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特許7054750連続繊維強化樹脂成形体、及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-06
(45)【発行日】2022-04-14
(54)【発明の名称】連続繊維強化樹脂成形体、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/04 20060101AFI20220407BHJP
【FI】
C08J5/04 CER
C08J5/04 CEZ
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021085671
(22)【出願日】2021-05-20
(62)【分割の表示】P 2020515495の分割
【原出願日】2019-04-23
(65)【公開番号】P2021119253
(43)【公開日】2021-08-12
【審査請求日】2021-05-20
(31)【優先権主張番号】P 2018083938
(32)【優先日】2018-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018083949
(32)【優先日】2018-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018139322
(32)【優先日】2018-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018139396
(32)【優先日】2018-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018139342
(32)【優先日】2018-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018225610
(32)【優先日】2018-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】荒谷 悠介
(72)【発明者】
【氏名】秋山 努
(72)【発明者】
【氏名】小泉 徹
【審査官】千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-166924(JP,A)
【文献】特表2013-543906(JP,A)
【文献】特開2002-088259(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B11/16; 15/08-15/14
C08J5/04-5/10; 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
略丸断面の連続強化繊維と2種以上の熱可塑性樹脂からなる連続繊維強化樹脂成形体であって、該連続強化繊維の長さ方向に直交する断面における該連続強化繊維1本と該熱可塑性樹脂との間の極界面において、該連続強化繊維の周縁部から、該連続強化繊維1本の半径の10分の1離れた周縁外側領域内では、該2種以上の熱可塑性樹脂の内、樹脂領域の全体として占有割合が最も高い樹脂以外の樹脂の占有割合が、該樹脂領域の全体として占有割合が最も高い樹脂の占有割合よりも高いが、該周縁外側領域以外の樹脂領域内では、該2種以上の熱可塑性樹脂の内、該樹脂領域の全体として占有割合が最も高い樹脂以外の樹脂が均一に分散しているか又は混合しており、かつ、該2種以上の熱可塑性樹脂の内、融点が最も高い樹脂の融点と、融点が最も低い樹脂の融点との差が100℃以上であり、かつ、該2種以上の熱可塑性樹脂の内、樹脂領域の全体として占有割合が最も高い樹脂と前記連続強化繊維との間の結合力よりも、該樹脂領域の全体として占有割合が最も高い樹脂以外の少なくとも一つの樹脂と前記連続強化繊維との間の結合力が大きく、かつ、該2種以上の熱可塑性樹脂の内、樹脂領域の全体として占有割合が最も高い樹脂と前記連続強化繊維との間の表面張力の差よりも、該樹脂領域の全体として占有割合が最も高い樹脂以外の少なくとも一つの樹脂と前記連続強化繊維との間の表面張力の差が小さく、かつ、該2種以上の熱可塑性樹脂の内、樹脂領域の全体として占有割合が最も高い樹脂の前記連続強化繊維に対する濡れ性よりも、該樹脂領域の全体として占有割合が最も高い樹脂以外の少なくとも一つの樹脂の前記連続強化繊維に対する濡れ性が高いことを特徴とする連続繊維強化樹脂成形体。
【請求項2】
前記2種類以上の熱可塑性樹脂が海島構造を有する、請求項1に記載の連続繊維強化樹脂成形体。
【請求項3】
前記2種以上の熱可塑性樹脂の混合物の昇温融解ピーク温度と降温結晶化ピーク温度の差が、前記2種以上の熱可塑性樹脂の内、樹脂領域の全体として占有割合が最も高い樹脂の昇温融解ピーク温度と降温結晶化ピーク温度の差よりも小さい、請求項1又は2に記載の連続繊維強化樹脂成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続繊維強化樹脂成形体、及びその製法に関する。より詳しくは、本発明は、連続強化繊維と合成樹脂との間の極界面における接着力、親和性が高く、該極界面に存在する空隙が少なく、十分な強度を発現することができる連続繊維強化樹脂成形体、連続繊維強化樹脂成形体の損失正接が十分小さく、十分な衝撃吸収を発現することができる連続繊維強化樹脂成形体、連続繊維強化樹脂成形体の貯蔵弾性率が十分大きく、十分な衝撃強度を発現することができる連続繊維強化樹脂成形体、樹脂含浸性が高く、高い強度や剛性を有する連続繊維強化樹脂成形体、並びにそれらの製造方法である。
【背景技術】
【0002】
各種機械や自動車等の構造部品、圧力容器、及び管状の構造物等には、マトリックス樹脂材料にガラス繊維等の強化材が添加された複合材料成形体が使用されている。特に強度の観点から強化繊維が連続繊維であり、成形サイクルの観点、リサイクル性の観点から、樹脂が熱可塑性樹脂である連続繊維強化樹脂成形体が望まれている。この連続繊維強化樹脂成形体としては、強化繊維に添加する集束剤を工夫しているもの(例えば、以下の特許文献1参照)、熱可塑性樹脂の融解温度(融点)と結晶化温度の差を工夫しているもの(例えば、以下の特許文献2参照)、樹脂材料に有機塩を加えているもの(例えば、以下の特許文献3参照)、成形前駆体の布帛を熱可塑性の樹脂で積層しているもの(例えば、以下の特許文献4参照)、強化繊維に先に低融点の熱可塑性樹脂を含浸させ、含浸性を向上させたもの(例えば、以下の特許文献5参照)、表面樹脂に融点の違う二種類の樹脂を用いることで層間剥離に良好な耐性を有するもの(例えば、以下の特許文献6参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-238213号公報
【文献】特許第5987335号公報
【文献】特開2017-222859号公報
【文献】特開2009-19202号公報
【文献】特開平10-138379号公報
【文献】特許第5878544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本願発明者らが鋭意検討した結果、従来技術の連続繊維強化樹脂成形体では、いずれのも連続強化繊維、例えば、ガラス繊維とマトリックス樹脂の間の界面の接着力、親和性が低いため、繊維と樹脂の極界面の領域に空隙が多く、十分な強度が発現せず、高い強度が要求される箇所への利用に応えられる性能を備えていないことを発見した。また、従来技術の連続繊維強化樹脂成形体では、いずれのも損失正接が高いため、十分な衝撃吸収が発現せず、高い衝撃吸収が要求される箇所への利用に応えられる性能を備えていないこと、いずれのも貯蔵弾性率が低いため、十分な衝撃強度が発現せず、高い衝撃強度が要求される箇所への利用に応えられる性能を備えていないこと、連続強化繊維への樹脂含浸性が低く、樹脂と連続強化繊維との間の接着が不十分であり、強度や剛性といった物性や生産性に劣るものであることを発見した。
かかる従来技術の水準に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、連続強化繊維と合成樹脂との間の極界面における接着力、親和性が高く、該極界面に存在する空隙が少なく、十分な強度を発現することができる連続繊維強化樹脂成形体、損失正接が低く、十分な衝撃強度を発現することができる連続繊維強化樹脂成形体、貯蔵弾性率が高く、十分な衝撃強度を発現することができる連続繊維強化樹脂成形体、並びに樹脂含浸性が高く、高い強度や剛性を有する連続繊維強化樹脂成形体、並びにそれらの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明者らは、かかる課題を解決すべく鋭意検討し実験を重ねた結果、連続強化繊維の製造において塗布されるサイジング剤(集束剤ともいう。)と樹脂の相性、成形中の密閉性、樹脂の流れ等を工夫することで、連続強化繊維と合成樹脂との間の極界面における空隙を極めて少なくすることにより、これを用いたプレス成形により高い強度や剛性を有する連続繊維強化樹脂成形体を製造することができることを、また、連続繊維強化樹脂成形体の損失正接を低くし、これを用いたプレス成形により高い衝撃吸収を有する連続繊維強化樹脂成形体を製造することができることを、連続繊維強化樹脂成形体の貯蔵弾性率を高くし、これを用いたプレス成形により高い衝撃強度を有する連続繊維強化樹脂成形体を製造することができることを、2種類以上の熱可塑性樹脂を有する連続繊維強化樹脂成形体において、連続強化繊維と樹脂の極界面領域における各樹脂の比率が、他の樹脂領域における各樹脂の比率と異なることで、連続繊維強化樹脂成形体が高い強度や剛性を発現することを、予想外に見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0006】
すなわち、本発明は以下のとおりのものである。
[1]略丸断面の連続強化繊維と合成樹脂からなる連続繊維強化樹脂成形体であって、該連続強化繊維の長さ方向に直交する断面における該連続強化繊維1本と該合成樹脂との間の極界面において、該連続強化繊維の周縁部から、該連続強化繊維1本の半径の10分の1離れた周縁外側領域内の空隙率が10%以下であるところの連続強化繊維の本数が、連続強化繊維の総数の10%以上であることを特徴とする連続繊維強化樹脂成形体。
[2]前記空隙率が10%以下である連続強化繊維の本数が、前記連続強化繊維の総数の90%以上である、前記[1]に記載の連続繊維強化樹脂成形体。
[3]前記空隙率が1%以下である連続強化繊維の本数が、前記連続強化繊維の総数の90%以上である、前記[2]に記載の連続繊維強化樹脂成形体。
[4]前記連続繊維強化樹脂複合体中の合成樹脂含浸率が99%以上である、前記[1]~[3]のいずれかに記載の連続繊維強化樹脂成形体。
[5]前記連続強化繊維がガラス繊維であり、かつ、前記連続繊維強化樹脂成形体の引張応力が480Mpa以上である、前記[1]~[4]のいずれかに記載の連続繊維強化樹脂成形体。
[6]前記連続強化繊維がガラス繊維であり、かつ、前記連続繊維強化樹脂成形体の曲げ弾性率が22Gpa以上である、前記[1]~[5]のいずれかに記載の連続繊維強化樹脂成形体。
[7]熱可塑性樹脂と連続強化繊維を含み、ひねりモードの損失正接が0.11以下である、連続繊維強化樹脂成形体。
[8]前記損失正接のピークが78℃以上である、前記[7]に記載の連続繊維強化樹脂成形体。
[9]連続強化繊維と熱可塑性樹脂を含み、ひねりモードの貯蔵弾性率が3.4GPa以上である、連続繊維強化樹脂成形体。
[10]斜め方向に切削した際の前記貯蔵弾性率が直行方向に切削した際の前記貯蔵弾性率の1.5倍以上である、前記[9]に記載の連続繊維強化樹脂成形体。
[11]150℃における前記貯蔵弾性率が最大の前記貯蔵弾性率の25%以上である、前記[9]又は[10]に記載の連続繊維強化樹脂成形体。
[12]せん断粘度が330MPa・s-1以上である、前記[9]~[11]のいずれかに記載の連続繊維強化樹脂成形体。
[13]連続強化繊維と熱可塑性樹脂を含み、曲げ貯蔵弾性率が22GPa以上である、連続繊維強化樹脂成形体。
[14]150℃における曲げ貯蔵弾性率が30℃における貯蔵弾性率の76%以上である、前記[13]に記載の連続繊維強化樹脂成形体。
[15]斜めに切削した際の曲げ貯蔵弾性率保持率が58%以上である、前記[13]又は[14]に記載の連続繊維強化樹脂成形体。
[16]50℃における引張貯蔵弾性率が22GPa以上である、前記[13]~[15]のいずれかに記載の連続繊維強化樹脂成形体。
[17]引張損失正接の最大値が0.037以下である、前記[13]~[16]のいずれかに記載の連続繊維強化樹脂成形体。
[18]引張貯蔵弾性率と曲げ貯蔵弾性率の逆転する温度が95℃以上である、前記[13]~[17]のいずれかに記載の連続繊維強化樹脂成形体。
[19]{30℃における(引張貯蔵弾性率―曲げ貯蔵弾性率)}/{200℃における(曲げ貯蔵弾性率―引張貯蔵弾性率)}≧1である、前記[13]~[18]のいずれかに記載の連続繊維強化樹脂成形体。
[20]略丸断面の連続強化繊維と2種以上の熱可塑性樹脂からなる連続繊維強化樹脂成形体であって、該連続強化繊維の長さ方向に直交する断面における該連続強化繊維1本と該熱可塑性樹脂との間の極界面において、該連続強化繊維の周縁部から、該2種以上の連続強化繊維1本の半径の10分の1離れた周縁外側領域内では、該2種以上の熱可塑性樹脂の内、樹脂領域の全体として占有割合が最も高い樹脂以外の樹脂の占有割合が、該樹脂領域の全体として占有割合が最も高い樹脂の占有割合よりも高いが、該周縁外側領域以外の樹脂領域内では、該2種以上の熱可塑性樹脂の内、該樹脂領域の全体として占有割合が最も高い樹脂以外の各樹脂が均一に分散しているか又は混合していることを特徴とする連続繊維強化樹脂成形体。
[21]前記2種類以上の熱可塑性樹脂が海島構造を有する、前記[20]に記載の連続繊維強化樹脂成形体。
[22]前記2種以上の熱可塑性樹脂の内、融点が最も高い樹脂の融点と、融点が最も低い樹脂の融点との差が100℃以上である、前記[20]又は[21]に記載の連続繊維強化樹脂成形体。
[23]前記2種以上の熱可塑性樹脂の混合物の融点が、前記2種以上の熱可塑性樹脂の内、樹脂領域の全体として占有割合が最も高い樹脂の融点と実質的に同じである、前記[20]~[22]のいずれかに記載の連続繊維強化樹脂成形体。
[24]前記2種以上の熱可塑性樹脂の混合物の昇温融解ピーク温度と降温結晶化ピーク温度の差が、前記2種以上の熱可塑性樹脂の内、樹脂領域の全体として占有割合が最も高い樹脂の昇温融解ピーク温度と降温結晶化ピーク温度の差よりも小さい、前記[20]~[23]のいずれかに記載の連続繊維強化樹脂成形体。
[25]前記2種以上の熱可塑性樹脂の内、樹脂領域の全体として占有割合が最も高い樹脂と前記連続強化繊維との間の結合力よりも、該樹脂領域の全体として占有割合が最も高い樹脂以外の少なくとも一つの樹脂と前記連続強化繊維との間の結合力が大きい、前記[20]~[24]のいずれかに記載の連続繊維強化樹脂成形体。
[26]前記2種以上の熱可塑性樹脂の内、樹脂領域の全体として占有割合が最も高い樹脂と前記連続強化繊維との間の表面張力の差よりも、該樹脂領域の全体として占有割合が最も高い樹脂以外の少なくとも一つの樹脂と前記連続強化繊維との間の表面張力の差が小さい、前記[20]~[25]のいずれかに記載の連続繊維強化樹脂成形体。
[27]前記2種以上の熱可塑性樹脂の内、樹脂領域の全体として占有割合が最も高い樹脂の前記連続強化繊維に対する濡れ性よりも、該樹脂領域の全体として占有割合が最も高い樹脂以外の少なくとも一つの樹脂の前記連続強化繊維に対する濡れ性が高い、前記[20]~[26]のいずれかに記載の連続繊維強化樹脂成形体。
[28]以下の工程:
カップリング剤、結束剤、及び潤滑剤からなる集束剤が添加されている連続強化繊維と、該カップリング剤と反応性がある末端官能基を有する熱可塑性樹脂とを、該熱可塑性樹脂の融点以上となるように加熱プレスする工程;及び
これを該熱可塑性樹脂の融点以下まで冷却し、成形品として連続繊維強化樹脂複合材料を得る工程;
を含む、連続繊維強化樹脂複合材料の製造方法。
[29]前記熱可塑性樹脂の吸水率が0.1重量%以上である、前記[28]に記載の方法。
[30]前記集束剤の50重量%以上が加熱プレス中に、前記熱可塑性樹脂中に拡散する、前記[28]又は[29]に記載の方法。
[31]前記カップリング剤と熱可塑性樹脂の末端官能基が結合している、前記[28]~[30]のいずれかに記載の方法。
[32]前記連続繊維強化樹脂複合材料中の末端官能基の量が、前記熱可塑性樹脂中に含まれている末端官能基の量よりも少ない、前記[28]~[31]のいずれかに記載の方法。
[33]前記末端官能基の量が、前記熱可塑性樹脂中に含まれている末端官能基の量の90%以下である、前記[28]~[32]のいずれかに記載の方法。
[34]前記熱可塑性樹脂に含まれる粒子状添加材の含有量が30ppm以下である、前記[28]~[33]のいずれかに記載の方法。
[35]前記熱可塑性樹脂がポリアミド樹脂であり、前記カップリング剤と反応性がある末端官能基としての、該ポリアミド樹脂に含まれるカルボキシル基末端の量が65μmol/g以上である、前記[28]~[34]のいずれかに記載の方法。
[36]前記熱可塑性樹脂がポリアミド樹脂であり、前記カップリング剤と反応性がある末端官能基としての、該ポリアミド樹脂に含まれるアミノ基末端の量が40μmol/g以下である、前記[28]~[35]のいずれかに記載の方法。
