(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-06
(45)【発行日】2022-04-14
(54)【発明の名称】荷電粒子線装置および荷電粒子線装置の調整方法
(51)【国際特許分類】
H01J 37/18 20060101AFI20220407BHJP
H01J 37/28 20060101ALI20220407BHJP
H01J 37/20 20060101ALI20220407BHJP
H01J 37/26 20060101ALI20220407BHJP
【FI】
H01J37/18
H01J37/28 B
H01J37/20 B
H01J37/20 C
H01J37/20 D
H01J37/26
(21)【出願番号】P 2020009014
(22)【出願日】2020-01-23
【審査請求日】2020-11-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(72)【発明者】
【氏名】山崎 和也
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-073380(JP,A)
【文献】特開2015-153630(JP,A)
【文献】特開平11-288681(JP,A)
【文献】特開2001-084946(JP,A)
【文献】特開平11-238484(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0074317(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/18
H01J 37/28
H01J 37/20
H01J 37/26
H01J 37/244
H01L 21/64-21/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空に維持され、試料が配置される試料室と、
真空仕切り弁を介して前記試料室に接続された予備排気室と、
前記予備排気室を排気する排気装置と、
荷電粒子線源と、
光学系と、
検出器と、
前記試料を前記予備排気室から前記試料室に搬送する搬送装置と、
前記排気装置、前記光学系、前記検出器、および前記搬送装置を制御する制御部と、
を含み、
前記制御部は、
前記試料が前記予備排気室に収容された状態で、前記光学系および前記検出器の少なくとも一方の調整を行う調整処理と、
前記調整処理の後に、前記真空仕切り弁を開いて前記搬送装置に前記試料を前記試料室に搬送させる搬送処理と、
を行
い、
前記調整処理では、前記荷電粒子線源から放出された荷電粒子線が用いられる、荷電粒子線装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記制御部は、前記排気装置に前記予備排気室を予備排気させる予備排気処理を行い、
前記予備排気処理と前記調整処理とは、並行して行われる、荷電粒子線装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記制御部は、前記予備排気処理を開始する指示を受け付けた場合に、前記予備排気処理と前記調整処理を開始する、荷電粒子線装置。
【請求項4】
真空に維持され、試料が配置される試料室と、
真空仕切り弁を介して前記試料室に接続された予備排気室と、
前記予備排気室を排気する排気装置と、
荷電粒子線源と、
光学系と、
検出器と、
前記試料を前記予備排気室から前記試料室に搬送する搬送装置と、
を含む荷電粒子線装置の調整方法であって、
前記試料が前記予備排気室に収容された状態で、前記光学系および前記検出器の少なくとも一方の調整を行う調整工程と、
前記調整工程の後に、前記真空仕切り弁を開いて前記試料を前記試料室に搬送する搬送工程と、
を含
み、
前記調整工程では、前記荷電粒子線源から放出された荷電粒子線が用いられる、荷電粒子線装置の調整方法。
【請求項5】
請求項
4において、
前記排気装置に前記予備排気室を予備排気させる予備排気工程を含み、
前記予備排気工程と前記調整工程とは、並行して行われる、荷電粒子線装置の調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線装置および荷電粒子線装置の調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透過電子顕微鏡や走査電子顕微鏡などの電子顕微鏡では、試料の観察や分析を行う前に、光学系や検出器の調整が行われる(例えば特許文献1参照)。
