリック発振部の前記波長変換デバイスが、前記入射光軸に対する交差方向に沿って前記CKTA結晶を複数並べて内部に設置可能なホルダーを外枠として有し、複数のCKTA結晶が該ホルダーに対して一体的に備えられた構造とされる請求項1記載のレーザ発生装置。
【請求項3】
光パラメトリック発振部が、前記波長変換デバイスを挟みつつ、励起光源側に入力ミラーが配置され、光分離集合部側に出力ミラーが配置された構造とされる請求項1または請求項2記載のレーザ発生装置。
【請求項4】
光分離集合部がダイクロイックミラーと反射鏡を有し、ダイクロイックミラーがレーザ光とシグナル光とを分離し、これらの何れかの光を反射鏡で反射して、これらの光を相互に異なる方向から一点に集光させる請求項1から請求項3のいずれかに記載のレーザ発生装置。
【請求項5】
光パラメトリック発振部の波長変換デバイスをレーザ光の入射光軸に対する交差方向に沿って移動することで、いずれのCKTA結晶にレーザ光が入射されるかを選択し、光和周波発生部が630~664nmの波長範囲の出力光を発生する請求項1から請求項4のいずれかに記載のレーザ発生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光線力学的治療(PDT:Photodynamic Therapy)に用いられる波長範囲のパルスレーザ光を高効率かつ簡易に発生させるレーザ発生装置に関し、特に630~664nmの波長範囲の光線を発振するのに好適なものである。
【背景技術】
【0002】
近年、癌に対する光線力学的治療に半導体レーザやエキシマレーザ励起による色素レーザが用いられている。
この光線力学的治療は、腫瘍親和性光感受性物質を人体に投与する際に、腫瘍組織はこの光感受性物質の排出速度が健常組織と比べて遅く、腫瘍組織と健常組織との間に濃度差が生じることを前提としたものである。また、光感受性物質に対応した波長の赤色レーザ光を腫瘍組織に照射すると、腫瘍細胞に取り込まれたこの光感受性物質と光化学反応を起こして一重項酸素が発生する。この一重項酸素は酸化力が強く、健常組織に悪影響を与えること無く、腫瘍細胞のみが傷害を起こして壊死する。光線力学的治療はこのことを利用した治療である。
【0003】
そして、この光線力学的治療には複数種類の光感受性物質が薬剤として現在使用されているが、この内の代表的なものを下記表1に示す。このうち、現在既に臨床で用いられているもの及び臨床応用への研究が進められているものは、表1のうち1、2、及び6の光感受性物質である。但し、これらの光感受性物質は薬剤毎に使用する活性化波長(Activation wavelengths)が異なり、使用する光の波長もこれらの活性化波長に合わせる必要がある。
【0004】
【表1】
【0005】
また、光線力学的治療のためのレーザを発生する装置として、半導体レーザを用いた装置やエキシマレーザ励起による色素レーザ装置が従来から知られている。
しかし、現在の治療装置に使用されている半導体レーザは、波長がほぼ固定されていると共に連続光発振である。このため、波長がほぼ固定されることで、複数種類の光感受性物質を対応することはできなかった。さらに、連続光発振なのでピークパワーを高くできないのに伴って、治療の際に身体の細胞組織の深部にレーザ光を到達させることができなかった。
【0006】
連続発振のレーザ光に対して、ピークパワーの高いパルスレーザ光を用いた場合、細胞組織の深部までレーザ光が到達することから、治療できる癌の範囲が拡大する。例えば、連続光では組織表面から光が到達する範囲は脳の場合で5~10mm程度との報告があるが、さらに細胞組織の深部にまで光を到達させることが期待できる。
【0007】
一方、エキシマレーザ励起を用いた色素レーザ装置はパルス発振が得られるものの、レーザ媒質であるガスや色素の定期的交換が必要とされると共に装置が大型化する欠点を有していた。そのため、非線形光学素子を用いた全固体システムによる630~664nmの波長範囲のレーザ光源が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平11-95271公報