[37]前記[28]~[36]のいずれかに記載の方法により製造された連続繊維強化樹脂複合材料を、前記熱可塑性樹脂の融点以上に加熱し、型を用いてプレスし、その後、該熱可塑性樹脂の融点以下の温度まで冷却して、賦形する工程を含む、連続繊維強化樹脂複合材料の賦形成形体の製造方法。
[38]冷却時に圧縮を行う、前記[37]に記載の方法。
[39]強化繊維と、該強化繊維とのμドロップ生成係数が10以上である熱可塑性樹脂とを、該熱可塑性樹脂の融点以上となるように、加熱プレスする工程及び、これを該熱可塑性樹脂の結晶化温度以下まで冷却する工程を含む、繊維強化樹脂成形体の製造方法。
[40]ガラス繊維とポリアミド樹脂からなる強化繊維樹脂成形体であって、前記繊維強化樹脂成形体を切削し、400g/cmの力がかかるように研磨した際の研磨面をSEMにより観察した時に、該ガラス繊維の長さ方向に直交する断面におけるガラス繊維1本とポリアミド樹脂との間の極界面において、ガラス繊維の周縁部から、ガラス繊維1本の半径の10分の1離れた周縁外側領域内の空隙率が10%以下であるところのガラス繊維の本数が、ガラス繊維の総数の90%以上である、繊維強化樹脂成形体。
[41]前記ガラス繊維が連続繊維である、前記[40]に記載の連続繊維強化樹脂成形体。
[42]熱可塑性樹脂と連続ガラス強化繊維とからなる複合材料成形品からなる通信機器筺体であって、引張強度が、下記式(3):
長手方向の引張強度(MPa)×0.5+幅方向の引張強度(MPa)×0.5>500MPa 式(3)
の関係を満たし、曲げ弾性率が、下記式(4):
長手方向の曲げ弾性率(MPa)×0.5+幅方向曲げ弾性率(MPa)×0.5>30MPa 式(4)
の関係を満たし、かつ、KEC法により測定される電界シールド性が、周波数1GHz帯において、10dB以下であることを特徴とする、通信機器筐体。
[43]連続強化繊維と熱可塑性樹脂からなる連続繊維強化樹脂成形体であって、アコースティックエミッション法測定において、層間剥離起因の破壊発生強度が40MPa以上である、連続繊維強化樹脂成形体。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る連続繊維強化樹脂成形体は、連続強化繊維と合成樹脂との間の極界面における接着力、親和性が高く、該極界面に存在する空隙が少なく、十分な強度や剛性、衝撃強度、高い長期特性を発現することができ、また、損失正接が十分小さく、十分な衝撃吸収を発現すること、貯蔵弾性率が十分大きく、十分な衝撃強度を発現すること、樹脂脂含浸性が高く、高い強度や剛性を発現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】連続強化繊維の長さ方向に直交する断面における連続強化繊維1本と合成樹脂との間の極界面において、連続強化繊維の周縁部から、連続強化繊維1本の半径の10分の1離れた周縁外側領域(極界面領域)内に存在する「空隙」、「空隙率」を説明するための図面である。
図2】実施例1-1、実施例2-1、実施例3-1、実施例4-1の極界面領域の写真である。
図3】実施例1-3の極界面領域の写真である。
図4】比較例1-2の極界面領域の写真である。
図5】比較例1-3の極界面領域の写真である。
図6】連続繊維強化樹脂成形体の合成樹脂「含浸率」を説明するための図面に代わる写真である。
図7】略丸断面の連続強化繊維の長さ方向に沿った断面における連続強化繊維1本と合成樹脂との間の極界面において、連続強化繊維の周縁部から、連続強化繊維1本の半径の10分の1離れた周縁外側領域内に、2種以上の熱可塑性樹脂の内、樹脂領域の全体として占有割合が最も高い樹脂以外の樹脂の占有割合が、該樹脂領域の全体として占有割合が最も高い樹脂の占有割合よりも高いが、該周縁外側領域以外の樹脂領域内では、該2種以上の熱可塑性樹脂の内、樹脂領域の全体として占有割合が最も高い樹脂以外の樹脂が均一に分散している状態を示す図面に代わる写真である。
図8】実施例6-1の極界面領域の写真である。
図9】比較例6-2の極界面領域の写真である。
図10】実施例10の極界面領域の写真である。
図11】比較例10の極界面領域の写真である。
図12】実施例9のスマートフォン筐体の形状を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
[連続繊維強化樹脂成形体]
本実施形態の連続繊維強化樹脂成形体は、略丸断面の連続強化繊維と合成樹脂からなる連続繊維強化樹脂成形体であって、該連続強化繊維の長さ方向に直交する断面における該連続強化繊維1本と該合成樹脂との間の極界面において、該連続強化繊維の周縁部から、該連続強化繊維1本の半径の10分の1離れた周縁外側領域内の空隙率が10%以下であるところの連続強化繊維の本数が、連続強化繊維の総数の10%以上であること、また、動的粘弾性測定における、ひねりモードの損失正接(tanδ)が0.11以下であること、動的粘弾性測定における、ひねりモードの貯蔵弾性率が3.4GPa以上であること、曲げモードの貯蔵弾性率が22GPa以上であることが好ましい。また2種類以上の熱可塑性樹脂を使用する場合は、該連続強化繊維の長さ方向に直交する断面における該連続強化繊維1本と該熱可塑性樹脂との間の極界面において、該連続強化繊維の周縁部から、連続強化繊維1本の半径の10分の1離れた周縁外側領域(極界面領域ともいう。)内では、該2種以上の熱可塑性樹脂の内、樹脂領域の全体として占有割合が最も高い樹脂(主樹脂ともいう。)以外の樹脂(副樹脂ともいう。)の占有割合が、該樹脂領域の全体として占有割合が最も高い樹脂の占有割合よりも高いが、該周縁外側領域以外の樹脂領域(他の樹脂領域ともいう。)内では、該2種以上の熱可塑性樹脂の内、樹脂領域の全体として占有割合が最も高い樹脂以外の樹脂(副樹脂)が均一に分散しているか又は混合していることが好ましい。
また、本実施形態の連続繊維強化樹脂複合材料の製造方法は、以下の工程:
カップリング剤、結束剤、及び潤滑剤からなる集束剤が添加されている連続強化繊維と、該カップリング剤と反応性がある末端官能基を有する熱可塑性樹脂とを、該熱可塑性樹脂の融点以上となるように加熱プレスする工程;及び
これを該熱可塑性樹脂の融点以下まで冷却し、成形品として連続繊維強化樹脂複合材料を得る工程;
を含むことが好ましい。
【0010】
すなわち、図1に示すように、本実施形態の連続繊維強化樹脂成形体は、略丸断面の連続強化繊維と合成樹脂からなる連続繊維強化樹脂成形体であり、該連続強化繊維の長さ方向に直交する断面における該連続強化繊維1本と該合成樹脂との間の極界面に観察される、該連続強化繊維の周縁部から、半径方向に、該連続強化繊維1本の半径rの10分の1(すなわち、r/10)離れた周縁外側領域(極界面領域ともいう。)内の空隙率が10%以下であるところの連続強化繊維が存在し、その本数は、連続強化繊維の総数の10%以上である。尚、連続強化繊維の断面は略丸断面であることが好ましいが、図1に示すように楕円形状であってもよい。その場合、「半径」とは、繊維断面の中心からの周縁部に向かう最短距離とする。
また、本実施形態の連続繊維強化樹脂成形体は、極界面領域内では、2種以上の熱可塑性樹脂の内、副樹脂の占有割合が、主樹脂の占有割合よりも高くなっていることが好ましい。この状態を図7に示す。
【0011】
「連続強化繊維の長さ方向に直交する断面における該連続強化繊維1本と該合成樹脂との間の極界面に観察される、該連続強化繊維の周縁部から、該連続強化繊維1本の半径の10分の1離れた周縁外側領域」における空隙率は、例えば、バンドソー等により1cm角に切削した連続繊維強化樹脂成形体の連続強化繊維の長さ方向に直交する断面を、研磨面に400g/cmの力がかかるように、研磨台を100rpmで回転させて、耐水ペーパー番手#220で10分間、耐水ペーパー番手#400で2分間、耐水ペーパー番手#800で5分間、耐水ペーパー番手#1200で10分間、耐水ペーパー番手#2000で15分間、炭化ケイ素フィルム粒度9μmで15分間、アルミナフィルム粒度5μmで15分間、アルミナフィルム粒度3μmで15分間、アルミナフィルム粒度1μmで15分間、バフ研磨紙発泡ポリウレタンを用いた粒度0.1μmのコロイダルシリカ(バイカロックス0.1CR)で10分間の順番で、各研磨で約7mL/minで水を加えながら研磨し、研磨したサンプルを、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、ImageJ等のソフトにより画像解析することで、下記式:
空隙率(%)=(連続強化繊維の周縁部から該連続強化繊維の半径の10分の1離れた周縁外側領域内の空隙の面積)/(連続強化繊維の周縁部から該連続強化繊維の半径の10分の1離れた周縁外側領域の面積)×100
により求めることができる。
【0012】
まず、任意の略丸断面の連続強化繊維1本の連続強化繊維の周縁部から、半径の10分の1の距離、該連続強化繊維の周縁部から離れた周縁外側領域(単に、「連続強化繊維の直径の10分の1の領域」、「極界面領域」ともいう。)における空隙率を求め、これを任意の100本について観察する。本実施形態の成形体においては、成形体の剛性や強度を高めるという観点から、連続強化繊維の直径の10分の1の領域の空隙率が10%以下であるものが、100本の内10本以上、すなわち、10%以上であり、好ましくは20%以上、より好ましくは50%以上、さらにより好ましくは70%以上、最も好ましくは90%以上である。
また、本実施形態の成形体においては、成形体の剛性や強度を高めるという観点から、連続強化繊維の直径の10分の1の領域の空隙率は5%以下であることが好ましく、より好ましくは2%以下、さらに好ましくは1%以下である。
【0013】
連続強化繊維の直径の10分の1の領域の空隙率が10%以下であるものが、100本の内10%以上とするためには、例えば、連続強化繊維がガラス繊維の場合、ガラス繊維の製造において塗布されるサイジング剤(集束剤)束剤と合成樹脂との間のμドロップ生成係数が10以上であり、相性が良いものを選択し、インロー型等成形中に型内を密閉できる成形方法や圧力を調整したダブルベルトプレスによる成形方法を選択することにより、樹脂の漏れ出しを防ぎ、連続繊維強化樹脂成形体のガラス繊維の占有体積(Vf、体積含有率ともいう)の成形前後の変化を小さくし、集束剤に適した温度条件で成形することが好ましい。
【0014】
ひねりモードの損失正接は、例えば、バンドソー等により連続繊維の0°、90°方向に切削した連続繊維強化樹脂成形体を、窒素雰囲気下、昇温速度一定でひねりモードの粘弾性測定を行い、損失正接のピークトップの値から算出することができる。本実施形態の連続繊維強化樹脂成形体のひねりモードの損失正接は0.11以下であると好ましく、0.10以下であると好ましく、0.095以下であるとより好ましく、0.090以下であると更に好ましく、0.087以下であると最も好ましい。
【0015】
本実施形態の連続繊維強化樹脂成形体のひねりモードの損失正接のピークトップを示す温度は78℃以上であることが好ましく、80℃以上であることがより好ましく、82℃以上であることが更に好ましく、84℃以上であることが最も好ましい。
【0016】
本実施形態の連続繊維強化樹脂成形体においては、前記損失正接を各温度に対してプロットした時、ピークトップが2つ出てくることが好ましく、前記二つのピークトップの差が、80℃以下であることが好ましく、60℃以下であることがより好ましく、50℃以下であることが更に好ましく、35℃以下であることが最も好ましい。
【0017】
前記損失正接が0.11以下の連続繊維強化樹脂成形体を製造するには、例えば、連続強化繊維がガラス繊維の場合、ガラス繊維の製造において塗布されるサイジング剤(集束剤)束剤と合成樹脂との間のμドロップ生成係数が10以上であり、相性が良いものを選択し、インロー型等成形中に型内を密閉できる成形方法や圧力を調整したダブルベルトプレスによる成形方法を選択することにより、樹脂の漏れ出しを防ぎ、連続繊維強化樹脂成形体のガラス繊維の占有体積(Vf、体積含有率ともいう)の成形前後の変化を小さくし、集束剤に適した温度条件で成形することが好ましい。
【0018】
ひねりモードの貯蔵弾性率は、例えば、バンドソー等により連続繊維の0°、90°方向に切削した連続繊維強化樹脂成形体を、窒素雰囲気下、昇温速度一定でひねりモードの粘弾性測定を行い、各温度における貯蔵弾性率をプロットした際の貯蔵弾性率のピークトップの値から算出することができる。本実施形態の連続繊維強化樹脂成形体のひねりモードの貯蔵弾性率は3.4GPa以上であることが好ましく、3.5GPa以上であると好ましく、4.0GPa以上であるとより好ましく、4.5GPa以上であると更に好ましく、6.0GPa以上であると更に好ましく、7.0GPa以上であると最も好ましい。
【0019】
本実施形態の連続繊維強化樹脂成形体においては、前記貯蔵弾性率の測定を連続繊維強化樹脂成形体の連続繊維の45°方向(斜め方向)に切削した試験片を用いて行った際の前記貯蔵弾性率が、上記0°、90°方向に切削した試験片を用いて行った際の前記貯蔵弾性率の1.5倍以上であることが好ましく、1.6倍以上であるとより好ましく、1.7倍以上であると更に好ましく、1.9倍以上であると最も好ましい。
【0020】
本実施形態の連続繊維強化樹脂成形体においては、150℃における前記貯蔵弾性率が最大の前記貯蔵弾性率の25%以上であることが好ましく、26%以上であることがより好ましい。
【0021】
本実施形態の連続繊維強化樹脂成形体においては、上記ひねりモードの粘弾性測定において、せん断粘度が330MPa・s-1以上であることが好ましく、470MPa・s-1以上であることがより好ましく、500MPa・s-1以上であることが更に好ましく、700MPa・s-1以上であることが最も好ましい。
【0022】
ひねりモードの貯蔵弾性率が3.4GPa以上の連続繊維強化樹脂成形体を製造するには、例えば、連続強化繊維がガラス繊維の場合、ガラス繊維の製造において塗布されるサイジング剤(集束剤)と合成樹脂との間のμドロップ生成係数が10以上であり、相性が良いものを選択し、インロー型等成形中に型内を密閉できる成形方法や圧力を調整したダブルベルトプレスによる成形方法を選択することにより、樹脂の漏れ出しを防ぎ、連続繊維強化樹脂成形体のガラス繊維の占有体積(Vf、体積含有率ともいう)の成形前後の変化を小さくし、集束剤に適した温度条件で成形することが好ましい。
【0023】
曲げ貯蔵弾性率は、例えば、バンドソー等により連続繊維の0°、90°方向に切削した連続繊維強化樹脂成形体を、窒素雰囲気下、昇温速度一定で曲げモードの粘弾性測定を行い、各温度における貯蔵弾性率をプロットした際の最大の貯蔵弾性率から算出することができる。本実施形態の連続繊維強化樹脂成形体の曲げ貯蔵弾性率は22GPa以上であることが好ましく、23GPa以上であると好ましく、25GPa以上であるとより好ましく、31GPa以上であると更に好ましく、36GPa以上であると最も好ましい。
【0024】
本実施形態の連続繊維強化樹脂成形体においては、上記曲げ貯蔵弾性率の測定を150℃で行った際の曲げ貯蔵弾性率が30℃における曲げ貯蔵弾性率の76%以上であることが好ましい。
【0025】
本実施形態の連続繊維強化樹脂成形体においては、上記曲げ貯蔵弾性率の測定を連続繊維強化樹脂成形体の連続繊維の45°方向(斜め方向)に切削した試験片を用いて行った際の曲げ貯蔵弾性率が、上記0°、90°方向に切削した試験片を用いて行った際の貯蔵弾性率の58%以上であることが好ましく、60%以上であるとより好ましく、62%以上であると更に好ましい。
【0026】
引張貯蔵弾性率と引張損失正接は、例えば、バンドソー等により連続繊維の0°、90°方向に切削した連続繊維強化樹脂成形体を、窒素雰囲気下、昇温速度一定で引張モードの粘弾性測定を行うことで求めることができる。本実施形態の連続繊維強化樹脂成形体においては、50℃における引張貯蔵弾性率は22GPa以上が好ましく、25GPa以上であると好ましく、30GPa以上であるとより好ましく、32GPa以上であると更に好ましく、35GPa以上であると更に好ましく、40GPa以上であると最も好ましい。
【0027】
最大の引張損失正接は上記測定により得られた各温度における損失正接をプロットした極大点で求めることができる。本実施形態の連続繊維強化樹脂成形体においては、最大の損失正接は、0.037以下であることが好ましく、0.035以下であることがより好ましく、0.032以下であることが更に好ましい。
【0028】
本実施形態の連続繊維強化樹脂成形体においては、引張貯蔵弾性率と曲げ貯蔵弾性率を各温度に対してプロットした際に、引張貯蔵弾性率と曲げ貯蔵弾性率の値が逆転する温度が95℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましく、105℃以上であることが更に好ましい。
【0029】
本実施形態の連続繊維強化樹脂成形体においては、引張貯蔵弾性率と曲げ貯蔵弾性率を各温度に対してプロットした際に、以下の式:
{30℃における(引張貯蔵弾性率―曲げ貯蔵弾性率)}/{200℃における(曲げ貯蔵弾性率―引張貯蔵弾性率)}≧1
を満たすことが好ましい。
【0030】
