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特許7054683高アルミナ質溶融鋳造耐火物及びその製造方法
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  • 特許-高アルミナ質溶融鋳造耐火物及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-06
(45)【発行日】2022-04-14
(54)【発明の名称】高アルミナ質溶融鋳造耐火物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/107 20060101AFI20220407BHJP
   C03B 5/43 20060101ALI20220407BHJP
   F27D 1/00 20060101ALI20220407BHJP
【FI】
C04B35/107
C03B5/43
F27D1/00 N
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019036722
(22)【出願日】2019-02-28
(65)【公開番号】P2020138891
(43)【公開日】2020-09-03
【審査請求日】2020-12-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000221236
【氏名又は名称】サンゴバン・ティーエム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100170874
【弁理士】
【氏名又は名称】塩川 和哉
(72)【発明者】
【氏名】阿部 航也
(72)【発明者】
【氏名】杉山 寛
(72)【発明者】
【氏名】土屋 伸二
(72)【発明者】
【氏名】橋本 格
(72)【発明者】
【氏名】三須 安雄
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特公昭44-018740(JP,B1)
【文献】特開昭49-057012(JP,A)
【文献】特表2006-523599(JP,A)
【文献】特公昭44-023819(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84
C03B 5/43
F27D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の化学組成:
Al:95.0~99.5質量%;
SiO:0.20~1.50質量%;
:0.05~1.50質量%;
MgO:0.10~1.20質量%;及び

を有する高アルミナ質溶融鋳造耐火物であって、
Li Oの含有量が、0.05質量%以下であり、
MgOとB の含有質量の比(B /MgO)が、0.1~10.0であり、
JIS R 2205に準拠して測定した、前記耐火物の表面を10mm研削した面における見掛気孔率が、3.0%以下である、
高アルミナ質溶融鋳造耐火物
【請求項2】
NaOの含有量が、0.50質量%以下である、請求項1に記載の高アルミナ質溶融鋳造耐火物。
【請求項3】
NaOとMgOの含有量の合計が、0.30質量%以上である、請求項1又は2に記載の高アルミナ質溶融鋳造耐火物。
【請求項4】
の含有量が、0.05~0.70質量%であり、かつMgOの含有量が、0.15~0.70質量%である、請求項1~3のいずれか一項に記載の高アルミナ質溶融鋳造耐火物。
【請求項5】
BaO及びCaOの含有量が、それぞれ0.10質量%未満である、請求項1~4のいずれか一項に記載の高アルミナ質溶融鋳造耐火物。
【請求項6】
JIS R 2616の熱線法に準拠して測定した1200℃での熱伝導率が、7.0W/m・K以上である、請求項1~のいずれか一項に記載の高アルミナ質溶融鋳造耐火物。
【請求項7】
JIS R 2616の熱線法に準拠して測定した1600℃での熱伝導率が、9.0W/m・K以上である、請求項1~のいずれか一項に記載の高アルミナ質溶融鋳造耐火物。
【請求項8】
