(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-06
(45)【発行日】2022-04-14
(54)【発明の名称】断熱構造の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 5/18 20060101AFI20220407BHJP
B32B 7/12 20060101ALI20220407BHJP
B32B 27/34 20060101ALI20220407BHJP
【FI】
B32B5/18
B32B7/12
B32B27/34
(21)【出願番号】P 2020546575
(86)(22)【出願日】2018-09-11
(86)【国際出願番号】 JP2018033593
(87)【国際公開番号】W WO2020053954
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-04-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【氏名又は名称】有田 貴弘
(74)【代理人】
【識別番号】100134991
【氏名又は名称】中尾 和樹
(74)【代理人】
【識別番号】100148507
【氏名又は名称】喜多 弘行
(72)【発明者】
【氏名】織部 晃暢
(72)【発明者】
【氏名】冨田 崇弘
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/020860(WO,A1)
【文献】特開2008-267599(JP,A)
【文献】特開2008-248735(JP,A)
【文献】特開平05-074241(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
F16J 1/00- 1/24、 7/00-10/04
C04B 37/00-37/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) 基材上にポリイミド接着剤からなる接着剤層を形成する工程と、
b) 前記接着剤層をプリベークし、プリベークされた接着剤層を得る工程と、
c) 前記プリベークされた接着剤層の表面温度を30℃以上80℃以下に調整する工程と、
d) 前記表面温度が30℃以上80℃以下であるうちに前記プリベークされた接着剤層を介して多孔質体からなる断熱材を前記基材に貼り付ける工程と、
e) 前記プリベークされた接着剤層を介して前記断熱材が前記基材に貼り付けられた状態で前記プリベークされた接着剤層をベークし、前記プリベークされた接着剤層をポリイミド接着剤の硬化物からなる硬化物層に変化させ、前記断熱材が前記硬化物層を介して前記基材に貼り付けられ前記硬化物層が前記断熱材の厚さの0.6倍以下の厚さを有する断熱構造を形成する工程と、
を備える断熱構造の製造方法。
【請求項2】
前記断熱材は、10μm以上5000μm以下の厚さを有し、
前記硬化物層は、1μm以上200μm以下の厚さを有する
請求項1の断熱構造の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱構造の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド接着剤の硬化物は、高い耐熱性を有する。このため、多孔質体からなる断熱材がポリイミド接着剤の硬化物からなる硬化物層を介して基材に貼り付けられた断熱構造が加熱炉等の発熱製品に設けられることがある。
【0003】
上述した断熱構造が形成される際には、まず、基材上にポリイミド接着剤からなる接着剤層が形成される。続いて、形成された接着剤層がプリベークされる。続いて、プリベークされた接着剤層を介して断熱材が基材に貼り付けられる。続いて、プリベークされた接着剤層がベークされる。これにより、プリベークされた接着剤層が硬化物層に変化し、上述した断熱構造が完成する。
【0004】
特許文献1に記載された技術においては、対象物上に接着剤が塗布される(段落[0055])。続いて、多孔質セラミック集合体が対象物上に配置される(段落[0055])。これにより、対象物上に断熱膜が形成される(段落[0055])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した断熱構造が作製される際に、断熱材を基材に適切に貼り付けることができないという問題が発生することがある。この問題は、断熱構造の断熱性を向上するために断熱材の厚さに対する硬化物層の厚さの比を小さくした場合に顕著になる。
【0007】
本発明は、この問題に鑑みてなされた。本発明が解決しようする課題は、高い断熱性を有し断熱材が基材に適切に貼り付けられた断熱構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、断熱構造の製造方法に向けられる。