【0003】
例えば、透過電子顕微鏡で試料の観察を行う場合、試料ホルダーに保持された試料を試料室の内部に導入した後、光学系や検出器の調整が行われる。
【0004】
具体的には、まず、試料を試料ホルダーに装着する。次に、試料が装着された試料ホルダーを予備排気室に導入して、真空排気系を用いて予備排気室を排気する(予備排気)。ユーザーは、予備排気室が所定の圧力となったことを確認した後、予備排気室と試料室とを仕切る仕切り弁を開いて、試料ホルダーに保持された試料を試料室に導入する。
【0005】
試料が試料室に導入された後、電子線の照射を開始する。そして、光学系および検出器の調整を行う。例えば、照射光学系に対する電子線の位置の調整、結像光学系に対する電子線の位置の調整、照射系の絞りの位置の調整、結像系の絞りの位置の調整、検出器が電子線を正常に検出できているかなど検出器の状態の確認などを含む検出器の調整が行われる。
【0006】
上記の光学系および検出器の調整が行われた後、試料の観察や分析を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、電子顕微鏡などの荷電粒子線装置では、試料を試料ホルダーに装着してから、試料の観察や分析を行うまでに、予備排気や、光学系および検出器の調整などを行わなければならない。そのため、試料の観察や分析を速やかに行うことができる荷電粒子線装置が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る荷電粒子線装置の一態様は、
真空に維持され、試料が配置される試料室と、
真空仕切り弁を介して前記試料室に接続された予備排気室と、
前記予備排気室を排気する排気装置と、
荷電粒子線源と、
光学系と、
検出器と、
前記試料を前記予備排気室から前記試料室に搬送する搬送装置と、
前記排気装置、前記光学系、前記検出器、および前記搬送装置を制御する制御部と、
を含み、
前記制御部は、
前記試料が前記予備排気室に収容された状態で、前記光学系および前記検出器の少なくとも一方の調整を行う調整処理と、
前記調整処理の後に、前記真空仕切り弁を開いて前記搬送装置に前記試料を前記試料室に搬送させる搬送処理と、
を行い、
前記調整処理では、前記荷電粒子線源から放出された荷電粒子線が用いられる。
【0010】
このような荷電粒子線装置では、試料が予備排気室に収容されている間に、調整処理を行うことができるため、試料を試料室に導入した後、すみやかに、観察や分析を行うことができる。
【0011】
本発明に係る荷電粒子線装置の調整方法の一態様は、
真空に維持され、試料が配置される試料室と、
真空仕切り弁を介して前記試料室に接続された予備排気室と、
前記予備排気室を排気する排気装置と、
荷電粒子線源と、
光学系と、
検出器と、
前記試料を前記予備排気室から前記試料室に搬送する搬送装置と、
を含む荷電粒子線装置の調整方法であって、
前記試料が前記予備排気室に収容された状態で、前記光学系および前記検出器の少なくとも一方の調整を行う調整工程と、
前記調整工程の後に、前記真空仕切り弁を開いて前記試料を前記試料室に搬送する搬送工程と、
を含み、
前記調整工程では、前記荷電粒子線源から放出された荷電粒子線が用いられる。
【0012】
このような荷電粒子線装置の調整方法では、試料が予備排気室に収容されている間に、調整工程を行うことができるため、試料を試料室に導入した後、すみやかに、観察や分析を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1実施形態に係る電子顕微鏡の構成を示す図。
【
図2】第1実施形態に係る電子顕微鏡の構成を示す図。
【
図3】第1実施形態に係る電子顕微鏡の制御部の処理の一例を示すフローチャート。
【
図4】電子線源の状態を確認する処理を説明するための図。
【
図5】照射光学系を調整する処理を説明するための図。
【
図6】結像光学系を調整する処理を説明するための図。
【
図7】照射系絞り装置を調整する処理を説明するための図。
【
図8】結像系絞り装置を調整する処理を説明するための図。
【
図9】第2実施形態に係る電子顕微鏡の構成を示す図。
【