Al原料、SiO原料、B原料、及びMgO原料を混合して混合物を得ること、及び前記混合物を溶融することを含む、請求項1~のいずれか一項に記載の高アルミナ質溶融鋳造耐火物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高アルミナ質溶融鋳造耐火物及びその製造方法に関する。特に、本発明は、生産が容易で、気孔率が低く、かつ高い耐食性を有する高アルミナ質溶融鋳造耐火物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、90質量%以上のアルミナを含有する高アルミナ質溶融鋳造耐火物が知られており、コランダム質(α-Al)、コランダム質/β-アルミナ質(β-Al)、及びβ-アルミナ質の各種の耐火物がガラス溶融窯に広く用いられている。これらの高アルミナ質溶融鋳造耐火物には、ガラス溶融窯の上部構造、溶融ガラスとの接触面等の用途に応じて、耐食性、耐スポーリング性等の様々な特性が求められている。例えば、耐火物を溶融ガラスとの接触面に利用する場合には、高耐食性を目的として、緻密で気孔率の少ない組織を有することが求められる。
【0003】
これらの中でも特に、コランダム質の高アルミナ質溶融鋳造耐火物は、通常は、98~99質量%のアルミナを含有しており、α-アルミナ結晶が強固に結合した緻密な構造を持っているため、非常に高い温度でも化学的に安定である。
【0004】
特許文献1は、そのようなコランダム質の高アルミナ質溶融鋳造耐火物を開示しており、ここでは、耐スポーリング性を向上させるために、高アルミナ質溶融鋳造耐火物にごく少量のMgOを含有させている。
【0005】
特許文献2は、SiOとBとを含有させたコランダム質の高アルミナ質溶融鋳造耐火物を開示している。この耐火物は、SiOとBとを含有している結果、硼珪酸アルミニウムガラスがα-アルミナの結晶粒間結合フィルムとなり、亀裂がなく、高い耐食性及び耐スポーリングを有している。
【0006】
特許文献3は、ガラスの電気溶融炉で用いられる高電気抵抗の高アルミナ質溶融鋳造耐火物を開示している。この耐火物には、電気抵抗を高くするためにBaO及びCaOを含有させており、また亀裂の発生を防止するためにBを含有させている。
【0007】
特許文献4は、ガラス溶融炉の蓄熱室に用いられる高アルミナ質溶融鋳造耐火物を開示しており、ここでは、耐熱衝撃性を向上させるために、耐火物にMgOを含有させている。特許文献4では、その耐火物の耐熱衝撃性が高い理由として、その耐火物が多孔質であるとしている。
【0008】
特許文献5は、アルカリ金属酸化物を0.25重量%以下に抑え、β-アルミナの存在しない高アルミナ質溶融鋳造耐火物が記載されている。この耐火物は、均質に分布した気孔を有し、耐スポーリング性に優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開昭47-35008号公報
【文献】特開昭49-57012号公報
【文献】特開平6-144922号公報
【文献】特表2006-523599号公報
【文献】特開昭59-88360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、生産が容易で、気孔率が低く、かつ高い耐食性を有する高アルミナ質溶融鋳造耐火物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、以下の態様を有する本発明により、上記課題を解決できることを見出した。
《態様1》
以下の化学組成を有する、高アルミナ質溶融鋳造耐火物:
Al:95.0~99.5質量%;
SiO:0.20~1.50質量%;
:0.05~1.50質量%;
MgO:0.05~1.20質量%;及び
残部。
《態様2》
NaOの含有量が、0.50質量%以下である、態様1に記載の高アルミナ質溶融鋳造耐火物。
《態様3》
NaOとMgOの含有量の合計が、0.30質量%以上である、態様1又は2に記載の高アルミナ質溶融鋳造耐火物。
《態様4》
の含有量が、0.05~0.70質量%であり、かつMgOの含有量が、0.15~0.70質量%である、態様1~3のいずれか一項に記載の高アルミナ質溶融鋳造耐火物。
《態様5》