【文献】特開2016-65871公報
【文献】特開平6-222公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上より、光線力学的治療のための赤色パルスレーザ光を発生する装置として、小型でメンテナンス性が良いと共に簡易に波長の切り替えが可能であり、表1にある複数の光感受性物質の各活性化波長においてピークパワーの高いパルスレーザ光を得られる装置が求められているものの、従来の半導体レーザを用いた装置やエキシマレーザ励起色素レーザを用いた装置では十分な性能を得られなかった。
【0010】
これに対して、例えば光パラメトリック発振を用いたものとして、上記特許文献1~3が挙げられる。この内の特許文献1においては、2段式のパラメトリック発振器により、赤外線領域において広帯域で波長可変なレーザ光を出力する技術が開示されている。但し、特許文献1では可視光帯域外とされる赤外線領域でのレーザ光とされるので、本願発明の課題に対応していない。
【0011】
さらに、特許文献2では、1μm帯レーザの第2高調波などの短波長レーザの入力による光パラメトリック発振で約650~約1400nmの波長範囲で連続的に同調可能なレーザ光発生技術が開示されている。但し、約650~約1400nmの波長範囲では、表1に示す光感受性物質の一部にしか対応できていない。
【0012】
特許文献3では、励起光としてNd:YAGレーザの第3高調波の入力による光パラメトリック発振で630nm前後のシグナル光に変換される技術が開示されている。この方式は、励起光である波長1064.2nmのレーザ光を第1段階としてまず第2高調波(SHG)に変換し、次に第2段階として変換に寄与しなかった励起光源と第2高調波の光和周波発生により第3高調波(THG)を発生させ、最後に第3段階として発生させた第3高調波で光パラメトリック発振(OPO)を励起してシグナル光を発生させることで、赤色パルスレーザ光を得ている。
【0013】
しかし、特許文献3のこの方式は3段階の波長変換プロセスのため、装置が大型化且つ複雑化するため、この装置は一時期同じ目的で実用化されていたが、現在製造は行われていない。
【0014】
以上のことから、これら特許文献1~3においても、光線力学的治療に用いられる波長範囲である630~664nmにおける波長可変のパルスレーザ光を高効率かつ簡易に発生させ得るものは存在していなかった。
【0015】
本発明は上記背景に鑑みてなされたもので、光線力学的治療に用いられる波長範囲のパルスレーザ光を高効率かつ簡易に発生させ得るレーザ発生装置を提供することを第1の目的とし、さらには630~664nmの波長範囲で波長可変なパルスレーザ光を発生させ得るレーザ発生装置を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決した請求項1記載の発明は、パルス状にレーザ光を発生するNd:YAGレーザとされる励起光源と、
相互に特性の異なる複数のCKTA結晶を備えた波長変換デバイスを該励起光源のレーザ光が通る入射光軸上に配置すると共に、該波長変換デバイスに該レーザ光が入射されて出射する他に、レーザ光より波長が長いシグナル光を少なくとも出射する光パラメトリック発振部と、
光パラメトリック発振部から出射されたレーザ光とシグナル光とを一旦分離すると共に相互に異なる方向から一点に集光させる光分離集合部と、
レーザ光とシグナル光との集光部分にKTP結晶が配置され、これら2つの光より波長の短い出力光を発生する光和周波発生部と、
を含むことを特徴とするレーザ発生装置である。
【0017】
請求項1に係るレーザ発生装置によれば、光パラメトリック発振部の波長変換デバイス中に相互に特性の異なる複数のCKTA結晶(Csx1-xTiOAsO4;0≦x≦1)が組み込まれていて、Nd:YAGレーザとされる励起光源で発生されたパルスレーザ光である励起光が、この内の一つのCKTA結晶に入射される。そして、この光パラメトリック発振部の波長変換デバイスに組み込まれた複数のCKTA結晶のいずれかが、励起光よりも波長の長いシグナル光と波長変換に寄与せず透過した該励起光を同軸に出射する。