図10】第2実施形態に係る電子顕微鏡の構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0015】
なお、以下では、本発明に係る荷電粒子線装置として、電子線を試料に照射して試料の観察を行うことができる電子顕微鏡を例に挙げて説明するが、本発明に係る荷電粒子線装置は、電子線以外の荷電粒子線(イオンビーム等)を照射して試料の観察などを行う装置
であってもよい。
【0016】
1. 第1実施形態
1.1. 電子顕微鏡
まず、第1実施形態に係る電子顕微鏡について図面を参照しながら説明する。
図1および
図2は、第1実施形態に係る電子顕微鏡100の構成を示す図である。なお、
図1は、試料Sが予備排気室42に位置している状態を図示しており、
図2は、試料Sが試料室40に位置している状態を図示している。
【0017】
電子顕微鏡100は、透過電子顕微鏡である。電子顕微鏡100は、
図1および
図2に示すように、電子線源10(荷電粒子線源の一例)と、照射系偏向器20と、照射光学系22と、照射系絞り装置24と、試料ホルダー30と、試料ホルダー搬送装置32(搬送装置の一例)と、試料ホルダー駆動装置34と、試料室40と、予備排気室42と、真空仕切り弁44と、結像光学系50と、結像系絞り装置52と、結像系偏向器54と、検出器60と、排気装置70と、制御部80と、を含む。
【0018】
電子線源10は、電子線(荷電粒子線の一例)を放出する。電子線源10は、例えば、陰極から放出された電子を陽極で加速して電子線を放出する電子銃である。
【0019】
照射系偏向器20、照射光学系22、照射系絞り装置24、結像光学系50、結像系絞り装置52、および結像系偏向器54は、光学系2を構成している。光学系2は、電子顕微鏡100の鏡筒内に収容されている。
【0020】
照射系偏向器20は、電子線源10から放出された電子線を偏向する。照射系偏向器20は、試料S上に電子線を導く。
【0021】
照射光学系22は、電子線源10から放出された電子線を試料Sに照射する。照射光学系22は、例えば、複数の集束レンズを含む。
【0022】
照射系絞り装置24は、電子線源10から放出された電子線から、不要な電子線をカットする絞りを有している。照射系絞り装置24の絞りは、直径の異なる絞り孔を有している。照射系絞り装置24は、絞りを移動させる駆動機構を有しており、駆動機構を動作させることによって絞り孔の切り替えが可能である。絞り孔を切り替えることによって、電子線の開き角、電子線の照射量を調整できる。照射系絞り装置24では、駆動機構を動作させることによって、絞りを光軸外に移動させることができる。
【0023】
試料ホルダー30は、試料Sを保持する。試料ホルダー30は、試料ホルダー搬送装置32に装着される。
【0024】
試料ホルダー搬送装置32は、試料ホルダー30を搬送する。試料ホルダー搬送装置32は、試料ホルダー30を搬送することによって、試料ホルダー30に保持された試料Sを予備排気室42と試料室40との間で移動させることができる。試料ホルダー搬送装置32は、試料ホルダー30を支持する支持部320と、支持部320を移動させる駆動部322と、を含む。駆動部322は、例えば、エアーシリンダーなどのアクチュエーターである。試料ホルダー搬送装置32は、試料Sを予備排気室42から試料室40に搬送する搬送装置として機能する。
【0025】
試料ホルダー駆動装置34は、試料ホルダー30を移動させる。試料ホルダー30が試料室40に挿入されて試料Sが試料室40に位置している状態で、試料ホルダー駆動装置34を動作させることによって、試料Sを移動させることができる。これにより、観察視
野を移動できる。
【0026】
試料室40は、電子顕微鏡100の鏡筒内の空間である。試料室40は、排気装置70によって排気されており、真空状態に維持されている。試料室40は、試料ホルダー30に保持された試料Sが配置される空間である。試料室40において、試料Sに電子線が照射される。
【0027】
予備排気室42は、試料室40に真空仕切り弁44を介して接続されている。すなわち、予備排気室42と試料室40とは、真空仕切り弁44によって仕切られており、真空仕切り弁44を開くことで、予備排気室42と試料室40とは繋がる。電子顕微鏡100は、予備排気室42の圧力(真空度)を計測するための真空計を備えている。
【0028】
結像光学系50は、試料Sを透過した電子線を検出器60上に結像する。結像光学系50は、例えば、対物レンズ、中間レンズ、および投影レンズを含む。