BaO及びCaOの含有量が、それぞれ0.10質量%未満である、態様1~4のいずれか一項に記載の高アルミナ質溶融鋳造耐火物。
《態様6》
液晶ディスプレイ用ガラスカレットの溶融ガラスに、直径19mmかつ長さ80mmの前記耐火物を浸して、1600℃で100時間保持した後に、前記耐火物の長さ方向に沿って半分に切断して得られた前記耐火物の断面の、直径方向に最も侵食された長さから計算される侵食量が、5.0mm以下である態様1~5のいずれか一項に記載の高アルミナ質溶融鋳造耐火物。
《態様7》
JIS R 2205に準拠して測定した見掛気孔率が、3.0%以下である、態様1~6のいずれか一項に記載の高アルミナ質溶融鋳造耐火物。
《態様8》
JIS R 2616の熱線法に準拠して測定した1200℃での熱伝導率が、7.0W/m・K以上である、態様1~7のいずれか一項に記載の高アルミナ質溶融鋳造耐火物。
《態様9》
JIS R 2616の熱線法に準拠して測定した1600℃での熱伝導率が、9.0W/m・K以上である、態様1~8のいずれか一項に記載の高アルミナ質溶融鋳造耐火物。
《態様10》
Al原料、SiO原料、B原料、及びMgO原料を混合して混合物を得ること、及び前記混合物を溶融することを含む、態様1~9のいずれか一項に記載の高アルミナ質溶融鋳造耐火物の製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施例2の耐火物の熱伝導率の温度依存性を示している。
図2図2は、侵食量の測定方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
《高アルミナ質溶融鋳造耐火物》
本発明の耐火物は、原料の製造時の取扱いが容易であり、かつ原料からのガス発生の抑制が容易であるため、生産が容易である。また、本発明の耐火物は、気孔率が低く、かつ高い耐食性を有することができる。さらに、本発明の耐火物は、低い気孔率を有することができるために、高い熱伝導率を有することができ、ガラス溶融炉として用いられている耐火物の冷却を耐火物の炉外側から効率的に行えるため、冷却による効果で、使用時の耐火物の耐食性をより高めることができる。
【0014】
本発明の高アルミナ質溶融鋳造耐火物は、Alを95.0~99.5質量%、SiOを0.20~1.50質量%、Bを0.05~1.50質量%、MgOを0.05~1.20質量%及びその他の成分を有することができる。
【0015】
特許文献1に記載の耐火物は、α-アルミナ粒子が微細化しているために溶融ガラスに対する耐食性が十分ではなく、また気孔率も十分ではなかった。特許文献2に記載の耐火物についても、気孔率も十分ではなかった。
【0016】
特許文献3に記載の耐火物は、BaO及びCaOを含有させるために、これらの硝酸塩や炭酸塩を使用する必要があり、製造中に硝酸ガスや炭酸ガスを発生させる結果、気泡によって製品の品質にばらつきが生じやすいという課題があった。なお、BaO及びCaOを直接用いることも可能ではあるものの、これらは水と反応するため、製造上の取扱いが困難であり、また水と反応して水酸化物となった場合には、製造中に水蒸気を発生させるため硝酸塩や炭酸塩を用いる場合と同様の問題を常時させることがあった。特許文献4に記載の耐火物は、蓄熱室で用いられる耐火物であり、溶融ガラスと接触することが意図されていなかったため耐食性が十分ではなく、また多孔質であるため、気孔率が高かった。また、特許文献5も耐食性が十分ではなく、多孔質であるため、気孔率が高かった。
【0017】
それに対して、本発明者らは、BとMgOとを併用した上記の耐火物であれば、生産が容易で、気孔率が低く、かつ耐食性を高くできることを見出した。
【0018】
理論に拘束されないが、これは、適度な量でBとMgOとを含有していることによって、溶融粘度を低下させつつ、Bが過剰に含有されている場合の問題、すなわちホウ素の気化による気泡の発生という問題を抑制し、かつMgOが過剰に含有されていることによる問題、すなわちスピネル結晶の過剰な生成による耐火物の強度の低下の問題を抑制できることによると考えられる。
【0019】
