(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-06
(45)【発行日】2022-04-14
(54)【発明の名称】細胞内のイオンチャネル活性を測定するための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/02 20060101AFI20220407BHJP
C07D 311/90 20060101ALI20220407BHJP
C07D 493/10 20060101ALI20220407BHJP
G01N 33/84 20060101ALI20220407BHJP
G01N 33/483 20060101ALI20220407BHJP
G01N 21/78 20060101ALI20220407BHJP
【FI】
C12Q1/02
C07D311/90 CSP
C07D493/10 E
G01N33/84 Z
G01N33/483 C
G01N21/78 C
(21)【出願番号】P 2019508857
(86)(22)【出願日】2017-08-16
(86)【国際出願番号】 US2017047152
(87)【国際公開番号】W WO2018035230
(87)【国際公開日】2018-02-22
【審査請求日】2020-08-11
(32)【優先日】2016-08-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502221282
【氏名又は名称】ライフ テクノロジーズ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100162422
【氏名又は名称】志村 将
(72)【発明者】
【氏名】ビーチャム ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ジー カイル
(72)【発明者】
【氏名】ルカビシュニコフ アレクセイ
【審査官】天野 皓己
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第09103791(US,B1)
【文献】特表2011-501155(JP,A)
【文献】Cell Calcium,2002年,Vol. 31,P. 245-251
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00 - 3/00
C07D 311/90
C07D 493/10
G01N 21/62 - 21/74
G01N 33/483
G01N 21/78
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞内のカリウムイオンチャネルの活性を検出するための方法であって、
a)前記細胞をローディング緩衝液と接触させることであって、前記細胞が、カリウムイオンチャネルを含み、前記ローディング緩衝液が、タリウムイオン指示薬を含む、前記接触させることと、
b)タリウムイオンを含む刺激緩衝液を前記細胞に適用し、それによって前記カリウムイオンチャネルを介してタリウムイオンを前記細胞内に流入させることと、
c)タリウム流入に応答した前記タリウムイオン指示薬の少なくとも1つの光学特性の変化を測定し、それによって前記カリウムイオンチャネルの活性を検出することと、を含み、
前記刺激緩衝液が、細胞含有ウェル中のカリウムイオンの最終濃度が10~150mMの範囲内となる濃度でカリウム塩を含み、
前記タリウムイオン指示薬が、次式で表される構造を有する
ものであるかまたはその塩である、前記方法:
式中、R
2=HでありかつR
1=
であり、
X=Oまたは(R
6)
2Cであり、
R
3、R
4、R
6、およびR
8は、独立してC
1~C
6アルキルであり、
かつ
R
7は、H、CH
3、またはC
2~C
6アルキル
である。
【請求項2】
前記刺激緩衝液が、
4.5mM未満のタリウムイオン濃度を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
タリウムイオン流入のレベルを定量することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記タリウム指示薬の前記少なくとも1つの光学特性が、強度、極性、周波数、または光学密度である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つの光学特性が、発光強度であり、前記方法が、タリウムイオン流入に応答した前記タリウムイオン指示薬の発光強度の変化を測定することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ローディング緩衝液が、塩化物を含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ローディング緩衝液が、生理的濃度の塩化物イオンをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記細胞が、哺乳動物細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記細胞を前記ローディング緩衝液と接触させた後に、前記細胞を洗浄することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記タリウムイオンが、塩の形態である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記タリウム塩が、前記ローディング緩衝液に可溶性である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記タリウム塩が、Tl
2SO
4、Tl
2CO
3、TlCl、TlOH、TlOAc、またはTlNO
3である、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
細胞内のカリウムイオンチャネルの活性を検出するためのキットであって、以下
:
タリウムイオン指示薬を含む、ローディング緩衝溶液;および
タリウムイオンを含み、
前記イオンチャネルを介してタリウムイオンを前記細胞内に流入させ
、かつ細胞含有ウェル中のカリウムイオンの最終濃度が10~150mMの範囲内となる濃度でカリウム塩を含む刺激緩衝液
を含み、前記タリウムイオン指示薬が、次式で表される構造を有する
ものであるかまたはその塩である、前記
キット:
式中、R
2=HでありかつR
1=
であり、
X=Oまたは(R
6)
2Cであり、
R
3、R
4、R
6、およびR
8は、独立してC
1~C
6アルキルであり、
かつ
R
7は、H、CH
3、またはC
2~C
6アルキル
である。
【請求項14】
次式で表される構造を有する化合物
であって:
式中、R
2=HでありかつR
1=
であり、
X=Oまたは(R
6)
2Cであり、
R
3、R
4、R
6、およびR
8は、独立してC
1~C
6アルキルであり、
かつ
R
7は、H
またはC
2~C
6アルキル
であり、
ただし、R
1が
である場合、各R
8は、C
1アルキルではない
、
化合物、またはその塩。
【請求項15】
請求項
14に記載の化合物と、タリウムイオンとを含む、蛍光錯体であって、適切なスペクトル波長における励起時に発光する、前記蛍光錯体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
細胞内のイオンチャネルの活性を測定するための組成物、方法およびキットが記載されている。
【背景技術】
【0002】
タリウムイオン流入は、カルシウムイオン指示薬ベンゾチアゾールカルシウムアセトキシメチル(BTC AM)エステルまたはタリウム感受性蛍光発生色素を負荷したクローン細胞株におけるカリウムイオンチャネル活性の代理指示薬として使用することができる。カリウムイオンチャネルを監視するための現行のアッセイは、タリウム(I)イオンを使用し、これは選択的に開放カリウムチャネルに入ってBTCに結合し、カリウムイオンチャネル活性の光学的読み取りを与える。この方法は、化合物ライブラリーからハイスループットスクリーニング(HTS)モードで試験された薬物によるイオンチャネルの活性化および/または阻害を研究するために使用され得る。しかしながら、BTCへの結合に基づく方法は、重大な欠点を有する。すなわち、塩化物イオンの存在下でアッセイを行うと、タリウム(I)イオンは塩化タリウム(TlCl)を形成し、これは溶解性が低く、約4.5mM以上の濃度で溶液から沈殿する。したがって、BTCを実施する現在の方法に使用される緩衝液は、TlClが溶液から沈殿して矛盾するデータを生成することを防ぐために、本質的に塩化物イオンを含まないべきである。したがって、現行法は、細胞が通常培養中で増殖する緩衝液(例えば、塩化物イオン含有緩衝液)の洗浄および除去のさらなる工程を必要とする。さらに、塩化物はこれらのアッセイには存在しないため、アッセイは生理学的条件に近似していないと見なされることがある。
【0003】
BTCに代わるものとして、タリウムイオンの存在に感受性のある蛍光発生色素を用いて、カリウムイオンチャネルおよびトランスポーター活性のHTSを監視することができる。この種の蛍光に基づくアッセイにおいて報告された蛍光シグナルは、タリウムイオンを透過するカリウムイオンチャネルまたはトランスポーターの活性の代用の読み取りとして役立ち得る。ここでは、細胞に非蛍光性のタリウムイオン感受性色素が負荷されている。スクリーニングされるべき薬物は、細胞と共にプレインキュベートされて、マイクロプレートはリーダーに装填され、そこでそれらは低レベルのタリウムイオンを含有する刺激緩衝液を注入される。タリウムイオンは自由に開いたカリウムチャネルを通って流れ、K+の代用物として作用する。カリウムチャネルが刺激されると、タリウムが細胞内に流れ込み、蛍光発生色素と結合し、生理食塩水条件でのチャネル活性に比例した蛍光シグナルを生成する。しかしながら、既存の蛍光発生色素が直面する問題は、それらがHTSアッセイにおいて非常に低レベルのタリウム(例えば、約100~500μM未満)を検出するのに十分に敏感ではないということである。したがって、生理学的に適切な条件下で非常に低い濃度でもタリウムイオンを定量的に検出する、改良された高感度の化合物が必要とされている。さらに、既存の蛍光発生化合物は、例えば緑色蛍光タンパク質などの、HTSアッセイにおける他の蛍光成分を妨害し得る光を放出することが多い。したがって、イオンチャネルの活性を監視するのに使用されるとき、タリウムなどの金属イオンの存在に応答してある範囲の可視波長にわたって光を放射する、HTSアッセイに使用するための新規の蛍光発生化合物が必要とされている。薬物ライブラリー中の化合物からの緑色自己蛍光の存在のために、FITC/緑色光学チャネルの外側にセンサーも必要とされている。自己蛍光は、このチャネルで行われた測定を妨害および/または混乱させることが知られている。したがって、GFP/FITCチャネルの外側で光を吸収および放出し、GFP/FITCスクリーンにおける「ヒット」を裏付けると同時に、そうでなければ、固有の緑色チャネル蛍光によってマスクされることになるその活性を有する潜在的な治療薬を発見する両方に働く、意味のあるカウンタースクリーンを提供するセンサー色素が必要である。
【発明の概要】
【0004】
一態様では、細胞内のカリウムイオンチャネルの活性を検出する方法であって、a)細胞をローディング緩衝液と接触させることであって、この細胞が、カリウムイオンチャネルを含み、ローディング緩衝液が、タリウムイオン指示薬を含む、前記接触させることと、b)タリウムイオンを含む刺激緩衝液を細胞に適用し、それによってカリウムイオンチャネルを介してタリウムイオンを細胞内に流入させることと、c)タリウム流入に応答したタリウムイオン指示薬の少なくとも1つの光学特性の変化を測定し、それによってカリウムイオンチャネルの活性を検出することと、を含む方法が提供され、タリウムイオン指示薬は、次式で表される構造を有する。
式中、R
2=HでありかつR
1=
であるか、
あるいは、R
1=HでありかつR
2=
であり、
X=Oまたは(R
6)
2Cであり、R
3、R
4、R
6、およびR
8は、独立してC
1~C
6アルキルであり、R
5は、HまたはFであり、かつR
7は、H、CH
3、またはC
2~C
6アルキル、もしくはその塩である。
【0005】
別の態様では、細胞内のカリウムイオンチャネルの活性を検出する方法であって、a)細胞をローディング緩衝溶液と接触させることであって、この細胞が、カリウムイオンチャネルを含み、ローディング緩衝溶液が、本明細書に開示されるタリウムイオン指示薬と、生理的濃度の塩化物イオンとを含む、前記接触させることと、タリウムイオンを含む刺激緩衝液を細胞に適用し、それによってカリウムイオンチャネルを介してタリウムイオンを細胞内に流入させることと、タリウム流入に応答したタリウムイオン指示薬の少なくとも1つの光学特性の変化を測定し、それによってカリウムイオンチャネルの活性を検出することと、を含む方法が提供される。