【0009】
断熱構造の製造においては、基材上にポリイミド接着剤からなる接着剤層が形成される。接着剤層がプリベークされる。プリベークされた接着剤層の表面温度が30℃以上80℃以下に調整される。表面温度が30℃以上80℃以下であるうちにプリベークされた接着剤を介して多孔質体からなる断熱材が基材に貼り付けられる。プリベークされた接着剤層を介して断熱材が基材に貼り付けられた状態でプリベークされた接着剤層がベークされる。これにより、プリベークされた接着剤層がポリイミド接着剤の硬化物からなる硬化物層に変化し、断熱材が硬化物層を介して基材に貼り付けられ硬化物層が断熱材の厚さの0.6倍以下の厚さを有する断熱構造が形成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高い断熱性を有し断熱材が基材に適切に貼り付けられた断熱構造を提供することができる。
【0011】
この発明の目的、特徴、局面及び利点は、以下の詳細な説明と添付図面とによって、より明白となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態の断熱構造を模式的に図示する分解斜視図である。
【
図2】第1実施形態の断熱構造の製造の途上において作製される中間品を模式的に図示する斜視図である。
【
図3】比較例1、比較例2、実施例1、実施例2、実施例3、比較例3及び比較例4の転写貼り付け後の中間品を撮影することにより得られた画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1 断熱構造
図1は、第1実施形態の断熱構造を模式的に図示する分解斜視図である。
【0014】
図1に図示される断熱構造100は、断熱材110、硬化物層112及び基材114を備える。
【0015】
断熱材110は、加熱炉、エンジン等の発熱製品に設けられる。
【0016】
断熱材110は、硬化物層112を介して基材114に貼り付けられている。硬化物層112は、断熱材110の厚さの0.6倍以下の厚さを有する。このように断熱材110の厚さに対する硬化物層112の厚さの比を小さくすることにより、高い断熱性を有しない硬化物層112が断熱構造100の断熱性に与える影響が小さくなり、高い断熱性を有する断熱構造100を得ることができる。
【0017】
断熱材110は、多孔質体からなり、例えばセラミックス多孔質体からなり、望ましくは多数の微細な気孔を有するセラミックス多孔質体からなる。セラミックス多孔質体の気孔の大きさは、望ましくは1μm以下であり、さらに望ましくは0.2μm以下である。セラミックス多孔質体の気孔率は、望ましくは30%以上80%以下であり、さらに望ましくは40%以上80%以下である。
【0018】
断熱材110は、望ましくは10μm以上5000μm以下の厚さを有し、さらに望ましくは10μm以上300μm以下の厚さを有し、特に望ましくは50μm以上200μm以下の厚さを有する。
【0019】
硬化物層112は、ポリイミド接着剤の硬化物からなる。ポリイミド接着剤の硬化物は、高い耐熱性を有する。このため、硬化物層112は、高い耐熱性を有し、例えば約400℃の高温に耐えることができる。
【0020】
硬化物層112は、望ましくは1μm以上200μm以下の厚さを有し、さらに望ましくは5μm以上100μm以下の厚さを有し、特に望ましくは6μm以上40μm以下の厚さを有する。
【0021】
基材114は、どのようなものであってもよいが、例えば加熱炉の炉壁である。
【0022】
基材114は、例えばアルミニウム合金からなる。
【0023】
2 断熱構造の製造方法
図2(a)から
図2(f)までは、第1実施形態の断熱構造の製造の途上において作製される中間品を模式的に図示する斜視図である。
【0024】
断熱構造100が製造される際は、まず、
図2(a)に図示されるように、基材114上にポリイミド接着剤が塗布される。これにより、基材114上にポリイミド接着剤からなる接着剤層112aが形成される。ポリイミド接着剤は、薄膜を形成することができる限りどのように塗布されてもよいが、例えばスピンコート、ディップ又はスプレーにより塗布される。
【0025】
続いて、
図2(b)に図示されるように、接着剤層112aがプリベークされる。これにより、プリベークされた接着剤層112bが得られる。接着剤層112aがプリベークされる際には、接着剤層112aから溶剤が揮発し、接着剤層112aが仮硬化する。接着剤層112aは、どのようにプリベークされてもよいが、例えば接着剤層112a及び基材114を備える中間品100aをホットプレートで加熱することによりプリベークされる。接着剤層112aは、望ましくは80℃以上150℃以下の温度で中間品100aを加熱することによりプリベークされる。また、接着剤層112aは、望ましくは1分以上20分以下、さらに望ましくは1分以上10分以下の加熱時間にわたって中間品100aを加熱することによりプリベークされる。