はSiOと同様にガラス相を形成する。更に、MgOを含有する上記耐火物ではMgOの含有量によってはスピネル結晶が生成するが、Bを適正量含有する事で、MgOをガラス相に留め、スピネル結晶の生成を抑制する。又、スピネル結晶が生成しても、Bが存在していることで、Bが存在しない場合よりも、スピネル結晶の生成量を抑制する。そのため耐火物中のガラス相の減少を抑制し、耐火物への亀裂の発生を防止することができる。したがって、MgOとBの共存効果により、溶湯の粘度を低下させ、気孔率が小さく緻密な耐火物が得られると共に、耐火物の製造時や使用時における亀裂の発生を防止する効果がある。
【0020】
また、B及びMgOは、BaO及びCaOとは異なり、製造上の取扱いが容易であり、かつ、MgOの場合は、酸化物として安定して存在している為、耐火物の製造時にガスも発生せず、本発明の耐火物は生産が容易である。そして、本発明の耐火物は、低い気孔率を有するために、高い熱伝導率も有することができる。
【0021】
通常、ガラス溶解炉の側壁に用いられ、溶融ガラスに接触している耐火物は、炉外から冷却する事により耐火物の温度を下げて耐火物の浸食を抑えている事が多い。したがって、耐火物が高い熱伝導率を有する場合には、ガラス溶融炉として用いられている耐火物の冷却を、炉外側から効率的に行える為、耐火物の冷却が容易になるため好ましい。
【0022】
〈化学組成〉
以下、本発明の耐火物が含有しうる各成分について詳述する。これらの成分の含有量は、耐火物を粉砕して、又は溶湯の鋳造時に採取した溶湯冷却体20g程度を粉砕して、分析を行う。この場合において、Bの含有量は、ICP発光分析で行い、他の成分の含有量については、WDS(波長分散型蛍光X線分析)で行う。
【0023】
(Al
本発明の耐火物は、化学組成として、Alの含有量が95.0質量%以上99.5質量%以下である。Alの含有量がこのような範囲である場合、耐火物に高温度での高い耐食性及び高い強度を与えることができる。
【0024】
Alの含有量は、95.5質量%以上、96.0質量%以上、96.5質量%以上、97.0質量%以上、97.5質量%以上、98.0質量%以上、又は98.5質量%以上であってもよく、99.0質量%以下、98.5質量%以下、98.0質量%以下、又は97.5質量%以下であってもよい。例えば、Alの含有量は、96.5~99.0質量%、又は97.0~98.5質量%であってもよい。
【0025】
(SiO
本発明の耐火物は、化学組成として、SiOの含有量が0.20質量%以上1.50質量%以下である。SiOの含有量がこのような範囲である場合、耐火物中のガラス相が十分となり、耐火物への亀裂の発生を防止することができる。また、この程度の量であれば、耐火物の耐食性は十分となる。
【0026】
SiOの含有量は、0.30質量%以上、0.40質量%以上、0.50質量%以上、又は0.60質量%以上であってもよく、1.20質量%以下、1.00質量%以下、0.80質量%以下、又は0.60質量%以下であってもよい。例えば、SiOの含有量は、0.30~1.20質量%、又は0.40~1.00質量%であってもよい。
【0027】
(B
本発明の耐火物は、化学組成として、Bの含有量が0.05質量%以上1.50質量%以下である。Bの含有量がこのような範囲である場合、緻密な組織が得られ、気孔率を低下させることができる。また、MgOとAlの化合物であるスピネル結晶の生成を抑制する。更に、スピネル結晶が生成しても、Bが存在していることで、Bが存在しない場合よりも、スピネル結晶の生成量を抑制して、耐火物中のガラス相の減少を抑制することで、耐火物の製造時、及び耐火物の使用時での亀裂の発生を防止することができる。
【0028】
の含有量は、0.05質量%以上、0.25質量%以上、0.50質量%以上、又は0.60質量%以上であってもよく、1.20質量%以下、1.00質量%以下、0.80質量%以下、又は0.60質量%以下であってもよい。例えば、Bの含有量は、0.05~1.20質量%、又は0.05~0.70質量%であってもよい。
【0029】