【0006】
刺激緩衝液は、約4.5mM未満のタリウムイオン濃度を有し得る。この方法は、タリウムイオン流入のレベルを定量化することをさらに含み得る。開示された方法では、タリウム指示薬の少なくとも1つの光学特性(例えば、強度、極性、周波数、または光学密度)をアッセイすることができる。この方法は、タリウムイオンの流入に応答したタリウムイオン指示薬の発光強度の変化を測定することを含み得る。ローディング緩衝液は、塩化物を含まなくてもよい。細胞は、哺乳動物細胞であり得る。方法は、ローディング緩衝液を細胞に適用した後に、細胞を洗浄することをさらに含み得る。いくつかの実施形態では、この方法は、ローディング緩衝液が細胞に提供された後に、細胞を洗浄することを含まない。タリウムは、塩の形態であり得る。タリウム塩は、ローディング緩衝溶液に可溶性であり得る。例えば、タリウム塩は、Tl2SO4、Tl2CO3、TlCl、TlOH、TlOAc、またはTlNO3であり得る。この方法は、ローディング緩衝溶液に消光剤を添加することをさらに含み得る。消光剤は、実質的に細胞非透過性であり得る。例えば、消光剤は、タートラジン、アマランス、アシッドレッド37、コンゴレッド、トリパンブルー、ブリリアントブラック、またはこれらの組み合わせであり得る。ある特定の実施形態では、本明細書に開示される方法は、細胞外消光剤をローディング緩衝溶液に添加し、それによって細胞外タリウムイオン指示薬の発光が消光されることをさらに含み得る。
【0007】
別の態様では、細胞内のカリウムイオンチャネルの活性を検出するためのキットが提供される。キットは、ローディング緩衝溶液を含むことができ、ローディング緩衝溶液は、塩化物、タリウムイオン指示薬、および刺激緩衝液を含み、刺激緩衝液は、タリウムイオンを含み、刺激緩衝液は、イオンチャネルを介してタリウムイオンを細胞内に流入させ、このタリウムイオン指示薬は、次式で表される構造を有する。
式中、R
2=HでありかつR
1=
であるか、
あるいは、R
1=HでありかつR
2=
であり、
X=Oまたは(R
6)
2Cであり、R
3、R
4、R
6、およびR
8は、独立してC
1~C
6アルキルであり、R
5は、HまたはFであり、かつR
7は、H、CH
3、またはC
2~C
6アルキル、もしくはその塩である。
【0008】
さらに別の態様では、以下の式で表される構造を有する化合物が提供される。
式中、R
2=HでありかつR
1=
であり、
X=Oまたは(R
6)
2Cであり、R
3、R
4、R
6、およびR
8は、独立してC
1~C
6アルキルであり、R
5は、HまたはFであり、かつR
7は、H、CH
3、またはC
2~C
6アルキル、もしくはその塩であり、
ただし、R
1が
である場合、各R
8は、C
1アルキルではない。
【0009】
さらに別の態様では、以下の式で表される構造を有する化合物が提供される。
式中、R
1=HでありかつR
2=
であり、
X=Oまたは(R
6)
2Cであり、R
3、R
4、R
6、およびR
8は、独立してC
1~C
6アルキルであり、R
5は、HまたはFであり、かつR
7は、H、CH
3、またはC
2~C
6アルキル、もしくはその塩である。本明細書に開示されている化合物、キット、または方法のいずれにおいても、存在する場合、少なくとも1つのR
5はFであり得る。
【0010】
さらに別の態様では、本明細書に開示されている化合物と、タリウムイオンとを含む蛍光錯体が提供され、この錯体は、適切なスペクトル波長における励起時に発光する。
【0011】
さらに別の態様では、水性媒体に溶解した本明細書に開示の化合物または錯体を含む組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1A】一般的な化学構造(I)および代表的なタリウムイオン指示薬であって、式中、R
2はHであるものを示す。
【
図1B】代表的なタリウムイオン指示薬であって、
図1Aに示した化学構造(I)においてR
1がHであるものを示す。
【
図10】化合物(9)または化合物(8)を負荷し、本明細書に記載のタリウム流入アッセイで試験した細胞についての経時的な蛍光シグナルの展開を示すプロットである。試料からの蛍光データを、ベースライン(刺激前)に対するシグナルの増加倍率(刺激後)として経時的にプロットした。シグナルの振幅を、示された色素を負荷した平均5~10個の個々のウェルから比較した。刺激後の化合物8(上の線)からのより大きい応答(シグナル振幅)は、化合物(9)(下の線)と比較してアッセイにおけるその優位性を示す。
【
図11】代表的なタリウム感受性化合物の化学構造である。
【
図12A】
図12Aおよび
図12B:共に、ビス(アセトキシメチル)2,2’-((4-(3’,6’-ジアセトキシ-2’,7’-ジフルオロ-3-オキソ-3H-スピロ[イソベンゾフラン-1,9’-キサンテン]-6-カルボキサミド)-2-メトキシフェニル)アザンジイル)ジアセテートの合成についての反応スキームである。
【
図13A】
図13Aおよび
図13B:共に、ビス(アセトキシメチル)2,2’-((4-(3’,6’-ジアセトキシ-2’,7’-ジフルオロ-3-オキソ-3H-スピロ[イソベンゾフラン-1,9’-キサンテン]-5-カルボキサミド)-2-メトキシフェニル)アザンジイル)ジアセテートの合成についての反応スキームである。
【
図14】ビス(アセトキシメチル)-2,2’-((5-アミノ-2-メトキシフェニル)アザンジイル)ジアセテートの合成についての反応スキームである。
【
図15】ビス(アセトキシメチル)2,2’-((5-(3’,6’-ジアセトキシ-2’,7’-ジフルオロ-3-オキソ-3H-スピロ[イソベンゾフラン-1,9’-キサンテン]-6-カルボキサミド)-2-メトキシフェニル)アザンジイル)ジアセテートの合成についての反応スキームである。
【
図16】ビス(アセトキシメチル)2,2’-((5-(3’,6’-ジアセトキシ-2’,7’-ジフルオロ-3-オキソ-3H-スピロ[イソベンゾフラン-1,9’-キサンテン]-5-カルボキサミド)-2-メトキシフェニル)アザンジイル)ジアセテート(化合物9)の合成についての反応スキームである。
【
図17】ジメチル-2,2’-((4-ホルミル-2-メトキシメチル)アザンジイル)ジアセテートおよびジメチル-2,2’-((5-ホルミル-2-メトキシフェニル)アザンジイル)ジアセテートの合成についての反応スキームである。
【
図18A】
図18Aおよび
図18B:共に、N-(9-(3-(ビス(2-(アセトキシメトキシ)-2-オキソエチル)アミノ)-4-メトキシフェニル)-6-(ジメチルアミノ)-3H-キサンテン-3-イリデン)-N-メチルメタンアミニウムブロミドの合成についての反応スキームである。
【
図19A】
図19Aおよび
図19B:共に、N-(9-(4-(ビス(2-(アセトキシメトキシ)-2-オキソエチル)アミノ)-3-メトキシフェニル)-6-(ジメチルアミノ)-3H-キサンテン-3-イリデン)-N-メチルメタンアミニウムブロミドの合成についての反応スキームである。
【
図20A】
図20Aおよび
図20B:共に、N-(10-(4-(ビス(2-(アセトキシメトキシ)-2-オキソエチル)アミノ)-3-メトキシフェニル)-7-(ジメチルアミノ)-9,9-ジメチルアントラセン-2(9H)-イリデン)-N-メチルメタンアミニウムトリフルオロメタンスルホネートおよびN-(10-(3-(ビス(2-(アセトキシメトキシ)-2-オキソエチル)アミノ)-4-メトキシフェニル)-7-(ジメチルアミノ)-9,9-ジメチルアントラセン-2(9H)-イリデン)-N-メチルメタンアミニウムトリフルオロメタンスルホネートの合成についての反応スキームである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
詳細な説明
別途定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する当業者によって一般に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書で言及された全ての特許、出願、公開された出願および他の刊行物は、それらの全体が参照により組み込まれる。このセクションに記載の定義が、参照により本明細書に組み込まれる特許、出願、公開された出願および他の刊行物に記載の定義と相反する、またはそうでなければ矛盾する場合、このセクションに記載の定義は、参照により本明細書に組み込まれる以下の定義よりも優先される。
【0014】
本明細書で使用される場合、「a」または「an」は、「少なくとも1つ」または「1つ以上」のことを意味する。
【0015】
本明細書で使用される場合、「約」という用語は、数値を記載するために使用されるとき、文脈が明らかにそうでないと指示しない限り、その数値の最大±15%までの範囲を包含する。
【0016】
組成物および方法は、様々な構成要素または工程を「含む」(「含むがこれに限定されない」と解釈される)という意味で説明されるが、組成物および方法は様々な構成要素および工程「から本質的になる」または「からなる」こともでき、そのような用語は、本質的に閉じたメンバー群を定義するものとして解釈されるべきである。
【0017】
細胞内のイオンチャネルの活性を検出するための方法において使用するための化合物および組成物が、本明細書に提供される。本明細書で使用される場合、用語「細胞」は、1つ以上の細胞を意味することを意図している。細胞は、ローディング緩衝液および刺激緩衝液を細胞に適用することができるという条件で、任意の環境にあり得る。一実施形態では、細胞はインビトロ環境にあり、方法は周知の細胞培養技術を用いて行われる。より具体的な実施形態では、細胞は細胞培養懸濁液中にある。別の特定の実施形態では、細胞は細胞接着培養物中にある。
【0018】
開示される方法は、細胞がタリウムイオンに対して透過性であるイオンチャネルを保有または発現するという条件で、任意の細胞に対して実施することができる。イオンチャネルの例としては、カリウムイオンチャネル、受容体、例えば、GIRKに結合しているイオンチャネル、およびチャネル連結型受容体、例えば、GPCR、ならびにイオントランスポーター、例えば、グルタミン酸トランスポーターが挙げられるが、これらに限定されない。細胞は通常、イオンチャネルを保有または発現することができ、またはイオンチャネルは周知のトランスフェクションおよび形質転換技術を用いて細胞に導入することができる。天然レベルのイオンチャネルを発現する細胞(例えば、非遺伝子操作細胞)をアッセイするため、およびイオンチャネルを含むように施術者によって修飾された(例えば遺伝子操作された)細胞をアッセイするための方法が提供される。
【0019】
チャネルがタリウムイオンに対して透過性であるという条件で、方法は特定の種類のイオンチャネルに限定されない。したがって、本明細書に開示される方法で使用することができるイオンチャネルの種類には、リガンドまたは電位依存性の伸展活性化カチオンチャネル、選択的または非選択的カチオンチャネルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0020】
リガンド依存性非選択的カチオンチャネルの種類としては、アセチルコリン受容体、AMPA、カイニン酸、およびNMDA受容体などのグルタミン酸受容体、5-ヒドロキシトリプタミン依存性受容体チャネル、ATP依存性(P2X)受容体チャネル、ニコチン性アセチルコリン依存性受容体チャネル、バニロイド受容体、リアノジン受容体チャネル、IP3受容体チャネル、細胞内cAMPによってインサイチュで活性化されるカチオンチャネル、および細胞内cGMPによってインサイチュで活性化されるカチオンチャネルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0021】
電位依存性イオンチャネルの種類としては、K+およびNa+チャネルが挙げられるが、これらに限定されない。チャネルは、外因的または内因的に発現させることができる。チャネルは、天然の細胞株または遺伝子操作された細胞株の両方において安定的または一過的に発現され得る。
【0022】
一態様では、カリウム(K+)イオンチャネルの活性を検出するための方法が開示される。K+チャネルの種類としては、KCNQ1(KvLOT1)、KCNQ2、KCNQ3、KCNQ4、KCNQ5、HERG、KCNE1(IeK、MinK)、Kv1.5、Kir3.1、Kir3.2、Kir3.3、Kir3.4、Kir6.2、SUR2A、ROMK1、Kv2.1、Kv1.4、Kv9.9、Kir6、SUR2B、KCNQ2、KCNQ3、GIRK1、GIRK2、GIRK3、GIRK4、hIK1、KCNA1、SUR1、Kv1.3、hERG、細胞内カルシウム活性化K+チャンネル、ラット脳(BK2)、マウス脳(BK1)および当業者に周知である他の種類のK+イオンチャネルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0023】
