(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-06
(45)【発行日】2022-04-14
(54)【発明の名称】人工肺の製造方法及び人工肺
(51)【国際特許分類】
A61M 1/18 20060101AFI20220407BHJP
【FI】
A61M1/18 525
A61M1/18 500
(21)【出願番号】P 2019505724
(86)(22)【出願日】2018-01-10
(86)【国際出願番号】 JP2018000295
(87)【国際公開番号】W WO2018168171
(87)【国際公開日】2018-09-20
【審査請求日】2020-09-02
(31)【優先権主張番号】P 2017048240
(32)【優先日】2017-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】安齊 崇王
(72)【発明者】
【氏名】城戸 隆行
【審査官】土谷 秀人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/143752(WO,A1)
【文献】特開2006-288866(JP,A)
【文献】特開平3-261481(JP,A)
【文献】特開平1-180205(JP,A)
【文献】特開平11-114056(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/18
A61L 33/06
B01D 63/02
B01D 67/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外表面と、内腔を形成する内表面と、前記外表面と前記内表面とを連通する開口部と、を有する複数のガス交換用多孔質中空糸膜を有する人工肺の製造方法であって、
前記外表面及び前記内表面のいずれか一方を、抗血栓性高分子化合物を含むコロイド溶液と接触させ、他方の表面側に炭酸ガスを流通させる工程を有する、人工肺の製造方法。
【請求項2】
前記工程において、前記炭酸ガスを、前記コロイド溶液1gに対して、50mL以上5000mL以下流通させる、請求項1に記載の人工肺の製造方法。
【請求項3】
前記コロイド溶液は、抗血栓性高分子化合物を0.01質量%以上含む、請求項1又は2に記載の人工肺の製造方法。
【請求項4】
前記工程において、前記外表面を、抗血栓性高分子化合物を含むコロイド溶液と接触させ、前記内表面側に炭酸ガスを流通させる、請求項1~3のいずれか1項に記載の人工肺の製造方法。
【請求項5】
前記抗血栓性高分子化合物は、下記式(I):
【化1】
式中、R
3は、水素原子又はメチル基を表し、R
1は、炭素数1~4のアルキレン基を表し、R
2は、炭素数1~4のアルキル基を表す;
で示されるアルコキシアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の人工肺の製造方法。
【請求項6】
前記抗血栓性高分子化合物の重量平均分子量は、200,000を超えて800,000未満である、請求項1~5のいずれか1項に記載の人工肺の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工肺の製造方法及び人工肺に関する。詳しくは、体外血液循環において、血液中の二酸化炭素を除去し、血液中に酸素を添加するための中空糸膜型人工肺、特に中空糸膜外部血液灌流型人工肺の製造方法及び人工肺に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質膜を使用した中空糸膜型人工肺は、心臓疾患の開心術時における体外循環装置や循環補助用人工心肺装置として、一般に広く使用されている。膜型人工肺は主に中空糸膜を用い、その中空糸膜を介して血液のガス交換を行うものである。人工肺への血液の灌流方式として、中空糸膜の内側に血液を流し、中空糸膜の外側にガスを流す内部灌流方式と、逆に血液を中空糸膜の外側へ流し、ガスを中空糸膜の内側へ流す外部灌流方式とがある。
【0003】
中空糸膜型人工肺は、中空糸膜の内表面又は外表面が血液と触れるため、血液と接触する中空糸膜の内表面又は外表面が血小板系の粘着(付着)や活性化に影響を与える虞がある。特に、中空糸膜の外表面が血液と触れる外部灌流型人工肺は、血液の流れに乱れを発生させるため、血小板系の粘着(付着)や活性化に影響を与えやすい。
【0004】
このような課題を考慮して、アルコキシアルキル(メタ)アクリレートの血小板系の粘着や活性化の抑制・防止効果を利用して、従来、アルコキシアルキル(メタ)アクリレートを抗血栓性材料として外部灌流型人工肺用中空糸膜にコーティングに使用していた。例えば、特許文献1では、中空糸膜の外面又は外面層を、水、メタノール及びエタノールの混合溶媒にアルコキシアルキル(メタ)アクリレートを主成分としてなる高分子を溶解してなるコート液でコーティングした後、乾燥させることが記載されている。
【0005】
そして、血液循環後の血漿成分の漏出(血漿リーク)を抑制できる技術として、特許文献2には、抗血栓性を有する高分子材料のコロイド溶液によって中空糸膜を被覆する技術が提案されている。当該技術によれば、コロイドの平均粒子径を、中空糸膜の開口部の直径に対して特定の比率以上となるように調節することにより、その灌流方式に関わらず、血漿成分の漏出を効果的に抑制できる人工肺が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平11-114056号公報(米国特許第6495101号明細書又は欧州特許第0908191号明細書に相当)
【文献】国際公開第2016/143752号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方で、患者への負担をさらに軽減する目的から、抗血栓性を向上させるべく、中空糸膜に対する抗血栓性高分子材料(抗血栓性高分子化合物)のコート量を増加させた人工肺が求められている。
【0008】
したがって、本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、中空糸膜に対する抗血栓性高分子材料(抗血栓性高分子化合物)のコート量を増加させうる人工肺の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の問題を解決すべく、鋭意研究を行った結果、中空糸膜の一方の表面を抗血栓性高分子化合物のコロイド溶液と接触させる際に、中空糸膜の他方の表面側に炭酸ガスを流通させることにより、上記課題を解決できることを知得し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、上記目的は、外表面と、内腔を形成する内表面と、前記外表面と前記内表面とを連通する開口部と、を有する複数のガス交換用多孔質中空糸膜を有する人工肺の製造方法であって、前記外表面及び前記内表面のいずれか一方を、抗血栓性高分子化合物を含むコロイド溶液と接触させ、他方の表面側に炭酸ガスを流通させる工程を有する、人工肺の製造方法によって達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明に係る中空糸膜外部血液灌流型人工肺の一実施形態を示す断面図である。
【
図2】
図2は、本発明に係る中空糸膜外部血液灌流型人工肺に使用される中空糸膜の拡大断面図である。
【
図3】
図3は、本発明に係る中空糸膜外部血液灌流型人工肺の他の実施形態を示す断面図である。
【
図5】
図5は、本発明に係る中空糸膜外部血液灌流型人工肺に使用される内側筒状部材の一例を示す正面図である。
【
図6】
図6は、
図5に示した内側筒状部材の中央縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、外表面と、内腔を形成する内表面と、前記外表面と前記内表面とを連通する開口部と、を有する複数のガス交換用多孔質中空糸膜を有する人工肺の製造方法であって、
前記外表面及び前記内表面のいずれか一方を、抗血栓性高分子化合物を含むコロイド溶液と接触させ、他方の表面側に炭酸ガスを流通させる工程を有する、人工肺の製造方法に関する。本発明によれば、中空糸膜に対する抗血栓性高分子材料(抗血栓性高分子化合物)のコート量を増加させた人工肺を製造できる。
【0013】
本発明に係る人工肺の製造方法では、ガス交換用多孔質中空糸膜の外表面及び内表面のいずれか一方を、抗血栓性高分子化合物を含むコロイド溶液と接触させ、他方の表面側に炭酸ガスを流通させることにより、抗血栓性高分子化合物のコート量を飛躍的に増加させることができる。このような工程を経ることにより上記効果が発揮されるメカニズムは定かではないが、本発明者らは以下のように推測している。なお、本発明は下記メカニズムに限定されるものではない。
【0014】
特許文献2の技術によれば、抗血栓性高分子化合物のコロイド溶液によって、中空糸膜が被覆される。このとき、コロイド溶液に含まれる抗血栓性高分子化合物のコロイド粒子(粒子表面)は負に帯電し、この電荷を中和するように、コロイド粒子の周囲には、陽イオンが存在していると考えられる。すなわち、コロイド粒子は、電気二重層(electric double layer)を形成した状態にあると推測される。そして、上記陽イオンは、負電荷に帯電した中空糸膜表面に対し、コロイド粒子を吸着させる役割を果たす。
【0015】