曲げ貯蔵弾性率が22GPa以上の連続繊維強化樹脂成形体を製造するには、例えば、連続強化繊維がガラス繊維の場合、ガラス繊維の製造において塗布されるサイジング剤(集束剤)と合成樹脂との間のμドロップ生成係数が10以上であり、相性が良いものを選択し、インロー型等成形中に型内を密閉し樹脂の流動を抑制できる成形方法や圧力を調整したダブルベルトプレスによる成形方法を選択することにより、樹脂の漏れ出しを防ぎ、連続繊維強化樹脂成形体のガラス繊維の占有体積(Vf、体積含有率ともいう)の成形前後の変化を小さくし、集束剤に適した温度条件で良好な界面を形成しながら成形することが好ましい。
【0031】
本実施形態の連続繊維強化樹脂成形体における前記周縁外側領域内での、各熱可塑性樹脂の占有割合(面積比率)は、例えば、連続繊維強化樹脂成形体の厚さ方向断面(連続強化繊維の長さ方向に直交する断面)について切り出し、エポキシ樹脂に包埋し、連続強化繊維が破損しないように注意しながら研磨を行った後、レーザーラマン顕微鏡により該断面のマッピング画像を撮影し、得られた画像、スペクトルから、繊維強化樹脂に含まれる樹脂の種類を特定し、それぞれの面積をImageJによる画像処理によって算出することができる。
また、繊維強化樹脂成形体における極界面領域以外の樹脂領域内での熱可塑性樹脂の分布は、例えば、厚さ方向断面(連続強化繊維の長さ方向に直交する断面)に切削した連続繊維強化樹脂成形体の断面(連続強化繊維の長さ方向に直交する断面)を、研磨面に125g/cmの力がかかるように、耐水ペーパー番手#220で10分間、耐水ペーパー番手#1200で10分間耐水ペーパー番手#2000で5分間、炭化ケイ素フィルム粒度9μmで10分間、アルミナフィルム粒度5μmで10分間、アルミナフィルム粒度3μmで5分間、アルミナフィルム粒度1μmで5分間、バフ研磨紙発泡ポリウレタンを用いた粒度0.1μmのコロイダルシリカ(バイカロックス0.1CR)で5分間の順番で、各研磨で約7mL/minで水を加えながら研磨し、研磨したサンプルを、リンタングステン酸等で電子染色した後、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、ImageJ等のソフトにより画像解析することで、求めることができる。熱可塑性樹脂の占有割合は任意の10点を観察して、その平均から求めることができる。
【0032】
連続強化繊維と合成樹脂、例えば、熱可塑性樹脂との体積比率は、Vfが高い程、成形体の強度は高くなるため、本実施形態の連続繊維強化樹脂成形体は、連続繊維強化樹脂成形体中の連続強化繊維の体積含有率Vfが40%以上のものが好ましく、45%以上のものがより好ましく、50%以上のものが更に好ましく、55%以上のものがより更に好ましく、65%以上であるものが最も好ましい。従来技術の繊維強化樹脂成形体では、Vfを高くしても、前記した空隙率が高く、成形品の引張応力(引張強度)や曲げ弾性率(曲げ剛性)を高くすることができなかったが、本実施形態の連続繊維強化樹脂成形体では、空隙率を少なくすることにより、Vf50%で、連続繊維強化樹脂複合体中の合成樹脂含浸率99%以上、引張応力525Mpa以上、曲げ弾性率27Gpa以上、Vf65%で合成樹脂含浸率99%以上、引張応力600MPa以上、曲げ弾性率35GPa以上を同時に達成している。
連続強化繊維がガラス繊維である場合には、連続繊維強化樹脂成形体の引張応力は、ガラス繊維が実質的に配向している各方向で試験した際の平均値として480MPa以上が好ましく、525MPa以上がより好ましく、600MPa以上が更に好ましく、620MPa以上が最も好ましい。また連続繊維強化樹脂成形体の曲げ弾性率は、ガラス繊維が実質的に配向している各方向で試験した際の平均値として22GPa以上が好ましく、27GPa以上がより好ましく、30GPa以上が更に好ましく、35GPa以上が最も好ましい。この時、引張応力と曲げ弾性率は、連続繊維強化樹脂成形体に含まれる連続強化繊維が実質的に二方向に配向している場合の値であり、連続強化繊維に平行な二方向について試験した値の平均値である。三方向材の場合には、2/3倍の応力又は剛性であることが好ましく、n方向材の場合は2/n倍の応力又は剛性であることが好ましい。
【0033】
連続強化繊維がガラス繊維である場合には、連続繊維強化樹脂成形体のガラス繊維が実質的に配向している各方向で試験した際の引張応力の平均値に、ガラス繊維が実質的に配向している方向の数を、乗じた値は960MPa以上が好ましく、1050MPa以上がより好ましく、1200MPa以上が更に好ましく、1240MPa以上が最も好ましい。また連続繊維強化樹脂成形体のガラス繊維が実質的に配向している各方向で試験した際の曲げ応力の平均値に、ガラス繊維が実質的に配向している数を、乗じた値は1260MPa以上が好ましく、1400MPa以上がより好ましく、1600MPa以上が更に好ましく、1700MPa以上が最も好ましい。また連続繊維強化樹脂成形体の曲げ弾性率をガラス繊維が実質的に配向している方向の数で乗じた値は44GPa以上が好ましく、54GPa以上がより好ましく、60GPa以上が更に好ましく、70GPa以上が最も好ましい。また連続繊維強化樹脂成形体の以下の式:
弾性指数=(ガラス繊維が実質的に配向している方向に平行方向の弾性率の平均値×ガラス繊維が実質的に配向している方向数)/(Vf×ガラス繊維の弾性率)
で定義される弾性指数が1.2以上であることが好ましく、1.3以上であることがより好ましく、1.4以上であることが更に好ましく、1.5以上であることがより更に好ましく、1.58以上であることが最も好ましい。
【0034】
[アコースティックエミッション(AE)法測定]
本実施形態の連続繊維強化樹脂成形体は、アコースティックエミッション法測定において、層間剥離起因の破壊発生強度が40MPa以上であることが好ましく、50MPa以上であることがより好ましい。
アコースティックエミッション法測定は、層間せん断試験(JIS K7078)において、AEセンサーを取り付けることにより、実施できる。
【0035】
[連続繊維強化樹脂成形体の形態]
連続繊維強化樹脂成形体の形態は、特に制限されず、以下の種々の形態が挙げられる。例えば、強化繊維の織物や編み物、組紐、パイプ状のものと樹脂を複合化した形態や、一方向に引き揃えた強化繊維と樹脂を複合化した形態、強化繊維と樹脂からなる糸を一方向に引き揃えて成形した形態、強化繊維と樹脂からなる糸を織物や編み物、組紐、パイプ状にして成形した形態が挙げられる。
連続繊維強化樹脂成形体の成形前の中間材料の形態としては、連続強化繊維と樹脂繊維との混繊糸、連続強化繊維の束の周囲を樹脂で被覆したコーティング糸、連続強化繊維に予め樹脂を含浸させテープ状にしたもの、連続強化繊維を樹脂のフィルムで挟んだもの、連続強化繊維に樹脂パウダーを付着させたもの、連続強化繊維の束を芯材としてその周囲を樹脂繊維で組紐としたもの、強化繊維束の間に予め樹脂を含浸させたもの等が挙げられる。
【0036】
[連続繊維強化樹脂成形体(複合材料)の製造方法]
本実施形態の連続繊維強化樹脂複合材料の製造方法は、以下の工程:
カップリング剤、結束剤、及び潤滑剤からなる集束剤が添加されている連続強化繊維と、該カップリング剤と反応性がある末端官能基を有する熱可塑性樹脂とを、該熱可塑性樹脂の融点以上となるように加熱プレスする工程;及び
これを該熱可塑性樹脂の融点以下まで冷却し、成形品として連続繊維強化樹脂複合材料を得る工程;
を含むことが好ましい。
加熱プレス後の連続繊維強化樹脂複合材料の末端官能基の量が加熱プレス前の熱可塑性樹脂に含まれる末端官能基の量よりも少ないことが、熱可塑性樹脂と連続強化繊維との間の接着性の観点から好ましく、加熱プレス後の連続繊維強化樹脂複合材料の末端官能基の量が加熱プレス前の熱可塑性樹脂に含まれる末端官能基の量の90%以下であることがより好ましく、85%以下であることがより好ましい。
集束剤のカップリング剤と、熱可塑性樹脂の末端官能基との反応性の観点から、加熱プレス中の熱可塑性樹脂の流動率が10%以下であることが好ましく、8%以下であることがより好ましく、5%以下であることが更に好ましく、3%以下であることが最も好ましい。
反応性末端官能基は、例えば、熱可塑性樹脂としてポリプロピレンを用いた際には、主成分であるポリプロピレン樹脂にマレイン酸等がグラフトしたものでもよい。
【0037】
加熱プレス中の熱可塑性樹脂の流動率は、(加熱プレス中に生じた熱可塑性樹脂のバリの重量)/(加熱プレス前の熱可塑性樹脂の重量)で求められる。
加熱プレスの方法は特に限定されないが、ダブルベルトプレスによる加熱プレス方法が生産性の観点から好ましい。基材は複数のロールから強化繊維と熱可塑性樹脂を繰り出してダブルベルトプレス装置に投入してもよいし、所望の大きさにカットした強化繊維と熱可塑性樹脂を所望の枚数重ねて投入してもよい。この時基材の前後に誘導用のシート等、例えばテフロン(登録商標)シートを一緒に投入してもよい。
その他の加熱プレス方法としては金型で行うことが好ましく挙げられる。金型で行うプレス方法は特に制限されず、以下の種々の方法が挙げられる。例えば、連続繊維強化樹脂成形体を構成する基材を、所望の成形体に合わせて裁断し、目的とする製品の厚みを考慮して必要枚数積層させ、金型形状に合わせてセットする。
基材の裁断は、1枚ずつ行ってもよいし、所望の枚数を重ねてから行ってもよい。生産性の観点からは、重ねた状態で裁断することが好ましい。裁断する方法は任意の方法でよく、例えば、ウォータージェット、刃プレス機、熱刃プレス機、レーザー、プロッター等があげられる。断面形状にすぐれ、更に、複数を重ねて裁断する際に端面を溶着することで取扱い性がよくなる熱刃プレス機が好ましい。適切な裁断形状は、トライアンドエラーを繰り返すことでも調整できるが、金型の形状にあわせてCAE(computer aided engineering)によるシミュレーションを行うことで設定することが好ましい。
【0038】
基材を金型にセットした後に金型を閉じてプレス(圧縮)する。そして、連続繊維強化樹脂成形体を構成する熱可塑性樹脂の融点以上の温度に金型を温調して熱可塑性樹脂を溶融させ賦型する。型締め圧力に特に規定はないが、好ましくは1MPa以上、より好ましくは3MPa以上である。また、ガス抜き等をするために一旦型締めをし、圧縮成形した後に一旦金型の型締め圧力を解除してもよい。圧縮成形の時間は、強度発現の観点からは、使用される熱可塑性樹脂が熱劣化しない範囲で長いほうが好ましいが、生産性の観点からは、好ましくは2分以内、より好ましくは1分以内が適している。
連続繊維強化樹脂成形体の製造工程においては、金型内に基材をセットして金型を閉じ、加圧し、所定の時間後に、更に所定の熱可塑性樹脂組成物を射出充填して成形し、熱可塑性樹脂と、所定の熱可塑性樹脂組成物とを接合させることにより、ハイブリッド成形体を製造してもよい。
【0039】
所定の熱可塑性樹脂組成物を射出充填するタイミングは、両熱可塑性樹脂間の界面強度に大きく影響する。所定の熱可塑性樹脂組成物を射出充填するタイミングは、基材を金型内にセットして金型を閉じた後に金型温度が熱可塑性樹脂の融点、ガラス転移温度以上に昇温してから、30秒以内が好ましい。
所定の熱可塑性樹脂組成物を射出充填する時の金型温度は、連続繊維強化樹脂成形体を構成する熱可塑性樹脂の融点以上又はガラス転移温度以上であることが好ましい。より好ましくは、連続繊維強化樹脂成形体を構成する熱可塑性樹脂の融点+10℃以上又はガラス転移温度+10℃以上であり、更に好ましくは、融点+20℃以上又はガラス転移温度+20℃以上、更により好ましくは融点+30℃以上又はガラス転移温度+30℃以上である。
【0040】
ハイブリッド成形体において、連続繊維強化樹脂成形体を構成する熱可塑性樹脂と、射出成形により形成された熱可塑性樹脂組成物の接合部分は、互いに混じり合った凹凸構造となっていることが好ましい。
金型温度を射出する熱可塑性樹脂組成物の融点以上とし、射出成形時の樹脂保圧を高く、例えば、1MPa以上とすることは界面強度を高める上で有効である。界面強度を高めるためには、保圧を5MPa以上とすることが好ましく、10MPa以上とすることがより好ましい。
保圧時間を長く、例えば5秒以上、好ましくは10秒以上、より好ましくは金型温度が熱可塑性樹脂組成物の融点以下になるまでの間の時間保持することは、界面強度を高める観点から好ましい。
【0041】
[射出成形用の樹脂]
ハイブリッド成形体を製造するために用いる射出成形用の熱可塑性樹脂組成物としては、一般の射出成形に使用される熱可塑性樹脂組成物であれば特に限定されない。
熱可塑性樹脂組成物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、スチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアリレート、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、全芳香族ポリエステル、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルサルフォン、ポリアミド系樹脂、ポリサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン等の一種又は二種以上を混合した樹脂組成物が挙げられる。
また、これらの熱可塑性樹脂組成物には、各種充填材が配合されていてもよい。
各種充填材としては、強化繊維と同種の材料の不連続強化材料である短繊維、長繊維材料等が挙げられる。
不連続強化材料にガラス短繊維、長繊維を用いる場合、本実施形態の連続繊維強化樹脂成形体を構成する連続強化繊維に塗布される集束剤と同様のもの用いてもよい。
サイジング剤(集束剤)は、(シラン)カップリング剤、潤滑剤、及び結束剤からなることが好ましい。(シラン)カップリング剤、潤滑剤、結束剤の種類に関しては、前述の連続強化繊維の集束剤と同様のものが使用できる。
【0042】
射出成形に用いる熱可塑性樹脂組成物は、連続繊維強化樹脂成形体と射出成形した熱可塑性樹脂組成物部分との界面強度の観点から、連続繊維強化樹脂成形体を構成する熱可塑性樹脂と類似のものが好ましく、同種類のものがより好ましい。具体的には、連続繊維強化樹脂成形体を構成する熱可塑性樹脂にポリアミド66を用いた場合には、射出成形用の熱可塑性樹脂組成物の樹脂材料は、ポリアミド66が好ましい。
その他として、基材を金型に設置してダブルベルトプレス機により圧縮する成形方法や、設置した基材の四方を囲むように型枠を設置し、ダブルベルトプレス機により加圧し成形する方法や、一つ又は複数の温度に設定した加熱用の圧縮成型機と、一つ又は複数の温度に設定した冷却用の圧縮成型機を用意し、基材を設置した金型を順番に、圧縮成型機に投入して成形する成形方法などが挙げられる。
【0043】
[連続繊維強化樹脂成形体の樹脂含浸率]
図2に示すように、連続繊維強化樹脂成形体における熱可塑性樹脂の含浸率は、連続繊維強化樹脂成形体の断面における、空隙の割合により求める。具体的には連続繊維強化樹脂成形体を任意の位置で切断し、エポキシ樹脂等に包埋、研磨した後に光学顕微鏡観察を行うことで得られた画像を、解析ソフトにより画像解析することによって計算する。
図6に示すように、含浸率(%)とは、所定面積を100%としたとき、以下の式:
含浸率(%)={1-(空隙面積/連続強化繊維束面積)}×100
で計算される。本実施形態の連続繊維強化樹脂成形体の含浸率は、強度、外観の観点から、98%以上が好ましく、99%以上がより好ましく、99.5%以上が更に好ましく、99.9%以上が最も好ましい。
【0044】
[連続強化繊維]
連続強化繊維は通常の連続繊維強化樹脂成形体に使用されるものであることができる。
連続強化繊維としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、植物繊維、アラミド繊維、超高強力ポリエチレン繊維、ポリベンザゾール系繊維、液晶ポリエステル繊維、ポリケトン繊維、金属繊維、セラミックス繊維等が挙げられる。
機械的特性、熱的特性、汎用性の観点から、ガラス繊維、炭素繊維、植物繊維、アラミド繊維が好ましく、生産性の面からは、ガラス繊維が好ましい。
連続強化繊維として、ガラス繊維を選択する場合、集束剤を用いてもよく、サイジング剤(集束剤)は、シランカップリング剤、潤滑剤、及び結束剤からなることが好ましく、連続強化繊維の周りを被膜する樹脂と強い結合を作る集束剤であることにより、空隙率の少ない連続繊維強化樹脂成形体を得ることができ、合成樹脂として熱可塑性樹脂を用いる場合には、集束剤は熱可塑性樹脂用の集束剤であることが好ましい。熱可塑性樹脂用の集束剤とは、連続強化繊維を電気炉で30℃/minで300℃まで昇温し、室温に戻した際に連続強化繊維の剛性が、加熱前の連続強化繊維の剛性よりも大きくならない物を指す。熱可塑性樹脂用の集束剤とは、例えば、ポリアミド樹脂を合成樹脂として選択する場合、シランカップリング剤として、ポリアミド樹脂の末端基であるカルボキシル基とアミノ基と結合しやすいものを選択する必要がある。具体的には例えば、γ-アミノプロピルトリメトキシシランやエポキシシランが挙げられる。
結束剤としてはポリアミド樹脂と濡れ性のよい、又は表面張力の近い樹脂を用いる必要がある。具体的には、例えば、ポリウレタン樹脂のエマルジョンやポリアミド樹脂のエマルジョンやその変性体を選択することができる。潤滑剤としてはシランカップリング剤と結束剤を阻害しないものを用いる必要があり、例えば、カルナウバワックスが挙げられる。
【0045】