この方法はまた、ナトリウム(Na+)イオンチャネルの活性を検出するためにも使用することができる。Na+チャネルの種類としては、ラット脳I、II、およびIII、ヒトIIなどが挙げられるが、これらに限定されない。本明細書中に記載されるようなタリウム流束に基づくアッセイは、例えば、モデル標的としてNaV1.7チャンネルを用いてナトリウムチャンネルを研究するために使用することができる(Du、Y.,et al.,ACS Chem Neurosci.2015 Jun 17:6(6):871-8を参照されたい)。
【0024】
本明細書に記載の方法はまた、チャネル連結型受容体およびシグナル伝達系の活性を間接的に測定するためにも適用することができる。チャネル活性は、受容体サブユニットとイオンチャネル、例えば、GPCRβ-γサブユニットとGPCR連結型K+チャネル、例えば、GIRKとの間の相互作用から、またはイオンチャネル活性を調節する、カルシウム、脂質代謝産物、または環状ヌクレオチドなどのメッセンジャー分子の濃度の変化によって調節されてもよい。
【0025】
したがって、開示される方法は、イオンチャネルの透過性の変化を引き起こすことが知られている細胞内事象の活性を監視、検出および/または測定するために使用することができる。細胞内活性としては、タンパク質リン酸化または脱リン酸化、転写の上方制御または下方制御、細胞分裂、細胞アポトーシス、受容体二量体化などが挙げられるが、これらに限定されない。したがって、このような細胞内事象の測定または検出は、必要に応じて、イオンチャネルの間接的な検出または測定としても役立ち得る。
【0026】
加えて、Gタンパク質結合受容体もまた、記載された方法で利用することができる。Gタンパク質結合受容体の例としては、ムスカリン性アセチルコリン受容体(mAChR)、アドレナリン受容体、セロトニン受容体、ドーパミン受容体、アンジオテンシン受容体、アデノシン受容体、ブラジキニン受容体、代謝型興奮性アミノ酸受容体などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0027】
間接アッセイの別の種類は、活性化されたとき、細胞内環状ヌクレオチド、例えば、cAMP、cGMPのレベルにおける変化をもたらす受容体の活性を決定することを伴う。例えば、いくつかのドーパミン、セロトニン、代謝型グルタミン酸受容体およびムスカリン性アセチルコリン受容体の活性化は、細胞質のcAMPまたはcGMPレベルの増加または減少をもたらす。さらに、いくつかの環状ヌクレオチド依存性イオンチャネル、例えば桿体光受容体細胞チャネルおよび嗅覚ニューロンチャネルは、cAMPまたはcGMPの結合による活性化の際にカチオンを透過することが知られている。したがって、光受容体または嗅覚ニューロンチャネルの環状ヌクレオチド活性化の量の変化によって引き起こされる細胞質イオンレベルにおける変化を、活性化したときにcAMPまたはcGMPレベルの変化を引き起こす受容体の機能を決定するために使用することができる。一実施形態では、受容体活性化化合物を添加する前に、細胞内ヌクレオチドレベルを増加または減少させる試薬、例えば、フォルスコリンを細胞に添加する。例えば、受容体の活性化が環状ヌクレオチドレベルの減少をもたらすことが知られているか、または疑われる場合、細胞内レベルのヌクレオチドレベルを増加させることが知られているフォルスコリンを、受容体活性化化合物を添加する前に、アッセイにおける細胞に添加してもよい。
【0028】
この種のアッセイに使用される細胞は、宿主細胞の、hERGなどのイオンチャネルをコードするDNAと、活性化されるとき細胞質内の環状ヌクレオチドレベルの変化を引き起こすチャネル連結型受容体をコードするDNAとの同時トランスフェクションによって生成することができる。
【0029】
受容体としては、ムスカリン受容体、例えば、ヒトM2、ラットM3、ヒトM4、ヒトM5などが挙げられるが、これらに限定されない。他の受容体としては、ニューロンニコチン性アセチルコリン受容体、例えば、ヒトα2、ヒトα3、およびヒトβ2、ヒトα5、サブタイプラットα2サブユニット、ラットα3サブユニット、ラットα4サブユニット、ラットα5サブユニット、ニワトリα7サブユニット、ラットβ2サブユニット、ラットβ3サブユニット、ラットβ4サブユニット、ラットαaサブユニット、ラットNMDAR1受容体、マウスNMDA el受容体、ラットNMDAR2A、NMDAR2BおよびNMDAR2C受容体の組み合わせ、ラット代謝型mGluR1受容体、ラット代謝型mGluR2、mGluR3およびmGluR4受容体、ラット代謝型mGluR5受容体などが挙げられるが、これらに限定されない。他の受容体としては、アドレナリン受容体、例えば、ヒトβ1、ヒトα2、ハムスターβ2などが挙げられるが、これらに限定されない。さらに他の受容体としては、ドーパミン受容体、セロトニン受容体およびセロトニン受容体、例えば、ヒトD2、哺乳動物ドーパミンD2受容体、ラットドーパミン受容体、ヒト5HT1a、セロトニン5HT1C受容体、ヒト5HT1D、ラット5HT2、ラット5HT1cなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0030】
用語「イオンチャネル」もまた、イオントランスポーターを含む。イオントランスポーターの例としては、神経伝達物質イオントランスポーター、例えばドーパミンイオントランスポーター、グルタミン酸イオントランスポーターまたはセロトニンイオントランスポーター、ナトリウム-カリウムATPアーゼ、プロトン-カリウムATPアーゼ、ナトリウム/カルシウム交換体、および塩化カリウムイオン共トランスポーターが挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
記載された方法で使用することができる細胞の種類としては、細菌細胞、酵母細胞、植物細胞および動物細胞(例えば、昆虫細胞、鳥類細胞、および哺乳動物細胞)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0032】
開示された方法を実行するために、ローディング緩衝液が細胞に提供される。ローディング緩衝液は、溶液とすることができ、環境感受性剤を含むことができ、任意に塩化物イオンを含むことができる。本明細書で使用される場合、「環境感受性剤」は、化合物の少なくとも1つの光学特性がその直接の環境の一態様に応じて変化する、色素などの化合物である。特定の実施形態では、環境感受性剤の少なくとも1つの光学特性は、タリウムイオンに対して感受性であり得ることである。例えば、環境感受性剤は、発光色素であり得る。いくつかの実施形態では、環境感受性剤は、タリウムイオンに対して感受性のある蛍光発生色素である。例えば、細胞内の蛍光発生色素は、タリウムイオンの不在下では比較的非蛍光性であり得るが、十分な濃度のタリウムイオンの存在下では著しくより蛍光性であり得る。
【0033】
加えて、ローディング緩衝液は、追加の成分を含むことができ、例えば、限定するものではないが、血清アルブミン、トランスフェリン、L-グルタミン、脂質、抗生物質、β-メルカプトエタノール、ビタミン、ミネラル、ATP、および同様の成分が存在してもよい。ローディング緩衝液はまた、ベンズブロマロン、プロベネシドアロプリノール、コルヒチンおよびスルフィンピラゾールなどであるがこれらに限定されない、少なくとも1つの、有機イオン輸送の阻害剤を含むこともできる。存在し得るビタミンの例としては、ビタミンA、B1、B2、B3、B5、B6、B7、B9、B12、C、D1、D2、D3、D4、D5、E、トコトリエノール、K1、およびK2が挙げられるが、これらに限定されない。当業者は、所与の培養で使用するためのミネラル、ビタミン、ATP、脂質、必須脂肪酸などの最適濃度を決定することができる。栄養補助剤の濃度は、例えば、約0.001μM~約1mM以上であってもよい。栄養補助剤が提供され得る濃度の具体例としては、約0.005μM、0.01μM、0.05μM、0.1μM、0.5μM、1.0μM、2.0μM、2.5μM、3.0μM、4.0μM、5.0μM、10μM、20μM、または100μMが挙げられるが、これらに限定されない。
【0034】
ある特定の態様では、環境感受性剤は、タリウムイオンの存在に敏感な化合物であり、その場合、この化合物は互換的に「タリウムイオン感受性剤」または「タリウム指示薬」と称することができる。タリウムイオン感受性剤は、細胞膜を横切るタリウムイオンの流量の指標として用いることができ、細胞質中のタリウムイオンの濃度の変化に応答して少なくとも1つの光学特性における検出可能な変化を生じさせるように十分に敏感である。検出可能なシグナルを生成することができるタリウムイオン感受性剤の種類としては、蛍光化合物および非蛍光化合物が挙げられるが、これらに限定されない。タリウムイオン感受性剤は、親水性または疎水性であり得る。本明細書中に開示されるアッセイにおける使用に適したタリウム感受性剤は、実施例14に記載されるタリウムイオン感受性アッセイを用いてスクリーニングすることができる。
【0035】
ある特定の態様では、タリウムイオン感受性剤は、蛍光色素であることができる。細胞に負荷することができ、タリウムイオンに対して感受性であるタリウムイオン感受性蛍光化合物の多数の例が、本明細書に記載されている。1つの特定の実施形態では、この化合物は、低濃度のタリウムイオン(例えば、1mM以下)を検出するように選択される。
【0036】
タリウム感受性蛍光化合物は、色素または色素の膜透過性誘導体を含むローディング緩衝液と細胞を接触させることによって、細胞内に負荷することができる。細胞に色素を負荷することは、より疎水性の形態の色素を使用することによってさらに促進され得る。ある特定の用途については、切断可能な疎水性部分を有するタリウム指示薬を提供することが望ましい場合がある。例えば、切断可能な疎水性部分を有するタリウム指示薬は、細胞膜を通って細胞に容易に入ることができる。細胞内に入ると、その部分は細胞内の作用物質(例えば、酵素)によって切断されて、疎水性の低い化合物を生成し、それは細胞内に捕捉されたままとなる。切断可能部分は、酵素(例えば、エステラーゼ、リパーゼ、ホスホリパーゼなど)による切断を受けやすい任意の部分であり得る。代表的な切断可能部分としては、例えば、アセトキシメチル(AM)エステルなどの疎水性部分が含まれる。いくつかの実施形態では、タリウム指示薬はアセトキシメチルエステル(AM)の形態の色素であり得、これは修飾されていない形態の色素よりも本質的により疎水性であり、細胞膜をはるかに容易に透過し得る。アセトキシメチルエステル型の色素が細胞に入ると、エステル基がサイトゾルエステラーゼによって除去され、それによって色素をサイトゾルに捕捉する。例えば、タリウムイオン指示薬上のカルボン酸またはフェノール基は、AMエステルまたは酢酸エステルとしてマスキングまたは保護することができ、それによってタリウムイオン指示薬が細胞アクセスを得ることができる(すなわち、細胞膜を通過して細胞に入る)。「AMエステル」は、本明細書で使用される場合、「アセトキシ」基、すなわち、カルボン酸塩の酸素に結合して、エステルCH3C(O)OCH2OC(O)Rを形成するCH3C(O)OCH2-基を含む化合物を指し、式中、-OC(O)Rは、一般的なカルボン酸エステルである。「AMエステル」は、本明細書で使用される場合、「アシルオキシ」基、すなわち、R’C(O)OCH2OC(O)Rを含む化合物も指し、式中、R’は、アルキルまたは置換アルキルである。したがって、タリウム指示薬は、タリウムイオンに敏感な化合物のAMエステルまたは酢酸エステルで保護された誘導体を含む化合物を包含する。ある特定の実施形態では、タリウム指示薬は、生細胞膜を通る指示薬の通過を助けるためにスピロラクトン基を含み得る。細胞内に入ると、スピロラクトン環が開き、十分なタリウムイオンの存在下で、化合物は蛍光性になり得る。
【0037】
タリウム指示薬はまた、非蛍光性であり、タリウムイオンの存在下で蛍光性となる蛍光発生化合物を指す。したがって、タリウム指示薬は、タリウムイオンの存在下で蛍光の増加を示すことができる蛍光発生化合物も包含する。
【0038】
ある特定の実施形態では、タリウム指示薬は、塩の形態とすることができる。「塩」とは、当技術分野において周知の有機および無機対イオンから誘導することができる化合物の許容される塩を指し、例としては、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニウム、およびテトラアルキルアンモニウムが挙げられる。本明細書に開示される方法の実施において、2つ以上のタリウム指示薬(例えば、2つ以上のタリウム指示薬の組み合わせ)を使用することができることも理解されるべきである。