一方で、コロイド粒子の周囲に存在する陽イオンは、他のコロイド粒子の表面に存在する陽イオンと反発し、コロイド粒子を分散させる役割も担っている。ここで、中空糸膜の一方の表面にコロイド粒子を含む水溶液(コロイド溶液)を接触させ、他方の面側に炭酸ガスを流通させると、中空糸膜の開口部を通じてコロイド溶液と炭酸ガスとが接触し、二酸化炭素(CO2)が水に溶解する。これにより、コロイド溶液中に炭酸水素イオン(HCO3
-)や炭酸イオン(CO3
2-)、水素イオン(H+)が生じるため、コロイド溶液の導電率が上昇する。そして、コロイド粒子の周囲に存在する陽イオンがコロイド粒子表面の近くへ押しやられ、上記電気二重層の厚さが減少する。その結果、コロイド粒子間で分子間力が働く範囲内にコロイド粒子が互いに接近し、周囲を取り巻く陽イオン間の反発が起こる前にコロイド粒子同士が凝集しやすくなる。その結果、中空糸膜の表面に吸着したコロイド粒子に対し、他のコロイド粒子が凝集しやすくなるため、抗血栓性高分子化合物のコート量が増大すると推測される。加えて、コロイド溶液中で凝集した状態にあるコロイド粒子が、中空糸膜の表面に吸着することによっても、コート量が増大すると考えられる。よって、本発明に係る方法により製造された人工肺は、抗血栓性に優れる。
【0016】
以下、本発明の好ましい実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。以下では、好ましい実施形態として、中空糸膜外部血液灌流型人工肺について具体的に説明するが、本発明の方法により製造される人工肺は中空糸膜内部血液灌流型人工肺であってもよく、この場合でも下記実施の形態を適宜変更することによって適用できる。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0017】
本明細書において、範囲を示す「X~Y」は、X及びYを含み、「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作及び物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で測定する。
【0018】
[人工肺の製造方法]
本発明に係る人工肺の製造方法は、外表面と、内腔を形成する内表面と、前記外表面と前記内表面とを連通する開口部と、を有する複数のガス交換用多孔質中空糸膜を有する人工肺の製造方法であって、前記外表面及び前記内表面のいずれか一方を、抗血栓性高分子化合物を含むコロイド溶液と接触させ、他方の表面側に炭酸ガスを流通させる工程を有する。
【0019】
本発明の方法では、まず、抗血栓性高分子化合物のコロイドを含む溶液(コロイド溶液)を調製する。そして、当該コロイド溶液を中空糸膜の外表面及び内表面のいずれか一方と接触させ、他方の表面側に炭酸ガスを流通させる。以下では、(1)コロイド溶液の調製工程及び(2)コロイド溶液の塗布(被覆)工程として、それぞれ説明する。
【0020】
(1)コロイド溶液の調製工程
本工程では、中空糸膜の外表面又は内表面に塗布するための、コロイド溶液を調製する。上述のように、本発明に係る方法において用いられるコロイド溶液は、抗血栓性高分子化合物を含む。
【0021】
まず、本発明に係るコロイド溶液の調製において用いられる抗血栓性高分子化合物について説明する。
【0022】
(抗血栓性高分子化合物及びその製造方法)
本発明において用いられる抗血栓性高分子化合物は、中空糸膜に塗布されることにより、人工肺に抗血栓性を付与する化合物である。
【0023】
抗血栓性高分子化合物は、抗血栓性や生体適合性を有するものであれば、特に制限なく用いることができる。なかでも、上記特性に優れるという観点から、抗血栓性高分子化合物は、下記式(I):
【0024】
【0025】
式中、R3は、水素原子又はメチル基を表し、R1は、炭素数1~4のアルキレン基を表し、R2は、炭素数1~4のアルキル基を表す;
で示されるアルコキシアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位を有すると好ましい。上記の式(I)で示される構成単位を有する化合物は、抗血栓性生体適合性(血小板の粘着/付着の抑制・防止効果、及び血小板の活性化の抑制・防止効果)、特に血小板の粘着/付着の抑制・防止効果に優れる。ゆえに、上記構成単位を有する化合物を用いることにより、抗血栓性生体適合性(血小板の粘着/付着の抑制・防止効果、及び血小板の活性化の抑制・防止効果)、特に血小板の粘着/付着の抑制・防止効果に優れた人工肺を製造することが可能となる。
【0026】
なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」は「アクリレート及び/又はメタクリレート」を意味する。すなわち、「アルコキシアルキル(メタ)アクリレート」は、アルコキシアルキルアクリレートのみ、アルコキシアルキルメタクリレートのみ、ならびにアルコキシアルキルアクリレート及びアルコキシアルキルメタクリレートすべての場合を包含する。
【0027】
上記式(I)において、R1は、炭素数1~4のアルキレン基を表す。ここで、炭素数1~4のアルキレン基としては、特に制限されず、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、プロピレン基の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基がある。これらのうち、エチレン基、プロピレン基が好ましく、抗血栓性及び生体適合性のさらなる向上効果を考慮すると、エチレン基が特に好ましい。R2は、炭素数1~4のアルキル基を表す。ここで、炭素数1~4のアルキル基としては、特に制限されず、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基の直鎖又は分岐鎖のアルキル基がある。これらのうち、メチル基、エチル基が好ましく、抗血栓性及び生体適合性のさらなる向上効果を考慮すると、メチル基が特に好ましい。R3は、水素原子又はメチル基を表す。なお、本発明に係る抗血栓性高分子化合物が2種以上のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位を有する場合には、各構成単位は、同一であってもあるいは異なるものであってもよい。
【0028】
アルコキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、具体的には、メトキシメチルアクリレート、メトキシエチルアクリレート、メトキシプロピルアクリレート、エトキシメチルアクリレート、エトキシエチルアクリレート、エトキシプロピルアクリレート、エトキシブチルアクリレート、プロポキシメチルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、メトキシブチルアクリレート、メトキシメチルメタクリレート、メトキシエチルメタクリレート、エトキシメチルメタクリレート、エトキシエチルメタクリレート、プロポキシメチルメタクリレート、ブトキシエチルメタクリレート等が挙げられる。これらのうち、抗血栓性及び生体適合性のさらなる向上効果の観点から、メトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシブチルアクリレートが好ましく、メトキシエチルアクリレート(MEA)が特に好ましい。すなわち、本発明に係る抗血栓性高分子化合物がポリメトキシエチルアクリレート(PMEA)であることが好ましい。上記アルコキシアルキル(メタ)アクリレートは、単独で使用されてもあるいは2種以上を混合して使用してもよい。
【0029】
本発明に係る抗血栓性高分子化合物は、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位を有していると好ましく、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位の1種もしくは2種以上から構成される重合体(単独重合体)であっても又は1種もしくは2種以上のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位及び当該アルコキシアルキル(メタ)アクリレートと共重合し得る1種もしくは2種以上の単量体由来の構成単位(他の構成単位)から構成される重合体(共重合体)であってもよい。なお、本発明に係る抗血栓性高分子化合物が2種以上の構成単位から構成される場合には、高分子(共重合体)の構造は特に制限されず、ランダム共重合体、交互共重合体、周期的共重合体、ブロック共重合体のいずれであってもよい。また、重合体の末端は特に制限されず、使用される原料の種類によって適宜規定されるが、通常、水素原子である。
【0030】
ここで、本発明に係る抗血栓性高分子化合物がアルコキシアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位に加えて他の構成単位を有する場合の、アルコキシアルキル(メタ)アクリレートと共重合し得る単量体(共重合性単量体)としては、特に制限されない。例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘキシルメタクリレート、エチレン、プロピレン、アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、アミノメチルアクリレート、アミノエチルアクリレート、アミノイソプロピルアクリレート、ジアミノメチルアクリレート、ジアミノエチルアクリレート、ジアミノブチルアクリレート、メタアクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、N,N-ジエチルメタクリルアミド、アミノメチルメタクリレート、アミノエチルメタクリレート、ジアミノメチルメタクリレート、ジアミノエチルメタクリレート等が挙げられる。これらのうち、共重合性単量体としては、分子内にヒドロキシル基やカチオン性基を有しないものが好ましい。共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体のいずれでもよく、ラジカル重合やイオン重合、マクロマーを利用した重合等の公知の方法により合成することができる。ここで、共重合体の全構成単位中、共重合性単量体に由来する構成単位の割合は、特に制限されないが、抗血栓性及び生体適合性などを考慮すると、共重合性単量体に由来する構成単位(他の構成単位)が、共重合体の全構成単位中、0モル%を超えて50モル%以下であることが好ましい。50モル%を超えると、アルコキシアルキル(メタ)アクリレートによる効果が低下してしまう可能性がある。