【0026】
続いて、
図2(c)に図示されるように、プリベークされた接着剤層112bの表面温度が30℃以上80℃以下に調整される。これにより、プリベークされた接着剤層112bの粘度が上昇する。プリベークされた接着剤層112bの表面温度は、どのように調整されてもよいが、例えばプリベークされた接着剤層112b及び基材114を備える中間品100bを室温下で放置することにより調整される。中間品100bが室温下で放置される場合は、中間品100bが望ましくは0.5分以上20分以下、さらに望ましくは0.5分以上10分以下の時間にわたって室温下で放置される。プリベークされた接着剤層112bの表面温度が、30℃以上80℃以下の温度で中間品100bを加熱することにより調整されてもよい。この場合は、中間品100bが望ましくは0.5分以上60分以下、さらに望ましくは0.5分以上30分以下の加熱時間にわたって加熱される。
【0027】
続いて、
図2(d)に図示されるように、プリベークされた接着剤層112bの表面温度が30℃以上80℃以下であるうちにプリベークされた接着剤層112bを介して転写シート116上の断熱材110が基材114に向かって圧着される。これにより、プリベークされた接着剤層112bを介して断熱材110が基材114に転写貼り付けされる。表面温度が30℃以上80℃以下である状態で断熱材110が基材114に貼り付けられることにより、プリベークされた接着剤層112bの粘度が適度に上昇した状態で断熱材110が基材114に貼り付けられ、接着剤が断熱材110に浸透してプリベークされた接着剤層112bの接着力が低下することを抑制することができる。これに対して、表面温度が80℃より高い状態で断熱材110が基材114に貼り付けられた場合は、プリベークされた接着剤層112bの粘度が過度に低い状態で断熱材110が基材114に貼り付けられ、接着剤が基材114に浸透してプリベークされた接着剤層112bの接着力が低下する。また、表面温度が30℃より低い状態で断熱材110が基材114に貼り付けられた場合は、プリベークされた接着剤層112bの粘度が過度に高い状態で断熱材110が基材114に貼り付けられ、貼り付けが困難になる。断熱材110は、どのように圧着されてもよいが、例えばプレス圧着、ローラー圧着又はスキージ圧着により圧着される。転写シートを用いずに断熱材110が貼り付けられてもよい。断熱材110が基材114の二次曲面又は三次曲面に向かって圧着される場合は、パッド印刷機等を用いて断熱材110が圧着されてもよい。
【0028】
続いて、
図2(e)に図示されるように、転写シート116が断熱材110から剥がされる。転写シートを用いずに断熱材110が貼り付けられる場合は、転写シート116を断熱材110から剥がす工程は不要である。
【0029】
続いて、
図2(f)に図示されるように、プリベークされた接着剤層112bを介して断熱材110が基材114に貼り付けられた状態でプリベークされた接着剤層112bがベークされる。これにより、プリベークされた接着剤層112bにおいて重合反応が進行し、プリベークされた接着剤層112bが硬化物層112に変化し、硬化物層112を介して断熱材110が基材114に貼り付けられた断熱構造100が形成される。プリベークされた接着剤層112bは、どのようにベークされてもよいが、例えば断熱材110、プリベークされた接着剤層112b及び基材114を備える中間品100eを乾燥機で加熱することによりベークされる。接着剤層112bは、望ましくは180℃以上250℃以下の温度で中間品100eを加熱することによりベークされる。また、接着剤層112bは、望ましくは1分以上120分以下、さらに望ましくは1分以上60分以下の加熱時間にわたって中間品100eを加熱することによりベークされる。
【0030】
3 実施例1-9及び比較例1-6
実施例1-9及び比較例1-6においては、まず、アルミニウム合金からなり7mmの厚さを有する基材114上にポリイミド接着剤をスピンコートにより塗布し、基材114上にポリイミド接着剤からなる接着剤層112aを表1及び表2の「硬化物層の厚さ」の列に示される厚さを有する硬化物層112が得られるように形成した。スピンコートの条件は、2300rpm×10secとした。
【0031】
続いて、接着剤層112a及び基材114を備える中間品100aをホットプレートで加熱し、接着剤層112aをプリベークした。加熱の条件は、120℃×3minとした。
【0032】