【0039】
タリウム指示薬の光学特性は、この特性が、タリウムイオンに応じて変えることができることを条件として、発光色素の任意の光学特性であることができる。蛍光色素の光学特性の例としては、強度、周波数、および極性が挙げられるが、これらに限定されない。したがって、いくつかの実施形態では、色素の強度が検出または測定される。いくつかの実施形態では、タリウムイオンに応答して変化し得る光学特性を有する発光色素(例えば、フルオロフォア)を含むタリウムイオン指示薬化合物が提供される。
【0040】
ある特定の実施形態では、タリウム指示薬はまた、「イオン錯化部分」としても称される、イオンと錯体を形成することができる基を含むことができる。これにより、本明細書で開示されるようなタリウム指示薬とタリウムイオンとの錯体もまた本明細書で提供され、このタリウム指示薬は、タリウムイオンと錯体を形成することができる基を含むことができる。タリウムイオンとの結合時に、錯体は励起時に適切なスペクトル波長において発光することができる。タリウムイオン錯化部分の代表例として、ジアリールジアザクラウンエーテルを含むクラウンエーテル;1,2-ビス-(2-アミノフェノキシエタン)-N、N、N’,N’-四酢酸(BAPTA)の誘導体;2-カルボキシメトキシ-アニリン-N,N-二酢酸(APTRA)の誘導体;2-メトキシ-アニリン-N,N-二酢酸およびその誘導体、ならびにピリジルベースおよびフェナントロリン金属イオンキレート剤が挙げられる。代表的なイオン錯化基は、
図1Aに示される一般的な化学構造(I)に示されている。
【0041】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載されるタリウムイオン指示薬化合物は、タリウムイオン、タリウムイオン錯化基に応答して変化することができる特性を有する発光色素(例えば、フルオロフォア)を含むことができる。タリウムの結合に応答してその1つ以上のその蛍光特性の変化を示す任意の化合物は、開示される方法の実施において使用することができる。例示的なタリウム指示薬は、キサンテンに基づく蛍光化合物を含む。キサンテン系化合物としては、例えば、フルオロセイン、ロドール、またはローダミンが挙げられる。例示的なキサンテン系化合物としては、例えばフッ素などのハロゲンによって1つ以上の芳香族炭素上で置換されたフルオロセインまたはロドールが挙げられる。ある特定の実施形態では、フルオロフォアはキサンテン誘導体である。いくつかの実施形態では、タリウム指示薬は、少なくとも1つのカルボン酸またはフェノールを含有するキサンテン系化合物のAMエステル誘導体である。他の実施形態では、タリウム指示薬は、ロドール誘導体またはローダミン誘導体である。
【0042】
タリウムイオン指示薬は、蛍光色素(例えば、環境感受性色素)または非蛍光化合物(例えば、タリウムイオンと会合して蛍光性となる化合物)とすることができる。したがって、一態様では、発光色素(例えば、キサンテン系色素)およびタリウムイオン錯化基を含む化合物が提供される。ある特定の実施形態では、タリウムイオン錯化基は、タリウムイオンキレート剤である。
【0043】
発光色素およびタリウムイオン錯化基を含むタリウムイオン指示薬は、
図1に示される一般構造(I)を有することができ、式中、X=Oまたは(R
6)
2Cであり、R
3、R
4、R
6、およびR
8は、独立してC
1~C
6アルキルであり、R
5は、HまたはFであり、かつR
7は、H、CH
3、またはC
2~C
6アルキル、およびその塩である。R
5置換基を含む化合物において、R
5の1つまたは両方がフッ素であることができる。本明細書に開示されるように、タリウムイオン指示薬として利用される場合、フッ素置換蛍光色素は、それらの非フッ素化類似体と比較して特定の利点を有することができる。具体的には、フッ素化色素を含むタリウム指示薬は、非フッ素化類似体と比較して、最大吸収および発光特性の同様の波長を維持しながら、より高い光安定性を保有し、6~8の生理的範囲におけるpH変化に対するより低い感度を有し、より少ない蛍光消光を呈し、より低いpKaおよびより高い量子収率などの追加の利点を保有することができる。
【0044】
本明細書に開示されているような低いpKaを有するフッ素化指標は、中性pHで完全にイオン化することができ、したがって、タリウムイオンとの結合時に、最大の蛍光を経験することができる。フッ素化色素の基底蛍光は典型的には非フッ素化類似体によって示されるものより低いので、このような化合物が本明細書に記載されるタリウムイオン検出アッセイにおいて実施されるとき、低基底蛍光とフッ素化タリウム指示薬に対する最大タリウムイオン結合とのこの組み合わせは、非常に大きなシグナル対ノイズウィンドウの生成をもたらすことができる。しかしながら、中性pHで部分的にしかイオン化されていない非フッ素化誘導体は、本明細書中に記載されるアッセイにおいて利用されるとき、ノイズウィンドウに対して実質的により小さいシグナルを示し得る。上述のように、フッ素化色素もまたpH変化に対して比較的鈍感である。タリウムイオン検出の状況下で利用されるとき、色素のpH感度は、色素からの報告を偏らせるか、または変更させ得る。有利には、タリウム分析物に対するシグナル特異性は、本明細書に記載されるようなフッ素化色素を含むタリウム指示薬を使用したpH変化による干渉による影響を最小限に受ける。タリウムイオン検出のためのフッ素化化合物を実施することのさらなる利点は、このような指示薬が広範囲の色素負荷濃度にわたって有効であることである。例えば、タリウムイオンの存在下でのフッ素化化合物についての蛍光発生応答は、開示されたタリウムイオン検出アッセイで利用される場合、ローディング緩衝液濃度の広い範囲にわたって(例えば、約0.3~30μM)比較的一定に維持することができる。比較すると、非フッ素化指示薬の過負荷または負荷不足は、同じアッセイ条件下での指示薬の活性を低下させる可能性があり、したがってそれらの使用をより狭い範囲の濃度に制限する。
【0045】
ある特定の実施形態では、タリウム感受性化合物は、
図11に表される構造を有し、式中、X=Oまたは(R
6)
2Cであり、R
3、R
4、R
6、およびR
8は、独立してC
1~C
6アルキルであり、R
5は、HまたはFであり、かつR
7は、H、CH
3、またはC
2~C
6アルキルであり、但し、全ての4つのR
8基は、C
1アルキル(すなわち、メチル)とすることはできない。
【0046】
化合物が、緩衝液または水などの水性媒体中に溶解されている、
図1Aおよび
図1Bに表示される構造を有する化合物を含む組成物も本明細書で提供される。
【0047】
本明細書に記載の化合物は、タリウムイオンの検出に使用するために記載されているが、記載された化合物は、他の種類の金属イオンにも敏感であり得る。特に関連するのは、生物学的システムまたは代謝もしくは毒物学の研究に関連するシステムに存在する金属イオン、例えばMg2+、Fe2+、Zn2+、Pb2+、Cd2+などである。本明細書に開示されるタリウム感受性剤は、典型的にはカルシウムイオンの存在に対して鈍感である。
【0048】
記載される化合物は、本明細書に具体的に開示されているものとは別に、用途におけるタリウムまたは他の金属イオンの検出を含むアッセイにおいて使用することができる。例えば、本発明の化合物は、タリウムイオンを含むがこれに限定されない金属イオンを結合、検出、定量、監視、およびさらに分析するために利用することができる。試料中の標的金属イオン(例えば、Zn2+)を結合するための例示的な方法は、本明細書に開示されるように、試料を化合物と接触させて接触試料を形成することと、化合物が標的金属イオンをキレート化し、それによって金属イオンが結合するのを可能にするのに十分な時間、接触試料をインキュベートすることと、を含む。この方法は、標的金属イオンを検出することをさらに含み、ここでは試料が適切な波長で照射され、それによって標的金属イオンが検出される。
【0049】
本明細書で提供される代表的なタリウムイオン感受性化合物は、例えば
図2~
図9に示されるものを含む。本明細書に提供されるある特定の化合物は、異なる構造異性体として存在し得る。例えば、タリウム感受性化合物は、2つ以上の置換基を有する親構造を含むことができ、ここでは、1つ以上の置換基が、異なる位置を占めて異なる化学構造を有する化合物を形成する。例示として、一般構造(I)を有する化合物(
図1A参照)は、ベンゼン環上に2つ以上の置換基(R
1およびR
2)を保有する芳香環を含むことができ、
2)を有する芳香族環、置換基R
1、R
2、R
3、およびR
4は、本明細書に開示される通りである。
【0050】
図5および
図8を参照すると、同じ親構造(I)および同じキサンテンフルオロフォア単位を有する2つの化合物が示されている。本明細書に開示されるように、R
1またはR
2いずれかがHであり得、R
1がHである場合、R
2はフルオロフォア部分を含み、R
2がHである場合、R
1はフルオロフォア部分を含む。様々な構造異性体が、本明細書に記載されている。例示として、化合物(4)において、R
1はHであり、一方化合物(7)において、R
2はHである。その結果、化合物(4)中のアミド窒素は、ビス(アセトキシメチル)2,2’-アザンジイルジアセテート置換基の窒素原子に対してメタ配向に位置付けられており、化合物(7)において、アミド窒素は、ビス(アセトキシメチル)2,2’-アザンジイルジアセテート置換基の窒素原子に関してパラ配向に位置付けられている。化合物(4)および(7)は、ベンゼン環上の置換基の相対的な位置が異なるだけであるので、これら2つの化合物は、互いに構造異性体である。
【0051】
驚くべきことに、同一の親構造を有するある特定のタリウム感受性化合物の性能が、どの構造異性体を本明細書に開示されたタリウム検出方法に従って利用したかに応じてかなり変化することを見出した。ある特定のセットの構造異性体について、同じアッセイ条件下での性能の差は、同一の親構造のメタ異性体とパラ異性体との間で劇的に、例えば2倍以上であった(表1参照)。一般に、パラ異性体についてのベースラインを超える蛍光シグナルの増加倍率は、メタ異性体について測定した場合よりも有意に高かった。
【0052】
タリウムイオン感受性蛍光剤は、色素または色素の膜透過性誘導体を含むローディング緩衝液と細胞を接触させることによって、細胞内に負荷することができる。ローディング緩衝液は、タリウムイオン指示薬(例えば、タリウムイオン感受性蛍光剤)を細胞に負荷する溶液である。細胞に色素を負荷することは、より疎水性の形態の色素を使用することによってさらに促進され得る。例えば、アセトキシメチルエステル型の色素が細胞に入ると、エステル基が細胞質ゾルエステラーゼによって除去され、それによって色素を細胞質ゾル内に捕捉する。
【0053】
蛍光タリウムイオン感受性剤が使用されている1つの具体的な実施形態では、過剰の蛍光化合物は、細胞外消光剤の十分な量を使用することによって除去することができる。細胞外消光剤の使用は、負荷されていないタリウムイオン感受性蛍光剤を細胞から洗い流す必要性を取り除く。細胞外消光剤は、好ましくは細胞浸透性ではなく、タリウムイオン感受性蛍光剤のそれから容易に分離することができる蛍光を有する光吸収性蛍光化合物であり得る。細胞外消光剤の吸収スペクトルは、タリウムイオン感受性蛍光剤の発光を著しく吸収する。細胞外消光剤は、典型的には、細胞内へのそれらの通過を妨げる化学組成を有しており、一般的に言えば、消光剤は帯電しているか、または非常に大きな化合物であるべきである。細胞外消光剤の濃度範囲は、それらの光吸収特性に応じて、マイクロモル濃度からミリモル濃度の範囲であり得る。使用され得る細胞外消光剤の種類としては、タルトラジンおよびアマランス、またはそのような消光剤の混合物、もしくは当業者に既知の他の消光剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0054】
ローディング緩衝液は、塩化物イオンを含むこともできる。一実施形態では、ローディング緩衝液は、検出可能な量の塩化物イオンを含む。別の実施形態では、ローディング緩衝液は、塩化物を含まない。提供される解決策のうちの1つは、タリウムイオンで細胞を刺激する前に、ローディング緩衝液中および細胞培地中の塩化物の使用を可能にすることである。一般に、緩衝液中の塩化物源は、通常NaCl塩からのものであるが、塩化物は存在するならば、いかなる供給源からのものでもよい。緩衝剤、例えばローディング緩衝剤または洗浄緩衝液中に存在する場合、塩化物は、開示された方法が塩化物の不在に依存しないため、実際には任意の濃度であり得る。1つの特定の実施形態では、ローディング緩衝液は、生理的に適切な濃度、すなわち約10mMで存在する塩化物を含む。当業者が許容可能な塩化物のレベルを容易に決定することができる場合、他の濃度の塩化物がまた使用されてもよい。