【0029】
結像系絞り装置52は、試料Sを透過した電子線から、不要な電子線をカットする絞りを有している。結像系絞り装置52の絞りによって、試料Sを透過した電子線の散乱範囲を調整できる。結像系絞り装置52は、絞りを移動させる駆動機構を有している。結像系絞り装置52では、駆動機構を動作させることによって、絞りを光軸外に移動させることができる。
【0030】
結像系偏向器54は、試料Sを透過した電子線を偏向する。結像系偏向器54は、検出器60に電子線を導く。
【0031】
検出器60は、電子線を検出する。検出器60で電子線を検出することによって、透過電子顕微鏡像(TEM像)を取得できる。
【0032】
排気装置70は、試料室40を含む鏡筒内および予備排気室42を排気する。電子顕微鏡100の鏡筒内には、電子線源10や、光学系2などが収容されている。予備排気室42の予備排気は、排気装置70を用いて行われる。
【0033】
予備排気とは、予備排気室42を大気圧から所定の圧力まで排気することをいう。試料Sを試料室40に導入する場合、まず、予備排気室42を大気圧にして試料ホルダー30に保持された試料Sを予備排気室42に導入する。次に、試料Sが予備排気室42に位置している状態で排気装置70を用いて予備排気室42を予備排気する。予備排気室42が所定の圧力に達したら、真空仕切り弁44を開いて、試料Sを試料室40に導入する。これにより、試料室40の圧力を低下させることなく、試料Sを試料室40に導入できる。
【0034】
制御部80は、電子顕微鏡100を構成する各部を制御する。制御部80は、例えば、電子線源10、照射系偏向器20、照射光学系22、照射系絞り装置24、試料ホルダー搬送装置32、試料ホルダー駆動装置34、真空仕切り弁44、結像光学系50、結像系絞り装置52、結像系偏向器54、検出器60、および排気装置70を制御する。
【0035】
制御部80は、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサと、RAM(Random Access Memory)およびROM(Read Only Memory)などの記憶装置と、を含む。記憶装置には、各種制御を行うためのプログラム、およびデータが記憶されている。制御部80の機能は、プロセッサでプログラムを実行することにより実現できる。制御部80は、さらに、ユーザーの操作を受け付ける操作部や、撮影されたTEM像等を表示する表示部を含んでいてもよい。
【0036】
電子顕微鏡100では、電子線源10から放出された電子線を照射光学系22によって試料Sに照射し、試料Sを透過した電子線を結像光学系50によって結像することで、検出器60上にTEM像が形成される。これにより、検出器60でTEM像を取得できる。
【0037】
1.2. 動作
電子顕微鏡100では、試料Sの試料室40への導入、光学系2の調整、および検出器60の調整を自動で行うことができる。
【0038】
図3は、電子顕微鏡100の制御部80の処理の一例を示すフローチャートである。
【0039】
まず、ユーザーが試料ホルダー30に試料Sを装着する。そして、ユーザーが試料ホルダー30を予備排気室42に導入する。これにより、
図1に示すように、試料Sが予備排気室42に収容される。この状態で、ユーザーが操作部を介して、予備排気室42の予備排気を開始する指示を入力する。
【0040】
制御部80は、予備排気室42の予備排気を開始する指示を受け付けると(S100のYes)、排気装置70を動作させて予備排気室42の予備排気を開始する(S102)。
【0041】
次に、制御部80は、電子線源10の後段に配置された不図示の電子銃仕切り弁を開いて、電子線を放出させる(S104)。これにより、電子線源10で発生した電子線が、電子線源10の後段の光学系2や検出器60に到達する。
【0042】
次に、制御部80は、光学系2の調整を開始する(S106)。光学系2を調整する調整処理の詳細は、後述する。
【0043】
制御部80は、光学系2の調整処理において、光学系2に異常があると判定した場合(S108のYes)、光学系2の異常を通知する(S110)。光学系2の異常の通知は、例えば、表示部に光学系2に異常がある旨を表示することで行われる。制御部80は、光学系2の異常を通知した後、処理を終了する。
【0044】