【0031】
ここで、抗血栓性高分子化合物の重量平均分子量は特に制限されないが、好ましくは80,000以上である。本発明に係る人工肺の製造方法において、抗血栓性高分子化合物は、コロイド溶液の形態で中空糸膜の外表面又は内表面に塗布される。したがって、所望のコロイド溶液を調製しやすいという観点から、抗血栓性高分子化合物の重量平均分子量は、800,000未満であると好ましい。上記範囲とすることにより、抗血栓性高分子化合物を含む溶液中で、当該化合物が凝集又は沈殿することを抑制し、安定したコロイド溶液を調製することができる。さらに、抗血栓性高分子化合物の重量平均分子量は、200,000を超えて800,000未満であると好ましく、210,000~600,000であるとより好ましく、220,000~500,000であるとさらにより好ましく、230,000~450,000であると特に好ましい。
【0032】
本明細書において、「重量平均分子量」は、標準物質としてポリスチレンを、移動相としてテトラヒドロフラン(THF)をそれぞれ使用するゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography、GPC)により測定した値を採用するものとする。具体的には、分析対象となるポリマーをTHFに溶解し10mg/mlの溶液を調製する。このように調製されたポリマー溶液について、株式会社島津製作所製GPCシステムLC-20にShodex社製GPCカラムLF-804を取り付け、移動相としてTHFを流し、標準物質としてポリスチレンを用いて、分析対象となるポリマーのGPCを測定する。標準ポリスチレンで較正曲線を作製した後、この曲線に基づいて分析対象となるポリマーの重量平均分子量を算出する。
【0033】
抗血栓性高分子化合物の分子量を大きくすることによって、被膜中に含まれる、分子量が比較的小さい高分子の含有量を低減でき、その結果、比較的分子量が小さい高分子が、血液中へ溶出することを抑制・防止するという効果も得られると推測される。したがって、抗血栓性高分子化合物の重量平均分子量が上記範囲に含まれる場合には、被膜(特に低分子量の高分子)の血液中への溶出を更に有効に抑制・防止できる。また、抗血栓性及び生体適合性の点からも好ましい。また、本明細書において、「低分子量の高分子」とは、重量平均分子量が60,000未満の高分子を意味する。なお、重量平均分子量の測定方法は、上記の通りである。
【0034】
また、上記式(I)で示されるアルコキシアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位を含む抗血栓性高分子化合物は、公知の方法によって製造できる。具体的には、下記式(II):
【0035】
【0036】
で示されるアルコキシアルキル(メタ)アクリレート、及び必要に応じて添加される上記アルコキシアルキル(メタ)アクリレートと共重合し得る単量体(共重合性単量体)の1種又は2種以上とを重合溶媒中で重合開始剤と共に撹拌して、単量体溶液を調製し、上記単量体溶液を加熱することにより、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート、又はアルコキシアルキル(メタ)アクリレート及び必要に応じて添加される共重合性単量体を(共)重合させる方法が好ましく使用される。なお、上記式(II)において、置換基R1、R2及びR3は、上記式(I)の定義と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0037】
上記単量体溶液の調製で使用できる重合溶媒は、用いられる上記式(II)のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート及び必要に応じて添加される共重合性単量体を溶解できるものであれば特に制限されない。例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコール、ポリエチレングリコール類などの水性溶媒;トルエン、キシレン、テトラリン等の芳香族系溶媒;及びクロロホルム、ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン系溶媒などが挙げられる。これらのうち、アルコキシアルキル(メタ)アクリレートの溶解しやすさ、上記したような重量平均分子量を有する高分子の得やすさなどを考慮すると、メタノールが好ましい。
【0038】
単量体溶液中の単量体濃度は、特に制限されないが、濃度を比較的高く設定することによって、得られる抗血栓性高分子化合物の重量平均分子量を大きくすることができる。このため、上記したような重量平均分子量を有する高分子の得やすさなどを考慮すると、単量体溶液中の単量体濃度は、好ましくは50質量%未満であり、より好ましくは15質量%以上50質量%未満である。さらに、単量体溶液中の単量体濃度は、より好ましくは20質量%以上48質量%以下であり、特に好ましくは25質量%以上45質量%以下である。なお、上記単量体濃度は、単量体を2種以上使用する場合には、これらの単量体の合計濃度を意味する。
【0039】
重合開始剤は特に制限されず、公知のものを使用すればよい。好ましくは、重合安定性に優れる点で、ラジカル重合開始剤であり、具体的には、過硫酸カリウム(KPS)、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;過酸化水素、t-ブチルパーオキシド、メチルエチルケトンパーオキシド等の過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロリド、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジスルフェートジハイドレート、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロリド、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン)]ハイドレート、3-ヒドロキシ-1,1-ジメチルブチルパーオキシネオデカノエート、α-クミルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3-テトラブチルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシネオヘプタノエート、t-ブチルパーオキシピバレート、t-アミルパーオキシネオデカノエート、t-アミルパーオキシピバレート、ジ(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ(セカンダリーブチル)パーオキシジカーボネート、アゾビスシアノ吉草酸等のアゾ化合物が挙げられる。また、例えば、上記ラジカル重合開始剤に、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、アスコルビン酸等の還元剤を組み合わせてレドックス系開始剤として用いてもよい。重合開始剤の配合量は、単量体(アルコキシアルキル(メタ)アクリレート及び必要に応じて添加される共重合性単量体;以下、同様)の合計量に対して、0.0001~1モル%が好ましく、0.001~0.8モル%であるとより好ましく、0.01~0.5モル%であると特に好ましい。又は、重合開始剤の配合量は、100質量部の単量体(複数種の単量体を用いる場合は、その全体)に対して、好ましくは0.005~2質量部であり、より好ましくは0.05~0.5質量部である。このような重合開始剤の配合量であれば、所望の重量平均分子量を有する高分子がより効率よく製造できる。
【0040】
上記重合開始剤は、単量体及び重合溶媒とそのまま混合されてもよいが、予め他の溶媒に溶解した溶液の形態で単量体及び重合溶媒とそのまま混合されてもよい。後者の場合、他の溶媒としては、重合開始剤を溶解できるものであれば特に制限されないが、上記重合溶媒と同様の溶媒が例示できる。また、他の溶媒は、上記重合溶媒と同じであっても又は異なってもよいが、重合の制御のしやすさなどを考慮すると、上記重合溶媒と同じ溶媒であることが好ましい。また、この場合の他の溶媒における重合開始剤の濃度は、特に制限されないが、混合のしやすさなどを考慮すると、重合開始剤の添加量が、他の溶媒100質量部に対して、好ましくは0.1~10質量部、より好ましくは0.15~5質量部、さらにより好ましくは0.2~1.8質量部である。
【0041】