【0055】
ローディング緩衝液を細胞に提供された後、刺激緩衝液が、細胞内へのまたは細胞外へのタリウムイオンの移動を刺激するために細胞に添加される。刺激緩衝剤は、典型的にはタリウムイオンを含む。刺激緩衝液は、イオンチャネル、チャネル連結型受容体、またはイオントランスポーター(例えば、アゴニスト)を活性化する溶液である。いくつかのイオンチャネル/トランスポーターは、構成的に活性であり得、したがってタリウムイオントレーサーに加えて「刺激」を必要としないであろう。刺激を必要とするチャネルの場合、その刺激はリガンド(チャネルまたはチャネル連結型受容体に結合して、それを活性化する分子(アゴニスト))であり得る。刺激は、電位依存性チャネルの膜電位の変化であってもよい。典型的には、電位依存性チャネルは、電極を用いた直接電気刺激によって、または脱分極を引き起こすであろうイオン組成物を含有する刺激溶液(高外部カリウムなど)を使用することによって活性化される。さらに、タリウムイオンは、電位依存性チャネルに対する刺激としても作用し得る。このような場合、タリウムイオンは「トレーサー」と脱分極刺激との両方として作用することができる。流入アッセイでは、タリウムイオンを、刺激を加える直前、その間、またはその後に添加することができる。
【0056】
本明細に開示される方法は、本方法で使用されるイオンチャネル、チャネル連結型受容体、またはイオントランスポーターの種類に基づいて選択された刺激緩衝液を含むことができる。適切な刺激溶液およびイオンチャネル、チャネル連結型受容体またはイオントランスポーター活性化試薬を選択することは、当業者の能力の範囲内である。一実施形態では、刺激緩衝液は、イオンチャネル、チャネル連結型受容体、またはイオントランスポーターが実質的に静止したままであるように、イオンチャネルを活性化する試薬を含まない緩衝液を含む。この実施形態では、刺激溶液は、対象となるイオンチャネル、チャネル連結型受容体、またはイオントランスポーターを活性化しないが、調節試薬を細胞に添加すると、イオンチャネル、チャネル連結型受容体、またはイオントランスポーターの活性化を促進してアッセイを開始させる試薬を含む。
【0057】
電位依存性イオンチャネルとの使用のために選択された刺激溶液、例えば、N型カルシウムチャネルまたはKCNQ2チャネルは、細胞膜の静止電位に対するイオンチャネルの感度に依存する。これらの電位依存性イオンチャネルを使用する方法では、刺激溶液は、膜を脱分極するのに役立つ活性化試薬、例えばイオノフォア、バリノマイシンなどを含み得る。
【0058】
細胞膜の脱分極によって活性化するためのいくつかの電位依存性イオンチャネルで使用するために選択された刺激緩衝液は、細胞含有ウェル中のカリウムイオンの最終濃度が約10~150mMのKClの範囲内にある、例えば50mMのKClであるような濃度でカリウム塩を含む。加えて、電位依存性イオンチャネルも電気刺激によって刺激されてもよい。
【0059】
チャネル連結型受容体およびリガンド依存性イオンチャネルで使用するために選択された刺激緩衝液は、このような受容体を活性化することが知られているリガンド依存する。例えば、ニコチン性アセチルコリン受容体は、ニコチンまたはアセチルコリンによって活性化されることが知られており、同様に、ムスカリン性アセチルコリン受容体は、ムスカリンまたはカルバミルコリンの添加によって活性化され得る。これらのシステムと共に使用するための刺激緩衝液は、ニコチン、アセチルコリン、ムスカリン、またはカルバミルコリンを含み得る。
【0060】
刺激緩衝液中のタリウムイオンは任意の形態であり得るが、それは主に塩の形態であり、したがってタリウムイオンを提供する。本明細書に記載の方法で使用されるタリウムイオン溶液に使用するためのタリウムイオン塩としては、Tl2SO4、Tl2CO3、TlCl、TlOH、TlOAc、TlNO3塩などの水溶性のものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0061】
細胞へのタリウムイオン感受性剤およびタリウムイオンの輸送は、タリウムイオン感受性剤のシグナルの増加または減少を伴う。タリウムイオンは、それらの濃度勾配に沿って開放チャネルを通って移動し、細胞内の色素蛍光の強度を変化させることができ、その結果、記録されたシグナルが得られる。イオンチャネルの活性化は、タリウムイオンの流入速度を高め(タリウムイオン感受性蛍光化合物の蛍光の変化をもたらす)、そして阻害は、タリウムイオンの流入速度を減少させる(結果として、タリウムイオン感受性蛍光剤の蛍光の変化を全くまたはほとんど生じない)。一般に、タリウムイオンが結合していなければ、蛍光は同じままである。
【0062】
タリウム指示薬の少なくとも一つの光学特性は、本明細書に記載した方法で検出または測定される。前述のように、蛍光色素が利用されるとき、タリウムイオンの流入または流出を決定するために、蛍光色素の任意の光学特性を測定または検出することができる。蛍光色素の光学特性の例としては、発光の強度、極性、および発光の周波数が挙げられるが、これらに限定されない。非蛍光色素が検出剤として使用される場合、検出されるべき薬剤の光学特性は、強度、極性、および周波数でもあり得る。1つの特定の態様において、薬剤の光学特性を測定または検出することは、例えば薬剤がタリウムイオンと反応して、細胞それ自体の光学密度を増加させ得る生成物または沈殿剤を形成する場合、細胞それ自体の光学密度を測定することを含む。
【0063】
タリウムイオン感受性剤の蛍光は、限定するものではないが、例えば分光光度計、顕微鏡などの蛍光シグナルを検出する装置によって測定することができる。1つの特定の実施形態では、色素の蛍光は、標準的な96ウェルプレートリーダーを用いて検出および/または測定される。別の種類の装置は、蛍光画像プレートリーダー(FLIPR)装置(Molecular Devices Corp.,Sunnyvale、CA)であり、そこでは、タリウムイオンの添加、および候補イオン化ネル、チャネル連結型受容体またはイオントランスポーターモジュレーターの添加の前、添加中、および添加後に蛍光を1Hzまでの速度で記録する。非接着細胞に使用される装置の例としては、FLIPRが含まれる。タリウム感受性剤の光学特性を検出または測定するために使用される装置および方法のさらなる例としては、光学顕微鏡、共焦点顕微鏡、蛍光顕微鏡、およびフローサイトメトリーが挙げられるが、これらに限定されない。
【0064】
一実施形態では、受容体の活性化が、イオンチャネル活性化の調節をもたらす後続の細胞内事象を開始させる場合、チャネル連結型受容体の活性が決定される。
【0065】
イオンチャネル、チャネル連結型受容体、またはイオントランスポーター活性を調節する化合物を同定するための方法も提供される。本明細書に提供されるアッセイにおいて、本質的に任意の化合物を潜在的モジュレーターとして用いることができる。特定の実施形態では、候補化合物は、水溶液または有機(特にDMSO系)溶液に溶解することができる。Sigma Chemical Co.(St.Louis,MO)およびFluka Chemika-Biochemica Analytika(Buchs,Switzerlnd)を含む多くの化学化合物の供給業者があることは当業者には理解されよう。したがって、イオンチャネルが候補チャネルモジュレーターによって遮断され、タリウムイオンの流入が阻害される場合、蛍光の変化はほとんどまたは全く検出されないことになる。
【0066】
イオンの流出を測定するための方法も提供される。タリウムイオン流入を測定する方法は、本明細書に記載されている。流出アッセイは、流入アッセイと同じ細胞を使用することができ、これらに、本明細書に記載されるように、BTCなどのシグナル発生タリウムイオン感受性蛍光剤が負荷される。細胞に負荷するために、細胞をタリウムイオンと接触させる。一実施形態は、細胞をタリウムイオンと約15分間接触させることを提供する。細胞を洗浄して、過剰のタリウムイオンを除去し、流入アッセイで使用されるのと同じ機器、例えばFLIPRを使用してアッセイする。アッセイチャネルは、イオンチャネルを通るイオンの流出を可能にするために、多くのリガンドのうちの任意の1つの添加によって、またはカリウム濃度を変化させるなどによる、細胞の膜電位を変化させることによって、開放されるように刺激される。例えば、流出は、指示薬の蛍光の減少をもたらすであろう。対照化合物などの他の化合物は、流入アッセイで使用されるものと同じであり得る。細胞に上記のようにタリウムイオンを予め負荷し、洗浄して過剰のタリウムイオンを除去することを除いて、本明細書に記載の流入アッセイと同じ条件を適用する。
【0067】
開示された方法はまた、ハイスループットスクリーニング(HTS)法に適合させることができる、その結果、候補イオンチャネルモジュレーターは、大規模にスクリーニングすることができるようになる。ハイスループットスクリーニングアッセイは既知であり、マイクロタイタープレートまたはピコナノもしくはマイクロリットルアレイを使用することができる。
【0068】
ハイスループット法は、マイクロタイタープレートなどで本発明の方法を実行することによって、対象となるイオンチャネル、イオンチャネルおよびチャネル連結型受容体またはイオントランスポーターを発現する全細胞を使用して実施することができる。細胞は、接着性または非接着性条件下で培養することができる。候補モジュレーターを細胞に添加し、次いで刺激緩衝液(複数可)を細胞に添加し、そして例えば蛍光を検出する。検出可能なシグナルの変化は、プレート上の特定のウェルにおけるチャンネルモジュレーターの効果を示すであろう。
【0069】
本明細書に開示されたアッセイは、例えば、アッセイ工程を自動化し、アッセイに任意の便利な供給源からの候補調節化合物を提供することにより、大規模な化学ライブラリーのハイスループットスクリーニングを可能にするように設計される。固体支持体上で並行して行われるアッセイ、例えばロボットアッセイにおけるマイクロタイタープレート上のマイクロタイターフォーマットはよく知られている。光学的検出における変化を検出および/または測定するための自動化システムおよび方法は、当技術分野において周知である。
【0070】
ハイスループットスクリーニング法は、多数の潜在的な治療的調節化合物を含むコンビナトリアルライブラリーを提供することを含み得る。コンビナトリアル化学ライブラリーの調製およびスクリーニングは、当業者に周知である。コンビナトリアル化学ライブラリーは、化学合成または生物学的合成のいずれかを用いて、試薬などの多数の化学的構成要素を組み合わせることによって生成された多様な化学化合物の集まりである。例えば、ポリペプチドライブラリーなどの線状コンビナトリアル化学ライブラリーは、所与の化合物の長さ、すなわちポリペプチド化合物中のアミノ酸の数について、事実上あらゆる方法で一組のアミノ酸を組み合わせることによって形成される。何百万もの化合物は、化学的構成要素のこのような組み合わせ混合によって合成することができる。
【0071】
本明細書で提供される化合物は、生理学的に適切な条件下で非常に低い濃度であってもタリウムイオンを定量的に検出する非常に高感度の指示薬である。加えて、化合物は、例えば緑色蛍光タンパク質(GFP)などの、HTSアッセイにおける他の蛍光成分を妨害しない光を放出するように提供される。これらの化合物は、FITC/緑色光チャネルの外側で光を吸収および放出することができるので、これらの化合物は、タリウムなどの金属イオンの存在に応じて可視波長範囲にわたって光を放出するHTSアッセイに使用でき、イオンチャネルの活性の監視において有効に使用され得る。
【0072】
細胞内のイオンチャネルの活性を検出するためのキットも本明細に提供される。1つの特定の実施形態では、キットは、本明細書に開示されるように、タリウムイオン指示薬、アッセイ緩衝液を含む。アッセイ緩衝液は、塩化物、および刺激緩衝液を含み得る。緩衝液および色素の個々の成分は、凍結乾燥するか、または他のいくつかの脱水形態で貯蔵することができ、ここで個々は、成分を保存溶液または作用液に水和することができる。キットは、上記に記載されているかまたは本明細書の他の箇所に記載されている構成要素の事実上任意の組み合わせを含むことができる。当業者が認識するように、キットと共に供給される構成要素は、キットの意図された用途によって変わり得る。キットはまた、本明細書中に開示される方法において使用するための説明書を含む。したがって、キットは、本出願に記載されている様々な機能を実行するように設計することができ、そのようなキットの構成要素は、それに応じて変化するであろう。
【0073】