制御部80は、光学系2に異常がなく、光学系2の調整が正常に終了したと判定した場合(S108のNo)、検出器60の調整を開始する(S112)。検出器60を調整する調整処理の詳細は、後述する。
【0045】
制御部80は、検出器60の調整処理において、検出器60に異常があると判定した場合(S114のYes)、検出器60の異常を通知する(S116)。検出器60の異常の通知は、例えば、表示部に検出器60に異常がある旨を表示することで行われる。制御部80は、検出器60の異常を通知した後、処理を終了する。
【0046】
制御部80は、検出器60に異常がなく、検出器60の調整が正常に終了したと判定した場合(S114のNo)、不図示の電子銃仕切り弁を閉じて、電子線の照射を停止させる(S118)。
【0047】
光学系2の調整処理(S106)および検出器60の調整処理(S112)は、予備排気室42の予備排気と並行して行われる。すなわち、予備排気室42を排気装置70で大気圧から所定の圧力まで排気している間、光学系2の調整処理および検出器60の調整処理が行われる。このように、電子顕微鏡100では、試料Sが予備排気室42に収容された状態で、光学系2の調整処理および検出器60の調整処理が行われる。
【0048】
なお、上記では、光学系2の調整処理の後に、検出器60の調整処理を行う場合について説明したが、検出器60の調整処理の後に、光学系2の調整処理を行ってもよい。
【0049】
次に、制御部80は、予備排気室42の圧力を計測する真空計から予備排気室42の圧力の情報を取得し、予備排気室42の圧力が所定の圧力に達したか否かを判定する(S120)。制御部80は、予備排気室42の圧力が所定の圧力に達したと判定されるまで待機する(S120のNo)。
【0050】
制御部80は、予備排気室42の圧力が所定の圧力に達したと判定した場合(S120のYes)、真空仕切り弁44を開いて、試料ホルダー搬送装置32に試料ホルダー30を試料室40に搬送させる(S122)。これにより、試料ホルダー30に保持された試料Sが予備排気室42から試料室40に移動し、試料Sが試料室40に搬送される。
【0051】
制御部80は、試料Sが試料室40に移動した後、電子銃仕切り弁を開いて、試料Sに電子線を照射する(S124)。
【0052】
次に、制御部80は、試料ホルダー駆動装置34を動作させて、試料Sを予め設定された観察位置に移動させる(S126)。これにより、試料Sの電子顕微鏡観察が可能となる。そして、制御部80は、処理を終了する。
【0053】
なお、上述した制御部80の処理の一部をユーザーが手動で行ってもよい。
【0054】
1.3. 光学系の調整処理
(1)電子線源の状態の確認
図4は、電子線源10の状態を確認する処理を説明するための図である。
【0055】
電子顕微鏡100では、光学系2の調整処理を行う前に、電子線源10の状態の確認を行う。具体的には、
図4に示すように、照射光学系22、照射系偏向器20、結像光学系50、および結像系偏向器54を所定の条件に設定し、照射系絞り装置24の絞りおよび結像系絞り装置52の絞りを光軸外とした状態で、検出器60における電子線の検出量を確認する。電子線が検出されていない場合、電子線源10の異常と判断する。
【0056】
(2)照射光学系の調整
図5は、照射光学系22を調整する処理を説明するための図である。
【0057】
照射光学系22は、複数の電子レンズから構成されている。照射光学系22を構成する電子レンズの設定を変えることで照射光学系22の光学条件を変えることができる。照射光学系22は、例えば、照射光学系22の光学条件を変更しても、検出器60の中心に、すなわち、光軸上に、電子線が位置するように調整される。
【0058】
具体的には、まず、結像光学系50を実像結像状態に設定する。ここでは、実像結像状態として、あらかじめ設定された倍率で実像を形成する状態とする。次に、
図5に示すように、照射系偏向器20を用いて、電子線を検出器60の中心に位置させる。照射系偏向器20の状態は、照射光学系22の光学条件ごとに、記憶される。
【0059】
次に、結像光学系50を回折パターン結像状態に設定する。ここでは、回折パターン結像状態として、あらかじめ設定された取り込み範囲で回折パターンが取り込まれる状態とする。次に、回折パターン結像状態で、照射系偏向器20を用いて、電子線を検出器60の中心に位置させる。照射系偏向器20の状態は、照射光学系22の光学条件ごとに、記憶される。