次に、上記単量体溶液を加熱することにより、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート又はアルコキシアルキル(メタ)アクリレート及び他の単量体を(共)重合する。ここで、重合方法は、例えば、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合などの公知の重合方法が採用でき、好ましくは製造が容易なラジカル重合を使用する。
【0042】
重合条件は、上記単量体(アルコキシアルキル(メタ)アクリレート又はアルコキシアルキル(メタ)アクリレート及び共重合性単量体)が重合できる条件であれば特に制限されない。具体的には、重合温度は、好ましくは30~60℃であり、より好ましくは40~55℃である。また、重合時間は、好ましくは1~24時間であり、好ましくは3~12時間である。かような条件であれば、上記したような高分子量の重合体がより効率的に製造できる。また、重合工程におけるゲル化を有効に抑制・防止すると共に、高い製造効率を達成できる。
【0043】
また、必要に応じて、連鎖移動剤、重合速度調整剤、界面活性剤、及びその他の添加剤を、重合の際に適宜使用してもよい。
【0044】
重合反応を行う雰囲気は特に制限されるものではなく、大気雰囲気下、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気等で行うこともできる。また、重合反応中は、反応液を攪拌してもよい。
【0045】
重合後の重合体は、再沈澱法、透析法、限外濾過法、抽出法など一般的な精製法により精製することができる。コロイド溶液の調製に適した(共)重合体が得られるという理由から、上記の中でも、再沈殿法による精製を行うと好ましい。このとき、再沈殿を行うために用いる貧溶媒としては、エタノールを用いると好ましい。
【0046】
精製後の重合体は、凍結乾燥、減圧乾燥、噴霧乾燥、又は加熱乾燥等、任意の方法によって乾燥することもできるが、重合体の物性に与える影響が小さいという観点から、凍結乾燥又は減圧乾燥が好ましい。
【0047】
次に、本発明に係るコロイド溶液の調製方法について説明する。
【0048】
(コロイド溶液の調製)
抗血栓性高分子化合物を含む溶液(コロイド溶液)の調製に使用される溶媒は、抗血栓性高分子化合物を適度に分散させてコロイド溶液を調製することができるものであれば特に制限されない。中空糸膜の細孔の外表面又は内表面(酸素含有ガスが流れる側の表面)までのコロイド溶液の浸透をより有効に防止する観点から、溶媒が水を含むことが好ましい。ここで、水は、純水、イオン交換水又は蒸留水であると好ましく、なかでも、蒸留水であると好ましい。
【0049】
また、コロイド溶液の調製に使用される水以外の溶媒は、特に制限されないが、抗血栓性高分子化合物の分散性等の制御のしやすさを考慮すると、メタノール、アセトンであることが好ましい。上記水以外の溶媒は、1種単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。これらのうち、抗血栓性高分子化合物の分散性等のさらなる制御のしやすさを考慮すると、メタノールであることが好ましい。すなわち、溶媒は、水及びメタノールから構成されることが好ましい。ここで、水及びメタノールの混合比は、特に制限されないが、抗血栓性高分子化合物の分散性及びコロイドの平均粒子径のさらなる制御のしやすさを考慮すると、水:メタノールの混合比(質量比)が、6~32:1であることが好ましく、10~25:1であることがより好ましい。すなわち、溶媒は、6~32:1の混合比(質量比)で水及びメタノールから構成されることが好ましく、10~25:1の混合比(質量比)で水及びメタノールから構成されることがより好ましい。
【0050】
なお、上記のように、水と水以外の溶媒との混合溶媒を用いてコロイド溶液を調製する際、溶媒(例えば、水及びメタノール)、抗血栓性高分子化合物を添加する順序は特に制限されないが、以下の手順でコロイド溶液を調製すると好ましい。すなわち、抗血栓性高分子化合物を水以外の溶媒(好ましくは、メタノール)に添加して抗血栓性高分子化合物含有溶液を調製し、続いて、水に対して上記抗血栓性高分子化合物含有溶液を添加する方法でコロイド溶液を調製すると好ましい。このような方法によれば、抗血栓性高分子化合物を分散させやすい。また、上記方法によれば、粒子径が均一なコロイドを形成することができ、均一な被膜が形成しやすくなるという利点もある。
【0051】
上記方法において、水に対する抗血栓性高分子化合物含有溶液の添加速度は、特に制限されないが、水に対し、上記抗血栓性高分子化合物含有溶液を5~100g/分の速度で添加すると好ましい。
【0052】
コロイド溶液を調製する際の撹拌時間や撹拌温度は特に制限されないが、粒子径が均一なコロイドを形成しやすく、コロイドを均一に分散できるという観点から、水に抗血栓性高分子化合物含有溶液を添加した後、1~30分間撹拌すると好ましく、5~15分間撹拌するとより好ましい。また、撹拌温度は、10~40℃であると好ましく、20~30℃であるとより好ましい。
【0053】
コロイド溶液中の抗血栓性高分子化合物の濃度は、特に制限されないが、コート量を増加させやすいという観点から、0.01質量%以上であると好ましい。さらに上記観点から、コロイド溶液は、抗血栓性高分子化合物を、0.05質量%以上の濃度で含むとより好ましく、0.1質量%以上の濃度で含むと特に好ましい。一方、コロイド溶液中の抗血栓性高分子化合物の濃度の上限は、特に制限されないが、被膜の形成しやすさ、コートむらの低減効果などを考慮すると、0.3質量%以下であると好ましく、0.2質量%以下であるとより好ましい。また、このような範囲であれば、抗血栓性高分子化合物の被膜が厚くなりすぎることによる、ガス交換能の低下も抑制される。
【0054】
(2)コロイド溶液の塗布(被覆)工程
次に、上記の通り調製したコロイド溶液を、中空糸膜の外表面又は内表面に塗布(被覆)する。具体的には、人工肺(例えば、後述する
図1又は
図3のような構造のもの)を組み立てた後、上記工程(1)において調製したコロイド溶液を中空糸膜の外表面及び内表面のいずれか一方と接触させ(又は流通させ)、他方の表面側に炭酸ガスを流通させることによって、中空糸膜の外表面又は内表面(すなわち、血液接触部)を、抗血栓性高分子化合物で被覆する。これにより、中空糸膜の外表面又は内表面に抗血栓性高分子化合物を含む塗膜を形成する。また、中空糸膜に対するコロイド溶液の塗布は、コロイド溶液を中空糸膜の外表面及び内表面のいずれか一方と接触させ(又は流通させ)、他方の表面側に炭酸ガスを流通させる限りにおいては、人工肺の組立前に行ってもよい。
【0055】
本発明に係る方法により製造される人工肺の好ましい一実施形態は、外部灌流型人工肺であって、中空糸膜の外表面に抗血栓性高分子化合物が被覆されてなる形態である。よって、本工程において、上記の構成を備えた人工肺を製造するため、コロイド溶液を中空糸膜の外表面に塗布すると好ましい。すなわち、本発明に係る製造方法は、コロイド溶液の塗布(被覆)工程において、外表面を、抗血栓性高分子化合物を含むコロイド溶液と接触させ、前記内表面側に炭酸ガスを流通させる方法であると好ましい。
【0056】
また、中空糸膜の外表面及び内表面のいずれか一方を、抗血栓性高分子化合物を含むコロイド溶液と接触させる方法は、特に制限されないが、充填、ディップコート(浸漬法)等、従来公知の方法を適用することができる。なかでも、抗血栓性高分子化合物のコート量を多くするため、充填が好ましい。
【0057】
そして、外表面及び内表面のいずれか一方を、抗血栓性高分子化合物を含むコロイド溶液と接触させた状態で、他方の表面側に炭酸ガスを流通させる。これにより、中空糸膜の開口部を通じてコロイド溶液と炭酸ガスとが接触して、コロイド溶液に二酸化炭素が溶解し、前述のメカニズムによって、コロイド粒子の凝集及び中空糸膜表面への吸着が進行すると考えられる。
【0058】
この際の炭酸ガスの流通量は、特に制限されないが、コロイド溶液1gに対して、50mL以上5000mL以下が好ましく、100mL以上3000mL以下がより好ましい。炭酸ガスの流通量をコロイド溶液1g当たり50mL以上とすることにより、コロイド溶液中に十分な量の二酸化炭素が溶解し、コロイド粒子の電気二重層の厚さが減少するため、コロイド粒子の凝集及び中空糸膜表面への吸着が良好に進行すると考えられる。その結果、十分な量の抗血栓性高分子化合物がコートされた人工肺を得ることができる。一方、炭酸ガスの流通量をコロイド溶液1g当たり5000mL以下とすることにより、中空糸膜表面に吸着するコロイド粒子が多くなりすぎず、ガス交換能が低下するのを防ぐことができる。なお、本明細書において、炭酸ガスの体積(L)は、25℃、1atmにおける体積を意味する。
【0059】
上記炭酸ガスを流通させる際に、炭酸ガスに加えて、他のガス(例えば、窒素ガスなどの不活性ガス等)を流通させても構わない。ただし、コート量が十分で、かつ、コートむらの少ない人工肺を得る観点から、他のガスの割合は炭酸ガスに対して少ないことが好ましい。具体的には、炭酸ガスの流通量(体積)に対して、他のガスの流通量(体積)は0体積%以上50体積%以下であることが好ましく、0体積%以上20体積%以下であることがより好ましく、0体積%であることが最も好ましい。
【0060】
中空糸膜の外表面及び内表面のいずれか一方を、抗血栓性高分子化合物を含むコロイド溶液と接触させる方法として充填を採用する場合、コロイド溶液の充填量は、中空糸膜の膜面積(m2)に対して、50g/m2以上であることが好ましく、80g/m2以上であることがより好ましい。充填量が50g/m2以上であると、中空糸膜表面に十分な量の抗血栓性高分子化合物を含む被膜を形成することができる。一方、充填量の上限値は特に制限されないが、200g/m2以下であることが好ましく、150g/m2以下であることがより好ましい。