【0018】
さらに、光分離集合部がこの光パラメトリック発振部から出射されたシグナル光と波長変換に寄与せず透過してきた励起光を一旦分離し、相互に異なる方向から光和周波発生部の非線形光学素子とされるKTP結晶(KTiOPO4)に集光させることで、ノンコリニア位相整合が成立する。これに伴い、この光和周波発生部の非線形光学素子がこれら2つの光より波長の短い出力光である赤色パルスレーザ光を発生する。
【0019】
この際、光和周波発生部でノンコリニア位相整合となることで、励起光及びシグナル光からなる入射光と光和周波発生部で発生する光和周波光(SFG)が自動的に異なる方向に出力されることから、光線力学的治療に必要な光和周波光である赤色パルスレーザ光のみを確実に分離することが可能となる。
【0020】
さらに、光和周波発生部においてノンコリニア位相整合特性を用いることで、KTP結晶が有する光学特性を適切に利用することが可能となり、非臨界位相整合に近く非線形光学定数の大きくなる入射条件での波長変換が可能となる。その結果、高い変換効率が実現できると共に、相互に特性の異なる複数のCKTA結晶を順次切り替えることで、通常は必要とされるKTP結晶の角度調整をほとんど行うことなく、例えば630~664nmの波長範囲における波長の簡易な切り替えが可能となる。
【0021】
以上より、本実施の形態に係るレーザ発生装置によれば、Nd:YAGレーザとされる励起光源がパルスレーザ光を発生し、これに合わせて非線形光学素子とされる複数のCKTA結晶の内のいずれかが出射したシグナル光とレーザ光である励起光とを同時に異なる方向から同じく別の非線形光学素子とされるKTP結晶に集光させて、ノンコリニア位相整合とするようにした。
【0022】
つまり、励起光源をNd:YAGレーザとしたことで、光パラメトリック発振部及び光和周波発生部を介して、光和周波発生部が必要な波長とされる光線力学的治療のための630~664nmの波長範囲の出力光である赤色パルスレーザを高出力レーザとして容易に得ることができる。
【0023】
この一方、パルス状のレーザ光を用いることでピークパワーを高くできるだけでなく、光線力学的治療の際に、身体の細胞組織の深部にレーザ光が到達可能となり、治療できる癌の範囲も拡大する。さらに、本実施の形態に係るレーザ発生装置は、必要な素子等が全て固体のシステムとされるので、小型化が図れるだけでなく、メンテナンスを殆ど必要としない装置ともなる。
【0024】
請求項2の発明は、光パラメトリック発振部の前記波長変換デバイスが、前記入射光軸に対する交差方向に沿って前記CKTA結晶を複数並べて内部に設置可能なホルダーを外枠として有し、複数のCKTA結晶が該ホルダーに対して一体的に備えられた構造とされる請求項1記載のレーザ発生装置である。
つまり、光パラメトリック発振部のうちの波長変換デバイスの外枠を構成する例えば金属製とされたホルダー内に、複数のCKTA結晶を複数並べてホルダーに対して一体的に備えられている。
【0025】
そして、これら複数のCKTA結晶は相互に特性の異なる特性を有している。例えば光感受性物質に対応する活性化波長の赤色光を発生するための表1の右欄に示す活性化波長に必要なシグナル光波長を得るべく、非臨界位相整合に近く、且つ非線形光学定数の大きくなる入射方向であるθ=90°、φ=0°(ここで、θ及びφは、CKTA結晶の誘電主軸x、y、z軸に対する球面座標の角度を表す。以下、KTP結晶においても同じものとする。)付近での波長変換を可能とする光学特性を有するように、CsとKの混晶比率xが調整されている。このため、各CKTA結晶が高い変換効率で所望の波長のシグナル光を発生できるので、最終的に必要な光線力学的治療のため赤色パルスレーザを容易に得ることができる。
【0026】