以下の実施例は、本発明の特定の実施形態を実証するために含まれている。以下の実施例に開示されている技術は、本発明の実施において十分に機能することが発明者によって発見された技術を表しており、したがってその実施のための好ましい様式を構成すると考えることができることを当業者は理解されたい。しかしながら、当業者であれば、本開示に照らして、開示された特定の実施形態において多くの変更を行うことができ、また本明細書に記載の実施形態の趣旨および範囲から逸脱することなく、同様のまたは類似する結果をさらに得ることができることを理解されたい。
【実施例】
【0074】
実施例1
ビス(アセトキシメチル)2,2’-((4-(3’,6’-ジアセトキシ-2’,7’-ジフルオロ-3-オキソ-3H-スピロ[イソベンゾフラン-1,9’-キサンテン]-6-カルボキサミド)-2-メトキシフェニル)アザンジイル)ジアセテートの合成
ビス(アセトキシメチル)2,2’-((4-(3’,6’-ジアセトキシ-2’,7’-ジフルオロ-3-オキソ-3H-スピロ[イソベンゾフラン-1,9’-キサンテン]-6-カルボキサミド)-2-メトキシフェニル)アザンジイル)ジアセテートの合成についての反応スキームを、
図12Aおよび
図12Bに示す。3’,6’-ジアセトキシ-2’,7’-ジフルオロ-3-オキソ-3H-スピロ[イソベンゾフラン-1,9’-キサンテン]-6-カルボン酸(236mg、0.475mmol)を、15mLの乾燥DCM中に懸濁させて、この懸濁液を氷水浴中で冷却した。トリエチルアミン(66μL、0.47mmol)、続いてクロロギ酸イソブチル(73μL、0.56mmol)をこの懸濁液に添加し、得られた溶液を冷却浴中で20分間撹拌した。その後、溶液を真空中で濃縮し、3’,6’-ジアセトキシ-2’,7’-ジフルオロ-3-オキソ-3H-スピロ[イソベンゾフラン-1,9’-キサンテン]-6-カルボン酸(炭酸イソブチル)無水物を得た(280mg、100%)。ビス(アセトキシメチル)2,2’-((4-アミノ-2-メトキシフェニル)アザンジイル)ジアセテート(172mg、0.432mmol)を10mLの乾燥DMF中に溶解し、溶液を、3’,6’-ジアセトキシ-2’,7’-ジフルオロ-3-オキソ-3H-スピロ[イソベンゾフラン-1,9’-キサンテン]-6-カルボン酸(炭酸イソブチル)無水物(280mg、0.47mmol)を含むフラスコに添加し、得られた溶液をRTで20分間撹拌した。反応混合物を、真空中で濃縮した。残渣を100mLのEtOAcに溶解し、5%HCl(30mL)、水(2×30mL)、ブライン(30mL)で洗浄し、Na
2SO
4上で乾燥し、蒸発させた。粗物質を、EtOAc-ヘキサン勾配(0~60%)を用いるシリカゲルカラムで精製した。合わせた分画を蒸発させた後、物質を1mLのEtOAcに再溶解し、50mLのヘキサンで沈殿させた。沈殿物を濾過し、真空中で乾燥させて、ビス(アセトキシメチル)2,2’-((4-(3’,6’-ジアセトキシ-2’,7’-ジフルオロ-3-オキソ-3H-スピロ[イソベンゾフラン-1,9’-キサンテン]-6-カルボキサミド)-2-メトキシフェニル)アザンジイル)ジアセテート(224mg、59%)(化合物7)を得た(
図8参照)。
【0075】
ビス(アセトキシメチル)2,2’-((4-(3’,6’-ジアセトキシ-3-オキソ-3H-スピロ[イソベンゾフラン-1,9’-キサンテン]-6-カルボキサミド)-2-メトキシフェニル)アザンジイル)ジアセテートを使用したことを除いては、同じ方法を用いて非フッ素化類似体、化合物6を調製した(
図7参照)。
【0076】
実施例2
ビス(アセトキシメチル)2,2’-((4-(3’,6’-ジアセトキシ-2’,7’-ジフルオロ-3-オキソ-3H-スピロ[イソベンゾフラン-1,9’-キサンテン]-5-カルボキサミド)-2-メトキシフェニル)アザンジイル)ジアセテートの合成
ビス(アセトキシメチル)2,2’-((4-(3’,6’-ジアセトキシ-2’,7’-ジフルオロ-3-オキソ-3H-スピロ[イソベンゾフラン-1,9’-キサンテン]-5-カルボキサミド)-2-メトキシフェニル)アザンジイル)ジアセテートの合成についての反応スキームを、
図13Aおよび
図13Bに示す3’,6’-ジアセトキシ-2’,7’-ジフルオロ-3-オキソ-3H-スピロ[イソベンゾフラン-1,9’-キサンテン]-5-カルボン酸(283mg、0.570mmol)を、20mLの乾燥DCM中に懸濁させて、この懸濁液を氷水浴中で冷却した。トリエチルアミン(79μL、0.56mmol)、続いてクロロギ酸イソブチル(88μL、0.67mmol)をこの懸濁液に添加し、得られた溶液を冷却浴中で20分間撹拌した。その後、溶液を真空中で濃縮し、3’,6’-ジアセトキシ-2’,7’-ジフルオロ-3-オキソ-3H-スピロ[イソベンゾフラン-1,9’-キサンテン]-5-カルボン酸(炭酸イソブチル)無水物を得た(336mg、100%)。ビス(アセトキシメチル)2,2’-((4-アミノ-2-メトキシフェニル)アザンジイル)ジアセテート(206mg、0.518mmol)を12mLの乾燥DMF中に溶解し、溶液を、3’,6’-ジアセトキシ-2’,7’-ジフルオロ-3-オキソ-3H-スピロ[イソベンゾフラン-1,9’-キサンテン]-5-カルボン酸(炭酸イソブチル)無水物(336mg、0.564mmol)を含むフラスコに添加し、得られた溶液をRTで20分間撹拌した。反応混合物を真空中で濃縮し、残渣を120mLのEtOAcに溶解し、5%HCl(40mL)、水(2×40mL)、ブライン(40mL)で洗浄し、Na
2SO
4上で乾燥し、蒸発させた。粗物質を、EtOAc-ヘキサン勾配(0~60%)を用いるシリカゲルカラムで精製した。合わせた分画を蒸発させた後、物質を1.5mLのEtOAcに再溶解し、70mLのヘキサンで沈殿させた。沈殿物を濾過し、真空中で乾燥させて、ビス(アセトキシメチル)2,2’-((4-(3’,6’-ジアセトキシ-2’,7’-ジフルオロ-3-オキソ-3H-スピロ[イソベンゾフラン-1,9’-キサンテン]-5-カルボキサミド)-2-メトキシフェニル)アザンジイル)ジアセテート(278mg、61%)(化合物8)を得た(
図9参照)。
【0077】
ビス(アセトキシメチル)2,2’-((4-(3’,6’-ジアセトキシ-3-オキソ-3H-スピロ[イソベンゾフラン-1,9’-キサンテン]-5-カルボキサミド)-2-メトキシフェニル)アザンジイル)ジアセテートを使用したことを除いては、同じ方法を用いて非フッ素化類似体、化合物5を調製した(
図6参照)。
【0078】
実施例3
ビス(アセトキシメチル)-2,2’-((5-アミノ-2-メトキシフェニル)アザンジイル)ジアセテートの合成
ビス(アセトキシメチル)-2,2’-((5-アミノ-2-メトキシフェニル)アザンジイル)ジアセテートの合成についての反応スキームを
図14に示す。ジメチル2,2’-((2-メトキシフェニル)アザンジイル)ジアセテート(315mg;1.178mmol)を96%硫酸(0.86mL;15mmol)に溶解し、溶液を氷水浴中で15分間冷却した。粉末状硝酸カリウム(119mg;1.17702mmol)を混合物に15分間かけて少しずつ加えた。反応混合物を冷却浴中で2時間撹拌し、次いで氷でクエンチし、生成物をEtOAc(3×50mL)で抽出した。合わせた抽出物を、飽和NaHCO3、水、ブラインで洗浄し、Na
2SO
4上で乾燥し、蒸発させた。粗物質を、シリカゲルカラム上で酢酸エチル-ヘキサン勾配(0~40%)を用いて精製して、ジメチル2,2’-((2-メトキシ-5-ニトロフェニル)アザンジイル)ジアセテート(220mg、60%)を得た。ジメチル2,2’-((2-メトキシ-5-ニトロフェニル)アザンジイル)ジアセテート(220mg;0.7045mmol)を、1mLのジオキサンと1mLのMeOHとの混合物に懸濁させた。水酸化カリウム(1M、4mL)をこの懸濁液に添加し、反応混合物をRTで2.5時間撹拌した。得られた溶液をロータリーエバポレーターで濃縮し、残渣(約3mL)を撹拌しながら10mLの3M HCl溶液に滴下して加えた。黄色沈殿物を30分間撹拌し、濾過し、固形物を40℃で約20時間乾燥して、2,2’-((2-メトキシ-5-ニトロフェニル)アザンジイル)二酢酸(182mg、91%)を得た。2,2’-((2-メトキシ-5-ニトロフェニル)アザンジイル)二酢酸(180mg;0.63331mmol)を、約2mLの乾燥DMF中に溶解した。N,N,N-ジイソプロピルエチルアミン(0.33mL、1.9mmol)をこの溶液に添加し、続いて酢酸ブロモメチル(0.22mL、2.2mmol)を添加した。反応混合物をRTで約20時間撹拌し、EtOAc(100mL)で希釈した。得られた懸濁液を、5%HCl(20mL)、水(20mL)、ブライン(20mL)で洗浄し、Na
2SO
4上で乾燥し、蒸発させた。粗物質を、シリカゲルカラム上でEtOAc-ヘキサン勾配(0~65&)を用いて精製して、ビス(アセトキシメチル)2,2’-((2-メトキシ-5-ニトロフェニル)アザンジイル)ジアセテート(271mg、100%)を得た。ビス(アセトキシメチル)2,2’-((2-メトキシ-5-ニトロフェニル)アザンジイル)ジアセテート(40mg、93μmol)を、250mLの水素化フラスコ中の5.0mLの乾燥DMF中に溶解し、10mgの炭素上10%Pdを溶液に添加し、フラスコを40psiの水素で45分間振盪した。触媒を濾別し、溶液を蒸発乾固させて、ビス(アセトキシメチル)-2,2’-((5-アミノ-2-メトキシフェニル)アザンジイル)ジアセテート(37mg、100%)を得た。
【0079】
実施例4
ビス(アセトキシメチル)2,2’-((5-(3’,6’-ジアセトキシ-2’,7’-ジフルオロ-3-オキソ-3H-スピロ[イソベンゾフラン-1,9’-キサンテン]-6-カルボキサミド)-2-メトキシフェニル)アザンジイル)ジアセテートの合成
ビス(アセトキシメチル)2,2’-((5-(3’,6’-ジアセトキシ-2’,7’-ジフルオロ-3-オキソ-3H-スピロ[イソベンゾフラン-1,9’-キサンテン]-6-カルボキサミド)-2-メトキシフェニル)アザンジイル)ジアセテートの合成についての反応スキームを、
図15に示す。ビス(アセトキシメチル)2,2’-((5-アミノ-2-メトキシフェニル)アザンジイル)ジアセテート(103mg、0.259mmol)を8mLの乾燥DMF中に溶解し、溶液を、3’,6’-ジアセトキシ-2’,7’-ジフルオロ-3-オキソ-3H-スピロ[イソベンゾフラン-1,9’-キサンテン]-6-カルボン酸(炭酸イソブチル)無水物(168mg、0.282mmol)を含むフラスコに添加し、得られた溶液をRTで20分間撹拌した。反応混合物を真空中で濃縮し、残渣を80mLのEtOAcに溶解し、5%HCl(30mL)、水(2×30mL)、ブライン(30mL)で洗浄し、Na
2SO
4上で乾燥し、蒸発させた。粗物質を、シリカゲルカラム上で、EtOAc-ヘキサン勾配(0~60%)を用いて精製した。合わせた分画を蒸発させた後、物質を1mLのEtOAcに再溶解し、50mLのヘキサンで沈殿させた。沈殿物を濾過し、真空中で乾燥させて、ビス(アセトキシメチル)2,2’-((5-(3’,6’-ジアセトキシ-2’,7’-ジフルオロ-3-オキソ-3H-スピロ[イソベンゾフラン-1,9’-キサンテン]-6-カルボキサミド)-2-メトキシフェニル)アザンジイル)ジアセテート(113mg、50%)(化合物4)を得た(
図5参照)。ビス(アセトキシメチル)2,2’-((5-(3’,6’-ジアセトキシ-3-オキソ-3H-スピロ[イソベンゾフラン-1,9’-キサンテン]-6-カルボキサミド)-2-メトキシフェニル)アザンジイル)ジアセテートを使用したことを除いては、同じ方法を用いて非フッ素化類似体、化合物3を調製した(
図4参照)。
【0080】
実施例5
ビス(アセトキシメチル)2,2’-((5-(3’,6’-ジアセトキシ-2’,7’-ジフルオロ-3-オキソ-3H-スピロ[イソベンゾフラン-1,9’-キサンテン]-5-カルボキサミド)-2-メトキシフェニル)アザンジイル)ジアセテートの合成
ビス(アセトキシメチル)2,2’-((5-(3’,6’-ジアセトキシ-2’,7’-ジフルオロ-3-オキソ-3H-スピロ[イソベンゾフラン-1,9’-キサンテン]-5-カルボキサミド)-2-メトキシフェニル)アザンジイル)ジアセテートの合成についての反応スキームを、
図16に示す。ビス(アセトキシメチル)2,2’-((5-アミノ-2-メトキシフェニル)アザンジイル)ジアセテート(134mg、0.337mmol)を10mLの乾燥DMF中に溶解し、溶液を、3’,6’-ジアセトキシ-2’,7’-ジフルオロ-3-オキソ-3H-スピロ[イソベンゾフラン-1,9’-キサンテン]-5-カルボン酸(炭酸イソブチル)無水物(218mg、0.367mmol)を含むフラスコに添加し、得られた溶液をRTで20分間撹拌した。反応混合物を真空中で濃縮し、残渣を100mLのEtOAcに溶解し、5%HCl(40mL)、水(2×40mL)、ブライン(40mL)で洗浄し、Na