【0061】
なお、本明細書において、「膜面積」とは、中空糸膜の外表面の面積または内表面の面積をいう。中空糸膜の外表面を抗血栓性高分子化合物で被覆する場合(すなわち、人工肺が血液外部灌流型中空糸膜人工肺である場合)には、「膜面積」は、中空糸膜の外表面の面積をいい、中空糸膜の外径、円周率、本数および有効長の積から算出される。一方、中空糸膜の内表面を抗血栓性高分子化合物で被覆する場合(すなわち、人工肺が血液内部灌流型中空糸膜人工肺である場合)には、「膜面積」とは、中空糸膜の内表面の面積をいい、中空糸膜の内径、円周率、本数および有効長の積から算出される。
【0062】
炭酸ガスの流通速度は、特に制限されないが、中空糸膜の膜面積(m2)に対して、1L/分・m2以上20L/分・m2以下であることが好ましく、2L/分・m2以上10L/分・m2以下であることが好ましい。上記速度で炭酸ガスを流通させることにより、コロイド粒子の凝集及び中空糸膜表面への吸着が良好に進行し、コート量が十分で、かつ、コートむらの少ない人工肺を得ることができる。
【0063】
また、炭酸ガスの流通時間も、特に制限されないが、コート量、塗膜の形成しやすさ、コートむらの低減効果などを考慮すると、1分以上100分以下であることが好ましく、2分以上70分以下であることがより好ましい。また、コロイド溶液と中空糸膜との接触温度(コロイド溶液の人工肺の血液流通側への流通温度)は、コート量、塗膜の形成しやすさ、コートむらの低減効果などを考慮すると、5~40℃が好ましく、15~30℃がより好ましい。なお、コロイド溶液と中空糸膜との接触時において、コロイド溶液は静置することが好ましい。
【0064】
上記コロイド溶液との接触後に、塗膜を乾燥させることによって、本発明に係る抗血栓性高分子化合物による被覆(被膜)を中空糸膜の外表面又は内表面に形成する。ここで、乾燥条件は、本発明に係る抗血栓性高分子化合物による被覆(被膜)が中空糸膜の外表面(さらには外面層)、又は内表面(さらには内面層)に形成できる条件であれば特に制限されない。具体的には、乾燥温度は、5~50℃が好ましく、15~40℃がより好ましい。また、乾燥時間は、60~300分が好ましく、120~240分がより好ましい。又は、好ましくは5~40℃、より好ましくは15~30℃のガスを中空糸膜に連続して又は段階的に流通させることによって、塗膜を乾燥させてもよい。ここで、ガスの種類は、塗膜に何ら影響を及ぼさず、塗膜を乾燥できるものであれば特に制限されない。具体的には、空気、及び窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスなどが挙げられる。また、ガスの流通量は、塗膜を十分乾燥できる量であれば特に制限されないが、好ましく5~150Lであり、より好ましく30~100Lである。
【0065】
[人工肺]
本発明に係る人工肺の製造方法によれば、中空糸膜の外表面又は内表面に、十分な量の抗血栓性高分子化合物を含む被膜を形成することができる。すなわち、本発明の一形態によると、外表面と、内腔を形成する内表面と、前記外表面と前記内表面とを連通する開口部と、を有する複数のガス交換用多孔質中空糸膜を有する人工肺であって、前記外表面及び前記内表面のいずれか一方に、抗血栓性高分子化合物を10mg/m2表面以上100mg/m2表面以下の量で含む被膜を有する、人工肺が提供される。当該被膜中の抗血栓性高分子化合物の量は、15mg/m2表面以上60mg/m2表面以下であることがより好ましい。抗血栓性高分子化合物のコート量が10mg/m2表面以上であれば、抗血栓性に優れた人工肺が得られる。一方、コート量の上限は特に制限されないが、100mg/m2以下であると好ましい。かようなコート量であれば、抗血栓性高分子化合物を含む被膜が厚すぎることによるガス交換能の低下が抑制され、ガス交換能にも優れた人工肺が得られる。なお、上記コート量は、下記実施例に記載の方法によって測定される値を採用する。
【0066】
前述の本発明に係る人工肺の製造方法において説明したのと同様の理由から、本発明に係る人工肺は、中空糸膜の外表面に上記被膜を有することが好ましい。また、抗血栓性高分子化合物の好ましい化学構造及び重量平均分子量についても、前述の本発明に係る人工肺の製造方法において説明したのと同様であるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0067】
本発明に係る人工肺は、上記の通り、抗血栓性高分子材料が十分な量で被覆されるため、中空糸膜の外表面側又は内表面側の抗血栓性が向上する。したがって、当該人工肺を体外循環回路中に組み込み、血液を循環させた際、当該循環血液の血小板数維持率が向上する。具体的には、30分間血液を循環させた後の血小板数維持率が、70%を超えると好ましく、80%以上であるとより好ましく、90%以上であると特に好ましい(上限:100%)。なお、上記血小板数維持率は、下記実施例に記載の方法によって測定される値を採用する。
【0068】
本発明に係る人工肺の詳細を、図面を参照しながら以下で説明する。
【0069】
図1は、本発明に係る中空糸膜外部血液灌流型人工肺の一実施形態の断面図である。
図2は、本発明に係る中空糸膜外部血液灌流型人工肺に使用されているガス交換用多孔質中空糸膜の拡大断面図である。
図3は、本発明に係る人工肺の他の実施形態の断面図である。
【0070】
図1において、人工肺1は、多数のガス交換用多孔質中空糸膜3をハウジング2内に収納し、中空糸膜3の外面側に血液が流れ、中空糸膜3の内部に酸素含有ガスが流れるタイプの人工肺である。そして、
図2において、血液接触部となる中空糸膜3の外面(外表面3a’、又は外表面3a’及び外面層3a)に抗血栓性高分子化合物18が被覆されている。抗血栓性高分子化合物18の被覆(被膜)は、中空糸膜3の外表面3a’に選択的に形成される。
図2では、中空糸膜外部血液灌流型人工肺に使用される中空糸膜の外表面3a’に抗血栓性高分子化合物18の被覆(被膜)が形成された形態を示している。かような形態の中空糸膜は、外表面3a’側に血液が接触し、内表面3c’側に酸素含有ガスが流通される。なお、本発明では、上述したように、中空糸膜内部血液灌流型人工肺としてもよい。よって、中空糸膜は、上記形態とは逆の構成、すなわち、内表面3c’に抗血栓性高分子化合物18の被覆(被膜)が形成された形態としてもよい。
【0071】
なお、「抗血栓性高分子化合物が中空糸膜の外面を被覆する」とは、抗血栓性高分子化合物の被覆(被膜)が中空糸膜の外表面(血液が流れる側の表面)、又は外表面及び外面層に形成されることを意図する。一方、「抗血栓性高分子化合物が中空糸膜の外表面を被覆する」とは、抗血栓性高分子化合物の被覆(被膜)が中空糸膜の外表面(血液が流れる側の表面)に形成されることを意図する。また、「抗血栓性高分子化合物が中空糸膜の外面層を被覆する」とは、抗血栓性高分子化合物が一部中空糸膜の外面層(細孔の外表面近傍)内に浸透して被覆(被膜)を形成することを意図する。なお、抗血栓性高分子化合物の被覆(被膜)は、中空糸膜の血液接触部(外表面)の少なくとも一部に形成されればよいが、抗血栓性生体適合性(血小板の粘着/付着の抑制・防止効果、及び血小板の活性化の抑制・防止効果)などの観点から、中空糸膜の血液接触部(外表面)全体に形成されることが好ましい。すなわち、抗血栓性高分子化合物は、人工肺の血液接触部(外表面)全体を被覆することが好ましい。
【0072】
図2に係る実施形態において、抗血栓性高分子化合物は、中空糸膜3の内部層3b又は内面層3cに存在してもよいが、中空糸膜3の内部層3b又は内面層3cには実質的に存在していないことが好ましい。本明細書において、「抗血栓性高分子化合物が中空糸膜3の内部層3b又は内面層3cには実質的に存在していない」とは、中空糸膜の内面(酸素含有ガスが流れる側の表面)付近に、抗血栓性高分子化合物の浸透が観察されないことを意味する。本発明に係る人工肺の製造方法では、抗血栓性高分子のコロイド溶液を塗布することで被膜を形成するため、抗血栓性高分子化合物が中空糸膜3の内部層3b又は内面層3cには実質的に存在していない形態とすることができる。
【0073】
本実施形態に係る中空糸膜型人工肺1は、血液流入口6と血液流出口7とを有するハウジング2と、ハウジング2内に収納された多数のガス交換用多孔質中空糸膜3からなる中空糸膜束と、中空糸膜束の両端部をハウジング2に液密に支持する一対の隔壁4,5とを有し、隔壁4,5とハウジング2の内面及び中空糸膜3の外面間に形成された血液室12と、中空糸膜3の内部に形成されたガス室と、ガス室と連通するガス流入口8及びガス流出口9とを有するものである。
【0074】
具体的には、本実施形態の中空糸膜型人工肺1は、筒状ハウジング2と、筒状ハウジング2内に収納されたガス交換用中空糸膜3の集合体と、中空糸膜3の両端部をハウジング2に液密に保持する隔壁4,5とを有し、筒状ハウジング2内は、第1の流体室である血液室12と第2の流体室であるガス室とに区画され、筒状ハウジング2には血液室12と連通する血液流入口6及び血液流出口7が設けられている。
【0075】
そして、筒状ハウジング2の端部である隔壁4の上方には中空糸膜3の内部空間であるガス室に連通する第2の流体流入口であるガス流入口8を有するキャップ状のガス流入側ヘッダー10が取り付けられている。よって、隔壁4の外面とガス流入側ヘッダー10の内面により、ガス流入室13が形成されている。このガス流入室13は、中空糸膜3の内部空間により形成されるガス室と連通している。