集束剤は加熱プレス中に熱可塑性樹脂中に50%以上が拡散することが熱可塑性樹脂の連続強化繊維への含浸性の観点から好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることが更に好ましく、90%以上であることが最も好ましい。集束剤の拡散は成形品を、良溶媒によりマトリックス樹脂を溶解させ、残った強化繊維を、XPS測定を行う等で求めることができ、マトリックス樹脂がポリアミドの場合、HFIPやフェノールを用いることが好ましい。
集束剤が加熱プレス中に熱可塑性樹脂中に90%以上拡散し、かつ、熱可塑性樹脂の末端官能基の内、カップリング剤と反応性がある末端基が、加熱プレス前後で減少しているとき、カップリング剤と熱可塑性樹脂の末端官能基が結合している。
連続強化繊維には、カップリング剤と熱可塑性樹脂の末端官能基との反応を促進させる触媒が塗布されていてもよく、かかる触媒としては、例えば、連続強化繊維としてガラス繊維を、熱可塑性樹脂としてポリアミド樹脂を選択する場合、シランカップリング剤が有するアミノ基とポリアミド樹脂の末端基であるカルボキシル基との結合反応を促進させる、次亜リン酸ナトリウム等のリン酸類が挙げられる。
【0046】
[シランカップリング剤]
シランカップリング剤は、通常、ガラス繊維の表面処理剤として用いられ、界面接着強度向上に寄与する。
シランカップリング剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のアミノシラン類;γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン及びγ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のメルカプトシラン類;エポキシシラン類;ビニルシラン類、マレイン酸類等が挙げられる。合成樹脂としてポリアミドを用いる際には、アミノシラン類やマレイン酸類が好ましく、合成樹脂としてエポキシ樹脂を用いる際にはエポキシシラン類が好ましい。
【0047】
[潤滑剤]
潤滑剤は、ガラス繊維の開繊性向上に寄与する。
潤滑剤としては、目的に応じた通常の液体又は固体の任意の潤滑材料が使用可能であり、以下に限定されるものではないが、例えば、カルナウバワックスやラノリンワックス等の動植物系又は鉱物系のワックス;脂肪酸アミド、脂肪酸エステル、脂肪酸エーテル、芳香族系エステル、芳香族系エーテル等の界面活性剤等が挙げられる。
【0048】
[結束剤]
結束剤は、ガラス繊維の集束性向上及び界面接着強度向上に寄与する。
結束剤としては、目的に応じたポリマー、熱可塑性樹脂が使用可能である。
結束剤としてのポリマーは、以下に限定されるものではないが、例えば、アクリル酸のホモポリマー、アクリル酸とその他共重合性モノマーとのコポリマー、並びにこれらの第1級、第2級及び第3級アミンとの塩等が挙げられる。また、例えば、m-キシリレンジイソシアナート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアナート)及びイソホロンジイソシアナート等のイソシアネートと、ポリエステル系やポリエーテル系のジオールとから合成されるポリウレタン系樹脂も好適に使用される。
アクリル酸のホモポリマーとしては、重量平均分子量1,000~90,000であることが好ましく、より好ましくは1,000~25,000である。
アクリル酸とその他共重合性モノマーとのコポリマーを構成する共重合性モノマーとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、水酸基及び/又はカルボキシル基を有するモノマーのうち、アクリル酸、マレイン酸、メタクリル酸、ビニル酢酸、クロトン酸、イソクロトン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、及びメサコン酸よりなる群から選択される1種以上が挙げられる(但し、アクリル酸のみの場合を除く)。共重合性モノマーとして、エステル系モノマーを1種以上有することが好ましい。
アクリル酸のホモポリマー及びコポリマーの第1級、第2級及び第3級アミンとの塩としては、以下に限定されるものではないが、例えば、トリエチルアミン塩、トリエタノールアミン塩やグリシン塩等が挙げられる。中和度は、他の併用薬剤(シランカップリング剤等)との混合溶液の安定性向上や、アミン臭低減の観点から、20~90%とすることが好ましく、40~60%とすることがより好ましい。
塩を形成するアクリル酸のポリマーの重量平均分子量は、特に制限されないが、3,000~50,000の範囲が好ましい。ガラス繊維の集束性向上の観点から、3,000以上が好ましく、複合成形体とした際の特性向上の観点から50,000以下が好ましい。
【0049】
結束剤として用いられる熱可塑性樹脂としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルフォン、ポリフェニレンサルファイド、熱可塑性ポリエーテルイミド、熱可塑性フッ素系樹脂、及びこれらを変性させた変性熱可塑性樹脂等が挙げられる。結束剤として用いられる熱可塑性樹脂は、連続強化繊維の周囲を被覆する樹脂と同種の熱可塑性樹脂及び/又は変性熱可塑性樹脂であると、複合成形体となった後、ガラス繊維と熱可塑性樹脂の接着性が向上し、好ましい。
【0050】
更に、一層、連続強化繊維とそれを被覆する熱可塑性樹脂の接着性を向上させ、集束剤を水分散体としてガラス繊維に付着させる場合において、乳化剤成分の比率を低減、あるいは乳化剤不要とできる等の観点から、結束剤として用いられる熱可塑性樹脂としては、変性熱可塑性樹脂が好ましい。
ここで、変性熱可塑性樹脂とは、熱可塑性樹脂の主鎖を形成し得るモノマー成分以外に、その熱可塑性樹脂の性状を変化させる目的で、異なるモノマー成分を共重合させ、親水性、結晶性、熱力学特性等を改質したものを意味する。
結束剤として用いられる変性熱可塑性樹脂は、以下に限定されるものではないが、例えば、変性ポリオレフィン系樹脂、変性ポリアミド系樹脂、変性ポリエステル系樹脂等が挙げられる。
結束剤としての変性ポリオレフィン系樹脂とは、エチレン、プロピレン等のオレフィン系モノマーと不飽和カルボン酸等のオレフィン系モノマーと共重合可能なモノマーとの共重合体であり、公知の方法で製造できる。オレフィン系モノマーと不飽和カルボン酸とを共重合させたランダム共重合体でもよいし、オレフィンに不飽和カルボン酸をグラフトしたグラフト共重合体でもよい。
【0051】
オレフィン系モノマーとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン等が挙げられる。これらは1種のみを単独で使用してもよく、あるいは2種以上を組み合わせて使用してもよい。オレフィン系モノマーと共重合可能なモノマーとしては、例えば、アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、メタクリル酸、ビニル酢酸、クロトン酸、イソクロトン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸等の不飽和カルボン酸等が挙げられ、これらは、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
オレフィン系モノマーと、当該オレフィン系モノマーと共重合可能なモノマーとの共重合比率としては、共重合の合計質量を100質量%として、オレフィン系モノマー60~95質量%、オレフィン系モノマーと共重合可能なモノマー5~40質量%であることが好ましく、オレフィン系モノマー70~85質量%、オレフィン系モノマーと共重合可能なモノマー15~30質量%であることがより好ましい。オレフィン系モノマーが60質量%以上であれば、マトリックスとの親和性が良好であり、また、オレフィン系モノマーの質量%が95質量%以下であれば、変性ポリオレフィン系樹脂の水分散性が良好で、連続強化繊維への均一付与が行いやすい。
【0052】
結束剤として用いられる変性ポリオレフィン系樹脂は、共重合により導入したカルボキシル基等の変性基が、塩基性化合物で中和されていてもよい。塩基性化合物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ類;アンモニア;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン等のアミン類が挙げられる。結束剤として用いられる変性ポリオレフィン系樹脂の重量平均分子量は、特に制限されないが、5,000~200,000が好ましく、50,000~150,000がより好ましい。ガラス繊維の集束性向上の観点から5,000以上が好ましく、水分散性とする場合の乳化安定性の観点から200,000以下が好ましい。
【0053】
結束剤として用いられる変性ポリアミド系樹脂とは、分子鎖中にポリアルキレンオキサイド鎖や3級アミン成分等の親水基を導入した変性ポリアミド化合物であり、公知の方法で製造できる。
分子鎖中にポリアルキレンオキサイド鎖を導入する場合は、例えば、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコール等の一部又は全部をジアミン又はジカルボン酸に変性したものを共重合して製造される。3級アミン成分を導入する場合は、例えばアミノエチルピペラジン、ビスアミノプロピルピペラジン、α-ジメチルアミノε-カプロラクタム等を共重合して製造される。
【0054】
結束剤として用いられる変性ポリエステル系樹脂とは、ポリカルボン酸又はその無水物とポリオールとの共重合体で、かつ末端を含む分子骨格中に親水基を有する樹脂であり、公知の方法で製造できる。
親水基としては、例えば、ポリアルキレンオキサイド基、スルホン酸塩、カルボキシル基、これらの中和塩等が挙げられる。ポリカルボン酸又はその無水物としては、芳香族ジカルボン酸、スルホン酸塩含有芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸、3官能以上のポリカルボン酸等が挙げられる。
芳香族ジカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、無水フタル酸等が挙げられる。
スルホン酸塩含有芳香族ジカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、スルホテレフタル酸塩、5-スルホイソフタル酸塩、5-スルホオルトフタル酸塩等が挙げられる。
脂肪族ジカルボン酸又は脂環式ジカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ダイマー酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、無水コハク酸、無水マレイン酸等が挙げられる。
3官能以上のポリカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等が挙げられる。
これらの中で、変性ポリエステル系樹脂の耐熱性を向上させる観点から、全ポリカルボン酸成分の40~99モル%が芳香族ジカルボン酸であることが好ましい。また、変性ポリエステル系樹脂を水分散液とする場合の乳化安定性の観点から、全ポリカルボン酸成分の1~10モル%がスルホン酸塩含有芳香族ジカルボン酸であることが好ましい。
【0055】
変性ポリエステル系樹脂を構成するポリオールとしては、ジオール、3官能以上のポリオール等が挙げられる。
ジオールとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA又はそのアルキレンオキサイド付加物等が挙げられる。3官能以上のポリオールとしては、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0056】
変性ポリエステル系樹脂を構成するポリカルボン酸又はその無水物とポリオールとの共重合比率としては、共重合成分の合計質量を100質量%として、ポリカルボン酸又はその無水物40~60質量%、ポリオール40~60質量%であることが好ましく、ポリカルボン酸又はその無水物45~55質量%、ポリオール45~55質量%がより好ましい。
変性ポリエステル系樹脂の重量平均分子量としては、3,000~100,000が好ましく、10,000~30,000がより好ましい。ガラス繊維の集束性向上の観点から3,000以上が好ましく、水分散性とする場合の乳化安定性の観点から100,000以下が好ましい。
【0057】
結束剤として用いる、ポリマー、熱可塑性樹脂は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
結束剤の全量を100質量%として、アクリル酸のホモポリマー、アクリル酸とその他共重合性モノマーとのコポリマー、並びにこれらの第1級、第2級及び第3級アミンとの塩より選択された1種以上のポリマーを50質量%以上、60質量%以上用いることがより好ましい。
【0058】
[ガラス繊維用の集束剤の組成]
連続強化繊維としてガラス繊維を用いる場合、当該ガラス繊維の集束剤においては、それぞれ、シランカップリング剤を0.1~2質量%、潤滑剤を0.01~1質量%、結束剤を1~25質量%を含有することが好ましく、これらの成分を水で希釈し、全質量を100質量%に調整することが好ましい。
ガラス繊維用の集束剤におけるシランカップリング剤の配合量は、ガラス繊維の集束性向上及び界面接着強度向上と複合成形体の機械的強度向上との観点から、0.1~2質量%が好ましく、より好ましくは0.1~1質量%、更に好ましくは0.2~0.5質量%である。
【0059】
ガラス繊維用の集束剤における潤滑剤の配合量は、充分な潤滑性を与えるという観点から、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.02質量%以上であり、界面接着強度向上と複合成形体の機械的強度向上の観点から、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下である。
ガラス繊維用の集束剤における結束剤の配合量は、ガラス繊維の集束性制御及び界面接着強度向上と複合成形体の機械的強度向上との観点から、好ましくは1~25質量%、より好ましくは3~15質量%、更に好ましくは3~10質量%である。
【0060】
[ガラス繊維用の集束剤の使用態様]
ガラス繊維用の集束剤は、使用態様に応じて、水溶液、コロイダルディスパージョンの形態、乳化剤を用いたエマルジョンの形態等、いずれの形態に調整してもよいが、集束剤の分散安定性向上、耐熱性向上の観点から、水溶液の形態とすることが好ましい。
本実施形態連続繊維強化樹脂成形体構成する連続強化繊維としてのガラス繊維は、上述した集束剤を、公知のガラス繊維の製造工程において、ローラー型アプリケーター等の公知の方法を用いて、ガラス繊維に付与して製造したガラス繊維を乾燥することによって連続的に得られる。
集束剤は、ガラス繊維100質量%に対し、シランカップリング剤、潤滑剤及び結束剤の合計質量として、好ましくは0.1~3質量%、より好ましくは0.2~2質量%、更に好ましくは0.2~1質量%付与する。
ガラス繊維の集束性制御と界面接着強度向上の観点から、集束剤の付与量が、ガラス繊維100質量%に対し、シランカップリング剤、潤滑剤及び結束剤の合計質量として0.1質量%以上であることが好ましく、糸の取扱い性の観点から3質量%以下であることが好ましい。
【0061】
尚、連続強化繊維として、炭素繊維を選択した場合には、集束剤は、カップリング剤、潤滑剤、結束剤からなることが好ましい。集束剤、潤滑剤、結束剤の種類については、特に制限はなく公知の物が使用できる。具体的材料としては、特開2015-101794号公報に記載されている材料を使用できる。カップリング剤としては炭素繊維の表面に存在する水酸基と相性の良いもの、結束剤としては選択した合成樹脂と、濡れ性が良いものや表面張力の近いもの、潤滑剤としてはカップリング剤と結束剤を阻害しないものを選択することができる。
【0062】
その他の連続強化繊維を用いる場合、連続強化繊維の特性に応じ、ガラス繊維、炭素繊維に用いる集束剤の種類、付与量を適宜選択すればよく、炭素繊維に用いる集束剤に準じた集束剤の種類、付与量とすることが好ましい。
【0063】
[連続強化繊維の形状]
連続強化繊維は複数本の強化繊維からなるマルチフィラメントであり、単糸数は、取扱い性の観点から30~15,000本であることが好ましい。連続強化繊維の単糸径は、強度の観点、及び、取り扱い性の観点から2~30μmであることが好ましく、4~25μmであることがより好ましく、6~20μmであることが更に好ましく、8~18μmであることが最も好ましい。
連続強化繊維の単糸径R(μm)と密度D(g/cm3)の積RDは、複合糸の取り扱い性と成形体の強度の観点から、好ましくは5~100μm・g/cm3、より好ましくは10~50μm・g/cm3、更に好ましくは15~45μm・g/cm3、より更に好ましくは20~45μm・g/cm3である。
【0064】
密度Dは比重計により測定することができる。他方、単糸径(μm)は、密度(g/cm3)と繊度(dtex)、単糸数(本)から、以下の式:
【数1】
により算出することができる。
【0065】