ガラス相を形成するSiOとBの合計の含有量は、0.25質量%以上、0.60質量%以上、0.80質量%以上、又は1.00質量%以上であってもよく、3.00質量%以下、1.50質量%以下、1.20質量%以下、又は1.00質量%以下であってもよい。例えば、SiOとBの合計の含有量は、0.30~1.20質量%、又は0.40~1.00質量%であってもよい。
【0030】
(MgO)
本発明の耐火物は、化学組成として、MgOの含有量が0.05質量%以上1.20質量%以下である。MgOの含有量がこのような範囲である場合、溶湯の流動性を高めることができ、緻密な組織が得られ気孔率を低下させることができる。MgOは、溶融耐火物中では、その含有量によっては、ガラス相に含まれる場合、スピネル結晶を形成する場合、その両方が存在する場合がある。しかし、Bが共存すれば、上記のMgO含有量であっても、スピネル結晶の形成による耐火物の製造時、及び耐火物の使用時での亀裂の影響が問題のない範囲となる。
【0031】
MgOの含有量は、0.10質量%以上、0.20質量%以上、0.30質量%以上、又は0.40質量%以上であってもよく、1.00質量%以下、0.80質量%以下、又は0.60質量%以下であってもよい。例えば、MgOの含有量は、0.10~1.00質量%、又は0.20~0.80質量%であってもよい。
【0032】
MgOとBの含有質量の比(B/MgO)は、0.1から10.0が好ましい。0.1未満では、スピネル結晶の生成を抑制する効果が得られにくく、10.0を超えると、ホウ素の気化の影響により気孔が増加し、緻密な耐火物を得られにくい。B/MgOの含有質量比は、0.1~5.0、又は、0.1~2.0であっても良い。
【0033】
溶湯の粘度を下げるMgOとNaOの合計の含有量は、0.30質量%以上、0.40質量%以上、0.50質量%以上、又は0.80質量%以上であってもよく、1.50質量%以下、1.20質量%以下、1.00質量%以下、0.80質量%以下、又は0.60質量%以下であってもよい。例えば、MgOとNaOの合計の含有量は、0.30~1.50質量%、又は0.40~1.00質量%であってもよい。
【0034】
(NaO)
本発明の耐火物は、溶湯の粘度を下げる成分としてMgOを用いることを1つの特徴としており、化学組成として、NaOが少ないこと、具体的にはNaOの含有量が0.50質量%以下であることが好ましい。
【0035】
従来技術では、NaOを含有させることで、β-アルミナを少量形成して、気孔率を低減させていたが、本発明では、MgOを用いることによって、NaOを含有させることなく気孔率を低減させることができる。β-アルミナが少ない場合には、耐食性を高め、かつ熱伝導率を高くすることができるため、高い熱伝導率が求められる用途においては、NaOの含有量が低い場合には、非常に有利になる。
【0036】
NaOの含有量は、0.01質量%以上、0.05質量%以上、0.10質量%以上、又は0.20質量%以上であってもよく、0.30質量%以下、0.20質量%以下、又は0.10質量%以下であってもよい。例えば、NaOの含有量は、0.01~0.50質量%、又は0.05~0.30質量%であってもよい。
【0037】
(BaO及びCaO)
本発明の耐火物は、BaO及びCaOの両方を実質的に含まなくてよい。
【0038】
BaO、CaOを含む場合は、その含有量は、それぞれ、0を超え0.10質量%未満である。それぞれが、0.02質量%以上、又は0.03質量%以上であってもよく、0.09質量%以下、0.05質量%以下、0.03質量%以下、又は0.02質量%以下であってもよい。例えば、BaO及びCaOの含有量は、それぞれ0.01~0.05質量%であってもよい。
【0039】
(その他の成分)
本発明の耐火物は、本発明の有利な効果を喪失しない範囲で、その他の成分を含有していてもよく、例えば、Li 、KO、Fe、MnO、TiO、ZrO、PbO、Cr、ZnO等を含有していてもよい。
【0040】
これらその他の成分の含有量は、それぞれ、0.01質量%以上、0.02質量%以上、又は0.03質量%以上であってもよく、0.10質量%以下、0.05質量%以下、0.03質量%以下、又は0.02質量%以下であってもよい。例えば、その他の成分の含有量は、それぞれ0.01~0.10質量%、又は0.01~0.05質量%であってもよい。