請求項3の発明は、光パラメトリック発振部が、前記波長変換デバイスを挟みつつ、励起光源側に入力ミラーが配置され、光分離集合部側に出力ミラーが配置された構造とされる請求項1または請求項2記載のレーザ発生装置である。
従って、この光パラメトリック発振部がこのような入力ミラーと出力ミラーとで波長変換デバイスが挟まれた構造とされていることから、波長変換デバイス中の複数のCKTA結晶によるレーザ光である励起光からシグナル光への変換効率を安定的に高めることが可能となる。
【0027】
請求項4の発明は、光分離集合部がダイクロイックミラーと反射鏡を有し、ダイクロイックミラーがレーザ光とシグナル光とを分離し、これらの何れかの光を反射鏡で反射して、これらの光を相互に異なる方向から一点に集光させる請求項1から請求項3のいずれかに記載のレーザ発生装置である。
光分離集合部においてダイクロイックミラーと反射鏡を用いるのに伴って、分離したレーザ光とシグナル光とを相互に異なる方向から一点に集光できるので、ノンコリニア位相整合が実現できる。
【0028】
請求項5の発明は、光パラメトリック発振部の波長変換デバイスをレーザ光の入射光軸に対する交差方向に沿って移動することで、いずれのCKTA結晶にレーザ光が入射されるかを選択し、光和周波発生部が630~664nmの波長範囲の出力光を発生する請求項1から請求項4のいずれかに記載のレーザ発生装置である。
【0029】
波長変換デバイスをレーザ光の入射光軸に対する交差方向に沿って移動して、いずれのCKTA結晶にレーザ光が入射されるかを選択することのみで、波長切り替え可能である。従って、出力光を簡易に本来必要とされる光線力学的治療のために最適な630~664nmの波長範囲で任意波長の光とすることができる。このことから複数の光感受性物質の活性化波長においてピークパワーの高いパルスレーザ光が1台の装置で得られることになる。
また、本請求項によれば、波長切り替えの際にいずれのCKTA結晶にレーザ光が入射されるかを選択するという、1カ所のみの操作をユーザーがするだけの安定的で簡易な装置ともなる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、光線力学的治療に用いられる波長範囲のパルスレーザ光を高効率かつ簡易に発生させ得るレーザ発生装置が提供されるという優れた効果を奏し、さらには630~664nmの波長範囲で波長可変なパルスレーザ光を発生させ得るレーザ発生装置が提供されるという優れた効果を奏する。
【0031】
また、上記のレーザ装置の発明を光線力学的治療に用いることにより、身体の細胞組織の深部にレーザ光が到達可能となり、治療できる癌の範囲も拡大する。さらに、本発明に係るレーザ発生装置は、必要な素子等が全て固体のシステムとされるので、小型化が図れるだけでなく、メンテナンスを殆ど必要としない装置ともなる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明のレーザ発生装置の一実施の形態を示す図である。
図2】一実施の形態に適用される複数のCKTA結晶を一体構造とした波長変換デバイスを示す斜視図である。
図3】一実施の形態に適用される複数のCKTA結晶を一体構造とした波長変換デバイスを示す正面図、平面図及び側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明に係るレーザ発生装置の一実施の形態を、以下に図面を参照しつつ説明する。
図1に示すように、本実施の形態に係るレーザ発生装置10は、波長1064.2nm(1.0642μm)でパルス発振するNd:YAG(Nd3+:Y3Al512)レーザとされた励起光源12を有している。この励起光源12の右隣の位置であって励起光pとされるレーザ光の入射光軸である光軸L上の位置には、光パラメトリック発振部14が位置している。尚、この励起光pは矢印のように図1の上下方向が偏光方向Hyとされる。
【0034】