連続強化繊維の積RDを所定の範囲とするには、市販で入手可能な連続強化繊維について、連続強化繊維の有する密度に応じて、繊度(dtex)及び単糸数(本)を適宜選択すればよい。例えば、連続強化繊維としてガラス繊維を用いる場合、密度が約2.5g/cm3であるから、単糸径が2~40μmのものを選べばよい。具体的には、ガラス繊維の単糸径が9μmである場合、繊度660dtexで単糸数400本のガラス繊維を選択することにより、積RDは、23となる。また、ガラス繊維の単糸径が17μmである場合、繊度11,500dtexで単糸数2,000本のガラス繊維を選択することにより、積RDは、43となる。連続強化繊維として炭素繊維を用いる場合、密度が約1.8g/cm3であるから、単糸径が2.8~55μmのものを選べばよい。具体的には、炭素繊維の単糸径が7μmである場合、繊度2,000dtexで単糸数3,000本の炭素繊維を選択することにより、積RDは、13となる。連続強化繊維としてアラミド繊維を用いる場合、密度が約1.45g/cm3であるから、単糸径が3.4~68μmのものを選べばよい。具体的には、アラミド繊維の単糸径が12μmである場合、繊度1,670dtexで単糸数1,000本のアラミド繊維を選択することにより、積RDは、17となる。
連続強化繊維、例えば、ガラス繊維は、原料ガラスを計量、混合し、溶融炉で溶融ガラスとし、これを紡糸してガラスフィラメントとし、集束剤を塗布し、紡糸機を経て、ダイレクトワインドロービング(DWR)、ケーキ、撚りを入れたヤーン等の巻き取り形態として製造される。連続強化繊維はどのような形態でも構わないが、ヤーン、ケーキ、DWRに巻き取ってあると、樹脂を被覆させる工程での生産性、生産安定性が高まるため好ましい。生産性の観点からはDWRが最も好ましい。
【0066】
[合成樹脂]
本実施形態の連続繊維強化樹脂成形体のマトリックス樹脂を構成する合成樹脂は熱可塑性樹脂でも熱硬化性樹脂でも構わないが、成形サイクルの観点、リサイクル性の観点から、熱可塑性樹脂が好ましい。
【0067】
[熱可塑性樹脂]
本実施形態の連続繊維強化樹脂成形体を構成する熱可塑性樹脂は1種類のみを用いてもよいし、複数種を併用しても構わない。連続繊維強化樹脂との接着性の観点から2種類以上の熱可塑性樹脂を含んでいることが好ましい。2種類以上の熱可塑性樹脂を含んでいる場合は、連続強化繊維の長さ方向に直交する断面における連続強化繊維1本と合成樹脂との間の極界面において、該連続強化繊維の周縁部から、該連続強化繊維1本の半径の10分の1離れた周縁外側領域において、2種類以上の熱可塑性樹脂の内、樹脂領域の全体として占有割合が最も高い樹脂以外の樹脂の占有割合が、該樹脂領域の全体として占有割合が最も高い樹脂の占有割合よりも高いことが、生産性と強化繊維と樹脂の界面強度の観点から好ましい。
熱可塑性樹脂は、吸水率が0.1重量%以上であることがカップリング剤と熱可塑性樹脂の末端官能基との反応性の観点から好ましく、0.3重量%以上であることがより好ましく、0.5重量%以上であることがより好ましく、0.8重量%以上であることが更に好ましく、1.0重量%以上であることが更に好ましく、1.5重量%以上であることが最も好ましい。熱可塑性樹脂の吸水率はカールフィッシャー水分計等を用いて、測定することができる。
熱可塑性樹脂には、カップリング剤と、熱可塑性樹脂の末端官能基との反応を促進させる触媒が添加されていると好ましく、かかる触媒としては、例えば、連続強化繊維としてガラス繊維、熱可塑性樹脂としてポリアミド樹脂を選択する場合、シランカップリング剤が有するアミノ基とポリアミド樹脂の末端基であるカルボキシル基との間の結合反応を促進させる、次亜リン酸ナトリウム等のリン酸類が挙げられる。
【0068】
熱可塑性樹脂に含まれる粒子状添加材の含有量は30ppm以下であることが、連続繊維強化樹脂複合材料の機械強度の観点から好ましく、20ppm以下であるとより好ましく、10ppm以下であると更に好ましく、5ppm以下であると最も好ましい。
熱可塑性樹脂に含まれる粒子状添加材としては、例えば、カーボンブラック等が挙げられる。
【0069】
[μドロップ生成係数]
μドロップ生成係数は樹脂と強化繊維の相性を示す指標であり、μドロップ生成係数は樹脂の主成分のみでなく、樹脂に含まれる微量成分も影響する。熱可塑性樹脂は、強化繊維とのμドロップ生成係数が10以上(タッチ回数が4の場合)であることが好ましい。μドロップ生成係数は、例えば、複合材界面特性評価装置(HM410、東栄産業株式会社)を用いて、強化繊維の単糸1本に樹脂付けをする際に、強化繊維に樹脂を複数回タッチさせ、生成したμドロップの数を数え、下記式:
(μドロップ生成係数)={(生成したμドロップ数)/(強化繊維に樹脂をタッチさせた回数)}×10
により算出できる。
【0070】
[2種以上の熱可塑性樹脂]
本実施形態の連続繊維強化樹脂成形体のマトリックス樹脂を構成する熱可塑性樹脂は2種類以上であってもよい。2種類以上の熱可塑性樹脂の内、樹脂領域の全体として占有割合が最も高い樹脂(主樹脂)が、2種類以上の熱可塑性樹脂の合計の占有面積の内、85%~99%であることが好ましく、2種類以上の熱可塑性樹脂の内、樹脂領域の全体として占有割合が最も高い樹脂(主樹脂)融点が最も高い樹脂であると耐熱性の観点から好ましい。
2種類以上の熱可塑性樹脂の内、融点が最も高い樹脂の融点と融点が最も低い樹脂の融点との差は、35℃以上であることが好ましく、より好ましくは100℃以上である。連続繊維強化樹脂成形体に含まれる熱可塑性樹脂の種類は、連続繊維強化樹脂成形体の断面をレーザーラマン顕微鏡で解析することにより特定でき、各熱可塑性樹脂の融点及びガラス転移温度は、樹脂の組成から示差走査熱量計(DSC)により算出することができる。また、熱可塑性樹脂の混合物の融点は、熱可塑性樹脂の内、樹脂領域の全体として占有割合が最も高い樹脂(主樹脂)の融点と同じであると、耐熱性の観点から好ましい。
【0071】
本実施形態の連続繊維強化樹脂成形体を構成する2種以上の熱可塑性樹脂混合物の昇温融解ピーク温度と降温結晶化ピーク温度との差は、該2種以上の熱可塑性樹脂を構成する樹脂の内、樹脂領域の全体として占有割合が最も高い樹脂(主樹脂)の昇温融解ピーク温度と降温結晶化ピーク温度との差よりも小さいと、成形性と含浸速度のバランスに優れるため好ましい。昇温融解ピーク温度と降温結晶化ピーク温度はDSCにより算出することができる。
【0072】
本実施形態の連続繊維強化樹脂成形体を構成する2種以上の熱可塑性樹脂の内、樹脂領域の全体として占有割合が最も高い樹脂(主樹脂)と連続強化繊維との間の結合力よりも、該樹脂領域の全体として占有割合が最も高い樹脂(主樹脂)以外の少なくとも一つの樹脂(副樹脂)と前記連続強化繊維との間の結合力が大きいことが、含浸性と強度の観点から好ましい。各熱可塑性樹脂と連続強化繊維との間の結合力は、ナノインデンターを用いたプッシュアウト試験によって求めることができる。
【0073】
本実施形態の連続繊維強化樹脂成形体を構成する2種以上熱可塑性樹脂の内、樹脂領域の全体として占有割合が最も高い樹脂(主樹脂)と連続強化繊維との間の表面張力の差よりも、該樹脂領域の全体として占有割合が最も高い樹脂(主樹脂)以外の少なくとも一つの樹脂(副樹脂)と前記連続強化繊維との間の表面張力の差が小さいことが、含浸性と強度の観点から好ましい。また、本実施形態の連続繊維強化樹脂成形体を構成する2種以上の熱可塑性樹脂の内、樹脂領域の全体として占有割合が最も高い樹脂(主樹脂)の連続強化繊維に対する濡れ性よりも、該樹脂領域の全体として占有割合が最も高い樹脂(主樹脂)以外の少なくとも一つの樹脂(副樹脂)の、連続強化繊維に対する濡れ性が大きいことが、含浸性と強度の観点から好ましい。各熱可塑性樹脂と連続強化繊維との間の表面張力の差、濡れ性は、ホットプレート上で溶融した熱可塑性樹脂に連続強化繊維1本を埋め込み、連続強化繊維を引き抜いた際に、熱可塑性樹脂が連続繊維に引っ張られる長さによって評価することができる。
【0074】
本実施形態の連続繊維強化樹脂成形体を構成する2種以上の熱可塑性樹脂の混合物の溶融粘度は、該2種以上の熱可塑性樹脂の内、樹脂領域の全体として占有割合が最も高い樹脂(主樹脂)の溶融粘度と同じであるであると、強度と含浸性のバランスに優れることから好ましい。樹脂の溶融粘度はツインキャピラリーレオメーター等を用いて測定することができる。
本実施形態の連続繊維強化樹脂成形体を構成する2種以上の熱可塑性樹脂は、中間材の形態に応じてプレコンパウンドして用いてもよいし、ドライブレンドで中間材の樹脂形態を形成してもよい。
【0075】
[熱可塑性樹脂の形態]
熱可塑性樹脂の形態としては特に制限はないが、例えば、フィルム、ペレット、繊維、板、粉状、強化繊維にコーティングされたもの等が挙げられる。
【0076】
[1種又は2種以上の熱可塑性樹脂の種類]
熱可塑性樹脂は、以下に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46等のポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリオキシメチレン等のポリアセタール系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルグリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等のポリエーテル系樹脂;ポリエーテルスルフォン;ポリフェニレンサルファイド;熱可塑性ポリエーテルイミド;テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体等の熱可塑性フッ素系樹脂;ポリウレタン系樹脂;アクリル系樹脂及びこれらを変性させた変性熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0077】
これらの熱可塑性樹脂の中でも、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリエーテルスルフォン、ポリフェニレンサルファイド、熱可塑性ポリエーテルイミド、熱可塑性フッ素系樹脂が好ましく、ポリオレフィン系樹脂、変性ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂及びアクリル系樹脂が、機械的物性、汎用性の観点からより好ましく、熱的物性の観点を加えるとポリアミド系樹脂及びポリエステル系樹脂が更に好ましい。また、繰り返し荷重負荷に対する耐久性の観点からポリアミド系樹脂がより更に好ましい。
【0078】
[ポリエステル系樹脂]
ポリエステル系樹脂とは、主鎖に-CO-O-(エステル)結合を有する高分子化合物を意味する。
ポリエステル系樹脂としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリ-1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレート等が挙げられる。
ポリエステル系樹脂は、ホモポリエステルであってもよく、また、共重合ポリエステルであってもよい。
共重合ポリエステルの場合、ホモポリエステルに適宜第3成分を共重合させたものが好ましく、第3成分としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリアルキレングリコール等のジオール成分、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸等のジカルボン酸成分等が挙げられる。
また、バイオマス資源由来の原料を用いたポリエステル系樹脂を用いることもでき、以下に限定されるものではないが、例えば、ポリ乳酸、ポリブチレンスクシネート、ポリブチレンスクシネートアジペート等の脂肪族ポリエステル系樹脂、ポリブチレンアジペートテレフタレート等の芳香族ポリエステル系樹脂等が挙げられる。
【0079】
[ポリアミド系樹脂]
ポリアミド系樹脂とは、主鎖に-CO-NH-(アミド)結合を有する高分子化合物を意味する。例えば、脂肪族系ポリアミド、芳香族系ポリアミド、全芳香族系ポリアミド等があげられるが、強化繊維との親和性の観点が高く強化繊維による補強効果が得られやすいという観点から脂肪族系ポリアミドが好ましい。
ポリアミド樹脂に含まれるカルボキシル末端基の量は、65μmol/g以上であることが樹脂と強化繊維の接着の観点から好ましく、70μmol/g以上であることがより好ましく、75μmol/g以上であることが更に好ましく、80μmol/g以上であることがより更に好ましい。
ポリアミド樹脂に含まれるアミノ末端基の量は、40μmol/g以下であることが樹脂と強化繊維の接着の観点から好ましく、35μmol/g以下であることがより好ましく、30μmol/g以下であることが更に好ましく、25μmol/g以下であることがより更に好ましい。
ポリアミド系樹脂としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ラクタムの開環重合で得られるポリアミド、ω-アミノカルボン酸の自己縮合で得られるポリアミド、ジアミン及びジカルボン酸を縮合することで得られるポリアミド、並びにこれらの共重合体が挙げられる。
ポリアミド系樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上の混合物として用いてもよい。
ラクタムとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、ピロリドン、カプロラクタム、ウンデカンラクタムやドデカラクタムが挙げられる。ω-アミノカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ラクタムの水による開環化合物であるω-アミノ脂肪酸が挙げられる。ラクタム又はω-アミノカルボン酸はそれぞれ2種以上の単量体を併用して縮合させてもよい。
【0080】
ジアミン(単量体)としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ヘキサメチレンジアミンやペンタメチレンジアミン等の直鎖状の脂肪族ジアミン;2-メチルペンタンジアミンや2-エチルヘキサメチレンジアミン等の分岐型の脂肪族ジアミン;p-フェニレンジアミンやm-フェニレンジアミン等の芳香族ジアミン;シクロヘキサンジアミン、シクロペンタンジアミンやシクロオクタンジアミン等の脂環式ジアミンが挙げられる。
ジカルボン酸(単量体)としては、以下に限定されるものではないが、例えば、アジピン酸、ピメリン酸やセバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸;フタル酸やイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸が挙げられる。単量体としてのジアミン及びジカルボン酸はそれぞれ1種単独又は2種以上の併用により縮合させてもよい。
【0081】
ポリアミド系樹脂としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ポリアミド4(ポリα-ピロリドン)、ポリアミド6(ポリカプロアミド)、ポリアミド11(ポリウンデカンアミド)、ポリアミド12(ポリドデカンアミド)、ポリアミド46(ポリテトラメチレンアジパミド)、ポリアミド66(ポリヘキサメチレンアジパミド)、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド6T(ポリヘキサメチレンテレフタルアミド)、ポリアミド9T(ポリノナンメチレンテレフタルアミド)、及びポリアミド6I(ポリヘキサメチレンイソフタルアミド)、並びにこれらを構成成分として含む共重合ポリアミドが挙げられる。
共重合ポリアミドとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、ヘキサメチレンアジパミド及びヘキサメチレンテレフタルアミドの共重合体、ヘキサメチレンアジパミド及びヘキサメチレンイソフタルアミドの共重合体、並びにヘキサメチレンテレフタルアミド及び2-メチルペンタンジアミンテレフタルアミドの共重合体が挙げられる。
【0082】
[連続繊維強化複合材料の賦形成形体の製造方法]
前記した方法により製造された連続繊維強化樹脂複合材料を、前記熱可塑性樹脂の融点以上にIRヒータ等により加熱し、金型等の型を用いてプレスし、その後、該熱可塑性樹脂の融点以下の温度まで冷却して、賦形する工程を含む方法により、連続繊維強化複合材料の賦形成形体を製造することができる。
【0083】
[熱硬化性樹脂]
熱硬化性樹脂は、以下に限定されるものではないが、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などが挙げられる。これらの熱硬化性樹脂は1種を単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0084】
[本実施形態の連続繊維強化樹脂成形体(複合材料)の用途]
本実施形態の連続繊維強化樹脂成形体は、航空機、車、建設材料、ロボット、通信機器筐体等の構造材料用途に好適に使用することができる。
車用途においては、以下に限定されるものではないが、例えば、シャーシ/フレーム、足回り、駆動系部品、内装部品、外装部品、機能部品、その他部品に使用できる。