【0076】
同様に、隔壁5の下方に設けられ中空糸膜3の内部空間に連通する第2の流体流出口であるガス流出口9を有するキャップ状のガス流出側ヘッダー11が取り付けられている。よって、隔壁5の外面とガス流出側ヘッダー11の内面により、ガス流出室14が形成されている。
【0077】
中空糸膜3は、疎水性高分子材料からなる多孔質膜であり、公知の人工肺に使用される中空糸膜と同様のものが使用され、特に制限されない。このように中空糸膜(特に中空糸膜の内面)が疎水性高分子材料からなることにより、血漿成分の漏出を抑制することができる。
【0078】
ここで、中空糸膜の内径は、特に制限されないが、好ましくは50~300μmである。中空糸膜の外径は、特に制限されないが、好ましくは100~400μmである。中空糸膜の肉厚(膜厚)は、好ましくは20μm~100μm、より好ましくは25~80μm、さらに好ましくは25~70μm、特に好ましくは25~60μmである。なお、本明細書において、「中空糸膜の肉厚(膜厚)」とは、中空糸膜の内表面と外表面との間の肉厚を意図し、式:[(中空糸膜の外径)-(中空糸膜の内径)]/2で算出される。ここで、中空糸膜の肉厚の下限を上記のようにすることによって、中空糸膜の強度を十分確保できる。また、製造上の手間やコストの点でも満足でき、大量生産の観点からも好ましい。また、中空糸膜の空孔率は、好ましくは5~90体積%、より好ましくは10~80体積%、特に好ましくは30~60体積%である。中空糸膜の細孔径(すなわち、中空糸の開口部の孔径)は、好ましくは10nm~5μm、より好ましくは50nm~1μm、特に好ましくは50nm~100nmである。
【0079】
なお、本明細書中、「中空糸膜の開口部の直径」とは、抗血栓性高分子化合物によって被覆される側(本実施形態では、外表面側)の開口部(本明細書中、単に「細孔」とも称することがある)の平均直径を指す。また、開口部の平均直径(本明細書中、単に「孔径」又は「細孔径」とも称することがある)は、以下に記載の方法によって測定される。
【0080】
まず、走査型電子顕微鏡(SEM)で中空糸膜について、抗血栓性高分子化合物によって被覆される側(本実施形態では、外表面)を撮影する。次に、得られたSEM像について画像処理を行い、孔部分(開口部)を白く、それ以外を黒く反転させ、白い部分のピクセル数を測定する。なお、二値化の境界レベルは、最も白い部分と最も黒い部分の差の中間の値とする。
【0081】
続いて、白く表示された孔(開口部)のピクセル数を測定する。このようにして求めた各孔のピクセル数及びSEM像の解像度(μm/ピクセル)に基づいて孔面積を算出する。得られた孔面積から、孔を円形とみなして各孔の直径を算出し、無作為に、統計学的に有意な数、例えば、500個の孔の直径を抽出し、その算術平均を「中空糸の開口部の直径」とする。
【0082】
また、多孔質膜に使用される材質としては、公知の人工肺に使用される中空糸膜と同様の材料が使用できる。具体的には、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン樹脂、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、セルロースアセテート等の疎水性高分子材料などが挙げられる。これらのうち、ポリオレフィン樹脂が好ましく使用され、ポリプロピレンがより好ましい。中空糸膜の製造方法は、特に制限されず、公知の中空糸膜の製造方法が同様にしてあるいは適宜修飾して適用できる。例えば、中空糸膜は、延伸法又は固液相分離法により壁に微細孔が形成されてなることが好ましい。
【0083】
筒状ハウジング2を構成する材料もまた、公知の人工肺のハウジングに使用されるのと同様の材料が使用できる。具体的には、ポリカーボネート、アクリル・スチレン共重合体、アクリル・ブチレン・スチレン共重合体などの疎水性合成樹脂が挙げられる。ハウジング2の形状は、特に制限されないが、例えば円筒状であり、透明体であることが好ましい。透明体で形成することにより、内部の確認を容易に行うことができる。
【0084】
本実施形態における中空糸膜の収納量は、特に制限されず、公知の人工肺と同様の量が適用できる。例えば、ハウジング2内に、その軸方向に向けて並列に約5,000~100,000本の多孔質中空糸膜3が収納されている。さらに、中空糸膜3は、ハウジング2の両端に中空糸膜3の両端がそれぞれ開口した状態で隔壁4,5により液密状態に固定されている。隔壁4,5は、ポリウレタン、シリコーンゴムなどのポッティング剤で形成される。ハウジング2内の上記隔壁4,5ではさまれた部分は、中空糸膜3の内部側のガス室と中空糸膜3の外側の血液室12とに仕切られている。
【0085】
本実施形態では、ガス流入口8を有するガス流入側ヘッダー10及びガス流出口9を有するガス流出側ヘッダー11が、ハウジング2に液密に取り付けられている。これらヘッダーも、いずれの材料で形成されてもよいが、例えば、上述のハウジングに用いられる疎水性合成樹脂により形成されうる。ヘッダーはいずれの方法によって取り付けられてもよいが、例えば、ヘッダーは、超音波、高周波、誘導加熱などを用いた融着、接着剤を用いた接着又は機械的に嵌合させることによって、ハウジング2に取り付けられる。また、締め付けリング(図示しない)を用いて行ってもよい。中空糸膜型人工肺1の血液接触部(ハウジング2の内面、中空糸膜3の外面)は、全て疎水性材料により形成されることが好ましい。
【0086】
図2に示されるように、この中空糸膜型人工肺1の少なくとも血液接触部となる中空糸膜3の外表面3a’(さらには場合によっては外面層3a;以下、同様)には、抗血栓性高分子化合物18が被覆されている。上述したように、中空糸膜の内部層3b又は内面層3cには、この抗血栓性高分子化合物が実質的に存在していないことが好ましい。抗血栓性高分子化合物が実質的に存在していないため、中空糸膜の内部層3b又は内面層3cが膜の基材自身が持つ疎水性の特性がそのまま保持され、血漿成分の漏出(リーク)を有効に防止できる。特に、中空糸膜の内部層3b及び内面層3c双方に抗血栓性高分子化合物が実質的に存在していないことが好ましい。また、中空糸膜3は、中央にガス室を形成する通路(内腔)3dを備えている。加えて、中空糸膜3は、その外表面3a’と内表面3c’を連通する開口部3eを有している。かような構成を有する中空糸膜は、抗血栓性高分子化合物18によって被覆された外表面3a’側に血液が接触し、一方、内表面3c’側に酸素含有ガスが流通される形態で使用される。本発明における好ましい一実施形態は、中空糸膜3が、酸素含有ガスが流れる内腔を形成する内表面3c’と、血液と接触する外表面3a’と、を有し、外表面3a’が、本発明に係る抗血栓性高分子化合物を含む被膜で被覆される形態(すなわち、外部灌流型)である。
【0087】
本実施形態では、抗血栓性高分子化合物の被覆(被膜)は、中空糸膜の外表面(外部灌流型)に選択的に形成される。このため、血液(特に血漿成分)が中空糸膜の細孔内部に浸透しにくいか、又は浸透しない。ゆえに、中空糸膜からの血液(特に血漿成分)の漏出を有効に抑制・防止できる。特に抗血栓性高分子化合物が中空糸膜の内部層3b及び中空糸膜の内面層3cに実質的に存在しない場合には、中空糸膜の内部層3b及び中空糸膜の内面層3cは、素材の疎水性状態を維持しているため、高い血液(特に血漿成分)の漏出(リーク)をさらに有効に抑制・防止できる。したがって、本発明の方法により得られる人工肺は、高いガス交換能を長期間にわたって維持できる。
【0088】
また、本発明によれば、コロイド溶液を用いることにより、中空糸膜の外表面又は内表面に、抗血栓性高分子化合物の被覆(被膜)を均一に形成できる。このため、中空糸膜の血液接触部での血小板の粘着/付着及び活性化が少ない。また、被覆が中空糸膜から剥離することも抑制・防止できる。
【0089】
本実施形態に係る抗血栓性高分子化合物の被覆は、人工肺の中空糸膜の外表面に必須に形成されるが、外表面に加えて、他の構成部材(例えば、血液接触部全体)に形成されてもよい。当該構成をとることにより、人工肺の血液接触部全体において、血小板の粘着/付着及び活性化をさらにより有効に抑制・防止できる。また、血液接触面の接触角が低くなるので、プライミング作業が容易となる。なお、この場合には、本発明に係る抗血栓性高分子化合物の被覆は血液が接触する他の構成部材に形成されることが好ましいが、血液接触部以外の中空糸膜もしくは中空糸膜の他の部分(例えば、隔壁中に埋没する部分)には、抗血栓性高分子化合物が被覆されていなくてもよい。このような部分は、血液と接触しないので、抗血栓性高分子化合物を被覆しなくても特に問題とならない。
【0090】
また、本発明の方法により得られる人工肺は、
図3に示すようなタイプのものであってもよい。
図3は、本発明の方法により得られる人工肺の他の実施形態を示す断面図である。また、
図4は、
図3のA-A線断面図である。
【0091】
図3において、人工肺(中空糸膜外部血液灌流型人工肺)20は、側面に血液流通用開口32を有する内側筒状部材31と、内側筒状部材31の外面に巻き付けられた多数のガス交換用多孔質中空糸膜3からなる筒状中空糸膜束22と、筒状中空糸膜束22を内側筒状部材31とともに収納するハウジング23と、中空糸膜3の両端を開口した状態で、筒状中空糸膜束22の両端部をハウジングに固定する隔壁25,26と、ハウジング23内に形成された血液室17と連通する血液流入口28及び血液流出口29a、29bと、中空糸膜3の内部と連通するガス流入口24及びガス流出口27とを有するものである。
【0092】