この光パラメトリック発振部14内には、左からまず合成石英製の入力ミラー18が配置されていて、1064.2nmの波長において、この入力ミラー18の透過率は95%程度とされ、また、1544~1766nmの波長において反射率は90~98%程度とされている。これにより、この入力ミラー18が予め定められた1544~1766nmの波長の赤外線を反射し、1064.2nmの波長のレーザ光を透過できることになる。
【0035】
光軸L上におけるこの入力ミラー18の右側に隣り合った光軸L上の位置には、異なる混晶比率xを有して相互に特性の異なる複数の非線形光学素子15とされるCKTA結晶を備えた波長変換デバイス16が配置されている。
【0036】
これら複数の非線形光学素子15とされるCKTA結晶の長さは、10~15mm程度とそれぞれされている。また、波長変換デバイス16の外枠を構成するアルミニウムや鋼等の金属製とされたホルダー16A内に、図2及び図3に示されるように複数の非線形光学素子15が光軸Lに対して直交する方向のy軸方向に並べられて、配置されている。
【0037】
そして、各非線形光学素子15間の間隔を5~10mm程度として非線形光学素子15の上部、下部及び側面部がこの波長変換デバイス16のホルダー16Aに保持されることで、各非線形光学素子15が波長変換デバイス16に一体的に備えられている。これに伴い、各非線形光学素子15の一方の入射面に励起光pが入射された場合に、他方の出射面から励起光p及びシグナル光sが透過する構造に、これら複数の非線形光学素子15はそれぞれなっている。
【0038】
さらに、図示しないもののモータ等の動力源に対して操作調整部から操作することで、この波長変換デバイス16を光軸Lに対して直交するy軸方向に平行移動mして、複数の非線形光学素子15のうちのいずれか1つに励起光pを入射するようにすることで、励起光pを入射する非線形光学素子15が選択できる。
【0039】
尚、図1から図3はy軸方向に平行移動mさせた場合を示すが、複数の非線形光学素子15を光軸Lに対して直交するz軸方向に並べて配置した場合、波長変換デバイス16をz軸方向に平行移動mすることになる。
【0040】
また、非線形光学素子15とされる各CKTA結晶は結晶のx軸に平行であって、y、z軸に直角に形成されていて、非臨界位相整合する状態の赤外波長変換素子とされている。具体的には、図1及び図3に示す紙面に垂直方向をz軸とし、このz軸と垂直且つ光軸Lと直交する方向を図1及び図3の上下方向としたy軸とすると共に、これらy軸、z軸と垂直且つ光軸Lに沿った方向をx軸とするように、各CKTA結晶は配置されている。
【0041】
この非線形光学素子15は光パラメトリック発振(OPO)をし、励起光pが入射されて、該レーザ光より波長が長く且つ相互に異なる2つの波長のコヒーレントな赤外線を出力するが、波長変換デバイス16を光軸Lに垂直方向に平行移動mして光パラメトリック発振をするCKTA結晶を選択することにより、夫々のCKTA結晶の光学特性に応じて射出する赤外線の波長が切り替わる特性を有している。
【0042】
尚、上記励起光p、シグナル光s及びアイドラー光iの間には、非線形光学論系に基づき次の数1に示す式の関係が成り立っている。但し、λpは励起光pの波長、λsはシグナル光sの波長、λiはアイドラー光iの波長である。
【0043】
(数1)
1/λp =1/λs+1/λi
【0044】
ここで、励起光pの波長は1064.2nmであり、シグナル光sの波長範囲は1544~1766nmとされ、アイドラー光iの波長範囲は3424~2678nmとされるが、このアイドラー光iは使用しない。尚、非線形光学素子15のCKTA結晶(Csx1-xTiOAsO4;0≦x≦1)について、シグナル光と混晶比率xの関係は数2の式で表される。
【0045】
(数2)
x=1.181×10-8λs 3-6.602×10-5λs 2+0.1272λs-78.597
【0046】
なお、λsの単位はnmであり、数2の式を用いることで表1に示す所望のシグナル光波長に対応するCKTA結晶のCsの混晶比率xを±0.01程度の精度で求めることができる。