具体的には、ステアリング軸、マウント、サンルーフ、ステップ、スーフトリム、ドアトリム、トランク、ブートリッド、ボンネット、シートフレーム、シートバック、リトラクター、リタラクター支持ブラケット、クラッチ、ギア、プーリー、カム、アーゲー、弾性ビーム、バッフリング、ランプ、リフレクタ、グレージング、フロントエンドモジュール、バックドアインナー、ブレーキペダル、ハンドル、電装材、吸音材、ドア外装、内装パネル、インパネ、リアゲート、天井ハリ、シート、シート枠組み、ワイパー支柱、EPS(Electric Power Steering)、小型モーター、ヒートシンク、ECU(Engine Control Unit)ボックス、ECUハウジング、ステアリングギアボックスハウジング、プラスチックハウジング、EV(Electric Vehicle)モーター用筐体、ワイヤーハーネス、車載メーター、コンビネーションスイッチ、小型モーター、スプリング、ダンパー、ホイール、ホイールカバー、フレーム、サブフレーム、サイドフレーム、二輪フレーム、燃料タンク、オイルパン、インマニ、プロペラシャフト、駆動用モーター、モノコック、水素タンク、燃料電池の電極、パネル、フロアパネル、外板パネル、ドア、キャビン、ルーフ、フード、バルブ、EGR(Exhaust Gas Recirculation)バルブ、可変バルブタイミングユニット、コネクティングロッド、シリンダボア、メンバー(エンジンマウンティング、フロントフロアクロス、フットウェルクロス、シートクロス、インナーサイド、リヤクロス、サスペンション、ピラーリーンフォース、フロントサイド、フロントパネル、アッパー、ダッシュパネルクロス、ステアリング)、トンネル、締結インサート、クラッシュボックス、クラッシュレール、コルゲート、ルーフレール、アッパボディ、サイドレール、ブレーディング、ドアサラウンドアッセンブリー、エアバッグ用部材、ボディーピラー、ダッシュツゥピラーガセット、サスペンジョンタワー、バンパー、ボディーピラーロワー、フロントボディーピラー、レインフォースメント(インパネ、レール、ルーフ、フロントボディーピラー、ルーフレール、ルーフサイドレール、ロッカー、ドアベルトライン、フロントフロアアンダー、フロントボディーピラーアッパー、フロントボディーピラーロワー、センターピラー、センターピラーヒンジ、ドアアウトサイドパネル、)、サイドアウターパネル、フロントドアウインドゥフレーム、MICS(Minimum Intrusion Cabin System)バルク、トルクボックス、ラジエーターサポート、ラジエーターファン、ウォーターポンプ、燃料ポンプ、電子制御スロットルボディ、エンジン制御ECU、スターター、オルタネーター、マニホールド、トランスミッション、クラッチ、ダッシュパネル、ダッシュパネルインシュレータパッド、ドアサイドインパクトプロテクションビーム、バンパービーム、ドアビーム、バルクヘッド、アウタパッド、インナパッド、リヤシートロッド、ドアパネル、ドアトリムボドサブアッセンブリー、エネルギーアブソーバー(バンパー、衝撃吸収)、衝撃吸収体、衝撃吸収ガーニッシュ、ピラーガーニッシュ、ルーフサイドインナーガーニッシュ、樹脂リブ、サイドレールフロントスペーサー、サイドレールリアスペーサー、シートベルトプリテンショナー、エアバッグセンサー、アーム(サスペンション、ロアー、フードヒンジ)、サスペンションリンク、衝撃吸収ブラケット、フェンダーブラケット、インバーターブラケット、インバーターモジュール、フードインナーパネル、フードパネル、カウルルーバー、カウルトップアウターフロントパネル、カウルトップアウターパネル、フロアサイレンサー、ダンプシート、フードインシュレーター、フェンダーサイドパネルプロテクター、カウルインシュレーター、カウルトップベンチレータールーパー、シリンダーヘッドカバー、タイヤディフレクター、フェンダーサポート、ストラットタワーバー、ミッションセンタートンネル、フロアトンネル、ラジコアサポート、ラゲッジパネル、ラゲッジフロア、アクセルペダル、アクセルペダルベース等の部品として好適に使用することができる。
【0085】
本実施形態の連続繊維強化樹脂成形体(複合材料)は、通信機器筐体用途においては、例えば、直方体状であってよい。
筐体の特性としては、電波透過性が要求させる部材であって、KEC法により測定される電界シールド性が周波数1GHz帯において、10dB未満であることが好ましく、より好ましくは5dB未満、さらに好ましくは、0.1dB未満である。本特性を有する連続強化繊維としては、連続強化ガラス繊維が用いることができる。
筺体の平均肉厚は、1mm以下が好ましく、0.5mm以下がさらに好ましく、0.4mm以下が最も好ましい。例えば、プレフォームを介して製造することにより、連続繊維の乱れが少なく、ボイドの発生がない、目的の厚みの筺体を製造することができる。
【実施例
【0086】
以下、本発明を実施例、比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々変形して実施することができることはいうまでもない。
【0087】
まず、実施例、比較例で用いた測定方法等について説明する。
[連続強化繊維1本の端から、連続強化繊維1本の半径の10分の1の領域の平均の空隙率]
連続繊維強化樹脂成形体をバンドソーにより切削し、切削した試験片を研磨機(小型精密試料作成システム IS-POLISHER ISPP-1000(株式会社池上精機))により、研磨面に400g/cmの力がかかるように研磨した。研磨は耐水ペーパー番手#220で10分間、耐水ペーパー番手#400で2分間、耐水ペーパー番手#800で5分間、耐水ペーパー番手#1200で10分間、耐水ペーパー番手#2000で15分間、炭化ケイ素フィルム粒度9μmで15分間、アルミナフィルム粒度5μmで15分間、アルミナフィルム粒度3μmで15分間、アルミナフィルム粒度1μmで15分間、バフ研磨紙発泡ポリウレタンを用いた粒度0.1μmのコロイダルシリカ(バイカロックス0.1CR)で10分間の順番で行い、各研磨で約7mL/minで水を加えながら研磨した。研磨したサンプルをSEM(S-4700、株式会社日立ハイテクノロジーズ)により観察し、得られた画像から、連続強化繊維1本の半径の10分の1の領域の空隙率を算出した。任意に選択した連続強化繊維100本について観察を行い、連続強化繊維1本の半径の10分の1の領域の平均の空隙率と、空隙率が10%以下であるもの割合を求めた。
【0088】
[含浸率]
成形体の断面を切り出し、エポキシ樹脂に包埋し、連続強化繊維が破損しないように注意しながら研磨を行った。マイクロスコープにより観察し、得られた画像から、連続強化繊維束、合成樹脂、空隙のそれぞれの占有面積を求め、連続強化繊維束(全体)面積に対する空隙面積の割合を求め、以下の式:
含浸率(%)={1-(空隙面積/連続強化繊維束面積)}×100
により算出した。
【0089】
[引張応力]
成形体から長さ70mm、幅10mm、肉厚2mmの短冊状の試験片を切り出し、インストロン万能試験機にて、試験片を、長手方向に30mmの間隔でチャッキングし、速度5mm/min、23℃50%RH環境下、及び150℃、50%の恒温槽内で引張応力(MPa)を測定した。
【0090】
[曲げ応力、曲げ弾性率]
成形体から長さ100mm、幅10mm、肉厚2mmの短冊状の試験片を切り出し、インストロン万能試験機にて、3点曲げ用の治具を用い、スパン間を32mmに設定して速度1mm/min、23℃、50%RH環境下で曲げ応力(MPa)、曲げ弾性率(GPa)を測定した。
【0091】
[連続繊維強化樹脂中の強化繊維の体積比率(Vf)の測定と成形中に漏れ出した樹脂量比率]
連続繊維強化樹脂成形体2gを切り出し、電気炉に入れ、温度650℃で3時間加熱して、樹脂を焼き飛ばした。その後、室温まで自然冷却し、残されたガラス繊維の質量を測定することで、連続繊維強化樹脂成形体に含まれるガラス繊維と樹脂の比率を求めた。また、求めた比率から、密度で割りかえすことにより、連続繊維強化樹脂成形体に対する強化繊維の体積比率(Vf)を求めた。また仕込みの樹脂量と成形後の連続繊維強化樹脂成形体に含まれる樹脂量から、成形中に漏れ出した樹脂量を求め、漏れ出した樹脂量を仕込みの樹脂量で割りかえすことで、漏れ出した樹脂量比率を求めた。
【0092】
[2種以上の繊維強化樹脂内の各熱可塑性樹脂の種類と占有割合]
連続繊維強化樹脂成形体の厚さ方向断面(連続強化繊維の長さ方向に直交する断面)を任意の5か所について切り出し、エポキシ樹脂に包埋し、連続強化繊維が破損しないように注意しながら研磨を行った。
レーザーラマン顕微鏡(inViaQontor共焦点ラマンマイクロスコープ;株式会社レニショー)により該断面のマッピング画像を撮影し、得られた画像、スペクトルから、繊維強化樹脂に含まれる樹脂の種類を特定した。また、それぞれの面積をImageJによる画像処理によって算出し、連続強化繊維1本の端から、連続強化繊維1本の半径の10分の1の領域を占める樹脂の占有割合(面積比率)を算出した。また、該断面中の任意の10本の連続強化繊維について、連続強化繊維1本の半径の10分の1の領域を占める各樹脂の面積比率を算出し、その平均値を求めた。
【0093】
[繊維強化樹脂成形体における極界面領域以外の樹脂領域内での熱可塑性樹脂の分布]
連続繊維強化樹脂成形体を研磨機(小型精密試料作成システム IS-POLISHER ISPP-1000(株式会社池上精機))により、研磨面に125g/cmの力がかかるように研磨した。研磨は耐水ペーパー番手#220で10分間、耐水ペーパー番手#1200で10分間、耐水ペーパー番手#2000で5分間、炭化ケイ素フィルム粒度9μmで10分間、アルミナフィルム粒度5μmで10分間、アルミナフィルム粒度3μmで5分間、アルミナフィルム粒度1μmで5分間、バフ研磨紙発泡ポリウレタンを用いた粒度0.1μmのコロイダルシリカ(バイカロックス0.1CR)で5分間の順番で行い、各研磨で約7mL/minで水を加えながら研磨した。研磨したサンプルを研磨面が潰れないように注意しながら、12タングスト(VI)リン酸n水和物5wt%水溶液に18時間浸漬して電子染色した。乾燥後、SEM(S-4700、株式会社日立ハイテクノロジーズ)により、任意の5か所の50μm×50μmの部分の熱可塑性樹脂の分布を観察し、それぞれの面積をimageJによる画像処理によって算出した。得られた分布により、極界面領域以外の樹脂領域内で特定樹脂が均一に分散しているか又は混合しているかを判定した。
【0094】
[連続繊維強化樹脂成形体の損失正接の測定方法]
厚さ2mmの連続繊維強化樹脂成形体をバンドソーにより、繊維方向に対して0°、90°方向に幅5mm、長さ60mmに切削し、動的粘弾性測定装置(AresG2、TA Instruments株式会社)を用いて、窒素雰囲気下、測定温度範囲30℃~250℃、昇温速度5.0℃/分、角周波数10rad/s、変形モードをひねりモードで測定した。各温度における損失正接をプロットしたグラフのピークトップの値とその時の温度から、損失正接の値とその時の温度を得た。損失正接の値は低温側のピークトップの値とした。
【0095】
[面衝撃試験]
成形体から長さ60mm、幅60mm、肉厚2mmの試験片を切り出し、高速衝撃試験機(島津 HYDRO SHOT HITS-P10、株式会社島津製作所)にて、JIS K7211-2;2006にのっとり、ストライカー径20mmφ、受け径40mmφ、試験速度4.4m/sec、試験温度23℃、試験数n=5で試験を行った。変位に対する試験力のグラフを書き、最大の衝撃力に達するまでの積分値を算出し、5サンプルの平均値を衝撃吸収エネルギーとした。
【0096】
[連続繊維強化樹脂成形体のひねりモードの貯蔵弾性率の測定方法]
厚さ2mmの連続繊維強化樹脂成形体をバンドソーにより、繊維方向に対して0°、90°方向又は45°方向(斜め方向)に幅5mm、長さ60mmに切削し、動的粘弾性測定装置(AresG2、TA Instruments株式会社)を用いて、窒素雰囲気下、測定温度範囲30℃~250℃、昇温速度5.0℃/分、角周波数10rad/s、変形モードをひねりモードで測定した。各温度における貯蔵弾性率をプロットしたグラフのピークトップの値とその時の温度から、貯蔵弾性率の値とその時の温度を得た。
【0097】
[面衝撃試験]
成形体から長さ60mm、幅60mm、肉厚2mmの試験片を切り出し、高速衝撃試験機(島津 HYDRO SHOT HITS-P10、株式会社島津製作所)にて、JIS K7211-2;2006にのっとり、ストライカー径20mmφ、受け径40mmφ、試験速度4.4m/sec、試験温度23℃、試験数n=5で試験を行った。変位に対する試験力のグラフを書き、最大の衝撃強度を5サンプルの平均値で求めた。
[連続繊維強化樹脂成形体の曲げ貯蔵弾性率の測定方法]
厚さ2mmの連続繊維強化樹脂成形体をバンドソーにより、繊維方向に対して0°、90°方向又は45°方向(斜め方向)に幅5mm、長さ60mmに切削し、動的粘弾性測定装置(イプレクサー―500N、GABO社)を用いて、窒素雰囲気下、測定温度範囲25℃~250℃、昇温速度3.0℃/分、振動周波数8Hz、変形モードを曲げモードで測定し、最高値を曲げ貯蔵弾性率として得た。また、各温度における貯蔵弾性率を得た。
【0098】
[連続繊維強化樹脂成形体の引張貯蔵弾性率、損失正接の測定方法]
厚さ2mmの連続繊維強化樹脂成形体をバンドソーにより、繊維方向に対して0°、90°方向に幅5mm、長さ60mmに切削し、動的粘弾性測定装置(イプレクサー―500N、GABO社)を用いて、窒素雰囲気下、測定温度範囲20℃~250℃、昇温速度3.0℃/分、振動周波数8Hz、変形モードを引張モードで測定し、各温度における貯蔵弾性率を得た。また、各温度における損失正接をプロットした際の20℃~200℃の間における極大値を引張損失正接とした。
【0099】
[熱可塑性樹脂の融点と降温結晶化温度の測定方法]
2種以上の熱可塑性樹脂の混合物又は各々を、島津製作所製DSC-60を用い、試料量は約5mgとし、雰囲気ガスとしては30mL/分で流し、昇温温度は10℃/分の条件で室温(25℃)から予想される融点以上の温度まで加熱し溶融させ次いで、溶融したポリアミド樹脂を10℃/分で冷却させた際に観測される発熱ピークのピークトップの温度を結晶化温度とした。その後、10℃/分の速度で融点以上の温度まで再昇温した際に観測される吸熱ピークのピークトップの温度を融点とした。
【0100】
[強化繊維と各熱可塑性樹脂との結合力の測定]
連続繊維強化樹脂成形体を、強化繊維の長さ方向に直交する断面として30μmの厚さに切削し、連続強化繊維が破損しないように注意しながら研磨を行った。研磨したサンプルをナノインデンター(iMicro、Nanomechenics,Inc.)を用いて強化繊維を押し出すことにより、強化繊維と熱可塑性樹脂との結合力を測定した。熱可塑性樹脂の内、樹脂領域の全体として占有割合が最も高い樹脂(主樹脂)と強化繊維との間の結合力よりも、該樹脂領域の全体として占有割合が最も高い樹脂(主樹脂)以外の樹脂(副樹脂)と強化繊維との間の結合力の方が大きい場合、「○」、弱い場合、「×」と判定した。
【0101】
[濡れ性、表面張力の測定]
280℃に加熱したホットプレート上で溶融した熱可塑性樹脂に連続強化繊維1本を埋め込み、マイクロスコープで観察しながら、1mm/秒で1mm連続強化繊維を引き抜いた際に、熱可塑性樹脂が連続繊維に引っ張られる長さによって評価した。熱可塑性樹脂の内、樹脂領域の全体として占有割合が最も高い樹脂(主樹脂)が強化繊維に引っ張られた長さよりも、該熱可塑性樹脂の内、該樹脂領域の全体として占有割合が最も高い樹脂(主樹脂)以外の樹脂(副樹脂)が強化繊維に引っ張られた長さの方が大きい場合、濡れ性、表面張力を「○」、弱い場合、「×」と判定した。
【0102】
[樹脂の溶融粘度の測定]
ツインキャピラリーレオメーター(ROSAND PRECISION)を用いて280℃においてシェアレトを100/s、200/s、400/s、1000/s、2000/s、4000/s、8000/sに変化させて測定を行った。シェアレト4000/sにおいて、2種以上の熱可塑性樹脂の混合物の溶融粘度が、前記2種以上の熱可塑性樹脂の内、樹脂領域の全体として占有割合が最も高い樹脂の粘度の4/5倍~5/4倍の場合に「○」、それ以外の場合に「×」と判定した。
【0103】
[熱可塑性樹脂の吸水率の測定]
カールフィッシャー水分計(京都電子工業株式会社、MKC610)を用いて窒素環境下、0.3g熱可塑性樹脂を量り取り、測定した。
【0104】
[熱可塑性樹脂の加熱プレス中の流動率の測定]
成形中に漏れ出した樹脂の重量を測り、元の熱可塑性樹脂の重量で割ることで求めた。
[連続繊維強化樹脂複合材料強化繊維の体積比率の測定]
連続繊維強化樹脂複合材料2gを切り出し、電気炉に入れ、温度650℃で3時間加熱して、樹脂を焼き飛ばした。その後、室温まで自然冷却し、残されたガラス繊維の質量を測定することで、連続繊維強化樹脂複合材料に含まれるガラス繊維と樹脂の比率を求めた。また、求めた比率から、密度で割りかえすことにより、連続繊維強化樹脂複合材料に対する強化繊維の体積比率(Vf)を求めた。
【0105】
[熱可塑性樹脂中に拡散した集束剤の割合の測定]
連続繊維強化樹脂複合材料1gと連続強化繊維1gを、それぞれヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)20mLに浸漬し、撹拌ローラーで5時間撹拌して熱可塑性樹脂を溶解させた。溶け残ったものをHFIPで2度洗浄し、さらにHFIPに浸漬して、撹拌ローラーで5時間撹拌した。溶け残りをHFIPで2度洗浄し、真空乾燥したのち、XPS(Versa probeII、アルバックファイ株式会社)を用いて、励起源mono.AlKα 20kV×5mA 100W、分析サイズ100μm×1.4mm、光電子取出角で測定を行った。
【0106】
[末端官能基量の測定]