2SO
4上で乾燥し、蒸発させた。粗物質を、シリカゲルカラム上で、EtOAc-ヘキサン勾配(0~60%)を用いて精製した。合わせた分画を蒸発させた後、物質を1mLのEtOAcに再溶解し、50mLのヘキサンで沈殿させた。沈殿物を濾過し、真空中で乾燥させて、ビス(アセトキシメチル)2,2’-((5-(3’,6’-ジアセトキシ-2’,7’-ジフルオロ-3-オキソ-3H-スピロ[イソベンゾフラン-1,9’-キサンテン]-5-カルボキサミド)-2-メトキシフェニル)アザンジイル)ジアセテート(162mg、55%)(化合物9)を得た(
図9参照)。ビス(アセトキシメチル)2,2’-((5-(3’,6’-ジアセトキシ-3-オキソ-3H-スピロ[イソベンゾフラン-1,9’-キサンテン]-5-カルボキサミド)-2-メトキシフェニル)アザンジイル)ジアセテートを使用したことを除いては、同じ方法を用いて非フッ素化類似体、化合物2を調製した。
【0081】
実施例6
ジメチル-2,2’-((4-ホルミル-2-メトキシメチル)アザンジイル)ジアセテートおよびジメチル-2,2’-((5-ホルミル-2-メトキシフェニル)アザンジイル)ジアセテートの合成
ジメチル-2,2’-((4-ホルミル-2-メトキシメチル)アザンジイル)ジアセテートおよびジメチル-2,2’-((5-ホルミル-2-メトキシフェニル)アザンジイル)ジアセテートの合成についての反応スキームを
図17に示す。オキシ塩化リン(0.227mL)を、氷/水冷しながら2.0mLのDMFに滴加した。混合物を冷却浴から取り出し、RTで20分間撹拌した。ジメチル2,2’-((2-メトキシフェニル)アザンジイル)ジアセテート(0.500g;1.87mmol)を2mLのDMFに溶解し、調製したヴィルスマイヤー試薬に添加した。フラスコを予熱した90℃の油浴に移し、Ar雰囲気下で冷却器と共に一晩撹拌した。反応混合物を、飽和NaHCO
3(30.0mL)で希釈し、生成物をEtOAc(4×40.0mL)で抽出した。得られた抽出物を、水(3×30.0mL)、ブライン(30.0mL)で洗浄し、Na
2SO
4上で乾燥した。溶液を真空中で濃縮し、粗物質を、EtOAc-ヘキサン勾配(0~33%)を用いるシリカゲルカラムで精製した。ジメチル2,2’-((5-ホルミル-2-メトキシフェニル)アザンジイル)ジアセテート(12.0mg、2%)が最初にカラムから溶出した。溶出した主生成物は、ジメチル2,2’-((4-ホルミル-2-メトキシフェニル)アザンジイル)ジアセテート(370mg、67%)であった。
【0082】
実施例7
N-(9-(3-(ビス(2-(アセトキシメトキシ)-2-オキソエチル)アミノ)-4-メトキシフェニル)-6-(ジメチルアミノ)-3H-キサンテン-3-イリデン)-N-メチルメタンアミニウムブロミドの合成
N-(9-(3-(ビス(2-(アセトキシメトキシ)-2-オキソエチル)アミノ)-4-メトキシフェニル)-6-(ジメチルアミノ)-3H-キサンテン-3-イリデン)-N-メチルメタンアミニウムブロミドの合成についての反応スキームを、
図18Aおよび
図18Bに示す。3-ジメチルアミノフェノール(0.11g、0.80mmol)およびジメチル2,2’-((5-ホルミル-2-メトキシフェニル)アザンジイル)ジアセテート(0.11g;0.36mmol)を1.0mLのプロピオン酸に溶解し、この溶液に1.0mgのpTsOHを添加し、反応混合物をAr雰囲気下、60℃で18時間撹拌した。反応混合物を油浴から取り出し、ほとんどのプロピオン酸を、70℃のロータリーエバポレーターで除去した。残渣を、20mLのクロロホルムおよび20mLのMeOH中に再溶解した。クロラニル(0.26g、1.1mmol)を添加し、混合物をRTで約2時間撹拌した。反応混合物を濃縮乾固し、粗物質を1.5%のAcOH(0~15%MeOH)を含有するMeOH-クロロホルム勾配を用いるシリカゲルカラムで精製して、N-(9-(3-(ビス(2-メトキシ-2-オキソエチル)アミノ)-4-メトキシフェニル)-6-(ジメチルアミノ)-3H-キサンテン-3-イリデン)-N-メチルメタンアミニウムアセテート(107mg、50%)を得た。N-(9-(3-(ビス(2-メトキシ-2-オキソエチル)アミノ)-4-メトキシフェニル)-6-(ジメチルアミノ)-3H-キサンテン-3-イリデン)-N-メチルメタンアミニウムアセテート(165mg;0.278mmol)を10mLのMeOHおよび10mLのジオキサン中に溶解し、1Mの水酸化カリウム(5mL;5mmol)を添加し、得られた溶液をRTで4時間撹拌した。酢酸(5.0mL)を混合物に添加し、この溶液を真空中で濃縮した。残渣をMeOH/トルエンと共蒸発させて、酢酸を除去した。粗生成物を、MeOH-25mMのTEAA緩衝液勾配(0~70%)を用いるBiotage C18 120g SNAPカラムで精製して、N-(カルボキシメチル)-N-(5-(6-(ジメチルアミノ)-3-(ジメチルイミノ)-3H-キサンテン-9-イル)-2-メトキシフェニル)グリシネート(83mg、50%)を得た。N-(カルボキシメチル)-N-(5-(6-(ジメチルアミノ)-3-(ジメチルイミノ)-3H-キサンテン-9-イル)-2-メトキシフェニル)グリシネート(16mg;0.026mmol)を、1mLの乾燥DMF中に懸濁させた。N、N、N-ジイソプロピルエチルアミン(20μL;0.115mmol)を撹拌しながら懸濁液に添加し、続いて酢酸ブロモメチル(14μL;0.14mmol)を添加して、混合物をRTで3時間撹拌した。得られた溶液を、40℃で蒸発乾固した。粗生成物を、ACN(1.0mL)中に再溶解して、溶液を10mLのエーテルに添加した。懸濁液を遠心分離し、上清を捨てた。沈殿物を、CHCl
3中に再溶解し、5:1のDCM-MeOH混合物を用いて小さいシリカゲルカラムで精製して、N-(9-(3-(ビス(2-(アセトキシメトキシ)-2-オキソエチル)アミノ)-4-メトキシフェニル)-6-(ジメチルアミノ)-3H-キサンテン-3-イリデン)-N-メチルメタンアミニウムブロミド(14mg、73%)を得た。
【0083】
実施例8
N-(9-(4-(ビス(2-(アセトキシメトキシ)-2-オキソエチル)アミノ)-3-メトキシフェニル)-6-(ジメチルアミノ)-3H-キサンテン-3-イリデン)-N-メチルメタンアミニウムブロミドの合成
N-(9-(4-(ビス(2-(アセトキシメトキシ)-2-オキソエチル)アミノ)-3-メトキシフェニル)-6-(ジメチルアミノ)-3H-キサンテン-3-イリデン)-N-メチルメタンアミニウムブロミドの合成についての反応スキームを、
図19Aおよび
図19Bに示す。3-ジメチルアミノフェノール(0.54g、4.0mmol)およびジメチル2,2’-((4-ホルミル-2-メトキシフェニル)アザンジイル)ジアセテート(0.53g;1.8mmol)を3mLのプロピオン酸に溶解し、この溶液に5.0mgのpTsOHを添加し、反応混合物をAr雰囲気下、60℃で18時間撹拌した。反応混合物を油浴から取り出し、ほとんどのプロピオン酸を、70℃のロータリーエバポレーターで除去した。残渣を70mLのクロロホルムに再溶解し、70mLのMeOH、クロラニル(1.3g、5.4mmol)を添加し、混合物をRTで約2時間撹拌した。反応混合物を濃縮乾固し、粗物質を1.5%のAcOH(0~15%MeOH)を含有するMeOH-クロロホルム勾配を用いるシリカゲルカラムで精製して、N-(9-(4-(ビス(2-メトキシ-2-オキソエチル)アミノ)-3-メトキシフェニル)-6-(ジメチルアミノ)-3H-キサンテン-3-イリデン)-N-メチルメタンアミニウムアセテート(823mg、77%)を得た。N-(9-(4-(ビス(2-メトキシ-2-オキソエチル)アミノ)-3-メトキシフェニル)-6-(ジメチルアミノ)-3H-キサンテン-3-イリデン)-N-メチルメタンアミニウムアセテート(823mg;1.39mmol)を50mLのMeOHおよび50mLのジオキサン中に溶解し、1Mの水酸化カリウム(25mL;25mmol)を添加し、得られた溶液をRTで4時間撹拌した。酢酸(5mL)を混合物に添加し、この溶液を真空中で濃縮した。残渣をMeOH/トルエンと共蒸発させて、酢酸を除去した。粗生成物を、MeOH-25mMのTEAA緩衝液勾配(0~70%)を用いるBiotage C18 120g SNAPカラムで精製して、N-(カルボキシメチル)-N-(4-(6-(ジメチルアミノ)-3-(ジメチルイミノ)-3H-キサンテン-9-イル)-2-メトキシフェニル)グリシネート(400mg、48%)を得た。N-(カルボキシメチル)-N-(4-(6-(ジメチルアミノ)-3-(ジメチルイミノ)-3H-キサンテン-9-イル)-2-メトキシフェニル)グリシネート(80mg;0.13mmol)を、3mLの乾燥DMF中に懸濁させた。N、N、N-ジイソプロピルエチルアミン(100μL;0.574mmol)を撹拌しながら懸濁液に添加し、続いて酢酸ブロモメチル(68μL;0.69mmol)を添加して、混合物をRTで3時間撹拌した。得られた溶液を、40℃で蒸発乾固した。粗生成物を、ACN(1ML)中に再溶解して、溶液を10mLのエーテルに添加した。懸濁液を遠心分離し、上清を捨てた。沈殿物を、CHCl
3中に再溶解し、5:1のDCM-MeOH混合物を用いて小さいシリカゲルカラムで精製して、N-(9-(4-(ビス(2-(アセトキシメトキシ)-2-オキソエチル)アミノ)-3-メトキシフェニル)-6-(ジメチルアミノ)-3H-キサンテン-3-イリデン)-N-メチルメタンアミニウムブロミド(70mg、73%)(化合物1)を得た(
図2参照)。
【0084】
実施例9
N-(10-(4-(ビス(2-(アセトキシメトキシ)-2-オキソエチル)アミノ)-3-メトキシフェニル)-7-(ジメチルアミノ)-9,9-ジメチルアントラセン-2(9H)-イリデン)-N-メチルメタンアミニウムトリフルオロメタンスルホネートおよびN-(10-(3-(ビス(2-(アセトキシメトキシ)-2-オキソエチル)アミノ)-4-メトキシフェニル)-7-(ジメチルアミノ)-9,9-ジメチルアントラセン-2(9H)-イリデン)-N-メチルメタンアミニウムトリフルオロメタンスルホネートの合成
N-(10-(4-(ビス(2-(アセトキシメトキシ)-2-オキソエチル)アミノ)-3-メトキシフェニル)-7-(ジメチルアミノ)-9,9-ジメチルアントラセン-2(9H)-イリデン)-N-メチルメタンアミニウムトリフルオロメタンスルホネートおよびN-(10-(3-(ビス(2-(アセトキシメトキシ)-2-オキソエチル)アミノ)-4-メトキシフェニル)-7-(ジメチルアミノ)-9,9-ジメチルアントラセン-2(9H)-イリデン)-N-メチルメタンアミニウムトリフルオロメタンスルホネートの合成についての反応スキームを、
図20Aおよび
図20Bに示す。3,6-ビス(ジメチルアミノ)-10,10-ジメチルアントラセン-9(10H)-オン(300mg、0.973mmol)を、10mLの乾燥DCMに溶解し、溶液を氷/水浴中で冷却した。無水トリフルオロメタンスルホン酸(330mg、1.17mmol)を溶液に添加し、反応混合物を冷却浴中で1時間撹拌した。ビス(アセトキシメチル)2,2’-((2-メトキシフェニル)アザンジイル)ジアセテートを上記溶液に添加し、反応混合物をRTに温めて、一晩撹拌した。得られた溶液を、20mLのDCMで希釈し、飽和NaHCO
3溶液(20mL)、ブライン(20mL)で洗浄し、Na
2SO
4上で乾燥し、蒸発させた。粗生成物の混合物を、EtOAc-クロロホルム勾配(0~60%)を用いるシリカゲルカラムで分離し、N-(10-(4-(ビス(2-(アセトキシメトキシ)-2-オキソエチル)アミノ)-3-メトキシフェニル)-7-(ジメチルアミノ)-9,9-ジメチルアントラセン-2(9H)-イリデン)-N-メチルメタンアミニウムトリフルオロメタンスルホネート(80mg、10%)およびN-(10-(3-(ビス(2-(アセトキシメトキシ)-2-オキソエチル)アミノ)-4-メトキシフェニル)-7-(ジメチルアミノ)-9,9-ジメチルアントラセン-2(9H)-イリデン)-N-メチルメタンアミニウムトリフルオロメタンスルホネート(20mg、2%)を得た。
【0085】
実施例10
タリウムイオン流入アッセイ
この実施例は、イオンチャネルを通るタリウムイオンの流入を検出するために使用され得る成分および方法を記載する。
成分A:通常の塩化物アッセイ緩衝液中で1~10μMの溶液を調製することになる量のタリウムイオン指示薬色素。
成分B:生理的(通常の)塩化物アッセイ緩衝液:NaCl145mM;KCl2.5mM;CaCl21.8mM;MgCl21.0mM;HEPES20mM;pHをNaOHで7.4に設定した。