【0047】
そして、1064.2nmの励起光pが波長変換デバイス16の非線形光学素子15のいずれかに入射される。この場合、これら非線形光学素子15のいずれもが2つの波長の赤外線とされる2つのコヒーレントなシグナル光sとアイドラー光iを出射することになる。この際、励起光pも非線形光学素子15を透過してそのまま出射される。
【0048】
また、光軸L上における波長変換デバイス16の右側に隣り合った光パラメトリック発振部14内の位置には、合成石英製の出力ミラー20が配置されている。但し、シグナル光sと励起光pの一部はこの出力ミラー20を透過するようになる。尚、1064.2nmの波長において、この出力ミラー20の透過率は70~90%程度とされ、また、1544~1766nmの波長において、この出力ミラー20の反射率は70~90%程度とされている。
【0049】
以上より、この光パラメトリック発振部14は、波長変換デバイス16を挟みつつ、励起光源12側に入力ミラー18が配置され、これと反対側に出力ミラー20が配置された構造とされるシングルパス形となって、少なくとも励起光p及びシグナル光sがこの光パラメトリック発振部14から出力される。
【0050】
さらに、光軸L上には、波長毎に光線を分離するダイクロイックミラー24が光軸Lに対して45°の角度θ1で傾けて配置されていて、1544~1766nmの波長範囲のシグナル光sはこのダイクロイックミラー24をそのまま透過する。これに対して、1064.2nmの波長の励起光pはダイクロイックミラー24で反射して図1の下方に送られる。このダイクロイックミラー24の下方には、位相を90°変更して偏光方向を変えるλ/2プレート26が配置され、さらにその下方に励起光pの位置をずらしつつ図1の上方向に反射するためのプリズム28が配置されている。このプリズム28の上部右寄りの位置には、光軸Lに対して10.2°の角度θ2で傾いて反射されるように反射鏡30が配置されている。尚、プリズム28は励起光pとシグナル光sの非線形光学結晶36への入射のタイミングが最適化する位置である。
【0051】
そして、以上のダイクロイックミラー24、λ/2プレート26、プリズム28及び反射鏡30により、本実施の形態の光分離集合部22が構成される。従って、ダイクロイックミラー24が励起光pとシグナル光sとを分離し、この励起光pがλ/2プレート26で偏光方向が変更されつつ透過すると共にプリズム28で反射する。更に反射鏡30で反射して光軸Lに対して約10.2°の角度となる斜め上方に、この励起光pは送られる。ただし、この励起光sの偏光方向Hxは、図1の紙面に対して垂直方向となる。
【0052】
以上より、一旦分離された励起光pと光軸Lに沿って直進するシグナル光sとが相互に異なる方向から、この光分離集合部22の右隣に位置する光和周波発生部34内の一点に集光されることになる。
【0053】
この一方、この光和周波発生部34内には、KTP結晶(KTiOPO4)により形成された長さ10mm程度の非線形光学素子36が光軸Lに沿った位置に配置され、光和周波発生部34自体を構成している。尚、この非線形光学素子36のKTP結晶は、励起光pとシグナル光sとの中間的な傾きに軸方向がなっているが、非線形光学定数が大きいθがおよそ85~90°で、φが0°とされている。さらに、前述の励起光pとシグナル光sとが一点に集光される際に、非線形光学素子36内で集光するようにして、ノンコリニア位相整合とする。このとき、このKTP結晶とされる非線形光学素子36でSFG光が発生する。
【0054】
他方、非線形光学論系に基づいたものとして上記の光パラメトリック発振と異なる光和周波発生もあるが、これは非線形光学素子の結晶に、例えばコヒーレントな励起光p及びシグナル光sを同時に入力することにより、これらより短波長のコヒーレント光であるSFG光を出力光zとして出力するものである。尚、上記励起光p、シグナル光s及び出力光zの間には、次の数3に示す式の関係が成り立っている。但し、λpは励起光pの波長、λsはシグナル光sの波長、λzはSFG光zの波長である。