【0060】
回折パターン結像状態で、取り込み範囲を変更した際に、検出器60上における電子線の位置が移動した場合には、試料Sに対して電子線が傾いた方向から入射していることを示している。そのため、回折パターン結像状態を変更した際の、検出器60上における電子線の移動量が最小となるように、照射系偏向器20を設定する。これにより、試料Sに入射する電子線の傾きが小さくなるように調整できる。
【0061】
なお、試料Sに対する電子線の傾きを調整する手法はこれに限定されない。例えば、結像光学系50を実像結像状態に設定した状態で、電子線のエネルギーを変動させた際の、検出器60上における電子線の移動量が最小となるように、照射系偏向器20を設定してもよい。これにより、試料Sに入射する電子線の傾きが小さくなるように調整できる。
【0062】
上記の処理をあらかじめ設定された回数繰り返す間に、実像結像状態と回折パターン結像状態のいずれにおいても、電子線が検出器60の中心に位置する状態になった場合、照射光学系22の調整を終了する。
【0063】
一方、上記の処理をあらかじめ設定された回数繰り返しても、実像結像状態および回折パターン結像状態の少なくとも一方において、電子線が検出器60の中心に位置する状態にならなかった場合、照射光学系22の異常と判定する。
【0064】
(3)結像光学系の調整
図6は、結像光学系50を調整する処理を説明するための図である。
【0065】
結像光学系50は、照射光学系22と同様に、複数の電子レンズから構成されている。結像光学系50を構成する電子レンズの設定を変えることで結像光学系50の光学条件を変えることができる。結像光学系50は、例えば、結像光学系50の光学条件を変更しても、検出器60の中心に電子線が位置するように調整が行われる。
【0066】
具体的には、
図6に示すように、結像光学系50の光学条件を変更しても、電子線が検出器60の中心に位置するように、結像系偏向器54を設定する。結像系偏向器54の状態は、結像光学系50の光学条件ごとに、記憶される。
【0067】
上記の処理を完了できなかった場合、すなわち、結像光学系50の光学条件を変更しても、電子線が検出器60の中心に位置するように、結像系偏向器54を設定できなかった場合、結像光学系50の異常と判定する。
【0068】
(4)照射系絞り装置の調整
図7は、照射系絞り装置24を調整する処理を説明するための図である。
【0069】
照射系絞り装置24は、光軸上に絞り孔の中心が位置するように調整される。
【0070】
具体的には、まず、照射光学系22を所定の条件に設定し、結像光学系50を実像結像状態に設定する。次に、照射系絞り装置24の絞りを光軸上に移動させる。そして、
図7に示すように、絞り孔の中心が検出器60の中心に位置するように、照射系絞り装置24の駆動機構を動作させる。照射系絞り装置24の調整は、絞り孔ごとに行われ、絞り孔ごとに絞りの位置が記憶される。
【0071】
上記の処理を完了できなかった場合、照射系絞り装置24の異常と判定する。
【0072】
(5)結像系絞り装置の調整
図8は、結像系絞り装置52を調整する処理を説明するための図である。
【0073】
結像系絞り装置52は、光軸上に絞り孔の中心が位置するように調整される。
【0074】
具体的には、まず、照射光学系22を所定の条件に設定し、結像光学系50を実像結像状態に設定する。次に、結像系絞り装置52の絞りを光軸上に移動させる。そして、
図8に示すように、絞り孔の中心が検出器60の中心に位置するように、結像系絞り装置52の駆動機構を動作させる。結像系絞り装置52の調整は、絞り孔が複数ある場合には、絞り孔ごとに行われ、絞り孔ごとに絞りの位置が記憶される。
【0075】
上記の処理を完了できなかった場合、結像系絞り装置52の異常と判定する。
【0076】
1.4. 検出器の調整処理
検出器60は、正常に電子線を検出できるように調整される。
【0077】
具体的には、まず、電子銃仕切り弁を閉じて、電子線が検出器60に到達しないようにする。このときの検出器60での電子線の検出量を、バックグラウンドBとして記録する。
【0078】
次に、電子銃仕切り弁を開き、照射光学系22を所定の条件に設定し、結像光学系50を実像結像状態に設定する。また、照射系絞り装置24の絞りおよび結像系絞り装置52の絞りを光軸外とする。このように光学系2を
図4に示す状態としたときの、検出器60の検出面における検出量の分布を、ゲイン分布Gとして記録する。