続いて、プリベークされた接着剤層112b及び基材114を備える中間品100bを室温下で放置し、プリベークされた接着剤層112bの表面温度を表1及び表2の「接着剤層の表面温度」の列に示される表面温度に調整した。表面温度は、放射温度計により測定した。
【0033】
続いて、プリベークされた接着剤層112bを介して転写シート116上の断熱材110を基材114に向かってローラー圧着により圧着した。
【0034】
続いて、室温下で転写シート116を断熱材110から剥がした。
【0035】
このようにして作製された転写貼り付け後の中間品100eについて、転写貼り付けの可否を評価した。その結果を表1及び表2の「転写貼り付けの可否」の列に示す。表1及び表2の「転写貼り付け可否」の列には、全面に断熱材110を貼り付け可能であった場合に「〇」が記されており、一部に断熱材110を貼り付け可能であった場合に「×」が記されている。また、比較例1、比較例2、実施例1、実施例2、実施例3、比較例3及び比較例4の転写貼り付け後の中間品100eを撮影することにより得られた画像を
図3に示す。
【0036】
続いて、プリベークされた接着剤層112bを介して断熱材110が基材114に貼り付けられた状態で転写貼り付け後の中間品100eを乾燥機で加熱し、プリベークされた接着剤層112bをベークした。加熱の条件は、200℃×60minとした。
【0037】
このようにして形成された断熱構造100について、硬化物層112の接着力を評価した。硬化物層112の接着力は、テープ試験により評価した。その結果を表1及び表2の「接着力」の列に示す。表1及び表2の「接着力」の列には、テープ試験により断熱材110が剥がれなかった場合に「〇」が記されており、テープ試験により断熱材110が剥がれた場合に「×」が記されており、断熱材110を貼り付け可能でなかったために硬化物層112の接着力の評価に至らなかった場合に「-」が記されている。
【0038】
また、このようにして形成された断熱構造100について、断熱構造100の断熱性を評価した。断熱構造100の断熱性は、レーザーフラッシュ法による熱伝導率解析により行った。その結果を表1及び表2の「断熱性」の列に示す。表1及び表2の「断熱性」の列には、熱伝導率が0.3W/mK以下である場合に「〇」が記されており、熱伝導率が0.3W/mKより大きい場合に「×」が記されており、断熱材110を貼り付け可能でなかったために断熱構造100の断熱性の評価に至らなかった場合に「-」が記されている。
【0039】
【0040】
【0041】
表1から把握することができるように、硬化物層112が断熱材110の厚さの0.6倍以下の厚さを有しプリベークされた接着剤層112bの表面温度が30℃以上80℃以下に調整された実施例1-9においては、転写貼り付けの可否、硬化物層112の接着力、及び断熱構造100の断熱性が「〇」となっている。このことから、硬化物層112が断熱材110の厚さの0.6倍以下の厚さを有しプリベークされた接着剤層112bの表面温度が30℃以上80℃以下に調整された場合は、高い断熱性を有し断熱材110が基材114に適切に貼り付けられた断熱構造100を提供することができることを理解することができる。
【0042】
また、表2から把握することができるように、硬化物層112が断熱材110の厚さの0.6倍以下の厚さを有するがプリベークされた接着剤層112bの表面温度が30℃以上80℃以下に調整されなかった比較例1-4においては、転写貼り付けの可否、硬化物層112の接着力、及び断熱構造100の断熱性が「×」又は「-」となっている。このことから、硬化物層112が断熱材110の厚さの0.6倍以下の厚さを有するがプリベークされた接着剤層112bの表面温度が30℃以上80℃以下に調整されなかった場合は、高い断熱性を有し断熱材110が基材114に適切に貼り付けられた断熱構造100を提供することができないことを理解することができる。
【0043】
また、表2から把握することができるように、プリベークされた接着剤層112bの表面温度が30℃以上80℃以下に調整されたが硬化物層112が断熱材110の厚さの0.6倍以下の厚さを有さない比較例5-6においては、転写貼り付けの可否及び硬化物層の接着力が「〇」となっているが断熱構造100の断熱性が「×」となっている。このことから、プリベークされた接着剤層112bの表面温度が30℃以上80℃以下に調整されたが硬化物層112が断熱材110の厚さの0.6倍以下の厚さを有さない場合は、高い断熱性を有する断熱構造100を提供することができないことを理解することができる。
【0044】
この発明は詳細に説明されたが、上記した説明は、すべての局面において、例示であって、この発明がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。
【符号の説明】
【0045】
100 断熱構造
110 断熱材
112 硬化物層
114 基材