試料15mgをDSO1.5mgに溶解させて、室温でH-NMR(JEOL-ECZ500)測定を行い求めた。
【0107】
[アコースティックエミッション(AE)法測定]
アコースティックエミッション法測定は、長さ14mm(厚みの7倍)、幅10mmに切削した厚み2.0mmの連続繊維強化樹脂複合材料を、スパン間10mm(厚みの5倍)、試験速度1mm/minに設定した、層間せん断試験(JIS K7078)において、AEセンサー(AE-900M)を取り付けることにより、実施した。プリアンプを34dB、閾値を30dB、フィルタを95kHz-960kHzに設定し、AE振幅が50dB未満かつ、AE信号の持続時間が1000μs未満のAE信号を樹脂損傷相当、AE振幅が60dB以上かつ、AE信号の持続時間が1000μs以上のAE信号を層間剥離相当、AE振幅が50dB以上かつ、AE信号の持続時間が1000μs未満のAE信号をガラス繊維損傷相当として解析した。
【0108】
[μドロップ生成係数の測定]
μドロップ生成係数は、複合材界面特性評価装置(HM410、東栄産業株式会社)を用いて行い、装置の加熱炉部分に樹脂をセットし、炉内温度を樹脂の融点-40℃に設定し、装置にセットした、強化繊維の単糸1本に樹脂付けした。樹脂が未溶融で強化繊維に付着しなかった場合、樹脂が溶融するまで10℃ずつ炉内温度を上昇させ、強化繊維に樹脂付けを行った。強化繊維に溶融した樹脂を4回タッチさせ、樹脂を付着させたのち、1分間静置し、生成したμドロップの数を数え、下記式:
(μドロップ生成係数)={(生成したμドロップ数)/4}×10
により算出した。
【0109】
[振動疲労試験]
ASTM-D1822引張衝撃ダンベルTypeSの試験片を用意し、EHF-EB50kN-40L(RV)(株式会社島津製作所)により、試験温度23℃、周波数20Hz、波形を正弦波、チャック間35mm、負荷最低荷重を負荷荷重の10%と設定して行った。
【0110】
[連続強化繊維]
[ガラス繊維(A)]
集束剤を0.45質量%付着させた、繊度11500dtexで単糸数2000本のガラス繊維を製造した。巻き取り形態はDWRであり、平均単糸径は17μmとした。
ガラス繊維集束剤は、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン(以下、アミノシラン)KBE-903(信越化学工業株式会社製)0.5質量%、カルナウバワックスを1質量%、ポリウレタン樹脂Y65-55(株式会社ADEKA製)2質量%、無水マレイン酸40質量%、アクリル酸メチル50質量%、及びメタクリル酸メチル10質量%を共重合させ、重量平均分子量が20000である共重合化合物が3質量%、共重合化合物水溶液が3質量%となるように脱イオン水で調製することで作製した。
[ガラス繊維B]
繊度2900dtex、単糸数800本、平均単糸径13μmとした以外はガラス繊維(A)と同様のガラスを製造した。
[ガラス繊維C]
ER1200T-423(日本電気硝子株式会社)
【0111】
[熱可塑性樹脂]
ポリアミド樹脂A:ポリアミド66(レオナ1300S(旭化成(株)))、融点265℃、融解ピーク温度と降温結晶化ピーク温度の差(Tm-Tc)=53℃、カルボキシル末端基数は70μmol/g、アミノ末端基は32μmol/gであった(実施例6-)。
ポリアミド樹脂B:ポリアミド6/12(グリロンC CF6S(エムスケミージャパン(株)))、融点130℃
ポリアミド樹脂C:ポリアミド66(レオナ1402S(旭化成(株)))
又は
ポリアミド6(実施例4-、5-)(グリロンBS2 natural(エムスケミージャパン(株)))、融点225℃

ポリアミド6I(実施例5-):レオナR16024(旭化成(株))ガラス転移温度:130℃
ポリアミド6T/6I(実施例5-):東洋紡(株)試作品
ポリエチレン(PE)(実施例5-):サンテックJ240(旭化成(株))融点:125℃
【0112】
[ポリアミドフィルム]
前記熱可塑性樹脂A及び/又はBを、Tダイ押し出し成形機(株式会社創研製)を用いて成形することでフィルムを得た。フィルムの厚さは100μmであった。
【0113】
[ガラスクロス、炭素繊維布帛]
レピア織機(織幅2m)を用い、前記ガラス繊維を経糸、緯糸として用いて製織することでガラスクロスを製造した。得られたガラスクロスの織形態は、平織、織密度は6.5本/25mm、目付は600g/mであった。
ガラスクロス(実施例5-):WFR 350 100BS6(日東紡(株))
炭素繊維布帛(実施例5-):ポリビニルピロリドンを2.8質量%付着させた、繊度8000dtexで単糸数12000本の炭素繊維を製造し、その後レピア織機を用いて製織(平織)した。
【0114】
[粒子状添加材]
粒子状添加材としてカーボンブラックを含むマスターバッチ(旭化成(株))を用いた。カーボンブラックは3wt%含まれていた。
【0115】
[連続繊維強化樹脂成形体の製造]
成形機として、最大型締め力50トンの油圧成形機(株式会社ショージ)を使用した。平板型の連続繊維強化樹脂成形体(縦200mm、横100mm、肉厚2mm)を得るためのインロー構造の金型を準備した。
前記ガラスクロスと前記ポリアミドフィルムを金型形状に合わせて切断し、所定枚数重ね、金型内に設置した。
成形機内温度を330℃に加熱し、次いで型締め力5MPaで型締めし、圧縮成形を行った。成形時間はポリアミド66の融点である265℃に達してから1分とし、金型を急冷したのちに金型を開放し、成形体を取り出した。成形中の最大温度は275℃であった。
【0116】
[ダブルベルトプレス装置による製造]
成形機として、ダブルベルトプレス装置(プロセスシステム株式会社)を使用した。前記ガラスクロス5枚と前記ポリアミドフィルム10本をロールから繰り出した。装置加熱部温度を330℃とし、冷却は水冷で行った。圧力30kNで加圧し、0.2m/minで搬送した。
【0117】
[実施例1-1]
ガラスクロス6枚とポリアミド樹脂Aのフィルム7枚を重ねて成形を行った。成形時間はポリアミド66の融点である265℃に達してから1分とし、金型を急冷した後に金型を開放し、成形体を取り出した。成形中の最大温度は285℃であった。
【0118】
[実施例1-2]
ガラスクロス6枚とポリアミド樹脂Aのフィルム7枚を重ねて成形を行った。成形機内の温度を300℃に設定し、成形時間はポリアミド66の融点である265℃に達してから15分とし、金型を急冷した後に金型を開放し、成形体を取り出した。成形中の最大温度は300℃であった。
【0119】
[実施例1-3]
265℃に達してから30秒の成形としたこと以外は実施例1-1と同様にして連続繊維強化樹脂成形体を得た。成形中の最大温度は280℃であった。
【0120】
[実施例1-4]
ポリアミドフィルムが、ポリアミド樹脂Aとポリアミド樹脂Bのドライブレンド品(A:B=8:1)からできていること以外は、実施例1-1と同様にして連続繊維強化樹脂成形体を得た。
【0121】
[実施例1-5]
ポリアミド樹脂Aのフィルムに代えて、エポキシ樹脂を用いたこと以外は、実施例1-2と同様にして連続繊維強化樹脂成形体を得た。
集束剤として3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(KBM-402、信越化学工業株式会社)0.3質量%、エポキシ樹脂エマルジョン1.5質量%、カルナウバワックスを0.2質量%付着させた前記ガラス繊維を用いてガラスクロスを製造した。このガラスクロスを6枚積層させて金型に設置し、そこにビスフェノールA型液状エポキシ樹脂(jER828、三菱化学(株))16gとビスフェノールA(4、4′-(プロパンー2,2-ジイル)ジフェノール1.6gを投入し、成形機内の温度を40℃に設定し、型締め力5MPaで3日間圧縮成形を行い、連続繊維強化樹脂成形体を得た。
【0122】
[実施例1-6]
ガラスクロスの枚数を5枚、ポリアミド樹脂Aのフィルムの枚数を10枚にしたこと以外は、実施例1-1と同様にして連続繊維強化樹脂成形体を得た。
【0123】
[比較例1-1]
集束剤を添加していないガラス繊維を用いたこと以外は、実施例1-1と同様にして連続繊維強化樹脂成形体を得た。
【0124】
[比較例1-2]
集束剤としてシランカップリング剤として3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.3質量%、エポキシ樹脂エマルジョン1.5質量%、カルナウバワックス0.2質量%を付着させたガラス繊維を用いたこと以外は、実施例1-1と同様にして連続繊維強化樹脂成形体を得た。
【0125】
[比較例1-3]
ポリアミド66をガラスクロスに含浸したBond Laminate製「Tepex dynalite 101」に関して、実施例1-1と同様の評価を行った。
【0126】
[比較例1-6]
成形機内温度を265℃に設定し、成形したこと以外は、実施例1-2と同様にして連続繊維強化樹脂成形体を得た。成形中の最大温度は265℃であった。
【0127】
【表1】
【0128】
上記表1から、実施例1-1~6の連続繊維強化樹脂成形体は、連続強化繊維1本の端から、連続強化繊維1本の半径の10分の1の領域の空隙率が10%以下であるものが全体の10%以上である連続繊維強化樹脂であるため、非常に高い引張応力、曲げ応力、曲げ弾性率を示した。これらの物性は、比較例1-3における市販品の中間材料を用いて得た成形体の物性よりも、かなり良いものであった。
比較例1-1、2のように、集束剤を塗布していない連続強化繊維又は樹脂との相性が悪い集束剤を塗布した連続強化繊維を用いた場合には、空隙率が10%より大きくなり、引張応力、曲げ応力、曲げ弾性率が低下した。
比較例1-6のように、成形温度が低いと、空隙率が10%より大きくなり、引張応力、曲げ応力、曲げ弾性率が低下した。
【0129】
[実施例2-1]
ガラスクロス6枚とポリアミド樹脂Aのフィルム7枚を重ねて成形を行った。成形時間はポリアミド66の融点である265℃に達してから1分とし、金型を急冷した後に金型を開放し、成形体を取り出した。成形中の最大温度は285℃であった。
【0130】
[実施例2-2]
ガラスクロス6枚とポリアミド樹脂Aのフィルム7枚を重ねて成形を行った。成形機内の温度を300℃に設定し、成形時間はポリアミド66の融点である265℃に達してから10分とし、金型を急冷した後に金型を開放し、成形体を取り出した。成形中の最大温度は300℃であった。
【0131】
[実施例2-3]
265℃に達してから30秒の成形としたこと以外は、実施例2-1と同様にして連続繊維強化樹脂成形体を得た。成形中の最大温度は280℃であった。
【0132】
[実施例2-4]
ポリアミドフィルムが、ポリアミド樹脂Bのフィルムであること以外は、実施例2-1と同様にして連続繊維強化樹脂成形体を得た。
【0133】
[実施例2-5]
ガラスクロスの枚数を5枚、ポリアミド樹脂Aのフィルムの枚数を10枚にしたこと以外は、実施例2-1と同様にして連続繊維強化樹脂成形体を得た。
【0134】
[実施例2-6]
ガラスクロスの枚数を5枚、ポリアミド樹脂Aのフィルムの枚数を10枚にしたこと以外は、実施例2-2と同様にして連続繊維強化樹脂成形体を得た。
【0135】
[比較例2-1]
集束剤を添加していないガラス繊維を用いたこと以外は、実施例2-1と同様にして連続繊維強化樹脂成形体を得た。
【0136】
[比較例2-2]
集束剤としてシランカップリング剤として3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.3質量%、エポキシ樹脂エマルジョン1.5質量%、カルナウバワックス0.2質量%を付着させたガラス繊維を用いたこと以外は、実施例2-6と同様にして連続繊維強化樹脂成形体を得た。
【0137】
[比較例2-3]
ポリアミド66をガラスクロスに含浸したBond Laminate製「Tepex dynalite 101」に関して、実施例2-1と同様の評価を行った。
【0138】
【表2】
【0139】
上記表2から、実施例2-1~6の連続繊維強化樹脂成形体は、ひねりモードの損失正接が0.11以下であるため、非常に高い衝撃吸収エネルギーを示した。これらの物性は、比較例2-3における市販品の中間材料を用いて得た成形体の物性よりも、かなり良いものであった。
比較例のように、損失正接が高いと、衝撃吸収エネルギーが低下した。
【0140】
[実施例3-1]
ガラスクロス6枚とポリアミド樹脂Aのフィルム7枚を重ねて成形を行った。成形時間はポリアミド66の融点である265℃に達してから1分とし、金型を急冷した後に金型を開放し、成形体を取り出した。成形中の最大温度は285℃であった。
【0141】
[実施例3-2]
ガラスクロス6枚とポリアミド樹脂Aのフィルム7枚を重ねて成形を行った。成形機内の温度を300℃に設定し、成形時間はポリアミド66の融点である265℃に達してから10分とし、金型を急冷した後に金型を開放し、成形体を取り出した。成形中の最大温度は300℃であった。
【0142】
[実施例3-3]
265℃に達してから30秒の成形としたこと以外は実施例3-1と同様にして連続繊維強化樹脂成形体を得た。成形中の最大温度は280℃であった。
【0143】
[実施例3-4]
ポリアミドフィルムが、ポリアミド樹脂Bのフィルムであること以外は、実施例3-1と同様にして連続繊維強化樹脂成形体を得た。
【0144】
[実施例3-5]
ガラスクロスの枚数を5枚、ポリアミド樹脂Aのフィルムの枚数を10枚にしたこと以外は、実施例3-1と同様にして連続繊維強化樹脂成形体を得た。
【0145】
[実施例3-6]
ガラスクロスの枚数を5枚、ポリアミド樹脂Aのフィルムの枚数を10枚にしたこと以外は、実施例3-2と同様にして連続繊維強化樹脂成形体を得た。
【0146】
[比較例3-1]
集束剤を添加していないガラス繊維を用いたこと以外は、実施例3-1と同様にして連続繊維強化樹脂成形体を得た。
【0147】
[比較例3-2]
集束剤としてシランカップリング剤として3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.3質量%、エポキシ樹脂エマルジョン1.5質量%、カルナウバワックス0.2質量%を付着させたガラス繊維を用いたこと以外は、実施例3-6と同様にして連続繊維強化樹脂成形体を得た。
【0148】
[比較例3-3]
ポリアミド66をガラスクロスに含浸したBond Laminate製「Tepex dynalite 101」に関して、実施例3-1と同様の評価を行った。
【0149】
【表3】
【0150】
上記表3から、実施例3-1~6の連続繊維強化樹脂成形体は、ひねりモードの貯蔵弾性率が3.4GPa以上であるため、非常に高い衝撃強度を示した。これらの物性は、比較例3-3における市販品の中間材料を用いて得た成形体の物性よりも、かなり良いものであった。
比較例のようにひねりモードの貯蔵弾性率が低いと、衝撃強度が低下した。
【0151】
[実施例4-1]
ガラスクロス5枚とポリアミド樹脂Aのフィルム10枚を重ねて成形を行った。成形機内の温度を300℃に設定し、成形時間はポリアミド66の融点である265℃に達してから10分とし、金型を急冷した後に金型を開放し、成形体を取り出した。成形中の最大温度は300℃であった。このときの曲げ貯蔵弾性率は31GPa、150℃における曲げ貯蔵弾性率は24GPa(保持率77%)、斜めに切削した際の曲げ貯蔵弾性率は20GPa(保持率64%)、50℃における引張貯蔵弾性率は25GPa、引張損失正接は0.033、引張貯蔵弾性率と曲げ貯蔵弾性率が逆転する温度は115℃、{30℃における(引張貯蔵弾性率―曲げ貯蔵弾性率)}/{200℃における(曲げ貯蔵弾性率―引張貯蔵弾性率)}の値は2.3であり、衝撃強度は8.50kNであった。
【0152】
[実施例4-2]
ガラスクロス6枚とポリアミド樹脂Aのフィルム7枚を重ねて成形を行った。成形機内の温度を300℃に設定し、成形時間はポリアミド66の融点である265℃に達してから10分とし、金型を急冷した後に金型を開放し、成形体を取り出した。成形中の最大温度は300℃であった。このときの曲げ貯蔵弾性率は37GPaであり、衝撃強度は9.25kNであった。
【0153】
[実施例4-3]
265℃に達してから30秒の成形としたこと以外は、実施例4-2と同様にして連続繊維強化樹脂成形体を得た。成形中の最大温度は280℃であった。このときの曲げ貯蔵弾性率は28GPaであり、衝撃強度は8.81kNであった。
【0154】
[実施例4-4]
ポリアミドフィルムが、ポリアミド樹脂Bのフィルムであること以外は、実施例4-2と同様にして連続繊維強化樹脂成形体を得た。このときの曲げ貯蔵弾性率は33GPaであり、衝撃強度は9.05kNであった。
【0155】
[実施例4-5]
265℃に達してから1分の成形としたこと以外は、実施例4-1と同様にして連続繊維強化樹脂成形体を得た。成形中の最大温度は285℃であった。このときの曲げ貯蔵弾性率は31GPaであり、衝撃強度は8.50kNであった。
【0156】
[実施例4-6]
ガラスクロス6枚とポリアミド樹脂Aのフィルム7枚を重ねて成形を行った。成形時間はポリアミド66の融点である265℃に達してから1分とし、金型を急冷した後に金型を開放し、成形体を取り出した。成形中の最大温度は285℃であった。このときの曲げ貯蔵弾性率は36GPaであり、衝撃強度は9.10kNであった。
【0157】
[比較例4-1]
集束剤を添加していないガラス繊維を用いたこと以外は、実施例6と同様にして連続繊維強化樹脂成形体を得た。このときの曲げ貯蔵弾性率は15GPaであり、衝撃強度は3.20kNであった。