【0041】
〈鉱物組成〉
本発明の耐火物は、鉱物組成として、α-アルミナを86.0質量%以上、88.0質量%以上、90.0質量%以上、又は92.0質量%以上で含有していてもよく、99.7質量%以下、94.0質量%以下、又は、92.0質量%以下、又は90.0質量%以下で含有していてもよい。例えば、α-アルミナの含有量は、86.0~99.7質量%、又は90.0~94.0質量%であってもよい。
【0042】
本発明の耐火物は、鉱物組成として、β-アルミナを10.0質量%以下、又は8.0質量%以下、更に5.0質量%以下、3.0質量%以下、1.0質量%以下で含有していてもよい。
【0043】
本発明の耐火物は、鉱物組成として、スピネル結晶を最大4.0質量%含有していてもよく、2.0質量%以下、1.0質量%以下、0.5質量%以下、0.1質量%以下で含有していてもよい。
【0044】
本発明の耐火物は、鉱物組成として、ガラス相を5.0質量%以下含有していてもよく、3.0質量%以下、2.0質量%以下、1.5質量%以下、又は1.0質量%以下で含有していてもよい。0.25質量%以上、0.8質量%以上、1.0質量%以上、又は1.5質量%以上で含有していてもよく、例えば、ガラス相の含有量は、0.25~3.0質量%、又は0.8~1.5質量%であってもよい。
【0045】
〈物性〉
(見掛気孔率)
本発明の耐火物は、実施例に記載した方法によって測定した見掛気孔率が、3.0%以下であることが好ましい。特に、その見掛気孔率は、2.5%以下、2.0%以下、1.5%以下、又は1.0%以下であることが好ましい。
【0046】
(熱伝導率)
本発明の耐火物の熱伝導率は、図1に示すように、温度が上昇するにしたがって徐々に低下し、1200℃付近で極小点になり、その後、1200℃より高温側で増加する傾向がある。したがって、耐火物としての熱伝導率は、実際のガラス溶融炉のガラス溶解温度である1500~1600℃の高温域だけではなく、1200℃での熱伝導率も評価することが重要である。両温度での熱伝導率を評価する事で、ガラス溶融炉の冷却を行う際の冷却制御を効率的に行うことが出来る。
【0047】
本発明の耐火物は、実施例に記載した方法によって測定した1600℃での熱伝導率が、9.0W/m・K以上であることが好ましい。特に、その1600℃での熱伝導率は、9.5W/m・K以上、10.0W/m・K以上、又は10.5W/m・K以上であることが好ましい。
【0048】
また、本発明の耐火物は、実施例に記載した方法によって測定した1200℃での熱伝導率が、7.0W/m・K以上であることが好ましい。特に、その1200℃での熱伝導率は、7.5W/m・K以上、7.8W/m・K以上、8.0W/m・K以上、又は8.2W/m・K以上であることが好ましい。
【0049】
(侵食量)
本発明の耐火物は、実施例に記載した方法によって測定した侵食量が、5.0mm以下であることが好ましい。特にその侵食量は、4.5mm以下、4.0mm以下、又は3.5mm以下であることが好ましい。
【0050】
《高アルミナ質溶融鋳造耐火物の製造方法》
本発明の耐火物の製造方法は、上記のような耐火物を得るための製造方法であり、Al原料、SiO原料、B原料、及びMgO原料を混合して混合物を得る工程、及び前記混合物を溶融する工程を含む。
【0051】
Al原料、SiO原料、B原料、及びMgO原料の種類は、それぞれ溶融固化後に、得られた耐火物中で、Al、SiO、B、及びMgOの各成分となることができれば特に限定されず、本分野で周知の原料を使用することができる。本発明の製造方法では、炭酸塩等の、原料の溶融時にガスを発生させる原料を使用する必要がないため、容易に実行することができる。
【0052】
原料の混合物を溶融する工程においては、溶融の条件等については、周知の条件を採用することができる。本発明の方法は、溶融工程の後に、冷却工程を行ってもよい。
【0053】
本発明を以下の実施例でさらに具体的に説明をするが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【実施例
【0054】
《製造例》