【0055】
(数3)
1/λp+1/λs=1/λz
【0056】
つまり、励起光pとシグナル光sとの集光部分に非線形光学素子36が配置され、これら2つの光より波長の短い630~664nmの出力光zを発生することになる。
【0057】
次に、本実施の形態に係るレーザ発生装置10の作用を説明する。
本実施の形態に係るレーザ発生装置10によれば、光パラメトリック発振部14の波長変換デバイス16中に相互に特性の異なる複数の非線形光学素子15とされるCKTA結晶(Csx1-xTiOAsO4;0≦x≦1)が組み込まれていて、Nd:YAGレーザとされる励起光源12で発生されたパルスレーザ光である励起光pが、この内の一つの非線形光学素子15に入力ミラー18を介して入射される。これに伴い、この光パラメトリック発振部14の波長変換デバイス16に組み込まれた複数の非線形光学素子15のいずれかが出力ミラー20を介して、励起光pよりも波長の長いシグナル光sと波長変換に寄与せず透過した該励起光pを同軸に出射する。
【0058】
この際、波長変換デバイス16の外枠を構成するホルダー16A内には、これら複数の非線形光学素子15とされるCKTA結晶が、光軸Lに対する直交方向であるy軸方向に沿って複数並べられて、波長変換デバイス16に対して一体的に備えられている。
【0059】
これに伴い、操作調整部からモータ等の動力源を操作することで、波長変換デバイス16を光軸Lに対して直交するy軸方向に平行移動mして、相互に特性の異なる複数の非線形光学素子15のうちのいずれか1つに励起光pを入射させることで、励起光pを入射する非線形光学素子15を任意に選択することができる。
【0060】
さらに、光分離集合部22がこの光パラメトリック発振部14から出射された励起光pとシグナル光sとを波長毎に光線を分離するダイクロイックミラー24により一旦分離し、励起光pがλ/2プレート26、プリズム28を介して反射鏡30に送られ、この反射鏡30で励起光pが最終的に反射して、これら励起光pとシグナル光sとを相互に異なる方向から一点に集光させる。
【0061】
この際、相互に異なる方向から光和周波発生部34の非線形光学素子36とされるKTP結晶に集光させることで、ノンコリニア位相整合となる。これに伴い、この光和周波発生部34の非線形光学素子36がこれら2つの光より波長の短い出力光xとされる必要な波長の赤色パルスレーザを発生する。
【0062】
以上より、本実施の形態に係るレーザ発生装置10によれば、Nd:YAGレーザとされる励起光源12がパルス状のレーザ光である励起光pを発生し、これに合わせて非線形光学素子16とされるKTA結晶が出射したシグナル光sと励起光pとを相互に異なる方向から非線形光学素子36とされるKTP結晶に集光させて、ノンコリニア位相整合となるようにした。
【0063】
このように光和周波発生部34でノンコリニア位相整合としたことで、非線形光学素子36とされるKTP結晶のダメージ防止や変換効率の最適化を図ることができる。また、プリズム28の位置を予め調整することで励起光pとシグナル光sのパルスの入射タイミングが調整可能となり、ピコ秒などの超短パルス化に対応可能となる。そして、ノンコリニア位相整合を採用することで、光和周波発生部34で発生する出力光zは、励起光p及びシグナル光sの入射光とは別方向に発生する。そのため、SFG光である赤色パルスレーザ光のみを光学素子を用いることなく確実に分離することが可能となる。
【0064】
さらに、非線形光学素子36とされるKTP結晶において、ノンコリニア位相整合特性を用いることで、光の入射方向が非線形光学定数の大きなx軸(θ=90°、φ=0°)方向付近になり、630~664nmの波長範囲で高い変換効率でのSFG光発生が期待できると共にKTP結晶の角度調整もほとんど不要となるため、操作性に優れた装置となる。
【0065】