本実施形態の人工肺20は、
図3及び
図4に示されるように、ハウジング23は、内側筒状部材31を収納する外側筒状部材33を備え、筒状中空糸膜束22は内側筒状部材31と外側筒状部材33間に収納されており、さらに、ハウジング23は、内側筒状部材内と連通する血液流入口又は血液流出口の一方と、外側筒状部材内部と連通する血液流入口又は血液流出口の他方とを備えている。
【0093】
具体的には、本実施形態の人工肺20では、ハウジング23は、外側筒状部材33、内側筒状部材31内に収納され、先端が内側筒状部材31内で開口する内筒体35を備える。内筒体35の一端(下端)には、血液流入口28が形成されており、外側筒状部材33の側面には、外方に延びる2つの血液流出口29a,29bが形成されている。なお、血液流出口は、一つであっても又は複数であってもよい。
【0094】
そして、筒状中空糸膜束22は、内側筒状部材31の外面に巻き付けられている。つまり、内側筒状部材31が筒状中空糸膜束22のコアとなっている。内側筒状部材31の内部に収納された内筒体35は、先端部が第1の隔壁25付近にて開口している。また、内側筒状部材31より、突出する下端部に血液流入口28が形成されている。
【0095】
そして、内筒体35、中空糸膜束22が外面に巻き付けられた内側筒状部材31、さらに、外側筒状部材33は、それぞれがほぼ同心的に配置されている。そして、中空糸膜束22が外面に巻き付けられた内側筒状部材31の一端(上端)及び外側筒状部材33の一端(上端)は、第1の隔壁25により、両者の同心的位置関係が維持されるとともに、内側筒状部材内部及び外側筒状部材33と中空糸膜の外面との間により形成される空間が外部と連通しない液密状態となっている。
【0096】
また、内筒体35の血液流入口28より若干上方となる部分、中空糸膜束22が外面に巻き付けられた内側筒状部材31の他端(下端)及び外側筒状部材33の他端(下端)は、第2の隔壁26により、両者の同心的位置関係が維持されるとともに、内筒体35と内側筒状部材31との間に形成される空間及び外側筒状部材33と中空糸膜の外面との間により形成される空間が外部と連通しない液密状態となっている。また、隔壁25,26は、ポリウレタン、シリコーンゴムなどのポッティング剤で形成される。
【0097】
よって、本実施形態の人工肺20では、内筒体35の内部により形成される血液流入部17a、内筒体35と内側筒状部材31との間に形成される実質的に筒状空間となっている第1の血液室17b、中空糸膜束22と外側筒状部材33との間に形成される実質的に筒状空間となっている第2の血液室17cを備え、これらにより血液室17が形成されている。
【0098】
そして、血液流入口28から流入した血液は、血液流入部17a内に流入し、内筒体35(血液流入部17a)内を上昇し、内筒体35の上端35a(開口端)より流出し、第1の血液室17b内に流入し、内側筒状部材31に形成された開口32を通過して、中空糸膜に接触し、ガス交換がなされた後、第2の血液室17cに流入し、血液流出口29a,29bより流出する。
【0099】
また、外側筒状部材33の一端には、ガス流入口24を備えるガス流入用部材41が固定されており、同様に、外側筒状部材33の他端には、ガス流出口27を有するガス流出用部材42が固定されている。なお、内筒体35の血液流入口28は、このガス流出用部材42を貫通して外部に突出している。
【0100】
外側筒状部材33としては、特に制限されないが、円筒体、多角筒、断面が楕円状のものなどが使用できる。好ましくは円筒体である。また、外側筒状部材の内径は、特に制限されず、公知の人工肺に使用される外側筒状部材の内径と同様でありうるが、32~164mm程度が好適である。また、外側筒状部材の有効長(全長のうち隔壁に埋もれていない部分の長さ)もまた、特に制限されず、公知の人工肺に使用される外側筒状部材の有効長と同様でありうるが、10~730mm程度が好適である。
【0101】
また、内側筒状部材31の形状は、特に制限されないが、例えば、円筒体、多角筒、断面が楕円状のものなどが使用できる。好ましくは円筒体である。また、内側筒状部材の外径は、特に制限されず、公知の人工肺に使用される内側筒状部材の外径と同様でありうるが、20~100mm程度が好適である。また、内側筒状部材の有効長(全長のうち隔壁に埋もれていない部分の長さ)もまた、特に制限されず、公知の人工肺に使用される内側筒状部材の有効長と同様でありうるが、10~730mm程度が好適である。
【0102】
内側筒状部材31は、側面に多数の血液流通用開口32を備えている。開口32の大きさは、筒状部材の必要強度を保持する限り、総面積が大きいことが好ましい。このような条件を満足するものとしては、例えば、正面図である
図5、
図5の中央縦断面図である
図6、さらに
図5のB-B線断面図である
図7に示されるように、開口32を筒状部材の外周面に等角度間隔で複数(例えば、4~24個、図では、長手方向に8個)設けた環状配置開口を、筒状部材の軸方向に等間隔で複数組(図では、8組/周)設けたものが好適である。さらに、開口形状は、丸、多角形、楕円形などでもよいが、
図5に示すような、長円形状のものが好適である。
【0103】
また、内筒体35の形状は、特に制限されないが、例えば、円筒体、多角筒、断面が楕円状のものなどが使用できる。好ましくは円筒体である。また、内筒体35の先端開口と第1の隔壁25との距離は、特に制限されず、公知の人工肺に使用されるのと同様の距離が適用できるが、20~50mm程度が好適である。また、内筒体35の内径もまた、特に制限されず、公知の人工肺に使用される内筒体の内径と同様でありうるが、10~30mm程度が好適である。
【0104】
筒状中空糸膜束22の厚さは、特に制限されず、公知の人工肺に使用される筒状中空糸膜束の厚さと同様でありうるが、5~35mmが好ましく、特に10mm~28mmであることが好ましい。また、筒状中空糸膜束22の外側面と内側面間により形成される筒状空間に対する中空糸膜の充填率もまた、特に制限されず、公知の人工肺における充填率が同様にして適用できるが、40~85%が好ましく、特に45~80%が好ましい。また、中空糸膜束22の外径は、公知の人工肺に使用される中空糸膜束の外径と同様でありうるが、30~170mmが好ましく、特に、70~130mmが好ましい。ガス交換膜としては、上述したものが使用される。
【0105】
そして、中空糸膜束22は、内側筒状部材31に中空糸膜を巻き付けること、具体的には、内側筒状部材31をコアとして、中空糸膜ボビンを形成させ、形成された中空糸膜ボビンの両端を、隔壁による固定の後、コアである内側筒状部材31とともに中空糸膜ボビンの両端を切断することにより、形成することができる。なお、この切断により、中空糸膜は、隔壁の外面において開口する。なお、中空糸膜の形成方法は、上記方法に限定されるものではなく、他の公知の中空糸膜の形成方法を同様にしてあるいは適宜修飾して使用してもよい。
【0106】
特に、中空糸膜は、1本あるいは複数本同時に、実質的に平行でかつ隣り合う中空糸膜が実質的に一定の間隔となるように内側筒状部材31に巻きつけられることが好ましい。これにより、血液の偏流をより有効に抑制できる。また、中空糸膜は、隣り合う中空糸膜との距離が、以下に制限されないが、中空糸膜の外径の1/10~1/1となっていることが好ましい。さらに、中空糸膜は、隣り合う中空糸膜との距離が、30~200μmであると好ましい。
【0107】
さらに、中空糸膜束22は、中空糸膜が、1本あるいは複数本(好ましくは、2~16本)同時に、かつ隣り合うすべての中空糸膜が実質的に一定の間隔となるように内側筒状部材31に巻きつけられることによって、形成されたものであるとともに、中空糸膜を内側筒状部材上に巻き付ける際に、内側筒状部材31を回転させるための回転体と中空糸膜を編み込むためのワインダーとが、下記式(1)の条件で動くことによって内側筒状部材31に巻きつけられることにより形成されたものであることが好ましい。
【0108】
【0109】
上記条件とすることによって、血液偏流の形成をより少ないものとすることができる。このときの巻取り用回転体の回転数とワインダー往復数の関係であるnは、特に制限されないが、通常、1~5であり、好ましくは2~4である。
【0110】
なお、上記他の実施形態に係る人工肺では、血液が筒状中空糸膜束22の内側より流入し、中空糸膜束22を通過した血液が中空糸膜束22の外側に流れた後、人工肺20より流出するタイプのものとなっているが、これに限られるものではない。上記他の実施形態とは逆に、血液が筒状中空糸膜束22の外側より流入し、中空糸膜束22を通過した血液が中空糸膜束22の内側に流れた後、人工肺20より流出するタイプのものであってもよい。
【0111】
また、中空糸膜型人工肺20においても、
図2に示すように、この中空糸膜型人工肺1の少なくとも中空糸膜3の外表面3a’(さらには外面層3a)に、本発明に係る抗血栓性高分子化合物18が被覆されていると好ましい。ここで、抗血栓性高分子化合物は、中空糸膜3の内部層3b又は内面層3cに存在してもよいが、内部層3b又は中空糸膜の内面層3cには実質的に存在していないことが好ましい。また、中空糸膜3は、中央にガス室を形成する通路(内腔)3dを備えている。加えて、中空糸膜3は、その外表面3a’と内表面3c’を連通する開口部3eを有している。ここで、中空糸膜の好ましい形態(内径、外径、肉厚、空孔率、細孔の孔径など)は、特に制限されないが、上記
図1において記載したものと同様の形態が採用できる。
【0112】