【0079】
上記の処理を完了できなかった場合、検出器60の異常と判定する。
【0080】
電子顕微鏡100では、検出器60で電子線を検出してTEM像を得る場合、検出量Sに対して、(S-B)/Gの処理を行うことで、検出器60からの信号に対する、バックグラウンドの補正、およびゲイン分布によるアーティファクトの補正を行うことができる。
【0081】
なお、上記では、光学系2の調整処理(S106)として、照射光学系22の調整、結像光学系50の調整、照射系絞り装置24の調整、および結像系絞り装置52の調整を説明したが、光学系2の調整処理では、これらの全部を行ってもよいし、これらの一部を行ってもよい。また、上記では、光学系2の調整処理(S106)および検出器60の調整処理(S112)を行う場合について説明したが、光学系2の調整処理を行わずに検出器60の調整処理のみを行ってもよいし、検出器60の調整処理を行わずに、光学系2の調整処理のみを行ってもよい。
【0082】
1.5. 作用効果
電子顕微鏡100では、制御部80は、試料Sが予備排気室42に収容された状態で、光学系2および検出器60の少なくとも一方の調整を行う調整処理と、調整処理の後に、真空仕切り弁44を開いて試料ホルダー搬送装置32に試料Sを試料室40に搬送させる搬送処理と、を行う。そのため、電子顕微鏡100では、試料Sが予備排気室42に収容されている間に、調整処理を行うことができるため、試料Sを試料室40に導入した後、すみやかに、観察や分析を行うことができる。
【0083】
また、電子顕微鏡100では、試料Sが予備排気室42に収容された状態で、光学系2の調整および検出器60の調整が行われるため、試料Sに電子線を照射して検出器60で電子線が検出されなかった場合に、試料Sや、試料ホルダー30の影響であることがわか
る。
【0084】
例えば、試料Sが試料室40に導入された状態で、検出器60で電子線が検出できない場合、試料Sや試料ホルダー30の影響で電子線が検出できないのか、光学系2および検出器60が正常に動作していないために、電子線が検出できないのかの判断ができない。
【0085】
また、例えば、試料Sが試料室40に導入された状態で、光学系2の調整および検出器60の調整を行う場合、試料Sに不要なダメージを与えるおそれがある。また、試料Sに電子線が照射されない場所に試料Sを移動させて、調整を行うことも考えられるが、試料Sを移動させる手間がかかる。
【0086】
電子顕微鏡100では、試料Sが予備排気室42に収容された状態で、光学系2の調整および検出器60の調整が行われるため、上記のような問題が生じない。
【0087】
電子顕微鏡100では、試料Sが予備排気室42に収容された状態で、検出器60の調整が行われるため、検出器60のバックグラウンドの影響の補正およびゲイン分布によるアーティファクトの補正を確実に実施できる。
【0088】
電子顕微鏡100では、制御部80は、排気装置70に予備排気室42を予備排気させる予備排気処理を行い、予備排気処理と調整処理とは、並行して行われる。そのため、例えば、予備排気室42の予備排気を行った後、調整処理を行う場合と比べて、試料Sを試料ホルダー30に装着してから、試料Sの観察や分析を行うまでの時間を短縮できる。したがって、試料Sの観察や分析を速やかに行うことができる。
【0089】
電子顕微鏡100では、制御部80は、予備排気処理を開始する指示を受け付けた場合に、予備排気処理と調整処理を開始する。そのため、試料Sの観察や分析を速やかに行うことができる。
【0090】
第1実施形態に係る電子顕微鏡100の調整方法は、試料Sが予備排気室42に収容された状態で、光学系2および検出器60の少なくとも一方の調整を行う調整工程と、調整工程の後に、真空仕切り弁44を開いて試料Sを試料室40に搬送する搬送工程と、を含む。そのため、試料Sを試料室40に導入した後、すみやかに、観察や分析を行うことができる。また、第1実施形態に係る電子顕微鏡100の調整方法は、排気装置70に予備排気室42を予備排気させる予備排気工程を含み、予備排気工程と調整工程とは、並行して行われる。そのため、試料Sを試料ホルダー30に装着してから、試料Sの観察や分析を行うまでの時間を短縮できる。
【0091】
2. 第2実施形態
2.1. 電子顕微鏡
次に、第2実施形態に係る電子顕微鏡について図面を参照しながら説明する。