この一方、本実施の形態のようにピークパワーを高くすることができるパルス状のレーザ光を用いることで、光線力学的治療の際に、身体の細胞組織の深部にレーザ光が到達可能となり、治療できる癌の範囲も拡大が期待できる。
【0066】
つまり、励起光pの光軸Lに対するこの波長変換デバイス16を光軸Lに対して垂直方向に平行移動の操作のみで、波長切り替えが可能であって、出力光zを本来必要とされる光線力学的治療のために最適な630~664nmの波長範囲において発振波長を簡易に切り替えることができる。このことから複数の光感受性物質に対応するピークパワーの高い赤色パルスレーザ光が1台のレーザ装置で得られることになる。
【0067】
さらに、本実施の形態に係るレーザ発生装置10は、励起光源12を固体のNd:YAGレーザとし、光パラメトリック発振部14の波長変換デバイス16及び光和周波発生部34の非線形光学素子36の素子もそれぞれ固体の結晶であり、必要な素子等が全て固体のシステムのため、メンテナンスを殆ど必要としない装置ともなる。
【0068】
そして、波長変換デバイス16の外枠を構成するホルダー16A内に、複数のCKTA結晶が複数並べられて、波長変換デバイス16に対して一体的に備えられている。このため、この波長変換デバイス16を平行移動mすることで、光感受性物質に対応する活性化波長の赤色光を発生するための表1のような活性化波長に必要なシグナル光波長λsがそれぞれ得られることになる。
【0069】
具体的には、例えば4つの非線形光学素子15を1544nm、1574nm、1683nm、1766nmにシグナル光波長λsを設定すれば、表1の「腫瘍親和性光感受性物質」のNo.1~6までに対応可能となる。但し、非線形光学素子15を5つとして、5つめを1773nmにシグナル光波長λsを設定すれば、表1の全てに対応可能となる。
【0070】
以上より、非線形光学素子15とされる各CKTA結晶が高い変換効率で所望の波長のシグナル光を発生できるので、最終的に必要な光線力学的治療のため赤色パルスレーザを容易に得ることができる。
【0071】
尚、本実施の形態では、非線形光学素子15としてCKTA結晶を用いているが、KTP同類体(KTiOPO4、RbTiOPO4、RbTiOAsO4)又は分極周期反転に加工された公知の非線形光学結晶に置き換えても良い。
【0072】
さらに、本実施の形態では、ホルダー16A内に複数の非線形光学素子15が光軸Lに対して垂直方向あるいは直交方向に波長変換デバイス16が並べられているが、単に光軸Lに対して交差方向に並べても良い。これに伴い、波長変換デバイス16を光軸Lに対して垂直あるいは直交するy軸方向に平行移動mする替わりに、単に光軸Lに対して交差方向に移動してもよい。
【0073】
また、上記実施の形態では、入力ミラーや出力ミラーを合成石英製としたが、他の公知な材質を用いても良い。さらに、光軸Lに対しての励起光pの傾きである角度θ2を10.2°とし、ノンコリニア位相整合の際の角度も10.2°となるが、これらの角度は他の角度としても良い。
【0074】
図1~3の波長変換デバイス16は、相互に特性の異なる4つの非線形光学素子15で構成されているが、非線形光学素子15の数量は使用者が想定する複数の光感受性物質の数量に応じたものでもよい。
【0075】
以上、本発明に係る実施の形態を説明したが、本発明は係る実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、高出力のレーザが必要なさまざまな技術分野に適用でき、医療用だけでなく産業用等の他の技術分野にも適用可能なものである。
【符号の説明】
【0077】
10 レーザ発生装置
12 励起光源
14 光パラメトリック発振部
15 非線形光学素子(CKTA結晶)
16 波長変換デバイス
16A ホルダー
18 入力ミラー
20 出力ミラー
24 ダイクロイックミラー
26 λ/2プレート
28 プリズム
30 反射鏡
22 光分離集合部
34 光和周波発生部
36 非線形光学素子(KTP結晶)
p 励起光
s シグナル光
z 出力光
図1
図2
図3