本実施形態に係る人工肺20では、中空糸膜3は互いに接触するとともに何重にも積み重ねられたいわゆるボビン状となっている。本実施形態では、抗血栓性高分子化合物による被覆は、均一に中空糸膜の外表面3a’に選択的に形成される。このような構成とすることにより、中空糸膜の内面層3cへの血液(特に血漿成分)の漏出も抑制・防止できる。すなわち、血液接触部である中空糸膜3の外表面3a’(さらには外面層3a)が選択的に抗血栓性高分子化合物により被覆されていることにより、血液(特に血漿成分)の漏出(リーク)を有効に抑制・防止できる。特に本発明に係る抗血栓性高分子化合物が中空糸膜3の内部層3b及び内面層3cに実質的に存在しない場合には、中空糸膜の内部層3b及び内面層3cは、素材の疎水性状態を維持しているため、高い血液(特に血漿成分)の漏出(リーク)をさらに有効に抑制・防止できる。なお、本実施形態では、血液流路が複雑でかつ狭い部分を多く備え、ガス交換能には優れるが、血小板の粘着/付着及び活性化の点においては、ボビンタイプでない外部血液灌流型の人工肺より劣る場合がある。しかしながら、上述したように、抗血栓性高分子化合物の被覆が均一であるため、中空糸膜の血液接触部での血小板の粘着/付着及び活性化が少ない。また、被覆(特にコートむら部分)が中空糸膜から剥離することも抑制・防止できる。
【0113】
また、抗血栓性高分子化合物の被覆は、人工肺の中空糸膜の外表面に必須に形成されるが、外表面に加えて、他の構成部材(例えば、血液接触部全体)に形成されてもよい。当該構成をとることにより、人工肺の血液接触部全体において、血小板の粘着/付着及び活性化をさらにより有効に抑制・防止できる。また、血液接触面の接触角が低くなるので、プライミング作業が容易となる。なお、この場合には、抗血栓性高分子化合物の被覆は血液が接触する他の構成部材に形成されることは好ましいが、血液接触部以外の中空糸膜もしくは中空糸膜の他の部分(例えば、隔壁中に埋没する部分、中空糸相互の接触部)には、抗血栓性高分子化合物が被覆されていなくてもよい。このような部分は、血液と接触しないので、抗血栓性高分子化合物を被覆しなくても特に問題とならない。
【実施例】
【0114】
本発明の効果を、以下の実施例及び比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(25℃)で行われた。また、特記しない限り、「%」及び「部」は、それぞれ、「質量%」及び「質量部」を意味する。
【0115】
[抗血栓性高分子化合物の合成]
製造例1:重量平均分子量42万のPMEAの合成
2-メトキシエチルアクリレート(MEA)80g(0.61mol)をメタノール115gに溶解し、四ツ口フラスコに入れ、50℃でN2バブリングを1時間行い、モノマー溶液を調製した。別途、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)(V-70、和光純薬工業(株)製)0.08gをメタノール5gに溶解して、重合開始剤溶液を調製した。次に、この重合開始剤溶液をモノマー溶液に添加し、50℃で5時間重合反応を行った。所定時間重合後、重合溶液をエタノールに滴下し、析出した重合体(PMEA)を回収した。なお、回収した重合体の重量平均分子量を測定したところ、420,000であった。
【0116】
[コート液の調製]
実施例1-1:PMEA濃度0.1質量%のコート液
上記製造例1で合成したPMEA(重量平均分子量=42万)0.4gを、20gのメタノールに溶解した。別の容器に蒸留水370gを添加し、スターラーで撹拌しながら、上記PMEAのメタノール溶液を20g/分の添加速度で添加した。その後、25℃で10分間撹拌し、白濁したコート液(1)を得た。コート液(1)は、PMEAのコロイドが分散されたコロイド液であった。
【0117】
実施例1-2:PMEA濃度0.3質量%のコート液
実施例1-1において用いたPMEAの量を1.2gへと変更したこと以外は、実施例1-1と同様にしてコート液(2)を得た。コート液(2)は、PMEAのコロイドが分散されたコロイド液であった。
【0118】
[人工肺の作製]
実施例2-1
内径が195μm、外径が295μm、肉厚が50μm、空孔率が約35体積%、外表面の孔径(すなわち、開口部の平均直径)が80nmの多孔質ポリプロピレン製のガス交換用多孔質中空糸膜が巻きつけられた、膜面積(中空糸膜の外表面の面積)が0.5m2である血液外部灌流型中空糸膜人工肺(a)を作製した。
【0119】
上記実施例1-1において調製したコート液(1)を人工肺(a)の血液流路に充填した状態で、ガス流通側(内表面側)に炭酸ガスを2L/分の流速で2分間流通させた後、コート液を除去して、80Lの流量の空気を流して、中空糸膜を乾燥して、被膜が外表面に形成された中空糸膜を有する血液外部灌流型中空糸膜人工肺(1)(以下、単に「人工肺(1)」とも称する)を製造した。
【0120】
実施例2-2
上記実施例2-1において炭酸ガスの流通時間を10分間へと変更したこと以外は、実施例2-1と同様にして血液外部灌流型中空糸膜人工肺(2)を製造した。なお、このようにして得られた血液外部灌流型中空糸膜人工肺(2)(以下、単に「人工肺(2)」とも称する)を製造した。
【0121】
実施例2-3
上記実施例2-1において炭酸ガスの流通時間を60分間へと変更したこと以外は、実施例2-1と同様にして血液外部灌流型中空糸膜人工肺(3)を製造した。なお、このようにして得られた血液外部灌流型中空糸膜人工肺(3)(以下、単に「人工肺(3)」とも称する)を製造した。
【0122】
比較例2-1
上記実施例2-1においてコート液(1)を人工肺(a)の血液流路に充填した状態で、ガス流通側(内表面側)から炭酸ガスを流通させずに2分間静置したこと以外は、実施例1-1と同様にして血液外部灌流型中空糸膜人工肺(4)を製造した。なお、このようにして得られた血液外部灌流型中空糸膜人工肺(4)(以下、単に「人工肺(4)」とも称する)を製造した。
【0123】
比較例2-2
上記比較例2-1において用いたコート液(1)をコート液(2)へと変更したこと以外は比較例2-1と同様にして血液外部灌流型中空糸膜人工肺(5)を製造した。なお、このようにして得られた血液外部灌流型中空糸膜人工肺(5)(以下、単に「人工肺(5)」とも称する)を製造した。
【0124】
[実験1.コート量の定量]
上記実施例2-1~2-3の人工肺(1)~(3)及び比較例2-1~2-2の人工肺(4)~(5)について、下記方法によって、PMEAのコート量を測定した。
【0125】
人工肺(1)~(5)をそれぞれ解体し、人工肺膜を取りだした。そのうち3gの人工肺膜をスクリューキャップ付きガラス管に充填し、アセトンを25ml添加し、120分間撹拌することにより、各人工肺膜にコートされたPMEAを抽出した。アセトン抽出液を別のスクリューキャップ付きガラス管に全量移した。ヒートブロックを用いて、アセトンを蒸発させた。蒸発乾固物が入ったガラス管にテトラヒドロフランを10ml添加し、蒸発乾固物を溶解した。1mg/mlのPMEAを含有するTHF溶液(標準液)についてGPCを用いて分析し、PMEAに相当するピークの面積を算出した。続いて蒸発乾固物THF溶解液(試験液)についてGPCを用いて分析し、同様にPMEAに相当するピークの面積を算出した。その後、下記の式1を用いて試験液中のPMEA量を、式2を用いて人工肺膜1m2(中空糸膜の外表面の面積1m2)あたりのPMEAコート量をそれぞれ算出した。結果を以下の表1に示す。
【0126】
【0127】
【0128】
上記表1の結果から、本発明に係る方法により製造された人工肺(1)~(3)は、PMEAのコート量が飛躍的に増加したものであることが確認された。
【0129】
[実験2.抗血栓性試験]
上記実施例2-1及び比較例2-1で得られた人工肺(1)及び人工肺(4)について、下記方法に従って、抗血栓性を評価した。
【0130】
各人工肺を体外循環回路中に組み込み、ヘパリンを添加したブタ新鮮血90ml及び生理食塩水110mlで充填した。循環血液中のへパリン濃度は、0.5u/mlとした。循環血液を、室温(25℃)、500ml/分で循環させた。循環開始直後に硫酸プロタミン(100mg/10mL)を生理食塩水で100倍希釈した溶液0.7mlを循環血液中に注入した。30分後に、それぞれの血液循環回路から血液をサンプリングし、血小板数を測定、循環開始前の血小板数に対する割合を計算し、血小板数維持率を求めた。血液中の血小板数維持率が高いほど、抗血栓性が高いことを意味する。結果を以下の表2に示す。
【0131】
【0132】
上記表2の結果から、本発明に係る方法により製造された人工肺(1)は、PMEAのコート量が増加したことにより、抗血栓性が有意に向上していることが分かる。
【0133】
本出願は、2017年3月14日に出願された日本特許出願第2017-48240号に基づいており、その開示内容は参照され、全体として組み入れられている。
【符号の説明】
【0134】
1…中空糸膜外部血液灌流型人工肺、
2…ハウジング、
3…中空糸膜、
3a…外面層、
3a’…外表面、
3b…内部層、
3c…内面層、
3c’…内表面、
3d…通路、
3e…開口部、
4,5…隔壁、
6…血液流入口、
7…血液流出口、
8…ガス流入口、
10…ガス流入側ヘッダー、
11…ガス流出側ヘッダー、
12…血液室、
14…ガス流出室、
18…抗血栓性高分子化合物、
17…血液室、
20…中空糸膜外部血液灌流型人工肺、
32…血液流通用開口、
31…内側筒状部材、
22…筒状中空糸膜束、
23…ハウジング、
25,26…隔壁、
28…血液流入口、
29a,29b…血液流出口、
24…ガス流入口、
27…ガス流出口。