図9および
図10は、第2実施形態に係る電子顕微鏡200の構成を示す図である。なお、
図9は、試料Sが予備排気室42に位置している状態を図示しており、
図10は、試料Sが試料室40に位置している状態を図示している。
【0092】
以下、第2実施形態に係る電子顕微鏡200において、第1実施形態に係る電子顕微鏡100の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0093】
電子顕微鏡200は、
図9および
図10に示すように、試料Sを保持するリテーナー202と、リテーナー搬送装置210と、を含む。
【0094】
リテーナー202は、試料Sを保持する機構を有している。リテーナー202は、リテーナー搬送装置210に装着される。
【0095】
リテーナー搬送装置210は、リテーナー202を搬送する。リテーナー搬送装置210は、リテーナー202を搬送することによって、リテーナー202に保持された試料Sを予備排気室42と試料室40との間で移動させる。リテーナー搬送装置210は、リテーナー202を支持する支持部212と、支持部212を移動させる駆動部214と、を含む。駆動部214は、例えば、エアーシリンダーなどのアクチュエーターである。リテーナー搬送装置210は、試料Sを予備排気室42から試料室40に搬送する搬送装置として機能する。リテーナー搬送装置210は、制御部80によって制御される。
【0096】
電子顕微鏡200では、試料室40において、試料ホルダー30にリテーナー202が装着される。
【0097】
2.2. 電子顕微鏡の動作
電子顕微鏡200では、試料Sの試料室40への導入、光学系2の調整、および検出器60の調整を自動で行うことができる。
【0098】
まず、ユーザーがリテーナー202に試料Sを装着する。そして、ユーザーがリテーナー202をリテーナー搬送装置210の支持部212に装着し、リテーナー202を予備排気室42に導入する。これにより、試料Sが予備排気室42に収容される。この状態で、ユーザーが操作部を介して、予備排気室42の予備排気を開始する指示を入力する。
【0099】
制御部80の処理は、上述した
図3に示す処理と、試料Sを予備排気室42から試料室40に搬送する搬送処理(S122)において、リテーナー搬送装置210にリテーナー202を予備排気室42から試料室40に搬送させて、試料室40において試料ホルダー30にリテーナー202を装着する点を除いて、同様であり、その説明を省略する。
【0100】
2.3. 作用効果
電子顕微鏡200では、上述した電子顕微鏡100と同様の作用効果を奏することができる。
【0101】
3. その他
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0102】
上述した第1実施形態および第2実施形態では、本発明に係る荷電粒子線装置が透過電子顕微鏡である場合について説明したが、本発明に係る荷電粒子線装置は、透過電子顕微鏡に限定されず、真空に維持され、試料が配置される試料室と、真空仕切り弁を介して試料室に接続された予備排気室と、を備えた荷電粒子線装置であれば特に限定されない。このような荷電粒子線装置としては、走査透過電子顕微鏡、走査電子顕微鏡、集束イオンビーム装置などが挙げられる。
【0103】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成を含む。実質的に同一の構成とは、例えば、機能、方法、及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成である。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説
明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0104】
2…光学系、10…電子線源、20…照射系偏向器、22…照射光学系、24…照射系絞り装置、30…試料ホルダー、32…試料ホルダー搬送装置、34…試料ホルダー駆動装置、40…試料室、42…予備排気室、44…真空仕切り弁、50…結像光学系、52…結像系絞り装置、54…結像系偏向器、60…検出器、70…排気装置、80…制御部、100…電子顕微鏡、200…電子顕微鏡、202…リテーナー、210…リテーナー搬送装置、212…支持部、214…駆動部、320…支持部、322…駆動部