成分C:塩化物を含まない刺激緩衝液:140mMのグルコン酸ナトリウム;2.5mMのグルコン酸カリウム;1.8mMのグルコン酸カルシウム;1.0mMのグルコン酸マグネシウム;10mMのHEPES;25mMのK2SO4;5.0mMのTl2SO4。
【0086】
イオンチャネルを含む細胞を、約75%の集密度および対数増殖期にまで培養する。次いで、細胞を周知の細胞培養技術および緩衝液を使用して採取し、例えば1ウェルあたり5,000~40,000細胞(例えば1ウェルあたり20,000細胞)の密度で96ウェルプレートに再播種する。細胞は内因的にイオンチャネルを含み得るか、または細胞は特定の種類のイオンチャネルを含むように操作され得る。細胞をトランスフェクトおよび/または形質転換して特定の種類のタンパク質を発現させる方法は、当技術分野において周知であり、本明細書で繰り返す必要はない。
【0087】
色素ローディング緩衝液を調製するために、成分Aをアッセイ緩衝液(成分B)中に1~20マイクロモルの濃度で調製する。1~100μg/mLのプルエオニック系界面活性剤の任意の添加は、色素の保持を助けるために色素および/または1~10mMのプロベネシドの分散および負荷を助けることができる。次に、細胞培養培地を96ウェルプレート中の細胞から吸引して、色素ローディング緩衝液と交換し、室温で60~120分間インキュベートする。細胞をローディング緩衝液中でインキュベートしている間に、刺激緩衝液(成分C)をマイクロプレートに添加するために調製する。次いで、ローディング緩衝液を細胞から取り除き、色素を含まない成分Aと交換して、溶液中の取り込まれていない色素からのバックグラウンド蛍光を減少させる。次に、細胞からの蛍光を分光光度計で読み取る。緑色スペクトル領域で発光するタリウム指示薬を実現する試料については、試料を470~500nmの範囲の光で励起させて、515nmのフィルターカットオフを用いて、発光を520~540nmで読み取る。赤色スペクトル領域で発光するタリウム指示薬を実現する試料については、試料を545~565nmの範囲の光で励起させて、570nmのフィルターカットオフを用いて、発光を580~600nmで読み取る。刺激緩衝液(成分C)の添加より前に、刺激前の「ベースライン」シグナルを10~30秒間、一定の間隔で測定する。指示された時間に成分Cを1:5希釈で細胞に添加し、細胞からの蛍光の増加を経時的に測定する。
【0088】
実施例11
hERGイオンチャンネルをトランスフェクトした細胞のアッセイ
hERGカリウムイオンチャネルを発現する細胞を、実施例10に記載の方法を用いてアッセイして、2つの異なる異性体タリウムイオン指示薬の有効性を比較した。hERGイオンチャネルを発現するCHO細胞を、本明細書に記載の方法を用いてアッセイした。細胞を、表1に示した濃度(すなわち、1または10μM)の色素を含有するアッセイ緩衝液に入れ、色素を含まないアッセイ緩衝液(成分B)で洗浄し、細胞に刺激緩衝液(成分C)を、5倍希釈のために100μLに添加した25μLの容量で送達した(25mMのK
2SO
4および10mMのTl
2SO
4を含有する成分C)。この特定の例では、細胞上のカリウムの最終濃度は10mMであり、細胞上のタリウムの最終濃度は2mMであった。
図10は、hERGイオンチャネルを発現し、化合物9(下の線)または化合物8(上の線)を負荷した細胞から本明細書に記載の方法を用いてアッセイした細胞の蛍光曲線(時間の関数としてdF/Fとしてプロット)を示す。試料からの蛍光データを、ベースライン(刺激前)に対するシグナルの増加倍率(刺激後)として経時的にプロットした。シグナルの振幅を、示された色素を負荷した平均5~10個の個々のウェルから比較した。両化合物は、タリウムイオンの存在を検出した。しかしながら、化合物8からのより大きな応答は、それがアッセイにおいて化合物9よりもタリウムイオンに対してはるかに敏感であることを示した。
【0089】
実施例13
タリウム流入アッセイにおける異なるタリウム感受性化合物の比較
hERGカリウムイオンチャネルを発現する細胞を、実施例11に記載のタリウム流入法を用いてアッセイして、本明細書に開示される様々なタリウムイオン指示薬の有効性を比較した。タリウム指示薬を、表1に列挙した濃度でローディング緩衝液中で調製して、60分間細胞に負荷した。化合物1を545~565nmの範囲の光で励起し、570nmのフィルターカットオフを用いて、580~600nmで読み取ったことを除いて、試料を470~500nmの範囲の光で励起し、515nmのフィルターカットオフで520~540nmで発光を読み取った。試験化合物についてのベースラインを超えるシグナルの増加倍率を表1に要約する。
【0090】
表1を参照すると、非フッ素化類似体に対する蛍光発生応答は、色素濃度の変化に対して特に敏感であった。驚くべきことに、色素濃度に対する感度は、どの構造異性体が試験されたかに依存した。特に、親構造のパラ異性体は、同じ濃度の色素負荷でメタ異性体について測定されたものと比較して、ベースラインを超える蛍光シグナルのより高い増加倍率を示した。例えば、非フッ素化類似体(例えば、化合物5)のパラ異性体の増加倍率は、色素濃度が1μMから2μMに増加したときに有意に減少したが、非フッ素化類似体のメタ異性体(例えば、化合物2)は、同じアッセイ条件下で倍率がほとんどまたは全く変化しなかった。対照的に、同じ親化合物のフッ素化パラ異性体(例えば、化合物8)およびメタ異性体(化合物9)についての蛍光発生応答は、色素負荷濃度の1μMの増加による影響を受けなかった。異性体の形態にかかわらず、フッ素化類似体はそれらの非フッ素化対応物よりも広い範囲の色素濃度にわたって使用することができるので、これらの化合物は、本明細書に記載のアッセイにおいて特に強固なタリウム指示薬として役立ち得る。
(表1)タリウムイオン指示薬の蛍光発生応答
【0091】
実施例14
タリウムイオン感度アッセイ
この実施例は、タリウム(I)イオンに対する化合物の感受性を評価するためのアッセイを記載する。タリウム(I)イオンに対して十分な感度を有する化合物は、イオンチャネルを通るタリウムイオンの流入および流出を測定するためのタリウムイオン指示薬として使用することができる。化合物に対する最良の応答を特徴付けるために、1~20マイクロモルの間の濃度の色素を含有するローディング緩衝液を記載したように調製し、タリウムイオン刺激に応答する、細胞からの蛍光応答を測定した。ベースラインを超えるより大きなシグナル増加を有する色素は、アッセイにおいて優れていると考えられる。
【0092】
本明細書で言及された米国特許、米国特許出願公開、米国特許出願、外国特許、外国特許出願および非特許公開の全ては、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。さらなる実施形態を提供するために必要に応じて様々な特許、出願および刊行物の概念を採用するために、実施形態の態様を修正することができる。
【0093】
上記の詳細な説明に照らして、これらおよび他の変更を実施形態に加えることができる。一般に、添付の特許請求の範囲において、使用される用語は、特許請求の範囲を明細書および特許請求の範囲に開示された特定の実施形態に限定するように解釈されるべきではなく、全ての可能な実施形態と共に、このような特許請求の範囲が権利を保有する等価物の全範囲を含むように解釈されるべきである。したがって、特許請求の範囲は、本開示によって限定されない。
本発明のまた別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1〕細胞内のカリウムイオンチャネルの活性を検出するための方法であって、
a)前記細胞をローディング緩衝液と接触させることであって、前記細胞が、カリウムイオンチャネルを含み、前記ローディング緩衝液が、タリウムイオン指示薬を含む、前記接触させることと、
b)タリウムイオンを含む刺激緩衝液を前記細胞に適用し、それによって前記カリウムイオンチャネルを介してタリウムイオンを前記細胞内に流入させることと、
c)タリウム流入に応答した前記タリウムイオン指示薬の少なくとも1つの光学特性の変化を測定し、それによって前記カリウムイオンチャネルの活性を検出することと、を含み、
前記タリウムイオン指示薬が、次式で表される構造を有する、前記方法:
式中、R
2
=HでありかつR
1
=
であるか、
あるいは、R
1
=HでありかつR
2
=
であり、
X=Oまたは(R
6
)
2
Cであり、
R
3
、R
4
、R
6
、およびR
8
は、独立してC
1
~C
6
アルキルであり、
R
5
は、HまたはFであり、かつ
R
7
は、H、CH
3
、またはC
2
~C
6
アルキル、もしくはその塩である。
〔2〕前記刺激緩衝液が、約4.5mM未満のタリウムイオン濃度を含む、前記〔1〕に記載の方法。
〔3〕タリウムイオン流入のレベルを定量することをさらに含む、前記〔1〕に記載の方法。
〔4〕前記タリウム指示薬の前記少なくとも1つの光学特性が、強度、極性、周波数、または光学密度である、前記〔1〕に記載の方法。
〔5〕前記少なくとも1つの光学特性が、発光強度であり、前記方法が、タリウムイオン流入に応答した前記タリウムイオン指示薬の発光強度の変化を測定することをさらに含む、前記〔1〕に記載の方法。
〔6〕前記ローディング緩衝液が、塩化物を含まない、前記〔1〕に記載の方法。
〔7〕前記ローディング緩衝液が、生理的濃度の塩化物イオンをさらに含む、前記〔1〕に記載の方法。
〔8〕細胞が、哺乳動物細胞である、前記〔1〕に記載の方法。
〔9〕前記細胞を前記ローディング緩衝液と接触させた後に、前記細胞を洗浄することをさらに含む、前記〔1〕に記載の方法。
〔10〕前記タリウムイオンが、塩の形態である、前記〔1〕に記載の方法。
〔11〕前記タリウム塩が、前記ローディング緩衝液に可溶性である、前記〔10〕に記載の方法。
〔12〕前記タリウム塩が、Tl
2
SO
4
、Tl
2
CO
3
、TlCl、TlOH、TlOAc、またはTlNO
3
である、前記〔10〕に記載の方法。
〔13〕細胞外消光剤を、前記ローディング緩衝溶液に添加し、それによって細胞外タリウムイオン指示薬の発光が消光されることをさらに含む、前記〔1〕に記載の方法。
〔14〕前記消光剤が、実質的に細胞浸透性ではない、前記〔13〕に記載の方法。
〔15〕前記消光剤が、タートラジン、アマランス、アシッドレッド37、コンゴレッド、トリパンブルー、ブリリアントブラック、またはこれらの組み合わせである、前記〔13〕に記載の方法。
〔16〕細胞内のカリウムイオンチャネルの活性を検出するためのキットであって、以下を含む、キット:
タリウムイオン指示薬を含む、ローディング緩衝溶液;および
タリウムイオンを含み、かつ前記イオンチャネルを介してタリウムイオンを前記細胞内に流入させる、刺激緩衝液であって、前記タリウムイオン指示薬が、次式で表される構造を有する、前記刺激緩衝液:
式中、R
2
=HでありかつR
1
=
であるか、
あるいは、R
1
=HでありかつR
2
=
であり、
X=Oまたは(R
6
)
2
Cであり、
R
3
、R
4
、R
6
、およびR
8
は、独立してC
1
~C
6
アルキルであり、
R
5
は、HまたはFであり、かつ
R
7
は、H、CH
3
、またはC
2
~C
6
アルキル、もしくはその塩である。
〔17〕次式で表される構造を有する化合物:
式中、R
2
=HでありかつR
1
=
であり、
X=Oまたは(R
6
)
2
Cであり、
R
3
、R
4
、R
6
、およびR
8
は、独立してC
1
~C
6
アルキルであり、
R
5
は、HまたはFであり、かつ
R
7
は、H、CH
3
、またはC
2
~C
6
アルキル、もしくはその塩であり、
ただし、R
1
が
である場合、各R
8
は、C
1
アルキルではない。
〔18〕次式で表される構造を有する化合物:
式中、R
1
=HでありかつR
2
=
であり、
X=Oまたは(R
6
)
2
Cであり、
R
3
、R
4
、R
6
、およびR
8
は、独立してC
1
~C
6
アルキルであり、
R
5
は、HまたはFであり、かつ
R
7
は、H、CH
3
、またはC
2
~C
6
アルキル、もしくはその塩である。
〔19〕存在する場合、少なくとも1つのR
5
がFである、前記〔17〕または〔18〕に記載の化合物。
〔20〕存在する場合、少なくとも1つのR
5
がFである、前記〔1〕に記載の方法。
〔21〕存在する場合、少なくとも1つのR
5
がFである、前記〔16〕に記載のキット。
〔22〕前記〔17〕または〔18〕に記載の化合物と、タリウムイオンとを含む、蛍光錯体であって、適切なスペクトル波長における励起時に発光する、前記蛍光錯体。
〔23〕水性媒体に溶解された前記〔17〕または〔18〕に記載の化合物を含む、組成物。
〔24〕水性媒体に溶解された前記〔22〕に記載の錯体。