【0158】
[比較例4-2]
集束剤としてシランカップリング剤として3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.3質量%、エポキシ樹脂エマルジョン1.5質量%、カルナウバワックス0.2質量%を付着させたガラス繊維を用いたこと以外は、実施例4-1と同様にして連続繊維強化樹脂成形体を得た。このときの曲げ貯蔵弾性率は20GPaであり、衝撃強度は5.21kNであった。
【0159】
[比較例4-3]
ポリアミド66をガラスクロスに含浸したBond Laminate製「Tepex dynalite 101」に関して、実施例4-1と同様の評価を行った。このときの曲げ貯蔵弾性率は20.8GPa、150℃における曲げ貯蔵弾性率は15.7GPa(保持率75%)、斜めに切削した際の曲げ貯蔵弾性率は11.9GPa(保持率57%)、50℃における引張貯蔵弾性率は21GPa、引張損失正接は0.038、引張貯蔵弾性率と曲げ貯蔵弾性率が逆転する温度は90℃、{30℃における(引張貯蔵弾性率―曲げ貯蔵弾性率)}/{200℃における(曲げ貯蔵弾性率―引張貯蔵弾性率)}の値は0.57であり、衝撃強度は5.32kNであった。
【0160】
実施例4-1~6の連続繊維強化樹脂成形体は、曲げ貯蔵弾性率が22GPa以上であるため、非常に高い衝撃強度を示した。これらの物性は、比較例4-3における市販品の中間材料を用いて得た成形体の物性よりも、かなり良いものであった。
比較例のように曲げ貯蔵弾性率が低いと、衝撃強度が低下した。
【0161】
[実施例5-1]
PA66とPA6/12を重量比8:1でドライブレンドしたものを用いて熱可塑性樹脂フィルムを製造した。このフィルムの厚さは100μmであった。このフィルム11枚とガラスクロス10枚を交互に積層し、成形を行った。ガラス繊維との極界面領域以外の樹脂領域内ではPA6/12がPA66に均一に分散していた。
【0162】
[実施例5-2]
PA6/12の代わりにPA6を用いたこと以外は、実施例5-1と同様に連続繊維強化樹脂成形体を製造した。ガラス繊維との極界面領域以外の樹脂領域内ではPA6がPA66に均一に分散していた。
【0163】
[実施例5-3]
PA6/12の代わりにPEを用いたこと以外は、実施例5-1と同様に連続繊維強化樹脂成形体を製造した。ガラス繊維との極界面領域以外の樹脂領域内ではPEがPA66に均一に分散していた。
【0164】
[実施例5-4]
PA6/12の代わりにPA6Iを用いたこと以外は、実施例5-1と同様に連続繊維強化樹脂成形体を製造した。ガラス繊維との極界面領域以外の樹脂領域内でPA6IがPA66に均一に分散していた。
【0165】
[実施例5-5]
PA66とPA6/12を重量比5:4でドライブレンドしたこと以外は、実施例5-1と同様に連続繊維強化樹脂成形体を製造した。ガラス繊維との極界面領域以外の樹脂領域内ではPA6/12がPA66に均一に分散していた。
【0166】
[実施例5-6]
二軸押出機(TEM26SS、東芝機械)を用いて仕込み比(重量比)8:1でPA66とPA6/12を予め混練したものを用いて熱可塑性樹脂フィルムを製造したこと以外は、実施例5-1と同様に連続繊維強化樹脂成形体を製造した。ガラス繊維との極界面領域以外の樹脂領域内ではPA6/12がPA66に均一に分散していた。
【0167】
[実施例5-7]
ガラスクロスの代わりに炭素繊維布帛を用いたこと以外は、実施例5-1と同様に連続繊維強化樹脂成形体を製造した。ガラス繊維との極界面領域以外の樹脂領域内では、PA6/12がPA66に均一に分散していた。
【0168】
[比較例5-1]
PA66のみを用いてフィルムを製造したこと以外は、実施例5-1と同様に連続繊維強化樹脂成形体を製造した。
【0169】
[比較例5-2]
PA6/12に代えてPA6T/6Iを用いたこと以外は、実施例5-1と同様に連続繊維強化樹脂成形体を製造した。ガラス繊維との極界面領域以外の樹脂領域内と極界面領域内のいずれでも、PA6T/6IがPA66に均一に分散していた。
【0170】
[比較例5-3]
ガラスクロスを19.5cm×9.5cmに切り出し、純水で30質量%に調整したポリアミドエマルジョン(セポルジョンPA200、住友精化株式会社)の溶液に浸漬し、その後80℃の熱風循環乾燥機で1時間乾燥して複合材料を調製した。得られた複合材料の、ポリアミドエマルジョンの固形成分であるPA6/12のガラスクロスへの付着量は、6質量%であった。その後PA66のフィルムと積層し、実施例5-1と同様に連続繊維強化樹脂成形体を製造した。この例では、PA6/12が、PA66に均一に分散しておらず、極界面領域内にのみ存在していた。
【0171】
[比較例5-4]
PA66とPA6/12を重量比1:8でドライブレンドした以外は、実施例5-1と同様に連続繊維強化樹脂成形体を製造した。ガラス繊維との極界面領域以外の樹脂領域内ではPA66がPA6/12に均一に分散していた。
【0172】
実施例5-1~7、比較例5-1~4の結果を以下の表4に示す。
【表4】
【0173】
表4から、本実施形態の連続繊維強化樹脂成形体は、実施例5-1~7に示すように、該連続強化繊維の長さ方向に直交する断面における該連続強化繊維1本と該熱可塑性樹脂との間の極界面において、該連続強化繊維の周縁部から、該2種以上の連続強化繊維1本の半径の10分の1離れた周縁外側領域内では、該2種以上の熱可塑性樹脂の内、樹脂領域の全体として占有割合が最も高い樹脂(主樹脂)以外の樹脂(副樹脂)の占有割合が、該主樹脂の占有割合よりも高いが、該周縁外側領域以外の樹脂領域内では、該2種以上の熱可塑性樹脂の内、樹脂領域の全体として占有割合が最も高い樹脂(主樹脂)以外の各副樹脂が均一に分散しているか又は混合しているため、高い引張応力、曲げ応力、曲げ弾性率、高温での引張応力を示した。他方、比較例5-1に示すように、熱可塑性樹脂が1種類であると強化繊維と熱可塑性樹脂の接着が不十分となり、引張応力、曲げ応力、曲げ弾性率、高温での引張応力が低下した。また、比較例5-2、4に示すように、熱可塑性樹脂が2種類以上であっても、連続強化繊維の周縁部から、該2種以上の連続強化繊維1本の半径の10分の1離れた周縁外側領域内で、該2種以上の熱可塑性樹脂の内、樹脂領域の全体として占有割合が最も高い樹脂(主樹脂)の占有割合が副樹脂の占有割合よりも高いと、強化繊維と熱可塑性樹脂の接着が不十分となり、引張応力、曲げ応力、曲げ弾性率、高温での引張応力が低下した。また、比較例3に示すように、連続強化繊維の周縁部から、該2種以上の連続強化繊維1本の半径の10分の1離れた周縁外側領域内に、該2種以上の熱可塑性樹脂の内、樹脂領域の全体として占有割合が最も高い樹脂(主樹脂)以外の副樹脂が存在していたとしても、該周縁外側領域以外の樹脂領域内で、該副樹脂が均一に分散していないか又は混合していなかったため、高温での引張応力が低下した。
【0174】
[実施例6-1]
ガラスクロス5枚とポリアミド樹脂のフィルム10枚を重ねてダブルベルトプレス装置により成形を行った。ポリアミド樹脂の吸水率は0.2wt%であった。得られた成形品の極界面領域の写真を図3に示す。
【0175】
[実施例6-2]
ガラスクロス5枚とポリアミド樹脂のフィルム10枚を重ねて金型による成形を行った。成形時間はポリアミド66の融点である265℃に達してから1分とし、金型を急冷した後に金型を開放し、成形体を取り出した。成形中の最大温度は285℃であった。ポリアミド樹脂の吸水率は0.2wt%であった。
【0176】
[実施例6-3]
ポリアミド樹脂のフィルムを成形前に真空乾燥機により乾燥させた以外は、実施例6-1と同様にして連続繊維強化樹脂複合材料を得た。ポリアミド樹脂の吸水率は0.01wt%であった。
【0177】
[実施例6-4]
ポリアミドフィルムと成形する際に、ポリアミド樹脂とカーボンブラックマスターバッチをドライブレンドして、成形しポリアミド樹脂フィルムとして使用した以外は、実施例1と同様にして連続繊維強化樹脂複合材料を得た。ポリアミド樹脂の吸水率は0.2wt%であった。カーボンブラックの含有量は90ppmであった。尚、実施例6-4以外の実施例、比較例では、粒子状添加材としてのカーボンブラックは含有されていない。
【0178】
[実施例6-5]
ポリアミド66としてカルボキシル末端基の量が50μmol/g、カルボキシル末端基量が30μmol/gのものを使用した以外は、実施例6-1と同様にして連続繊維強化樹脂複合材料を得た。ポリアミド樹脂の吸水率は0.2wt%であった。
【0179】
[実施例6-6]
ポリアミド66としてカルボキシル末端基の量が70μmol/g、アミノ末端基量が50μmol/gのものを使用した以外は、実施例6-1と同様にして連続繊維強化樹脂複合材料を得た。ポリアミド樹脂の吸水率は0.2wt%であった。
【0180】
[実施例6-7]
ポリアミド66と、シランカップリング剤とカルボキシル末端基との反応を促進する触媒として次亜リン酸ナトリウム0.05wt%を二軸混錬機で混錬したものを、熱可塑性樹脂として使用した以外は、実施例6-1と同様にして連続繊維強化樹脂複合材料を得た。ポリアミド樹脂の吸水率は0.2wt%であった。
【0181】
[実施例6-8]
ガラス繊維の集束剤に次亜リン酸ナトリウムを0.05wt%添加したこと以外は、実施例6-1と同様にして連続繊維強化樹脂複合材料を得た。ポリアミド樹脂の吸水率は0.2wt%であった。
【0182】
[実施例6-9]
金型として長辺方向が開口している金型を用いたこと以外は、実施例6-2と同様にして連続繊維強化樹脂複合材料を得た。ポリアミド樹脂の吸水率は0.2wt%であった。
【0183】
[比較例6-1]
集束剤を添加していないガラス繊維を用いたこと以外は、実施例1と同様にして連続繊維強化樹脂複合材料を得た。
【0184】
[比較例6-2]
集束剤としてシランカップリング剤として3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.3質量%、エポキシ樹脂エマルジョン1.5質量%、カルナウバワックス0.2質量%を付着させたガラス繊維を用いたこと以外は、実施例6-1と同様にして連続繊維強化樹脂複合材料を得た。得られた成形品の極界面領域の写真を図4に示す。
【0185】
【表5】
上記表5から、実施例6-1~9の連続繊維強化樹脂複合材料は、カップリング剤と熱可塑性樹脂に含まれている末端官能基に反応性があるため、非常に高い引張応力、曲げ応力、曲げ弾性率を示した。
実施例6-3のように熱可塑性樹脂の吸水率が低いと、物性の低下がみられた。
実施例6-4のように粒子状添加材の含有量が高いと、物性の低下がみられた。
実施例6-5のようにポリアミド樹脂のカルボキシル末端基量が少ないと、物性の低下がみられた。
実施例6-6のようにポリアミド樹脂のアミノ末端基量が多いと、物性の低下がみられた。
実施例6-9のように熱可塑性樹脂の、プレス中の流動率が高いと、カップリング剤と熱可塑性樹脂に含まれている末端官能基が十分に反応せず、物性の低下がみられた。
集束剤を塗布していない連続強化繊維を用いた比較例6-1や、樹脂の末端基と反応性が実質的にないカップリング剤を含む集束剤を塗布した連続強化繊維を用いた比較例6-2では、引張応力、曲げ応力、曲げ弾性率が低下した。
【0186】
[実施例7-1]
ガラス繊維Aを用いたガラスクロス5枚とポリアミド樹脂Aのフィルム10枚を重ねて金型によりプレス成形を行った。成形時間はポリアミド66の融点である265℃に達してから1分とし、金型を急冷した後に金型を開放し、成形体を取り出した。成形中の最大温度は285℃であった。成形品のA/E法測定を行い、層間剥離起因の破壊強度を測定した。
【0187】
[実施例7-2]
連続強化繊維として、ガラス繊維Cを用いたこと以外は、実施例7-1と同様にして連続繊維強化樹脂複合材料を得た。
【0188】
[実施例7-3]
ダブルベルト装置による成形を行ったこと以外は、実施例7-2と同様にして連続繊維強化樹脂複合材料を得た。
【0189】
[比較例7-1]
ポリアミド66をガラスクロスに含浸したBond Laminate製「Tepex dynalite 101」に関して、実施例7-1と同様の評価を行った。
【0190】
【表6】
【0191】
上記表6から、実施例7-1~3の連続繊維強化樹脂複合材料は、比較例7-1に比べて、層間剥離起因の破壊強度が高いため、非常に高い引張応力、曲げ応力、曲げ弾性率、衝撃特性を示した。
【0192】
[実施例8-1]
ガラス繊維Aを用いたガラスクロス5枚とポリアミド樹脂Aのフィルム10枚を重ねて金型によりプレス成形を行った。成形時間はポリアミド66の融点である265℃に達してから1分とし、金型を急冷した後に金型を開放し、成形体を取り出した。成形中の最大温度は285℃であった。ガラス繊維Aとポリアミド樹脂Aとのμドロップ生成係数は25であった。
【0193】
[実施例8-2]
ガラス繊維Cを用いたこと以外は、実施例8-1と同様にして連続繊維強化樹脂複合材料を得た。ガラス繊維Cとポリアミド樹脂Aとのμドロップ生成係数は27であった。
【0194】
[比較例8-1]
ポリアミド樹脂としてポリアミド樹脂Cのフィルムを使用したこと以外は実施例8-1と同様にして連続繊維強化樹脂複合材料を得た。ガラス繊維Aとポリアミド樹脂Cとのμドロップ生成係数は3であった。
【0195】
[比較例8-2]
ガラス繊維としてガラス繊維Cを用いたこと以外は、比較例8-1と同様にして連続繊維強化樹脂複合材料を得た。ガラス繊維Cとポリアミド樹脂Cとのμドロップ生成係数は3であった。
【0196】
【表7】
【0197】
上記表7から、実施例8-1~2の連続繊維強化樹脂複合材料は、、比較例8-1~2に比べて、μドロップ生成係数が高いため、非常に高い引張応力、曲げ応力、曲げ弾性率、衝撃特性、長期特性を示した。
【0198】
[実施例9]
図12に示す形状のスマートフォン筐体を作製した。ガラス繊維Cを用いたガラスクロス1枚をポリアミド樹脂Aのフィルムで挟み、プレス成形を行った。
得られた成形品は、製品肉厚0.4mmであり、寸法が長手方向135mm、幅方向65mm、側壁の高さ5mmであり、長手方向の引張強度が550MPa、曲げ弾性率が35MPa、幅方向の引張強度が530MPa、曲げ弾性率が33MPaであった。また、成形品の平面部の電界シールド特性をKEC法によって測定した結果、周波数1GHz帯において、0dBと電波透過性に優れた物であった。
成形品の外観は、繊維乱れのない外観良好な成形品であった。
上記引張強度は、JIS K7161に準拠して測定した。また、上記曲げ弾性率は、JIS K7171に準拠して測定した。また、上記電界シールド特性は、5cm×5cmの正方形に切り取った成形品をアルミ製のサンプル固定治具に導電性テープで貼りつけ、「Anritsu」製電波シールド特性試験器MA8602Cを用いて電解をかけ(KEC法)、1GHzにおける電解シールド特性を「Anritsu」製スペクトルアナライザーMS2661Cを用いて測定した。
【0199】
[実施例10]
ガラス繊維Cを3mmにチョップ加工したものを、同方向回転二軸混練押出機HK-25D(41D)Φ25mm、L/D=41(株式会社パーカーコーポレーション)と計量装置(重量式二軸スクリューフィーダーK-CL-24-KT20(K-トロン社))を用いて、スクリュ回転数175rpm、供給量5kg/hで、ポリアミド樹脂Aと混練し、ペレットを得た。得られたペレットを用いて、電動式射出成形機(NEX140(日精樹脂工業株式会社)、型締め力140tf/スクリュ径Φ40/フルフライトスクリュ)を用いて、JIS K 7152-1に準拠した条件で、JIS K 7139多目的試験片タイプA1、t4mm成形品を作成した。この時の極界面部の観察写真を図10に示す。
【0200】
[比較例10]
ポリアミド樹脂をポリアミド樹脂Cとしたこと以外は、実施例10と同様にして成形品を作成した。この時の極界面部の観察写真を図11に示す。
図10、11に示すように、μドロップ生成係数が10以上であり、ガラス繊維と樹脂との相性が良いものでは、良好な極界面を形成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0201】
本実施形態の連続繊維強化樹脂成形体は、各種機械や自動車等の構造部品等、高レベルでの機械的物性が要求される材料の補強材として、また、熱可塑性樹脂組成物との複合成形体材料として、産業上の利用可能である。また、本発明に係る連続繊維強化樹脂複合材料の製造方法により、連続強化繊維と熱可塑性樹脂との間の極界面における接着力、親和性が高く、該極界面に存在する空隙が少なく、十分な強度を発現する連続繊維強化樹脂複合材料を得ることができる。
【符号の説明】
【0202】
r 略丸断面の連続強化繊維の半径
1 合成樹脂
2 連続強化繊維
3 空隙
4 連続強化繊維束
5 連続強化繊維の長さ方向に直交する断面における該連続強化繊維1本と該熱可塑性樹脂との間の極界面において、該連続強化繊維の周縁部から、該連続強化繊維1本の半径の10分の1離れた周縁外側領域
6 連続強化繊維
7 2種以上の熱可塑性樹脂の内、樹脂領域の全体として占有割合が最も高い樹脂(主樹脂)以外の樹脂(副樹脂)
8 2種以上の熱可塑性樹脂の内、樹脂領域の全体として占有割合が最も高い樹脂(主樹脂)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12