バイヤー法によって得られたAl原料(純度:99.7%、中心粒径95μm;A-210;住友化学株式会社)、SiO原料(フリマントルサンド、純度:99.8%;Hanson Construction Materials Pty Ltd.)、B原料(無水硼酸、純度:98.0%;新日本電光株式会社)、及びMgO原料(スターマグP、純度:98.0%;神島化学工業株式会社)を、得られる耐火物が表1に記載の所定の割合になるように配合した。その配合物70kgを混合した後、アーク電気炉にて電力量130kWh(電圧160V)で溶融した。
【0055】
角錐状のグラファイト質の押し湯型がその上部に接続している、立方体形状のグラファイト質鋳型を用意した。ここで、角錐状の押し湯型は、上底が内寸210×130mmで、下底が内寸130×130mmで、高さが内寸250mmであり、下底にある直径120mmの開孔を通じて立方体形状の鋳型に接続していた。立方体形状のグラファイト質鋳型の内寸法は、230mm×230mm×230mmであった。その鋳型に、上記の溶融物を注湯し、一定時間経過の後、鋳型から鋳造物を引き抜いた。その後、鋳造物をアルミナ粉末の中に埋没して室温まで徐冷した。
【0056】
なお、比較例においては、NaO原料(ソーダ灰デンス、純度99.2%;株式会社トクヤマ)、及びLiO原料(炭酸リチウム、Albemarle U.S.Inc.)も使用した。
【0057】
《評価》
〈見掛気孔率〉
耐火物の表面を10mm研削した面からφ20mm×50mmの円柱状サンプルを採取して、JIS R 2205に準拠して、見掛気孔率を測定した。
【0058】
〈熱伝導率〉
耐火物から50×100×100mmに切り出して試料とし、JIS R 2616の熱線法に準拠して、1200℃及び1600℃における熱伝導率を測定した。
【0059】
〈侵食量〉
図2(a)に示す装置を用いて侵食量の試験を行った。耐火物から、直径約19mmΦ、長さ80mmの大きさの円柱状の試料を切り出した。また、LCDガラス(液晶ディスプレイ用ガラス)カレットを充填した、HZ(高ジルコニア質)溶融鋳造耐火物のルツボ(2)を1600℃に加熱をして、ガラスカレットを溶融して、ルツボ内を溶融ガラス(3)で満たした。上記の試料(1)を、ルツボ(2)内に吊るして、試料の長さ方向に試料の下面から2分の1~3分の2程度の位置まで溶融ガラス(3)に浸るように設置し、1600℃の炉内で100時間保持した。そして、図2(b)に示すように、その試料を冷却した後、円柱状試料を、2つの半円柱となるように半分に切断した。切断をして得られた断面において、耐火物試料の直径(a)と、最大侵食位置の残存部の直径(b)とを、ノギスで計測して、侵食量を次の式によって算出した:(a-b)/2
【0060】
《結果》
製造した試料及びその評価結果を表1に示す:
【0061】
【表1】
【0062】
及びMgOの一方しか含まれていない比較例1~3は、気孔率が十分ではなく、その結果、熱伝導率も低くなっている。また、比較例1~3は、侵食量も大きく、耐食性も不十分であることがわかる。
【0063】
及びMgOを含まず、NaO及びLiOを含む比較例4は、気孔率は比較的小さい値となっているが、熱伝導率が低く、また耐食性も十分ではなかった。これは、比較例4の耐火物にβ-アルミナが多く存在しているためと考えられる。また、この例では、原料として炭酸塩を用いており、製造中にガスが発生していた。
【0064】
比較例5は、SiO含有量が高い結果、気孔率も耐食性も不十分であった。これは、ガラス相が粘性の高いSiOによって占められている結果、緻密性を高くできなかったためであると考えられる。
【0065】
比較例6及び7では、B及びMgOが両方含まれているものの、そのいずれかの量が多すぎた結果、気孔率も耐食性も不十分な結果となった。
【0066】
比較例8は、実質的にアルミナで構成されており、この耐火物は気孔率が非常に高かった。
【0067】
それに対して、実施例1~8の耐火物は、いずれも製造中にガスの発生はなく、気孔率が低く、熱伝導率が高く、かつ耐食性も高かった。
【符号の説明】
【0068】
1 試料
2 ルツボ
3 溶融ガラス
11 最大侵食位置
12 付着した溶融ガラス
図1
図2